◆−ロマノフの封印−CANARU(11/7-14:16)No.8123
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8123ロマノフの封印CANARU 11/7-14:16


かずは・・・。
書いていて思ったこと・・・。
「これ、飛躍しすぎじゃん!!」でした・・・。
まあ、その理由は後で書きます。
*****************ロシアの話です・・・。
扉が開かれる。
ここ、ペテルブルクに皇帝の親族と言う理由だけで首都モスクワから
遠ざけられてこの土地に軟禁されてからどれくらいたつだろう。
「リナさん・・・・・・。」
「何の用事よ・・・ロキ・・・!!?」
アメリアを無視してリナがその人物、ロキを怒鳴りつける。
「モスクワにお戻りください、リナ様。」
ロキの一言にリナは怪訝な顔をする。
「首都に・・。もでれですって・・・??」
何を言うのだろうか・・・??
「ツゥーリャ」(皇帝)の身内のもの。
強いて言えばリューリク王朝の血を引く娘として生を受けたばかりにいままで
の人生、隠匿よろしくな生活をリナはしてきたのだ。
ロシア皇家は他のヨーロッパ王家の政略結婚とは違い、他国から
后を娶るという方法ではなく国内の貴族の娘から皇帝、ないしは皇太子の婚姻を
行ってきた。
それがゆえに内政には五月蝿いぐらいに貴族の干渉が伴う。
そして・・・。
皇帝の娘、ないしは一族の女性はと言うと・・・。
ロシアは他国が政略結婚を望むほどの勢力を今のところ持ち合わせてはいない。
しかし、「臣下にして奴隷」貴族に娘を嫁がせるなどと言う事はもっての外なのであ
る。
したがってその皇帝の一族であるリナは幼いころから首都や内政から
隔離されて生きてきたのだった。
従妹のアメリアとともに。
もっともそんな国のしきたりである。
この重臣、ロキに対してどうこう言ったところで仕方はないのだけれども。
「あなた様の封印は解かれました。ただいまより護衛の軍隊が参ります。」

今までリナを縛り付けていた一族の鎖はリューリク王朝の断絶・・・・。
議会によって選出されたロマノフ王朝の帝位継承という形で解かれたのだった・・・
・。


今更ながらガウリイがここに来たのは自分の意思からであった。
首都からわずかに離れただけとは言え寂しい町、ペテルブルク。
この町に演習に来て見たものが忘れられなかった、と言えば聞こえだけは良い。
「まさか。おまえさんの思い人がリューリク王朝最後の姫君だったとはな・・。」
物思いに耽りながら窓の外から雪のちらつく大河を眺めていた栗色の髪の女性。
「ああ・・・。まあ、な・・。」
苦笑とも上の空とも受け取れるような口調でガウリイがゼルに答える。
この男・・・・・・、まったくもって何を考えているのかわからない。
確かに・・・。
人目見かけて・・・その・・・。
なんと言うのか。ガウリイにとって忘れられない存在となった姫君。
しかし。
そう簡単にその「リューリク」の血・・・。
いや、強いて言うならば封印が解けるようなことはあるのであろうか・・・・?
まだであってもいない(少なくとも事実上は)人物と自分自身に対する予感。
それだけがガウリイの中に去来していた。

「今更・・。何を・・・。」
この男、ロキが並々ならない野心家だと言うことはリナも百も承知のことであった。
「あなたを解放する、そう言うことです。」
腑に落ちない点は多数ある。
が、このまま意味もない隠匿生活を強いられて何になるのだろう?
「わかったわ。すぐに首都・・。モスクワに戻るわ。」
開かれる、未来。
このまだまだフランス、スペイン、ドイツ、イングランド、オーストリア
などの列強に比べて未開の地、ロシア。
あたしはここで何かを成し遂げてみたい。
リナの心の予感が限りなく広がっていったのはこの瞬間からだった・・・。


「最後の姫君方のお目見えだ!!」
冷やかしとも比喩とも取れ団長ロキの一言がガウリイとゼルの耳にも聞こえる。
「・・・・。」
間違いない。
何時しかの演習のとき・・・。
雪の中、物憂げに凍り付いた大河を寂しげに眺めていた虚ろなひとみの
栗色の髪の少女だ。
思わず一兵卒に過ぎないガウリイは高貴な姫と知りつつも彼女を直視してしまう。
「リナ姫にアメリア姫。前皇帝の姪御にあたるお方たちだ。」
そっけなくゼルが説明する。
「どっちが?」
言わなくとも分かっている。
どちらの名前があの栗色の髪の少女のものか、と言う意味である。
「あててみな。」
からかうようにゼルが言う。
「・・・リナ・・・・。」
根拠は。ない。
本能としか言いようがないのである。
「まるで女帝だな・・・。」
先日見かけたあの脆弱な少女とは表情が一変していた。

そう。まるで何か遥か遠くを見つめている視線。
そっちの方がはるかにも魅力的な表情だったが一抹の寂寥感があることはガウリイに

否めないのだが・・・・・・・。
「あいつらは・・?」
リナとアメリアに数人の人物が歩み寄る。
「元ロマノフ王朝の代表団だ。ちなみに・・・。」
ゼルが言い終わるか終わらないかのそのときだった。
不意にアメリアが代表団の数名の前で頭をたれる。
が、リナは微動だにしない。
きまずい、張り詰めた空気が声こそは伝わらないがガウリイにも分かる・・。

「前リューリク王朝の血を引く姫君方。あなた方の封印は我々ロマノフの者が解い
た。」
物々しい口上に圧倒されることなく。
「そのようね。」
アッサリと言ってのけるリナ。
「強いては、我々に服従の意を誓っていただきたい!!」
謀反を起こすな。
そう言った事なのだろうか?
「どう言う意味ですか?オーディン殿?」
思わずリナは不機嫌な声をあげる。
「態度で示して頂きたい。」
無感情な声でオーディン代行は告げる。
「さあね。存じません。そのような行為は。」
ひざまずけと言うの?この私に?
リナの中に決して屈服できないという思いが生じる。
「リナさん・・・。」
アメリアが身をかがめて頭をたれる。
代行たちの視線が一斉にリナに注目される。
「跪く理由なんて無いわ。」
隠匿生活を余儀なくされていたとはいえリナの中にはリューリク王朝の血を引くもの
としての
誇りは常にあった。
その誇りを突如奪われた為か。
それとも突然すべてから開放された為か。
はたまたその両方と戸惑いからか。
かたくなに服従の姿勢を拒むリナ。

ガク!!!!!!!
鈍い音を立ててリナは体をかがめて跪く。
押さえつけられた頭が苦しい。
「ぐ!!!」
思わずリナは歯噛みする。
ロキに無理やり頭を押さえつけられ服従の姿勢を取らされたと気がつくのにそれほど

時間は掛からなかった。
「やめろ!!」
不意に聞こえる鈍い音・・・。
「ぐは・・・・。」
思わず咳き込んだままリナはそっちの方向を見やる・・・。
兵隊・・・?衛兵・・・??
黄金の髪、半分だけ見える・・横顔の澄んだ青い瞳・・。
が、見とれている場合ではない!!
「だめ!!」
彼がリナの頭からロキの腕を払いのけた事は疑いが無い。
「しかし・・!!」
今、まさにバランスを崩し座り込んでいるロキに攻撃的な態度をしめいているこの
青年の腕にリナはすがり付く。
「しかし・・・。」
この男はあなたに屈辱を与えた・・・。
そうガウリイが言いかけたその時だった。
「気をつけて。この男は与えらえれた屈辱は決して忘れないわ・・・・。
それに・・。二倍にも三倍にもなって帰ってくるわ・・。」
小声でリナは青年に語り掛ける。
仕方なしにガウリイは、リナに屈辱的な事をさせた人物を睨むに留める。
それでもリナは心配そうにガウリイを見やる。
「リナさん・・・。」
「大丈夫よ。アメリア。これでご満足かしら?オーディン殿。ロキ。」
場を収めるようにリナが言い放つ。
(けれども。決してあたしは『はい』とは言ってはいないわ。)
と付け加えて。
「まったく・・。心配させるな。ガウリイ!!」
ゼルガディスが呆れながらガウリイ、リナ、アメリアの方に駆け寄ってくる。
流石にバツが悪くなったのだろう。
ロキが行列の後方に下がってくれた分声が掛けやすい。
「すまん・・。なんて言うか・・・。こう・・・。」
「はいはい・・。
そのお姫様が屈辱を与えられるのが許せなかった。そーだな?」
アッサリ言ってのけるぜルに頭をボリボリ掻きながらガウリイは頷いた。
「え・・・・・!!!??ってええ!!??」
先ほどの威厳はどこへやら。
やたらめったら混乱しまくるリナ。
「この男は・・。三ヶ月前だったかな?そのくらいから貴方に恋煩いのようだ。お姫
様。」
これまたアッサリ言ってのけるぜルに混乱しまくるリナと・・・。
「おい!!ゼル!!その事は秘密にしとけって!!」
肯定としか受け取れない反応を示すガウリイ。
「まあ・・。良いけど・・・(汗)あたしは・・。知ってると思うけどリナ。貴方は
?」
「あ・・。ああ。ガウリイって言うんだ(汗)」
かくして。
ガウリイを護衛としてのリナのモスクワでの生活が始まったのだった。


モスクワ・・・。
ロマノフ王朝時代のロシアといえばペテルブルク・・と言う印象を
持ちやすい。
が,しかしそれはもうしばらく後の話となる。
まだまだ発展途中の国家ということもあり、様様な外国人村などがあちこちにある都
市。
「本気か・・・???」
「ああ。本気だ。」
「まあ・・。リナさんならすぐに乗るとは思いますけど・・・。悪乗りしないように
気をつけて下さいね。」
ゼルとアメリアのジト目を尻目に意気揚揚としたガウリイ。
「ああ。分かってる!!」
このリナの「悪乗り」にはガウリイもほとほと手を焼いているのだった。
つい数日前の事。

「付いていっていい?」
廊下を歩いていたガウリイにひょいとカーテンの影から声をかけてきた人物。
「リナー!!」
うれしいような・・・・。
これから行く同僚の軍隊の荒くれ野郎ドモの目に触れさせたくないような。
複雑な心境である。
「あのさあ・・・。」
「あーもう!!いくら自由になったからって!!ピンクのフリル付のマントとドレス
はもう沢山!!
フランス製のボンボンもイタリアのジェラートももう要らない!!ドイツの詩集
もオーストリアのクロワッサンももう要らないわ!!」
「そんだけ沢山食べりゃ・・・。」
開けっ放しの扉から見える食器の山、山、山・・・・。
それに何故か窓辺には詩集であろう本が散乱している・・。
「うるさい!とにかくただたん退屈なのよ!!」
う・・・・・・・。
この押しには勝てない。
諦めてガウリイは軍団へのリナの同行を渋々半分、喜び半分で許可したのだった・
・、。

「良いなあ。ガウリイは♪」
同僚の冷やかしの声は完全に無視。
「へえ・・・。ココが兵士の訓練所?」
ガウリイの心配をよそにリナは無邪気にはしゃぎまわっている。
苦笑して良いのか、ムカついた方が良いのか・・・。
「名目上は、ですよー!!」
こら!!ランツ!!気安くリナに声をかけるなー!!
無論、ガウリイの血の叫びが通じるはずも無い。
「へえ?名目上?」
あ、こら!!リナ!!聞くな!!おにーさんは悲しいぞ!!(意味不明)
「そーそ!!実は!!『酒飲み王国』なんですよ♪ココは!!」
こらーーー!!ランツ!!てめぇ!!今度言ったらしばっきたおしてやる!!
「酒飲み王国・・・??」
「リナ・・。森に帰ろう・・・。」
意味不明のことを声に出して言ったために顔面にパンチを食らってまともにもがくガ
ウリイ。
「そう。いわえる社会風刺。どれだけ酒を飲めるかで国王、宰相、重臣、大臣、兵卒
なんか決める
王国なんですよ!!ちなみにガウリイ兄貴、書記官です。」
「へえええええええええ・・・。見かけによらず・・(うぷぷ)!!」
「しょ!!しょがねーだろ!!俺、飲むと行動パターンが妙にまともになるんだから
!!」
知られたくないことを知られて絶叫するガウリイ・・・。
「じゃ、あたしと対決してみる?」
「ほほー・・。良い度胸してるなあ・・。おまえさん・・。」
不適にふふふふふ・・と微笑むガウリイとリナ・・。
端から見ているとかなーり恐ろしいものがあるのだが・・・(汗)
何処からとも無く運び込まれてくる大量のウォッカにジン・・・。
かくして・・・。
(悲惨な結末・・・・・。)


「まったく・・・。」
自身ヨレヨレになりながらも辛うじて意識のあるリナを支えながらガウリイは歩く。
「早くアメリアに引き渡して休ませないと・・・。」
さっきからうわ言のように何かリナはぶつくさ言ってはいるがよく聞き取りにくい。
「おい!!リナ!!」
噴水の脇に座らせてぺしぺしと頬っぺたをたたく。
「ざけんじゃ・・・無いわよ・・・。」
かすかに耳に聞こえてくる程度の声のうわ言。
「リナ・・・・???」
「あたしがリューリク王朝の『女』だからって。散々閉じ込めておいて・・。
今度はロマノフ王家に『服従』しろ?ですって・・・??」
ロマノフ・・・・・・・・・。
「なら。あたしが・・・。リューリクの・・・。ロシアの女帝になってやるって言う
のに・・。」
さらにはっきりとした声でリナ。
言えるだろうか・・・。
自分名からだの中に四分の一・・・いや・・。恐らく八分の一にも満たないしても・
・。
「ロマノフ」王家の血を引いているということをこのリナに・・・・・。
ガウリイは一人、思案に暮れるしか無かった・・・・。


「いいか?リナ!!」
「分かってる!!前みたいに羽目はずしたりはしないわよ!!」
ガウリイこそ調子に乗って前回の外出のときは飲みすぎた気がするのだが・・・??
そのあたりは流石「書記官殿」と言った所か?
「造船所?」
オランダ人技師が担当している区域。
「ああ。今日はここの見学に来たんだ。」
楽しそうにガウリイが言う。
「何でまた?」
「・・・・。船で世界を見たい。それだけかな・・・・。」
遥か向こうを見ているような眼差しのガウリイ。
あたしも時々、こう言った目をしているのかもしれない。
なんとなくリナはそう思ったのだった。


「今日は本当に楽しかったわ。」
ガウリイが軍団・・もとい。酔っ払いの寄席集まり集団(酷・・)に戻ったその後。
リナはその日一日を回顧する。
あまり男女二人連れの行くような場所とは思えないが彼の夢には同調するものがあ
る。
それは野心か・・それとも・・・。
「ロキ・・・・・。」
思わずリナは考えを途中で止めてその人物のほうをみやる。
「リナ殿。まあ、そう怖い顔をなさらずに。」
「前の事?あれはあれで気が済んだでしょう?」
「いえ・・。あのような過ぎ去ったことはもはやどうでもよろしいのです。」
こいつらしくない台詞にリナは思わず眉をしかめる。
「何が言いたいの?」
「・・・。ロマノフ王家内部で。皇位継承に関するお家騒動があることは。ご存知で
すね?」
ここに来て初めてリナは頷く。
「ええ。知ってるわ。議会のロマノフ家派閥は系譜をでっち上げてロマノフ家の皇位
継承を
正当としてるけど・・・。」
「そう。アンチ・ロマノフ派閥の議員はそれを認めていないと言う事。それすなわち
・・。」
「リューリク旧派閥とでも言いたいんでしょ?それが何の関係があると言うのよ?」
もはやリナの家系、リューリクは断絶されてしまっているのだ。
「ロマノフ派閥でも内部分裂が起こっています。一派は元皇帝派。そして・・。」
「そして?何よ?」
「もう一派はガウリイ=ガブリエフ皇帝擁立派閥・・・。」
え・・・・・・・・??
「今・・。なんて・・・・??」
「ロマノフの正当な血を引くガウリイ=ガブリエフを皇帝にと目論む派閥。
そう言ったまでのことです・・・。」
何ですって・・・・?
ガウリイが、ロマノフ王家の者・・・・??
「あたしに・・・。どうしろと言うの・・・・??」
ガクガクと震えそうな体を気力だけでリナは支える。
「簡単なこと。手はずはすでに整っております・・・。」
悪魔の囁きとは分かっている・・・。
しかし・・。
ガウリイがロマノフ家の者!!?
決して服従しないと誓ったあの・・・・。
その思いがリナの判断力をこれまでに無いくらいに鈍らせた。
「分かったわ・・。ロキ・・・・。」


「反乱だと!!?」
兵団の詰め所に居たガウリイに急にもたらされた報告。
別にロマノフ家に忠誠を誓ったわけではないのだが、兵士だという役目上鎮圧は致し
方ない。
「どんな反乱だ?敵の要求と相手は!!?」
さしあたりそんな事を一応念のために聞いておく。
「そ・・それが・・・・。」


『女帝、エカテリーナ一世のクーデターと戴冠式』
それが。
ガウリイの唯一聞いた情報であった。
そして。
その『エカテリーナ一世』が誰であるかは疑いは無い。
先ほどまでいっしょに居たリナ。その人だと・・。


「リナさん!!」
事情を知らない・・(ガウリイが対立関係にあるロマノフの人間と知らない)アメリ
アが
馬上で男装(漆黒の軍服に黄金のサーベル)銀色の月桂冠を頂き白馬にまたがったリ
ナに駆け寄る。
「女帝としての即位、おめでとうございまーす!!明日はいよいよ戴冠式ですね!
!」
「そう・・ね・・。」
クーデターはロキの手回しによって信じられないほど簡単に成功した。
「あれえ・・。リナさん。元気ありませんね・・。ガウリイさんにもお知らせしな
きゃ!!」
「だめ!!」
アメリアの発した一言にリナは凍りつくような叫びをもって答える。
「リナさん・・・??」
ここに来てようやくアメリアもリナの尋常では無い様子に気づく。
「リナ・・・さん・・。」
「だめ・・。アメリア・・・。ガウリイには。もう・・・。」
そこから先の言葉を、さしものリナも紡ぐ事は出来なかった・・・・・。

「今度のことは、あのロキの差し金らしい。」
落ち込んだ様子こそは無いが、先ほどから落ち着きの無いガウリイにゼルが言う。
「分かってる。」
そうでなければ。
リナがそんなことをする筈が無い。
『気をつけて。この男は一度与えられた屈辱は忘れないわ。』
リナのあのときの言葉が不意に頭をよぎる。
「ロキがリナに手出しが出来ないときとすれば・・。戴冠式のときが勝負だ。」
不意にゼルがガウリイに言う。
「リナがお前と一緒に逃げることを拒んで女帝になる事を選んだ時にはその時までと
おもえ。
だが・・・・・。」
「だが・・・?」
続きを促すようにガウリイ。
「リナがお前と逃げたとき・・。すべてをロキに責任転嫁して現在幽閉中の皇帝を
復位させる。分かったな?勝負は一瞬だ!!」
「分かった!!」


女帝・・・エカテリーナ一世・・・。
この名前を望んだのは自分ではなかったのだろうか?
今、身にまとった金色の緞子のドレスと同色の月桂冠。
さらには銀色の広がったマントと重苦しい勲章の鈍い光が辛く感じる。
しかし・・・・。
騙したの?ガウリイ・・・。
違う。
勝手にロマノフを憎悪したのはそもそも自分じゃなかったのか?
リナの脳裏にはそのような思いしか今や生じてはいなかった。
「時間ね。」
自分自身に言い聞かせるように言ってからリナは立ち上がった。
もうすぐ戴冠式をすればあたしは女帝となれる。そうなれば。
今までの屈辱から完全に開放される・・・・。


「リナ・・・・。」
貴族の列に紛れて戴冠式に参列したガウリイはわが目を疑う。
とても十代の少女とは思えない女帝としての威厳。
何よりも強靭な意志に満ちた顔かたち。
しかし・・・。
その瞳ははじめて彼女を見たときの物憂げな瞳のそれだった。
「リナああああああああああああああああ!!!」
思わずガウリイは絶叫する。
「ガウリイ!!??」
思いもよらない人物の出現・・・・。
頬を軽く・・傷つかない程度にピシャンと叩かれる感触。
「馬鹿か?お前は!!敵には屈しないと言っていたやつが・・・。
一番の敵にアッサリと屈服してどうするんだ!!?いくら綺麗で威厳があってもなあ
!!そんなの
お前じゃないぞ!!」
一番の敵・・・・。
ロマノフじゃない・・・。
「ガウリイ!!ガウリイなの!!??」
「ああ・・・。酔っ払いの書記官・・。ガウリイだ!!」
「あは・・あは・・あははは・・・。」
思わず涙が出るのは・・。
何故だろう?
女帝になんかならなくたって。ちゃんと手に入れたものはココにあったのに。
確かにあの時のあたしは。
何時もギリギリだった。
無くしたものは何も無かった。
けど、今は違う。ガウリイはあたしを騙してなんか居なかったんだ・・。
「聞け!!エカテリーナ一生殿は病気の為療養中の現皇帝殿を隠蔽するための
現在交戦中の国、トルコへのカモフラージュだ。」
アッサリと適当な理由を作るガウリイ。
「そう。そして。クーデターを企てたのはこの奸臣、ロキただ一人!!」
計画どおりにゼルが言ってのける。
「ずばり!!悪です!!」
こう言った場面ではこう言わなくては気がすまないのか、上手くアメリアがフォロー
する。
「連行しろ!!」
アッサリと書記官の命令に従う兵士たち。
負けを悟ったのかロキも何も言わない・・・・。


「ガウリイ・・・。ごめんね・・・。」
「ははは・・・。酔っ払いの女帝に謝られたな・・。」
笑いながらガウリイ。
そしてリナも苦笑する。
かくして。
お家騒動は幕を閉じた。
ようやっと・・・。
リナはすべてを満たされた思いでその場にガウリイとともに立つのだった・・・。


(おしまい)
扉が開かれる。
ここ、ペテルブルクに皇帝の親族と言う理由だけで首都モスクワから
遠ざけられてこの土地に軟禁されてからどれくらいたつだろう。
「リナさん・・・・・・。」
「何の用事よ・・・ロキ・・・!!?」
アメリアを無視してリナがその人物、ロキを怒鳴りつける。
「モスクワにお戻りください、リナ様。」
ロキの一言にリナは怪訝な顔をする。
「首都に・・。もでれですって・・・??」
何を言うのだろうか・・・??
「ツゥーリャ」(皇帝)の身内のもの。
強いて言えばリューリク王朝の血を引く娘として生を受けたばかりにいままで
の人生、隠匿よろしくな生活をリナはしてきたのだ。
ロシア皇家は他のヨーロッパ王家の政略結婚とは違い、他国から
后を娶るという方法ではなく国内の貴族の娘から皇帝、ないしは皇太子の婚姻を
行ってきた。
それがゆえに内政には五月蝿いぐらいに貴族の干渉が伴う。
そして・・・。
皇帝の娘、ないしは一族の女性はと言うと・・・。
ロシアは他国が政略結婚を望むほどの勢力を今のところ持ち合わせてはいない。
しかし、「臣下にして奴隷」貴族に娘を嫁がせるなどと言う事はもっての外なのであ
る。
したがってその皇帝の一族であるリナは幼いころから首都や内政から
隔離されて生きてきたのだった。
従妹のアメリアとともに。
もっともそんな国のしきたりである。
この重臣、ロキに対してどうこう言ったところで仕方はないのだけれども。
「あなた様の封印は解かれました。ただいまより護衛の軍隊が参ります。」

今までリナを縛り付けていた一族の鎖はリューリク王朝の断絶・・・・。
議会によって選出されたロマノフ王朝の帝位継承という形で解かれたのだった・・・
・。


今更ながらガウリイがここに来たのは自分の意思からであった。
首都からわずかに離れただけとは言え寂しい町、ペテルブルク。
この町に演習に来て見たものが忘れられなかった、と言えば聞こえだけは良い。
「まさか。おまえさんの思い人がリューリク王朝最後の姫君だったとはな・・。」
物思いに耽りながら窓の外から雪のちらつく大河を眺めていた栗色の髪の女性。
「ああ・・・。まあ、な・・。」
苦笑とも上の空とも受け取れるような口調でガウリイがゼルに答える。
この男・・・・・・、まったくもって何を考えているのかわからない。
確かに・・・。
人目見かけて・・・その・・・。
なんと言うのか。ガウリイにとって忘れられない存在となった姫君。
しかし。
そう簡単にその「リューリク」の血・・・。
いや、強いて言うならば封印が解けるようなことはあるのであろうか・・・・?
まだであってもいない(少なくとも事実上は)人物と自分自身に対する予感。
それだけがガウリイの中に去来していた。

「今更・・。何を・・・。」
この男、ロキが並々ならない野心家だと言うことはリナも百も承知のことであった。
「あなたを解放する、そう言うことです。」
腑に落ちない点は多数ある。
が、このまま意味もない隠匿生活を強いられて何になるのだろう?
「わかったわ。すぐに首都・・。モスクワに戻るわ。」
開かれる、未来。
このまだまだフランス、スペイン、ドイツ、イングランド、オーストリア
などの列強に比べて未開の地、ロシア。
あたしはここで何かを成し遂げてみたい。
リナの心の予感が限りなく広がっていったのはこの瞬間からだった・・・。


「最後の姫君方のお目見えだ!!」
冷やかしとも比喩とも取れ団長ロキの一言がガウリイとゼルの耳にも聞こえる。
「・・・・。」
間違いない。
何時しかの演習のとき・・・。
雪の中、物憂げに凍り付いた大河を寂しげに眺めていた虚ろなひとみの
栗色の髪の少女だ。
思わず一兵卒に過ぎないガウリイは高貴な姫と知りつつも彼女を直視してしまう。
「リナ姫にアメリア姫。前皇帝の姪御にあたるお方たちだ。」
そっけなくゼルが説明する。
「どっちが?」
言わなくとも分かっている。
どちらの名前があの栗色の髪の少女のものか、と言う意味である。
「あててみな。」
からかうようにゼルが言う。
「・・・リナ・・・・。」
根拠は。ない。
本能としか言いようがないのである。
「まるで女帝だな・・・。」
先日見かけたあの脆弱な少女とは表情が一変していた。

そう。まるで何か遥か遠くを見つめている視線。
そっちの方がはるかにも魅力的な表情だったが一抹の寂寥感があることはガウリイに

否めないのだが・・・・・・・。
「あいつらは・・?」
リナとアメリアに数人の人物が歩み寄る。
「元ロマノフ王朝の代表団だ。ちなみに・・・。」
ゼルが言い終わるか終わらないかのそのときだった。
不意にアメリアが代表団の数名の前で頭をたれる。
が、リナは微動だにしない。
きまずい、張り詰めた空気が声こそは伝わらないがガウリイにも分かる・・。

「前リューリク王朝の血を引く姫君方。あなた方の封印は我々ロマノフの者が解い
た。」
物々しい口上に圧倒されることなく。
「そのようね。」
アッサリと言ってのけるリナ。
「強いては、我々に服従の意を誓っていただきたい!!」
謀反を起こすな。
そう言った事なのだろうか?
「どう言う意味ですか?オーディン殿?」
思わずリナは不機嫌な声をあげる。
「態度で示して頂きたい。」
無感情な声でオーディン代行は告げる。
「さあね。存じません。そのような行為は。」
ひざまずけと言うの?この私に?
リナの中に決して屈服できないという思いが生じる。
「リナさん・・・。」
アメリアが身をかがめて頭をたれる。
代行たちの視線が一斉にリナに注目される。
「跪く理由なんて無いわ。」
隠匿生活を余儀なくされていたとはいえリナの中にはリューリク王朝の血を引くもの
としての
誇りは常にあった。
その誇りを突如奪われた為か。
それとも突然すべてから開放された為か。
はたまたその両方と戸惑いからか。
かたくなに服従の姿勢を拒むリナ。

ガク!!!!!!!
鈍い音を立ててリナは体をかがめて跪く。
押さえつけられた頭が苦しい。
「ぐ!!!」
思わずリナは歯噛みする。
ロキに無理やり頭を押さえつけられ服従の姿勢を取らされたと気がつくのにそれほど

時間は掛からなかった。
「やめろ!!」
不意に聞こえる鈍い音・・・。
「ぐは・・・・。」
思わず咳き込んだままリナはそっちの方向を見やる・・・。
兵隊・・・?衛兵・・・??
黄金の髪、半分だけ見える・・横顔の澄んだ青い瞳・・。
が、見とれている場合ではない!!
「だめ!!」
彼がリナの頭からロキの腕を払いのけた事は疑いが無い。
「しかし・・!!」
今、まさにバランスを崩し座り込んでいるロキに攻撃的な態度をしめいているこの
青年の腕にリナはすがり付く。
「しかし・・・。」
この男はあなたに屈辱を与えた・・・。
そうガウリイが言いかけたその時だった。
「気をつけて。この男は与えらえれた屈辱は決して忘れないわ・・・・。
それに・・。二倍にも三倍にもなって帰ってくるわ・・。」
小声でリナは青年に語り掛ける。
仕方なしにガウリイは、リナに屈辱的な事をさせた人物を睨むに留める。
それでもリナは心配そうにガウリイを見やる。
「リナさん・・・。」
「大丈夫よ。アメリア。これでご満足かしら?オーディン殿。ロキ。」
場を収めるようにリナが言い放つ。
(けれども。決してあたしは『はい』とは言ってはいないわ。)
と付け加えて。
「まったく・・。心配させるな。ガウリイ!!」
ゼルガディスが呆れながらガウリイ、リナ、アメリアの方に駆け寄ってくる。
流石にバツが悪くなったのだろう。
ロキが行列の後方に下がってくれた分声が掛けやすい。
「すまん・・。なんて言うか・・・。こう・・・。」
「はいはい・・。
そのお姫様が屈辱を与えられるのが許せなかった。そーだな?」
アッサリ言ってのけるぜルに頭をボリボリ掻きながらガウリイは頷いた。
「え・・・・・!!!??ってええ!!??」
先ほどの威厳はどこへやら。
やたらめったら混乱しまくるリナ。
「この男は・・。三ヶ月前だったかな?そのくらいから貴方に恋煩いのようだ。お姫
様。」
これまたアッサリ言ってのけるぜルに混乱しまくるリナと・・・。
「おい!!ゼル!!その事は秘密にしとけって!!」
肯定としか受け取れない反応を示すガウリイ。
「まあ・・。良いけど・・・(汗)あたしは・・。知ってると思うけどリナ。貴方は
?」
「あ・・。ああ。ガウリイって言うんだ(汗)」
かくして。
ガウリイを護衛としてのリナのモスクワでの生活が始まったのだった。


モスクワ・・・。
ロマノフ王朝時代のロシアといえばペテルブルク・・と言う印象を
持ちやすい。
が,しかしそれはもうしばらく後の話となる。
まだまだ発展途中の国家ということもあり、様様な外国人村などがあちこちにある都
市。
「本気か・・・???」
「ああ。本気だ。」
「まあ・・。リナさんならすぐに乗るとは思いますけど・・・。悪乗りしないように
気をつけて下さいね。」
ゼルとアメリアのジト目を尻目に意気揚揚としたガウリイ。
「ああ。分かってる!!」
このリナの「悪乗り」にはガウリイもほとほと手を焼いているのだった。
つい数日前の事。

「付いていっていい?」
廊下を歩いていたガウリイにひょいとカーテンの影から声をかけてきた人物。
「リナー!!」
うれしいような・・・・。
これから行く同僚の軍隊の荒くれ野郎ドモの目に触れさせたくないような。
複雑な心境である。
「あのさあ・・・。」
「あーもう!!いくら自由になったからって!!ピンクのフリル付のマントとドレス
はもう沢山!!
フランス製のボンボンもイタリアのジェラートももう要らない!!ドイツの詩集
もオーストリアのクロワッサンももう要らないわ!!」
「そんだけ沢山食べりゃ・・・。」
開けっ放しの扉から見える食器の山、山、山・・・・。
それに何故か窓辺には詩集であろう本が散乱している・・。
「うるさい!とにかくただたん退屈なのよ!!」
う・・・・・・・。
この押しには勝てない。
諦めてガウリイは軍団へのリナの同行を渋々半分、喜び半分で許可したのだった・
・、。

「良いなあ。ガウリイは♪」
同僚の冷やかしの声は完全に無視。
「へえ・・・。ココが兵士の訓練所?」
ガウリイの心配をよそにリナは無邪気にはしゃぎまわっている。
苦笑して良いのか、ムカついた方が良いのか・・・。
「名目上は、ですよー!!」
こら!!ランツ!!気安くリナに声をかけるなー!!
無論、ガウリイの血の叫びが通じるはずも無い。
「へえ?名目上?」
あ、こら!!リナ!!聞くな!!おにーさんは悲しいぞ!!(意味不明)
「そーそ!!実は!!『酒飲み王国』なんですよ♪ココは!!」
こらーーー!!ランツ!!てめぇ!!今度言ったらしばっきたおしてやる!!
「酒飲み王国・・・??」
「リナ・・。森に帰ろう・・・。」
意味不明のことを声に出して言ったために顔面にパンチを食らってまともにもがくガ
ウリイ。
「そう。いわえる社会風刺。どれだけ酒を飲めるかで国王、宰相、重臣、大臣、兵卒
なんか決める
王国なんですよ!!ちなみにガウリイ兄貴、書記官です。」
「へえええええええええ・・・。見かけによらず・・(うぷぷ)!!」
「しょ!!しょがねーだろ!!俺、飲むと行動パターンが妙にまともになるんだから
!!」
知られたくないことを知られて絶叫するガウリイ・・・。
「じゃ、あたしと対決してみる?」
「ほほー・・。良い度胸してるなあ・・。おまえさん・・。」
不適にふふふふふ・・と微笑むガウリイとリナ・・。
端から見ているとかなーり恐ろしいものがあるのだが・・・(汗)
何処からとも無く運び込まれてくる大量のウォッカにジン・・・。
かくして・・・。
(悲惨な結末・・・・・。)


「まったく・・・。」
自身ヨレヨレになりながらも辛うじて意識のあるリナを支えながらガウリイは歩く。
「早くアメリアに引き渡して休ませないと・・・。」
さっきからうわ言のように何かリナはぶつくさ言ってはいるがよく聞き取りにくい。
「おい!!リナ!!」
噴水の脇に座らせてぺしぺしと頬っぺたをたたく。
「ざけんじゃ・・・無いわよ・・・。」
かすかに耳に聞こえてくる程度の声のうわ言。
「リナ・・・・???」
「あたしがリューリク王朝の『女』だからって。散々閉じ込めておいて・・。
今度はロマノフ王家に『服従』しろ?ですって・・・??」
ロマノフ・・・・・・・・・。
「なら。あたしが・・・。リューリクの・・・。ロシアの女帝になってやるって言う
のに・・。」
さらにはっきりとした声でリナ。
言えるだろうか・・・。
自分名からだの中に四分の一・・・いや・・。恐らく八分の一にも満たないしても・
・。
「ロマノフ」王家の血を引いているということをこのリナに・・・・・。
ガウリイは一人、思案に暮れるしか無かった・・・・。


「いいか?リナ!!」
「分かってる!!前みたいに羽目はずしたりはしないわよ!!」
ガウリイこそ調子に乗って前回の外出のときは飲みすぎた気がするのだが・・・??
そのあたりは流石「書記官殿」と言った所か?
「造船所?」
オランダ人技師が担当している区域。
「ああ。今日はここの見学に来たんだ。」
楽しそうにガウリイが言う。
「何でまた?」
「・・・・。船で世界を見たい。それだけかな・・・・。」
遥か向こうを見ているような眼差しのガウリイ。
あたしも時々、こう言った目をしているのかもしれない。
なんとなくリナはそう思ったのだった。


「今日は本当に楽しかったわ。」
ガウリイが軍団・・もとい。酔っ払いの寄席集まり集団(酷・・)に戻ったその後。
リナはその日一日を回顧する。
あまり男女二人連れの行くような場所とは思えないが彼の夢には同調するものがあ
る。
それは野心か・・それとも・・・。
「ロキ・・・・・。」
思わずリナは考えを途中で止めてその人物のほうをみやる。
「リナ殿。まあ、そう怖い顔をなさらずに。」
「前の事?あれはあれで気が済んだでしょう?」
「いえ・・。あのような過ぎ去ったことはもはやどうでもよろしいのです。」
こいつらしくない台詞にリナは思わず眉をしかめる。
「何が言いたいの?」
「・・・。ロマノフ王家内部で。皇位継承に関するお家騒動があることは。ご存知で
すね?」
ここに来て初めてリナは頷く。
「ええ。知ってるわ。議会のロマノフ家派閥は系譜をでっち上げてロマノフ家の皇位
継承を
正当としてるけど・・・。」
「そう。アンチ・ロマノフ派閥の議員はそれを認めていないと言う事。それすなわち
・・。」
「リューリク旧派閥とでも言いたいんでしょ?それが何の関係があると言うのよ?」
もはやリナの家系、リューリクは断絶されてしまっているのだ。
「ロマノフ派閥でも内部分裂が起こっています。一派は元皇帝派。そして・・。」
「そして?何よ?」
「もう一派はガウリイ=ガブリエフ皇帝擁立派閥・・・。」
え・・・・・・・・??
「今・・。なんて・・・・??」
「ロマノフの正当な血を引くガウリイ=ガブリエフを皇帝にと目論む派閥。
そう言ったまでのことです・・・。」
何ですって・・・・?
ガウリイが、ロマノフ王家の者・・・・??
「あたしに・・・。どうしろと言うの・・・・??」
ガクガクと震えそうな体を気力だけでリナは支える。
「簡単なこと。手はずはすでに整っております・・・。」
悪魔の囁きとは分かっている・・・。
しかし・・。
ガウリイがロマノフ家の者!!?
決して服従しないと誓ったあの・・・・。
その思いがリナの判断力をこれまでに無いくらいに鈍らせた。
「分かったわ・・。ロキ・・・・。」


「反乱だと!!?」
兵団の詰め所に居たガウリイに急にもたらされた報告。
別にロマノフ家に忠誠を誓ったわけではないのだが、兵士だという役目上鎮圧は致し
方ない。
「どんな反乱だ?敵の要求と相手は!!?」
さしあたりそんな事を一応念のために聞いておく。
「そ・・それが・・・・。」


『女帝、エカテリーナ一世のクーデターと戴冠式』
それが。
ガウリイの唯一聞いた情報であった。
そして。
その『エカテリーナ一世』が誰であるかは疑いは無い。
先ほどまでいっしょに居たリナ。その人だと・・。


「リナさん!!」
事情を知らない・・(ガウリイが対立関係にあるロマノフの人間と知らない)アメリ
アが
馬上で男装(漆黒の軍服に黄金のサーベル)銀色の月桂冠を頂き白馬にまたがったリ
ナに駆け寄る。
「女帝としての即位、おめでとうございまーす!!明日はいよいよ戴冠式ですね!
!」
「そう・・ね・・。」
クーデターはロキの手回しによって信じられないほど簡単に成功した。
「あれえ・・。リナさん。元気ありませんね・・。ガウリイさんにもお知らせしな
きゃ!!」
「だめ!!」
アメリアの発した一言にリナは凍りつくような叫びをもって答える。
「リナさん・・・??」
ここに来てようやくアメリアもリナの尋常では無い様子に気づく。
「リナ・・・さん・・。」
「だめ・・。アメリア・・・。ガウリイには。もう・・・。」
そこから先の言葉を、さしものリナも紡ぐ事は出来なかった・・・・・。

「今度のことは、あのロキの差し金らしい。」
落ち込んだ様子こそは無いが、先ほどから落ち着きの無いガウリイにゼルが言う。
「分かってる。」
そうでなければ。
リナがそんなことをする筈が無い。
『気をつけて。この男は一度与えられた屈辱は忘れないわ。』
リナのあのときの言葉が不意に頭をよぎる。
「ロキがリナに手出しが出来ないときとすれば・・。戴冠式のときが勝負だ。」
不意にゼルがガウリイに言う。
「リナがお前と一緒に逃げることを拒んで女帝になる事を選んだ時にはその時までと
おもえ。
だが・・・・・。」
「だが・・・?」
続きを促すようにガウリイ。
「リナがお前と逃げたとき・・。すべてをロキに責任転嫁して現在幽閉中の皇帝を
復位させる。分かったな?勝負は一瞬だ!!」
「分かった!!」


女帝・・・エカテリーナ一世・・・。
この名前を望んだのは自分ではなかったのだろうか?
今、身にまとった金色の緞子のドレスと同色の月桂冠。
さらには銀色の広がったマントと重苦しい勲章の鈍い光が辛く感じる。
しかし・・・・。
騙したの?ガウリイ・・・。
違う。
勝手にロマノフを憎悪したのはそもそも自分じゃなかったのか?
リナの脳裏にはそのような思いしか今や生じてはいなかった。
「時間ね。」
自分自身に言い聞かせるように言ってからリナは立ち上がった。
もうすぐ戴冠式をすればあたしは女帝となれる。そうなれば。
今までの屈辱から完全に開放される・・・・。


「リナ・・・・。」
貴族の列に紛れて戴冠式に参列したガウリイはわが目を疑う。
とても十代の少女とは思えない女帝としての威厳。
何よりも強靭な意志に満ちた顔かたち。
しかし・・・。
その瞳ははじめて彼女を見たときの物憂げな瞳のそれだった。
「リナああああああああああああああああ!!!」
思わずガウリイは絶叫する。
「ガウリイ!!??」
思いもよらない人物の出現・・・・。
頬を軽く・・傷つかない程度にピシャンと叩かれる感触。
「馬鹿か?お前は!!敵には屈しないと言っていたやつが・・・。
一番の敵にアッサリと屈服してどうするんだ!!?いくら綺麗で威厳があってもなあ
!!そんなの
お前じゃないぞ!!」
一番の敵・・・・。
ロマノフじゃない・・・。
何よりもあたしを侮辱したもの・・。ロキ・・・・!!??
「ガウリイ!!ガウリイなの!!??」
「ああ・・・。酔っ払いの書記官・・。ガウリイだ!!」
「あは・・あは・・あははは・・・。」
思わず涙が出るのは・・。
何故だろう?
女帝になんかならなくたって。ちゃんと手に入れたものはココにあったのに。
確かにあの時のあたしは。
何時もギリギリだった。
無くしたものは何も無かった。
けど、今は違う。ガウリイはあたしを騙してなんか居なかったんだ・・。
「聞け!!エカテリーナ一生殿は病気の為療養中の現皇帝殿を隠蔽するための
現在交戦中の国、トルコへのカモフラージュだ。」
アッサリと適当な理由を作るガウリイ。
「そう。そして。クーデターを企てたのはこの奸臣、ロキただ一人!!」
計画どおりにゼルが言ってのける。
「ずばり!!悪です!!」
こう言った場面ではこう言わなくては気がすまないのか、上手くアメリアがフォロー
する。
「連行しろ!!」
アッサリと書記官の命令に従う兵士たち。
負けを悟ったのかロキも何も言わない・・・・。


「ガウリイ・・・。ごめんね・・・。」
「ははは・・・。酔っ払いの女帝に謝られたな・・。」
笑いながらガウリイ。
そしてリナも苦笑する。
かくして。
お家騒動は幕を閉じた。
ようやっと・・・。
リナはすべてを満たされた思いでその場にガウリイとともに立つのだった・・・。


(おしまい)
*****
えーっと・・・。
あくまでクーデターを起こして女帝になったのはエカテリーナ二世
であって一世ではありません。
歴史上の設定故こーなりましたのであしからず・・(汗)



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8125森って・・・(笑)P.I E-mail 11/7-18:13
記事番号8123へのコメント

CANARUさん、お久しぶりです。
「ロマノフの封印」クーデターのところであれ?と思ったんですが、
そーでした、あれはエカテリーナ「二世」でしたね(^^;)
おんなじ名前の人が多いんだからもーややこしい・・・!
しかし女帝にはクーデターが良く似合いますねぇ♪
「森へ帰ろう」には大笑い!リナは王蟲かい!んも〜ガウリイったら!
ガウリイとリナの飲み比べ、結局どっちが勝ったんでしょ?
ガウリイが書記官ならリナは・・・?
ちょっとゲストのランツくんもいい味出してます♪
レポートの合間を縫っての旺盛な創作活動、すごいですねぇ。
ほんと頭が下がりますです。
・・・さて、予告のひとつは果たされました。あともーひとつ(笑)
気長にお待ちしてますよぉ〜♪
それではまた!



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8133ぢつは・・(笑)CANARU 11/8-12:25
記事番号8125へのコメント

>CANARUさん、お久しぶりです。
>「ロマノフの封印」クーデターのところであれ?と思ったんですが、
>そーでした、あれはエカテリーナ「二世」でしたね(^^;)
>おんなじ名前の人が多いんだからもーややこしい・・・!
そうそう・・・。
一世も一応は二年ばかり女帝になったみたいですしねー!!
>しかし女帝にはクーデターが良く似合いますねぇ♪
>「森へ帰ろう」には大笑い!リナは王蟲かい!んも〜ガウリイったら!
ははは・・・。
ぢつはこれも某柴田先生の作品のパロディーだったりしてます!!
私自身もお気にいりなのでー!!
>ガウリイとリナの飲み比べ、結局どっちが勝ったんでしょ?
・・・・。
五分と五分・・・ですね・・。
きっと・・・。
>ガウリイが書記官ならリナは・・・?
>ちょっとゲストのランツくんもいい味出してます♪
ありがとうですー!!
ガウリイの子分のイメージ定着ですねー!!
リナは・・・。
女帝ですね。きっと!!
>レポートの合間を縫っての旺盛な創作活動、すごいですねぇ。
>ほんと頭が下がりますです。
>・・・さて、予告のひとつは果たされました。あともーひとつ(笑)
>気長にお待ちしてますよぉ〜♪
>それではまた!
はいはいー!!
今度はギャグですねえ・・!!
ではー!!