◆−女神の冒険 9−雪畑(4/11-21:48)No.9499


トップに戻る
9499女神の冒険 9雪畑 E-mail 4/11-21:48


女神の冒険 9

金色の――光の中で王は宣ふ。

残酷な運命。
無慈悲な愛。
不道徳な心。
無意味な常識。 
不必要な思慮分別。

――彼女を帰した理由?ただの気まぐれよ。
――そうね。もう少し彼らを見ておきたかったのかも。

女神を愛した愚かな男。
清らか過ぎた戦の女神。

――彼らの愛の行方に――乾杯。


--------------------------------------------------------------------------------


ガウリイは耐えていた。
「踊りましょう。ガウリイ様。」
「いえ、私とご一緒に。」
王宮舞踏会。
王族や貴族同士との親睦を深めるのが目的のパーティである。
――というのは勿論建前。
この『舞踏会』が公爵や貴族の娘の中から皇太子の結婚相手を見つける為の物だというのは公然の秘密である。
王子であり顔もよければ体格もいいガウリイの傍に女が集まるのは当たり前の事なのだが――
ガウリイにとっては鬱陶しいだけである。
まだ舞踏会は始まっていないというのに。
ああ、ドレスアップしたリナを一刻も早く見に行きたい。
綺麗だよ、とか言って真っ赤になったリナを見たい。
「ガウリイ様。ワインはいかが?」
膨れ上がる妄想を持て余し、ガウリイはこっそりと溜息をついた。


「綺麗です・・・・」
「お世辞はいいわよ。」
ほうっと息を吐いた侍女にドレスアップしたリナが言う。
真紅のドレスに身を包み紅い薔薇を象った髪留めで髪を上げているリナは紛れもなく美しく。
侍女の言葉はお世辞ではなく事実だったのだがリナはそれに気付かない。
「アメリア達は先に?」
「はい。先に行かれました。」
リナに見惚れつつも言葉を返す。
女の自分をも惹きつけて止まないこの少女は一体何者なのだろう。
ガウリイ王子の招いた客という事だが・・・・
「じゃあ、あたしも。」
「あ、ご案内いたしますっ。」


舞踏会開幕の鐘が鳴った。


「ガウリイさんが見えません・・・」
「とりあえず。一応は王子だからな。」
アメリアとゼルの目線の先。
美女達に囲まれたガウリイがいた。
ミリーナやアメリアも初めて着たドレスを着こなしその美女達に見劣りはしないが。
「ミリ−ナ、オレと一緒に踊ろ・・・」
「リナさんが遅いですね。」
「ミリーナぁぁ・・・」
ルークとミリーナの漫才を今更見るまでも無くゼルが呟く。
「リナの相手を連れてくれば・・・」
一同(4人)が黙り込む。
その言葉の意味を悟れないのはリナくらいのものだろう。
何時もは破天荒なリナだが磨けば光る美貌の持ち主である事は否めない。
創造主に選ばれるほどの生命の輝き。
その実力。持つ知識。判断力。行動力。
ルークでさえリナには一目置いているのだ。
「もしこの会場にいる男がリナに手を出したら・・・・」
慄きながらゼルが言う。
「ガウリイが切れてリナが会場をぶっ飛ばす。」
「誰か男避けがいたほうが無難ね。」
ルークとミリーナの声が重なる。
何だカンだと言っても気の合う2人である。
「あ。」
唐突に声を上げたアメリアに視線が集まる。
「もしかして・・・・」
その時。
ガウリイの――会場中の人間の前に一人の少女が姿をあらわした。


リナ。
声を掛けようとして思い止まる。
自分の一番の失策は、リナが余りにも美しすぎた事だった。
(こんなの反則だ・・・・な・・・)
悪い事は考えるものじゃない。
この少女に躯も心も捕えられて――
リナに見惚れる男達に湧く言い知れぬ殺意。
こんな感情を自分は知らない。
恋と言うには小さすぎて。
愛と言うには狭すぎて。
次の瞬間ガウリイは自分の目を疑った。
夢か現か。幻か。
何時も強く輝いて自分を闇から救った紅い宝玉。
彼女の瞳に悲しみが覗いた。


ガウリイ。
声を掛けようとして思い止まる。
ガウリイの周りには自分よりずっと綺麗な女性達。
自分の知らない『王子』のガウリイ。
みんながこちらを見ている。
きっと馬鹿にしてるんだろう。
調子にのってドレスを着たけど・・・似合ってる筈なんかない。
(あたしは・・・・)
――自分は戦の女神なのだ。
血に塗れて生涯を過し、何処かの戦場で朽ち果てる。
こんな感情を抱くのは許されない。
こんな感情・・・・?あたしはガウリイをどう思ってるの?
理解デキナイ自分の心。
豊富な知識も役には立たず。
空回りする心と躯。
生まれて初めて彼女は――
――逃げた。

∇続く