◆−追憶−天海鳳凰鳥(5/12-13:11)No.9963


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9963追憶天海鳳凰鳥 5/12-13:11




闘いの日々から身を引いたリナは、ある町の外れに住んでいた。
ベッドの上に身を起こし、朝食を終え、外に出る。
「今日もいい天気ね、ゼル」
庭の隅にある小さな墓に話しかける。
彼―ゼルガディス―はリナと再会を果たした二年後に亡くなった。
――再会してからの二人は幸せな日々を過ごしていた。
魔族との戦いもなく、ただ平凡に時間が過ぎていく、安息の日々を。
ゼルガディスを失ったリナは、一時抜け殻のようになってしまった。
しかし、仲間の助けで半年後、ようやく彼の死を受け入れることができたのだ。
それでもまだ、彼女は一日の大半を彼の傍で過ごしている。
墓に凭れ、ふっと空を見上げる。
「こんな日だっけ、ゼルと会ったの」
それに答える声はない。
しかし、彼女にはゼルガディスの声が聞こえていた。
「そうね、もっともっと空気が澄んでたね。
 ……あれからもう、10年以上経つのよね…」
毎日のように呟いていることを今日も繰り返す。
その時、急に陰が落ちたのを感じ、リナはその先を見上げた。
「!!!!!」
目を見開き、息を飲んだ。
その先には一人の男が立っていた。
男の顔かたちがゼルガディスが人に戻った時とあまりにも似ていたからだ。
「な、なに…か?」
「あぁ、道を尋ねようと思って…」
戸惑ったような物言いもそっくりだ。
しばしその男に見とれていたが、はっと我に返り、
「あ、ごめんなさいね。ここら辺はちょっと入り組んでるから、案内するわ。
 少しだけ待っててくれる?」
言うと、家に入った。
深呼吸を何度か繰り返し、ショールを羽織って外に出る。
彼はバロン・シティに向かう途中だと言った。
「そう…」
バロン・シティへの道ならリナも知っていた。
なにしろ現役時代は至るところへ足を伸ばしたのだから、言うまでもないことだ。
「どうかしたのか?」
「え?」
「あ、いや。じっと俺の方を見てるから」
どきん
リナの胸が鳴った。
「うん…あまりにも、似てるもんだからさ、見とれてたの」
極力平常を装ってリナは答えた。
「彼氏に?」
彼の問いに、少し躊躇ってから頷く。
「でも、いくらなんでも彼に敵う奴はいないわね。あいつぐらいよ、あたしを落としたの」
「そういえば、俺を見たとき凄く驚いてたな」
「だって、本当に似てるんだもの」
苦笑したものの、溢れ出す感情は抑えきれない。
思わず流れる涙。
「お、おい…どうかしたのか? 俺、なんか…悪いことでも…」
「違う、違うのよ…ごめん、ごめんなさい…」
出来るだけ声を抑え、泣く。
そのリナを、彼はそっと抱き寄せた。
腕の暖かさに、リナは更にゼルガディスを思い出していた。
しばらくして、ようやく落ち着きを取り戻して顔を上げる。
「ごめんね、急に泣いたりして」
「いや、よほど惚れてたんだなと思って」
「もちろんよ。ゼル程の男はそう簡単にはいないわ」
少し歩くと、分かれ道に出た。
「この道を右に下っていけば二、三日でバロン・シティに着くはずよ」
笑顔でいったリナを、じっと見つめる。
「なに?」
「一緒に行かないか?」
その意図は彼女にもすぐに読み取れた。
決して邪な考えで言っているのではない。しかし―――
「ごめん」
リナはポツリと謝った。
「そうか」
彼は初めからわかっていたように、あっさりとため息混じりに言った。
「気持ちは嬉しいけど、ゼルにはあたししかいないの。もちろんあたしにもゼルしかいないし。
 ゼルの傍に居てあげたい、居たいの。でも、本当に貴方はゼルにそっくりよ」
気をつけてねと手を振り、リナは少し掛け足で家に戻った。
その男はしばらく彼女の後ろ姿を見送っていたが、ふっと黒い服を纏った神官姿になった。
闇に生きる獣神官―ゼロス―だ。
彼は一つため息をつき、肩を竦めた。
「どうやら、僕は振られてしまったようですね。
 まぁ、あの人には敵わないことぐらい、わかっていましたけど」
「ゼル…さっきの奴、ゼルに似てたね」
リナは青い空に目をやった。
そして目を閉じ、
「少し、眠っていい?」
そう尋ね、彼女は睡魔に身を委ねた。
心地よい風が二人を包む。
そこへ、ゼロスが現れた。
「リナさん、お久しぶりです」
しかし、彼女はそれに答えない。
「リナさん? 眠ってらっしゃるんですか?」
彼はリナの前に屈んだ。
「リナさん…」
闘いの中で出会った二人は今、安らぎの中で再会した。もう彼らを引き裂く者はいないだろう。
彼女の寝顔は穏やかで、天使のような笑顔が浮かんでいた。
その脇には、小さな忘れな草が風に揺れていた。

FIN…

ちょっと(?)どころかめちゃめちゃ切ない話になってしまいましたね…
これでも私、ゼルリナ派なんです(お願い、信じて…)
こんな駄文で良ければ、感想などいただければ有りがたき幸せでございます。