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漆黒に踊り出る5‐3
井上アイ
http://kibunnya.kakurezato.com/
2010年5月19日06時44分30秒
目をパチクリとして見せた彼女に、中年の男が意味ありげに空を指差す。
そこには、ちょうど、問題のビルから、こちらのビルへと渡したワイヤーがある。
「ご執心の女性が、いきなり消えたとなると、躍起になるでしょうなあ」
何を考えているのか、さっぱり読めない目、口調は強くも弱くもなく、責めている訳でもない。
だが、背中に流れる冷たい物に、悪寒のありかを、彼女は知る。
「居るべき所に戻れる。悪い話ではないと思いますがな?」
「何が望み?」
「理由と、確証。といった所ですかな」
「分かったわ」
顎を撫で、とぼけた口調の中年の男に、彼女は大きく頷いてみせた。
銃以外の疚しい物を、バイクの座席に詰め、彼女は、髪を纏めた。
地下駐車場のスロープには、1台のワゴン車が止まって居た。
そして、ワゴン車の脇で、警備員と、若い刑事が問答しており、中年の男は、若い刑事に代わり、口を開く。
「現場保全に協力願えますかな?」
「しかし……」
「リッチは既に遠く、追うのは困難では?」
渋った警備員は、細い目で見られ、ぐっと唸り、
「そちらが、邪魔をしたからでしょう」
と、苦々しい表情を浮かべた。
「まあまあ、貴方の仕事は、この会社の財産を守る事。でしたな?」
「だから、リッチを追うべく、待機していたのだ!」
「ほう?地下駐車場で、どうやって、動向を見るつもりだったのですかな?」
「ここから逃げる可能性だって、あるだろう」
「しかし、ここは、シャッターがある。それを突破するのは、少々手間だ。その可能性は、無いに等しいと思いますがな?」
鋭い視線が、警備員に注がれた。
そして、どういった理由で、ワゴン車を足止めするのか、聞かされていなかった刑事達が、成る程と納得の表情を浮かべる。
「リッチが潜んでいないか、確かめても、宜しいでしょうな?」
ワイザーの細い目が、警備会社の社名がプリントされたワゴン車へと、向けられた。
その外、ビルの外壁を昇る者が。
ワイザーによって、わざと手薄にされた、東側の壁を、銃を使って、上階に引っ掛けたワイヤーを巻き取り、辿り着いた先で、再び同じ事を繰り返し、屋上へと上がって行くのは、彼女だ。
屋上に再び辿り着くと、銃をフックに掛け、隣のビルへと伸びるワイヤーに、そのフックを掛け、滑らせる。
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