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初恋・・・かもしれない(後編)
希 悠
mytilus2010-coterie@yahoo.co.jp
http://blogs.yahoo.co.jp/fmxjq295
2012年5月3日21時51分55秒
続きです。
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初恋・・・かもしれない
ゼルガディスが聖王国王宮を訪ねてきてから既に一週間が過ぎていた。
図書室に近い客間が彼の為に用意され、食事もそこで取るため、ゼルガディスは殆ど客間と図書室を往復するだけの日々を過ごしていた。
初めて王宮を訪ねた日、突然の訪問だったにも関わらずすぐに手続きを済ませ、図書室に案内された手際にゼルガディスも内心驚いていた。いくら第二王女の知り合いだからといっても、こんな身元不明の怪しい男をあっさりと王宮深くまで案内するとは。ありがたいというよりも、呆れてしまった。
図書室の管理人は気のいい老人で、豊富な人生経験のなせる業か、はたまたもともとそんなことに頓着しない性格なのか知らないが、ゼルガディスが素顔をさらしても特に警戒するわけでも、恐れるわけでもなく接してくる。
聖王国王宮の図書室はさすがと言うほど広く、蔵書の数も半端ではなかったが、管理人のおかげで気になる書物を探す苦労が大分省けた。図書室の奥にある読書室に数十冊の分厚い書物を運び込み、一心不乱に読み漁る。気になった部分は書付に起こし、その記述について関わる書物をさらに読み漁る。“読書室”はその名の通り読書をするための部屋で、特殊な魔術によって常に本を読むのにちょうどいい明るさの光りがともされ、完璧な防音効果で外の音も一切入ってこない。おかげで時間感覚が狂うと評判の部屋だ。
ゼルガディスも最初の頃は管理人が閉室を伝えに来るまで時間を忘れて書物に没頭してしまっていた。だだ広い図書室の入り口にある管理人室から最奥の読書室まで老人を歩かせるもの悪いので最近では決まった時間に鐘のなる時計を持ち込み、閉室前には出て行くようにしている。
ゼルガディスは当初、城下街の裏宿に部屋を取るつもりでいたのだが、閉室で図書室を出た彼を管理人が引きとめ、客間に案内された。図書室を出てから急激に疲れを感じていた彼は、その客間で眠り込んでしまい、結局現在までその部屋で寝泊りしている。
朝夕に食事を運んでくる給仕は最初こそゼルガディスにビクビクしていたが、3日もするとなれた様子で、ゼルガディスに話しかけるまでになっていた。何でも、リナ達が王宮に滞在した時にも彼女たちの給仕をしたという話だ。懐かしくもはた迷惑な食事風景を思い出し、ゼルガディスは彼女たちに給仕したなら度胸が着いてもおかしくないと変に納得してしまった。確か、王宮で食事中に魔族に襲われたこともあったと聞いたから、その時に給仕していたのも彼だろう。・・・・・・可愛そうに。
そうこうして過ごす王宮での生活はゼルガディスにとってそう悪いものではなかった。むしろ、至れり尽くせり?
昼間にこそこそ読書室を訪ねてくる第二王女様の存在も含めて。
初日こそ図書室へゼルガディスを案内するだけにとどまったアメリアだったが、次の日から自由時間だという昼間〜夕方の時間帯にチョコチョコと訪ねるようになっていた。自由時間だと言う割には部屋に入る様子や部屋の外をうかがう様子が怪しかった。
「おまえ、サボりか・・・。」
「むぅ、サボりじゃない・・・ですよ。既定の公務は午前中だけですもの。」
ゼルガディスが目を眇めてアメリアに問うと、アメリアは目を逸らしながら否定して頬を膨らませた。
「つまり、既定外の仕事は午後のこの時間帯にあるんだな。」
さらに畳み掛けるとアメリアはさらに目を逸らし視線を泳がせた。明瞭に答えを示している行為だ。視線を泳がせ続けるアメリアをじーっと見ていたゼルガディスだったが、やがて軽いため息を吐いて手元の魔導書に視線を戻した。
「まぁ、俺には関係ないが。」
その様子にアメリアは視線をゼルガディスに移す。
てっきり、「邪魔だ」とか「サボるな」とか言われて追い出されるかと思っていたのだが、どうやら部屋にいることを許されたようだ。
アメリアはそのことに驚くと共に、なにやら胸の奥がホッと暖かく、うれしくなるのを感じた。そして、ちょっと甘えてみたくなったのだ。
「ゼルガディスさん、愚痴に付き合ってくれるって言ったじゃないですか。」
「あぁ、言ったか?適当に聞いてやるから存分に吐き出していいぞ。」
既に意識は魔導書に向き、ぞんざいに聞こえる言葉が返された。
アメリアはその中に、彼の不器用な優しさを感じる。
旅の途中、最初はその優しさに気付かずに「なんて素っ気無い人なんだ」と密かに憤慨したこともあったが、何度も死線を潜り抜け彼を知るにつれてその優しさを知った。
彼は資料を探す大事なときに、部屋にいるだけでなく愚痴にも付き合ってくれると、好きなだけ居て良いと許してくれたのだ。
それ以来、アメリアは時間を見つけてはゼルガディスの居座る読書室にやってくるようになった。愚痴やセイルーンでの出来事など取り留めなく話すアメリアと、本を読みながら聞き流すゼルガディス。それは、旅の道中を思い出させる光景だった。
しかし、それも一週間続くとなると・・・。
「アメリア、おまえそんなにここに居て良いのか?」
ここは旅の空ではなく、セイルーン王宮内なのだ。書物を漁りにきている客のゼルガディスは旅をしている時とほぼ変わらない生活サイクルで居られるが、アメリアには山と仕事が生じる場所なのだ。ゼルガディス自身は読書室と客間の間の行き来しかないので城の情勢は分からないが、それにしたってアメリアが読書室で過ごす時間が少なくないことは分かる。
それに、昨日の夕食時に給仕が気になることを言っていた。曰く、
「最近、ちょくちょくアメリア様が行方不明になって、補佐官たちが城中を駆け回っているのを見るんですよ。補佐官たちはもう長くアメリア様についているので、今までは居なくなってもすぐに見つけては執務室にお帰り願うらしいんですが、どこか良い隠れ場所を見つけたんですかね。」
どう考えても、“いい隠れ場所”はゼルガディスの読書室に違いない。
政務に忠実な補佐官たちも王族の客として読書室にこもっているゼルガディスのところまでは踏み込んでくるわけには行かないのだろう。
アメリアにしてみればいい隠れ場所と言うわけだ。
給仕の口調は軽いものだったが、王族が政務を放って雲隠れとは良い訳があるまい。
ゼルガディスとしては、アメリアの立場諸々を心配した結果の言葉だったのだが、彼女は別の意味にとった。
「・・・すみません。私、お邪魔でしたね。」
直前までのキラキラと輝く笑顔が、ゼルガディスの言葉を聞いてさっと陰る。
「別に、邪魔だとは言ってない。」
「でも、邪魔な時はスパッと言ってくれたほうが私としてはありがたいのですが。」
「だから、邪魔だとは言っていないと・・・」
「本当にすみませんでした。ゼルガディスさんのご迷惑を顧みれないなんてダメですね。・・・政務に戻ります。」
かみ合わない会話にゼルガディスがため息と共に書物から視線を上げてアメリアを見る。
そして、息を詰まらせた。
それまで、見たことの無いような沈んだ表情のアメリアが居た。
そのまま部屋を出ようとするアメリア。
ゼルガディスは思わずその腕を掴んだ。
「・・・あの?」
再びゼルガディスと視線を合わせたアメリアの表情はいぶかしげだが、先ほど一瞬見せた表情は消えていた。いつも通りのアメリアに、ゼルガディスは今見た表情は気のせいだったのかと詰まらせた息を吐き出した。思わず掴んでしまった腕が恥ずかしく、あわててその手を離す。
コホンと一息ついて、アメリアに座るように促した。
「人の話は、ちゃんと聞けよ。邪魔だとは言っていないと言ってるだろうが。」
「でも、私がここに居るのは良くないんでしょう?」
座り直したアメリアは、ムスゥとすねた子供のように口を尖らせる。
ゼルガディスはそれを呆れ顔で見やる。
「仕事はいいのか、といっているだけだ。俺はお前がここに居ようが居まいが気にはしないが、お前を探して補佐官どもが城を走り回っているそうじゃないか。」
「・・・・・・ぇへ。」
「ぇへ、じゃ無いだろう。」
ゼルガディスはなんだか、いたずらを見つかった子供とそれを諭す大人のような気分になってきた。
「どこからそんな話聞いたんですか?ゼルガディスさん、この読書室から一歩も外に出ないって聞いていたのに〜。」
「ふん。何気ない情報でも逃さないのがプロってもんだ。」
いったい何のプロなんだか。
「大体、見つかってないからいいようなものの、こんな狭い密室に男と2人でいるなんて知れたら困るのはお前だろうが。」
「?何でですか?」
本当に分からないという表情のアメリアを見て、ゼルガディスは片手で目元を覆い、嘆息する。
このお姫様は、自分のこの状況に本当に気付いていないのだろうか。
変なところで、王族らしいシビアで乾いた考え方をするくせに、この状況には危機感を感じないのか?
「見合い話もいくつも用意されている、年頃の、大国の姫が、音の出入りすらない密室に、人目を忍んで、若い男と、2人きりで・・・・・・」
ゼルガディスはことさらゆっくりと、言葉を区切って、今の状況を目の前の少女に教えてやる。
「私の評判を気にしてくれてるんですか?」
ゼルガディスの言葉を聞きながら目を丸くした後、アメリアは笑った。
花が、ほころぶように。
ゼルガディスがそんなところを気にしてくれていることが、くすぐったいようにうれしかった。
「お前は、評判云々は勿論、男と2人で居ることにもっと危機感とか、警戒心を持てよ。」
「ゼルガディスさんを警戒する必要なんて、無いでしょう。」
ニコニコと、警戒心無く手の届く距離に居る少女に、ゼルガディスはなんとも言えない気持ちになる。
胸の奥が、締め付けられるようだ・・・。
「本当に、そう、思うか?」
その声は、アメリアのすぐ耳元で聞こえた。
「・・・・・っ!」
反射的に声のした方を見るアメリア。
急に近づいたゼルガディスの瞳に、自分の顔が映っているのが見えた。
顔の横には岩粒の付いた青い大きな男の手。
吐息を感じるほどに近い顔が、さらに距離を縮めてくる。
アメリアはその距離の近さに驚き、目を丸くしたまま、動けずにいた。
ゼルガディスの氷色の目が細められる。
鼻が触れ、唇に相手の熱を感じるほどに近づく。
フッとゼルガディスの口から息が漏れた。
アメリアはその息を感じて、ビクッと身を僅かに震わせた。
そして・・・・・・。
ゴンッ
「あ痛っ・・・」
アメリアはその鈍い音と、額の痛みに我に返る。
痛みに額に手をやると、椅子の背に身を寄せてクククッと耐え切れないようにゼルガディスが笑っている。
互いの唇が触れるかというその瞬間、ゼルガディスがアメリアに頭突きを食らわせたのだ。
頭突きといっても軽く当てるだけのものだったが、何せゼルガディスの頭は岩頭なので結構痛い。
「なっ、何するんですかーー!!」
「いや、すまん。あんまりにも警戒心が無いもんだから、からかいたくなった。」
「からかわないでくださいーー!」
顔を赤らめ、ふくれっつらで怒るアメリア。
依然笑いが収まりきらないゼルガディス。
音の無い読書室に流れた一瞬の緊張感はあっという間に晴れて行った。
「しかし、お前、あの状況で目を見開いて固まるとは・・・。」
「・・・・・・。なんですか。」
収まりきらない笑いをようやく収めたかと思うと、ゼルガディスは急に真剣な顔になってアメリアに向き直る。
その表情にアメリアも表情を引き締めて向き直った。
「今は冗談だから良かったが、もし、同じような状況だったら相手をぶち飛ばすくらいしろよ。」
「いっ、言われるまでもありません。さっきはちょっと意表をつかれて驚いていただけで、乙女の唇を許可無く奪うような悪は再起不能です!!!」
アメリアは、むしろゼルガディスを再起不能にするんじゃないかという勢いで拳を突き出し、再び顔を真っ赤に染めた。
「そうか、とりあえず拳を収めろ。俺を殴るな。」
「あんな乙女の純情を脅かすような冗談をするのも悪ですよ。ゼルガディスさん!」
「俺としては、必要な警戒心が薄いお姫様に教えてやっただけなんだが。これでお前も警戒心を思い出したろう。」
「・・・・・・それにしたってやりすぎです!」
「あー、もぅ。悪かった、悪かった。」
興奮冷めやらぬアメリアに対して、ゼルガディスはもうこの話題は切り上げとばかりに適当な謝罪を言い放ち、再び本に視線を落としたのだった。
しばらく1人でその横顔を睨みながらうなっていたアメリアだったが、ゼルガディスが本に意識を集中させていると分かると、ため息を1つ吐いた。
「私、恋って良く分からないんです。」
うつむき加減で独り言のように呟かれた一言に、ゼルガディスの耳だけがピクッと反応する。
「恋ってどんなもの?ってお見合いするようになって色々聞いたんですけど、どれもピンと来なくって。ゼルガディスさんは恋ってどんなものか知ってます?」
上目がちに何気失礼な質問をしたお姫様に、ゼルガディスは本から顔を上げて視線を移す。細められたその氷色の瞳にアメリアは姿勢を正す。
「お前、俺をなんだと思ってるんだ・・・。俺だって恋ぐらいしたことあるさ。」
「・・・すみません。で、恋ってどんなものなんですか???」
「言葉でそうそう説明できるもんじゃない。」
「もぅー。みんなそう言うんですよ。それじゃ分からないですよ。」
正した姿勢を崩してまた机に沈み込み、頬を膨らませるアメリアを見て、ゼルガディスは苦笑をもらす。
「お子様が。」
「どーせ。」
その苦笑を眺めながらアメリアは胸の奥が締め付けられるような気がした。
ゼルガディスが恋をしたことがあると聞いて、キュゥと引き攣れる感覚。
その感覚が何に由来するのかが分からず、アメリアただ、この感覚を紛らわしたくて、口からは質問がこぼれた。
「今は、恋、してるんですか?」
その質問に一瞬、ゼルガディスの表情が消える。
次いでアメリアが見たこと無いような、優しげな悲しげな微笑を浮かべて言った。
「・・・・・・さぁな。どうだろうな。」
その表情と言葉から、アメリアは判った気がした。
『ゼルガディスさんは恋している人がいるんだ。』
胸の奥の引き攣れがギュゥウと強くなる。
その感覚に耐え切れずに、アメリアは部屋を出ることにした。
「もー戻ります。お邪魔しました。」
「ん。適当にやって来い。」
「・・・・・・。」
本から意識を話さず返事をするゼルガディスに無言で最後の一睨みを投げると、扉を開く。
その時、ゼルガディスから声が掛かった。
「あぁ、アメリア。1つだけ、言い忘れた。」
「なんですか?」
「キスをする気になった時は、目はつぶれよ。」
「〜〜〜〜〜〜!!余計なお世話です!!」
扉は、蝶番が壊れるんじゃないかという勢いで閉じられたのは言うまでも無い。
しばらくして、アメリアは執務室に戻っていた。
「ただいま・・・・。」
フゥと息をついて執務机に沈むアメリア。
それを見て、補佐官達は顔を見合わせた。
大体において、脱走から帰ったアメリアはいつでも非常に楽しそうにしていて、その後の仕事はさくさくと進む。よって、補佐官達は一応立場上アメリアを探して走り回るが、脱走自体はそんなに問題視していない。
何事にも息抜きは必要で、それを取ることによってその後の仕事が効率よく回るならば、その価値はあるというものだ。
「あの・・・、アメリア様?」
口元を押えて、なにやら考え込んでいる様子のアメリアを伺うように話しかける。
「アメリア様〜。」
補佐官たちの呼びかけにも反応が無い。
「アメリア様!」
「っ、はい?」
強めに呼びかけてようやく顔を上げた。
「あの、どこか調子がお悪いのですか?今日はそんなに急ぎの案件もありませんし、お休みになられますか。」
「い、いえいえ!全然、ばっちり!さあ、お仕事しましょう!!」
あわてて姿勢を正すと、アメリアはペンを手に取った。
その様子をみて、補佐官たちも書類をアメリアに渡す。
だが、しばらく書類を見てペンを走らせたかと思うとすぐにペンが止まる。
補佐官が呼びかけてまたペンを動かすがやっぱりすぐに止まる。
補佐官達はその様子をみてさっさと手元の書類をしまい始めるのだった。
「アメリア様。」
「・・・ぁ、はい!次の書類ですね。ちょっと待ってくださいねこの書類はすぐに終わりますから。」
「今日の書類はそれで最後です。」
「え、でも、さっき山盛りに・・・。」
「この調子では山を切り崩すのに夜中まで掛かります。我々は定時に帰らせていただきたいので、ここで切り上げることにしました。アメリア様もお休みください。」
補佐官はそういって仕上がった書類を受け取った。
気がつけば、窓の外は茜色に染まり始めている。
補佐官たちに追い立てられるように執務室を退出させられたアメリアは自室に戻った。
ベッドに腰掛け、窓に映る自分の姿を見つめる。
昼間間近にみたゼルガディスの目に映った自分の姿を思い出す。
氷色の瞳に映る、目をまん丸に見開いた間抜けな自分の顔。
そしてその距離の近さを思い出していまさらながら顔を真っ赤に染める。
両手で顔を覆い、ベッドに突っ伏す。
『イキナリあんなことするなんて、悪です。悪。
おまけに私はこんなに、恥ずかしい・・・のに。寸止めだったけど、凄くドキドキしたのに。
ゼルガディスさんにとっては寸止めじゃなくて、実際キスしちゃったってどうって事無いことなのかも知れないけど・・・!あんなに何でもないことみたいに・・・。
そりゃぁ、ゼルガディスさんは大人の男の人だし。結構かっこいいし。意外と優しいし。そんな経験なんていくらでもあるだろうけど・・・。』
頭突きをした後、声を抑えきれずに笑っていたゼルガディスを思い出すと胸の奥がズキンと痛む気がした。そして、彼の恋を思うと胸の奥が苦しい。
ゼルガディスの行為に対して、怒ってはいたが、不思議と嫌な気分ではなかった。
大体、寸止めだったし。
ただ、ゼルガディスが他の女性とキスとか、そんなことをしていることを考えるとなんだか嫌な気分になるのだ。
『何で、こんなに嫌な気分になるんだろう。』
半身をベッドに沈めたまま、物思いにふけるアメリアの耳にコンコンとノックの音が聞こえた。そのままの姿勢で答える。
「どーぞー。」
「失礼します。アメリア様。ご気分が優れないとお聞きしましたが、ご夕食はいかがいたしますか?」
「んー。もうそんな時間?すぐ支度するわ。」
ガハッと勢いよく起き上がるアメリア。
呼びにきた侍女はそのままアメリアの身支度を手伝う。
「アメリア様。今日はどうなさったんですか?」
「うん。ちょっとね。」
いつもの元気を潜め、ため息混じりのアメリアに年嵩の侍女は心配そうに訪ねる。
寝転がった拍子に崩れたドレスを直し、髪を梳き直す。
「・・・なんだか、胸の奥が痛む気がして、苦しいの。別に体調は悪くないんだけど。」
胸の辺りに手をやり、また、ため息。
侍女はその様子を見て、ピンと来た。
「あら、恋わずらいですか?」
「恋わずらいって、別に。恋してるわけじゃ・・・ない・・・。」
どこか楽しげに尋ねる侍女に、否定の言葉を発して、語尾がすぼまる。
この気持ちは、恋じゃないのだろうか。
黙り込んでしまったアメリアを伺う侍女の視線を通り越してアメリアは鏡を見つめる。
鏡に映る自分を通して、再びゼルガディスの瞳を思い出す。
知らず知らずに頬に朱が差し、胸がドキドキと早打つ。
『この、気持ちは、初恋、かもしれない・・・。』
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結構前に書いたやつで、寸止めが書きたかっただけという・・・。
アメリアだって、恋の一つや二つやもっとたくさん恋したことあるとは思いますが、ここは純粋培養な鈍いお姫様にしてしまいました。
結構、特殊な家庭環境?だし、こんなこともあるかもと。
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