タイトル : 利用される関係
投稿者 : みやび
投稿時間 : 2009年10月9日18時41分12秒
初めまして。雅(みやび)と申します。漢字一文字では寂しいので平仮名で書かせて頂いてます。
1年ほど前からこちらのサイトにお邪魔しておりましたが…っ。投稿したい、と思いながら文才はないわ、時間はないわで。1年でSS2本しか書けなかったというローペースですが…。折角なので投稿させて頂こうと思います。
尚、原作(2部)という設定で書かせて頂きますが、私は原作についてはカップリングは認めていない派です。しかもアメリアは黒い! と思ってます。うん。
そこがSSにも現れていると思います。
乱文、拙い文でも宜しいと思う方はどうぞ読んでやってください。
(ちなみに時間ないので見直し、書き直し一切やってないです)
本人は先に逃走しておきます。見て下さり、ありがとうでした。
利用される関係
リナとガウリイさんは未だに旅をしているのだろう。色々な地域で噂が流れてくるのを耳にしながら、相変わらずね。などと思ってしまう。
どうしてそんなことを考えたかというと、資料に二人の名前がトップで記入されていたからだ。
リナ=インバース
ガウリイ=ガブリエフ
天才的な魔道士と天才的な剣士。
確かに危機回避能力は高い。その才能の高さは今まで私が出会ってきた人の中では最高ランクに位置する。
だが………兵を動かして連絡するなど、無粋だろう。
そう、無粋だ。
折角の二人旅に水を差したくはないし、二人に頼めば私がお城の外に出る口実を失ってしまう。
そうよ、それにあのリナが破壊活動に出ないなんてあり得ないし、今回の人選としては間違っているわ!
今回の会議用の資料に書かれていた名前を羽ペンでぐしゃぐしゃに消し、見えないようにする。
ごめんね、リナ。無粋なことはしないから、ガウリイさんと一緒に旅を楽しんでてください。セイルーン近くに来なくていいから、寧ろしばらく近寄らなくていいわよ。
コンコン。
控えめなノックの音が聞こえるが、特に声は聞こえない。
……あぁ、ここにも相変わらずな人が居たみたいね。
思わず苦笑が漏れるのを止めることは出来なかった。
「鍵は開いてますので、入ってくれて構いませんよ」
がちゃり、と入ってきたのは白ずくめの男の人。一見するとすごーく怪しい人だが、その中身はとても誠実で真面目。
自称、残酷な魔剣士と言っていたりもするが実際はお茶目すぎる魔剣士のゼルガディス=グレイワーズさん。
部屋に入り、ドアを完全に閉めてから被っていたフードとマスクを脱ぎ、こちらに顔を見せてくれる。
「会議の招集だそうだ」
と、それだけ言う姿に肩をすくめた。
たったそれだけを伝えるためだけにこの男を動かす人などそうはいないだろう。ましてやこの城の中に限定してしまえば二人ぐらいしかいないだろう。私と、もう一人は────
「父さんにでも捕まりましたか?」
私の父さんのみだろう。
「ぁぁ、ついでだから呼んできてくれと、な」
彼がどこにいたかはまったく知らないが、何処かに行くついでに私を呼ぶという用事を頼まれたのだろう。通り道だったのか、それとも何か別の……なんて考えても仕方ないわよね。
「なるほど…。
っと、ゼルガディスさんはこれから蔵書室ですか?」
「まだここに来てから足を運んでないもんでな」
…目が物語っている。誰かさんのせいで。と……。
まあ確かに彼をここまで引っ張ってきたのは私に違いない。
なんとなく彼の気配を感じたのは昨日の話。仲間だから、挨拶だけでもしたい………という理由も確かに一割ぐらいはあったとおもう。だが、それ以上にこれから城を出るための計画に一役買ってもらおうと思い、招き入れた。城にくれば、蔵書室や国立図書館の本は見放題ですよ、と餌をぶら下げて。
4人で旅をしていた実績もあるし、知らぬ仲でもない。剣も魔法も一流の腕で、ボディーガードとして雇うにも彼ほどの人材はあまり見つかるまい。確かに合成獣というレッテルから批判される可能性もありえるが、父さんに関しては旅から戻ってから仲間たちの強さと、正義の志を語っておいたので反対はすまい。
………。要するに、城の外へでる時に護衛でゾロゾロと家臣が付いてくるよりも、ちょうど良く現れた彼を側に置くほうがよっぽどマシ。もちろん一人で出るほうが気楽でいいが、今回はそうもいかない。旅に出向こうとしているのは滅びの砂漠の更に東、陸が続いてるはずの結界の外だから。
どこまで砂漠が続いているかわからないのだから徒歩で向かうには危険極まりない。となると、船が必要になる、というわけだ。
もちろん昨日現れたばかりの彼はそんな私の思惑などまったく知らないだろう。むしろ、今回の会議の内容すら知っているかさえも怪しいところだ。会議が進行し、私が派遣されることが決まったときに彼には再び餌で釣りながら教えようと思っているのだから。
結界の外は私たちの知らない世界が広がっているに違いない…。そこへいけるチャンスをゼルガディスさんが逃すとは考えにくかった。
「お考えを改めてください、姫様!」
いつものように書斎で事務仕事をこなす私の前に、もう何度目か忘れた訪問者が現れる。それも、毎回同じ台詞を吐いて、みな悲痛な声を上げながら訴える。
最初からばっさりと言葉で切り捨てていったが、数を数えるのも馬鹿らしくなったあたりから頭痛の種になり始めていた。正直なところ、心配してくれるのはありがたい。だけど、今回の調査を見送り、城で待つということはもう出来ない。
冥王(ヘルマスター)フィブリゾが滅ぼされた影響で解けたのであろう(確認されたのがここ最近のことだから推測でしかないけど……)私たちの世界を包んでいた結界の外、私たちにとっては未知でしかないその世界の一端を確認し、外の世界との交流を図るための外交特使。先ほどの会議でその任を受けたばかりだというのに、それを今更手放すことなどできるわけがない。
「船が通る海域には群狼の島もございますっ。
万が一姫様が命を落とされでもしたら──────」
「それは他の者が担当しても同じことです。
そんな理由で任を降りるということは致しません」
獣王(グレータービースト)ゼラス=メタリオムの住まう群狼の島の近くを通ることになる船は確実に危険が伴う。…もちろん、そんなことは初めから承知の上だし、こうして会議や準備の期間にその配下である獣神官(プリースト)ゼロスが姿を現すかと思っていたのだが────特に今のところは見かけてもないし、そんな気配も特には感じてはない。
とんとん、と終わった書類を纏めて一息つく。
「ところで、先客がいるということに気づいていましたか?」
私に即座に却下されたことで、慌てふためいていた家臣にそういってみる。その言葉にハッと我に返り、部屋の中をぐるりと見渡す。………そんなことをしなければ見つからないほど隅に、壁に背を預けて、それでいて気配までもご丁寧に殺して、先客は不機嫌な顔でこのやりとりをずっと見守っていた。なにも気配まで殺さなくてもいいとおもうのだが、それでいて不機嫌なオーラは痛いほど伝わってくるのだから不思議な感じがする。まあ、単に完全に気配を殺しきれてない証拠だろうが、そんなことはどうでもいい。
「こ、これはっ…失礼致しました」
ばたばたと慌てて執務室から出て行く家臣を完全に見送ってから、不機嫌な彼に言葉をかける。
「すいません、騒がしくて」
「さっさと用件を言わないからだろう」
「確かにその通りです。ごめんなさい」
会議が終わって、すぐに蔵書室を訪れ、大切な用事があると執務室まで否応無しに連れてきたというのに既に10分以上彼を放置している気がする。そろそろ怒り出すのも時間の問題だろう。すぐさま本題へ入る。
「ゼルガディスさんは結界の外の世界をどう思ってますか?
外の世界に、行ってみたいですか?」
行ってみたい…なんておかしな話だ。既に彼は私の護衛としてついていくことが決まっているというのに、その本人意思は事後確認なんて……。
ふと、彼が人の悪い笑みを浮かべた。………ような気がする。ここからだと少しばかり離れていて、顔色さえ伺うことは出来ないがなんとなくそんな気がした。
「俺がそんなところには行きたくもない、といったらどうするつもりなんだ?」
一瞬、何を言っているのだろうと。頭が彼の言葉を正しく変換しなかった。
そして次の瞬間、その裏に込められた意味も理解した。
「知っていたんですか?」
今回の会議の内容と、その任を受けようと躍起になっていたことを。
─────彼を多少であれ利用してたことを。
「あぁ。フィルさんに全部な」
なるほど。
小言の一つでもついでに言われるかと思ったが、それ以上何も言ってはこない。かといって話を終わらそうとしている気配もない。
「それで? そんな話をしてくるということはその役割はお前で決まったんだな?」
「えぇ、ぶーぶー文句言われてるみたいですが」
先ほどのように何度も何度も。私が止めるわけがないとわかっているにも関わらず、何度も何度も。
「なら俺は何も言わん。
だが、俺はお前をとことん利用させてもらうぞ」
一瞬、呆けた顔をしていたかもしれない。
驚いた顔をしていたかもしれない。
「……王族を利用するなんて…いい立場ね」
彼の言葉の意味を真に理解しているかはわからない。
私はいつだって誰かを利用する。
周りも私を利用しようと近づいてくる。
だが────
「はっきり言われたのは初めてだわ」
誰もが思惑を隠して、中に潜む影を隠して近寄ってくるというのに。
「お前は俺を利用すればいい。
だが、俺もお前を利用するだけだ」
まっすぐに、影すら隠さずに近寄ってくるこの男。
だから信用できるのかもしれない。
仲間、という言葉を抜きにしても。
「言われなくても思いっきり利用するわ」
私はお城の外に出るために彼を利用する。
彼は外の世界に出るために私を利用する。
私たちは利用し、利用される関係だ。
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