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◆−漆黒に踊り出る4(14)−井上アイ (2010/3/26 19:35:15) No.18584 ┗漆黒に踊り出る5‐1(15)−井上アイ (2010/5/19 06:40:28) No.18586 ┗漆黒に踊り出る5‐2−井上アイ (2010/5/19 06:41:58) No.18587 ┗漆黒に踊り出る5‐3−井上アイ (2010/5/19 06:44:30) No.18588 ┗漆黒に踊り出る5‐4−井上アイ (2010/5/19 06:46:21) No.18589 ┣Re:漆黒に踊り出る5‐4−セス (2010/6/16 20:21:23) No.18590 ┃┗有り難うございます_(._.)_−井上アイ (2010/7/30 22:03:29) No.18593 ┗漆黒に踊り出る6−井上アイ (2010/7/30 20:06:44) No.18592 ┗一ヶ月放置ありえない−井上アイ (2010/9/20 16:44:28) No.18594
18584 | 漆黒に踊り出る4(14) | 井上アイ URL | 2010/3/26 19:35:15 |
「お食事、されました?」 激しい嫌悪感を、感じさせない程、彼女は心配そうな表情を浮かべた。 それに、疲れた表情で、首を横で振るライアン。 「それどころじゃなくてね」 「いらっしゃるかも知れないと思って、オニギリを幾つか、用意してみましたの。宜しければ、召し上がって下さい。お口に合えば良いのですが」 トートバッグから、紙袋を取り出し、ニコリと微笑む彼女。 それに、戸惑った表情を浮かべるライアン。 その意味に気付き、微笑みを維持したまま、彼女は口を開く。 「大変そうだったから、もしかしたら、何も召し上がっていらっしゃらないかも。と思いまして。料亭で無理を言って、作って貰いましたの」 「お気遣い、有り難うございます。有り難く頂きますよ」 「それでは、お部屋に失礼しますわ」 ライアンが、紙袋を手にすると、彼女は、会長室から、奥へと繋がる扉を、開けた。 ライアンは、会長室に残り、椅子に座り、執務用の立派な机に、紙袋を置く。 後を追って来ないライアンに、彼女はほくそ笑み、ソファーに近付く。 隙間に埋めた、イヤリングに見える盗聴機を回収し、ソファーのクッションを、ずらしたり、壁にある絵画をずらしてみたりと、軽く部屋を物色。 だが、何も見付からず、彼女は、軽く溜め息を吐いた。 ライアンが、隣に居る状況で、大っぴらに、探すせないので、見切りを付け、部屋を出、 「ソファーのクッションの脇に、入ってしまっていたみたい」 イヤリングを、ライアンに見せると、 「見付かって良かった」 と、ライアンは微笑み、紙袋に入っていた、ウェットティッシュで、手を拭い、立ち上がる。 近寄ろうとしたライアンに、ニコリと微笑み、彼女は口を開く。 「これで、失礼しますわ」 「お送りしますから、ここで、お待ち下さい」 「そこまでして頂いたら、悪いですわ。家族を呼びますから」 柔和な声で、宥める様に言われたが、首を横に振り、彼女は断った。 下心がある為、それ以上引き留めたら、変に思われる。と思ったのであろう。 「そういう事ならば」 と、ライアンは微笑みを返し、 「ご機嫌よう」 「お気をつけて」 彼女の笑顔での退去の言葉に、笑顔を返す以外、出来なかった。 「すみません、忙しいのに、付き合わせて」 部屋の外で、待機していた警備員に、彼女が頭を下げる。 「仕事ですから」 真面目なのだろう。堅い表情のまま、警備員は、先を歩き出す。 その僅かな隙に、廊下にある、観葉植物に向かい、何かを投げ入れ、彼女も歩き出す。 丁度、エレベーターまで、もう少し。 という所で、背後から、シュウシュウと、音が聞こえ、警備員が、俊敏な動きで、後ろを向き、彼女の腕を引き、自分の背後へと庇う。 「離れないで下さい!!」 叫んだ警備員の目に、煙が見えた瞬間、辺りが真っ白な煙で、埋め尽くされ、 「?!………」 突然訪れた痺れと眠気に、その身体が倒れた。 厳戒体制の中、エレベーターは、最上階に残っていて、最上階と地下にしか止まれない様になっている。 煙が充満する前に、それに乗り込んだ彼女は、素早くスーツを脱いだ。 その下には、黒の皮の、ボディースーツ。 脱いだスーツを、トートバッグの中にあった、圧縮袋に入れ、丸めて空気を抜き、トートバッグの中身を出し、トートバッグも丸める。 トートバッグの中にあった、小さめのナップサックに、それらを詰め、背負い、ナップサックに入れてあった手袋をはめた。 暫く待ち、エレベーター上部にあるデジタルの数字が、17階を示した。 それを確認し、天井に向かい、手をしならせると、吸盤の付いたワイヤーが、天井に張り付き、それを巻き取り、天井の板を外し、上へと上る。 板を戻し、動いているエレベーターから、飛び、ワイヤーを使い、エレベーター脇にある梯子へ。 それを上り、彼女は、見付けた穴へと滑り込んだ。 そこは、大の大人が、這って進める程の道であったので、小柄で華奢な身体には、苦ではない。 入ってすぐ、ソフトボールに似たボールが2つ入った、ミカンネットを取り出し、腰のベルトに結んだ。 そして、真っ直ぐ進み、その道にある、金網の床を見付け、止まる。 下に、気配が3つ。 気配を殺し、ボールを取り出し、1つを素早く転がし、その次のボールを、ゆっくりと転がした。 タイミングと緩急の違うボールは、速度のある方は、真っ直ぐと進み、速度のない方は、蛇行して進み、途中の別れ道を曲がっていく。 暫くして、遠くで何やら騒ぎが起こり、金網の下にいた気配が、2つ動く。 金網から、小さい白い粒を落とし、彼女は、気配を上から追う。 その白い粒は、音も無く落ち、警戒していた警察が、空気の漏れる音に気付くと同時に、煙を当たりに撒き、痺れと眠気を与えた。 金網ごとに、白い粒を落とし、着いた先。 廊下は、厳戒体制の為に、明るい筈なのだが、広がった黒い煙が、明かりを消しており、それは、彼女の居る天井裏まで迫っていたが、そこを通り過ぎる。 「?!!」 そこに辿り着いた警備の男は、不意に訪れた眠気に、意識を沈められた。 その人物は、離れた場所で、警備をしていた者で、静かな騒ぎに、駆けつけた所であった。 その騒ぎの原因は、彼女が転がした、ソフトボールの様な物。 幾らか進んだそれは、徐々にほつれ、中から一回り小さい物が出現。 細かな凸凹のあるそれは、慣性で暫く進んだが、金網の溝に引っかかり止まって、割れた。 そして、下に黒い煙幕を送り、同時に、痺れ薬と、黒い粒が、廊下へと散りばめられた。 そうして、警備の視界を遮り、痺れて倒れた者で、侵入者が、混じっている。と誤解を生じさせた。 リッチが、変装の達人だ。という事も手伝い、疑心暗鬼が、様子を見に来た、警備員、警察の間で芽生える。 その中、黒い粒が、新たに催眠ガスを、辺りに撒いたのだ。 そして、手当たり次第、金網から降らせていた白い粒も、やはり、警備の者を、沈めていた。 辺りが静かになった所で、金網から戻って来た彼女が、黒に染まっているそこに、音も無く舞い降りた。 その時に、横たわっていた人物を、踏んでしまったが、視界が悪いので、仕方がない。と、自己弁護をする。 多少、思考が鈍くなるが、薬への耐性があるので、彼女は、エレベーターの場所、進んだ方向と距離から、場所を特定し、左へと廊下を進んだ。 取り溢しが居た時様に、辺りの気配を読むが、懸念で済んだ事に、安堵して。 東と西にある廊下を繋ぐ、その廊下。 西側が、エレベーターのある廊下で、東側が、金庫のある廊下で、そちら側にも、上から眠って頂いた警備・警察官が、横たわっている。 これで、彼の逃走が楽になるだろう。と、彼女は、東側の廊下の北にある窓を開けた。 他の窓は、開かない物で、そこの窓は、非常時用の物だ。 パトカーの明かりを眼下に、身を乗り出し、太股のホルダーに入っている変わった形の銃を取り出した。 それに、ワイヤーを引っかけた弾を仕込み、空へと向かって撃ち、何かに引っかかったのを確認し、グローブにあるワイヤーを巻くスイッチを押せば、あっと言う間に、屋上へ。 防犯システムで、電流が流れる仕組みになっている筈のそこに、彼女は、踊る様に降り立った。 既に防犯システムは、リッチが切ってある。と、分かっていたからだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆ 新しいツリーで失礼します。 今回は、パソコンから☆ 番号を、新たに振り直しまして、カッコ内が、旧での番号での順番です。 自分で、分からなくなってきてしまったので(汗) 次回は、すぐかどうかは、ワカラナイですネ | |||
18586 | 漆黒に踊り出る5‐1(15) | 井上アイ URL | 2010/5/19 06:40:28 |
記事番号18584へのコメント ビルを囲む車の中、夜食を簡単に取っていたワイザーが、愛妻弁当のおにぎりを手に、車外へと出た。 「警部?」 運転席側の車外に居た若い刑事が、それに気付き首を傾げる。 そこで見たのは、ビルを見上げるワイザーだった。 「何かありましたか?」 警備システムが万全だ。というビル。リッチが侵入したならば、騒がしくなる筈。 だが、目の前のビルは、静寂を保っていて、若い刑事は、上司が何を見てるのか。と、必死に目を凝らす。 「静かなものだな」 まるで、縁側でお茶でも飲んでいる様な、ワイザーの穏やかな声。 「見張りは任せて、休んで下さい」 「いや、外に居る方が、性に合ってるからな」 視線の先は、相変わらずビルのどこかで、若い刑事は、自分はまだまだなのだろうか?と不甲斐なさを痛感する。 「―君」 「…!はい」 ずっと黙ったまま、2人してビルを見上げていた中、急に呼ばれて、そちらを見る。 真っ直ぐな上司の目は、何かを思っているのか、力強いもので、これから告げられるのは、重大な事なのだ。と、若い刑事は、気合いを入れた。 視線が外された、ビルの屋上では、彼女が、ぐるりと、ビルの周りの車を、眺めていた。 北から始まり、東、南、…と、南と西の境目の角、丁度大通りを一点を目にした所で、彼女の足が止まる。 何かを感じて、車の群れを凝視してみても、ただの光の粒の固まりにしか見えない。 が、底の方から伝わるそれは変わらず、彼女は纏めていた髪から、ゴムを取り、ピンを抜く。 本当は、最上階に戻り、何食わぬ顔で、裏金を頂戴し、再びスーツを着て、会長と共に出て行くつもりであったが、そんな気持ちは、綺麗になくなり、直ぐに北へと向かう。 柵の支柱に、リールを取り付け、それから伸びるワイヤーに重りを付けて垂らし、汗でしっとり濡れた手の平を、ナップサックで拭う。 ついで、少し離れた場所に立ち、先ほどの変わった形の銃を取り出し、特殊な弾にワイヤーを仕込み、北東に向かって打つ。 それは、隣の20階建てのビルの屋上の壁に着弾し、粘度のある接着剤と杭が、ワイヤーを固定する。 そして、柵にワイヤーを巻き付ければ、逃走ルートの完成だ。 「なぁんか、厄介なのが、居るっぽいのよね……」 気を急かす悪寒の元が居ては、暢気にして居られず、睨む様に、ワイヤーの先を見ていると、体格の良い人間が、ぬっ!とビルの窓から出て来た。 ◆◆◆ 懲りずに携帯からorz | |||
18587 | 漆黒に踊り出る5‐2 | 井上アイ URL | 2010/5/19 06:41:58 |
記事番号18586へのコメント そして、ワイヤーが引っ張られた。 遅い!と思いながらも、心を平常に戻していく。 ぐんぐん近付くそれは、見知らぬ顔だが、朧気なそれが、はっきりして来ると、焦りがなくなって来る。 程なく、屋上へと辿り着いた巨体。 ごちゃごちゃ五月蝿いが、いつもの様に適当に相手をし、さりげなく、分け前を徴収。 リールを柵から外し、ナップサックに入れ、用意してあった隣のビルへのワイヤーに、グローブの金具を引っ掛ける。 巨体を回収に来た騒音に、心の中で感謝しつつ、彼女は漆黒の空を、走る様に飛んだ。 こちらのビルは25階なので、かなりのスピードが出る。 その流れる景色の下、地上の光が、騒音を追い、大通りへと向かう。 彼らは、警察をからかうのを、いつも楽しんでいるので、大概が大通りへと向かうのを、知った上での、逃走ルートなので、眼下の光は、なくなっていく。 それを見届け、彼女はワイヤーにブレーキを掛け、スピードを調節する。 スピードが乗り過ぎると、屋上に激突してしまうからだ。 そして、隣のビルへと着地。 勢いで、数歩歩いたが、抜群の運動神経で、怪我は無い。 ここで暫く待つか、逃げるか、どちらが得策か?と考えて、 「気になる……」 好奇心が、先程の感覚を、確認したくなって来る。 多少、特殊メイクで、顔を変えてある。入った時と、髪型は違うので、それを取れば、問題ないだろうが。それでも、危険を感じ、彼女は首を横に振った。 「好奇心は猫を殺す。てね」 と、自分を戒め、階段を降りた。 そこは、バイクを止めたビルの敷地で、一回様子を見る為に、道路を覗く。 少し先、丁度地下駐車場の出入口を、パトカーが塞いでいるのが見える。 彼女の視線の届かない、正面玄関、裏口では人がガードしており、その指揮を取っているのは、ワイザーで、リッチの逃亡と同時に、周りを固める事を、内密に伝えられ、こうなっている。 「どうなってんのかしら?」 現場保全の為に、残っているにしては、様子がおかしい。 地下駐車場の方から、何やら言い争う声が聞こえるのだ。 その事に、首を傾げた彼女に、背後から声が掛かる。 「貴女が、忘れ物をした女性ですかな?」 渋い中年の声に、彼女は振り返った。 盗聴機で聞いた、その声に。 「さあ?何の事かしら?」 「困りましたな。現場から、人が1人消えたとなると、責任問題が発生してしまうのですよ」 「それは、大変ですわね」 「何をされていたのですかな?」 ◆◆◆ | |||
18588 | 漆黒に踊り出る5‐3 | 井上アイ URL | 2010/5/19 06:44:30 |
記事番号18587へのコメント 目をパチクリとして見せた彼女に、中年の男が意味ありげに空を指差す。 そこには、ちょうど、問題のビルから、こちらのビルへと渡したワイヤーがある。 「ご執心の女性が、いきなり消えたとなると、躍起になるでしょうなあ」 何を考えているのか、さっぱり読めない目、口調は強くも弱くもなく、責めている訳でもない。 だが、背中に流れる冷たい物に、悪寒のありかを、彼女は知る。 「居るべき所に戻れる。悪い話ではないと思いますがな?」 「何が望み?」 「理由と、確証。といった所ですかな」 「分かったわ」 顎を撫で、とぼけた口調の中年の男に、彼女は大きく頷いてみせた。 銃以外の疚しい物を、バイクの座席に詰め、彼女は、髪を纏めた。 地下駐車場のスロープには、1台のワゴン車が止まって居た。 そして、ワゴン車の脇で、警備員と、若い刑事が問答しており、中年の男は、若い刑事に代わり、口を開く。 「現場保全に協力願えますかな?」 「しかし……」 「リッチは既に遠く、追うのは困難では?」 渋った警備員は、細い目で見られ、ぐっと唸り、 「そちらが、邪魔をしたからでしょう」 と、苦々しい表情を浮かべた。 「まあまあ、貴方の仕事は、この会社の財産を守る事。でしたな?」 「だから、リッチを追うべく、待機していたのだ!」 「ほう?地下駐車場で、どうやって、動向を見るつもりだったのですかな?」 「ここから逃げる可能性だって、あるだろう」 「しかし、ここは、シャッターがある。それを突破するのは、少々手間だ。その可能性は、無いに等しいと思いますがな?」 鋭い視線が、警備員に注がれた。 そして、どういった理由で、ワゴン車を足止めするのか、聞かされていなかった刑事達が、成る程と納得の表情を浮かべる。 「リッチが潜んでいないか、確かめても、宜しいでしょうな?」 ワイザーの細い目が、警備会社の社名がプリントされたワゴン車へと、向けられた。 その外、ビルの外壁を昇る者が。 ワイザーによって、わざと手薄にされた、東側の壁を、銃を使って、上階に引っ掛けたワイヤーを巻き取り、辿り着いた先で、再び同じ事を繰り返し、屋上へと上がって行くのは、彼女だ。 屋上に再び辿り着くと、銃をフックに掛け、隣のビルへと伸びるワイヤーに、そのフックを掛け、滑らせる。 ◆◆◆ | |||
18589 | 漆黒に踊り出る5‐4 | 井上アイ URL | 2010/5/19 06:46:21 |
記事番号18588へのコメント そして、ナップサックから、圧縮袋を取り出し、スーツを出し、それを身に付け、トートバッグにナップサックを収めた。 屋上の南東に、ビルの中へと続く扉があり、靴の底に仕込んだ、ピッキング用の道具を取り出し、簡単に開け、彼女は中へと入って行く。 階段を降りた所には、扉があり、そこにも鍵が掛かっているが、再び簡単に開け、そこを潜り、最上階へと踏み入れた。 「全く、寝不足は美容の敵なのに……」 腕時計を見、針が示す時間に、彼女は思わず溜め息を漏らすのであった。 ◆◆◆ という訳で、まだ続きます(笑) 次で終われたら良いなぁ……… | |||
18590 | Re:漆黒に踊り出る5‐4 | セス | 2010/6/16 20:21:23 |
記事番号18589へのコメント こんばんは。 現代パロ、私は読むのは好きなのですが自分では書けないので羨ましいです。 続きを楽しみにしております。 | |||
18593 | 有り難うございます_(._.)_ | 井上アイ | 2010/7/30 22:03:29 |
記事番号18590へのコメント お返事遅くなりまして(汗) 原作をしっかり理解出来ていないと、原作の作品は、作り続けられないのではないでしょうか? 自分は、思い付きで、創っていて、すぐに、途中で頓挫してしまいます(^^; 続き頑張りますo(^^)o | |||
18592 | 漆黒に踊り出る6 | 井上アイ URL | 2010/7/30 20:06:44 |
記事番号18589へのコメント ワゴン車を調べ様と、刑事が動こうとした時だ。 ワゴン車から降りていた、警備員が、おもむろに銃を取り出した。 「っ?!!」 ―ガツッ! それを、咄嗟に警棒で払い、身体を押さえつけたのは、ワイザーの車を運転していた、若い刑事。 「公務執行妨害……だけで済めば良いですな?」 その横に立ち、ワイザーは銃を取り出し、ワゴン車に視線を送る。 「気を付けろ、まだ居るかも知れん」 別の若い刑事が、ワゴン車に近付くと、ワイザーは、鋭い声で、注意を促し、 「中を改めよ」 周りに居る刑事達に指示を出した。 そして、ワゴン車の周りを、4人の刑事が取り囲み、各々、手に銃を構え、ワゴン車を、隙無く睨む。 それを見やり、ワイザーは、警備員を取り押さえている刑事の肩に、手を置き、 「良くやった。応援が来たら、身柄を引き渡し、私に連絡をくれ」そして、ワゴン車を囲む刑事に、視線を送る。 「そちらは、頼むぞ」 「ええ。お任せ下さい」 返って来た答えに、満足そうに頷き、ワイザーは、守衛室へと向かった。 「刑事さん、どういう事ですか?」 そこに居た警備員は、事態に付いて行けず、不審そうな表情だ。 確保された警備員に、「リッチを追う」と言われ、シャッターを開けた人物だった。 が、すぐに、出て行くのを阻んだパトカー。次いで、守衛室を、刑事に占拠され、何が起こっているのか、分からない。といった表情だ。 その様子に、ワイザーは、落ち着いた口調で言う。 「失礼。リッチに逃げられた今、現場保全が、我々に課せられた使命でしてな。手荒な真似を致しました」 「だからと言って、守衛室を乗っ取り、警備員に待機の指令を出す事はないでしょう?!!」 鼻息荒く、抗議の意を唱えた警備員。 守衛室に、4人の刑事が、乗り込んで来て、守衛室にある無線を使い、警備員に待機の指令を出していた。 権力を傘に、自分の守るべき場所を荒らされる。という勝手な行動に、不快を感じたのだ。 それに、 「申し訳ない。リッチの残党が、万が一、居たら困りますからな。後から来た増援は、こちらで確認しておりませんし、ご協力頂きたい」 ワイザーは諭す様に言い、応えを待たず、背を向け、刑事に声を掛ける。 「警備システムは、どうなっている?」 「それが、作動していなかったので、警備会社に、問い合わせましたら、システムが、改ざんされていた模様で、今夜中の復旧は難しいそうです」 答えたのは、中年に差し掛かるかどうか、と言った年頃の刑事で、どう言った理由で、守衛室を抑えるのか、説明を受けていないが、経験から、それとなく感づいている。 「困ったものだな。中に居る、一般女性が心配だ。身柄を保護するべきだな」 誰にともなく呟かれた言葉に、刑事達の視線が集まった。 「え??」 「ライアン殿の、大事なお客人だそうでな。リッチが来る前に、入ったきり。なのだよ」 「それは、心配ですね」 「ここを、頼めるかな?ライアン殿への、説明も必要だしな」 「はい」 「応援が来たら、下から順に、警備員の身元、フロアの異常を、確認してくれ」 「判りました。確認後の警備員は、駐車場で待機して頂けたら、良いですか?」 「そうだな。では、頼むぞ」 言って、相手が敬礼をしたのを見、ワイザーは、駐車場内へと下りて行く。 最上階は、廊下がT字になっており、東に社長室、南に会長室、西に会長のプライベートルームが、コの字型にある。 そして、西にエレベーター、東に階段、間に秘書室が、北側にあり、廊下唯一の窓が、その両端にある。 その廊下の、秘書室の扉の前が、廊下の分岐点で、彼女は、そこを真っ直ぐと過ぎ、倒れている警備員の横を通り、エレベーターの前で待つ。 本当は、会長室へ先に行き、色々漁りたい所なのだが、ワイザーの目がある手前、何もしない方が、賢いだろう。と、判断し、大人しく、待つ事にしたのだ。 程なくして、ポンという音がし、エレベーターの扉が、ゆっくりと開く。 「どうも、ワイザーさん」 「早いですな」 エレベーターから降りたワイザーは、落ち着いた声で、彼女を見た。 「そうかしら?」 「所で、あちらは?」 質問に、質問で返され、彼女は、ワイザーが指差す方を、眉を寄せて見る。 そこには、床に横たわっている警備員の姿。 「ああ、少し寝て貰っているのよ」 「まさか、ライアン殿も?」 「ええ。放っておいても、後1時間もすれば起きるわ」 彼女が頷いたのを見、ワイザーは苦笑を浮かべた。 「刺激を与えれば、起こせるという事ですかな?」 「そうよ」 「なら、起きて頂こう。その前に、何か預かる物があれば、預かりますが?」 差し出されたワイザーの手。 それに、彼女は首を傾げる。 「何もないわ。何か欲しい物でも?」 「いえ。てっきり、わたしが来るまでに、見逃せない物を、懐に忍ばせているものだと……」 「そんな無謀な真似、しないわよ」 顎を撫で、白々しい表情を浮かべたワイザーに、彼女は肩を竦めた。 その表情は、涼しいもので、肝が冷える思いを、抱えているとは、思えない程だ。 「それは安心しました。では、まずライアン殿に、起きて頂こう」 にこやかに微笑み、ワイザーは、会長室へと向かった。 「大丈夫ですかな、ライアン殿?」 会長室の、自分の椅子に座り、眠っていたライアンを起こし、ワイザーは問いかけた。 「ああ……っ?!リッチは!!」 ぼんやりしていたが、事態を思い出し、ライアンが、ワイザーの腕を掴んだ。 「空から逃げられてしまいましてな。パトカーで追跡させております」 冷静に、ワイザーが応え、途端、ライアンは、顔を顰める。 「それは、何時頃?それに、それならば、何故ここに、そなたが?」 「そうですなあ、下で少々、手間が掛かりましたし、リッチらしき者の逃亡は、10分程前。ここに、私が居る理由は、それが、囮であった時の為の対策と、現場保全の為です」 「だからと言って、リッチを、追わなかった理由には、ならんだろう!!」 淡々と質問に応えたワイザーに、ライアンは、声を荒げた。 だが、それでも、ワイザーの表情は、変わらない。 「そう言われましてもなぁ。地上から、空の物を追うのは、少々手間でしてな。それに、火事場泥棒が、居る可能性だって、ありますし、迅速な現場保全は、鉄則なのですよ」 「……?!」 苦虫を噛み潰した様な表情で、ライアンは、ワイザーから手を離し、その背後、ソファに、ぐったりとした姿を見留め、顔色を青くさせる。 「ソフィアさん?!」 慌てた声と共に、椅子から立ち上がったライアンは、2人掛け用のソファに、足音を立て、近付く。 その背中に、ワイザーは、納得した様な声色を発する。 「やはり、ライアン殿の客人でしたか。廊下で、倒れていましてな。私が存じ上げない顔ですし、ご確認頂こうと思い、こちらにお連れ致しました」 「廊下で?警備員は、一緒じゃなかったのか?」 ソファで、目を瞑っている彼女に、目立った外傷がないか、確認してから、ライアンは、ワイザーの方へと、身体を向けた。 すかさず、ワイザーは、頷いてみせる。 「ええ。彼女の近くで、倒れておりました。意識のない男性を、運ぶのは、さすがに、くたびれますから、そのままになっておりますが?」 「起こして、連れてこれば、良かったんだ」 「ライアン殿の、無事の確認が、一番重要でしたので、そちらは、後回しにさせて頂きました」 「そうか。なら、今すぐ、起こして連れて来てくれ」 まるで、自分の部下へ、命令する様な口調のライアン。 その態度に、表情を変える事なく、ワイザーは、口を開く。 「それは、出来かねますな。ライアン殿が、リッチだ。という可能性も捨てきれない以上、一緒に来て頂かなければ、ここを動けないのですよ」 「そういう、あんたが、リッチなんじゃないのか?」 「だからこそ。お互いを見張る為にも、一緒に来て頂きたい。警備員が、リッチだったら、大変ですしな」 嫌味に、ワイザーが笑顔で返すと、ライアンが、顔を引き攣るらせ、 「良かろう。一緒に行こうではないか」 と、苦々しく応えるのであった。 「彼女にも、起きて頂こう。リッチが潜んでいたら、事ですしな」 言って、細い目で、ワイザーは、ライアンに視線を送った。 その目は、何を見詰めているのか? ◆◆◆◆ 久しぶりに、PCから♪ | |||
18594 | 一ヶ月放置ありえない | 井上アイ | 2010/9/20 16:44:28 |
記事番号18592へのコメント 前回から、既に1ヶ月半……… ありえない(>_<) 色々書きすぎて、話の筋が分からなくなりそうデス。 はい(汗)鋭意努力しますε=┏(; ̄▽ ̄)┛ | |||
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