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◆−いきなり小説初投稿(ゼルアメで!)宜しくお願いします。−希 悠 (2010/10/1 22:34:42) No.18595 ┗雨降って 地固まる(後編)−希 悠 (2010/10/1 22:54:20) No.18596 ┗初恋・・・かもしれない(前編)−希 悠 (2012/5/3 21:34:10) No.18597 ┗初恋・・・かもしれない(後編)−希 悠 (2012/5/3 21:51:55) No.18598
18595 | いきなり小説初投稿(ゼルアメで!)宜しくお願いします。 | 希 悠 | 2010/10/1 22:34:42 |
はじめまして。こんにちわ。 希 悠と申します。 最近になってふらふらとスレイヤーズ二次創作サイト様を放浪し、皆さんのすばらしすぎる小説とイラストに感化されて、うっかり自分でも書きたくなってしまった未熟者です。 「読みまくれ1」の方でようやく感想を書き込むようになったら、辛抱たまらなくなってついに書いちゃいました。 折角書いたからにはこちらに投稿させていただこうと(無謀にも!!)初小説投稿となりました。 が、何せ初小説、初投稿なのであちこちお見苦しい点があるかと思います。 なにとぞご了承ください。 ちなみに、私はゼルアメ、ガウリナ派です。 メインはゼルアメで、ゼルアメ成立の影にはガウリナは欠かせないよねって感じで考えています。 最近になって急に雨が続き、雨でゼルアメ・・・と妄想していたら思いついてしまったネタで、 ベタなんですがタイトルは「雨降って 地固まる」。 終わってみて全然固まって無いじゃん!と自分でも思いましたが、ゼルアメの第一歩ということで見逃してください。 まずは、軽く状況説明から(笑) 原作風味ゼルアメ(あくまで風味) どこら辺が原作風味かと言うと、対冥王の後しばらくして偶然再会したというシチュエーションと、「それまではあんましお互いを意識してないよ」という設定らへんです。 ゼルとアメの性格とかも原作に近づけようと頑張って玉砕しました(泣)。 原作15巻終了後くらい、アメリアはデーモン討伐の事後処理もひと段落してそろそろ旅にでも出たいな〜とか考えて城を飛び出しました。 しばらく一人で正義を広める旅をしていると、偶然ゼルガディスと再会。 「ゼルガディスさんについていくと悪に出会う確率が高そうだから」とか適当な理由で一緒に旅をすることに。 小説本編はその後2ヶ月ぐらいしてからの道中が舞台と言うことで。 お互い意識しているけどはっきりと認識はしていない、お互いの気持ちも知らないという状況です。 ___________________________________ 「雨降って 地固まる」 その朝、宿のベッドで目覚めたアメリアが最初に思ったことは“体がだるい”と言うことだった。 『風邪・・・ひいちゃったかな?』 思い出すのは前日の自分の行為。 まだ日中は暖かいとはいえ、朝夕は肌寒さの残る季節に自らの不注意で雨に濡れてしまった。 ゼルガディスと共に旅を始めて早二ヶ月。共に旅をしているといっても、人間に戻る方法を探すゼルガディスにアメリアが勝手についてきている状況だ。 それでも二人は同じ宿に泊まるし、ゼルガディスもアメリアに黙って次の目的地に出立してしまう事は無い。もっとも、初めの頃に黙って出立しようとした所を見つかって長々と説教を聞かされたのが堪えたのかも知れないが。 ともかくも二人でこの街に到着して宿を決めると、いつものようにゼルガディスは情報収集に、アメリアは街に蔓延る悪を退治に出かけようとしていた。 雨の続く季節でもあり、空はどんよりと沈んでいた。 「雨具は持っていけよ。今降ってなくとも、すぐに振り出すぞ。」 荷物を部屋に置いて、身一つで宿を出ようとしていたアメリアにゼルガディスはそう言った。 「大丈夫ですよ。すぐ戻ってくるつもりですし、ちょっと位降られてもその辺で雨宿りさせてもらいます。」 アメリアはそう答えて、そのまま宿を飛び出した。 『結局ちょっとどころじゃなくいきなり土砂降りになっちゃって、濡れた状態で雨宿りも無いからって雨の中走って宿まで戻ってきちゃった。』 すぐに体を拭いて着替えたのだが、宿に戻るまでの間に体が冷えてしまったようだ。 アメリアは「はぁ、」とため息をつきながらベッドを降りいつもの旅装束に着替える。朝食を食べたら今日は一日体を休めようと思いながら、宿の食堂へと向かった。 食堂では既にゼルガディスが隅の机で朝食を取っていた。宿の主人にオーダーを言ってアメリアもその机に向かう。 「おはようございます!ゼルガディスさん。」 精一杯元気に聞こえるように挨拶すると、ゼルガディスは目線だけを上げて 「あぁ・・・。」 とだけ言った。 そんなそっけない態度にもめげずにアメリアは向かいの席に座る。すぐに料理が運ばれ、温かいスープを一口啜った。 アメリアの食事が終わり、食後の香茶に手を伸ばすとゼルガディスが唐突に切り出した。 「アメリア。今日の予定は何か決まっていたりするか?」 『今日は風邪気味だから一日寝ている予定』と決めていたが、それを言ったら『だから言わんこっちゃない。自業自得だ。』とでも言われそうだったので特に決まっていないといったら、 「突然で悪いんだが、オレは今日中にこの街を出ようと思う。」 「えぇ?!」 「実は昨日、そこそこ有力な情報を得たんだ。できるだけ早く次の目的地に向かいたい。」 ゼルガディスの目は既に窓の外、遠く目的地を見ているようだ。 一刻も早く出立したいに違いない。きっと出立の準備も万端整っているだろう。 「分かりました。私もすぐ準備します。」 香茶をクイッと飲み干すと、アメリアは急いで部屋に向かい荷物をまとめる。 早くしないとゼルガディスに置いていかれそうな気がした。 時々、いや、しばしばそんな気持ちになることがある。 ゼルガディスはいつだってアメリアを置いて出立することができるのだ。 彼の優しさや律儀な性分で、声をかけてくれるだけ。もしアメリアが行かないと言えば、あるいは足手まといになる状況になったなら、彼はあっさり彼女を置いて行ってしまうだろう。 だから、アメリアはいつだって置いて行かれないように一生懸命ゼルガディスに付いて行くのだ。 いつからだろう。こんなにゼルガディスに置いて行かれることに恐怖を感じるようになったのは。 体は依然としてだるさを主張しており、頭痛もするが無視する。 荷物をまとめて宿の玄関に向かうと、案の定、ゼルガディスは準備を整えて扉の前にいた。 「お待たせしました!さあ、行きましょう。」 外は昨日からの雨が降り続いていた。 さすがに今日はアメリアもいつものマントの上にレインコートをかぶり、フードを目深におろした。 前を行くゼルガディスはいつも通りの白装束。 後ろを行くアメリアを振り返りもせずに歩いていく。けれど、決してアメリアとの距離が開くことはなく、一応は彼女を気遣っていることが伺える。 普段のアメリアなら問題なかった。 今日のアメリアは風邪気味だった。 加えての雨で足元は濡れ、レインコートを被っていても冷えが染み込んで来る。 アメリアは具合が悪化していくのを感じていた。 ゼルガディスも、いつもは小走りになっても横を歩こうとするアメリアが黙々と後ろを歩いていることに違和感を感じ始めていた。 しとしとと雨が降り続く中、やがてゼルガディスの後ろで大きな水音がした。 振り返るとアメリアが道の真ん中に座り込んでいる。顔はうつむき、うかがい知ることができない。 あわてて走りより、顔を覗き込むとアメリアの顔は真っ赤に染まり、目は虚ろにゼルガディスを見返した。 額に手をやると、明らかに熱が高いのが分かる。 「チッ!」と小さいが鋭い舌打ちがゼルガディスの口から聞こえた。そして有無を言わさずにその背中に乗せられたのがアメリアの意識を失う前に認識した最後の感覚だった。 ゼルガディスはできるだけアメリアに振動を与えないように、なおかつできるだけ早く歩き一番近くの村に急いだ。 いきなり怪しい白尽くめ(しかも人を背負っている)に鬼気迫る様子で宿屋の場所を聞かれた村人にかなり不審がられながらも何とか宿の場所を聞き出し、部屋を取った。 (やっぱりかなり怪しがる)宿の人間に頼みこみ、アメリアを着替えさせる女性と医者を手配してもらい何とか一息つくことができた。 ずっと一緒に行動してきたのに倒れるまでアメリアの具合の悪いのに気づけなかったことがゼルガディスは悔しかった。あの舌打ちはその悔しさの表れだった。 『クソッ・・・。何もあんなになるまで黙っていなくてもいいものを。何で出立する前に言わなかったんだ?いや、それでも違和感があったときにすぐに気づいていれば・・・』 心中で悶々と悪態と自責を繰り返しながら、アメリアを着替えさせるという女将に部屋を追い出され、ため息をつきながら隣に取った自分の部屋に移った。 自分もびしょ濡れの装束の着替え、到着した医者と共にアメリアの部屋へ向かった。 ベッドに横たわるアメリアは、息遣いも荒く、ますます症状は悪化しているようだった。 医者が診察中の間ゼルガディスはそのままベッドには近づかず、入り口のドア近くの壁にもたれて苦々しくその様子を見ていた。 医者は何事か小声でアメリアに話しかけながら脈を取ったり、額に濡れタオルを載せたりしている。 なにやら額にひんやりとした冷たさを感じ、アメリアはうっすらと意識を取り戻した。 覚えているのは自業自得で風邪を引き倒れたことと、ゼルガディスの舌打ちの音。 ぼんやりした意識の中で急速に不安感が押し寄せてくる。 『ヤダ・・・・・・ヤダ・・・オイテイカナイデ・・・ワタシヲオイテイカナイデ』 はっきりとしない視界の中に、ゼルガディスの影は見られない。 アメリアはその不安感のままに力の入らない腕を伸ばし、視線をめぐらせてゼルガディスを探す。 誰かに腕を押さえつけられたが、求める腕とは違うことが分かったのでさらに腕を彷徨わせる。 その指先に求めていた冷たく硬い岩肌が触れ、逃すまいとしっかりと握る。アメリアが握るとその岩肌も握り返してきた。 「・・・・・・アメリア・・・・・・」 よく馴染んだ低い、素っ気無いが温かな優しさを含んだ声がその名を呼ぶと、ようやくアメリアは安心することができた。 医者越しにアメリアの様子を伺っていると、なにやら動きがあった。 アメリアが気づいたようだ。表には出さずに“ほっ”と一息つくと驚かせないようにゆっくりと近づいていった。 「あぁ、まだ起きてはいけませんよ、お嬢さん。ゆっくりと休ん で・・・・・・」 初老の医者が起き上がろうとするアメリアの腕を毛布の中に戻そうとするが、彼女はそれを避けて腕を彷徨わせていた。 今にも泣きそうなアメリアの顔に一瞬躊躇しながらもゼルガディスはその手に自らの手を伸ばす。互いの指先が軽く触れると、アメリアはしっかりと握ってきた。ゼルガディスは思わず握り返し、その熱さに胸の奥が締め付けられる。 「・・・・・・アメリア・・・・・・」 意識しないところで声が出た。すると泣きそうだったアメリアがふっと表情を和らげ、再び眠りに着く。ゼルガディスは握った腕を毛布の中にしまってやった。 医者は彼に数種類の薬とその使い方を教えると、また明日来るといって部屋を去って行った。 二人きりになった部屋の中、苦しそうな息のアメリアの横で彼は頭を抱えて座り込んだ。 「なぁ先生よ。あのお嬢ちゃんの具合はどうだ?」 医者がフロントに出ると宿の主人が心配そうに話しかけてきた。 「なあに、ただの風邪だよ。しばらく休めばすぐ良くなるさぁ。」 医者は人のよさそうな笑みを浮かべて宿の主人に答える。 「なぁ、ありゃ人攫いじゃねぇか?見るからに怪しい男とかわいらしいお嬢さんだぜ。」 「ないない。お嬢ちゃんはちゃんと自分の意志であの男についてきてるよ。」 人のいい医者の脳裏には先ほどの光景がよみがえっていた。気がついて真っ先に連れの男を捜していた少女と心底心配そうな男。無理やりつれられている様子ではない。 「・・・・・・まぁ、駆け落ち者かもしれないがなぁ・・・・・・」 こっそり呟いた言葉は誰にも聞かれず、雨音に消えて行った。 ___________________________________ 続きます。 ダラダラと書いていたら長くなってしまった・・・(汗)。 すみません。 | |||
18596 | 雨降って 地固まる(後編) | 希 悠 | 2010/10/1 22:54:20 |
記事番号18595へのコメント 続きです。 どのくらいの長さまで一度に投稿できるのか良く分からなかったので、2つに分けました。 ___________________________________ 医者が去り、背後には苦しそうな息の旅の連れが寝ている。 ゼルガディスはなぜアメリアの異変に気づけなかったのかと先ほどの後悔を蒸し返していた。 なぜアメリアは自分に体調が悪いことを言わなかったのだろう。 『言えなかったのか?そんなに俺は信用できないのだろうか・・・』 自分の勝手のせいで彼女に苦しい思いをさせていることにひどくイラつく。そしてそのことについて倒れるまで相談されなかったことが腹立たしく、少なからず傷ついた。 最初は別にアメリアが何をしていようと自分に実害が加わらないのだったらかまわなかった。次第に、アメリアの面倒に巻き込まれても『しかたない助けてやろう』と思うようになった。そしていつの間にか、アメリアの姿が見えないと不安になることが増えた。 彼女の笑顔を見ていたい。怒った顔でもいい、正義に燃える顔でもいい。ただ苦しむ顔など見たくはなかった。 だから彼女が自分を必要としている時、自分が助けてやれる時にはできるだけ全力で助けてやるのだ。それが自分の主義に反していたとしても。 いつからだろう。こんなにアメリア思う心が膨れ上がってしまったのは。 宿の人間に食事を運んでもらい、ゼルガディスは一晩中アメリアの傍を離れられなかった。 翌朝、窓から差し込む陽光と鳥の鳴き声に重い瞼を開けたアメリアの目に一番に入ったのは、陽光を浴びて複雑に色を反射させる銀の塊だった。 『・・・綺麗。キラキラして、ゼルガディスさんの髪の毛みたい・・・・・・』 ぼんやりしながらその銀を眺めて、はっと気づく。 それが“みたい”ではなくゼルガディスの頭そのものだということに。 アメリアは焦ってがばっと起き上がろうとした。が、急に動いたせいか激しい頭痛が押し寄せて来て再びベッドに頭を沈めた。 無言で頭を抱えひとしきり悶絶していると、アメリアの動きを察知したのか、 ベットに突っ伏していたゼルガディスも起きた。2、3度頭を振ると、一人悶絶しているアメリアの顔を覗き込む。 「アメリア?大丈夫か。」 「ふぁい・・・。頭が割れそうに痛いですぅ・・・。(泣)」 頭を抱えたまま答えるとその手をちょっと乱暴に剥がされ、代わりに温度の低い硬いものが額に当てられたのが分かった。 「ぅむ。まだ熱は高いようだな・・・。水を飲むか?」 差し出されたカップを受け取り、ちびちびぬるくなった水で喉を潤す。自分で気づいていなかったが、相当喉が渇いていたようだ。 その様子を見たゼルガディスは、水の入った桶と水差しを持つと「ちょっと待ってろ」と言って部屋を出て行った。 ゼルガディスのいなくなった部屋ではアメリアがため息を一つ。 『うぅぅ・・・。また、ゼルガディスさんに迷惑をかけちゃった。』 雨の中、足の力が入らなくなり地面がいきなり近づいたことは覚えていた。その直後駆け寄ってきた足音と鋭い舌打ち・・・。急に高くなった視線と目の前にゆれる銀色・・・。 『今度こそ、迷惑がられて置いていかれるかも・・・。あんなに鋭い舌打ち戦闘中にしか聞いたことない。絶対、怒らせた・・・。どうしよう・・・。・・・頭痛い・・・(泣)』 何を考えても頭に走り続ける頭痛とあいまって悲観的なことしか出てこない。 『どうしよう・・・どうしよう・・・どうしよう・・・・・・』 胸の奥が締め付けられ、風邪のせいだけではない悪寒が湧き上がる。 【恐怖】 それに押しつぶされそうになる。 ようやく戻ってきたゼルガディスが見たのはベットの上で苦しそうに涙をぼろぼろと流し毛布を湿らせているアメリアだった。 驚きのあまり手に持っていたイロイロを落としそうになりさらに慌て、何とかそれらをテーブルに置くとベッド急いで近づく。 「どっどうした?!頭が痛すぎるのか?苦しいのか?ぇえい!とりあえずそんなに泣くほどつらいなら無理せずに体を横にしろ!!・・・そっそれとも起きてた方がいいのか???」 いつに無くワタワタと慌てるゼルガディスはリナがいたら確実に腹を抱えて笑うほどのものだったが、アメリアにはそれに気づく余裕も無い。 黙ってさらに俯いてしまったアメリアの目元をそっと指で拭い、ぎこちなくゆっくりと黒髪をなでてやる。 しばらくそうしていると、彼女もようやく落ち着いてきたようだった。 一息ついて、その手を放しテーブルの上に置きっぱなしだった物を取りにいこうと立ち上がる。 アメリアは頭をなでる手が自分を押しつぶしそうだった恐怖を少しずつ払いのけているように感じた。涙も収まり、その感覚に身をゆだねる。 不意に自分の頭をなでていた心地よい手が離れていく気配を感じ、慌ててその手に縋った。 掴んだ手の先には驚いたように目を見開くゼルガディス。 すぐに表情を戻すと掴みかかっている手を“ぽんぽん”と軽く叩き、手を離させるとテーブルからほんのり湯気の上がる皿を持って戻ってきた。 「ほら、とりあえずこれを腹に入れて、薬飲んでもう一回寝ろ。置いてきゃしないから。」 手元にその皿を渡され、もう一方の手にはスプーンを握らされる。 殆ど無意識に人肌に冷まされた味の無い粥を口に運び、渡された丸薬を呑み込んだ。 先刻頭をなでていた手に促されて再びベッドに潜り込み・・・ 「・・・おい。」 不機嫌な声を無視してその手を抱え込んで目を瞑る。ため息が聞こえたような気もするがそう思ったときにはもう眠りに落ちていた。 自分の手を抱え込んで寝入ってしまったアメリアにため息をつきつつも、先ほどの泣き顔を思い出すとその手を無理に引き抜けない。哀れな男は彼女が目覚める前と同じ体制でベッドの横に座り込んだ。 アメリアを見ると、薬が効いているのか夜よりは随分穏やかになった寝顔に心底ほっとした。ゼルガディスの顔には僅かな笑みが浮かび、次いで苦い笑みに変わる。 『無理をさせていたのか?いくら丈夫印の鋼鉄娘とはいえ、雨の中の強行軍は堪えたのだろう・・・。まったく、俺はどれだけ視野の狭い男なんだか・・・。自分のことばかりで、仲間を気遣えないとは。』 三度後悔を繰り返す。全く女々しい上にしつこい男である。 ゼルガディスの脳裏には昨夜のアメリアのうわ言が甦っていた。 『オイテイカナイデ』 「俺はそんなにお前を置いて行きそうか?そんなに普段、信用ならない行動をしていたか?全く、身に覚えは無いんだが??」 しっかりと腕を抱え込んで眠るアメリアに向かって思わず零す。 おまけに置いて行かないといって眠らせたのに、しっかり腕を掴んで寝入るとは全く信用されていないこと請け合いである。 何度目かも分からないため息をつき、半眼で寝顔を見やる。 その寝顔に胸の奥から愛おしさが湧き上がってくるのが自覚された。 彼女に信用されたいと思う。 いつか自分の目の前から消えていくのは彼女の方だと分かってはいるが、それまでの短い間はこの愛おしさを大事にしたいと思うようになった。 初めてこの思いを自覚したときは、どうすればそれを綺麗さっぱり捨てられるのか、忘れられるのかを考えた。しかし、冥王との戦いの後1年以上一人で旅を続け、どうやってもそれを捨てたり忘れたりすることは無理だと知った。 思わぬところで再開し、彼女の勢いに負けて再び共に旅をするようになり、ようやく大切にしたいと思えるようになったのだ。元の体に戻りたいと思うのと同じくらいに。・・・それ以上に。 シトシトと雨音を聴き、薄暗い部屋の中で重い瞼を開けたアメリアの目に一番に入ったのは、朝の光景と重なる鈍い銀の塊だった。 今度は一気に覚醒し、次いで腕に抱えたものが彼の腕であることを確認してひどく動揺した。それはもう、抱えていた腕を投げ出すほどに。 「・・・おい。」 寝る時に聞いたのと寸分違わぬ不機嫌な声がすぐ間近から聞こえた。 「おっおぉおはようございます!あの、あの、すっすすすすすみませんーーー!!」 顔を真っ赤にしながらも大げさな身振り手振りで謝るアメリアにゼルガディスは自然と笑みがこぼれる。見慣れない彼の穏やかな笑顔に思わず見とれ、無言になりますます顔を赤くするアメリア。 ゼルガディスは顔を赤くして黙ってしまった彼女の額に手をやり、そのまま頬に添える。 「具合はどうだ?未だ苦しいか?」 心配そうに問いかけるゼルガディスにアメリアはブンブンと顔を横に振り腕を胸の前に握り締め 「全然だいじょーぶです!!!もう元気!元気です!!」 どれだけ元気かをアピールするかのごとく叫んだ。 ベッドの上に立ち上がりかねない勢いの彼女に苦笑し、落ち着かせる。 「あの、すみませんでした。迷惑をかけてしまって・・・。」 アメリアは毛布から半分だけ顔を出して申し訳なさそうに言った。 「全くだ。とんだ迷惑だ。」 ゼルガディスの口から発せられる冷たい言葉にアメリアはさっと顔を強張らせた。 赤かった顔は一転して血の気の引いた青白いものに変わる。 泣きそうだ。 「は・・・ぁ、ぁの・・・。ホント・・・すっすみ、ま、せぇん・・・」 俯いてしまったアメリアの頬に再び手を添え、自分のほうを向かせるゼルガディス。 そこには眉間に皺を寄せてどこか困ったような表情の彼がいた。 怒っているようにはとりあえず見えない。 「・・・心配した。気づいてやれずにすまなかったな。」 「・・・・・・」 「だが、具合が悪いこと言えないほど俺はお前に信用されていないのか?」 「そっそんな!ゼルガディスさんのこと信用してないなんて・・・絶対無いです!!!」 「でも、俺はお前を置いていってしまうような薄情者なんだろ?」 「なっ・・・なんでっ!?ゼルガディスさんがそれを・・・」 言ってしまってからあわてて口を塞ぎ、あからさまに動揺して目を泳がせるアメリア。 「・・・ウワゴトで言ってたぞ。俺がとことん信用されてないのがよっく分かった。寝ている間も手を離してもらえなかったしな。」 苦笑しながらアメリアに抱えられていた手をひらひらさせる。 「・・・・・・すみません。ゼルガディスさんを信用してないわけじゃないんです。本当です。むしろすっごく信じてます。」 『信用できないのは自分なんです。ゼルガディスさんに迷惑ばかりかけている自分が信用できないんです。。。』 心の声が痛い。 心が痛い。 また泣きそうだ。 “はぁ”とため息が頭上から降りてきた。 アメリアの頬に掛かった手が僅かにずれて髪を軽く梳く。 「ならば次からは何かあったらすぐに言え。抱え込みすぎるな。黙っているほうが迷惑だ。」 「・・・・・・はい。」 「こんなに心配させられたんじゃ、な。心配かけるなら小まめに心配させろ。 心配かけまいとするから、大事になるまで気づけない。だからこんなにつらい思いをして心配しなくちゃならなくなるだろ。」 「迷惑かけても・・・いいんですか?心配させてもいいんですか?」 不思議そうなで問いかけるアメリア。 それに対し、手を自分の胸の前で組み窓の方を見ながらぶっきらぼうに答えるゼルガディス。 「ふっ、昨日今日の仲じゃあるまいし。“仲間”だろ。」 「はい。ありがとうございます。・・・“仲間”ですものね。」 窓を見ていたゼルガディスは気づかなかった。 “仲間”と言った時に、アメリアが一瞬寂しそうな顔をしたことに。 アメリアの答えに納得した様子でゼルガディスは一つ頷くと、宿の食堂へ行って食事を持ってきた。 大分回復してきたアメリアに昼食と薬を渡すと、今度は「寝てくる」といって彼は自分の部屋に行ってしまった。 食事を終え、薬を飲んでベッドに沈み込むアメリア。 『仲間・・・か。そうよね。ゼルガディスさんにとってはただの“仲間”。 “仲間”として認めてもらってるのに、こんなにモヤモヤするのはやっぱりアレよね。 私にとってゼルガディスさんはただの“仲間”じゃないって事よね。』 今までこんなにしっかりと自分の気持ちに向き合ったことが無かった。 今度のことで曖昧だったゼルガディスへの想いがハッキリした。 『私・・・ゼルガディスさんが・・・好き。』 今度のことで2人はお互いへの気持ちを改めてはっきり認識したのだった。 〜雨降って 地固まる〜 fin ___________________________________ 最後まで読んでいただきありがとうございました。 結局お互い“への”気持ちを認識しただけでお互い“の”気持ちは未だ知らないままという・・・。 はい、全然固まってません。 苦情は是非とも胸の内に仕舞うか、画面に向かって呟くにとどめてください。 おまけに「・・・・・・」が多い! ダメダメな初投稿でしたが、今後も精進していきますのでまた投稿の機会があったら宜しくお願いします。 | |||
18597 | 初恋・・・かもしれない(前編) | 希 悠 E-mail URL | 2012/5/3 21:34:10 |
記事番号18596へのコメント とっても久々に、ゼルアメな小説っぽいものを投稿してみます。 よろしくお願いします。 またしても、なんとなく二部構成。 ___________________________________ 初恋・・・かもしれない 聖王国第一王位継承者フィリオネル=エル=ディ=セイルーンの次女、アメリア王女には最近、悩み事が出来た。 一応、恋愛がらみの悩み事、と言えるだろう。 ただし、“好きな男性が出来た”というような艶っぽいものではない。 アメリアは手元に届いた書類を眺めながら「はふぅ」と気の抜けた息をついた。 「恋愛って、どうすれば出来るのかしら?」 その呟きは傍に控えていた女官にもばっちり聞こえるものだったが、既に何度も聞いた台詞に顔色も変えなかった。 アメリアは尚も真剣な眼差しで書類を眺める。 それは、お見合い写真&添え書きというものだった。 アメリアは数ヶ月前まで城を出て旅をしていた。それは父フィリオネルにも許可をもらったもので、期間も半年ほどとそう長いものではなかったのだが、旅に出たことで後継者問題を考える高官達に危機感を与えたらしい。 王宮に帰還したアメリアには次から次へとお見合い話が持ちかけられるようになった。 おかげで今までさっぱり考えてこなかった“結婚”について頭を悩ませる日々。アメリアとて、王族として育ち、いずれは聖王国を共に支えていく人と結婚するんだろうとは考えていたが、ここに来て怒涛の勢いで勧められるお見合い話に唖然としていた。 まあ、いずれはする事なのだ。時期が早まり、勢いが良いくらい大したことではない。 そう思って、お見合いに取り組むことを承諾したのだが、その時、父に言われた言葉が原因でアメリアは悩む事になるのだった。 「王族として、国の為を第一に考えるのは当然のこと。しかし、その為に自分を犠牲にしてはならない。国の為に自分を犠牲にしてやったのだ、と考える者は国を傾ける。責任を国、国民に押し付けていることになるのだ。国を治めるものが、その為に不幸になっては、国を不幸にする。逆もまた然り。国を治めるものが心穏やかに、幸せにあれば、国も安らかになるだろう。アメリアも見合いや結婚を国の為と考えず、自分が真に愛するものを伴侶としなさい。」 “真に愛する人”・・・。ってどんな人? 純粋培養の王族の教育の為か、周りに対象となる男性が殆ど居なかった為か、アメリアはこれまで恋愛と言うものをしたことが無かった。身近にいる同じ年頃の男性といえば、従兄弟のアルフレッドだけだったし、アメリアの周りに居るような高官や上級近衛兵はそれなりに経験を重ねたツワモノばかりで年齢的にはずっと上だ。はっきり言って、そういう対象ではないし、恋愛感情を持ったことも無い。 というか、恋愛感情ってどんなものか分からないというのが正しい。 そんなときに、“真に愛するものと〜”なんて言われたものだから一体どんな人が良いのか分からなくなってしまった。 それから何度かお見合いをし、相手にあってきたのだがやっぱり分からない。 アメリアだって1人の女の子。時々侍女や女官たちから聞くようなドキドキする恋をしてみたいと思わなくも無い。物語で語られるようなそんな恋愛にあこがれてもいる。 お見合いを始めるまでは、ここで噂に聞く運命の出会いがあるかもとか乙女チックなことも考えたりした。一目会った瞬間に恋に落ちる、そんな相手がいるかも。 とりあえず、これまであった人の中にはいない。・・・・・・たぶん。 「恋ってどんなもの?」 深いため息と共に、そんな言葉がアメリアの口から零れ落ちる。 さすがにいつもの元気の無いアメリアが気になったのか、気の毒になったのか、休憩時間にお茶を運んできた年嵩の侍女と女官がアメリアの相談相手をはじめた。 「どんなもの?と言われましても・・・。」 女官は困ったように笑い、後ろでお茶の用意をしている侍女に視線を投げる。 侍女もその視線に気付き、苦笑していた。 「こう、となかなか口で言えるものではありませんわ。」 「姫様が好きと思える殿方って、どんな方がいらっしゃいますの?」 女官がどこか期待するような表情で興味深げにそう尋ねた。 「好きな男の人?まずは父さんね!後は、じい(クロフェル侯)でしょ、武術師範、あ、警備隊長のラゼスも結構好きね。融通が利かないこともあるけど仕事に真面目だし、なにより正義と国を愛する心を持ってるわ。他には神官長に、料理長に・・・」 指折り数えながら“好き”な男性を上げていくアメリアだったが、つらつら両手の拳が何回か開閉され、相手が門番に至ると「もー結構です・・・。」と止められた。 「じゃあ、その中に顔を見るだけでうれしくなったり、ドキドキしたり、ぼぅっと見つめてしてしまったりする方はいらっしゃいますか?」 「みんな元気に会えればうれしいわよ?ドキドキ・・・は父さんとかじいとか高官たちに出来た書類を見せて評価を待っている時とか、武術稽古で意気込んだ時はするわ。ぼぅっとは・・・あんまりしないわね。」 「・・・っ、そうですか。」 あんまりな答えに侍女たちは顔を見合わせ、こっそりとため息をついた。 「旅をしている間に出会った男性方にも、いませんか?」 言われて、懐かしい旅の仲間を思い浮かべる。 「旅をしている間?うぅ〜ん。ガウリイさんもゼルガディスさんも好きだけど、そんなことあったかしら?」 あの旅の道中は始めての経験ばかりで、常にドキドキしていたような気がするが、果たして侍女たちが期待するようなドキドキだろうか?と考えをめぐらす。 結局、アメリアは侍女たちに深い深ーいため息をつかせただけで、悩みはますます深くなるのだった。 そんな時だった。彼が聖王国にやって来たのは。 お悩み相談をしながら侍女たちが用意したお茶で一息ついているとなにやら外が騒がしい。 コンコン。と扉が叩かれ、近衛兵の1人が入ってきた。 「どうしたのですか?」 「は、城門にアメリア様に取り次いで欲しいという怪しい旅の男が来ておりまして・・・。」 近衛兵はなにやら歯切れ悪く言いにくそうだ。 「怪しい?・・・誰ですか?」 「えーっと、ゼ・・ゼガル、ディス?とか名乗っておりました。」 「!!ゼルガディスさん!?」 「あ、そんな名前だったかも。」 アメリアの勢いにびっくりした近衛兵は、思わず間抜けな返答をした。アメリアは勢いよく扉の前まで走りより、近衛兵に掴みかからんばかりに詰め寄った。 「どんな、どんな風体でしたか!岩肌でした!?」 「は、全身白尽くめで、フードとマスクで顔を隠している怪しい男で、僅かに除く皮膚は確かに岩っぽかったかも・・・。姫様!?」 近衛兵の「かも・・・」はたぶんアメリアには聞こえていなかっただろう。その前にアメリアは城門に向かって走り始めていた。 侍女たちと旅の頃の話をして、懐かしい思いが湧き出してきたところにちょうどよく現れた彼に、アメリアは走りながら一気に旅の頃の記憶が甦ってきた。 最後に分かれるとき、「聖王国王宮の一般には公開していない図書室や王族所有の書物が見れるように取り計らいましょうか」と聞いたら「その内、聖王国の近くによることがあったら頼む。」とだけ言ってアメリアとは反対の道へ行ったゼルガディス。 アメリアが城門に到着すると、そこには背の高い白尽くめを囲むように近衛兵たちが集まっていた。普通なら怯んでもおかしくないような兵たちの警戒心も露な対応に対して、何事も無いようにたたずむ男。その男はアメリアの姿を見つけると軽く片手を上げた。 「よお。久しぶりだな。」 その軽い反応に姫を敬愛する近衛兵たちは軽く殺気立つ。 「な、姫様に対してぶ・・・」 無礼であろう。と言いたかった様だが、その前にアメリアが兵たちを押しのけて男の前に立った。別れた時と変わらぬ姿、態度、その様子に旅をしていた頃の感覚が一気に甦る。 「姫様。そのような怪しい者に妄りに近づいてはなりません。危険です!」 隊長格と思しき近衛兵が男に近づこうとするアメリアを制止しようと近づく。 その近衛兵にニッコリと笑みを返すと、アメリアは断言したのだった。 「心配ありません!彼は怪しい・・・かも知れませんが、危険人物ではありません。共に正義を行った私の仲間、ゼルガディスさんです!!!」 「俺は正義を行った覚えはない。」 素気無いゼルガディスの言葉に、ガクリッとアメリアがこける。 「えぇー。そこは合わせてくださいよー!それに一緒に魔族を倒したじゃないですか。それすなわち正義!」 ぐっと握り締め、胸の前に力強く添えられる拳。 「俺は単に俺の目的を果たすのに、邪魔をする奴を倒しただけだ。正義なんて思っちゃいないし。」 「結果、正義を行っていれば問題なし!です。」 「そういうもんなのか?まぁ、別に俺には関係ないが。」 「もー。そういうところ、全然変わってないですね。とりあえず、こんなところで立ち話もなんなんで、応接室にどうぞ。」 アメリアはゼルガディスを先導し、城の奥へ進んで行った。 後に残された兵士たちはボーゼンとそれを見送ったのだった。 「俺は、すぐにでも書物を調べたいんだが。」 「分かってますって。でも、ゼルガディスさんイキナリ来るんですもの。父さんとか、図書室の管理者に話を通してくるので、その間、応接室で待っててください。」 しばらくして、アメリアが滞りなく手続きを終えて戻って来た。再びゼルガディスを先導して歩く。 図書室までの道すがら、アメリアは色々話した。戻ってからの聖王都での事、リナとガウリイは今頃どうしているのだろうか、そして、お見合いのこと。 その間ゼルガディスは殆ど口を挟まず、相槌のみで済ませていた。お見合いの話になって、彼の顔が僅かにしかめられた。それは本当に僅かな変化で、前を見ながら話し続けるアメリアには気付かれなかったが、さらに彼の口数が減ったのは明らかだ。 その反応を、自分のことばかり話しているために彼が不機嫌になったと思ったアメリアはあわててゼルガディスのほうに向き直る。 「すみません、なんか、愚痴っぽくなっちゃって。ゼルガディスさんにはつまらないことばかり私が勝手にしゃべってしまいましたね。」 些かしょんぼりしたアメリアに、ゼルガディスの顔は苦笑に変わる。 「別にかまわんさ。これから色々世話になるんだ。愚痴ぐらい付き合ってやるよ。」 肩を竦めながらそう言う彼に、アメリアの顔はすぐに笑顔に戻る。 そうこうしている内に2人の前に大きな扉が現れた。 「さ、着きましたよ。後のことは、管理者に任せてください。」 扉を開け、ゼルガディスを促す。 「ああ。分かった。すまないな、忙しいところ。」 それは、何気ない一言だったのだが、アメリアは一瞬ぽかんとした表情になった。次いで不思議そうに尋ねる。 「へ?忙しくなんか、無いですよ。」 「そうか?疲れているようだったから、忙しいのかと。愚痴りたいことも随分あるみたいだしな。」 「心配してくれたんですか?ゼルガディスさん。」 「別に、心配なんて。」 「ありがとうございます。ゼルガディスさんも資料調べるのに、無理しちゃだめですよ。」 楽しそうにニッコリと微笑み、無理をしがちなゼルガディスに釘を刺すのを忘れない。 ゼルガディスが尋ねてきたと知るまでは、お見合いやら悩み事やらでぐったりしていたのは事実だ。でもそれを表に出すようなアメリアではない。愚痴は多少もらしたが。それで、疲れていると心配するのはゼルガディスが彼女を気にかけているということだろう。 ゼルガディスが自分を気にかけていてくれたことに、アメリアはうれしくなった。 『何で、こんなにうれしいんだろう。』 それは、アメリアの胸の奥に小さな光りが灯った瞬間だったのかもしれない。 或いは、火種はあったのだ。そこに一陣の風が吹き込み光を発し出した瞬間だったとも言える。 アメリアは自分の鼓動がドキドキと早打っていることに、まだ気付いていない。 | |||
18598 | 初恋・・・かもしれない(後編) | 希 悠 E-mail URL | 2012/5/3 21:51:55 |
記事番号18597へのコメント 続きです。 ___________________________________ 初恋・・・かもしれない ゼルガディスが聖王国王宮を訪ねてきてから既に一週間が過ぎていた。 図書室に近い客間が彼の為に用意され、食事もそこで取るため、ゼルガディスは殆ど客間と図書室を往復するだけの日々を過ごしていた。 初めて王宮を訪ねた日、突然の訪問だったにも関わらずすぐに手続きを済ませ、図書室に案内された手際にゼルガディスも内心驚いていた。いくら第二王女の知り合いだからといっても、こんな身元不明の怪しい男をあっさりと王宮深くまで案内するとは。ありがたいというよりも、呆れてしまった。 図書室の管理人は気のいい老人で、豊富な人生経験のなせる業か、はたまたもともとそんなことに頓着しない性格なのか知らないが、ゼルガディスが素顔をさらしても特に警戒するわけでも、恐れるわけでもなく接してくる。 聖王国王宮の図書室はさすがと言うほど広く、蔵書の数も半端ではなかったが、管理人のおかげで気になる書物を探す苦労が大分省けた。図書室の奥にある読書室に数十冊の分厚い書物を運び込み、一心不乱に読み漁る。気になった部分は書付に起こし、その記述について関わる書物をさらに読み漁る。“読書室”はその名の通り読書をするための部屋で、特殊な魔術によって常に本を読むのにちょうどいい明るさの光りがともされ、完璧な防音効果で外の音も一切入ってこない。おかげで時間感覚が狂うと評判の部屋だ。 ゼルガディスも最初の頃は管理人が閉室を伝えに来るまで時間を忘れて書物に没頭してしまっていた。だだ広い図書室の入り口にある管理人室から最奥の読書室まで老人を歩かせるもの悪いので最近では決まった時間に鐘のなる時計を持ち込み、閉室前には出て行くようにしている。 ゼルガディスは当初、城下街の裏宿に部屋を取るつもりでいたのだが、閉室で図書室を出た彼を管理人が引きとめ、客間に案内された。図書室を出てから急激に疲れを感じていた彼は、その客間で眠り込んでしまい、結局現在までその部屋で寝泊りしている。 朝夕に食事を運んでくる給仕は最初こそゼルガディスにビクビクしていたが、3日もするとなれた様子で、ゼルガディスに話しかけるまでになっていた。何でも、リナ達が王宮に滞在した時にも彼女たちの給仕をしたという話だ。懐かしくもはた迷惑な食事風景を思い出し、ゼルガディスは彼女たちに給仕したなら度胸が着いてもおかしくないと変に納得してしまった。確か、王宮で食事中に魔族に襲われたこともあったと聞いたから、その時に給仕していたのも彼だろう。・・・・・・可愛そうに。 そうこうして過ごす王宮での生活はゼルガディスにとってそう悪いものではなかった。むしろ、至れり尽くせり? 昼間にこそこそ読書室を訪ねてくる第二王女様の存在も含めて。 初日こそ図書室へゼルガディスを案内するだけにとどまったアメリアだったが、次の日から自由時間だという昼間〜夕方の時間帯にチョコチョコと訪ねるようになっていた。自由時間だと言う割には部屋に入る様子や部屋の外をうかがう様子が怪しかった。 「おまえ、サボりか・・・。」 「むぅ、サボりじゃない・・・ですよ。既定の公務は午前中だけですもの。」 ゼルガディスが目を眇めてアメリアに問うと、アメリアは目を逸らしながら否定して頬を膨らませた。 「つまり、既定外の仕事は午後のこの時間帯にあるんだな。」 さらに畳み掛けるとアメリアはさらに目を逸らし視線を泳がせた。明瞭に答えを示している行為だ。視線を泳がせ続けるアメリアをじーっと見ていたゼルガディスだったが、やがて軽いため息を吐いて手元の魔導書に視線を戻した。 「まぁ、俺には関係ないが。」 その様子にアメリアは視線をゼルガディスに移す。 てっきり、「邪魔だ」とか「サボるな」とか言われて追い出されるかと思っていたのだが、どうやら部屋にいることを許されたようだ。 アメリアはそのことに驚くと共に、なにやら胸の奥がホッと暖かく、うれしくなるのを感じた。そして、ちょっと甘えてみたくなったのだ。 「ゼルガディスさん、愚痴に付き合ってくれるって言ったじゃないですか。」 「あぁ、言ったか?適当に聞いてやるから存分に吐き出していいぞ。」 既に意識は魔導書に向き、ぞんざいに聞こえる言葉が返された。 アメリアはその中に、彼の不器用な優しさを感じる。 旅の途中、最初はその優しさに気付かずに「なんて素っ気無い人なんだ」と密かに憤慨したこともあったが、何度も死線を潜り抜け彼を知るにつれてその優しさを知った。 彼は資料を探す大事なときに、部屋にいるだけでなく愚痴にも付き合ってくれると、好きなだけ居て良いと許してくれたのだ。 それ以来、アメリアは時間を見つけてはゼルガディスの居座る読書室にやってくるようになった。愚痴やセイルーンでの出来事など取り留めなく話すアメリアと、本を読みながら聞き流すゼルガディス。それは、旅の道中を思い出させる光景だった。 しかし、それも一週間続くとなると・・・。 「アメリア、おまえそんなにここに居て良いのか?」 ここは旅の空ではなく、セイルーン王宮内なのだ。書物を漁りにきている客のゼルガディスは旅をしている時とほぼ変わらない生活サイクルで居られるが、アメリアには山と仕事が生じる場所なのだ。ゼルガディス自身は読書室と客間の間の行き来しかないので城の情勢は分からないが、それにしたってアメリアが読書室で過ごす時間が少なくないことは分かる。 それに、昨日の夕食時に給仕が気になることを言っていた。曰く、 「最近、ちょくちょくアメリア様が行方不明になって、補佐官たちが城中を駆け回っているのを見るんですよ。補佐官たちはもう長くアメリア様についているので、今までは居なくなってもすぐに見つけては執務室にお帰り願うらしいんですが、どこか良い隠れ場所を見つけたんですかね。」 どう考えても、“いい隠れ場所”はゼルガディスの読書室に違いない。 政務に忠実な補佐官たちも王族の客として読書室にこもっているゼルガディスのところまでは踏み込んでくるわけには行かないのだろう。 アメリアにしてみればいい隠れ場所と言うわけだ。 給仕の口調は軽いものだったが、王族が政務を放って雲隠れとは良い訳があるまい。 ゼルガディスとしては、アメリアの立場諸々を心配した結果の言葉だったのだが、彼女は別の意味にとった。 「・・・すみません。私、お邪魔でしたね。」 直前までのキラキラと輝く笑顔が、ゼルガディスの言葉を聞いてさっと陰る。 「別に、邪魔だとは言ってない。」 「でも、邪魔な時はスパッと言ってくれたほうが私としてはありがたいのですが。」 「だから、邪魔だとは言っていないと・・・」 「本当にすみませんでした。ゼルガディスさんのご迷惑を顧みれないなんてダメですね。・・・政務に戻ります。」 かみ合わない会話にゼルガディスがため息と共に書物から視線を上げてアメリアを見る。 そして、息を詰まらせた。 それまで、見たことの無いような沈んだ表情のアメリアが居た。 そのまま部屋を出ようとするアメリア。 ゼルガディスは思わずその腕を掴んだ。 「・・・あの?」 再びゼルガディスと視線を合わせたアメリアの表情はいぶかしげだが、先ほど一瞬見せた表情は消えていた。いつも通りのアメリアに、ゼルガディスは今見た表情は気のせいだったのかと詰まらせた息を吐き出した。思わず掴んでしまった腕が恥ずかしく、あわててその手を離す。 コホンと一息ついて、アメリアに座るように促した。 「人の話は、ちゃんと聞けよ。邪魔だとは言っていないと言ってるだろうが。」 「でも、私がここに居るのは良くないんでしょう?」 座り直したアメリアは、ムスゥとすねた子供のように口を尖らせる。 ゼルガディスはそれを呆れ顔で見やる。 「仕事はいいのか、といっているだけだ。俺はお前がここに居ようが居まいが気にはしないが、お前を探して補佐官どもが城を走り回っているそうじゃないか。」 「・・・・・・ぇへ。」 「ぇへ、じゃ無いだろう。」 ゼルガディスはなんだか、いたずらを見つかった子供とそれを諭す大人のような気分になってきた。 「どこからそんな話聞いたんですか?ゼルガディスさん、この読書室から一歩も外に出ないって聞いていたのに〜。」 「ふん。何気ない情報でも逃さないのがプロってもんだ。」 いったい何のプロなんだか。 「大体、見つかってないからいいようなものの、こんな狭い密室に男と2人でいるなんて知れたら困るのはお前だろうが。」 「?何でですか?」 本当に分からないという表情のアメリアを見て、ゼルガディスは片手で目元を覆い、嘆息する。 このお姫様は、自分のこの状況に本当に気付いていないのだろうか。 変なところで、王族らしいシビアで乾いた考え方をするくせに、この状況には危機感を感じないのか? 「見合い話もいくつも用意されている、年頃の、大国の姫が、音の出入りすらない密室に、人目を忍んで、若い男と、2人きりで・・・・・・」 ゼルガディスはことさらゆっくりと、言葉を区切って、今の状況を目の前の少女に教えてやる。 「私の評判を気にしてくれてるんですか?」 ゼルガディスの言葉を聞きながら目を丸くした後、アメリアは笑った。 花が、ほころぶように。 ゼルガディスがそんなところを気にしてくれていることが、くすぐったいようにうれしかった。 「お前は、評判云々は勿論、男と2人で居ることにもっと危機感とか、警戒心を持てよ。」 「ゼルガディスさんを警戒する必要なんて、無いでしょう。」 ニコニコと、警戒心無く手の届く距離に居る少女に、ゼルガディスはなんとも言えない気持ちになる。 胸の奥が、締め付けられるようだ・・・。 「本当に、そう、思うか?」 その声は、アメリアのすぐ耳元で聞こえた。 「・・・・・っ!」 反射的に声のした方を見るアメリア。 急に近づいたゼルガディスの瞳に、自分の顔が映っているのが見えた。 顔の横には岩粒の付いた青い大きな男の手。 吐息を感じるほどに近い顔が、さらに距離を縮めてくる。 アメリアはその距離の近さに驚き、目を丸くしたまま、動けずにいた。 ゼルガディスの氷色の目が細められる。 鼻が触れ、唇に相手の熱を感じるほどに近づく。 フッとゼルガディスの口から息が漏れた。 アメリアはその息を感じて、ビクッと身を僅かに震わせた。 そして・・・・・・。 ゴンッ 「あ痛っ・・・」 アメリアはその鈍い音と、額の痛みに我に返る。 痛みに額に手をやると、椅子の背に身を寄せてクククッと耐え切れないようにゼルガディスが笑っている。 互いの唇が触れるかというその瞬間、ゼルガディスがアメリアに頭突きを食らわせたのだ。 頭突きといっても軽く当てるだけのものだったが、何せゼルガディスの頭は岩頭なので結構痛い。 「なっ、何するんですかーー!!」 「いや、すまん。あんまりにも警戒心が無いもんだから、からかいたくなった。」 「からかわないでくださいーー!」 顔を赤らめ、ふくれっつらで怒るアメリア。 依然笑いが収まりきらないゼルガディス。 音の無い読書室に流れた一瞬の緊張感はあっという間に晴れて行った。 「しかし、お前、あの状況で目を見開いて固まるとは・・・。」 「・・・・・・。なんですか。」 収まりきらない笑いをようやく収めたかと思うと、ゼルガディスは急に真剣な顔になってアメリアに向き直る。 その表情にアメリアも表情を引き締めて向き直った。 「今は冗談だから良かったが、もし、同じような状況だったら相手をぶち飛ばすくらいしろよ。」 「いっ、言われるまでもありません。さっきはちょっと意表をつかれて驚いていただけで、乙女の唇を許可無く奪うような悪は再起不能です!!!」 アメリアは、むしろゼルガディスを再起不能にするんじゃないかという勢いで拳を突き出し、再び顔を真っ赤に染めた。 「そうか、とりあえず拳を収めろ。俺を殴るな。」 「あんな乙女の純情を脅かすような冗談をするのも悪ですよ。ゼルガディスさん!」 「俺としては、必要な警戒心が薄いお姫様に教えてやっただけなんだが。これでお前も警戒心を思い出したろう。」 「・・・・・・それにしたってやりすぎです!」 「あー、もぅ。悪かった、悪かった。」 興奮冷めやらぬアメリアに対して、ゼルガディスはもうこの話題は切り上げとばかりに適当な謝罪を言い放ち、再び本に視線を落としたのだった。 しばらく1人でその横顔を睨みながらうなっていたアメリアだったが、ゼルガディスが本に意識を集中させていると分かると、ため息を1つ吐いた。 「私、恋って良く分からないんです。」 うつむき加減で独り言のように呟かれた一言に、ゼルガディスの耳だけがピクッと反応する。 「恋ってどんなもの?ってお見合いするようになって色々聞いたんですけど、どれもピンと来なくって。ゼルガディスさんは恋ってどんなものか知ってます?」 上目がちに何気失礼な質問をしたお姫様に、ゼルガディスは本から顔を上げて視線を移す。細められたその氷色の瞳にアメリアは姿勢を正す。 「お前、俺をなんだと思ってるんだ・・・。俺だって恋ぐらいしたことあるさ。」 「・・・すみません。で、恋ってどんなものなんですか???」 「言葉でそうそう説明できるもんじゃない。」 「もぅー。みんなそう言うんですよ。それじゃ分からないですよ。」 正した姿勢を崩してまた机に沈み込み、頬を膨らませるアメリアを見て、ゼルガディスは苦笑をもらす。 「お子様が。」 「どーせ。」 その苦笑を眺めながらアメリアは胸の奥が締め付けられるような気がした。 ゼルガディスが恋をしたことがあると聞いて、キュゥと引き攣れる感覚。 その感覚が何に由来するのかが分からず、アメリアただ、この感覚を紛らわしたくて、口からは質問がこぼれた。 「今は、恋、してるんですか?」 その質問に一瞬、ゼルガディスの表情が消える。 次いでアメリアが見たこと無いような、優しげな悲しげな微笑を浮かべて言った。 「・・・・・・さぁな。どうだろうな。」 その表情と言葉から、アメリアは判った気がした。 『ゼルガディスさんは恋している人がいるんだ。』 胸の奥の引き攣れがギュゥウと強くなる。 その感覚に耐え切れずに、アメリアは部屋を出ることにした。 「もー戻ります。お邪魔しました。」 「ん。適当にやって来い。」 「・・・・・・。」 本から意識を話さず返事をするゼルガディスに無言で最後の一睨みを投げると、扉を開く。 その時、ゼルガディスから声が掛かった。 「あぁ、アメリア。1つだけ、言い忘れた。」 「なんですか?」 「キスをする気になった時は、目はつぶれよ。」 「〜〜〜〜〜〜!!余計なお世話です!!」 扉は、蝶番が壊れるんじゃないかという勢いで閉じられたのは言うまでも無い。 しばらくして、アメリアは執務室に戻っていた。 「ただいま・・・・。」 フゥと息をついて執務机に沈むアメリア。 それを見て、補佐官達は顔を見合わせた。 大体において、脱走から帰ったアメリアはいつでも非常に楽しそうにしていて、その後の仕事はさくさくと進む。よって、補佐官達は一応立場上アメリアを探して走り回るが、脱走自体はそんなに問題視していない。 何事にも息抜きは必要で、それを取ることによってその後の仕事が効率よく回るならば、その価値はあるというものだ。 「あの・・・、アメリア様?」 口元を押えて、なにやら考え込んでいる様子のアメリアを伺うように話しかける。 「アメリア様〜。」 補佐官たちの呼びかけにも反応が無い。 「アメリア様!」 「っ、はい?」 強めに呼びかけてようやく顔を上げた。 「あの、どこか調子がお悪いのですか?今日はそんなに急ぎの案件もありませんし、お休みになられますか。」 「い、いえいえ!全然、ばっちり!さあ、お仕事しましょう!!」 あわてて姿勢を正すと、アメリアはペンを手に取った。 その様子をみて、補佐官たちも書類をアメリアに渡す。 だが、しばらく書類を見てペンを走らせたかと思うとすぐにペンが止まる。 補佐官が呼びかけてまたペンを動かすがやっぱりすぐに止まる。 補佐官達はその様子をみてさっさと手元の書類をしまい始めるのだった。 「アメリア様。」 「・・・ぁ、はい!次の書類ですね。ちょっと待ってくださいねこの書類はすぐに終わりますから。」 「今日の書類はそれで最後です。」 「え、でも、さっき山盛りに・・・。」 「この調子では山を切り崩すのに夜中まで掛かります。我々は定時に帰らせていただきたいので、ここで切り上げることにしました。アメリア様もお休みください。」 補佐官はそういって仕上がった書類を受け取った。 気がつけば、窓の外は茜色に染まり始めている。 補佐官たちに追い立てられるように執務室を退出させられたアメリアは自室に戻った。 ベッドに腰掛け、窓に映る自分の姿を見つめる。 昼間間近にみたゼルガディスの目に映った自分の姿を思い出す。 氷色の瞳に映る、目をまん丸に見開いた間抜けな自分の顔。 そしてその距離の近さを思い出していまさらながら顔を真っ赤に染める。 両手で顔を覆い、ベッドに突っ伏す。 『イキナリあんなことするなんて、悪です。悪。 おまけに私はこんなに、恥ずかしい・・・のに。寸止めだったけど、凄くドキドキしたのに。 ゼルガディスさんにとっては寸止めじゃなくて、実際キスしちゃったってどうって事無いことなのかも知れないけど・・・!あんなに何でもないことみたいに・・・。 そりゃぁ、ゼルガディスさんは大人の男の人だし。結構かっこいいし。意外と優しいし。そんな経験なんていくらでもあるだろうけど・・・。』 頭突きをした後、声を抑えきれずに笑っていたゼルガディスを思い出すと胸の奥がズキンと痛む気がした。そして、彼の恋を思うと胸の奥が苦しい。 ゼルガディスの行為に対して、怒ってはいたが、不思議と嫌な気分ではなかった。 大体、寸止めだったし。 ただ、ゼルガディスが他の女性とキスとか、そんなことをしていることを考えるとなんだか嫌な気分になるのだ。 『何で、こんなに嫌な気分になるんだろう。』 半身をベッドに沈めたまま、物思いにふけるアメリアの耳にコンコンとノックの音が聞こえた。そのままの姿勢で答える。 「どーぞー。」 「失礼します。アメリア様。ご気分が優れないとお聞きしましたが、ご夕食はいかがいたしますか?」 「んー。もうそんな時間?すぐ支度するわ。」 ガハッと勢いよく起き上がるアメリア。 呼びにきた侍女はそのままアメリアの身支度を手伝う。 「アメリア様。今日はどうなさったんですか?」 「うん。ちょっとね。」 いつもの元気を潜め、ため息混じりのアメリアに年嵩の侍女は心配そうに訪ねる。 寝転がった拍子に崩れたドレスを直し、髪を梳き直す。 「・・・なんだか、胸の奥が痛む気がして、苦しいの。別に体調は悪くないんだけど。」 胸の辺りに手をやり、また、ため息。 侍女はその様子を見て、ピンと来た。 「あら、恋わずらいですか?」 「恋わずらいって、別に。恋してるわけじゃ・・・ない・・・。」 どこか楽しげに尋ねる侍女に、否定の言葉を発して、語尾がすぼまる。 この気持ちは、恋じゃないのだろうか。 黙り込んでしまったアメリアを伺う侍女の視線を通り越してアメリアは鏡を見つめる。 鏡に映る自分を通して、再びゼルガディスの瞳を思い出す。 知らず知らずに頬に朱が差し、胸がドキドキと早打つ。 『この、気持ちは、初恋、かもしれない・・・。』 ___________________________________ 結構前に書いたやつで、寸止めが書きたかっただけという・・・。 アメリアだって、恋の一つや二つやもっとたくさん恋したことあるとは思いますが、ここは純粋培養な鈍いお姫様にしてしまいました。 結構、特殊な家庭環境?だし、こんなこともあるかもと。 | |||
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