◆-お久しぶりです(ハート)-猫斗犬(11/2-22:36)No.346
 ┣サーガを作ろう-猫斗犬(11/2-22:38)No.347
 ┣祝い!!復活-たんか(11/3-09:16)No.359
 ┣スレイヤーズSTS2−1-猫斗犬(11/7-19:53)No.399
 ┣2−2-猫斗犬(11/7-19:57)No.400
 ┣2−3-猫斗犬(11/7-20:03)No.401
 ┗2−4-猫斗犬(11/7-20:07)No.402


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346お久しぶりです(ハート)猫斗犬 E-mail 11/2-22:36

 猫斗犬、ふっかーつ!!!!
 どうもお久しぶりです。一ヶ月以上は来てなかったんじゃないだろうか…

 …実は…事故にあいまして…病院に入院していました…しくしく…畜生、
あいつううう〜よそ見運転なんぞしおってー(努)

 あっしは、悪くないんですよ。ただ、歩道を歩いていたらいきなり襲わ
れたんですから。

 てな、訳で、怪我をして入院。骨は折らなかったんだけどお腹んところ
と右股を縫ったかな…後はあっちこっちに擦り傷。
 あんな、派手は事故で…こんだけとは…いやはや…

 とりあえずは、おとなしく静養していたのだがこの度やっとこさ、復活
することに相成りました。


 …で……久しぶりに『書き殴り』に入ったら……

 ホームアドレスは変わっとるし…
 『投稿小説2』なんぞがいつの間にかはえ生まれとるし…
 初投稿の人がたくさんいるひ…あっしもそれ程古いメンバーじゃないけど…

 なんか遠い人間になってしまったようですなあ…しみじみ…


 それでは投稿しようかな…なんぞ考えとったら…しもうた…今まで書いて
いた小説のバックアップファイル(フロッピー)事故でボロボロ…鞄に入れ
てた…
 おまけに、入院していた時、データの入っていたハードディスクをどこぞ
のバカが消してしもうて…しくしく…これをどないせいっちゅうんじゃい!!

 一様、掲示していた分だけは何とか『過去の記事』から取り返してきたが
…『スレ〜STS』はあっちこっちの回で部分的に作ってたのにい…全部書
き直しやあ(泣)
 各話各回で使用するネタとか全部ひかえてたのにい〜


 つー訳で『スレイヤーズSTS』の復活は当分先になりそうです…
 くそお…めちゃくちゃ長い作品だから時間がかかると思ってたら…こんな
ことで更にかかってしまうなんて…運がないとしか言いようがないですう〜

 こんなあっしに感想を下さった

     秋永太志」  さん
     たんか    さん
     MONAKA さん

 とくに…
>   毎日毎日、続きがでないかなぁってここに通っております。
 …などとコメントを下さっていた
     たんか    さん
 ほんともう少し待ってちょうだいね(はーと)


 とりあえず、『スレイヤーズSTS』の続きをえっちらおっちらと書き始
めています。
 あっそうそう、『スレイヤーズSTS』を読んでくださったお方にお願い
です。
 今まで掲示した第一話から第2話の5回までで、とにかく気に入ったネタ
とかのコメントをくださいませんか?
 最近、ネタに困ってまして…どんなネタがみんな気に入ってるのか、それ
を集計し、そういう笑いネタを新たに考えようと目論んでいるのです。

 「まだ読んだことない」とか「過去の記事を読むのがめんどくさい」と言
う方はコメントに「再掲示してくれー」と連絡ください。
 あっしが「過去の記事」から持ってきた作品を、なるべく早めに再掲示さ
せてもらいやす。ちょいと改良なんぞも加えて…


 それではとりあえず…データを失ったことを全然知らない入院中の時に…
手持ちぶさたでノートに書き込んでいたネタです。
 めちゃくちゃつまんないです。短いです。完成していないです。
 …いいんだろうか…こんなんで…

 題名は『サーガを作ろう』…ではでは…

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347サーガを作ろう猫斗犬 E-mail 11/2-22:38
記事番号346へのコメント
「きゃあー!」
 …ふみいぃ…
 突然、絹を切り裂くような悲鳴によって、あたしの閉じかかった瞼に急ブ
レーキがかかった。
 がっちゃ、がっちゃ、がっちゃ、がっちゃ…
「ひ、姫ぇー!」
 と叫び、鎧の音をたたせ、4、50のおっさんが今でも悲鳴を上げる娘に
駆ける。
 その彼が向かう方向へ、あたしは指をビッとさししめし、
「目指せ青春!!」
 叫ぶ…
 …………………………………………………………………………
 …………………………ごめん………寝ぼけてた…………………
 …………………………………………………………………………
「きゃー!スライムよ!すらいむ!いやー!きゃー!」
「………………」
 …おい…スライムって…ちょっと待ていぃ、そこのねえちゃん!
 おまいさんは、そんなことでこんな夜更けに騒いどんのかい!!
「ご無事ですか姫!」
「セイバス、早くやっつけて」
「は、はい!」
 カーラ姫の命令を受けたセイバスさんはスライムを見ると顔を青ざめ額に
冷や汗を流し…おひこら…スラっと剣を鞘から抜くと、
「ええぇーい!姫を襲うとはなんて悪逆非道なスライムだ!このセイバスが
天に変わっておしよきよ…じゃなくて…成敗せす」
 そして、切り倒すのではなく、何故か…ぺしぺひと叩き始める…おいおい
…そこのおっちゃん…
「おりゃ、おりゃ、おりゃ、おりゃ…おおぉーりぃやゃああぁぁー…」
 しばらくは彼の声だけが、満天の星空に響き渡る。
 ところが…彼の『大声でわめきながら、ぺしぺひ叩いじゃうぞー、こうぐ
えき』は努力もむなしくスライムがボールみたいに、ただただ、ぴみょんこ
ぴみょんこと弾んでいるだけ…どことなくスライムが喜んでるように見える
のは、あたしの気のせいなのだろうか…
「…はあ…はあ…はあ…はあ…はあ…」
 彼の呼吸が正常になると、周りの静寂が甦る。
「姫、悪は滅びました」
「見事です、セイバス」
「…あのー…そこでまだ、ぴみょんこぴみょんこと弾んでるのが見えるんで
すけど…」
「手ごわい相手でした…」
 セイバスの目にうっすらと涙が現れる。
「…いや…だからね…」
「だが、このセイバスも騎士のはしくれ…」
「…あの…もしもーし…」
「正義のため姫のため…」
「…聞いてますかあ…」
「負ける訳にはいきません!!」
 どっぱああぁーんっ!!
 バックに津波を携えて、涙を流しまくるセイバスさん。
 …聞いてねぇしよ………まったく…いくらなんでもこれでは寝不足にな…
あたしは相棒を見て…
「ぐぅがぁ〜、ぐひゅう〜、ぐぅがぁ〜、ぐひゅう〜」
「………………」
 …クラゲはしっかり寝てた…
 あたし、リナ=インバース。
 赤茶のシャツに同色のミニスカート、真っ赤な鎧に、白きマント。
 腰には1本のご立派な魔法剣を携えている。
 ちなみに断って置くが…こんな女剣士の格好をしていたりするのだが、一
様、読者が知っているように、あたしは世紀の天才美少女魔道士であるので
勘違いしないように…
 え?何故こんな格好をしているのかって…それはもう少ししたら話すわ。
 ほんで、さっきのお騒がせコンビだけど…
「本当にセイバスは頼りになりますわ」
「もったいなきお言葉」
 …まだやってるよこの二人…ま、この二人はほっとこう…
 えーと、他に話すことは…
「ぐぅがぁ〜、ぐひゅう〜、ぐぅがぁ〜、ぐひゅう〜…」
「………………」
 あの騒ぎも者ともせず爆睡して、その辺におっこちているこの男、自称あ
たしの保護者ガウリィ=ガブリエフ。
 金色の長髪に整った顔立ち。剣士としては超がもう1、2個付くぐらいの
超一流。一見、気の良さそうな兄ちゃんだが、脳味噌をどっかに落としてき
かたか?つーぐらい疑問を持たせてくれるおおぼけクラゲ。
「ぐぅがぁ〜、ぐひゅう〜、ぐぅがぁ〜、ぐひゅう〜」
「………………」
 …それにしても…いつもだったら、獣並の感知能力で一番に起きるのに…
何で今回は起きないのだ…危険が無かったからか?
 くそお…あたしは今の騒ぎのせいで目がさえちまったってーのに…気持ち
よさそうに寝やがって…気晴らしにガウリィの顔に落書きして遊んでやろう
か…
「ところで姫。この真夜中に何故起きていらっしゃったのですか?」
 あたしがやろうかやるまいかと悩んでいたその時、セイバスさんがちょっ
とした疑問を尋ね始めていた。
 ちゃんす!
 あたしの目が光る。
「そうですよ姫様…何故、起きていたんですか?」
 あたしもそれにならい同じように聞く。
 依頼を受け、この3日間。何故か夜だけ起き続け、真っ昼間はガウリィに
運ばれて…思い出したらむかむかしてきた…すやすや眠る彼女にあたしも疑
問を持っていたのである…むかつく胸のうっぷん晴らしともいうが…それは
乙女の秘密ってことで…
「そんなことは決まっていますわ」
『決まってる?』
 あたしとセイバスさんの声が静かにハモる。
「バンパイヤと言えば夜。草木も眠る丑三つ時…」
「…丑三つ時は幽霊ですけど…」
「あら?そうだったかしら…でも似たような物よ…とにかく、その時間なら
バンパイヤは必ずやってくるわ。そして始まるリナさんとバンパイヤとの戦
い。それを見逃さないためにもあたしはこうして起きているのよ!!」
「………………あ…そ…そう…」
 頬のあたりをひきつかせ、つぶやくあたし。
「すばらしい!!」
 感涙を流すセイバスさん。
 …今更言うのもなんだが…やっぱし…受けるんじゃなかった…この依頼…
 今回、受けた依頼はこのような事である。
 彼女、カーラ姫の国・レビライルから歩いて五日ほどの離れた村で、バン
パイヤが夜な夜な、美少女を連れ去るという事件が起こっていた。
 もちろん、国の方でも兵などを派遣させたがことごとく失敗。
 そんなおり、国にあたしリナ=インバースがやって来たという話を聞きつ
けた国王は、すぐさまあたしにパンパイヤ退治の依頼をしてきたのである。
 路銀には困っていない…前日に梯子で三つの盗賊団を壊滅させてたから…
ので受けるつもはなかったあたしだったが、かなり破格な依頼料だったこと
もありついつい受けてしまったのだが…依頼料が破格だったことをよく考え
なかったのが失敗だった気がする…
 そう…今回の仕事にはカーラ姫も一緒というのが最低条件付きだった。
 理由は彼女が趣味としているヒロイックサーガ…一瞬、一人のおかっぱ娘
の顔が頭の中をよぎる…
 彼女はサーガをかき上げるのが夢らしく…作り話ではなく、本当にあった
話として…現在考えている話が、バンパイヤを倒すべく立ち上がった女剣士
の辛く苦しい戦い…だ…そうだ………
 ………………………………………………………………………………
 ………………………………………………………………………………
 ………………………………………………………………………………
 ………………わかってくれただろうか……この剣士の姿でいる意味を…
 とどのつまり、彼女のわがままにあたしがつき合されているのである…し
くしく…鎧が重ひよお…
 そしてその夜から2日──

                                <続く>

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359祝い!!復活たんか E-mail 11/3-09:16
記事番号346へのコメント
復活おめでとうございます。

いやぁ、どうしたかなぁ。って思ってたんですよ。

事故ですか?

大変でしたね。

でも、なんとかよくなったようで………

これからもがんばってくださいませ。

では。

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399スレイヤーズSTS2−1猫斗犬 E-mail 11/7-19:53
記事番号346へのコメント
はいはい(はーと)
では『スレイヤーズSTS』第2話。
再掲示 プラス 新作です。

前回2−1から2−5までは掲示しましたが、
今回の再掲示は2−1に前回の2−1&2−2を
2−2に前回の2−3&2−4を
2−3に前回の2−5と新作。
2−4も新作です。

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 『スレイヤーズSTS』 
  第2話 ”舞い降りた者 運命の異界の天使”1回目
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**** MEGUMI ****

「あったく、何を好き好んでこんな格好をせにゃあ、ならんのだ」
 あた…じゃなく…僕はぶつぶつと愚痴を言いながら道の真ん中を堂々と歩
き、学校へ向かう道を進んでいた。
 僕の名前は今居恵美。但し、現在は日高…母の旧姓…恵で名乗っている。
 ショートカットより短く、ダブダブの学ランを着たこの僕はれっきとした
女の子。
 「そんな格好をした女の子がどこにいる」と言われてしまうと、もともこ
も無いのだが、理由なんぞを述べようとすればするほど、ばかばかしくなり
そうなので、省略させていただきたい。
 まあ、趣味を聞くと「やっぱり男の子じゃねぇのかあ」とかって言われそ
うだけど…
 さて、今、僕が向かっている学校は流東学園と言う所。この学園がまた、
なかなか面白い学園で……小等部(小学校)・中等部(中学校)・高等部(
高校)のエスカレータ式の学園。
 まあ、それだけじゃあ別にたいしたことはないのだが…実はこの学園、
コース選択があり、中等部になると午後の授業から、自分の目指したいコー
スを選び、勉学にいそしむことが出きる。
 いわば中学盤の大学方式てやつ。
 コースは数種、情報から建築、医学や教師、警察に弁護士、etc……
 そうそう、芸能界コースとか、スポーツ選手コースとかもあったっけ。
 もうここまでくると、なんでもありって感じだよね(はーと)


「喧嘩だ、喧嘩だ!」
 何!喧嘩?
 慌てて、校門をくぐり抜ける。
「ふふふ、あなたたち、このあたしに喧嘩をうろうなんて、一億五千万年は
早いわよ」
「おい、茜。いくらにゃんでも一億五千万年もこいつらだって生きていたく
にゃあぞ」
「そうそう、それにもしかしたら、その間にこの星が無くなっている、と言
う考え方もあるしい」
「にゃるほど」
「二人とも、お願いだから、そういう突っ込みの仕方は、やめて頂戴」
「なんで?」
「にゃんで?」
 野次馬のほうから、クスクスと笑い声が聞こえ始める。
「いい加減にしろ。いいか浅城。今度という今度こそ、てめぇに痛い目を味
あわせてやるからな」
 まあ、そういう奴に限って、すぐにやられてしまう役どころ。
 かわいそうに。
 なんまんだぶ、なんまんだぶ…あれ?なんまいだぶ、だったかな?
「なにせ今回オレ様は物凄い術を修得してきのだか……」
「ゆうむを言わずの火炎球」
 きゅぐうおおぉぉーーん!
『ひぃよぇー』
 吹き飛ばされる数人の悲鳴と爆発音が響きわたる。
『おおぉう』
 野次馬たちからの盛大な歓声。
 お見事。
「て、てて、て、てめぇ、卑怯だぞ。いきなり火炎球をうってきやがって」
 お、生きてる、しぶとい…
「先手必勝、てやつよ」
「やかましい、あさっての方向を向いてガッツポーズをとるな。だいたい男
なら正々堂々と素手で勝負しやがれ」
「あたし、女だもん」
「…う゛…」
 あ、言葉に詰まった。
「……お、女だろうと、普通は正々堂々と素手で勝負てーのが人生ってもん
だろうが」
「後ろに三十人も引き連れて、正々堂々も、あったもんじゃないわ。それに
そんなことで人生を棒にしたくないもん」
「そうそう、それに物凄い術を修得してきた、て言ってたよねぇ。てこと
は、やっぱり魔法で勝負しようとしてたんじゃない?そうなると、素手で
勝負ってのはおかしいと思うしぃ……」
「…う゛…」
 またまた、言葉に詰まる。
「まあ、舞ちゃんったら良く覚えていたわねぇ、いーこ、いーこ」
「茜〜子供扱いはやめてよおう」
「…ふ…ふざあけるなあー!」
「え?シュウちゃん、あたしふざけてる?」
「さあ、いつもよりかは、まじめに相手してると思うんにゃけど」
「あたしも絶対にそう思う」
『ドッ!』
 爆笑。男の部下の何人かも、肩を震わせて笑いをこらえている。
「こ、このあまあー」
「ねえ?この辺にお寺なんてあったっけ?」
「う〜む…今のギャグは及第点!」
 舞ちゃんの言葉にシュウちゃんと呼ばれる彼が人差し指を立てて言う。
「やっかましい!」
 そう叫ぶと男は呪文を唱え始める。
「やかんが欲しい?」
「それ…じぇんじぇん、おもしろくにゃいぞ…舞…」
「ちぇっ」
 口をとがらせる舞ちゃん。
「やれやれ…」
 続いて浅城さんだったかな、彼女も呪文を唱え始める。
 まわり全てが静かになり、二人だけが唱える呪文が響きわたる。
 そして、何故か後から唱え始めた浅城さんの呪文が先に完成する。
「くらえ、愛と正義の……」
「え?愛?」
「にゃ?正義?」
『どこどこどこどこ……』
 ぴたっ、
 彼女の動きが止まる。
「……」
 無言のまま、二人をにらむ。
「今だあ!」
 男が叫ぶ。
 ぽいっ
「へっ……」
 きゅうぐうおおおぉぉーん!
「るどうるわあぁ!」
 先に彼女が投げ捨てた呪文で吹き飛ぶ。
 どおぐうおおぉぉーん!
「ひょでぇー!」
 自分で作った呪文が暴走する。
 うーむ、こりは二次災害てーやつですなあ。
 それより、あいつ生きてるかな…


 午後───
 ……さて……人の気配は無し……
「ところで」
 おおおぉぉーう───
 いきなり、づづいっと、顔を目の前にまで迫られたので、言葉を失った。
「午後の授業は決まったのかにゃ」
「え、あ、えっとその」
 顔を寄せ付けた主は、今朝、浅城さんにシュウちゃんと呼ばれていた男。
 実はあたしが編入してきたクラスの生徒だった。
 偶然というか何というか…どっかの誰かが物語の本筋をおもしろくするた
めだけに、勝手に同じクラスにしたというむちゃくちゃな設定が神から授かっ
たのかもしれない…
 本名は広野秀一。ボクシングの学科を受けているそうだ。
 ……にしては、あんまり強そうには見えない。まあ、見かけで判断しては
いけないのだろうけどさあ……て、そういえばさっきまで気配はなかったは
ずなんだが…
「にゃあ、決まってるのか」
「え、えっとおー」
 彼の顔はまだ目と鼻の先。
「もし決まってにゃいなら、ボクシングに入らにゃいか」
「…は…はい?」
「よおうしい、きまったあ」
と、僕の手を引っ張りながら教室を出ようとする。
「ち、ちょ…」
「おいこら……」
 でっ!
「……でぇ!……現れたな、破壊と殺律の女魔道士……」
 すぼ!
 おおー、見事な左ストレート。
 そのパンチで広野くんはひっくりこける。
「…あ…あたたたたたた……」
「まったく?」
 浅城茜さん……い、いつの間に……
「だめよ、日高君。こいつの力ずくの勧誘に誘われちゃあ」
「え?」
「ど、どこが、力ずくだよう、ちゃんと返事だってしたにゃろうが」
「あれは疑問用の返事でしょうが。ほら、ここを呼んでみなさい。疑問符、
クエスチョンマークが付いてるでしょう」
 浅城さんが一冊の本を懐から取り出し、あるページを開くと広野くんに見
せる。
「はにゃ、ほんとだ」
 おいおいおいおい、どこにあるの、そんなの。
「ところで……」
 ぽいと本を捨てて浅城さん。笑顔を振りまき。
 ………
「柔道やらない?」
「…はい?」
「よっしゃあー、きまったあー」
「え?え?え?」
「ちょーとまてぇ、それだって疑問符が付いてるじゃにゃいかあ」
 先ほど浅城さんが投げ捨てた本を片手に叫ぶ広野くん。
「ちっ、ばれたか」
 …な…何なのこの人たち…いったい……
「ま、冗談はこの辺にしてっと…日高君は何がやりたいのか決まってるのか
な?」
 と、笑顔でまたまたいきなり。
 実は彼女もまた、同じクラスだったりする…やはり、神のいたずらか!
「え?あ、いや、えっと、あの……あ、そうか!午後の授業のこと?」
「そうそう」
 彼女は首を縦に振る。
「それなんだけど…実は…午後は受けないことにしているんだけど…」
「えええー、どおひて!」
「ここ、拳法なんかないでしょ」
「拳法?」
「うん。実は僕、最近、中国拳法にはまっちゃって…」
 て…結構前から趣味としてはまってるんだけど…しかも、自分でも自慢で
きる程の腕前だし…
「ふうーん…」
「だから、午後の授業は受けないでどこかの道場にでも入門しようかなあ…
なんて…」
 信じるかな…
「なあーん、だあ、やりたいものがあるんだあ。じゃあ、勧誘はむりねぇ」
「…ふにいぃ〜…」
 がっくりと肩を落とす二人。
 あ、信じた…
「あははははははは…ごめんな」
「まあ…しゃーない。あきらめるとしますか…あ、いっけないもうこんな時
間。行かなきゃ。それじゃ、日高君いいところ見つかるといいね」
「あ、ありがとう」
 とそして浅城さんたちは教室を出ていった。


 そして、5分後…
 教室のドアから顔だけを出し、廊下をきょろきょろと確認。
 今度こそ人の気配は無し…本当にいないよな…ついでに教卓の下も確認。
 …さてと…それじゃまあ…
「変身!?」
 僕はさっと変身ポーズをとると、そのままの状態で体中が光輝きレオター
ド姿…
「てっんなわきゃない…」
 自分一人でボケと突っ込みをして、机の上にスポーツバックを置き、その
中をあさり始める。中からまずは女子用の制服を取り出しそれを着る。そし
て次に眼鏡。まん丸であたしの顔の半分以上は被い隠せる程のでかでか眼鏡。
最後にかつら。かつらは被るとあたしの腰あたりまで届きそうなロング型。
これで準備完了──
びいぃしいぃぃ!
再び最初の変身ポーズに…
「………………」
 …自分でやっておいて情けなくなってきたわ…
 まあ…それはそれで、気を取り直して…
潜入捜査、女子の部開始!
あたしは女性にしか入れない場所いたるところへ動きまわることにした。
事件が起こったのは、約二週間ほど前。その事件は一人の女子生徒の消失
事件から始まる。
 最初はたんなるいたずらか何かかと学校側は判断し、そのままにしてしまっ
たのだが、この後にも次々と行方不明者が続出。現在に至っては8名程の不
明者が出ているのである。
 と言うことで、あたしの父がスポンサーとなっている探偵局に捜査の依頼
がきたのだが、ただ困ったことに転校生として編入できる者がいなかったの
である。
 で、急遽あたしがこの捜査を担当するはめに…教師ってー手もあったんだ
けど…ちょっとした理由があった物で………ストップ!これ以上は聞かない
で…お願い(はーと)
 え?でも何故男の子の格好をしていたのかって?
 …あ…あはははは…そ、そりは……その…おぉ…父の言いつけでね…
「こんな可愛い娘が男子との共学なんだぞ。万が一の事があっては…うるる
るるるるるるうううぅぅ…」
 …だ…そうである……………なんだかなあ…しかも、泣くんだもん…

「…うむ…」
 学園中をしらみつぶしに確認していったがこれと言った物はなし…ただし
若干入れない場所もあったが…
 あたしは人気のない廊下をひたすら歩く。
 教室からはいっさいの声も人の気配も感じられない。
 だがどの教室もある種の専門の教室として使わされているはずである、な
のに…
「異空間でも利用してるのかな?」
 その答えを口に出す。
 実は魔道歴(魔法学の歴史)の中に載ってる物なんだけど、随分昔、魔道
の研究をおこなうために異空間を作って、研究室にしたっていう人がいたそ
うである。どうやって異空間を作るのかは分野外だからしらないけど…で、
その空間の広さは個々の作り方によって、どんな広さにでも調整できるらし
い。
 だから、広いグランドとかが必要になる野球やらサッカー等々も教室しか
渡されてないわけだ…なるほど…納得…

「あれ?」
 屋上への入口であるドアノブを取りゆっくりと開けたときである。
 一人の女性の歌声が耳に届いた。
 歌声が風に乗り、一面を弾み、踊り、駆け回る。
 戸を開き声の主を捜す。しばし目で辺りを見回し…いた!…軽やかなステッ
プを踏みながら、口ずさむ歌にあわせて踊る、一人の少女──
 あっ…あの人は…たしか…舞ちゃん…
 えっと…本名は………知らない……違うクラスだもんなあ……
 だいたい、普通は『仲良し三人組』ってーのは…彼女に浅城さんに広野く
ん…必ず同じクラスでなければならないという、マンガとか小説でありえる
設定があるはず。何故…彼女たちにはそれがないのだ!!!
 どんがらびっしゃーん!
「あり?今、雷が鳴ったような…」
 と舞ちゃん。
 そして、その3人組と出会う主人公のこのあたし!
 問答無用に4人が巻き込まれる大事件!!!!
「…………………」
「……あのぉ……」
「…………………」
 …………………………………って…すみましぇん…冗談ですうぅ…
「……大事件ってなんです?」
「……へ?……」
「……だから、大事件ってなんですか?」
 いつの間にか舞ちゃんがあたしの目の前でそう問いていた。
「…え?あたし口に出してました?」
「…ううん…ここに書いてある」
 いつの間に持っていたか彼女の手の中には一冊の本。のぞいてみる。
 ──真っ白──
「…全然、書いてないじゃないですか…」
「…まあ、それはそれで、その辺に捨てといてっと…」
 こらこら。話を、捨ててごまかすな。
 そりゃあ…横においといたらまた話をぶり返されるので、捨てたくなる気
持ちはわかるけどさあ…
「…あたしは…香純舞よろしく!」
 と、突然、そう言いながら手を差し出してくる。
 …浅城さんといい広野くんといい…こいつら突然に違う話をするのが好き
なのかい…
「…えっと…あたしは……今居恵美…です…よろしく…」
 一瞬、どちらで名乗ろうか迷ったが、すぐに本名が口を出た。
 そして彼女の手を取り握手を交わす。
「…って、香純って言うのは芸名だけどね…」
 彼女がそう言いながら、握手を交わしたその手で拳銃の形をとり顔の横ま
で持っていくと舌を出す。
 その仕草がとてつもなく可愛かったりする。
「芸名?」
「うん(はーと)」
「…ってことは…」
 一時黙る。
「…コメディアンですか?」
 どしゃかっ!
 ひっくり返る舞ちゃん。
「うわあ…派手なリアクション。さすがコメディアン」
「誰がコメディアンだああ」
 叫ぶ彼女。
「え?違うんですか?でも、今朝の浅城さんと広野さんとの絶妙なコンビネェ
ーション。見事だと思ったんですけどねぇ…」
「…う…見てたの…あれ…」
「はい(はーと)」
「…でもでも…あれはあたしの姿じゃないわ。誰がどう言おうとも!!」
 拳を握りしめ言い放つ彼女。
 絶対、嘘だ。
「…いや…でも…いろんな人から…『元気なやかまし3人組』とか『学園の
名物トリオ』って呼ばれているとか…」
「嘘よ!デマよ!でたらめよ!そんなのたった一人のあんちゃんから出回っ
た、ただの噂に過ぎないわ!!」
 …そ…そうかなあ…それにあんちゃんって、誰だい?
「ええーい。ちくしょおー!たっくん出てこーい!勝手に広めて、あたしが
学校に出てくる日に限って授業ふけるなあーーーーっ!!!!!」
 天に向かって吠える舞ちゃん。
 …たっくん…ねぇ…それがあんちゃんのことかな…とりあえずメモっとこ
…小さなことから…こつこつと…探偵には大切な事よね(はーと)
「…はあ…ぜえぃ…ふう…ぜい…」
 肩で息をする。
「気が済みました?舞ちゃん」
「…うん…」
 とりあえずは落ち着いたようである。
 ──瞬間──目眩が起こった。
 視界が歪む──
 空気が粘りをみせ、まるでその粘りで自分の体の動きがにわかに遅くなっ
た気がする。
 突然、足下から青白い光が発光し、
「なああーーっ!」
「ぴみぃやあ〜何、何っ!」
 あたし達の悲鳴に反応するように、発光体が円を描くように、真っ暗な闇
を広げてあたし達を吸い込んだ。
 ごおおーっと言う風の音と共に、落ちていく間隔に襲われる。
 それをたとえて言うなら急降下するジェットコースター。
 けど、体は固定されていないし、足を踏ん張れる場所もない。
 ただの、自由落下──
 闇で周りは見えない。真っ暗──
 長い長い落下が続く。
 目が闇になれ始めた。舞ちゃんがかすかに見える。
 そして──ふいに光が包み込んだ──




**** RINA ****

「へぇい、いらっしゃい、いらっしゃい。今日の品は安いよお!」
 そんな道を歩く人々達に声をかける、いろいろな店屋のおやじたち。
 そんな中にまざってあたしとガウリィも街中を歩いていた。
 あのコピーサイボーグと呼ばれる2人と、空飛ぶ船との激闘から4日。
 破壊された家々はいつの間にか復急され…戦いのあった後、陽がのぼって
いたら既に元通りに直っていたそうだ…もしかしたらあの2人がなにか…
「なあ…り…」
 ぱかあ!
 あたしの問答無用のアッパーが彼の顎をとらえる。
「…じゃなくてミリィーナ…」
 ガウリィがあたしへと言いかけた名前を訂正した。
 これで既に11回目──
 あたしの目指す場所はここからもう少し先。
 あたしとガウリィは現在、変装をしている。その理由は言わなくてもわか
るであろう。ファンに追っかけられるから。
 この美貌と魔道士として天才的な頭脳と実力を兼ね備えるあたしのファン
達に…まあ、多少は…あたしと並んで歩く、脳味噌クラゲのガウリィファン
もいるかもしれないが…
 そこで変装と一言で言っても、生半可なことでそういうファン達をごまか
せると思えないので、徹底した変装をおこなうことにした。
 あたしの格好というと、まず街娘の服を着こなしバンダナは付けていない。
茶色のくせ毛は今やまったくなく、ポニーテールにした金色。そしていつも
の赤い瞳は淡いグリーン。
 一方ガウリィというと、上から下まで黒一色。黒いシャツに黒いズボン。
黒色の軽鎧に後ろ手で縛る黒色の長い髪の毛。そしていつものブルーの瞳も
黒。
 ようするにあたし達の、体格以外の特徴は全て変わっていたのだ。
 服装や髪型はどうとでもなるが、いかんせん一番の特徴である髪と瞳の色
は、いかに天才魔道士のこのあたしと言えどどうすることも出来ない。
 そこで達也とアインが手伝ってくれることになる。
 まず髪の色は達也がしっている魔法を使った。なんでも光の精霊を使って
屈折を起こし、見た目の色を変化させるという方法らしい。何とも理解しに
くい簡単な説明だったが、虹が発生する原理と似たような物だ、とも言って
いたけど。
 ちなみにあたしのくせ毛はアインが持っていた『へあーすぷれ』…「女性
の必需品よ」とのこと…とか言う物で髪に吹き付けブラッシングすると、さ
らりとしたストレートに変化した。
 そして瞳の方だが、これはさすがに光で屈折させようとすると、視力をだ
めにするらしく別な方法をとることになる。
 それは色が付いた『こんたくとれんず』と言う物を目に入れると言うこと。
 これがまた、目に入れると何となくかゆいし、瞬きする時が痛いし、目に
映る物が全て『こんたくとれんず』の色と同じで、すんごい違和感があるひ…
 なれれば大丈夫っとアインは言ってくれたが…あたしもガウリィもあんま
しなれたくもないと言う意見が一致していた。
 さて、あたし達が何故こんな変装までして街へ繰り出したかというと、一
誌の雑誌『ドラゴン・マガジン』に掲載されているあたしの自英伝。
 それが事の発端である。
 毎週、掲載されているその小説はあたしたちが係わった事件をかなり詳し
く、正確に書かいており…そして何より読者達に楽しめるように作風が工夫
されていたりしている。もちろんあたしには身に覚えの無いこと。
 しかも、よっぽどあたしのことを知っている者でなければかけない事まで
載っている。そうなると、犯人は絞られる。
 ゼルかアメリア、シルフィールにフィリア…そして…ゼロス…
 一番詳しく書けるだろう、ガウリィは…こいつに文彩としての才能がある
とは思えないし…まして書いていたとしても身近にいたあたしが気付かない
はずがない…と、言うわけで問題外。
 まず、連載されたのはダークスターとの事件。その連載が終了すると否や
ガーブとフィブリゾとの事件の連載が開始され、現在に至る。
 その2つの事件に係わっているとすれば、ゼル、アメリア、ゼロスの3人
だけになる。
 フィリアもガーブとフィブリゾとの事件を多少は知ってはいるだろうが、
いくらなんでも詳しく書けるほど知ってはいないだろう。
 シルフィールはダークスターとの事件には全然係わっていないし…
 その連載が大ブレイクすると、その連載にあわせてあたし達のグッツが出
回るようになったわけである。
 そのグッツはもう…簡単に聞いただけでも覚えきれないほどだった…
 まず一般的だったのが、あたし達4人(あたしにガウリィ、アメリアにゼ
ルガディス)のプロマイドに写真立てにポスター。それが1人につき何十種
類もあるらしい。
 あたしやガウリィもここの道を通る前にそのようなグッツを売っている店
を見てきたが…なんじゃ、あの膨大な数は…しかもひっきりなしに客が溢れ
かえってたし…あたしのプロマイドを買っていったちょっと小太りの兄ちゃ
んがそれにキスしていたのを見たときは背筋に悪寒が走りまくったわい…正
体をバラス訳にはいかないし…とにかくその時の我慢する姿と言ったら…珍
しく、そのことに気付いてくれたガウリィがその場からあたしを抱えて去っ
てくれなければ、今頃どうなっていたことか…
 他にもゴーレム印の『ぴこぴこリナちゃん』シリーズやリナちゃん・アメ
りん・ガウくん・ゼルやんの各種大中小のぬいぐるみ、子供達に大人気・『
爆裂戦隊・ドラグレンジャー』の人形&変身セット(聞くとアメリアが広め
たグッツらしい)……etc,etc…
 それにしてもどうやってこの写真とかを撮ったのだろうか…撮られた覚え
は記憶に一度も無いのだが…
 てな訳で、その雑誌社に乗り込みあたしの名をかったって作品を載せてい
るヤツをとっつかまえようとかんがえているのだ。その時、そいつをどうす
るのかはご想像に任せた方が無難だろう。
 ま…犯人のだいたいの検討はついてるんだけど…なにせ連載の中に決定的
な文があったし…

 ──ドラゴン・マガジン セイルーン本社──
 その立て看板を横目にあたし達は建物の中へと入り込む。
「すみませ──」
 開口一番の挨拶をあたしは絶句しながら飲み込んだ。
 十数人の目。全てがあたし達にそそぎ込まれていた。
『…似てる…』
『…けど…髪が…』
『…目も違うし…』
 ……………………………ましゃか…こいつら…あたし達の…ファン…か…
「…あ…あの…」
 顔が引きつっているのがわかる。
「…ち…ちょっとお聞きしたい…」
「いやあ。すみません。お待たせしちゃいまして…リナ先生がお書きになら
れた…」
 と言う声と共に、あたしが先ほど通った戸から現れたやつは、
 どげしいぃっ!
「ぐうはああぁぁっー!」
 あたしのいきなりの蹴りに、おかしな声を上げて倒れる。
 ふ、ふふふふふふ…やはり、あんたかい…
「あいたたたた…な、なにをなさるんですお嬢さん。もう少しレディはおし
とやかでいないと…」
 みしっ!
 言いながら立ち上がったところを今度はアッパーがきまる。
「…あ…あのですね…」
 おお…やっぱし立ち上がるか…なら…
「烈閃槍、10連発!」
「がはあっ!」
 一様、倒れる。
「…そ…そのですね…」
 …いやいや…ほんと丈夫なやつ…さて、お次は…
「崩霊裂っ」
 こうっ
 青い火柱が彼を包む。
 …火柱がやむと、少しぐしゃぐしゃになった髪のままよろよろ立ち上がり
あたしへと指さし、
「…あ…あの…あなたは…もしかして…」
 …うむ…やっぱりダメか…じゃあ…最後…
「神滅斬っ」
 あたしの手から黒き刃が生まれる。
「ひいぃえええぇーやっぱりリナさん!!!!」
 そしてここ『ドラゴン・マガジン セイルーン本社』の屋内ではしばらく
はゼロスの悲鳴が響いた。


「おうらあ!…とっとと歩かんかい!!」
 どげしいっ
 後ろから、とぼとぼ歩くゼロスの背を蹴りつける。
「…しくしく…」
「…おいおい…それじゃあまるで、やくざのセリフじゃないか…リ…」
 ばきっ!
 頭へ肘鉄!
「…じゃなくてミリィーナ…でした…しくしく…」
 ガウリィがあたしへと言いかけた名前をまたまた訂正する。
 これで12回目──
 なお、犯人がゼロスだと気付いたのは、セイルーンでの事件であたしがあ
の魔族マゼンダに魔力を封印された時のシーン。
 封印を解くためある賢者様のところへ向かう道中が事細かく書かれていた
から。つまりその時のことをしっているのはゼロス、またはあのマルチナだ
けになる。
 そして話の全体を考えれば、自動的に犯人はゼロス──
 さあって…みんなの所に戻ったらどういう風に料理してあげようかしらね
えぇ…うふふふふふふふ…
「…あの…その含み笑いがすごく怖いのですけど…リナさ…」
 どげしいぃぃっ!
 問答無用で蹴り飛ばす。
「…い…いたいです…リナ…」
 まだ言うか…手に魔力光を灯す。
「…………………」
 静かになるゼロス。
「…い〜い。ゼロス。今のあたしは、ミリィーナよ。ミ・リィー・ナ!」
 ゼロスに笑顔で親切に教えて上げる。
「…は、はひ…」
 それにしっかりと返事を返すゼロス…断じて…魔力光が灯る右手をかざし
て、殺気を携えながら引きつる笑顔が、怖かったと言うことでの返事ではな
いだろう。
「おやあ〜リナじゃないか!」
「ていっ!」
 ごっ!
「あう…」
 条件反射で手近にあった桶を投げ飛ばし、それが見事にあたしに声をかけ
てきた人物の顔面へとクリーンヒット…
 あっ…後ろの人にあたった…てめぇ、よけるな…
「何するんですかあ。いきなりいぃぃー!」
 桶をぶち当てられた20前後の美人金髪ねぇちゃんがあたしに抗議する。
「あっ…なんだアインだったんだ…らっきい(はーと)」
「なんでらっきいなの?」
「…いや…その…」
「知り合いだから慰謝料払わなくて、ラッキー(はーと)ってとこじゃねぇ
の…」
 あたしの桶攻撃をよけた14才の美少年・達也がぶりっこポーズ…男の子
がそんなポーズをとるな…で答える。
 …図星…達也なぜわかった…
 達也&アイン。実はこの2人、異界からやって来たでこぼこ漫才コンビ…
じゃなくて…国家認定・次元セキュリティ会社『S.T.S』──のトラブ
ルコンサルタント、という者達らしい。
 彼らの話では、あたし達の知るあと3つの異界の他にもまだまだ数多くの
世界が存在するそうだ。
 そのような数々の世界で犯罪を犯す者達を、取り締まるのが彼らの仕事。
 そんなある日、同じトラブルコンサルタント…略してトラコン…であるゼ
オという男が突如、本社で仲間を次々殺し、ここあたし達の世界へと逃げて
きた。そして、2人はゼオを捕まえにここへやって来た。
 ま、彼らから聞いたのは概ねこの様なことだけなのだが…あたしが思うに
そのゼオがただ逃げるだけでここへやって来たとはとても思えない。
 その疑問もぶつけてみたのだが、この2人もまだゼオのたくらみを把握し
ていないようで、あたしの問いには答えてはくれなかった。
 どちらにしろ、明日か明後日にはそいつの計画の一部が見れるんだし…し
かもそれがゼオ本人からの予告だからね…
「ところでよ…そこに転がってるゼロス…どうしたんだ?鎖に繋がれて散歩
にさえ連れていってもらえない、子犬のような顔してるけど…」
「なによそれ」
「いや何となく…」
「いいんです…僕なんて…いつも獣王様の使いっ走りですし…リナさんには
言いようにあしらわれますし…しくしく…」
「あ〜こらこら…ゼロス。そんなとこで『の』の字書いてんじゃないの。あ
んたの上司、ゼラス=メタリオムも草葉の陰で泣いてるわよ」
「いいえ多分…この姿を見て指さして笑っていると思います…しくしく…」
 …おいおい…それって…どういう上司なんじゃい…
「…だいたい…僕がリナさんの自英伝を書くことになっちゃったのも獣王様
の…いじいじ…」
 なに…!
 あたしの目が光る。
「ゼロス。それってどういうこと。詳しく話しなさいよ」
「…実はですね…かくかくしかじか…」

 ゼロスの話だとこう言うことだった…
 獣王ゼラス=メタリオムは、ことあるごとにセイルーン印のソフトクリー
ムが食べたいとか、ゼフィーリアのぶどう酒が飲みたいとかだだをこねるら
しい。その数は尋常じゃなく、しかもお金は全部ゼロス持ち。
 つーわけで、懐もそこをついてきたゼロスは、あたしの話で盛り上がるこ
こセイルーンで出来心も手伝ったかちょこっとした事件を…どうやらフィリ
アと初めてであった港での事件、その時からゼロスはあたし達を見ていたら
しい…小説にして投稿したそうだ。
 ところがその小説が大当たり、あれよあれよと連載になって大人気をはく
してしまったと──そしてゼロスの懐は暖まった──
「…ゼロス…」
 ガウリィがつぶやきながら彼の肩を両手でぽんと軽くたたく。
「…おまえ、むちゃくちゃ苦労してたんだな…」
 …いや…まあ…苦労はしたんだろうけど…魔族の苦労話っていうのも…な
んか…
「…そんな苦労なんて顔に出さないから俺、全然知らなかったぜ…大変だっ
たな…」
「…はあ…どうも…」
 何と言ってしまえばいいのかわからない状態のゼロスくん。困った顔であ
たしの方に助けを求めてたりする。
「はいはい…ガウリィ。感動はその辺にしてそろそろ戻るわよ…ほら…ゼロ
スも来る」
「…はい…」
 再びとぼとぼと歩くゼロス。
 そんな彼に更に言葉をかける。
「ところでゼロス」
「…な…なんでしょうか…」
 多少、声が裏返っている。
「あたし達のキャラクターグッツ。あれもあんたが売り出したんでしょ」
「…え…」
 あたしの言葉にまともに顔色を変えるゼロス…当たりか…
「…な…何故…そのようなお考えを…」
 しばらくして、このすっとこ神官の口から出てきたセリフはふるえていた。
「そんなの簡単よ」
 指を一本おったてる。
「あの程度のアルバイトで懐が潤うわけないでしょ…だいたい…あたしはゼ
フィーリアの出身よ。ぶどう酒1本の金額、知ってるわ」
「…えっと…」
 頬の辺りをぽりぽりかくゼロス。
「獣王が買わせているその本数。はっきり言って、その程度の原稿料じゃと
ても補えるもんじゃないわ」
 それに…
「いや〜参りました、あの程度でぼろが出るとは僕もまだまだです」
「なにがまだまだなのかはしんないけど…言っとくけどねゼロス…あたしが
このことに気付いたのは雑誌社に向かう前からだから…」
 ぱたぱた、手を振り言ってやる。
「…またまたあ…そんなにはやくわかるわけないじゃないですか、リナさん」
 そのあたしのあっけらかんとしたセリフに、いつものにこにこ顔でゼロス
が言う。
「簡単よそこはそれ。あたしたちにはいつ撮られたのかだなんてさっぱりわ
からないあのプロマイドとか写真とかポスター。あんなに撮られておきなが
ら全員が全員、気付きもしなかったし…そこで考えてみたのよ。あたし達に
気付かれずに、なおかつあたし達4人、全員を知っている人はいないかって
ね…だいたい、この人がリナ=インバース。こいつがガウリィ=ガブリエフ
だ。って顔を知らなきゃ、こんなの売り出せないじゃない…で、全てから答
えを導き出すと…ゼロス…全部にあてはまんのは、あんたしかいないのよ…」
 あたしの説明を、にこにこ顔で黙ったまま聞いていたゼロス。
 お互いが黙ったまま見つめ合う。
 彼がふと口を開き、
「いやー、はっはっはっはっはっは…さすがわリナさん。名推理!」
 ぱちぱちと拍手までする。
「それ程のもんじゃないわ。こんなん、ちょっと考えれば誰だって……ガウ
リィは除くけど…とりあえず…わかるわよ…」
「…リナ…なぜ俺が除かれるんだ…」
「だったらガウリィ。さっきのあたしの説明、ちゃんと間違えず言える自信
ある?」
「…すまん…先、続けてくれ」
 素直でよろしい。
「さて、この落とし前の方はどうつけてくれるのかしらねぇ…ぜ・ろ・す!」
「そうですねぇ…」
 何かを考えるように頬に手を置き、
「それとではこんなのはどうでしょう…リナさんには今までの収入の半分を、
そしてそれ以降は収入の3分の1ほど…お払いする…それで機嫌を直しても
らうと言うことで…」
 …ほお〜う…半分ねぇ…
 …たしかあのグッツとかって、かなりの売上高のはずなのよね…相当な収
益か…むふ(はーと)
「…じゃあ…聞くだけ聞いて上げるけど…その収入…いったい、今、どんく
らいにまでなってんの?」
 わくわく…顔には表さずに胸を膨らまし、懐からそろばんを取り出す。
「ええ…実はこのくらい…」
 ぱちぱち…ゼロスがそろばんの弾をはじく…
 おおー!!!目がハート。
「きゃぴぃ!こんなにい(はーと×5)………許す!絶対、許す!!ゼロス。
あんた、これからも一生懸命頑張りなさい!!!」
「…おいおい…リナ…」
 ガウリィが呆れる声をあたしに向ける。
「なによ?ガウリィ」
「いいのかあ、そんなので片付けても…」
「いいのよ」
 きっぱり言い放つ。
「…いや…でも…せめてゼルやアメリアにも相談してから…」
「なにいってっかなあ…だってそうじゃない。今更、ゼロスのこの行動を止
めたってあたしの懐はうるおんないもん。それだったら、収入の半分をくれ
ると言うゼロスの好意に素直にしたがった方が得策だと思うのよ、あたしは」
「リナらしいと言うか…何というか…」
「でも、アメリアさんあたりが知ったら、『魔族の計画にのるだなんて…リ
ナさん。あなたのそれは正義じゃありません』とか何とか指をさしながら言っ
て、高いところから、とおう…って飛び降りたりしません?」
「大丈夫、大丈夫。そんなん、ばれなきゃいいのよ(はーと)」
「そうそう…ばれなきゃ良いんだよ」
 達也があたしのセリフにうんうんと頷く。
「ひねくれた人生おくってんな、おまえら…」
「生活力があるって言ってよ」
「生活力があるっと言ってくれ」
 ガウリィの一言にあたしと達也の言葉は重なった。


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4002−2猫斗犬 E-mail 11/7-19:57
記事番号346へのコメント
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 『スレイヤーズSTS』 
  第2話 ”舞い降りた者 運命の異界の天使”2回目
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**** RINA ****

「ところでさ…達也はこんなところで何やってんの?」
「え?何って…」
「この世界1国の見学!」
 答えに躊躇する達也を横にきっぱりはっきり言い放つアイン。
「…じゃあ…その手に持っているは何?」
 あたしの目に入ってるのは、達也の右手に握られている灰色っぽい紙の束。
それには大きな文字や小さな文字。いろいろな絵が描かれている。
「新聞…」
「新聞?」
「毎日、発行されるされる雑誌みたいな物さ」
「…ふ〜ん…読んでもいい?」
「多分読めないと思うよ」
「どーして…」
「異世界の文字が読めるのかあんたは…」
 …う…確かに…
「そんなの読んで見なきゃ……ってあれアインは?」
 さっきまでいたのに…いつの間に消えた!
「リナあそこ…」
 ガウリィが指さす。
 あっホントだあんなとこに…ソフトクリーム屋で並…
「………って…おい!」
 そこには達也まで…あたしと話をかわしていたその場所には、もちろんす
でにいない。
「なかなか素早いヤツだな…」
 いや…そんなんで片付けられるものなのか…はっきり言ってむちゃくちゃ
速すぎるって…こいつら…ジョセフィーヌさんの親戚じゃあるまいな…


 にこにこにこにこ…
「くううぅぅぅ〜うめぇ〜」
 拳を握りしめ感動する達也。
「うんうん。冷たくて、おいしい(はーと)」
 達也の言葉に頷くアイン。
 2人ともにこにこ顔で先ほど並んで買った、セイルーン印のソフトクリー
ムをぺろぺろなめなめあたしと並んで歩く。
 そりゃまあ、美味しいのはわかるけど…表現力が子供よね…
 2人を見ながら自分のソフトを口に一口含む。
 うん…この甘いけどしつこくなくて…後味がさっぱり…とても柔らかく…
 さて、店を離れ歩いている時に気付いたことが3つ。
 1つ目が達也が甘い物が好きだって言うこと。列に並んでいる時にアイン
から一様、聞いていたのだけど…
 2つ目にやっぱりアインは美人だって事。次から次といろんな男に軟派さ
れて…まあ…あたしも同じぐらい軟派されたけど…そん時のガウリィの顔っ
たら…焼いてくれたのかな?
 んで…3つ目が、黙っていれば美少女にしか見えない美少年・達也。まず
ソフトクリーム屋でのおばちゃんの「はい。お嬢ちゃん」と言うセリフをか
わきりにあたし達と一緒に数名の男にナンパされる達也。こめかみあたりを
引きつらせる彼を横目に、あたしは笑いをこらえるのに必死だったよ…
 まあ…一生懸命、ソフトクリームを食べる姿を見ると、彼の性別を知って
いるあたしでも間違えそうなのだから仕方がないであろう。
 ちなみに達也を軟派してきた男達全員に「オレは男だー!」と吠えながら
彼は蹴り飛ばして…うっぷん晴らししてたりもするのは余談である…
「喧嘩だ、喧嘩だ!」
 何!喧嘩?
 セイルーン印のソフトクリームも食べ終わったころである。
 数人の野次馬がそこで既に輪を広げ集まっていた。
「うっりゃああっー!!」
 その叫びと共に空に舞い上がるがたいのいいオッちゃん1名。
「たまやあー!」
 それにあわせて上がる少女の声。
 って、こいつが花火か!ぜんぜん似合わんぞ。
「喧嘩ですか?もしかしたら負の感情が食べれるかもしれませんねえ」
 ぺろりと舌なめずりしながらゼロスが言う。そういやまだいたのかこいつ。
そして輪の方へと向かう彼。
 ぺろぺろ…ソフトをなめながら、ゼロスが消えていく姿を見つめるアイン。
「…………」
「ってちょっと待て…アイン。あんたソフト食べ終わってなかったっけ?な
んでまだあんの?」
「ふっ…実は2つソフトを買って、もう一個を隠し持っていたのよ…」
 指を1つおったてて暴露する彼女。
「どうやって隠してたの…」
「…………」
 しばらく沈黙──
「じゃ!あたしは野次馬根性丸出ししてきます」
 いきなり、彼女はびっと手をあたしの方に上げ、ダッシュで輪の中に消え
ていく。
 それをぼーっと、見送るあたし達。
 ──?!──あっ──
「こおらあっ!ごまかし逃げ、すんなあー!」
 気付いて大声を上げたときは、彼女にはもう聞こえなかっただろう──
 ──が──
「おや?リナ。あいつ戻ってきたぞ」
 ガウリィの言葉にあたしが振り向くと、彼女はこちらへとダッシュしてい
た。まだ、1分も経っていないのだが…いくらなんでも飽きるには早すぎる。
 そしてあたし達の手前まで来ると、靴底と地面をこすらせ、
 きいきいぃぃ───────────────
 と音をあげ急ブレーキをし、あたし達の目と鼻の先まで……
 ……おっおっおっおっおっおっ?
 来たが前を通り過ぎ、
 おんやあ?
 更にそのまま進んで…その彼女をあたしの目が追う。
「…………」
 進んで…その彼女をガウリィの目も追う。
「…………」
 進んで…その彼女を達也の目も追う。
「…………」

 どぐうがしゃああーんっ!

『…………』
 あたしを含む3人は無言状態──
「──てめえ、売りもんに何しやがる!──」
「──ああっー!すみません!すみません!あやまりますう!ちゃんと全部、
弁償しますううぅぅー!!!──」
 止まれずに果物屋につっこんでやんの………


 しばらくして、
「あ、あはははは…ねぇ…達也…これって…会社から必要手当で、落とせる
かな?」
「…無理に決まってるだろが…」
「…だよね…うるうるうるうる…」
 自分がめちゃくちゃにしてしまった果物を両手に抱え、言いながら涙する
アイン。
「うりゃあああああー!」
 その声とともに、人だかりの中から、天に打ち上げられる、最初の人とは
違う1人のむさいおっちゃん。
 向こうではまだ喧嘩が続いているようである。
「ところでどうしたのよアイン。ずいぶん慌ててたみたいだけど…」
「そうよ、そうなのよ、そう言うことに決めたのよ…」
「なんだ、その最後の決めたっつーのは?」
「そんな疑問符マークなんかほっといて…とにかく、達也。ちょっと来て」
「おいおいおいおい…」
 彼女が達也の手を引いて再び野次馬の人だかりの方へ向かう。
 あたしとガウリィもついていってみる。
「…どうしたんだよ…」
「知っている顔があるの…」
「知ってるって誰だよ、それ?」
「それは内緒…その方がおもしろいし…」
「……おまえ…うちの師匠に似てきたな……」
「そりゃそうよ…あたしを作ってくれた博士は彼女の母親だもん(はーと)」
 なんのこっちゃ?

「はいはい、ごめんなさい。ちょっとごめん…はい、どうも…」
 そう言いながらアインが人をかき分けどんどん前へ進む。
 そして視界が開けた。
「ていっ」
 そんな声を出して一人のオッちゃんの顔面をけりつける一人の少女。
 ショートカットより短めでめちゃくちゃ元気な女の子ってイメージがぴっ
たんこ。
「わあー、きゃあー、こわいよおー、恵美ちゃんたすけてえぇー」
 などと相手をバカにした声を上げながら、あっちこっち走り回るもう一人
の少女………オッさんが彼女を捕まえようとすると、時にはしゃがんで、時
には方向転換をしてその腕をかわしたりする。
 素人目ではわからないだろうが、これはなかなか見事な体術さばきだった
りするのだ。
 しかも──
「なあ…あの子…どっかで見たこと…」
 どげしいぃっ
 最後までしゃべりきれぬうちに、あたしの拳で吹き飛ぶガウリィ…あっ!
ショートカットの子にそのまま蹴りくらってる…
 しばし──
「リナあ〜いきなり何すんだよお〜」
 ぼこぼこになって…うぷぷぷ…おもしろい顔…戻って来たガウリィが開口
一番に言い放つ。
「何って…少しは殴られれば、ヨーグルトの脳味噌も固まるかな〜って思っ
たから…」
「でも…何で急に…」
「いいから…どうせまだ気付いてないんでしょ、ガウリィ…よ〜く…彼女の
顔を見て…」
「ああ…」
 ガウリィに今も悲鳴を上げ逃げ回る女の子の顔を見させる。
「見たわね…じゃあ…今度はこっち…」
 そして達也を指さす。
 じー…
 あたしの言葉に従って達也の顔を見つめるガウリィ。状況を知らない人か
ら見たら危ないヤツと勘違いされるのは明白。
「で…質問は?」
「え?質問って…いや…あの…」
「本気で言ってます…ガウリィさん…」
 ジト目で言うアイン。
「いや〜そう言われても…」
 頬のあたりをこりこりかきながらのガウリィ。
 達也が1つため息をつく。
「あのなあ…ガウリィ。もう一度、あいつとオレの顔を交互に見比べてみな」
「…交互に…」
 言葉に従って首をぐるぐるぐるぐる回す彼。そして、
「おおっ!」
 ぽんと手を打ち、
「男と女!」
「わかってそれだけか!炸弾陣っ!」
 地面の爆発と共に吹き飛ぶガウリィと、ショートカットの女の子が喧嘩相
手、最後の1人を片付けるのはほぼ同時だった。


「って…ようするにこの子は達也の妹なわけか…だったらそう言ってくれれ
ば…」
「何言ってんのよ、この間アインが言ってたじゃない。達也には顔がそっく
りな妹がいるって…それでわかるでしょうが」
「え?んなこと言ったっけ?」
 ああ〜やっぱ憶えてねぇし…このクラゲは…
「だいたい…あんなそっくしな顔見て、少しはおかしいとかそんくらいは考
えつくでしょ、普通…」
「オレは考えなかったぞ」
「胸はって言うな!!」
 あたしと達也の間に入りソフトをなめながら歩く少女、名前を田中舞。先
ほどの会話どおり、達也とは双子で妹。改めて2人仲良く歩いてもらうと、
顔や背丈、その表情…髪の毛とその男女の違いによる特徴を抜かせば…本当
にそっくりで、もしかすれば親でも間違えるんでは無いだろうか?と言うぐ
らい。
 なんでも、彼女たちの世界では『シンガー』と言う仕事…歌を歌う人…で
お金を稼いでいるらしい(吟遊詩人みたいな者だろうか?)
「で…ちょっといいかな…えっと…今居さんだっけ?」
「はい」
 達也とアインの間を歩くショートカットより短い髪の少女が達也の言葉に
返事する。
 彼女は今居恵美。とてもボーイッシュな感じで、けどその仕草はやはり女
の子らしい表情をする。髪の毛を伸ばせば、ある意味、シルフィールに似て
なくもないが、性格は多少、あたしに似てなくもない。
 そのことについてはガウリィも納得してたりする…こいつの言い分ではあ
の喧嘩の立ち回りがよく似てるとか…やっかいごとに首を突っ込みたがると
か…あの喧嘩もそういった理由だったらしいし…
 達也が話を進める。
「あんたら2人が、ここにやってくるまでの経緯を話してほしいんだが…」
「ねえ…何であたしには聞かないの?」
「おまえさんだと関係ないとこから話しそうだから…」
「ぶう…」
 そして頬を膨らます。
「あーはいはい。舞ちゃんほらあそこ、なんかワッフルみたいな香りが…」
「えー!ホント!!」
「なに?ワッフル!」
 アインの言葉に声が重なる舞と達也。
『…………』
 …おいおい…
「…達也…あんたまでこの話しにのってどうすんの…」
「…あ…すまん…甘い物を聞くと…つい…」
 全員のジト目が突き刺さり小さくなる達也であった。


「あー、それでこっちに来た経緯なんだけど…」
 舞とアインは一緒に1つの店に行っている。ガウリィを一緒に付けて。あ
の二人じゃ危なっかしそうだし…まあ、ガウリィを付けてもかわんない気も
するが、付けないよりかはましだ。
「えーと…どのあたりから話せばいいです?あたしが10才のころあたり?」
「…頼む…舞みたいなボケは止めてくれ…」
「あーはいはい…って言っても突然だったからなあ…あまり話すことは…」
「突然?ホントに?」
「はい…なんかこう…空気が粘りを帯びて体にまとわりついたような間隔に
襲われて…それから足下が青白く輝いて…そして闇の穴に飲み込まれて…」
 …穴ね…それがゼオの言ってた…そして達也が話してくれた『インフェイ
ルホール』と言うヤツか…
 彼からは簡単にしか聞かされていないのだが、『インフェイルホール』と
は何かしらの影響により歪みによって開かれる、異界と異界とをつなぐトン
ネルをそう呼んでいるそうだ。
 ちなみにダークスターが召還された時のあのゲートは人為的に作られた物
なので、違った物と見られ、『ディリック・ゲート』と呼ぶらしい。
 達也とアインがこちらへとやってくるにも『ディリック・ゲート』を使用
したことはもちろん言うまでもないだろう。
「…で場所と時間だが…」
「場所は流東学園のN校舎屋上、時間は昨日の…でいいのかな…午後の授業
が始まってちょっとってところ…」
「…ふむ……」
 何かを考えながら、彼女を睨む彼。その顔は何かを疑っているようだ。
「…あ…あの…何か…」
「おまえさん…まだなんかかくしてるだろ…」
「…え゛…」
 まともに顔色を変える。
「だいたいうちの学校ってあの時期に転入は認めないはずなんだが。絶対、
新学期にならない限り転入は許さない…これはどういうことだ?」
 物静かに言い放ち、鋭い眼光の達也。彼の体からは殺気までがあふれ出し
ている。
「…えっと…それは…その…」
「なんなら、おまえさんだけ残してそのまま帰っちゃってもいいんだけど…」
「…え゛…」
 達也のいたずら混じりの笑みに、ますます顔色を変える恵美。
 はっきり言って、彼女に選択の余地はない。
「わ…わかりました…話しますよ…」
「よろしい」
「あたし…実は学園から依頼された探偵なんです」
 眉をひそめる達也。
「探偵?またなんで…」
「その…ここ2週間ほど学園内で行方不明者が続出して…」
「続出って何人?」
 今度はあたしが質問する。
「…8人…あたしと舞ちゃんを含めると10人になりますけど…」
「…8人…続出ってことは一編に消えた訳じゃないんだよな…」
「はい。そうです」
 達也の言葉に恵美がはっきりと返事する。
「う〜ん…ますます訳がわかんなくなってきた…」
 ぽりぽりと頭をかきながらなやみだす達也。よっぽど困った顔をして。
「どうしたの達也。わかるように説明しなさいよ」
「あ…ああ…それが…今言えることはたった一つ…彼女が通ってきた穴はオ
レの知らない物だって事ぐらいだな…」
「ちょっと…それ…どういうこと?」
「まあ…リナがそう思うのは無理ないが…オレもそんな疑問で頭がいっぱい
なんだ。一回、王宮に戻らないか。そこでアインと一緒に話しとあてはまる
物があるか探してみるよ…きっと、なんかあるぜ。ゼオに関する何かが…」




**** MEGUMI ****

「どうだ…」
<ダメですね…>
「そうか…本社のコンピュータにも情報はないか…」
 現在、あたしに達也くん、リナさんとガウリィさんがここにいる。ちなみに舞
ちゃんはベットの中で睡眠中。達也さん曰く、「あいつは一度寝ると誰かに起こ
されるまでとことん眠り続ける体質」だそうである。何でも、最高記録5日間、
熟睡していたらしいし…人間?彼女って…
 アインさんはこの船とリンクするため姿が見えない。
 あたし達がいるところは宇宙船のコクピット。
 達也くんが言うには、正式名・201型感情登録知性体DWSMM(ディダブ
ルストゥーエム)変船『アイン』、と言うらしい。
 縦幅48メートル、横幅15メートル、総重量42トン、矢尻型の形をしたブ
ルーメタリック色…この色はアインの趣味&ラッキーカラー…の中型宇宙船なん
だそうだ。
 あたしはまだこの船全体を見ていないから、あんましぴんとこないんで驚きが
そんなに無い。
<…というかこれ以上はあたしや達也のレベルでは進入できません>
「つまりレベル7用のプロテクトがかかっているのか?」
<はい>
 深刻そうに話す彼。その横顔がすごく格好いい。
「オレ達はレベル6までしか見れないもんなあ…」
<中間管理職の辛いところですねえ…>
「なにをゼロスみたいなことを…」
 とリナさん…ゼロス?誰それ?
「なあ…達也…これなんだ?」
「…へ?…」
 間の抜けた声でガウリィさんの方へ彼は振り…
<あああ〜!ガウリィさんそれは!!>
「え?」
 ぽちっ…
『…あっ…』
 …押しちゃった…
『………………』
 ぷしゃああーっ!!!!!
「ひいへえぇー!!」
「うわあっ冷てえっ!!」
 突然、天井から泡入りの冷たい水がシャワーになってあたし達を襲う。
 ぴいやああー、もしかしてこれって消火装置いぃぃーーーー!
「ガウリィのばかああー!なんてことすんのよおーーーー!!!!」
「ええー俺のせいなのかリナ!」
「あったり前だああー!あんたがスイッチ押したんでしょうがあ!」
 リナさんの跳び蹴りがガウリィさんの顔面をとらえる。
<ぴいえぇー、水でショートしてるうう…あたしの可愛いコンソロールパネ
ルぐわああぁぁぁー>
「やかましい、泣いてないで早く消化を止めろお、アイーン!」
 正面にあるなにやらどでかいモニターに、可愛い何かが泣きまくるアニメ
が映っているけど…これって船のデフォルメバージョンとか…結構、お茶目
なんだなあ…彼女って…
 …ごおううぅん…
 あれ?…何か今、小さな振動を感じたような…
<ええーウソ!!!主攻撃用プログラムが誤作動。ミサイルの装てん始めちゃっ
てますう〜>
「ぬうぅわあぁにいぃーー!!!!」
 彼の悲鳴が船内にとどろいた──
 あっ!
 すんごく可愛い、サングラスをかけたミサイルみたいな物が、泣きじゃく
る船の隣でピースサインするアニメがモニターに…ミサイルくんに×点の傷
跡見いーっけ(はーと)


「…だあああ…な…なんとか…間にあった…」
 椅子に座りながら、14インチ位のモニターに達也くんは突っ伏した。
 消火装置も既に停止しており、あたし達全員はぬれねずみ。
「ああ…びっくりしたよなあ…」
「びっくりしたよなあ…じゃないでしょうが…全部あんたのせいでしょ…全
部(努)」
「はははは…いや…わりいわりい…」
「…笑ってすますなよな、ガウリィ…次から次へとトラブルなんか起こしや
がって…終いにはその辺で転がりながら盆踊りを踊るぞ…オレは…」
 突っ伏したままで言う達也くん。
 …今のセリフで盆踊りする姿、想像しちゃった…結構可愛いかも(はーと)
 あれから、消火装置を切り、ミサイルの誤差起動をなんとか止めると、今
度はあのガウリィくん、やれやれと腰掛けた場所がちょうどコントロールパ
ネルの中の重力発生装置の停止スイッチ。
 艦内は無重力状態。その状態にあわてふためいて、更にその辺のスイッチ
を押しまくり、主エンジンの出力を全開にし、オーバーヒート寸前にまでに
追い込んだ。
「もしこれでオーバーヒートが止められなかったらどうなったと思うんだ…」
「…さあ…」
「船は爆発して全員おだぶつ…」
「…げっ…そんなにやばかったのか…」
 青くなるガウリィさん。
「ったく…」
<あのお…達也…>
「なんだアイン?…また、トラブルかなにかじゃないだろうな…」
<いえ…そのお…>
「なんだよ…さっさと言ってくれ。今は服を着替えて、一休みしたい気分な
んだからよ…」
<…正しいパスワードが…そのう…>
「はあ?何?」
<いや…あのね…ガウリィさんがコントロールパネルをむちゃくちゃに押し
まくった時さあ…偶然というかなんつーか…レベル10まで進入できるパス
ワードが入力されちゃったのよねえ…これが…>
 一気にしゃべりまくる。
「…え?…レ…レベル10?…」
<…うん…>
「…マジで?…」
<…うん…>
「………………」
<………………>
 しばらくは2人とも沈黙する。
 それはかなり長い沈黙だった──そして──
 ぎぎぎぃっと、達也くんはガウリィさんの方を向き、
「…ガウリィ…」
<…ガウリィさん…>
 アインさんも彼を呼ぶ。
「…な…なんだ…」
 あっ…ガウリィさんったら、また何か怒られると思って、腰が引けてる…
「<でかしたっ!!!>」
「…え?…」
 2人の声は見事にハモリ、正面のモニタには数多く多種多様の楽器を演奏
しまくる船達の姿がアニメーションした。
 いやいや…なかなか…にぎやかで…


 そして各個人でめーいいぱい力を抑えた火炎球で服を乾かし終えた時だっ
た。
<緊急警告!!>
 突然アインさんの声が部屋中に響きわたる。
「なんだ!なんだ!今度はミサイルでも自然発火したか?宇宙ゴキブリかね
ずみが進入したか?それともその辺の隕石がかすって1ミリ程度の傷でも付
いたか?」
「達也さん…最後の1ミリの傷って…」
「アインなら絶対騒ぐ!!」
 拳を握りしめ言い張る彼。
<あのねぇ…達也。いくらなんでもその程度の傷で…>
「この間、その程度の傷で…モニターに泣いている絵を表示しながら…うる
うるうるうる、うるるのる〜、たあ〜つう〜やあ〜…とか何とか言ってきた
のは、どこのどいつだ?」
<………………>
「…おい…」
<…そう言えば、そんな昔のこともありましたねえ…>
「…昔って…この間、おまえさんのボディを修理するために戻ったときだぞ
…まだ4日ぐらいしかたってないだろうが…」
<…もしかしてウィルスでも進入して記憶メモリがおかしくなったかな?…
すぐに確認してみます…>
 モニターに『うぃるちゅ はんまー』などというタイトルが現れそれが消
えると、検索中とパーセントのゲージが現れる。
「…まだしらをきるきか…こいつは…」
<…検索中…>
「…あーわかった、わかった…もう止めよう…それより緊急ってなんだ?」
<…検…あ…はい…実は…巨大なゲートが…>
「え?」
<ここから200光年先にゲートが開かれた後を感知しました…その大きさ
直径50キロ、中型艦が通れる程の大きさです>




**** RINA ****

「じゃあ…また…あの空を飛ぶ船がセイルーンを襲ってくるかもしれないん
ですね」
 達也の説明に頷くアメリア、けど…その顔は多少、青くなってたりする。
「ああ…多分な…やっかいなことに…」
「あんまり、来て欲しくないです…」
「そんなこと言ってらんないわよ…いくらあたし達が、その船だけは止めて
下さい、お願いします、プリーズ!…なあーんって言ったところで、はいそ
うですねえ、だったら止めましょうか…って答えてくれるわけないし…」
「そうですよね…」
 あたしの言葉にため息混じりで返事する彼女。
 まあ、ゼロスみたいな相手だったら、「そうですね、だったら止めておき
ましょう」っとにこにこ顔で言ってくれるかもしれないが…ただし、「その
かわり…」とかいう条件が付くとは思うけど…
 王宮の一部屋にある一つの大きなテーブルに各個人個人が席に着き、ジュ
ースやお酒を飲みながら、あたし達はこれまでに仕入れた情報を交わしあっ
ている…それと達也の妹の舞はいない。まだどこかの部屋で熟睡中らしい…
 っといっても、アメリアとゼルの方は情報があるわけでなし、かというあ
たしのほうと言えばせいぜい、あたしの名をかたって自英伝を書いているヤ
ツは見つからなかった…ゼロスだったという事実をあかしてしまったら、お
金をもらってそのまま許してしまったことまで話さなくてはならないので、
黙っている…ぐらい。
 そして、達也達が見つけてきたそのゲートと船が通ってきたんではないか
と言う話を今なされていたのだ。
「で…達也、あの2人が通ってきた穴だけど…」
 恵美と舞の2人がこちらにやってくることになった『穴』の話はまだ聞い
ていない。
「ああ…そうだったな…リナには言っておいたよな、2人が通ってきた物は
特徴を聞く限りオレの知っている物はないって」
 こく…あたしは無言で首を縦に振る。
「それにはまず、『インフェイルホール』と『ディリック・ゲート』の特徴
を上げて話さなきゃな…まず先に、恵美ちゃんから話を聞く前から『インフェ
イルホール』だけは違うだろうと思って除外したんだが…」
「除外?なんで?」
「2人が記憶をもっていたから…『インフェイルホール』の通り道にはとん
でもねぇ、エネルギーが充満しているんだが…普通の人間がそれに触れたら
…死ぬとまではいかないが…そのショックで記憶を失うとか…体の一部が動
かなくなっちまうとか…といっても、記憶をなくすつー方が断然確率が多い
んだが…そう言うことが起こるんだ」
「つまり、2人があんなに元気に喧嘩してるし、舞ちゃんはあんたのことを
ちゃんと憶えていたから…そういう事ね…」
「ああ…んで、核心をもったのは、8人の生徒が次々と行方不明になってい
る、って聞いたときだ」
「おおー、そういやそんなこと言ってたっけ…憶えてる、憶えてる…」
『………………』
 と、手をぽんとたたきながら言い出したのは、おおぼけ大王ガウリィくん。
『…おい…』
『…なっ…』
 それぞれ、2組の声がハモる。
「ちょっとガウリィさん!!何でそんなことを憶えていられたんですかあ。
そんなのガウリィさんじゃないですよ!!!!」
「…こりゃあ…明日にでも、槍の雨が降るな…明日は外に出ない方がよさそ
うだ…」
「…お、おまえらなあ…」
 アメリアとゼルの言葉にガウリィは苦笑い。
 …まあ…2人の気持ち、わからないでもないけど…
「あー、大丈夫大丈夫。ゼル、明日は槍の雨なんか降らないから心配しない
で…」
「だろうリナ。オレだって聞くときはちゃんと聞いているよなあ…」
 そのガウリィの言葉に無言のままジト目を返すあたしと達也。頬のあたり
をぽりぽりかきながら、キョトンとしている恵美はどうやら気付いていない
ようである。
「あのねぇ…ガウリィ…あんたがそんなことを憶えているわけないでしょう
が…」
「そんなことないぞ。俺はちゃんと憶えてるぞ。うん、確かに言っていた」
 腕を組みうんうん頭を動かす彼……だからなあ……
「…ガウリィ…」
「ん?なんだ達也」
「…言っておくが、それは気のせいだからな…」
「達也までそんなこと言うのかよお…」
「…だってよ…あの話、聞いてたのオレとリナだけだぜ…」
「…あっ…」
 …やっと恵美も気付いたか…
 あたしと達也の顔を交互に見るガウリィ。
「…え…そう…だっけ…」
『うん!』
 彼の言葉に2人は力強く頷いた。
「ふっ…やはりな…」
「やっぱり…ガウリィさんはガウリィさんだったんですねぇ…」
 完全に納得してる2人。
「ま…ほっといて、話し続けましょ…行方不明ってとこだけど…」
「…ん…ああ…えっと…次々と消えていったてーのが実は問題でな…」
「どういうことだ?」
 ゼルが身を乗り出す。
「『インフェイルホール』ってーのは、1日や2日でぽこぽこぽこぽこ開い
たりしたりはしないんだ。もしそんなことになったら、神隠しなんかは日常
茶飯事になっちまう」
「…ふむ…なるほど…一理あるな…」
「じゃあ…ゲートの方は?」
「それは至極簡単です」
 あたしの言葉に達也ではなくアインが言う。
「人一人がすっぽり入れるゲートを一瞬で開けることは出来ないからです」
「そっ恵美ちゃん、言ってたよね突然の出来事だったって…」
「…う…うん…」
 彼女は自分にウィンクをしながら言う達也に赤くなって返事を返す。
 …おや……もしかして…彼女…
「どうしてなんです…一瞬で開かないのは…」
「ゲートを開く方法は空間を歪めるんではなく、ねじって開けるんだ」
「ねじる?」
「そう、たとえばここの空間ともう一つの亜空間…そうだな…精神世界面…
とねじりながら一つにつなげる…そうするとどうなる?」
「ええっと…」
 その後、腕を組みながら達也がゆっくりと口を開く。
「なにも変わらないなあ…」
『………………』
 …おいこら…何じゃそれは…しかも遠い目でどこ見てる!おまいは!!!
「さて冗談はこのへんにしてっと…」
「…達也…あんたなあ…」
「まあまあ、子供がしたことだから…」
 …なに…シルフィールみたいなことを…
「話の続きだけどよ…ゲートを開くのにはねじるって言ったろ…けど、ただ
1回だけじゃなくて、何度も何度もねじるんだ。言ったろ。開くのに時間が
かかるって…そのためなんだよ」
「ふ〜ん、でも何のために?」
「さて、ここで問題です。2枚の紙を重ねて何度もねじると、いったいどう
なるのでしょうか?」
「ちょっとまてい…いきなりクイズかい…」
「正解者には6泊7日の温泉旅行をペアでご招待(はーと)」
 指を1本おったててにこにこ顔で言う達也。
「ええー!本当ですか!ゼルガディスさん、是非とも正解しましょ」
 喜びをあらわし、ゼルの手を握るアメリア。
「こらこら…冗談を真にうけんじゃないの…」
「あはははははは…」
 部屋に達也の笑い声が響いた。

 追伸..達也の言う正解には、紙を何度もねじったところがぶちきれると
のこと…まあ、当然のことなんだけど…ただ空間を一枚の紙に見立て、同じ
ことをしてみる…ちぎれた時の後は…穴が開く……そう穴なのだ…そして、
切れて手に残った方が言うなれば扉になる…つまりそれがゲート…彼らの言
う『ディリック・ゲート』──


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4012−3猫斗犬 E-mail 11/7-20:03
記事番号346へのコメント
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 『スレイヤーズSTS』 
  第2話 ”舞い降りた者 運命の異界の天使”3回目
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**** RINA ****

「さて…ほんじゃそろそろ始めるか…」
「はい」
 達也の言葉にアインが返事をすると、彼女の目の前になにやらおかしな光
が現れる。2つの長方形がLの字…う〜んと…本を開いてLの字にした感じ
…の光であった。
「ノートパソコンみたいな形していますね…」
「実際そのような物かな?電子結合によって投影固体化されている、ジェク
トパソコンって言うんですけど…」
「…へぇ…って…ありゃ…」
 感心しながらその光に触れようとする恵美の手が素通りする。
 どしゃ…
 そのまま、バランス崩して転んでやんの…
「おい…大丈夫かよ…」
「あーいたたたたたた…大丈夫、大丈夫…」
 そう言いながら出す達也の手を借り、言葉に答えながら顔を赤らめて立ち
上がる彼女。
 その赤い顔はただ恥ずかしかったからかな…それとも…
「さて…それじゃ始めるぞ」
 恵美が椅子に座り直すのを確認してから達也がアインに言う。
 その言葉と一緒にアインは光に手を置く。
「始めるって何を始めるんですか達也さん?」
「明日のまたは明後日の戦いに備えての、全員の武器類などの強化」
「…えっと…つまり…」
 アメリアの言葉に達也は一つため息をつくと、
「船のこともそうだけどよ。今度の敵が前の時より同レベルで…ましてや弱
い敵になるとはとても思えないんだ…もし、もっと強い敵が現れたりすると
どうする…こんども、今の実力のオレ達だけで勝てると思うか?」
「……う…思わないです……」
 小さな声でぼそりとつぶやく。
 確かに彼の言うとおりだった。あたし達のもつ呪文では、この間の敵であっ
た魔道士の結界をうち破るにかなり苦労したのだ。
 何せ竜破斬に2重の崩霊裂を携えた、光の刃でなんとかうち破ったぐらい
である。
 もし、それ以上の敵が現れたら…はっきり言ってあたしの神滅斬でしか破
る方法が無くなってしまうかもしれない。
 ましてや数人でかかられたら…手のうちようが無いだろう。
 それを達也は言いたのだ。
「けど…武器類の強化ってどうするのよ」
「例えば、この間ガウリィに貸した剣をずっと持っておいてもらうとか…」
「え?もしかしてくれるの」
「貸すだけだ、貸すだけ…」
「…なんだ…けちっ…」
 どうせ自分たちが使うんだから、そんくらいプレゼントしてくれてもいい
でしょうが…
「しょうがないだろ…後で会社の方から叱られるのはオレ達なんだから…」
「だったらさ、この間みたいに無くしたって言えば…あのカプセルみたいに
さ…」
「むちゃいうな…あのカプセルは値段的にはそんなにかかんないし…使い捨
てだったんだぞ。それに何度も何度も、落としたとか何とかの理由で誤魔化
せるわきゃないだろ…」
「…ちぇっ…ゆうずうがきかないわねえ…」
「…あのな…」
「…じゃあこうしよう…達也…あんたがあたし達を雇うってーのはどお」
「雇う?」
「そう、んでもってガウリィに対しての依頼料があの光の剣ってことで…も
ちろん個人個人依頼料はもらいますけど…」
「…おいおいおい…んなむちゃな…」
「あっあたしその提案賛成です」
「おい、アイン」
「いいじゃない達也。会社でも、そう言った提案はのんでもいいように言わ
れているし」
「けど…あの剣じゃ…ちょっと破格すぎねえか?」
「そうでもないですよ…今回の事件はかなりのやまですからね…このくらい
の依頼料でも充分だと思いますし…」
「…う…言われてみれば…」
「それに、そう言った依頼として雇った方がいいと思いますよ。リナさんっ
て自分に得をしないときは、全然本気出してくれないみたいですし…」
「…確かに…」
「…いえてます…」
 アインのセリフにゼルとアメリアが口々に納得の言葉を吐く。
 …おい、こら…それはどういう意味だ…
 しばらくの沈黙。
「…わかったよ…みんなを雇うことにしよう…」
 そして、達也がおれる。
 よっしゃ!商談成立!!
 これで魔力剣探しの旅もしなくてすむ………あ…でも、そうなるとあたし
がガウリィと一緒に旅をし続ける理由がなくなる……う…う〜ん…
 腕組みして考え込む。
「どうかしたんですか?リナさん」
「え?あ!ううん…なんでもないよ…なんでもない…」
「そうですか?」
 いぶかしげな表情のアメリア。
 …うう〜ん…理由かあ…どうしよう…


「…じゃあ…次…」
 あたしの内心の同様など意にかえさず達也がため息をつき言うと顔をゼル
の方へと向ける。
 突然、立ち上がるゼル。
「…ん?…どったのゼル?…」
「リナ達は知っているだろう。俺は今、元の体に戻る方法を探している。こ
んな仕事をする気はない…」
 ゼルが言い放ち、
「…それとも、2人が元に戻してくれるのか?まあ、無理だろうがな…」
 そしてドアへ歩み出ていこうとする。
 …そうだ…ゼルは今でも、元の体にに戻るための方法を探しに旅を続けて
いる…何せ、こんな時でもこのセイルーンにある国立図書館に行って何かし
らの情報を探しているくらいだから。
「…元の体って?…」
「ええ実はある魔道士にキメラにされて…」
 恵美の疑問にアメリアが小さな声で答え、
「あれがゼルガディスさんの姿じゃないんですか?」
「…キメラ化された体を元にか…それなら何とかなるけど…」
 達也と恵美の全く違った言葉が重なる。
 ……え?
 ゼルの歩みが止まる。ゆっくり達也の方に振り向き、
「…おい…今…おまえ…何って…言った…」
 ゼルが切れ切れな言葉をつむぎだす。
「え?何って?」
 きょとんとした顔の達也。
「そうです…今…何とかなるって達也さん言いましたよ…」
 言いながら意味もなくテーブルに片足を置き、天に向かって拳をふるアメ
リア。
「もし嘘をついているのなら、それは悪です。あたしが天に変わって成敗し
て上げます」
 その握った拳の手を達也に向け指さす。
 しばらくは誰も口を出さず、わけのわからぬ緊張が空気を張りつめる。
「はいはい…もう気が済んだでしょ…これ以上あんたが入り込むと、話がこ
じれるから、とっととそっから足どけて、椅子に座って黙ってなさい」
「…は、はい…」
 手をたたきながら言うあたしの一喝に返事を1つ、アメリアは静かに椅子
で縮こまる。
 あたしはもう一度口を開く。今度は達也へ。
「ねぇ…本当に?…本当にゼルの体、元に戻せるの?」
「ああ…準備には時間がかかるけど…」
「かかるって、どのくらいなんですか?」
「えーっと…まず…手続き用の資料作りに1日だろ…」
 アメリアの質問に、達也が手を自分の目の前にかざし指を折りながら日数
を数える。
「…で…チーフに許可をもらって上層部に連絡がいくのに2日…それから…
手術の準備に18日かかるって…言ってたかな?…となると…合計…うん…
ちょうど3週間だな…」
「…3…週間…」
 つぶやくゼル。
「…は…はははは…」
 そして感情のない笑いをしながらこちらにゆっくりと戻ってくる。
「…あの…ゼルガディスさん…」
 心配するアメリアの横を通り過ぎ、
「…ははは…3週間後に…手術を…受けられる…そして…元に…ははは…」
 …ぶつぶつぶつぶつ…
 ぴたっ!
 達也の前で歩みを止める。
「…あ…あの…なにか…」
 ただならぬ雰囲気に達也は怖じけづき。
 ぐわあしいぃっ!
「ひいぃ…」
 とゼルが一瞬にして両手で達也の両肩をつかんだかと思うと、
「頼む!達也!!手術を!!!」
 ごおおおぉぉぉー!!!
 うおっ!ゼ、ゼルの体が燃えてる!!
 …す、すんごい気迫…
「そ、その手術を俺に!俺に受けさせてくれええええぇぇぇぇぇぇぇっ!!
!!!!!!」
 言いながら達也の体をぶんぶかぶんぶか前後に揺さぶる彼。
「た〜つ〜や〜!」
 揺さぶりが激しくなる。
「…ちょ…ちょ…ゼ、ゼルガ…げほ…」
「たのむううぅぅぅーー!」
 …更に激しく…あっ白目むきかけてる…
「…わ…わか…わか…わか………………………」
 そして──彼は沈黙した──


「…げほ…けほ…ああ…死ぬかと思った…」
「す…すまん…つい取り乱した…」
 少し赤くなりながら謝るゼル。
「…まあ…いいけど…」
 少しジト目の達也。
「…そ…それで…手術の事だが…」
「…いいよ…」
「へ?」
「だからいいってば…OKだよ」
「ほんとか達也!そんな簡単に…」
 言いながら立ち上がるゼル。
「うん…ただし…」
 達也の次の言葉をゼルは片手で止め、
「…わかってる…依頼のことだろ。任せておけ…あんな奴ら、この俺が全て
片付けてやる…」
 静かな口調でにやりとしながらゼルが言う…そん時の目がおもいっきしす
わってたりするが…でもね…ゼル…そう簡単にはいかないと思うよ…相手は
結構強いし…
「そうじゃなくってさ…」
「そうじゃない?」
 アメリアが言う。
「この仕事が全て片づいてから手続きをとるつもりだから…ようするに事件、
解決後、3週間たってから手術ってかたちで…」
「あ…なんだ…そんなことか…別にかまわない、戻れるのならな」
「んじゃ…商談成立っと…アイン…本社にメールおくっといてくれ…」
「ほいほい…」
 そう返事をするとアインの指が激しく動き出す。まるでピアノを弾くよう
に『ぱそこん』とか言う物をたたいている。
「…ふ、ふふふふふ…そうか…ついに…ついに戻れるんだな…俺は…」
 両手を見ながら一人含み笑いする彼。
「おめでとうございます。ゼルガディスさん」
「おめでとう。ゼル」
 アメリアとあたしの順に笑顔と一緒におめでとうの言葉を送り出す。
「…あ…ああ…」
 今まであたし達が見たこともないような、多少の照れを隠した笑みを見せ
るゼル。
 ぽんっ
「…よかったなあ〜ゼル…」
 会話には黙ったままいっこうに加わらず、忘れられた存在だったガウリィ
が彼の肩をたたきながら突然会話に紛れ込んだ。
 そこにはいつもどおりの屈託のない笑顔。
「ああ…ありがとう…ガウリィ…アメリア…リナ…」
 素直にお礼の言葉を返すゼル。
 ホント…ゼルってあの体には苦労してたからなあ…自分の事のように心の
底からすごく嬉しと思えてしまう…仲間として…
 くうぅ〜…なんか、目頭が熱くなってきたよ、あたしゃあ…
「なんかこう…こっちのあたし達も嬉しくなってきちゃいますねぇ…」
「…ああ…」
 ゼルの苦労をなに1つ知らないはずの達也達もとても嬉しそうな顔をして
くれている。
 ガウリィが口を開く。
「…で…何がよかったんだ?」
 ちゅどーんっ!
 全員、自爆。
「…こ、こここ…こら…ガウリィ…こんな感激のシーンで…なんちゅう、大
ボケを……あっ!…あんたまさか…こんな時まで寝てた…なんて言うんじゃ
あないでしょうね!!」
「…ね…寝てたって…ふつう寝るか?あー言う状況で…」
 テーブルの下から言いながら顔を上げる達也。
「…え?…あ…いや…ちゃんと起きてたけど…」
 嘘をつけっ!
「ただ単に忘れてただけで…」
『よけい悪いわあー!』
 ほぼ、全員の声がハモった。
 あんな、ほんの少し前のことを忘れんじゃないいぃぃっ!!!


「…なんで、あんたらと係わるとたいしたこともしてないのに、こんなに疲
れるんだろ…」
 達也の言葉にゼルが口を開き、
「まあな…その気持ちは俺にも…」
「…ゼルガディスさんには気絶させられるし…」
「………………」
 達也のセリフに途中で沈黙。
「…さて、ほんじゃまあ…次はアメリアさんだけど…」
 達也の顔が彼女を向く。
 すると、どん!っと片足でテーブルを踏み、
「あたしがほしい物は、もっともっと、熱く燃える正義の炎!」
「んなもん、あるかいっ!!!」
 達也が大声ではっきり言い放つ。
「ええ〜?無いんですかあ〜」
 …確かに…あったら、めちゃ怖いわ…
「あ〜もういいや…彼女はその辺にほっぽらかして…次はリナだけど…」
 こめかみあたりを手で抑えながら疲れた顔で彼はあたしを見る。
 次はあたしか…あたしがほしい物は決めてある。ちょっと変わった依頼料。
 あたしの顔を見て達也は一つため息をつき。
「……どうせ………金だろ…」
「…おい…なんだその…どうせ…ってーのは…」
「正しい文章の使い方」
「…あ…あのね…言っておくけどあたしが欲しいのはお金じゃないわよ…」
「ええぇっーー!!!!!!」
『なにいっーー!!!!!!』
 うおっ…あたしの言葉に驚きを上げる、アメリア、ガウリィ、ゼル。
 って…なんでこんな時だけ人の話、ちゃんと聞いてるかなあ…ガウリィは…
「正気かリナ!!」
「リナさんがお金をいらないだなんて…ああ…なんて恐ろしいセリフ…」
「信じられん、あの金に汚いリナがなあ…」
「リナ、何か悪い物でも喰ったんじゃ…」
「きっとこれはバックにいる悪がリナさんをあやつっているのよ!!」
「ふっ、やはり明日は、槍の雨が降るな…」
 3人は交互に話す。
「…お…おまいらなあ…あたしが金をもらわないのがそんなに珍しいか…」
『珍しい!!』
 あたしの言葉に3人の声がはもった。
「リナ、もしかして熱でもあるんじゃないのか」
 そう言って過保護な保護者ガウリィくんがあたしの額をさわろうとする。
「ちょ…ちょ…ちょっとそんなの無いわよ…勝手にあたしの額にさわろうと
するんじゃない、ガウリィ!!!」
 ガウリィの手を遮り後ろに少し下がり逃げる。
「…顔が赤いぞ…」
「うっさいよ…ゼル…前にも使ったつっこみすんな…」
「…ほら、リナ…逃げないでちゃんと熱を…」
「…だから、やめてってば…」
「…ああ…すてきな光景です…リナさんとガウリィさん。あつあつで…」
「くおーら、アメリア。何、勘違いを…」
「…やっぱり、顔が赤い…」
「…しつこいぞゼル…」
「…やっぱり…熱が…」
「だから無いってば…」
 しばらくはあたしとガウリィの「ある」「ない」の押し問答が続いた。


「…で…続きいいか?」
 しばらくして、ぼつりとつぶやく半眼の達也の言葉に、あたし達は我に返っ
た。
「あーごめんごめん…ほら…ガウリィ…あんたのっせいで怒られちゃったじゃ
ない…」
「お…俺のせいか?」
「そうよ…それで依頼料の事だけど…」
「なんなんだ、金では手にはいんないようなものなんだろうな…どうせ…」
「もちろんよ…実はね…」
「…実は?…」
「21泊22日…達也の世界体験ツワー、4人様ご案内ー!!ちなみにあた
し達が買いたくなった物は全部そちら負担!」
 ──しばし沈黙──
「…はっ?…」
 あたしのセリフに、彼の口からやっとこさ出たのは間の抜けた返事。
「あれ?もしかして聞こえなかった?もう一度言って上げようか?」
「いや…そうじゃなくて…」
「本気なんですかリナさん!」
 達也の言葉を遮ってアインが割ってはいる。
「え?いや…本気だけど…やっぱまずい?これって…」
「まずいなんて物…」
「おもしろい提案じゃないですか(はーと)」
 どしゃあっ!
 再び言葉を遮られ、あたしの手を握りながら言い放ったアインの言葉に、
盛大に椅子ごとひっくり返る達也。
「なるほど、そいつはおもしろそうだ…」
「でしょ、ゼル(はーと)そう思って、4人全員にしたのよ」
「ナイスアイディアです。リナさん。もしかしたら、向こうにもあたしの正
義に燃える心を広めることが出来るかもしれませんね」
「そうそう」
 燃えまくりながら言うアメリアの言葉に無責任に頷いてやる。ここで反論
されると全てパアーだし…
「…お…おい…」
 達也の呼ぶ声。でも無視!
「でも、ちょっと難しいですね、これって…2人分の依頼料でなら何とかな
るんですけど…」
「だったらアインさん。あたしのを使って下さい。それなら大丈夫ですよね」
「はいはい…それなら大丈夫。万事オッケー、パーフェクトです(はーと)」
「それに、これってある意味、アメリアのためだったのよねえ…」
「え?」
「だってさ…フィルさんが王位に即位すると、アメリアは自由に旅とか遊び
に行くなんて出来なくなるからね。ここでパアーっとみんなで思い出を作っ
て…」
 …うそ(はーと)…心の中で舌を出す。
「…リ…リ〜ナ〜さ〜あ〜ん〜」
 目をうるうるさせて感動してくれるアメリア……う……な、なんか、騙し
ているので、すごい罪悪感が…
「ガ、ガウリィも、もちろん賛成よね」
 顔に出て、ウソがばれないうちにガウリィに話を振る。
「…あー…いや…その…」
 …………うう〜ん…やっぱり…今の話に理解力がついていけなかったなこ
いつは…ふむ…よし…
「ガウリィ。向こうに行けば、あたし達の知らない美味しいご飯が待ってい
るかもしれないわよ!!」
 一瞬、ガウリィの目が光り輝く。
「おおーっ!何だかわからんが。それなら大賛成だ!!!」
 いきなし、盛り上がる彼…単純なヤツ…
「とっ言うわけで全員、意見が一致したことで、21泊22日の異世界ツア
ー決定っー!!」
『おおーっ!!!!』
 全員の腕が上がる…ゼルはちょっとだけ恥ずかしがって、小さく腕を上げ
たけど…
「…お…おまいら…なあ…」
 達也がつぶやく。その彼に恵美が肩をぽんっとたたきながら、ため息混じ
りに首を振り言う。
「…大変ですね…達也さん…」
「…しくしく…」


 ──夜──
 あたしは眠れずに、少し夜風にあたるつもりで廊下を歩む。
 気持ちいい風があたしの頬をなぞる。
 明日には又あいつらと戦うことになる。
 そのための戦力強化は全て整った。
 まずガウリィには、依頼料としてもらった『光の剣』。
 特徴、その1──昔に持っていた光の剣のデザインとまったく同じように
してもらったこと。
 特徴、その2──使用する者の意志で、色々な形に変化させられると言う
こと…もちろん、光をそのまま飛ばすという事もできる。
 特徴、その3──この剣に刃を作れるのは、あたしにガウリィ、ゼルにア
メリア、そして達也の5人だけということ。もし、敵に剣を奪われた時に、
使われないための配慮である。
 そして、後は彼が身につけているアーマに、魔力処理をおこない防御力を
高めた。もちろん、他のみんなそれぞれにも身につけている物に、防御力の
強化を施したが、ガウリィは接近戦による戦い方のため防御力が1番高くし
てある。
 次に、魔法戦をメインにしているあたし、ゼル、アメリアは3人とも魔力
増幅用のアイテムを施している。
 ゼルとアメリアは増幅用のブレスレットをもらい、あたしはタリスマンそ
のものに細工を施している。しかも、そのタリスマンに達也の世界で使われ
ている文字呪文を利用し、増幅呪文を唱えなくてもいいようにしてある。
 それなら攻撃魔法用の文字呪文を用意したらと聞いたが、それにはまたい
ろいろと問題があり、すぐには用意出来ないそうである。
 詳しくは教えてくんなかったけど…
 さらに少し歩き、1つの人影を見るとあたしの足が止まった。
 廊下の窓に…大の大人が3人横に並んで顔を出し、夜風にあたる一人の少
女──恵美だった──
「どうしたの?恵美」
「え?あっリナさん」
 今初めて気付いたのか、驚き目を見開く彼女。
 あたしは彼女に近づき、窓に手をかけるとそのまま窓のさんに座る。
 そして一言つぶやく。
「やっぱり、落ち込んでたんだ…」
「え?」
 勢いよく頭を上げ、あたしの方に再び驚き顔を見せる。
 そして少しして冷静な顔に戻ると、
「そりゃまあ落ち込みますよ…はっきりとあんなこと言われちゃったら…」
 顎を窓のさんに乗っけながら彼女はため息と共につっぷす。
 実はこの彼女、あたしたちと一緒に戦ってくれると志願してくれたのだ。
 が、その申し出を達也が断った。
 その理由が、「戦いを知らずに育った人間を加えるのは爆弾を抱えるのと
同じ事だ」ということ。
 まあ…確かにそうなんだけど…まったく…もう少し、言い方ってものある
でしょうが…
 そして、もう1人…達也の妹の舞も戦いには参加しない。
 かなりの魔法容量があるとあたしは睨んだんだけど…達也の話だと、魔法
のコントロールがへたくそで、とくに強力な物を使うと必ず暴走させてしま
うとのこと…それって、ナーガと同じって事かしら…だったら止めておこう
…セイルーンが崩壊しちゃうわ…
「…でも、達也さんの言うことも一理あるから、納得しちゃってるんですけ
どね…あたし達の世界はとても平和だから…こういうことは不慣れなんです
…そういう時のための訓練を受けている人もいますけど…」
 彼女が伸びをする。空を見上げ星を眺める。あたしもそれにつきあい、空
を見上げる。
「リナさん…しってます?星は人を魅了して心を洗い流してくれる…って言
葉…」
「…なんじゃい…いきなし…」
「え?知りません?こっちの世界には無いのかな?」
「…いや…まあ…知ってることは知ってるけど…誰が言い始めたのかは知ら
ないわ…知りたくもないし…」
「あははは…それはあたしもしんないや…」
 やっと彼女から笑みがこぼれた。
「あたし、嫌なことがあったら、いっつも星を眺めて全部忘れちゃうんです」
 両手を広げクルリと一回転し、彼女のスカートが花開く。
 そして、頬のあたりをぽりぽりとかき、
「まあ…時々、長く眺め過ぎて次の日に風邪ひいて熱で寝込んじゃうという、
もっと嫌なことが起こっちゃこともありましたけど…」
 赤くなって一言付け加える。
「うぷっ」
 つい吹き出した。
「あ…やっぱし笑った…言うんじゃなかった…しくしく…」
「あはは…ごめん(はーと)ごめん(はーと)つい…」
「ついじゃないですよ、風邪をひいたときはホントにめちゃくちゃ人生で一
番嫌なことだったんですから…しくしく…」
 …あ…角で丸くなって『の』の字書いてる…しかも青白い火の玉が、彼女
の周りを、ゆらゆらと浮遊してるし…
「…幽霊かい…あんたは…」
「いや〜夏のバイトの『お化け屋敷』ん時に憶えた、火の玉を出す呪文なん
ですけどね、これって…こう言うときには重宝するんですよ…リナさんにも
教えてあげましょうか?」
「いらんわいっ!んなもんっ!!」
 笑顔で進めてくれる彼女に、あたしはきっぱり断った。


「ねえ…恵美…」
「なんですかリナさん?」
「達也の事どう思ってるの?」
「えっ?えっ?え?え?え?ええー?」
 あたしの言葉に、赤くなって驚きの声を上げる彼女。
「…と…突然、何聞くんですかあー!」
 そして、一気にしゃべりくり、そっぽを向く。
「突然って…あたしはただ単にどういう人に見えるって意味だったんだけど
お…なあーに勘違いしてんのかなあー?め・ぐ・み・ちゃん(はーと)」
「………………」
 意地悪そうな目をしながら彼女のほっぺをつついてみる。
 そのほっぺをぷっくりと膨らまし、こちらを睨む彼女。
 …くすくす…可愛い反応してくれるじゃない…いやあー…人をからかうのっ
て楽しいねぇ(はーと)
「…惚れてんでしょ…達也に…」
 ジト目の彼女。
「………………」
「…うりうり…白状しなさいよお…」
 …つんつん…さらに頬を突っつく。
「………………」
 …つんつん…
「…や…やっだなあ…もう〜…」
 …おり?…突然、彼女は赤らめた顔を両手で覆い隠し…恥ずかしいと言わ
んばかりの動作をし、
「…リナさんったら…」
 …ちょっと…さっきまでとは全然違う反応をしてる…
「…からかわないでください……よお!」
 ばちんっ
 顔を赤くしながら彼女が…見た目では軽く、あたしの肩をたたく……って、
うおっきゃ……
「うわわわわわ…」
「きゃああー!リナさん!!!」
 バランスを崩し窓から落ちそうになるあたしを慌ててひっつかみ、恵美が
廊下に引き下ろした。
 …はあ…ぜい…ぜい…はあ…お…落ちるかと思ったぞ…今の…マジで…
 しかし、今のはなんだ…彼女は軽くあたしをたたいたのに、すごい力で押
されたような…
 恵美がにこにこ顔で指を一本おったてると、
「ダメですよリナさん。こんな所に座ったら。落ちたらどうするんです。ちゃ
んと先のことを考えないと…」
 …にこにこにこにこ…言い放つ。
「…何言うか…あんたがあたしを落とそうとしたんでしょうが!!」
『………………』
 …しばらくの無言……そして彼女が窓の方を向くと、
「あっ!綺麗なお星様っ!!!!!」
 可愛い声をだし、目をきらきらさせ、手を組んで空を見上げる。
「…おひ…」
 …こいつもしかして…からかってたおかえしとばかりにあたしを驚かせた
わね(努)…いい根性してるじゃないの…
 …きらきらきらきら…
「…ねえ…恵美…」
 …きらきらきらきら…まだ、空を見上げ続ける彼女。
 いや…もうそれはいいって…
「もう怒ってないから人の話を聞いて…お願い…」
 …きらきらきらきら…
「………………こら…」
「………………な…なんでしょう…」
「納得してないでしょ」
「はい?」
 彼女、間抜けな返事をする。突然変えた質問に頭がついていけなかったか
な?やっぱし…
「戦いに参加できないって言われたことによ…」
 あたしは言い直す。
「ああ…そのことですか。そりゃあ…そうですよ。やっぱり、呪いのわら人
形でも作って、階段から転げ落ちろー転げ落ちろーって毎晩毎晩、呪ったあ
げく、その呪いのせいで足の骨を折ってたら指さして笑って、最後にその足
にのかって彼の悲鳴を聞くまでは、うっぷんは晴れないし、諦められません
!!!」
 一気に彼女はしゃべくる。
「…おひ…」
「ま、冗談ですけど」
 さらりと言って、明後日の方向を見る彼女。
「ほんとかしらね…」
 それにジト目のあたし。
「ほんのちょこっとだけ本気…今からでも実行してみようかな?」
 …こらこら…味方の戦力を減らしてどうする気だ…
「ってことはなに…やっぱひまだ、戦いに参加するつもりなのね…」
「そりゃまあ…『ナイトの戦いを見守るお姫様』ってがらじゃないですし…
あたしは…」
 彼女が言うと肩をすくめる。
「止めたって無駄のようね…」
「当然です」
 真顔で頷く。
「わかった…あたしから達也に頼んでみる」
「リナさん!?」
「そのかわり…」
 ぐわし…彼女の手を握る。
「…向こうでの観光案内頼んでもいい?同じ世界なんでしょ達也と?」
「…は…はいっよろこんで!」
「じゃ、商談成り…」
 からんっ
『!?』
 突然、軽い金属類の音が闇に響いた。
 あたし達は慌てて身構える。
 ころころころころころ…
『………………』
 それがあたしの足下にまでたどり着く。
「これは…魔力増幅のブレスレット?何故ここに?」
 いぶしか目にも思いながらもそれを拾い上げる。
「でも、ゼルガディスさんやアメリアさんがもらったのとは色が違いますけ
ど…」
 そう確かに…2人がもらったのは緑っぽい色…けど…この色は…青色…確
か……あ……そうか…あいつ〜う…立ち聞きしてたな…
「リナさん?」
「恵美…これはあなたが持っていなさい…使い方はわからないけど、何かの
役には立つはずよ…」
「あ…は…はい…」
 そして恵美がそれを受け取る。
「じゃあ…そろそろ寝ましょ…夜更かしは美容の大敵だもんね(はーと)」
 そして、あたしたちはその場を後にした。

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4022−4猫斗犬 E-mail 11/7-20:07
記事番号346へのコメント
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 『スレイヤーズSTS』 
  第2話 ”舞い降りた者 運命の異界の天使”4回目
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**** RINA ****

 今日この日が決戦になるのか、それとも明日がその日になるのか、それと
も…ゼオいわく…パーティとしてで終わるのか…
 その戦いにあたし達は生き残ることが出来るのか…
 陽が登り、そんな思いを秘め、きりりとした真剣な表情を朝日が眩しく照
らしだす。
 …………………………
 …………………………
 …ふわあぁっ…
 口から欠伸が飛び出す。
 …ねむい…
 …格好いいセリフを並べたところで、寝ぼけ眼のパジャマ姿じゃあね…
 …さっさと顔洗おっと…


 着替えも終え、あたしが部屋を出るとすぐに恵美と出会った。昨日の夜、
ちょこっと会話を交わしたあの場所で。
 とてもすがすがしい笑顔で朝日を眺め、何かを口ずさんでいる。
 どこで手に入れたのか、昨日のスカート姿とはまるで違い、青に紺が混ざっ
た少し暗めのズボンに真っ白なアンダーシャツ。そしてシャツの上にボタン
がごじゃごじゃとくっつく、ズボンと同色の服を羽織るという、どこぞかの
誰かさんと同じ格好。
 今日の戦いのため、彼女なりに動きやすい服にしたのだろう。それだけこ
の戦いの大事さを理解しているのだ。
 …まあ…彼女には多少大きめのようだが、袖や裾を折り捲りしたりして調
整しているし…問題はないだろう…ただ、男服のように思えるが…それとも
そういう服なのか…
「おっはよう、恵美。早いじゃない」
「あっ、おはようございます、リナさん」
 その挨拶であたしの存在に気付いた彼女は、まったく慌てずに笑顔で返事
をくれた。その笑顔には、これから戦いをすると者だと言うことを、みじん
にも感じさせない。
 彼女の左手にはあのブレスレットが光り輝いている──
「やっぱり、戦いに参加するのね」
「もちろんです。あんなふうに言われてもあたしの決意は変わりません!絶
対に参加して見せますよ、リナさん!!」
「それでその格好ね…でも、その服どうしたの?あんた着替えなんて持って
ないはずでしょ」
「アインさんに頼み込んで借りてきました…別名・かっぱらってきたとも言
いますが…」
「…おひ…なんじゃその…別名・かっぱらってきた…つーのは…」
「…え?…ああー!…冗談……冗談に決まってるじゃないですか…あははは
は…やだなあ、もお…リナさんったら…」
 冷や汗流しながら明後日の方向を向く彼女。
 …なんだ…その汗は…でも…顔も赤いけど…なんで?
「…あっ…」
 顔を赤くしたままの彼女の声に、あたしはその目線を追った。
 真っ黒なアンダーシャツにそれ以外は全部、恵美と同じ格好。
 何故かふらふらと左右に揺れ歩き、こちらへとやってくる少年一人、達也
だった。
「おっはよー、達也(はーと)」
「お…おはよう…ございます…達也さん…」
 あたしは片手をあげ、恵美は深々と頭を下げる。
「………………」
 ふらっ…
 何も答えずあたし達の横をすり抜けていく彼。
「………おい…こら………」
 せっかく、絶世の美人と美少女が挨拶している、てーのに、無言で通り過
ぎるとはいい度胸してるじゃない…あんた…
 ふらふらふらふら…
 左右に体を揺らしながら、少しずつ去っていく彼。
 あっ…どんどんと右の方に偏って…ちょ…
 ごんっ!
『………………』
 …柱にぶつかったぞ…しかも今、すごい音が…
「あ…あの…達也さん?」
 恵美が心配げに声をかける。
 ふらっ…
 が何事もなかったかのように再び歩き出す彼。
 …おいおい…まさか………物は試しだ…呪文を紡ぐ。
「浄結水(アクア・クリエイト)」
 ぷしゃああーっ!!!!!
 達也を中心にして水の柱が立ち上がる。
 水柱がやむとその場にキョトンとしたまま、床にへたりこんでいる達也。
 あたしは何事もなかったかのように、
「おっはよおー達也あー!」
 挨拶を噛ます。
「おう。リナ、恵美ちゃん。おっはよおーす」
 …やっぱひ…
「…あ…お…おはよう…ございます…」
 状況についていけない恵美。
 まあ…そうだろうな…こいつ…さっきまで寝ぼけてたみたいだし…


「…ところで…」
 …ぴくっ…
 朝食を終えたところで達也が口を開き、あたしの隣に腰掛けていた恵美の
体が一瞬揺れた。
「今回の戦いのためのフォーメーションをどうしようかと思うんだが…一点
集中による敵の攻撃はリナをリーダーとして行動、各分散しての戦いの時は、
リナとガウリィ、ゼルガディスさんとアメリアさん、オレと恵美ちゃんの3
チーム、アインは街への被害を最小限に抑えるための結界を張ること…っと
まあこんな感じいきたいのだが…どうかな?」
「…え?…あ…あの…達也さん?」
 自分の名前が出てきたことにとまどう恵美。
「あら…どういう風の吹き回し?昨日まではダメだの一点張りだったくせに、
突然恵美を戦力に加えるなんて…」
 あたしはにやけながら問う。
「別に…彼女の格好を見ればわかるさ…何をどう言おうと戦いに参加しよう
って、格好だし…」
「…ふうん…本当にそれだけ?」
 ジト目…
「…なんだよそのジト目は…」
 抗議する達也の顔が多少赤い。
「…別にいぃぃ…ところでさあ…達也。左腕のリストバントどこにやったの
青色の…」
「………………」
「え?」
 達也は無言でそっぽを向き、恵美が自分の腕を見て、あたしの顔を見る。
「…ああー、なるほど、そう言うことですか…」
 笑顔のアメリアが大きい声で言う。
「え?なんなんだその、なるほどって…」
「…それでその服か…」
 ゼルも意地悪っぽい声で言うと、達也の顔がいっそう赤くなる。
 ナイス、ゼル!
 まあ…服はアインから借りたんだろうけど。
「…それに…昨日はお2人とも…楽しそうな雰囲気だったでしょうし…達也
なんか服を貸しちゃってまあ…」
 ……え?……
「…ちょっと待って…アイン…恵美が着てる服ってあんたが貸したんじゃあ
ないの…」
「いいえ…貸してませんよ…」
「………………」
 恵美がそおっと立ち上がる。
「…ちょっとまてい…」
 ………………ぐわあしいぃ…恵美を捕まえる。
「恵美…これってどういう事かなあ…あんたはアインから借りたって言って
たよねえ…」
「…えっと…それは…あの…その…」
「ええい!いつあってたのよ、このうそつき娘…白状せいーー!!!」
「ぴみぃやああー!!!」
 そして、あたしの関節技が繰り出され、それに悲鳴を上げる恵美という、
戦いの前にそんなほほえましい光景がしばし続いた──


 朝食を終え、2時間ほどたったころ──
 …きたっ…
 空を覆う雲から正体を現す、中型艦と呼ばれる黒き空飛ぶ船。
 あたし達は王宮の一室からその姿を見届けていた。
 船はセイルーンから少し離れた、場所から姿を見せ始めている。
「いきなりあの船か…」
 ゼルがため息をつく。
「まったくありがた迷惑よ、あんなの…それじゃあ…行くわよ、みんなっ!」
『おうっ!!』
 あたしの号令で全員がその場から飛び出す。


 互いが持つ浮遊の術で、街から離れたちょっとした丘にあたしとガウリィ、
そして達也と恵美が降り立ち、ゼルとアメリアは少し離れた場所に降り立つ。
アインは王宮に残っている。
 数百メートル先に黒き影、あたし達のいるそこには知った人物が待ちかま
えている。
「お待ちしていましたよ。みなさん」
「あら、ゼロスじゃない…どうしたのこんなところで?」
 何気ない口調であたしは答えてやる。けど、彼に対する注意はしっかり払
いながら…
「いやですよお、リナさん(はーと)本当は気付いていらっしゃるのでしょ」
「…まあね…嫌な事実だけど…」
「前に言ってたしな…リナの捕獲を頼まれたって…」
「まったく…こんな時に…お役所仕事、発動ってわけね…」
 あたしの言葉が終わぬうちに、達也の手が光り輝き1つの気孔砲が現れい
出る。
 …ちょ…ちょっと達也…
 その行動にもゼロスは笑みを絶やさず、
「おやおや…いきなり大技ですね。でもいいんですか?僕なんかにそんな物
を使っちゃって。後の戦いに支障をきたしますよ」
 そしてゼロスが体中から障気をあふれ出させる。
 確かに…今ここで達也にあの技を使われたら…ゼロスを倒すことはできる
だろうけど…
「………………」
 達也は無言のままで気孔砲を構える。
「どんなことがあっても任務は達成させたほうがよろしいと思いますが…あ
なただってゼオは倒したいでしょ?お師匠様のためにもね…」
 達也の眉が跳ねる。さすがに今のゼロスの言葉は効いたらしい。
 そう…この戦いの鍵は達也自身であり、そして戦力の温存が大事だ。
 それは達也にもわかっているはず…
「…何故、任務のことを知ってる…おまえさんには話してないが…」
 半眼になって達也は口を開く。
「リナさん達にお話なさったていた時に、僕は精神世界面から聞いていまし
たから…」
 その問いにさらりと答えるゼロス。もちろん彼になら簡単なことだろう…
「…ふうん…」
 おもしろくなさそうに返事を返す達也。だが、その手の中にある光だけは
ゼロスから標準をはずさない。
 何を考えているのだろうか…
「…それより…いつまでその状態をお続けるつもりですか。そのままでは、
あなたは気を消耗し続ける…」
「…リナの捕獲はゼオからの依頼だな…」
「…だけで…え?…………」
 なにいぃぃーー!!!
 達也のセリフにゼロスの笑みが消え、ほんの一瞬だけ目が薄く開かれる。
 周りのみんなも驚き、達也に視線を送る。
「ちょ…ちょっとまって…達也…それってどういうこと?」
「…そ、そうです…リナさんの言うとおりです、何故、突然そんな事言うん
ですかあなたは?」
 そう言ってすぐにゼロスの顔には笑みが戻る。
「あんたはゼオから話全部を聞いてるから…」
「むちゃくちゃなことを言いますねあなたは…」
「そうかな?」
 指を1本立てるゼロス。いつものスマイル顔で、
「…では…何故、僕がそのお方から話を聞いたとお思うのですか?」
「任務類などのことを知っていたから」
「…だからそれは…ゼロスがさっき説明したじゃ…」
 あたしの言葉を、手で達也が遮り、
「いったろ…任務類って…ゼロス…お師匠様のために…てーのはどういう意
味だ?」
 …え?お師匠様のため?………あれ…まてよ…
「…それは…あなたのお師匠様が殺されて…」
「………………」
 ──あっ!そうかっ!!
「そうだ。確かにオレの師匠はゼオに殺された。その通りだ」
 そう言ってうんうんと彼は頷く。
「?」
 その彼を不思議そうに見つめるゼロス。
 どうやら、達也の言いたいことがまだわかっていないようだ。
「ゼロス、あんた自分でボロ出してるわよ…」
「え?」
 あたしの言葉にゼロスくんまともに顔色を変える。
「まあ、確かにあたし達の会話も聞いてたんだろうし、自分でゼオから何も
聞いていないとは一言も言ってはいないからウソは言ってないけど…」
 そう言いながらあたしは頭をかき、
「…あんた相変わらずよね…」
「え?いや…えっと…あの…そのお…」
 …こいつ、まだ気付かないのか…
「言っておくけどねゼロス。あたし達は達也から、彼に師匠がいるってこと
も、ましてやゼオに殺されたってことも聞かされてないのよ…」
『あっ!!』
 その場のほぼ全員が声を上げる。
「えっと…そうだっけか?」
 当然とはいえ、やはり首を傾げるガウリィ。
 こいつは、ほっとことう。
 あたしは口を開き、
「で…ゼロス、あんたこの後どうする気なの?」
 嫌みをたっぷり込めて言ってやる。
「…ふう…しょうがありませんね…こうなると実力でい…」
「光陣弾(ダイラス・レイン)」
 叫んだと同時に達也の気孔砲から光の帯びが飛び出し、ゼロスをかすめ、
少し後ろ側の地面をその光がえぐり出す。
「…くし………………ええっと…」
 ゼロスの頬に汗が流れる。
「あ…わりい…わりい…つい口が滑った……それで…なんだって?」
 達也が意地の悪い笑みで聞き直す。
 しかし、口が滑るだけで呪文が発動すんのかこいつは…とか言うあたしも
時々、んなことがあったりするけど…
「ちなみに言い忘れてたけど…今回はオレも装備のほうは万全だぜ。このキャ
ノン砲っだって気を増幅させるアイテムで作り上げてるだけだしな…ガウリィ
に渡した剣と同じ仕組みになっていると言ったらわかるだろ?」
「え?」
 顔を真っ青にするゼロス。
「つまり、こいつを維持していてもたいした気の消耗は激しいわけじゃないっ
てこと…」
「………………」
 なるほど…今回の戦かいのため、達也は達也なりに準備をしっかりしてき
た訳か。
「で…どうすんのゼロス…ちなみにあたし達全員が全員パワーアップ用にい
ろんなアイテムを装備してあるわよ」
 もう一度、おまけを付けて、同じ質問を言ってやる。
「………………」
 ゼロスくん無言状態。まだとまどってるか……よし!
「ねえ…達也…」
 彼を呼び、ぽんと自分の手を気孔砲へ置き、
「…あたし、タリスマンで増幅バージョンの崩霊裂、練習したくなっちゃっ
たんだけど…」
「……え゛?……」
「あ!それはいいなあ…ついでだからこいつにかけてくんないか?そいつを
これでさらに増幅すれば、どのくらいの威力になるのか、今のうちに確認し
ておきたいし」
「…そうねぇ…実験体も近くにあるし…ちょうどいいかもねえ…」
「そうだなあ…へっへっへっへっ…」
「うふふふふふふ…」
 二人で含み笑いしながら、半眼になってゼロスを見つめたりする。
「はっははははは…」
 一歩下がり、から笑いするゼロス。いつものような余裕はない。
 ちなみに他のメンバーは哀れみを帯びた目で、ゼロスを見ていたり…アメ
リア…その数珠どこから出した…する。
「はっははははは………では…」
 しゅんっ!
 …あっ…逃げた…
「…いいのか?リナ…あいつを逃がして…」
 ゼルが唾を吐く。相変わらずゼロスが嫌いなようである。まあ…魔族を好
きになる人間など、そうそういやしないだろうけど…
「ほっときましょ…どうせまたいつか来るだろうし…それより、あの船を先
に何とかしておかなきゃ」
「そうだな…恵美!」
「は…はい!」
 達也の呼び声に慌てて返事する彼女。
「あら?ちゃん付けじゃないのね…」
 それをあたしがからかう。
「戦いの最中までちゃん付けして呼べるか!」
 …なるほど…一理ある…けど、なぜ顔が赤いんだ。
「ええい!なんだそのいたずら心をともなった目は!!」
「典型的にからかっている目!」
「…しくしく…早く任務を完了したい…」
 とりあえず涙する達也である。




**** MEGUMI ****

「できるか?」
「…や…やってみます…」
 達也さんの言葉にあたしは一つ頷き返事をした。
「本気なの?達也!」
 リナさんが驚きの声を上げる。
 …そりゃあ…まあ…そうだろう…
 だって彼はあたしに精王光輪と言う魔法を使わせようとしているのだ。そ
れにあたしはそんな呪文なんて1回も使ったこともないし、いきなしの本番
ってわけ…
「もちろんオレも唱えるさ…ただ、この1回で呪文を憶えて欲しいだけだ…」
 彼の目はあたしの方を向いていない。
「期待してるんだぜ恵美」
 それでも彼の目はこちらを見ない。顔はそちらに向けていないが、ある場
所を睨んでいる。
 …まてよ…もしかして…ふと、ある考えにあたしは沈黙する。
「………………」
 …そうか…そういうことね…この時、あたしは彼が考えている事に気付い
た…そして本当に期待していると言うことを…
 リナさんも彼の雰囲気に何か気がついたかそれ以上は何も言わない。
「早く片付けましょ…ゼル、アメリア。これから、船の撃退を始めるわ。前
と同じように防御結界でのサポートお願い」
 2人に言い終わると今度はガウリィさんを振り向き、
「ガウリィっ!」
「おうっ!」
 彼はリナさんの言葉に返事をし、すらっと剣を抜き放つ。
 だが、その剣には刀身がない。それもそのはず、彼の剣は精神力を光の刃
に変える彼専用のアイテムだから。
「光よっ!」
 彼が叫ぶと光の刃が生まれる。それを自分の肩に掛けリナさんの顔を見る。
「以下同文っ!」
 どしゃあっ!
 リナさんの言葉にこける彼。
「…ちょ…ちょっと待てい、リナ!なんだその以下同文ってーのは!」
「言葉通りよ」
 ガウリィさんの抗議の言葉に、笑顔できっぱり言い放つ彼女であった。
 …あっ…ガウリィさんすねちゃった…


「それじゃあ…始めようぜ」
「OK」
 少しの距離をあけリナさんと達也さんは空に浮かぶ船をにらみ、短く会話
を交わす。
 リナさんが腕を十字に切ると、胸、腰、両手に付けられているタリスマン
と言う物に光が灯る。彼女はそのまま目を閉じゆっくりと両手を天にかかげ
あげ、
「──黄昏よりも昏きもの──」
 呪文を紡ぎ始める。
「恵美、こっちも始めるぞ」
「はい!」
 達也さんの周りを一陣の風が吹いた。
 そして唱え始める。
「──眩く全てを照らす者──」
 彼の呪文をあたしは後を追うように紡ぐ。
「──眩く…全てを…照らす者──」
 多少たどたどしい紡ぎ方だが、初めてだから彼も大目に見てくれるだろう。
 その後に紡ぐ彼の呪文は次の通り。

 ──六精の 光を統べる王
   全ての夢をかなえし時 時に迷わぬ者
   我が力 我が身に答え 無とかえし
   紅蓮の炎も 力と未来のリングとなりて
   全ての闇を輝き染めよ──

 あれ?
 完成間近になって、何か胸のあたりにとても暖かい何かをあたしは感じて
いた。これって、精王光輪と言う呪文のせいなんだろうか。
 けど…両手に、熱く力強いエネルギーが生まれ続けているし…
 これがこの呪文の感じ方なんだろうか…
 後は『力ある言葉』を解き放つだけ。
 達也さんはその力を既に解き放ち、左手に持つ光り輝く大砲で光の五紡星
を包み込んでいる。
 宇宙船から光が灯る。
「来るぞガウリィっ!」
「おうっ!」
 それを確認したゼルガディスさんが叫びガウリィさんがそれに答え、
「うりゃああーーー!!!」
 その叫びと共に彼が剣を振り下ろすと光の刃が飛ぶ。
 宇宙船から光が飛び出す。
 2つの光は互いへと向かい、
 ずううぅぅーんっ!
 ぶつかり互いを相殺。
 瞬間、今度は船とは逆側から光があたし達を襲う。
『しまったっ!』
 その攻撃に防御担当の3人が叫ぶ。
 ところがどっこい…お見通し!
「竜破斬っ!」
 リナさんが叫び赤き光の帯を船に走らせる。
 あたしは片足で軽くターンし…
「精王光輪っ!」
 …あたし達を襲おうとするその光へ解き放った。




**** RINA ****

 今度はあたしがバリアをうち破る手はずになっている。
 呪文が完成した。『力ある言葉』を解き放つ。
「竜破斬っ!」
 その言葉と共にあたしの手から赤き光の帯が飛ぶ。
「精王光輪っ!」
 それと同時に凛とした恵美の声があたしの耳に入りこみ、後方で爆音がと
どろいた。どうやら、後方からの攻撃を撃墜したようである。
 そして、あたしの放った赤き光が船を守るバリアと接触し、
 きいぃぃーんっ!
 と言う音を立て、砕け散……
『──なっ!』
 …れず…はねかえったあぁぁー!!
 ちょっと待ていぃー!んなんありかああぁぁぁーーー!!!
「くそっ」
 達也が悪態をつき、気孔砲から光をぶちかまし、赤き光へ向かわせる。
「ゼル、アメリア!」
『おうっ』
 あたしの叫びに、返事を返しつ球体の結界を張る2人。
 しかし…あんな強力な2つのエネルギーがぶつかり合って発生する衝撃波
はこの結界だけで…ましてやこんな至近距離で…伏せきれるとは思えない…
今から高位の結界呪文を唱えても間に合わないし…
 それでも、あたしは次なる行動を起こしていた…成功するか一か八かにか
けて…ガウリィへと…
 あたしは彼が持つ剣の柄をさわり、
「ガウリィっ!説明は後でするから、ありったけの根性を剣にたたっこんで
!!」
 叱責する。
 この剣を作ってもらった時に、たしか剣の特徴をこう聞いた…

 ──使用する者の意志で、色々な形に変化させられる──

 …と………それなら…
 あたしとガウリィは剣にありったけの根性を入れ、あたしは同時に剣に意
志を送る。
 そして剣が風船のように一気に膨れ上がると、あたし達全員を包む。
 瞬間──
 光が全員を包み、轟音がとどろき、全ての足下を揺らした。


 振動がやむ。
 ふと見ると、既にゼルとアメリアが張った結界は破られており…最後の砦
となった光の剣──球体バージョン──があたし達を救ってくれていた。
 …し…しかし…今のは…光の剣を使った結界を思いつかなかったら、完全
に全滅しとったぞ、あたしたちゃあ…
 先ほどの振動のせいで立っていられた者は一人もいない。
 ふらりとあたしは立ち上がり声をかける。
「みんな大丈夫?」
「…ああ…しかし今のは…」
 首を左右に振り、返事をしつつ立ち上がるゼル。
「さすがあたしの竜破斬よね。すごい威力だわ」
「跳ね返されてオレ達が死ぬ目にあったのに、胸はって言うべき時じゃない
だろう」
 座ったままでのジト目で達也が言う。
 …いや…まあ…そうなんだけど…
「…で…でもさ…なんであたしの竜破斬、跳ね返されたのかな…ね…わかる
?ゼル?」
「…さあな…」
「…多分、空間でもねじったんだろう…」
『…あ…』
 達也の一言に全員が気がつき声を出す。
 …そうか…その手があったのか…
「…えっとお…どう言うことだ?」
 …失礼…わかっとらんのが約1匹…
「ま…どちらにしろ、船は撃沈できたからよしとするか…よっと…」
『………………』
 かけ声を出し、勢いよく立ち上がる達也。
『………………はっ?』
 全員の間の抜けた声がハモる。
「…達也…その撃沈ってどう言うこと?」
「あれ?見てなかったのか?さっきの爆発に船が巻き込まれて墜落したんだ
ぜ…ほれあそこ…」
 達也が差す指の方向に顔を向けると、そこには船が煙を上げ、あっちこっ
ちがひしゃげていたりしている姿が…
『………………』
「…これじゃあ…まるで…自滅みたいな物じゃないか…」
 ゼルがぼつりとつぶやいた…
 …確かに…それにこの船はいったい何をしたかったんだ…
 一陣の風が吹くと、煙が吹き出す一ヶ所から小さな爆発が起こった。


 しばらくして──
「ねぇ…もしかして…今回はこれで終わり?」
 疲れたようにあたしはつぶやく。
 あの後、敵が襲ってくるかと思い、どんな攻撃にも対応できるよう身構え
ていたが…既に15分…何も起こらない…来る気配さえもない…
「いや…そんなはずは無いと…思うんだがなあ…」
 達也も何とはなしに、しっくりこない顔をしている。
「だよねぇ…」
「あっ、もしかしてさっきの爆発に巻き込まれて、敵が一掃されたって事、
考えられません?」
 恵美が一例をあげてくる。
『………………』
 …な…なんか…ありえそうだなあ…それって…
『………………』
「…と…とりあえず…王宮に戻ろっか…」
「…そ…そうだな…」
 そして歩こうと…
「まってください、リナさん」
「何?アメリア」
 彼女の言葉に驚いて慌てて身構える。
「…何かがいます…」
「何かって…」
 一度、周りを見渡す。
 が何も見えないし、やはり気配も感じない。
 あたしの膝さえも届かない雑草のため、隠れる場所もない。
 …怪しい気配はなにもないけど…
「そういえば…」
 恵美がぽつりとつぶやく。
「なに?」
「音が…虫の声とか…」
「そういや、なにも聞こえんな…」
 恵美の言葉をゼルがつなぐ。
 …………まさか…あたしたち…ましてや獣並の感覚を持つガウリィにさえ
も気づかれずに気配を消す、使い手がいるとで…
「ちいぃっ!」
「…ガ…ガウ…」
 突然、ガウリィがあたしの目の前を立ちふさぎ、光の剣を一閃させた。
 がごんっ
 鈍い音をあげなにかしらの物体が崩れる。
 …これは…
 見事な鎧に、地面に転々と転がる小さな金属類、色とりどりのコードに、
ばちばちと音をあげ立ち上がる火花。
 しかし、その中でなによりも目を見張ったのは表が透き通り、内側が鉄色
という不可思議な鎧だった。
「人形だ…」
「人形ってこの間ののっぺらぼうの?」
「タイプは違うが似たようなもんだな…この間のは動きを重視したAEタイ
プ…こいつはパワーだけを重視したSAタイプだ…けど…透き通るボディっ
ての……あっ…そうか…光を屈折させて姿を消してんのか…」
「姿を消す?」
「…ああ…昨日、オレがリナとガウリィの髪の色を変えただろ。あれと同じ
さ」
 ああ…あれね……って、まてよ………
「…もしかして…」
「…まじいな…囲まれてるかもしれんぞ…」
 あたしと達也の言葉に全員が緊張し、身構える。
「ねえガウリィ、こいつらがどこらへんにいるかわかる?」
「いや…そこまでは…さっきのも何となくだったし…けど…かなりの数がい
るとは思うぞ」
 やっぱり…さっきのもカンか何かで動いたのか…
「ええーん、そんなあ〜姿が見えないんじゃあ攻撃できませんよおぉ〜達也
さ〜ん何とかならないですかあ?」
 アメリアが泣き言を言う。
「光の作用を反転させる用にしてやればいいんだが、相手が見えないんじゃ
あ…性格に魔法をかけることができねぇしな…」
 …確かにそうだ…最初っから場所がわかるんなら、攻撃魔法でぶっこわし
たほうが早いし…
「あのお…方法が無いことも無いんですけど…」
 手をおずおずとあげて、話に入ってくる恵美。
「ホントなの?恵美」
「ええ…まあ…」
「どんな手だ?」
 みんな、周りの警戒を怠らず目を彼女に向けたりする。
 恵美が口を開く。
「ぴいえぇー、水でショートしてるうう…あたしの可愛いコンソロールパネ
ルぐわああぁぁぁー」
 こけけっ
 どげしいぃっ!
 あたしのストレートが彼女の顔面を捕らえ、数人は今のセリフにこけてい
たりする。
「…いちゃいです…リナさん…」
「いやかましい!こんな時にぼけてアインの物まねしてどうすんのよ。今度、
またぼけたら問答無用で人形の方に蹴り飛ばすわよ…」
「…しくしく…別にぼけた訳じゃないのにいぃ…」
 今の、どこをどう解釈すれば、ぼけてないなんて言えるのよ…
「…あのなあ…恵美いぃ…」
 こけたうちの一人である達也が、疲れた様子で言う。
「あー、もしかして…たっちゃんまで気付いてないんですかあ…しくしく…」
「なんだその…たっちゃんって…いや…それはあとにして…恵美が言いたい
ことはわかるけどよ…んなめちゃくちゃ遠回りに言わなくて…」
「まったくその通りだ。それじゃあ確かにわかりづらいな…」
 達也の言葉に、
『………………』
 うんうんと頷くガウリィ。
『………………』
 え?達也、今の意味……
 ……………………………………………
『………………えええぇぇぇーーーーー!!!!』
 ガウリィを除く全員が絶叫。
「ちょっちょっとまってガウリィ。あんた今の恵美が言いたかったことが何
でわかったのよ。そんなの信じられない、脳味噌ヨーグルトでクラゲであん
ぽんたんで、いつもその辺でお茶を飲みながらのほほ〜んとしていて、あた
しが何か説明すると必ず寝てるというぼけをかまして、何考えてるのかわか
んなくて…そんでもって…んーと…以下省略…そんなあんたが!!!!」
「…あ…いや…そこまで言わんでも…」
「いかにも正しいガウリィ君の紹介文だからいいの」
「…おい…」
 とりあえず、半眼状態でガウリィは沈黙した。


「で…恵美はいったいなにが言いたかったわけ?」
 ちくちくと、後ろから刺さるガウリィの視線を無視しながら…ええーい!
ガウリィのくせになんだその反抗的な目は!!…あたしは彼女に聞く。
「だから…ぬらせばいいんですよ…水で!」
「…そうか…」
「…水滴が残れば場所がわかる…」
 ゼルとあたしがつぶやき、恵美と達也がその答えに笑顔を見せる。
「ちなみに色が付いてりゃあ尚オッケーってヤツだな」
 いたずら笑顔で達也が一言付け加えた。
「色を付けるのは…ちょっとね…あたしとゼルとアメリアでこの辺一体、す
べてに浄結水で水をぶっかける。そこで姿が見えたところに、達也はできる
だけ多く人形たちの光の作用を反転させて」
「OK。恵美、光結晶(レイ・フレッシャー)は使えるか?」
「はい!!」
「じょうとうだ」
 恵美の返事に達也は不敵な笑みを浮かべた。
「じゃあ、始めるわよ………」
 あたしたちはすぐに呪文を唱え始める。
 そして──
『浄結水』
 三人の呪文がきれいにはもった──

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