◆-命ある者-明美(12/6-23:49)No.783
 ┗感想ですっ!-マミリンQ(12/23-14:40)No.944
  ┗ありがとー!-明美(12/23-23:19)No.949


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783命ある者明美 E-mail URL12/6-23:49

書きに来ました、明美です。今回シリアスはいってます。
一応、ガウリナです。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
とある町の骨董屋の店の中で、籠の中にいる赤ん坊をあやす女性がいた。
彼女のあやす子供は普通の赤ん坊ではなかったし、彼女も人間ではない。
彼女の店の従業員達も人間ではなかったが、骨董屋は繁盛していた。彼女達の人徳と言ったところであろうか。
二人の従業員は配達に出かけていて、お客さんもいない。今は彼女と赤ん坊二人だけだ。
二人だけの時間はのどかで、ゆっくり流れる。
それは、一見、幸せな光景に見えた。ある人物(?)が来るまでは――

「フィリアさん、こんにちは。お久しぶりですね」
獣神官は、例によっていきなり空間から現れ、人の良さそうな微笑――どこか人を食ったような微笑でもあった――を浮かべた。
そしてフィリアに向かい、優雅に一礼した。
「な、生ゴミ魔族!」
たった一瞬で、平穏は壊された。
フィリアは顔色を変え、さっと籠を抱え上げると、奥の部屋に駆け込む。
「な、なまごみ……」
顔が彼の意思を反映して引きつったが、彼はようやくここに来た目的が何であったかを思い出した。それは、例によって彼の上司の命令であったのだが、彼にとっては少々気の進まないものであった。

――仕方ありませんね。
ゼロスは、やれやれと肩をすくめると、命令を実行するべく部屋の奥に声をかけた。
そう、彼にとって、上司様の命令は絶対なのだ。
「フィリアさん、お話が……」
「あなたと話すことなんてありませんっ!」
フィリアのつんけんした声と、なにか白い細かい粒が飛んできた。
魔族には害のあるものではないようだが、ゼロスは空間を渡り、フィリアの後ろに陣取った。
「いったい何なんですか?それは」
「決まってるじゃないの。清めの塩よ!」
ゼロスは、なおも塩を振りかけようとするフィリアから、視線をさっき彼女が手に持っていた籠に向けつつ、
「悪いお話じゃないと思いますよ。フィリアさん、貴女にとっては」
彼女は、あわてて塩の入ったつぼを放り出し、籠をしっかり抱きかかえた。
「それは、ヴァルガーブにとっては良くない話なんでしょう」
「それは、人によって意見は違うと思いますけどね。
フィリアさん、貴女はまだ若いんですから、やりたい事が色々あるでしょう。
ヴァルガーブさんを獣王様にお預けすれば……」
「やっぱり、そういうお話ですか?あいにく、ベビーシッターに不自由はしてないんです」
フィリアはつんとそっぽを向くと、ゼロスに背を向けた。
「これから私、出かけますので、どうかお引き取りください。ベビーシッターさんも、もう来るころですから、ご心配なく」

ちりりんと可愛らしい音が部屋に響く。入り口のドアに取り付けてある鈴の音だ。
フィリアは身を翻して、台所からドアに向かう。もう、獣神官の事は無視するらしい。
「ごめん、遅くなっちゃって」
「いいえ、いいんです。じゃあ、後はよろしくお願いしますね」
彼が聞き覚えのある声に入り口を覗くと、金色の髪はドアの外に消えており、栗色の髪の女性が籠を抱えて立っていた。
「あれ?ゼロスじゃないの」
栗色の髪の主は、ゼロスを見て目を丸くした。
「リナさんが、ベビーシッターだったんですね」
「まあねー。今は、魔道士・休業中でね、フリーアルバイターしてるの」
ゼロスは彼女の手袋をしていない手を見つつ、からかうような笑みを浮かべる。
「ああ、ご結婚なさったんでしたね」
「そ、そうよ!なんか文句でもあんの?」
リナは真っ赤になり、さりげなく左手を隠しながら、手早く離乳食の用意をする。
その手際の良さにゼロスは見とれた。
「ほら、ぼさっと突っ立ってないで、あんたも手伝いなさいよ」
「え、僕がですか?」

しばらくして――
ゼロスは彼女の人使いの荒さに、辟易した。
「フィリアさんはいつ帰って来るんでしょう」
「フィリアなら、夜まで帰ってこないわよ」
困り果ててもらす小さい声の呟きに、きっちりリナの返事が返ってくる。
「フィリアに何の用なの?」
「それは他言無用なので、― 秘密 ―です」
ゼロスはお決まりのポーズでお決まりの言葉を返す。
「ま、大体想像つくけどね。フィリアは絶対、ヴァルガーブを渡さないわよ」
絶対と言う箇所に力が入っている。
「そのようですね。
でも、それなら代わりのものを獣王様にお渡しすればいいんです」
「代わり?」
リナは無意識のうちに自分の下腹を押さえる。
「ええ、例えば貴女のお子さんとか……」
「良く分かったわね」
まだ、目立ってないお腹を撫でる。
そこには、新しい命が根付いていた。

――その頃、
金色の髪をなびかせて、ある骨董屋さんに向かう人影が二つあった。
フィリアとガウリイだ。
フィリアはさっき無視したゼロスが気になり、用事をそこそこに切り上げて帰るところで。ガウリイは体調の悪そうだったリナが気になって、迎えに行くところだった。
フィリアはまっすぐ前を向いて、早足で歩いていた。
だから、始めに彼女に気がついて声をかけたのは、ガウリイだった。
「よっ、フィリア」
軽い声――だが聞き覚えのある声――。
フィリアは休みなく動かしていた足を止めた。
「あら、こんばんはガウリイさん。どうしてここにいるんです?」
「リナを迎えに……。フィリアのとこにいるんだろ?」
「ええ、ヴァルガーブを預かってくれてます。でも私、急いで帰らなくては……」
「………?」
フィリアの言葉とただならぬ様子に、ガウリイは訝しげな顔を見せた。
「あの生ゴミ魔族が」
「なまごみ?」
「ええ、ゼロスが来たんです。ですから……話してる場合じゃないわ。私は先に帰りますので」
フィリアはそう言い捨てると、困惑した表情で佇むガウリイの前から姿を消した。

「何故?」
うめくように言うリナに、ゼロスは笑みをくずさず言う。
「何故って、何がです?」
「何故、この子達を狙うの?」
「リナさんなら、分かってると思ったんですが……誰でもいいって訳じゃないんですよ。‘力’のある子供を早くから手なずけておこうと、そう言うお考えらしいです」
言うまでもなく、ゼロスの上司、獣王の考えだ。
リナは油断なく身構えながら、深いため息をついた。
「だからあんたと再会したくなかったのよ。はっきり言って今の状態は……あたしには不利よね」
「じゃあ、おとなしくついてきて頂けるんですか?」
ゼロスは、あまりにもらしくない弱気なせりふに拍子抜けしながらも、戦わずにすんだ事に安堵し、リナに手を差し伸べる。
―― 彼は戦いたくなかったのだ。リナに、力があるからというだけでなく、彼はこの人間に‘特別な感情’を抱いている。―― それは、共に旅をしたからか、人間で言うところの恋愛感情なのか、彼にも分からなかったが。

「行かないわ。あたしも、この子も行かない。ヴァルガーブも渡さない」
きっぱりと言い切って、意思の光で強く輝く赤い瞳でまっすぐゼロスを見据える。
「そうですか」
ゼロスはどことなくうれしそうな顔で言葉を続ける。
「そうでなくちゃ、リナさんらしくありませんね。でも、ヴァルガーブさんは渡してもいいんじゃないですか?」
「フィリアに頼まれたもの。あたしには責任があるわ」
フィリアがそうしたように、リナも籠をしっかり抱きかかえる。
「でも、彼はすべての世界を浄化しようとしたんですよ」
「彼は……生きようとしているわ、この世界で。今の彼は、世界の浄化を望んではいないはずよ。‘命ある者’だから」
「命ある者……ですか」

「リナさん!」
フィリアが、ドアを開けて叫ぶ。
「ゼロス!!」
フィリアはまた叫ぶ。と、口の奥から光が見えた。
「フィリアっ!レーザーブレスはやめてっ!」
「リナっ!無事か!?」

リナは――
フィリアのレーザーブレスが屋根をつき抜けるのを見た。
ガウリイが剣を構えて飛び込んでくるのを見た。
ゼロスがドサクサにまぎれて――いつもの微笑を浮かべながら、消えるのを見た。
そして――緊張の糸が切れて、それから後は視界一杯の闇。

ガウリイはあわてて、その場に崩れるように倒れるリナを抱きとめる。
フィリアは我に返り、意識を失っても手放していなかったリナの手から籠を受け取り、急いで魔法医を呼びに通りに走り出る。

残ったガウリイは、リナが気を失っているだけで、無事なのを確認し、苦笑した。
「まったく、いつも無茶してくれるよな。なにかあったらどうするんだよ」

「リナさん達のお子さんやヴァルガーブさんが大人になるのを待つ、というのも一興ですよ」
ゼロスは、いつの間にか夜空に昇っていた月の光にその身を照らして、誰にともなくそう呟いたのだった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
おわりです。シリアスは疲れる……。
私、駄文書きが昂じてHP作りました。お暇があれば見に来てください。

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944感想ですっ!マミリンQ E-mail 12/23-14:40
記事番号783へのコメント
お久しぶりです。(汗)
なんだか、百年くらい(いやそれ以上?)消えていたような
気がします、マミリンQです。(滝汗)
(ああ、時間がほしい。(涙))

シリアスでも、あふれる愛!!
とても素晴らしかったですっ!!
フィリアさんと、リナさんの”母性”が描かれていて
とってもあたたかい作品だったと思います!

TRY・・・ですよね・・・ちゃんと見なきゃ・・・。
でも所々、話がぬけてるからなぁ・・・。(涙)

では、どうもありがとうございました!

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949ありがとー!明美 E-mail URL12/23-23:19
記事番号944へのコメント
マミリンQさん。ありがとーございますぅっ!
ここに書きこんでから、誰もかんそーくれないのでぐれかけてました(笑)。

>お久しぶりです。(汗)
>なんだか、百年くらい(いやそれ以上?)消えていたような
>気がします、マミリンQです。(滝汗)
>(ああ、時間がほしい。(涙))
そーですねー。皆さん忙しいですよね。年末だし。

>シリアスでも、あふれる愛!!
>とても素晴らしかったですっ!!
>フィリアさんと、リナさんの”母性”が描かれていて
>とってもあたたかい作品だったと思います!
へっへっへっ。そりゃー私もいちおう母親だもん。

>TRY・・・ですよね・・・ちゃんと見なきゃ・・・。
>でも所々、話がぬけてるからなぁ・・・。(涙)
TRYネタです。「家路」とリンクしてます。
話がぬけてるって……そりゃービデオ見なきゃだわ!

>では、どうもありがとうございました!
よろしければ、お暇なときにでも、私のHPに遊びに来てくださいねー。