◆-滅びの日-白銀の魔獣(12/17-15:48)No.886
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886滅びの日白銀の魔獣 12/17-15:48


    『滅びの日』

 あたし達……あたし、ガウリイ、ゼル、アメリアはとある町で偶然にも出会った。
 出会い方からしてなにやら作為的な気配も無くはないのだが、アメリアや特にゼルがそ
んな悪戯をするわけないし、ましてや悪意があるとは思えないけど……。
 まあ、本当に偶然だったんだろう。
 ちなみに出会い方はといえば――

 ごんっ!!
「ちょっと痛いわねどこ見て歩いてんのよっ!!」
「おいおい、お前だってよそ見して歩いてたじゃないか」
「うっさいわねガウリイ、あたしはいいのよっ!」
「……り、リナさん!」

 ――っとまあこんな感じだ。
 あたしが出店の食べ物をぱくつきながら、きょろきょろと辺りを見て歩いていたときに
ぶつかって来た少女……それがアメリアだったってわけで、アメリアといえばゼルがこの
町にいるという噂を聞いて探していたらしい。
 それからほどなくしてゼルも見つかって、あたしたちは思い出話に花を咲かせたってわ
け、アメリアの用事はゼルに頼まれた資料を届けるって事だったみたい。
 お互いに用事も済んだけど、どうせ進む方角も同じだったからほんの僅かな間とはいえ
一緒に旅をする事になったわけだ。
 特筆するべき事柄といえば、どういうわけか一緒に旅をしようという事になったとき、
最も嫌がったのも喜んだのもアメリアだったって事なんだけど、なんでだろ……?
「リナさ〜ん、街が見えてきましたよ〜」
 あたしの目にも街の壁とそれにまとわりつくようにして建っている違法建築物もとい、
バラック…いやいや、いわゆる保護される程の身分を持てない人達の家々が見えてくる。
 いわゆる街の税金は納められないけど、街の仕事でどうにか食べていこうというという
人達の家だ。
 こういった人達は余程の事が無い限り容認されてるし、居住権そのものは持っているか
ら街への出入りは自由だし、街にとっても大事な労働力なのよね。
 ま、定職に就く事が出来れば街に住む人が多いわけだし、景観を損ねる事と犯罪者が潜
伏し易いって事以外は別に街にや為政者とって悪い事はないのよね。
「リナさん、どうしたんですかぼ〜っとして?」
「ん…別になんでもないわよ、防壁のある街って久しぶりだしこのくらいの規模の街だと
どのくらい通行税取られたかな〜ってね」
「リナさんらしいです」
「……まったくだ」
 アメリアの意見にゼルもこくこくと肯いている。
 まったく失礼しちゃうわよね〜、まるであたしがいつもそういう事を考えているみたい
じゃない。
「……どういう意味よ」
「い…いえ、別になんでもないです…ははは」
 あたしの険悪な視線を感じてか、慌てて取り繕うアメリアにあさっての方を向くゼル。
 ふ〜ん、いつもそういう目で見ていたのねぇ、これは一つ考えておかねばなるまい。
「それにしても、なんか人気が無いですねぇ」
「まあ、真っ昼間だからな」
「なあ……どうして昼間だと人がいないんだ?」
「働きに出ているからよ」
 あたしの答にガウリイは疑問符を浮かべているけど、これ以上説明してもめんどくさい
だけだし、別に役に立つような話じゃないからいいわよね。
「……妙だな」
 ガウリイが辺りを真剣に見回し、ゼルが呟く、アメリアも不安そうに家々を見ている。
「そうね…いくらなんでも全然人気が無いってのは変だし、防壁の門は開きっぱなしで衛
兵の姿も見えないってのはちょっとね」
 あたしの言葉に緊張が走る、ガウリイやゼルは剣の柄に手をかけアメリアは身構える。
 でも、辺りからは殺気の一つ、ざわめきの一つも聞こえはしないし視線すら感じない。
 この状況でもし攻撃されるとすれば――相手は魔族。
「どうするリナ?」
「……どうするもなにも、とりあえず街に入るしかないわよ」
 ガウリイの言葉にあたしは気楽に答えた。
 ここで攻撃されるような気配はないし、だったらこの元凶らしき所へ向かう以外に事実
を知り問題を解決する方法はない。
「恐くないんですか?」
「そういう問題じゃないでしょ」
「……だな」
 あたし達は肯くと、街への門をくぐった。

          *     *     *

 街の門をくぐったあたし達を迎えたのは、その異様な雰囲気に包まれた町並みと奇妙な
オブジェ達、買い物をしているおばさんや街のごろつき走る少年など、まるで街の一風景
がそのまま止っているかの様に見える。
 ――ただし、首から上が無かったり袈裟斬りに斬られていたり胸に棒が刺さっていたり
と”死んでいます”を主張ているかのような状態のまま立っていた。
「……リナさぁぁん」
 男達二人は油断なく辺りを見据え、アメリアは情けない声を出してあたしのマントを掴
んでいる。
 あたしは俯くと軽く額を抑えた。
「ちょっとアメリア……しっかりしてよ」
「でもでも、普通じゃないですよぉ」
 腰の引けた状態でしっかりと掴んだマントを両手でうじうじといじりながら、様子を伺
うような上目遣いに涙目であたしの顔を覗き込む。
 ……なんか可愛いぞアメリア。
 しょうがないのであたしはアメリアの身体を軽く抱き締めた。
 こうすれば少しは落ち着くでしょ、でも…こういうのって本来ゼルの役割じゃなかった
っけ? ……気弱なアメリアならともかく、泣いているアメリアなんていままで見た事無
かったわよねぇ。
「ねぇ、あたし達はここにいるからちょっと見てきてくれない?」
「わかった」
 あたしの言葉にゼルとガウリイはお互いに顔を見合わせると、ゼルは大通りをガウリイ
は裏通りへと続く道へと走っていった。
 ゼルとガウリイの姿が見えなくなって、あたしは辺りの死体?達と涙目のアメリアを交
互に見ていた。
 途方に暮れていると言えなくも無い、あたしも気味が悪いとは思うけれども側により一
層脅えているアメリアがいるから、なんだか気分が落ち着いてしまう。
 こういった慟哭とか脅えとかって反応は、先にやった者勝ちかもしんない。
 あたしはアメリアを向きあわせると強く抱き締めてあげる。
 ……胸の感触が、ちっまた大きくなったわねアメリア。
「リナさん……」
「落ち着いた?」
「もう少し、このままでいさせて下さい」
 アメリアの腕があたしを強く抱き寄せる、別に嫌な気分じゃないけど……。
「ね、ちょっとアメ……」
 状況を改善しようとアメリアに話し掛けた私の声は途中で音を失ってしまった。
 何故って、あたしの口をアメリアの唇が塞いでいるからだ……。
 うだ〜〜〜〜〜っ!!!
 あたしは近くのレンガの壁に向けて思いっきりアメリアを放り投げた。
 ごつっっ
 鈍い音とうずくまるアメリア、そしてすすり泣きが辺りに響く。
 ――静寂って罪。
 そしてアメリアの呟きが、あたしの耳に届いてきた。
「……ぐすっ…どう…して……いないんです…か…ゼルガディスさん……」
 うぁ〜もう、可愛いやねこんちくしょうっ!!
 思わず頭を掻き回したくなる衝動を抑えてあたしは呻く、多分アメリアはあたしに聞こ
えてないつもりなのだろうがなにぶんあたしの耳はエルフ並み。
「っったくもう!」
 あたしはアメリアの髪を優しく鋤いてやりながら心では絶叫していた。
 ゼルぅぅ早く戻ってきてよぉぉぉ!!

          *     *     *

 一刻後、戻ってきたゼルにアメリアを押し付け、あたし達は街の奥へと歩いていた。
「んで、間違いないんでしょうね?」
「ああ間違いない、俺だけならともかくガウリイの旦那にも確認してもらったからな」
 ゼルが持ってきた話というのは、街のほぼ反対側の窪んだ所の中心にある広場の所にま
だ動いている人影があったというものだ。
 本来ならそれを確認してから戻ってくるつもりだったのだろうが、広場まで行って戻っ
て来るには時間がかかりすぎる、既に散策で時間を浪費していたためガウリイと落ち合い
確認を取って戻って来たのだという。
 普段ならあたしも文句を言ったかもしれないが、今回は途中で切り上げて戻ってきたゼ
ルに感謝している、あの状況のまま放っておかれたら一体どんな事になってたことやら。
 ちなみにいまアメリアはゼルの背中で眠っている。
 それにしても一体誰が何の目的でこんな事をしたのだろう、あたしはまだ動いている人
影について考えた。
 一つはこの街の生き残りの生存者だと言う可能性、もう一つはこの現象を起こした者だ
という可能性、もう一つはこの事には無関係だということ……例えば作業用として作られ
ただ単に同じ行動を繰り返しているゴレームというだという可能性も無くはないのだ。
 いずれにしても用心しておくにこした事はないだろう。
「ゼル、そろそろアメリアを起こして」
「……ああ」
 ゼルはアメリアを下に降ろすと、顔をぺちぺちと叩いている。
「ガウリイ」
「おう」
 ガウリイは剣を鞘から抜き無造作に提げている。
 アメリアが起きるとわたし達は慎重に広場へと向かった。

 レンガで舗装された地面、中央には噴水があり所々に木々が植えてある。
ぱっとみた限り何の変哲も無い広場に見えた。
「貴様っ! 何をしているっ」
 ゼルの声とアメリアの息を呑む音にあたしが振り向くと、そこには今まさに無傷だった
オブジェ?の首が斬り落とされた所だった。
 ゼルとガウリイはその行為を行ったフードを目深にかぶった黒いマントの女?に向けて
剣を構えている。
 即座に切りかからないのは多分、一応片刃の剣…ブレードを構えているとはいえ隙だら
けだし、敵意というか戦おうという意志が感じられないからだろう。
「遅かったなリナ・インバース」
 黒いマントの女はそれだけ言うと、手に持ったブレードで自分の首を一閃した。
 首がフードごと転げ落ち、突っ立った身体からはまるで噴水のように勢い良く血がしぶ
いている、辺りのオブジェ?たちもまた時間が戻ったかのように崩れ落ち血を吹き出して
いる。
 死屍累々という言葉がぴったりだ、大気は重苦しい雰囲気を宿し、空は濁り淀んでる。
「なんなんだ一体?」
「アメリアっ助けられる人達は助けて、致命傷じゃない人達もいたはずよ!」
「は、はいっ!!」
「行くわよゼル、ガウリイはここで待ってて!」
 あたしは助かりそうな傷しかない手近な人達に治癒(リカバリイ)をかけようとした。
 ぐぅぅっっっ
 苦痛に顔を歪める。
 患部に手を当て治癒(リカバリイ)をかけたとき、あたしの中から何かがごそっと持って行か
れるような感じがした。
「いきます、……復活(リザレクション)!」
「アメリア駄目っ!!」
 あたしの声は届かずアメリアの復活(リザレクション)が発動してしまう。
「……ぐぅっ、かはっ!」
 アメリアのうめきと吐息が耳に届くと同時に、あたしの意識は急速に失われていった。

          *     *     *

 あたしが目を覚ますと、目の前にはガウリイの顔があった。
 うわっきゃぁぁっっ!
 手直にあった枕を引っ掴むとガウリイの顔に叩き付ける。
 ぽふっ
「ふぇ? ひぇんひぇんひひゃららひゃいりゃらい」
 手に腕に全然力が入らない、ろれつも回わらないしお酒を飲んだ記憶は無いけど……?
 枕に身構えたガウリイもきょとんとした顔をしている。
 あたしは深く深呼吸して気分を落ち着けた。
「事情、説明できる?」
 ――って今度はちゃんと喋れるしぃ、どうなってんの……?
「ん、ああ…リナとアメリナがいきなり倒れたんで、俺とゼルガディスで運んだんだが」
「それでアメリアは?」
「向こうで寝ている」
 ガウリイが指差す方向を見ると、ゼルがアメリアの額に濡れたタオルを乗せているのが
見えた。
 あたしは深呼吸しながらゆっくりと身体を起こす、ゼルもあたしの様子に気が付いたら
しくこちらに向かって来た。
「ゼル……何が起こってるのかわかる?」
「わからん、結界の一種だという事はわかるが何がどうなってるのかはな」
 次第にはっきりしてくるあたしの意識に、何かが漏れ続けているような感覚が触れた。
「ゼルも感じてる?」
「体中を鑢で削り取られるような感覚ならな」
 ヤスリ? まあいいけど、なんだろうこのどこか不快でどこか開放的なこの感覚は、ま
るで…そう我慢できなくてお漏らししたときのような…って何考えてのよあたしはっっ!
「アメリアは?」
「まだ寝ている、血を吐いたからな……かといって魔法は使えんし」
「魔法が使えない?」
「ああ、魔法を使おうとすればお前達のようになるみたいだ、明り(ライティング)ぐらいなら
まだ耐えられるがな、復活(リザレクション)を使おうとしたアメリアには過負荷だったんだろう
が、それにしても治癒(リカバリイ)すら使えんとはな」
 ……ってことは火の矢(フレア・アロー)さえ辛く火炎球(ファイヤー・ボール)すら論外って訳ね。
「結界みたいっていってたわよね?」
「ああ、ガウリイの旦那と閉まっていた門を壊して外に出ようとしてみたが中に放り出さ
れたからな、結界以外考えられん」
「門は壊せたの?」
 ゼルは黙ったまま首を振る。
 そう……触れる前に飛ばされたか、壊しても元に戻ってたって事なんだと思う。
「ところで街の人達は?」
「みんな死んでる、傷一つついていないのも同じように死んでいたから予め毒か何かを飲
まされていたんだと思う、あのとき復活(リザレクション)が使えても結局は同じ事だったろう」
 ゼルも気をつかってくれているのだろう、しっかし一体何がどうなってこの威力になっ
ているのよっ!
 あたしは肩に掛かっていた毛布を避けて……何であたしは裸なのっ?!
 毛布を抱き寄せ、きっと男達の方を睨む。
「えっ、ああいきなり倒れたからゼルが何か外傷があるか病気にでも感染したのかもしれ
ないって言うから…外から見たんじゃわからなかったし………」
 ぱん ぱん ぱん ぱん
 あたしは思いっきり男達の両頬を叩いた。
 ゼルの頬を叩いてもあたしの手が痛くなっただけだけれど、それなりに堪えてる様だし
まあ下着は着ていたからとりあえず我慢する。

          *     *     *

 程なくしてアメリアも気が付き、あたし達は再びあの広場へと来ていた。
 アメリアのときも一騒動あったし、アメリアのコークスリューをくらったゼルが今もま
だ擦ってたりするけど、それはまあ大した事じゃない。
 これまでに判った事といえば、まず魔法を使おうとすると何か…多分生命力や精神力が
浪費させられるという事、それは魔法の規模に比例し崩霊裂(ラ・ティルト)等のクラスになると
呪文の最初の一節を唱えただけで意識を失いかけないという事、どのくらいまで唱えられ
るか……どこまで我慢できるかは術者の体力と根性に比例する事だ。
 つまり、アメリアが筆頭でゼルがどうにかってところで……。
 あたしに至っては……ダメダメ、全然駄目、まったく駄目、明り(ライディング)すら満足に
唱えられないのだ。
 体力や根性がどうこうというより、唱えた時に感じる尋常ならざる脱力感や苦痛を堪え
きれず精神集中が霧散してしまうのだ……困ったもんである。
「リナさん、広場に向かってどうするんです?」
「とりあえず、この現象を起こした張本人に会うのよ」
「ええっ!! リナさん知ってるんですか?」
 アメリアが驚愕の表情であたしを見る……ってあのね。
「なに言ってるのよ、いたでしょ最後に自分の首を切り落とした奴が」
「あいつがこれをやったのか?」
「そうとしか考えられないじゃない」
「そういえばあいつはリナ、お前の事を知っているようだったな」
 …………。
 ゼルの言葉にあたしは押し黙る。
 そうなのだ、多分この事にみんなを巻き込んだのはあたしが原因。
 そうこうしているうちに、あたし達は広場へと辿り着いた。
 あたしは黒いフードに駆け寄るとそれを捲った。
 あたしの手を伝って流れるように零れ落ちる金髪に、失血の所為もあるとは思うけれど
抜けるような白い肌。
 フードからちらっと見た事があるだけとはいえ、確かにあたしの知っている顔だった。
「……エルフだと!」
 そう…あのときは気が付かなかったけれど、確かに今の彼女にはエルフとしての特徴が
備わっていた。
 そしてあたしは知っている、彼女が呪術師であると言う事とエルフならばこのくらいの
事は出来るであろうという事…そして彼女があたしを怨んでいたかもしれない事を、あた
しは知っている。
 逆恨みもいいところだし、ここまでするような事だとは思えないけれども……。
 あたしはあのときの事について、ぽつりぽつりと語りはじめた。

 彼女にあたしが出会ったのはとある依頼がきっかけだった。
 依頼の内容はある屋敷の若旦那の身体の不調を癒す事、結局のところ不調の原因は落馬
してあちこちの骨を折った事で治癒(リカバリイ)一発で治るような話だった。
 あたしは魔導士協会にでも頼めばといって立ち去ろうと思ったのだが、魔導士協会は若
旦那の主治医……つまり彼女に遠慮して治癒(リカバリイ)をかけてくれないという事だった。
 若旦那と彼女は恋仲でこのまま彼女に治療を受けさせた方が良いのだが、若旦那が不調
のままだと色々と支障が有るので、彼女や若旦那に内緒で治してくれないかというのが詳
しい内容で、報酬の良さにもつられてあたしは了承したのだが……。

「怨まれるような話でもないな、本当にそれだけなのか?」
「逆恨みもいいところですし、何よりリナさんの事は彼女には知られていないはずなんで
すよね?」
 あたしはこっくりと肯く。
「でもリナは彼女の事を知ってるし、彼女もリナの事を知ってるんだろ変じゃないか?」
「あたしはちらっと彼女を見た事があるだけ、彼女は……多分調べたんでしょうね、あた
しは彼女の名前すら知らないもの」
 そう言ってあたしは彼女の顔を見た。
「酷い話です、この街の人達には何の関係も無いじゃないですか!」
「まったくだ……それにしても術者本人が死んでいるのか、やっかいだな」
「そうね、多分持続性のある術なんだと思うけど」
「おれ聞いた事あるぜ、呪術師には他人の死や自分の死を代償にして使う術が有るって」
 ガウリイの言葉にあたし達はそろって目を点にした。
 ……時々変な事を覚えてるのは知ってたけど、まあいいいか。
 毎回からかうのもあれだし、あたしは無視して話を進める。
「街の人を全て犠牲に自らも代償にしたエルフの呪術……」
「お手上げだな、何も出来る事が思いつかん」
「とりあえずいつ効果がきれるのか……ですね」
「百年とか、そういう規模でもあたしは驚かないけど?」
「…………」
 アメリアとゼルは黙ってしまう、ガウリイは……あたしたちがおかれている状況の重大
さに気が付いてないみたいだし。
 あたしたちはまず手近な屋敷を占拠して打開策を考える事にした。

          *     *     *

 うだぁぁぁっっっっ、なんにも思い付かないっ!
 あたしは天蓋付きのふかふかのベットにつっぷした。
 あれから既に3日もたった、状況は良くなるどころか徐々に悪化している。
「おい、そろそろ店とかに並んでる食料品は腐りだしたぞ」
 あとは保存食か……腐るの早いな……。
 時間はどんどん過ぎて行く、出来る事も何もなにをすればどうなるのかも判らない。
 とりあえず死体を燃やそうとしてみたけど水気が捌けなくて全然燃えないし、死体より
先に樹木や食料品の方が先に腐敗していく。
 浄化炎(メギド・フレア)は効いたけど、アメリアが持たないわよね。
「リナさ〜〜ん、今日の浄化炎(メギド・フレア)打ち止めれふぅぅ」
 向かいの部屋のベットにアメリアが倒れ込むのが見えた。
 ――何も――できない――

「さぁ、御飯よ〜〜っ!」
 あたしの作った料理を、みんなが凄い勢いで食べている。
 当然、あたしも席について食べはじめるけど、あまり食欲はない……。
「それにしてもリナさんの料理って美味しいですよねぇ」
「当然よっ、食べ歩きの旅も伊達じゃないって!」
「家事全般得意みたいだし、こりゃ旦那が羨ましいぜ」
 って、何故そこで赤くなるガウリイ!
「まあね……」
「しかし、あと4〜5日もすれば食料がなくなっちまう」
「保存食ぐらい町中探せばきっと出てきますよ」
 アメリアの言葉にゼルが深刻な顔をする。
「どうしたの……ゼル?」
「ん…ああ、腐り出しているのは新鮮なものばかりじゃない、家や家具に使われている材
木や水……当然保存食もだ、すぐに食えるものは無くなる」
「…………」
 ゼルの言葉にみんなの動きが止る、出てる音と言えばあたしのナイフとフォークが食器
とかすりあう音だけ。
「大丈夫よ、水は煮沸すればいいし食料にも心当たりはあるから」
 そう……心当たりはある、まず生きるのが先だから……。

 あれから10日が過ぎ、アメリアの死体処理も半分が終わった。
 未だに何の変化もないから死体はこの術に何の関与もしていないのだろうか?
 すでにまともな食料が無くなっている。
 あたしの出した料理をみんな黙々と食べている、薄々は感づいているのかもしれない。
 特にガウリイは知っているだろう、あたしが最初に出したとき一瞬動きを止めて、それ
からおもむろに食べ出したのだから。
 あたしに何が出来る……何が出来る……何が出来る……
 これはあたしのせい……あたしのせい……あたしのせい……
 ――みんな、ごめんね――

          *     *     *

 さらに時は流れ、あたしは食料を確保するために街の大通りを歩いていた。
――カラン
 人影を見てあたしの手からショートソードが転げ落ちた。
 ……ゼロス。
「…リナ…さん? どうしてこんなところにいるんです?」
 あたしは駆け寄ってきたゼロスにしがみ付いた。
「一体、何があったんです?」
「ゼロス……あなた…の…仕事じゃないの……」
 これを実行した術者は判明してるけれど、そう仕向けたのがゼロスでない保証はない。
 だって、ここにこうしているのだから。
「違いますよ、それにここで何があったんです? リナさんらしくありませんね」
 そう言ってゼロスは俯いているあたしの顔を上げ、自分の方へと向かせた。
 余程酷い表情をしているのだろうか、ゼロスの顔が不機嫌そうに歪む。
「説明してもらえますか?」
 あたしの頬を冷たいものが伝わる、一すじ、二すじ。
 泣いているの? あたしは……。
 そんなあたしにどう接したらいいか戸惑っているのだろう、ゼロスが困惑の笑みを浮か
べている。
 何故泣いているのだろう? 嬉しいから? 哀しいから?
 …………。

 そのくらいで泣くような自分に育った覚えはないっっ!!
 すっぱぁぁ〜〜ん
 あたしは懐からスリッパを取り出すと、おもいっきり自分の頭をはたく。
 ……しまった、鉄板入りだった。
 頭皮を暖かいものが伝わっていくのがわかる、むちゃくちゃ痛いって!
「あの、リナさん?」
 ゼロスの顔におっきな汗が張り付いている。
「あ〜ごめんごめん、ちょっと考え事してたから」
「説明、してもらえますね?」
 あたしはこっくりとうなずき、これまでの事、おきた事、やった事を話し続けた。

「なるほど、そういうわけですか」
 あたしの話を一通り聞いた後、徐にゼロスはそう言った。
「という事は、当然外に出たいんですよねぇ」
「出られるのっっ?!」
 あたしの言葉に、ゼロスは意地の悪い笑みを浮かべた。
「出られますとも」
「それで、交換条件はなんなわけ?」
「はっはっは、いやあリナさんは何でもお見通しですねぇ」
 すぅぱぁぁぁん
 さっきのスリッパで、あたしはゼロスの頭をはたく。
「能書きはいいから、さっさと言う」
「それでは……」
 ゼロスの真剣な雰囲気にあたしはごくりと息を呑む。
「ぼくと契約しませんか?」
「それを断ったら出しては貰えないって事よね?」
 ゼロスは黙ったまま肯く。
 ……どうしよう、魔族との契約なんて嫌だけど今のままで状況が打開できるとは思えな
いし、何かの手がかりにはなるかもしれない。
「それで、詳細は?」
「一つは僕と共に時を歩む事、もう一つはリナさんが僕達魔族の側にいる事、そして色々
なものを見続ける事、これに抵触しない限りあなたの行動は阻害しません」
「要するに不死の契約を結び、魔族の行動には関わるなって事よね?」
 まったく、何考えてんだか……。
「リナさんに期待されてる事はもう少し違うんですけどねぇ」
「あたしに重破斬(ギガ・スレイブ)かなにかで自殺でもさせたいわけ?」
「いいえ違います、あなたには我々魔族の事を見続けて欲しいのですよ」
 あたしは胡散臭げにゼロスの顔を見やる。
「その結果、あたしはどうなるわけ?」
「さあ、どうなるんでしょうねぇ? 少なくとも僕は知りませんよ、結局のところ誰に何
を言われようが強要されようが、どんな状況に陥ろうともリナさんの行動を決めるのはリ
ナさん自身なのですから」
 それって、何をしようがされようがあたしの目の前にある問題はあたしの行動が招いた
ものって事でもあるわけよね。
「嫌な言葉ね」
「いつものリナさんなら『当然じゃないっ!』っていうと思いますよ」
 ……………………。
「わかったわ約する、ところであなたは何のためにここに来たの? やっぱり秘密?」
「この結界を除去する事ですよ、それが今回の僕の仕事です」
 なによそれ。
「って事は契約なんかする必要無いじゃない!」
「それはまあそうですが、2年程この中で我慢できますか?」
「なによそれ、どういうこと?」
「つまりですね……」
 ゼロスが語った内容はこんなものだった。
 この結界は中と外の瘴気を吸収し形成されている、この結界をこのまま放置すればかな
りの範囲の瘴気がここに蓄積される事になる。
 それはまあそれでいいらしいのだが、魔族はいわば瘴気のかたまりなわけで中級以上な
らばともかく下級の魔族になると結界に吸収されかねないという。
 それはそれで困るので、ゼロスがこの結界を除去というか吸収というか……つまりここ
に溜まった瘴気を食い潰すつもりで来たらしい。
「僕でも、この結界に吸収される瘴気より僕がこの結界から吸収する瘴気が多いからここ
に立っている事ができるのですよ」
「要するにあなたが吸収する瘴気とこの結界があなたや外から吸収する瘴気との差で計算
すると、ここに溜まっている瘴気が0になるまで2年かかるって事よね」
「そうです、今この結界を解除するためにはかなり強引にこじ開けなければなりません、
となれば僕もかなりの力を消耗しますし、結界に吸収された僕の瘴気やせっかく溜まって
いる瘴気も拡散してしまい回収できなくなります」
 その代償としてあたしとの契約ってわけか……。
「ここで吸収できる予定だった瘴気の量は上級魔族に換算して200体分ってところです
し、ここで悠長に潰す時間の事も考えれば妥当なところでしょう」
「過大評価ありがと、ところであなたが消耗する力や吸収されてしまう瘴気の事は計算に
入っていないわけ?」
「それはまあ、まんざら知らない仲というわけでもありませんしサービスということで」
 一つ立てた指をゼロスはあたしに向かって突きつける。
「わかったわよ契約するって言ったんだし、しのごの言わないからさっさとやって頂戴」
「わかりました」
 ゼロスの手があたしの胸を突きぬけ、あたしは自分の体の中に異物が入ってくる感触を
感じていた。
 あたしの身体を引き裂き何かが中に入ってくる、奥へ奥へと。
 その何かは灼熱の塊となって弾け飛び、あたしの身体の隅々へと浸透していった。
 身体がバラバラになってしまいそうな感覚と、あたしを構成する全てのものに触れ続け
るような熱いもの、あたしがあたしでなくなりそうな感覚にあたしは必死で耐えていた。
 目はもう何も見る事が出来ず、立っているのか座っているのかも判らない。
 目の前に突如現れた白い閃光に、あたしは飲み込まれた。
「終わりましたよ」
 はあ…はあ……
 息を荒げ、身体中を包む脱力感にあたしは堪らず膝を着いた。
「契約の石は、どこにあるの?」
「ありませんよそんなもの」
 不思議そうな顔をして、ゼロスはあたしを見つめる。
「なによそれ、どういう事なのよ?」
「いやですねぇ、僕がそんな下級魔族でもできるような方法でリナさんと契約するわけ無
いじゃないですか、しいて言えばガーヴと同じ事をやったのですよ」
 魔竜王ガーヴ? …………ヴァルガーヴっっ!!
「あたしを魔族にしたのっ!!」
 ゼロスの胸座をあたしは掴み上げた。
「いえいえ、僕はあなたを死なない身体に作り変えたんですよ」
 作り変えた? 本当の……不死の身体?!
「たとえ僕が滅んでも、あなたには……リナさんには生き続けて貰います」
「どういう事、どういう意味?」
「今のリナさんの身体は最も良い状態まで成長したらその先は老化しません、そして部位
が欠損したとしても直ぐに復元します、また修復不能なまでの欠損を受けたり重要な部分
を失った場合、リナさんはそのときの記憶を持ったまま生まれ変わります、生まれ変わっ
た肉体も今の身体と同じ能力を備えています」
 あたしはゼロスが言った言葉を一つ一つ噛み締めるように記憶した。
「肉体に依存しているだけで今のリナさんは僕達魔族と同じ……いえ、あらゆる面で神と
同じ特性を備えたとも言えます」
 神と同じ特性? なんのために?
「それではお約束通りこの結界を解除します、また先程も行った通りあなたの行動は束縛
しませんのでどうぞ御自由に」
 数瞬の後、どんよりと淀んでいた大気は晴れ渡り、久しぶりの青空があたしの目に飛び
込んできた。
 あたしは道路に寝そべると、清んだ青空を見つめながらこれからの事を考えていた。
 とりあえず今は助かった、でも……これから一体どうなるんだろう?

          *     *     *

 あれから数百年の月日が流れた、一応少しずつの変化はあるとはいえ何も変らぬ退屈な
日々、あまりかわらぬ日常に退屈を覚えたのはいつの日だったろうか?
 今までの日常が、退屈しなかった日々が普通ではない事を実感しているし、どれだけの
犠牲の上にあたしの満足があったのかも今のあたしは知っている。
 あのときの……あたしがあたしでなくなった事件と彼女に今のあたしは感謝している。
 あれから事件の事についても色々と知った、若旦那が病気にも感染していた事、あたし
のせいで彼が死んでしまった事、彼女の努力を不意にした事。
 あたしが今までどれほど狭い視野で行動していたのかをこの数百年で色々と知った。
 魔族の事も、神族の事も、人間の事も……。
 均衡の大切さも、世界の在り方も。
 ゼロスは……魔族も既にこの世にはいない、みんな先に滅んでしまった。
 今の世界は親族の加護の元、全ての生き物が永遠に生きるという苦痛を味わっている。
 魔族達の気持ちが今になってわかる。
 在り続けるを望む、脆く脆弱な精神生命体がこの世に現れたのはせめてもの救い。

 あたしは今、心より思う。
     あたしは今、心より願う。

                                ――滅びたいと。

                                   終わり

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901Re:滅びの日りぃみ 12/19-23:52
記事番号886へのコメント
白銀の魔獣さま、初めまして。
最初はリナアメ?っと思っていましたが、途中すごいですね?
食料なくなってリナが調達していたのって、まさか同志??
のろいって怖いです。
リナも永遠の苦しみをわかってしまうのですね。
魔族になってしまったからでしょうか?
リナは終わりのないゲームはつまらないでしょう。
滅びたい。わかるようなわからにような。
よくわからないこと口走っています。ごめんなさい。

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906りぃみさんへ白銀の魔獣 12/21-09:21
記事番号901へのコメント
>白銀の魔獣さま、初めまして。
  はじめまして、お読み頂きありがとうございます。

>最初はリナアメ?っと思っていましたが、途中すごいですね?
>食料なくなってリナが調達していたのって、まさか同志??
  えっと、それは……です。
  すごいというのは、状況がですか?

>よくわからないこと口走っています。ごめんなさい。
  いえ、率直な感想ありがとうございます。
  他に読み難い所とかありませんでしたでしょうか?
  次回に反映させま……努力はしますので教えて下さい。
  今後もよろしくお願いいたします。

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909ゼロスの休暇白銀の魔獣 12/21-12:46
記事番号886へのコメント

   『ゼロスの休暇』

 はい、僕の名はゼロスです。
 獣王様の所で獣神官なんてものをやっているわけですが、今日は仕事がありません。
 今日のように何も無い日は鉄の靴などを履いて近くの草原を歩き回るのもよいですね。
 ですが…せっかく獣王様からしばらくお休みを頂いたのですから、ちょっと遠出をする
事にしましょう。
 がさっがさっ
 鉄の靴で、草を踏みしめ、大地を踏みしめ歩きます。
 途中で樹木などを見つけたら、忘れず殴っておきましょう。
 草木の悲鳴や足下で潰れる微生物や虫達の死の苦痛も乙なもの。
「いやあ、気持ちいいですねぇ」
 虫や動物たちは死んでしまうとそこでお終いですが、植物はなかなか生命力が強いです
からねぇ、手頃な食事にいいですよ。
「さてと……」
 足の動きを止めずに、僕は鞄からプラナリアを取り出します。
 そろそろお昼ですから、食事の時間です。
 まず、プラナリアを二つに引き裂いて片方をすり潰します。
 完全にすり潰し終わる頃にはもう片方が復元しているので、再び引き裂いてすり潰す事
を繰り返します。
 まあ、餌はあげてませんし…いずれかは戻れなくなって死んでしまうのですが、それま
では十分に楽しむ事ができます。
 次は鬼ひとでにでもしますか……。
 そんな事を考えて歩いていると、遠くで喧騒の音が聞こえてきました。
「どうも、野盗か何かに村が襲われているようですね」
 僕はつい呟きながら、音の聞こえてくる方に向かって歩きます。
 ほどなくして僕の眼下に襲われている村が見えてきたのですが、食料や金は完全に奪わ
れ女子供が根こそぎ攫われているようです。
「素人ですね」
 僕はそう評価を下しました。
 普通、野盗というのは村が死に絶えてしまっても困るので、辛うじて生きていける程度
の食料や村が存続できるくらいの子供は残していくものです。
 そうすれば末永く長々と略奪し続ける事ができるってものです。
 まあ、野盗に限らず国家や我々魔族もやっている事ですけど……。
 どうやら騒ぎも収まり、村人達が各々に嘆き悲しんでいます。
 死者はほとんどいないようですし、食べるものもほぼ完全に無くなっているようですか
ら、これはこれで楽しむ事ができそうです。

      *     *     *

 2,3日が経ちました、村では体力の無い老人や抵抗力の無い者たちが飢えや病気で次
々と境遇を怨みつつ死んでいきます。
 近くの村に助けを求めに行った者たちも、僕がちゃんと捕獲しておきました。 
 飢え死にというのは、僕たち魔族にとってかなり理想的な殺し方です。
 何もしなくとも苦しみながら死んでくれますし、怨みや死への恐怖といった感情も長々
と抱き続けてくれます。
 惜しむらくは怨みの感情が僕たち魔族の方を向いていてくれない事なのですが、それは
まあ仕方の無い事でしょう。
 村人達の負の感情を味わいつつ、捕獲した手近な者の骨を砕いて苦痛を味わいます。
 心地よさに浸って寝転んでいると、誰かが近づいて来るのを感じます。
 身を起こすと僕の目に、後ろ髪をおさげにした人影が映りました。
「何か御用ですか、シェーラさん?」
「用ってほどのものじゃないけど、美味しそうな気配がしたから……」
 はにかみながらそう答えると、シェーラさんは僕の横にころんと寝っ転がりました。
 度々というわけではありませんが、良くある事なので僕は気にせず再び寝転びます。
「気持ちいいわねぇ〜〜」
 いかにも心地よいという表情をして青空を見上げながら、シェーラさんは近くにいる男
の僕が骨を砕いた部分を足でもてあそんでいます。
 身を凪ぐ風に木々が悲鳴を上げる音と男達の苦悶に呻く声をゆりかごに、僕たちはうと
うとし始めました。
 僕の腕にシェーラさんはじゃれつくと逆間接に極めます、僕はシェーラさんの腕に噛み
付いてあげました。
 精神世界面(アストラル サイド)でもシェーラさんは僕を締め上げ、僕はシェーラさんを軽く貫
いてあげます。
 お互いに苦痛を与え合う……魔族の愛情表現の一種です。
 人間の言う愛情とは違うと思いますが……そう、動物たちがやる毛繕いみたいなものと
言った方が解り易いでしょう。
 ひとしきりじゃれあった後、僕たちはまどろみの中に身を投じました。

      *     *     *

「休暇はどうだった?」
 疲れがとれ戻ってきた僕に、ゼラス様はそう言われます。
「ゆっくりと休ませて頂きました」
「そう、それはよかったわね」
 ゼラス様はつかつかと近寄ると、平伏する僕の背中をハイヒールで踏みつけました。
 こうして僕の休暇は終わり、また仕事の日々が始まります……。
 え、あの後シェーラさんと何かあったんじゃないかって?
 野暮ですねぇ、それは……秘密です。

                                 終わり