◆−千年越しの賭 7−エモーション (2002/10/4 22:41:43) NEW No.10265
 ┣Re:千年越しの賭 7−ドラマ・スライム (2002/10/4 22:50:11) NEW No.10266
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10265千年越しの賭 7エモーション E-mail 2002/10/4 22:41:43


ツリー落ちてるよ……。「明後日まで持つかな」と思ってたのに……。

こんばんは。
この辺りから、過去の割合が多くなります。
では、いきまーす。

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

 「千年越しの賭 7」

3.
 現在−3
「女神像の鑑定をした神官さんと巫女さんって、一体どういう人たちなの
でしょうね」
 それほど長い文献ではないものの、一区切りついたので少し休憩をしていると、
不意にアメリアがそんなことを言った。
「どういうって…… まあ、ずいぶん無茶な忠告するとは思うわね。目の前に
あんな便利なものがあるのに、使うなって言われて、すんなり納得するわけ
ないじゃない。
 使わせたくないんだったら、最初から言わなきゃいいのよ。あれじゃあ、
ただの嫌がらせでしょうが。
 まあ、馬鹿正直に余計なことを言ったのは、神官の方だけど」
 毎度の事ながら、すっかり熟睡してしまったガウリイの髪を、三つ編みにして
遊びながらリナが答える。リナらしいストレートな意見に、アメリアは苦笑
しながら言い直す。
「いえ、そうじゃなくて、どんな素姓の方々なのかなって……。私には、
とても普通の神官や巫女とは思えないんです」
「確かに『神魔戦争』の頃の、しかもそれなりに『力』を持っている代物の
鑑定をあっさりやってのけるなんて、普通は出来ないわね」
「100歩譲って分かったとしても、何から何までとなると神業だな。その
2人は魔力にしろ霊力しろ、人並み以上の能力を持っているか、そうでなければ
相当の鑑定眼と知識を持っている人間ということになる。どっちにしても
……ただ者じゃないな」
「やっぱり、リナさんもゼルガディスさんもそう思いますか? だから、
尚更分からないんです。それだけの能力や知識を持っているのなら、
さぞ名のある方々だと思うんですけど……」
「当時は無名だった……としても、名前すら記録に残っていないのは、確かに
おかしいな。名のらなかったとは書いてあるが、普通は後からでも分かれば
記録するはずだ。有名人であれば尚更な」
 こういった場合、公式の由来書であっても、箔付けや信仰等を広めるため
なのか、「名のらず去った旅人は実は……」と、やたらと有名な人間が関わった
と言うケースが多い。明らかに時代等が合わなくてもそうなのだから、本当
に有名人なら遠慮なく記録するのが普通だ。
 公式文書どころか、一般の民間伝承にすら神官や巫女としか伝わっていないのは、
かなり珍しいだろう。
「あるいは、意図的に、わざと書かなかった……」
 リナのこの呟きに、アメリアもゼルガディスもハッとなる。2人の視線を
受けて、リナはくすりと微笑んで肩をすくめた。
「長老や村人たちはともかく、ヒュパティアは神官と巫女を家に泊めたり
してるんだから、名前を知っていた……少なくとも、知っている可能性の方
が高いわ。でも、文献には2人の名前を書いていない……。
 つまり、それは書かない、もしくは書けない理由があるってこと。案外、
ヒュパティアにとっては女神像より、こっちの方が問題だったのかもね」
「リナさん、凄いです。きっとそうですよ、見事な三段論法です!」
「……いや、アメリア。今のは三段論法というよりは連鎖推理の一種……
でもない、単なる推測だ。可能性ははあるが」
 やたらと目をきらきらさせているアメリアと、冷静に突っ込んでいる
ゼルガディスを、ジト目で見ながらリナは呟いた。
「……誉められてるのか、貶されてるのか、分かんないんだけど……」

 過去−3
 女神像が祀られてから3年程経った。
 初めのうちは「代償」を気にしていた者たちも、それほど目立って失うものが
ないことや、「代償」と思われるものが、取るに足りない物だったことから、
日一日と忠告は忘れ去られ、今では誰もそんなことを気にしなくなっていた。
また、忠告を知らない者もいる。それでも、特に問題はなかったからだ。
 噂を聞きつけて女神像へ巡礼に来る者が増え、人の行き来が多くなったことで、
名もない小さな村は、道が整備され宿などが出来て賑わうようになり、
プラット・タウンと言う名の町に発展していた。
「ティア!」
 自分を呼ぶ声に、少し伸びてきた濃いブラウンの髪をひとつに纏め、
パステルブルーの神官服を着た少女が振り返った。彼女の名前はヒュパティア。
ついこの間、2年の見習い期間を経て神官になったばかりだ。
「エリック。おはよう、どうしたの?」
 両手にたくさんの花を抱えて、ティアは微笑んで答えた。
 エリックは3年前、ティアが初めて女神像──オリハルコンの──に、
願掛けをしたとき、声をかけた幼なじみだ。当時は有志だったが、村を出て
いた間に培った剣の腕を買われ、今では正規の警備兵をしている。
 この神殿では珍しく、正規の過程を経て神官になった、いわば変わり種の
ティアを気遣ってくれる、数少ない友人だ。
「いや、特に用ってことじゃないんだけど、花をいっぱい持って歩いてるから、
どこ行くのかと思って」
「東の女神の部屋よ。あの部屋は殺風景だから、花ぐらい飾ろうと思って」
 この神殿で「女神像」と言えば、プラチナの女神像のことだ。オリハルコンの
女神像は、基本的に「無いと困るので祀っている」という扱いなので、当初は
「もう片方」としか呼ばれなかった。ティアはその呼び方を嫌い、祀られて
いる部屋の方角で呼んでいたが、それがいつの間にか周囲にも定着したのだ。
「ああ、東の女神の……。良い考えだけど、大丈夫か? また、煩く文句
言う奴、でてくるぜ」
 東の女神にしか願い事をしないティアは、普通は変わり者、もしくは
意地っ張り扱いされるだけだが、それを面白く思わない者もいる。あからさまな
陰口や嫌がらせはいつものことだ。
「平気よ。だって、私、今日から東の女神の担当になったもの。担当する場所の
美観を整えたからって、文句言われる理由なんてないわ。許可も貰ってるし。
言わせておけばいいのよ、それしか出来ないんだから」
 一刀両断、と言ったノリでティアは言い放つ。見習いになった当初はよく
泣かされていたが、割合早い時期に根性が座って開き直り、度が過ぎる者には
きっちり相応の報復をしている。
 そのせいか、現在では正面切ってケンカを売られたことはない。それでも、
エリックにはティアがどこか危なっかしく見える。
 数日後、エリックは自分から志願して、東の女神の警備についた。

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

L.えーっと、補足です。「現在−3」の時点では、あたし達はまだ「代償」の
  ことを知りません。ヒュパティアの文書にはこの時点では、まだそれは
  書かれてませんでした。
X.筆者Eが推敲の時に残すか削るかで悩んだ部分です。結局「過去−2」は
  基本的に僕(一部当時のキャラ)の回想なので残したんですが。
  普通は削りますよね(ちゅどーん!:筆者E、自爆)
L.一応、この部分で「過去の話」がまるまる全部「ヒュパティア文書」の
  内容というわけじゃない、って思ってほしかったみたいよ。
  ……失敗してるよーな気がするけど。
X.とりあえず、8へ続きます。

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10266Re:千年越しの賭 7ドラマ・スライム 2002/10/4 22:50:11
記事番号10265へのコメント

エモーションさんは No.10265「千年越しの賭 7」で書きました。
>
>ツリー落ちてるよ……。「明後日まで持つかな」と思ってたのに……。
>
>こんばんは。
>この辺りから、過去の割合が多くなります。
>では、いきまーす。
>
>∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
>
> 「千年越しの賭 7」
>
>3.
> 現在−3
>「女神像の鑑定をした神官さんと巫女さんって、一体どういう人たちなの
>でしょうね」
> それほど長い文献ではないものの、一区切りついたので少し休憩をしていると、
>不意にアメリアがそんなことを言った。
>「どういうって…… まあ、ずいぶん無茶な忠告するとは思うわね。目の前に
>あんな便利なものがあるのに、使うなって言われて、すんなり納得するわけ
>ないじゃない。
> 使わせたくないんだったら、最初から言わなきゃいいのよ。あれじゃあ、
>ただの嫌がらせでしょうが。
> まあ、馬鹿正直に余計なことを言ったのは、神官の方だけど」
そう謎の神官が
> 毎度の事ながら、すっかり熟睡してしまったガウリイの髪を、三つ編みにして
>遊びながらリナが答える。リナらしいストレートな意見に、アメリアは苦笑
>しながら言い直す。
>「いえ、そうじゃなくて、どんな素姓の方々なのかなって……。私には、
>とても普通の神官や巫女とは思えないんです」
>「確かに『神魔戦争』の頃の、しかもそれなりに『力』を持っている代物の
>鑑定をあっさりやってのけるなんて、普通は出来ないわね」
>「100歩譲って分かったとしても、何から何までとなると神業だな。その
>2人は魔力にしろ霊力しろ、人並み以上の能力を持っているか、そうでなければ
>相当の鑑定眼と知識を持っている人間ということになる。どっちにしても
>……ただ者じゃないな」
>「やっぱり、リナさんもゼルガディスさんもそう思いますか? だから、
>尚更分からないんです。それだけの能力や知識を持っているのなら、
>さぞ名のある方々だと思うんですけど……」
おいおい。
>「当時は無名だった……としても、名前すら記録に残っていないのは、確かに
>おかしいな。名のらなかったとは書いてあるが、普通は後からでも分かれば
>記録するはずだ。有名人であれば尚更な」
> こういった場合、公式の由来書であっても、箔付けや信仰等を広めるため
>なのか、「名のらず去った旅人は実は……」と、やたらと有名な人間が関わった
>と言うケースが多い。明らかに時代等が合わなくてもそうなのだから、本当
>に有名人なら遠慮なく記録するのが普通だ。
> 公式文書どころか、一般の民間伝承にすら神官や巫女としか伝わっていないのは、
>かなり珍しいだろう。
>「あるいは、意図的に、わざと書かなかった……」
> リナのこの呟きに、アメリアもゼルガディスもハッとなる。2人の視線を
>受けて、リナはくすりと微笑んで肩をすくめた。
>「長老や村人たちはともかく、ヒュパティアは神官と巫女を家に泊めたり
>してるんだから、名前を知っていた……少なくとも、知っている可能性の方
>が高いわ。でも、文献には2人の名前を書いていない……。
> つまり、それは書かない、もしくは書けない理由があるってこと。案外、
>ヒュパティアにとっては女神像より、こっちの方が問題だったのかもね」
書けない理由・・・代償と関係あるのかな。
>「リナさん、凄いです。きっとそうですよ、見事な三段論法です!」
>「……いや、アメリア。今のは三段論法というよりは連鎖推理の一種……
>でもない、単なる推測だ。可能性ははあるが」
> やたらと目をきらきらさせているアメリアと、冷静に突っ込んでいる
>ゼルガディスを、ジト目で見ながらリナは呟いた。
>「……誉められてるのか、貶されてるのか、分かんないんだけど……」
>
> 過去−3
> 女神像が祀られてから3年程経った。
> 初めのうちは「代償」を気にしていた者たちも、それほど目立って失うものが
>ないことや、「代償」と思われるものが、取るに足りない物だったことから、
>日一日と忠告は忘れ去られ、今では誰もそんなことを気にしなくなっていた。
>また、忠告を知らない者もいる。それでも、特に問題はなかったからだ。
> 噂を聞きつけて女神像へ巡礼に来る者が増え、人の行き来が多くなったことで、
> 名もない小さな村は、道が整備され宿などが出来て賑わうようになり、
>プラット・タウンと言う名の町に発展していた。
>「ティア!」
> 自分を呼ぶ声に、少し伸びてきた濃いブラウンの髪をひとつに纏め、
>パステルブルーの神官服を着た少女が振り返った。彼女の名前はヒュパティア。
>ついこの間、2年の見習い期間を経て神官になったばかりだ。
>「エリック。おはよう、どうしたの?」
> 両手にたくさんの花を抱えて、ティアは微笑んで答えた。
> エリックは3年前、ティアが初めて女神像──オリハルコンの──に、
>願掛けをしたとき、声をかけた幼なじみだ。当時は有志だったが、村を出て
>いた間に培った剣の腕を買われ、今では正規の警備兵をしている。
> この神殿では珍しく、正規の過程を経て神官になった、いわば変わり種の
>ティアを気遣ってくれる、数少ない友人だ。
>「いや、特に用ってことじゃないんだけど、花をいっぱい持って歩いてるから、
>どこ行くのかと思って」
>「東の女神の部屋よ。あの部屋は殺風景だから、花ぐらい飾ろうと思って」
> この神殿で「女神像」と言えば、プラチナの女神像のことだ。オリハルコンの
>女神像は、基本的に「無いと困るので祀っている」という扱いなので、当初は
>「もう片方」としか呼ばれなかった。ティアはその呼び方を嫌い、祀られて
>いる部屋の方角で呼んでいたが、それがいつの間にか周囲にも定着したのだ。
>「ああ、東の女神の……。良い考えだけど、大丈夫か? また、煩く文句
>言う奴、でてくるぜ」
> 東の女神にしか願い事をしないティアは、普通は変わり者、もしくは
>意地っ張り扱いされるだけだが、それを面白く思わない者もいる。あからさまな
>陰口や嫌がらせはいつものことだ。
>「平気よ。だって、私、今日から東の女神の担当になったもの。担当する場所の
>美観を整えたからって、文句言われる理由なんてないわ。許可も貰ってるし。
>言わせておけばいいのよ、それしか出来ないんだから」
> 一刀両断、と言ったノリでティアは言い放つ。見習いになった当初はよく
>泣かされていたが、割合早い時期に根性が座って開き直り、度が過ぎる者には
>きっちり相応の報復をしている。
> そのせいか、現在では正面切ってケンカを売られたことはない。それでも、
>エリックにはティアがどこか危なっかしく見える。
> 数日後、エリックは自分から志願して、東の女神の警備についた。
>
>∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
>
>L.えーっと、補足です。「現在−3」の時点では、あたし達はまだ「代償」の
>  ことを知りません。ヒュパティアの文書にはこの時点では、まだそれは
>  書かれてませんでした。
>X.筆者Eが推敲の時に残すか削るかで悩んだ部分です。結局「過去−2」は
>  基本的に僕(一部当時のキャラ)の回想なので残したんですが。
>  普通は削りますよね(ちゅどーん!:筆者E、自爆)
>L.一応、この部分で「過去の話」がまるまる全部「ヒュパティア文書」の
>  内容というわけじゃない、って思ってほしかったみたいよ。
>  ……失敗してるよーな気がするけど。
>X.とりあえず、8へ続きます。
では〜。
>

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10269千年越しの賭 8エモーション E-mail 2002/10/4 23:15:42
記事番号10265へのコメント

 「千年越しの賭」 8
 
「── 誰が見ても、町の者は皆、何一つ不自由なく、裕福に暮らしていました。
でも、見えない部分で歪んでいたものは、私たちを見える部分で蝕み始めて
いたのです。今思い返せば、確かにその兆候が起きていたのが分かります。
 しかし、当時は誰1人、神官である私たちですら、その事に気づいて
いませんでした──」

 2人がプラット・タウンの噂を聞いたのは、ホースマロン・シティという街の、
宿屋の食堂だった。プラット・タウンに一番近い大きな街と言うこともあって、
泊まり客からよく質問されるのか、宿屋のおかみは、給仕をしながら2人に
話してくれたのだ。
 主に質問をしていたのは腰の辺りまであるさらさらのフェアブロンドの髪と
赤紫色の瞳が印象的な、18〜19の娘の方だ。笑顔で他の客の応対に行った
おかみと対照的に、娘は酷く難しい顔で考え込んでしまっていた。そのまま
並べられた食事に手もつけず、どこか落ち込んでいる。
「……落ち込んでますね?」
 彼女の連れである、黒い髪を肩できっちりと切りそろえた、二十歳前後の
青年が声をかける。その問いかけに、彼女は静かに頷いた。
「うん……。分かってはいたけれど、やっぱり、改めて聞くとね」
「理由はどうあれ、彼らの選択です。貴女が落ち込んでも仕方ありませんよ」
「……ゼロスって、さらっとそんなことを言うのよね」
「誉めていただいて光栄です♪」
「誉めてないわっ!」
 ムキになって否定する様子に、ゼロスはくすくすと笑う。一緒に旅をして
3年程経ったが、彼女のこんなところは、最初の頃と今も全く変わらない。
「ゼロス。私、プラット・タウンに寄って行くわ。多分、ティアが困っていると
思うから」
 やっと食事を食べはじめたと思ったら、サラダをつついていたフィリシアが、
ゼロスの目を見て言う。
「では、ご一緒しますよ。フィリシア」
「いいわよ、遠回りになるし。1人でも別に大丈夫だもの」
「……フィリシア、先程お聞きしたじゃないですか。質の悪い方々がいるって。
女性1人では危険ですよ」
「それがどうしたの? そんなの、普通に旅をしていても同じじゃない」
「あの……分かってないんですか? 違う意味で大丈夫じゃないんですよ、
フィリシア。貴女の場合は特に。治安の良い街でも散々からまれてるんです
からね」
 どうやら本気で意味が分かっていないフィリシアに、さすがにゼロスも
呆れてしまった。このまま好きにさせて、どうなろうと放っておこうかとも
思ったが、2人の会話が耳に入ったらしく、おかみが口を挟む。
「お行きになるんですか? でしたら、神官さんが言うように、ご一緒の方が
よろしいと思いますよ。先程も言いましたけど、質の悪い連中が居座るように
なりましたし……。
 ……大きな声じゃ言えませんけどね、その中には街の権力者のバカ息子も
混じってるらしくって、被害にあっても、ほとんどが泣き寝入りのようです
からねぇ……。
 ですから、年頃の娘さんが1人で行くのはお勧めしませんよ。特に、巫女さん
のような綺麗な娘さんは、ほんとに気をつけた方がいい。男性の同行者がいても、
連中に目を付けられたら事ですから」
 おかみにそう言われた途端、フィリシアは両手を握り合わせ、瞳をうるうる
キラキラさせながら、ゼロスに訴えた。
「お願い。一緒に付いてきて(はあと)」
「わ……分かりましたから、そーゆーマネはやめてください……
語尾のハートマークも……」
 盛大にイスから転げ落ち、床にへたり込みながら、そう答えるのが精一杯
のゼロスだった。

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

L.ハートマークって機種依存文字だっけ? パソ入力した文書は普通に
  ハートマークだったはずだけど。ここでは修正してるわね。
X.多分……。時々「ウ」の文字になってるのを見ますから……。他には
  (1)とかが(月)になっているのも。
  主にWinで作成したHP&書き込み→Macの画面で閲覧の時に
  見ますが、逆の場合はどうなんでしょうね。
L.筆者EはMacだもんね。試しにここでやってみよ。これね→「。」
  しっかし、この場面、みょーに見てるの恥ずかしいわね。
X.正確にはここから先もちょっと……です。下書きしたのが7月下旬から
  8月の頭で、暑さで熱射病一歩手前状態(事実)でしたからね。
  脳味噌煮えたぎってたせいでしょう。
  まあ、どう間違っても恋愛ネタには、絶対に、なりませんけどね。
L.葬式も重なったしねー。変にハイだったのは確かよね。
X.まあ、とりあえず、続きます。明日またお会いしましょう。では。

トップに戻る
10272Re:千年越しの賭 8ドラマ・スライム 2002/10/4 23:36:47
記事番号10269へのコメント

エモーションさんは No.10269「千年越しの賭 8」で書きました。
>
> 「千年越しの賭」 8
> 
>「── 誰が見ても、町の者は皆、何一つ不自由なく、裕福に暮らしていました。
>でも、見えない部分で歪んでいたものは、私たちを見える部分で蝕み始めて
>いたのです。今思い返せば、確かにその兆候が起きていたのが分かります。
> しかし、当時は誰1人、神官である私たちですら、その事に気づいて
>いませんでした──」
>
> 2人がプラット・タウンの噂を聞いたのは、ホースマロン・シティという街の、
>宿屋の食堂だった。プラット・タウンに一番近い大きな街と言うこともあって、
>泊まり客からよく質問されるのか、宿屋のおかみは、給仕をしながら2人に
>話してくれたのだ。
> 主に質問をしていたのは腰の辺りまであるさらさらのフェアブロンドの髪と
>赤紫色の瞳が印象的な、18〜19の娘の方だ。笑顔で他の客の応対に行った
>おかみと対照的に、娘は酷く難しい顔で考え込んでしまっていた。そのまま
>並べられた食事に手もつけず、どこか落ち込んでいる。
>「……落ち込んでますね?」
> 彼女の連れである、黒い髪を肩できっちりと切りそろえた、二十歳前後の
>青年が声をかける。その問いかけに、彼女は静かに頷いた。
>「うん……。分かってはいたけれど、やっぱり、改めて聞くとね」
>「理由はどうあれ、彼らの選択です。貴女が落ち込んでも仕方ありませんよ」
>「……ゼロスって、さらっとそんなことを言うのよね」
>「誉めていただいて光栄です♪」
>「誉めてないわっ!」
> ムキになって否定する様子に、ゼロスはくすくすと笑う。一緒に旅をして
>3年程経ったが、彼女のこんなところは、最初の頃と今も全く変わらない。
>「ゼロス。私、プラット・タウンに寄って行くわ。多分、ティアが困っていると
>思うから」
> やっと食事を食べはじめたと思ったら、サラダをつついていたフィリシアが、
>ゼロスの目を見て言う。
こんな昔でもほとんど同じですね。
>「では、ご一緒しますよ。フィリシア」
>「いいわよ、遠回りになるし。1人でも別に大丈夫だもの」
>「……フィリシア、先程お聞きしたじゃないですか。質の悪い方々がいるって。
>女性1人では危険ですよ」
>「それがどうしたの? そんなの、普通に旅をしていても同じじゃない」
>「あの……分かってないんですか? 違う意味で大丈夫じゃないんですよ、
>フィリシア。貴女の場合は特に。治安の良い街でも散々からまれてるんです
>からね」
> どうやら本気で意味が分かっていないフィリシアに、さすがにゼロスも
>呆れてしまった。このまま好きにさせて、どうなろうと放っておこうかとも
>思ったが、2人の会話が耳に入ったらしく、おかみが口を挟む。
>「お行きになるんですか? でしたら、神官さんが言うように、ご一緒の方が
>よろしいと思いますよ。先程も言いましたけど、質の悪い連中が居座るように
>なりましたし……。
> ……大きな声じゃ言えませんけどね、その中には街の権力者のバカ息子も
>混じってるらしくって、被害にあっても、ほとんどが泣き寝入りのようです
>からねぇ……。
> ですから、年頃の娘さんが1人で行くのはお勧めしませんよ。特に、巫女さん
>のような綺麗な娘さんは、ほんとに気をつけた方がいい。男性の同行者がいても、
>連中に目を付けられたら事ですから」
> おかみにそう言われた途端、フィリシアは両手を握り合わせ、瞳をうるうる
>キラキラさせながら、ゼロスに訴えた。
>「お願い。一緒に付いてきて(はあと)」
>「わ……分かりましたから、そーゆーマネはやめてください……
>語尾のハートマークも……」
> 盛大にイスから転げ落ち、床にへたり込みながら、そう答えるのが精一杯
>のゼロスだった。
>
>∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
>
>L.ハートマークって機種依存文字だっけ? パソ入力した文書は普通に
>  ハートマークだったはずだけど。ここでは修正してるわね。
>X.多分……。時々「ウ」の文字になってるのを見ますから……。他には
>  (1)とかが(月)になっているのも。
>  主にWinで作成したHP&書き込み→Macの画面で閲覧の時に
>  見ますが、逆の場合はどうなんでしょうね。
>L.筆者EはMacだもんね。試しにここでやってみよ。これね→「・」
>  しっかし、この場面、みょーに見てるの恥ずかしいわね。
>X.正確にはここから先もちょっと……です。下書きしたのが7月下旬から
>  8月の頭で、暑さで熱射病一歩手前状態(事実)でしたからね。
>  脳味噌煮えたぎってたせいでしょう。
>  まあ、どう間違っても恋愛ネタには、絶対に、なりませんけどね。
>L.葬式も重なったしねー。変にハイだったのは確かよね。
>X.まあ、とりあえず、続きます。明日またお会いしましょう。では。
それでは、コメント1個ですが
さようなら〜

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10323千年越しの賭 9エモーション E-mail 2002/10/5 23:28:23
記事番号10269へのコメント

 ずっと2つずつUPしてたけど、今日はツリーが3つくらいになるかも……。

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

 「千年越しの賭」 9

 一見、平和で裕福な町では、小さな小さな不満の火種が無数に燻り始めて
いた。
 女神像のおかげで、ほとんどの住人がまるで貴族のような暮らしをし、財産を
持っていたし、そうでない者たちも、人の出入りが活発になったことで、以前
よりもずっと仕事がしやすくなり、余裕のある生活をしているのだから、結果
としては女神像のおかげだ。だから、不満などあるはずがなかった。……これまでは。
 それは、この町では珍しくなくなった事が、きっかけだろう。
 ある男が、女神像に願って品質も大きさも世界一、と言う宝石を手に入れた。
有頂天になった男は友人達を集めて自慢し、羨ましがる彼らを見て満足したが、
翌日、愕然とした。
 宝石を見せた者たち全員が、女神像に願って全く同じ宝石を手に入れたからだ。
男は悔しがり、再び願ってそれ以上の宝石を手に入れたが、結果は同じ。
こんな調子で、何度も同じ事が繰り返されるばかりだった。
 ……似たような事は、内容こそ違うものの、誰もが経験していた。願いは
確かに叶うのに、不満だけが、増えていくのだ。
 こうして、人々の心の中で不満だけが積もり、歪んだ思いが燻り始めた……。
 「自分は何て不幸なのだろう」と。「自分以外の者が、いい思いをするの
は許せない」と。
 
「……エリック、何だか最近、変な感じがしない?」
 東の女神の部屋で、換気のために窓を開けたティアが外を見ながら言う。
開けたのは神殿の表側、ここからは祈願をしに来る人々が一望できる。
「変? どんな風に?」
 モップ片手にエリックが答える。東の女神の担当になりたがる神官は少ない。
担当になっても、真面目に部屋に居ない者の方が多いので人手が足りず、本来は
警備担当のエリックが掃除を手伝うような有様だ。ここの担当になって、
エリックはティアの他に2人しか担当の神官を見たことがない。本来は9人
いるはずなのだが。
「上手く……説明出来ないんだけど、祈願に来る人たちの様子が、以前と違う気が
するの。どこがって訊かれると分からないんだけど……とにかく、変な感じ
がして……」
「生活に困ってる訳じゃないから、以前みたいな切羽詰まった感じはしないな。
噂を聞いて来る人達の中には、この間のどっかの領主みたいに、何か勘違いした
願い事をしに来るのも増えてるし、そのせいじゃないか?」
「うん……そうよね、きっと。……あっ!」
 ティアが、嬉しそうに笑って女神像に駆けよった。
「東の女神が光ったわ。……誰かが、願いを叶えたのね」
 数少ない人数だが、東の女神に祈願をする者はいる。ティアが見上げた祭壇の
中で、見違えるほどではないものの、オリハルコンの女神像は、確かに以前
よりも輝きを増していた。

「──何がどうおかしいのか分からない。それでも、何かがおかしくなって
いる。そんな、小さな小さな違和感と悪い予感を、町の者の中にも、さすが
に感じとる者が現れ出した、そんな時でした。巫女様と神官様が再び、ここ
を訪れたのは──」

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10324千年越しの賭 10エモーション E-mail 2002/10/6 00:14:48
記事番号10269へのコメント

しくしく……。初の投稿ミス……。
一坪様、迅速に削除してくださって、ありがとうございます。m(__)m

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

 「千年越しの賭」 10

 過去−4
「お断りします」
 大きくはないが、よく通る声が、プラット・タウン一番の邸宅の、広い部屋の
隅々まで静かに響き渡る。それだけに、部屋の隅に控えていた使用人達は驚いた。
この邸宅の主は町長だが、町長とその息子の申し出を断る──逆らう娘が
いるとは思わなかったからだ。
 怒鳴りこそしないものの、苦虫を噛みつぶしたような表情の町長と、怒りで
顔を赤くしたり青くしたりしているその息子。そんな町長親子を前にして、
断りの言葉を告げたフェアブロンドの髪と白い法衣の巫女は、全く動じる
こともなく平然としていた。
 その間で、彼女をここへ連れてきた長老は、ただおろおろするばかりだった。
藁にもすがる思いで彼女と共に連れてきた神官を見ると、黒髪に黒い法衣の
神官は、どうやら呆気にとられていたようだが、すぐに軽く肩をすくめて立ち上がる。
「どうやら、もうこれ以上お話しすることはないようですね。申し訳ありませんが、
僕たちはこれで失礼させていただきます」
 神官の言葉に従うように、巫女の方も席を立つ。まるで何事もなかったように
微笑んで、退去の言葉を述べると、揃って部屋から出ていく。
「……早速、からまれましたね……。どうします? 多分、このままじゃ
済みませんよ?」
 廊下を歩きながら、小声でゼロスが訊ねると、フィリシアはため息をついて言う。
「そうね……。嫌だけど、ここにいる間は神殿に泊めて貰いましょう。一応、
神殿は治外法権みたいなものだから、普通に宿に泊まるよりは手出しできないと
思う。でも……」
「あの親子の調子だと、それもどこまで通じるか分かりませんね……」
 ゼロスは先程の会見を思い返した。 プラット・タウンに着いた途端、長老に
見つかってしまったのが運の尽き。真っ先にティアに会うつもりだった2人は、
ほとんど無理やりと言ったノリで町長の邸宅へと連れてこられたが、引き合
わされた町長親子は典型的なバカ親子だった。しかも、下手に権力と財産を
持っているだけに始末が悪いという、最悪な。
「……ごめんなさい。よりにもよって一番面倒なタイプに目を付けられちゃって……」
「今回は貴女の責任とは言えませんよ。ああいう方は、今回に限らず今までにも、
目に留まった女性がいれば、同じような事をしているものです。一応は客人で、
しかも初対面の相手に、あんな申し出を露骨にする方がどうかしてます。
 まあ、さすがにいつもと同じように呪文で吹き飛ばす、なんて訳には
いかないのが、やっかいですけどね」 
 本質的にフィリシアは善人悪人老若男女問わず、人を惹きつける。それなのに、
注意されても自覚もせず、1人でうろうろしてからまれるのだから、いつもは
本人の責任だ。だが、今回は違う。
 いくら無自覚な天然娘でも、いきなり「離れの屋敷は俺のものだ。贅沢な
暮らしをさせてやるから、そこに留まれ」と言われて、その意味が判らないほど
世間知らずではない。初対面の相手に、平気でそんなことが言える無礼者の
申し出など、断って当然だろう。
 だから、珍しくしおらしい態度で謝るフィリシアに、ゼロスは冗談交じりの
返答をした。
 無事に町長の邸宅の外へと出たとき、すぐに追いかけて来たのか、長老が
息を切らしながら現れた。
「おお、良かった。間に合いましたか。先程は失礼なことを……」
「何故、長老さんが謝罪なさるんです? 失礼なことをしたのは、あなたではなく
町長さん達ですよ?」
「しかし、引き合わせたのはわしですからの。一言、言わねば気がすみませ
んので……」
 長老の言動は、おかしくはないものの、ゼロスにはどこか妙な感じがした。
フィリシアも同じように感じているらしく、黙り込んでいる。と、ゼロスは
「それ」に気が付いた。
 ……なるほど。そう言うことですか……。
「お二人とも、お詫びにどうか、今日はわしの家にお泊まり下さい。何卒、
どうか……」
「……わかりました。では、お言葉に甘えてお世話になります」
 断ろうとしたゼロスの腕を軽く引っ張って止めると、フィリシアがそう答える。
掴んだ腕を、少し強く握りながら……。

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

E.うふふふふふ〜、投稿ミスしちゃったよ〜(号泣)
L.出た!……よっぽどショックだったのね(汗)
X.さくっと、削除していただけたようで、良かったじゃないですか。
E.口から魂を出しつつ、続きます〜。ふらふらふら……。

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10325千年越しの賭 11エモーション E-mail 2002/10/6 00:55:46
記事番号10269へのコメント

E.ぼ〜……。
L.まーだ、口から魂出してるよ……。
X.よっぽど、ショックだったんですねぇ……。

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

 「千年越しの賭」 11

「何故、長老さんの家へ来ることにしたんです? 彼が町長親子の手先に
なっていることは、貴女だって気づいたでしょうに」
「呪文で盗聴して、さらに監視付き。でも、長老さんを見ていると、脅され
てるみたいだもの。断ったら長老さんの方が危ないわ」
 ゼロスがそんな質問をしたのは、夕食後のことだった。それぞれ部屋は
与えられていたが、今いるのはフィリシアに与えられた部屋だ。少なくとも、
まだ他人の部屋を訪問しても、非常識な時間ではないが、長老やこの家の者は、
2人の関係を何か勘違いしているらしい。
 神官や巫女であっても、別に恋愛や婚姻を禁止されてはいない。男女2人の
旅なので仕方ないが、今までにも勘違いはされてきた。しかし、食事の時などに、
露骨ではないものの、関係を探るような質問をされたのには、予想はしていても
閉口した。
 だが、勘違いされるような行動をしているのも事実だ。
 今の2人は、恋人同士と思われても仕方ないくらい間近で、小声の会話を
していた。どこに「耳」があるか分からない上に、口の動きで会話を「読まれる」
こともあるからだ。こういう状況では、勘違いされようと用心の方が優先する。
「理由はどうあれ、彼は自分の安全のために、貴女を犠牲にする方を選んだ
んですよ? そんな人の心配をする必要なんてないでしょう」
「私はそういうの嫌なの。それに、犠牲になんてならないわ」
「その根拠をお聞きしたいですね。
 ……ところで、正解でしたね。『この町では名前を名のらない。安全な場所
でなければ、お互いの名前も呼び合わない』と決めて」
 不意にゼロスが囁く。ゼロスと同じものを感じ取ったのだろう。フィリシアも
囁き声で答えた。
「……名前が分からないから、苦労してるみたい」
 2人が感じ取ったのは、会話を聞き取ろうとする魔道の力だ。制御が難しい上に、
ちょっと邪魔が入っただけで効果が無効になってしまう呪文だが、特定の人間の
会話も聞き取れる。しかし、それには相手の正確な居場所と名前の特定が必須だ。
 長老が、2人の部屋を「彼ら」に教えたのは間違いない。しかし、何度か
名前を聞き出そうとする長老の質問を、ゼロスもフィリシアもすんなりと
かわしていたので、名前は知られていない。どんな魔道士でも、名前も分からず、
小声どころか囁き声で会話している人間が相手では、聞き取るのは不可能だろう。
「まあ、周囲に〃アンテナ〃を張れただけでも上出来ですね。無駄な努力ですが」
 ゼロスはぱちん、と指を鳴らして〃アンテナ〃に干渉し、壊す。
「襲来はとりあえず明日、ですね」
「……多分……」
 そう言った途端、どたどたと2階の廊下を走ってくる複数の足音がした。
あまりの分かりやすさと、予想より早い行動に、思わず2人揃ってため息を
ついていると、怒り心頭の町長の息子が、傭兵や魔道士といった取り巻きを
連れ、ドアを叩き破る勢いで現れた。
「お前達! よくも俺がかけさせた呪文を破ったな! なんて非常識な奴だ!」
「非常識とは心外ですねえ……。人の会話を盗み聞きしようとする、野暮な
呪文を断ち切っただけですが?」  
「それが非常識だと言ってるんだっ! せっかくかけた呪文を無駄にしやがって!」
「……こんな呪文をかけたあげく、他人の部屋へ無断で押し入るのは、非常識
じゃないんですかねぇ……」
 心底呆れ返っているゼロスを後目に、町長の息子は次から次へと身勝手な
発言を続ける。要約すれば、自分の邪魔をする行為は、全て「非常識」だと
言っているようだ。
 呆れ返りながらも、ゼロスは口に出さずに突っ込みを入れつつ、聞き流して
いたが、自分の言いなりにならない「非常識」な者がどうなったのか、自慢げに
語りだした時点で……フィリシアが一気にキレた。
「いい加減にしなさい! あなたのその認識や感覚、言動そのものの方が、
よっぽど非常識だわっ!」
 華奢な外見からは想像もつかない、大きく、迫力のある声だった。
「あなたがそう仕組んだように、私はしばらくここにいます。分かったらすぐに
立ち去りなさい!」
 静かな、淡々とした口調だったが、フィリシアの怒りと、それ以上に周囲を
圧倒する底知れない迫力に、誰もが言葉を失い、静まりかえる。
 こんな時のフィリシアには、ゼロスですら、良質で純度の高い「怒り」の
負の感情を堪能するよりも先に、一瞬たじろぐ。並の人間では太刀打ち
できるはずもない。1人、2人と波が引くように、彼らはおとなしく部屋から
出ていく。
「久しぶりに、女神様のカミナリが落ちましたね」
 すっかり人がいなくなってから、くすくすと、可笑しそうにゼロスが笑うと、
ホッと息をついていたフィリシアは頬を赤くしながら、拗ねたように言う。
「だって、頭に来たんだもの。これで引き下がってくれればいいけど……って、
その呼び方、やめてって、言ったじゃない」
「では、聖女様♪」
「……ケンカ売ってるの? もしかして?」
「いえいえ。僕はいたって、真面目に言ってますよ(笑)」
「……語尾の(笑)が、すごく気になるんだけど」
 こうして、2人はしばらく長老の家に滞在することになった。滞在、と
いってもほとんど監禁状態なので、外へ出ることは出来なかったが、それでも
使用人や長老の話から町で起き始めた事を知ることはできた。
 理由らしい理由もなく財産を失ったり、原因不明のケガ、病気等になる者
が出始めたという話を……。

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

E.ぼ〜……。
L.魂出している人はほっとくとして、今回の話って……ひとつ間違えると
  「ド○ーム小説」になりかねないわね。
X.そういうつもりは無いんですけど。
L.さらにこのバカ息子。ノリは某所のアレですね。
X.あの辺りの加害者側の理屈をモデルにしたそうです。でも、本物には
  敵いませんよ。読んでると本気で頭がクラクラしますから。
L.どのくらいの差?
X.子猫と虎ぐらいです(本当)
  そこで魂吐いてる人は、必死で書いてましたが、あれが限界だと言って
  ます。思考が完全に理解不能なので。
L.理解できたら問題なんじゃあ……。
X.そうでしょうね。
  あと、ここに出てきた「アンテナ」の呪文は、「レグルス盤」の登場と
  共に廃れたことになってます。……制御が難しいのに、風の結界を
  張ったくらいでパーになる呪文ですから、当然でしょうね。
L.次は……アメリア大暴走ね(笑)
X.では、今回はこれで。
E.ぼ〜……。(まだ魂吐いてる)

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10329Re:千年越しの賭 11ドラマ・スライム 2002/10/6 09:07:03
記事番号10325へのコメント

エモーションさんは No.10325「千年越しの賭 11」で書きました。
>
>E.ぼ〜……。
>L.まーだ、口から魂出してるよ……。
>X.よっぽど、ショックだったんですねぇ……。
>
>∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
>
> 「千年越しの賭」 11
>
>「何故、長老さんの家へ来ることにしたんです? 彼が町長親子の手先に
>なっていることは、貴女だって気づいたでしょうに」
>「呪文で盗聴して、さらに監視付き。でも、長老さんを見ていると、脅され
>てるみたいだもの。断ったら長老さんの方が危ないわ」
> ゼロスがそんな質問をしたのは、夕食後のことだった。それぞれ部屋は
>与えられていたが、今いるのはフィリシアに与えられた部屋だ。少なくとも、
>まだ他人の部屋を訪問しても、非常識な時間ではないが、長老やこの家の者は、
>2人の関係を何か勘違いしているらしい。
> 神官や巫女であっても、別に恋愛や婚姻を禁止されてはいない。男女2人の
>旅なので仕方ないが、今までにも勘違いはされてきた。しかし、食事の時などに、
>露骨ではないものの、関係を探るような質問をされたのには、予想はしていても
>閉口した。
> だが、勘違いされるような行動をしているのも事実だ。
> 今の2人は、恋人同士と思われても仕方ないくらい間近で、小声の会話を
>していた。どこに「耳」があるか分からない上に、口の動きで会話を「読まれる」
>こともあるからだ。こういう状況では、勘違いされようと用心の方が優先する。
>「理由はどうあれ、彼は自分の安全のために、貴女を犠牲にする方を選んだ
>んですよ? そんな人の心配をする必要なんてないでしょう」
ううゼロスですねぇ
>「私はそういうの嫌なの。それに、犠牲になんてならないわ」
>「その根拠をお聞きしたいですね。
> ……ところで、正解でしたね。『この町では名前を名のらない。安全な場所
>でなければ、お互いの名前も呼び合わない』と決めて」
> 不意にゼロスが囁く。ゼロスと同じものを感じ取ったのだろう。フィリシアも
>囁き声で答えた。
>「……名前が分からないから、苦労してるみたい」
> 2人が感じ取ったのは、会話を聞き取ろうとする魔道の力だ。制御が難しい上に、
>ちょっと邪魔が入っただけで効果が無効になってしまう呪文だが、特定の人間の
>会話も聞き取れる。しかし、それには相手の正確な居場所と名前の特定が必須だ。
> 長老が、2人の部屋を「彼ら」に教えたのは間違いない。しかし、何度か
>名前を聞き出そうとする長老の質問を、ゼロスもフィリシアもすんなりと
>かわしていたので、名前は知られていない。どんな魔道士でも、名前も分からず、
>小声どころか囁き声で会話している人間が相手では、聞き取るのは不可能だろう。
>「まあ、周囲に〃アンテナ〃を張れただけでも上出来ですね。無駄な努力ですが」
> ゼロスはぱちん、と指を鳴らして〃アンテナ〃に干渉し、壊す。
>「襲来はとりあえず明日、ですね」
>「……多分……」
> そう言った途端、どたどたと2階の廊下を走ってくる複数の足音がした。
>あまりの分かりやすさと、予想より早い行動に、思わず2人揃ってため息を
>ついていると、怒り心頭の町長の息子が、傭兵や魔道士といった取り巻きを
>連れ、ドアを叩き破る勢いで現れた。
>「お前達! よくも俺がかけさせた呪文を破ったな! なんて非常識な奴だ!」
をいをい。
>「非常識とは心外ですねえ……。人の会話を盗み聞きしようとする、野暮な
>呪文を断ち切っただけですが?」  
>「それが非常識だと言ってるんだっ! せっかくかけた呪文を無駄にしやがって!」
>「……こんな呪文をかけたあげく、他人の部屋へ無断で押し入るのは、非常識
>じゃないんですかねぇ……」
> 心底呆れ返っているゼロスを後目に、町長の息子は次から次へと身勝手な
>発言を続ける。要約すれば、自分の邪魔をする行為は、全て「非常識」だと
>言っているようだ。
> 呆れ返りながらも、ゼロスは口に出さずに突っ込みを入れつつ、聞き流して
>いたが、自分の言いなりにならない「非常識」な者がどうなったのか、自慢げに
>語りだした時点で……フィリシアが一気にキレた。
>「いい加減にしなさい! あなたのその認識や感覚、言動そのものの方が、
>よっぽど非常識だわっ!」
> 華奢な外見からは想像もつかない、大きく、迫力のある声だった。
>「あなたがそう仕組んだように、私はしばらくここにいます。分かったらすぐに
>立ち去りなさい!」
> 静かな、淡々とした口調だったが、フィリシアの怒りと、それ以上に周囲を
>圧倒する底知れない迫力に、誰もが言葉を失い、静まりかえる。
> こんな時のフィリシアには、ゼロスですら、良質で純度の高い「怒り」の
>負の感情を堪能するよりも先に、一瞬たじろぐ。並の人間では太刀打ち
>できるはずもない。1人、2人と波が引くように、彼らはおとなしく部屋から
>出ていく。
>「久しぶりに、女神様のカミナリが落ちましたね」
> すっかり人がいなくなってから、くすくすと、可笑しそうにゼロスが笑うと、
>ホッと息をついていたフィリシアは頬を赤くしながら、拗ねたように言う。
>「だって、頭に来たんだもの。これで引き下がってくれればいいけど……って、
>その呼び方、やめてって、言ったじゃない」
>「では、聖女様♪」
>「……ケンカ売ってるの? もしかして?」
>「いえいえ。僕はいたって、真面目に言ってますよ(笑)」
>「……語尾の(笑)が、すごく気になるんだけど」
> こうして、2人はしばらく長老の家に滞在することになった。滞在、と
>いってもほとんど監禁状態なので、外へ出ることは出来なかったが、それでも
>使用人や長老の話から町で起き始めた事を知ることはできた。
> 理由らしい理由もなく財産を失ったり、原因不明のケガ、病気等になる者
>が出始めたという話を……。
そして・・・。
>
>∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
>
>E.ぼ〜……。
>L.魂出している人はほっとくとして、今回の話って……ひとつ間違えると
>  「ド○ーム小説」になりかねないわね。
>X.そういうつもりは無いんですけど。
>L.さらにこのバカ息子。ノリは某所のアレですね。
>X.あの辺りの加害者側の理屈をモデルにしたそうです。でも、本物には
>  敵いませんよ。読んでると本気で頭がクラクラしますから。
>L.どのくらいの差?
>X.子猫と虎ぐらいです(本当)
>  そこで魂吐いてる人は、必死で書いてましたが、あれが限界だと言って
>  ます。思考が完全に理解不能なので。
>L.理解できたら問題なんじゃあ……。
>X.そうでしょうね。
>  あと、ここに出てきた「アンテナ」の呪文は、「レグルス盤」の登場と
>  共に廃れたことになってます。……制御が難しいのに、風の結界を
>  張ったくらいでパーになる呪文ですから、当然でしょうね。
>L.次は……アメリア大暴走ね(笑)
>X.では、今回はこれで。
>E.ぼ〜……。(まだ魂吐いてる)
それでは〜
どうなるのでしょうか、期待中でーす。
ではさようなら〜

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10351千年越しの賭 12エモーション E-mail 2002/10/6 23:11:03
記事番号10325へのコメント

 さて、明日まで持つか?!ちょっと不安ですが、このツリーにつなげます。

 12はアメリア姫妄想大暴走でございます(笑)

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

 「千年越しの賭」 12

 現在−4
「何なんですかっ! この町長の息子って言うのは!」
「ア、アメリア、落ち着け! 頼むからここで叫ぶのはやめてくれっ!」
「だって、許せませんっ! 己が欲望のために、恋人同士を無理やり引き裂
こうとするなんてっ! そんなの絶対、許せませ〜んっ!」
 テーブルに飛び乗って演説しかねないノリのアメリアを、ゼルガディスが
必死で取り押さえる。座っていた位置の関係上、出遅れたものの、リナも取り
押さえ、何とかイスに座らせる。
 昨日、町で聞いたときには「伝説に付け加えられた単なるお話」だと思って
いたのに、事実だったことが、アメリアを無意味にエキサイトさせていた。
「……アメリア。確かにこの町長の息子ってのはムカツクけど、もうずーっと
昔の話で、すでに解決済みなんだから、落ち着きなさいって、ね?
 第一、どこにも『2人は恋人同士でした』とか書いてないし、そんな関係だ
なんて分かる記述なんてないんだから」
 半ば引きつりつつ、そう言うリナと、同意するように頷くゼルガディスを、
アメリアはきょとん、とした目で交互に見ると、不思議そうな面持ちで言う。
「えっ? だ、だって、確かに『恋人同士でした』なんて書いてませんけど、
読んでいるとどこか特別みたいに見えますよ。ものすごーく微妙な表現で、
差し障りのない程度に書かれてますけど。ですから、私……」
『……え゛っ?』
 声をハモらせて驚きの声をあげたリナとゼルガディスは、慌てて自分が
読んでいた文献とアメリアの読んでいる文献を照らし合わせる。が、2人の
文献には該当するような箇所が見あたらない。アメリアの思いこみと
深読みのしすぎがあるとしても、記述に違いがあるのは確かなようだ。
 担当の神官にも聞いてみたが、彼女も記述に違いがあるとは知らず、驚い
ていた。
 彼女から、歴代の神官長・副神官長を始めとする神殿の者は、たいてい
アメリアの読んだ古代神聖文字の文献の方を読むと聞いて、3人は考え込ん
でしまった。
「……つまり、この2人に関しては、神殿関係者だけに詳しく分かるように
した……ってこと?」
「それでも、結構ぼかしてあります。巫女さんに関しては、外見の特徴や
言動が細かく書いてありますけど、神官さんの方は特徴どころか、必要以上
のことはほとんど書いてありませんし……。片方だけ詳しいなんて、少し変ですよ」
「えっ?……あたしが読んだの、神官の方の特徴や言動がやたらと詳しかったわよ。
巫女の方は綺麗な人だってことくらいで……」
「……俺が読んだのは、神官も巫女も必要以上に書かれていなかったぞ。
起きた出来事や女神像のこと、町の住人の様子なんかはやたらと詳しかったが……」
 口々にそう言い合って、3人は沈黙した。3人とも同じ答えに行き着いたが、
沈黙を破ったのはリナだ。
「詳しく書かれている事柄が、微妙にズレている……それって、つまり……」
「ああ。全体的には同じ内容なのにな。……まさか、こんな仕掛けになって
いたとはな」
「……魔道理論の勉強みたいです……」
 それぞれ、違う文字で書かれた、ヒュパティアの3つの文献。それは、本当の
意味で正確に詳しくその件を知りたければ、3つの文献、全部を読むことで
分かるようになっている代物だったのだ。
「とにかく」
 きっぱりと割り切った口調で、リナが言う。
「ここまでの部分は後でフォローするとして、こっから先は細かく検討して
いきましょ。
 ゼル、あんたの読んでるやつが、ほんとは一番重要なんだと思うわ。やたら
詳しく書いてある箇所があったら、教えて」
「わかった。しかし、皮肉なもんだな。一番重要だからこそ、一般的な文字で
書き残したのに、今じゃ読める奴の方が少なくて、読まれないんだからな。
俺だって1人で来ていたら、一番変化の少ない古代ルーン文字の方だけで、
これは読まなかったぞ」
「でも、どうして神官さんは古代ルーン文字で、巫女さんは古代神聖文字で
書いたんでしょう? 分ける意味がないと思うんですけど」
「それは……分かる気がする……。多分、ヒュパティアはこの2人を一緒に
扱いたくなかったんだと思う。こっちに詳しく書いてあるから言えるんだけど、
何か……引っかかるのよ、この神官……」     
 アメリアの疑問に、リナは自分でも不確かな推測に困惑しながら、そう答えた。

「──長老が、町長の息子の命令で巫女様と神官様を屋敷に閉じこめている間に、
町では次々と不幸にみまわれる人々が増えていきました。
 まるで、何かに呪われたかのように──」

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

L.ここからしばらくあたし達の出番は無いです。……って、ゼロスが白く
  なってる……。(忍び笑い)
X.…………ヒュパティアさん……一体何を書いたんですか?!(汗)
L.アメリアの深読みも入ってるわよ〜(笑)ちなみにあたしもゼルも
  古代神聖文字、読めないからね。確認できないから(はあと)
X.……「渡○」のテーマが脳内で流れるのって、こーゆー時なんでしょうねぇ……。
L.何故「○鬼」……。つづきまーす。

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10352千年越しの賭 13エモーション E-mail 2002/10/6 23:46:19
記事番号10351へのコメント

 「千年越しの賭」 13

4.
 過去−5
 些細なきっかけから、それを願った者がいた。
 自分以外の者が良い目を見るのが気に入らない。周囲が自分と同じように
裕福でいるのが気に入らない。他人の幸せは、何もかもが許せない。
 以前なら、そんなことは考えなかったに違いない。しかし、望めばほとんど
欲しいものが与えられる。そんな状況に慣れきってしまった自我と心は、
箍が外れて肥大し、凄まじく歪んでいた。
 まるで「願い」の代償でもあるかのように。
  だから、ふと女神像に願ったのだ。ちょっとした嫌がらせと、面白半分に。
ある者が「酷い病気になるように」と。
 望んだ相手は、願い通り、病気になった。治癒しても後遺症が残る、そんな病気に。
 結果を見てその者は次々と願った。気に入らない者たちの不幸を。
「財産を失うように」「手を失うケガをするように」「足を失うケガをする
ように」……etc、etc……。
 そして、突然の不幸に驚き嘆く彼らを、笑って見ていたのだ。心底、満足
しながら。
 何度か続くうちに、誰もが気づき出した。前触れもなく「不幸」が起きた
理由を。
 そして、報復と憂さ晴らしの手段にも──
 あれほど裕福だった町は、凄まじい勢いで荒れていった。

「──巫女様は忠告をした際に言われました。
 『例外を除いて、どんな願いでも叶えてしまうから、願い事をしてはいけない』と。
 ほとんど忘れられていた忠告を思い出した時は、そして、その意味をようやく
理解したときは、既に人々も町も取り返しがつかない状態になっていました──」

 ……これは、予想以上に負の感情が漂ってますね。怒り、悲しみ、妬みに
……憎しみどころか、怨念になっているものまで……。
 窓から外を見ながら、ゼロスはくすり、と笑みを浮かべた。
 長老の家に滞在して一週間。水面下で溜まっていたものが、一気に爆発
したかのように、憂さ晴らしと報復合戦による不幸が、通常ではありえない程の
負の感情を漂わせている。おかげで、「食事」には不自由していないゼロスは、
連日押し掛けてくる町長の息子・ブラッドに、対応しなくてはならない
フィリシアよりも、ずっと調子がいい。
「お疲れさまでした。香茶を持ってきてもらいましたから、飲みませんか?」
 フィリシアがブラッドを撃退したのを見計らって、ゼロスはフィリシアの
部屋を訪れる。初日の「有無を言わさぬ迫力で追い返す」は既に慣例になって
いるが、連日の貢ぎ物攻勢と、常識の斜め上を行く、奇妙な思考による全く
通じない会話に、さすがのフィリシアも心身共にぐったりとしている。
 この一週間の彼女の負の感情は、例えれば口当たりの良い最高のデザートだ。
ゼロスとしても、香茶のサービスくらいしたくなる。
「……ありがとう……」
 どこかふらふらとした様子で、フィリシアはカップを手にする。初めのうちは
「そう思うんなら、一緒に対応してよーっ!」と怒鳴られたが、ゼロスが
一緒にいると、逆にブラッドをエキサイトさせるため、3日目からは
立ち会わせなくなった。
 それ以降、フィリシアはこの件でゼロスに文句も愚痴も言っていない。
その点とあの思考が麻痺しそうな話を我慢して聞く忍耐力には、ゼロスは
素直に感心している。
「……明日は、いえ、しばらくの間、ブラッドさん……彼は当然として、誰にも
会わずにお休みなさった方がいいですね」
「……疲れただけだから。休めば平気」
「そうは見えませんよ」
 ゼロスがそう勧めたのは、フィリシアが受けているダメージが深刻なもので、
このままでは生命に関わると気づいたからだ。
 魔族のような精神生命体でなくても、精神的なダメージが、身体の方にも
影響を与えると知っていたが、ここまで深刻なダメージを受けていることに、
全く気づかなかったのは迂闊だった。
 もっとも、ダメージを与えているのはブラッドだけではなく、一気に町に
溢れだした負の力の影響もあるようだが。
「ほら、言わない事じゃない」
 ゼロスはため息混じりに呟くと、立ち上がろうとして倒れ込んでしまった
フィリシアを抱えると、ソファーに座わらせた。既に安心しきってすやすや
と眠っているフィリシアを見て、ゼロスは苦笑した。
 ……やれやれ。魔族の僕に寄りかかって眠る方が安心できるなんて、人間に
とっては相当問題のある状態ですよ? 貴女も、この町も。
 ……それにしても……。
 ゼロスはソファーの周りに軽く結界を張る。漂う負の力と怨念の塊を、
フィリシアに近づけないためだ。
 今の彼女は、普段は無意識で行っている自己防御すら出来ないほど弱って
いるので、それらにとって格好のエサだ。まして意識がない状態では、生命
を喰い尽くされかねない。
 ……無理もないとは思いますが、本当に、闇夜の街灯みたいな方ですねぇ……。
 最終的にゼロスの「糧」にされるのにも関わらず、何度弾き返されても、
フィリシアを目指して寄ってくるそれらを見て、街灯の灯りに群がっては、
焼け落ちる虫を連想したゼロスは、しみじみとそう思った。

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

L.……みょーに、親切だよね。筆者Eは「このゼロス、偽者」とか
  言ってるわよ。
X.あの……(汗)いきなり死なれたら、いくら僕でも、さすがに困るんですけど。
L.それと「普段やってる自己防御」って……何?
X.本文にあったとおり、フィリシアは「闇夜の街灯」みたいな人なので、
  いろんなものが寄って来ちゃうんです。そう言う意味でも目立つんですね。
  ……無理もないですが。でも、いちいち相手にしてたら、生命も身体も
  もたないので、普段はシャットアウトしてるんです。
L.つまり「救いの御手じゃ〜」状態ってこと?
X.一部はそんなとこです。残りは攻撃してくるので、要注意なんですね。
L.で、今日も記事3つですね。さらにつづきます。

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10353千年越しの賭 14エモーション E-mail 2002/10/7 00:05:52
記事番号10352へのコメント

 「千年越しの賭」 14

 その日も、ティアは東の女神に祈っていた。ただし、願掛けではなく、
問いかけだ。自分自身への。今、町で起きている出来事に対して、自分は
どうすればよいのか、何が出来るのか。ここ数日、そればかりを考え続けていた。
 こんな時、祈りは神への訴えではない。自分の心を静め、問いかけることで
繰り返す、自問自答。自らの心と正面から対峙し、物事や周囲の状況、状態、
他人の意見等、全体を通して冷静に考え、判断するための、突き詰めて
考えるための、一つの儀式。
 だから──答は常に自分が、人が見つけるものだ。神に頼るものではない。
何より、本来人間はその程度の力をちゃんと持っている。
 ティアの中には「答」が2つ存在する。
 目の前の祭壇にある、東の女神──オリハルコンの女神像。
 唯一、プラチナの女神像の力を抑えることが出来るもの。しかし、何人かが
期待して訪れ、落胆して帰ったように、特定の願いを取り消すものではない。
 プラチナの女神像の「力」そのものを抑える、封じてしまうものだ。
 ティアの持つ答の一つがそれだ。しかし、最大の問題がある。「封じる」
にしてもティア達にはその方法が分からない。ティアも独自に調べ研究して
みたが、知識と経験の不足なのか、単純に能力や魔力許容量の問題なのか、
あるいはその両方か、どうにも出来ずにいる。この事態で協力してくれた
他の者も同様だ。
 そして、もう一つの答は単純だ。女神像はどちらも、近くに互いが揃って
いなければ「力」を発揮できない。目の前にある女神像を、ずっと遠い場所へと
持ち出してしまえば、少なくとも「力」は失われる。しかし、それは一番実行が
困難な方法でもあった。
 片方が失われれば、女神像は「力」を無くす。それは誰もが知っている話だ。
女神像の盗難を防ぐために、どちらの女神像に対しても警備だけは厳重だ。
神殿から出るときのチェックも二重三重にある。誰にも知られずに持ち出す
のは不可能だろう。
 何よりも、プラチナの女神像の力を失わせることは、「一部の馬鹿者のために、
御利益のある女神像の力を奪うとは何事だ」と、反対する者がほとんどだ。
 その割に「女神像を悪用する現状をどうするのか?」と言う意見に対して、
せいぜい「事前に願い事の内容をチェックしてから、祈願させる」という無策に
等しい対応しかしていない。
 当然、素直に「私は悪い祈願をします」と言う者などいるはずもなく、状況は
悪化していくばかりだった。
 ティアが不可能でもなんでも、「女神像持ち出し」を真剣に検討し始めた時、
背後に何かの気配を感じた。
 すでに参拝の時間はとっくに終わっており、同僚の神官も詰め所や自室。
エリックや他の警備の者は、お籠もり中のティアに遠慮して、時々外から窺う
程度で室外に出ていたため、不審に思い振り返ると、月明かりの中、窓際に
立っていたのは1人の神官だった。
「こんばんは、ヒュパティアさん。お久しぶりです」
 にっこりと笑って近づいて来たのは、黒髪に黒い法衣の神官。ティアに
とっては、忘れるはずのない相手だ。
「……ゼロス様! どうしてここに。いえ、いつからこちらに? フィリシア様は……
ご一緒では……?」
「しーっ、お静かに。実はこっそり忍び込んだので、他の方には見つかりたく
ないんです。
 この町には、一週間ほど前から来ています。フィリシアも一緒ですが、体調を
崩していますので、長老さんの家に置いてきました」
 口に人差し指を当て、声をひそめるゼロスに、ティアは了解の意味で頷く
と同じように声をひそめる。
「体調を崩されたって……大丈夫なんですか、フィリシア様? それに、
一週間も前からお2人がいらしているなんて、全然知りませんでした……」
「まあ、色々ありまして……。フィリシアは……正直、長老さんの家にいた
のでは、いつまでたっても快復できません。まあ、いざとなったら、多少手荒に
なっても町から出ますけど」
 ティアの困惑した表情に、ゼロスは少し困ったような表情で言葉を続けた。
「ちょっと、ややこしい事になってまして、僕もフィリシアも、長老さんの
家から出られないんです。長老さんも町長さんも、僕たちがここへ来ている
ことは、今のところ公にしたくないようですし。とにかく、ティアさんに連絡を
とりたくて、抜け出してきたんです。ですから申し訳ありませんが、話が
終わったらすぐに戻ります。
 この町には、あなたに会うために来ました。噂を聞いて、フィリシアが、
多分ティアさんがお困りになっているだろうと、そう言うものですから。
 それは……どうやら僕が見たところ、間違いではないようですね」
 ゼロスの問いに、ティアは頷く。情けないがそれは事実だ。3年前、あっさりと
女神像の正体を見抜いた2人だ。おそらく、何もかもお見通しなのだろう。
「では、お願いがあります。適当な理由をつけて、僕とフィリシアをここへ
呼び寄せてくれませんか?」
 驚くティアに、ゼロスは静かな口調で言う。
「利用するようで申し訳ないんですが、他に長老さんの家を穏便に出られる
方法が見つかりませんので。神殿からの要請なら、長老さんも町長さんも、
まさか嫌とは言えないでしょう。これならフィリシアもティアさんに会えま
すしね。その代わり、僕もティアさんに協力します」
「分かりました。私の方には異存ありません。逆にありがたいことですから。
上層部や町長の説得に何日か、かかりますが、その間だけご辛抱ください。
必ず、お招きします」
 ティアの答えに、ゼロスは満足したように微笑んだ。そうして「では、
失礼します」とティアに一礼し、現れたときと同様に、窓辺の方へ歩いていく。
と、急に振り向いて言う。
「ああ、ティアさん。さらにお手数をかけることになりますが、用心のため

今回の件が終わるまで、僕とフィリシアの名前は、3人だけの時以外は、
けして呼ばないでください。また、誰にも言わないように、お願いします」
 一瞬、疑問に思い、すぐに理由にたどりついて頷くと、部屋の外からティアを
呼ぶエリックの声がした。
 そちらに顔を向けると、ちょうどエリックが姿を見せる。慌てて窓辺を見ると
……すでに黒衣の神官はいなくなっていた。
 ……何? どういうこと? あんな一瞬でいなくなるなんて、信じられない……。
 虚を突かれたような顔で立ちつくしているティアに、近づいてきたエリックが
不思議そうに言う。
「……どうした? やっぱり、何かあったのか?」
「何も……ないわ。それよりエリック、やっぱりって?」
「いや、何か話し声みたいなのが聞こえたから……他の奴には気のせいだって
言われたけど」
「ああ、それ、私。考え事をしてたんだけど、口に出して言ってたみたい。
脅かしてごめんなさい」
「なら、いいんだけど。何か男の声みたいに聞こえたから、盗賊でも入った
のかと思ったぜ」
「あー、ひどいなぁ。私の声、そんなに低い?」
 どうやらゼロスとの会話が聞こえて、エリックは心配して来たらしい。
ティアは笑って、そうごまかしながら、もしかしたら今のは夢だったのでは、
という考えを捨てる。
 ゼロスが、ほんの一瞬でいなくなったのは不思議だが、エリックに「会話」が
聞こえたのだから、夢ではない。ゼロスがここに来たのは事実なのだろう。
「ところで、エリック。長老の邸宅に誰か泊まっているって話、聞いたことない?」
「えっ? ああ、あるぜ。警備兵仲間から聞いた話だけどな……」
 エリックから聞いた話は、多少誇張が入っているようだが、長老の家にゼロスと
フィリシアがいるのは確からしい。ティアは自室に戻ると、早速上層部の
説得手段を考え始めた。

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

X.今日投稿した中では、一番長い文章ですね。
L.真面目な子よね〜、ヒュパティアって。
X.その反面、結構テンション高いところもあるんです。筆者Eはここで
  ヒュパティアさんの言動を一部分削ってます。……テンション高いまま
  暴走したので。
L.次も結構文章が長いよね。どうするんだろ?
X.今までみたいに段落や内容じゃなくて、どこかで分けることになると思いますよ。
L.あたしの出番は明後日あたりかな。
X.おそらく。では、また明日お会いしましょう。
L.……それよりツリー、大丈夫かな……。

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10365Re:千年越しの賭 14ドラマ・スライム 2002/10/7 15:19:06
記事番号10353へのコメント

さて、どうなるのでしょうか。
それにしても女神像とは・・・
それでは次回に期待しています。