◆−ご無沙汰してます−夏青龍 (2002/10/11 21:48:56) No.10539 ┣Eternal Seed 〜序章〜−夏青龍 (2002/10/11 22:16:38) No.10546 ┃┗Re:Eternal Seed 〜序章〜−一坪 (2002/10/12 15:32:01) No.10559 ┃ ┗ありがとうございます!−夏青龍 (2002/10/13 17:29:30) No.10603 ┣Eternal Seed Act.1−夏青龍 (2002/10/13 15:09:20) No.10597 ┃┗Re:Eternal Seed Act.1−ドラマ・スライム (2002/10/13 20:12:18) No.10605 ┃ ┗初めまして−夏青龍 (2002/10/13 22:28:42) No.10607 ┣Eternal Seed Act.2−夏青龍 (2002/10/14 19:46:07) No.10636 ┃┗Re:Eternal Seed Act.2−ドラマ・スライム (2002/10/14 21:40:20) No.10639 ┗Eternal Seed Act.3−夏青龍 (2002/10/20 20:38:33) No.10779 ┗Re:Eternal Seed Act.3−ドラマ・スライム (2002/10/20 20:55:10) No.10780 ┗感想ありがとうございます−夏青龍 (2002/10/21 16:52:12) No.10796
10539 | ご無沙汰してます | 夏青龍 E-mail | 2002/10/11 21:48:56 |
こんばんは。ほとんどの方々始めまして。数年前にここによく投稿をしていた夏青龍といいます。(一坪さまお久しぶりです) 今日、学校祭が一段落しまして、中間テストも近いのですが新作を投稿したいと思います。オリジナルです。ここの主旨からはずれてしまうのですが、かなり前にもオリジナルキャラを使ったことがありまして・・・。多分、妙なファンタジーになると思います。良ければ読んでみて下さい。 一坪さま、ジャンルが違ってしまい、申し訳ありません。今度、またスレイヤーズ関連の小説も投稿しますね。 では。 夏青龍 |
10546 | Eternal Seed 〜序章〜 | 夏青龍 E-mail | 2002/10/11 22:16:38 |
記事番号10539へのコメント こんばんは。夏青龍です。ついさっき予告したばかりですが、早速投稿いたします。 題名は「Eternal Seed」。直訳は永遠の種・・・です。このままでは意味不明なのですが、物語の中でその謎を解いていきたいと思います。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― その世界で 不老不死は 病と呼ばれていた その世界で ”力”を持つものは 神族と呼ばれていた その世界で 彼女は ”混沌”と呼ばれていた Eternal Seed 〜序章〜 青い、蒼穹。白い、雲海。青と白の、そして日の光の、見事なまでの絵画のような景色。山の頂上は空気もいいから、彼女はとても清々しい気分で、その景色を見ていた。 綺麗だな、と思う。 雄大だな、と思う。 自分はちっぽけな存在なのだと、改めて思い知らされる。 この大きな広い世界の中の、一つの点として、存在している。この美しくもはかない世界の中の、一つの要因として、存在している。 優しく、穏やかで、温かな、この世界の懐に抱かれて、生命は生きている。生かされている。 何を支払う事もしない、命たちを。何を守ることもしない、命たちも。この世界は、見守りつづけている。 彼女はふと、自分の手のひらを見つめた。 ―――必ず、見つけるから。 そう、自分の心に、言葉を刻みつけて。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――― しょっぱなから意味のわからない序章ですが、主人公は女です。名前は 次回から出していきます。相手役に、男のキャラも1人いますので、どっちも主人公っぽいかもしれません。 では。 夏青龍 |
10559 | Re:Eternal Seed 〜序章〜 | 一坪 E-mail | 2002/10/12 15:32:01 |
記事番号10546へのコメント こんにちは。お久しぶりです。 またお会いできて嬉しいです。 オリジナル小説ですね。 今後が楽しみです。 連載ガンバって下さいね。 |
10603 | ありがとうございます! | 夏青龍 E-mail | 2002/10/13 17:29:30 |
記事番号10559へのコメント こんにちは。夏青龍です。 コメントありがとうございました。頑張りますね!英語の題名なので、最初は必死で辞書を引いておりました。物語の中では英語は出てこない(と思う・・・)のですが、話の根幹を支える言葉が題名の「Eternal Seed(エターナル・シード)」なんです。 これからもまたよろしくお願いします! 夏青龍 |
10597 | Eternal Seed Act.1 | 夏青龍 E-mail | 2002/10/13 15:09:20 |
記事番号10539へのコメント こんにちは。夏青龍です。 一話目は説明のような文が多くなっていますが、二話からは変わるはずなので、一話は助走段階です。主人公チーム(?)がさっそく登場。不老不死の謎も少し紐解かれます。 では第一話。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――― その世界で 不老不死は 病と呼ばれていた Eternal Seed Act.1 紫銀髪 ――この村に不老不死の者がいる。 それは、その村の人々にとっては公然の秘密であった。それが誰とは知らず、人々はお互いを疑い合い、疑心暗鬼にかられていた。誰が不老不死であるかわからないのなら、警戒を怠ってはならない。自分の家族だけはそうでないのを知りつつ、家の外では部外者に信頼を置く事は無い。 不老不死は、病だった。だから、不老不死の者は煙たがられ、迫害すら受けた。かつて、人が求め続けた不老不死は、人々から忌み嫌われるものと成り果てていた。 ――”浄化神”様が来て下されれば・・・ 村の人々は、祈った。 肌寒い。 最初に感じたのは、その感覚だった。森の中なのだから、気温が低いのも無理は無い。湿った空気が停滞しているようで、まだ日の当たらない森はもう既に冬の”体温”になりかけている。これで日が昇ってくれれば、そして風が吹けば、ここは絶好の観光地なのに。まだ夜明け前では仕方ないか、と心の中で思う。 しかし、感覚が残っていたのには喜んだ。もう自分は人間の感覚を失ってしまったかと、不安で不安で仕方が無かったのだ。自分がこれなのだから、多分アイツも大丈夫だろう・・・と思う。ほっとため息をつくと、眠気がまた襲ってくる。もう一度寝ようかと迷う。朝食の準備をするべきなのだが、頭がぼんやりしていて自分を甘やかしそうになる。 無理矢理意識を起こして、立ち上がる。長い髪がうっすらとした森の霧の所為で、肌にぴったりとくっついている。それを後ろに払うと、おもむろに歩き出す。近くに湧き水の泉があったはずだ。そこで顔でも洗って眠気を覚ますつもりだろう。 立ち上がった人影は、泉で顔を洗うと、今度はさっきよりすっきりした顔で戻ってきた。近くには3人の人影がいる。だが、少し前の彼女と同じように、低い木の幹の上で寝転んで眠っている。二つの影はまだ小さい。子供のようだった。そしてもう一つの影は成人男性ほどだろうか。どれも人間の大きさと形。 朝食の準備をし始める長い髪の人影は、少女だった。整った、美しい顔立ち。女性らしい輪郭線。真っ青な装束。両耳に微かに光るピアス。年のころは、20歳に少し届かないかというくらい。しかし、落ち着いた雰囲気をもった彼女は、すでに少女とは言い難いかもしれない。 焚き火に火をつける。道具も使わず、ただ手で何かの印を結んだだけだ。それでポッと薪に火が灯る。薄暗い世界に、光が差し込む。 「ヴァルス」 少女が呟くように言葉を放った。それに反応するように、人影がぴくりと動く。 「起きろ。そろそろ日が昇る」 無感情とさえいえる声音で、少女が言葉を発する。透明な声・・・とでも言うのだろうか。淡々とした口調である。 「あ〜・・・?」 大きな方の人影が起き上がる。光に照らされたのは、青年。二十歳前後といったところだろうか。薄い青の髪に、赤い瞳。見る者にとっては驚くほどのコントラスト。インパクトの強い色合いのせいだけではなく、整った顔立ちに、細いラインの体躯。 「もう朝かよ・・・」 残念そうに言う声は、さっきの少女の声とは対照的に人間らしい要素を含んでいる。眠たげな表情で、少女に尋ねる。 「今日の昼には村につけるか?」 「ああ」 「おまえは眠くないのかよ」 「おまえとは違うからな」 「そりゃ良かったっすね」 仏頂面で、青年はそっぽを向く。泉で顔を洗ってくると、寝ぐせが無いか髪をいじりながら帰ってくる。 「双子は?」 「まだ起こさないほうがいいだろう。子供だからな」 「本人たちは、子ども扱いするなっていってるけどな」 苦笑まじりで、さきほどヴァルスと呼ばれた青年。少女は視線をつと動かし、その美貌を彼へと向けた。その視線は、慣れていない者ならば責めたてられていると感じるかもしれない視線だった。だが、青年はその視線にすらにこやかに返す。 「いっくらおまえの甥と姪だからって、過保護にだけはしないほうがいいと思うがね」 「……姉さんに言われたんだ。“頼む”って」 少女は俯き、焚き火の炎を見つめた。空が白んできている。夜明けだ。 「シーウ」 名を呼ばれ、少女が顔を上げる。青年の手が彼女の頭を優しく撫でる。穏やかなまなざしで見つめられ、少女は頬を少し紅潮させて、顔を背けた。 「誉めなくていいからな」 そっけなく、そう言い放つと、シーウは水を火にかけ始めた。 (照れ屋なんだよなぁ……こいつ) ヴァルスは心の中でひとりごちる。なんとなく名残惜しげに手を引っ込める。 「先に食べるぞ。フォルとシャルが起きる前に私達の分は片付けるからな」 「はいはい」 シーウはパンを手渡すと、自分の分も食べ始めた。どうやら、子供が2人いるらしい。片付けの時間を考えると、年長者は先に食べてしまっておいたほうが良かったのだろう。 朝日が差し込んでくる。暖かい、優しい光だ。霧も晴れ、ぼやけて見えていた視界がはっきりとしてくる。 湯気を立てている湯を水筒のようなコップに移し、紅茶を煮出す。パンを一口食べ終え、紅茶をすする。 「んん…」 後ろで、小さな声が聞こえた。子供たちだ。 「おはよ〜…シーウ」 「おはよ〜」 2人の子供は、そっくりな容貌でありながら、その髪と瞳の色彩は間逆だった。 「おはよう」 「おはよ」 シーウとヴァルスがそう返すと、眠そうな目をこすりながら歩いてくる。シーウは泉で顔を洗ってくるようにと、子供たちに言った。 2人の子供は、どちらも12歳ほどだろう。男の子と女の子が1人ずつ。双子らしく、顔もそっくりだ。しかし、少年は髪の色が金色で、瞳の色がアメジスト色。少女は髪の色が銀髪で、瞳の色はサファイアの色だ。そっくりで、正反対で、対照的な、左右対称のシンメトリーのようだ。しかしやはり性別の違いの所為か、シルエットの違いが少し出ている。だがそれもほんの僅かにすぎない。2人とも、ゆったりとした服を纏っている為か、顔だけで判断しろといわれては困るほどだ。 少年はフォル。少女はシャルという名前だ。 「朝ご飯は?」 「パンが残ってる。それと、紅茶を淹れておいた。ゆっくり食べていい。昼にはこの先の村につくはずだ」 シーウがフォルの声に答えると、シャルが問い掛けてきた。 「シーウとヴァルスはもう食べたの?」 「ああ。だから、おまえらもちゃんと食べろよ。昼に着くって言うのはあくまで予定だからな」 今度はヴァルスが答えると、2人はにこりと笑って、食事に手をつけ始めた。シーウは身支度を開始し、ヴァルスも不要な荷物を片付け始めた。 その昔、この世界には人間たちが栄華を極めていた。機械という道具を操り、様々な技術で、昼も夜も平和に楽しく暮らしていた。都市化が進み、思想や宗教などのぶつかり合いも消え、食料問題や人口問題も、もはや解決の兆しを見せ始めていた。当時の人間たちの残された課題は、病を克服すること。研究者たちは、次々と病を克服する薬や治療法を作り出し、たくさんの人間が救われていった。 しかし、『死』という終わりからは、なかなか逃れる事ができなかった。人はいつか死ぬ。それは他の生命においても同じ事。だから精一杯生きればいいと、大半の人々は思っていた。だが、ある時現れたのだ。不老不死になる方法を開発したという研究者が。 研究者の話では、機械による遺伝子の操作と、少々の薬物投与で、不老不死が得られると言われていた。最初は皆、そんな話があるわけがないと、誰もその話を信じなかった。信じても、しかたがないと。けれど、居たのだ。不老不死になりたいと志願したものが。研究者は、不老不死を実現させ、被験者はその後600年に渡って生き続けたという。 600年間は。 最初の不老不死が実現してからの500年の間に、人間の約6割が不老不死となっていた。それが人口問題、食糧問題などを再発させ、当時の人々はそれを解決すべく、不老不死が増えないように不老不死化禁止を宣言した。それから100年。不老不死の人間はもちろん死ぬはずもなく、4割の人間たちだけが時の流れる世界を生きていた。不死の人間は、時が止まっていたのと同じだったのだ。そして、ついにその時間が、それまでのツケを払うべく一気に爆発した。 それが、1050年前の不老不死者の暴走。 最初に狂ったのは、最初の不老不死者。いきなり意志とは無関係に体が暴れだし、やがて意識も消えてただの化け物と化す。狂った者は初めの1ヶ月ほどは人間の形をとっていられるが、それもしばらくすれば獣や怪物と成り果てた。 ――不老不死。 それがいかに恐ろしいものかと言う事を、人間たちは今更気付いたのだ。相手が不死なのでは、倒しようが無い。いくら傷つけても、暴走したものたちはあっという間にそれを修復してしまう。以降50年間、人間と不老不死者、つまり人間と魔物の闘いの歴史が続いた。 しかしそれは同時に、不老不死を倒すための研究の歴史だった。 絶対的な力と生命力を得た“不老不死”に対し、人間たちは必死でそれを消滅させる方法を探した。幾度も失敗し、そしてやり直した。その間に、不老不死の獣たちは暴れに暴れ、人々は逃げ惑っていた。 そんな中、突然に現れた力を持つ者たち。それまでは超能力者などと呼ばれ、敬遠されていた者達の末裔と言われた彼らは、次々と不老不死の獣を屠っていった。 浄化能力。それが、彼らが有していた“力”だった。 その力は先天性で、研究者たちは興味と好奇心を持ち、彼らの力を解析しようとしたが、彼らは決してどの研究所にも、どの都市にも属さなかった。 彼らは、遺伝子操作によって不老不死という病に冒された人間たちを癒し、獣や怪物たちを浄化して暴走を止めた。獣や怪物の姿になったものは、もはや助ける事は叶わなかったが、それでも暴走を止めてくれただけありがたいと、人々は彼らを敬った。そして、彼らは浄化神と呼ばれるようになった。 12人の浄化神は、不老不死ではなかったが、不老不死を浄化するたびに寿命を引き延ばしていった。彼らは、不老不死が消えるときまで、安息が得られなかった。 それから50年。暴走した不老不死の人間たちは大半が浄化され、世界の時の流れが元に戻った。だがその代償は、世界を破壊し尽くすほどのものであった。暴走したものたちが集合体を形作り、12人の浄化神とぶつかり合ったのだ。結果は浄化臣たちの勝利。やっと浄化神たちは、それぞれの場所で眠りにつき、安らぎを得ることができた。1000年前のことだ。人々は機械に頼らずに生きていく事を余儀なくされたが、自らを自滅に誘う機械に二度と頼ろうとはしなかった。 だが、不老不死が消えることはなかった。浄化された者の子供たち。それは自らが不老不死であるとも知らず、子孫を残していった。浄化神たちは歴史に度々現れ、そのたびに浄化を繰り返していった。浄化の力を持つものも、絶えることは無かった。 1000年という時は、不老不死という病を人から遠ざけていった。しかしそれでも、少なからずいる不老不死の人間とその周りの者たちは、互いに怯えあい、浄化神を求めた。浄化神もまた、伝説に残るかつての浄化神たちの遺志を継ぎ、巡礼の神官のように世界を旅しながら不老不死を癒していった。 これが、世界に残る伝説である。 穏やかな昼下がり。シーウたちは小さな村に着いた。さっそく食事をとり、必要なものを買い揃え、宿をとった。だが、村のぴりぴりとした雰囲気に、子供たちは外で歩き回ろうとしなかった。 シーウとヴァルスは村の中を歩き回り、噂話に耳を傾けた。 「この村の誰かが不老不死なんだってさ」 「誰だろうねぇ……恐ろしい」 「リア村長の娘じゃないかってもっぱらの噂だよ」 「村長の娘ぇ?クレアさんかい?あんな綺麗な人がねぇ……ていうことは村長もかい?」 「隔世遺伝らしいからね、不老不死は。村長は違うよきっと」 シーウは長い髪をさっと払うと、ヴァルスに耳打ちした。 「村長の所へ行こう」 「了解」 ヴァルスはにっと笑って答えた。 シーウの紫がかった銀髪が、紫色という不思議な瞳の色が、微かに揺れ動いていた。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――― 次回からは主人公たちがいろんな行動を開始します。シーウの髪の色は紫がかった銀髪です。今回の題名は内容とはあんまり絡んでいないのですが、あとあと紫銀髪(プラチナ・パープル)は物語の中で結構大事な役割を果たしていきます。ちなみに、シーウは18歳で、ヴァルスは19です。 では。 夏青龍 |
10605 | Re:Eternal Seed Act.1 | ドラマ・スライム | 2002/10/13 20:12:18 |
記事番号10597へのコメント まだこれからですね。 何と言うか・・・上手いです。 これからも期待しています。 僕もオリ小説書こうと思っているので・・・ 参考にさせていただきます。(パクリませんから御安心を) |
10607 | 初めまして | 夏青龍 E-mail | 2002/10/13 22:28:42 |
記事番号10605へのコメント 初めまして。夏青龍です。 コメントありがとうございます。とても嬉しいです。なんとか期待にそえるように頑張りますね。 ドラマ・スライムさんもオリジナル小説がんばって下さいね。私の小説(駄文というべきか・・・)が参考になるかはわかりませんが。 これからもよろしくお願いします。 では。 夏青龍 |
10636 | Eternal Seed Act.2 | 夏青龍 E-mail | 2002/10/14 19:46:07 |
記事番号10539へのコメント こんばんは。夏青龍です。 連日で投稿しまくっておりますが、きっと来週は中間テストと英検と漢検ですごいことになってると思います・・・(汗)。 では第二話。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――― その世界で 不老不死は 病と呼ばれていた Eternal Seed Act.2 浄化神 夕方。シーウとヴァルスの2人は、村長の家の前にいた。 「村長さ〜ん。いらっしゃいましたら返事してくださ〜い」 戸口のところでドアをノックしながら、ヴァルスが少しおどけた調子で言った。しばらくすると、村長と思われる壮年の男性が1人、やってきた。 「何か、用ですか?」 男性は少し不機嫌そうに、ヴァルスとシーウを見た。ヴァルスは神官のような服、シーウは青い装束に、少し長めの刀を二本腰にさげている。不信がられても仕方がない格好だが、それ以上に、村人の噂話がすでに耳に入っていて頭にきているのかもしれない。 「リア村長…ですね」 シーウが尋ねると、男性は無言で頷いた。 「私はシーウ。それからこっちは“浄化神”、ヴァルス」 “浄化神”という言葉を聞いて、村長は明らかに動揺した素振りを見せた。まだ若い、二十歳前後のこの青年が、“浄化神”だと聞かされて驚いたのだろう。 「ほ…本当に浄化神様なのですか…?」 「ああ本当だ。何なら証拠も見せるけど」 ヴァルスは笑いながら答えた。 「と、とにかくこちらへ」 言って村長は家の中へと2人を迎え入れた。 村長の家の中は、少し寂しい感じがした。村長の話では、十数年前に妻を亡くし、ほとんど男手一つで娘を育てたのだという。 「娘のクレアはとても優しい子で…村人からもとても気に入られていました」 椅子に腰掛け、村長は話し始めた。 「実を言うと、私もあの子が本当に“不老不死”なのかは判らないのです。ただ、確かにあの子はこの頃様子が変なのです。部屋にこもりきりで…食事もほとんど摂りません。けれど夕方になると部屋から獣が暴れるような音がするのです」 「娘さんが部屋にこもってしまったのはいつからですか?」 シーウが尋ねると、村長は疲れたように、 「もう…3週間になります」 「危ねえな」 「え?」 ヴァルスの言葉に、村長は頬杖をついていた顔を上げた。その続きを、シーウが口にする。 「不老不死の人間は、暴走が起きると一ヶ月ほどで怪物に成り果ててしまいます。娘さんが自発的に部屋にこもったのならば、それ以前から彼女の体には異変が起こっていたということになります」 「そ、それじゃクレアは…!?」 顔色を変えて村長は立ち上がった。椅子が倒れ、派手な音が部屋に響いた。 「お会いさせていただけますか。クレアさんに」 もちろん村長は頷いた。時は、一刻を争うのだ。 クレアの部屋の扉は、硬く閉ざされていた。村長は何度もドアを叩いて彼女を呼んだが、彼女の反応はなかった。鍵がかかっているため、ドアを開けることができず、村長は絶望的な表情になった。 「クレア!クレア、開けなさい!!クレア!!」 どんどんと何度も扉を叩く村長に、ヴァルスが場所を代わってドアの前に立つ。 「村長、ドア一枚くらいは壊しても構わないよな?」 言いきるか言いきらないかのうちに、ヴァルスはドアを蹴破った。 ドアという蓋を開けられ、部屋の中はあっさりと見渡された。ボロボロになった壁紙。引き裂かれたカーテン。机や椅子は脚や背もたれが数本折れており、部屋は荒れに荒れていた。 「ク…クレア…?」 村長は怯えたような表情で部屋を見渡した。彼女は直ぐに見つかった。 「ア…?」 女性といっていいのだろう。20歳ほどの年齢と思われる人影が、抑揚の無い声を上げて振り向く。亜麻色の髪は乱れ、瞳は虚ろでどこか野生動物のような光を宿している。肌も不健康そうな色に変わってしまっている。シーウは反射的に村長を廊下に押し出し、部屋の中へ踏み込んだ。ヴァルスもすぐに部屋に飛び込み、 「村長!家から出てできるだけ離れろ!村人も避難させろ!」 「なっ」 「娘さんは俺たちが助けるから!あんたはあんたのできることをしろ!」 そう言うと、さっきまでドアがあった場所に結界を張った。村長は事態が飲み込めないまま、ヴァルスの言葉通りに家を出て行った。振り向いた娘の姿に、恐怖心を抱いたらしい。 「ダレ……なの…?アナタタチ……」 ふらりと立ち上がり、女性は抑揚のない声で言う。シーウは刀を抜くと、彼女に向けた。 「クレア=サンドルか?」 「ワタシの…ナマエ…?クレア…クレア=サンドル……」 途切れ途切れに答える彼女に、シーウは警戒を怠らなかった。もう一度彼女に問い掛ける。 「お前はクレア=サンドルか?」 しばらくの間、緊張感が両者の間に流れ、唐突に、女性が笑い出した。底冷えのするような笑いを。 「クックッ……ハハハハハハ……ワタシはクレア。クレア=サンドルとヨばれていた。だからワタシはクレア」 「駄目か」 シーウは、期待など全くしていなかったのか、失望したとも思えない声で呟いた。彼女はもう狂ってしまっている。ヴァルスに目配せし、刀を彼女に向けて踏み込む。 意識を失ったものでも、獣と化す前ならば“浄化神”の力で何とか助けられる。シーウはそのための時間稼ぎをする事にした。本当は、ヴァルスにはそんなものは必要ないのだが、村長が村人を逃がすための――言い方を替えれば、この場所のことを知られないように人々を遠ざける時間は考慮に入れておくべきだ。 「ワタシをキズつけるの…?ムダよ。ワタシにキズをつけることなんて、マッタくのムイミ」 「それはどうかな」 シーウの刀は狙い違わず彼女を捕らえ、袈裟懸けに斬り払った。彼女は悲鳴を上げて倒れこむ。 「ナ…ニ…そのカタナ…」 「敵に秘密は教えない」 シーウは刀を彼女の喉元に当てて微動だにせず、様子を伺っていた。彼女の傷は本当ならもうふさがっているはずだ。不老不死ならば、多少の怪我は一瞬で修復できるのだ。だが、シーウの刀は特別製だった。 「動くと首が飛ぶぞ」 恐ろしい事を平気で口走り、ヴァルスに合図を送る。ヴァルスはてこてこと近づいてくると、彼女の横に片膝をついた。そして、彼女の額に人差し指をあてて何かを唱え始めた。 「『不死という闇に囚われし者よ、浄化の力を受け入れよ。時の流れをその身に戻せ』」 ヴァルスの周囲に紋様のような光が浮かび、螺旋状に絡まり、彼の手に収束していく。 「ガッ…!?」 びくんと『クレア』がその身を仰け反らせる。ヴァルスの人差し指の先に、白い光球が現れ、それが彼女の体に入っていった。 「『ロスト・オブ・エターナルシード』」 光球は彼女の体の内から広がり、オーラのように身の周りを漂った。彼女は眠るように目を閉じると、光の中でもとの肌の色を取り戻した。光はやがて彼女から離れ、ヴァルスの体の中に吸い込まれるように溶け込んだ。 クレアの体は床にとさりと音を立てて倒れこみ、ヴァルスは片膝をついたままで俯いた。 「く…」 「大丈夫か?」 シーウにしては珍しく、心配そうに苦悶の呻きをあげたヴァルスを覗き込んだ。 「なんとか…な。もう落着いた」 いつも通りの、にへらっとした顔に戻り、ヴァルスは言った。シーウはほっとしたように、雰囲気を和らげた。 浄化神は、その身に浄化した相手の“エターナルシード”を受け継ぐ事になる。だが、その“エターナルシード”も、浄化神の体内ではその本来の力を発揮できずにほとんど浄化され、寿命を少し伸ばす程度の力しか持たなくなる。しかし、体内での“エターナルシード”の浄化に伴い、浄化神自身が多少のダメージを受けてしまう。それをシーウは心配していたのだ。そしてもう一つ。 また、ヴァルスは、自分の寿命を引き延ばしたのだ。 “エターナルシード”は不老不死の者が持つ病の原因だ。かつて人間たちが、自らに植え付けた不老不死という花を咲かせるための種。結果的に暴走を引き起こしてしまうそれを浄化能力によって取り除き、対象を癒すのが、浄化神の使命だった。 「にしてもこのごろ“不老不死”事件が多くなってねぇか?」 「隔世遺伝だからな。その波によっては“不老不死”が多くなっても仕方が無い」 「その分、俺たちが働けばいいんだけどよ」 「………」 複雑な表情で、シーウは俯いた。そして少し悲しげな表情で、ヴァルスの手をとった。大切そうに。 「――私は…おまえを独りにしたくない――」 「……さんきゅ」 微笑んで、ヴァルスはシーウを見つめた。真剣そのものの顔をしているシーウに、穏やかな目を向け続けた。 「シーウっ、村長さんがね、お礼にご馳走用意してくれたの」 宿の一階でフォルとカードゲームをして遊んでいたシャルが、部屋に入ってきて嬉しそうに言った。シーウは立ち上がると、シャルと一緒に一階に降りていく。 あの後。ヴァルスとシーウが村長を呼びに戻り、クレアは無事に意識を回復した。暴走していた間の記憶はないが、もう再発の危険性は無い。村人にもそう説明すると、ヴァルスはすごい歓迎を受けることになってしまった。浄化神の扱いは、下手をすれば一国の国王並になってしまうのだ。 人の波におされ、挙句美男子ということで村娘にまとわりつかれ、すっかりシーウから離されて、ヴァルスは村の広場で女性たちの質問の嵐に遭っていた。どれもこれも、ヴァルスにとっては聞き飽きた質問ばかりで、さっさとシーウの所へ戻りたいと思っていたのだが、お人好しな為か、どの質問も丁寧にあしらった。 シーウはシーウで、そんなヴァルスに見向きもせず、宿に向かって一直線に帰って行った。フォルとシャルに浄化が行われた事を伝えに行くためだった。 フォルとシャルは、とても退屈そうな顔をしていたが、シーウの言葉を聞き終えると、途端に元気になってしまった。村の雰囲気が和んだのを、空気から感じ取ったのだろう。その勢いで一階に降り、夜だったので宿屋の主人にカードを借りて、ぎゃーぎゃーと騒ぎながらゲームを始めてしまったのだ。 シーウは、それらのどの喧騒からもかけ離れた静かな部屋で、空を眺めていた。 「…浄化神、か」 独り言を呟くと、瞳を閉じる。今でもはっきり覚えている、あの光景。優しく穏やかで、楽しかった過去と、暗く闇の底で全てを焼き尽くそうと光を放つ炎の記憶。全てが幸せで、全てを信じていた、あの頃の自分。それが崩れ去ったとき、絶望に打ちのめされ、全てから見放されたような気分になった時の悲しみ。 「ザード……」 自分を“あの”過去に縛り付けるその名は、自分にとって大切なモノではなかったか。問い掛けても、答えは無かった。 そして今、シャルが自分を呼びに部屋に入ってきた。 村長の出してくれた食事は、どれをとっても絶品だった。腕自慢の村の女性たちが、一生懸命作ってくれたのだという。フォルとシャルは楽しそうに料理を口に運び、ヴァルも村人と話しながら食事を続けた。ただ1人。シーウだけは、相変わらず静寂の中に居た。 「シーウ、どうしてこっち来ないんだ?ヴァルス兄が寂しがってるんじゃないか?」 自分の元へやって来た金髪の少年、フォルの言葉に、シーウは微かに反応した。 「私は何の役にも立っていないからな。お前たちはちゃんと食事をとっておけ。明日からまた旅にでるんだから」 面倒見のいい姉のように、優しく諭すように言う。シーウは自分の分を分けてもらうと、何故か少し離れた場所で食事を取っていた。フォルには、シーウがとても寂しそうにしているように見えたのだ。 「本当に、何とお礼を言っていいのやら……ありがとうございます」 「いや、娘さん助かって良かったじゃないか。これからも大事にしてやれよ」 「しかし貴方のようなまだ若い方が浄化神とは……」 「浄化神てのは大抵幼い頃から力が発現してるからなぁ」 他愛の無い、村長とヴァルスの会話。そこに村娘たちの視線と言葉が加わる。 「ヴァルス様、こちらのお連れの方とはどういった関係なんですか?」 「これからどこへ行かれるんです?」 シーウは、そういった空気が苦手だった。小さい頃から、ああして話題の中心になるのが嫌だった。シーウの話題といったら、良い事などほとんどなかったのだから。 食事を摂り終わると、宿の主人に食器を返して席に戻る。飲み物を飲んで、少し食休みをするつもりだ。 「あら?あちらも連れの方?」 「子供だけじゃなく女の連れまでいるの?優しい方なんですね、ヴァルス様って」 「でもあの人の髪も目も、紫色…?もしかして……」 やっと“その噂話”までシーウの姿がつながって、村娘は言葉に出しかける。 がたん、と音を立ててシーウが立ち上がる。村娘たちはびくっと体を強張らせ、シーウが部屋へ帰っていくのを、青ざめた顔で見つめていた。 「もしかして……“混沌神”…?」 「ヴァルス様、あの女なんて連れじゃあありませんよね!?浄化神が混沌神と一緒にいるなんておかしいですよ!」 「……」 ヴァルスはいきなり黙り込むと、シーウの歩いていった方向を見つめた。 (あまり思いつめるなよ……シーウ) 心配そうに、心の中でそう呟きながら。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――― 二話目にてシーウがひどい目に遭っております。それについてはこれ以降の話で明かしていくつもりです。ヴァルスは女性に人気者です。女難のそうアリ・・・かも。 では。 夏青龍 |
10639 | Re:Eternal Seed Act.2 | ドラマ・スライム | 2002/10/14 21:40:20 |
記事番号10636へのコメント いきなり『エターナル・シード』という言葉が出ましたね。 シーウ・・・混沌神?何それ ・・・面白いです。 これからに期待です。 それでは〜 |
10779 | Eternal Seed Act.3 | 夏青龍 E-mail | 2002/10/20 20:38:33 |
記事番号10539へのコメント こんばんは。夏青龍です。 今日英検を受けてきまして、3日後には学校でもテストが待ち受けています。ので、しばらく投稿ができないと思われます。おそらくツリーも落ちるかと・・・。 今回は、”力”についての説明がたくさん出てきます。魔法と力の違いをはっきりさせるためです。どうかお付き合いくださいませ。 では第三話。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― その世界で “力”を持つものは 神族と呼ばれていた Eternal Seed Act.3 “力” 昔から、自分についての良い話など聞いた事もなかった。それは自分の宿命であり、運命であり、どうしようもないことなのだと思っていた。だが…。 これでは、あまりにも悲しすぎる……。 夜になって、パーティーも終わって皆がそれぞれの部屋に帰った頃。シーウは宿の屋根の上にいた。悲しい目を、寂しい目をしていた。月明かりと星の光に照らされて、紫がかった銀髪がきらめいていた。それはさながら、夜の精霊のよう。 「よっ」 屋根の上に上がってきた新たな人影を、何の感情もこもらない目でみつめ、シーウは再び目を空に向けた。 「また空見てたのか」 「ああ」 ヴァルスの言葉にそっけなく答える。だが、彼がすぐ隣に座っても身動き一つしない。 「あの村娘たちはもういないから、降りて来いよ」 「私は……おまえとは逆の存在だから」 自嘲気味に呟き、少女は俯いた。 「でも、一緒にいちゃいけないってわけじゃないだろ。現に俺はおまえと一緒にいる」 穏やかに言うヴァルスに、シーウは苦しそうな顔をした。そう言ってくれるのは嬉しい。けれど、それが本当は嘘だったとしたら。建前だけを言っているのだとしたら。悪い考えは、こんなときどんなに消し去ろうとしてもまとわりついてきて、不安だけが増幅されてしまう。 いつのまにか、ヴァルスはシーウの方に手を置いて引き寄せていた。 「あ…」 「嘘じゃねぇって。な?」 顔を赤くして、シーウは口を閉ざす。ヴァルスはあくまで余裕がある顔でいるが、シーウのほうはもう逃げたしたい気持ちが限界点に達しそうになっている。心臓が跳ね上がっていて、体温が急に上がってしまう。それを抑えることができない。悔しさでいっぱいになりながら、シーウは体をかたくした。 「ね、寝るっ!」 いきなり立ち上がって、シーウは屋根を降りていってしまった。 「ありゃ、逃げられた」 手をわきわきと開いたり握ったりしてみながら、シーウのいなくなった方向を見る。 空を見上げると、まるで黒い紙に銀色の砂を撒いたように、星が輝いていた。 浄化能力を持つ浄化神。それは、世界に時という平等な秩序をもたらすために力を行使する。では、不老不死者は秩序を壊すものなのだろうか。それには『YES』と答えざるを得ない。不老不死者は、“時の流れない空間”の中を生きているのだ。時を秩序として受け入れるのであれば、それは確かに秩序を乱すこと。 しかし、秩序を乱すものを浄化するほかにも、秩序を守る方法があった。それは、この世でただ1人しか使えない力――2つの特別な能力を、不老不死者に対して行使する方法。 “力”は、魔法や術とはまたかけはなれた、別の次元の話である。定義で考えれば、魔法はこの世に存在するはずの無い力を、何らかの手順を踏んでこの世に具現化させ、それを操るもの。この魔法の力は、旧世界が不老不死者の集合体と、12人の浄化神がぶつかり合った後、この世界で発見された新たな力であった。 では“力”の定義とはなにか。 “力”とは、この世に存在するものの中に秘められた、特別な能力。例えば、浄化能力を持つ浄化神。浄化能力は、彼らの中にしか存在しない。治癒能力や、予知能力も、その力を使うことができるのは、神族とよばれる“力”を持って生まれた者だけ。 その人間の存在を定義づけする上で、その定義の一部となっているもの。それが、“力”。魔法とは、あくまで手順を踏めば、だいたいのものに行使できるある意味で公的なものだが、“力”は、決められたものにしか扱えないという、実に使いにくい能力だ。だが、それだけに、その威力は絶大でもある。 “力”を持つものは、神族と呼ばれている。人間を超越した力を持つものたちだから、その名がついた。その最たるものが浄化神。他にも治癒能力を持つ治癒神、予知能力を持つ未来神、攻撃などの力を増幅する声歌神などがいる。 そして、この世で1人しか使えない力。それは……。 ひそひそと、噂話が聞こえる。シーウはその慣れきった雰囲気のなかを、無関心を装いながら歩いていた。昨日の騒ぎからひと段落して、村も落ち着きを取り戻した。ヴァルスのところには、午前中からずっと村娘や子供たちが集まってきていて、とても旅の再開はできなかった。いつもなら、村人の反対など振り切って出て行くのだが、こんかいはフォルとシャルも疲れていたため、断念したのだ。 噂の内容はきっと、自分とヴァルスの関係だろう。自分の容姿については、あの噂話の中にこれでもかというほど細かく入っているので、絶対に自分の正体はばれている。 ばれたところで、別に支障は無い。むしろ、人が寄り付いてこなくて幸運だとすら感じる。ほんの少しの寂しさは、何かの行動で打ち消せる。腰に二本提げている刀に片手をかけるだけで、人々は震えて逃げ出していく。 (うるさいな……) いつまでも噂話をしている村人達に、シーウは嫌悪感を覚えて森のほうへ入っていった。森の中は光の筋が何本も差し込んでいて綺麗だった。 まるで光のシャワーでも浴びるかのように、シーウは木漏れ日の中へと歩を進めた。ため息をつき、ぴりぴりとした空気を元に戻す。そのまますとんと手近の倒木に腰を下ろす。 無言で空を見上げ、その青を目に焼き付けるように微動だにしなかったが、ふと、二本の刀を鞘ごと抜いて目の前に立てる。片方は柄の部分に布がまいてある、黒い鞘に収められた普通の刀だ。もう一本は、柄の部分にも綺麗な細工が施された、まるで彫刻のような刀。鍔のあるべきところに紫色の玉石が一つ埋め込まれ、白い鞘に収められている。その2本を鞘から抜き放ち、両手に構えて目の前の低木を睨みつけ、 「ふっ」 呼気と共に刀を振りぬいた。枯れかけていた低木は中ほどに二本の斬線を刻み、3つに分かれて倒れた。切れ味は滑らかで、とても刀で、しかも少女が斬ったようなふうには見えない。手首を返して逆手に持ち、今度は素振りを始めた。仮想の敵に向かって二度、三度と剣を振るう。銀色の斬線が虚空に刻まれ、次の瞬間には別の一撃が繰り出されている。迷いの無い、一閃一閃が、空気をも切り裂いていくようだった。 しばらくして、やっとその手を止めると、息一つ乱さずに鞘に2つの刀を収める。同時に鍔なりを響かせ、鞘ごと再び腰に挿す。紫色の髪をさっと払うと、村へ戻ろうと歩き出す。 ふと、足を止め、振り返る。何もいない。だが、感じる。もう、すぐそこまで来ている。呪文を唱え、魔法を使って村まで飛翔する。 「飛翔翼(ウィング)」 背中――肩甲骨のあたりに光の翼が出現し、飛翔を開始する。村まで一直線に飛ぶと、外に出て村娘から逃げようと走り回っているヴァルスを見つけた。 「お、シーウ」 「来てるぞ。新しい客が」 「ははは……マジでか?」 乾いた笑いを響かせるヴァルスに、冷たく言葉を言い放つ。 「嘘をついてどうする」 「あ〜…俺に安息の日が訪れるのは何時なわけ…?」 別に寿命が尽きる日、という意味ではなく、のんびりと暮らせる日という意味で言ったのだが、そんなのんきな事をいっている場合でもなかった。真剣な顔になり、 「数は?」 「20…ってところか」 「……フォルとシャルには村人の誘導を頼んでおくか」 「私はそれまで応戦している。村人が街道まで避難したら戻ってきてくれ」 「わかった」 言ってヴァルスは走り出し、シーウは飛翔の魔法を解くことなく空へ向かって高度をとる。無表情のまま森を見下ろすと、森の木々から鳥たちが逃げていった。何かが、来る。もうすぐそこまできている。それはすでに、誰の目にも明らかだった。 あの日から、“彼”はずっとその姿を保ったままだった。漆黒の髪も、深い深い、黒にさえ見える緑色の瞳も、その白い肌も、何も変わってはいなかった。とても、魔剣士一族の長になるような、男ではなかったのだ。 魔剣士一族は、剣にも魔法にも長けた、別の言い方をすれば、代々その素質があったものたちの一族だった。その一族に生まれたからには、剣と魔法は一通り習い、能力が高ければ、国王や神官などの要人護衛にもあたる。彼は、先代の長に認められるほどの力の持ち主で、里でも将来有望な青年だった。 “あの日”までは、里の外れに、恋人と、血の繋がらない幼い妹たちの面倒を見ながら静かに暮らしつつ、その類稀なる才能を発揮し、近隣の国や街の要人護衛や、野党や盗賊の逮捕、魔物の撃退などを幾度もやってのけていた。 漆黒の魔剣士・ザード。それが彼の通り名だった。 次々と村に攻め込んでくる魔物に、シーウは剣を何度も叩きつけた。ヴァルスが来るまでは、自分が村を守らなければ。 相手にしている魔物は、半数は不老不死者の暴走体。そしてもう半分は、どこから脱走してきたのか合成獣(キメラ)や、小型のヒドラ――頭の八つある蛇――まで混じっていた。 本当はこんな面倒くさい戦い方ではなく、さっさと片付けてしまうこともできたが、なるべくそれは避けたい。 ヒドラの2つの頭がシーウに噛み付こうと挟み撃ちを仕掛けてくる。それを難なくやり過ごし、首の中途で刀の斬撃をあびせてやると、頭の一本がドサリと地面に落ちた。そして、そのまま砂のように崩れて風化する。次に飛んできたのはキメラの背中にあった、一つひとつが短剣のような鱗。魔法でシールドを張ってそれを弾き飛ばし、キメラの頭めがけて刀を振りかざす。刀は、再び飛んできたキメラの鱗のひとつに弾かれ、軌道が曲げられる。そして不老不死の化け物がその巨大な手を振り下ろそうとしていた。しかしそれも難なく避けると、刀を自分の前で交差させ、そのまま相手に切りつける。魔物の腕に十字の傷跡が刻まれたと思った刹那、その斬線から先は砂となり、地面に降り注ぐ。すでに5対の魔物を屠ったのだが、どうやら魔物は20体どころではなかったらしい。最初に集まっていた20体以外にも、近くの森からやってきたのか、二十数匹の魔物がやってきていた。 「火炎陣(フレア・レイヤー)!」 自分の周り、十数メートルに炎が立ち昇り、何体かの魔物が炎に包まれ消滅する。雑魚にはこの魔法で十分だ。もっとも、不老不死者の暴走体にはこれは全く無意味で、ひるませる程度の気休めにしかならない。 「十字風刃(クロス・ブラスター)!」 自分の前後左右に向かってカマイタチを発生させ、また4対の魔物を倒す。もうこれまでに何体魔物を倒したか、見当もつかない。 シーウの刀は二口。両方とも、魔剣士一族、という一族の宝刀だ。右手には『虚』、左手には『空』とそれぞれ銘打たれた名刀である。 双剣――いや、双刀というべきか。外見と雰囲気は対照的でありながらも、二つで一つというような自然な組み合わせとそれぞれの柄の細工。右手の『虚』は精緻な細工がほどこされた、どこか西洋風な外見。もう片方の『空』は日本風に布が巻かれ、柄頭に丁寧に編まれた紐が縛り付けられている。2つの刀は、一族の間ではこう呼ばれていた。 『虚空』 それが、その刀の、一方が他方の片割れである、二本の刀たちの呼び名だった。 『虚空』が空間に斬線を刻むたび、魔物が切り裂かれ砂と化す。シーウの剣術と、刀自体の特異性、そしてシーウが意図的に込めた“力”によって、魔物へのダメージは増幅されている。 シーウのもっている“力”は、あまりにも異質で、非常識で、この世界では彼女一人にしか扱えない、特別な能力であった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――-- シーウの力については、これからだんだんと明かしていくつもりです。魔剣士一族についても、次回かその次あたりででてくるかと。 では。 |
10780 | Re:Eternal Seed Act.3 | ドラマ・スライム | 2002/10/20 20:55:10 |
記事番号10779へのコメント お久しぶりです。 ・・・ううむ参考になります。 これを読むと私の作品で欠けている部分が・・・。 戦闘シーンとか上手ですね。 日常的な部分もしっかり書かれていて・・・ 前話で言っていた混沌神というのも気になります。 そして世界背景が最も気になります。(日本風とか西洋風とかの剣が出てきているので・・・) それでは〜 これからもがんばってください。 |
10796 | 感想ありがとうございます | 夏青龍 E-mail | 2002/10/21 16:52:12 |
記事番号10780へのコメント こんにちは。夏青龍です。 感想ありがとうございます。コメントがいただけてとっても嬉しいです! シーウが『混沌神』とよばれるゆえんは次回で多分出てくると思います。彼女の能力に関係しているんですけどね。世界背景は、かなり遠未来的なものを想像しながら決めました。現実の世界と似たような世界が、どんな風に発展して剣と魔法の世界になったのか・・・というのが一番決めるのに困りました。前々からいつかネタにしようと考えていた『不老不死』を、この話に持ってきて、 「よし、これならなんとかなるかも」 と思って魔法などの設定もいろいろ付け加えました。 日常風景と戦闘シーンは、私が書くとどうしても短くなってしまうので、なんとか長く細かくはっきりと・・・!と一生懸命書いています。でもこれからも精進せねばならないようです。 剣や刀については、旧世界(「Eternal Seed」中の世界の)が一時壊滅的状態に陥ったとき、人間が再び手ごろに使える武器、というのが構造が単純明快なものだったんです。銃火器は構造が複雑で、旧世界崩壊後にはそれを作る技術師や材料、そして弾薬や燃料が不足していた、というのもあります。デザインについては、旧世界のものと関係があったりなかったりで、いろいろです。 長々と書いてしまってすみません。村での事件が終結後、シーウたちの関わる事件はどんどんスケールが大きくなっていきます。旅をしている目的なども、明らかにしていくのでこれからもよろしくおねがいします。 |