◆-氷雪の白夜1-LINA(1/14-22:57)No.1097
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1097氷雪の白夜1LINA 1/14-22:57


今回はショートストーリーです!!



がっしゃあああああああああああああああああああああああああんんんんん!!!
ウォッカの瓶が割れる音。
頭でしようと思っていた事とはいえ実際に起こるとかなりのインパクトがあったりする事は否めない・・・・。
もちろん頭の中で状態をシュミレーティングしていたとはいえその事柄を遂行したのが自分で無いと言う事実も影響している。
まあ、さっきまでどやかましいと思ってた連中が黙ってくれたのは嬉しい事なのだが。
アタシがやったらこうはいかなかっただろうし・・・・。
ショック(?)で呆然とする脳みそを酷使しながらリナは思った。
「うっせんだよ!!てめ〜〜ら!!大貴族の連中はともかく!!下級貴族の貧乏人の俺達が何したってんだよ!!十秒以内に三十文字ピッタリに答えな!!10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0!!散れ!!!」
な・・・・。なんちゅう言い掛かりと言うか屁理屈と言うか・・・。
さしものリナも唖然としてこの台詞を吐いた少年を見つめる・・・・。
が、やめた。
こんな糞生意気なガキだ・・・。
「あ〜〜ん!!何ガンたれてんだ?てめ!!殺すぞ!!」
なんて台詞を言われかねない。
生憎と子供相手に本気で喧嘩する趣味は持ち合わせてはいない・・・。
が、予想に反して少年は・・・。
「姉ちゃん、大丈夫か?」
とニッコリと微笑んできた。
「リナよ。アンタは?」
隣りのアメリアが「関わらないで下さい!!」と頼むように袖を引っ張ってきてるのだが・・・。とりあえず無視。
「良い根性してるなあ。」
感心したように少年はリナの方を見る。
「何が・・・?」
大方言う事は想像つくが確信が持てないので一応聞く。
「だったよお、人の名を聞く時は自分から名乗る、ソレが筋ってモンだろ?」
予想通りの台詞。この台詞はこ〜〜いった性格の人間がセオリーとしている気配すらある。まあ、自分自身がそうなのだから分かったと言ってしまえばミもフタもなにのだが、と考えリナはあくまでも「密か」に苦笑する。
しつこいようだがこ〜〜ゆ〜〜奴の前で不用意に一人で笑ったりでもしてらそれこそどう突っ込まれるかわかったもんじゃない。
「まあ、そうね。で、アンタの名前は?」
苦笑を堪えた溜息混じりにリナは問う。
「ちちち、甘いぜリナ姉ちゃん!!」
やおら少年は右手の人差し指を突っ立て軽く振り子のように振る・・・。
「何が?」
「そっちの連れのぼさ〜〜〜っとしたおかっぱ姉ちゃんの名前を俺はしらねえぞ!!」
アメリアの事に疑いは無い・・・。
しかし・・・。痛いところを的確に突いて来るこのガキ・・・・・。
まあ、悪口言われて気付いていないアメリアもアメリアなのだが・・・。
(あ、気が付いてはいるんだけれどもただ単に『子供に手を上げるのは正義に反する』とか言う訳のわからない理屈と怒りと言う感情ととジレンマに苦しんでるだけか?)
「彼女はアメリア。あたしと一緒にこれからロシアに行くのよ。」
「俺はアレクサンドル。皆はアレックと呼んでいる。俺もロシアのエルザ姉貴のところに逃げるんだ。リナは?」
「アタシもピョートル兄貴のところに身を寄せるつもり。」


リナは下級貴族の娘だった。
勿論贅沢なんて夢のまた夢と言っても過言ではない貧乏暮らし。
しかし。大貴族の贅沢三昧にぶち切れた民衆が蜂起したつい最近。
(まあ・・・。表現滅茶苦単純にしてるけど要は『フランス革命』です。あしからず。)彼女も『貴族』と言う肩書きだけで放蕩三昧をつくした馬鹿貴族ドモと同類と見なされ亡命を余儀なくされたのだった。父と母はアメリカへ。
姉はドイツへ。そしてリナと従妹のアメリアはロシアへ。
まさに「一家離散」である。
「まあ、ギロチン処刑よりかはマシでしょ?」
ケセラセラ、微笑みすらたたえて姉貴のルナはドイツに旅立って行った・・・。
これから親戚の兄貴分であるピョートルの所に世話になると言う事だ。
リナの他にももう一人、親戚のロシア人の人が同居して居ると言う。
このさい一人養ってるからには二人も三人も同じよ、と義姉エリザベータの誘いでこれからお世話になるという次第である。
で、その亡命途中。
お世辞にも立派とは言えないぼろっちい荷馬車に乗り込む。
そこには既に数十人の貧乏貴族が乗り込んでいた。
「リナさあああんん!!こんなの乗るんですか?お尻、痛くなります!!」
泣きそうな声でアメリア。
彼女とて姉や父親と引き離されているのだ。不安なのはわかるが一々泣き喚かれちゃこっちの身が持たない・・・。
「しょうがないでしょ!!アメリア。下級貴族にお金は無いのよ?高級な馬車に乗れるわけ無いでしょう?」
「ソレはまあそ〜〜ですけど・・・。せめて辻馬車のチャーター、くらい・・・。」
「亡命者に親切にしてくれる運送会社なんてありません!!」
えええええええええいいい!!!!
惨めったらしい目をするでない!!
ギロチンよりかはマシでしょ!!ギロチンよりか!!
「びえーびえー言ってると!!革命委員会に突き出すわよ!!」
「わかりました(しくしくしくしくしくしく)。」
とは言ったものの・・・。
「バカヤロー!!ふざけんじゃね〜〜ゾ!!」
「降りて来い!!ぶっ殺してやる!!」
「貴族は皆縛り首だ!!」
逆ギレしてる民衆の罵声がド喧しい・・・・・。
石が飛んでくる。
マトモに頭にぶつかる・・・。
荷馬車だから硝子が割れる心配こそ無いもののマトモに投げ付けられる物が当たるとかなり痛い・・・・。
いつもなら「あんたらああああああああああああああああ!!このアタシに逆らうなんて良い度胸してるわネエ!!」
と根拠も無く威張った台詞で怒鳴りつけてジンの瓶でも投げ付けてやる所だが・・・・・。
そ〜〜もいかない。
何でかって?
目の前に転がってる瓶はジンじゃなくってウォッカだからって事はまあさておき。
(だって、瓶って事は変わり無いしね・・・・。)
そんな事をしたら隣で疲れ切って眠っている一人の少年を起こすことになりかねない。
年の頃なら7〜8才。
長髪にしたブロンド(というよりもプラチナ・ブロンドに近いか?)の可愛らしい子。
容姿からして到底「下級貴族」とは思えないのだがあまりにも質素な服装がその素性を物語っていた。
しかし。彼の気品は決して損なわれていない。不思議な子・・・。
ともあれ・・・・。こんな子供にお世辞にも上品とは言えないこの光景を見せるような真似はしたくない。
しかし・・・。あともう数センチ近くにあのウォッカの瓶があったらカンペキ投げてる・・。リナは自分との戦いに苦しんだ・・・・。
が、その矢先である・・・。
逆ギレ民衆の一人が投げた石がリナの右の頬に直撃した。
「痛い!!」
思わず声を上げる・・・・・・。
やおら少年はパッチリと目を覚ます。
一点の曇りの無い青い目が声を上げた人物、リナを直視する。
と・・・。思ったが早いか少年はウォッカの瓶を取り上げ・・・・・・・・。

それが。リナとアレックことアレクサンドルとの邂逅だった。


帝政ロシアの首都サンプトペテルブルク。(旧レニングラード)。
「ガウリイ、お前何やってるんだ?」
馬鹿寒い白夜も近いその日の晩・・・といってもまだ空は明るい。
ゼルガディスは責める様に言う。
「風邪でもひういたら如何する?」
「う〜〜〜ん・・・・。そ〜〜したらエルザ姉貴とピョートル義兄貴に迷惑かけちまうなあ・・・・。」
この男・・・。とてつもなく扱いにくい・・・・。
「とにかく、帰るぞ。」
「ああ。帰るか。何か面白い事ね〜〜かな?」
「面白い事がそうそう転がってるようじゃ世の中苦労はせん。」
ガウリイは親類のエルザ、その夫ピョートルの家に下宿する下級役人だった。
だがしかし、剣の才能を認められモスクワに行き連隊の上等兵にならないかと言う話が最近になって舞い込んで来ている。
なのだが・・・。当の本人はこの有様。
親友のこの状態に呆れてモノが言えないゼルガディスだった。
「そう言えば・・・。フランスからの亡命者がお前の下宿に来るんだって?」
ゼルが思い出したように言う。
「ああ。三人も。一人はエルザ姉貴の弟で姉貴同様俺の従兄弟だ。後の二人はピョートル義兄貴の親類と言う事以外何も知らない。」
エルザの弟、と言う言葉にゼルが反応する。
「あの噂に名高いペテン師か・・・?」
苦笑交じりに聞く。
「ああ。俺はクリスタルとベルベットで出来たバックルを巻き上げられた。最も激怒したエルザ姉貴が取り返してくれたから良かったようなものの・・・。」
やはり苦笑混じりにガウリイ。
最もこの男・・・。ペテンや詐欺師には格好のターゲットとなってもおかしくない性格をしていたりもするのだが・・・。それを差し引いてもである・・・。
一体全体どんなガキやら。
結構面白い事はそこらにスッ転がっているのかもしれない。
そう思いゼルは密かにそれを心待ちした。



「ペテルブルクまで面白い連れが出来たわね。」
危険なフランスを抜けて安全なドイツのルクサンブルクを少し過ぎた辺り。
今頃ルナ姉ちゃんもブランデンブルク(ドイツの首都)に入ったのではないかと思いつつリナは隣を見やる。
もう大丈夫とみとってマトモな辻馬車をチャーターした今、安心しきったのだろうか、同じ長椅子の隣の位置に陣取って気持ちよさそうに眠っているアレック。
「厄介な連れ、の間違いじゃありませんか?」
不満げにアメリア。
「じゃあ何、アメリア!!アンタはこんな小さい子を見捨てて行けって言うの?あんたの言う『正義』って所詮はそんなモンなんだあ。ふ〜〜〜ん。あんたの気持ちはよっく分かったわ。」
「リナさああああああああんんんんんん!!ペテルブルクの気候よりも冷たい事言わないで下さい!!第一に!!ここに来るまでその子、何回『かっぱらい』行為をしたと思ってるんです!!」
「5回よ。それが?」
「じゃあ、続けて聞きます。その子、ココに着くまで何回『スリ』行為をしたと思ってるんです!!」
「三回よ。」
「じゃあ最後に!!その子ココに着くまで何回『置き引き』行為をしたと思ってるんです!!」
「一回よ。」
「リナさん!!平然とした顔で回数なんか暢気に言ってないで下さい!!」
「聞いてきたのはアンタよ?」
「良いですか、リナさん!!コレはれっきとした『悪事』ですよ!!幾ら幼子のした事とはいえ・・・。許して良いいと思ってるんですか!!!!!」
一気にまくし立てるアメリア。
が、当のリナは慌てず騒がず焦らずに・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「良いの。この子のターゲットにしてる奴ってみんな『悪人』だもん。悪人に人権なんて無いんだし、何しようと構った事じゃないわ。実際に何所からも苦情来てないじゃない。」
「それはまあ・・・・・。そうですけど・・・・・。」
流石のアメリアの言葉に窮す有様だった・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
頑張れアメリア・・・。ペテルブルクまでの道のりは・・・・・まだまだ遠い・・。



「アレキサンドル君、ご両親は?」
ポーランドのグダニスクに差し掛かったあたりでアメリアが聞く。
最近ではちっとはアレキサンドルことアレックの個性(?)に慣れてきた様子だがまだまだ彼女は彼のやらかす悪戯(と、言うよりももはや悪事)になれてはいない。
最も「そんな物に慣れたら人生それこそお終いです!!」がアメリアの持論なのだが。
ともあれアメリアが自分から進んでアレックと口をきくことはこれが初めてである。
「俺を置いて勝手にてめえらだけでコルシカ島に亡命しやがった。朝起きたら家には誰も居ない。俺の逃亡用の旅費とパン、安物の衣料品だけを残してあいつ等トンズラこきやがったんだ。」
見捨てられた悔しさか。はたまた元々両親とは不仲だったのか。
何時になく投げやりな口調で憎らしげに言うアレック。
「そっか。悪い事聞いちゃったかな・・・?」
反省したようにアメリア。
「御免ねアレック。」
リナも謝る。
「な〜〜に!!気にすんな!!このアレキサンドル・ナポーレオ・ボナパルトの辞書に『不可能』の文字は無いんだぜ!!て、親戚のナポレオンって兄ちゃんの受け売りだけど。いつか兄ちゃんの一番の家来にしてもらうんだ!!立派な軍人になる!!」
なるほど。
ならばこの少年にとってはこの『亡命』の旅がどんなに屈辱的な事かは容易に想像がつく。
ましてや「アレクサンドル」とは、かのアレクサンダー大王のフランス語読みの名前である。
「じゃあ、アレック。『アレクサンダーの結び目』って知ってる?」
リナがアレックに話しかける。
小さい時近くの軍事マニアの少年からイヤってほど聞かされた話だったりするのだが。
「・・・・?」
沈黙するアメリアとアレック。
二人を尻目にリナは近くにあった縄で到底解く事が不可能なくらいきつめなこぶ結びで自分の左手首を縛る。
「コレを解いてみて、アレック。」
言ってリナは雁字搦めに縛られた自分の左手を彼の前に差し出す。
アレックがいくら頑張ってもきつく縛られたこぶ結びは解けるはずが無い。
「いい、こうするの。」
やおら護身用にいつも持ち歩いている懐剣を取り出し、こぶ結びをたち切るリナ。
呆然とするアメリア。感心したように目を輝かせるアレック。
「忘れるんじゃないわよ?」
言ってリナは微笑んだ。


「ガウリイ、今日は早く帰れよ。」
ゼルが責める様に言う。
「ああ。分かってる。でも当分の間白夜が近いし明るいだろ?もう少し散歩して行く。」
仕事もそこそこにいつもコレである。
全く・・・。何を考えているのやら・・・・・・・・・。
待っていても来るものと言ったらフランスからの親戚に当たる亡命者ご一行くらいである。
なのにこの男ときたら何時も何時もまるで何かを待っているように・・・・・・・。
「今日のペテルブルクは冷えるぞ。」
「分かってる。明日は雪かもな。」
夢想家ぶりもここまでくると手が付けられない。
去って行く金髪の後姿を眺めつつゼルはほとほと困り果てた思いを抱いた。
「モスクワに行く件についてもまるっきり先延ばしだ。このままココでうだつの上がらない下士官をしてるような男じゃないと言うのに。」
長年の付き合いとは言え、ガウリイほど分からない者はゼルには無かった。


「リナさん。早く行きましょう。ペテルブルクって滅茶苦茶寒いです!!」
「そ〜〜だよ!!偶然とは言えリナ達も今日から俺と同じ家で世話になるんだろ?」
エルザことエリザベータはアレックの姉だしその夫のピョートルはリナとアメリアの親戚にあたる。
そんなこんなで結局はアレックの離れられない定めのリナとアメリアだった。
そして。
暫くの旅路を経て今日やっとの思いでロシアの帝都、サンプトペテルブルクに着いたのだった。
「北のヴェネティア」とよばれるこの都は豊富な水源の大河を水路として発展した美しい都だった。」
だが、もともとの位置が位置である。
寒くて寒くてしかたない。
普段は一番寒いのを嫌がるリナが珍しく恍惚として佇んで居る。
「アメリア、今何時?」
「もう九時過ぎです!!」
「・・・・・。スゴイ・・・。だとしたら・・・・・これって噂に聞く『白夜』?でも・・・。西のそらが微かに菫色とインディゴ、それに見逃しそうなほど薄い赤に染まってる。まだ白夜じゃないのね。」
雪のように真っ白なただ明るいだけの空。
それはあからさまに昼とは違った輝き。
「リナさあああんんんん!!」
「先行ってて。アタシちゃんとお家の場所知ってるし・・。もうすこし散歩してるわ。」
言ってリナは白夜に程近い町並みの中に消えて行く。
「大丈夫だよ。最近のペテルブルクは犯罪が少ないってエルザ姉ちゃん言ってたし。それに明るいだろ?」
心配顔のアメリアを諭すようにアレックは言った。



雲が黄色い?
そんなはずは無いか。
ただ単に微かな暗がり、と呼ぶのも可哀想なほどの淡いインディゴ・ブルーのソ空の一部分にようやく輝きを許された月を隠した雲が便乗して光っているだけ。
それ以外のそれは白い・・・・・。
冷たい空気を吸いこむ。息を吐き出せばかなり白い。
やっぱり帰って早々にペチカにあたった方が正解かな・・・?
そんな考えが頭をよぎる。
さっと向きを変えて方向転換。
歩く・・・・・・・・。
さらにスピードをアップして歩く・・・・。
でも。予想してたと通りやっぱり誰かが着いてくる。
こっそり振り向けば見知らぬ(当然か。ここにはエルザとピョートル以外に知ったロシア人はいないし・・・)とにかく男が着いて来る。
身なりはとことんブルジョワジー風。
鬱陶しそうな顔の千鳥足の中年親父。
冗談じゃない。亡命国に着いたそうそう酔っ払いに絡まれてたまるかっての!!
更にスピードを上げて懐に有る懐剣に手を伸ばす。
が、その時だった。
「何をしてるんだ!!貴様は!!」
唐突にわき道から現れた何者かが酔っ払いの千鳥足親父を怒鳴りっつけた。
慌てて退散して行く様子が後を振り向かなくてもよくわかる。
「大丈夫か?」
リナは初めて振り向いた。
「どうも有り難う。おかげで助かったわ。」
懐剣を片手にそんな事を言っても全然説得力が無いことは百も承知である。
助けて(?)くれたのは金髪、碧眼、長身ときた一人の男。
服装からして下級貴族の役人だろう。
そんな事をしているよりも軍人にでもなったほうがよっぽどもよさそうな風貌。
「こんな所で何してたんだ?」
怒った風でもなく聞いてくる。なんかアレックに心なしか似ているような印象。
「アタシはリナ。散歩してたらあのヘンな奴に追っかけられたのよ。貴方は?」
「俺はガウリイ。同様に散歩してたんだ。」
「やっぱり・・・。この景色に見とれて?」
何となくリナが聞く。
が、ガウリイは暫く考えて・・・・。
可笑しくてたまらないと言った様子で笑い出す。
「何が可笑しいの!!」
ムッとしてリナが一寸ばかし怒鳴る。
「いいや・・。悪い!!分からないのか?」
悪戯っぽくガウリイ。
「分かるわけ無い!!だって貴方とは面識無いのよ!!?」
「そうか?俺はずっとリナを待ってたのかもしれないのに・・・。また、会えるか?」
「一つ約束守ってくれれば。」
「何を?どんな?」
聞いてくるガウリイにリナは意地の悪い笑みを浮かべる。
「アタシに恋しない、って事。あくまで親友ってことね。」
「そいつはキツイなあ・・・・・。」
かくして・・・。二人は・・・。


「同じ家にお世話になっていたとはね。会う約束なんてあったもんじゃあ、ないわ。」
廊下でリナがブツクサと一人事のように言う。
「じゃあ、またあの場所で会ってくれるか?」
ガウリイ。
「・・・・。さっきの約束、守ってくれたらね。」
相変わらず手厳しい答えのリナだった。



「アレック!!まあたお前は!!」
エルザの怒り心頭の声が居間に響く・・・。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!姉ちゃん!!許してええええ!!」
アレックの恐怖に満ちた声が聞こえる。
「リナさんとルナさん・・・。思い出しますね・・・。」
「おねがい、アメリア・・・。姉ちゃんの事を口に出さないで・・・。」
遠い目をしてリナが呟く。
「ピョートル!!ナンとかしなさいよ。」
親戚の兄ちゃんの方を向き直りリナが言う。
「ナンとかなるものならもうとっくになんとかしてるぞ!!リナ!!」
その顔のはかなりの数のアザがあった・・・。
誰にやられたものかは大方の予想がつくが・・・・。
「まああたいたずらして!!この子は!!」
「だから許しってて言ってるだろ、姉ちゃん!!」
「煩い!!アタシはネエ、アンタみたいな馬鹿な弟じゃなくって可愛い妹が欲しかったのよ!!」
とうとつに優しい視線をリナとアメリアに向けるエルザ。
しかし・・・。その手は布団叩きを使用しつつアレックの尻を打ちつづけている。
「ね、リナちゃん、アメリアちゃん。女は女同士仲良くしましょ。ほら、ガウリイ、うちの宿六の相手でもしてて!!」
困り果てたようにピョートルの隣に行くガウリイ。
「アレはアレでエルザもアレックも楽しんでるんだ。放っといてやれ。」
滅茶苦茶情けない姿のピョートルだが言ってる事は確かに正論である。
まあ、アレックにしてみればエルザの「楽しみ」に一生仕切られる確立大なのだが・・。「ふ〜〜〜。ヒドイ目のあった。」
尻をさすりながらアレックが呟く。
「あのさあ・・・。アレック・・・。一つ聞きたいんだけど・・・。」
リナが遠慮がちに言う。
「何、リナ。」
「何でガウリイの部屋に夜食持ってくだけなのに殺戮の道具が要るの?」
リナにトレイを持たせ、自らはモーニング・スターを持っているアレック・・。
「いつ姉ちゃんの攻撃に出くわしてもいい様に!!」
つくづく・・・。殺伐とした姉弟である・・・・・・。
「大丈夫、今度お姉さんにやり過ぎないようにいっといてあげる。」
「ホント、リナ!!じゃあ今から良い事特別に教えてやるよ!俺の特技なんだ!!今すぐ!!」
かくして・・・。その事が後のリナにとってどれほど役に立つかなどということは誰が予想しえたであろうか・・・・・。




「モスクワには行きたくない、と?」
ガウリイの明確な意思をゼルはエルザの口からとはいえ初めて聞いたゼル。
「何でまた・・・?」
「分からないの?まったく。これだから鈍い男はイヤなのよ。」
言ってアレックにお仕置きをすべく凄まじい勢いで駆け出すエルザ。
「エルザさんも大変なんです。ガウリイさんは今お仕事がたまってお部屋に軟禁状態なんですけれどもね、そのスキをついてアレクサンドル君がど〜〜もリナさんを引っ張って賭博所にいっちゃったらしいんですよ。」
つい最近知り合った友人、アメリアがゼルに言う。
「リナにアレックか・・・。」
正直言い、どちらも苦手なタイプである・・・・。
以前にガウリイのバックルをいかさま博打で巻き上げたのは言わずと知れたあの糞ガキである。
またペテンを働きに賭博所なんぞへいそいそと出かけたのだろう・・・。
「しかし・・・。何でまたガウリイは急にモスクワ行きを断念したんだ?」
「分からないんですか?ガウリイさんはあ、リナさんに惚れちゃったんですよ!!」
面白そうにアメリア。
たしかにそれは個人の自由だが・・・。
何故か「あのガウリイが!!」と言った考えの方が先に出ておかしくてたまらない。
これでちっとは奴も変わるだろう・・・・。


「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!姉ちゃん、許してエええええ!!」
アレックの懇願。
「お黙り!!愚弟!!リナちゃんは許すけど貴様は許さん!!」
言って竹箒をぶんぶんと振りまわすエルザ。
「いたいけな弟を虐待するのおおおおおおお!!!???」
「『いたいけな』弟が賭博なんぞをしでかすのをだまってみてられますかああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
エルザの投げたスリッパがアレックの顔面に直撃した・・・・。
「まあ、イカサマ博打なんて悪行をしでかすんですし・・・。コレくらい当然の報いですね・・・。」
いって今度は鋭い目線でリナを睨みつけるアメリア。
「あ・・・アタシは見てただけよ!!実際には博打なんてうってないわ!!」
大慌てで言うリナ。
「でも、実際にそんな所に出入りしたのは事実だ。リナ、お前も罰せられるべきじゃないのか?」
こ・・・この馬鹿ピョートル・・・!!
余計な事を!!
「じゃあ、こうしよう。明日の朝から晩飯の時間までリナが悪行をやらかさないように・・・。スカートの裾をピンでガウリイ君のケープに止めてしまおう。幸いなことにガウリイ君は仕事で部屋から一歩も出ないしな。」
げげげげげげげげげっげげげげげげげえっげげげげげえげげげげげげえげげえ!!
何をほざくかピョートル!!
「明らかにガウリイさんの応援してますね・・・。これは・・・。」
小声でアメリア。
「まあ、良いわ。リナちゃんの身が安全なように罰としてアレックを寒い廊下で監視させとくわ!!良いわねえええええええ!!アレックウウウウウウウウウウ!!」
有無を言わせないエルザの脅迫めいた目線と口調にコクコクと頷くアレック・・。


「ねえ・・・。ガウリイ・・・。」
ペチカの傍に並べられた二つの椅子。
一つは机のすぐ傍にありもう一つはまどの隣にある。
「なんだ、リナ。ずるして逃げようったて駄目だゾ。」
仕事をしながら声だけかけてくれればまだいいもののいちいちこちらを振り向いて意地の悪い笑いを浮かべた顔でそんな事言わないでもらいたい。
とは言うものの・・・。
退屈でむずむずする・・・・。
仕方が無いので其処らへんにある紙を拾って勝手に読む。
ふ〜〜〜〜ん・・・・・・・・・・。
「ガウリイ、モスクワに行っちゃうの?来るのは何時でも良いって書いてある。」
勝手に手紙を読んだ事を悪いとも思わずリナはガウリイに言う。
「馬鹿。お前サンみたいな悪戯娘残して行ける訳無いだろ?」
「親友、としてね。」
「・・・・。こいつは相変わらず手厳しいな。」
「まあね。」
暫しの沈黙。
しかしガウリイは仕事をサボってこちらを見ている。
どうも間が持たない・・・・・・。


【続く】

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1098氷雪の白夜2LINA 1/14-22:59
記事番号1097へのコメント

「アンタ、何やってるのよ?」
馬鹿寒い廊下でブブブといびきをかいて寝てるアレックを蹴っ飛ばすリナ。
どうもこう言う奴を見かけると無性に蹴っ飛ばしたくなってよろしくない。
だからと言って社会的弱者の浮浪者を苛めるなどと言う腐ったことをするようなリナではないのだが。
「あ・・・・。だって〜〜。エルザ姉貴に見張ってろって言われたんだけども・・・。リナとガウリイは恋人だろ?覗き見立ち聞きなんて悪いこと出来るかよ。」
眠ったそうに目をこするアレックにリナは呆れ果てた目線を送り、溜息混じりに言う。
「馬鹿なこと言ってるんじゃないの。あくまでアタシとガウリイは親友よ。其処のところ忘れないよ〜〜に。」
言って階段を降りていくリナ。
ここにアメリアが居たらばリナの何とも言えない複雑な表情に気付いただろうが鈍感なアレックがそれに気がつくはずは無い。
キョトンとしているアレックにガウリイは肩を竦めて軽く溜息をついてみせる。
どっからど〜〜みたって恋人なのに・・・。
アレックは世の不条理を噛み締めつつ立ち上がった。



「ねえ、ゼロス良いわネエええええええ?」
何時もは結い上げた金色の長い髪を無造作に下ろし、黒いが豪華なパーティードレスを着たエルザがゼロスを脅迫するような口調で命令する。
その片手にはじたばたと暴れるアレックが抱きかかえられもう片方の手には何故か雪かき用のシャベルが握られている・・・・・。
「今からアタシはパーティーに行かなきゃいけないの。そ・れ・でえええ!!その間コイツが悪戯し無いように見張っててほしいのよおおおおおおおおおおお!!」
有無を言わせぬ雰囲気・・・・。
「難しい事言わないで下さいよおお!!」
懇願するようにゼロス。
アレックの悪ガキぶりは言わずと知れている・・・・・。
「まあ、ゼロスちゃん。上司の命令に逆らうつもり?」(ナンの上司だ・・?)
口調こそ優しげだが目は笑っていない・・・・・。
「は、はいはい!!わかりましたああああああ、エ、エル・・・・・・・(ザ)様!!」分かれば宜しい!!と言わんばかりにアレックを置いて去って行くエル(ザ)だった・・。


朝から静かなのはエルザとアレックが居ないからだけでは無い事は百も承知だった。
リナが何所かに行ってしまっているからである事をガウリイは充分理解していた。
「はあああああ。今日はアレクサンドル君の断末魔のような泣き叫びを聞かなくって済むんですね!!」
アメリアが嬉しそうに言う。
「リナは?」
的外れな質問をしている事は承知の上でアメリアにガウリイは聞く。
「散歩に行きましたよ。アレクサンドル君が居なくてつまらないんじゃないんですか?あの二人、性格似てますし、それに何より『姉に虐待(?)されている』と言う素性が驚くほど一致してますしね。」
仕事も一段落している所だし・・・。いっそ探しに行ってみるか・・・・。
そう思ってガウリイは外に出ることにした。


「ああ、ゼル!!」
「ナンだ。ガウリイか。」
偶然会ったゼルにガウリイは声をかける。
「リナを知らないか?」
「さっき郵便局の辺りで見かけたが・・・。あっちの方に向かって行ったぞ。」
家とは逆方向をゼルは指差す。
「有難う、ゼル。」
言ってガウリイは駆け出す。
リナと初めて会った場所に違いない。

まだまだ白夜は遠い。
午後の九時半を過ぎたと言うのにまだ空は明るい。
それでも西の方は薄闇前の微かな黄金色に空が輝いている。
その光が橋の銀色の手すりに反射する。
何時もは無機質な鉄が光を放つ。
そんな時でなかったら「危ない」と言って手すりに腰掛けているリナを無理やりにでも歩道に引き摺り下ろしただろう。
しかし・・・。
夕方になりつつあり、何時になく風が涼しいいまのペテルブルク・・・・。
静かな川。ようやく沈みかけた日の夕映えに山の端が照って映える。
リナはまるで巌の上に座っているようだった。
珍しく宝石で出来た髪飾りをし、夕日で金色に染まった髪を金の櫛を使って梳いている。
まるで古い世の物語のような光景。
やはり無意識的にであろうが歌を歌っている。
とても強い力をもつ歌。聞かないではいられない・・・・・。
それに呼応するかのように何かの葉で造ったであろう玩具の船が皮の漣に沈む。
北欧神話の『ローレライ』よろしくな姿・・・・。
「リナ・・・。」
「・・・・・。ガウリイ・・・・。」
振り向くリナの言葉がこれ以上紡げなくなるガウリイ。
「あ・・・。その・・・。危ないぞ・・。手すりの上なんかに座っちゃ駄目だろ。落っこちたらどうする?」
言われた通りにリナは手すりの上から歩道に降りる。
たちまち何時ものリナに戻る。
安心したような後悔したような気持ちにガウリイはなる。
「朝からこんな時間まで居なくなって・・・。どうしたんだ?」
無難な話題から入るガウリイ。
「手紙、来てないかなって思って・・・。」
困ったようにリナが言う。
「手紙って・・・。家族からか?」
沈黙。リナは珍しく何も答えない。
「ガウリイ・・・。アタシ達親友よね・・・・。」
唐突の言葉。
困惑するが頷くガウリイ。
しかし、その直視にリナは耐えられない。
青い両目に仄々と見詰められれば心そぞろになる・・・・。
夢を見ているような・・・・・。
青い両目がリナのまなかいに漂う・・・・・。
心に波打ちそうな濃青の海のような。
「リナどうした・・・・?」
「モスクワには行かないよね・・・・?」
今更の事ながら・・・。
「当然だろ。リナを置いて行けるか!!」
「親友としてでも!!?」
彼を直視したリナの視線・・・。だが、それも一瞬の事。
やがてその視線は不安定に揺れ出す。
だが、先ほどのリナの一言が痛いガウリイは何も言う事ができない。
返答できるはずが無かった。やはり自分に嘘はつきたくない。
だがやがてリナは囁くように語り始める。
「夢を見たのよ・・・・・。」
またもや辺りを支配する暫しの沈黙。
「夜の夢に・・・。あの人からの手紙を貰った自分の姿をうつしたわ。祝賀の宴に行くみたいな・・・・白いヴェネティア・レースの正装ドレス・・・。絹のヴェール・・・。袖にカフス・・・。両手にカサブランカのブーケを持って・・。アタシの前には軍服を着たガウリイ、貴方が居て・・・・・・。貴方は言ったわ。『お前が花嫁なのか?ならば、俺はさよならだ。芽出度い祝詞を贈るよ』って言ってモスクワにいってしまったわ。」
「・・・・・・・・。」
一体リナは何を怖がっているんだろう・・・。
「貴方は醒めてもアタシを欺く、何てことしないわよねえ!!?自分でもワガママな事を言ってるって分かってはいるの。でもね、ガウリイ。そうじゃない事、本当の自分の気持ちが分からないの!!ねえ、それだけでも理解して!!」
「帰ろう。リナ。」
そうとしか言う事が出来ない。
『どこからどうみてもリナとガウリイは恋人同士なのに』
アレックの言葉がガウリイの脳裏に蘇る。
もし、もしもその言葉を真に受けて良いとしたら?
『アタシに恋をしないで』と言ったリナの一言には深い意味があるに違いない。
彼女なりの決意か。あるいは彼女一人の力ではどうにもならない事情か。
何はともあれこの注文は到底無理な相談なのだが。
信じてもらえないだろうということもあるが・・・・・・・。
死んでも言えるか。
嘗て見た、荒い恋の炎の夢。
それがリナの姿だったなどとは。
しかし。彼はそうは思いはしても気付かなかった。
彼の与える『優しさ』がリナをますます困惑させていくことを・・・。


「リナさんの過去ですか?」
聞いてはいけないと分かってはいるものの。
ガウリイはついついアメリアに尋ねる決意をする。
「誰がどう見たってリナさんとガウリイさんは恋人同士ですよ。」
アレックと同じ事を言うアメリア。
しかし。
その言い方は質問の本腰を折って話をはぐらかそうという魂胆が見え見えだった。
「断固とリナはそれを否定している。何でなんだ?」
極めて自然に言い切るようにするガウリイ。
「リナさんは・・・・。」
一瞬言いよどむアメリア。
だがガウリイの執拗なまでのがんとした態度に意を決したように口を開く。
「戦争に軍人として狩りだされて・・・・。以来行方不明になった恋人が居るん・・・いいえ。正確に言えば居たんです・・・・・。勿論、生死は不明。しかもこの前の革命でフランスにリナさんが居ない今・・・・・・。」
流石にここまでしか言えないアメリア。
これで分かった。
『親友』でしかない自分を何故リナが必死になってモスクワには行かないで、といったのか・・・・。
彼女はガウリイに軍人にはなって欲しくなかったのだ。
軍人の恋人を失った挙句に『親友』を軍人として失いたくない。
ただそれだけの事なのだ。
「リナは・・・?」
今日は未だ一度も会ってはいない。
「昨日一日中寒い中歩き回ったせいでしょうね・・・・。微熱があるって言ってまだ寝てます。」
紅茶をかき混ぜつつこれ以上リナの過去をガウリイが詮索しない事をホッとするアメリア。
「そうか・・・。」
言ってガウリイは廊下に向かって歩き出す。
ドアを開けた瞬間、アレックに遭遇する。
「痛てえなあ!!」
ぶつかって来たガウリイにアレックは抗議の声を上げる。
「悪い、アレック。リナの所に急ぎの用事だったんだ。」
ガウリイ。
「あ、丁度良かった。この手紙リナに渡しといてくれないか?俺、急用あって。」
手紙をガウリイに渡しつつアレック。
「まあたイカサマ博打打ちに行くのか?」
あきれたようにガウリイ。
「まあ〜〜な。エルザ姉ちゃんにはナイショだぜ?なにしろ今日はロシアン・ルーレットのイカサマを働く予定なんだ。」
意気揚揚と駆け出すアレックの背中をほとほと呆れ果てた思いでガウリイは見詰めた。
一体誰がこんなチビにペテンやイカサマを教え込んだんだろう。
そのくせ将来は軍人になりたいときている。
最もリナに止められるだろうが・・・・・。
ガウリイは皮肉げにそう思った。
ふとアレックから渡された封書に目をやる。
フランスから。
差し出し人名『アイザック=ハインライン』。
軍隊の紋章の入った封筒と軍人風の花押。
恐らくはリナの恋人・・・・・・・。



朝目覚めた時、自分に問う・・・。
「あの人は今日来るかな。」と。
夕方になってアタシは気落ちして嘆くの・・?
いいえ、嘆いているの?
「あの人は今日も来なかった。」って。
憂いのタメに夜半も眠れないで・・・・・・?
そもそも何の「憂い」かすら分からないのに。
真昼もなかば夢見心地にあてもなくさまよう。
「分からない。自分自身の事なのに。」
リナはただただ考えるだけ。
心の奥底で待ち望んでるのかどうかすら分からないアイザック。
彼が戦争に出兵すると言ってもちっとも哀しくなかった。
「行かないで」なんて女々しい事言った覚えすらない。
むしろ「お土産よろしくね。」ぐらいの強かな気持ちだったと思う。
でも。
あの夢のせいだろうか・・・・・・・・・。
戦争に行くわけでもない。
たかだか「軍人になる」いや、むしろ「出世する」と言う栄光にあるガウリイにリナは「行かないで」などと半ば泣き言と言っても良い事を言ってしまった。
勿論。それはアイザックを戦争で失ったかもしれないという思いから出たもので無いことは確かだ。
それだけは確実に言い切れる。
「アイザックが来ないからアタシの憂いが消えないのか。それともアタシガウリイの事・・・・。」
言いかけてリナは止めた。
「何所からどう見たってリナとガウリイは恋人同士なのに。」
アレックの言葉が脳裏をよぎる。
「何を言ってるのよ。ペテン以外は半人前のお子様が・・・。」
実際にエルザが居なければ何も出来ない癖に。
とはいえ・・・。ハッキリと自分の気持ちが分からない自分も似たような者か。
結局は他人任せなのかもしれない。
でも・・・・。そんなのは絶対にイヤだ・・・・。
ふっと窓の外をリナは見やる。
意を決したように起きあがり近くのイスに腰掛ける。
再度窓の外を見る。一面銀世界の帝都ペテルブルク。
ペチカの火が心地良い。
「・・・・。決めた。アタシらしくいこう!!」
リナがこう言った矢先だった。不意にドアを叩く音。
「はい。」
言ってリナは部屋の扉を開いた。
其処には本当に待ち望んだ人物が立っていた。
「ガウリイ!!」
決意を告げよう。そう思った。本当に。
だが、ガウリイの視線は此方を見てはいない。
ただただ項垂れているだけ。
「ガウリイ?」
今度は疑問詞でその名を呼ぶ。でが、依然彼は反応しない。
「ねえ、ガウリイってば!!聞いてるの!!」
一寸ばかし強い口調で言う。
初めて我に返った様子のガウリイ。
だが、やはりその目はリナを直視してはいない。
「手紙だ。」
何時になく投げやりな口調。
『アイザック=ハインライン』と記されたその封書。
今となっては喜びよりも驚愕の思いでリナは受け取り乱暴に封を切る。
更に言えばその表情は怒りという感情が支配している事にガウリイは気がつくはずも無い。
「今月の二十日・・・。迎えに行く・・・・。」
感情の篭もらない声でその一文を読み上げるリナ。
今月の二十日・・・。明日の事である。更にリナに怒りと言う感情が募る。
何を考えてるの!!この人!!苦しい時には散々アタシの事放っといたくせに・・・。
彼女が次ぎの句を紡ぎにかかるその直前だった。
「良かったな。リナ。見送りは出来ない。俺、明日モスクワに行くよ。お別れだな。」
ガウリイ!?何を言ってるの・・・?
そう言う暇すら与えず去って行くガウリイ。
途方も無い脱力感が体中を駆け抜ける。
言ってないよ・・・・・。まだ何も。アタシの本当に言いたかった事。ほんの数分前に決心した一生モノの決心と選択。
何も言ってないよ・・・。早とちりも良いところじゃないの。ガウリイ・・・。
それ以上何も考える事の出来ない頭。
ただただ感情に任せて諸悪の根源である手紙をズタズタに破る。
哀しいけど、悔しいけど泣けない。
涙が出てこない。
そのせいで尚更哀しくなる。尚更悔しくなる。
「なんで『親友』なんていっちゃたのよ・・?アタシの大馬鹿!!地上最大の馬鹿よ!!何でこんあいい加減でちゃらんぽらんで最低最悪なヤツの事・・・アイザックなんぞの事を待ってたのよ!!アイツがアタシに何をくれたって言うのよ!!?せいぜい『貢いでくれた』程度の安っぽいアクセサリーくらいじゃない!!」
言ってリナは昨日髪につけていた宝石のついた金の髪飾りを燃え盛るペチカの炎の中に投じる。
あっというまに焼け焦げる豪華な髪飾り・・・・。
「こんな物よりも・・。ガウリイぼくれた眼差しの方が一億倍も大切よ・・・。」
無機質な光を放つ冷たい髪飾りについた青い宝石。
赤い炎の中でもはや無意味となった輝きを放つ。
ヘタヘタと座り込むリナ。
が、やがて苦笑しながら開けっぱなしのドアの方を見詰める。
「アレック・・・・。見てたの・・・・?」
アレックは答えない。が心配げに口を開く。
「リナ・・・。泣いてるのか・・・・?」
その一言にリナは初めて自分が泣いていると言う事に気がついた・・・。
「そうかも・・・。心は全然泣いてないんだけど・・・。目のほうは勝手に涙を落したみたい・・・。」
そうとだけ言って作り笑いをする。
廊下に散らばったいまやパズルのピースとかした破られた手紙の破片を丁寧に拾うアレック。
そして、それを全て燃え盛るペチカの炎に投げ捨てる。
「リナ。こんな所にカスから貰った手紙のカスを捨ててるとエルザ姉ちゃんに殺されるぞ?」
「そうね。」
「それに、俺、姉ちゃんにリナの身の安全を守るように言われてるんだ。こんないきなりノコノコ出てきたヘンな奴の所にリナをやっちまったら、それこそ俺の命はないんだぜ?」「・・・・・・・。」
「リナ、そんな奴のところ、行きたくないよな?」
アレックの直視。
「行きたくない・・・・。」
うわ言の様にリナは呟く。
「だったら・・・。行くなよな。」
単純な事だったんだ・・・。こんなに・・・・。
「行かなくて良いのよね。」
「行きたくないんだから行かねえ。それだけさ。」
アレックの答えにリナは不意に大笑いせずには居られなくなる。
「そうよね!!行きたくないんだもん!!とにかくただ単に行かなきゃ良いのよね!!そ〜〜よ!!たったそれだけの事なのに!!アタシらしくするって決めたばっかりだったじゃあ無いの!!ああ、アホ臭い!!有難う、アレック!!明日アイツと蹴りをつけてくるわ!!」
笑いながらリナ。
「蹴りだけじゃなくってビンタもくれてこいよ!!」
アレックらしい言い草だった。



かつてのリナの恋人、アイザックとの待ち合わせ場所はリナが初めてガウリイと出会った場所からほんの五キロくらい離れた場所だった。
「リナ・・・。」
聞き慣れた、否あえて言うならばもう2度と聞きたくなかった声がする。
とても戦場で行方不明になって散々苦しんだと言う様子には見えないアイザック。
彼が意図的に姿をくらました事はもはや疑念の余地が無かった。
彼は『貴族階級』であるリナの恋人である事が発覚し、自分自身もそのためにギロチン処刑にかけられることを恐れ、ある意味リナを見殺しにしたのだ・・・。
新興ブルジョワジー、すなわち早い話の「成金」家系の息子の考えそうな事にリナはマトモに嫌悪感を感じた。
どんなに貧しい一端の下級役人でもガウリイの方がよっぽども素敵じゃないの・・。
こんな簡単な方程式すらわからなかった自分が今更の事ながら憎らしい。
さっさとコンなのを片付けてガウリイを探さねばならない。
最悪、モスクワまで追いかけ行く決心すらついている。
「一緒に来て貰おうか?」
アイザックがリナに歩み寄る。
「イヤだと言ったら?」
側頭部に鉄の冷たい感触がする。
目だけ動かしその物体が何であるのかリナは見届ける。
「どういうつもり?到底モト恋人を迎えに来たって雰囲気じゃあないけれど?」
堂々としたリナに引き換え落ち着き無くアイザック・・・。
「だまれ・・・。お前等亡命貴族を一人革命委員会に突き出せば例えソイツが下級の貴族でもとてつもない賞金が貰えるんだ!!大人しく着いて来い!!」
絶望、というよりも嫌悪感と怒りがリナに湧き上がる。
「ふざけるんじゃないわよ・・・。金のタメに・・・。アタシを売るっていうの!!?」「そ・・・そうだ!!貴族であるお前が拷問にあおうがギロチンにかけられて処刑されようが俺の知った事じゃないんだ!!俺の家のためだ!!」
意志薄弱な口調を丸出しにしながらも精一杯凄むアイザック。
「なるほど・・。馬鹿息子のアンタが貴族よろしく浪費しまっくたせいでお宅の経済、火の車ってわけね。この外道!!」
怒りよりも嘲りの口調を強めてリナ。
「だ・・・黙れ!!」



ガウリイは無意味に木陰をさ迷う。
昨夜の雪が降り積もった道。半分氷と化している・・・。
道連れはただ心の愁いだけ。
寒空に鳥が囀る。歌っているかのように・・・・。
もしこれが歌だとしたら一体誰が教えたのか。
それが、リナのように思えてならない。
気が付けば何時しかリナが黄昏時に歌を歌っていた橋に差し掛かる。
「ガウリイ!!こんな所に居たのかよ!!」
不意にかかる知った声。
「アレック・・・。博打はもうお終いか・・・?」
作り笑いをして語り掛けるガウリイ。
「それどころじゃねえよ!!リナ・・・」
「良いんだ。アイツが幸せなら俺はそれで!!」
リナと言う一言を聞いただけで振り払うようにガウリイは言いアレックに背を向ける。
「達者でな、アレック。もうエルザ姉貴を困らせるんじゃないぞ。」
その背に向かって思いきりアレックは罵倒する。
「馬鹿野郎!!モスクワに行く前に野垂れ死にしちまえ!!リナがアイザックとか言う卑劣な野郎のせいでギロチンに掛かったら俺はお前を一生恨むぞ!!」
「・・・。どう言う事だ・・・・。」
微かにガウリイが震える。
「あらかじめこの事だけは言っとく。リナはアイザックとか言う奴よりもガウリイの方を選んだって事はガキの俺でも良く判ってる・・・。」
「だから・・・。それとこれ、どう言う関係があるんだ!!」
「関係なんて無い。詳しい事はリナから聞いた方がいいよ・・・。それに・・・。ただ俺はリナが罠にはめられたって事、言いたかったんだ。来ないんなら俺だけでリナを助ける。じゃあな。」
駆け出そうとするアレックの肩にガウリイの手が掛かる・・。
「場所は何所だ・・・・。」
「ココから真っ直ぐ行って二つ目の角を左に曲がった所。」
「分かった。アレック。お前はココに居ろ!!」
言ってガウリイは駆け出した。
その後姿を見届けて満足げに微笑むアレック。
「さてと・・・。ペテンで一寸ばっか稼ぐか。」
エルザに晩飯ヌキの刑を食らう事覚悟で歩き出すアレック。
その顔には意味深な微笑すら浮かんでいる。


ガブっとリナはアイザックの腕に噛みつく!!
弾みで落される拳銃。
それを目敏く拾い上げるリナ。
が、力の差も有り十五秒後にはすでにアイザックに取り戻される。
「大人しく来い!!」
腕を捕まれ引き摺られるようになるリナ。
「しつこいわね!!生憎とアタシは人の馬鹿さ加減の尻拭いをする趣味は持ち合わせてはいないのよ!!」
反抗するリナをアイザックが殴りつけようとしたその時だった。
「リナ!!」
今まで一番聞きたかった声・・・・。
「ガウリイ!!」
有りっ丈の声を出してリナは叫ぶ!!
状況を把握したのかガウリイは大急ぎで此方にやって来る。
そして、リナを片腕で抱き、利き腕でアイザックを殴り飛ばす!!
「悪かったな、リナ・・・。」
「アタシこそごめんね・・。こんな馬鹿みたいなのの事考えてて・・・。貴方にあんな・・・。」
「あんな・・・。ナンだ・・・?」
「いいかな。『惨い事』っていっちゃて。なんか。いい気に成ってるようでイヤなんだけれども・・。そう言う言い方。」
「構いやしないさ。事実、かなり惨かった。」
「だから・・・。御免・・・。」
「『親友』を撤回すれば許す。ついでに言えば『約束』も。」
「撤回するも何も・・・。そのつもりでコイツとの蹴りをつけにきたのよ?」
言ってリナは今だうめき、のた打ち回っているアイザックを指差す。
その行動に逆上したのだろう!!
「貴様等!!この場で殺す!!」
アイザックが拳銃を構える。
此方に武器は?無論そんなものある筈が無い!!
「リナ!!こいつは俺がひきつける・・・。お前だけでも逃げろ!!」
「馬鹿言わないで。ガウリイ。やっと会えたのに。そんな事出来るはずは無いし・・・。そんなことする必要も無いわ・・・。」
言ってリナは一人、構えられた銃口に向かって歩き出す。
焦りに引き金に手を掛けるアイザック・・・。
「リナ!!」
いそいでガウリイはその肩を引き寄せる。
が、時既に遅しか・・・・・・・?
構えられる銃、。引かれる引き金・・。
そして銃弾が炸裂・・・・・・。





する筈だった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
『ナ・・・・?』
ガウリイとアイザックが同時に驚愕の声をあげる。
ガウリイはリナの肩に手を掛けたまま・・・。
アイザックは惨めにも引き金に手を掛けたまま・・・。
そして引き続き引き金を引く。
だが、やはり何事も起こりはしない。
アイザックの表情が焦燥に借られている事をよく表す。
が、リナはガウリイの手を引きつつ彼の前ににやけ笑いを浮かべつつやってくる。
そして、空いている方の手をポケットの中に突っ込む・・・。
「お探し物はコレかしら?」
繋いでいたガウリイの片手の上にピストルの銃弾を乗せ、アイザックの目の前に突き付ける。
「き・・・貴様・・・。何時の間に!!」
さらに驚愕するアイザック。
「十秒も有れば出来るロシアン・ルーレットの初歩的なペテン技よ。真坂アレックに教えてもらった事がこんな所で役立つなんて思っても見なかったわ!!弾丸なら全部抜き取らせて貰ったわ!!」
イカサマ博打を誇らしげに語るリナ・・・・。
有る意味で物凄い物がある・・・・。
「うわ・・・うわ・・・うわああああああああ!!!!!!」
訳のわからない叫び声を上げ逃げて行くアイザック。
「二度と来るんじゃないわよ!!この借金破産王!!」
痛い所を忘れずに突いてやるところがミソ。



「リナ・・・。お前イカサマ博打を打ったら罰があること忘れてるだろ・・・?」
ガウリイ。
「あら、この場合でも?」
いけしゃあしゃあとリナ。
「当たり前だ!!」
ふざけて怒るガウリイ。
「どんな罰?スカートをピンで止められるのはもう御免よ!!」
「う〜〜ん。そうだなあ・・・。明日は白夜だし・・。ふらふら外出しないように明日一日俺が監視するぞ!!」
「横暴!!」
「まだまだ序の口!!そのうち一緒にモスクワに連れて行く刑だからな!!覚悟しとけよ!」
「わかった。ま、ギロチンよりかはマシね。」
言ってリナは微笑んだ。
ペテンを使ってガウリイから逃げる事は到底不可能・・・だからである。
「結局、思い通りになったとはいえ・・。アタシらしく行けなかったわね。」
リナは独り言を言う。
「ん。何か言ったか?」
「何でも無い。それじゃ、サッサト帰りましょう。」
「おう!!でもよ、リナ。アレックのペテンは尻鞭で済むが・・。お前の場合は一生監視だからな。覚悟しとけよ。」
「は〜〜い、わかりました。」


二人の姿が白夜ほど近くのペテルブルクの町並みに消えて行った・・・。


【お終い】

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1102Re:氷雪の白夜2ティーゲル 1/15-01:50
記事番号1098へのコメント

どうもティーゲルです。なんか聞いちゃいけないのかもしれませんがエルザとアレ
ックってもしかして・・・・・・L様と部下Sですか?なんかそうとしか思えない
・・・・・・ドイツに行ったルナの逆襲とかあったらすごいかも・・・・・・・
短いですが次を楽しみに・・・・・では。 

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1104おれいですLINA 1/15-20:13
記事番号1102へのコメント


>
>どうもティーゲルです。なんか聞いちゃいけないのかもしれませんがエルザとアレ
>ックってもしかして・・・・・・L様と部下Sですか?なんかそうとしか思えない
>・・・・・・
エルザさんはL様ですよ〜〜♪アレックはただの悪ガキですがピョートル(エルザさんの旦那)は部下Sだったりもします!!
>ドイツに行ったルナの逆襲とかあったらすごいかも・・・・・・・
それこそ革命委員会は潰滅ですね(爆笑)
>短いですが次を楽しみに・・・・・では。 
では。