◆-黄金の心臓を探して:はじめに-キューピー/DIANA(2/3-12:38)No.1197
 ┗黄金の心臓を探して(1)-キューピー/DIANA(2/3-12:40)No.1198
  ┗Re:黄金の心臓を探して(2)-キューピー/DIANA(2/3-12:42)No.1199
   ┗黄金の心臓を探して(3)-キューピー/DIANA(2/3-12:43)No.1200
    ┗黄金の心臓を探して:解説-キューピー/DIANA(2/3-12:44)No.1201
     ┣全部読ませていただきました-むつみ(2/3-18:47)No.1207
     ┃┗感想をありがとうございました-キューピー/DIANA(2/4-01:14)No.1208
     ┗「黄金の心臓を探して」感想ですぅ。-wwr(2/5-14:22)No.1214
      ┗感想をありがとうございました-キューピー/DIANA(2/6-16:37)No.1223


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1197黄金の心臓を探して:はじめにキューピー/DIANA E-mail 2/3-12:38


        『黄金の心臓を探して』はじめに

 このたびは『黄金の心臓を探して』のページを開いてくださってありがとうご
ざいます。物語の前に、いくつかお断りしておきたいことがありますので、しば
しおつきあいください。

 この作品は筆者であるキューピー/DIANAのオリジナル作品ではありませ
ん。くるめさんのコンセプト「父の娘アメリア(F式アメリア)」「レゾがゼル
に魔法をかけた本当の理由」がもとになっています。くるめさんのコンセプトで
はゼルとアメリアのほか、メイン・キャラではリナとガウリイが登場しますが、
ここに掲載する物語ではリナとガウリイに代わってゼロスが登場します。これは
私の都合です。

 タイトルの『黄金の心臓を探して』は、ニール・ヤングの代表曲『孤独の旅路』
の原題"Heart Of Gold"を意識したものです。

 物語は全部で3章に分かれています。ではどうぞお楽しみください。

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1198黄金の心臓を探して(1)キューピー/DIANA E-mail 2/3-12:40
記事番号1197へのコメント

          『黄金の心臓を探して』(魔族編−1)
             原案:くるめ 脚色・文:キューピー/DIANA

 荒涼とした山がようやく緑なす森に連なるところが見えて来た。
 合成獣魔剣士ゼルガディスは、二日ぶりに目にする緑に目を細め、しばし歩み
を止める。彼は今、森を見下ろす岩山の斜面にいた。道らしい道も無く、ただ斜
面の足がかりを伝って前進するのみ。しかし、その行程も後少しで終わる。
 彼は斜面にもたれ、腰のベルトから水を入れた皮袋をはずした。一口水を含む。
その皮袋には、まったく似つかわしくない一つの護符(アミュレット)が付いている。
 しばらく前、海の向こうで異界の魔王との戦いに臨んだ時、一緒にいた、さる
王国の姫君が、彼に与えたものだ。彼女はゼルガディスに、一緒に彼女の居城ま
で来て欲しい、と言ったが、彼はこの土地に戻るとすぐに別れを告げた。
 ゼルガディスには差し迫った目的がある。人間と邪妖精(ブロウ・デーモン)と岩人形
(ロック・ゴーレム)とが合成された合成獣の身体を、元の人間の身体に戻すこと。その
方法を見つけること。
 彼女──アメリア姫──が住まうセイルーン・シティは別名を白魔術都市とい
い、魔道の研究は発達している。だからこそ、彼もまっさきに当たったのだが、
そこに彼の求める技術はなかった。
 見切りをつけた場所に行くよりは、まだ当たっていない場所を探したい。彼は
しきりとセイルーン行きを勧める姫君に、そう言って納得させた。彼女は最後に、
「いつもあなたのことを考えています」と、自分が身につけていた護符を手渡し
た。それを受け取り、こうして持ち続けることぐらいは、彼女への義理として当
然のことだろう。
 透き通った輝きを放つ護符を見つめると、その表面に彼の顔が映っている。青
黒い岩でできた肌。金属の糸となった銀髪。そして普通の人間よりもはるかに大
きく尖った耳。目鼻立ちは秀でて端正だが、日光を反射する硬質の皮膚のかもし
だす違和感が、人を寄せつけない。
 かつて自分に忠誠を誓った部下を失ってから、ゼルガディスは大部分の時間を
孤独で過ごして来た。そんな彼が孤独でなかったのは、アメリア姫とともに、リ
ナ=インバースという女魔道士と、彼女の自称保護者である傭兵ガウリイと一緒
に行動していた時だけだった。
 輝く護符をしばしまぶしそうに眺めていたゼルガディスは、皮袋を腰に戻し、
斜面を慎重な足取りで下り始めた。その時だった。
 ガラガラッ!
 突然、かなり上から岩が落ちて来る。
 とっさによけようとしてバランスを崩し、彼自身が岩とともに斜面を滑り落ち
る。すぐ下に、絶壁の端が迫っている。何とか止まらなければ、何の足がかりも
ない空中に放り出されてしまう。
 短剣を取り出し斜面に突き立てようとしたが、固い岩は剣を無慈悲にはじく。
 視界の端に黒い木の枝のようなものが映り、とっさにそれに手を伸ばす。
 がくんっ!
 すんでのところで突き出ていた棒につかまり、転落を免れてほっと息を吐いた。
「危ないところでしたね」
「えっ!?」
 見上げたゼルガディスは、息を飲んだ。
 見覚えのある顔が空中に浮かんでいる。その人物が両手で支える錫杖に、ゼル
ガディスはつかまってぶら下がっていたのだ。
「……ゼロス?どうしてこんなところに?」
「いやあ、その話は後で。とにかく下りましょうよ」
 ゼロスと呼ばれた男が笑顔を浮かべているのは、再会の喜びではない。彼はい
つもこういう意味のないにこにこ笑顔をしている。
 この笑顔の裏にある正体を、ゼルガディスは知っていた。
 ゼロスは魔族である。しかも、こうしてまるっきり人間のような姿になれる、
ということはかなりの高位の魔族であって、なんらかの命令を帯びて行動してい
るのは間違いない。現に、ゼルガディスがアメリア姫といっしょに、異界の魔王
と戦った時、ゼロスも手を貸したが、それは異界の存在にこの世界を滅ぼされて
は、こちらの世界の魔族にとって立つ瀬がない、という事情があった。
 さきほどゼルガディスを助けたのも、きっと仕事が絡む事情なのだろう。でな
ければけして人助けなどするヤツではない。
「……とりあえず、礼は言っておこう。助けてもらって済まなかったな」
 慇懃無礼に言ったのは、相手の出方を見るため。
「まあ、あなたは飛翔の術も知っていますし、放っておいても大丈夫だろうとは
思ったんですけれど。いくら岩の身体でも、あの高さから落ちたらダメージはあ
るでしょう?」
「さあ?やってみたことがないから、分からないな」
 彼らは今、山すそから森へ繋がる道の脇の岩に腰をおろしていた。
「それよりさっき、”話は後で”と言ったが、お前、俺に何か話でもあるのか?」
「え?いやあ、ゼルガディスさん、お察しのいいことで。こう話がトントン進む
と僕も楽ができます、はっはっは」
「…………」
「実はずっとあなたを探していたんです。いや〜、『白ずくめで顔を隠した怪し
い人』見ませんでした?って聞くだけで分かりますからね、あなたは。それでも
ずいぶんと探し回ったんですよ、まったく。人目を避けていらっしゃるから」
「おひ……どこが話が進んでいるんだ?(--;)」
「これは失礼。今回はゼルガディスさんにお願いしたいことがありまして……」
「断る」
「え?……あの〜? (^^;)」
 にべもなく断られ、ゼロスは絶句する。ゼルガディスはさらに冷たく言い放つ。
「魔族の頼みなんぞきけるか」
「あの〜……せめて内容くらいは聞いてもらえませんか?アメリアさんにも関わ
ることですから」
「アメリア?」
 瞬間的に、その声に動揺がにじむ。ゼロスは右手の人差し指を顔の前に立てて、
さらに声を低くし思わせぶりに相手ににじり寄る。
「ええ。話はセイルーン全体に関わりますが、中でもアメリアさん個人にとって
も非常に重要です。話を聞いた上で、なおあなたが、断る、というなら、無理強
いはしません。でもセイルーンに関する情報は、あなたにも貴重でしょう?」
「貴重かどうか、は、聞いてから決める」
 ゼロスの口元に、それまでの笑みとは違った歪みが生まれる。
「ではお話します。僕は今、以前ヴァルガーブを追っていたように、魔竜王(カオス・
ドラゴン)ガーブの残党を片付けています。もうヴァルガーブのような強い相手は
残っていませんが、逆に状況の変化もわきまえずに以前の計画をそのまま遂行し
よう、と動く連中がいましてね」
「あのカンヅェルやマゼンダの絡んだ、セイルーンのお家騒動の事か?」
 この問いに、ゼロスはただうなずく。
「そういや、カンヅェルたちがセイルーンを乗っ取ろうとしていた背景は魔竜王
が滅んだことでうやむやになっていたが、奴らはセイルーンを乗っ取って何をさ
せようとしていたんだ?」
「戦いですよ」
「戦い?誰と?」
「カタート山脈の北の魔王様と、です」
 ゼロスがさらっと言ってのけた返事に、ゼルガディスは考え込んだ。
 魔竜王ガーヴは、降魔戦争当時、魔王シャブラニグドゥとともに水竜王との戦
いに臨み、倒された。しかもその時、水竜王は魔竜王の魂に呪いをかけ、人間の
中に転生する運命を背負わせ、その結果、魔竜王は魔族本来の望みである滅びを
望まなくなってしまい、生きるために戦っていた。セイルーンの乗っ取りが、そ
の生きるための戦いの計画に組み込まれているのは当然のことだろう。
 北の魔王は身動きができない、と聞く。その状態でガーヴに乗っ取られたセイ
ルーンが、大群を率いてカタート山脈に攻め入り、竜族などと連携して攻勢をか
ければ、あるいは魔王を倒すこともできるかもしれない。現にゼルガディスは、
復活した七分の一の魔王が一人の魔道士によって滅ぼされるのを目撃した。
「なるほど……すると、連中はまたセイルーンの王宮に食い込んでいるのか?」
 ゼロスは首を横に振った。
「いいえ、まだです。あれほどのお家騒動があった以上、王座に野心を抱く人間
がいても、おいそれとは動きにくいようでしてね。そういう動きがなければ、連
中もなかなかつけ込めないでしょう。しかし……」
 再び人差し指を立てるポーズ。
「連中にはあまり時間が残されていません。なにせ、魔竜王と腹心が片付いてし
まっていますからね。動くなら早くしなければならない。だから、かなり乱暴な
ことを考えているようなのです」
「乱暴なこと?」
「ええ……実はここ最近、セイルーンの街中でレッサー・デーモンが発生する事
件が続いていましてね。今やセイルーンは厳戒態勢でパニック寸前なんです」
 ゼルガディスは眉をひそめてゼロスの話に聞き入っている。
「レッサー・デーモンによる被害も少しずつですが発生しています。人々の不安
が募れば、フィリオネル殿下も対策を打ち出さなければならなくなる。
 僕が、悪いのは魔竜王の残党だ、と訴えても、魔竜王が魔族から離反したこと
を知っているのは、ゼルガディスさん、あなたを含めて四、五人しかいません。
たとえ、アメリアさんが僕の言葉を信じたとしても、不安に駆られた一般の人々
が声高に『諸悪の根源は北の魔王だ』と主張したら、統治する立場のフィリオネ
ル殿下は対応に苦慮することでしょう。
 そこでさらに、連中がアメリアさんを襲ったり殺したりしたら……」
「何っ!?」
 ゼロスはいっそうゼルガディスに顔を近づける。
「フィリオネル殿下は、アメリアさんをたいそうかわいがっておられます。最愛
の娘を奪われたりしたら、殿下も魔族討伐の決断を下すでしょう。
 僕としてはそれを食い止めたいのです。しかし、僕にも事情がありまして、一
つ一つ起きている事件に対処するわけにも行きません。できれば、セイルーンの
ことは人間だけで解決してもらいたい。そこであなたにお願いしているのです」
「断る」
「はは……(^^;) ……もし、協力してくださったら、引き換えに異界黙示録(クレア・
バイブル)までご案内して差し上げても……」
「無駄だ。俺はお前とは取引せん」
 ゼロスは笑みを消し、冷たい感情のない瞳でゼルガディスを見つめた。
「……何を考えておいでです?」
「お前には関係ない」
「しかし、アメリアさんやセイルーンのことが、あなたにとって気にならないは
ずはありません。僕には確信があります。それでもなお、断るとは……」
「お前の依頼を断っているだけだ。俺は俺の好きなように行動する」
 きっぱりと言い切るゼルガディスの瞳に見入り、ゼロスはまた笑みを浮かべる。
「……なるほど、そういうことですか……」
 ゼロスは静かに立ち上がる。
「断られてしまった以上、僕はもう退散します。あとはご自由に……あ、そうだ」
 立ち去りかけて、再び引き返し、ちょうど岩から立ち上がったゼルガディスに
並ぶ。いきなり左腕を捕まえて引き寄せると、強引に唇を重ねた。
「な……何をっ!?」
 相手を突き飛ばし、飛び下がったゼルガディスが剣の柄に手をかける。ゼロス
はふわりと宙に浮かび上がった。
「セイルーンに関する情報の提供料と、さっき落ちそうになったのを助けた手間
賃ですよ。あなたのその怒りの感情、美味しく頂戴しました」
「消えろっ!二度とツラを見せるなっ!」
 ゼルガディスの言葉と同時に、ゼロスは空中に溶けるように姿を消した。後に
くすくすという笑いだけを残して……

         * * * * * * * * * *

 セイルーン・シティは、夜の底に、おびえるように横たわっている。
 近頃のデーモン騒ぎで、都市全体の眠りが浅くなり、常にぴりぴりと緊張した
空気が張り詰めている。
 王宮にいるアメリア姫も、なかなか寝付かれなかった。
 ベッドに入って目を閉じていても、眠りは彼女の招きには応じない。何度目か
の寝返りを打った時、誰かが部屋にいる気配を感じた。
 そっとベッドに起き上がり、闇を透かして見る。
 ベランダに通じる扉が開き、カーテンが揺れている。その向こうに人影がいた。
 背筋がぞくりとする。巫女の直感が彼女に警告を告げる。
 ゆっくりとベッドから出ようとした時、カーテンの影から声がかかった。
「アメリア、起きているか?」
「ゼルガディスさん!?」
 彼女は驚いた。なぜ放浪の旅をしているはずのゼルガディスが、セイルーンの
王宮の、アメリア姫の寝室にいるのだろう?
 彼女は『明かり(ライティング)』を唱えて小さな光をカーテンへと飛ばす。
 照らし出されたのは、頭から白いフードを目深にかぶり、全身を白いマントで
覆った懐かしい姿。
 アメリアが自分の姿を見極めた、と確信したのだろう、ゼルガディスがカーテ
ンの影から踏み出して、アメリアのいるベッドに歩み寄る。彼女の枕元で立ち止
まると、顔を覆っていた白い布を下ろした。アメリアはその様子を黙って見上げ
ていた。
「久しぶりだな」
「ゼルガディスさん……」
 アメリアの声にはとがめる響きがある。
「どうしてあなたがこんなところにいるんですか?(きっぱり)」
「え……いや、会いたいと思って……」
「どうして?」
「どうして、って……」
 セイルーンに来い、としつこく誘っていたのはアメリアの方なのに……。ゼル
ガディスは戸惑って絶句する。彼女はさらに追い討ちをかけた。
「ゼルガディスさんは、人間の身体に戻る方法を探していたんでしょう?こんな
ところで油を売っていていいんですか!?そんなことでは見つかるものも見つかり
ませんよ!」
 どてっ。
 説教というよりも叱責に近い言われように、ゼルガディスはベッドの脇の床に
倒れ込む。
「大丈夫ですか?」
「だ……大丈夫ですか、って…アメリアさん!ずいぶん態度が違うじゃないです
かっ!」
「ええええっ?……あなた……誰?」
 突然、ゼルガディスの口調ががらりと変わって、アメリアは危険を感じ、ベッ
ドから飛び出した。
「……うっ……しまった」
 うめいてゼルガディスの姿をした者が、床から立ち上がると。
 そこにもう見なれた白い人影はなく、代わりに黒を基調とした衣をまとった魔
族の神官がいた。
「ゼロス!」
「改めまして、お久しぶりです、アメリアさん」
 アメリアは絶句して、口をぽかんとあけたまま硬直していた。

「……ゼルガディスさんに化けてわたしの寝室に忍び込んだりして……いったい
何をしようとしていたんです!?」
「いや……ちょっとお話できたら、と思っていたんですけれど」
「魔族のあなたが?人間とお話?……うさんくさいですね」
「あれれ?僕は嘘は言いませんよ。そのことはご存知でしょう?」
「でも、あなたの場合、人間と接触するのには、きっと裏があるはずです」
 今、ゼロスとアメリアは寝室の隣の控えの間で、向かい合わせに椅子に腰をお
ろして話している。アメリアはネグリジェの上にガウンを羽織り、腕を胸の前で
組んで相手をにらみつけていた。ゼロスは錫杖を膝の上に置き、両手を添えて、
いつもの無意味な笑顔で応じている。
「裏……というより、窮余の一策のつもりだったんですけれどね。僕はあなたに、
フィリオネル殿下を説得してもらえないかと、お願いしたかったのです」
「わたしに?父さんを説得?説得して何をやらせようと?」
「やっていただくのではなく、思いとどまっていただきたいのですよ。
 北の魔王様への総攻撃を」
 アメリアの表情が厳しくなる。ゼルガディスと違い、感情がよく表に出る彼女
は、負の感情を食らう魔族にとって、見た目にも美味しい料理に当たる。
 ゼロスの瞳に冷たい表情が走るのをアメリアは見とがめたが、それが魔族の食
欲だとはさすがの彼女にも知りようはない。
「……それは、わたしにはできません」
「まあ、聞いてください。最近セイルーンを脅かしているデーモンの大量発生の
件ですが、あれは北の魔王様から離反した魔竜王ガーブの残党の仕業なんです。
 カンヅェルたちが、フィリオネル殿下の弟さんの家族を巻き込んで王位乗っ取
りを図ったのは、セイルーンの王を操って北の魔王様に攻撃を加えるのが本当の
計画でした。連中は失敗し、魔竜王も滅びましたが、残党の中には、トップダウ
ンで示された作戦を忠実に実行しようとするものもいましてね。
 いまさら王位乗っ取りなどという悠長なことをしている余裕はない。ですから、
魔族の脅威でセイルーンを心理的に追い込み、反撃のほこ先を北の魔王様に向け
る。これが連中の意図なのです。あなたがたは、魔族と対抗するつもりでいなが
ら、ガーブの残党に踊らされることになる。これでも総攻撃を回避するのはお嫌
ですか?」
 アメリアは黙り込んでいる。
 彼女のモットーは「愛と正義と真実」。北の魔王への総攻撃が、実は濡れ衣で
あることを訴えれば彼女を動かせる。彼女を動かしさえすれば、セイルーンの統
治者である父親を動かすことができる。
 それがゼロスの狙いだった。ゼルガディスに変装したのは、魔族の姿のまま彼
女に話をすると、アメリアにとって、ガーブ一派の計画に踊るのか、ゼロスの狙
いに沿うのか、という二者択一になり、そのどちらも「魔族に操られる」という
自己矛盾をアメリアの中に生んでしまう。ゼロスはそのことを懸念していた。
 異界の魔王との戦いで、アメリアとゼルガディスを見ていた時、明らかに彼女
は合成獣の男へただならぬ好意を寄せていた。だからこそ、ゼルガディスに指示
されればその意向に沿うだろう、と思って、今夜の茶番に及んだのだが……。
 特にゼルガディス当人は、アメリアへ強い気持ちを持っていなかったため、今
夜、場合によっては彼の姿のまま、アメリアに甘い言葉をささやいて喜ばせ、手
駒にすることもいとわないつもりだった。それなのに。
 ゼルガディスの姿で訪れれば、アメリアはもろ手を上げて歓迎すると思ってい
たのに、かえって迷惑そうに迎えられてしまった。この落差はいったい?
 魔族が自分についてそんなことを考えているとも知らず、アメリアはゼロスの
目をまっすぐに見詰めて言った。
「……あなたの話は分かりました。そのことは父さんに伝えます……でも、それ
から先のことはあなたの意図とは別に、わたしたちで決めます」
「と、言いますと?」
「わたしはデーモン対策において、参謀には任じられていません。指揮官ではあ
りますが、戦略を練るのは参謀たちです。そして、父さんが提出された戦略のど
れを選ぶかは、わたしには左右できません」
 ──けして魔族とは手を組まない。その決意が彼女の瞳に燃えている。
 ゼロスは冷たい表情でその瞳を見つめ、つぶやいた。
「なるほど、分かりました……」
 ぞくり。
 アメリアの直感が、ゼロスの底知れぬまがまがしさに警鐘を響かせる。彼女は
必死で声を振り絞った。
「これから何をしようというんです?わたしに断られたから、といって、引き下
がるあなたではないでしょう?」
「それは……秘密です」
 右手の人差し指を自分の口の前に立て、微笑みを大きくして言ったゼロスの表
情からは、先ほどまでの残酷な印象は失せている。しかしまだ安心はできない。
アメリアの緊張はかえって高まった。
 ゼロスは立ち上がり、不安と闘志をむき出しにしたアメリアの顔を見下ろす。
「それよりアメリアさん?もしも、フィリオネル殿下とゼルガディスさんのお二
人が別々に絶壁から落ちそうになっていて、それぞれに助けを求めていたとした
ら、あなたはどちらを助けますか?」
 この質問に、アメリアは目を見張った。これは彼女の「正義」を試して心理的
圧迫を与える一種の精神攻撃?
 ゼロスのように「秘密」とはぐらかすことは意地でも嫌だ。必死で答えを探す。
「……その時は父さんを助けます。ゼルガディスさんは翔封界(レイ・ウィング)で飛べ
ますから」
 答えを聞いたゼロスは、クスリと一つ笑いを漏らし、姿を消す。
 ようやくアメリアは大きく息を吐き、緊張を解いて窓の外の夜に目を向けた。
「ゼルガディスさん……」
 漏らした声は不安に満ちていた。

★ ★ ★ ★ ★ つづく ★ ★ ★ ★ ★


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1199Re:黄金の心臓を探して(2)キューピー/DIANA E-mail 2/3-12:42
記事番号1198へのコメント

         『黄金の心臓を探して』(魔族編−2)
             原案:くるめ 脚色・文:キューピー/DIANA

 翌日、アメリアは前夜のゼロスの話を伝えるため、父親の居室を訪れた。
 彼女は王族のプライベートな区域から入って行った。フィリオネル殿下の部屋
に続く公的なスペースから入れば、途中で侍従から先客が居ることを告げられた
だろうが、彼女は誰にも止められないままカーテンで閉ざされた戸口にたどりつ
いた。その時、中から話し声が漏れて来た。
「……アメリアが男じゃったらのう」
(え?わたしが男だったら、って?どういうこと)
 アメリアはその場に立ち尽くした。父親の声に答えて、聞き覚えのある男の声
がする。
「アメリア殿は確かに女性ですが、兄上、彼女の器は次期の王位継承者にふさわ
しい、と私は思います」
(クリストファおじさま!?王位継承者?……ということは、この話は、父さんが
国王に就いたら、誰がその後継者になるのか、という話なの!?)
 アメリアは父の次の言葉を待った。しかし、フィリオネル殿下は深いため息を
ついただけ。彼女は足音を忍ばせてその場を去った。
 つまり、彼女はその後の叔父と父の会話を聞き損ねてしまったのだ。
「……兄上はやはり、アメリア殿がそこまで大切なのですか……恋愛も自由にし
て、本当に愛するもののところで幸福になってもらいたい、と思うほど……」
「済まぬ、クリストファ。わしは王族として失格じゃな。長女が旅に出るのを許
しただけでなく、次女まで好き勝手させて。
 しかしわしは、娘たちがただおとなしく王宮で仕事に就いたり、自分の責務だ
けをまっとうして、本当は何をしたいのか考えようともしない、というのは……
嫌なのだ。アメリアに戴冠するに足る能力がない、などとは思わぬ。足りぬのは
王位の方なのだ。彼女の器にはセイルーンの王位など、卑小に過ぎぬ」
 自分が憧れて手に入れられなかったものを、「卑小」と表現する兄に、弟の心
は痛みを覚える。だが、よく考えれば、この論評は究極の親バカであることに気
づき、クリストファは苦笑して、ちょっと兄をいじめてみる。
「しかし、アメリア殿が王位を継ぐ意志さえあれば、兄上もご承知になるのでし
ょう?それでも兄上は彼女を後継者にするのは嫌なのですか?」
「……政治に絡むと心情を傷つけられることが多々ある。わしとて平和主義の旗
を下ろさなくてはならない立場に追い込まれることもあった。現に今、魔族騒ぎ
のおかげで、魔族と平和裏に折り合うという意見は通じなくなって来ている。
 アメリアにはこの苦労を味わわせたくはない」
 ことアメリアに関して、フィリオネルはわがままなまでに溺愛している。ここ
まで正直な兄の姿に、クリストファは羨ましさと尊敬の混ざった感情を覚えた。
「皮肉なものですね……私は息子にその苦労を押し付けようとして結果的に息子
を破滅させた……兄上は、その苦労を背負う覚悟がある娘に、あえて負わせよう
としないとは…………あ、申し訳ありません。兄上を責めているのではありませ
んので、誤解の無きように」
「分かっている。結局、人は、親である人間は、誰もが子供に心を痛めるのだ」
 セイルーンの兄弟は、そこで互いにため息をついた。

 自室に戻ったアメリアは、ベッドに倒れ込んで泣き出した。
 王位継承に絡む話題で父親が放った「アメリアが男だったら」という言葉は、
その後の叔父の言葉の意味と重ねると、「アメリアは女だから王位継承者にはむ
かない」という意味になるからだ。
 アメリアは王位が欲しいのではない。現在の王位継承者である父親に、自分自
身を重ねたいがために、父の歩んだ道をたどりたいのだ。父親が正義のために戦
うから、彼女も正義を愛し、真実のために戦って来た。それと同じで、父親がセ
イルーンの王座を担うなら、自分も担いたい。王位の重さを知らないわけではな
い。しかし、父と同じ苦労を味わうことは、彼女にとって無上の喜びだった。
 だからこそ、命がけで魔王シャブラニグドゥの腹心や、異界の魔王ダーク・ス
ターとさえ戦って来た。自分自身だけの戦いだったら生き抜けたとは思わない。
戦っている間、セイルーンに帰って自分がいかに正義のために戦ったのか、父親
に告げた時、父が見せる誇らしげな笑顔。それが見たくて、それが励みで戦って
いた。彼女の戦いは、すべて父親に捧げたといってもいい。
 それなのに、彼女の父は彼女が「女である」というだけで、自分と同じ道を歩
むのを認めようとしない。
(わたしの戦いは何だったの……何のためだったの?)
 熱いしずくが枕を濡らす。こんなに泣いたことはない。アメリアは自分が何に
すがればいいのか、考えることもできなくなっていた。

「デーモンだ〜っ!」
 王宮を兵士たちが駆け抜ける。レッサー・デーモンが突然、王宮内に出現した
のだ。これまで町中にしか現れなかったデーモンが、とうとう王宮にまで?
 さいわい、神官たちの呪文の集中攻撃でデーモンは早々と撃退された。アメリ
アが現場に駆けつけた時には、すでにみんなが手分けして怪我人の手当てをして
いた。アメリアも早速、救護活動に参加する。
 しかし。
 彼女の呪文は発動しなかった。居並ぶ神官や巫女たちは、たちまちアメリアの
体調を気遣い、居室へ戻るように勧める。しかたなく、通路を進んでいたアメリ
アは、これから現場へと向かう父親と出くわしてしまった!
「おお、アメリア。現場はもう落ち着いたのか?」
「いえ。まだみんなで怪我人を手当てしています」
「そうか。お前は何か用があるのか?」
「!」
 さりげなく会話をしていたアメリアは、自分が魔法を使えないことを父親に告
げたらどうなるか、と思ったとたん、世界中が自分から逃げて行くような疎外感
を覚える。
 彼女は女性の巫女に必ず訪れる『あの日=魔法が使えない時期』にあったので
はない。なぜだか分からないが、魔法が発動しなくなってしまっただけ。しかし、
周りの人間は誰もが彼女が『あの日』だと思っている。
 父親が「アメリアが男だったら」と口走った背景に、女には『あの日』がつき
ものであることも含まれているのではないだろうか?この肝心な時期に魔法が使
えなくなった彼女に、父親はますます「男だったら」との想いを強めるのではな
いか?そして、彼女の魔法がこのまま復活しなかったら……父親にとってアメリ
アは存在の意味をなくすのではないのか!?
 アメリアは父に背を向け、その場を逃げ出した。自分の寝室に戻り、再びベッ
ドに身を投げ出して枕を叩きながら、わけのわからないことを叫び続ける。
 悔しい。やるせない。自分が嫌い。父親が嫌い。世の中の全てが嫌い。
 怒りと悲しみにまみれてベッドで転げ回るうちに、アメリアは身の心もぼろぼ
ろに疲れ、惨めな気持ちのまま眠りの泥沼に引きずり込まれて行った。

        * * * * * * * * * *

 ──セイルーンまであと少し。
 街道に沿って白い猛禽が滑るように飛んで行く。その姿はフードもはだけ、マ
ントをなびかせるほどの速さで走るゼルガディスだった。
 ゼロスと別れてからすぐにセイルーンを目指し、合成獣の体力とすばやさで、
一日でここまでたどり着いた。飛翔の術を使わないのは、これからのデーモンと
の戦いを予期し、魔力を温存するため。
 その彼が進む街道のかなり先に、ぽつりと黒い影が姿を見せる。鋭い視力で影
を見分けたゼルガディスは、走る速度を緩めないまま剣を抜き、その刃に魔力を
込める。普通の剣で倒せる相手ではない。
 相手の輪郭がはっきりする。黒い服、赤い球のついた錫杖。魔族ゼロス。
 まともに戦って倒せる相手ではないし、今はセイルーンにたどり着くことが先
決。ゼルガディスは相手と話し合って道を開けさせるような悠長なことは考えて
いなかった。
 一方のゼロスも、力ずくでもゼルガディスを止める体勢である。直立していた
姿勢から、錫杖を接近してくる相手に向けて構える。
「!」
 ゼルガディスは直感の告げるまま、飛翔の呪文を唱えて宙へ退避する。
 その瞬間。
 街道の底を破って黒い無数の鞭が踊り出る。それはまっすぐに宙へ飛んだゼル
ガディスに向かった。
「ぐあっ!」
 風の結界を貫いた鞭が、次々と彼の身体を捕らえ、岩の肌に突き刺さる。凄ま
じい力で引き戻されたゼルガディスは、ゼロスの足元の地面に叩きつけられた。
「また会いましたねぇ、ゼルガディスさん」
「き……貴様っ……いったい何を?」
「なに、普通、この世界の小動物に憑依させる下級魔族を、植物に憑依させただ
けです。ちょっと事情が変わりましてね、あなたにはセイルーンへ行ってもらっ
ては困りますので」
「う……勝手なことをっ!」
 ゼルガディスはうめいて身を起こしかけるが、彼を串刺しにした木の枝がざわ
りと動き、全身に激痛が走る。
「くあ……ああぁっ!」
 その悲鳴に、ゼロスが舌なめずりをする。
「まあ、セイルーンでの用事が済むまで、ここでおとなしくしていてください。
この場で殺したりはしませんから」
 ゼロスは魔獣植物を操り、ゼルガディスの身体を宙吊りにして、彼の怒りと苦
しみをしばし心行くまで味わった。

         * * * * * * * * * *

 アメリアは夢を見ていた。
 夢の中で彼女は自分の膝を抱えてへたり込んでいる。その姿勢で、なぜ自分が
『あの日』でもないのに魔法が使えなくなったのか、考えていた。
 答えは簡単。『あの日』に魔法が使えないのと同じで、精神的に集中を欠いて
いるから。しかし、自分の精神状態がどうしてこれほど不安定なのか。
 父親の笑顔が悩む彼女を見下ろしている。
「父さん……父さんのそばにいるときが、一番安心できる、一番落ち着く、一番
自由でいられる、一番『わたし』でいられる……はずだったのに……
 今、わたしは父さんのそばに居るのが辛いです……」
 父親の顔を見ていられず、目をそらすと、ゼルガディスの横顔が目に入る。
「ゼルガディスさんは、暗いし、勝手だし、自分のことしか考えてないし……」
 アメリアの声が届かないのか、彼は振り返らない。アメリアはすねた。
「おまけにちっとも私のことを見てくれないし……
 それなのに、どうして私はあんな人を好きになっちゃたんだろう……」
 ゼルガディスがこちらを向いた。その目の不思議な表情に、アメリアはそれま
で没頭していた考えから現実に引き戻される。
(あれ? 私ったら、何を言ってるんだろ?)
 気恥ずかしくてゼルガディスに後ろを見せると。今度は、子供の姿をした自分
が見えて度肝を抜かれる。
「これ……わたしの夢、ですよね……?どうしてわたしが子供に?」
 よくよく見ると、その子供には胸がない。十歳くらいに見えるが、アメリアが
十歳のころ、彼女の胸は今ほどではないが目立っていた。それが、この子供はま
ったく平らなのだ。それに服装も男の子だ。
「そうか……わたし、男になりたいから、夢で男の子になったのかぁ……」
「男になりたいの?」
「えっ?」
 アメリアに呼びかけたのは、アメリアそっくりのその男の子だった。
「あなたは男になりたい?僕は自分のこの身体が嫌いだよ」
「どうして?わたしはうらやましいよ」
「じゃあ、あなたの身体を僕にちょうだい、僕の身体をあなたにあげるよ、ね?」
「ええっ?」
 男の子がアメリアの腕をつかんだ。
「ねえ、いいでしょう?」
 その声に聞き覚えがあった。──冥王(ヘル・マスター)フィブリゾ!
「痛い!いや!」
「アメリア!」
 ゼルガディスの声がした。フィブリゾの手を振り解き、彼にすがりつく……

「あの〜、アメリアさん?(^^;)」
「えっ?」
 目覚めるとアメリアは、ゼロスの胸にすがりついている自分に気づいた。
 ばふっ!
 手近にあった羽根枕をゼロスの頭に叩きつける。
「何をするんですか!人の寝室に忍び込んで〜!」
「ぼ、僕は別に何もしていませんよ〜。アメリアさんが勝手に抱きついたんじゃ
ないですかぁ(;_;)」
「だ、抱きつかれるほど近寄っていたのは事実でしょ!」
 ゼロスは、どうしようもない、という様子で肩をすくめる。
「アメリアさんを起こそうとしたんですよ。大騒ぎになっていますのでね」
「大騒ぎ?」
 アメリアが耳をそばだてると、遠くで悲鳴や攻撃呪文の爆発が聞こえる。
「フィリオネル殿下がデーモンに襲われているようです」
 ベッドから飛び出したアメリアが駆け出そうとするのを、ゼロスが腕を捕まえ
て止める。
「離して!」
「いいんですか?ゼルガディスさんの方も危ないですよ」
「え?」
 ゼロスはアメリアの両肩に手をかけて、ぐるり、とベッドの脇の窓に向き合わ
せる。そこには、空間をゆがめたものだろうか?透明な洞窟の壁のように窓の景
色がゆがんで見え、その先に遠くにあるらしい風景が見える。
 その中で、黒い木に囚われ、全身を細い枝で刺し貫かれ血に染まったゼルガデ
ィスが、宙吊りにされていた。彼がこちらに向かって叫んでいる。
「アメリア!ゼロスの言うことを聞くな!」
「ゼルガディスさん!?」
 彼女はゼロスに向き直り、相手をにらみつける。
「彼をあんな目にあわせたのは、あなたなの!?」
「それはご想像にお任せします。ところで、この前の質問を覚えていらっしゃい
ますか?」
「質問?」
「フィリオネル殿下とゼルガディスさんと、二人が危機に直面していたら、どち
らを助けるのか?あの時は、ゼルガディスさんは魔法を使えるから、と言って、
あなたはフィリオネル殿下を選ばれた。しかし今、ゼルガディスさんは魔法が使
えません。激しい痛みに精神集中ができないからです」
「…………!」
 アメリアの表情に、迷いと怒り、絶望が浮かぶ。ゼロスはひそかに、その感情
をむさぼっていた。さらに多くの負の感情を引き出そうと、彼女の苦悩をあおる。
「さあ、あなたはどちらを選びますか?」
「アメリア!これは罠だ!ゼロスの言うことを聞くな!」
 地獄の苦痛を耐え、ゼルガディスはアメリアに呼びかけている。その姿に目を
やったアメリアは、決意した目でゼロスを見つめた。
「教えてください。あのゼルガディスさんがいる場所、あれはどこです?」
「あれはこのセイルーンの区画から一キロほどの街道脇です。僕がちょっと細工
をしまして、こことゼルガディスさんの居るところを繋いでいるので、彼にもこ
ちらの会話が聞こえ、彼の声もこちらに届く、というわけです」
「じゃあ、あの歪んで見えるのが、トンネルなんですね?」
「ええ。人間も通れますけれど、彼を助けに行ったら僕はトンネルを閉じてしま
いますよ。あなたが帰ってくるまでにフィリオネル殿下はどうなりますかねぇ」
「……今、父さんを襲っているデーモン、それはガーヴ一派なの?」
「ええ。僕はフィリオネル殿下には手出ししていません」
「嘘だ!アメリア!ヤツの狙いがフィルさんなんだ!」
 アメリアの頭で、一つの疑念が渦巻いていた。
(父さんがデーモンに襲われているのは間違いないわ。あたりの騒がしさからも
それは分かる……問題は、ゼルガディスさん……あれがゼロスの作った虚像でな
いとは言えない……)

「アメリア……ゼロスの言うことを……聞くんじゃない」
 宙吊りにされたゼルガディスは、叫ぼうとすると全身を襲う激痛に、かなりの
体力を奪われている。一瞬、意識がかすみさえするが、すぐに苦痛が覚醒を促す。
 彼は、ゼロスがセイルーンに行く前のことを思い起こしていた。

         * * * * * * * * * *

「き……さま……、セイルーンでの用事って……貴様はあそこに……手出ししな
いんじゃ……なかったのか?」
 魔獣植物の枝だけでなく、ゼロスの錫杖で痛めつけられる苦痛を押し殺しなが
ら、ゼルガディスは問い掛けた。
 ゼロスは残酷な笑みを浮かべながら言った。
「手出しされては困りますか?やはりアメリアさんのことが気になります?」
「質問して……いるのは……俺だ」
 魔族はくすくすと笑いを漏らすと、いきなりゼルガディスの肩を突き飛ばした。
振り子のように揺り動かされ、彼の身体に突き刺さった枝が、引き抜かれるのを
拒む釘のように筋肉に食い込む。彼は悲鳴を漏らした。
 反動で戻った身体をゼロスは胸で受け止め、左腕に抱きかかえる。苦痛にあえ
ぐゼルガディスの金属の髪を掴んで、自分の顔に向き合わせた。ゼルガディスは
荒い呼吸とともに血を吐いている。
「では教えてあげましょう。僕はセイルーンに手出ししないだけではありません。
アメリアさんを守ります。それはアメリアさんが死んだら、フィリオネル殿下が
北の魔王様への総攻撃を命じる可能性が高いからです。
 しかし、逆にフィリオネル殿下が死んだ場合、アメリアさんが総攻撃を命じる
可能性は非常に少ない。彼女は誰がその死をもたらしたか、知っているからです。
 結論。フィリオネル殿下に死んでいただくのが、僕にとっては好都合」
「なに?……すると貴様……アメリアに会ったんだな?」
「そうですよ。ガーヴ一派は放っておいてもセイルーンの王宮に攻撃をかけます。
その時、フィリオネル殿下を守られては困るので、こうしてあなたを足止めした
わけです。さて、今度はアメリアさんを止めるとしましょうか」
「な……なに?」
「フィリオネル殿下の周りから強力な魔法を使う人材が二人、いなくなれば──
これは、死ぬ、という意味ではなく、ね──ガーヴ一派は殿下を倒しやすくなる。
まさか僕が同じ事を狙っている、とは思わないでしょうからね。彼らは喜んで自
分たちの首を締めることをするでしょう」
「バカ……が……アメリアが、父親のそばを……離れるものか」
「しかし、あなたがここで瀕死になっていることを知ったらどうでしょう?」
「な……きさ……まっ!」
 ごほっ、とゼルガディスの口からまた血が吐き出される。
「くくく……面白いでしょう?大切な父親と大切な男性。どちらを助けるのか?
アメリアさんには究極の選択に苦悩していただくことにしましょう」
 冷酷に言い放ち、ゼロスはまたゼルガディスの身体を突き飛ばした。
「ぐぐっ……くはっ……」
 苦悶を背中に聞きながら、魔族の神官は錫杖を構え魔力を集中する。空間が歪
み、人間一人が通れるくらいの穴が広がるその先に、セイルーンの光景が浮かぶ。
空間のトンネルはセイルーンの王宮へ──その中のアメリアの部屋へとたどり着
いた。アメリアはベッドで眠っている。
「貴様……俺だけでなく……アメリアまで餌食に……する気か」
 ゼロスはそれまでのエサを芝居がかった仕草で振り返り、マントの端を握った
手で慇懃に礼をする。そして次の瞬間、獣神官はアメリアの部屋に居た。

         * * * * * * * * * *

「アメリア……」
 もう一度呼びかけようと、顔を上げた時、ゼロスの作った空間のゆがみの向こ
うで、アメリアがゼロスの胸に顔をうずめていた。
「! ! ? ? ! !」
 なぜ、アメリアがあんなことを!?
 次の瞬間、アメリアはゼロスを突き飛ばし、空間を繋ぐトンネルへと身を躍ら
せる。痛みも忘れて見つめるゼルガディスの目の前に、アメリアが出現した。

「アメリア!早くセイルーンへ戻れ!」
 ゼルガディスの声に何の反応も示さず、アメリアは呪文の詠唱を始める。
 魔法が回復しているかどうか、確かめている余裕もない。ここで呪文を発動さ
せなければ、ゼルガディスも父親も、どちらも助けることはできないのだ。彼女
は自分自身を信じ、すべてを一つの呪文に賭けた。
(わたしはどちらも見捨てない……これは父さんのためでもなく、ゼルガディス
さんのためでもなく、わたし自身のための戦いなんだから!)
「烈閃槍(エルメキア・ランス)!!!」
 彼女の発した光の槍は、ゼルガディスを捕らえている木の根元の地面に突き刺
さる。黒い木がぶるぶると激しく震えた。
「うわっ!」
 突然、木の枝がぼろぼろと崩れ、ゼルガディスは地面にまっさかさまに落ちる。
「ゼルガディスさん!」
 駆け寄ったアメリアが、傷ついた彼に『復活(リザレクション)』をかけた。
 やがてゼルガディスの呼吸が落ち着き、全身の傷も癒えていく。
「アメリア……俺はいい。早くセイルーンへ……」
「ゼルガディスさんも来てください」
「え?」
「あなたも一緒に来て、父さんを助けてください!」
 ゼルガディスはアメリアの意図を悟った。彼女は、ゼルガディスと父親の両方
を助けたいのだ。彼は立ち上がり、彼女に手を差し出す。
「俺はもういい。行こう。セイルーンへ」
 アメリアも彼の手を取り立ち上がる。同時に飛翔の呪文を唱えて風の結界をま
とい、宙に舞い上がった。
 二人で同じ呪文を同調させるようにコントロールすることで、思わぬ増幅効果
が現れる。飛翔術は、風の結界に包まれるものの重さと、飛ぶ高さに、飛行の速
度が反比例する。彼らは、街道とセイルーンをはばむ森を飛び越える高さを飛ん
でいるのに、普段の倍近いスピードでセイルーンに接近した。
「アメリア、上だ!」
 ゼルガディスが方向を指示する。一旦高度を高く取り、眼下の王宮の状況を確
認する。アメリアの目にはよく分からなかったが、ゼルガディスの鋭い視力は、
王宮の中庭でレッサー・デーモンに囲まれたフィリオネル殿下とその護衛の姿を
見分けた。
「降下するぞ!いいか、何を見ても術に集中するのを忘れるな!」
「はいっ!」
 たちまち、彼らは弾丸となって地上へと突進する。
 一頭のレッサー・デーモンがフィリオネル殿下の方へ飛びかかったその時、ゼ
ルガディスは繋いでいた手を放してアメリアを彼女の父親めがけて放り出した。
娘に体当たりされて、フィリオネル殿下は護衛まで巻き込んで地面に転がる。
 目標を失ったレッサー・デーモンに体勢を立て直す暇を与えず、ゼルガディス
は風の結界を解除して次の呪文を発動させた。
「冥壊屍(ゴズ・ヴ・ロー)!」
 彼の足元から走った黒い影が目標のデーモンを捕らえ、ずたずたに引き裂く。
 るおおおおぉぉぉぉぉっ!
 残ったレッサー・デーモンたちが一斉に炎の矢(フレア・アロー)を放つ。連携という
よりは、やみくもに打ちまくっているだけなのだが、数が数だけに普通だったら
人間に太刀打ちはできないはずだったが。
 炎の矢は、人間に届く前に見えない障壁に砕けて散った。アメリアが自分と父
親を中心に、かなり大きな風の結界を張ったのだ。その場に居合わせた人間で結
界に守られていないのはゼルガディスだけだったが、彼の身体そのものが炎の矢
では傷つくことがない結界なのだから、ダメージはない。
 アメリアの防御が完璧なのを見定めて、ゼルガディスは剣に魔力を込め、レッ
サー・デーモンに斬りかかる。まず一頭を倒し、その間にも呪文を唱えてもう一
頭に烈閃槍(エルメキア・ランス)を叩き込む。
「青魔裂弾波(ブラム・ブレイザー)!」
 これはアメリアが放った呪文だ。父親を守っていた彼女だったが、正義のヒー
ローはこういう時、前線に出て戦うものである。幸い、敵の数も減り、パニック
状態だった兵士たちが、アメリアとゼルガディスの登場で戦意を取り戻したので、
父親の護衛をまかせ、彼女も攻撃に参加できるようになった。
 ゼルガディスの苛烈な剣と正確な呪文、アメリアの体術と正義の呪文が存分に
発揮され、レッサー・デーモンはことごとく倒された。

★ ★ ★ ★ ★ つづく ★ ★ ★ ★ ★


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1200黄金の心臓を探して(3)キューピー/DIANA E-mail 2/3-12:43
記事番号1199へのコメント

         『黄金の心臓を探して』(魔族編−3)
             原案:くるめ 脚色・文:キューピー/DIANA

 夜。セイルーンの王宮の中、アメリアが嫌な夢から目覚め、ベッドの上で身体
を起こしたちょうどその時、軽く扉をノックする音が響いた。
「誰?」
「夜分に済みません、ゼロスです」
 アメリアは目を丸くして絶句する。
「お願いです。お部屋に入れてもらえないでしょうか?」
「あなたなら、そんな扉、問題ではないでしょうに」
 魔族の声は、相変わらず扉を隔てて聞こえてくる。
「扉を破るのと、部屋の主に許可を得て入るのは大違いでしょう?」
「……では、あなたは今夜は物騒な真似はしたくない、というんですね?」
「はい、あなたに何も危害を加えたりしない、とお約束します」
 掛け布の上に広げてあったガウンを取り、袖を通しながらアメリアは言った。
「いいでしょう、入っていらっしゃい」
 しかし、扉は開かず魔族の言葉もない。
「どうしました?入っていい、と言ったのが聞こえませんでしたか?」
「もう一度、お入り、と言ってください」
「???はあ???」
「扉から入る時は、三回『お入り』と言ってもらわないと入れないんです」
「???不便なものですね??? いいでしょう、お入りなさい」
 今度こそ扉が静かに開き、黒い神官が部屋へ滑り込むように現れた。
 ゼロスは何かを探すように、ぐるりと部屋の中を見渡し、見つからないと、身
をかがめてアメリアのベッドの下を覗き込み、さらに掛け布を大きくめくってマ
ットレスの角をむき出しにしてしまう。
「何を探しているんです、ゼロス?」
 『明かり(ライティング)』の灯をともしたアメリアが尋ねると、ゼロスは困った表情
で彼女を見た。
「アメリアさん……ゼルガディスさんをどこに隠したんですか?」
 ばふっ!
 アメリアの羽根枕がゼロスの顔を直撃する。
「ゼルガディスさんを探すのに、どうしてわたしの寝室に来るんです!」
「う〜ん、セイルーンの中でもここが一番確実だと思って来たんですけどね〜」
「どういう意味ですっ!」
「だって……アメリアさんはお父上よりもゼルガディスさんを選んだでしょう?
だとしたらゼルガディスさんとの仲もずっと進展して当然です」
「し、進展って……わ、わたしたちはそんな……」
 アメリアが真っ赤になって口ごもる。
「どうやら図星だったようですね。じゃあ、改めてうかがいます。ゼルガディス
さんはどこですか?」
 アメリアは最初恥じ入った表情を見せ、続いて警戒の色が浮かび、やがていた
ずらっぽい笑顔になる。
「全然見当違いですね。彼はセイルーンにはいません」
「は?」
「ですから、彼は旅立ちました。デーモン騒ぎが収まってすぐに」
「え……?それじゃぁ?」
「ええ、彼がいなくなってもう二ヶ月あまりが過ぎています。今もきっと、人間
の身体に戻る方法を探して、旅を続けているはずです」
 ゼロスは微笑を消し、一種殺気めいた視線をアメリアに向ける。彼女はその目
とまともに向き合い、負けじとにらみ返した。
「あなたは……それでよかったのですか?」
 その言葉はアメリアへの気遣いなど微塵もなく、むしろ思惑をはずされたこと
への苛立ちさえ感じられる。心がないという魔族にしては、奇妙な反応だ。
「……彼をここに留めることも、彼について行くこともしなくて、それでいいの
か、ということですか?それなら、答えは『はい』です」
 ゼロスの視線から鋭さが失せる。それでもいつもの笑みは消えたまま、彼はア
メリアのベッドの端に腰を下ろし、上体だけ彼女の方を向いた。
「なぜ?あなたは父親よりゼルガディスさんを選んだ。それなのに、今あなたは
彼のそばではなく、父親のそばにいる……僕には理解できません」
「それはあなたの勘違いです。あの時、わたしは二人とも救うことを選んだので
す。父さんを見捨てたわけではありません」
「…どうしてついて行かなかったんです?そうしようと思えばできたのでしょう?」
 アメリアはこの質問に首をかしげた。
「わたしとしては、魔族がなぜそんなことを気にするのかが分りません」
「う〜ん、そう言われると……まぁ、単なるゴシップ好きとでも思ってください」
 いつもの笑みを浮かべ、ゼロスは片手で頭を掻く仕草をする。
「ただじゃぁ、教えられません」
「うっ……な、何をお望みですか?」
「二つ、質問に答えてください。一つ、三ヶ月前、父さんがレッサー・デーモン
に襲われた直後、デーモンが出現しなくなりましたが、あれはあなたがガーヴ一
派の掃討に成功した、ということでしょうか?二つ、あなたが今、ゼルガディス
さんを探している理由は何ですか?」
「ええ〜っ、僕の方は質問は一つなのに〜?」
「じゃあ、あなたも質問を増やしても構いません。ただし一つだけ」
 ゼロスはアメリアをあきれた目で見つめた。「愛と正義と真実」だけがモット
ーだったこのお嬢さんに、これほどしたたかな真似ができるほどまで目覚めさせ
たのは何か……
 先手を取られっぱなしなのもシャクで、ゼロスは意地悪な質問を考えた。
「じゃあ、……ゼルガディスさんとはどこまでの関係ですか?」
「あの〜……(-_-;)」
「これでおあいこでしょう?」
 アメリアは顔を真っ赤にしながら小さな声で言う。
「……軽いキスまでです」
 ゼロスが肩をすくめる。まあ、間違いはないだろう。深い関係なら彼女がゼル
ガディスをやすやすと送り出すはずもない。
「なるほど……分りました。では僕も最初の質問にお答えしましょう。あなたの
予想通り、僕はガーヴ一派を掃討しました。あのレッサー・デーモンを作り出し
ていたのは一匹の中級魔族でしてね。そいつはあなた方の乱入でデーモンが次々
と倒されて、焦りまくっていましてね。おかげで僕は、簡単に包囲網を作ること
ができました。まったくお礼を述べさせていただきますよ」
「お礼を言わなければならないのはこちらの方です。おかげでデーモン騒ぎも一
段落し、パニックになりかけていた町も落ち着きました」
 実際、アメリアは真剣に感謝の念を込めていた。これはゼロスにはいささか皮
肉が強すぎる。彼は少し身を引いた。
「じゃ、……じゃあ、先ほどの質問に答えていただけません?」
 アメリアは一つ肩をすくめ、ため息を吐き出す。ゼルガディスが去った夜のこ
とを、彼女は片時も忘れたことがない。

         * * * * * * * * * *

 その夜遅く、ゼルガディスがアメリアの部屋を訪れた。それが別れの始まりだ
とアメリアも知っていたから、彼女は黙って彼を部屋に入れた。
 しばらく、暗い部屋でアメリアはベッドに腰を下ろし、ゼルガディスはそんな
彼女から目をそらして立っていた。
「……あんたにずっと尋ねたいと思っていたことがある」
 口を開いたのはゼルガディスだった。
「ゼロスに捕まっていた俺を助けに来てくれた直前のことだが、あんた、一度ゼ
ロスに抱き着いていただろ?泣き落としの利くヤツじゃないのに、なぜ?」
「え?寝ぼけてゼロスをゼルガディスさんと間違えた時のことですか?」
「いいや、あの空間のトンネルに飛び込む前の……」
 アメリアは少し首を傾げ、やがてぽんと手を打った。
「ああ!あれは抱きついたんじゃありません。ゼロスの胸についていた血の匂い
を確かめたんです」
「血の匂い?」
 アメリアには似合わない言葉に、ゼルガディスはあっけに取られた。
「ええ、ゼルガディスさんの姿が幻かも知れないと思ったんです。そしたらゼロ
スの服に血がついているのを見て、匂いを嗅いで確かめようとしたんです」
「なるほど……」
 納得の言葉と視線をアメリアに送り、ゼルガディスは床に目を落とした。再び
沈黙が部屋を占領する。それを破ったのはまたゼルガディスの方。
「いや、本当に尋ねたかったのは、もっと別のことなんだが……なんとなくもう
答えも分かってしまっていて、確かめるだけのことなんだ。きいてもいいか?」
「はい、何でしょう?」
 アメリアは彼の言葉には反対しない気構えでいた。ゼルガディスは相変わらず、
彼女を見ないまま、言葉を紡ぐ。
「あんたは生まれてこのかた、自分が愛されたことがない、と感じたことはない
んだろう?」
 あまりにも予想外の言葉に、アメリアは一瞬返事に詰まった。彼女はてっきり、
ゼルガディスに対する彼女の気持ちを尋ねられると思っていたからだ。彼の質問
の意味、彼がどういう答えを期待しているのか、考えあぐねてしまう。ゼルガデ
ィスは初めて彼女を注視した。
「言葉が足りなかったな……あんたは愛情を注がれて育った、ということだ」
「……はい。父さんも母さんも姉さんも、それに叔父さんたちも、王位継承で対
抗意識があったでしょうに、それは可愛がってくれました」
 ゼルガディスはまた彼女から目をそらす。
「俺は……肉親に愛されていると思ったことがない」
「え?ご両親は?」
「俺は両親と一緒に暮らした記憶がない。赤ん坊の時にレゾに引き取られたのか、
それともレゾが俺の記憶を封じたのか、どちらかは分らないが、俺に記憶にある
”親”はレゾだった……そしてレゾは……いつも俺を一人にした」
「…………」
「あんたが躊躇することなく信じるもののために行動できるのは、そういう育ち
方をしたからだろう。対して俺は、肉親の愛情を得るためにも代償というものが
必要な、そんな育ち方をしたせいだろう、どうしても計算してしまう」
「計算……ですか?」
 ゼルガディスは軽くため息をついて、アメリアを見た。初めて見る彼の瞳の悲
しげな表情に、彼女は激しく心を揺さぶられた。
「……ゼロスが俺を捕まえたのは、フィル殿下を亡き者にする、という計画のた
めと、俺の負の感情を食う、という一石二鳥のためだ。俺はあの状況で、どうや
ったらゼロスの思惑をぶち壊しにできるか、しか考えていなかった。あんたのよ
うに、俺も自由になりフィル殿下も救う、なんて発想はなかった」
 アメリアは思わずベッドから立ち上がった。寝衣の上に羽織った豪華なガウン
は胴のところで帯を締めているので、そこから下がひだを作ってまるで舞踏会に
現れた貴婦人を思わせる。彼女は、自分の行動が、知らないうちにゼルガディス
を傷つけたのではないか、と恐れていた。
「わたしは……わたしは、考えるより先に行動してしまっただけの無鉄砲です。
ゼルガディスさんがいなかったら、父さんを助けることはできませんでした」
 合成獣の男は片手を上げて彼女を制する。
「俺はただ、そういう発想ができるあんたの強さと、あんたを育て上げたまわり
の愛情が羨ましい、それだけが言いたかった」
 上げていた手を下ろし、胸の前で腕を組む。
「あんたは聞いたことはないか?人は自分の『黄金の心臓』を探し続けて生きて
いる、ということを」
「『黄金の心臓』?」
「人間の胎児の心臓は母親の胎(ハラ)から出るまでは黄金でできている。しかし、
世の中に生まれたとたん、ふつうの心臓になってしまい、『黄金の心臓』はその
赤ん坊のどこかに隠れてしまう……人は生涯をかけて『黄金の心臓』を探すのだ
そうだ。これは人間にだけ言えることでもあるそうだが」
 アメリアは自分の胸に手を当てて、鼓動を確かめた。その仕草にゼルガディス
が少し微笑む。
「人々は……その『黄金の心臓』で感じ合える。だが愛情を注がれなかった『黄
金の心臓』は奥深くにもぐってしまって、掘り起こすのが大変になる。そう、な
かなか見つからない金の鉱脈のように……そのいい例が俺だ。誰も俺の『黄金の
心臓』に働きかけてくれなかったから……だから俺は他人の『黄金の心臓』に訴
えるのに臆病になっている。だが、あんたは回りの愛情を注がれ、それを十分に
吸収して育った。だから人を惹きつけるものを持っている」
「でも、リナさんやガウリイさんは……」
 言いかけてアメリアははっとする。ゼルガディスが言いたくてもけして言うこ
とができないだろう望みを、このときに悟ったのだ。
 ゼルガディスが、自分の『黄金の心臓』に一番働きかけて欲しい相手はレゾな
のだ。彼の話によれば、レゾは彼が望んだ愛情を与えず、ついには彼を合成獣と
化した。ゼルガディスがレゾを強く憎んだのは当然だろうが、幼い頃から抱き続
けた望みは、彼自身の人生に関わるものなのだろう、消えずに残った。レゾが生
きている間は、激しい憎悪に隠れていたその望みが、いざそのレゾが死に、ゼル
ガディス自身が自分の人生と向き合う段になって、再び湧き上がって来ても不思
議ではない。
 既に死んでいるのに、レゾは未だにゼルガディスの心を呪縛している。どうし
たらその呪縛を解くことができるのだろう?
「ゼルガディスさんは…『賢者の石』を探す仕事をさせられていたんですよね?」
「ああ……半分は俺がレゾを倒すためでもあったから、嫌々ではなかった」
「いつも一人で探していたんですか?」
 今度はゼルガディスがはっとした表情になる。
「いや……二人の部下がいた。俺に忠誠を誓ったために二人とも命を落としたが」
 アメリアはにっこりと笑う。
「ほら、ゼルガディスさんも、人を惹きつけるものがあるじゃないですか。
 だからゼルガディスさんだって、きっとレゾさんに愛されていたんですよ」
「嘘だっ!」
 悲鳴に近い大声で怒鳴り、ゼルガディスはたちまち後悔する。アメリアの目に
涙がにじんでいた。彼は彼女に歩み寄り、両方の肩に手を置いた。
「怒鳴ったりして済まなかった……」
「ごめんなさい……わたしはただ……」
「分かっている。俺を慰めたかっただけだろう?」
 アメリアは目に涙をためたまま、うなずいた。ポタリと足元に雫が落ちる。ゼ
ルガディスは無言で彼女を胸に抱きしめ、すぐに放すと彼女の目を覗き込む。
「……これで決まった。これから俺は、レゾと初めて出会った土地へ行く」
 アメリアは目を見開いた。
「それからレゾが旅の間、俺を残していた土地や、一緒に旅をした土地へも。俺
はこれまで、意識的にレゾとの思い出に繋がる土地を避けて来た。いや、逃げて
いたんだ……あんたの言葉でそのことを思い知った」
「ゼルガディスさん……」
「正直、俺はまだ逃げ出したい気持ちが強い。だが、これを持っているから……」
 彼は懐から、アメリアからもらっていた護符(アミュレット)を取り出す。
「いつも俺のことを考えている、と言っていたあんたの言葉を、俺も忘れない。
今夜のあんたの言葉を胸に刻んで、もう一度レゾと俺自身について考えてみるよ。
俺が答えを得られるよう、祈っていてくれ」
「……わたしもついて行っては迷惑ですか?」
 ゼルガディスは首を横に振った。
「今は一人で行かせてくれ。答えが見つからない間は、さっきのように怒鳴った
り、もっとひどい言葉であんたを傷付けるに違いないから。今はまだ中途半端な
んだ。もっとどん底で苦しめんでいれば、なりふり構わずあんたに頼ることもで
きるんだろうが……」
 フィリオネル殿下とゼルガディスの同時の危機に直面した時、アメリアはゼル
ガディスを選んだ。父親を助けられたのは運によるところが大きい。最悪の場合、
彼女は父親を捨てていたことになる。それほどの思いを真正面から受け止めたい
と願った時、ゼルガディスは自分の中にある歪みにケリをつける必要に迫られて
いた。
 苦しみをさらけ出す彼の姿に、アメリアはその裏にある彼の彼女に対する想い
を感じ取り、ゼルガディスの胸にすがりついた。彼もこばまず彼女の背中に腕を
回す。
 恐らく、彼はリナやガウリイなどにもこんな姿を見せたことはない。彼はアメ
リアにだけ、自分の苦しみをさらけ出した。これまで以上に彼の本質に触れられ
た彼女は感動していたが、同時に彼について行けない寂しさ・悲しさもより大き
くなる。ひとしきり、アメリアはゼルガディスの胸で泣いた。
 すすり泣きがようやく途切れ途切れになった頃、アメリアの唇にゼルガディス
の唇が触れた。それはまるで、暖かい風がなでて通りすぎるように軽い、それで
も確かな気持ちのこめられた初めてのキス。
「俺は情けない男さ。好きな相手を泣かせることしかできない……だが、もし俺
自身の『黄金の心臓』を見つけることができたら、俺はきっと変われるだろう。
その時にはきっと帰って来る。きっと帰って来る」
 その言葉を最後に、ゼルガディスはセイルーンから去った。

         * * * * * * * * * *

「あなたは先ほど、わたしがゼルガディスさんのそばに居ないで、父さんのそば
に居る、と言いましたが、わたしは父さんのそばに居るのではありません。わた
しは自分の居場所に居るだけです。彼が帰って来る場所を守るために」
 ゼロスが驚いたように顔を上げた。『明かり(ライティング)』に照らし出されたア
メリアは、落ち着いて堂々としていて、つい三ヶ月前、一人で泣き寝入りしてい
た少女ではなく、自信と誇りに満ちた大人の風格がある。
「さあ、今度はあなたの番ですよ」
「分かりました。僕がゼルガディスさんを探している理由は……先ほどの彼の話
にも出て来た赤法師レゾと関わりがあるんです」
「?」
 アメリアは大きな目をさらに見開いた。レゾは死んでもなお、こうまで彼にま
つわるのか。
「赤法師レゾには、数年前に復活したルビー・アイ様が封じられていました。合
成獣(キメラ)にされて赤法師を強く恨んでいたゼルガディスさんは、同時にその憎
い相手に仕えざるを得ない立場に屈辱も感じていました。そういう彼の負の感情
を、レゾの中のルビー・アイ様は十分に味わっておられたのです。そしてその味
は、北の魔王様にも伝わった……」
 ゼロスは言葉を区切って、アメリアの反応を楽しむように彼女を観察する。ア
メリアは自分の身体に回した両手をしっかりと握り締めていた。
「僕たちくらいの魔族になると食事の味にもこだわりがありましてね。北の魔王
様は動けませんが、食欲は旺盛です。彼を名指ししているわけではありませんが、
とにかく美味しい餌を持ってくるように、我々は命じられているんです。
 それが、僕がゼルガディスさんを探している理由ですよ」
「どうしてゼルガディスさんなんです?名指しされていない、と言ったのに」
 尋ねるアメリアの声は震えていた。ゼロスはますます楽しそうに言う。
「先日、僕は彼を捕まえて、彼の苦しみや怒りを味わいました。あれほど美味し
い激情を生む存在は珍しい。僕は真っ先に彼を推薦します」
 アメリアから恐怖と悲しみが溢れ出す。ゼロスは舌なめずりしたい興奮を抑え
て、ベッドから立ち上がった。
「というわけで、残念ですが彼がここへ戻ることはあり得ませんよ」
 アメリアはゆっくりと目を上げた。その視線の先に、黒い神官が憎らしい笑顔
をして立っている。無言のまま相手を見つめ続けた彼女も、ふっと笑顔になった。
「ゼルガディスさんは……きっと帰って来ます。だって、彼はわたしにそう約束
したんですから」
 ゼロスはアメリアの変化に目を見開く。彼女の悲しみと苦しみは深い。それな
のに、彼女の心は負の感情を上回る信頼で支えられている。彼女が一本気で、正
義さえ信じていればどんな困難にも打ち克てる、という信念を持っていることは
承知していたが、今、彼女が見せている強さは質が違う。
 リナ=インバースは強かった。彼女の強さは、思い上がりにも近い自信。アメ
リアの場合は、自信というよりは正義や父親への盲信とも言える崇拝がその源だ
った。本質は平凡な少女が、「夢」に支えられているだけ。それならば、その夢
を打ち砕けば簡単に圧倒することができる。以前、ゼロスが関わったアメリアは
そういう人間だった。
 しかし今、崇拝の対象となっているゼルガディスの危機を知った彼女は、自分
だけの力で絶望を克服している。これは、彼女の本質的な部分で強くなっている
ということだ。恐らくその源は、魔族にはけして理解できないもの。
 これ以上彼女から負の感情を引き出すことはできまい。ゼロスはさっさと退散
することに決めた。
「……今夜は物騒な真似はしない、という約束ですから、僕はこのまま引き下が
ります。ゼルガディスさんを無事に手に入れたあかつきには、彼の手袋くらいは
届けて差し上げますよ」
 夜の中でさえさらに冷たいゼロスの言葉にも、アメリアの微笑みは消えない。
彼女は何も言わず、じっと魔族の顔を見つめていた。
(彼を信じること……それがわたしの希望)
 アメリアの目の前で、黒い神官は闇に溶けるように姿を消した。

 アメリアは窓を明け、夜空を見上げた。
 月は既に沈み、星々が静かに天を巡っている。彼女は愛しい人が、今、同じこ
の夜空をどこかで見上げているような気がした。
「ゼルガディスさん……あなたがここにいなくても、わたしはあなたを信じるこ
とで強くなれます。これからもずっと、あなたを信じ続けていていいですよね?」
 ひときわ明るい星が、答えるようにまたたく。
 アメリアは微笑んで、夜の風を胸いっぱいに吸い込んだ。魔族に逆なでされて
ささくれていた心が、冷たい空気で洗われる。大きく息を吐き出すと、彼女の微
笑みはさらに大きく、輝かんばかりになる。
 今夜のゼロスとの会話は、一つ間違えば救いがたい絶望にアメリアを突き落と
しかねなかった。その危機を、ゼルガディスへの信頼で乗り切った今、彼女の心
には信じられないほどの温かさが満ちている。これは恐らく、豊かな愛情。
「魔族のおかげで、こんなに幸せな気持ちになれるなんて……世の中、面白いも
のですよね、ゼルガディスさん」
 どんどん強くなる幸福感を誰かに打ち明けたくて、声に出す。
「ゼルガディスさんが言っていた『黄金の心臓』のことは、わたしにはまだ分か
らないけれど……でも、いつかきっと、ゼルガディスさんの心にも、わたしのよ
うな幸せな気持ちが溢れる日が来ます。いつかきっと」
 アメリアは目を閉じてうなだれ、星に祈る。彼の探すものが──それが人間の
身体に戻る方法であれ、『黄金の心臓』であれ──見つかるように、と。それが
見つかれば、たとえ強大な魔がつけ狙っているとしても、ゼルガディスは帰って
来る。
 再び見上げたアメリアの瞳は、小さな星の群れの向こうに、はっきりとゼルガ
ディスの姿を見た。さきほど彼女に答えた明るい星が、ちょうど彼の胸のあたり
に輝いている。
 ──彼は『黄金の心臓』を見つけたのに違いない。
 飽きることなく、彼女はその星を見つめ続けていた。

        『黄金の心臓を探して』(魔族編)〜fin〜


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1201黄金の心臓を探して:解説キューピー/DIANA E-mail 2/3-12:44
記事番号1200へのコメント

           『黄金の心臓を探して』解説

 『黄金の心臓を探して』いかがでしたでしょうか?タイトルの後に「魔族編」
とあるのは、同じテーマで「夢魔編」というのがあり、それと区別する表示です。
 私は普段、イメージというかフィーリングだけで創作を書いていて、しっかり
とした考察の上に物語を構築するのは、この作品が初めてです。ここにもいろい
ろな物書きの方がいらっしゃいますが、このような考察を踏まえて書くケースは
珍しいのではないかと思いまして、こういう手法もある、という例として投稿さ
せていただきました。

 前書きにも書きましたが、元となった考察=コンセプトは私のものではなく、
くるめさんという友人のものです。そのコンセプトは次のようなものです。

<レゾがゼルに魔法をかけた本当の理由>

・『魔法をかけた術者が死ねば、魔法はとける』というお約束があるのに、ゼル
 にかけられた魔法が解けないわけは?この考察から、ゼルとレゾについて、こ
 ういう解釈もできるのではと、想像がひろがった。

・レゾがゼルに合成獣の魔法をかけたのは、ゼルを深く憎むと同時に愛してもい
 たからだ。憎む理由は、ゼルがレゾの血を引く唯一の男子であり、五体満足で
 あったから。レゾがゼルをどのように愛していたかは分からないが、ゼルが部
 下から信頼されるだけの人間性を培った背景には、過去のものであれレゾとの
 間に信頼関係を持った時代があったに違いない。

・ゼルがレゾの呪いを解くためには、自分とレゾがかつてどのような関係であっ
 たのか、を見つめ直し、自分がレゾに愛され、憎まれていたことを理解した上
 で、(レゾ自身が見たがっていた)世界を救うために滅びを受け入れたレゾを受
 け入れなければならない。

・しかし、肉親に愛されたことがない、と信じているゼルは自分一人の力ではレ
 ゾとの関係を見つめ直すことができない。誰か、魂の同伴者が必要になる。
 アメリアは魂の同伴者(彼に気づかせる者)になれるのか?

・アメリアが疑いもなく正義を信じ、外見にとらわれずゼルとつきあえる天真爛
 漫さを育んできたのは、彼女が回りに愛されて育ったからだ。ゼルとは対極に
 位置する生き方をしてきたアメリアは、ゼルの呪いを解く鍵になれるだろう。

<父の娘アメリア(F式アメリア)>

・しかし、アメリアの正義を信じ正義のために戦う姿勢は、彼女自身が編み出し
 たものではなく、父親の行動を模倣しているに過ぎない。つまり、彼女は「父
 の娘」であり、一個の人格としてはまだ未熟である。

・「父の娘」「親の子供」という状況から脱し、「一人の女性」「一個の人格」
 として精神的に自立しなければ、彼女は誰にとっても魂の同伴者にはなれない。

・アメリアが一人の女性としてゼルの前に立つためには、それより前に彼女自身
 の心の中で親を切り捨てる段階が必要になる……

 そして、くるめさんが提示してくれたストーリーでは、ゼロスの代わりにリナ
 が登場し、アメリアに「父親とゼルの両方が危機に瀕していたら、どっちを助
 ける?」と質問することになっていました。その後、魔法が使えなくなったア
 メリアを、ゼルがセイルーンまで送っていくことになりますが……前書きで触
 れた「夢魔編」は、「魔族編」よりはずっとくるめさんのストーリーに近いも
 のになっていますが、あえてこちらの「魔族編」をアップしたのは、投稿する
 上での私の責任を考えてのことです。

 私もくるめさんも二人の子供を持つ母親です。だからこそ、親子関係を深く掘
 り下げて考察を重ね、一つの物語を練り上げたのです。自分が子を持つからこ
 そ、子供を呪ってはいないのか、という反省も含めて。

 くるめさんのコンセプトに興味をお持ちになった方は、

 http://member.nifty.ne.jp/KURUME

 を覗いてみて下さい。「レゾがゼルに魔法をかけた本当の理由」の詳細と、合
 成獣に変身させられたゼルの心理状態を描写した?パロディ・マンガがありま
 す。『黄金の心臓を探して(夢魔編)』もそのうち掲載する予定。
 まだできたてのホームページです。よろしく。

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1207全部読ませていただきましたむつみ E-mail 2/3-18:47
記事番号1201へのコメント

はじめまして。むつみと申します。

黄金の心臓を探して・・・一気に読んじゃいました。
素晴らしいです。特に、アメリアの描写がすごく緻密なのが、嬉しかったです。(アメリアの心理描写につっこんだ小説って、意外と少ないんです)

姫とフィル殿下。ゼルとレゾ。それぞれの関係や、お互いへの想い。
しっかりした構成が、魅力です。文章も、淡々と進むのに、迫力があって。

興奮すると、こんな感想しか書けなくなります。すいません。
気に入った部分を挙げながら感想を書くと、すごいことになりそうなので断念します。

本当、良かったです。他の言葉が出ないです。

夢魔編も、楽しみに待たせていただきます。
それでは。

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1208感想をありがとうございましたキューピー/DIANA E-mail 2/4-01:14
記事番号1207へのコメント

 >はじめまして。むつみと申します。

 むつみさん、はじめまして!キューピー/DIANAです。


 >黄金の心臓を探して・・・一気に読んじゃいました。
 >素晴らしいです。特に、アメリアの描写がすごく緻密なのが、
 >嬉しかったです。(アメリアの心理描写につっこんだ小説って、
 >意外と少ないんです)

 さっそく読んでくださって、ありがとうございます!
 実は最後の方、6〜7パターン書き直しました。ボツになったものの
 中には、ゼロスがアメリアを訪ねたところへゼルが乱入し、戦いに
 なった挙句、ゼルがアメリアを置いて旅立つ、とか、すでにセイルーン
 を離れたゼルのところにゼロスが現れて「これで良かったんですか?」
 と尋ねる、とか、もっとダークなイメージのオチもありました。

 結局、このような形になったのは、あくまでくるめさんのコンセプトが
 アメリアの「父の娘からの脱却」がテーマだと考えたからです。でも、
 アメリアの心理描写は難しく、書き始めた時は、ゼロスの不吉な言葉に
 ただただ涙するだけの弱々しいイメージになったこともありました。
 土壇場で「微笑みながら星を見上げるアメリア」のイメージが浮かんだ
 ときは、思わず「これだ!」ってガッツ・ポーズも出たくらいです(笑)


 >姫とフィル殿下。ゼルとレゾ。それぞれの関係や、お互いへの想い。
 >しっかりした構成が、魅力です。文章も、淡々と進むのに、迫力があって。

 構成がしっかりしていたのは、ひとえに、くるめさんのコンセプトの
 おかげです(笑)。物語の流れの底がしっかりしていましたから、
 後はただ突き進むだけ。特に、アメリアへのフィル殿下の想いは
 完全にくるめさんの原案を踏襲しましたし、ゼルとレゾの関係への見解
 もそうです。実は、私自身が描くゼルは少し違うのですが、くるめさんの
 ゼルがあまりに魅力的なので、あくまで原案に沿って描きました。


 >興奮すると、こんな感想しか書けなくなります。すいません。
 >気に入った部分を挙げながら感想を書くと、すごいことになりそうなので
 >断念します。

 お暇があれば、メールででもお聞かせください(笑)。
 後書きにも書きましたが、この物語はしっかりとしたコンセプトの上に、
 ストーリーを構築する、という私にとって初めての経験をした作品です。
 その意味でも非常に印象の深い作品となっています。

 はやばやの感想の書きこみ、ありがとうございました!

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1214「黄金の心臓を探して」感想ですぅ。wwr 2/5-14:22
記事番号1201へのコメント




「黄金の心臓を探して」読ませていただきました。
はぁぁっっ。感動しましたぁ。
しきりに「コンセプトがしっかりしていたから」とおっしゃっていますが、それに、あれだけの肉付けをできるというのは、
やはりDIANAさんの文章力だと思います。
ゼロスがゼルを罠にかけていたぶるシーンなんて・・・・・・・久しぶりに獣神官に殺意を覚えました、私(爆)
ゼロスと、アメリアちゃんの会話とか、ゼロスがゼルを探しにアメリアちゃんの寝室にやってくるとことか、ゼルとアメリアちゃんがデーモンを倒す所とか・・・・・・・ゼルとアメリアちゃんのキスシーンとか(はぁと)
もう、数え上げればきりがないほどです。

だんだん強くなっていくアメリアちゃん。
だんだん素直になっていくゼル。
この二人は、たがいに補いあって幸せになってゆく道をいって欲しいです。

相変わらず魔族なゼロスも好きです。

「レゾとゼルの関係について」
私は、レゾ氏は「子離れできなかった親」なのではないか、と思います。
「現代の五賢者の一人」「赤法師」として尊敬されることはあっても、それは皆が欲しがるものを無償で与えているからこそ、であって、レゾ氏当人を見ているからではない。とレゾ氏は知っていたのではないでしょうか?
だから、どんなに自分がひどい人間でも(爆)無条件で受け入れてくれる相手が欲しかった。
その相手に、生存する唯一の肉親であり自分に依存しなくては生きていけないゼルを選んだのではないのか、と。
ただ、はじめから、そういうつもりではなかったと思います。
いいおじいちゃんと、かわいい孫の、優しい時間を共有していた時期があった。
あったからこそ、それを手放したくない。ずっと自分を無条件で愛して、尊敬して、たよってくれるゼルでして欲しい。
でも、子どもは成長します。
レゾ氏のやり方に批判の目を向けたり、反抗的な態度をとるというのはゼルにとっては当然の成長の過程ですが、レゾ氏にとっては・・・・・・脅威です。
成長したゼルが、自分を置き去りにするかもしれない恐怖。
一度手にした優しい感情を、なくすかもしれない恐怖。
だから、レゾ氏は呪いをかけます。
ゼルが自分に依存してしか生きられないように。
「赤法師の孫」「レゾの狂戦士」としか生きられないように。


ゼルは・・・・・・・自分が愛されていたことは、自覚していたのではないでしょうか?
ただ、それを認めてしまうと、今の自分(キメラになってしまった)を認めなくてはいけなくなってしまう。
レゾ氏に甘えている自分、嫌っている相手に頼らなくては、生きていけない自分。
そんな自分を認めたくなくて、レゾ氏を「憎む」ことにしたのではないか、と思います。

レゾ氏と、ゼルはよく似ていると思います。
いつも手の届かないものにあこがれて、手の中にあるものの大切さに気がつかないところも。


アメリアちゃんが、人の外見にとらわれずに、本質を見ることが出来るというのは、もちろん愛されて育ったから。人の愛情を
無条件で信じることができるからだというのは賛成です。
それと、「お姫様」だからということも、関係していると思うです。
優しい笑顔のしたで陰謀をたくらんでいたり、固い握手をした相手が次の日には裏切る。
そういうパワーゲームのまっただなかで、アメリアちゃんは育ったのですから。
みかけの優しさや、言葉なんかには惑わされずに、真実を見抜くこと。・・・・・・・帝王教育の第一歩ですね。


このお話のラストで、ゼルがレゾ氏の足跡をたどるためにまた旅にでますね。
そうやってレゾ氏も賢者や魔王ではなく、「万能の親」でもなく一人の人間だったのだと分かったら。
間違ったりもしたけれど、でも自分のことを愛してくれていたのだと認めることができたら・・・・・・。
「元の体に戻る」ことに、縛られずに生きていけるのかもしれないですね。
どんな体でも、姿でも、100%受け入れて、信じてくれるアメリアちゃんがいるのですから。

あぁ、なんだか感想と言うより自分の考えを言いまくっているだけですね(汗)
でも、ここまで掘り下げて書かれたお話を久しぶりに読んだものですから(しかもゼルガディスさんについて)

最後に一言だけ叫ばせてください。
「ゼルーーーっ。信じて待ってるアメリアちゃんを泣かすんじゃないわよーーーっ」
「アメリアちゃーーんっ。ゼルのこと、よろしくねーーーっ」
「ゼロスーーーーっ。ゼルに手ぇだしたら、刺し違えてでも滅ぼしちゃるっ!!」

では、とっても素敵なお話を、ありがとうございました。






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1223感想をありがとうございましたキューピー/DIANA E-mail 2/6-16:37
記事番号1214へのコメント

 wwrさん、こんにちは!キューピー/DIANAです!

 『黄金の心臓を探して』に感想をありがとうございました!
 とっても嬉しいです!

》しきりに「コンセプトがしっかりしていたから」とおっしゃっていますが、それに、あれだけの肉付けをできるというのは、
》やはりDIANAさんの文章力だと思います。

 そんなに持ち上げないでくださいな(笑)。ノリやすいのでふんぞり返って
 コケてしまうかも(笑)。ただ、自分でもかなり力を入れて書きました。
 むつみさんへのコメント(No.1207)にも書きましたけれど、最後のシーン
 なぞ6〜7回書き直しましたもの。それだけ力を入れたい作品だったことは
 間違いありません。

》だんだん強くなっていくアメリアちゃん。
》だんだん素直になっていくゼル。
》この二人は、たがいに補いあって幸せになってゆく道をいって欲しいです。

》相変わらず魔族なゼロスも好きです。

 くるめさんのコンセプトでは、やがてはゼルとアメリアはアストラル・
 トリップ(精神体での心の旅)に出る、というアイディアもあるそうなの
 ですが……きっとその先には明るい未来が広がっていてほしい(これは
 私の願望/笑)

 それと、魔族なゼロスは私も大好きです(お茶目なのも好きですが/笑)
 そうそう、デーモン騒ぎの後、アメリアを訪ねるゼロスが、三回「お入り」
 と言われないと中に入れない、というのは、物語とはぜんぜん関係があり
 ません(笑)。これは、戯曲『ファウスト』に出て来るファウスト博士と
 悪魔メフィストフェレスの会話をもじったお遊びです(爆)

 wwrさんが挙げてくださった各シーンは、実は全部、提供されたプロット
 にはなく、私が勝手に作り上げたものです(そりゃそうだ。もともとゼロス
 は出てくるはずじゃなかった/笑)。それらを気に入ってもらえたという
 ことは「書いて良かった〜」と手放しで喜べます。

》「レゾとゼルの関係について」
》私は、レゾ氏は「子離れできなかった親」なのではないか、と思います。

 レゾとゼルの関係については、考察すればするほど深いものになるようですね。
 しかも一人一人、似ているようで微妙に違う……。かく言う私も、某ネット
 でゼルとレゾの物語を連載したことがありますが、その時は、wwrさんと
 同じように「子離れできない親」のイメージと、魔王に毒されてゼルの苦悩
 を味わう快感に溺れるイメージを重ね合わせた人間像を描きました。一言で
 言えば、「優しさと残酷さが同居している」人間ですね(爆)

 レゾがゼルをキメラにした理由は、彼を手放したくなかった、という点では
 私も賛同しますが、その背景については深く突き詰めたことはありません。
 漠然と考えたのは「人間レゾは、跡を継がせたかったゼルが魔道士ではなく
 剣士を目指すことが許せなかった。一方、レゾに封じられた魔王は、エサと
 してゼルを手放したくなかった」んじゃないか、という妄想(爆)

》ゼルは・・・・・・・自分が愛されていたことは、自覚していたのではないでしょうか?
》ただ、それを認めてしまうと、今の自分(キメラになってしまった)を認めなくてはいけなくなってしまう。
》レゾ氏に甘えている自分、嫌っている相手に頼らなくては、生きていけない自分。
》そんな自分を認めたくなくて、レゾ氏を「憎む」ことにしたのではないか、と思います。

 これは、くるめさんのコンセプトに対するwwrさんの見解、になるでしょう。
 私自身の思い描くゼルは、くるめさんのコンセプトからは少しはずれるのです
 (それでもくるめさんのコンセプトに沿った姿を描くのに抵抗はありません
 でした)。

 アメリアの前でゼルが語る『黄金の心臓』という言葉は、前書きにも書いた
 ように、ニール・ヤングの大ヒット曲(フォーク・ソング)の原題から思い
 ついたものです。ただし、歌の中に登場する『黄金の心臓』とは、人間が
 捜し求めてやまない漠然としたものであり、聞く人によって様々に解釈できる
 もののようで、「胎児の心臓うんぬん」は私のオリジナルの設定です。

》あぁ、なんだか感想と言うより自分の考えを言いまくっているだけですね(汗)

 いえいえ、日頃考えていても口に出すチャンスがなかった思いならば、
 いっそのこと思いきりぶちまけてください(笑)。そういうキッカケに
 なるのもまた、光栄なことです。

》では、とっても素敵なお話を、ありがとうございました。

 こちらこそ、思いのたけのこもった感想を、ありがとうございました!