◆−Von Voyage 1−水晶さな (2002/12/12 01:12:34) No.12044 ┣地球〜はま〜わ〜る〜♪−雫石彼方 (2002/12/12 12:56:09) No.12048 ┃┗新バージョンは「君をつれて」でしたっけ。−水晶さな (2002/12/13 00:41:44) No.12064 ┣Von Voyage 2−水晶さな (2002/12/13 00:43:21) No.12065 ┣Von Voyage 3−水晶さな (2002/12/15 00:29:41) No.12099 ┣Von Voyage 4−水晶さな (2002/12/17 23:08:54) No.12169 ┣Von Voyage 5−水晶さな (2002/12/21 15:47:11) No.12235 ┃┗ああ・・・やっとレスできた・・・!!−雫石彼方 (2002/12/22 01:43:36) No.12255 ┃ ┗ありがとうございます(^^)−水晶さな (2002/12/22 15:25:11) No.12264 ┣Von Voyage 6−水晶さな (2002/12/25 00:40:08) No.12327 ┣Von Voyage 7−水晶さな (2002/12/27 01:15:09) No.12381 ┣Von Voyage 8−水晶さな (2002/12/27 17:13:26) No.12397 ┣Von Voyage 9−水晶さな (2002/12/28 01:01:44) No.12415 ┗Von Voyage 10−水晶さな (2002/12/28 13:06:20) No.12424 ┗あぁぁ・・・終わってしまった・・・(T△T)−雫石彼方 (2002/12/31 00:07:28) No.12457 ┗ちょっと駆け足でした(泣)−水晶さな (2003/1/1 01:21:25) NEW No.12477
12044 | Von Voyage 1 | 水晶さな URL | 2002/12/12 01:12:34 |
「Ashen cat」に引き続き、「アルカトラズ」シリーズになります。 全部書き終わってからにしようかとも思ったのですが、追い詰められないと進みそうにないので(汗)。 ================================== 一つ後悔していることがあるとすれば、 久方ぶりに乗った船にはしゃぎ、 嫌がる彼を無理やり舳先に連れて行き、 後ろから腰を掴ませて、劇の真似事をしたことか。 実際船を難破させたのが流氷でなかったとしても、 それが何か不幸の発端となったならば、しなければ良かったと今更ながら思う。 最後に視界に映ったのは、どこまでも広がる、白―― 「あら、気が付いたワ」 握り締めているのが毛布だと気付いた時、声が聞こえた。 いやに裏返ったハスキーボイス。 特にその声を気にとめる事もなく――気にとめる余裕がなく、彼女は広げた手を目の前にかざした。 指はきちんと五本ある。折れてもいない。怪我も見あたらない。 気だるさは、いつも朝起きた時に感じるものと同じ。 思考を活性化させる為に、自分の名を脳内で反芻させる。 アメリア。アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン。 故郷セイルーンを出て、合成獣ゼルガディスの手助けをする為同伴し、 大陸を渡る為に、久方ぶりに船に乗って―― 「・・・・・・っ!」 衝撃と共に蘇った記憶に、アメリアが上半身を起こした。 胸元の服を握り締めようとして――握り締められない事に気付いた。 服を脱いだ記憶はないが、裸体だった。 「っ!?」 記憶よりもその事実に驚き、慌てて毛布を引っ張り上げる。 「あら、大丈夫? お洋服は濡れていたから、風邪ひいちゃうと思っテ」 二回目の声で、やっとアメリアが他の人間の存在に気付いた。 声がしていた時点で、人が居る事はわかっていたが。 まだ思考のまとまらない頭で、ようやく振り返れという信号を脳が発した時、 アメリアは再び思考を停止させた。 「代わりの服で良ければ着る? 貴女のお洋服は乾くのにもうちょっと時間が・・・」 ウェーブをきかせた金の髪が腰まで伸びて、 上品にまとめられた衣装。装飾品も敢えて石を使わず、銀だけでシンプルに。 思わず唸るような女性らしい仕草と、身のこなし。 これで、ただ、 『彼女』が筋肉質でなく、ヒゲ跡が濃くなければ―― 「・・・はうっ」 「あっ」 再びアメリアが昏倒して、『彼女』の伸ばした骨太の指先が空しく宙をかいた。 「どしたやバードン」 「ベティって呼べって言ってるでショ! このコが起きたと思ったら又失神しちゃっただけヨ!!」 「おめさのツラ見てたまげねぇオナゴはおらんべ」 「ツラとは失礼な言い草ね!! あんたレディファーストなんでショ!?」 「カマもどきは認めねぇだ」 「このデブ」 「男言葉が出たやな」 「・・・・・・」 当の本人は意識が既に戻っていたのだが、 身内同士の口論に口を挟む余裕が無かった。 とりあえず毛布をしっかり掴んだまま、再び上半身を起こす。 二度目の失神はさすがに好ましくない為、アメリアが覚悟を決めて目を開いた。 先程の女性(一応)――と、その隣に背の低い男が一人。 かなりの肥満体型で、腹の下に手が届くのかどうか疑問である。 スキンヘッドにバンダナを巻いているらしく、しょっちゅうずり落ちるそれを引っ張り上げていた。 右目には――よくはわからないが、突き出た眼鏡のようなものを装着している。 「ベティ」 男の方が先に気付き、まだ激昂している女の名を呼んで振り向いた。 「あ、お目覚めネ。今度は失神しないでねお話ができないカラ」 自然に腰を振りながらアメリアに近づくベティ。 アメリアが必死に何かに耐えながら無理やり笑みを作った。 「ベティ、お嬢さんに何か着せてやりゃ。素っ裸じゃ可哀想だべ」 言いながら男が部屋を出て行く。 「話は身支度が済んだ後だべ」 「アタシの昔着てたマリンルックでいいかしらん。サイズがちょっと大きくても、ダボつくぐらいで可愛いわネ」 顎に指先を当てて問うベティを、アメリアは見ないようにしてうなずいた。 「あら、かーわいーじゃナーイ!!」 手を組み合わせたベティが、アメリアを見て身をくねらせた。 「ありがとうございます」 いい加減慣れたらしく――女性だと考える事に決めたらしい――アメリアが素直に微笑む。 ボーダーのTシャツに、短パンを腰紐で縛って止めてある。 多少ダボつくが、許せる範囲だった。 「私、アメリアです。助けて下さってありがとうございました」 「・・・覚えているノ?」 「はい」 アメリアがわずかに眉をしかめた。 思い出した直前の記憶。 張り裂けた帆と、真っ二つに折れた船体と、 手を伸ばして届かなかった、彼の手と。 「・・・・・・」 沈みかけた思考を、頭を強く振って振り払った。 「あの、私以外に救助された人って・・・」 「・・・いないワ。私達の船が見つけたのは、貴女だけ」 アメリアの肩に、ベティが優しく手を置いた。 「周囲に仲間の船も居るの。きっと見つかるワ」 「・・・はい」 「そそ、私にだけ御礼言うんじゃなくて、船長や貴女を見つけたビストにも御礼を言わなきゃ」 「はい、是非御礼を」 至極明るく振舞うアメリア。 ベティが柔らかな笑みを浮かべ、扉を開けた。 唐突に潮の香りが吹き込む。 「・・・・・・」 日差しの下で波打つ海は、静かで。 あの夜の猛威を微塵も感じさせなかった。 「ビスト」 ベティの声に、甲板を歩いていた男が振り返る。 先程部屋に来ていた、恰幅の良い男だった。 「具合はどうだや」 「大丈夫です。あの、助けて下さってありがとうございます」 ビストがうんうんとうなずいた。 「水夫のカッコが似合うべ。このまんま船員になっても良かと。ベティじゃ花にもならねぇだ」 「つくづく一言多いのヨあんたは!!」 ベティが怒ると、背中の筋肉が盛り上がるのが服を通して見えた。 「・・・あの、この船は何の船なんですか?」 船体を見上げていたアメリアが問う。 貨物船とも漁船とも判断がつかなかった。 ベティとビストがはたと口論を止めた。 「アラそういえば言ってなかったワ。この船はね、名前はラグーン号」 頬に手を当ててベティが言う。 「お嬢さん『私掠船』て知ってるだか」 「しりゃくせん?」 「プライベーティアとも言うけど、分かり易く言えば法的に認められた海賊ヨ」 「へぇ、海・・・」 アメリアの言葉が中途で止まった。 「――海賊ぅっ!?」 |
12048 | 地球〜はま〜わ〜る〜♪ | 雫石彼方 | 2002/12/12 12:56:09 |
記事番号12044へのコメント こんにちは、毎回妙なテンションですみません。雫石です。 続きですね!!嬉しいですvv ていうかベティさん素敵すぎです(笑)ビストさんもいい味出してるし。 決して美形じゃないところに親近感が湧きますね(笑) 例によって会社のお昼休みに読んでいたのですが、二人の会話の下りは顔が笑うのを必死に堪えてました。 ・・・・いや、実際は堪えきれてなかったんですが(笑) ところでアメリアがべティさんのダボダボの服を着るシーン、なんとなく『ラピュタ』のシータを 思い出しました。それで↑のタイトルなわけですが。 シータなアメリアを想像して一人悦っていた無類のアメリア好きがここに一人(^^;) 海賊船に拾われてしまったアメリア、これから一体どうなるのか!? あああ、続きが気になります〜☆(それよりゼルを気にしたらどうですか雫石さん) それでは、寒い日が続いておりますがどうぞ身体にお気をつけくださいませ。 |
12064 | 新バージョンは「君をつれて」でしたっけ。 | 水晶さな URL | 2002/12/13 00:41:44 |
記事番号12048へのコメント こんばんわ、いつもありがとうございます(^^) 忘れ去られる前に少しずつでも出しておこうとあがきました(笑)。 ・・・えと、今回いつにも増して、キャラが濃くなりました・・・。登場人数が多いので存在を忘れ去られないようにしつこく練ったら、濃くなり過ぎた感も否めませんが(爆)。でもベティは一度出してみたかったキャラですv(笑) ビストと会話させると漫才にしかならないので困ってしまうのですが。 マリンルックアメリア。私もシータを思い浮かべながら書いておりました(笑)。 1話完結物ではなく初の続き物なので、失態をしでかさないよう気合を入れております(笑)。 はい、気温もそうですが特に真夜中のネットは足が冷えるので気を付けます・・・(爆)。 |
12065 | Von Voyage 2 | 水晶さな URL | 2002/12/13 00:43:21 |
記事番号12044へのコメント 「助けた代わりに身ぐるみ剥ぐとは、陸のゴロツキと大して変わらんな」 石肌の眉間にシワを寄せ、彼はつまらなそうに呟いた。 「武器もねぇくせに何言ってやがる」 口だけは達者――に見える――な男がカトラスを肩に乗せ、にじり寄った。 狭(せば)められた輪の中で、敵を一瞥してから無造作に片手を上げる。 「おとなしく海の藻屑(もくず)に――」 「ディル・ブランド」 男の台詞は爆音にかき消された。 「・・・で、俺の荷物は?」 呆気なく崩れ落ちた賊の背を踏みつけて、ゼルガディスがもう一度つまらなそうに言う。 聞こえていないのか聞きたくないのか、直撃を免(まぬが)れた男達がクモの子を散らすように逃げる。 船の上で追いかけっこをしても無駄だというのに。 ゼルガディスが諦めて自分で探そうと足を進めた時、背後から船に落ちた影に気付いた。 振り返って見えたものは、舳先に付けられた壮麗な人魚の像。 今乗る小型の海賊船とは大きさが違う為に、舳先によって太陽が隠されていた。 「マ、マーメイド号だあぁっ!!」 海賊達が怯えていたのは、どうやらこの巨船の存在らしかった。 「すげー、バッカニーアを一撃でやっつけちまった」 縁(へり)から顔を出した水夫らしい少年が、感心したようにこちらを見下ろしている。 「兄貴ー。救助者リストの最後の人いましたー。すげー強ぇーです」 それから後ろを向くと、ばたばたと船室の方へと駆けていく。 移るべき船だととりあえず理解すると、ゼルガディスが荷物の回収に取り掛かった。 貿易国家エルンゼアの近郊海域には魔物と同じように海賊が出没し、 海軍だけでは処理しきれないそれらを、国家は海賊の一部を買収する事で代用した。 買われた海賊達がプライベーティア。つまりは海賊をターゲットにする海賊である。 「国と契約してない海賊達はバッカニーアと呼ばれてるべ。オラ達の標的だ」 「国のお給料は少ないから、海賊から巻き上げた金品は自分のものにしていいって言われてるのヨ」 温かいココアを勧められるまま受け取りながら、アメリアが初めて聞く海の話に感嘆した。 「もっとも今は賊共も滅多にいねぇから、海路の魔物駆逐の方が多いやな。海上保安隊と変わんねーべ」 骨付きチキンをむさぼりながら、ビスト。 「そうなんですか・・・あ、ココア美味しい・・・」 船内でコックを務めているベティが満足げな笑みを浮かべる。 「ちゃあんと粉から作ってるからネ。ラム酒をちょっぴり入れてあるのヨv」 見た目に慣れると(失礼な言い方だが)、気さくで人の良い人物ばかりだった。 「船は、今何処へ向かってるんですか?」 「エルンゼアへ戻る所ヨ。エルンゼアから出た渡航船が沈没したって聞いたから、プライベーティアに人員救助の命令が出たの」 「ラグーン号の仲間にもう一船マーメイド号ってのがあんだ。さっき連絡したらバッカニーアを見つけたから追跡する言うてたやな」 アメリアが再びマグカップに口を付けようとした時、船がぐらりと傾いた。 「何ですか!?」 海は荒れるほどもない天候の良さだったというのに。 「この揺れ・・・やばいだな」 体格の為にバランスの取れないビストが、椅子から落ちて床に転がった。 「ホントにぃ? デマだと思ってたわヨ」 何処から持ってきたのか鍋で頭を守りながら、ベティがテーブルの下に逃げ込む。 アメリアが、嫌な予感がしてふらつきながらも丸窓に走った。 「アメリアちゃん伏せないと危ないわヨ!」 ベティの声も無視して、窓に貼り付いて外を見る。 波間に白色が見え隠れしていた。 魚などではあり得ない、視界を埋め尽くすほどの、白―― 「白い・・・鯨・・・」 アメリアの言葉に、ベティとビストの顔が険しくなる。 「出たのネ・・・」 「巨大白鯨・・・」 顔を見合わせて、呟く。 『・・・モービーディック』 「ゼルガディス=グレイワーズの旦那に間違いないっすね」 どう見ても十歳前後の子供なのだが、水夫の真似事か口調が年齢に不似合いだった。 これみよがしにドクロをあしらったバンダナを頭に巻いている。 「この船は?」 「難破したエルンゼア渡航船の救助命令で来たっすよ」 簡素な名簿の最後の名前を丸で囲む。 ちらりと見やると、自分の名の下の女性名は違う色のインクで丸がつけられていた。 「この色違いの丸はなんだ?」 「別の船から救助済みって連絡受けたっすよ。幸い連絡が早かったんで行方不明者は一人もいないっす」 少年に気付かれぬよう安堵の息を吐くと、ゼルガディスがゆっくりと船を振り返った。 「救助者は一旦皆エルンゼアに戻ってもらうっす。国に待機してる海軍に全員見せないと信用されないっすよ」 自分達は出動を渋るくせに――と少年が年に似合わない愚痴をこぼす。 プライベーティアの存在を知っていたゼルガディスは、特に口を挟む事もしなかった。 「ルチ。ガキが一丁前にグチこぼしてんじゃねぇ」 少年の後方から歩いてきた若い船乗りが、上から頭を鷲づかみにした。 「うわあぁ俺の自慢のドクロバンダナ!!」 「俺がくれてやったもんじゃねーか」 泣きながら船室へ走り去った少年を見もせずに、船乗りがゼルガディスを振り返った。 体が細く、背は高め。茶に染めた髪を刈って、さながらタワシのようだった。 グラッツェだと名乗った男は、ひょうひょうとした風貌に似合わず重量級のカトラスを下げている。 「エルンゼアまでしばらくかかるからな、適当な船室使ってくれや」 救助者に可愛い娘がいないかと期待したのに、と、こちらも又少年と対して変わらない事をボヤきつつ、足の向きを変えて―― 再び駆け戻ってくるルチに気付いた。 「あ、兄貴っ! ラグーン号から連絡!! 船が半壊させられたから至急救助来いって!!」 グラッツェがぽかんと口をあけた。 |
12099 | Von Voyage 3 | 水晶さな URL | 2002/12/15 00:29:41 |
記事番号12044へのコメント 船は、よくこれで浮上を保っていられると不思議に思うほど壊されていた。 幸い火が回らなかった為、それ以上の崩壊を防げたようだが。 「ロープ投げりゃあ。橋架けたらこっちが崩れんべ」 ビストがマーメイド号に向かって声を張り上げる。 「アメリアちゃんはアタシが運ぶわ」 「だ、大丈夫ですよ」 そう言って掴んだ縄は、何故かするりと抜けた。 「え?」 ベティがアメリアの手からロープを取り上げる。 掴まれた手は、震えていた。 「・・・・・・」 「ショックが抜け切れてないのヨ・・・無理しないでアタシに任せなさい」 そう言うと、ひょいと肩にかつがれた。 あまりに軽々しくかつがれた事に唖然とし、されるがままにマーメイド号へと登っていく。 「ちょっと誰か手を貸してちょーだい。このコを先に上げたいのヨ」 「おお待望の若い娘救助者がごげふっ!!」 グラッツェの言葉が、中途で転ばされた為に途切れた。 力強い腕が、アメリアの腕を引っ張った。 ぼんやりとその光景を見ていたアメリアが、そこで初めて顔を上げる。 ――探していた、顔だった。 「ゼルガディスさああぁん!!」 ――どごしゃあ!! 妙な体勢から勢い良く飛びついた為、支えきれなくなったゼルガディスごと甲板に転げる。 「あああ心配してたんですよ本当心配してたんですよぉお良かったあぁあ」 抜けきれなかったショックもどこへやら、むせび泣きながら力の限りゼルガディスにしがみつく。 その後方で再びラグーン号の甲板に落ちたベティが、運悪く真下に居た水夫を意識不明におとしいれていた。 「愛って美しいわー。ああんアタシ久しぶりに感動しちゃった」 簡易キッチンで何故か腰をくねらせながら料理を作るベティ。 テーブルにはすっかりいつもの調子に戻ったアメリアと、ベティをなるべく見ないようにしているゼルガディスが席についていた。 わざわざアメリアの隣に並んで座っているのは、隙あらばアメリアに近付こうとするグラッツェを追い払う為である。 幸い厨房をウロつくなと、ベティに叱られて渋々見回りに出て行ったが。 アメリアが船内を見回すと、壁に掛けられた肖像画に目を留めた。 貴族の娘のようで、上品な身形(みなり)をした美人だった。 船内の内装から考えると、上質な額縁が浮いて見える。 「スポンサーじゃないのか」 アメリアの視線に気付いたのか、ゼルガディスが呟いた。 「当たりぃ」 話を聞いていたのか、ベティがキッチンから肩越しに振り返った。 「名門貴族のお嬢様よ。ウチを気に入って投資してくれたの」 「あの、ところで船長さんは?」 テーブルにシチューを置きに来た時を見計らって、アメリアがベティに尋ねる。 「ドンならラグーンの舵を取ってるワ。マーメイドで牽引(けんいん)してるだけじゃ危ないから」 「ドン?」 「首領の事ヨ。船長とも言うけど、皆はドン・シリウスって呼ぶワ」 「まぁ、元が海賊だからな」 ゼルガディスがコーヒーカップに口を付けた。 「・・・豆から炒れてるのか?」 意外だというように、ベティを見る。 「当たり前じゃなーい。シェフのコダワリはまず飲み物からよぉ?」 迂闊にも間近で見てしまったのがこたえたのか、ゼルガディスが青い顔をして目をそらした。 「まだシリウスさんに御礼を言ってないんですよ。でも今行くのはお仕事の邪魔になっちゃいますね」 「港に着いてからでいいだろ。今ラグーン号に戻ると危険だぞ」 ゼルガディスの言葉の途中、廊下から床の軋(きし)む音が聞こえた。 重量級の人間の足音だった。 アメリアが、ビストかと思って食堂の扉を振り返る。 足音が扉の前で止まって、2秒後に扉が開いた。 大きな足が食堂に踏み入って―― ・・・ゴン。 「ドン? マーメイド号はドン用に扉大きく作ってないんだから、忘れて入ると頭ぶつけるってば」 ベティが振り返った先には、扉の下で頭をかかえてうずくまっている男がいた。 一言で言えば、偉丈夫。 背も高いが横にも広い。但し太っている訳ではない。 ベティも筋肉質な方だが、ドン・シリウスと並ぶとベティすら小柄に見えてしまう。 恐らく元々の体格が大きく、骨太なのだろう。 青い髪を短く切った、端正だが愛想の欠片もない巨漢だった。 ベティから差し出された、特大のマグカップでシリウスがコーヒーを飲む。 「あ、あの・・・助けて頂いて、ありがとうございます」 こちらは立って、シリウスは座っているのに目の高さが同じで、アメリアが畏縮しながら礼を述べた。 「・・・・・・」 シリウスは答えずに、ただうなずいただけだった。 ベティがアメリアに近寄って、「ドンは無口で照れ屋さんなのヨ」と耳打ちする。 「・・・照れ屋?」 恐ろしく不似合いな言葉を聞いて、アメリアが眉をひそめた。 「ドン、舵は誰に?」 「ビスト」 ベティの問いにも単語でしか答えない。 「ね?」と言うようにこちらを見たベティに、アメリアが納得したようにうなずいた。 「ラグーンは・・・直るんでしょうか?」 「税金を海軍の酒代だけにつぎこますワケにはいかないわヨ」 ベティがにまぁと笑みを浮かべた。 つまりは国の防衛費で修理するつもりなのだ。 「それに・・・救助要請が突然だったから、ラグーンは戦闘準備が万全じゃなかったのよ」 話しながらもしっかり手は動いていて、空いた皿をてきぱき片付けていく。 「戦闘準備って・・・まさか、あの白鯨と戦うんですか!?」 「無謀だ」 聞き役に徹していたゼルガディスも思わず口を挟む。 「ラグーン半壊の原因を報告したら、きっとすぐに白鯨退治の命令が出るワ」 「そんな、国から? いくら何でも無茶です」 ベティの視線が、アメリアからシリウスに移る。 「ドンがプライベーティアに引き抜かれたのは、白鯨退治の功績を買われてヨ」 アメリアとゼルガディスの視線もシリウスに移り、 一応話は聞いていたのか、食事中だったシリウスが顔を上げた。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 二の句が告げられなかったのは、感心でも納得でもなく、 「・・・ドン、ケチャップ」 とどめに、見事な花の刺繍のされたハンカチで口元をぬぐうシリウスを見て、 アメリアとゼルガディスがテーブルに頭を打ちつけた。 |
12169 | Von Voyage 4 | 水晶さな URL | 2002/12/17 23:08:54 |
記事番号12044へのコメント 陸に近付き、汽笛が鳴らされる。 半壊したラグーン号を見て、港の人々からざわめきが漏れた。 奇異の視線を向けられる中、船員達が黙々とラグーンの陸揚げ作業に取り掛かる。 「噂は本当だったのかい」 街の老人がビストに近寄って尋ねた。 「間違いねぇだ。白鯨だがや」 「・・・別のプライベーティアも貨物船が破壊されたとかで、救助に向かったんだ」 「んだ。ラグーン直したらすぐに退治に行くだ。心配すな」 気落ちした老人の肩を叩き、ビストが方向を変えさせる。 「・・・しばらく渡航船は出ないわネ。運が悪かったと言うしかないけど・・・」 ベティがアメリアの方を向いて頬に手を当てた。 その数秒後、横を駆け抜けた人物に突き飛ばされて、ベティが仰向けに倒れる。 「シリウス!」 風になびいたのは、獅子の鬣(たてがみ)のような黄金(こがね)色の髪。 肌は褐色で、引き締まった肢体を惜しげもなくさらすように、露出度の高い薄衣の衣装。 呼びかけに応じるように、丁度シリウスがマーメイド号の船底から顔を出した。 「モービーディックが出たんだって!? シリウスが心配でいてもたってもいられなかったよ!!」 叫びながらシリウスに、アメリアのような動作で飛びつく。 ――ただ飛びつく相手が相手なので、一緒に転げ落ちるような事はなかったが。 「・・・・・・」 「どうした」 「どこかで見た人です」 アメリアが神妙な目つきでシリウスの恋人らしき女を見つめる。 「肖像画で見たじゃない」 倒れたショックで打った腰をさすりながら、ベティが答えた。 「ああ船室の肖像画で・・・って、ええ!?」 「貴族の娘じゃなかったのか?」 ゼルガディスも思い出したのか、今更のように驚いて女を見た。 「バルシュフォント家の一人娘クラウチナ様よ。今じゃドンのコレで副首領」 ベティが小指を立て、その仕草が嫌だったのかアメリアが掴んで止めた。 「・・・だから、投資か」 両肩に疲れを感じながらゼルガディスがつぶやいた。 海軍による救助者のチェックを受け、解放されたのは陽が西の地平線に沈みかけた頃。 今から出立する訳にもいかず、早々に宿屋に足を向けた。 「これからどうしますか?」 記帳しながらアメリアが問う。 「とりあえずお茶でも飲まない?」 答えた声質に違和感を覚え、アメリアが肩越しに振り返るとゼルガディスが首を横に振った。 ――が、アメリアの視線が自分よりも後方を見つめている事に気付き、一緒に振り返る。 灰色の髪に、青と金のオッドアイの少年がいつの間にか後ろに立っていた。 腰にはどこかで見たような短剣を下げている。 呆然と見つめるアメリアに向かって、片手を上げる。 「お久しぶりぃ」 「ル・・・」 アメリアが言いかけてから口を押さえた。 一呼吸置いてから言い直す。 「ブルーフェリオス・・・さん?」 「せいかーい」 ブルーフェリオスがにっこりと微笑み、 ゼルガディスが嫌な記憶を思い出したのか、顔を引きつらせた。 「・・・何だそのなりは」 部屋備え付けの丸テーブルを三人で囲んで、ゼルガディスが最初に口を開いた。 「不完全アルカトラズをちょっと改良して、蓄えた力で形状変化してみただけだけど」 アメリアからホットミルクを差し出され、ブルーフェリオスが嬉しそうに受け取りながら答える。 「姿を変える必要があるのか?」 「だって猫のまましゃべったら、皆気味悪がるじゃない」 テーブルに置いたマグカップに直接口を付けようとして、何かに気付いたように慌てて両手で持ち上げた。 「・・・まだ人の形式に慣れてないんじゃないですか?」 「ちょっとね・・・うわちちち」 姿は変わっても猫の性質は残っているらしく、諦めてマグカップを下ろす。 「ご主人はまだ見つからないんですか?」 「さっぱり。不完全アルカトラズは何本か見つけて壊したけど」 「何だと!?」 「吸魔型じゃなくて吸魂型だよ。失敗作で結構厄介なやつ」 過敏に反応するゼルガディスを、ブルーフェリオスが宥(なだ)めすかす。 「この辺りにもアルカトラズの気配がしたから来てみたんだけど、どうにもねぇ・・・」 「何かあったんですか?」 自分に入れたアップルティーを飲みながらアメリアが尋ねる。 「海からなんだよね、どうも」 「海?」 「まさかとは思うが、沈没船の中とか言うんじゃないだろうな」 ブルーフェリオスが半笑いを浮かべた。 「それっぽいよー。感じからして」 「サルベージでもしないと無理じゃないですか!」 アメリアの言葉には、首を横に振った。 「魔法さえ届けば別に平気だよ。船で真上に行けばいいだけだし、わざわざ引き上げる必要もないんだけどね」 「・・・船か。頼んだとしても白鯨が荒らし回っている時に、船を出してくれる所はそうないだろうな」 口惜しいのか、ゼルガディスが唇を噛んだ。 「それもあるんだけどぉー」 子供じみた口調でブルーフェリオスが唇をとがらせる。 「まだ何か?」 「海がさ」 「海?」 「泳げないから行きたくないの」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 普段ならきっと、ここでゼルガディスから何かしら突っ込みをくらうのだろうが、 同じ現状の彼に、返す言葉は何もなかった。 |
12235 | Von Voyage 5 | 水晶さな URL | 2002/12/21 15:47:11 |
記事番号12044へのコメント 翌朝。 「ゼルガディスの旦那ぁー!」 語調は大人びていても、声変わりしていない子供の声では説得力がない。 乱暴なノックの音に、丁度剣を磨いていた集中を乱され、ゼルガディスがテーブルの上に布を投げた。 「朝っぱらから誰だ」 不機嫌さを隠そうともせず扉を開けると、ノックを続けようとしていた相手が慌てて空中の拳を止める。 「あ、おはようございますっす」 視線を下ろして、初めて相手が見えた。 確か、バッカニーアを一人で撃退したゼルガディスに感嘆の声をあげた、海賊の少年だった。 「・・・ルチ、だったか?」 「そっすよ。あのもう一人のおねーちゃんもいるっすか?」 「・・・アメリアだろ」 「そうそう。名前知らないから呼べなかったっす。用があるのはそっちなんすけど」 そう言って足の向きを変えようとしたので、ゼルガディスが襟首を掴んだ。 「誰の用だって?」 「ドンから頼まれたっすよ。巫女さんの手伝いが欲しいって。すぐ港に来て欲しいって言ってたっす」 「ドン・シリウスから?」 うなずく少年から手を離し、ゼルガディスが先に立って隣の部屋へと移動した。 「アメリア、起きてるか?」 扉をノックすると、すぐにアメリアが顔を出した。 もう部屋を出る所だったらしく、髪も服装も整えてある。 「はい?」 「昨日のプライベーティア達が用があるらしい。どうせ又厄介事だろう・・・」 「が」の言葉が出てくる前に、アメリアの肩越しにベッドが見えて硬直した。 掛け布団の裾が持ち上がって、数秒後に灰色の猫が床に下りる。 「・・・・・・」 ゼルガディスの視線に気付き、アメリアが部屋の中を振り返って同じように固まった。 猫が首をかしげてこちらを見返す。 「あ――あのですねゼルガディスさん、ブルーフェリオスさんだって野宿は可哀想だし第一猫じゃ・・・ダメ魔法はダメですーっ!!」 フレア・アローが炸裂して、ルチの「すぐ港に」との願いは叶わなかった。 「アメリアちゃん! 来てくれたのネ!」 港に近付くと、真っ先に気付いたベティが駆け寄ってきた。 「何事か」と言いかけて、アメリアが波止場を見て目を丸くした。 「ひ、一晩で船って直せるんですか!?」 昨日あれだけの被害を受けたラグーンが、何故かきれいに修復されていた。 「街人総出動よぅ。だって皆の為の船だもノ」 ベティが体をくねらせて頬に手をあてた。 「・・・それで白鯨退治に行くつもりか?」 「そうよン。でもちょっと事態が思わしくなくて、アメリアちゃんに援助を頼もうと思ったの」 「援助?」 「白鯨が潜伏してる海域が、情報によると『パンドラの海』らしいのヨ」 「パンドラの海?」 アメリアが聞き返すと、ベティが溜息をついた。 「半年ほど前にあの海域で商船が沈んだノ。時化(しけ)を無理して出航したからしょうがないと思うんだけど・・・それからその近くを船が通ると、何故か沈没するのよネ。原因は不明」 『商船にアルカトラズが積まれてた可能性があるね』 アメリアの荷物袋の中で、話を聞いていたブルーフェリオスがささやいた。 「・・・で、アメリアの・・・巫女が必要だというのは?」 「巫女さんに限定するつもりはないんだけど。パンドラの海には死霊が出るって目撃証言があって」 城の方へ視線をやりながらベティが続ける。 「上の方に聖職者の派遣を要請したんだけど、腰抜けばっかで・・・ベティ腹立っちゃうワ!」 最後の言葉と共に腕の筋肉が盛り上がったのは、見ないことにした。 「それで私が思い当たったんですね。わかりました協力させて頂きます」 「・・・アメリア」 「止めても無駄ですよゼルガディスさん!!」 「そうじゃなくてだな・・・」 ゼルガディスの視線は、アメリアが背中にかついだ荷物袋に注がれていた。 つられて視線をやると、袋の紐がゆるめられてだらしなく口が開いている。 「・・・・・・」 海嫌いのブルーフェリオスが逃げた事は一目瞭然で、 アメリアは無言のまま袋の口を絞め直した。 これから海の猛獣を倒しに行くとは思えないほど、海は穏やかで、 ラグーンの中で甲板に詰まれた箱の上に膝を立てて座り、アメリアが水平線を眺めた。 以前乗った時にはない装備が詰まれていて、そのせいか船の速度は遅めだった。 「アンタがベティの言ってた巫女さんかい? まだ若いのにつき会わせて悪いね」 ふと落ちた影に目線を上げると、背の高い美女が太陽光を遮(さえぎ)るように立っていた。 陽の光を反射した髪が、黄金(こがね)色に輝いて、 髪の色が薄くなったのは、陽に灼(や)けたからのようだった。 突然の来訪に頭の回転が追いつかなかったアメリアが、慌てて箱から下りて頭を下げる。 「クラウチナさんですね。初めましてアメリアです」 差し出した手が、力強く握り締められて、 「まだ『パンドラの海』までかかるんだ。今から緊張するこたぁないよ」 訛(なま)りのある口調で言うと、アメリアの隣の箱に背を預ける。 「アンタの連れも度胸あるね。同伴しなきゃ連れて行かせないなんて」 ゼルガディスは並行するマーメイド号に乗船していた。 冷やかされているのがわかり、アメリアが苦笑する。 「・・・クラウチナさんは、どうして船に乗ろうと思ったんですか?」 プライベーティアに投資するだけでなく、自らも危険を冒してまでシリウスの傍(そば)にいるのか聞きたかった。 「・・・・・・シリウスは一言でも口を聞いたかい?」 質問で返され、アメリアがしばし戸惑ってから首を横に振った。 クラウチナがしょうがないという顔で笑みを浮かべる。 「無口なんだよ、ずーっと昔から。グダに居た時から」 「・・・え?」 「グダの漁村。大陸の端っこにあるちーさな村さ。アタシもシリウスもそこに住んでた」 思い馳(は)せるように、クラウチナが空を見上げる。 「村の男のほとんどが、漁業傍(かたわ)らに海賊の真似事してたよ。そうしないと生きていけなかったんだ」 「・・・・・・」 「アタシのひいじーちゃんだか何だかがエルンゼアで商売やっててさ。それが死んじまった時に遺産が転がりこんだんだよ。アタシのオヤジはそれを村衆にとられるのが嫌で、家族そろってエルンゼアに移ったんだ」 ほとんど夜逃げに近いものだったと、クラウチナが苦笑する。 「成り上がりの貴族の真似事なんかしてさ・・・肖像画見た? 笑えるよあれ、描き終わった瞬間に腕上げたら服が裂けやがってさ・・・ダメだね見てくればっかりいい布は」 「・・・・・・グダに、帰りたかったんですか?」 けらけらと笑っていたクラウチナが、不意に笑みを止める。 「ベティでさえ聞かないよそんな事」 まるで不躾(ぶしつけ)な質問を、驚くどころか喜んでいるかのように。 「帰りたかったよ。しょっちゅう家出した。でも甘っちょろかったアタシはグダに辿り着けなくて、いつも連れ戻されちまった」 箱の上に肘を乗せ、手の平に顎を乗せる。 「漁の腕の良かったシリウスが、白鯨を仕留めたって噂が広まってね・・・丁度国がプライベーティアになる海賊を探していた時だったから、あたしが国に直接売り込みに行ったんだ」 親書も何もなく駆け込んだものだから、門衛3人がかりで止められて大騒ぎにはなったが。 「その仕留めた白鯨がメスだったのが発覚して、もしかしたら子供を残してるんじゃないかって危惧されてたんだけど・・・どうやら当たっちまったようだね」 「・・・そうだったんですか」 シリウスが白鯨退治の功績を残していた事を、どこかで信じていなかった自分を恥じる。 「・・・風が冷たくなってきたね。そろそろ中に入りな。パンドラの海まで明日ぐらいまでかかるよ」 沈みかけた太陽に目をやって、クラウチナが箱から背を離した。 船室へと行きかけて、再びアメリアを振り返る。 懐かしいものを見るような微笑みに、アメリアが目をしばたたかせた。 「本当はね、アンタみたいにまだ若い子を、いくら巫女さんといえど連れて行く気はなかったんだ」 海風に乱れる髪を軽く撫でて、 「だけど目がさ、昔のアタシに似てたから・・・きっと根性あるんじゃないかって思ったんだよ」 「・・・目が?」 まだ意味の飲み込めないアメリアが、不思議そうにクラウチナを見返す。 「シリウスが海に沈む時は、アタシも一緒に沈む時」 それは決意と覚悟を決めた眼差しで。 「アンタも同じ目をしてる。いい目だよ」 振り返らずに船室へ消えたクラウチナを見送って、 アメリアは――並走するマーメイド号へと視線を移した。 波はただ静かで、 風だけが頬をくすぐって、 知らず、笑みが浮かぶ。 「・・・当たり前じゃないですか」 言い聞かせるように囁(ささや)いて、 「・・・一緒ですよ、最後まで」 |
12255 | ああ・・・やっとレスできた・・・!! | 雫石彼方 URL | 2002/12/22 01:43:36 |
記事番号12235へのコメント 気持ち的には毎回レスつけて回りたい勢いなんですが、最近時間がなくてなかなかできませんでした; ああ、でもやっと書けましたよー!!(嬉) もうほんとに楽しみにしてるんですv『4』でベティさんたちと別れちゃって、ベティさん大好きな私は「もう出てこないのかしら・・・」とかーなり寂しい感じだったのですが、良かった!!また一緒に冒険するのですね!! もうほんと、どうしようってくらい大好きキャラ多くて困っちゃいます☆ とりあえずベティさんとー、ルーちゃんとー、ルチくんとー、グラッツェさんが好きです(><)個人的にグラッツェさんがアメリアにちょっかいかけてゼルがジェラシっちゃうシーンが直接見たくてしょうがないのですが、そういうのはこの先ないんでしょうかね・・・?(←図々しい) あ、でもジェラシー魔剣士は、ルーちゃん絡みで今回見れましたけどね(^^) 最後のシーンとか、何気にラブってる二人に幸せ感じてにやけてました(笑)やっぱりアメリアはかわゆいですねvv はー、なんだか毎回テンション高くて申し訳ないです;特に今日は忘年会帰りなもんで酔っ払いなんですヨ。(←さっきまで飲みすぎで堕ちてた人) 飲みすぎには気を付けましょうねー。(←お前がな) |
12264 | ありがとうございます(^^) | 水晶さな URL | 2002/12/22 15:25:11 |
記事番号12255へのコメント お忙しい時期なのにありがとうございます(感涙)。 久しぶり過ぎてまだペースが戻らないのか、なかなか進まなくて・・・(泣)。 ベティが動かしやすいキャラなので、一人前に立ってしまって修正が大変です・・・(苦笑)。もっとビストやグラッツェも書きたいんですけれど。 ゼルはグラッツェよりもブルーフェリオスの方が気に入らない(笑)ので、怒るとどうしてもルーの方ですね。 姫はどこまでもピュアなのが好きなので(フィルター入ってます←爆)語らせるとああなっちゃいます(^^;) やっと白鯨退治まで進んだので、もうちょっと頑張りたいです・・・年内に終わるかどうかはわからないんですが(泣)。気長に読んで頂けると。 コメントありがとうございますv あと飲み過ぎにはお気を付けを・・・。(飲めない人) |
12327 | Von Voyage 6 | 水晶さな URL | 2002/12/25 00:40:08 |
記事番号12044へのコメント 「はいハートのエース。次は反対側からヨ」 「誰だよスペードの2止めてやがんのは!!」 「ほいジョーカーだべ。ダイヤの4出しぃ」 「マジか!?」 アメリアは、 七並べでここまで熱くなる男達(含むオカマ)を見るのは初めてだった。 「次アメリアちゃんヨ」 「あ・・・はい、じゃあ・・・」 「その隣」 「え、コレですか?」 傍観していたゼルガディスの言葉のままにアメリアがカードを置く。 「ぐあああパス3!! ちくしょーっ!!」 ヤケになったグラッツェが残りのカードをバラまいた。 「相変わらず弱ぇべ」 「ほーら罰ゲームよ。明日までバニーの耳付けてなさーい」 何処で購入したのか、ベティが作り物のバニー耳を力づくでグラッツェに装着させる。 「・・・そろそろラグーンに戻れ、アメリア」 ゼルガディスが時計を見やってから言う。 「あ、もうこんな時間ですね。すみませんそろそろ失礼します」 2杯目のココアの礼を言いつつ席を立つと、バニー耳を付けたままのグラッツェが「ええもう行くのか」と手を伸ばし、 ベティに押さえつけられてテーブルの下に沈んだ。 片腕で器用にグラッツェをあしらいながら、ベティがゼルガディスに笑みを向ける。 「アメリアちゃん隣まで送ってあげて。でもゼルちゃんまで移っちゃ駄目ヨ」 「ちゃん付けで呼ぶな」 ベティのウインクに鳥肌を押さえつつ、ゼルガディスがアメリアを促して部屋を出た。 薄い扉を通して、再戦に興じ始めた騒ぎ声が響く。 「・・・実際アルカトラズがあるとわかった場合、どうするんだ?」 甲板に出ると、冷気を含んだ夜風が頬を撫でる。 「メギド・フレアか・・・範囲が広い場合はホーリィ・ブレスで対処してみます。ブルーフェリオスさんの言った通りなら魔力が干渉すれば壊せるそうですから」 「あいつの言う事はイマイチ信用ならん」 「それを言ったらキリがないですよ」 「・・・・・・」 もっともな意見でたしなめられて、ゼルガディスが返す言葉を失った。 「何がそんなに心配なんですか?」 「・・・聖属性の魔法が扱えるのはお前だけだ」 つまりはアルカトラズを対処する時には必ずアメリアが必要とされ、 どんなに危険な状態が予測されても、自身が手助けできる範囲が限られている事を危惧しているのだろうが。 詳細まで話すと心配性と思われるのが嫌なのか気恥ずかしいのか、それ以上の説明はしなかった。 「ゼルガディスさんが一緒なら、平気ですよ」 答えたアメリアの言葉は、そんな心情をあっさりと読み取っていて、 「・・・・・・全く」 今度は本当に返す言葉を失くしたゼルガディスが、苦笑しながらアメリアの頭に手を置いた。 時として自分より一枚上手になるこの少女には、未(いま)だに一筋縄でいかないことがしばしば。 「それじゃ、おやすみなさいゼルガディスさん」 両船の間に架けられた縄梯子に手をかけ、アメリアが告げる。 マーメイドより甲板の位置が低いラグーンには、船の横に垂らした梯子を伝って降りるようになっている。 「早く休め、明日は疲れるぞ」 滅多に聞けない労(いた)わりの言葉に、アメリアが笑顔で返す。 ゼルガディスは、アメリアがラグーンに完全に降りたのを見届けてから足の向きを変えた。 舵取り以外は静かになり始めたマーメイドの中を、アメリアが足音を響かせないよう注意して歩く。 ――が、ふと顔に感じた奇妙な粘着感に顔をしかめた。 「うえ、何ですかコレ、蜘蛛の巣?」 指で取りのぞくと、廊下のかすかな灯りに照らされた粘着性の糸が光って見えた。 「・・・廊下の真中に? 不衛生ですねー」 手をはたき合わせて払うと、ふと――右隣に目をやった。 副首領クラウチナの部屋。 彼女の部屋はマーメイドにもラグーンにも1室ずつ設けているらしい。 「・・・・・・」 ――何となく――理由はないが、アメリアは嫌な予感に襲われた。 「・・・クラウチナ、さん?」 就寝した可能性も高いが、恐る恐る扉に手をかける。 鍵はかかっておらず、あっさりと開いた。 照明の消された部屋は、廊下からの灯りでわずかに調度の影が見えるだけ―― その寝台の上に乗せるべき当人がおらず、その向こう――寝台と壁との隙間――から突き出ていた腕を見止めて、アメリアが口を押さえた。 「クラウチナさん!」 夜中だということも忘れて、アメリアが寝台に飛び乗ってその腕を掴んだ。 勢いのまま引っ張りあげると、力なくクラウチナが寝台に倒れ込んだ。 「クラウチナさん!」 「あ?」 はた、とアメリアが挙動を止める。 寝台に上半身を乗せたままのクラウチナが、アメリアを見上げてからぽりぽりと頭を掻いた。 「アメリア・・・何してんのさ?」 「な、何って・・・」 アメリアがまだ高鳴る心臓を押さえながら、クラウチナの腕を放した。 「ちょっと嫌な予感がして、覗いてみたらクラウチナさんの腕だけが見えたから・・・」 「あー。アタシよく落っこちんだよねー。この隙間ムカつくんだけどベッドが固定してあるから動かせなくて。スゴイね巫女さんてそんな事までわかんだ」 「・・・・・・」 感心したようにうなずくクラウチナに、アメリアが脱力した。 |
12381 | Von Voyage 7 | 水晶さな URL | 2002/12/27 01:15:09 |
記事番号12044へのコメント 2日目の朝は、快晴とはいかなかった。 「やな空ネ。時化にならなきゃいいけど」 朝食にスモークサーモンと野菜のサンド。ハムエッグが隣に添えられている。 尋ねてみたらやはりドレッシングは手製だった。 「食事の後アメリアちゃんはマーメイドに移ってネ。そろそろ戦闘配置を取らなきゃいけないから」 「わかりました。ベティさんはラグーンに居るんですか?」 「アタシやドン、ビストはラグーンよ。モービーディックとやりあうには小回りのきくこっちの船じゃなきゃね。グラッツェがマーメイドだけど、副首領もいるし、何よりゼルちゃんが一緒だから平気よネ?」 「何よりって・・・」 アメリアが照れを隠すように紅茶に口を付けた。 「ああ・・・アタシも燃え上がるような恋がしたいわぁ〜」 その対象は男なのか女なのか判明しなかったが、尋ねるのも恐い気がしたのでやめておいた。 紅茶を飲み干したカップを置いて、アメリアが席を立つ。 「ご馳走様です。紅茶のハーブがとってもいい香りで。ローズヒップですね」 「あら、わかってくれたノ? いいわぁ女の子って。うちのガサツなヤロー共と大違い」 心底嬉しそうに体をくねらせたベティが、他船員のおかわりを求める声に「黙らっしゃあ!」と一喝した。 「あらゴメンナサーイ。食事時のシェフは忙しくてネ」 それ以上の邪魔をする気にもなれず、アメリアが早々に食堂を後にした。 後方ではまだベティの怒鳴り声が響いていた。 「おはようございまーす」 マーメイドの甲板に昇って、アメリアが手を上げた。 既に甲板をウロついている船員達がアメリアに気付いて挨拶を返す。 2船を繋いでいた縄梯子は、アメリアが移ったのを最後に取り払われた。 グラッツェが船尾楼から駆け寄ってきたが、途中ゼルガディスに足を払われて転倒する。 「・・・おはようございますゼルガディスさん、朝から足払いはどうかと」 「何の事だ?」 ゼルガディスがしらを切る。 「・・・もういいです」 マーメイドは、段々とラグーンとの距離を広げ始めた。 船室から出てきたクラウチナが、まだ打った頭をかかえているグラッツェを操舵室に行けと蹴飛ばす。 「アメリア、調子はどうだい」 すっかりアメリアを気に入ったらしいクラウチナが声をかけてくる。 「おはようございます。万全ですよ」 アメリアが笑みを見せると、満足げにうなずいた。 「もうすぐパンドラの海だよ。気合入れてかかんな!」 クラウチナが声を張り上げ、船員達の返事が反響した。 雲はますます厚く広がり、 冷たく吹き始めた風に、アメリアが自分自身を抱き締めた。 「空気が重い・・・」 「死霊の噂はデマじゃなかったようだな」 ゼルガディスが船縁に手を掛け、前方を見つめたままつぶやいた。 岩肌の手の平が、ちりちりと静電気のような痛みを感じる。 「アルカトラズに触れた時と同じ感覚だ」 「じゃあ・・・本当に」 「あるな」 ゼルガディスの言葉に、アメリアが意を決したように唇を結んだ。 「ラグーンから発光弾!」 見張り台に立っていたルチが叫んだ。 ラグーンの舵取りから砲撃手に代わったビストが、船の頭上に発光弾を2発続けて撃ち出していた。 「・・・モービーディック発見! 誘い出して攻撃に当たる! マーメイドはすみやかに旋回せよ!!」 ラグーンから発された光信号を読み、叫んだルチの声が裏返った。 「どっか掴まれぇ!!」 操舵室からグラッツェの声が響き、船体が急激に傾いた。 既に船縁に手を掛けていたゼルガディスが、負担を軽くする為その場に座り込み、 片手を伸ばしてよろめいたアメリアを引き寄せた。 「縄を掴め!」 アメリアが言われるままに、船壁に付けられていた網縄を握り締める。 マーメイドの舳先すれすれをラグーンがかすめるようにして通り過ぎ、 その後方を追跡するように、白い巨体が波間から姿を見せた。 アメリアが数日前の惨劇を思い出したのか、青ざめる。 「・・・ラグーンについていったようだな」 マーメイドが海面と並行の姿勢を保った事を確認し、ゼルガディスが再び海を振り返った。 「軌道線上、このまま1km先だ。アルカトラズの余波を感じる」 「死霊の気も近付いてきてます」 顔を見合わせた後、同時に立ち上がる。 「クラウチナさん! このまま真っ直ぐに進んで下さい!」 「白鯨に勝ったとしても、死霊にやられるぞ!」 2人の尋常でない気配に気付いたのか、クラウチナが操舵室に合図を送る。 「総員戦闘体勢! ルチ! あたしの槍持ってきな!!」 戦闘を予測して見張り台から降りたルチが、ばたばたと船室に駆けていく。 アメリアが船首楼に立ち、視覚では捉(とら)えられぬ「それ」に身構えた。 |
12397 | Von Voyage 8 | 水晶さな URL | 2002/12/27 17:13:26 |
記事番号12044へのコメント 「マーメイドが独立進行の合図出しただ!!」 ビストが砲撃席から叫ぶ。 船首楼の手前に立っていたシリウスが、後方を振り返った。 「ドン、マーメイドにはマーメイドの敵がいるみたい」 ベティが答えるが、その視線が自身よりも奥を見つめているのに気付いた。 「武器、用意!」 船員4人がかりで運ばれた長方形の箱が、シリウスの前に置かれた。 掛けられていた布を外すと、全長2mほどの巨大な銛(もり)が数本並んでいる。 「鎖!」 船に積まれていた木箱が倒され、中から極太の鎖が重音と共にこぼれ出す。 銛の最後部にある輪に鎖を通すと、ベティが両手に持ってシリウスに差し出した。 それを片手で受け取ったシリウスが、同じようにもう片方の腕に鎖の付いていない銛を一本持つ。 双肩に2本の銛を担(かつ)いだ偉丈夫が、船首楼に仁王立ちした。 普段無表情だった顔が、強(こわ)張る程に気迫を増している。 「ああ・・・これこそドンよぉ・・・素敵ぃぃぃ」 後方で悶(もだ)えているベティに、砲撃席から輪ゴムが飛んできて後頭部に直撃した。 「どきゃカマもどき。砲撃の邪魔だで」 「わざわざ輪ゴムまで飛ばすんじゃないわよこのハゲ!!」 「――船体移動。回避して後方に」 シリウスの低い声が聞こえると、2人共ぴたりと口を閉ざす。 「仕留める」 重量級の銛を背負ったまま、微動だにせずシリウスは呟いた。 「――来たぞ!」 海面から突如として浮上し、こちらに急速で突進してきた異形をゼルガディスの剣が迎え撃った。 アストラル・ヴァインの光が、死霊の胴体を打ち砕き消滅させる。 その一撃が始まりだったかのように、船を囲むように次々と不気味な色彩を放つ光球が浮上した。 アメリアが照準を定めようとして、目の前の船縁を掴んだ手に気付いた。 その指も、乗り上がった本体も全てが白骨で。 「・・・スケルトン!?」 慌てて魔法を解除したアメリアが、ヴィスファランクで対応しようとして―― 後方から飛来した三つ又の槍が、スケルトンの頭蓋骨を砕いた。 勢いのまま船底に突き立ったそれに、アメリアが目をしばたたかせる。 「お、コイツなら槍が効くみたいだね」 普段と変わらない足取りでアメリアの前まで歩いてきたクラウチナが、床に突き刺さった槍を引き抜いた。 そのまま肩に軽々と担(かつ)いで、アメリアに笑みを見せる。 「漁と似たようなもんさね」 「・・・そ、そうですか」 捉(とら)え方が広いというべきかアバウト過ぎるというべきか。 考える暇を、侵入の手をゆるめない敵は与えてはくれなかった。 船尾の近くでは体格に似つかわしくない大振りのカトラスを、グラッツェが器用に持ち替えながら振り回している。 動作は大袈裟のように見えて無駄がなく、一振りごとにスケルトンを的確に砕いている。 「あーなんつか俺今すっげぇカッコイイと思うんだけどな。ルチ、てめーが腰にしがみついてなきゃ」 「兄貴ぃそんな事言わないで欲しいっすよおぉ」 ルチの事を考えずに動くグラッツェに、しがみついていられるだけでも大したものだが。 「アメリア! 死霊を頼む!」 数に任せて船に乗り上げてくるスケルトンに応じながら、ゼルガディスが叫んだ。 うなずいたアメリアが、一度下りた船首楼に再び上がって印を結ぶ。 「揺らめきたし形なきもの、根源たりし命の源」 それは、ゼルガディスが予測した呪文ではなかった。 「遥かに眠り汚(けが)れなき灯(ひ)の、御手なる光に導かれ――」 組み合わせた両手を、言霊と共に頭上に掲(かか)げる。 「フロウ・フォリア・バース!」 視界が、瞬(またた)く閃光で埋め尽くされた。 アメリアの周囲――船までも範囲に含めた周囲で、言霊により呼び出された光球が破裂し、 その勢いで死霊とスケルトンを食らい、星屑のように光を散らしながら消えていく。 その光のあまりの強さに、味方が視力を奪われるという弊害まで発生した。 咄嗟に腕で目を覆って難を逃れたゼルガディスが、魔法を放った途端ひっくり返ったアメリアに慌てて駆け寄る。 どうやら当人も予想外の光量に目眩(めまい)を起こしたらしい。 「あ、あれ・・・実験段階では3つか4つの光しか出なかったのに・・・」 「・・・アメリア、雨神(あまがみ)の魔法を水の上で使ったら効果が倍増するに決まってるだろ・・・」 水の持つ清浄な力を応用した破邪の紋(もん)。 多少見込み違いはあったが、効果は凄まじかった。 スケルトンが船に乗り上げる数が、格段に減っている。 船上の状態を見回してから、アメリアがゼルガディスに向き直った。 「アルカトラズは、ブルーフェリオスさんが言っていた危険な『吸魂型』じゃないんでしょうか」 「だからスケルトンやら死霊やらが出たと? 厄介だがその可能性が高そうだな」 「ほら後で掃除するのが面倒なら縁(へり)から突き落とせっての。グラッツェ、そこで回ってなくていいから」 クラウチナが船上を移動しながらスケルトンを片付けていく。 一周してアメリアの所まで戻ってくると、歩みを止めた。 「んで、目的の場所は近付いたのかい?」 ゼルガディスが前方を見やる。 「アメリア、ホーリィ・ブレスで届くか?」 「あんまり範囲に集中し過ぎると力が弱まっちゃいますから・・・もうちょっと・・・」 アメリアが目を細めて距離を測ろうとした時、船体が震動した。 「クラウチナ様! 船底にバケモンがしがみついて動けないっす!!」 廊下から転げるように走り出てきたルチが、息を切らしながら叫ぶ。 「何だって!?」 クラウチナが踵(きびす)を返して船内へと消えていく。 アメリアが船縁に手をかけ、海面を覗いて―― 一瞬の後に真下から昇ってきた、透き通った手に首を掴まれた。 「――ひ」 「アメリア!」 ゼルガディスの剣が肘から先の無い手を砕いて、 反動でアメリアが床板に尻餅をついた。 「し、下にいっぱいたまってますぅ」 余程心臓に良くないものを見たのか、青ざめながらアメリアがゼルガディスの袖を掴んだ。 「予想以上にアルカトラズの被害者が多かったって事か」 ブルーフェリオスが敵(海)前逃亡しなければまだ戦法が考えられただろうに。 歯噛みしたゼルガディスが、顔をしかめながらもアメリアの手を引っ張って立たせる。 「ホーリィ・ブレスの余力を温存しろ。船体があと少し動けばアルカトラズは目前なんだ」 「ゼルガディスさん!」 船内に走り出したゼルガディスに、アメリアが戸惑った声をあげる。 「船底のスケルトンさえ何とかすれば前進できる。それまで持ちこたえろ!」 「エルメキア・ランスやラ・ティルトで何とかできる数じゃないんですよ!?」 叫んだアメリアの声も届かず、ゼルガディスが船底に消えて、 船員の半数が船体を手動で動かす為に船内へと消えた。 錘(おもり)を付けられたように、じりじりとしか前進しない。 船尾楼で戦っていたグラッツェが、ここぞとばかりにアメリアへと駆け寄ってきた。 「アメリアちゃん今助けにいっ!」 何の為かわからないが伸ばした手が、空中で止まる。 音もなく前に差し出された棒が、丁度首に食い込んだらしい。 「ったく、アンタもさっさと下でオール漕(こ)いでこい! 人手が足んねぇんだ人手が!!」 横に差し出した槍を元の体制に戻し、引っくり返ったグラッツェに一喝するクラウチナ。 わたわたと船内に消えていくグラッツェを見送って、クラウチナが肩を竦(すく)めた。 「悪いねアメリア。人は減ったけどアンタはアタシが守るよ」 先端に赤い光をまとわせた槍を振りかざして、笑みを浮かべる。 アストラルヴァインと同じ光は、恐らくゼルガディスにかけてもらったのだろう。 「あの、ゼルガディスさ」 「アンタの連れは今頑張ってる」 アメリアの言葉を、クラウチナが遮(さえぎ)る。 「アンタはそれに応(こた)えなきゃ」 「・・・・・・はい」 両手を握り締めて答えたアメリアが、心残りを振り切るように船首楼の真中に立った。 震動を伴(ともな)いながら船体は前進して、 アメリアが姿勢を崩されないよう、視線は前方のまま柱にしがみつく。 その周囲では揺れをものともしないクラウチナが、槍を振り回してスケルトンに応戦していた。 (死霊の気が渦巻いている所・・・きっとアルカトラズが沈んでいる場所) 海底から沸き立つように溢れる負の気は、肌を刺すように伝わってくる。 (・・・ここなら届く!) アメリアが意を決して柱から手を離した時。 今までとは比べ物にならない衝撃が船体を襲い、 アメリアだけでなくクラウチナまでもが床を転がった。 舳先をへし折り、白い塊が船の鼻先を通り過ぎていく。 「モービーディック!?」 その体には、所々に巨大な銛(もり)が突き立っていたが、 白鯨の巨体さには矢ほどの大きさにしか見えなかった。 「・・・チッ、しぶといったら!」 数秒後にラグーンが全力で後方から追いかけてくる。 「マーメイドは動けないんです! 今ここでモービーディックを刺激したら・・・!」 ラグーンに呼びかけようとしたアメリアの口を、クラウチナが塞(ふさ)いだ。 「船体転回! 進行方向から西に90度!!」 操舵室に向かって、クラウチナが叫ぶ。 「マーメイドを壁にするつもりですか!?」 アメリアの非難の声も、クラウチナは予想済みのようだった。 「アタシ達の仕事は、モービーディックを確実に仕留めてくる事」 槍をかつぎ直して、船体の真中へと駆け出した。 「『今回はダメでした』じゃ、プライベーティアは務まらないんだよ!」 白鯨の進行方向をふさいだマーメイドに、先程よりも強い衝撃が走る。 「アンタはアンタの仕事をしな! ――アメリア!!」 ――そして、信じられない事に、 槍を振り上げたクラウチナが、船縁に足をかけて外へと踊り出た。 |
12415 | Von Voyage 9 | 水晶さな URL | 2002/12/28 01:01:44 |
記事番号12044へのコメント 10話で完結予定ですが・・・年内に書きあがるといいなぁ(汗)。 ================================= 力が抜けそうになる膝を、 必死に柱にしがみつく事で何とか堪(こら)えた。 覚悟の重さが違う人間に、圧倒的な強さを見せつけられたようだった。 「・・・・・・っ!」 震えの止まらない足を叱りつけて。 アメリアが柱から手を離した。 船体の向きが変わった為、自身も向く方向を変えて、 深呼吸をしてから腕を上に伸ばす。 「永久を彷徨(さまよ)う悲しきものよ、歪(ゆが)みし哀れなるものよ」 アメリアに近付こうとしていた死霊が、発生し始めた清浄な力に悲鳴をあげて逃げ帰る。 「我の浄化の光もて、世界と世界を結ぶ道」 自身を中心として、光が円を描(えが)くように取り巻く。 その直径が、海上までも含んで。 海底からひきりと、金属が軋(きし)む手ごたえを感じた。 「歩みて永久(とわ)に――」 目標に向かって下ろそうとした手が空中で止まった。 縛りつけられたように。 アメリアが驚愕に自身の手を見上げると、 粘着性の糸がかすかに光っていた。 (――クモの、糸?) 眉をひそめた瞬間、両手首に激痛が走った。 「――うぅっ!?」 糸の絡(から)められた両手首から、血が滲(にじ)んだ。 最後まで唱(とな)えられなかった呪文が、光を散らしながら霧散していく。 体制の変えられない状態で、アメリアが何とか首だけを後方に回す。 壁に、巨大な蜘蛛が貼り付いていた。 「・・・・・・」 粘着性の糸が、鉄線のように肌に食い込む。 動かせない指先は、魔法の目標物を指す事もできなかった。 思考も痛みに邪魔されて、正常に活動しない。 「――っ」 手首を切断されるよりはと、アメリアが身をよじって足を振り上げようとした時、 視界を赤い光が横切った。 数秒後に糸が切断されて、不安定な体制にさらされたアメリアが後方に倒れる。 うっかり手をついた為、ぶり返した傷の痛みに悲鳴をあげた。 「スマン、遅くなった」 「ゼルガディスさん!」 糸を剣から振り払ったゼルガディスが、続けざまに蜘蛛に剣先を突き刺す。 避ける仕草も見せなかった蜘蛛が、アストラルヴァインの光に溶かされるように消滅した。 「こいつもアルカトラズの何かか?」 両手首に治癒魔法を唱えながら、アメリアが立ち上がった。 「わかりません・・・昨夜から居たみたいです・・・詠唱を邪魔されて・・・」 思い出したように、アメリアが船縁に走り寄る。 「!?」 空中の一点から海へと、同じ蜘蛛の糸が何本も垂れ下がっている。 獲物を巻き上げるように、するすると引かれ、 鞘の無い剥き出しの剣が海面から姿を現し、 糸の出現地点から唐突に伸びた異常に白い腕が、その柄を握った。 現れた時と同じように突然にそれは消えて、 船の周囲を取り巻いていた死霊の気も消失する。 「・・・・・・魔族、か?」 ゼルガディスが呟(つぶや)いて―― 再び起こった震動に、二人が身構えた。 その揺れは衝突ではなく、波によるものだった。 マーメイドから少し離れた海面に、白い体躯(たいく)が盛り上がる。 その背に突き立った槍と、槍から手を放さない娘と―― 「クラウチナさん!!」 アメリアがレイ・ウイングを唱えかけ、 後ろからゼルガディスに肩を掴まれた。 非難の声をあげようと振り向くと、ゼルガディスはラグーンを見つめている。 ラグーンの船首には、銛(もり)を構えたシリウスが立っていた。 「邪魔をするな」 ゼルガディスが戒(いまし)める。 「あいつらの戦いだ」 「・・・・・・」 アメリアはただ、船縁を握り締めた。 「シリウス!」 クラウチナが合図の声を上げて、 応じるようにシリウスの手から銛が放たれる。 勢いを削(そ)がれる事なくそれは白鯨の皮を貫(つらぬ)き、 モービーディックが咆哮(ほうこう)して、激しく身をよじる。 海面から体の半分近くが表出して、 その勢いにクラウチナが槍から手を滑らせ、海に投げ出された。 「――最後の一発だべ!」 その瞬間を狙っていたように、ビストが砲弾を発射し、 最大の火薬を詰め込んだ砲弾が、白鯨の頭部に命中した。 「・・・やった!」 ゼルガディスが声を上げ、 白鯨が巨体をゆっくりと倒し、はね上がった飛沫(しぶき)がマーメイドにまで届いた。 船縁に手を掛けたまま、必死にアメリアが海面を探す。 「・・・クラウチナさんが・・・上がってこない・・・」 「何だと!?」 「ドン!?」 マーメイドのゼルガディスとラグーンのベティの声が重なり、 その2秒後に船縁に足を掛けたシリウスが、上着を脱ぎ捨てて海に飛び込んだ |
12424 | Von Voyage 10 | 水晶さな URL | 2002/12/28 13:06:20 |
記事番号12044へのコメント 『もう、決めたから。シリウスが何て言ったって、アタシ船に乗る』 数分が、何時間の長さにも感じられた。 縄付きの浮輪がマーメイドから海に投げられ、 ぐったりとした娘を抱(かか)えたシリウスが、ずぶ濡れのままマーメイドの甲板に登った。 アメリアの前にクラウチナを抱きかかえたまま、床に膝を付く。 「頼む」 銛(もり)に引っかかったのか、血まみれのクラウチナから視線を離さずに、 「――チナを助けてくれ」 『もう決めたんだから、何言っても無駄だよ』 『チナ』 『アタシ、待ってるのは性に合わないんだよ』 「・・・・・・」 手の平から発された癒しの光が、 段々と弱まり、最後に瞬(またた)いて、治療が終了した。 意識が朦朧(もうろう)としているのか、半眼にしかならない瞳でこちらを見る娘に、眠るよう促(うなが)す。 「細胞の再生を、言わば外側から動かしたようなものですから、傷跡付近に違和感があるかもしれません」 塞(ふさ)がったばかりの腹部の傷跡の上に、ガーゼを乗せる。 「しばらくは安静にしていて下さい。違和感も数日で治まります」 目を閉じて首の向きを戻したクラウチナが、長い息を吐いた。 「・・・やっちまった、かな」 「・・・何をですか?」 白鯨は確かに仕留めた筈だが、とアメリアが思う。 「アタシ船に乗る時、シリウスと約束したんだ。足手まといになるような事をしたら、その時は諦めて船を降りるって」 「クラウチナさんは白鯨を仕留めるのに一生懸命だったんです!」 アメリアが即座に言い返したが、クラウチナは何も言わなかった。 「・・・そんなの、ないですよ。皆わかってるじゃないですか・・・」 「シリウスには皆逆らえないよ。決定権を握るのはシリウスさ」 それ以上話を続ける気がないのか、クラウチナが向きを変え、アメリアに背を向けた。 「悪いけど、寝かしてくれないかい。体が重くてね」 「・・・・・・」 納得のいかない思いを抱(いだ)きながら、 アメリアが渋々と部屋を出た。 ラグーンの狭い廊下を数歩も進まない内に、当の大男が廊下を塞(ふさ)ぐように歩いてくる。 「・・・シリウスさん」 「チナは」 アメリアの様子で、大事は至らなかった事を確信したらしいシリウスがいつもの様子で尋ねる。 「傷は塞がりました。ただ数日は安静にしていた方が・・・」 「・・・」 再びクラウチナの部屋へと進もうとしたシリウスの前に、アメリアが立ち塞がった。 「クラウチナさんを、船から降ろすつもりですか?」 「・・・」 しばらくアメリアを見下ろしていたシリウスが、ゆっくりと口を開く。 「クラウチナを治療してくれた事には感謝する」 その先の言葉を読んで、アメリアが声を荒げた。 「クラウチナさんは一心に頑張ったんです! その気持ちを無駄にするつもりですか!?」 「チナとの約束だ」 最初から船に乗せる事は反対だった。 誰かが「クラウチナが上がってこない」と叫んだ瞬間。 海中で彼女を探すまでの時間。 沈んでいくクラウチナの手を掴んだ時の、あの冷たさ。 今思い出しても――背筋が冷たくなる。 それでも前から退かないアメリアが、きっと顔を上げた。 「クラウチナさんが船に乗ると決めた決意の重さを、シリウスさんはわかっていますか?」 それは意地ではなく、本当に理解してもらえない、悲しみからの言葉だった。 「隣に立つ事を選んだ時から、どんな傷も苦痛も」 『そばにいるって決めた時から、どんな傷だって痛みだって』 「覚悟の上だから」 『覚悟してるんだから』 「後悔など、しないんです」 『後悔なんか、しないんだよ』 黒髪の小柄な少女と、 陽に灼けた幼なじみの娘の、真摯(しんし)な瞳が何故か重なった。 離れた所で軋(きし)んだ床板の音にアメリアが首を傾(かたむ)け、 そのアメリアの視線に気付いたシリウスが後方を振り返る。 プライベーティアの船員全てが狭い廊下にひしめきあって。 その前列にベティとビスト、グラッツェが並んでいた。 「ドン、クラウチナ様はもうドンだけのものじゃないノ」 「んだ。マーメイドを仕切れるのはクラウチナ様しかいねぇべ」 「野郎共の心の華(はな)を奪うつもりですかい? ドン」 シリウスの行動に一度も異を唱えた事の無い船員達が、 初めて彼に、立ち向かった。 「シリウスさん」 アメリアの呼びかけに、シリウスが首の向きを戻す。 「――それでも、クラウチナさんを船から降ろしますか?」 「・・・・・・」 視線をアメリアから船員達にゆっくりと移し、 無言のままシリウスが足を進めた。 船員達が戸惑った表情を浮かべながらも道を開ける。 「ドン?」 「クラウチナに言伝(ことづて)を」 後ろ向きのまま、低い声が漏れる。 「一週間陸で療養。それ以上の休暇は無理だと」 速度を変えず彼は甲板へと消え、 3秒後に言葉の意味を理解した船員達が歓声をあげた。 その声を聞きながら、 扉に耳を押し付けていた娘が、嗚咽を漏らさぬよう必死で口を押さえていた。 そして―― 「エルンゼアに来る時は、必ず会いにきてネ。ベティ腕ふるっちゃうから」 「はい、是非」 ベティと(力強い)握手を交わしながら、アメリアが微笑んだ。 「勿論ゼルちゃんも一緒にね?」 「だからちゃん付けで呼ぶな」 相変わらずゼルガディスは、ベティとある程度の距離を保っていた。 「ビストさんもお元気で」 「会者定離は世の定めだや。縁がありゃ又会うべな」 それでも握手した手はしっかりと握り締められて。 「あー握手だけなんて勿体ねぇ。ここはやっぱ・・・うぐぇえ」 調子に乗ってアメリアの手の甲に接吻しようとしたグラッツェが、後ろからゼルガディスに首を絞められていた。 「次に会う時は一人前の船乗りになってるっすよ!」 ルチがモップを片手に手を振った。 「そろそろ出航だ、アメリア」 「あ、はい・・・皆さんお元気で! クラウチナさんとシリウスさんにも宜しく伝えて下さい!」 エルンゼアの自宅で療養中のクラウチナに、シリウスが付き添いで行っていた。 皆に最後の声をかけると、アメリアが慌ててタラップを登っていく。 久方ぶりの晴天で、エルンゼア発の渡航船が猛(たけ)るように汽笛を鳴らした。 波止場を離れる船に、プライベーティアの船員達が手を振って見送る。 彼らの国の言葉で、旅の無事を祈りながら。 「――von voyage!(良い航海を!)」 アルカトラズ探しの旅は、 まだ、続く。 |
12457 | あぁぁ・・・終わってしまった・・・(T△T) | 雫石彼方 URL | 2002/12/31 00:07:28 |
記事番号12424へのコメント こんばんわー。 旅から戻ってきたら一気に終わっていてびっくりしました。シリーズはまだ続くからルーちゃんとは会えるものの、これでベティさん達とはお別れなのですね・・・(涙)引き際が肝心とは知りつつも、大好きだっただけに寂しくてしょうがないです。 アメリアに紅茶を誉められて「女の子っていいわぁv」と体をくねらせつつ、おかわりを求める野郎共に「黙らっしゃあ!!」と豹変するベティさん、その情景がありありと浮かんでくる魅力的なキャラで、本当に大好きでした。 毎回小ネタ的にアメリアにちょっかい出そうとしてはことごとく阻止されてもんどり打ってるグラッツェさんが大好きでした。 大人ぶりたいのにまだまだ子供な可愛いルチくんも、独特の喋りが温かいビストさんも、ザ・海の男なドンも、素敵なお姉さんなクラウチナさんも、みんなみんな大好きでした〜(T△T) またのご登場を心よりお待ちしております!! そして来年も、さなさんの素敵な小説が読めることを楽しみにしてますね(^^) お疲れ様でしたー!! |
12477 | ちょっと駆け足でした(泣) | 水晶さな | 2003/1/1 01:21:25 |
記事番号12457へのコメント 雫石さん今晩和。そして明けましておめでとうございます。 いつも使用しているパソコンが使えなくなるので、切れない内にと年内で慌てて書き上げました。・・・もうちょっと長くしたかったのですが(泣)。キャラクターが多くて掘り下げて書けなかったのがちょっとアイタタです。 ドン・シリウスはもっとカッコイイ筈だったのですが(泣)。 キャラが好かれたようで、それだけが救いです(感涙)。 アルカトラズシリーズ自体はまだ続くので、次はもうちょっとじっくり書きたいです。 コメント有り難うございました。今年も宜しくお願い致します。 |