◆−Eternal Seed Act.11−夏青龍 (2002/12/23 11:34:04) No.12281 ┣Re:Eternal Seed Act.11−D・S・ハイドラント (2002/12/24 15:17:21) No.12316 ┣Eternal Seed Act.12 −夏青龍 (2002/12/25 16:36:35) No.12346 ┃┗Re:Eternal Seed Act.12 −D・S・ハイドラント (2002/12/25 18:50:04) No.12354 ┃ ┗いつもありがとうございます!−夏青龍 (2002/12/26 08:27:46) No.12361 ┣明けましておめでとうございます!−夏青龍→飛龍 青夏 (2003/1/5 11:33:43) No.12575 ┣Eternal Seed Act.13−飛龍 青夏 (2003/1/6 14:58:47) NEW No.12622 ┃┗Re:Eternal Seed Act.13−D・S・ハイドラント (2003/1/6 22:50:07) NEW No.12636 ┃ ┗感想ありがとうございます!−飛龍 青夏 (2003/1/7 08:49:48) NEW No.12644 ┗Eternal Seed Act.14−飛龍 青夏 (2003/1/7 11:12:53) NEW No.12647 ┗Re:Eternal Seed Act.14−D・S・ハイドラント (2003/1/7 20:40:35) NEW No.12662 ┗それぞれのイメージ−飛龍 青夏 (2003/1/7 23:09:15) NEW No.12672
12281 | Eternal Seed Act.11 | 夏青龍 E-mail | 2002/12/23 11:34:04 |
こんにちは。夏青龍です。 10話からかなり時間がかかってしまいました。一度13話辺りまで話をつくったのですが、今後の展開を考えながら手直しをしていたら時間が・・・。 今回は王宮編最終話です。 では11話! ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 暗い闇の中で。 黒い闇の中で。 あなただけが私の光。 ただひとつの、希望の光。 Eternal Seed Act.11 理由 光の剣。 そうとしか形容のしようがないものを、ヴァルスが青年に向かって構えている。 「ぐっ…」 クレスタは袈裟がけに切り裂かれた肩の辺りを抑え、数歩さがった。青とも紫ともつかぬ色の血液が、ぽたぽたと地に落ちていく。 「それが伝説に残っている武器ですか……さすが」 ヴァルスは無言で剣を持ったまま前へ出る。クレスタは杖の先を地面に向け、もはや戦う意志をなくしたかのようだった。 「伝説の浄化神12人が持っていたという12の武器……その中でも一番強力だったとされる最強武器……」 ――裂光剣(レイ・ブレード)。浄化神の力をそのまま形にしたといってもいい、その武器の名だ。 かつて不老不死者の暴走体により世界が壊滅しかけた際、それを救った12人の浄化神のうち1人が所有していた、最強の、対不老不死者武器。そのほかにもいろいろな形をした武器を持って、12人の浄化神は世界を救ったとされている。だが、その武器が継承されているのは――。 「なるほど…あなたは伝説の浄化神の直系というわけですか……」 その武器は、普段は武器としての形を持たない。浄化神がその意志により具現化させるものなのだ。それゆえ、その武器は伝説の浄化神の直系の子孫にしか受け継がれず、たとえその候補者が複数いたとしても、継承されるのは1人だけなのだ。ヴァルスにも姉がいるが、彼女は能力も持たず、受け継がれたのは後に生まれたヴァルスであった。 「今退くのなら、見逃してやってもいい」 クレスタはヴァルスのその言葉にふっと笑い、飛翔魔法を使って空へと浮かんだ。 「そうしようかと迷っているんですよ。ファロンさんがまだ、遊び足りないようですし」 「!?」 気配を感じ、振り返ったヴァルスは、ファロンの爪をレイ・ブレードで防いだ。金属音を立て、2つがぶつかり合う。 何度か斬り結び、ばっと離れたファロンはクレスタに言った。 「伝説の武器を持つ人と手合わせできるなんて嬉しいわ♪だってこれで私が勝ったら、伝説だって無意味なものになるでしょう?」 「そういうことになりますね、ファロンさん」 「クレスタちゃんは帰ってもいいわよん。私だって危なくなったら逃げるわよ」 「そうですか。それじゃあお言葉に甘えて」 すぅっとその場から離脱しようとするクレスタに、フォルが叫ぶ。 「待て!」 しかし待てと言われて待つような男ではない。そのまま戦線離脱し、姿が見えなくなる。 (ちくしょう!逃がしたっ!) 少し離れた場所で激戦を繰り広げ始めたヴァルスとファロンを見、フォルは心の中で怒鳴った。魔法の詠唱をしていれば、クレスタの足止めくらいはできたかもしれないのだ。自分で自分に腹が立つ。 「フォル、シーウのケガの手当て手伝ってよ…」 「あ、わりぃ!」 弱々しい双子の妹の声に気付き、そちらへ向かう。自身の怪我は治してあるものの、シーウのケガの手当てが進んでいないところを見ると、どうやら自分のケガで手一杯だったらしい。 「治癒聖風(ヒール・ウィンド)」 シャルとは違う呪文を唱え、シーウの手当てを開始する。回復魔法としてはシャルと同じレベルのものだ。 「シーウ、もう少し待ってて。すぐ終わるから」 「わかってる…」 意識はあるが、立ち上がることができずに地面に仰向けになりながらシーウは呟くように言う。まさかクレスタがあんな怪力で腕を折るとは思っていなかった。未だ『虚空』を手にとる事すらできずにいる状態だ。 「っ…」 「だ、大丈夫?」 両腕の骨を折られているのだから当たり前なのだが、激痛のせいで頭がうまくまわらない。さっき返事をするのも大変だったのだ。下手に身を捩ると更に痛みが襲ってくる。しかし冷やしてもいない骨折箇所をだらりと地面に投げ出している体勢のため、どのみち間欠的に痛みはやってくる。 (ヴァルス……) 彼女がそれでも動こうと――再び戦おうとしているのはヴァルスのためだった。ファロンという女性もかなりの強敵だ。フォルとシャルに手出しをしないのもいつまでかなど解らない。 だんだんと痛みが引いてきて、やっと起き上がれるようになった。 「すまない。大丈夫か?」 2人に問いかけ、シーウは『虚空』を手にとる。 「うん。平気。腕に違和感とかはない?」 「ああ。それじゃ、おまえたちは少し離れてろ」 「ええ〜、また隠れるのか?」 不満を露にしたフォル。さっきまでヴァルスと一緒に戦っていたのに、シーウにはどうも子ども扱いされてしまう。10歳も違わない姉のような存在であるはずが、いつの間にやら親と子のように諭されてしまうのだ。 「あのファロンって女性は危険だ」 「わかった。フォル、行くよ」 「っておい、シャル!!」 無言のままにシーウは2人を見送った。双子なのだから兄と妹などおかしいと、2人は幾度となく言っていた。だが、今回はシャルのほうが姉のように見える。 (ヴァルス……!) シーウは、対峙する2人の間に突っ込んでいった。 「はっ!!」 気迫と共にファロンの爪が迫る。ヴァルスはそれを、さきほどとはうって変わって滑らかな動作で受け流す。レイ・ブレードはヴァルスの力を実体化させたようなものだが、その力の増幅器の役割も果たしている。潜在能力を引き出している、とでもいうのだろうか。 気配に気付き、ヴァルスはすっと後ろにさがる。そこへシーウが突っ込んできたのだ。 「なっ…!!」 しまった、と言う顔でファロン。シーウに腕を掴まれ、身動きが取れない姿勢になっている。ヴァルスに集中しすぎて、シーウの気配に気付かなかったのだ。 「動くな。動けば斬る」 「……」 シーウは彼女の喉に『虚空』をつきつけていた。しかし、刀の峰で。 「優しいのね。さすが“混沌神”。私たちの目的達成には不可欠な人だわ」 「お前たちの目的は何だ」 くすりと笑い、ファロンは言った。 「世界の秩序を崩す。さっきもクレスタちゃんが言ったわよね?そのために、あなたの力も必要なのん。私たちの目的は、あなたの望みと同じこと――」 「私の望みはこのままでいることだ。…別に時を止めるというわけではない。ただ、みんなと一緒にいたいというだけだ」 「本当かしら」 全く信じていない様子で、ファロン。 「あなたは人々から疎外され、苦しみ、悩み、死にかけた。あなたは世界を憎んだでしょう?自分を見放した世界を恨んだでしょう?だったら私たちのところに来ればいいのよ。あなたの願いはかなえてあげられる」 「私は――」 「私たちはいつでもあなたを受け入れられるわん。でも、そちらはどうかしらね……」 意味ありげに言い放ち、ファロンはシーウの刀を爪で弾く。シーウはその様子を、なぜか冷めた目で見つめていた。 「クレスタちゃんに言ったとおり、私はこれで帰るわん。秩序を崩す第一歩として女王の暗殺計画を実行しようとしたけど、やっぱり娘に殺させるのは酷だったかしらね。あの子には呪いを解くには母を殺すしかないと吹き込んだのに」 「おまえ…!!」 ヴァルスがファロンを睨みつける。ファロンはふわりと宙に浮くと、 「この世界の秩序があなたを疎外していること、よく考えておいてね。“混沌神”様」 言ってそのまま逃亡する。ヴァルスはシーウに向き直り、 「どうしたんだよ!おまえ、あいつが逃げるのをただ見て……!」 言いかけて、口をつぐむ。シーウの瞳から、光が消えていた。いつもの、あのほんの僅かな光すらも、消えていた。虚ろな瞳で、ファロンが消えた方向を見つめている。 ――昔の眼だ。 ヴァルスはそう悟った。彼女の、“あのころ”の瞳だ。 「シーウ」 名を呼び、正面に回りこんでもう一度その名を繰り返す。 「シーウ」 「…あ」 「大丈夫か?」 「……すまない」 俯き、呟くように謝罪の言葉を口にする。ファロンを逃がした事に対してなのだろうか。 「ケガは?」 「…シャルとフォルに治してもらった」 「そうか」 そこで目を合わせて優しく笑うと、彼はこう言った。 「――良かった」 「――!………」 かあっと頬を紅潮させ、シーウは目をそらす。 「フォル、シャル、もう出てきていいぞ〜」 「大丈夫っ!?」 「あの女は?」 心配げな少女の声と、警戒心を完全には拭いきれていない少年の声。シーウはその声の内容すら、はっきりとは理解していなかった。いまだに、動悸がおさまっていなかったからだった。 「――以上です」 「そう、ですか……」 目が覚めた女王に、事件のことを報告すると、女王は青ざめた顔で力なく返事をした。 女王の話によると、いつクリア王女とファロンが入れ替わったのかははっきりとしていないらしい。数日前のゴールドの件の時なのか、それより前なのかもわからない。 ファロンやクレスタの話を総合して考えると、どうやら奴らはこの国の統率者を殺す算段をしていたらしい。 まずクリア王女とファロンが入れ替わり、クリア王女は呪いをかけて地下牢に閉じ込める。そしてさらに、呪いを解き、人の姿に戻るには『女王を殺害するしかない』と吹き込んだ。そして入れ替わったファロンは何食わぬ顔で王城の中で女王暗殺の計画が成功するよう、あちこちで根回しをしていた。城のつくりを調べるのはもちろん、どのような時間帯であれば効率よく計画が進むかなど、王女の姿をしていろいろなことを調べまわっていたのだ。 本物のクリア王女は地下牢で呪いを解く方法を模索していたらしいが、どれも失敗に終わり、何日かが過ぎてしまった。早く地下牢からでなければ、ファロンが母親を殺してしまうかもしれないと思い、何度も呪いの解除を試みたらしい。 「ゴールド様をお連れしました」 「入って」 部屋の扉から、金の髪をした女性が入ってくる。ゴールドだ。 シーウたち4人はそちらへ目をやり、ゆっくりと彼女が椅子に座るまでを見届けた。 「すみません。事情を話すのが遅れてしまって」 「いいえ。ゴールド……」 少し悲しげな瞳で、シルヴァーは双子の姉へ言った。 「本当に…いつになったらこの虚弱体質は治るのかしら…」 日に当たっていないからというだけでなく、もともと病弱な所為で白い肌。走ることも、物をまともに投げたりする事すらままならない、あまりに弱々しい体。シーウは、初めて会ったときにその病のことも全てわかっていた。おそらく、ヴァルスも。 「私が、クリアさんの部屋へ行ったとき、すでにクリアさんは偽物とすり替わっていました」 「それを、グレイに伝えたのね?」 「ええ。私ではどうにもならないことでしたから…」 ゴールドは時々咳き込みながらも話を続けた。その話によると、今回の件はこういった具合に進行したらしい。 まず、クリア王女が呪いをかけられたのはゴールド女王がそれに気付くより前だったという事。つまり、ゴールドがクリア王女の部屋へ行って消えるよりも前。 下手に敏感な体のせいで、侵入者がいることを悟ってしまったゴールドは、思うように動かない体を引きずってその気配の場所へと歩いていった。誰かに付き添いを頼まなかったのは、そうするに適した人物がいなかったからだという。いつも自室の近くの部屋にいる医者では絶対に出歩く事を許さなかっただろうし、並みの衛兵ではゴールドの言う気配を感じ取ってくれるわけもない。必然的に、彼女は1人で出歩かざるをえなくなったのだ。 気配のする方へ歩いていくと、そこはクリアの部屋だった。クリアの姿は既に無く、クリアの形をした偽者がゴールドの目の前に立っていた。偽物――ファロンは動きの鈍いゴールドをあっさりと昏倒させ、塔の頂上へと運んだ。わざわざそうしたのは、ゴールドを疑わせて王宮の中を疑心暗鬼でいっぱいにするためだ。 「私はあまり動けません…だから、グレイさんに手紙を書いたんです」 「私が手紙を受け取ったのは、クリアの事件の翌日…いつものカリキュラムが終わったときでした。そのときに伝書鳩が飛んできたんです」 グレイ王子の言葉に、 「伝書鳩は私が扱う事が許されたたった一種類の動物でしたから……きちんと調教しておいた甲斐がありました」 「その手紙を読んで、私は相手が不老不死者だと見当をつけて対処法を考えていたんです」 シーウが見た本の題名の謎はこれで解けた。2人は手紙でやり取りをしながら、議論をしていたらしいのだ。 「グレイさんには、本当に感謝しています。自分が動けないからと、勝手に手紙を送りつけてきた人間を手助けしてくれて……」 「いえ。ゴールド様。私はあなたのためだけではなく、妹や母のためにも動いていましたから」 「本当に、ありがとう」 まるで、むしろゴールドとクリアよりもずっと親子のように信頼しあった声。 事件が表面化したのは、ファロンがシャルにまで干渉してきたからだ。おそらく彼女は、いざとなったときはシャルを人質に取りやすいよう、クリア王女の姿でわざわざあの夜部屋までやってきたのだろう。あの時シーウが感じた違和感は、そのせいだったのだ。 「話の内容はだいたいわかりました。もうやつらがここへ来る事は無いでしょう。一度計画が失敗したわけですから、ここへきてもあなた様方の誰かがお気づきになられる。どのみちそうのなるのならば、奴らはここには手を出さないはずです」 シーウが断定的に言った。 シーウがクレスタに心を読まれたとき、逆にシーウは読まれていると言うことを自覚していた。つまり、シーウにはクレスタが能力を使っていることがわかってしまうのだ。そして、カウンターのように同じ能力を行使できる。自分がその同調能力の標的にされているときならば――。 ――“混沌”。 全ての源にして、全ての還る場所。そして、それゆえに不滅であり、また真に混沌としている。 真の混沌の意味は、“悪い”や“良い”だけではすまないことがらを含んでいる。 “そこ”では――“混沌”では全てが混在し、変貌し、誕生する。そして、影響しあう。永遠に続く螺旋のように、全ての森羅万象は互いに影響しあい、そのたびに性質を変えつつ、存在自体を変形しながら存在する。だが、しばしばその影響に耐え切れず、消滅するものもある。その空白を埋めるように、再び何らかの存在が“誕生”する。 “全て”が存在し続ける、場所。 それが、“混沌”。 その力を受け継いだ、シーウ。彼女は、彼女の力の限界は、未だ誰にもわかっていない。もちろん、本人にすら――。 事件の話が終わると、シーウたちは王城を出て行くと告げた。もう自分たちがここにいる理由もないだろうと。 「ああ、みなさん。報酬をまだ差し上げていません」 「え?」 「あなた方が助けてくれたおかげで、娘も私も無事でした。何か望みがあれば言ってください。私の権限でできる限りはその願いをかなえてあげられます」 シルヴァーはにっこりと笑って言った。フォルとシャルは大はしゃぎで、ヴァルスが何とか押しとどめた。 「何がいいですか?」 「俺は…じゃなくて、私は剣が欲しいです」 「私は王宮の魔法書を一冊いただければ嬉しいです!」 双子はにこにこしながらいい、シルヴァーはいいでしょうと笑顔で応える。 「私は……現金で500Gをお願いしたい」 ヴァルスが旅の事を心配してか、現金を要求する。そして、 「わかりました。では、シーウさん」 「……」 問われてシーウは少し考え、 「私は……」 躊躇いがちに続けた。 「畏れながら、何も要りません。私は何もしていませんから」 「なっ、それは違うだろう!お前は私と妹、そして母上を助けた。それは何もしていないということにはならない!」 驚いたように、グレイ王子が言う。わずかに怒気がふくまれているように感じるのは、願いをかなえられないだろうという予測をシーウがつけていると思ったからだろう。シルヴァー女王がそちらを見ると、グレイ王子は引き下がった。王族として、感情を露にして怒鳴るなどという事は控えるべきと教えられているのだろう。特に彼は次期国王なのだから。 「でしたら、ひとつお願いがあります」 「なんですか?」 「私がここにいたということを、王宮の外へもらさないで頂きたい。そちらも、その気でしょうが…」 「…そんなことで、本当にいいのですか?」 シルヴァー女王は少し怪訝そうに言った。シーウは頷く。真剣そのものの瞳で。 もし、シーウが王宮にいたということが外にわかれば、ほぼ間違いなくこの王国は批判される。あちこちで噂に尾ひれがついた“悪名”である“混沌神”。そう呼ばれる人物を、王族とまで会わせてしまっているのだ。ましてシーウの力が強大なのは、噂の尾ひれがなくとも事実。隣国にシーウを“雇った”などというように誤解をされては、ますます困る事になる。 そしてなにより、シーウはここに自分がいるということを知られたくなかった。ただでさえ目立つ容姿をしているのだ。紫色の髪と瞳など、彼女以外にそうそう見つかるまい。そんな自分がこれ以上目立つのは嫌だった。当然ながら、自分と一緒に居る3人に迷惑がかかる可能性が大きいのだ。仲間の安全確保のためにも、あえてシーウは自分が存在していないように振舞おうとするのだ。 そんな姿は、部外者の視界からはあっさりと消え、事情を知るものにはあまりに痛々しく映るのだった。 シルヴァー女王は少し悲しげな顔をするが、すぐ笑顔を取り戻し、3人にそれぞれ報酬を準備するよう伝えた。そして、シーウ達はその部屋を後にした。 カッ…カッ… 靴音が、闇に響いた。 「おや、ファロンさん」 「クレスタちゃんじゃないのん♪」 「やはり、逃げ帰ってきましたか」 くすりと笑い、クレスタは言う。嫌味っぽく聞こえなくもない声だ。ファロンは明らかに怒りを抑えている顔で、 「だってレイ・ブレード持ってる“浄化神”と、“混沌神”様が一緒にかかってきたのよ?私ごときに、“混沌神”様が止められると思ってるのん?」 「いいえ」 クレスタは未だ嘲笑じみた笑いを崩していない。ファロンは長い髪をなびかせ、踵を返して大またで歩み去った。くすくすと笑うクレスタを残して。 「――どうした」 「スウォード様」 人影が現れた。黒い影。そうとしか形容のしようがない人影だ。背丈からして、おそらく男だろう。 「ファロンは負けたか」 「負ける前に引き返してきましたよ」 「お前も、だろう?」 「……そうですね」 クレスタはさっきとは違う笑みを浮かべつつ、男の方から目をそらした。 暗い色の神官服をまとう男は、そっとその頤をあげた。視線の先には、奇妙な形のモニュメント。十字の上に、更にずらして十字を重ね、十字の交差している場所に黒い宝石がはめ込まれている。黒い宝石はその闇色をそのまま周りにまで放出し、辺りを暗くしているようにも見えた。 「我々の考えが間違いだと、お前は思うか?」 男がクレスタに問うた。クレスタは首を振り、 「そんなことはありませんよ。あなた様の心の傷や、“混沌神”様…シーウさんのことを考えれば……」 「我々にとって、時間はあまり意味を持たない」 クレスタの言葉を中途で遮り、男は再び口を開いた。 「我々は“時”と“死”という呪縛から逃れた。つまり時間を気にせずとも良いということだ。焦って計画を潰す必要はない」 「私たちは不老不死者とは違いますが、似ていますからね」 男は不意にクレスタの首に手をかけた。その手は人間らしい色を失っている。白すぎる肌。だが、それ以前に、その指先の爪は異常に鋭く長かった。まるで獣の爪のように。 「私を怖いと思うか?」 「いえ。あなた様は私の恩人です。ファロンさんにとっても、“皆さん”にとっても」 男がほんの少し手の力を強めた。爪はクレスタの首に食い込み、血を流させる。しかしクレスタは大して痛くもなさそうに男を見つめている。 「これでも、か?もう少し力を込めれば、頚動脈も危ないのだぞ。人間だった頃の記憶を忘れられるわけではあるまい」 「それでも、あなたは私達にとっては救世主なんです」 例え、他者にとっては死神であっても。クレスタは心のうちで思った。 男はクレスタから手を放し、背を向ける。被っていたフードを外し、その顔を見せた。 白き仮面の如き肌の白さ。そこへ綺麗に配置された瞳や唇。かなりの美青年であった。しかし、それは、その片方の瞳がぎらつく紅い色でなければ。その漆黒の髪が、顔の半分を覆っていなければ。そしてその表情が、常人とはかけ離れた価値観をもつ、狂人のようなものでもなければ。 「まったく…おまえは純粋で私を信じきっているようだな」 「私はあなた様を信じます。例え、あなた様の行く道が血で染まっていようとも。その道が、暗い闇へと続くものであっても」 「…やはりおまえは私の腹心だよ」 暗い闇の中、2人はお互いに信頼を寄せていながら、決して頼ろうとはしていなかった。少なくとも、今はそう見える。 「ひとつ、お聞きしたいのですが」 「何だ?」 「シーウさんを仲間に入れたとして、彼女自身はどうするのです?」 男は笑った。笑みという形から必要最低限しかその要素を再現していない。しかしそれでも邪悪とはっきり解る、笑み。 「あの女の器と力が引き裂けないのであれば仕方がないが、はっきり言って女自身はどうでもよい」 「では、私に下さいませんか」 「ほう?」 男は面白そうに片眉を上げた。 「彼女を、私にくださいませんかと言ったのです」 面白そうに、男はくっくっと笑った。 「そこまで言うのなら、よかろう。まあ、私の気が変わらねばな…くく…」 笑いをこらえているかのように、男は震えていた。クレスタは礼を言うと、その場を立ち去った。 「さあ、来るがいい。“混沌神”。汝の“理由”は、私たちが塵も残さず消し去ってやろうではないか…!」 邪悪な笑いを静かな広間に響かせ、男は天を仰いだ。黒い宝石は、男の声に反応するかのように、その暗い色の輝きを放った。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 敵さんの本拠地が少し出てきました。クレスタやファロンは敵の幹部のような位置にいるのですが、ほかにも敵の組織の人間は多数います。 次回は新キャラ登場です。シーウのことを”知っている”人物なのですが、シーウはその人の事を知りません。二人の関係はなかなか複雑になっていくのですが、それ以前にシーウはよくわからん人物から好かれてしまう人間のようで・・・(汗)。 では。 |
12316 | Re:Eternal Seed Act.11 | D・S・ハイドラント | 2002/12/24 15:17:21 |
記事番号12281へのコメント お久しぶりです。 読み逃げ企んでいました。すみません > 10話からかなり時間がかかってしまいました。一度13話辺りまで話をつくったのですが、今後の展開を考えながら手直しをしていたら時間が・・・。 おおっ私には到底まね出来ないようなことを・・・(短気のため、書いたら即投稿) >「伝説の浄化神12人が持っていたという12の武器……その中でも一番強力だったとされる最強武器……」 > ――裂光剣(レイ・ブレード)。浄化神の力をそのまま形にしたといってもいい、その武器の名だ。 > かつて不老不死者の暴走体により世界が壊滅しかけた際、それを救った12人の浄化神のうち1人が所有していた、最強の、対不老不死者武器。そのほかにもいろいろな形をした武器を持って、12人の浄化神は世界を救ったとされている。だが、その武器が継承されているのは――。 Dさんのところのゴルちゃんみたいですね。(おい) >「伝説の武器を持つ人と手合わせできるなんて嬉しいわ♪だってこれで私が勝ったら、伝説だって無意味なものになるでしょう?」 伝説潰しですか > しまった、と言う顔でファロン。シーウに腕を掴まれ、身動きが取れない姿勢になっている。ヴァルスに集中しすぎて、シーウの気配に気付かなかったのだ。 裂光剣(レイ・ブレード)に気を取られすぎたようですね。 >「優しいのね。さすが“混沌神”。私たちの目的達成には不可欠な人だわ」 どういう使い方をするんでしょうか・・・。 > ――昔の眼だ。 > ヴァルスはそう悟った。彼女の、“あのころ”の瞳だ。 ううむこのままあっちにいってしまうのか? >グレイ王子の言葉に、 >「伝書鳩は私が扱う事が許されたたった一種類の動物でしたから……きちんと調教しておいた甲斐がありました」 >「その手紙を読んで、私は相手が不老不死者だと見当をつけて対処法を考えていたんです」 あの本はそういう意図で持っていたのですね >「でしたら、ひとつお願いがあります」 >「なんですか?」 >「私がここにいたということを、王宮の外へもらさないで頂きたい。そちらも、その気でしょうが…」 >「…そんなことで、本当にいいのですか?」 > シルヴァー女王は少し怪訝そうに言った。シーウは頷く。真剣そのものの瞳で。 > もし、シーウが王宮にいたということが外にわかれば、ほぼ間違いなくこの王国は批判される。あちこちで噂に尾ひれがついた“悪名”である“混沌神”。そう呼ばれる人物を、王族とまで会わせてしまっているのだ。ましてシーウの力が強大なのは、噂の尾ひれがなくとも事実。隣国にシーウを“雇った”などというように誤解をされては、ますます困る事になる。 > そしてなにより、シーウはここに自分がいるということを知られたくなかった。ただでさえ目立つ容姿をしているのだ。紫色の髪と瞳など、彼女以外にそうそう見つかるまい。そんな自分がこれ以上目立つのは嫌だった。当然ながら、自分と一緒に居る3人に迷惑がかかる可能性が大きいのだ。仲間の安全確保のためにも、あえてシーウは自分が存在していないように振舞おうとするのだ。 確かにそうですね・・・。 でも望みがないって・・・すでにこの世界に絶望してるとか・・・(おいおい) >「スウォード様」 > 人影が現れた。黒い影。そうとしか形容のしようがない人影だ。背丈からして、おそらく男だろう。 より高位の敵さん登場。 >男がほんの少し手の力を強めた。爪はクレスタの首に食い込み、血を流させる。しかしクレスタは大して痛くもなさそうに男を見つめている。 >「これでも、か?もう少し力を込めれば、頚動脈も危ないのだぞ。人間だった頃の記憶を忘れられるわけではあるまい」 >「それでも、あなたは私達にとっては救世主なんです」 スォード様もなかなか凄いことしますね > 敵さんの本拠地が少し出てきました。クレスタやファロンは敵の幹部のような位置にいるのですが、ほかにも敵の組織の人間は多数います。 > 次回は新キャラ登場です。シーウのことを”知っている”人物なのですが、シーウはその人の事を知りません。二人の関係はなかなか複雑になっていくのですが、それ以前にシーウはよくわからん人物から好かれてしまう人間のようで・・・(汗)。 どんなキャラでしょう・・・。 期待しますね > では。 はい。 では〜 |
12346 | Eternal Seed Act.12 | 夏青龍 E-mail | 2002/12/25 16:36:35 |
記事番号12281へのコメント メリークリスマス!夏青龍です。 クリスマスが来るのがとても早く感じて、もうすぐ年明けというので更に時が流れるのが早く感じます。とはいいつつもクリスマスプレゼントを期待していたり。でもこの話を読んでくれている人がいて、感想をくれたりする人がいることもすごく嬉しいことです。 では、新キャラ登場の第12話! ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 我の言葉が聞こえるのなら、答えを我に返して欲しい。 我はここにいるのか。 我は本当におまえと相反するものなのか。 Eternal Seed Act.12 前兆 ――誰だ? シーウは言った。純白の世界で。自分以外に、誰も居ないはずのこの空間で、なぜか声が聞こえたような気がしたのだ。 空耳だったのだろうか。答えは返ってこない。 ――誰かいるのか? シーウは、一歩足を踏み出した、途端、ぐらりと視界が逆転する。何も無いはずの純白の世界だったはずだが、明らかに上下が逆になっている。すぅっとし白い世界の中に影が浮かび上がり、光があることと、そこに物体があることを告げる。シーウは崖のようになった境目――どこまで深いのかは解らない――に落下しようとしている。 ――っ!! ぱしっ 誰かに、腕を捕まれた。唐突に途切れた“崖”の淵から、その裂け目に落ちた自分を支えてくれている。 ――誰…だ? 見覚えの無い、腕。ヴァルスではない。もっと力強く、しかし見かけは彼と同じくらいの太さだ。ぐいとさっきまで自分が立っていた“地面”に引き上げられ、シーウは相手の顔を見ようと顔を上げた。相手は、ロングコートを身に纏っていた。黒とも見える青いロングコートに、飾りのついたフードまで被っていてよく見えない。さっきまではなかった光が逆光になって、相手の顔を隠している。 ――混沌神。いや…シーウ。 ――何故、名前を…? ――我はお前をよく知っている。お前が生まれたときから…目覚めたときから知っている。 シーウはよくわからないという顔をした。声からして男だと言う事はわかる。が、この雰囲気は人間とはまた違った感じだ。それに、シーウは言いようのない安心感が自分を包んでいるのを知った。相手が誰かもわからないのに、この感じは一体何なのだろう。 ――おまえは、これから“奴”に会うことになるだろう。それが誰なのか、我はお前に伝えられない。だが、ひとつお前に言う事がある。 ――言う事? ――“奴”は、おまえの力が目当てなのだ。我と相反するおまえの力が…な。 ――何だ?何を言っている? シーウは男がふと身を引いたのを見て、急に不安になった。さっきまで自分を包んでいた安心感が、さっと冷え切った不安に変わる。さっきのように、突然どこかへ落ちていってしまいそうだ。怖くなって、思わずシーウは叫んだ。 ――い、行くな! ――大丈夫だ。おまえなら、我の助けを借りずとも答えを見つけられる。 ――こた…え…? ――そう。おまえ自身の“理由”と“答え”だ。その答えは、お前の存在を証明するに足るものになるだろう。 男はふわりと飛んだ。文字通り、純白の世界に浮かび上がり、シーウに言葉を残した。 ――おまえなら、大丈夫だ。 急に、光が強まり、視界が真っ白になった。本当に何も無い、ただただ遠くへと続いていく、白に。 「おいっ!シーウ!!」 「ん…?」 目を開けると、目の前にヴァルスが居た。白い世界ではなく、いつもの現実世界だ。 「どうした?うなされてたぞ」 「いや…」 シーウは言葉を濁した。夢だったのだろうか。しかし夢にしてはリアルすぎたような気もする。 (何だったんだ…?) 3日前に女王の誕生式典を見てから王都を去ったシーウたちは、宿屋で眠る事にし、昨日の夕方にここに入った。日の高さからして、それほど寝坊したわけでもなさそうだ。 (あの…心地よい感覚……) 夢の中で感じた、あの感覚。ずっと昔にも、感じたことがあるような気がする。しかしいつ、どこでかが解らない。自分の記憶は、魔剣士一族の里から始まっているのだが、それよりも前のような…。 「大丈夫か?」 「ああ。別におかしいところはない」 ヴァルスはほっとしたように表情を緩めた。そこでシーウはふと気付いた。 「おい」 「ん?」 「なんでお前がこの部屋にいる?」 シーウとシャルは同性なので同じ部屋に泊まっていたのだが、見る限りシャルも起きてどこかへいっているらしい。それはいい。だが、何故隣の部屋に泊まっていたはずのヴァルスが勝手にこの部屋に入ってきているのだろうか。 「あ〜、いや…起きるのが遅いから起こしに、な」 ははは、と乾いた笑いを響かせるヴァルス。まさか、ちょっと寝顔を見に来たなどとはいえない。まあ別に悪事を働こうとしていたわけではないのだが、シーウははっきりいって自分の弱みを握られるのが一番嫌なのだ。そんな彼女の寝顔を盗み見しに来たなどと知れたら…。 我に返り、ヴァルスはそれに気付いてばっと離れようとした。 「本当か?」 表情こそいつもと変わらないようだが、明らかに怒っている瞳である。ヴァルスは冷や汗をかきながら、自分の喉もとにぴたりと当てられた『虚空』の峰に手をかけ離れようとした。 「も、もちろんそうに決まってるだろ?」 「……」 シーウの疑いの眼差しと怒りによる冷たい空気がその場を支配し始めたその時、 「シーウ〜っ!おっはよ〜!」 シャルの明るい声が、その雰囲気を粉砕した。 朝食を食べに1階に下りると、そこにはフォルがいた。 「おはよ、シーウ」 「おはよう」 いつもと変わらない、無感情な声で言う。だがそれも、この三人は慣れてしまっている。むしろ、こうでなければ本当に彼女なのかと疑いかねない。 「具合悪いのか?」 少し心配そうにフォルが聞くと、シーウは首を軽く横に振った。 「いや。変な夢をみてな」 「夢?」 「ああ。でも、まあ気にするな」 「お、おう」 シーウの言葉に、フォルはそれ以上追求しようとはせず、席に皆を案内した。4つ椅子のある丸いテーブルだ。 「さてと、今日のメニューは…」 それぞれが席につき、メニューを見始めた次の瞬間、 「きゃあああああっ!!」 「!?」 突然、外から叫び声が上がった。シーウは『虚空』を引っ掴み、宿屋の扉を半ば蹴破るように外へ出る。ヴァルスも一緒だ。 「なっ……!?」 そこにあったのは、およそこの場にはそぐわない光景。人がそこかしこに倒れ、中には血を流しているものや、半身を大火傷して呻き声をあげているものもいる。それらは全て広場の中心にいる、不老不死者の暴走体の仕業であった。 「暴走体…」 シーウは暴走体を睨みつけ、『虚空』に手をかける。が、 がぁっ!! 咆哮が響く。近くの建物の影から次々と現れる巨大な影。その全てが、不老不死者の暴走体。 「シーウ!まだ十数匹はいる!」 「何故こんな大量に…」 本来、不老不死者がわざわざ集まって人里を襲うなどと言う事は滅多にない。彼らはすでに、明確な思考などほとんど持ち合わせていないのだから。ときたま暴走して間もない者もいるのだが、暴走体の姿になれば、もう意識を保つのも辛い状態なのだろうと推測されている。どの道、戻る事は不可能に近いのだ。 「いやぁぁあっ!!」 先ほどの叫び声の主と思しき女性に、暴走体が襲い掛かる。シーウは『虚空』を抜き放ち、 「ふっ」 迷い無く暴走体を斬り払った。人間としての意識を持っているのなら、同胞を殺そうとなどするわけがないからだ。シーウは次々と暴走体を蹴散らしていく。しかし『虚空』の本来の力を出しているわけではないので、あとはヴァルスに任せることになるが、相手をひるませられればいいことだ。 「ヴァルス!」 「よっしゃ!!」 裂光剣を具現化させ、とどめをさしていくのはヴァルスの仕事だ。かくいう彼も、シーウに追いついてしまいさえすれば他の暴走体を一撃で倒すことが可能だ。2人の力はほぼ同等。シーウが、力を出し切らない限りは。 しかし、彼らの努力も虚しく、暴走体はなかなか減らない。一体どうやったらこれだけの数が集まるのだろうか。 「!」 ヴァルスが何かに気付き、シーウの方を振り向く。 「シーウ!後ろに3匹…!!」 「くっ」 目の前にも3匹、後ろにも3匹。囲まれたシーウは遠心力で前の3体をなぎ払い、その反動で後ろを振り返る。しかしそこにはまるで図ったように時間差で攻撃を仕掛ける暴走体が――! 「……!!」 ダメージを覚悟して自分の前に『虚空』を交差させ、目を瞑る。が、いつまで経っても痛みや衝撃は襲ってこない。 「あ…」 静寂。暴走体の姿は一瞬にして消え去っていた。残り10体はいた暴走体たちが、忽然と消えている。そして目の前にいる人物。 シーウは、目を疑った。信じられなかった。ヴァルスですら、それを見て愕然としている。 夢の中と同じ安心感。まるで絶対的な力に守られているような感覚。懐かしいとすら感じる、彼女自身と似たような力の波動。 ――紫の髪。紫の瞳。深い群青色のロングコート。しかしその下に来ているのは、まるで民族衣装のような服で。 「大丈夫か?シーウ」 夢と、同じ声。 (夢の続きを見ているのか…私は…?) シーウは、思わず自問した。 暗黒の神殿の中、ひとつの影が動く。いや、暗黒の中なのだから、影というのはおかしいのかもしれない。だが、そう形容してもおかしくない、黒い長衣を纏う男だ。しかし、いつもとは違ってその男を取り巻く雰囲気はかなりいらついたものであった。 「“あの男”が…“あの男”があの女と合流しただと……!?」 「どうかなさったのですか?」 柱の影から現れた女性。しなやかな黒髪に黒瞳の女性だ。年のころは24、5歳だろうか。 本来、この男がいらついている状況で近づくものなど無いに等しいのだが、話の内容に興味をもってか、わざわざ近づいてきたのだ。 「“あの男”が女と合流した…!!あいつは我らの計画をほとんど知っている男だ!このままではあの女をここに連れてくる事がかなわなくなる!」 「でも、そうでしたら刺客でも差し向ければよろしいのでは?」 「“あの男”に勝てる者などそうそういない。無駄に戦力を流出させるわけにはいかん」 女性はしばし考え、 「でしたら、わたくしがいってまいりましょうか?」 「何?」 男が未だいらついた様子で問う。女性は優しく微笑むと、言った。 「この“流動神”ルシアにお任せください」 そのまま、女性は姿を消した。気配も何も残すことなく、その場から消え去った。 シーウ、ヴァルス、フォル、シャルは、朝の暴走体騒ぎを片付けてヴァルスとフォルのとった部屋にいた。あの謎の男もそこにいる。フォルとシャルはベッドの端に座り、シーウは壁にもたれている。ヴァルスは男と小さなテーブルを挟んで椅子に座っている。 向かい合って座った2人は、一方はかなりいらついた表情で、かたやもう一方は涼しい顔でくつろいでいる。 「ハヤテ。そう呼ぶといい」 「んな事訊いてるんじゃねぇっ!」 がたんと椅子を倒して立ち上がり、ヴァルスは怒鳴った。フォルとシャルはその剣幕に恐れを成して身を硬くした。 「俺はお前が何者かって訊いたんだよ!一体どうやってあの暴走体を消滅させた!?お前も“浄化神”なのか!?」 「我はハヤテだ。それ以上でも以下でもない」 「なっ」 「怒鳴り散らすだけが能ではなかろう?“浄化神”ヴァルス=イクシード」 男は24、5歳くらいと思われるその姿とは裏腹に、まるで数百年を生きた者のように落ち着いた声音で言った。 「何で俺の名前を知ってる…」 「我も旅人だ。有名な“浄化神”の名前と姿くらいはわかる。特にお前は“混沌神”と一緒にいる“浄化神”だ。かなり名前は通っている」 ヴァルスは不機嫌な顔をしたまま、椅子を直して再び座った。 男は、ロングコートを脱いでいた。その身に纏う服は、旧世界の島国の民族衣装にも似ていた。ここからは遠いが、大陸から海を渡った先にある国の服だ。 男のロングコートの傍らに、よくわからない棒状の物体が立て掛けてあった。両端が、剣の刀身と柄との境目のようになっているのに、そこには紫色の宝石が埋め込まれているだけで剣の刀身どころか針金すらつながっていない。そもそも、その先端が何かを挟めるようには作られていない。ただの棒だと言われれば、それで納得できなくもないが、それには封印式と思われる文字が書かれているリボンのようなものが縛り付けてあり、両端から数センチのところには装飾すら施されている。なにか儀式でもするのだろうか。 男は不意にシーウを見つめた。家族のような大切な人を見る瞳で。 「……」 (こいつ、何ジロジロと…) ヴァルスは心の中で毒づいた。自分の恋人にこんな視線を向けられたら、嫉妬するのも当たり前なのだろうが。 「ハヤテ…といったか。フルネームを教えてもらっても構わないか?」 「ああ。ハヤテ=ソウ=リュウキ。何か?」 シーウは何か思い出そうとでもしているかのような仕草をし、しかし諦めたらしく再び顔を上げた。 「おまえは……あの夢の男か?」 「夢…か」 「シーウ、こいつが夢の中にでも出てきたとでも?」 明らかに不機嫌な声で、ヴァルスが問う。 「ああ。だが…こいつかどうかは…」 確信が持てない。だが、自分以外の意志が夢の中で一緒にいたとしか考えられない。一人だけで見た夢としては、自分と他者との区別がはっきりしすぎていた。 「……我の苦労も無駄ではなかったようだ」 「何?」 「まあ、それは後で話すことにしよう。シーウ」 「――ああ」 「んなっ!?」 奇声を上げてヴァルスがテーブルに突っ伏す。シーウが初対面の人間に呼び捨てにされたにも関らず普通に返したので、よほどショックが大きかったらしい。そのまま何事かぶつぶつと呟きながら、しばらく顔をあげようとはしなかった。フォルは心の中で小さく、 (哀れだな…ヴァルス兄…) 本当に、心の底からそう思っていた。 それからしばらく話しても、シーウがハヤテを懐かしく思う理由が、どうしても誰にもわからなかった。しかしハヤテ自身はどうだかはわからない。 シーウがハヤテを知っているのならば分からなくも無いが、シーウ自身、思い出そうとしても思い出せない。 彼女は周りから疎外されていたため、無駄な思い出や情報は頭の中に入っていないので、誰か知っている者の名前ならばすぐわかるはずなのだ。 だとすれば、シーウが物心つく以前に会っていたとでも言うのだろうか。 話し合いはあまり進まず、結局ハヤテは同じ宿に部屋を取るからまた明日、と言って下へと降りていってしまった。 ハヤテは宿屋でヴァルスとフォルの隣の部屋を借り、その部屋のベッドに座っていた。上を見上げ、そのまま重力に任せてベッドの上に仰向けになる。 「懐かしい…か。我は覚えていると言うのに」 自分は覚えていると言うのに、彼女は何の記憶も持ち合わせていない。そして15年前のことを、何も。 彼は自嘲気味に笑い、夕日を眺めた。 「確かに心配ではあるが……我がついていっても敵をおびき寄せるだけか」 自分がシーウと合流したとなれば、刺客の1人や2人は普通にやってくるだろう。しかも、今までのように数で攻めるのではなく、もっと効率的に、強い者たちを。 「また護れなかったら…護りきれなかったら……本当に我も壊れてしまうな…」 目を閉じ、切なそうな響きを帯びた声で呟く。思い出を呼び覚まし、もう一度目の前で再生するかのように、しばらく瞳は閉じられたままだった。やがて目を開けると、窓の外を眺める。 「“混沌神”…か」 紫の双眸は、うっすらと開いたまま夕日を見つめていた。 「シーウ!!」 突然名を呼ばれ、振り返ったシーウは呆れたような声で返事をした。 「何だ?」 「『何だ』じゃねぇっ!!おまえあんな得体の知れない奴と話する約束なんて……!!」 「ハヤテは敵ではない。怒鳴らなくても聞こえる」 「あのな…!」 「心配、してくれているのだろう?」 ヴァルスは一瞬遅れて頬を紅潮させた。ふいと顔を背けると、 「あいつは確かに敵じゃねぇかもしれねぇ。だけど、男だってことに変わりはないだろ?」 不意に、シーウはくすくすと笑い出した。彼女が笑うなど滅多な事では起こらない事態だ。 「なっ、何笑ってんだよ!」 「私だって警戒は解いていない。念のため『虚空』は持っていくさ。大丈夫」 久しぶりに、シーウが笑顔を見せた。どうやらここ2、3日は気持ちが穏やからしい。 彼女の笑顔は綺麗だった。優しい瞳をしていて、誰でも警戒を解いてしまいそうな、そんな笑顔。 だからこそ、その笑顔を奪った人間や世間や、そして何より“伝説”の“浄化神”が憎らしかった。なぜ、多種多様な“神族”の中で“浄化神”だけが特別扱いされるのか。他の“神族”もそれなりに優遇はされているが、“浄化神”に至っては先の王城の事件のように、王宮に招かれる事もしばしばだ。そんな中、“混沌神”と呼ばれ、人々を助けているにもかかわらず疎外され、悩み苦しんでいるシーウは一体なんだと言うのだろう。 我に返り、ヴァルスはシーウと目を合わせた。 「本当に大丈夫だな?」 「ああ」 シーウは微笑したままその場を立ち去った。1人、ヴァルスを残して。 刹那。 笑い声が聞こえた。くすくすと、女性の声で。 「?」 振り返ったヴァルスは、さっきまで影も形も無かった女性の姿を見つけた。黒髪に黒瞳。すらりとした体型。年のころは24、5歳。 女性ははっと視線に気付き、すぐに真剣な顔になった。 「…ヴァルス様ですね?」 「ああ」 「わたくし、ルシアといいますの。“浄化神”様にお願いがあるんです」 「お願い?誰か知り合いに不老不死者の気があるとでも?」 女性は綺麗な声で滑らかに話した。最初の警戒心はあっけなく削がれ、ヴァルスはただの女性だろうと思うことにした。今のこの女性をどう見ても、気配を消して自分のバックを取った者とは思えなかった。きっと、シーウの背を眺めていて気付かなかっただけなのだ。そのはずだ。 「ええ。わたくし、いっしょに旅をしていた妹がいるんですの。でもある日、自分が不老不死者かもしれないと相談されて…見ていただけませんか?」 「ああ。で、妹さんはどこに?」 「その相談を聞かれて、町を追われてしまいましたの。だから、この町から少し離れた湖の小屋に…」 「ふぅん」 女性は必死の面持ちで、 「このままではいつ人に見つかるか解らないんです。わたくしたち、只でさえある所から逃げていたのに、ここで見つかったら手も足も出ません…!妹は怯えきっていて……とても動かせなくて」 ルシアの言葉に、ヴァルスは日の傾きかけた空を見てから決断した。 「わかった。もう暗くなりかけてるから、手短にすまそう」 「ありがとうございます!」 ルシアは頭を下げ、ヴァルスのことを潤んだ瞳で見つめた。よほど危機的な状況にあったらしい。 宿屋から出て、ヴァルスは少し焦った。空の色が、赤く染まっていたからだった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 敵さんから新たな刺客がやってきました。しかしその力の程は・・・?シーウとハヤテの関係は、これから解き明かしていくつもりです。でも結構ややこしかったりします。 読んでくれた方、ありがとうございました。これからもよろしくお願いします!では。 |
12354 | Re:Eternal Seed Act.12 | D・S・ハイドラント | 2002/12/25 18:50:04 |
記事番号12346へのコメント >――混沌神。いや…シーウ。 >――何故、名前を…? 何者? >――“奴”は、おまえの力が目当てなのだ。我と相反するおまえの力が…な。 奴って前回の最後に出てきた奴のことでしょうか・・・。 相反する・・・ならばこの人は秩序? > そこにあったのは、およそこの場にはそぐわない光景。人がそこかしこに倒れ、中には血を流しているものや、半身を大火傷して呻き声をあげているものもいる。それらは全て広場の中心にいる、不老不死者の暴走体の仕業であった。 >「暴走体…」 いきなり大変なことになりましたね > 本来、不老不死者がわざわざ集まって人里を襲うなどと言う事は滅多にない。彼らはすでに、明確な思考などほとんど持ち合わせていないのだから。ときたま暴走して間もない者もいるのだが、暴走体の姿になれば、もう意識を保つのも辛い状態なのだろうと推測されている。どの道、戻る事は不可能に近いのだ。 ううむ、秩序を壊すとかいう敵さんっぽい輩のセリフと関係あるのでしょうか? >「でしたら、わたくしがいってまいりましょうか?」 >「何?」 >男が未だいらついた様子で問う。女性は優しく微笑むと、言った。 >「この“流動神”ルシアにお任せください」 自信があるんですねえ。 でも男の方の返事はもらってないようですね・・・。 流動神・・・どんな力を持ってるんだろう。 > 自分がシーウと合流したとなれば、刺客の1人や2人は普通にやってくるだろう。しかも、今までのように数で攻めるのではなく、もっと効率的に、強い者たちを。 上の方のようにですね・・・。 >「『何だ』じゃねぇっ!!おまえあんな得体の知れない奴と話する約束なんて……!!」 確かに謎の人物ですね >「わたくし、ルシアといいますの。“浄化神”様にお願いがあるんです」 ルシア・・・敵さんですかね。 まさか同名の方とか・・・・。 > 読んでくれた方、ありがとうございました。これからもよろしくお願いします!では。 はい。 それでは〜 |
12361 | いつもありがとうございます! | 夏青龍 E-mail | 2002/12/26 08:27:46 |
記事番号12354へのコメント こんにちは。夏青龍です。 感想ありがとうございます!参考になってたりもして、とてもうれしいです。 >>――“奴”は、おまえの力が目当てなのだ。我と相反するおまえの力が…な。 >奴って前回の最後に出てきた奴のことでしょうか・・・。 >相反する・・・ならばこの人は秩序? 相反する存在、というものなのですが、言葉としては仰るとおり”秩序”です。が、この「Eternal Seed」世界では、精神世界にはいくつかの存在があり、そのなかで相反するものは微妙に違います。勝手に作った設定なので、混沌と秩序が相反すると言うことにはしませんでした。私の設定では、混沌は全てが混ざり合いながら”在る”場所。秩序は全ての理や摂理の”おかれる”場所なので、実は”混沌”と相反するのは――。 >流動神・・・どんな力を持ってるんだろう。 流動神の力は、13・14話あたりで明らかになります。その力の被害者が・・・! あ、ちなみにハヤテは20歳くらいの外見なのですが、ちょっと童顔ぎみです。シーウと同じ髪と瞳の色をしているのに、力は『相反する』と言う彼は、実はすごいやつなのです。徐々に彼とシーウの関係は明らかになっていきますが・・・。 いつも読んでくださってありがとうございます。これからもよろしくおねがいします! では。 |
12575 | 明けましておめでとうございます! | 夏青龍→飛龍 青夏 E-mail | 2003/1/5 11:33:43 |
記事番号12281へのコメント *突然ながら、こちらで掲載させていただいている「Eternal Seed」中のキャラクターを交えてご挨拶を。 飛龍 青夏「明けましておめでとうございます。2003年も、よろしくお願いします。」 全員で一礼。 シーウ 「この怠け癖のついたいいいかげんな作者でも」 飛龍 青夏「酷っ!え〜、話は変わりまして。先日、自分用のノートパソコンを手に入れ、ネットにもつながりましたので、ハンドルネームを変更しました。新しいハンドルネームは『飛龍 青夏』です。前のハンドルネームの漢字が残りまくっているのは好きなものの漢字を並べたから、という理由からであったり(笑)。「ひりゅう せいか」と読みます」 ヴァルス 「またよくわからん名前を・・・」 飛龍 青夏「うわまた酷いこと言われたっ!とにかく、これからもよろしくお願いします。」 クレスタ 「というか早く話の続きを書いて欲しいですね」 氷点下の微笑みを浮かべるクレスタ。 飛龍 青夏「わかった!わかったから!(笑顔が怖い・・・)今現在、話の内容を考えながら15話くらいまでの見通しを立てています。13〜14話はあと少しお待ちください」 ハヤテ 「どっちにしろ遅れてることに変わりはないがな」 飛龍 青夏「うぐっ」 シーウ 「では、これを読んでくださった方々、できれば広い心でその時をお待ちください」 全員 「それでは、また」 全員で再び一礼。 *わけのわからないまま終了・・・。ごめんなさい。 |
12622 | Eternal Seed Act.13 | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/1/6 14:58:47 |
記事番号12281へのコメント こんにちは。飛龍 青夏です。 ハンドルネームを変更してから初めての投稿です。遅れてしまって済みませんでした。 では第13話。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― わたくしには、微笑むことしかできません。 わたくしには、あなたの傷を癒してさしあげることはできません。 けれど。 もし許されるのなら、できるなら、ずっと。 わたくしを、お側においてください……。 Eternal Seed Act.13 流れ、動く シーウはドアの前に立つと、ノックをしながらその向こうに呼びかける。 「ハヤテ、起きているか?」 「ああ。入っていい」 そのままドアを開け、何故か音を立ててはいけないような気がして、そっとドアを閉める。自分と同じ紫色の髪と瞳の青年が、自分の方を優しい目で見ていた。 「さっきの…続きなんだが。聞かせてもらってもいいか?」 「夢の事だな」 「あの夢は…私と貴方が共有していたものなのか?」 「まあ…そう言えなくもないな。我も夢の中に入り込む力は無いが」 ハヤテは部屋に置かれている椅子をシーウに勧め、自分はベッドの端に座った。シーウとは違い短い紫色の髪が、かすかな空気の流れに沿って動く。思わず、シーウは呟いた。 「…綺麗な髪だな」 「そうか?おまえも同じ色だが」 「いや…私の色はもっと…くすんだ感じがするんだ。少なくとも私にとっては」 自嘲気味に言う。シーウは、この髪と瞳の色があまり好きではなかった。この姿のせいで、あっけなく自分の素性がばれてしまうのだから。 いつの間に目の前にやってきたのか、ハヤテがそっとシーウの頬に触れた。何故か、抵抗する気が起きなかった。 「お前の目も、髪も、夜明けの空の色だ。少なくとも我にとっては」 「……」 何故か、ザードやヴェスィアよりも自分に近い感じがするこの青年は、一体何者なのだろう。親子か、兄弟か。家族がいれば、こんな安心感や安堵感があるのだろうか。 シーウには、まっとうに血の繋がった家族がいない。――はずだ。ヴェスィアとにしても、普通の姉妹ではないのだから。 不意に、ハヤテが椅子に座っているシーウと同じ高さにまで目線を下ろす。シーウはぴくんと反応し、ほんの少しだけ動悸が早まるのを知った。 「本当に覚えてはいないのか?」 「…何を?」 「我は、お前を知っている。生まれたときから、ずっと」 「貴方は…一体…?」 ふわり、と空気が動いた。ハヤテが、自分の手の甲に口付けているのが、やけに長い間に感じた。 「なっ、何を…!」 「嫌だったか?」 「そ、それは…」 顔を紅くしながら、シーウは言った。心臓の音がうるさい。ヴァルスに口付けられても、こんな風にはならなかったのに。自分がおかしくなってしまいそうで、シーウは自分を罵った。どうして油断ばかりしてしまうのだろうか。 「今ので割り切った。もうお前はあの時のお前ではない。我はおまえの兄のような者であり、相反する者だ。それ以上は今は言えない」 ハヤテは窓の方へと移動し、シーウはまだ収まらない動悸と格闘していた。顔が赤いのも、もうしばらく治らないかもしれない。 「お前は変わったな。いや、変わってしまった…か」 「…?」 ハヤテの言葉に疑問を覚えつつ、まだまともに顔を見ることすらできない。その時、部屋のドアがコンコンとノックされた。 「シーウ、ヴァルス兄知らないか?」 「いや…いないのか?」 やっといつもの冷静さを取り戻し、シーウは答えた。そっか、といってフォルは首をかしげた。 「突然いなくなっててさ。どこかへ出かけたのかと思ったんだけど」 「いなくなった?何も言わなかったのか?」 「ああ」 ヴァルスはあまり無断では単独行動をとらない。何かあったのだろうか。 「――シーウ」 ハヤテが、廊下へ出ようとしたシーウを呼び止めた。 「何だ?これからヴァルスを探しに…」 「攻撃魔法の爆発音だ」 気付きたくなかった。信じたくなかったのかもしれない。それから連続して爆発音。3つ、4つと連続で途切れることなく音は鳴り響く。少し離れた湖の方からだ。普通の人間ならば気付かないであろう空気の振動。ハヤテの言葉どおりに意識をまわりの存在全てに向けたシーウには、それすらもはっきりと聞こえていた。 大きく肩で息をしながら、ヴァルスは相手を睨みつけていた。湖畔にひっそりと建っていた小屋の中には、案内してくれた女性の言う通り、少女がぐったりとしていた。しかしその少女がいきなり暴走するとは。 裂光剣を具現化させる暇もなく、連続で魔法攻撃された。なんとか致命傷は防いだものの、左足に高熱を発する魔法がかすって火傷している。まあ時間がたてば治るだろうが、ここから生きて宿屋へ戻れるかどうかが怪しくなってきた。 「“浄化神”様!!」 ルシアが駆け寄ってくる。彼女も命からがら逃げていたようだ。 「馬鹿、来るな!!」 全く躊躇も無く、暴走体は女性に爪を振り下ろす。ルシアは恐怖で動けなくなったのか、その場から一ミリも動かない。反射的に、ヴァルスは地を蹴りルシアの腰に手を回して片手で抱くと、自分と一緒に草むらへ突っ込んだ。 「あ…」 「悪い。そこらに隠れてろ!」 一瞬だけ押し倒されたような格好になったルシアは硬直したが、一挙動で立ち上がったヴァルスは全くそんな事は気にせずに、裂光剣を具現化させて走った。 「……」 ルシアは俯いたまま、自分の右手を見つめた。ぬるぬるして何だろうと思って見ると、手にはヴァルスの血。どうやらさっき自分を助けたときにケガをしたらしい。 (躊躇っちゃいけない) 頭の中で、自分にそう言った。首を振り、静かに立ち上がる。 「!」 視界の端に、魔力光。飛翔魔法で人間が2人飛んでくる。 「ヴァルス!!」 シーウとハヤテだった。振り返ったヴァルスは次の瞬間魔力弾で吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられた。 「ヴァルス!」 悲鳴じみた声でシーウが駆け寄る。 「シーウ!後ろ!」 「このっ…!!」 刹那、シーウは目にもとまらぬ速さで『虚空』を抜き放ち、暴走体を斬りつけた。大切な者を傷つけられた怒りが、シーウを支配しかけていた。 「やめてください!」 女性の声。シーウは止めを刺しかけていた自分の刀を見、声のした方を見た。 「妹を…妹を殺さないで!!」 髪を振り乱して叫ぶ女性に、シーウは呆気に取られた。が。 ばしゅっ… 「うあぁっ!!」 「シーウっ!」 油断した。そう考えながら、シーウは暴走体に放り投げられる。脇腹に爪が突き刺さって、それが抜けると血が噴きだした。 ルシアが真っ青になってへたりと座り込む。その視界に、見たことも無い武器が現れる。 (槍…?違う) ヴァルスはそれを分析しかけ、それが間違いである事にすぐ気付いた。 ハヤテの持つ棒状の物体の端から、槍のような物伸びている。かなり長い。だがそれは、輪郭は確かに存在していながら、半透明だった。向こう側が透けて見える。 「はっ!!」 ハヤテの気合いと共に、風のように速く、その武器は暴走体を二つに断ち割った。 「――『疾風』…」 無意識に、シーウはそう呟いていた。 「よく知っていたな」 ハヤテはその半透明の槍を消すと、封印式の書かれた布を棒に巻きつけた。 使用者の意志によって形状を変えることが可能とされる、浄化神の力を具現化させたものにすら匹敵する攻撃力を持つ武器。シーウの『虚空』と同じく伝説だけが残っているはずの武器。 『疾風』。 「お前が……持っていたのか」 「ああ」 切り倒された暴走体はさらさらと砂のように崩れた。ルシアはへたりと座り込んだまま動かない。 「大丈夫か?」 ヴァルスは反射的にか、シーウよりもさきにルシアの方へと歩いていった。 「え…」 ルシアが驚いたように顔を上げる。ヴァルスが手を差し伸べると、その手を取って立ち上がった。 「シーウ、おまえケガは…」 「平気だ」 まるでヴァルスの言葉を遮るようにきっぱりと言い放ち、シーウは顔を背けた。 (何なんだ…イライラする…) 心の中にもやもやしたものがあって、でもそれが何なのか解らない。ヴァルスがルシアを先に助けに行ったからなのだろうか。 「見た目が派手なだけだ」 シーウはそのまま歩き出そうとするが、ふと目の前にハヤテが現れた。 「何だ?」 「嘘をつくな。大丈夫じゃないだろう」 「嘘なんか…」 ついていない、と告げようとして、体がぐらりと平衡感覚を失う。 「いつっ!!」 「だから言ったんだ」 がくんと片膝を付き、シーウは脇腹を手で押さえた。さっきまではうまく痛覚を抑制していたと言うのに、ハヤテがやってきて制御がきかなくなった。だがそうでなくても、早く回復魔法でもかけなければ危ないだろうと言う事は判っていた。判っていて、強がっていた。 不意に、視界がぐるりと反転する。 「わっ!」 「大人しくしてろ。ヴァルス、その女は任せる」 「って、おい!!」 ハヤテはそれだけ言うと、シーウを横抱きにしたまま村の方へ飛翔魔法を唱えて行ってしまった。 (あの野郎〜〜!!!) ヴァルスは嫉妬の炎で燃え上がっていた。 「いたっ、痛いって言ってるだろうがっ!!」 「おまえにはいい薬だろ」 「よくないっ!!」 ぎゃーぎゃーと、先ほどから手当てを受けているシーウと手当てをしている側のハヤテの声が聞こえてくる。どうやらハヤテは、傷を魔法で治すのを許してくれなかったらしい。 そんな声を聞きながら、ふるふると持っているカップとその中身を揺らしながら、ヴァルスは怒りを堪えていた。 「もういい!自分でやる!!」 「馬鹿、大人しくしてろこの強がり」 「だから平気だって…いっ!!」 だから言わんこっちゃない、とすら聞こえるため息。ハヤテはやれやれと首を振っていることだろう。 「ほれ、終わり。魔法で横着なんぞしないように」 「あとでシャルに回復魔法かけてもらう…」 うんざりした顔で、ハヤテの言葉に反撃する。シーウも回復魔法が使えないわけではないが、あまり得意と言うわけでもない。とはいっても、中級回復魔法は使えるのだが。 しかし、シーウのその言葉はあっけなく裏切られる。 「シーウ、無理しちゃだめだよ。魔法っていったって、傷が治るのに体がついていけるとも限らないんだから」 「どこでそんな屁理屈覚えた…?」 「ハヤテさんが言ってた!」 きゃはっと笑いながらシャルが言う。シーウはハヤテを恨みがましく睨みつけるが、ハヤテはさらりと受け流す。どうやら双子はハヤテに懐いてしまったらしい。 「ハヤテ兄、これからどこへ行くんだ?」 フォルがにこにこしながら問い掛けると、ハヤテは特に笑顔も見せずに答える。だが、シーウでなれているためか、フォルもシャルも不快そうな顔など全くしない。 「ああ、それなんだが…ちょっと迷っていてな」 「迷う?」 「…お前たちについていこうかと思っている」 「何ぃぃっ!!?」 突拍子も無い事を言い出したハヤテに、ヴァルスが大声を上げる。 「ちょっと気になることがあってな。迷惑をかけるつもりは無いが、しばらく一緒に旅をしてもいいか?」 「俺はぜんぜん構わないぜ。むしろ歓迎!」 「私も!」 フォルとシャルはすっかりハヤテと意気投合してしまった。ハヤテがふっと笑うと、フォルとシャルはハヤテにいろいろな話をし始めた。 シーウはハヤテを嫌いではなかったし、双子があんなに喜ぶのなら別に構わないと思っていた。が、収まらないのはヴァルスだった。 「何勝手なことぬかしてんだ!」 「ちょ、何だよヴァルス兄!?」 怒鳴り声を上げたヴァルスはハヤテに詰め寄る。 「何企んでるんだ?」 「企む?我はなにも企んでなどいない。むしろ…その企みとやらをおまえたちに向けているものから護ろうと思っている」 「何か知ってるならちゃんと理由を話せ。じゃなきゃ俺は納得しないぜ」 「クレスタとファロンには会っただろう?」 「…!」 「そいつらを統率している奴を我は知っている。そいつが何を考えているかも」 「ハヤテ…」 シーウがその名を呼ぶと、ハヤテはゆっくりと振り返った。 「お前たちにとってはあまり良い事とはいえない“計画”だ。我はお前たちを護りたい。お前たちを護る事で、我の大切なものを護りたい」 「……わかった」 それ以上言わずとも、ヴァルスは納得した顔でハヤテの同行を許可した。双子は笑顔を咲かせ、シーウも安堵の息を吐いた。 別の宿に部屋を取り、休んでいたルシアは困惑していた。自分の役目は、“彼”を消し、“彼女”を仲間に引き込むこと。なのに、どうして躊躇してしまうのだろうか。 「躊躇っちゃいけない…」 口に出しても、心のどこかにひっかかるものがある。 あの人が、悲しむから? 自分を助けてくれた人が、悲しむから? 首を振り、気を引き締める。 「私は、“流動神”。ルシアの名前はもう…捨てた」 名前を名乗れるだけの資格も、もう捨てた。だから、自分は“流動神”なのだ。 物体を動かし、流れさせるもの。念動力にも似たその力は、しかし少し違う部類に入る。岩を浮かせ、水を流れさせ、人を弾き飛ばす。そうした力は、念動力のようにその物体自体を動かすだけでなく、内部のものでも操れるのである。 例えば、箱の中にリンゴが入っていたとしよう。念動力であれば、箱を動かす事はできても、中にあるリンゴを動かしたり割ったりする事はできない。だが、“流動神”にはそれが可能なのだ。そんな彼らが、あるいは彼女らが、人に対してその能力を使ったらどうなるか、想像に難くない。 「私は…“流動神”」 ルシアはそう言って、もう一度息を吐いた。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ルシアは結構大人の女性というイメージが強いのですが、それゆえに思い悩むところも書きたかったので、話の流れが複雑に・・・。シーウとハヤテ、ヴァルスとルシアの関係はずるずるとこれからも絡み合っていきます。三角関係とかそういうのも面白そう(?)だったので・・・。 では。 |
12636 | Re:Eternal Seed Act.13 | D・S・ハイドラント | 2003/1/6 22:50:07 |
記事番号12622へのコメント > Eternal Seed Act.13 流れ、動く おお流動神 > 何故か、ザードやヴェスィアよりも自分に近い感じがするこの青年は、一体何者なのだろう。親子か、兄弟か。家族がいれば、こんな安心感や安堵感があるのだろうか。 相反するらしいし・・・自分の片割れみたいな感じなのかも > 大きく肩で息をしながら、ヴァルスは相手を睨みつけていた。湖畔にひっそりと建っていた小屋の中には、案内してくれた女性の言う通り、少女がぐったりとしていた。しかしその少女がいきなり暴走するとは。 > 裂光剣を具現化させる暇もなく、連続で魔法攻撃された。なんとか致命傷は防いだものの、左足に高熱を発する魔法がかすって火傷している。まあ時間がたてば治るだろうが、ここから生きて宿屋へ戻れるかどうかが怪しくなってきた。 やばい相手なのかな >「妹を…妹を殺さないで!!」 これはヴァルスを始末するために? > 『疾風』。 しっぷう?はやて・・・かな。 はやち、とも読めなくもないらしい(傍にあった大辞林より) >「躊躇っちゃいけない…」 > 口に出しても、心のどこかにひっかかるものがある。 > あの人が、悲しむから? > 自分を助けてくれた人が、悲しむから? > 首を振り、気を引き締める。 >「私は、“流動神”。ルシアの名前はもう…捨てた」 > 名前を名乗れるだけの資格も、もう捨てた。だから、自分は“流動神”なのだ。 > 物体を動かし、流れさせるもの。念動力にも似たその力は、しかし少し違う部類に入る。岩を浮かせ、水を流れさせ、人を弾き飛ばす。そうした力は、念動力のようにその物体自体を動かすだけでなく、内部のものでも操れるのである。 > 例えば、箱の中にリンゴが入っていたとしよう。念動力であれば、箱を動かす事はできても、中にあるリンゴを動かしたり割ったりする事はできない。だが、“流動神”にはそれが可能なのだ。そんな彼らが、あるいは彼女らが、人に対してその能力を使ったらどうなるか、想像に難くない。 >「私は…“流動神”」 > ルシアはそう言って、もう一度息を吐いた。 へえそんな能力ですか・・・。 それにしても早く覚悟を決めないと(どっちの味方だ?) それでは次回も期待して待ってます。 |
12644 | 感想ありがとうございます! | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/1/7 08:49:48 |
記事番号12636へのコメント こんにちは。飛龍 青夏です。いつも感想ありがとうございます! >> 何故か、ザードやヴェスィアよりも自分に近い感じがするこの青年は、一体何者なのだろう。親子か、兄弟か。家族がいれば、こんな安心感や安堵感があるのだろうか。 >相反するらしいし・・・自分の片割れみたいな感じなのかも とっても的を射たご意見っ!片割れという言葉を使っていただけたのがとてもうれしいです。ハヤテとシーウは親子や兄弟ってわけではないんですが、昔(いつの話でしょう?・謎)いろいろありましてね・・・。その辺の説明はまだ先になると思います。 >> 『疾風』。 >しっぷう?はやて・・・かな。 >はやち、とも読めなくもないらしい(傍にあった大辞林より) 「しっぷう」でも「はやて」でも基本的に物語りには変化はありませんが、私としては「しっぷう」という読み方を推奨。多分そのほうがハヤテ自身と武器の区別がつきやすいので。一応『 』はつけてますが、多分「しっぷう」と呼んだほうがわかりやすいでしょう。 >> 例えば、箱の中にリンゴが入っていたとしよう。念動力であれば、箱を動かす事はできても、中にあるリンゴを動かしたり割ったりする事はできない。だが、“流動神”にはそれが可能なのだ。そんな彼らが、あるいは彼女らが、人に対してその能力を使ったらどうなるか、想像に難くない。 >>「私は…“流動神”」 >> ルシアはそう言って、もう一度息を吐いた。 >へえそんな能力ですか・・・。 >それにしても早く覚悟を決めないと(どっちの味方だ?) 本当にルシアはどっちの味方なのやら・・・です。基本的にルシアは「良い人」なのですが・・・。 毎回読んでくださってありがとうございます。これからもよろしくお願いします! |
12647 | Eternal Seed Act.14 | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/1/7 11:12:53 |
記事番号12281へのコメント こんにちは。飛龍 青夏です。 やっと14話のつけたしやら削除やらが終わりました。15話もだいたいできているので多分近々投稿できると思います。 では第15話。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 例えば、ここが深い地の底だったら、日の光など望まなかっただろう。 例えば、ここが深い海の底だったら、暖かい風など望まなかっただろう。 けれど、私は出会ってしまった。 日の光と、暖かい風と、優しい心に。 私にそれを与えてくれた、人に。 Eternal Seed Act.14 虚無神 ルシアは、ヴァルスの部屋の前に立っていた。そこに立ったまま、微動だにしない。 「……」 どこか悲しげな目で扉を見つめ、そしてドアをノックする。すぐに返事は返ってきた。 「入っていいぞ」 「はい……」 ルシアが部屋へ足を踏み入れると、ヴァルスはベッドの端に座って何か考え込んでいるようだった。青い髪が、俯いた横顔に覆い被さっている。 「どうした?」 「あの…助けてくださって、ありがとうございます」 ――私は何を躊躇っているのだろう。 ――この人は、私が消さなければならない相手なのに。 ルシアは内心の葛藤を表に出さないよう必死だった。ばれたら、きっと次は無い。この“浄化神”に、二度も同じ手は通用しない。 「妹は…助けられなかったな。すまなかった」 「いえ。あの子もきっと、人として死ねたから…暴走体として死ぬよりは…」 心を、決める。次で仕留める。 「で、墓はたてるのか?手伝ってやっても…」 「でしたら」 ふぅっと、自分の体が浮かび上がるのを、ヴァルスは感じた。 「あなたの墓をたてさせていただきたい」 次の瞬間、ヴァルスの中で力が発動した。 透明な空間の中に、シーウは立っていた。あの時の夢と同じように。ハヤテと出会う前日に見た夢と同じように。だが、今度は一人ではなかった。 ――ハヤテ。 ――……。 群青色のロングコートを纏う男は、フードから紫色の髪を覗かせていた。体型もこの間と同じで男のようだから、ハヤテに間違いは無いだろう。 ――返事…してくれないか。 ――…ああ。すまない。 ――やっぱり、貴方だったのか。 ――…ああ。 シーウはなぜか胸が痛むのを感じた。どうして、こんなふうに傷つかなくてはならないのだろうか。ハヤテが現実とは違う姿をして夢に出てきたとして、どうしてこんなに苦しいのだろうか。 ――シーウ。 ――なんだ? ――お前を…我は… 夢が、不意に終わりを告げた。何か、衝撃のようなものが二人の間に走り、意識は浮上していった。 「っ!?」 シーウは、眠っていたベッドから飛び起きた。紫色の髪が乱れているが、彼女はそれにも気付いていない。 「ゆ…め…?」 呟き、首を振る。頭が重い。なにか、衝撃を受けたのは覚えているが、あれは。 「“力”の…波動」 それも、とてつもなく強い波動だ。思い当たるとすれば、クレスタたちのような刺客。だが宿屋に新しく入ってきた客はいなかったし、忍び込んだとしてもシーウやハヤテが感づく。 不意に、ヴァルスの部屋からその波動が飛び込んでくるのを感じた。 「っ!!」 ベッドに近いところに置いてあった『虚空』を引っ掴み、その勢いのまま廊下へ出る。扉を蹴破るように開け、ヴァルスの部屋へ飛び込む。窓際のベッドでは、フォルが静かに寝息を立てている。が…。 「――あ…」 「こんばんは。“混沌神”様」 脇腹から血を流して倒れているヴァルスが、シーウには見えていた。優しく笑うルシアも。そのルシアから放出されている“神族”の気配も。 「この…っ…!」 怒りと、憎しみと、自分に対する不甲斐なさが合わさって、『虚空』を抜く手に力がこもる。脇腹のケガの痛みも無視して抜いた刀は、しかしあっけなく空を切り、ルシアの姿は外へと向かっていた。窓を突き破り、しかし能力で制御しているのかガラス片でも全く怪我をせず、ルシアは易々と外へ脱出した。 「逃がすかっ…!」 ぎらついた眼でルシアを睨み、シーウも窓枠に足をかける。が、その直後。 「シーウ!!」 別の波動が干渉してきた。ハヤテだ。冴え渡っていて、優しい波動。 「落ち着け。シーウ」 「ハヤ…テ……?」 名を呼び、振り返る。その姿は自分と同じ紫色の髪と瞳で、シーウはなんとなく安堵した。 「まだ息はある。ヴァルスは死んではいない」 ほっと息をついたのもつかの間、がくんと部屋の床に両膝をつく。頭が重かったのが一気にぶり返す。どうやら、“流動神”の力の波動だったらしいが、少し残ってしまったようだ。その波動も、ルシアと一緒に遠ざかっていく。 「早く…手当て…」 「もうしている。大丈夫だ」 「……」 静かに、しかし確実に、ハヤテの手の中の光がヴァルスを回復させていた。脇腹で力を爆発させられたらしいが、規模が小さかったようだ。しかし例えるのならば、体内でクルミが破裂したようなもの。普通の人間なら危なかったかもしれない。 「何もできない…」 「何?」 呟いたシーウに、ハヤテが問い掛ける。 「ヴァルスは私に光をくれたのに…私には何も返すことができない」 泣きたくなってくる。ヴァルスは自分に、光をくれた。優しい言葉をかけてくれた。なのに、自分は何もできない。彼が危ない目に会っても、気付く事すらできなかった。 優しい言葉もかけてやれない。 暖かく微笑みかけることもできない。 守ることも、癒す事も、何も。 「私は…」 空気が動いた。暖かい何かに包まれている。 「自分を責めるな」 「ハヤテ…?」 ハヤテが、片腕で自分を抱きしめていた。優しく、でも力強く。 ――安心する。 「我はお前を……」 唇が動き、だがシーウには聞き取れず、言葉は紡がれたように見えた。 「…なんだ?聞こえない。言うならちゃんと言ってくれ」 「…いや。いい」 ハヤテは辛そうに呟き、シーウの涙を拭った。いつの間にあふれそうになったのか、シーウには自覚がなかったが。 シーウは静かにハヤテから離れると、床に横たわったヴァルスの手を取った。 「すまない…ヴァルス」 かすかに、だがしっかりと脈が打っている。呼吸も規則正しくしているし、大丈夫だろう。 自分が騒ぎの原因であろう事はわかっている。ヴァルスを巻き込みたくは無いのだ。けれど、彼は言う。シーウを、彼女を一人にしたくないのだと。シーウは時にその言葉に癒され、時に傷つく。自分の存在を許容してくれる人がいるという喜び。逆に、自分の存在のせいで傷つく人がいるという悲しみ。その葛藤が、彼女を苦しめている。 ハヤテが、不意に立ち上がった。どうやら治療は終わったらしい。 「シーウ」 「え?」 顔を上げると、ハヤテは扉に手をかけていたが、続けた。 「我の存在がどのように呼ばれるか…知っているか?」 「存在?」 「おまえは、“混沌”だ。我は相反するもの。この世界の…」 一呼吸置いて、 「“虚無”」 扉が閉まったとき、シーウは幻を見た。ハヤテという存在の本当の姿を。何も無い、虚ろな空間を。 「……ハヤテ……?」 精神世界。そこには“混沌”の他にも、いくつかの存在がある。 “秩序”。“虚無”。“時空”。 それら四つは、互いに距離をおきつつ存在し、それぞれの性質をもった状態で精神世界を構築する。 “混沌”。全ての生まれるところにして、全ての還る場所。 “秩序”。全ての理と摂理をおき、それを現実世界へと影響させる場所。 “虚無”。全ての終焉にして、何も無い虚ろな場所。 “時空”。全ての時を司り、その時を流れさせる空間を司る場所。 この四つは精神世界の果てに存在するとされる。広大な精神世界において、その果てと言うのがどこなのか、正確に知りえる者も、知ろうとする者もいない。だが、この四つには稀にその力の継承者が生まれることがある。精神世界の、“柱”とも言うべき存在の申し子。 この四つは、基本的には反発し合うことは無い。だが唯一、“混沌”と“虚無”の力は、近づきすぎると反発することがわかっている。継承者である者たちが、かつて出会ったその時に、それは事実となった。しかし、人間同士としては、彼らは求め合った。それゆえに、力の中和が必要になった。 ――中和能力。 お互いの力を中和する事により、反発を抑え、共に生きることを可能とする能力。かつて“混沌”の力を継承した者――“混沌神”と、同じくかつて“虚無”の力を継承した者――“虚無神”が作り出した能力。 その力なくして、今、“彼ら”はありえなかった。 目が覚めると、案の定自分は血まみれでベッドに寝かせられていて、ベッドの隣の椅子にシーウが座っていた。 「シーウ?」 「あ…」 どうやら眠ってしまっていたらしく、シーウがばっと顔を上げる。安堵の雰囲気がその場の空気を和らげる。朝日がカーテンの隙間から差し込んでいて、暖かい。 「良かったぁ…」 「ぅおわっ!」 安心しきって、シーウがヴァルスに飛びつく。が、飛びつかれたほうのヴァルスは情けない声を上げた。 「お前がこんなくっついてくるなんて久しぶりだな」 「…安心したんだ…仕方ないだろう」 顔を紅くしながら、しかしシーウは離れなかった。ヴァルスは彼女の頭を撫でながら、目を閉じていた。 「やっぱりお前はあったかいな」 ヴァルスが言う。 「人間らしいところが残っていたか」 「お前は人間だって、前にも言っただろ?」 「でもやっぱり心配だった」 シーウは、自分が持っている能力が異端である事を知っていた。そして、そのせいで自分が人間離れしている事も。 毎日心配でしかたがなかった。いつ、自分が人間でなくなってしまうのかと。他の存在になってしまうのではと。あの、“力”を初めて使った日から。 「お前は、ケガとかしてないんだな?」 シーウは頷き、 「――ルシアとかいう…女性か?」 「ああ。あいつが…例の“流動神”だ」 “流動神”。物体や液体を流れさせ、動かす力を持つ者。そして、その物体の内部にも力を働かせる事ができる、いわば物理的な力を司る“神族”。 「あいつも手先だったのか」 「あの湖に連れて行ったとき、本当は俺を始末するつもりだったんだろうな。だけどお前たちが飛んできて、それができなかった。それで急遽、奇襲作戦に出たってとこか」 シーウではなくヴァルスを狙ったのは、シーウがここにいる理由をなくすためだろう。シーウは、自分のせいで人が傷ついてもそこに留まる事ができるほど、強くはない。 「いつも…迷惑をかけてすまない」 「迷惑じゃねぇって言ってるだろ?」 起き上がり、シーウを優しい見つめて、 「俺は、おまえがいてくれないと逆に辛いんだよ」 「……」 「おまえは俺といると、辛いか?」 「――そんなことない」 俯いて、シーウは返事をする。 「素直に、自分に優しくしてもいいんだ。一緒にいたい人と一緒にいたって、いいんだよ」 心が、少し軽くなった。シーウは、自分に徹底的に冷たい態度をとる。たとえ望みがあっても、それを口にする事は無い。たとえ悲しくても嬉しくても、表情に出すことなく終えてしまう。自分を、冷たい鎖で戒めるために。 けれど、ヴァルスは自分に優しくしてもいいと言う。本来人間は望み、悪く言えば欲望の為に生きているようなものだ。それは本能的な部分も含んでいるし、自分の好きな事をしたいと思うのも当然だと。だから、せめて自分には、少しくらい我侭を言ってもいいのだと。 「…ありがとう」 ほんの少しだけ、シーウは、笑った。 暗黒の中、ルシアは罪悪感でいっぱいになっていた。 (やっぱり…殺せなかった) 本当なら、彼女はヴァルスの心臓を吹き飛ばすはずだった。だが、できなかった。心のどこかに躊躇いがあって、力を発動させる場所がずれてしまった。 「――ルシア」 名を呼ばれ、ルシアはびくりと身をすくませた。男の声。黒い長衣の姿が近づいてくるのが、見なくてもわかった。 「失敗したな」 「も、申し訳ありません!」 さっと跪き、顔を見せずに謝罪する。 恐怖が心のどこかに芽生えた。この男は、きっと自分を怒っているだろう。何をされるかわかったものではない。殴られるくらいならマシな方だ。“敗北者”にこの男から与えられるのは、死か、失敗した事への厳しい制裁か、そのどちらかだった。 「勝手に出て行った挙句自らの力を露呈し、さらには仕留め損なった。どういうことか、わかっているのだろうな」 「…はい…」 体が震えているのが判る。この男に逆らって、生き延びる事はできないだろう。 「言い訳を言いたければ、言えるうちに言うがいい」 「その…“虚無神”の…様子を見てきました」 「ほう?」 男が片方の眉を上げた。話の内容に興味をもったらしい。 「“虚無神”は…“混沌神”様と一緒でしたが…力は封印したままでした」 「あいつが、か。あの女を傷つけたくないという理由だろう」 「“浄化神”の方は…“虚無神”と気が合わないようで、張り合っているようでした」 「そうか…」 男は腕を組み、少し考えるような動作をし、 「まあ、失敗したにしてはいい報告だな。――これくらいですませてやろう」 男の爪がかすかに光り、空間に文字を描く。古代文字のような、複雑な書き順。それを滑らかに空間に刻み付けると、手のひらでをれを押すように腕を伸ばす。 ばしゅっ びしゅっ 何かを切り裂くような音が、二回。 「くっ…」 ルシアが呻き声を上げる。その背に、その古代文字そのものが描かれたように、ひっかいたような傷がついていた。当たり前のようにその傷からは血が滲んでいる。青とも、紫ともつかぬ色の血が。 男は踵を返すと、さっさとその部屋を出て行った。ルシアはどさりと冷たい床に倒れ伏し、痛みに耐えていた。ひっかき傷のようなのは見せかけだけで、実際には皮膚の下に傷が広がっている。見かけの二倍ほどまでに広がった傷は、内部で痛覚をばらまく。 「大丈夫ですか?」 いつの間に現れたのか、クレスタが自分の前で片膝をついて心配げな顔をしていた。 「クレスタさん…」 「僕らに“通用する痛覚”を…」 「そう…ばらまかれたの。スウォード様に…」 「失敗したのですか?」 「勝手に…出て行ってね」 何とか身を起こし、けれど表情は辛そうなままで、ルシアは言った。その背の傷に、クレスタの手が触れる。 「治癒聖光(ヒーリング・ライツ)」 温かな光が、ルシアの背の傷を治していく。 「ばれたら…今度は貴方がこの仕打ちをうけるのよ?」 「大丈夫ですよ。スウォード様は、そこまで残酷な人じゃありません」 「…そうね」 「あの方は…失う事が怖いから、自分の配下を戒めてるんですよ。独りになることを…恐れているから」 それは、事実だった。かつて、スウォードは大切な人を失った。それが、独りになると言う事への恐怖心を心に刻み付けたのだ。彼が部下を戒めるのは、自分から離れていって欲しくないから。ただ、それだけなのだ。 「私ね…」 「はい?」 ルシアが静かに言う。 「殺せなかったの。あの“浄化神”を…ヴァルス=イクシードを」 ぴくりとクレスタが反応する。 「最初に暴走体をけしかけたとき、暴走体の制御に回してた力が減ってて…私にまで襲い掛かってきたの。それで、逃げ損ねて…」 「まさか…」 ルシアはこくりと頷き、 「助けられちゃったのよ…その、“浄化神”に。だから躊躇ってしまったのかもしれないの」 「……」 クレスタは、沈黙した。たとえ暴走体に攻撃されようと、自分たちはそうそう簡単には死なない。だが、助けられた事に変わりはないのだ。恩人を殺せなどと、この優しい心を持つルシアに誰が言えるだろうか。 「でも、次はちゃんとやるわ。私たちの、理想のために」 ルシアは、きっぱりと言い切った。 暗い神殿の闇は、夜の中に確かに在った。しかしそれは、硬く閉ざされた扉のように。 “彼ら”の、心の在り方のように。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ルシア敗北(?)の話です。彼女の心の揺れが、この後にもずるずると繋がっていきます。クレスタとルシアは別に恋仲ではありません(笑)。 次回15話は私としては記念すべき数字です。いつも読んでくださっているかたがた、これからもよろしくおねがいしますね!では。 |
12662 | Re:Eternal Seed Act.14 | D・S・ハイドラント | 2003/1/7 20:40:35 |
記事番号12647へのコメント > Eternal Seed Act.14 虚無神 ハヤテのことですかな・・・まあ完全なる秩序だと無ですからねえ >「あなたの墓をたてさせていただきたい」 >次の瞬間、ヴァルスの中で力が発動した。 ついに覚悟を決めましたね > 精神世界。そこには“混沌”の他にも、いくつかの存在がある。 > “秩序”。“虚無”。“時空”。 > それら四つは、互いに距離をおきつつ存在し、それぞれの性質をもった状態で精神世界を構築する。 > “混沌”。全ての生まれるところにして、全ての還る場所。 > “秩序”。全ての理と摂理をおき、それを現実世界へと影響させる場所。 > “虚無”。全ての終焉にして、何も無い虚ろな場所。 > “時空”。全ての時を司り、その時を流れさせる空間を司る場所。 > この四つは精神世界の果てに存在するとされる。広大な精神世界において、その果てと言うのがどこなのか、正確に知りえる者も、知ろうとする者もいない。だが、この四つには稀にその力の継承者が生まれることがある。精神世界の、“柱”とも言うべき存在の申し子。 なるほど・・・。 > この四つは、基本的には反発し合うことは無い。だが唯一、“混沌”と“虚無”の力は、近づきすぎると反発することがわかっている。継承者である者たちが、かつて出会ったその時に、それは事実となった。しかし、人間同士としては、彼らは求め合った。それゆえに、力の中和が必要になった。 > ――中和能力。 > お互いの力を中和する事により、反発を抑え、共に生きることを可能とする能力。かつて“混沌”の力を継承した者――“混沌神”と、同じくかつて“虚無”の力を継承した者――“虚無神”が作り出した能力。 > その力なくして、今、“彼ら”はありえなかった。 ううむ片方が倒れるとどうなるのだろう >「あの方は…失う事が怖いから、自分の配下を戒めてるんですよ。独りになることを…恐れているから」 少々歪んだ寂しがりやですかな それではこれからどうなるのでしょう・・・特にルシアは・・・。 ではまた〜 |
12672 | それぞれのイメージ | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/1/7 23:09:15 |
記事番号12662へのコメント こんばんは。飛龍 青夏です。感想ありがとうございます。 >> Eternal Seed Act.14 虚無神 >ハヤテのことですかな・・・まあ完全なる秩序だと無ですからねえ ハヤテは一応”虚無”として扱っています。むしろシーウよりも人間らしさでは下ではと・・・。彼には一応心が宿ってますが、欠けた部分や足りない部分、根本的に存在しない感情などもあります。まあ”虚無”というよりも"終焉"と言うほうがイメージ的にはあってるのかもしれません。 >> 精神世界。そこには“混沌”の他にも、いくつかの存在がある。 >> “秩序”。“虚無”。“時空”。 >> それら四つは、互いに距離をおきつつ存在し、それぞれの性質をもった状態で精神世界を構築する。 >> “混沌”。全ての生まれるところにして、全ての還る場所。 >> “秩序”。全ての理と摂理をおき、それを現実世界へと影響させる場所。 >> “虚無”。全ての終焉にして、何も無い虚ろな場所。 >> “時空”。全ての時を司り、その時を流れさせる空間を司る場所。 >> この四つは精神世界の果てに存在するとされる。広大な精神世界において、その果てと言うのがどこなのか、正確に知りえる者も、知ろうとする者もいない。だが、この四つには稀にその力の継承者が生まれることがある。精神世界の、“柱”とも言うべき存在の申し子。 >なるほど・・・。 ちょっと付け足して説明すると、基本的に混沌の中で生まれたものたちは再び混沌の中に沈むわけですが、現実世界でそれこそ徹底的に抹消されたものや、世界にあらざるものたちはいつか最果ての”虚無”へととけ、存在した証拠や痕跡すら残りません。例を上げると、人間が作り出した異形、不老不死者のエターナルシードなどですね。 >> この四つは、基本的には反発し合うことは無い。だが唯一、“混沌”と“虚無”の力は、近づきすぎると反発することがわかっている。継承者である者たちが、かつて出会ったその時に、それは事実となった。しかし、人間同士としては、彼らは求め合った。それゆえに、力の中和が必要になった。 >> ――中和能力。 >> お互いの力を中和する事により、反発を抑え、共に生きることを可能とする能力。かつて“混沌”の力を継承した者――“混沌神”と、同じくかつて“虚無”の力を継承した者――“虚無神”が作り出した能力。 >> その力なくして、今、“彼ら”はありえなかった。 >ううむ片方が倒れるとどうなるのだろう ”混沌”や”虚無”など、精神世界の柱の申し子たちは、ほとんど万能であるといっても過言ではない力を持っています。それゆえ、普通は長くても1000年程度が限度といわれる封印系の魔法も、半永久的にかけることが可能です。まあ要するに、人間離れしてるってことですね。 >>「あの方は…失う事が怖いから、自分の配下を戒めてるんですよ。独りになることを…恐れているから」 >少々歪んだ寂しがりやですかな はい。かなり歪んでますね(汗)。スウォードの過去(?)は15話で少し明らかになります。でも、彼は彼なりに一生懸命なのかも。実は彼にはまだ秘密があって・・・。 >それではこれからどうなるのでしょう・・・特にルシアは・・・。 ルシアは今は無事です。でも心の動揺が彼女の運命をどう変化させるのか、そのあたりはまだ考え中です。でもできる限り不幸にはさせたくないキャラだったりします。 ルシアのイメージは『花』みたいな感じです。美しく、けれどときに弱弱しい姿。けれどちょっとお母さんてきな部分もある人で、スウォードの部下である少年少女たちのなだめ役だったりもします。 ちなみに参考までにそれぞれのイメージを。 シーウ 『混沌』、『孤独』、『儚さ』 ヴァルス 『光』、『優』 ハヤテ 『虚無』、『不完全』 スウォード 『闇』、『不安』 フォル 『風』 シャル 『癒し』 クレスタ 『寂しさ』、『想い』 ファロン 『妖艶』 ルシア 『花』、 ・・・みたいな感じです。ほかのキャラも一応イメージした言葉はあります。一番多いのはシーウですが、どれもあまり明るいものではありません・・・。混沌にしても、彼女を苦しめている原因ですからね。 と、長くなってしまい、すみません。では。 |