◆-ここは正義館6-えれな(2/9-11:24)No.1244
 ┣Re:ここは正義館6・後編-えれな(2/9-11:28)No.1245
 ┣Re:ここは正義館6-えれな(2/9-11:34)No.1246
 ┗↑の7ですね(笑)・ここは正義館8-えれな(2/9-11:52)No.1247
  ┣Re:↑の7ですね(笑)・ここは正義館8-なな(2/9-13:31)No.1248
  ┃┗ラバーななちゃんへ。-えれな(2/13-02:21)No.1277
  ┣Re:↑の7ですね(笑)・ここは正義館8-はづみ(2/9-17:32)No.1253
  ┃┗はづみちゃんへ。-えれな(2/13-02:51)No.1278
  ┣Re:ここは正義館68-風太(2/12-02:31)No.1272
  ┃┗Re:すみません。上、失敗です。削除してください・・-風太(2/12-02:57)No.1273
  ┃ ┗風太さんへ。-えれな(2/13-03:15)No.1279
  ┣Re:ここは正義館6〜8-ブラントン(2/13-20:19)No.1281
  ┗わーい!わーい!正義館どわああ〜(はーと)-猫斗犬(2/14-17:20)No.1287


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1244ここは正義館6えれな E-mail URL2/9-11:24


ちょーお久しぶりですが、こんにちは。はじめましての人も多いと思いますが、むか〜しむかしから、この書き殴りさんでふざけた長編連載をしていただいているえれなという者です。あまりにも前回から時間があいてしまっているので投稿して良いものかちょっと迷ったんですが、続き待ってくださってる素晴らしい方もいらっしゃるようだし、続き気になって気持ち悪い思いをしてる方もいるかもしれないので、恥を忍んで投稿します(笑)ていうか、やっぱり続きアップするのは、連載をした人間の最低限のマナーのような気がするし(笑)
いきなり「6」ってなんやねん!って方はもし良かったらここの過去ログか、私のホームページまでいらして前作を読んでくださいね♪
設定。忘れてる方も多い(っつーか、えれなも忘れてた(爆))ので一応設定と共にアップします。忘れかけた記憶を呼び覚まして読んでくださったらうれしいです♪

では、お久しぶりですが、お待たせしまくった続き、どうぞ。

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ここは正義館


世界設定

時ははるかな未来。最終戦争とよばれた戦争が起こり、人類は滅亡の危機なあった
が、奇跡的にも数万人生き残り、新たなる力、つまり、魔道の発展により、再び範栄期を迎えつつあった。しかし、人類は地球を独占することはできなかった。
そこにはいままで存在しなかった生物が台頭しつつあったからである。
その生物とは、すなわち、魔族。
この物語は、そんな未来の地球を舞台に、おなじみスレイヤーズのみんなが横浜のS高と、その寮である正義館を舞台にして、ドタバタを繰り広げるというハードアクション未来転生ファンタジー恋愛学園ドラマです。(なんじゃそりゃ)
なお、未来の地球ってことで、やたらインターナショナルだけど、文明の発達のせいということにしておいてください。(はあと)



用語説明



正義館・・・・横浜のS高特待生の寮。住居費免除だが、それ以外のことは、すべて学生がやらなくてはならない。正式名、S高第4ドミトリーだが、正義館という愛称で呼ばれている。ばーい、アメリア。住人は、リナ、ガウリイ、ゼルガディス、アメリア、ルーク、ミリーナ、ゼロスの6人と一匹。

リナ・・・・高1。16才。大坂出身。魔道士コース。正義館のボスで会計を握っている。横浜のヤンキー界の裏番。

ガウリイ・・・22才だが高3。アメリカ出身。剣士コース。元国際軍の大尉。正義館の寮長だが、実質ただのパシリ。剣道部部長。

ゼルガディス・・20才だが高3。ドイツ出身。魔道士コースと剣士コース両方に所属する異例のエリート。料理担当。

アメリア・・・15才。高1。イギリス王家から留学。巫女コース。掃除係。体操部だが、ほけつ。

ルーク・・・17才。高2.オーストラリア出身。魔道士コース。正義館では、買い物担当でリナとの喧嘩が絶えない。

ミリーナ・・・17才。高2.オーストラリア出身。魔道士コース。正義館では、洗濯担当。おそらく、一番マトモな精神の持ち主。

ゼロス・・・S高の生物教師で、正義館の担当指導員。白衣のスマイルで女性徒をメロメロにしてる悪いやつ。



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ここは正義館

エピソード6.祇園精舎の金の声 諸行無情の響きあり






「どうしてこんなことになっちゃったんだろうね…」
時は夜。正義館のとある一室で一つともされたランプが今にも消えそうな光を照らしている中で、どこか絶望したようなリナの声が響いた。
「……ああ……」
同じく絶望したかのように唸るガウリイの声。
「………なんで誰も気づかなかったのか……」
「……幸せすぎてわかんなかったんだよ。いや、気づこうともしてなかったんだ。」
ゼルガディスの言葉に重い口調で返すルーク。
「だって、まさかこんなことになるなんて誰が想像できますか?」
「祇園精舎の金の声………諸行無常の響きあり……」
ちゃりーん。ちゃりーん。ちゃりーん。
アメリアの問いに、ミリーナはただ呪文のように呟いて手にしたものをテーブルに落とす。
テーブルの上を円を描いて転がり、やがてその動きを止めた物体を見詰める一同。
何度見つめても変わることはない。
長い長い沈黙の後、誰とも無しに深いため息を漏らす一同。
「…………五百円玉一枚と………十円玉二枚……これが現実です。皆さん。」
何故か明るい口調でゼロスは言った。
「おごれる者は久しからず。ただ春の世の夢のごとし………」
そう。
夏休みアミューズメントパークで稼いだ大金は、秋口の今、テーブルの上のコイン三枚になっていた。


「………で。俺が思うにこれってやっぱり責任は会計係がとるべきだと思わねーか?どーいう金の管理の仕方したらあんだけあった金がこーなっちまうんだよ?」
しばしの間。
現実に打ちひしがれていた一同の中、一番最初に帰還したルークはそう言うとリナにずずいっと詰め寄った。
言われて俯いて頭を抱えていたリナは、ぐっ!と顔を上げて、
「ちょっと……待ちなさいよ。あんたがぼこぼこ高いもん買い物してくるからこんなことになったんでしょ!?え?買い物係!」
ルークを睨み付ける。
「それはゼルガディスが『料理は素材が命だ。』とか言ってぼこぼこ高い素材注文したからこーなったんだ!俺は単に買い物をしただけだっ!」
「お前らがっ!礼金山ほどあるんだから贅沢料理が食いたいって言ってぼこぼこ食うからこんなことになったんだろ!俺は単にお前らの注文通りの料理を作っただけだ!」
責任転嫁が自分に回ってきたゼルガディスも負けじと反論する。
ここで負けを認めるのは、今後の人生を捨ててしまうのと同じ、いやある意味それ以上に質の悪いことになりかねない。
「皆さんっ、見苦しいです!自分の責任を愛すべき同居人に押し付けるなんて!
潔く自分のせいだと認めましょう!リナさんも!ルークさんも!ゼルガディスさんも!」
ガタン!と席を立って、リナ達を交互に指さしてアメリアは言う。
「そーよ、アメリアの言う通りよ!あんたたち、罪のない女の子に責任押し付けるなんて情けないと思わないの!?ちょっとは素直になったらどーなの?」
「素直に認めるも何も、おめーのせいだろーがっ!大体、一番食って食費稼いでるのはあんたらだろーがっ!」
「あんたらって……オレかもかぁ!?」
いきなりルークに指を差されて焦るガウリイ。
「そーね。言われてみればガウリイが一番食べるんだから、ガウリイのせいよね。」
ルークの指摘にこくこくうなずくリナ。
「ちょっと待てぇぇぇっ!なんでいきなりオレのせいになるんだよ!?」
「まぁ、寮長ですからねぇ。正義館のトラブルは全部寮長の日頃の寮生のしつけが悪いからってことで解決ですね。いやぁ、良かったですね。」
ぱちぱちと手を叩いて自室に戻ろうとするゼロスの襟首を掴む青い手。
「待て。それを言うなら、担当指導員のくせに仕事を生徒に任せっきりの貴様の責任なんじゃないのか。」
と、これはもちろんゼルガディス。
「いやあ、ゼ、ゼルガディスさん、そんなに真剣な目で見つめられたら僕困りますぅ。」
「ふざけてごまかそうとしても無駄だ。たまにはあんたにも貧乏籤ひいてもらうぞ。職務怠慢を校長に言いつけても良いんだ。証拠ならごまんとある。」
やけに執念深く絡むゼルガディスに、
「わたし、証人になりますっ!」
挙手するアメリア。一同も我も我もと手を挙げる。
「わかりました。では、責任を持って、あなたたちの特待生失格の報告書を明日にでも校長に提出しましょう。いやぁ、残念な結果です。」
残念どころか満面の笑顔で答えるゼロスに一同は一気に顔色を変える。
「待って。責任追及は後ででもできるわ。
今一番に決めなきゃならないのは、明日からどうやって暮らしていくか、よ。」
責任追及会議に現実逃避しようとしていた一同を一気に現実に引き戻したのは正義館で一番マトモな神経の持ち主という設定のミリーナだった。
彼女の一言に一同の視線は今まで見ないようにしていた目の前の五百二十円に集まる。
「……そ、そーね……
で。どーするの?ミリーナ、なんか考えでもある?」
「………ららら、むじんくん、ららら、むじんくん、らららら………」
リナの問いにミリーナは短調に囁いて遠い目をする。
一同はなんとなく泣きたい気分になりながら、結局その晩、延々と論争を繰り返し、答えがでないまま朝を迎えたのだった。
食事なき戦いの幕開けを飾るにふさわしい、皮肉なほど美しい日の出に包まれて。




いつの時代もどの世界でも変わらないものはある。
例えば、人々の心。
誰かを想い想われて、せつなくなったりうれしくなったりする気持ちは変わらない。
そして、誰かを憎んだり傷つけたりする心もまた然り。
変わらない心は変わらない歴史を生む。
時の糸を手繰り寄せて、再び同じことが繰り返されるのだ――――



とかなんとか、歴史担当の禿頭のおっさんが言っていたなぁとか思いつつ、リナはぽりぽり頭を掻いてその光景を他人事のように見ていた。
「おらおら、お嬢ちゃんよぉ〜、今どき正義のヒーローかぶれなんて流行んねえぜ〜?んなことしてないで俺らと一緒に茶でもしばきにいこうや。」
流行らないのはあんたの存在自体だ。ヤンキー君。
と、心の中でツッコミを返すリナをよそに頭上から声が響く。
「何を言っているんです!正義を愛する心はいつの時代も同じこと!世に悪がある限り!私の役目は終わりません!」
だん!と彼女の背丈以上あるドラム缶の上に乗りあげ、びしぃっと虚空を指差しているのはもちろん言うまでもないがリナの連れ、アメリアだった。
その彼女の口上に、完全に相手にしていないのか、ひゅーひゅーからかいの声を上げるヤンキー一同。
「アメリア。ぱんつ見えてるわよ。」
「………!!」
リナの冷めたツッコミにアメリアはちょっと表情を赤らめスカートに手を覆ったが、ぐぐっと唇をかみ締め、
「己の悪を省みず反省しないどころか、乙女のスカートを覗き込むその根性!ぜったいに許せません!天に代わってこの私。一年B組アメリア=ウィル=テスラ=セイルーンが……」
「火炎球(ファイアー・ボール)。」
ちゅどおおおおおおおおん。
なんの前触れもないリナの一言で、ヤンキー一同は炭化した。

「…………リナさん、ひっどーい!まだ途中だったのに!」
「あー、あんたの口上待ってたら、時間もったいないでしょーが。ほら、しばきたおしたいなら転がってる奴あげるから。」
「いりません!こんな手応えのない空気の抜けたサンドバックみたいなの。つまらないですっ!」
転がっているヤンキーをげしげし蹴りつつも反論するアメリア。
「我が侭言わないの。そ・れ・よ・り、収穫は………」
上機嫌の声のリナに囁く声がひとつ。
「あの………」
「今忙しいの。後にしてくれる?」
「あーーーっっ!リナさんったら、またそんな卑怯なまねをっ!だめです!悪人からお金盗むなんて!よけい悪人になっちゃいます!」
「な〜に言ってんのよ。あんたねぇ。あたしがなんで今日あんたをわざわざ誘って帰ったと思ってんのよ!?ご飯代稼ぐためでしょ!?大体あたしはこいつらから盗んでるわけじゃなくて迷惑料を頂いているだけなんだから卑怯じゃなくてこれも立派な正義の行為の一端なのよ。さ、あんたも手伝って。」
「そうですよね。んじゃ、さっそくこいつから。」
あっさりと納得してごそごそと転がるヤンキー集団の懐をまさぐるアメリア。
「あの……できればお話を聞いていただきたいのですが………」
「何よ?後にしてって言ってるでし………」
うっとおしそうに振り返ったリナの目に映ったのは。
黒い手帳を取り出して、不適な笑みを浮かべている婦人警官だった。


「ま、そんなに固くならないでください。リナ=インバースさんとアメリア=ウィル=テスラ=セイルーンさんだったかしら?」
「な、なんであたし達の名前……」
いつ、どーやって、この場をトンズラしようかと内心だくだく汗をかいていたリナは思わず警官の言葉に顔を上げた。
目の前の婦人警官は、見た所まだ23、4歳といった所の長身の女性で、長いウェーブのかかった黒髪をアップしているなかなかの美人である。
「やっぱり、あなたたちがそうなのですね。」
にっこりと笑みを浮かべて言う彼女。
「やっぱりってあの……」
「私、浜の署の少年課のものなんですけど。ここ半年で、この横浜のヤンキー界はまるで……そうです。例えるなら、ドラえもんが仮面ライダーになったくらい変わったんです。
 そして、その背後にはいつも一人の女の子の影がちらついていたのです。そう。彼女は水星のごとくこの横浜に訪れてきて、次々と名のあるヤンキー達を成敗していきました。
そうです、例えるなら、水戸黄門のごとく。」
「………その比喩なんか間違っている気がします………」
真剣そのものの表情で語り始める彼女に、つぶやくアメリア。
「で?それであたし達、ていうかあたしのこと調べたわけ?」
「ええ。だってそんなカントリーマアムのアールグレイ味のような女の子、誰だって見てみたいと思うでしょう?」
「………はあ……カントリーマアム……」
脳裏にあの赤血球ににた物体を浮かべてどこが自分と似ているのか悩むリナ。
「でも会って感激しましたわ。まさかこんな………」
「こんな?」
「ストローのような女の子だったなんて。」
「…………」
真剣な瞳でこちらを見つめられ、リナはしばしリアクションに困った。
見れば横にいるアメリアも同じように怪訝な顔をしている。
「………ま、まあ、それはおいといてよ。で、話って言うのは?あ、あたし達、急いでるからできれば手短にお願いしたいなぁなんて思ってるんだけど……」
どーも間の抜けた発言が目立つ警官にリナはさっさとトンズラをこくことが一番妥当だと判断してそそくさと話を切り上げようとする。
しかし。
「あらあら。さっさと見逃してもらえると思わないでくださいね。少なくてもあなたたちがしていることは立派な犯罪なんですから。ま、そんなに急がないでゆっくり話をしましょう。頼みたいことがあるのよ。
あ。ちなみに、私の名前は――――」
にっこりと。
さきほどとは違う含みのある笑みを浮かべて、彼女はすっと名刺を差し出して言った。
「天王寺ミオよ。」



続きます。

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1245Re:ここは正義館6・後編えれな E-mail URL2/9-11:28
記事番号1244へのコメント



続きです。





「なぁ、ミリーナ………」
なんの食事もないまま、半日が過ぎてしまった放課後。
ルークとミリーナはいつものように二人で早々と下校していた。
言葉も少なく黙々と通学路を歩くミリーナにルークは問い掛けた。夕日の光に透けた彼女が眩しく感じるのも徹夜のせいではなくいつものことである。
「俺ってすっごくマジメに生きてるよな?」
「………」
隣に並んで歩くミリーナから返答はない。
しかし、それも日常茶飯事なのでルークはそのまま続ける。
「なんでこんなに高校生活って難しいんだろう……」
深いため息をついて、道行く小学生たちを遠目に眺める。無邪気な笑顔と笑い声が駅前のさわがしい空気に溶け込む。
訳もなく通り魔的に小学生を刺してしまう青年の気持ちがなんとなくわかりかけてしまってルークは慌てて首を振った。
「ああっ!俺は単にお前と二人で幸せに生きたいだけなのに……!
なんでっ!なんでっ!」
ルークはそこで息を止めて、空を見上げ、
「こんなことしなきゃなんねーんだぁぁぁぁっっ!!」
高く高く両手を掲げた。
『なんでもやります。僕を買ってください。』とかかれた看板を持って――――

「こらあああっっ!このくそじゃりーーっ!石投げんじゃねーーっ!殺すぞ!」
突然叫び出したルークに通行人の小学生たちはくすくす笑って石を投げ続ける。
「やーい、ほら、金欲しいかぁ?ほら、やーーるよっ。」
「いてっ!……てめーらっ!どつきまわされてーのかっ!?さっさと家かえれ!」
「おまえこそさっさと家にかえれよっ!こんな所でそんな商売してていいのかよぉ?」
「うるせーっ!大人には大人の事情ってもんがあるんだよっ!」
「やーい、お前その女の下僕なんだろー?恥ずかしい野郎だなーっ!」
「黙れっ!俺は下僕なんかじゃ……ねー…よ…な……?」
なんとなく語尾を弱めて一瞬ミリーナの表情を見てしまうルーク。
「――――下僕じゃないわ。」
冷静に言ったミリーナの台詞にルークは勝ち誇った顔で小学生を見る。
「へっ!てめーらみたいなガキには大人の恋愛なんか理解でき……」
「奴隷よ。」
…………
ほぼ同時に言う二人に訪れる沈黙。
そして。
「大人の恋愛って…大変なんだな…」
「ま、がんばれよ。」
「そーいう生き方も悪くないかもな。」
小学生たちはこくこくうなずきながら、石化しているルークの肩をぽんぽんっと叩いて一斉に駅のほうへとかけていく。
「同情するなら金をくれ………」
うつむき加減で呟くルークの頬に何かが光ったようにも見えたが、ミリーナはそれには気づかないフリをして、
「ルーク。」
優しく肩に手をかける。
その仕草にルークは彼女が心配していると思ったのか、
「いや、ミリーナ、大丈夫さっ!汚れた仕事は元々俺の専門だし、これくらいのことで落ち込んだりするかよっ!
それより、ごめんな……俺、お前のこと幸せにするって言ったのにこんなに苦労させてばっかりで―――――」
慌てて取り繕って笑顔で作る。
「いいのよ。幸せにしてなんて頼んでないから気にしないで。」
首を振って答えるミリーナの言葉にルークの笑顔は今度こそ石化した。
「それより―――――さっきから気になってたんだけど……
あれって……リナさん達じゃない?」
そんなルークにはおかまいなしにミリーナはすっと駅の路地裏の方を指差して、そのまま近づいて見ようと歩み寄る。
彼女の視線の先には、S高の制服を着たリナとアメリアに背格好のよく似た女の子が二人、婦人警官と話し込んでいる。
話と言っても黒い手帳を婦人警官はちらつかせていて、どう見ても世間話をしているといった感じではない。
「……あ?……ほんとだ。何してんだ、あいつら?」
同じようにミリーナの横に並んで路地裏を覗き込むルーク。思わず二人は建物に隠れて様子を伺ってしまう。
側にはタイムトリップしてきたかのような時代遅れのヤンキー達の残骸が転がっている。
状況から考えて答えは一つである。
「や……やべえんじゃねーの…?これって……」
「カツアゲって手があったわね……」
ルークの問いにミリーナはうわの空で感心したかのように呟く。
「どーする?」
「現行犯逮捕の瞬間なんてあんまり見れるもんじゃないわ。」
「見捨てんのかぁっっ!?いくらなんでもそりゃねーぜ、ミリーナ!」
「そうね………。
あの警官さえ倒してしまえばヤンキー達から借金することはできるわね。」
「……ミリーナ………」
彼女の冷徹な血も涙もない答えにルークはしばし脱力感に囚われつつも、気を取り直して、
「んじゃ、いくか。」
まだ持っていた看板を右手に持ちかえる。
「……何するの?」
「決まってるじゃねーか。こーすんだよ。
せーのっ!」
「ちょ……!ル…」
止める暇もあらばこそ。
ごがっ!
ルークの投げた『僕を買ってください』看板はマトモに婦人警官のどたまに直撃したのだった。

どさっ!
「何っ!?」
いきなり昏倒した婦人警官、天王寺ミオにリナとアメリアは思わず声を出して驚いた。
ミオの後方には見慣れた二人の姿。
「よ。」
「………急いで。人に見つからないうちに。」
軽いノリであいさつするルークとは対照的にミリーナは真剣な声で言うと、ミオをまたいでヤンキー達の懐を探し始める。
「ちょっと待ったぁぁぁっっ!あんた達いきなり出てきて何すんのよっ!?」
「何って、おめーらが警官につかまりそーだから助けに来たに決まってんだろ!」
「それのどこが助けに来てるってのよ!それの!」
思わずリナは無言でヤンキー達をざかざか探りまくってるミリーナを指差して叫ぶ。
「っていうか、リナさああん……この人……死んでるんじゃないですかぁ……?動きませんよぉ……」
アメリアの細い声に、凍り付く一同。
アメリアは必死になって警官を揺さぶるが、彼女はだらりと力なく白目を剥いて、頭からだくだく流血したまま意識が回復しそうにもない。
「嘘ーーっっ!この話ってそーいう話だったの!?あたし、嫌よ!殺人犯なんて!ちょっと、あんた!しっかりして!」
「スレイヤーズ……確かに、理屈にかなってるわね。」
「納得してどーすんのよっっ!と、とりあえず、救急車!」
「でも、どー説明すんだよ?っつーか……俺達どー考えても誤解されるぞ。」
「誤解も何も立派な加害者です……ああっ、今回は塀の中の話なんですかぁぁっ!?」
「いや、これは事故よ!加害者なんかじゃないわっ!」
「とにかくここは人目に着きます!場所を移動しましょうっ!」
「移動するってどこによぉぉぉっっ!しかもこんな血だらけの警官ひっさげてどーやって移動するのよ!」
混乱しまくった一同をよそにミリーナは静かに呪文を詠唱し始める。
「地精道(ベフィス・ブリング)!」
彼女の力ある言葉に反応して地面にぽっかりと三メートルほどの深い穴が空く。
「ここから逃げるのか……?」
「逃げるのはあと。何より先にその人を回復させるのが一番よ。」
ミリーナの言葉に一同は我に返って、それぞれ呪文を唱える。
「浮遊(レビテーション)!」
ルークが警官を抱えて穴の底に降りていく。
それに続いて他のみんなも降りる。
最後にリナが転がってるヤンキーの体を穴の入り口を隠すように細工して、穴の底に降り立った。
その時には既にミリーナが横穴を新たに呪文で掘っているところだった。五人入るにはスペースが足りないからである。
その間にも、アメリアは必死に復活(リザレクション)をミオにかけている。
「明り(ライティング)!」
ルークの唱えた呪文で空洞に明かりが点り、一同の緊張した表情が露になる。
みんな言葉もなく唯ミオの様子に注目している。
そして、しばらく経った後。
アメリアが顔を上げてぽつりと呟いた。
「……多分もう大丈夫です。」
その言葉に誰とも無しに安堵のため息が漏れる。
「ああ……ったく……なんでこー次から次へと災難がオンパレードでやってくるんだうよ…」
「あなたがいきなり看板投げるから。」
ミリーナに返されて、ルークは額に汗を浮かべながら、
「ま、それはおいといてだな。どーすんだ?これから。」
「とりあえずここを出ましょ。こんな薄暗い息の詰まる場所にいたらカビ生えそうだわ。」
「そーだな。とりあえず、嫌だけどしゃーねえな。ゼロスに迎えにきてもらうか。」
ルークの提案に一同は誰ともなしにがっくりとうな垂れて、再び浮遊(レビテーション)を唱え出したのだった。



「――なるほど。そういうことですか。」
「馬鹿か、お前等。」
「よくわからんが、大変なことになったなぁ。」
リナ達を迎えに来たゼロスの車の中で、一通り事と次第を説明した後。
当然のことながら、ゼロス、そして一緒に来ていたゼルガディス、ガウリイはそれぞれ呆れた声で一同を見まわした。
「で。どうするつもりだ?この警官をいつまでもこうしてここに監禁するわけにもいかないだろう。」
「どうすれば良いのかわかんないから困ってるのよ。」
ゼルガディスの問いにリナはげんなりした口調で返す。ゼロスの車は大型の10人乗りの浮遊車(レビテーション・カー)なのだが、その一番後方座席に天王寺ミオは眠っている。
とりあえず、あの後一同は穴の場所を離れ、要らぬ証拠になると困るのでヤンキー達から借りたお金を返して、駅の側の路地裏を離れて、駅前に路上駐車しているのだ。
「どーでも良いけど腹減ったなー」
ぽつりともらしたガウリイの呟きに、一同の体は急に脱力感に襲われる。
「何もかも食事がないのがいけないのよ。だからこんなことになっちゃった訳だしこのままじゃあたし達ほんと餓死するわよ……」
「さっきじゃねーけど、マジで犯罪に走るか、腐乱死体が正義館に転がるか。ほんとにどーにかしねーとな。この状況。」
「確かにこのままじゃらちがあかんな。」
リナの言葉に頷くルークとゼルガディス。
そんな中一人元気なアメリアがここぞとばかりに、
「正当な方法でお金を得ようとしないからこーいうことになるんです!正しくお金を手に入れましょう!」
「だからその正当なすぐお金が手に入る方法って何なのよ……」
いい加減堂々巡りしている議論にうんざりして問い掛けるリナにアメリアは不適な笑みを浮かべたのだった。



「え〜、毎度御騒がせしてます。市民の皆さん。こちらは〜、正義館でございます。ただいま正義館ではキャンペーン中につきまして、あなたの御悩み解決しますプランAと嫌いなあいつをどつきますプランBとを特別価格でご用意しております。皆様、是非一度御立ちよりくださいませ〜。」
開き直った事務的なリナの声が横浜の町中に響く。
「お前、もうちょっとやる気ある声出せよ。そんなんじゃ客来ねえよっ!」
選挙カーならぬ、宣伝カーと化したのったりとしたスピードで動く浮遊車(レビテーション・カー)の上に座って垂れ幕を持っているルークが叫ぶ。
「うるさいわねえ。じゃあ、あんたがやりなさいよ、アナウンス!どれだけ恥ずかしいと思ってんのよ!?」
「俺だってこんな看板持ってるだけで死ぬほど恥ずかしい想いしてるんだっ!大体、てめぇの金の管理が悪かったからこんなことになったんだろーがっ!会計さんよ!」
『僕らを買ってください。なんでもします』と少し訂正されたほんのり血の付いた看板を持ってリナをにらむルーク。
「あんたがぼこぼこ高いもん買い物してくるからこんなことになったんでしょ!?え?買い物係!」
「それはゼルガディスが『料理は素材が命だ。』とか言ってぼこぼこ高い素材注文したからこーなったんだ!俺は単に買い物をしただけだっ!」
「お前らがっ!礼金山ほどあるんだから贅沢料理が食いたいって言ってぼこぼこ食うからこんなことになったんだろ!俺は単にお前らの注文通りの料理を作っただけだ!」
窓から通行人に向かってやる気なさそうにぱたぱた正義館と書かれた旗を振っていたゼルガディスが何度目かになる反論を飽きずに繰り返す。
「何をごたごた言ってるんです!皆さん!これぞ私たち正義の使者の出番じゃないですかっ!今こそ!正義を世に広めるいいチャンスです!さあさあさあさあ!悪にお困りの皆さん!あなたの御悩み解決します!寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!こちら正義館でございます!正義を愛する若人の集う正義の館です!正義を愛する皆さん!一緒に正義を広めましょう!さあさあさあさあ御一緒にっ!」
「やめろっ!客が帰るっ!」
今にも窓から落ちそうなくらい身を乗り出して叫ぶアメリアを無理矢理車内に引き戻すゼルガディス。
「おや、お嬢さん美しいですね。今夜食事にでもどうです?」
くすくす笑いながら去っていく通行人の女の子をナンパするゼロス。
もはや完全に単なる大道芸人と化してしまっているその車を運転しながらガウリイは呟いた。
「をい……お前ら……このままじゃ今晩も飯にもありつけんぞ……しっかり宣伝活動しろよ……」
アメリアの強い一押しで、「困っている人を助ける正義の味方」つまり正義館の強力すぎる人材を生かした仕事、早い話がなんでも屋が一番効率的かつ正当な仕事だと半ばやけくそ気味に決定してこーいう宣伝活動に走っているのだが………
食事が彼らの生命活動の大部分を占めているせいか、それとも普段からの連携の悪さからか一向にその夕御飯は見えてきそうになかった。
「…………五十日間絶食したら、人は仏に救われるというわね………」
「それって、ちょっと違うと思う……」
ぽつりと呟くミリーナにルークは遠い目で答える。
「ねえ……やっぱり、こんなまわりくどいことしてないで、とっととそのへん転がってるヤンキーから金巻き上げない?」
「それもそうだな……腹、減ったし。」
リナの提案にガウリイも頷く。
「だめですっ!そんなの正義じゃありませんっ!楽して食べようなんてそんな性根の腐ったこと言ってたら良い死に方できませんっ!大体さっきのでもう懲りたんじゃないんですか!?悪に走るとろくなことになりません!」
「そうは言うけどねぇ………このままじゃ正義館にあたし達の腐乱死体が転がる日のが近いわよ。」
拳をぎゅっと握って力説するアメリアに、げんなりした様子でリナは答えた。
「なんにしろ、このままじゃらちが開かんな。」
「ああ。やっぱり、もうこーなったらあれしかないだろう。」
ゼルとルークは呟いて、くるっとガウリイの方を見る。
「ガウリイ。がんばれよ。」
「元気でな。病気すんなよ。」
「は?お前ら何言って………」
「リナやアメリアはああ見えても一応女の子だしな……」
「ミリーナは繊細だからそんなこと絶対にさせれねぇし。」
「おいおい、なんの話だよ?」
うろたえるガウリイに、ゼルとルークは涙すら浮べつつぽんと彼の肩に手をおいて、
「行ってこい。」
ちょうど目の前にあった『可愛い子ちゃん、大歓迎!!ぴんくの館』とどきついピンクの看板が掲げられている店を指差す。
「んな馬鹿な話があるかぁぁぁぁっ!!大体、オレは男だっ!」
「大丈夫よ。あんた、そのへんの女より可愛いし。」
「まじめな顔して言わないでくれ……」
リナのセリフに涙するガウリイ。
「あ、ガウリイさん。動かないで。髪の毛結んであげますから。制服の方が受けるかしら。私の制服、サイズ少し小さ目だけどなんとか着れそうね。」
「待てっ!勝手に話をすすめるなっ!」
ガウリイの言葉を無視して、メイク用品を取り出すミリーナ。
「おなか空いたひな鳥たちのご飯のためっ!これも正義ですっ!」
「オレはお前らを生んだ覚えはないっ!」
暴れるガウリイを押さえつけるアメリア。
「まぁまぁ、これも寮長としての勤めですよ。担当指導員命令です。行ってください。」
「こんな時だけ担当指導員になるなぁぁぁぁぁっ!!!」
なんだかとても幸せそうに微笑むゼロスにガウリイはあくまで抵抗するが、四面楚歌。
そんなわけで。
あっという間に彼は、薄幸の美女に変身させられてしまったのだった。


「………ガウリイ、聞こえる?危なくなったらすぐ援護してあげるから。どーぞ。」
「何が危ないんだっ!?何がっ!お前、状況を楽しんでるだろ!?………どーぞ。」
「あら、そんなことないわよ。これでも心配してるんだから。どーぞ。」
「で。どーすりゃいいんだよ?リナ、聞いてるか?どーぞ。」
「あ。待って。悪事担当のルークに代わるから。」
「誰が悪事担当だ……そりゃてめーの仕事だろーが……」
一同はぴんくの店の横手に宣伝カーを停めて、何故か即採用されてしまったガウリイと時計内蔵型トランシーバーで交信していた。ちなみにこのトランシーバーは何が入ってるかあいかわらず分らない鞄からゼロスが取り出してきたものである。
「ガウリイ。いいか。よく聞けよ。男が入ってきたらまず上着を脱がして財布のありかを確認するんだ。どーぞ。」
なんだかとてもうれしそうに言うルーク。
「確認してどーするんだ?どーぞ。」
「その後は男が寝るまでがんばるだけだ。どーぞ。」
「何をがんばるんだっ!何をっ!気絶させりゃいいんだろ!?どーぞ。」
「あんまりあっさり気絶させちゃおかしいと思われるだろ?時間を稼ぐんだ。どーぞ。」
「……時間稼げったって……あ!入ってくる!とりあえず黙るけどやばくなったら頼むぜっ。どーぞ。」
「がんばれっ!ガウリイっ!」
「制服破らないでくださいね。」
「ガウリイっ。今夜の晩御飯のためよっ。」
ルーク、ミリーナ、リナの三人の勝手な応答を聞きながらガウリイはため息をついて、扉の方をじっと見据えたのだった。



「せっかく正義の使者になれると思ったのになぁ…」
ガウリイぴんくの館派遣にすっかり気を取られている車内の一同をよそに、アメリアは一人、車に張りまくっていた正義館の広告の紙(と言っても単なる生物プリントの裏だが)を名残惜しそうに一枚ずつはがしていた。
「なんでそんなに正義にこだわるんです?」
ふいにかかった声に振りかえれば笑顔のゼロス。彼は無言でアメリアの身長では届かない所にある広告の紙を一枚はがして彼女に手渡した。
「…………ゼロスさんは正義ってなんだと思いますか?」
しばらく黙っていた後アメリアはふいに口を開いた。
言われてゼロスは意外そうに笑いながら、
「あなたにとって正義はなんなんです?」
問い返されてアメリアは、
「正しいことをすること?」
「ではそれが正義でしょう。」
あまりにあっさりと返されてアメリアは不満そうに頬を膨らせて言った。
「まじめに答えてください。わたしはまじめに聞いてるんです。」
「僕はいつも真面目ですよ。正義は人それぞれ違います。あなたが正義だと思うことが正義なんですよ。」
「じゃあ、ゼロスさんは何が正義なんですか?」
「それは――――――」
言い掛けてゼロスはふと言葉を止めた。
いつのまにかアメリアの背後に現れていたゼルガディスの視線を感じて。
「なんですか?」
無邪気な視線で問うアメリアにゼロスはにっこり微笑んで、
「彼に教えていただきなさい。」
ぽんとアメリアの肩を叩いてそのまま彼女の前から立ち去る。
すれ違いざまにゼルガディスはゼロスにしか聞こえない声でふいに囁いた。
「よけいなことを教えるな。」
彼のセリフにゼロスはいつもの微笑みで答え、そのまま無言で車内に入っていく。
ゼロスの様子に内心舌打ちを覚えながらゼルガディスはアメリアに、
「後は俺がやるからお前は車内に戻ってろ。夜の風は冷たいぞ。」
言い放つと彼女に代わってポスターを剥し始める。
「いいです。わたしもやります。それより。ゼルガディスさんの正義ってなんですか?」
「正義?」
「ゼロスさんが教えてもらえって。」
「……俺には…」
正義なんて語る資格はないさ。
ゼルガディスが、そう言おうとしたとき。
「あの……ここは、どこなんでしょうか……」
ふいに、車の窓を開いたかと思うと。
意識が回復しなかった天王寺ミオがひょっこりと顔を出していた。


「………ガウリイ?ガウリイ?応答して。……だめね。全然聞こえないわ。なんとかならないの?」
十分後。まったく応答しなくなってしまったガウリイとのトランシーバーをいじくっていたリナはいらつきを隠せない様子で言った。
「なりませんねぇ。妨害電波が出てるみたいですね。あきらめるしかないでしょう。」
「あきらめるしかないでしょうってあんたねぇ………」
あいかわらず無意味な笑顔のゼロスにリナはため息をつく。
ルークもその隣でぴこぴこ携帯ゲームをしながらまるっきし他人事顔で言う。
「まぁ、光の剣は一応携帯してるからなんかあっても大丈夫だろう。出てくるの待とうぜ。」
光の剣というのはもちろんガウリイの必殺武器なのだが、普段は剣の束だけで持てるのでこーいった隠した携帯にとても便利な剣なのである。
もっとも普段から子供から大人まで護身用に何らかの武器を携帯している物騒なこのご時世で隠して剣を携帯する必要などあまりないのだが。
まだ心配そうにトランシーバーをいじくるリナを見て、ミリーナは聞いた。
「そんなに心配なら潜入してみる?」
「いや……それはちょっと……」
「あなたの援護くらいならするわよ。」
妙に気前のいいことを言い出す彼女にリナは眉をひそめて、
「……どーいう風の吹き回し?」
「制服がビリビリになってないか心配です。」
「………あっそ……」
リナはなんだか急にガウリイが不憫でたまらなくなってきた。
……まぁ、それだけ腕が信用されてるってことなんでしょーけど……
心の中でひとりごちながら、パンパンと制服のスカートを叩いて立ち上がる。
「行くの?」
「まあね。援護頼むわよ。」
「おい、リナ。止めとけって。よけいに事態がややこしくなる。」
どちらかといえばミリーナも連れて行くことに不満があるのだろう。ルークが口を挟む。
「ガウリイが脱出しやすいようにちょっと細工するだけよ。無茶はしないわ。」
リナの言葉にルークはミリーナの肩を叩いて、
「………だったら俺が行く。ミリーナはここに残ってろ。あんないかがわしい所に入っちゃだめだ。」
あたしはいいんかい。
リナがそうつっこもうと思った時。
ドオン!!
派手な破壊音が響いた。
「………こりゃ、細工するまでもなさそーだな……」
ルークがぽりぽり頬をかいて音をした方を眺める。ぴんくの館の一部分からまた何度か破壊音が連続して聞こえてきた。おそらくガウリイが光の剣で闘っているのだろう。
「あーあ。まーた派手にやってくれちゃって……」
「迎えに行ってくる。ゼロス、すぐ車出せるようにしてて。」
「いえ、迎えに行かなくてももう出てきそうですよ。」
確かにゼロスの言う通り爆発音はすぐそこまで来ている。
「ゼルッ!アメリアッ!車乗って!すぐ逃げれるようにするわよっ!」
リナが車の窓からそう叫ぶと同時に、店の入り口から駆けてくる人影が一つ。はだけた制服に身を包んだ壮絶な表情のガウリイである。その後ろからなんだかとっても憤慨した様子のおっさん達がおっかけてきている。
「ガウリイ、乗って!」
「車出せっ!早くっ!」
「皆さん乗りましたか?出しますよ。」
ゼロスはその返答を待たずして車のアクセルを踏んだのだった。


「――――――で?」
首を軽くかしげてリナはにっこり笑って言った。車内のみんなも真剣な眼差しでガウリイに注目している。
「いや、だからな。その、男の上着に財布が入ってるのはちゃんと確認したんだ。んでどーやって時間を稼ごうかなぁと思ってたら、いきなりそいつが制服脱げって言い出して…」
「経緯はいいから。結局、お金は?」
「…………男だってばれて大騒ぎでそれ所じゃなかったよ。」
苦虫をつぶしたような表情で言う。その「大騒ぎ」の様子はガウリイのはだけた制服と髪がよく物語っていた。
「じゃあ何?単にあんたはすけべおやじからかって店破壊しただけなわけ?」
「別にオレだってしたくした訳じゃないっ。」
リナのあきれた声にガウリイは不機嫌に答える。
「まぁまぁ、そんな小さな失敗でいちいち目くじらたてちゃ駄目ですよ。リナさん。世の中にはもっと大変なことだってあるんですから。ほら、後ろをご覧なさい。」
「は?後ろ?」
ゼロスのセリフに後ろを見れば。
いかにもそれもんの黒の高級浮遊車(レビテーション・カー)が四台きっちり後ろから追いかけて来ていた。
「…………奴さん、よっぽどガウリイが気にいったみたいだな。」
「うれしくない……」
ゼルガディスのつぶやきに再び涙するガウリイ。
「ゼロス、もっとスピード出せっ!」
「いやあ、それがあちらの浮遊車(レビテーション・カー)かなり高性能なものみたいでして、追いつかれちゃいますねぇ。困りましたねぇ。」
ルークの言葉にあいかわらずちっとも困ってない様子でちんたら運転するゼロス。
「しょーがないわねぇ。竜破斬(ドラグ・スレイブ)あたりでぷちっと……」
「片づけたりしたら今度は国際警察とカー・チェイスよ。」
「んなこともわかんねえのか、馬鹿か?お前。」
ミリーナ、ルークに釘をさされてリナは、
「や、やあね。冗談よ。いくらなんでもそんなことするわけないじゃない。」
「……とか言いながら呪文詠唱のポーズとろーとしてたよーな…」
「やかましーわよ。アメリア。それより、どーすんのよっ!」
「どーしろったって……」
ドオン!
「何っ!?」
「いやあ、凄いですよ。あの車。ミサイル積んでるみたいです。今流行りのABコーポレーション社のみたいですが、あれ直撃したら大変ですねぇ。」
急に車を襲った衝撃にまるっきり他人事かのように言うゼロス。
「ちょっと何余裕かましてんのよっ!ゼロスっ!ちゃんとよけてよっ!」
「いや、僕、車線変更苦手なんですよ。はっはっは。」
「そんなんで運転するなぁぁぁっっ!ガウリイっ。運転代わって!」
「あー。はいはい。」
げんなりした様子で運転席に入るガウリイ。ちなみに制服は着替え終わってもとの学生服である。
「んっふっふっふ……そっちが戦る気なら、こっちも反撃するのが正当防衛ってもんよね。やってやろうじゃない。」
「ああ、ちょうどムサクサしてたとこだしな。」
「いたいけな少女を追ってくる悪のすけべおやじ連隊をやっつける!燃えてくるシチュエーションですねっ!」
なんだかとってもうれしそうに指をぽきぽき鳴らしてるリナ、ルーク、アメリアの三名にゼルガディスはぽつりと呟いた。
「死なない程度にしとけよ………」
「手加減苦手なんだけど。ま、死に掛けたら復活(リザレクション)かければいいし。行くわよっ!」
「おうっ!」
「まかせてくださいっ!」
すっかり意気投合して三人はそれぞれ呪文を詠唱し始める。
「ああ………晩御飯が遠のいていく……」
そんな中、運転席で一人ガウリイがもらした呟きは誰にも届いてはいなかった。



エピソード7に続く。



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1246Re:ここは正義館6えれな E-mail URL2/9-11:34
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ここは正義館

エピソード7.愛と正義と食事のために




数分後。
「お疲れ様。」
「あっけなかったな……」
「いやあ、お見事です。」
ミリーナ、ゼルガディス、ゼロスの言葉に、
「ふん。手応えなかったわね。」
「これで一つの悪がまた滅びたんですねっ!正義の王国に一歩また前進したんだわ…」
「ミリーナっ!今の俺の海王槍破撃(ダルフ・ストラッシュ)見てくれたか!?」
それぞれの反応を返す三人。ちなみにミリーナはルークのしていたゲームに夢中で返答はなかった。
「まぁ、それはいいとしてだな。」
こほんと咳払いして運転席のガウリイが後ろのメンツに話し掛ける。
「ずっと気になってたんだけど。えっと……あんた、名前なんだっけ……
あの昏倒してた婦人警官の人、意識戻ってるぞ。」
「…………」
ガウリイのセリフに沈黙する一同。
後方座席に視線をやれば、片隅でがたがた震えている天王寺ミオがいる。
「ってそーいえばあたしもなんとなく気になっていたんだけど誰も指摘しないから目の錯覚かなぁって……」
「なあんだ。お前にも見えてたのか。俺にしかみえない幻覚と思い込もうと思ってたのに。」
リナ、ルークのセリフにも彼女はがたがた震えたまま何も答えない。
「………もしもし?あの。ちょっとあなた?」
「……凄いわ……本物ですわ…」
リナの質問に答えたミオの声は震えていた。
「は?」
リナが近づいた途端、化け物でも見たかのような表情で前よりいっそうガタガタ震えて、
「………やっとめぐり会えたんですわ……本物の犯罪組織に……」
大きく目を見開いて何やら感銘を受けている。
「いや、あたしたち別に極悪犯罪組織とかじゃなくって一応正義を愛する正義館ってことになってるんですけど。」
「ある意味、極悪犯罪組織以上にたちが悪い気もするが。」
「……ゼル。黙ってて。
あ、あなたいきなりあたし達としゃべってる最中倒れたんだけど……大丈夫?」
真っ赤な嘘を平然と付きながら、リナがおそるおそる顔を近づけて彼女の様子を覗き込むと。
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいっっっ!!」
やおら白目剥いて泡を吹く彼女。
「え!?ちょっとあんた!?しっかり!」
「リナ、お前なにしたんだ?!」
いきなり響いたミオの声に運転席のガウリイは慌ててリナに聞く。
「なんにもしてないわよ!?いきなり泡吹いて…」
「何もしねえのにこのリアクションかよ!?お前の顔にびびったんじゃねーのか!?」
「どーいう意味よっ、それっ!」
ルークの言葉に目くじらをたてるリナ。
「見ての通りだっ!おい、あんた。しっかりしろ!こいつは確かにそのへんの化け物なんかよりずっと恐ろしいが、一応苦し紛れのフォローをしとくと普段は大人しく……
 はねーけど別に手がロケットになったりいきなりゴジラみたく巨大化して火吹いたりしねえぞっ!」
「いや、でもツッコミ代わりに時々火炎球(ファイアー・ボール)ぶちかますぞ。」
「ガウリイっ!あんた、フォローする気あんの!?よけい怖がらせてどーすんのよっ!」
「まあまあ、落ち着いて。お嬢さん。この方達は確かに野蛮で超一級極悪非道人ですが僕だけは違います。さあ、何があったのか話してみてください。」
いきなり痙攣しまくって白目むいてる彼女の手をすっと取って真摯に話すゼロス。
「だめですっ!ゼロス先生はこー言って女の人をいつも騙していくのが手口なんですっ!信じちゃいけませんっ!」
「そうそう、アメリアの言う通り。こーいう優しい顔してるやつは信じちゃだめよ。本当に信頼できるのは案外普段評判が悪い人間だったりするの。あなたがあたしに関してどんな噂を聞いているのかは知らないけど、あたしは案外普通の女子高生よ?取って食ったりしないから話を聞いてくれない?」
「どこが普通の女子高生だっ。」
「リナさん。嘘はいけません。嘘は。」
「世の中の普通の女子高生が泣くぞ。」
「さっきの戦闘のあとでそんなセリフはいてもなぁ……」
ゼル、アメリア、ルーク、ガウリイのセリフに、
「覚えてなさいよ。あんたたち……」
据わった目で一同を見つめるリナ。
連携の欠片もない一同のやりとりにミリーナは熱中していたゲームから目を離してため息をついて、
「ごめんなさい。私たち、今ある事情でとてもお金に窮していて食事もままならない状態で少し気がたっているんです。確かにあなたが怖がるのも無理ないと思うけど、腕だけは確かよ。さっきの戦闘見ればわかると思うけど。リナさんの話によれば何か頼みごとがあるみたいだけどよかったら話だけでも聞かせてくれますか?」
怒るでもなくたしなめるでもなく淡々とミオに話し掛ける。
ミリーナの落ち着いた言葉にミオは、
「…………こうやってまるで今まで信号無視もしたことないわって顔で話し掛けるような人は夜は歌舞伎町の女王だって刑事課の課長も言ってらしたわ……いいの。わかってるんです。あなたたちの正体はもう私は知ってしまったんです!だって、私はいきなり後ろからオートボウガンで撃たれたんだもの!ああっ!なんて素敵なの!?まるで洗濯機で洗われる猫の気分だわ!」
「ちょっと待て。ツッコミたい所が多々ありすぎて困ってるんだがそれを置いとくとしても、オートボウガンで撃ってはいねーぞ。」
ルークのツッコミを無視して彼女はさらに続ける。
「ごまかそうったってそうはいかないわ。証拠ならごまんとあるのよ。あなたたちがヤンキー達を強火で調理した所も見たし、脅える私を無理矢理毒針で殺害しようとして失敗したことも知っているわ。そして、未成年のくせにイメクラで働き高尚なホモ青年を鞭でしばき倒したあげく、しつこく迫る男を手ひどく振る!これが極悪犯罪でなくてなんなの!?これはオーストラリアのコアラが一斉にうちまたで歩くような由々しき事態よ!天王寺ミオの名をかけてこのチャンスを見逃すわけにはいかないわ!」
「全く事実と違うってわけではないんだけど、何かが恐ろしく間違ってると思う……」
リナの呟きに一同は心の底からうなずく。
この女を警察に返した日には自分たちがどーいう犯罪で捕まるのかが気になる所ではるが、このまま彼女を返すわけにはいかないようである。
いっそ、あの時殺してしまった方が世の中のためだったかもしれない。
などとちょっと恐いことを考えながらも、リナは、
「い、いや………勝手に犯罪人扱いされても困るんだけど……
一応聞くけど、じゃあ、あなた、これからあたし達をどーする気なの?」
おそるおそる聞いてみる。
「そんなの決まってるでしょう?」
リナの問いにミオは馬鹿らしいといった様子で答える。
「んじゃ―――――
つまりあんたは俺達を逮捕するつもりなんだな?」
ゼルガディスは少し声を低くして彼女をすっと見据える。答え次第ではこちらにも考えがある、といった脅しを醸し出して。
しかし、ミオはその言葉を鼻であしらっていきなりけたけた笑い出した。
「まさかそんなもったいないことするわけないでしょう。
あなたたちには私のお願いを聞いてもらいます。報酬は、口止め料ってことでどうかしら。」
「おい、あんた!警察のくせに脅迫する気か!?」
「脅迫じゃないわ。お願いです。だからあなた達は断ることだってできますわ。」
「職権乱用です!こんなの正義のヒーローである国際警察がそんなことするなんて!許せません!わたしがここで正義の鉄槌を……」
「ちょい待ちっ!アメリア!」
今にもミオに平和主義者クラッシュを与えんばかりに憤慨しているアメリアを押さえつけ、リナは真剣な表情でミオを見つめて、
「口止め料に食事代も上乗せしてくれるってなら、考えてもいいわ。」
「おい、リナ!冗談だろ!?こんな女の頼みごとなんてろくでもないに決まってるぞ!」
「ただし―――――
仕事の内容によるけどね。」
ガウリイのセリフを無視して言うリナにミオはしばらく何かを考えて、
「いいでしょう。食事代もつけるわ。ただし成功報酬だけど。
あなたたちにお願いしたいのは―――――」
そこで言葉を切って少しせつない顔をしてきっぱりと告げた。
「駆け落ちの手伝いです。」
聞きなれない言葉に一瞬、間をおく一同。
「……えーと、駆け落ちって……」
「……あれだろ。ゼルがやってるやつ。ほら……剣士コースと魔道士コースを両方……」
「それは、掛け持ち。」
ガウリイのボケに冷静にツッコミを入れつつ、ゼルガディスはミオの方を向き直って、
「駆け落ちは、一人じゃできないはずだが?」
もっともな質問をする。
問われてミオは今までとはうって変わった真剣な表情を浮かべて言った。
「ええ、それでお願いがあるんです。」


ことの始まりは、一ヶ月前。
ミオの両親が交通事故で突然亡くなったことからだった。
20世紀から続く老舗大企業天王寺グループの社長であった両親を失い、ミオは突然メーカー天王寺グループの当主となってしまった。
天王寺グループと言えば、昔はデパート業を営んでいたようだが現在は『泣く子も黙る』というコピーで有名な日本を代表する武器メーカーの一つである。
だが、ミオは今まで企業とは関わりなく気楽に婦人警官の仕事をしていた。
そんなわけで、実務能力のない彼女に変わって実際に指揮を執っていたのは彼女の叔父であった。
叔父は大きな仕事を着々とこなしていき、瞬く間に天王寺グループの新たなる社長としてその名声を極めた。
ミオも、両親の築いてきた天王寺グループをさらに発展させてくれた叔父にとても感謝し彼に会社を任せ、婦人警官らしい平和で流血の絶えない日々(本人談)を送っていたのだが―――――

「ある日、叔父が私に、世にも恐ろしい死に掛けの老人の息を止めるようなお見合いの写真を持ってきたんです。」
港のそばの空き地に車を停めて、黙って話を聞いていた一同が顔を上げた。
真剣な雰囲気にどんなお見合い写真だったのか突っ込みたい気持ちを押さえながら、そのまま彼女の話に耳を傾ける。
「叔父は私に嫌になって思わず殺したくなるほどよくしてくださったわ。だからできるだけ彼の頼みは聞きたいと思っていたんです。
でも――――――
私にはずっと前から恋人がいるんです。」
「だからって駆け落ちしなくても………叔父さんとちゃんと話し合えばわかってくれるかもしれないわよ?」
予想に反してマトモな(?)ミオの話にリナは面食らいつつも、ミオに質問する。
ミオはだまって頷いて、
「私もそう思って叔父にそのことを伝えようと叔父の部屋に行ったんです。
でもその時、私は、私は見てしまったんです!!」
「何を?」
ミオの緊張した声に思わず注目する一同。
彼女はしばらく、何かを考えてやがて思い切ったように叫んだ。
「アラビアの鶏の産卵!」
「帰るぞ。みんな。」
「みたいなガラの悪そうな連中と叔父が口論しているのを!!」
「ややこしい言い方するなっ!」
ゼルガディスのツッコミを無視して、ミオはどんどん感情と高ぶらせて声さえ震わせながら、
「私は見慣れない人達になんだか気になって、ついつい、天井に張りついて立ち聞きしてしまったんですが……。
その時に、彼らはこう言ったんです。
『誰のおかげで今の地位が得られたと思ってるんだ?』と。
そのセリフの後、叔父の顔は一変して無言でお金を差し出して、彼らは満足そうに部屋から出ていったんです。」
しばしの沈黙。船の警笛の音が遠くに聞こえる。
そして―――――
「つまり。あなたはこうおっしゃるのですね。
突然事故死した両親を殺したのは他でもない叔父かもしれない……と。」
単刀直入なゼロスのセリフに一同は一瞬顔をしかめたがミオの反応を待つ。
彼女は港を眺めながらしばらく黙っていたが、やがて静かに頷いて、
「簡単に言えばそういうことになります。でも、証拠もなければ、私には何の力もない。
結局彼がいなくなると困るのも事実なんです。だから、あれは聞かなかったことにしようって、ずっと黙って見守っていました。
でも、彼はやがて穏やかにですが、私を脅すようになったんです………」
「……脅す……?」
ゼルガディスの言葉にミオはまた無言で頷いて、
「……ええ。お見合いの話で、私は他に好きな人がいるからと、断ったら、叔父は『恩をあだで返す者はそのうち罰が下りますよ……』と笑ってつぶやいて部屋から出ていったんです。その日からふと気をゆるめた瞬間どこからともなく吹き矢が飛んできたり、夜中に部屋の窓に呪いの黒十字が立てられていたり、ベッドに眠ろうと思ったらいきなりベッドがマシュマロに変身したり、といった売れないお笑い芸人には逆立ちしたってできないような事態が起こったのです。最初は気のせいだってナビオも言ってたんだけど――――」
「ナビオって?」
ガウリイの言葉に彼女は、
「あ。彼です。
でも、やっぱり気のせいにしてはおかしいかもしれないって思った矢先に今日オートボウガンで撃たれたんです。やっぱりこれって脅しとしか思えなくて。
もう私こんな生活耐え切れないんです……!!それでもうこうなったら駆け落ちしかないって……!」
「ちょっと待て。しつこいようだけど、オートボウガンでは撃たれてねーって。」
ルークのツッコミはやっぱり無視して、ミオの瞳に浮んでいた涙が夜のライトに反射して光り、やがてほどなく零れ落ちる。
声もあげずに泣く彼女にミリーナがそっとハンカチを差し出すと、ミオはもうしわけなさそうに礼をして涙を拭いた。
「でもっ!わたし、一つ気になるんですけど。」
その場をつつんでいた湿った、しかし妙な空気にもめげず、あいかわらず元気なアメリアが口を開く。
「駆け落ちだけで本当にいいんですか?その叔父さんが本当にあなたの両親を暗殺したなら、そのまま放っておいたらまた何か悪いことするかもしれません。
悪人は裁かれるべきです!証拠を見つけて、事を露見してしまえば……」
「それはもういいんです。」
アメリアの言葉を遮って首を振るミオ。
「ちっとも良くないですっ!あなたの両親を殺して、なおかつのうのうとその後継者として会社を経営して、その上政略結婚までさせるなんてひどいじゃないですか!そんな悪人はわたしは放っておけません!」
「アメリア。」
ふいに肩に手をおかれて振りかえると、ゼルガディスが制止の目をして立っている。
「依頼は、駆け落ちの手伝いだけだ。悪人逮捕じゃない。」
「………でも!」
「本人の、ミオの希望だ。」
淡々としたゼルの口調にアメリアはしばらくうつむいていたが、やがて誰ともなしに言った。
「………わたしは納得できません。どーしても皆さんが駆け落ちの依頼しか受けないというならわたしは一人で彼女の叔父を捕らえます。」
「アメリア!」
いさめるゼルガディスにアメリアは叫んだ。
「わたしは……わたしは絶対に許せないんです!後継者争いだけは!
誰かが、誰かが止めないと第二の、第三の犠牲者が出るわ……!」
そのまま翔封界(レイ・ウィング)を唱えて、空へと駆け出すアメリア。
「お、おい………アメリア!?どこ行く気だ!?…待てっ……!…ったく……!」
彼女の本気を悟ってか、呪文詠唱を始めるゼルガディス。
やがてほどなく宙に浮いて、一同を見回して、
「連れ戻してくるから、そっちは任せる。」
一同が頷く暇も与えずにそのまま加速して夜空に飛び立った。



「あーあ。熱くなっちゃって、アメリアのやつ……」
「ま、アメリアの気持ちもわからないこともないけどね。あたしも個人的には気に食わないわ。そのタヌキ叔父。」
ルークのつぶやきに、ふうっとため息をついてリナは、
「あの子んち……後継者争いでものすごくもめたらしいのよ。あなたの所も真っ青なくらい。」
話し掛けられてミオは、そうですか……と覇気のない声で小さくつぶやいた。
「ま、それで話を元に戻すけど、駆け落ちの相手は今どこにいるの?」
「それが………行方不明なんです。」
「……はぁ?どういうこと?」
「昨日から連絡が取れなくて……本当は昨夜駆け落ちの約束をしてたんです。でも、現れなくて……しょうがなくフラフラと一晩中街をさ迷い歩いているところであなたたちに出会ったんでついナンパをしてしまったんです。」
「怖じ気づいて逃げたんじゃ……?」
「そんな人じゃありません。今までだって一度も約束を破ったりしなかったのに……」
そこまで言うと、ミオはこらえきれなくなったのかまたぽろぽろと涙を流し始めた。
そんな気まずい雰囲気もまるっきし気にせずにルークは、
「あー、泣いたって問題は解決しねえよ。で?結局あんたは俺たちにどーしてほしいんだ?
親は殺されて、周りは敵だらけ。んで、駆け落ちの約束した相手も行方不明。
この状況で駆け落ち手伝えったって、何すりゃいーんだ?」
むちゃくちゃ無神経な発言をする。
「ルーク……あんたねぇ…デリカシーってもんはないの?とんでもなく変人でも一応泣いてる女の人さらに泣かすようなこと言ってどーすんのよ!?」
「でも事実だろ?ここまで八方ふさが……む…っ!」
さらなる追い討ちをかけそうな気配のルークの口をミリーナの手が塞ぐ。
「……けどよ、リナ。実際ルークの言う通り、オレ達のできそうなことって――――」
そこまで言うと、ガウリイは途中でセリフを遮って、そのまま港の柵にもたれていたミオを押し倒す!
同時に響く派手な爆音と、衝撃波!
ミオのもたれていたあたりの柵は綺麗に破壊され、残骸が海におちる。
「ほお…随分とカンがいいな……絶対に外れないはずだったのに。」
あたりを包む煙が収まってきた頃に低い男の声が響く。
「あんたもたいしたもんだぜ。気配、全然感じなかった。」
起き上がってガウリイはミオをかばう形で立ち、そのままいきなりずらりと剣を抜いた。
その切っ先には、闇の色のロングコートに身を包んだ長身の男が一人。
真っ黒な長いストレートの髪に黒い瞳。国籍のわからない血の混ざった端正な顔には、笑みも怒りもなんの感情も張付いてはいない。
いきなり現れた男のただならぬ気配に、周りの一同も警戒したままだが誰も手は出さない。
ガウリイの言った通り、彼らは彼の気配をまったく感知できなかったのだ。
単なるチンピラのはずはない。
「あんた………軍の人間だろ?」
ガウリイの言葉に、男は表情を少し動かしたように見えた。
だがすぐに表情を元に戻して淡々とつぶやく。
「お前は誰だ。」
「ガウリイ=ガブリエフだ。」
「………何故こんな所にいる。」
「それはこっちのセリフだ。何故こんなところに国際軍の暗殺者がいる?」
「こ、国際軍のっ!?そ、それっ!ほんとなの!?なんでそんなもんがここにいるのよ!?」
思わず声を上げるリナ。
国際軍の暗殺者集団といえばこの世界で知らない者はいないと言っていいほどの名声を誇る集団である。
何故、国際軍とあろう所に暗殺集団などがあるのか。
答えは一つである。
世にはびこるアサシンを暗殺するための集団なのである。その腕は言うまでもないが、超一流。いや、もはや人の域を越えているとも言う。
「その質問に答える必要はない。私の仕事はその娘を殺す。それだけだ。」
「国際軍暗殺者はアサシンしか殺さないはずだ。彼女はアサシンじゃない。殺す相手を間違っているんじゃないのか?」
ガウリイの質問に男は行動で答えた。
思わず目を見張るほどのスピードで身を動かしたかと思うと、ガウリイに、いや正確に言えばガウリイの後ろのミオに向かって無数の炎の弾を放つ。
「誘蛾弾(モス・ヴァリム)!」
炎の弾と衝突する形でリナは消火の呪文を唱え、その間にルークとミリーナはそれぞれ男の両側に挟み込むように移動して攻撃体系に入る。
しかし。
魔力弾はリナの呪文をまるで力ずくで押しのけるかのようにそのまま突き進み、ガウリイとミオを襲う!
「虚霊障界(ヴーム・エオン)!」
ミリーナの張った魔法結界が間一髪の所でガウリイとミオを守る。
ほぼ同時にルークが詠唱し終えた呪文を横手から至近距離で解き放つ。
「黒妖陣(ブラスト・アッシュ)!」
レッサー・デーモンでも一撃で葬りさるこの呪文はかなりの広範囲に及び、よけきれる距離ではない。
だが、男は瞬間高く跳びあがって広範囲の呪文を回避し、着地した。
虚霊障界の向こう側、ガウリイとミオのすぐ傍に。
「……っ……!」
「遅い。」
慌ててミオをかばおうと体勢を取り直すガウリイに向かって一言言うと、その姿がいきなり消える。
「!?」
目をみはる一同。だが、その気配が誰もつかめない。
「………どこ……?」
掠れた声でもらしたリナの呟きに答えたのは。
「―――――海ですよ。」
車にもたれて煙草を吸いながらことの成り行きを見ていたゼロスだった。
興味深そうに、しかし手出しはしないといった様子でそう言うと車の中に乗り込む。
「……そうかっ…!」
ゼロスの一言に何を理解したのか、ガウリイはミオを横抱きにいきなり走り出す。
「逃げるぞっ!」
「………は?」
「……いいから車に乗るんだっ!早く!ゼロス。車出せ!」
言われるがままに、ゼロスは全員が乗り終わるか終わらないか確認もしないで車を出す。
「おいっ!逃げるのかよ!?まだほとんど闘ってねえじゃねーか!」
「水に対する防御結界を唱えてくれ!なんでもいいから!来るぞ!」
食らいつくルークよりもさらに激しく怒鳴りつけるガウリイに一同は言われた通りにする。
そして、まもなく。
車内を揺るがす地響きと何か奥底から這い上がってくるような音。
「……なに……?」
「…なに、あれ……え…ちょっと…まじ……!?」
「なんなんだあれはぁぁぁぁっっ!反則だぞーーーーっっ!!!」
ミリーナ、リナ、ルークは半ば呆然としながら後方を見つめる。
大きさで言えば正義館の四、五倍はあるのではないだろうか。
見事としかいいようのない水竜巻が完全にこちらよりも早いスピードで海岸から向かってきていた。

「……はっ!こーしてる暇はないわっ!」
迫り来る水竜巻を呆然と眺めている一同が我に返ったのはリナの一言だった。
このままでは車もろとも水龍巻に飲まれるのは必至。
なんであんなもんがいきなり出てくるのか、あの黒髪の男は何者なのか、などつのる疑問はあとで解決するとして、何よりまずここを乗り切らないとすべてが文字どおり水の泡である。
「……ちょっと港なくなっちゃうけど………」
まいったなーといった表情でリナは天井のサンループを開けて車の上に首を出す。
「ちょっとで済むかよ。竜破斬(ドラグ・スレイブ)をあれにぶつけるなんて例え水龍巻が消えても俺たちも余波に巻き込まれるぞ。」
リナが何をする気なのか読んでいるルークがつぶやく。
「そのへんの防御はあんたたちにまかせるわ。ルーク。ミリーナ。
できないとか言わないでよ?」
「無茶言うなっ!完全に防御できるかなんて保証しねえぞっ!」
ルークのぼやきを無視してリナは指示を続ける。
「ゼロス、できるだけまっすぐ運転してね。
ガウリイ。悪いけど……」
「了解。身体支えればいいんだな?」
リナの言いたいことを理解して、すぐにガウリイは行動に移る。
上半身をサンループから出して足をガウリイが支えるといった格好で呪文を唱え出すリナ。
水龍巻はもうあと百メートルもない所まで迫って来ている。このチャンスを外せばもう後はない。
「あの……わたしは何かできることは……」
「あなたは私たちの傍を離れないで。かなりの衝撃が来るわよ。」
ミオのセリフにミリーナとルークは彼女をかばう体勢で呪文を唱える。
「リナっ!気をつけろっ!やつは水龍巻の上にいる!」
車内の窓から後方を見つめていたガウリイが吠えると同時にリナに向かって一斉に龍巻から水の衝撃波が飛んでくる!
だが、竜破斬(ドラグ・スレイブ)の呪文障壁によってそれらはすべて弾き飛ばされた。
……国際軍だかなんだか知らないけど、あんな所に立っている馬鹿丸出しのやつに負けるわけにはいかないのよ……!
リナは、まっすぐに。
水龍巻の上に立っている黒髪の男を見つめて呪文を発動した。
「竜破斬(ドラグ・スレイブ)!」
赤い光が収束して一点に向かって伸びる!
水龍巻でなく、男に向かって。
その数秒後、大爆発が起る!
はずだったのだが。
「………嘘…で…しょ………」
信じられないものを見たリナの目に次に映ったのは――――――
轟音とそして、変わらぬスピードで目前に迫る水龍巻だった。
男が一瞬笑ったように見えたとリナが思った次の瞬間。
彼らは水龍巻に飲まれていた。





「……だから、アメリア。おい、話を聞けっ!」
「いやです。」
「一人で乗り込んだって何ができる!?無茶なことはよせっ!」
「いやです。」
「術解除しろっ!とにかく、あいつらのところ戻るぞっ!」
「いやです。」
「アメリアっ!」
「いやです。」
「だから……」
「いやです。」
横浜の夜空をものすごいスピードで駆け抜けながら、二人は延々と平行線をたどっていた。アメリアとゼルガディスは最近になって翔封界(レイ・ウィング)を覚えたのだが、そのスピードはゼルガディスの方が早いが、彼の方が重さがあるために結局アメリアに追いつくこともできず、かと言って諦めるような距離かといえばそうでもない。
そんなわけで、延々と口論を繰り返しながら横浜の空をおいかけっこ状態なのである。
「アメリア……わかったから。無理矢理連れ戻したりしないから話を聞かせてくれ。お前、一人で乗り込んでどうするつもりだ?相手の顔もわからないんだろう?」
「悪人はすぐ見分けがつきます。」
「黒い服を着てるから、とか言わないだろうな。」
「う……っ!……で、でも大丈夫です!行けば必ずなんとかなります。」
「なんとかって……具体的には?」
「正義があれば、具体的項目は後からついてくるもんです!」
「………をい……」
ジト目で眺められてアメリアは少し黙りこんだ後、
「……無茶なのはわかってます。でも、わたしは悪が行われてると知って、見て見ないフリなんてできないんです。これはミオさんのためでなくわたしの問題なんです。だから、ゼルガディスさんはわたしにかまわず皆さんの所に戻ってください。」
真剣な口調で言ってまっすぐにゼルガディスを見つめ返す。
迷いのない真摯な瞳にゼルガディスはふうっとため息をついた。
「アメリア。こういう考え方もあるんだ。聞け。
いいか。もし、お前が仮にミオの叔父を捕らえて警察なりマスコミになり事態を公表して問題が解決されるとする。だが、本当の問題はそこでは解決されない。ミオは実務能力のない単なる婦人警官だ。だとしたら、天王寺グループをまとめる新たな人物が必要になる。
そうなるとどうなると思う?」
「……また後継者を決めるために、もめるかもしれないってことですか?」
「その可能性もないとは言えない。
ミオは形式上は天王寺グループの跡取りだが、実際に会社を動かすのは別の人間だ。
第二の第三の叔父が現れる可能性だって十分ある。
そうなればミオが天王寺グループの表向きの後継者である以上、また争いに巻き込まれるのは必死だろう。
そんな生活がいやだから。だから何もかも捨てて好きな男と駆け落ちという手段を取ったんじゃないのか?」
「でもそんなの不条理じゃないですか!なんで正しいのに逃げなきゃならないんですか?ここで逃げたら彼女は一生逃げるだけの人になってしまいます!」
「ミオは正義も悪もそんなことはどうでもいいんだろう。おそらく。
彼女はきっと平凡な人生を望んでいる。ただそれだけなんだ。
お前の言うことは確かに正しいかもしれない。でも、アメリア。お前ならわかるだろう。これ以上後継者争いも何も起って欲しくないというミオの気持ちも。もし、お前の国でお前がミオのような立場になった時、自分が消えることで争いが起らないならお前はどうする?」
ゼルガディスのセリフにアメリアは凍り付く。
しばらくうつむいて黙りこんだかと思うと、急に翔封界(レイ・ウィング)を中断して夜空にとどまった。
「………わたしだって、問題を起こすのは好きじゃありません。平和が一番好きです。
でも。望んでも望まなくても上の立場にいる以上、自分の私情を交えるわけにはいけません。 一人の私情のために国を駄目にするわけにはいかないんです。確かにゼルガディスさんの言う通りミオさんが消えることで、その場は問題を起るのは防げるかもしれないけど、それでは本当に解決になんかなりません。
それに――――――」
アメリアはそこで言葉を切って、真っ直ぐにゼルガディスを見つめて言った。
「問題が起きるからって何もかも目を瞑ってうやむやにしてしまったら、いつか何か大きなことが起った時、後悔する気がするんです。」
アメリアのセリフに今度はゼルガディスが凍り付く番だった。
彼女の言うことは何もかも正しい。
でもそれは世間知らずのお姫様の理想論にしかすぎない。
そう思っていたが―――――
「………負けたよ。あんたには。」
ゼルガディスの言葉にアメリアはぱあっと顔を輝かせる。
「じゃあ、わたしと一緒に悪と闘ってくれるんですか!?」
「……ああ。ただし、さっき言ってたみたいないきなり乗り込んで黒い服着た悪人をぶちのめすとかそーいうのはごめんだぞ。あくまで調査するだけだ。」
「はいっ!」
あくまで固い表情で答えるゼルガディスにアメリアは蔓延の笑みを浮かべて、再び翔封界(レイ・ウィング)を唱え出す。
そんな彼女の後ろ姿を見ながらゼルガディスは、自分も呪文を唱え出した。
本当に臆病なのは世間を知りすぎている自分の方なのかもしれない、と苦笑しながら。




「やれやれ……どうしてこの人達はこうもやっかい事に巻き込まれやすいんでしょうかねぇ……」
ピシャン!と水溜まりを踏んで男は立ち上がった。
傍には気を失っている学生たちと標的の警官が転がっている。外傷はないようだが生きているかどうかは見た目にはわからない。
だが、無事かどうか確かめもせず男はポケットから煙草を取り出す。
その煙草も白衣もさきほどのまま。何も変わりはしない。
そう。
彼は濡れてもいないのだ。
「………やはり、類は友を呼ぶのでしょうか、ね。」
誰にともなしにつぶやくと、まるで興味なさそうに車にもたれて煙を吐き出した。
 隙だらけのその様子がかえって不気味である。
 彼の車もまた、彼同様になにもなかったかのように無傷である。あれだけの衝撃を受けたにもかかわらず。
「……貴様、人ではないな。」
「あなたもただの人には見えませんが?」
「私はただの暗殺者。人間だ。」
余裕たっぷりの彼の問いに答える自分に黒髪の暗殺者は自嘲を覚えた。
やはり、自分は怯えているのだろうか。よけいなことまで語ってしまいそうになる。
「あなたはとても強い。おそらくここに転がっている者たちの誰よりも。ですが、僕は彼らの担当指導員でしてね。殺されるのをみすみす見逃すわけにはいかないんですよ。」
「ご苦労なことだ。」
「仕事ですから。あなたもそうでしょう?」
「……そうだ。仕事だ。」
自分に言い聞かせるようにつぶやくと強い目で白衣の男を見返す。
仕事だ。
だが、おそらくこの男には勝てない。
「………どうします?この方ならお渡ししますが?」
煙草で殺しの依頼のあった黒髪の女を指す。まるっきり品物の交渉扱いである。
その言葉は、この女だけなら見逃してやる、と暗に示していた。
だが、命令は―――――
「目撃者はすべて殺す。だが、今は―――――
殺さない。」
正確に言えば殺せない、であるが。
自分の言葉に、白衣の男の顔に予想通りの効果が浮んだ。
「賢い方は好きですよ。」
そう言うと白衣の男は吸い終わった煙草を無造作に投げる。
その煙草が弧を描いて地面にたどり着く前に。黒髪の暗殺者は背を向けた。
敵に背中を見せるなど危険極まりない行為だが、元々逃がす気がないのならどんな逃げ方をしても殺される。
そう思って火の橋を渡る想いで暗殺者はゆっくり歩き出した。
後ろの気配に動きはない。だが、やつの気配の動きなど感じ取ることができたとしてもその一瞬後には自分は思考が停止しているかもしれない。
いつ空間を渡ってくるかもわからないのだから。
祈る想いで踏みしめる一歩はまるで永遠のように長く感じられた。
ふいに背中に悪寒が走る。
ここまでか!?
半ば諦めてそれでも真っ直ぐ前だけを見つめると、ふいに耳元に低い声。
「二度目はありませんよ。」
魂までぞっとさせるような声に振り返ってしまいたくなる衝動を抑えて、彼はそのまま歩みを進めた。
生きた心地がしないとはこのことだ。
一歩一歩踏みしめるその道はどこまでもどこまでも続くように感じられた。




そこは思っていたより、普通の建物だった。
白い洋風の大理石の館に小さな門。天王寺グループの社長の邸宅にしてはこじんまりとした、大きすぎない趣味の良い高級家庭の屋敷といった感じだった。三階建てでいくつかの部屋には明かりが点いている。
「行きましょうか。」
建物の前に佇んで眺めていたアメリアが一歩踏み出す。
「待て。どこから行く気だ?」
「玄関からですが?ミオさんの叔父にあわせてくださいって。」
「馬鹿かっ……!いきなりそんなこと言って通用するかっ。大体アポも取ってないってのに会わせてくれるわけないだろう?」
「んじゃ、どーするんです?」
「言ったはずだ。あくまで調査だけだ、と。」
アメリアを引きずるようにして屋敷の裏手にまわるゼルガディス。
「忍び込むんですか?」
「ああ。静かにな。屋根から行くぞ。言っておくが、あくまで調査だけだ。叔父に出くわしても倒すなよ。不法侵入者にされるのがオチだ。
しつこいようだが、これは調査だからな。無茶はするなよ。」
「わかってます。」
念押しするゼルガディスに真剣に答えるアメリア。
呪文を詠唱して二人は空高く舞い上がる。一旦高く高く上がって屋根に降り立つあくまで基本に忠実な方法を取った。
二人は明かりのついていない部屋の上に降り立つと、屋根からおそるおそる窓を覗き込む。
ゼルガディスは誰もいない客室を選んで、鍵のかかっている窓に向かって小さく封除の呪文を唱える。
カタン。
小さく音を立てて窓を開けると、辺りに気配がないことを確認して部屋の中に侵入する。
部屋は特に変わりないごく一般の家庭のものである。
使用人の数は屋敷の大きさから察するにそんなに多くはないだろう。
警備にどのくらい力を入れてるかがわからない以上油断はできないが、封除の呪文が通じるあたりそれほど厳重にセキュリティがなされているとは思えない。
実際、日常生活を行う家である以上、赤外線などが施されてる可能性もまずないだろう。
……ここにはたいした情報はないかもしれないな……
ゼルガディスは心の中で呟きながら、そっと部屋のドアを開けた。
廊下に人の気配はない。アメリアに目配せして二人は廊下に躍り出た。
先ほど自分達が出てきた部屋も含め、部屋が向かい合わせに四つずつ並んでいる。
どれも似たような扉である。
「一個ずつ当たるしかないですね……」
ゼルガディスにしか聞こえない声で囁くアメリアに頷いて、近くにある一つ目の扉に手をかける。
鍵はかかっていない。中を覗くと先ほどの部屋と同じような造りになっている。
だが、見ればわかることはその部屋の持ち主は変人であるということだった。
置かれている本棚と机とベッドは普通のものなのだが、その横には何故か巨大カスタネットが三つおいてあるのがまず奇妙である。そして、本棚には何語か判別不可能な文字が書かれた本や呪いの本が並び、部屋のカーテンは普通なのだが何故かキティちゃんが首ちょんぱになって無数にぶらさがっている。
触るな危険と書かれたテレビに思わず触ってしまいたい衝動にかられていたゼルガディスに、
「ミオさんの……部屋みたいですね。」
アメリアは机の上の写真たてを指差して言った。何故か一部にモザイクがかかっていてよく見えないが、その写真にはミオと人のよさそうな金髪の青年が陶芸をしながら、楽しそうに笑っていた。
おそらくこれがミオの言っていた恋人のナビオなのであろう。
ミオのその表情は自分たちに見せている表情とはまるで違った幸せにとろけそうな表情である。その陶芸品の一部にモザイクがかけられているの理由を後で聞こう。
そんなことを考えながら、ゼルガディスが次の部屋へ向かおうとした時。
「……ひ……っ…!」
ふいに声を上げるアメリアの方に目をやると。
初めは暗くて気づかなかったが。
部屋の窓には、黒髪の長髪の男が一人こちらを鋭い瞳で見据えながら張付いていた。



リナが目を覚ました時、一番真っ先に目に入ったのはガウリイの心配そうな顔だった。
濡れた髪が夜の風に揺れる。よく見れば全身もびしょ濡れで、そのままだと間違いなく風邪を引きそうな格好である。
「気がついたか……!?」
「……あんた……風邪引くわよ………って、ちょっと待った。」
「ん?」
「ここは天国とかじゃないわよね。」
と言いつつガウリイの髪の毛を思いっきり引っ張るという古典的方法を取るリナ。
「いててててっっ!お前、人工呼吸してやった人間にそれはないだろっ!!それはっ!」
「じ、人工呼吸って……あ、あんた……!」
うろたえるリナに、横手からかかる声。
「すごかったぜ。ガウリイの旦那の人工呼吸は。俺、思わず……いや、なんでもない。」
「私がしようと思ったんだけど、ガウリイさんが……いえ、なんでも。」
にやにや笑うルークとミリーナはガウリイの強い視線を感じて言葉を濁す。
真っ赤になって口をぱくぱくさせてるリナにゼロスが、
「いや、まさか、身体ごとプロペラみたいにまわすとは思いませんでしたねぇ。
人間のできる業じゃないですよ。あれ。いやあ、リナさんぐるぐる回ってヘリコプターみたいでした。はっはっは。
おや、リナさん、何を赤くなってるんです?」
「………なんでもないわよっ!それより、ガウリイ〜〜〜!あんた、よっくも乙女の身体をそんなに粗雑に扱ってくれたわね!?」
ガウリイの金髪をぐいっと引っ張りそのまま起き上がるリナ。
声にならない悲鳴をあげる彼にさらなる追い討ちをかけようとするリナにルークが声をかける。
「マウストゥマウスにしてくれなかったからってんな怒るなよ。ガウリイ、今度は普通の人工呼吸してやれよ。」
「……っ!し、しなくていいわよっ!そ、それよりっ。なんであたし達生きてるわけ?あの男は?」
もっともなリナの質問に答える者はいない。答えられる者はいるが。
「確かにあのとき目の前に水龍巻に飲み込まれたはずなんだけど、全員無傷みたいね……
冷たいけど。ミオさん、大丈夫?」
ガタガタ震える彼女にミリーナは声をかけるが、ミオが震えているのは寒さのせいでないようだった。
「……なんで……なんで……なんであんな人が?」
「こーなったら駆け落ちとかそーいう問題じゃなくなってきたわね。ここまでしてくるってことは駆け落ちなんかしてもいつまた狙ってくるかわかんないわ。」
リナの言葉にミオはぎょっとして息をつめた。
確かに、相手がここまでしてくるとなるともはや逃げ場などない。
「ここまでされて黙って逃げるってのも腹の立つ話だしな。
はっ!俺達に喧嘩売るなんていい度胸じゃねーか。一発御礼かましてやろうぜ。」
「同感ね。それに、何もかもわからないままじゃあすっきりしないわ。」
ルーク、ミリーナの言葉にガウリイも頷く。
「では皆さん今からどうなさるんです?」
ずっと黙ってことの成り行きを見ていたゼロスが口を開く。
「決まってるじゃない。乗り込むのよ。今すぐ。」
リナの言葉にミオを除く一同は瞳に光を宿らせる。
「えええええええっっ!ちょ、ちょっと待ってください!私、そんなこと頼んでません!」
「当たり前よ。頼まれてないもん。」
へーぜんと答えるリナにミオは面食らいつつ、
「いや、そーじゃなくて……い、今からだなんてそんな……体の準備が……」
そう言いつつファンデーションを取り出すミオ。
「準備しなくていいわぁぁっ!!あのねぇ!今行かなくていつ行くのよ!?
明日なんて悠長に待ってられないわよ!あたしたちは明日学校もあるし、今日中に解決しなきゃなんないのよ!」
「そうそう、作者の都合もあるし。」
「それは説得力のある理由ですねぇ。」
リナ、ガウリイ、ゼロスとこれまた平然な顔で説得されて、
「それに―――――
気になってたんだけど。あなたの恋人が行方不明なの、この件と関係あるかもしれないわ。」
ミリーナの言葉にミオは驚いて、
「なんでそう思うんです!?何か手がかりでも?」
「単なる想像にすぎないけど。
結婚を断ったら、いきなり脅されて監視されるようになった。
その後、駆け落ちしようとしたら相手が行方不明。
そして今、あなたの結婚をめぐってこういう動きがあって―――――
関連性があるかもしれないと思うのは当然だと思うけど?」
「……あ……」
ミリーナの言葉にミオは声をあげる。
「……ねえ、ひとつ聞きたいんだけど。あなたの恋人って何してる人?」
「ごく普通の木こりですけど……それが何か……?」
リナの問いにミオは心配そうに答える。木こりがごく普通の職業なのかはもうリナはツッコミをいれずに、
「じゃあ、もう一つ。あなたが断った結婚相手って何してる人?」
「……興味なかったんでよく覚えてないんですけど……確か、ABコーポレーション社の社長の息子だかなんだったかと……」
「ABコーポレーション社……ってなんか聞いた覚えあるんだけど。」
リナの呟きのゼロスが答える。
「あ。新手のミサイルの会社ですよ。ほら、さっき倒したガウリイさんにだまされた変態おじさん達が使ってた。性能がいい上にスタイリッシュだって流行なんですよ。」
「なるほど、ね。ミリーナの言ってた想像、あたってそうね。」
「……じゃあ、あの人が行方不明なのも政略結婚の妨げになるから叔父さんが……?」
「その可能性は高いわ。叔父の手回しかどうかはわからないけど。もしかしたら相手のABコーポレーションの仕業かもしれないわ。」
「あるいは、その両方。」
ミオの問いにリナが答え、ミリーナが付け足す。
「けどよ、リナ。……よくわからんが一個だけつじつまが合わないことがあるぜ。」
てっきり会話について来れてないと思っていたガウリイが会話に口を挟む。
「国際軍の暗殺者がなんでそこで出てくるんだ?全然関係ないじゃないか。」
「言われてみればそーだよな。大体、ミオは政略結婚のために絶対に必要なんだから、命を狙うこと事態がわからないぜ。」
「うーん……それは確かに……まぁ、こーして予想だけ立ててもしょーがないわっ!
こーなったら行って直接おっさんに聞くのみっ!ミオ、決心した?」
リナの言葉にミオはしばらく黙っていたが、やがて決心したのか顔を上げて、
「行きます。行ってあの人を、ナビオを助けます。」
恋人のことが彼女に水を浴びせたのか。
ミオはいつになく真剣な顔できっぱりと答えたのだった。



水龍巻をまともに受けても何故か使えるゼロスの車に乗って、一同がミオの家に辿り着いた時はすでに夜も九時をまわった頃だった。
何かあった場合の待機組としてゼロスを屋敷の裏に待機組として残し、屋敷へ歩いて向かう五人は緊張してなのか口数が少ない。
「ねぇ、ミオ。」
そんな中、屋敷を目の前にして重い口を開いたのはリナだった。
「なんですか?」
「聞くけど、どこから入るつもり?」
「玄関からですが。私の家ですし、この時間ならあの脳みそに纏足履いてる叔父も戻っていると思います。それが何か?」
「いや……厨房からにしない?」
「なんでですか?…って……もしかしてご飯食べてから行くつもりっ!?」
あきれた声を上げるミオ。一同が静かだったのは空腹のため疲れていたからだったらしい。
「やだ、誰もんなこと言ってないわよ。ただ正面から乗り込むのはあまりにも無謀だし。」
「そうだ。ミオは知らないかもしれないが、潜入は厨房からっていうのが、基本なんだぜ。」
リナに続いてまじめな顔で説得するガウリイ。
「そんな話聞いたことがありませんっ!本当にまじめに闘うつもりあるんですか!?
もしかしてここに来たいって言ったのご飯食べに来たんじゃないですか!?
私は真剣なんです!一刻も早くナビオを助けたいのに……!」
いつになくマトモな発言をするミオに、
「おいおい、ミオさんよ。俺達だって真剣だ。だから腹ごしらえというのは重要なことなんだ。」
「人間、お腹が空いた状態では実力が百パーセント出せないわ。」
ルークとミリーナまでもが真剣に語るがミオはジト目で見つめ返し、
「そんな目で言われたって全然説得力ありません!」
 『……うっ……』
くまさえ浮かべて人じゃない生物のように飢餓に飢える瞳を指摘されて、詰まる二人。
「あんたの方は……急にマトモになったな……」
そう言うガウリイの口調はかなり元気がない。昨夜からの絶食がかなりこたえているようだった。
「恋が絡めば女は変わるわよ。」
「そうなのか?んじゃ、ミリーナも俺が絡めば変わるのかなっ♪」
「あなたが絡むと、崩霊裂(ラ・ティルト)発動したくなったことはあるわ。」
「ごめんなさい。もう絡みません……」
疲れと空腹も手伝ってか普段より一層冷たく言い放つミリーナ。
「まぁ、なんにしても厨房からの潜入が妥当だと決まったことだし、厨房から入るわよっ!ミオ、厨房どこ!?」
「勝手に決めないでくださいっ!私はまだ納得してま……………」
そこまで言いかけて、言葉をのみこむミオ。
見れば四人は三白眼になって目に血さえも走らせて無言でこちらを見ているのだ。
 「こ、こちらです……」
完全にイッちゃってる目をした彼らに引かれっぱなしだったミオは初めて引いて、びくびくしながら厨房の方へと案内したのであった。

厨房に入って即、ミオが三十人前の料理を作るようにコックに命令した後。
一同はテーブルを囲みながら手にフォークを握って、まるで幼稚園のおやつの時間のようにわくわくしながら食事ができるのを待っていた。
「ああ〜。楽しみね♪ごっはん、ご飯♪ご飯ご飯ご飯ご飯ご飯〜♪」
「…めし…めし…めし…めし…」
わけのわからない方法でそれぞれ感慨にふけっているリナとガウリイ。
ふと視線を這わせば、隣のミリーナもアルカイックスマイルを浮かべて仏像の真似をしている。
とりあえず良かったと思いながらもルークは一同に話し掛けた。
「けど、よ。一つ思ったんだけど、今からミオの叔父に会って俺達何するんだ?」
「もちろんっ!逃げ惑う親父をとっ捕まえて、今までの悪事を吐かせて警察に引き渡すのよっ!そこで警察からも礼金なんかがもらえちゃったりして……くくぅっ。腕がなるわねぇ♪」
彼の問いに指をぽきぽき鳴らしながら答えるリナ。隣でガウリイもうれしそうに準備体操なんぞしてたりする。
「……で。証拠はどうするの?」
叔父退治にすっかりやる気になっていた一同の中、ミリーナが一言もらした呟きは。
厨房に氷よりも冷たい沈黙をもたらした。
「……そ、そーいえば……すっかり忘れてたけど…証拠、ないわね……」
「……ってことは……叔父捕まえても、俺達、単なる不法侵入者…………?」
リナ、ルークの言葉に答えたのは。
「そういうことだ。」
ざっ……!
後ろに気配がしたと思った時にはもはや遅かった。
厨房の横の扉からは、黒服で身を包んだいかにもそれもんの黒服たち。その誰もがこちらに銃口を向けている。
そして、その中心に立つのは、中年のタヌキにそっくりな親父。
ミオの叔父だ。
彼らは一瞬にして悟る。だが、ここまで無数の銃を向けられて動きは取れない。
「レオハルトくそ叔父様……!」
「警察に連絡を入れろ。誘拐犯を捕らえた、と。」
「……なっ…誘拐犯…?!」
レオハルトの言葉にリナ達が驚愕の声を上げる。
「そうだ。貴様らは、わたしの可愛いミオをさらった誘拐犯だ。何か異存が――――」
レオハルトは決して品の良いとは言えない笑みを浮かべて一同を見渡し言葉をとめて、
「あああっっ!貴様っっ!あの時のっ!」
 ガウリイの方へ指を指して驚愕の声をあげる。
 「あんた、知り合いなのっ!?」
 「いや、オレ、タヌキに知り合いはいないけど。」
 真剣な表情で答えるガウリイにレオハルトはますます顔を赤らめて憤慨し、
 「タヌキじゃないっっ!間違いないっ!この顔だっっ!ああっ!よく見ればその制服もっ!貴様ら、仲間だったのか!?」
 「……へっ!?ああああああっ!どっかで見たことあると思ったら、ぴんくの館の変態おやじっ!」
 ぽんっと手をならして明らかに嫌悪の顔を浮かべるガウリイ。
 「貴様ら最初から仕組んでいたのか!?何者だ!?てっきり学生かと思っていたが、何が目的だ!?」
 「生活費。」
すっかり混乱しているレオハルトに即答して余計に混乱させるガウリイ。
 「なんか話がややこしくなってきたけど……まぁ、でもこれでおっさんを揺さぶるいいネタができたわ。
  天王寺グループ社長代理ともあろう人物が、風俗店で未成年の青少年に不埒な行為を働かせるなんて世間が知ったらどーなるかしら?」
 「…う゛っ……!」
 リナの一言にマトモに顔色を変えるレオハルト。ちなみにガウリイはすでに22歳なので立派な成人なのだがそれは言わぬが花というやつである。
 「警察呼びたければ呼んでくれよ、おっさん!こいつがされたこと全部言ってやるよ。俺達は車の中からトランシーバーで様子も聞いていたんだぜ?」
 「ついでに私達がミオから聞いたこともすべて話せるわね。警察が来てくれた方が話は早いわ。」
 ルークとミリーナのさらなる嘘っぱちの追い討ちにレオハルトはしばらく黙っていたかと思うと、
 「警察には連絡するなっ!門をすべて閉じろ。こいつらを外に出すな。」
 開き直ったのか表情を硬くして一同をじっと見据える。
 「何か勘違いしているようだな。おまえ達が何者か知らないが――――――
  貴様らが不利な状況には変わりはないのだぞっ!?」
 ちゃきっ!と銃を構えて不適な笑みを浮かべる。周りの警備員もその声に気を引き締めて一同の喉元や首元に銃を近づける。
 「やめてくださいっ!叔父様っ!この人達を殺せば私は今すぐ警察を呼びますっ!」
 「あんたも一応警察でしょーが……
大丈夫よ。あたし達がここでやられても、仲間はこれだけとは限らないし。」
 「誰かがどこかでこの様子を盗聴しているかもしれないし、な。」
 「何っ……!?貴様らっ!?」
 レオハルトの動揺の声に今度はリナとルークが不適な笑みを浮かべる番だった。
 「……何が目的なんだ……?貴様らは一体……?」 
 「その質問に答える前に、こちらも聞きたいことがあるわ。たくさん。」
 リナはそこで自分に向けられた銃口に手をやって、
 「けど今はこれだけは答えて。
  ミオの恋人はどこ?」
 リナの質問にミオも叔父を真剣な顔で見つめる。
 「……知らん。」
 「おまえっ!ここまで来てシラを切るつもりかよ!?」
 「本当に知らんのだ!すべてあいつらに任せたから。」
 ルークの言葉にレオハルトは吐き捨てるように答える。
 「あいつらって……?」
 「名もないチンピラどもだ。金を使えばどんなこともする。単に邪魔だから消してくれと言っただけだ。」
 「……!」
 レオハルトの発言にミオが凍りつく。
 真っ青な顔で震えている彼女の肩に手をおいて、ミリーナは、
 「そいつらの名前か所在地はわからないの?」
 「名前も所在地もわからん。いつもコンピューターで連絡を取っていた。
  ただ、横浜を縄張りにしている結構大きな組織らしい。まぁ、たかがチンピラどもだが。」
 明らかに軽蔑した様子のレオハルトの答えにリナは、
 「この情報は間違いないでしょうね?あんたの制裁は後回しよ。ナビオ救出するわ。」
 「おいっ!リナ。このおっさん放っておくのかよ!?」
 「あんた、もしさらわれたミリーナの救出と敵の制裁ならどっち先にするのよ!?」
 「ミリーナに決まってるだろ!」
 ミリーナの視線を気にしつつ、答えるルーク。
 「ま、そゆことなんで、解放してくれないかしら?」
 いまだ銃を向けたままの警備員とレオハルトにリナはにっこりと笑いかける。 
 だがしかし。
 「解放はするな。やつらの言うことはどこまで信用できると言うのだ?今開放して警察に連絡するやもしれん。」
 レオハルトは部下に言いつけ、まっすぐにリナに銃を近づけた。
 その様子にリナはいらだちながら、
 「まだわかんないの?外には仲間がいるって言ったで………!」
 「口数の減らない口だ。わかってないのはお前のほうだ。素性も知れぬ輩の言うことにおとなしく従えると思うのか?ここまで来ればもはや多少の犠牲は仕方ない。ミオにはなんとしても、ABコーポレーションと結婚してもらわねばならんのだ。」
 レオハルトは開き直ったのか不適な笑みを浮かべる。銃をリナの口の中に突っ込んで。
 「仲間に伝えろ。もし警察のサイレンのひとつでも鳴れば貴様らの仲間の命はない、と。」
 「だ、そーだ。聞いてるか?ゼロス。」
 ルークの問いに、時計から答える軽いノリの電子音。
 『いやぁ、大変ですねぇ。まぁ、僕は何もしませんからがんばってくださいね(はあと)』
 「てめぇ、覚えてろよ……」
 「なんかゼロスっていつも一番混乱の中うまく世の中を渡ってる気がする……」
 「というよりも私達が貧乏くじをひきすぎだわ。」
 ルーク、ガウリイ、ミリーナが脱力しつつつぶやく。ちなみに彼らもばっちり首元や喉元に無数の銃が当てられていてとてもじゃないが呪文詠唱ができる状態ではない。
 さて、どうしたものか。
 リナがあらゆる作戦を頭の中に駆け巡らせていたその時。
 「己の闇に捕らわれし哀れなる者よ。あなたの血に染まったその手を、天が地が、お上が、パン屋のおじさんが、例え許しても、わたしはあなたを許さない!!」
 どこかで聞いたセリフが厨房に響く!
 「………どこだ!?」
 「なんだっ!?何者だっ!?」
 これまたまるでドラマの撮影のごとく基本に忠実に反応する警備員達。
 「闇に染まった心の持ち主にはわたしの姿は見えないのよっ!早く改心して正義の道を歩まなければそのうちすべてのものに対して盲目になることは必至!悪の心を捨て正義の僕になるとこの場で誓いなさい!」
 「姿が見えないのはおめーが単に隠れてるからだろーが。」
 いまだその姿なき声にぼそっとツッコミを入れるルークに対する返答は。
 力ある言葉であった。
 「ダークミスト!」
 声と同時に一斉に広がる濃い黒い霧。一気に視界がシャットアウトされる。
 そして、
 「バースト・ロンド!」
 ちゅどどどどどおおおん!!
 その一瞬後に光の小さな光球があちこちで炸裂する!
 「うわっ!こんな暗闇でんなもんぶちかますやつがあるかっ!」
 「いてててててっっ!」
 「なんだぁぁぁっっ!?」
 「うわっ!あぶねええっっ!」
 一気に混乱しまくった状況で聞こえる先ほどの声。
 「リナさんっ!今ですっ!早く逃げてくださいっ!」
 「アメリアっ!?あんたなんて無茶するのよ!?こんな狭いところで味方にあたったらどーすんのよ!?」
 「いや、リナさん達ならちょっとくらい当たっても大丈夫かなぁって……」
 「大丈夫じゃないわぁぁぁぁぁっっ!こんなもんマトモに食らったら死にはしないけど痛いでしょーがっ!それに料理がぐっちゃぐちゃになっちゃうじゃない!」 
 「料理の話してる場合じゃあありません!とにかく皆さんこの混乱の隙にっ!」
 「みんなっ!逃げるわよ!?
 っていうか、みんなどこにいるかわかんないけどちゃんと逃げてるんでしょーねっ!?」
 そのリナの叫びにも返答はない。
 厨房全体に暗い闇が漂っている以上、声しかその手がかりはないのだが逆に言えば声を上げれば敵に自分の居場所を教えることにもなるので返事がないのだろう。
 すでにもうみんなとっくに逃げてるって可能性もあるけど……
 リナは心の中でつぶやきながら、はたりと気づく。
暗闇からは何やら美味しそうな匂い。
食い逃げするなら今だ!
思わず匂いの方向に足を動かしてしまって、リナは我に返った。
 暗闇に乗じて逃げれるのは何もリナ達だけではない。諸悪の根源、レオハルトも逃がすチャンスを与えてしまうということなのだ。
 しまった……!あたしとしたことが……!
 心の中で歯噛みしながら、浮遊(レビテーション)の術を唱えて天井に舞う。
 すると――――
 リナと同じくレビテーションで空中から脱出しようと思っていたのだろう。
 宙に浮かんだルークと鉢合わせする。
 ただしそのルークは―――
 「あんた……!どーしたの!?その傷!まさかさっきのバースト・ロンドに当たっの!?鈍くさ……」
 続けようとしてリナは言葉を止める。
 彼の傷はどう見ても太刀傷で、からかえるような傷ではないのだ。
 「あいつだ……」
 ルークは青ざめながらつぶやいた。
 「え……?」
 「なんでかわかんねーけど、あの暗闇の中にあいつがいる。さっきの国際軍の暗殺者が。今ガウリイの旦那が戦ってる。おそらくミオ狙いだ。」
 下からは相変わらず混乱の喧騒が聞こえるが、確かに言われてみたら激しい殺気が中にまぎれている。あまりにも気配が多すぎて気づかなかったが―――
 「………レオハルトはどこにいるかわかる?」
 「多分この下。さっき俺も一応あのタヌキ連れてレビテーション唱えてたんだけど、そこであの暗殺者とばったり出くわしちまってな。んで、どたばたやってたらこれだ。」
 自嘲気味に傷に手を当ててつぶやく。手には魔法の光が淡く灯っている。おそらくリカバリィをかけているのだ。
 「あんたはとりあえず傷治療して。あたしは下に戻ってガウリイの援護するわ。混乱に乗じてミオを暗殺するつもりなんでしょーけどそーはさせないわ。」
 そう言って降下しようとするリナをルークは治療してない方の腕で掴む。
 「いや。あんたは、ナビオ救出の方に行け。ミリーナもさっき外に出たはずだ。一緒に…」
 「馬鹿言わないでよ。あたしも戦うわ!」
 「こんな状況なら呪文なんてほとんど使えねえよ。接近戦ならどのみち人数は要らねえ。」
 淡々といわれてリナは言葉を失う。確かにルークの言う通り、接近戦でならリナはガウリイやルークには剣の腕は到底及ばない。そして斬り合いやってるところにむやみに呪文でちょっかいかける訳にもいかない以上、結局ギャラリーに徹することが多くなる。
 要するにルークは居ても足手まといにこそならないが役にも立たないと言っているわけなのだ。
 「わかったわ……その代わり、あたし達がナビオ見つけて戻ってくるまで絶対ミオを守りなさいよ!ナビオが無事でもミオが死んでたら意味ないんだからね!」
 「わーってる。俺が死んで俺の愛するミリーナ泣かせるわけにはいかねーしな。」
 「あっそ。ちなみに。ここの料理。あたし達がかえってくるまで守らないと、ミリーナにあんたを振るように言うからよろしく。」
「命に代えても守ってみせる。」
真剣そのものでこたえるルークにリナは苦笑しつつ、手を振りそのまま廊下の窓らしきところへ向かって移動する。
 窓を開けて外に出ようとした時、ふと思いついてリナは呪文を唱える。
 「ディム・ウィン!」
 両手から現れた風が一気に厨房の霧を吹き飛ばす!
 広がる視界から混乱しまくった警備員達の姿が見える。そしてど真中にはガウリイと黒髪の暗殺者の姿。
 「リナ!サンキュー!」
 ガウリイは片手で合図を送りながら、再び暗殺者とにらみ合う。同時に治療を終えたのかルークがミオをかばうような体制で警備員達に向かっていく。
 そんな姿を視界の端にとらえながらリナはその場を後にしたのだった。



続く。

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1247↑の7ですね(笑)・ここは正義館8えれな E-mail URL2/9-11:52
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ここは正義館

エピソード8.朝はまた来る




 パラリラパラリラパラリラパラリラ………
 どこか懐古的なサウンドを鳴らして男は気持ち良くベイ・ブリッジを疾走していた。
 その髪型はかなり大きめのアフロヘア。そのアフロヘアには小さなライトの飾りがたくさん飾られていて、季節はずれのクリスマスツリーのようになっている。
 横浜のヤンキー界ではこのアフロツリーヘアが大流行しているのだ。
 ちらりと後ろに視線を馳せれば、二台のバイク。彼の下っ端である。当然ながら彼らも同じようなアフロツリーヘアである。
 そして、彼のバックシートには先日やっと手に入れた彼女が乗っている。もちろん彼女もアフロツリーでピンクのライトが可愛らしい。
 「ねえ!」
 後ろの彼女が少し顔を出して叫んだ。もっともその姿は視界の端にピンクのライトが少し見える程度なのだが、男も当然ノーヘルなので声は一応届く。
 「ん?なんだぁ?」
 「あれ、何!?」
 「あれって何だよ。」
 「あんなところに人が立ってるわ!」
 「はぁ?何言ってんだ、お前。ここは通行人は禁止だぞ。」
 笑いながら後ろの彼女をあしらうが、彼女は片手で後ろからある方向を指さす。
 「あそこ!制服の女!」
 言われてその方向に目をこらすと。
 確かにセーラー服の女が三人立っている。
 ベイブリッジの橋をささえる鉄線の上に。
 「なんだぁ?自殺かぁ!?」
 どーやってあんなところまで上ったのかもわからないが、どんどん女との距離が近づいてきてその様子がわかる。
 女たちは髪を浜風に揺らし、まっすぐこちらを見つめている。
 まさか、このバイク団で自殺するつもりなんじゃ……
 胸によぎった一抹の不安を決定付けるように、女たちはばっ!と鉄線からその足を離し宙に浮いた。
 「きゃあああっ!落ちるわっ!ブレーキかけて!轢いちゃうわよ!」
 後ろの彼女の叫びに男は、スカートが風になびいて中身が見えそうだなどと緊張感のないことを一瞬考えていたのだが、慌ててブレーキをかける。
 急にブレーキをかけたためバランスを崩して倒れそうになる。
 まずいっ!事故る!
 後ろから爆進している下っ端に轢かれてカエルのように踏み潰された自分と彼女の図が頭に浮かぶ。
 だが―――――
 「危ないわね。へったくそな運転してんじゃないわよ。せっかくのバイクが泣くわよ。」
 妙に緊張感のない声が聞こえたかと思うと男の体はリナの空中蹴りに宙に舞っていた。
   

 「リナさぁぁぁぁん。いつもこんなことしているんですかぁ?」
 転がっているアフロクリスマスツリーの残骸三つと横で泣いている女の子を遠く後ろ目に眺めながらアメリアは言った。
 「そーよ。あのスリルがたまんないのよねぇ♪気持ち良かったでしょ?」
 「確かに空中から飛び蹴りして疾走するバイクの運転手を落とす時のドライバーの表情はなんとも言えないものがあるわね。」
 ごくへーぜんと答えるミリーナ。もちろんのことミリーナもアメリアもリナと同じように下っ端のアフロを蹴り落としてバイクを奪ったのは言うまでもない。
 「でも、一歩間違えれば危ないですよぉ。一応ヤンキーさんにも人権があるんですから…」
 「アフロツリーに人権はないわっ!あんっなくそだっさい集団早く撲滅させなきゃ、子供の目に毒よ。これだから横浜なんてダサいのよ。」
 ちなみに大阪では通天閣ヘアが流行っているのだがそれはおいとくとして。
「で、今どこに向かってるの?」
「横浜倉庫の方よ。このまま飛ばせばすぐ着くわ。ちょうどいいところにアフロ通りかかってよかったわ。」
 ミリーナの問いにリナは機嫌よさそうに答える。夜の風に髪の毛とスカートをなびかせて疾走するのはリナの趣味なのである。
「そう……。
 ところで気になっていたんだけど、ゼルガディスさんはどうしたの?」
 今度は隣に走っていたアメリアに向かって問い掛けるミリーナ。
「ゼルガディスさんは……ミオさんの部屋で変な黒髪の男を見つけて、追いかけていったきりで……わたしは残ってそのまま調べるように言われたんでその後どこに行ったかはわかりません。」
「アメリアの言ってる黒髪の男って、さらさらの長髪の背の高い男?」
「ええ。そーですが……
 リナさんたち知ってるんですか?」
「あんたとゼルが行った後、一戦交えたのよ。さっきのダーク・ミストの中に現れた男と同一人物よ。ガウリイの言うことが正しければ国際軍の暗殺者だそーよ。まぁ、めっちゃくちゃ強かったわ。」
「国際軍!!?
……なんでそんなものが動いてるんです?」
「さあね。
 ま、とにかくあたしたちのすべきことは、ナビオをさっさと保護してあの屋敷に戻ってご飯食べることよ。
 ……見えてきたわね。一気に行くわよ。着いてきて。」
 リナが表情を真剣な顔に戻すと同時にアメリアもミリーナも固唾を飲んで、前方、つまり横浜倉庫を見据えたのだった。



「どういうことなんだ。ゼロス。これもお前の差し金か?」
カチッカチッと旧式のライターを何度かいじりながら、やがてほどなく点いた火に煙草を近づけてゼロスはそのセリフの主に向き合った。
「これ、とは―――――?」
「あの暗殺者とお前は知り合いじゃないとは言わせないぞ。」
「まあ。知ってはいますよ。顔くらいは。」
ゼロスは本当のことを言った。そう顔くらいは知っている。
ミオの部屋に張りついていた黒髪の暗殺者を追って、屋敷の周りを巡っているうちに、何故か屋敷の側で車を停めているゼロスと出くわし、ゼルガディスは驚いた。
だが、それ以上に驚いたのは、その男がゼロスを見た瞬間逃げるように去っていったことだった。
「貴様―――――
何を企んでいる?あいつは一体誰だ?ただ者じゃないことは俺でもわかるぞ。」
まるで無関心なゼロスの様子にいらだちながらも平静を装ってゼルガディスは言った。
「今回は僕は特に何も――――
もし企んでいるとしても、聞いたところでどうするおつもりです?あなたに何ができますか?それに。もし万が一企んでいるとしてもあなたに答える義理はありません。」
いけしゃあしゃあと言い放つゼロス。もちろんいつもの笑みを顔に貼り付けて。
「義務は―――――あるはずだろう。獣神官ゼロス。」
ゼルガディスの言葉に、ゼロスはほんの少し口の端に笑みを浮かべる。
「ほう――――?どういう義務です?」
「しらばっくれるのは構わんが。
そういう態度を取って、俺がいつまでも黙っていると思うなよ。」
「どうぞ。御自由に。
しかし、そうなると僕もいつまでも遊んでいられなくなりますがねえ。」
「……!」
急に全身が泡立ったかと思うと目の前にいたゼロスの姿が瞬時に消えた。火が点いたままの煙草が地面に転がる。夜の風に流される白い煙。
そして。
「忘れてるんじゃないですか?僕は魔族なんですよ。」
ふとゼルガディスの耳元でくすくす笑う声。
「ふざけるな!」
ゼルガディスは小馬鹿にしたようなゼロスに叱咤する。
忘れるわけがない。忘れられるわけなどないのだ。
いっそ忘れてしまえればどんなに楽だっただろう。彼らのように――――――
「お前は俺に何がしたい……?ゼロス……」
虚空に投げかけた疑問にゼロスは、
「まだ気づかないんですか……?案外あなたは鈍いですね。」
意外そうな声を出して、ひょこっとゼルガディスの肩に手を置く。
と言っても目に見えているのはゼロスの腕だけであるが。
肩の上の明らかに人の体温ではない感触にゼルガディスはなぜだかわからない恐怖心にあおられる。だが、その心を見透かされないよう、心に盾を持って言葉を発した。
「からかっているようにしか見えないが?」
その言葉にゼロスはひょこっとゼルガディスの顔を白い手で挟み、覗き込むよう顔を夜の闇から出現させて、
「正解です。からかっているだけです。」
にっこりと微笑んで、そのまま顔を近づける。
「……貴様……!」
思わず手を出してゼロスの顔を押しやろうとするゼルガディス。だがその手は虚空を凪いだだけだった。ゼロスの体は精神世界に重点をおいているため、幽霊のような状態なのだ。
視覚でしかとらえられない完全な嫌がらせの口付けにゼルガディスは憤りを覚え、ちからある言葉を発動しようとする。どうせ当たるはずもないのはわかりきっていたがそれでもそうせずにはいられなかった。
「崩霊裂(ラ・ティルト)!」
そう来るのは予想済みだったのだろう。ゼロスは軽く手を一閃して青い光を霧散させた。
「戦う相手を間違えているんじゃないですか?」
「間違えてはいない。俺の敵は最初から貴様だけだ。」
「正気ですか?この僕を倒そうとおっしゃるのですか?」
「―――――ああ。」
いずれ、な。
と心の中で付け加えて、ゼルガディスはすっとゼロスに背中を向ける。
今は確かにゼロスと遊んでいる暇はない。
ゼルガディスは、天王寺家に響く爆音の方へと駆け出した。



 いつの時代も世の中も変わりなく存在するものはある。
 そんなもののひとつに上げられるのが、ちょっと目つきの悪いいかにも頭の弱そうな男どもの集団、すなわち今リナ達の目の前にいるヤンキーであった。
 横浜港の名もない倉庫前は、ヤンキーと呼ばれる学生達がバイクを乗りまわす格好のたまり場となっていた。
 借り物のバイクで駆けてきたリナ達はそのヤンキー達のど真ん中に停車し、リナはそのままそのへんでしゃがみこんでいたヤンキーの一人に話し掛けたのだ。
「よお、こんなところになんの用だ?名門のS高のお嬢チャンがよぉ。」
「渡瀬いる?呼んで。」
 絡んでくる男達を無視してリナは言った。
「あ?なんだぁ?いきなり現れてボス呼べたあ、何様のつもりだ?」
 かなりらりってる目をしたヤンキーAがリナの肩に馴れ馴れしく手を置いて話し掛けてくる。リナはしばらく黙っていたかと思うと、その手をぐっ!とつかみ、ぎりっとひねり倒して、
「リナ・インバース様よ。あんたみたいな下っ端はあたしの顔も見たことないでしょーけど。」
「いててててっっ!なにしやがる………って……り、り、り、り、リナ・インバースぅぅぅぅぅっっ!!ひっっ……!ご、ご無礼をっっ!た、た、た、ただいま上の者を呼んで参りますので……おいっ!お前っ!今すぐ呼んでこいっ!こ、この方は、あのリナ・インバース様だぞっ!」
 ヤンキーAは震えながら、隣にいた間違い探しに出てきそーなくらいそっくりなヤンキーBに叫ぶ。
 言われてヤンキーBも、化け物でも見たかのようにリナを眺めると、我に返って一気に後ろにたまっている集団に向かって駆けていく。
 当然のように見届けてリナはヤンキーAから手を離す。
 その様子をリナの後ろから黙って見ていたアメリアとミリーナは改めて、リナには逆らわないでおこうと心に決めたのだったが、そんなことはおかまいなしに、
「?何ぼけーっとつったってんの?行くわよ。」
 ちらりと後ろを振り返ってすたすたとヤンキーの群れに歩み寄る。
彼女が群れの中を歩くと、ざわざわっとまるで波が別れるかのようにヤンキー達が両側に引いて道ができる。
「リナさん……なんか慣れてますね……」
「……そうね……」
その後にアメリアとミリーナは内心少しびくつきながらもついていく。
そして、群れの一番奥に、おそらくボスと思われる男が座っていた。全身を包帯でぐるぐる巻きされていて、なんだかえらく痛々しい。
「あっれ?どうしたの渡瀬。怪我ぁ?」
「ぼ、ボスはただいま留守にしていますのでこの西条が代わりに用件をお聞きします…」
情けないほどに震えながら、リナに話し掛ける。包帯で顔も見えないが表情は容易に想像できた。
「あ、あんた渡瀬じゃないの。ったくこんな時に使えないわね。」
「ははははははは。今渡瀬番長お怪我で入院中ですので。」
「へえ?喧嘩負けたの?めずらしいわね。」
「いえ、飲み会で火を噴く芸をやられたんですが、いきなり御本人も炎上したんです。なんでもガソリンつかってたそうで。俺も巻沿い食らってこの通りです。」
「相っ変わらず馬鹿ねー。」
リナは呆れた声を出して、
「で、なんだっけ、えっと西条だっけ。ま、そんなにびくつかなくても別にいきなり火炎球(ファイアー・ボール)かましたりしないわよ。」
昼間実際にかましたことはすっかり忘れているのかリナはそのまま続ける。
「それより――――
ちょっと聞きたいんだけど、横浜一体をメインにしてる割と大き目な組織ってどこ?
コンピューター使ってるみたいだから、馬鹿組織じゃあないと思うんだけど。心当たりある?」
「コンピューターっすか……それなら多分『愚連隊』じゃないですか?横浜じゃあ結構はばきかせてる新手の組織です。」
「それ、どこにあるの?」
「ええっと……ここからそんなに遠くないですよ。よかったらお連れしましょうか?」
「助かるわ。
あ。念のために聞いておくけど、それ以外になんかめぼしい集団はない?そこ、金さえ払えばなんでもするみたいなんだけど。」
「まず間違いないっすね。愚連隊ですよ、その金でなんでもするっての。
でも、三人だけで乗り込むつもりなんすか?」
「そーよ。」
おそるおそる聞いた包帯男の質問にリナはごくへーぜんと答える。
「気をつけた方が良いっすよ。あそこはマジやばいです。持ってますから。」
「………そう。ありがと。気をつけるわ、一応。んじゃ案内お願いできる?あたし達勝手についてくから。」
「はい。
おい、お前等!このお方達を愚連隊のところまでおつれしろ。
くれぐれも粗相のないようにな!横浜の裏番長様だ。」
「り、了解でさぁーっ!」
西条とやらが言った台詞に、そばにいた子分Aは飛び上がるように答えた。
よ、横浜の裏番………
横浜に来て、たった半年でそう呼ばれているリナをアメリアとミリーナも度肝を抜かれた気分で見つめながらもう一度かたく心に誓ったのだった。
リナには絶対に逆らわないでおこう、と。


「ここです。」
子分達の案内で横浜倉庫からバイクを飛ばすこと十分。
リナ達が案内されたのはさっきとうって変わった近代的なビルであった。この時間になっても電気がまだついている。
「へえ……ヤンキーにしたらハイテクじゃない?やるわねぇ」
「単なるヤンキーじゃないですよ。ここは。一歩間違えれば犯罪組織です。」
リナのもらした感嘆のつぶやきに、子分Bは顔色を曇らせて言った。
「確かに、誘拐の手伝いする時点でもー立派な犯罪組織ね。さて、と。
あんたたち、ごくろーさん。もう帰って良いわよ。渡瀬によろしく言っといて。」
「ほんとに三人だけでいかれるんですか?俺達も……」
「いーのいーの。気持ちだけもらっとくわ。」
足手まといになるからさっさと帰って欲しいのが本音だが、好意は受けておくのがリナの礼儀だった。
「案内ありがとう。」
「正義のために共にがんばりましょう!」
去っていく子分達をミリーナとアメリアが見送った後。
「どうやって潜入するの?相手もあんまりなめちゃいけない相手みたいだし、このビルはセキュリティはきびしそうに見えるわよ。」
ミリーナの言葉にリナは当たり前のように言い返す。
「決まってんじゃない。セキュリティが甘かろうがなんだろーが、あたし達はここをぶっ潰しに来てるんだから、答えは一つよ。」
「ナビオさん救出じゃないんですかぁ……?」
「こんな危ない組織、放っておくわけにはいかないでしょ?とりあえずナビオ救出を先んして、その後もう悪事をする気が起こらないくらいけちょんけちょんにやっつけてしまうのが一番よ。」
アメリアの質問にリナは当然のごとく答えて、呪文を詠唱し始める。
それにしたがってミリーナ達も呪文をそれぞれ詠唱する。
「振動弾(ダム・ブラス)!」
どん!
リナの呪文は思いっきりそのビルの入り口を破壊する。
『翔封界(レイ・ウィング)!』
ミリーナとアメリアの唱えた呪文で、一気にビルの最上階まで昇る三人。先ほどの呪文はもちろんカモフラージュである。
「馬鹿は一番上にいるっていうお決まり通りだと良いんだけど……」
そう呟いた後、リナは呪文でビルの窓を破壊してそのまま潜入する。
急に割れた窓ガラスから三人の制服の少女がやってきて、室内にいた黒いスーツの男はいきなり銃を構える。
「なんだ、貴様ら!?」
「名乗るほどのもんじゃないわよ!」
ごがっ!
翔封界(レイ・ウィング)の勢いに乗ってそのまま男の顔面に蹴りを入れるリナ。
そして、バランスを崩す男にミリーナの呪文が直撃する!
「地霊咆雷陣(アークブラス)!」
ばちっ!
電気の帯が男を捕らえて黒いスーツの男はたまらず床に転がる。
動けなくなった男に、リナは彼の持っていた銃を喉元にあてて、
「別府ナビオを知ってるわね?命が惜しいならどこにいるか言いなさい。」
「………この部屋を出て廊下をまっすぐ行った突き当たりだ……!」
あっさりと吐く男を投げ捨てて、リナ達は再び呪文を唱え、剣を構えながら廊下に躍り出る。
途端に襲い掛かってくる男たち。その数ざっと十人。
だがそれは予想済みっ!
「魔風(ディムウィン)!」
アメリアの放った呪文にたたらを踏む男たち。銃の弾はあらぬ方向へと飛ばされる。
「螺光衝霊弾(フェルザレ−ド)!」
「烈閃槍(エルメキア・ランス)!」
そのすきにリナとミリーナの呪文が次々と男たちを倒していく。
銃を引き抜こうとする男にアメリアの霊王結魔弾つきパンチが炸裂する!
「銃なんて卑怯です!拳で戦いなさい!平和主義者くらっしゅ!」
「銃ってのはねえ!こーやって使うのよ!」
パンパンパンパン!
リナに足元に銃をぶちかまされて、男達は踊るように飛び上がる。
そこへミリーナの呪文が炸裂する!
「地霊咆雷陣(アーク・ブラス)!」
一斉に倒れる男達。
その男たちを見て逃げ腰になっていた別の男の背中にミリーナはナイフを投げつける!
「はっ!あんたたち数そろえるのはいいけど―――」
ざすっ!
リナの短剣がまた一人チンピラ風味の男の腹を薙ぐ!
「全然足りないわよ!前菜は良いから肉持ってきなさいよ!」
三分にも満たない間に勝負はあっさりついていた。




「ルーク、上だっ!」
ガウリイの叫びにルークはとっさにからだをひねる。
その直後にさっきまでルークのいた所に穴が空く。
「あ、あぶねぇ……」
本日何度目かになる呟きをルークはもらした。
既にレオハルト配下の警備員たちはとっくに倒され、立っている者はガウリイとルークとミオ。そして、地霊咆雷陣で動けなくしてあるレオハルトだけだった。
黒髪の暗殺者は立っていないわけではないのだが、彼はともすれば気配が消え、先ほどのように上から攻撃してきたりするので立っているという言葉は語弊がある。
彼はいつも動いているのだ。
「こいつ……本当に人間なのかよ……」
気配が全く読めないルークはげんなりとした口調で呟く。
「国際軍は、人間離れしてる人間しか雇わないからな。国際軍の暗殺者集団の典型的な動き方だ。オレ、一回試合したことある。」
「勝てたか?」
「覚えてない。」
「だよな……」
ガウリイの記憶力に期待した自分が愚かだった。
そんなことを考えながらもルークは再び剣を構える。気配は読めないがいつかかってきても良い対処をしていないと命がいくつあっても足りなさそうだ。
ルーク達の結構すぐ側にはコックが作った料理がいくつか並んでいたりするのだが、とてもじゃないがそれをつまみ食いするのを暗殺者は許してくれそうにもなかった。
「なんで、私の命をねらっているんでしょうか……」
「さあな。あんたの叔父の命令ってわけではなさそーだし、別件でなんかあんたうらまれるよーなことしたのか?」
すぐ後ろのミオの掠れた呟きにルークは回りに警戒しながらも言う。
とりあえず、ガウリイとルークの後方に下がってミオは見物をしているのだが、黒髪の暗殺者は彼女よりも先にガウリイとルークをねらって攻撃してきた。
おそらくどのみち彼らも一緒に倒す予定なのだろう。先に彼らを倒して、ミオを殺す方が効率が良い。そう思ってなのか、後方に下がっているミオを上から攻撃することはなかった。
「人に怨まれる覚えなんて………」
「ないよな。ま、ふつーは…」
「ありすぎてわかりません。」
「あんのかぁぁぁぁっっ!?あんた普段どーいう生活送ったらこんな質の悪いのにつけねらわれるよーになるんだよっ!?」
「質の悪いのにいつも関わってるオレ達もどーかと思うけど…」
ガウリイの呟きにルークは一瞬言葉に詰まったが、それは考えないようにしたのか、
「それにしたって、よりによって国際軍の暗殺者にねらわれるこたぁねーだろうに…
ま、あんたに聞いても事情はわかりそーにねーな。
―――――おい、あんた!話聞いてんだろ!?
なんでミオを狙うのか理由くらい聞かせてくれたっていーんじゃねーか!?」
相変わらず姿が見えない暗殺者に向かって話し掛ける。しかし返答はない。逃げたわけではないだろうがこうも音沙汰なしで時々思い出したように攻撃してくるのは不気味であった。
「また、水竜巻がいきなり来たりしねーだろーな……」
返答もない静まり返った厨房で、ルークは不吉なことを口にする。
「いや、それはないだろ。」
しかし、ガウリイはいともあっさりその言葉を否定した。
「なんで?」
「いやぁ、あいつどーやら水専門の暗殺者みたいだから。国際軍の暗殺者にもなんか色々専門の得意分野ってのがあるんだよ。あいつ、どーみても海軍崩れだし、ここは水場が遠いから、多分大丈夫だろ。」
「なんでそんなことわかるんだ?」
「なんとなく。匂いが違う。」
「ほ。野生のカンか。ま、あんたがそーいうなら安心だけどよ。」
なんだかんだでガウリイの野生のカンが外れたのをルークは今まで見たことがない。
普段ぽーっとしているが、こと戦闘に関してはガウリイは超一流の戦士なのはルークも認めていた。
「それに―――――
できるならこの屋敷は今ごろ吹っ飛ばされてるだろう。」
国際軍の暗殺者は、たとえ素人相手でも玄人相手でも手を抜くということがない。本気で殺す気があるならどんな手段でもどんな状況でも本気で相手を殺す。そして、無駄な遊びは一切しないのが彼らの特徴であった。
例外は一切なく、彼らはいつも仕事は必ず遂行する。
だからこそ、その知名度が世間に知られているのだ。
国際軍の暗殺者に狙われた者に明日はない―――
その言葉は伊達ではないのだ。
かと言ってミオやおそらくもはや標的となっているだろうルーク達はあっさりとあきらめられるものではないのだが。
「でも気になるのが、なんでミオか。だな。」
「ああ。やつらは絶対に暗殺者しか殺さない。オレ達をも狙ってくるところもやっぱりわからない。普通は殺しの依頼のあった人間しか狙わないんだ。」
ルークの言葉にガウリイが頷く。わからないのがそこだった。ガウリイの知る限り、例外というものがない国際軍の暗殺者集団なだけに、何故、性格はともかく普通の警官にすぎないミオを狙うのか、そして今なぜガウリイやルークにまで攻撃してくるのかがわからなかった。
「一応聞いておくけど、あんた、実は副業に暗殺者してるとか言わないだろうな?」
「副業は色々抱えてるけど、暗殺者なんてハードボイルドで明るさ満点の良いお仕事はあいにくしたことがないです。」
「明るいかぁ?あいつ……根暗っぽいけどなぁ…全然話さないし。」
ミオの答えにガウリイに怪訝な顔をする。
その途端、視界の隅に動く影!そして、ガウリイに迫る衝撃波!
ガウリイはいとも簡単にその衝撃波を光の剣で斬った。
衝撃波は思った通り、水である。斬られて力を失った水があたりに散らばる。
「悪口に気ぃ悪くしたみてーだなっ!」
「……ルーク、気をつけろ…!これは、猛毒だ!」
ルークの軽口に、しかしガウリイは真剣な声で返す。おそらく浴びたら一たまりもない猛毒なのだろう。大量の水が手に入らないため、そーいう手でくるようである。
「……やっぱり根暗だな。暗い手使ってきやがるぜ。ゼルガディスあたりもやりそーだけど。」
「誰が根暗だって?」
唐突に響いた声はルークの後ろからだった。
暗殺者のものではない聞き覚えのある声に、おそるおそる振り返ったルークの視線の先には予想通りの人物。
「よ、よぉ……今まで何してたんだ?あんた……」
「色々な。そっちこそえらく手間取ってるじゃないか。」
剣を構えたままで厨房のドアをぱたんと閉めてゼルガディスは警戒しながらもルーク達に近づいてくる。
ゼルガディスはちらりと倒れているレオハルトを横目で眺めて、
「おい、あんた。念のために聞いておくが、ミオを暗殺するように誰かに頼んだか?」
「頼むわけないだろう……ミオはうちに絶対必要な存在だ……ABコーポレーションと提携できれば我が社に敵はいなくなるんだ。それこそ日本どころか世界を動かせるチャンスなのに、誰がそんな馬鹿な真似をするか。」
脅えて口が聞けないのかと思われていた叔父はゼルガディスの問いに半ば笑って返した。
「なるほどな。んじゃ、他の会社の奴等にとってはミオは邪魔でしょうがない存在ということになるな。」
「ってことは何だ?ミオを狙ってんのはどっかの敵会社ってことか?」
「そういうことになるな。だが、国際軍の暗殺者を雇えるような敵会社なんて、思い当たるか?」
「そんなはずはない。国際軍の暗殺者などそもそもいくら金を積んでも、民間企業が雇えるものじゃないんだ。」
レオハルトの言う通りだった。国際軍の暗殺者が動くのは、国際警察にも手におえない暗殺者が現れた場合のみ。
「だとしたら――――
あの男の雇い主は誰だと思う?」
「あ!まさか……!」
ゼルガディスの呟きにルークとレオハルトが顔をあげる。一方全くわかってないガウリイとミオ。
あたりを包んだ妙な沈黙の末、ルークが疑問を口に出す。
「国際警察か、あるいは国際軍自身―――――?」
「そんな馬鹿な話があるんですか?なんで一般人を守るための軍が一般企業のイザコザに口出しするんです!?」
ルークの呟きにミオが反論する。
「推論だが、な。でもつじつまはあう。
国際軍とはいえ実質やってることは企業みたいなもんだ。軍の武器だってタダでもらってるわけじゃない。ちゃんと買って購入してる。もし、天王寺グループとABコーポレーションが手を組んで世界を揺るがすような一大武器メーカーができてしまったら―――
困るのは誰だ?」
「他の武器会社じゃないんですか?」
「それもだが、一番困るのは国際軍だ。あそこでは世界最高で最新の武器しか使わない。この両者が手を組めば間違いなく国際軍はこの両者からしか武器が買えなくなる。すると、どういうことになるかわかるか?
天王寺グループとABコーポレーションが国際軍を裏で牛耳る可能性だって出てくるんだ。」
ミオの問いにゼルガディスは淡々と告げる。
「早い話が――――
国際軍が武器面で一企業に頼りきりって事態が恐ろしいから、その可能性は今のうちに抹殺しよーってこったな。
それで暗殺者まで呼んでくるんだから……。
はっ!……どこの国の政府もやること汚ねえーよな。健全な市民の金で食ってるくせに、市民を抹殺しよーなんて最低だな。」
ルークは、暗殺者にわざと聞かせるかのように大きな声で言った。
話をずっと黙って聞いていたガウリイは、ぽつりと、
「………んじゃ、つまりオレ達は政府の敵ってことか?」
シンプルで的を得た結論を言った。
その一言に青ざめる一同。
「あまり考えたくはないが……ま、ひらたく言うとそういうことになるな。」
ゼルガディスが半ばヤケクソ気味に言うと、
「……たかが飯食うのになんで政府と喧嘩しなきゃなんねーんだろう……」
遠い目をするルーク。
「ま、なんにしろ。オレ達が今しなきゃなんないことは、ここをなんとか切り抜けるしかないだろう。」
ガウリイのセリフに一同はとりあえずうなずいて、今だ沈黙を続けている黒髪の暗殺者に気配を集中する。
それから後はどうなってしまうのか、は誰も考える気力はなかった。
空腹で考えられなかったと言った方が正しいのかもしれないが―――――



「みぃぃぃぃぃぃおぉぉおおおぉぉぉぉぉっ!今いくからなぁぁぁっ!!」
「あああああっ!うるさいっ!耳元で騒ぐな!暴れるな!泣くな!」
夜中も結構な夜中。
疾走するバイクの音と男の泣き叫ぶ声が横浜に響く。
なんだかんだで。
あっさりナビオを救出した後、愚連隊とかいう名前の通り、銃しか持ってない馬鹿組織のあったあたりに竜破斬(ドラグ・スレイブ)ぶちかまして復帰不可能にしたリナ達一行は、ナビオを連れてミオの屋敷に向かっていた。
「恋人が恋人だからマトモな人だとは思ってなかったけど……」
「っていうかこの話にマトモな人物を期待していたわたしが悪でした……」
リナの背中で、エルボーを食らわせれ、ひい!とか、おへえ!とか、あちょ!とかわけのわからん奇声を発しつつ涙ながらにミオの名を呼ぶナビオを横目にため息をつくミリーナとアメリア。
そもそも、別府ナビオは囚われている時点からおかしかった。
黒服の男が言ったつきあたりの部屋にたどりついたリナ達が最初に見たものは。
あひるの毛布にくるまって、キティちゃんの抱き枕に巻き付きながらやすらかに眠っているナビオだった。
一瞬、既に遅かったのかと、焦って彼を揺さぶったリナたちに返ってきた返答は。
「お母さんは泣いているぅぅっっっ!!!」
そんな、微笑ましい寝言が彼の第一声だった。
その後リナがナビオを張り倒し、ミリーナが蹴りを入れ、アメリアがパンチを食らわせすというしごく当然の反応をして、嫌がるナビオを問答無用でビルから連れ出し、事情を話せばこれである。
「愛してるんだ、ミオぉぉおおぉぉおぉおっっ!!なのに何故君は僕をおいて先に逝ってしまうというんだぁぁぁっっ!!僕はっ!僕はっ!まだ君に言ってないことがあるのにぃいいいっぃっぃぃっ!」
「まだ死んでないわよ、ボケ!もーーあんた、捨ててくわよ!?その口には閉じる機能はないの!?」
「ああああっ。せめて僕の会心の出来だった、この歌を君にきかせてやりたかったぁぁっ!!ああ、ミオ!せめて天国で聞いてくれ!」
「だから死んでないってば!ってあんたの職業って確か、木こりじゃなかったっけ!?歌手だったの?」
「♪と〜れとっれ ぴ〜ちぴっち カニ料理〜」
おそらく聴覚というものがないのだろう。ナビオはリナの言葉はまったく無視して死んだ恋人にささげる歌を熱唱する。
「カニ……カニ……カニ……」
その歌に何を刺激されたのかミリーナが夜空に輝く星を見ながら虚空に手を伸ばす。
「ああっ!ミリーナさんっ!しっかりしてください!幻覚ですぅっ!カニなんていませんよ!ほら、前向かないと危ないです!」
しかし、ミリーナは何やらうっとりした瞳で虚空を見つめるだけ。
「空腹に耐え兼ねてるみたいね……っていうか、ほんとお腹すいたわね……
ちゃんとルークのやつ、あの料理守ってるんでしょーね……」
もう何を言っても無駄と悟ってか、リナが誰にともなしに呟く。
昨日の晩から丸一日、何も食べてないのである。そして徹夜の上にこの騒動。疲れるのは当たり前である。
「リナさんっ!その人、黙らせてください!そろそろです!」
「おーけい。」
ミオの屋敷に近づいてきてリナはごがっ!とナビオの頭に肘鉄を食らわせ失神させる。
すこし、だくだく流血してたような気もするがもうそんなことを気にできるほどの余裕はリナにはない。
「さて、と。ミリーナ、正気に戻った?行くわよ。ご飯があたしを待っているわ!」
天王寺家から少し離れた場所にバイクを乗り捨てて、リナ達はまたそれぞれ呪文を唱え出す。その瞳に宿る異常な生気に、通りすがった猫がびくついて逃げていくがそんなことはおかまいなしである。
そして、本日何度目かもうわからない呪文は同時に完成する。
『翔封界(レイ・ウィング)!』



ぱりぃぃぃぃん!
ド派手なガラス音が響いたかと思うと。
「ごはんんんんんんんんんん!!!!!!!」
ものすごい喧燥と共に一気に厨房にリナが突進してきた。
続いてアメリアとミリーナ。そのついでに引きずられてだくだく流血している男が一名厨房に入ってくる。
「あたしのご飯は!?」
瞳に満点の星を浮かべて問うリナにそこにいた男達はがっくりとうなだれた。
「食いたきゃ食えば?その隙に殺されてーならな。」
ルークの投げやりな答えにリナは目を丸くする。
「へっ……ってまさか……ま〜だ戦ってんの!?」
ばっと警戒の体勢を取って、男たちをののしるリナに、ゼルガディスは不機嫌な声で、
「好きで戦ってるんじゃない!」
「ま、そーいうことだから、悪いな。リナ。もーちょい我慢してくれ。」
ガウリイのあっけらかんとしたセリフにリナはきっ!と男達を見据え、
「そーいうことってどーいうことよっ!たかが男一人倒すのに大の男が三人がかりでまだ倒せないですって?はっ!情けないと思わないの!?」
「ならお前が倒してみるがいい。」
その答えに答えたのは―――――
厨房の料理の側。つまりリナのすぐ横にふいに現れた黒髪の暗殺者だった。
「なっ……!」
ふいに横を取られてリナは身構える。
引くか、かかっていくか。
一瞬迷った後、思い切って暗殺者に体当たりをぶちかます!
少しバランスを崩した暗殺者はすぐさま元の体勢に戻ってリナに向かって衝撃波を放つ!
「リナ!気をつけろ!やつは毒を使う!」
そーいうことは先に言わんかい!
心の中で叫びながら、体を捻るリナ。
だが、よけきれないのは確実だった。
「リナさんっ!よけてくださいっ!」
ばしゅっ!
しかし、かぶる覚悟でいた水の衝撃波は。
いきなりリナと暗殺者の間に飛んできたフライパンに激突して、跳ね返る!
「…くっ……」
少し毒をかぶってしまったのか。
黒髪の暗殺者は一瞬ひるむと体を翻して逃げていく!
こんな物騒なやつ、逃したら夜もおちおち寝られない!
「烈閃槍(エルメキア・ランス)!」
ミリーナが放った烈閃槍(エルメキア・ランス)に背中を直撃されて、暗殺者はたまらずその場でたたらを踏む。普通なら立っていられるはずのない術である。人間であるなら、一ヶ月は寝込む術なのだが、それでも男はふらつきながらもまだ立っている。
「人間じゃないわね。」
「いや、人間だ。」
リナの呟きに答えたのはガウリイだった。
ずらりっと光の剣を構えて男に近づいていく。
「聞いていいか?あんた上の命令でこんなことしてたんだよな。」
「………」
男は答えない。
「今ここであんたを殺すのは簡単だ。けど――――例えそーしても、結局オレ達にはまた次の刺客がやってくる。そうだよな?」
「その通りだ。貴様も元軍人ならわかるだろう。貴様らは永遠に狙われる。目撃者はすべて抹殺する命令だからだ。」
今まで無口だった男は、最後の置き土産にと思ったのか呪いの言葉を紡いだ。
「ちょっと、冗談でしょ!?ずっと狙われるですって!?なんでよ!」
「こいつの雇い主が国際軍だからだ。」
リナの問いにルークが答える。
「……どーいうことですかっ!?許せません!国民を守る軍が国民を暗殺しようとするなんて!」
「ミオの会社と見合い相手のABコーポレーションがくっついたら軍にとって都合悪いからだ。」
ゼルガディスの短調な答えにアメリアは拳をぶるぶる震わせて、
「こんなこと許されることじゃありません!国に帰ってとーさんに報告します!」
「よせ。アメリア。そうするとお前は抹殺されるだけだ。上手く生き延びれても下手すりゃ今度は国家間の戦争になりかねない。」
「でも!」
「知らなかったことにするんだ。それしか方法がない。」
言われてアメリアは俯きながらゼルガディスを真剣に見詰めて、
「悪が行われてるって知って知らないフリするんですか………?」
「まだ、未遂だ。ミオはまだ殺されていない。そして、俺達も。」
言われて呆然と突っ立っているアメリアからゼルガディスはなんとなく視線を外して、
「ミオとABコーポレーション社の息子が結婚しなければ問題はすべて解決するんだ。
最初の依頼の通り、ミオとナビオはどこかに駆け落ちして見合いは破綻になる。レオハルトには聞きたいことは山ほどあるがそれは警察に任せるとして――――」
ちらりと一瞥されて、レオハルトはびくっと体をびくつかせるが、ゼルガディスは視線をさらに厨房のドアの前にうずくまっている黒髪の男にはせる。
「問題は、あんただ。」
ガウリイはぽつりと男に話し掛けた。
「天王寺グループはABコーポレーションとは提携しない。オレ達は何も見なかったことにする。  
   だから、この件とはすっぱり手を引いてくれないか。」
「そんな要求を上に持って帰れと言うのか?この私に。」
自嘲気味に男は笑う。できるはずはない。名もない学生たちに敗れ、都合の良すぎる要求を飲むなど。
「お願いします。」
ふと。
ミオが真剣な瞳で男に話し掛けた。
「わたし、何も見なかった。何も話さないわ。だからもう放っておいてください。」
少し泣きそうになっている彼女の声にあたりは静まり返る。
「俺からも頼む。こいつら、何もしてねえんだから、もうそっとしておいてやれよ。何も見てねぇって言ってるんだから、よ。」
ふいに顔を下げて言ったのは意外にもルークだった。
「私も何も言わないわ。暗殺者なんて知りません。」
と、そっけなくミリーナ。
リナもため息ついて頬をぽりぽりかきながらも、少し照れたように、
「あたしも見なかったことにしておいてあげても良いわよ。でも、その代わりなんか頂戴って言っておいて。迷惑料としてもらう権利はあると思うんだけど。」
「お前それは脅迫って言うぞ……」
「だって、本来罰されるべきなのは軍の方じゃない。それを大目に見てやるってんだから、ねえ?」
ガウリイにつっこまれてリナは当たり前のように言う。
「で、残るは、アメリア。あんただけなんだけど、やっぱ国に報告しちゃう……?」
おそるおそる聞いたリナの言葉に、アメリアは、しばらく何か葛藤しているようだったが。
きっ!と暗殺者を指さして、
「この人は悪い人です!この人を雇った軍も!」
「……アメリアさん……」
ミオはすがる瞳で彼女を見つめる。
「でも、今回だけは。ミオさんに免じて。国には報告しないことにします。」
少し決まりの悪そうに言うアメリアにミオの表情がぱっと明るくなる。
「でも!言っておきますが、わたしは忘れないですからね!あなたも軍も悪いものは悪いんです!反省してください!それでもし今度こんなことがあったらその時は絶対に許しません!」
それだけ言うとアメリアはぷいっと顔を背けて何やらぶつぶつ言っている。
「そんなわけだから、聞いてくれないか?」
ガウリイの言葉に沈黙していた男はふっと笑みをもらした。
「そんな要求聞けるわけがない。殺したければ殺すが良い。」
「オレ達は人殺しじゃない。」
「落ちぶれたもんだな、ガウリイ=ガブリエフ。」
ガウリイのセリフに黒髪の暗殺者は呆れた声をだす。
「あんたが言わないで欲しいわね。何よ。ちょっと負けたからって子供みたいにすねちゃって。殺してくれなんてカッコ悪いセリフ吐くくらいなら自分で死ねば?」
「こらこら、リナ。お前、挑発してどーすんだっ!?」
「だってねえ!なんなのよ、こいつのこの態度!人がせっかく大目に見てやるって言ってんのに、カッコつけてばっかじゃないの!?」
「確かに、馬鹿ですね――――」
ふと、厨房に流れた厭味なくらい優雅な声は。
「ゼロス!?あんた……今までどこにいたのよ!?」
相変わらず煙草をぷかぷかふかしているゼロスだった。もちろん無意味な笑顔もいつも通りである。
「ずっと外にいましたよ?あんまり遅いから迎えに来たんですが、お取り込み中みたいですね。」
「………ゼロスだと……!?」
ゼロスのセリフに声を上げたのは黒髪の暗殺者だった。
「あんた……こんな暗い友達いるの?」
「いいえ。知り合いにはもっと暗い方もいらっしゃいますがお友達ではないですよ。初めてお見受けしますが、僕は彼らの担当指導員のゼロスといいます。」
その場にそぐわない優美な様子でいけしゃあしゃあと一礼するゼロス。
「あんたがこのふざけた連中の親玉ってわけか……なるほどな。」
「ちょっと、誤った認識しないでくれる!?親分はあたし!他は子分!」
黒髪の暗殺者の言葉に間髪入れずツッコミ入れるリナとジト目で見つめる他五名。
だがそんなやりとりはまるで眼中にない男は何かをしばらく考えて、ぽつりと言った。
「わかった。さっきの要求。飲もう。」
「マジ!?」
「ほんとですか!?」
半信半疑で聞くリナとうれしそうに叫ぶミオ。
「お前の言った迷惑料は無理だがな。」
あっさりと言われてがっくりするリナに当たり前かのようにうなずくガウリイ。
「どうもありがとうございます。」
うやうやしく礼をして、ゼロスはにっこりと微笑んだ。
そのゼロスの言葉は無視して、男は身を翻して歩いていく。
「あ。ちょっとあんた!待ちなさいよ!名前くらい言っていかんかい!」
「お前等に名前を教えると証拠になる。」
「あっそ……」
あっさりかわされリナはひらひらと手を振る。
「もう現れんなよ……」
「ちゃんと上に伝えろよ……」
ルークとガウリイの呟きを背に、男は毒を浴びているにも関わらずしっかりした足取りで歩いていく。
そして。
名前が結局わからずじまいだった黒髪の暗殺者は、天王寺家を出ていったのだった。






「じゃ、元気でね。」
真夜中どころか結局夜が明けて。
朝もやの霧につつまれながら、リナ達はミオと意識が戻ったナビオを見送っていた。
場所はもちろん、汽笛が響く横浜港である。
そう。彼らは本気で駆け落ちしてしまうのだ。
レオハルトは、もう駆け落ちなどしなくて良いと言ったのだが、彼らは新しくやりなおすために(何をかは謎だが)、駆け落ちを断行すると言い張ったのだ。
かく言うレオハルトは、リナ達一同にロープでぐるぐる巻きにされて、朝一でこのあと警察送りの予定なのだが。
まあ、最初の依頼は「駆け落ち」だし、当主が捕まったあとの天王寺グループのことなど知ったこっちゃないし、口出しする義務も義理もないので止めはしなかったのだ。
「これ……報酬の食費です。ほんとうにありがとうございました。オートボウガンでうたれた恨みはありますが、あなた達にはなんとお礼を言っていいのかわからないので思わず全員に回転レシーブしたくなります……」
「あ。しなくて良いから。お願い……」
ミオから報酬の食事代をありがたく受け取ってリナは言った。
まあ、夕べの戦闘が終わった後、リナ達がまずしたことは、側にあった食べ物という食べ物を貪り食うという生きものらしい行動だったので、もうお腹が空いているというわけではないのだが。
「ま、でもこっちも礼言っておくわ。あの時フライパン投げてくれてありがと。」
そう。
黒髪の暗殺者の毒衝撃波を撃退してくれたのは、他でもない。ミオなのだった。
「こう見えて、わたし、警察官ですから。」
「そーいえばそんな設定だったわね……」
呟くミリーナに、黙って会話を聞いていたナビオが、
「はっはっはっは!君たちは僕のミオの素晴らしさにやぁぁっと気づいたようだね!そうだよ!ミオはミニスカポリスなんだっ!凄いんだっ!」
その言葉にリナとミリーナとアメリアは同時に肘鉄と蹴りとパンチを食らわせ、
「あんたは何もしてないでしょーがっ!」
「いばらないでください。」
「ミオさんのことちゃんと守ってあげてくださいよ!」
それぞれの反応を返す。
本当にこの男のどこが良いのかミオの趣味を疑うところだが、人の趣味にとやかく言うつもりはない。何より、ミオはそんなナビオにぞっこんで、本人達が幸せそうだから口出しするつもりはなかった。
「ま、がんばんな。」
「また変なことに巻き込まれんなよ。」
「仲良くな。」
ルーク、ガウリイ、ゼルガディスの言葉に、ミオとナビオは、
「あなたたちも早く彼女を作って幸せにしてあげてくださいね。」
「まぁ、無理だと思うけどがんばりたまえ。」
余計な世話だといい返したくなる言葉を投げかける。
そして、ほどなく汽笛が鳴り響く。
「もう、そろそろ行かなきゃな。」
「ええ。それじゃ―――」
二人は片手に小さな荷物を抱え、もう片方の手を繋いで船への道を上がっていく。
そんな姿を見送りながら、ゼロスはぽつりと呟いた。
「いやあ、うらやましいですねぇ。若いっていいですねぇ。」
そんな言葉になんとなく正義館の一同は。
『そうだな……』
『そうね……』
思わず本音が出てしまう。
「おや?皆さん、恋人欲しいんですか?そーいや皆さんいないですもんねえ。リナさん、ガウリイさん、好きな人とかいないんですか?」
「い、いないわよっ!別にっ!っていうかなんであたし達に聞くのよっ!」
「何赤くなってんだ?お前。」
「なんでもないわよっ!」
無意味にガウリイを張り倒すリナ達を無視して、ゼロスは今度は、
「ゼルガディスさんやアメリアさんは?」
「俺はそういうのに興味はない。」
「わ、わ、わたしは……ゼロスさんには関係ないですっ!」
視線をそらすゼルガディスに、慌てて手を振るアメリア。
「おやおや、気になりますねぇ。
ルークさんとミリーナさんはどーなんですか?」
「ふっ。俺達は既に……」
「らぶらぶカップルだからなんて間違っても言えないわよね?」
「はい………」
いつもの通り滝のごとく涙を流すルーク。

そんなこんなで。
長い長い夜は明け、いつもの正義館に戻ったのだった。


ちなみに、正義館に戻って、食費以外結局何も解決していないことに、一同が気づくのは――――
まだ、すこし先の話。



続く。





@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@




あとがきといいわけ。


はい。そんなわけで、ここまで読んでくださった方、ありがとう。
言い訳したい部分が死ぬほどあるんだけど、見苦しい上にきりがないので、もうやめます(笑)はい、自分でもわかってるけどへぼい話です(笑)
待たせまくったあげくこれかい、って怒られた方も多いと思いますが、ごめんっ。しょせんえれなの書く話はこんなんです(笑)
つーか、この話。ゼルアメがどーしても書きたくて書いた息抜きのギャグ短編のはずだったんですが、気がつけば70P(しーん・・・)
しかも、全然ゼルアメじゃねー上に唯一らぶらぶしてたのはゼロスとゼル(爆)とミオさん達で、なんだかなーって感じです(笑)愛がテーマじゃなかったのか、この話っ!(笑)
オリキャラのねーみんぐは大阪人にしかわかんないネタだけど、おそらくあなたが思っている通りです(笑)はい。

次回は少し今までと毛色の違った話になる予定ですので、もし気に入ってくださったならあんまり期待しないで待っててくださいね♪

では、ここまでお付き合いいただいてありがとうございました。
ちなみにくだんない話で容量食ってしまってすいません〜(^^;;

では♪



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1248Re:↑の7ですね(笑)・ここは正義館8なな E-mail 2/9-13:31
記事番号1247へのコメント


まずはお疲れさまでした。んでもって有り難うです。
ななです。(余計なことですが、既に一種の身内のような自分らと勝手に思っているのですが、今日はそうじゃなくてだたのおっかけいちです(ほんとに余計))
正義館ははじめから読ませて頂いている、ダイスキなお話なので続きが読めて本当にうれしいです。

敵さん渋かったです〜腕組みが似合いそうです〜って気に入ってしまいました。(水竜巻の上に、立っちゃうけど)イってる駆け落ちカップルは、もう言うこと有りません。大好きです。毎回でてくるオリキャラがわたしは大好きです。(つーか、私が言うなって感じかもですが(笑))
私は小説読むときはテレビ見るみたいにしてよんでる気がするんですが、いつもすんなりイってる素敵な方々も戦闘シーンも入ってきます。うまいこといえませんが、なんか描写がいいです。
ヒメ。とゼルとのやりとり。負けたよあんたにはのところ(おい)
・・・大好きだ。です。(言い方ねぇんか・・・)っていうか、めっちゃ、良い男だです、ここのゼル。
大好きついでにえれなのルーミリやっぱり、良いです。えれなの書く彼女ら(無意識にみりーなちゃん中心)の在り方っていうか〜そういうの、しっくりくるです。
ひっかかる謎を含みまくったままの正義館の彼らが、自分一番気になってます(笑)
あと、ぴんくの館。(おいっ)大喜び。ありがとう。

戦闘シーンのリナのガウさんの気にかけ方、(うお〜なんていっていいかわからん)すごくイイです。なんかね、ルーミリとかゼルアメとかのがぱっと目立つことが多い気がするんですが(笑)、正義館のがうりなの感じが、かなり好きです。

獣神官。・・・・格好良いよね。マジで。
愛、こもってる感じがするです。つーか、うん。でもめっちゃ大事な鍵だしね(笑)
意味不明ですが、いつもいつもいつもわたしを大喜びさせてくださいます。今回も有りがとう。(おいっ)

相変わらず長さの割に中身薄いうえにまとまってないです。ゴメン。
しかもなんか白々しい文体(死)いいの、素直な気持ちなの。
次回も楽しみにしてます。身体壊れない程度に、がんばってください。
では。


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1277ラバーななちゃんへ。えれな E-mail URL2/13-02:21
記事番号1248へのコメント

人前なんでちゃんとします。はい。威嚇しないでね(笑)
まず、即効感想ありがとう。愛しさ1.5倍増加しました(笑)
>敵さん渋かったです〜腕組みが似合いそうです〜って気に入ってしまいました。
実は最初は敵さんも変な人だったんだけど、あんまり変人ばっかりで会話と話が成立しなかったので急遽渋めの人を釣ってきました(笑)水竜巻の上はそのなごり(笑)←本当は水竜巻に乗ってシヴァ神の真似してたの・・・・

>私は小説読むときはテレビ見るみたいにしてよんでる気がするんですが、いつもすんなりイってる素敵な方々も戦闘シーンも入ってきます。
ありがとう♪でもいってる素敵なかたがたがすんなり入ってくるのは多分・・・いやなんでもない(笑)

>あと、ぴんくの館。(おいっ)大喜び。ありがとう。
喜んでくれてありがとう。いやあ、ありきたりなネタだから外そうかと迷ったんだけど抜いちゃだめって声が天井からね(笑)

>戦闘シーンのリナのガウさんの気にかけ方、(うお〜なんていっていいかわからん)すごくイイです。なんかね、ルーミリとかゼルアメとかのがぱっと目立つことが多い気がするんですが(笑)、正義館のがうりなの感じが、かなり好きです。

今回はわざとガウリナ少なく目指して書いたっつーか、原作のガウリナにどんだけ近づけるかって頑張って、失敗したなぁって思ってた(笑)からこれはうれしい♪

いつも体も頭も世話になりまくってるっつーのに感想までくれてありがとう♪
今後も運命とともにいろいろ世話になるだろうから、見捨てられないようにがんばるです(笑)

んじゃまた明日(爆)

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1253Re:↑の7ですね(笑)・ここは正義館8はづみ 2/9-17:32
記事番号1247へのコメント

うふふ。ついに出ましたね新作……。(電信柱の陰から登場)
しつこくしつこく催促しまくった甲斐がありました。(すな。)
なんかもうス○ーカーと化している自分の執念に乾杯しつつ(……)、
感想行きます。
結構不意打ちだったんで、めたくそな日本語(いつもだ)で書いてますが、
ななさんの的確で愛のこもった感想と比較してお笑い下さい。(笑)

全体的には展開も、戦闘シーンも、各キャラのやりとりも、伏線も、流石の
一言に尽きます。所々、自らツッコミを入れて読み手のツッコミを封じる
スキのない文章に惚れまくりです。(←そんなにツッコミたいんかい。)
敵さんが黒ずくめなのはお約束だとか(←偏見)、翔封界で飛びながらの
会話は絶叫になるんやないかとか、木こりと婦人警官がどこでどのように
出会ったんやとか、「国際軍」なのに何で「国の」政府が黒幕なんやとか、
通天閣ヘアってどないなものなんや見てみたい、とか何でカニ道楽?とか、
突っ込めるのもまた楽しいです。(矛盾)

(……もっとまともなとこに突っ込めよ。←心の声。)

しょっぱな、正義館メンバーの責任擦り合いは、いつものことながら
えれなさん流のスレイヤーズキャラらしくて物凄い好きです。ノリよし、
テンポよし、ミリーナの壊れ具合よしで最高です。(笑)
ガウリナ、えれなさんの本領発揮のルーミリは言うに及ばず、ゼルとアメリア
のやり取り、今回のめちゃ素敵でした。(*^^*)
らぶらぶ度で、ゼロスとゼルに劣っているのがまた何とも……敢えて言いま
すまい。(言うとる。)
そして元(?)獣神官転職現在生物教師ヘビースモーカーゼロス。(何か
合体しそうな名前じゃのう。)
ミリーナと双璧をなす、えれなさんの愛てんこもりな描写がかっこよかった
です。相変わらず、ゼルと共に伏線の塊だし。
敵さんと依頼人がまた、言動が個性的でそこはかとなくイっちゃってて、
なおかつさりげに伏線を含んでていいですねー。えれなさんの話ってまとも
な人が出てこないから好きです。(けなしてんのか。)いや、勿論誉めてるん
ですが。(^^;)

総評。期待を裏切らない面白さ。
尽きます。あんまりダラダラ下手な日本語で感想しても、ちっとも伝わらない
かも知れませんので、この一言。(すでにダラダラ書いとるやないかという
ツッコミは胃の中に納めときます。)

いつも爆笑できる楽しいお話を拝見させて下さって有難うございます。
本当に楽しみにしております。いえ、本気で。
いつまでも待ちますので、(毎回催促しまくる人間が言うセリフか。)
ミトコンドリ……もとい、インフルエンザ等でお体を壊されないように
お気を付けて頑張って下さい。
拙い感想ですみませんでした。(^^;)今回も……;

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1278はづみちゃんへ。えれな E-mail URL2/13-02:51
記事番号1253へのコメント

こんにちは。はづみちゃん、いつも催促してくれてありがとう(笑)
どーも君に催促されると書いてやるぜこのやろう!って気分になって一気に書き上げるパターンが多いのね(笑)そんなわけではづみちゃんにアフロツリーはささげます(え?いらん?)

>所々、自らツッコミを入れて読み手のツッコミを封じる
>スキのない文章に惚れまくりです。(←そんなにツッコミたいんかい。)
あああっっ。なんつーか、なんて的確にえれなの文を表現してくれるんだっ(笑)
それでもツッコミこんだけ↓入れてくるはづみちゃんもやるわね(笑)

>敵さんが黒ずくめなのはお約束だとか(←偏見)
ち。次はぴんくにしよう(よせ)
>翔封界で飛びながらの会話は絶叫になるんやないかとか
だって「負ーーけたよぉぉおおぉぉぉっっ!あんったにはっさぁぁぁぁーーっ!」とかゼルに言わせたら、笑いしか取れないじゃないか(笑)
>木こりと婦人警官がどこでどのように出会ったんやとか、
ひぃぃぃいいぃっ!(白目)そ、そんな恐ろしい出会い話をえれなに書けとおっしゃるのですか(笑)ぎゃーーっ!書きたい〜っ(死)
>「国際軍」なのに何で「国の」政府が黒幕なんやとか、
これについては、自分のHPで散々フォロー入れたけど説明(笑)
国際軍ってのは元々その国々にあった軍隊が提携してできたものなんで、権力とかはやっぱりその国の政府の力が凄く強いからです。はい。ちゃんと説明しなかったえれなが悪でした(笑)国際軍については次回みっちり書きます。
>通天閣ヘアってどないなものなんや見てみたい、
してあげる(はあと)
>何でカニ道楽?とか、
大阪人の性です(笑)

>テンポよし、ミリーナの壊れ具合よしで最高です。(笑)
つーか、あれもうミリーナでもなんでもない物体になりつつあるんですが、誰かとめてください・・・あのこ・・・(笑)

>そして元(?)獣神官転職現在生物教師ヘビースモーカーゼロス。(何か
>合体しそうな名前じゃのう。)
これ。めっちゃうけたんだけど(笑)怪物っぽい〜っっ!
今回は煙草とゼロスがコンセプトの一つだったんでずぼずぼ吸わせてやりました(笑)

>えれなさんの話ってまともな人が出てこないから好きです。
まともな人の個性がスレキャラをつぶしちゃうくらいでかいと問題もあるんだけどありがとう(笑)
オリキャラは今回すっげ好評でうれしいです♪
でもスレイヤーズだからスレキャラをがんばるようにするわね♪
そんなわけで楽しい感想ありがとう♪
催促されないようにまたがんばる(笑)

んじゃ♪

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1272Re:ここは正義館68風太 2/12-02:31
記事番号1247へのコメント

えれなさんは No.1247「↑の7ですね(笑)・ここは正義館8」で書きました。
>
>
>ここは正義館
>
>エピソード8.朝はまた来る
>
>
>
>
> パラリラパラリラパラリラパラリラ………
> どこか懐古的なサウンドを鳴らして男は気持ち良くベイ・ブリッジを疾走していた。
> その髪型はかなり大きめのアフロヘア。そのアフロヘアには小さなライトの飾りがたくさん飾られていて、季節はずれのクリスマスツリーのようになっている。
> 横浜のヤンキー界ではこのアフロツリーヘアが大流行しているのだ。
> ちらりと後ろに視線を馳せれば、二台のバイク。彼の下っ端である。当然ながら彼らも同じようなアフロツリーヘアである。
> そして、彼のバックシートには先日やっと手に入れた彼女が乗っている。もちろん彼女もアフロツリーでピンクのライトが可愛らしい。
> 「ねえ!」
> 後ろの彼女が少し顔を出して叫んだ。もっともその姿は視界の端にピンクのライトが少し見える程度なのだが、男も当然ノーヘルなので声は一応届く。
> 「ん?なんだぁ?」
> 「あれ、何!?」
> 「あれって何だよ。」
> 「あんなところに人が立ってるわ!」
> 「はぁ?何言ってんだ、お前。ここは通行人は禁止だぞ。」
> 笑いながら後ろの彼女をあしらうが、彼女は片手で後ろからある方向を指さす。
> 「あそこ!制服の女!」
> 言われてその方向に目をこらすと。
> 確かにセーラー服の女が三人立っている。
> ベイブリッジの橋をささえる鉄線の上に。
> 「なんだぁ?自殺かぁ!?」
> どーやってあんなところまで上ったのかもわからないが、どんどん女との距離が近づいてきてその様子がわかる。
> 女たちは髪を浜風に揺らし、まっすぐこちらを見つめている。
> まさか、このバイク団で自殺するつもりなんじゃ……
> 胸によぎった一抹の不安を決定付けるように、女たちはばっ!と鉄線からその足を離し宙に浮いた。
> 「きゃあああっ!落ちるわっ!ブレーキかけて!轢いちゃうわよ!」
> 後ろの彼女の叫びに男は、スカートが風になびいて中身が見えそうだなどと緊張感のないことを一瞬考えていたのだが、慌ててブレーキをかける。
> 急にブレーキをかけたためバランスを崩して倒れそうになる。
> まずいっ!事故る!
> 後ろから爆進している下っ端に轢かれてカエルのように踏み潰された自分と彼女の図が頭に浮かぶ。
> だが―――――
> 「危ないわね。へったくそな運転してんじゃないわよ。せっかくのバイクが泣くわよ。」
> 妙に緊張感のない声が聞こえたかと思うと男の体はリナの空中蹴りに宙に舞っていた。
>   
>
> 「リナさぁぁぁぁん。いつもこんなことしているんですかぁ?」
> 転がっているアフロクリスマスツリーの残骸三つと横で泣いている女の子を遠く後ろ目に眺めながらアメリアは言った。
> 「そーよ。あのスリルがたまんないのよねぇ♪気持ち良かったでしょ?」
> 「確かに空中から飛び蹴りして疾走するバイクの運転手を落とす時のドライバーの表情はなんとも言えないものがあるわね。」
> ごくへーぜんと答えるミリーナ。もちろんのことミリーナもアメリアもリナと同じように下っ端のアフロを蹴り落としてバイクを奪ったのは言うまでもない。
> 「でも、一歩間違えれば危ないですよぉ。一応ヤンキーさんにも人権があるんですから…」
> 「アフロツリーに人権はないわっ!あんっなくそだっさい集団早く撲滅させなきゃ、子供の目に毒よ。これだから横浜なんてダサいのよ。」
> ちなみに大阪では通天閣ヘアが流行っているのだがそれはおいとくとして。
>「で、今どこに向かってるの?」
>「横浜倉庫の方よ。このまま飛ばせばすぐ着くわ。ちょうどいいところにアフロ通りかかってよかったわ。」
> ミリーナの問いにリナは機嫌よさそうに答える。夜の風に髪の毛とスカートをなびかせて疾走するのはリナの趣味なのである。
>「そう……。
> ところで気になっていたんだけど、ゼルガディスさんはどうしたの?」
> 今度は隣に走っていたアメリアに向かって問い掛けるミリーナ。
>「ゼルガディスさんは……ミオさんの部屋で変な黒髪の男を見つけて、追いかけていったきりで……わたしは残ってそのまま調べるように言われたんでその後どこに行ったかはわかりません。」
>「アメリアの言ってる黒髪の男って、さらさらの長髪の背の高い男?」
>「ええ。そーですが……
> リナさんたち知ってるんですか?」
>「あんたとゼルが行った後、一戦交えたのよ。さっきのダーク・ミストの中に現れた男と同一人物よ。ガウリイの言うことが正しければ国際軍の暗殺者だそーよ。まぁ、めっちゃくちゃ強かったわ。」
>「国際軍!!?
> ……なんでそんなものが動いてるんです?」
>「さあね。
> ま、とにかくあたしたちのすべきことは、ナビオをさっさと保護してあの屋敷に戻ってご飯食べることよ。
> ……見えてきたわね。一気に行くわよ。着いてきて。」
> リナが表情を真剣な顔に戻すと同時にアメリアもミリーナも固唾を飲んで、前方、つまり横浜倉庫を見据えたのだった。
>
>
>
> 「どういうことなんだ。ゼロス。これもお前の差し金か?」
> カチッカチッと旧式のライターを何度かいじりながら、やがてほどなく点いた火に煙草を近づけてゼロスはそのセリフの主に向き合った。
> 「これ、とは―――――?」
> 「あの暗殺者とお前は知り合いじゃないとは言わせないぞ。」
> 「まあ。知ってはいますよ。顔くらいは。」
> ゼロスは本当のことを言った。そう顔くらいは知っている。
> ミオの部屋に張りついていた黒髪の暗殺者を追って、屋敷の周りを巡っているうちに、何故か屋敷の側で車を停めているゼロスと出くわし、ゼルガディスは驚いた。
> だが、それ以上に驚いたのは、その男がゼロスを見た瞬間逃げるように去っていったことだった。
> 「貴様―――――
> 何を企んでいる?あいつは一体誰だ?ただ者じゃないことは俺でもわかるぞ。」
> まるで無関心なゼロスの様子にいらだちながらも平静を装ってゼルガディスは言った。
> 「今回は僕は特に何も――――
> もし企んでいるとしても、聞いたところでどうするおつもりです?あなたに何ができますか?それに。もし万が一企んでいるとしてもあなたに答える義理はありません。」
> いけしゃあしゃあと言い放つゼロス。もちろんいつもの笑みを顔に貼り付けて。
> 「義務は―――――あるはずだろう。獣神官ゼロス。」
> ゼルガディスの言葉に、ゼロスはほんの少し口の端に笑みを浮かべる。
> 「ほう――――?どういう義務です?」
> 「しらばっくれるのは構わんが。
> そういう態度を取って、俺がいつまでも黙っていると思うなよ。」
> 「どうぞ。御自由に。
> しかし、そうなると僕もいつまでも遊んでいられなくなりますがねえ。」
> 「……!」
> 急に全身が泡立ったかと思うと目の前にいたゼロスの姿が瞬時に消えた。火が点いたままの煙草が地面に転がる。夜の風に流される白い煙。
> そして。
> 「忘れてるんじゃないですか?僕は魔族なんですよ。」
> ふとゼルガディスの耳元でくすくす笑う声。
> 「ふざけるな!」
> ゼルガディスは小馬鹿にしたようなゼロスに叱咤する。
> 忘れるわけがない。忘れられるわけなどないのだ。
> いっそ忘れてしまえればどんなに楽だっただろう。彼らのように――――――
>「お前は俺に何がしたい……?ゼロス……」
> 虚空に投げかけた疑問にゼロスは、
>「まだ気づかないんですか……?案外あなたは鈍いですね。」
> 意外そうな声を出して、ひょこっとゼルガディスの肩に手を置く。
> と言っても目に見えているのはゼロスの腕だけであるが。
> 肩の上の明らかに人の体温ではない感触にゼルガディスはなぜだかわからない恐怖心にあおられる。だが、その心を見透かされないよう、心に盾を持って言葉を発した。
>「からかっているようにしか見えないが?」
> その言葉にゼロスはひょこっとゼルガディスの顔を白い手で挟み、覗き込むよう顔を夜の闇から出現させて、
>「正解です。からかっているだけです。」
> にっこりと微笑んで、そのまま顔を近づける。
>「……貴様……!」
> 思わず手を出してゼロスの顔を押しやろうとするゼルガディス。だがその手は虚空を凪いだだけだった。ゼロスの体は精神世界に重点をおいているため、幽霊のような状態なのだ。
> 視覚でしかとらえられない完全な嫌がらせの口付けにゼルガディスは憤りを覚え、ちからある言葉を発動しようとする。どうせ当たるはずもないのはわかりきっていたがそれでもそうせずにはいられなかった。
>「崩霊裂(ラ・ティルト)!」
> そう来るのは予想済みだったのだろう。ゼロスは軽く手を一閃して青い光を霧散させた。
>「戦う相手を間違えているんじゃないですか?」
>「間違えてはいない。俺の敵は最初から貴様だけだ。」
>「正気ですか?この僕を倒そうとおっしゃるのですか?」
>「―――――ああ。」
> いずれ、な。
> と心の中で付け加えて、ゼルガディスはすっとゼロスに背中を向ける。
> 今は確かにゼロスと遊んでいる暇はない。
> ゼルガディスは、天王寺家に響く爆音の方へと駆け出した。
>
>
>
> いつの時代も世の中も変わりなく存在するものはある。
> そんなもののひとつに上げられるのが、ちょっと目つきの悪いいかにも頭の弱そうな男どもの集団、すなわち今リナ達の目の前にいるヤンキーであった。
> 横浜港の名もない倉庫前は、ヤンキーと呼ばれる学生達がバイクを乗りまわす格好のたまり場となっていた。
> 借り物のバイクで駆けてきたリナ達はそのヤンキー達のど真ん中に停車し、リナはそのままそのへんでしゃがみこんでいたヤンキーの一人に話し掛けたのだ。
>「よお、こんなところになんの用だ?名門のS高のお嬢チャンがよぉ。」
>「渡瀬いる?呼んで。」
> 絡んでくる男達を無視してリナは言った。
>「あ?なんだぁ?いきなり現れてボス呼べたあ、何様のつもりだ?」
> かなりらりってる目をしたヤンキーAがリナの肩に馴れ馴れしく手を置いて話し掛けてくる。リナはしばらく黙っていたかと思うと、その手をぐっ!とつかみ、ぎりっとひねり倒して、
>「リナ・インバース様よ。あんたみたいな下っ端はあたしの顔も見たことないでしょーけど。」
>「いててててっっ!なにしやがる………って……り、り、り、り、リナ・インバースぅぅぅぅぅっっ!!ひっっ……!ご、ご無礼をっっ!た、た、た、ただいま上の者を呼んで参りますので……おいっ!お前っ!今すぐ呼んでこいっ!こ、この方は、あのリナ・インバース様だぞっ!」
> ヤンキーAは震えながら、隣にいた間違い探しに出てきそーなくらいそっくりなヤンキーBに叫ぶ。
> 言われてヤンキーBも、化け物でも見たかのようにリナを眺めると、我に返って一気に後ろにたまっている集団に向かって駆けていく。
> 当然のように見届けてリナはヤンキーAから手を離す。
> その様子をリナの後ろから黙って見ていたアメリアとミリーナは改めて、リナには逆らわないでおこうと心に決めたのだったが、そんなことはおかまいなしに、
>「?何ぼけーっとつったってんの?行くわよ。」
> ちらりと後ろを振り返ってすたすたとヤンキーの群れに歩み寄る。
> 彼女が群れの中を歩くと、ざわざわっとまるで波が別れるかのようにヤンキー達が両側に引いて道ができる。
>「リナさん……なんか慣れてますね……」
>「……そうね……」
> その後にアメリアとミリーナは内心少しびくつきながらもついていく。
> そして、群れの一番奥に、おそらくボスと思われる男が座っていた。全身を包帯でぐるぐる巻きされていて、なんだかえらく痛々しい。
> 「あっれ?どうしたの渡瀬。怪我ぁ?」
> 「ぼ、ボスはただいま留守にしていますのでこの西条が代わりに用件をお聞きします…」
> 情けないほどに震えながら、リナに話し掛ける。包帯で顔も見えないが表情は容易に想像できた。
> 「あ、あんた渡瀬じゃないの。ったくこんな時に使えないわね。」
> 「ははははははは。今渡瀬番長お怪我で入院中ですので。」
> 「へえ?喧嘩負けたの?めずらしいわね。」
> 「いえ、飲み会で火を噴く芸をやられたんですが、いきなり御本人も炎上したんです。なんでもガソリンつかってたそうで。俺も巻沿い食らってこの通りです。」
> 「相っ変わらず馬鹿ねー。」
> リナは呆れた声を出して、
> 「で、なんだっけ、えっと西条だっけ。ま、そんなにびくつかなくても別にいきなり火炎球(ファイアー・ボール)かましたりしないわよ。」
> 昼間実際にかましたことはすっかり忘れているのかリナはそのまま続ける。
> 「それより――――
> ちょっと聞きたいんだけど、横浜一体をメインにしてる割と大き目な組織ってどこ?
> コンピューター使ってるみたいだから、馬鹿組織じゃあないと思うんだけど。心当たりある?」
> 「コンピューターっすか……それなら多分『愚連隊』じゃないですか?横浜じゃあ結構はばきかせてる新手の組織です。」
> 「それ、どこにあるの?」
> 「ええっと……ここからそんなに遠くないですよ。よかったらお連れしましょうか?」
> 「助かるわ。
> あ。念のために聞いておくけど、それ以外になんかめぼしい集団はない?そこ、金さえ払えばなんでもするみたいなんだけど。」
> 「まず間違いないっすね。愚連隊ですよ、その金でなんでもするっての。
> でも、三人だけで乗り込むつもりなんすか?」
> 「そーよ。」
> おそるおそる聞いた包帯男の質問にリナはごくへーぜんと答える。
> 「気をつけた方が良いっすよ。あそこはマジやばいです。持ってますから。」
> 「………そう。ありがと。気をつけるわ、一応。んじゃ案内お願いできる?あたし達勝手についてくから。」
> 「はい。
> おい、お前等!このお方達を愚連隊のところまでおつれしろ。
> くれぐれも粗相のないようにな!横浜の裏番長様だ。」
> 「り、了解でさぁーっ!」
> 西条とやらが言った台詞に、そばにいた子分Aは飛び上がるように答えた。
> よ、横浜の裏番………
> 横浜に来て、たった半年でそう呼ばれているリナをアメリアとミリーナも度肝を抜かれた気分で見つめながらもう一度かたく心に誓ったのだった。
> リナには絶対に逆らわないでおこう、と。
>
>
> 「ここです。」
> 子分達の案内で横浜倉庫からバイクを飛ばすこと十分。
> リナ達が案内されたのはさっきとうって変わった近代的なビルであった。この時間になっても電気がまだついている。
> 「へえ……ヤンキーにしたらハイテクじゃない?やるわねぇ」
> 「単なるヤンキーじゃないですよ。ここは。一歩間違えれば犯罪組織です。」
> リナのもらした感嘆のつぶやきに、子分Bは顔色を曇らせて言った。
> 「確かに、誘拐の手伝いする時点でもー立派な犯罪組織ね。さて、と。
> あんたたち、ごくろーさん。もう帰って良いわよ。渡瀬によろしく言っといて。」
> 「ほんとに三人だけでいかれるんですか?俺達も……」
> 「いーのいーの。気持ちだけもらっとくわ。」
> 足手まといになるからさっさと帰って欲しいのが本音だが、好意は受けておくのがリナの礼儀だった。
> 「案内ありがとう。」
> 「正義のために共にがんばりましょう!」
> 去っていく子分達をミリーナとアメリアが見送った後。
> 「どうやって潜入するの?相手もあんまりなめちゃいけない相手みたいだし、このビルはセキュリティはきびしそうに見えるわよ。」
> ミリーナの言葉にリナは当たり前のように言い返す。
> 「決まってんじゃない。セキュリティが甘かろうがなんだろーが、あたし達はここをぶっ潰しに来てるんだから、答えは一つよ。」
> 「ナビオさん救出じゃないんですかぁ……?」
> 「こんな危ない組織、放っておくわけにはいかないでしょ?とりあえずナビオ救出を先んして、その後もう悪事をする気が起こらないくらいけちょんけちょんにやっつけてしまうのが一番よ。」
> アメリアの質問にリナは当然のごとく答えて、呪文を詠唱し始める。
> それにしたがってミリーナ達も呪文をそれぞれ詠唱する。
> 「振動弾(ダム・ブラス)!」
> どん!
> リナの呪文は思いっきりそのビルの入り口を破壊する。
> 『翔封界(レイ・ウィング)!』
> ミリーナとアメリアの唱えた呪文で、一気にビルの最上階まで昇る三人。先ほどの呪文はもちろんカモフラージュである。
> 「馬鹿は一番上にいるっていうお決まり通りだと良いんだけど……」
> そう呟いた後、リナは呪文でビルの窓を破壊してそのまま潜入する。
> 急に割れた窓ガラスから三人の制服の少女がやってきて、室内にいた黒いスーツの男はいきなり銃を構える。
> 「なんだ、貴様ら!?」
> 「名乗るほどのもんじゃないわよ!」
> ごがっ!
> 翔封界(レイ・ウィング)の勢いに乗ってそのまま男の顔面に蹴りを入れるリナ。
> そして、バランスを崩す男にミリーナの呪文が直撃する!
> 「地霊咆雷陣(アークブラス)!」
> ばちっ!
> 電気の帯が男を捕らえて黒いスーツの男はたまらず床に転がる。
> 動けなくなった男に、リナは彼の持っていた銃を喉元にあてて、
> 「別府ナビオを知ってるわね?命が惜しいならどこにいるか言いなさい。」
> 「………この部屋を出て廊下をまっすぐ行った突き当たりだ……!」
> あっさりと吐く男を投げ捨てて、リナ達は再び呪文を唱え、剣を構えながら廊下に躍り出る。
> 途端に襲い掛かってくる男たち。その数ざっと十人。
> だがそれは予想済みっ!
> 「魔風(ディムウィン)!」
> アメリアの放った呪文にたたらを踏む男たち。銃の弾はあらぬ方向へと飛ばされる。
> 「螺光衝霊弾(フェルザレ−ド)!」
> 「烈閃槍(エルメキア・ランス)!」
> そのすきにリナとミリーナの呪文が次々と男たちを倒していく。
> 銃を引き抜こうとする男にアメリアの霊王結魔弾つきパンチが炸裂する!
> 「銃なんて卑怯です!拳で戦いなさい!平和主義者くらっしゅ!」
> 「銃ってのはねえ!こーやって使うのよ!」
> パンパンパンパン!
> リナに足元に銃をぶちかまされて、男達は踊るように飛び上がる。
> そこへミリーナの呪文が炸裂する!
> 「地霊咆雷陣(アーク・ブラス)!」
> 一斉に倒れる男達。
> その男たちを見て逃げ腰になっていた別の男の背中にミリーナはナイフを投げつける!
> 「はっ!あんたたち数そろえるのはいいけど―――」
> ざすっ!
> リナの短剣がまた一人チンピラ風味の男の腹を薙ぐ!
> 「全然足りないわよ!前菜は良いから肉持ってきなさいよ!」
> 三分にも満たない間に勝負はあっさりついていた。
>
>
>
>
> 「ルーク、上だっ!」
> ガウリイの叫びにルークはとっさにからだをひねる。
> その直後にさっきまでルークのいた所に穴が空く。
> 「あ、あぶねぇ……」
> 本日何度目かになる呟きをルークはもらした。
> 既にレオハルト配下の警備員たちはとっくに倒され、立っている者はガウリイとルークとミオ。そして、地霊咆雷陣で動けなくしてあるレオハルトだけだった。
> 黒髪の暗殺者は立っていないわけではないのだが、彼はともすれば気配が消え、先ほどのように上から攻撃してきたりするので立っているという言葉は語弊がある。
> 彼はいつも動いているのだ。
> 「こいつ……本当に人間なのかよ……」
> 気配が全く読めないルークはげんなりとした口調で呟く。
> 「国際軍は、人間離れしてる人間しか雇わないからな。国際軍の暗殺者集団の典型的な動き方だ。オレ、一回試合したことある。」
> 「勝てたか?」
> 「覚えてない。」
> 「だよな……」
> ガウリイの記憶力に期待した自分が愚かだった。
> そんなことを考えながらもルークは再び剣を構える。気配は読めないがいつかかってきても良い対処をしていないと命がいくつあっても足りなさそうだ。
> ルーク達の結構すぐ側にはコックが作った料理がいくつか並んでいたりするのだが、とてもじゃないがそれをつまみ食いするのを暗殺者は許してくれそうにもなかった。
> 「なんで、私の命をねらっているんでしょうか……」
> 「さあな。あんたの叔父の命令ってわけではなさそーだし、別件でなんかあんたうらまれるよーなことしたのか?」
> すぐ後ろのミオの掠れた呟きにルークは回りに警戒しながらも言う。
> とりあえず、ガウリイとルークの後方に下がってミオは見物をしているのだが、黒髪の暗殺者は彼女よりも先にガウリイとルークをねらって攻撃してきた。
> おそらくどのみち彼らも一緒に倒す予定なのだろう。先に彼らを倒して、ミオを殺す方が効率が良い。そう思ってなのか、後方に下がっているミオを上から攻撃することはなかった。
> 「人に怨まれる覚えなんて………」
> 「ないよな。ま、ふつーは…」
> 「ありすぎてわかりません。」
> 「あんのかぁぁぁぁっっ!?あんた普段どーいう生活送ったらこんな質の悪いのにつけねらわれるよーになるんだよっ!?」
> 「質の悪いのにいつも関わってるオレ達もどーかと思うけど…」
> ガウリイの呟きにルークは一瞬言葉に詰まったが、それは考えないようにしたのか、
> 「それにしたって、よりによって国際軍の暗殺者にねらわれるこたぁねーだろうに…
> ま、あんたに聞いても事情はわかりそーにねーな。
> ―――――おい、あんた!話聞いてんだろ!?
> なんでミオを狙うのか理由くらい聞かせてくれたっていーんじゃねーか!?」
> 相変わらず姿が見えない暗殺者に向かって話し掛ける。しかし返答はない。逃げたわけではないだろうがこうも音沙汰なしで時々思い出したように攻撃してくるのは不気味であった。
> 「また、水竜巻がいきなり来たりしねーだろーな……」
> 返答もない静まり返った厨房で、ルークは不吉なことを口にする。
> 「いや、それはないだろ。」
> しかし、ガウリイはいともあっさりその言葉を否定した。
> 「なんで?」
> 「いやぁ、あいつどーやら水専門の暗殺者みたいだから。国際軍の暗殺者にもなんか色々専門の得意分野ってのがあるんだよ。あいつ、どーみても海軍崩れだし、ここは水場が遠いから、多分大丈夫だろ。」
> 「なんでそんなことわかるんだ?」
> 「なんとなく。匂いが違う。」
> 「ほ。野生のカンか。ま、あんたがそーいうなら安心だけどよ。」
> なんだかんだでガウリイの野生のカンが外れたのをルークは今まで見たことがない。
> 普段ぽーっとしているが、こと戦闘に関してはガウリイは超一流の戦士なのはルークも認めていた。
> 「それに―――――
> できるならこの屋敷は今ごろ吹っ飛ばされてるだろう。」
> 国際軍の暗殺者は、たとえ素人相手でも玄人相手でも手を抜くということがない。本気で殺す気があるならどんな手段でもどんな状況でも本気で相手を殺す。そして、無駄な遊びは一切しないのが彼らの特徴であった。
> 例外は一切なく、彼らはいつも仕事は必ず遂行する。
> だからこそ、その知名度が世間に知られているのだ。
> 国際軍の暗殺者に狙われた者に明日はない―――
> その言葉は伊達ではないのだ。
> かと言ってミオやおそらくもはや標的となっているだろうルーク達はあっさりとあきらめられるものではないのだが。
> 「でも気になるのが、なんでミオか。だな。」
> 「ああ。やつらは絶対に暗殺者しか殺さない。オレ達をも狙ってくるところもやっぱりわからない。普通は殺しの依頼のあった人間しか狙わないんだ。」
> ルークの言葉にガウリイが頷く。わからないのがそこだった。ガウリイの知る限り、例外というものがない国際軍の暗殺者集団なだけに、何故、性格はともかく普通の警官にすぎないミオを狙うのか、そして今なぜガウリイやルークにまで攻撃してくるのかがわからなかった。
> 「一応聞いておくけど、あんた、実は副業に暗殺者してるとか言わないだろうな?」
> 「副業は色々抱えてるけど、暗殺者なんてハードボイルドで明るさ満点の良いお仕事はあいにくしたことがないです。」
> 「明るいかぁ?あいつ……根暗っぽいけどなぁ…全然話さないし。」
> ミオの答えにガウリイに怪訝な顔をする。
> その途端、視界の隅に動く影!そして、ガウリイに迫る衝撃波!
> ガウリイはいとも簡単にその衝撃波を光の剣で斬った。
> 衝撃波は思った通り、水である。斬られて力を失った水があたりに散らばる。
> 「悪口に気ぃ悪くしたみてーだなっ!」
> 「……ルーク、気をつけろ…!これは、猛毒だ!」
> ルークの軽口に、しかしガウリイは真剣な声で返す。おそらく浴びたら一たまりもない猛毒なのだろう。大量の水が手に入らないため、そーいう手でくるようである。
> 「……やっぱり根暗だな。暗い手使ってきやがるぜ。ゼルガディスあたりもやりそーだけど。」
> 「誰が根暗だって?」
> 唐突に響いた声はルークの後ろからだった。
> 暗殺者のものではない聞き覚えのある声に、おそるおそる振り返ったルークの視線の先には予想通りの人物。
> 「よ、よぉ……今まで何してたんだ?あんた……」
> 「色々な。そっちこそえらく手間取ってるじゃないか。」
> 剣を構えたままで厨房のドアをぱたんと閉めてゼルガディスは警戒しながらもルーク達に近づいてくる。
> ゼルガディスはちらりと倒れているレオハルトを横目で眺めて、
> 「おい、あんた。念のために聞いておくが、ミオを暗殺するように誰かに頼んだか?」
> 「頼むわけないだろう……ミオはうちに絶対必要な存在だ……ABコーポレーションと提携できれば我が社に敵はいなくなるんだ。それこそ日本どころか世界を動かせるチャンスなのに、誰がそんな馬鹿な真似をするか。」
> 脅えて口が聞けないのかと思われていた叔父はゼルガディスの問いに半ば笑って返した。
> 「なるほどな。んじゃ、他の会社の奴等にとってはミオは邪魔でしょうがない存在ということになるな。」
> 「ってことは何だ?ミオを狙ってんのはどっかの敵会社ってことか?」
> 「そういうことになるな。だが、国際軍の暗殺者を雇えるような敵会社なんて、思い当たるか?」
> 「そんなはずはない。国際軍の暗殺者などそもそもいくら金を積んでも、民間企業が雇えるものじゃないんだ。」
> レオハルトの言う通りだった。国際軍の暗殺者が動くのは、国際警察にも手におえない暗殺者が現れた場合のみ。
> 「だとしたら――――
> あの男の雇い主は誰だと思う?」
> 「あ!まさか……!」
> ゼルガディスの呟きにルークとレオハルトが顔をあげる。一方全くわかってないガウリイとミオ。
> あたりを包んだ妙な沈黙の末、ルークが疑問を口に出す。
> 「国際警察か、あるいは国際軍自身―――――?」
> 「そんな馬鹿な話があるんですか?なんで一般人を守るための軍が一般企業のイザコザに口出しするんです!?」
> ルークの呟きにミオが反論する。
> 「推論だが、な。でもつじつまはあう。
> 国際軍とはいえ実質やってることは企業みたいなもんだ。軍の武器だってタダでもらってるわけじゃない。ちゃんと買って購入してる。もし、天王寺グループとABコーポレーションが手を組んで世界を揺るがすような一大武器メーカーができてしまったら―――
> 困るのは誰だ?」
>「他の武器会社じゃないんですか?」
>「それもだが、一番困るのは国際軍だ。あそこでは世界最高で最新の武器しか使わない。この両者が手を組めば間違いなく国際軍はこの両者からしか武器が買えなくなる。すると、どういうことになるかわかるか?
> 天王寺グループとABコーポレーションが国際軍を裏で牛耳る可能性だって出てくるんだ。」
> ミオの問いにゼルガディスは淡々と告げる。
> 「早い話が――――
> 国際軍が武器面で一企業に頼りきりって事態が恐ろしいから、その可能性は今のうちに抹殺しよーってこったな。
> それで暗殺者まで呼んでくるんだから……。
> はっ!……どこの国の政府もやること汚ねえーよな。健全な市民の金で食ってるくせに、市民を抹殺しよーなんて最低だな。」
> ルークは、暗殺者にわざと聞かせるかのように大きな声で言った。
> 話をずっと黙って聞いていたガウリイは、ぽつりと、
> 「………んじゃ、つまりオレ達は政府の敵ってことか?」
> シンプルで的を得た結論を言った。
> その一言に青ざめる一同。
> 「あまり考えたくはないが……ま、ひらたく言うとそういうことになるな。」
> ゼルガディスが半ばヤケクソ気味に言うと、
> 「……たかが飯食うのになんで政府と喧嘩しなきゃなんねーんだろう……」
> 遠い目をするルーク。
> 「ま、なんにしろ。オレ達が今しなきゃなんないことは、ここをなんとか切り抜けるしかないだろう。」
> ガウリイのセリフに一同はとりあえずうなずいて、今だ沈黙を続けている黒髪の暗殺者に気配を集中する。
> それから後はどうなってしまうのか、は誰も考える気力はなかった。
> 空腹で考えられなかったと言った方が正しいのかもしれないが―――――
>
>
>
> 「みぃぃぃぃぃぃおぉぉおおおぉぉぉぉぉっ!今いくからなぁぁぁっ!!」
> 「あああああっ!うるさいっ!耳元で騒ぐな!暴れるな!泣くな!」
> 夜中も結構な夜中。
> 疾走するバイクの音と男の泣き叫ぶ声が横浜に響く。
> なんだかんだで。
> あっさりナビオを救出した後、愚連隊とかいう名前の通り、銃しか持ってない馬鹿組織のあったあたりに竜破斬(ドラグ・スレイブ)ぶちかまして復帰不可能にしたリナ達一行は、ナビオを連れてミオの屋敷に向かっていた。
> 「恋人が恋人だからマトモな人だとは思ってなかったけど……」
> 「っていうかこの話にマトモな人物を期待していたわたしが悪でした……」
> リナの背中で、エルボーを食らわせれ、ひい!とか、おへえ!とか、あちょ!とかわけのわからん奇声を発しつつ涙ながらにミオの名を呼ぶナビオを横目にため息をつくミリーナとアメリア。
> そもそも、別府ナビオは囚われている時点からおかしかった。
> 黒服の男が言ったつきあたりの部屋にたどりついたリナ達が最初に見たものは。
> あひるの毛布にくるまって、キティちゃんの抱き枕に巻き付きながらやすらかに眠っているナビオだった。
> 一瞬、既に遅かったのかと、焦って彼を揺さぶったリナたちに返ってきた返答は。
> 「お母さんは泣いているぅぅっっっ!!!」
> そんな、微笑ましい寝言が彼の第一声だった。
> その後リナがナビオを張り倒し、ミリーナが蹴りを入れ、アメリアがパンチを食らわせすというしごく当然の反応をして、嫌がるナビオを問答無用でビルから連れ出し、事情を話せばこれである。
> 「愛してるんだ、ミオぉぉおおぉぉおぉおっっ!!なのに何故君は僕をおいて先に逝ってしまうというんだぁぁぁっっ!!僕はっ!僕はっ!まだ君に言ってないことがあるのにぃいいいっぃっぃぃっ!」
> 「まだ死んでないわよ、ボケ!もーーあんた、捨ててくわよ!?その口には閉じる機能はないの!?」
> 「ああああっ。せめて僕の会心の出来だった、この歌を君にきかせてやりたかったぁぁっ!!ああ、ミオ!せめて天国で聞いてくれ!」
> 「だから死んでないってば!ってあんたの職業って確か、木こりじゃなかったっけ!?歌手だったの?」
> 「♪と〜れとっれ ぴ〜ちぴっち カニ料理〜」
> おそらく聴覚というものがないのだろう。ナビオはリナの言葉はまったく無視して死んだ恋人にささげる歌を熱唱する。
> 「カニ……カニ……カニ……」
> その歌に何を刺激されたのかミリーナが夜空に輝く星を見ながら虚空に手を伸ばす。
> 「ああっ!ミリーナさんっ!しっかりしてください!幻覚ですぅっ!カニなんていませんよ!ほら、前向かないと危ないです!」
> しかし、ミリーナは何やらうっとりした瞳で虚空を見つめるだけ。
> 「空腹に耐え兼ねてるみたいね……っていうか、ほんとお腹すいたわね……
> ちゃんとルークのやつ、あの料理守ってるんでしょーね……」
> もう何を言っても無駄と悟ってか、リナが誰にともなしに呟く。
> 昨日の晩から丸一日、何も食べてないのである。そして徹夜の上にこの騒動。疲れるのは当たり前である。
> 「リナさんっ!その人、黙らせてください!そろそろです!」
> 「おーけい。」
> ミオの屋敷に近づいてきてリナはごがっ!とナビオの頭に肘鉄を食らわせ失神させる。
> すこし、だくだく流血してたような気もするがもうそんなことを気にできるほどの余裕はリナにはない。
> 「さて、と。ミリーナ、正気に戻った?行くわよ。ご飯があたしを待っているわ!」
> 天王寺家から少し離れた場所にバイクを乗り捨てて、リナ達はまたそれぞれ呪文を唱え出す。その瞳に宿る異常な生気に、通りすがった猫がびくついて逃げていくがそんなことはおかまいなしである。
> そして、本日何度目かもうわからない呪文は同時に完成する。
> 『翔封界(レイ・ウィング)!』
>
>
>
> ぱりぃぃぃぃん!
> ド派手なガラス音が響いたかと思うと。
> 「ごはんんんんんんんんんん!!!!!!!」
> ものすごい喧燥と共に一気に厨房にリナが突進してきた。
> 続いてアメリアとミリーナ。そのついでに引きずられてだくだく流血している男が一名厨房に入ってくる。
> 「あたしのご飯は!?」
> 瞳に満点の星を浮かべて問うリナにそこにいた男達はがっくりとうなだれた。
> 「食いたきゃ食えば?その隙に殺されてーならな。」
> ルークの投げやりな答えにリナは目を丸くする。
> 「へっ……ってまさか……ま〜だ戦ってんの!?」
> ばっと警戒の体勢を取って、男たちをののしるリナに、ゼルガディスは不機嫌な声で、
> 「好きで戦ってるんじゃない!」
> 「ま、そーいうことだから、悪いな。リナ。もーちょい我慢してくれ。」
> ガウリイのあっけらかんとしたセリフにリナはきっ!と男達を見据え、
> 「そーいうことってどーいうことよっ!たかが男一人倒すのに大の男が三人がかりでまだ倒せないですって?はっ!情けないと思わないの!?」
> 「ならお前が倒してみるがいい。」
> その答えに答えたのは―――――
> 厨房の料理の側。つまりリナのすぐ横にふいに現れた黒髪の暗殺者だった。
> 「なっ……!」
> ふいに横を取られてリナは身構える。
> 引くか、かかっていくか。
> 一瞬迷った後、思い切って暗殺者に体当たりをぶちかます!
> 少しバランスを崩した暗殺者はすぐさま元の体勢に戻ってリナに向かって衝撃波を放つ!
> 「リナ!気をつけろ!やつは毒を使う!」
> そーいうことは先に言わんかい!
> 心の中で叫びながら、体を捻るリナ。
> だが、よけきれないのは確実だった。
> 「リナさんっ!よけてくださいっ!」
> ばしゅっ!
> しかし、かぶる覚悟でいた水の衝撃波は。
> いきなりリナと暗殺者の間に飛んできたフライパンに激突して、跳ね返る!
> 「…くっ……」
> 少し毒をかぶってしまったのか。
> 黒髪の暗殺者は一瞬ひるむと体を翻して逃げていく!
> こんな物騒なやつ、逃したら夜もおちおち寝られない!
> 「烈閃槍(エルメキア・ランス)!」
> ミリーナが放った烈閃槍(エルメキア・ランス)に背中を直撃されて、暗殺者はたまらずその場でたたらを踏む。普通なら立っていられるはずのない術である。人間であるなら、一ヶ月は寝込む術なのだが、それでも男はふらつきながらもまだ立っている。
> 「人間じゃないわね。」
> 「いや、人間だ。」
> リナの呟きに答えたのはガウリイだった。
> ずらりっと光の剣を構えて男に近づいていく。
> 「聞いていいか?あんた上の命令でこんなことしてたんだよな。」
> 「………」
> 男は答えない。
> 「今ここであんたを殺すのは簡単だ。けど――――例えそーしても、結局オレ達にはまた次の刺客がやってくる。そうだよな?」
> 「その通りだ。貴様も元軍人ならわかるだろう。貴様らは永遠に狙われる。目撃者はすべて抹殺する命令だからだ。」
> 今まで無口だった男は、最後の置き土産にと思ったのか呪いの言葉を紡いだ。
> 「ちょっと、冗談でしょ!?ずっと狙われるですって!?なんでよ!」
> 「こいつの雇い主が国際軍だからだ。」
> リナの問いにルークが答える。
> 「……どーいうことですかっ!?許せません!国民を守る軍が国民を暗殺しようとするなんて!」
> 「ミオの会社と見合い相手のABコーポレーションがくっついたら軍にとって都合悪いからだ。」
> ゼルガディスの短調な答えにアメリアは拳をぶるぶる震わせて、
> 「こんなこと許されることじゃありません!国に帰ってとーさんに報告します!」
> 「よせ。アメリア。そうするとお前は抹殺されるだけだ。上手く生き延びれても下手すりゃ今度は国家間の戦争になりかねない。」
> 「でも!」
> 「知らなかったことにするんだ。それしか方法がない。」
> 言われてアメリアは俯きながらゼルガディスを真剣に見詰めて、
> 「悪が行われてるって知って知らないフリするんですか………?」
> 「まだ、未遂だ。ミオはまだ殺されていない。そして、俺達も。」
> 言われて呆然と突っ立っているアメリアからゼルガディスはなんとなく視線を外して、
> 「ミオとABコーポレーション社の息子が結婚しなければ問題はすべて解決するんだ。
> 最初の依頼の通り、ミオとナビオはどこかに駆け落ちして見合いは破綻になる。レオハルトには聞きたいことは山ほどあるがそれは警察に任せるとして――――」
> ちらりと一瞥されて、レオハルトはびくっと体をびくつかせるが、ゼルガディスは視線をさらに厨房のドアの前にうずくまっている黒髪の男にはせる。
> 「問題は、あんただ。」
> ガウリイはぽつりと男に話し掛けた。
> 「天王寺グループはABコーポレーションとは提携しない。オレ達は何も見なかったことにする。  
>   だから、この件とはすっぱり手を引いてくれないか。」
> 「そんな要求を上に持って帰れと言うのか?この私に。」
> 自嘲気味に男は笑う。できるはずはない。名もない学生たちに敗れ、都合の良すぎる要求を飲むなど。
> 「お願いします。」
> ふと。
> ミオが真剣な瞳で男に話し掛けた。
> 「わたし、何も見なかった。何も話さないわ。だからもう放っておいてください。」
> 少し泣きそうになっている彼女の声にあたりは静まり返る。
> 「俺からも頼む。こいつら、何もしてねえんだから、もうそっとしておいてやれよ。何も見てねぇって言ってるんだから、よ。」
> ふいに顔を下げて言ったのは意外にもルークだった。
> 「私も何も言わないわ。暗殺者なんて知りません。」
> と、そっけなくミリーナ。
> リナもため息ついて頬をぽりぽりかきながらも、少し照れたように、
> 「あたしも見なかったことにしておいてあげても良いわよ。でも、その代わりなんか頂戴って言っておいて。迷惑料としてもらう権利はあると思うんだけど。」
> 「お前それは脅迫って言うぞ……」
> 「だって、本来罰されるべきなのは軍の方じゃない。それを大目に見てやるってんだから、ねえ?」
> ガウリイにつっこまれてリナは当たり前のように言う。
> 「で、残るは、アメリア。あんただけなんだけど、やっぱ国に報告しちゃう……?」
> おそるおそる聞いたリナの言葉に、アメリアは、しばらく何か葛藤しているようだったが。
> きっ!と暗殺者を指さして、
> 「この人は悪い人です!この人を雇った軍も!」
> 「……アメリアさん……」
> ミオはすがる瞳で彼女を見つめる。
> 「でも、今回だけは。ミオさんに免じて。国には報告しないことにします。」
> 少し決まりの悪そうに言うアメリアにミオの表情がぱっと明るくなる。
> 「でも!言っておきますが、わたしは忘れないですからね!あなたも軍も悪いものは悪いんです!反省してください!それでもし今度こんなことがあったらその時は絶対に許しません!」
> それだけ言うとアメリアはぷいっと顔を背けて何やらぶつぶつ言っている。
> 「そんなわけだから、聞いてくれないか?」
> ガウリイの言葉に沈黙していた男はふっと笑みをもらした。
> 「そんな要求聞けるわけがない。殺したければ殺すが良い。」
> 「オレ達は人殺しじゃない。」
> 「落ちぶれたもんだな、ガウリイ=ガブリエフ。」
> ガウリイのセリフに黒髪の暗殺者は呆れた声をだす。
> 「あんたが言わないで欲しいわね。何よ。ちょっと負けたからって子供みたいにすねちゃって。殺してくれなんてカッコ悪いセリフ吐くくらいなら自分で死ねば?」
> 「こらこら、リナ。お前、挑発してどーすんだっ!?」
> 「だってねえ!なんなのよ、こいつのこの態度!人がせっかく大目に見てやるって言ってんのに、カッコつけてばっかじゃないの!?」
> 「確かに、馬鹿ですね――――」
> ふと、厨房に流れた厭味なくらい優雅な声は。
> 「ゼロス!?あんた……今までどこにいたのよ!?」
> 相変わらず煙草をぷかぷかふかしているゼロスだった。もちろん無意味な笑顔もいつも通りである。
> 「ずっと外にいましたよ?あんまり遅いから迎えに来たんですが、お取り込み中みたいですね。」
> 「………ゼロスだと……!?」
> ゼロスのセリフに声を上げたのは黒髪の暗殺者だった。
> 「あんた……こんな暗い友達いるの?」
> 「いいえ。知り合いにはもっと暗い方もいらっしゃいますがお友達ではないですよ。初めてお見受けしますが、僕は彼らの担当指導員のゼロスといいます。」
> その場にそぐわない優美な様子でいけしゃあしゃあと一礼するゼロス。
> 「あんたがこのふざけた連中の親玉ってわけか……なるほどな。」
> 「ちょっと、誤った認識しないでくれる!?親分はあたし!他は子分!」
> 黒髪の暗殺者の言葉に間髪入れずツッコミ入れるリナとジト目で見つめる他五名。
> だがそんなやりとりはまるで眼中にない男は何かをしばらく考えて、ぽつりと言った。
> 「わかった。さっきの要求。飲もう。」
> 「マジ!?」
> 「ほんとですか!?」
> 半信半疑で聞くリナとうれしそうに叫ぶミオ。
> 「お前の言った迷惑料は無理だがな。」
> あっさりと言われてがっくりするリナに当たり前かのようにうなずくガウリイ。
> 「どうもありがとうございます。」
> うやうやしく礼をして、ゼロスはにっこりと微笑んだ。
> そのゼロスの言葉は無視して、男は身を翻して歩いていく。
> 「あ。ちょっとあんた!待ちなさいよ!名前くらい言っていかんかい!」
> 「お前等に名前を教えると証拠になる。」
> 「あっそ……」
> あっさりかわされリナはひらひらと手を振る。
> 「もう現れんなよ……」
> 「ちゃんと上に伝えろよ……」
> ルークとガウリイの呟きを背に、男は毒を浴びているにも関わらずしっかりした足取りで歩いていく。
> そして。
> 名前が結局わからずじまいだった黒髪の暗殺者は、天王寺家を出ていったのだった。
>
>
>
>
>
>
> 「じゃ、元気でね。」
> 真夜中どころか結局夜が明けて。
> 朝もやの霧につつまれながら、リナ達はミオと意識が戻ったナビオを見送っていた。
> 場所はもちろん、汽笛が響く横浜港である。
> そう。彼らは本気で駆け落ちしてしまうのだ。
> レオハルトは、もう駆け落ちなどしなくて良いと言ったのだが、彼らは新しくやりなおすために(何をかは謎だが)、駆け落ちを断行すると言い張ったのだ。
> かく言うレオハルトは、リナ達一同にロープでぐるぐる巻きにされて、朝一でこのあと警察送りの予定なのだが。
> まあ、最初の依頼は「駆け落ち」だし、当主が捕まったあとの天王寺グループのことなど知ったこっちゃないし、口出しする義務も義理もないので止めはしなかったのだ。
> 「これ……報酬の食費です。ほんとうにありがとうございました。オートボウガンでうたれた恨みはありますが、あなた達にはなんとお礼を言っていいのかわからないので思わず全員に回転レシーブしたくなります……」
> 「あ。しなくて良いから。お願い……」
> ミオから報酬の食事代をありがたく受け取ってリナは言った。
> まあ、夕べの戦闘が終わった後、リナ達がまずしたことは、側にあった食べ物という食べ物を貪り食うという生きものらしい行動だったので、もうお腹が空いているというわけではないのだが。
> 「ま、でもこっちも礼言っておくわ。あの時フライパン投げてくれてありがと。」
> そう。
> 黒髪の暗殺者の毒衝撃波を撃退してくれたのは、他でもない。ミオなのだった。
> 「こう見えて、わたし、警察官ですから。」
> 「そーいえばそんな設定だったわね……」
> 呟くミリーナに、黙って会話を聞いていたナビオが、
> 「はっはっはっは!君たちは僕のミオの素晴らしさにやぁぁっと気づいたようだね!そうだよ!ミオはミニスカポリスなんだっ!凄いんだっ!」
> その言葉にリナとミリーナとアメリアは同時に肘鉄と蹴りとパンチを食らわせ、
> 「あんたは何もしてないでしょーがっ!」
> 「いばらないでください。」
> 「ミオさんのことちゃんと守ってあげてくださいよ!」
> それぞれの反応を返す。
> 本当にこの男のどこが良いのかミオの趣味を疑うところだが、人の趣味にとやかく言うつもりはない。何より、ミオはそんなナビオにぞっこんで、本人達が幸せそうだから口出しするつもりはなかった。
> 「ま、がんばんな。」
> 「また変なことに巻き込まれんなよ。」
> 「仲良くな。」
> ルーク、ガウリイ、ゼルガディスの言葉に、ミオとナビオは、
> 「あなたたちも早く彼女を作って幸せにしてあげてくださいね。」
> 「まぁ、無理だと思うけどがんばりたまえ。」
> 余計な世話だといい返したくなる言葉を投げかける。
> そして、ほどなく汽笛が鳴り響く。
> 「もう、そろそろ行かなきゃな。」
> 「ええ。それじゃ―――」
> 二人は片手に小さな荷物を抱え、もう片方の手を繋いで船への道を上がっていく。
> そんな姿を見送りながら、ゼロスはぽつりと呟いた。
> 「いやあ、うらやましいですねぇ。若いっていいですねぇ。」
> そんな言葉になんとなく正義館の一同は。
> 『そうだな……』
> 『そうね……』
> 思わず本音が出てしまう。
> 「おや?皆さん、恋人欲しいんですか?そーいや皆さんいないですもんねえ。リナさん、ガウリイさん、好きな人とかいないんですか?」
> 「い、いないわよっ!別にっ!っていうかなんであたし達に聞くのよっ!」
> 「何赤くなってんだ?お前。」
> 「なんでもないわよっ!」
> 無意味にガウリイを張り倒すリナ達を無視して、ゼロスは今度は、
> 「ゼルガディスさんやアメリアさんは?」
> 「俺はそういうのに興味はない。」
> 「わ、わ、わたしは……ゼロスさんには関係ないですっ!」
> 視線をそらすゼルガディスに、慌てて手を振るアメリア。
> 「おやおや、気になりますねぇ。
> ルークさんとミリーナさんはどーなんですか?」
> 「ふっ。俺達は既に……」
> 「らぶらぶカップルだからなんて間違っても言えないわよね?」
> 「はい………」
> いつもの通り滝のごとく涙を流すルーク。
>
> そんなこんなで。
> 長い長い夜は明け、いつもの正義館に戻ったのだった。
>
>
> ちなみに、正義館に戻って、食費以外結局何も解決していないことに、一同が気づくのは――――
> まだ、すこし先の話。
>
>
>
>続く。
>
>
>
>
>
>@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
>
>
>
>
>あとがきといいわけ。
>
>
>はい。そんなわけで、ここまで読んでくださった方、ありがとう。
>言い訳したい部分が死ぬほどあるんだけど、見苦しい上にきりがないので、もうやめます(笑)はい、自分でもわかってるけどへぼい話です(笑)
>待たせまくったあげくこれかい、って怒られた方も多いと思いますが、ごめんっ。しょせんえれなの書く話はこんなんです(笑)
>つーか、この話。ゼルアメがどーしても書きたくて書いた息抜きのギャグ短編のはずだったんですが、気がつけば70P(しーん・・・)
>しかも、全然ゼルアメじゃねー上に唯一らぶらぶしてたのはゼロスとゼル(爆)とミオさん達で、なんだかなーって感じです(笑)愛がテーマじゃなかったのか、この話っ!(笑)
>オリキャラのねーみんぐは大阪人にしかわかんないネタだけど、おそらくあなたが思っている通りです(笑)はい。
>
>次回は少し今までと毛色の違った話になる予定ですので、もし気に入ってくださったならあんまり期待しないで待っててくださいね♪
>
>では、ここまでお付き合いいただいてありがとうございました。
>ちなみにくだんない話で容量食ってしまってすいません〜(^^;;
>
>では♪
>
>
>

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1273Re:すみません。上、失敗です。削除してください・・風太 2/12-02:57
記事番号1272へのコメント

 すみません! 一度、間違って投稿してしまいました。本当にごめんなさい。
 ええと、改めまして風太です。「ここは正義感」6〜8、読ませていただきました。

 待ちに待った続き、面白かったです・・・なんかもう、一言では言い表せない面白さです(笑)。

 リナさん、あなたはやっぱり最強だったのね・・・とか、そう言えばガウリイさんって元軍人だったんだ忘れてた・・・とか、ゼルガディスさん可哀相(苦笑)・・・とか、アメリアちゃん可愛い! 可愛すぎるぞ!(をい・・・)とか、ルークさんって実は一番まともなんじゃないかなーとか、ンでミリーナさんは実は一番凄い人なんじゃないかなーとか、ゼロスさんあなたにはもう何も言うことないですとか、色々あるんですけども(多すぎだよ)。

 やっぱりなんと言っても、一番凄かったのはオリキャラカップルでしょう・・・爆笑しっぱなしでした、私・・・もう、笑いのツボの80パーセントくらい持ってかれた感じです(笑)。ナビオさん・・・っ(思い出しストライク)。

 あと、個人的にツボだったのがゼロスさんの煙草(笑)。かっこいいいいー! なんかすごいかっこいいー!! ってなもんで、一人でのたうってました(馬鹿・・・)。いつも思うんですが出番の割にインパクトが強い人ですね・・・あんまりゼルガディスさんをいじめないでくださいね(面白かったけど・・・)。

 ギャグなような、シリアスなような、微妙なバランスがたまりませんでした。印象的だったのはアメリアとゼロス、それとミリーナ嬢の静かな壊れっぷりです(笑)。誰も正面切ってつっこめないところが彼女の恐ろしさだと思います・・・そこがまたいいんですけど(笑)。

 色々シリアスな伏線も多くて、次回以降が気になってしょーがないです。ゼロスはいつ動くのか? とか。ルークとミリーナも謎多きカップル(・・・ですよね)ですし。

 それにしても、こんなに長い(そして面白い!)お話を書けるなんて尊敬します。お疲れさまでした。
 次回は少し感じが変わるとのことで、とても楽しみです。
 それでは、風太でした。

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1279風太さんへ。えれな E-mail URL2/13-03:15
記事番号1273へのコメント

風太さん、こんにちは。感想ありがとうです♪
> 待ちに待った続き、面白かったです・・・なんかもう、一言では言い表せない面白さです(笑)。
ほんっっっっっっとにお待たせしまして申し訳ない限りです。頭何回か地下につっこんで礼します(笑)

> そう言えばガウリイさんって元軍人だったんだ忘れてた・・・
そんな設定あったのね。って思い出させるために軍人ガウリイさんちょっと出してみました(笑)
>ゼルガディスさん可哀相(苦笑)
わたし、ゼルガディスさんファンにかなり憎まれてそうで恐いですが、ゼル大好きです(笑)

> やっぱりなんと言っても、一番凄かったのはオリキャラカップルでしょう
正直な話、実際えれなも結構笑いながら書いてました(笑)

>いつも思うんですが出番の割にインパクトが強い人ですね・・・あんまりゼルガディスさんをいじめないでくださいね(面白かったけど・・・)
ゼロスは美味しいとこだけ取ってくイメージで書いてます(笑)ごめん。ゼルガディス。許せ(笑)

> 印象的だったのはアメリアとゼロス、それとミリーナ嬢の静かな壊れっぷりです(笑)。誰も正面切ってつっこめないところが彼女の恐ろしさだと思います・・・そこがまたいいんですけど(笑)。
アメリアとゼロスんとこ、すっごく考えて書いたので印象に残ったのならうれしいです♪うちのミリーナは・・・・もう・・・だめです(目頭を押さえる(笑))

> それにしても、こんなに長い(そして面白い!)お話を書けるなんて尊敬します。お疲れさまでした。
いえいえ。あんまり読み手が読むの大変になる話にならないように今後気をつけます(笑)特に今回は書きたいことを掘り下げて結構書いたので内容ないのにとってもながいことになってしまったので(笑)
それでは近いうちにお会いできるようにがんばります♪
感想ありがとうでした。


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1281Re:ここは正義館6〜8ブラントン 2/13-20:19
記事番号1247へのコメント


 ああっ、すみません!
 これから4日ぐらいパソに触れないとの言葉から、ンじゃあ日曜でもいいかと気をゆるませていたらしっかりいらっしゃってるじゃないですか!?
 思わずテーブルをたたいて姉に驚かれてしまったのはちょっと秘密です(話とるがな)

 半年ぶりの正義館。さてさてどんな内容かと思ったら、おおよそ本筋とは関係なさそうな話で、それにも関わらず容量は70ページと一気にK点越えのバッケンレコードで最長不倒っ!(長野五輪かぶれ)

 ともあれ本筋に関係あろーがなかろーが、相変わらずの6人と1匹あーんど前回、前々回をも軽く上回るオリキャラが、はちゃめちゃどたばたどんちゃかずんちゃかどんどんぱふぱふ、を繰り広げつつも――(なんだ、「ぱふぱふ」って。)
 しっかりシリアスに持ってくるあたりは、これぞまさに正義館!
 えれな様の書く「正義館」でしかできない、そんな魅力を再々確認させていただいたような気がします。

 ――と、テンション上げつつ。

 まずは各話のタイトル。
 6話、7話は額面通り受け取っていいものとして、8話の「朝はまた来る」というのは、この話が一種の番外編で、たった一日の出来事であることを強調するためのような気がします。この場合の朝とは、「一日の始まり」としての朝。すなわちふだんの生活が始まるということを暗示している気もします。もちろん、某DCTの新曲が真っ先に浮かんだんですが(笑)

 続いてキャラの方に。

 正義館の面々にはギャグパートとシリアスパートでそれぞれ役割があり、

  わがままリナ。
  保護者のガウリイ。
  無邪気なアメリア。
  つっこみゼルガディス。
  悪ガキルーク。
  妖しいミリーナ。

  リーダーのリナ。
  専門家ガウリイ。
  正義のアメリア。
  推理役ゼルガディス。
  過激派ルーク。
  冷静沈着なミリーナ。

 ゼルとガウリイはちょっと自信ないですが。
 あるいは会話パートと行動パートともいえるでしょうか。
 ともあれ、どの話でも通じる役割があるような気がします。
 たとえば、いざこざで最初に絡むのがルークとリナだったり
>「わたし、証人になりますっ!」(アメリア)
 というセリフはなんだか似たようなのが5話でもあった気が……

 つまり、前々からいっていることですが、6人いても全員に出番があり、不自然ではないのが正義館の凄いところなのではないかと。
 そして映像が本当に浮かぶ点はもっと凄いところです。他の方もおっしゃっていますが。

 また今回は元ネタがわかる使い方もありますね。
 そもそも今回のアメリアが「聖王都動乱(アニメ版)」っぽいのもそうですし、「悪人は黒い服」というのは有名な話ですし、
>「でも事実だろ?ここまで八方ふさが……む…っ!」
 なんて韻まで踏んでいてかなりビックリです。
 ンなこといったら4話の生攻撃なんてもっとそーじゃねーかと突っ込まれたらそれまでなんですが(殴)

 では、各キャラごとに。

リナ

 主役陥落。今までお疲れさまでした〜(蹴蹴蹴←真似るな)
 とはいえ代わりに主役といえる人もいないので、今回は全員で主役という感じでしょうか。
 まあ話が番外編っぽいというのもありますし、きっと本筋に戻ればやってくれることでしょう。うふふふ。(妖しいって)
>「渡瀬いる?呼んで。」
 このセリフ。そしてこれ以降のリナの態度はめちゃ最高ですっ! 
 いったいいつ出てくるのかと思っていたヤンキー界の裏番設定。ルークの買い物係というのといっしょにここでやっと初登場! ということは一話から既にこの話が頭の中にあったということ!? と思い、かなりびっくりでした。
 次回は掃除係か洗濯担当の出番なのでしょうか?

ガウリイ

 2話以来の軍関係♪ で、男性陣の中でもっとも出番多かったガウリイ。
 にしても本当に有名人だったんですねー。国際軍の暗殺者が名前を覚えているぐらいなのですから、かなりの者だったということ。イッソン編の幻影ははたして軍時代のものなのでしょうか?(勘では違う気がする)
>「ああ………晩御飯が遠のいていく……」
 ボヤキ担当といえばゼルかガウリイ。これは運転席で、というのがいいですね♪ まさに絵になるって感じです♪

アメリア

 一応主役ということで、おめでとうございます♪
 アメリアを主役にするには「正義」をキーワードにするしかないわけですが、じつは難しいテーマだと思います。そのうえこれに後継者問題まで絡めてくるとは、否応なしにもレベルの高さを感じさせられます。
>「いやです。」
 いちばん好きなのはこのシーンのセリフ全部ですが、これは5話のリナのセリフのアメリア版ですねー。しかも回数まで同じ(笑)
 彼女はギャグパートとシリアスパートでもっとも変化のない人物なのではないでしょうか。

ゼルガディス

 いじめられなくって、おめでとうございます♪(笑)
 5話のラストからめっちゃシブい役回りの増えている気のする彼はとってもhardful♪(蹴)
 もとい、かっこいいです! 自嘲気味であるだけでなく、ゼロスにくってかかったりするあたり、いっそうハードボイルドな感じ(たぶん勘違い)が出てて気に入っちゃいます。
>「よけいなことを教えるな。」
 ゼロスと対峙するシーンがいちばんのお気に入りですが、頭に浮かべてみてワンシーンとしてはこれが思わずぞくぞくっと来るぐらい決まっていて好きです♪

ルーク

 出番が多いにも関わらず見せ場のないルーク。ああ、かわいそう……
 ミリーナ絡み以外では使い方があまり見いだせないのかも。
 さてさて、13巻のジェイドの時のようなルークははたして見られるのでしょうか。
>「黙れっ!俺は下僕なんかじゃ……ねー…よ…な……?」
 それはさておき、ミリーナ絡みでは相変わらず笑わせてくれますっ! このシーンは小学生のつっこみも光って難易度ウルトラEの10.00!(体操かぶれ)
 その中でもえれな様の文章力の高さを如実に表すものとして、このセリフをベストに推させていただきます。

ミリーナ

 えれな様の寵愛を受けているのかずっと不変のミリーナ。あんた最高だ。うん。
 「正義館でいちばんまともな神経の持ち主という『設定』の」というあたり、今までの彼女の行動がどんなものであったかを表していて面白いです♪
>「……急いで。人に見つからないうちに。」
 これは言葉よりもその行動が面白すぎて言うことなしです。まさに「静かに壊れる」という言葉がそれを表していて、風太様すごい! と思いました。

ゼロス

 なんだか何かしたようで何もしていない気がするゼロス。
 今回明らかになった数少ない事実の一つとして、軍で名前をとどろかしているということがありましたが、ガウリイが知らなかったことからして有名なのではなくかなりTOPシークレットと思われます。それとも暗殺者関係のみで有名だったのでしょうか。
 ゼロスの存在が明らかになっているということは当然魔族側のメンバーも明らかになっているはずですね。まあ、そもそも魔族と対抗するために軍があるのですから、敵側の勢力ぐらい知っていて当たり前かもしれませんが。
>「賢い方は好きですよ。」
 魔族なゼロスはDM3月号の反響からも明らかですが人気あるんですよね♪ かくいう私ももちろんその一人。というわけで、これと、ゼルとの対峙シーンになるわけですが、他のセリフに比べて言わせるのが難しそうなこのセリフを推させていただきます。

ミオ&ナビオ

 通天閣以外大阪人ネタはさっぱりなので、ちょっとわからない部分もありますが、それはおかまいなしにこの二人はインパクト強すぎです。まさにリナなんて目じゃないぐらい。ナーガとはらせてもいい勝負になるのでは?
 特にミオの誇大セリフはそれ自体が非常に難しく、それを多用するなんてもう信じられない世界です。
>「ごまかそうったってそうはいかないわ。(以下省略)」
 そんなわけで、その中でももっとも難しいと思われるこのセリフを。
 この二人のオリキャラについてはえれな様の解説を聞くのが楽しみです♪


 では、もっともお気に入りのシーン、およびセリフを。
 前者は冒頭。まさに正義館の真骨頂! というわけでここを。
 本心としては6話全部がまったく文句なしでお気に入りなんですが――
 後者は
>「……ららら、むじんくん、ららら、むじんくん、らららら………」
 はい。言うことはありません……


 今回は前振りが長かったですねー。事情説明せずに6話が終わってしまうあたり、メインストーリーがなくても面白い証拠です。そのくせなくてもいいパートがないのがさらに凄すぎ。
 それに加えしっかり作られたストーリーがあるわけですから、これが面白いわけない! と自信を持っていえるわけですね。
 敵さんもシリアス度をほぼ一手に引き受け大変だった思いますが、お疲れさまでした。
 次回で国際軍が出てくるということですが、どうも再登場とはいかないと思いますが――

 全体の謎としてはアメリアのイギリス王家でのお家騒動がちょっと出ていましたね。
 雰囲気からして、リナたちがそれを結構詳しく知っている様子。とはいえアメリア自身が語るような機会があったとは思えないですから、いったいどうやってしったのか? という疑問が残ります。
 そうなるとそもそもこの6人はどこでどうやって出会ったのか? という最大の謎も浮かんでくることに。半年前にいきなり6人と1匹がそろったとも思えないですし。
 ここらへんはまだ個々の謎しか明らかになっていないので、それがどう絡むのかはまったく未知の世界。いずれ語られるのを待つとします。

 では、最後に。
>他にも矛盾点とかわかりにくい点、も一回読み直したら結構あるけど・・・・
 こう言われると探したくなるです。くっ、あなた罪な女ね。(何様だ)
 ……言い訳するとそのために何度も読んでいたので遅れたんです。ああっ! やっぱり言い訳にもならんっ!

 一応成果(違う)のほどを……

 オートボーガンで撃たれたことで脅しとしか思えなくなった、とか言いつつ、それを撃ったと思いこんでいるルークたちに駆け落ちの助けを頼むのはどーいうことだ、というのは
「言葉のあや。」
 と言い切られると反論できないので置いといて、また
「二度目はありませんよ。」
 と言いつつ、ゼロスが邸宅の前で目にしたときは見逃しているのも気になるのですが、決定的でもないのでこれも置いといて、他のものいきます。

・「あたしがなんで今日あんたをわざわざ誘って帰ったと思ってんのよ!?」(6話、リナ)
 ……いや、本当になんでわざわざ誘う必要があるのでしょうか……
 別にカツアゲだったらリナ一人でもできるわけで、アメリアがいたら反対することは目に見えていること。ふだんヤンキーいびりを一人でしている(ガウリイもいたこともあるかもしれないですが)リナにしてみればむしろいない方が好都合なのでは。

・8話で謎解きをするゼル。いったいどこで暗殺者がミオを殺しに来たということを知ったのでしょう?
 ゼロスとの会話からするにその時点ではまだ知らないはずですし、もちろんゼロスから教わってもいない。
 ドアの向こうからガウリイたちの話を聞いていたという話もあるかもしれないですが、それだったら彼なら気づかれる前に不意打ちをかける気もします。

 ……と、ここらへんはだからどーしたで片付けられるものですからどーでもいいのですが。
 どうしてもわからない最大の謎はやはり、
「ゼルとアメリアはなんで邸宅の場所がわかったのか?」
 ということでしょう。まさか、いくら有名な企業でも社長邸宅の場所まで知っているわけはないですし……これだけはまったくわからないです。

 以上、疑問に思った部分でした。

 では総評を。
 他にはない魅力をあふれるほど持っている正義館。今回改めてそれを思い知らされたな、と。
 今回の話でとりあえず全10話完結ということはなくなったようですが、たとえ終わるのがいつになろうとも毎話毎話が面白ければそれでよし! と思えるほどでした。

 それでは、またFREE STYLEの方で。

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1287わーい!わーい!正義館どわああ〜(はーと)猫斗犬 E-mail 2/14-17:20
記事番号1247へのコメント

  猫斗犬は2ヶ月ぶりに『書き殴り』へ入っていった。
  そして小説2に行き……

猫「…………………………………………………………
  …………………………………………………………
  …………………………………………………………
  …………………………………………………………
  …………………………………………………………
  …………ぬういおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーー!!
  正義館じゃ正義館じゃあああぁぁぁ!!!
  お久しゅうごじゃいます。えれなしゃん!!!
  …………………………………………………………
  …………………………………………………………
  …………………………………………………………
  …え?あんた誰?って…………………………………
  …しくしく…いーんだ、いんだ…どうせどうせ…ぼくなんてその
  辺にころころころころ転がってるコロコロコミックスの親戚だしさ…
  くうそおお…いつかは有名になってみせるぜ!!」

 一条に光るお星様に指さし誓った猫斗犬であった。めでたしめでたし…

                                          おわひ

リ「おわんなーーーー!!!!!!ディルブラントーーーーーー!!!!!」



…………………………………………………………
…………………………………………………………
…………………………………………………………
…………………………………………………………
…おや?
なぜ、私は話から脱線してしまったんだろうか………
…………………………………………………………
ま、いっか…
それより、ほんと、おしさしぶりですねえ、えれなしゃん。
え?やっぱしおぼえてない?
え〜と…一様、『正義館6』ん時にもコメント入れた物何すけど…


<ちょーお久しぶりですが、こんにちは。はじめましての人も多いと思いますが、むか〜しむかしから、この書き殴りさんでふざけた長編連載をしていただいているえれなという者です。あまりにも前回から時間があいてしまっているので投稿して良いものかちょっと迷ったんですが、続き待ってくださってる素晴らしい方もいらっしゃるようだし、続き気になって気持ち悪い思いをしてる方もいるかもしれないので、恥を忍んで投稿します(笑)ていうか、やっぱり続きアップするのは、連載をした人間の最低限のマナーのような気がするし(笑)

……あはははははは…やっぱりそうですよねぇ……
(自分も連載しているが2ヶ月ストップしているんで何も言い返せないでいる…汗汗…)

<設定。忘れてる方も多い(っつーか、えれなも忘れてた(爆))ので一応設定と共にアップします。忘れかけた記憶を呼び覚まして読んでくださったらうれしいです♪

え〜っと…昔のあれはどこに…

<では、お久しぶりですが、お待たせしまくった続き、どうぞ。

では気合いを入れて……
……………………………………………………………しばらくお待ちください
………きゃははははは…やっぱし、さいこー(ハート)
最初は6と比べて回数が少ないのでおや?っと思ったのですが…十分十分おもしろいですう…

設定としてきにっているのが…リナが横浜の裏番長……たった半年で…ってーことは何?
出身地である大阪でもそうだったとか……なんかあり得そう…
しかも裏番長ってとこがリナらしいですよね(はーと)
このネタ…あっしもつかってみたいなあ…………って、なんか黙って使うと小包輸送した
火炎球が、えれなしゃんのファンから送られてきそうなのでやっぱひやめときまふ…


では、これにて…これからもおもしろい『正義館』お待ちしております。
                              ──猫斗犬(びょうとけん)より──


P.S  私が『書き殴り』に作品を掲載しようと思ったのは『正義館』のおかげです。
    えれなさんがもらうぐらいのコメント数を私ももらえるようにがんばります…
    現在は連載停止してるけど…