◆−赤の竜神の騎士U−R.オーナーシェフ (2003/1/13 20:26:24) No.12852 ┣赤の竜神の騎士U―2−R.オーナーシェフ (2003/1/13 20:31:47) No.12853 ┣赤の竜神の騎士U―3−R.オーナーシェフ (2003/1/13 20:40:03) No.12854 ┣赤の竜神の騎士U―4−R.オーナーシェフ (2003/1/13 20:48:27) No.12855 ┗赤の竜神の騎士U―5−R.オーナーシェフ (2003/1/13 20:59:25) No.12856 ┗はじめまして−エモーション (2003/1/14 21:59:35) No.12873 ┗Re:はじめまして−R.オーナーシェフ (2003/1/16 14:22:56) No.12897
12852 | 赤の竜神の騎士U | R.オーナーシェフ E-mail | 2003/1/13 20:26:24 |
タイトルの通り、郷里の姉ちゃん主役の話なんですが、そこにUと書いたのは、以前に「赤の竜神の騎士」のタイトルで書いたことがあるからなんです。ですが、あまり気にしなくていいです。気にして欲しいのは「最後の大賢者」のほうかな。同じ舞台設定で、少し昔にさかのぼって書いてます。もちろん、この小説のみで完結しているように書いてますから、大丈夫なんですが。 それではいってみよ♪ *********************************** 薄暗く、冷たい静寂が、石造りの廊下を支配する。奥の大きな扉が開き、女官に導かれ、ドレスで飾った彼女が現れた。 「を、っとっとっと」 前へ進もうとしてすぐにすそを踏みつける。耐えられずに足がもつれてバランス崩し、ずっだーんと、痛そうな音を廊下に響かせて、正面から硬い床とキスした。 「はっはっはっはっは。なれてなさそうね。ドレスは。」 あわてて彼女を女官が助けた。 「ほっといて。」 「でも、似合ってるわよ。」 「ほんと? 少しは見直した?」 「少しはね。あんたも女王か。」 「はぁー。そうなんだよね。でも、変に気を使わないでね。」 「ふん、だれがあんたなんかに。」 「それでいい。分かってるよね、スイーフィードナイト。ルナ・インバース。」 「分かってるわよ。あたしたちは変わらない。対等のパートナーで、エターナルクイーン。エリザベート。」 壁に寄りかかりながら、彼女と不敵な目で通じ合う。 それは、今までと変わらなかった。 ゼフィーリア国王(エターナルキング)崩御の知らせが旅先のあたしたちの元へ届いたのが去年。国へ戻ると、あたしと同じ若干16歳で彼女は有無を言わさず玉座に座らされた。それから先代王の大喪の礼やら、王位についた彼女の儀式や旧体制からの政治の引継ぎやなんだかんだが1年ほど続き、そのクライマックスが今日の即位の礼だった。王宮奥の、赤竜剣を御神体として祭るスイーフィード神殿で彼女は儀式を行い、もうそろそろこちらへ顔を出すはずである。早春で、まだ肌寒い。空は白く覆われている。広場には各国の代表や、呼ばれた国民各層がそろっていた。 早くしろよ。エリザベート。みな寒いんだから。 ちょいちょいと、隣からあたしの袖をひっぱる。この10歳になる生意気そうなガキはあたしの妹でリナという。 「エリザベートまだかな。姉ちゃん。」 「うーん・・・。もうそろそろのはずなんだけど。」 「姉ちゃんは王宮の中で見てきたんでしょ? ねえ、綺麗だった?」 「まあまあかな。」 城の二階部分から、表へ大きく出ているベランダは舞台のようでもあった。やがて、中から正装に包んだ王族や神官たちが静かに現れはじめた。一人、知った顔の王子と目が合った。名はクローディアス。その冷たい表情が気になった。中央はさらに一段高く、そこは真っ白い清浄なカーテンで包まれていた。 ゆらゆらと動く。中に人影が見えた。 すると、寒い曇り空の隙間に、日の光が射してきた。あたりが、ややオレンジがかった白の淡い光で明るくなる。まるで、これから現れようとする彼女を祝福しているようだった。偶然? それとも、どこぞのパツキン大魔王のきまぐれか? 女官が、ゆっくりと、カーテンを開いていく。中から現れた彼女に、皆息をのんだ。 「うわぁー。とっても素敵だね。エリザベート。」 妹の台詞に軽くうなずき、感心しながらも、なかばあきれていた。 うそだ。 あの女の本性を、美しさに圧倒されてる各国大使、元首どもに見せてやりてえ。よくもまあ、あそこまで化けたもんだわ。 あの姿は先ほど見てきたはずだが、違う。オーラが。 「・・・・・・・・・・女王として、民と国と世界のために、尽くしてまいります。」 そう結んで即位したことを宣言すると、拍手の波が、穏やかに、だんだん大きく広がっていった。女王陛下万歳の声が響く。その瞬間からカリスマ性に身を包まれていった彼女をしばらく見守りながら、あたしたち姉妹は帰ろうとした。 肩がぶつかった。すれ違った男が振り返る。 「お前か。」 「失礼。将軍。」 右目の上に傷があった。前に、あたしがつけたものだ。 冷えた空気の中を、彼は急いでるように早足で歩いていった。 旅から帰ってから、ウェイトレスのバイトを始めた。自慢じゃないが・・・・、いや。自慢だが、あたしは戦士としてはすでに超一流だ。だが、それ以前にあたしは商売人の娘。その点ではまだ半人前だった。ウェイトレスは旅に出る前も経験があったが、今度は本格的にやろうと思い、高級店のリアランサーを選んだ。木造の店内には優しい明かりが広がっている。あたしはテーブルの間を料理運び、優雅に舞う。食べるのも忘れて見つめあうカップルを見守る妖精のように・・・・・。 とっとと食えよ。料理が冷める。 「いよっ。」 客の女が声をかけた。ショートカットのブロンドで、ダークな色で肩を露出させたデザインの服。整った顔だが、目が鋭く、ちょっとヤンキー入ってる。 「あら、お客様。最近来てくださらなかったですわね。」 この人、うちの店の常連である。 「知ってるくせに。忙しかったのよ。最近やっと落ち着いたの。」 さらに言うなら、この女があの女王様だったりする。もちろん内緒の話だ。 「そう。疲れた顔してるわ。」 「ねえ、ルナ。酒。」 「だめ。止めときなさい。」 「客の言うこと聞けよ。城の中じゃ飲めないのよ。そばに仕えてる奴ら、酒もタバコもだめだって言うんだもん。」 「あったりまえよ。」 「ルナまでそう言うの?」 「今までが異常だったのよ。そもそもあたしたち未成年なんだし。もう旅先じゃない。あんたは女王。」 「そう言っておとなしくするのは嫌い。」 「それでも大丈夫なように小さいころから帝王学は叩き込まれてきたんでしょ?」 「だから嫌で、修行の旅の名目でルナと組んで城飛び出したの。おとなしくしたら即位してやった意味がないじゃん。」 「即位してやった、って、あんたが正統でしょ? 一人娘だし。あんたじゃなけりゃぁ、分家のクローディアスになるわけね。」 先々代の王、つまり彼女の祖父の弟の一人が起こした家の二代目である。あまりいい噂はない。彼の方がずっと年上だが、現在、王位継承権第一位である。エリザベートが誰かとラブラブして赤ちゃん作っちゃうまでは。 「そう。正統のあたしじゃなきゃ駄目なの。問題山積な今は特にね。ストレスもたまるわけよ。だから少しはわがまま聞いてもらってもいいじゃない? ったく、親父の奴、厄介ごと、そのまま残して逝っちまいやがって。」 「厄介ごと・・・か。」 彼女がそう言ったのは、先代国王の異母兄のことだ。王位継承権を認められず、争いの中死んでいった悲劇の王子。名をフェリペという。人に化け、自分を王位につけ操ろうとした魔族と自ら戦い、勝利したが、自身も犠牲となり、ゼフィーリアを救った伝説の英雄として語り継がれる人物だ。庶民の間での人気は降魔戦争の際に現れた赤の竜神の騎士とともに五本の指に入る。 だが、伝説の通りに綺麗にすべて解決されたわけではなかった。彼を王位につけようとした勢力の力は依然として残り、先代王も争いになるのを抑え、安定を保つのに必死だった。それで神経をすり減らし、長生きできなかったのかもしれない。結局、根本的な解決はエリザベートに委ねられ、“厄介ごと、そのまま残して逝っちまいやがった”のである。 「で、あんたはどうするのよ? “厄介ごと”は。お父さんみたいに穏やかなやり方でやる? それとも・・・」 「昨日ね、さっそく、その黒幕さんから喧嘩を売られたの。暗殺者(アサッシン)に襲われてね。返り討ちにはしたけど。」 「売られた喧嘩は買わないわけにはいかない、か。」 「そういうこと。つきあうでしょ?」 フゥー、とため息を一つ。 「あんたじゃ断れないわね。いいわよ。」 「そう来なきゃ。と、いうわけで、ルナ、酒。」 「・・・・・ま、いいか。」 結局その晩、バイトが終わった後、あたしが酔って歩けない彼女を城まで担いでいったのだった。 小春日和ってやつである。今日はバイトも早く終わり、王宮前の大通り公園のベンチで流れる雲を見つめていた。寂しく見える銀杏の木も、よく見ると新しい芽が出ている。眠りについていた命が復活する季節はもうすぐ。 王宮へ続く並木道を落ち着いて歩いていく人の中、遠くに少女が一人いた。向こうにあるのは王宮と、魔道士協会だ。少女は近づいてくると、あたしに気づき、きょろきょろすると気づかないふりをして、その辺の店に入っていこうとする。 「リナーっ! こっちにおいで。」 「や、やー。姉ちゃん奇遇ねえ。」 妹は額に汗を浮かべていた。そんなにあわてなくても、たいしたことしやしないって。たいしたことは、ね。 「協会の授業は終わり?」 「うん。」 「そ。じゃあ午後はあたしと実践編といってみましょうか。」 「そんな、姉ちゃん、気を使わなくても・・」 「いいから来なさい。」 そう言ってあたしは、顔を真っ青にして震えるリナの手を引いて、ヴェローナあたりの森にでも行こうかと思った・・・・。 王宮裏から、魔道士協会評議長でリナの先生のエイミー・ハノーヴァーさんの邸宅あたりまで深い樹海が続く。葉を落とした晩秋から冬にかけての木々は魔物の骸骨にも似ていたり。デーモンなどがよく発生したり怪しい生き物が生息していたりして、なかなか面白いポイントなのだ。比べて、こちらのゼフィール郊外から観光地ヴェローナまで続く森は、それほど密生しているわけではない。気配は察知しやすい。戦士育成には初心者向きだった。木々の間から気持ちよく光が射し、空気は新鮮で、冬の姿に毛を生え変わらせたウサギさんも顔を出して、口もごもごさせ、ぴょこぴょこはねて行った。遠くには木々の上にロードのしゃれた館が小さく見える。風や小鳥の声が森の中に染み入っていく。どこまでも静か・・・・。やがてあたりは静まり返り・・・・・・・・・・・・ 過ぎた。 「リナ。」 「はい?」 「今度、気配の察知の仕方や尾行の撒き方も教えてあげるからね。」 あたしはリナの手をとり、 「え?」 放り上げた。 「うきゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」 天高く舞う、我が妹。其は天女の如く・・・。 落下し、あわてて呪文を唱えたらしくスピードは弱まるが、遅かったらしい。ぼちゃんと水に落ちるかすかな音が聞こえた。来る途中にあった川に落ちたか。だいたい計算どおりである。 「さてと。褒めてあげるわ。うまく気配は隠せてる。あたしの妹に何の用?代わりに聞くわよ?」 穏やかな風は変わらなかった。だが、空気の流れになんとなく違和感がある。かすかに、気圧の変化を感じた。 後方、やや左。光がきらめく。手刀をふるうと、乾いた音を響かせ、二つに切られたものが地面に落ちた。魔力ナイフ。隙を突いたつもりか。わずかな時間差で反対方向に殺気が三つ。攻撃呪文。あたしは殺気に“根性”を叩き込んだ。放たれた光が、あたしに届かず空中で炸裂する。光に包まれた中で、ドサッと黒いものが木の上から落ちた。 「がはっ。ぐっ、ごぼっ」 地面にうずくまり、吐血する。でも一人。刹那、グキッと、何かが折れる音がした。多分、首の骨か。気配が二つ減り、茂みが揺れ、おそらく失敗した部下に止めを刺したか、暗殺者(アサッシン)が現れた。 「そのうち、また会うだろう。」 落ち着いた声と、突き刺さる冷たい視線を残し、彼は森の奥へ消えた。他に4人ほどいたと思ったが、気配は完全に消えていた。 「やっぱ。見捨てられるのね。暗殺者は。そうするとこの後の展開は・・・」 枯れ枝を拾った。己の中の“力”をこめる。 ふっ、と軽く息を吐き、地面にうずくまる彼めがけて振るう。体から切り取られ、空中に跳ね上がったそれを蹴った。 上空で炸裂した。あたりに火の粉が降り注ぐ。 「やはり自爆するつもりだったのね。」 胸倉をつかみ、引きずり上げた。 「簡単には死なせないわよ。」 彼は趣味の悪い微笑を浮かべた。そして、動かなくなる。 「ちっ。」 手を離し、あたしはそれを地面に捨てた。歯にでも毒を仕込んでいたか。ナンセンスな奴ら。 妹は、ずぶぬれになって川岸に座り込んでいた。腕を組み、ほおを膨らまして。 「もうっ! あたしだって戦えるもん!」 「あんたは切り札だからね。大事にしとかないと。」 「うそ。あたしをなだめようとして。」 「あら、わかった?」 「・・・・・あっさり本音言わないで。」 落ち込むリナ。 「まあ、ありゃあ、一流の戦士でも厳しいと思うわ。あたしもちょこっと‘力’使っちゃったし。」 「マジ? 姉ちゃんが!? 凄いわ。その人たち。」 「どっちの応援してるのよ。それより、狙われる心当たりは?」 「うーんと・・・・、今日は、エイミー先生とジュリアとで王宮の公文書館に昔の魔道にかかわる資料を調べに行ったの。それで終わって解散になって、帰りにね、王宮正門あたりの端でものすごく怪しいおっちゃんが二人でひそひそ話してたから、とりあえず、火炎球(ファイヤー・ボール)投げてみた。」 「あほう。あ、あんたって娘は・・・・・・」 ったく。多分、性格は親父のやつに似たのかな。若い時、かなり無茶もやったって、母ちゃんが言ってたっけ。今じゃあ火のついてないタバコくわえて渋い男のつもりでいるけど。 「で、でも・・。一人はあのウェセックス卿よ?」 「え?あの? ふーん。なら許す。」 悪い評判の多い領主(ロード)である。庶民の間では完全に悪者で、酷くデフォルメされた似顔絵の落書きもたまに見かける。かつてのフェリペ王子派の貴族で、あたしとエリザベートが警戒している勢力の中の一人でもあった。 「話は聞けた?」 「『しくじったが、引き返せん。あの女では困る。セイルーンはもう動いた。』って。『ビリエールも邪魔』とか 言ったかな。」 「相手の男は分からない?」 「制服着てたから騎士(ナイト)ね。階級章は将軍だったわ。右目の上あたりに傷があった。」 「たぶん、フランコ将軍ね。」 「知ってるの? 姉ちゃん。」 「もちろん。その傷は、エリザベートの即位前にね、そいつが国王の前で彼女に向かって暴言はいたから、あたしが殴りつけてできたものなの。彼女の即位に一番強硬に反対していた奴よ。」 『セイルーンはもう動いた』の意味が分かったのは、そのすぐ後だった。夕方、魔道士協会の隔幻話室(ヴィジョン・ルーム)を通して緊急情報が伝えられた。セイルーン王室が暗殺者ブーレイ率いる暗殺チームに襲撃され、第一王位継承者フィリオネルの妃ビクトリアが殺害された。ブーレイは第一王女グレイシアによって倒され、他もほぼ制圧されたが、犠牲者が一人出てしまったことに人々はショックを受けた。 「『ビリエールも邪魔』か。」 エリザベートは紅茶を一口すすった。 「私も狙われているようですな。だが、情報がもれた以上は違う手を考えるでしょう。来るなら来るで、それも面白いが。」 窓の明かりがテーブルを美しい白に染め上げていた。そこの、女王の向かいに座る彼にもあたしは紅茶を注いだ。 彼がサー・ピーター・デ・ラ・ビリエール将軍。60代後半だが、その鍛えた肉体は若い者と変わらない。彼もまた伝説に彩られた人物だ。エリザベートの育ての親で、言わば、“爺や”である。 「気をつけなよ。傭兵時代とは違うんだから。」 「あんたもよ。」 「お互い様ですな。」 「・・・・・・・・・お茶、美味しいね。」 「話をそらすな。ま、うちの店のお茶が誉められるのはうれしいけど。」 あたしのバイト先は王室御用達でもあり、たまにこうして王宮に呼ばれることもあった。 こんこん 「どうぞー。」 女王の返事で執務室の大きな扉が開く。廊下から、お側取次ぎ役その一が入ってきた。 「陛下。スペンサー卿が謁見を求めております。」 「スペンサーが?」 あたしたちが警戒している者の一人だった。 多分、王宮内では闘技場の次にここが広い。石造りで、エンタシスの柱が周囲に立ち、西側面のステンドグラスには神話の世界が描かれ、夕日が当たればロマンティックな、月光が当たれば幻想的な光景に包まれる。見上げると高く、声が響きそうなアーチ型で、天井画が描かれている。この国の建国の伝説だ。千年前の降魔戦争を戦い抜き、この地に落ち着いた英雄たち。中央で手を握りあっているのは、一人が『永遠の女王(エターナルクイーン)』の称号が後に贈られた女性指揮官で、もう一人がこの地で転生を繰り返す赤の竜神の騎士(スイーフィードナイト)。少し離れて、人間達を見守るようにいるのがミルガズィアという名の黄金竜だ。床には赤いじゅうたん。そこに、男が二人、片膝をつき、礼をしていた。 右側のやや前の男がスペンサー卿。シルバーの髪で細身。領主(ロード)で、魔道士でもある。もう一人は僧侶風。肩くらいまでの黒髪で、錫杖を持ち、ショルダーガードに血のような赤いローブ。赤いじゅうたんが色あせて見えるくらいだった。目は固く閉じられている。その男の正体には心当たりがあった。 左の専用の入り口からエリザベートは入った。三段ほど高くなっている黄金の玉座は、彼女にはやはり大きい。だがそこに収まると、不思議な威圧感を魅せる。従うように、玉座と、スペンサーらの間に横向きでビリエールが立つ。 あたしは玉座裏のカーテンの影でのぞき見ていた。 「許す。面(おもて)を上げよ。」 「女王陛下におかれましてはご機嫌麗しく、恐悦至極に存知奉ります。本日参上いたしましたのは宮廷魔道士の件についてでございます。宮廷魔道士はエイミー・ハノーヴァー殿が魔道士協会評議長となられてから空席となっております。それに代わる者を推薦いたしたく、陛下のお気に召せばと、ふさわしいと思われる人物を連れてまいりました。」 「ほう。そこの男が?」 「レゾ・グレイワーズ殿。赤法師レゾと呼ばれている男です。」 やっぱし。 「へぇー。あんたが、あの、ね。どう?レゾ。ゼフィーリアに来てみた感想は。」 「すばらしい土地と心得ます。気候もよく農産物も豊富で、人もやさしく、皆、強い意志と誇りを持っておられる。」 目は開かない。でも、落ち着いた表情だった。 「そう。しばらく滞在しなさい。宮廷魔道士の件は考えておくわ。」 「陛下。なにとぞよろしく・・」 「スペンサー。」 エリザベートはスペンサーの台詞を途中で切った。 「本日は大儀。ご苦労。」 つまり、とっとと帰れということだった。 |
12853 | 赤の竜神の騎士U―2 | R.オーナーシェフ E-mail | 2003/1/13 20:31:47 |
記事番号12852へのコメント すいません。つい出来心で、あの伝説のエピソードを書いてしまいました。 *********************************** オレンジの夕焼けが優しく包む。ゼフィールから森の街道を抜けると果樹園が広がる。なだらかな丘の向こうまで葡萄畑。収穫、ワイン作りも終わり、今は静か。そして小川を通ると落ち着いた雰囲気の村があり、その一角で、今日はそろそろ店閉めるのか、雑貨屋があった。 「ただいま。父ちゃん、母ちゃん。」 「あら、お帰り。ルナ。」 少し振り向き、忙しそうになにやら店の奥へ運んでいく。少し長めの栗色の髪で控えめの胸。この辺の奥様方の中でも一番働き者の彼女があたしとリナの母である。元は魔道と格闘に長けた流れの傭兵だった。はっきし言って強ぇよ。あたしが言うんだから間違いない。スピードやパワーはもうあたしが圧倒的に追い越してはいるのだが、それでもたまに勝負してみると、テクニックでスキを突かれることもある。 「よ。リナはもう帰ってるぜ。奥に行って見てみろよ。うれしそうに着替えて待ってるから。」 火のついてないタバコをくわえた父ちゃんが言った。父ちゃんも母ちゃん同様に元は流れの戦士で、剣と釣りの達人である。 ま、釣りは関係ないか・・・。今も、昔から使っている竿を離そうとしない。 もちろん、二人はコンビだった。あたしとエリザベートのように。 「え?着替えて? ・・・・・・・・あ。そっか。」 今日は魔道士協会の課程を一通り修了する日だった。 「ほら。ぼさっと立ってないでせっせと働く。」 母ちゃんが父ちゃんに注意した。 「分かってるって。・・・・・っぷ」 振り向きながら、噴出し笑いする父ちゃん。 「駄目じゃない。」 そう言う母ちゃんも、にやにやしてたりして。 ???? 「ただいまー。」 玄関開けると、奥の部屋から、ひょっこりリナが顔を出した。元気なあの子がめずらしく、なにやら顔を赤くして、もじもじしている。 「どうしたのよ。リナ。一人前の魔道士になったんでしょ。立派よね。大人でもなかなかできないわよ。ほら、立派な姿をみせて。」 廊下を歩いていくと、リナはよけい顔を赤くして一度ひっこんだ。もう一度ゆっくり顔を出す。 「笑わない?」 「笑わないわよ。誇りに思っていいことだわ。笑う奴がいたらあたしが滅ぼしてやるから。」 そうして、あたしは部屋に入った。 妹は、一通りの魔道の知識を習得し、一人前と協会から認められたものに与えられる、『色の称号』と同じ色をしたローブを身に着けていた。ま、それは分かっていたんだけど。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っぶ。ぶわっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ。ピ、ピンクっ!? しかもフリルつき!!!! ふーぞく営業かあんはは!?」 いけない。笑ってはならない。ならない。だけど・・・。 今時そんな、正統な女の子ファッションの魔道士なんて。面白すぎるぞ妹よ。 笑っちゃいけない。でも、腹痛いっ。と、止まらん。 そんな指さして笑うあたしの声が家中に響く中、リナはじわっと涙をこぼし、 「姉ちゃんのばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ。」 二階の自分の部屋に引っ込んでいったのだった。 リナは夕食をかなりの勢いで食べ、すぐ部屋に戻っていった。機嫌は直らないらしい。そんなに、あたし、まずかったかな。 母ちゃんが食器類を片付け、あたしと父ちゃんは一息ついた。 「なあ、ルナ。」 「ん?」 気のない返事をした。 「エリザベートのことにあまり深入りするなよ。あいつも、もう一人立ちする時期だ。」 「関係ないでしょ。」 「ひねくれるなって。」 「うるさい。立場が違うことくらい分かってるわよ。」 「なら、いいがな。」 大人はいつもこうだ。友情って感覚を忘れ、平気で気持ちを踏みにじり、それがこちらのためだと思い込み、理解しない。 大理石の廊下に足音がやかましく響く。やがて右手に大きな扉があらわれる。ノックなしで勢い良く開けた。 「エリザベート、いったいどうなっているのよ!?」 「そう、興奮しないでよ。ルナ。」 フランコ将軍が暗殺された。犯人は不明。 「ウェセックスがクーデター計画を白状してね。先制したの。」 「あんたがやったのね。」 「仕方なかったのよ。ゼフィーリアに隣接する三国のうち、カルマート公国とエルメキア帝国の動きがおかしくてね。クーデター派、つまりフェリペ派に抱き込まれていたみたいなの。いざと言うときに新政権をすぐに容認するつもりだったのね。セイルーンも同じ話を持ち込まれたけど、断ったから、ああいう結果になった。カルマート、エルメキアと外交関係が緊張するのを抑えるには、阻止して、そのまま闇に葬るのがいい。表ざたにして、はっきりさせるよりもね。」 「やってることが、奴らと一緒だわ。」 「そりゃそうよ。政治だもの。」 大きな机に、うつむき加減で言った。目の辺りが影になっていて見えない。感情を抑えているようだった。 「そう。なら好きにすればいいわ。女王陛下。」 静かに、執務室を後にした。 メインストリートはいつもより暗いムードになっていた。そりゃ、葬式があったんだから仕方ない。王宮、魔道士協会から少し離れた公園内に、戦没した騎士などが埋葬される墓地がある。その方角から流れ、歩いて来る、黒い礼装に身を包んだ式の参列者が街の中に目立っていた。馬の蹄の音が、街の静寂の中に聞こえてくる。参列者と同じ墓地の方角から、馬車が一台通り、途中で止まった。降りてきた男はクローディアス王子だった。参列者の何人かに声をかける。相手はやや涙しながら頭を下げていた。親族だろうか。やがて後にして、こちらへ向かってくる。王宮内に用があるのか。 「おや。これはルナ殿。」 「覚えててくれて光栄ですわ。王子。フランコ将軍は惜しいことしましたね。」 「私には大切な人物だよ。よく働いてくれているからね。」 ・・・・? 何か、言葉に違和感を残し、去っていった。 その様な重い空気の中、ほっとさせる花が一輪。 正門わきの柱に、リナが待っていた。王宮内から出てきたあたしのほうへ振り向き、マントを翻して、ショルダーガードと、護符に、短剣、白い手袋と黄色い貫頭衣、ズボンにブーツを身につけていた。 「どうよ姉ちゃん? 魔法戦士らしくなったでしょ? もう笑わせないわよ。」 「機嫌が直ったようね。そうね、ウェイトレス姿のあたしより強くみえるわ。」 「姉ちゃんはウェイトレス姿でいいの?」 「だってウェイトレスだもん。」 「そりゃそうだけど・・・。ねえ、エリザベートに会ってきたんでしょ? 今日はどうしてた?」 「まあ・・・彼女なりに、しっかり女王様やってたわよ。」 そうして、すたすたと歩き出した。 「そう。ちょっと、どこ行くの? 姉ちゃん。」 「と・う・ぞ・く・い・ぢ・め。気分転換にね。付き合う!?」 「もっちろん♪」 明るい会話に、空は気を利かせず合わせなかった。どんよりと、寒く、灰色に曇っていた。ちらちらと、白いものが舞い降りてくる。 「あ、雪。綺麗だね。なんか、前に見た、フェアリー・ソウルに似てるな。」 美しい姿に導かれ、向かった先は地獄。などというパターンはめずらしくはない・・・・・・・・・・ 最近盗賊が出るという噂を頼りに向かったのは、あたしたちの郷里へ向かう途中から西へ行ったところ。葡萄畑から、再び、葉をすっかり落とした落葉樹の森になり、森が開けると荒れた集落がいくつか点在する。人のいなくなったボロ家に住み着き、盗賊の巣窟になっていると聞いたのだが・・・・。 あたしたちは、歩みを止めた。 「何、これ・・・?」 リナはそう漏らし、口を押さえた。 多分、盗賊だったのだろう。頭が無く、その部分から流れ、あたり一面を赤く染めていたり、胴を真っ二つに切られ、内臓の飛び出たものが無造作に捨てられていたり。原野を探検すると、たまに足をとられる底なし沼。それを人の血で作るなど、悪趣味にも程がある。 あたしも、人は殺しているが、目的以上のことはしない。一方的な正義を振りかざすつもりはないが、無益な殺生はしないことを己の最低限の信条にしている。だが、この殺し方は、違う。一部には逃げようとしたものや命乞いした形跡のあるものなどもあった。虐殺それ自身を楽しんだかのようだった。 静寂の中、雪はしんしんと積もっていく。やや、降り方が強くなったか。赤く染まりながら、遺体を冷たく覆っていった。 ガタ 家々の一つで、壊れかけた戸が倒れた。血に濡れた手が見えた。あたしたちはそちらへ向かった。 破れた戸を全て取り払い、入ると、男が倒れている。胴体を剣で何度も刺され、頭も殴られていた。あたしは上半身を抱え、起こした。 「もう死ぬわ。この人は。脈も強くないし、冷たくなってきてる。リナ、なんとかできる?」 「あたし、治癒(リカバリィ)しか使えないの。」 「ああ。前に、あたしの風邪を肺炎にしちゃったやつか。体力を奪ってしまうわけね。もっと違う呪文があったと思うんだけど・・」 「『復活(リザレクション)』か。ごめん、勉強しなかった。」 「そう・・。他を呼んでも間に合わないわね。ねえ、あんた。話はできる?」 「う・・・あ、ああ・・・。」 「誰にやられた?」 「き、貴族・・・らしき、男二人組み・・・。無防備に見えたから、・・・襲った。が、やられた・・・。片方の、男に・・・。」 「特徴は?」 「右目・・・の、上に、傷があっ、た・・・・・・」 思わず、あたしとリナは見合った。リナも同じことを考えたらしい。つまり、死んだはずのフランコ将軍。 男は、そのまま静かになり、首の脈を確かめると、何も反応しなくなっていた。 指で男の目を閉じ、寝かせて、あたしたちは集落を後にした。 「いくつか、可能性があると思うんだけどね。どう?新米魔道士さん。」 「うん。単なる偽者さんじゃないとして、一つは、コピー・ホムンクルスである場合。エイミー先生はそういうの得意だって言ってたわ。今は足を洗ったって言い訳してたけど。それと・・・・・、」 「もう一つは、本当に本人である場合。」 こく、っとリナはうなずいた。 「あいつは少なくとも一度確実に殺されているわ。」 女王の命を受けた任務だったのだ。生死の確認をしなかったというのは考えにくい。一度死んで蘇生したか、最初から死んでいたか・・・・ 「だとしたら、人間にできることじゃないわね。あたしはもちろん、エイミー先生、赤法師レゾでもね。きっと・・・」 「魔族がかかわってるわね・・・・。」 「でも、彼だとしても、信じられないわ。仮にも誇り高き騎士団の将軍よ。誘惑に負けた弱い人間としても・・・。」 「人っていうのは、誰にもおぞましい闇の部分があるものよ。エリザベートにも、リナにも、神の欠片を持つあたしにもね。ただ、それが表に出るには、理由があるはずだわ。」 「そう、か・・・。ところで、今どこに向かっているの?」 「この地域の領主様の城。ロード・スペンサーのね。二人組みがこちらへ向かってたとすると、その先にあるのよ。」 「それじゃあ、もう片方の男って、スペンサー?」 「多分ね。彼もフェリペ派の、あたしたちが睨んでいるうちの一人だから。」 彼も、クーデター計画にかかわりがあったとしたら、連れてきた赤法師レゾも・・・・? 冷たい湖のほとりにその城は立つ。その外見は美しくもある。だが、門をくぐると、いたる所にマジックアイテムが置いてあり、リナが言うには、城全体が何かの結界になっているらしい。やや、ミスマッチだった。 大魔道士エイミー・ハノーヴァーの弟子が今度、色の称号を受けたので、魔道士でもあるスペンサー卿にも挨拶がしたい。そう言ったら表の門番はあっさり通してくれた。 応接間のソファーに座っていると、彼が現れた。 「へー。おっちゃんがスペンサー卿かー。エイミー先生言ってたよ。『貴族の子弟だから特別に称号は与えてやったけど、あたしの弟子の中でも一番のヘボ』だってさ。」 「こ、こらリナ! いきなり何てこと言うのよ!! 本当のことでも失礼よ。謝りなさい!」 あたしは強引にリナの頭を押し下げて共に謝罪した。 「まあまあ。本当のことでも、ってあたりがひっかかるが、そう気にすることは無いよ。」 穏やかな声で答え、向かい側に彼は座る。優しい笑顔に見えて・・・目は笑ってない。かなりムカついたな。 「『桃色(ピンク)のリナ』殿の話は聞いているよ。天才だそうだね。マスター・エイミーも相当な可愛がりようだった。ところで、あなたは、お姉さんかな?」 「ルナ・インバースと言います。」 目が、かすかに変化した。やや不自然な作り笑いになった。 「ほう。そうすると、あなたがあの、女王陛下のご友人ですか。私に何の用ですか?」 いろいろ考えたが、ストレートに聞くことにした。 「ここへ来る途中の集落で虐殺の現場を見てきました。何か心当たりは?」 「分からないとしか言えません。ですが、私の領内で起きたことには、当然責は私にあります。調べておきましょう。」 「犯人は右目の上に傷のある男です。まだこの辺にいるはずですが、スペンサー卿や卿の配下の方は何か見てませんか?」 「・・・報告は、受けてません。」 「そうですか。分かりました。今日はいきなりお邪魔してすみません。」 「いいえ。」 あたしとリナは席を立った。彼はソファーに座ったまま振り返らず、窓の外の雪を見ているようだった。 「あ。いい匂いだ。」 ほんとだ。 「料理つくってるみたいね。」 「姉ちゃん、あたし覗いてくる。」 「あ。こら! 邪魔するんじゃないわよ。」 リナは廊下をいい匂いのするほうへ軽いステップで走っていった。 「何か、今日はあるのかしらね・・・・。」 そう、広い廊下でひとりごちて行くと、表のロビーに一人、立っていた。少年らしいが、白いフードを深くかぶり、口元はマスクで覆っている。リナより、2,3歳程度上だろうか。 「宴会があるらしい。親しいロードや大臣を何名か呼んで会合を開くようだ。」 「あんたは?」 フードの下からわずかに見えている姿は普通のものではなかった。肌は岩。見えている前髪は銀。でも瞳は確かに人間のもの。とても澄んだ、純粋な意思の光を奥に宿していた。しかし、暗く重いものに覆われ、常に世間を警戒しているようだった。 「人に尋ねるときは自分から名乗るものだ。」 「これは失礼。プロ根性は鍛えられているようね。坊や。あたしはルナよ。」 「ゼルガディスだ。本当に失礼な女だな。」 「ここの城の人?」 「いいや。赤法師レゾについて来たものだ。」 「ええ? あのレゾがゼフィーリアに来ているの!?」 ちょっとひっかけてみたり。 だが、彼は何も表情を変えなかった。知らなかったことを意外に思うでもなく、あたしを疑うでもなく、しばらくまっすぐ見た後、 「ここのロードに頼まれて、呼ばれてな。宮廷魔道士に推薦され、就任したら王宮にあるという公文書館の昔からの魔道資料を見せてもらうことを約束されている。目の治療の研究のためにな。」 「へー。なるほど。ところであんた、師匠のこと、あまり信用してないでしょ。説明の仕方が、何か、なげやりでどうでもよさそうな感じだわ。」 「・・・・かも、しれんな・・。」 「何を頼まれて、ひきかえに魔道資料をみせてもらうのかしらね?」 「さあな。知らされてない。向こうも俺を信用してないらしい。」 「そう、ならなんでもいいわ。何か知っていること・・・、そうね。例えば、今日開く会合の目的は?」 「・・・・、前祝、とか言ってたな。『変革』が今夜、だとか・・・・・」 「『変革』が、今夜!?」 「ああ。」 「もう一つ。右目の上に傷の・・・」 「フランコとか言うやつか? そいつなら、お前らと入れかわるように出て行ったぞ。」 「そう。やはり、ここへ来ていたのね。」 「何か役に立ったか?」 「ええ。とても役に立ったわ。これはお礼よ。」 彼に近づき、右手でマスクを降ろして、ほおを向けさせ、キスをした。 「なっ!?」 岩の肌がぽーっと赤くなっていく。まだお子様ね。 「何を心に秘めているのかは興味ないけど、自分だけは見失わないようにね。人が破滅するかどうかなんて、紙一重だから。そのうちまた会いましょ。坊や。」 廊下の奥からリナが戻ってきた。彼は、赤くなった顔を見られたくなかったのか、フードをより下げて、後ろを向く。 その側をリナは通り過ぎた。 「姉ちゃん姉ちゃん、あたし、気になるもの持って来ちゃった。」 「そう。とりあえず、ここの城を出るわよ。」 後に、この時の話を聞いたセイルーンのある王女が、わけもわからず怒って、あたしに一方的に挑戦状をたたきつけたりするのだが、それはまた別の話である。 |
12854 | 赤の竜神の騎士U―3 | R.オーナーシェフ E-mail | 2003/1/13 20:40:03 |
記事番号12852へのコメント 「囲まれてるわ。」 ゼフィールへ戻る森の中、リナはつぶやいた。 「へー。いつのまに。分かるようになったのね。偉いわ。」 「父ちゃんにコツをね。」 「そ。戦える?」 「もちろん。」 目を閉じて、気配をより正確にさぐった。右手に伏せているのが、一つ、二つ・・・・ 「いいかしら? リナ。」 「うん。姉ちゃん。」 「ワン、ツー、スリー」 だっ、と同時に逆方向へ飛び、その中間に攻撃呪文が炸裂した。すぐにリナは反撃し、ファイヤーボールを連打で放り込む。悲鳴が重なり、森は紅蓮の炎につつまれた。 考えるより早く。 後ろ。手を伸ばすと、黒ずくめの暗殺者が剣で斬り込んで来る。あたしはその刃を指で挟んだ。軽くひねり、暗殺者を投げ飛ばし、両刃の剣を奪って、続けて一斉に殺到する暗殺者に向けて一振りする。剣や鎖鎌ごと四人を居合いで切り裂いた。 「まったく。予想通りに襲ってくるなんて。実は人に言えない悪いことしてます、って白状したようなもんよね。」 そう言いながら、暗殺者たちの中に、ヴェローナの森で会った、突き刺さるような視線の暗殺者がいないのが気になった。同じ連中ではないかと思うのだが。彼がいないせいか、ややレベルも落ちている。いったいどこへ? フランコが結局行方知れずなのも気になる。だが、今はゼフィールへ戻ることを優先しなければならない。 剣に『力』をこめて一閃し、真空波を放つ。 「はっ!」 白い静寂に、夜の闇が訪れる。あたしは王宮へ向かった。 神託。 うるさい! あたしは好きにやらせてもらうわ。あたしはあんたと違って人間だからね。天竜王。黙って見てなさい。 窓から外を眺めると、雪はまだ降り続いている。静寂。そして、白い闇。無限に広がるかのように感じるその世界は、気を抜けば飲み込まれてしまいそうにも感じた。広い部屋の中心には、カーテンで囲まれた大きなベッド。 「う〜ん・・・・」 セクシーな声を上げながら、彼女は可愛く寝返りをうつ。響くのはその声と、きしむベッドの音。だが、彼女が孤独な表情に戻ると、その音の波も、すぐに空間に染み込み、飲み込まれてしまう。 きい、と扉が鳴った。開き、寝室へかすかに明かりが射す。女官が一人現れた。額にはルビーが埋め込まれていた。無言で彼女は近づき、ベッドを囲む、白く透明なカーテンを開けた。懐から小さなビンを取り出す。そっと、ベッドに眠る彼女の耳に垂らそうとした。 「こら。起きなさい。エリザベート。」 ぎょっ、と女官は心臓が止まりそうな勢いで振り向いた。あたしはカーテンの影から現れ、ベッドで眠る女王に声をかけ、起こした。 「何? あれ? ルナじゃない。それと、あなた・・・・」 あたしはベッドを回り込み、エリザベートとあたしで女官を挟む格好になった。 「ふっ。毒薬が駄目なら直接手を下すまで。女王の命はこの魔道士ヴルムグンが貰い受ける。まずは貴様からだ。」 ヴルムグンと名乗った女官は呪文を放ち、炎があたしを包んだ。だが、あたしは気にしない。ゆっくり、歩みを進める。力ずくで女官の首を捕まえ、もう片方の手の指で額のルビーを外した。指圧で、それを砕く。 フッ、と女官は気を失った。 「助けに来てくれたのね。ルナ。フランコ暗殺して嫌われたと思ってたのに。」 「嫌ったわよ。政治家としてのあんたは嫌い。女王という存在には絶対に忠誠誓わないわ。でも、 そんなドロドロした世界にすべて飲み込まれるほど、あんたはヤワじゃないでしょ。何も変わってないわ。今までと同じ、あたしのパートナーのエリザベート。‘女王陛下’が何しようと関係ないわ。あたしは素顔のエリザベート自身を信頼しているから。あんたは絶対死なせない。」 「ふ、ふっふっふっふ。おかしなルナ。」 そう言って、目からかすかにこぼれたものを彼女はぬぐった。 「涙は後にしましょ。あたしたちの冒険の途中にそれは似合わないわ。まだ終わってないわよ。」 「そうだね。」 あたしは腰の剣を抜いた。それを振り上げ、 「ちょ、ちょっと、ルナ?」 投げつけた! 廊下側の壁を、音を立ててぶち抜き、そのさらに向こうに突き刺さる。そこに立っていた少女の頬をかするように。 「あたしの城壊す気かいっ!?」 「うん。」 「な、なんだとぉ? って、こんな言い合いしてる場合じゃないね。そこの女、その方、見かけない顔だが何者だ!?」 「えっと、あ、あの、赤法師レゾ様のお供の魔道士で滞在させていただいてます、エリシェルと言います。大きい音がしたもので、もしや女王陛下に何かあったのかと・・・・」 その少女がしゃべるのも気にせず、あたしは近づいていった。 「なっ・・・」 「あんたなんでしょ? 操っていたのは。」 「くっ。何なのよ。あんた・・・」 壁にあけた穴をくぐり、崩れ落ちたカケラをまたぐ。後ずさりして壁に当たった少女の頬を、そっとなで、顎を上げさせた。 「ここに立っていたのは気配で分かってたわ。ルビーはカンかな。見かける顔の女官だし、戦士や魔道士特有の視線や雰囲気をもっているわけじゃない。潜入していたとは考えにくいしね。それにあたしって、アストラルサイドの流れって、感覚で、なんとなく分かっちゃうのよね。」 多分、あたしの中の『神の欠片』が触媒のようになっているのか、正確には自分でも知らない。 こくっ、と少女は飲み込んだ。 「まだ小さいわね。ちょうど、あたしの妹くらいかな。敵として相手にするにはまだ早いわ。ほら、来たみたいよ。戻りなさい、師匠のところへ。」 肩を、ぽんと押した。少し前に転びそうになりながら、振り返りあたしを睨みつつ、歩いてきた彼の側による。 エリザベートも寝室の扉から出てくる。その両脇には魔道士と同じマントと護符をつけ、長剣を腰にさした騎士が立っていた。その姿は精鋭であることを示す。だが瞳には意志の光がない。人形のように冷たく、動かなかった。 「赤法師、レゾ。この女王の命を狙うとは。堕ちたな。大賢者。」 無言で、赤い闇を纏う彼は答えた。 「必死なのよ。この大魔道士さんも。自分の目の治療のためにね。」 「目の治療?」 「公文書館奥の古代魔道資料を、研究のために見せてもらう約束をしてたらしいわ。スペンサーを通して、おそらくは、“新国王”とね。」 「ああ。なるほど。やっぱクローディアスのほうが奴らにとって都合がいいのか。」 「ま、だいたいそんなところです。もはや、見苦しいマネはしません。この赤法師は逃げも隠れもしませんよ。」 穏やかな口調だった。 「いいえ。逃げなさい。」 「それは・・、どういうことですか?」 「そうよ、ルナ。逃がしちゃうなんて。」 「ねえ、エリザベート。魔道資料くらいならいいでしょ? 見せてやりなよ。」 「み、見せるくらいならいいけど・・・・」 「それみたら、このゼフィーリアから出て行きなさい。赤法師レゾ。ここであたしが何もしなくても、いずれは誰かがあなたと対決するわ。あなたの存在は危険みたいだから。世界のためには抹殺した方がいいらしいけど。でも、そういうのに従うのは、あたしは面白くないの。」 聞いていた彼は、混乱することなく、軽く息を吐き、リラックスしたようだった。 「よろしいのですか?」 「あなたくらいの大賢者になれば、相手の力量も読めるでしょ? よく見なさい。あたしを。」 彼と、見つめ合った。もちろん、目は閉じられたままなのだが、心の、力強い視線は感じた。 「あたしは、強いわよ。赤法師レゾ。大賢者のあなたよりも。」 もちろん、彼の中に眠るものに対しては、話は別だが。 「でもね、向かってこない相手には何もしたくないの。神様じゃないからね。あたしはあなたを裁けない。人を裁くことはしたくないのよ。だからゼフィーリア、いいえ、このあたしの前から消えなさい。それとも、あえて敵対するのなら、全力を持ってお相手するけど、どちらがいいかしら?」 別に、神の力を持つからと言って、世界の存続に責任を負っているわけじゃない。あたしの仕事じゃないわ。非難したければすればいい。竜王よ。 「わかりました。感謝します。あなたに従いましょう。」 「情けじゃなくて、あたしのわがままだから。感謝する必要はないわ。」 「赤法師。一つだけ。」 エリザベートが言った。 「何か? 陛下。」 「こいつらの目を覚まさしてくれる? やったのはあなたなんでしょ?」 扉の前に立つ二人を示す。 「ああ。はいはい。」 しゃらぁん、と錫杖を鳴らした。二人の瞳に光が戻る。いきなり目の前にあたしたちが現れたように見えただろう。驚き、慌ててきょろきょろと周りを見渡した。 「陛下。いったい、これは?」 「いろいろあってね。」 「おお、なんと麗しきそのお姿がふっ。」 騎士の一人にエリザベートのみぞおちが決まった。17歳のエリザベートの寝巻き姿に見とれた彼は、10歳は年上。 ・・・・ロリコン。 しかも眠らされて何もできなかったし。だが、こう見えても騎士の中では一流の魔法戦士たるエリートだ。今回は、相手が凄すぎた。 その時だった。 ズーン、と大きな爆発音が立て続けに響き、出てきた寝室の窓が爆風で割れた。遅れて、レゾの向こう側から走ってくる騎士が一人。 「ビリエール将軍より女王陛下に申し上げます! 現在、正体不明の暗殺者の襲撃を受け交戦中! シュワルツコフ将軍、『戦死』。」 「シュワルツコフが!?」 騎士団最高位の統合参謀総長である。 さらに、もう一人、騎士が暗い廊下の奥から走ってきた。だが、途中でつまずき、倒れた。 「おい!どうした?」 立っていた女王警護の騎士が駆け寄り、抱えた。額から血を流していた。 「うくっ、へ、陛下に、申し上げます。風の騎士団、謀反。」 あの男の指揮する騎士団である。 地、水、火、風、首都・王宮を守る聖剣騎士団、そして表向き女王警護と、諜報および対魔族戦も行うビリエール指揮の精鋭、近衛騎士団こと、通称魔道騎士団まで六つある。その中の一つだった。 「エリザベート、フランコは生きてるわ。それと、シュワルツコフを殺った奴には心当たりがあるの。そっちは引き受ける。」 「伝えて。統合参謀総長に任命する、って。全部束ねられる力量があるのはあの男しかいないから。タフだし、大丈夫とは思うけど、死なせないで。」 「OK」 彼女は警護の騎士二人の方を振り返った。 「怪我人に治療呪文を。それと、あんたはついてきなさい。あたしの剣と甲冑を用意して。」 『はっ。』 「あとは、好きになさい。赤法師。」 「私もすべては知らされていなかったようだ。ことの成り行きを最後まで見届けさせてもらいましょう。終わったら、約束の通りに消えます。」 参謀本部の入っている棟の正面は破壊され、煙を上げていた。そこから通じる渡り廊下で、長剣を振るう老騎士と、暗殺者は戦っていた。 ビリエールが居合いで一閃。暗殺者がギリギリでかわし、地の雪を蹴り、手刀を首へ伸ばす。ビリエールが剣の柄でそれをたたき、連打で上から斬りつけた。だが肩を浅く薙いだだけ。暗殺者は横へ飛び、すばやく後ろへまわる。だが、反対側からビリエールの回し蹴り。頭部を蹴られ、気絶しかけたようになる。止めとばかりに剣で鋭く低い突き。それに、一瞬で暗殺者は反応した。突いてくる剣に両手を突き出し、折った。動きに遅れるように、後から乾いた音が響く。下から、凄まじい蹴りがビリエールのあごに入った。後ろにふらりと倒れかけ、暗殺者は首の骨へ手を突く。 あたしは、そこを狙った。高度な暗殺技術を持っているが、それに集中するあまり、背中がほんの一瞬ガラ空きになった。 そうさせたビリエールの方を褒めるべきかもしれない。 あたしのその姿を、パートナーとして近くで見ることの多いエリザベートは、こう言う。 赤い稲妻。 「があああっ!」 背中を高速剣で一閃され、背骨と脈を断ち切られるが、摩擦熱で切断面が焦げ、血は吹き出さない。暗殺者はその場に崩れ落ちた。ここで油断すればやられる。迷わず、あたしは剣で頭部を砕こうとした。だが、彼は寸前で転がり地を蹴った。 「また会ったな。だが、次はもう無いだろう。黒霧炎(ダーク・ミスト)」 暗殺者の黒い霧の術であたりが覆われた。夜に使われると何も見えないが、あたしはそうでもなかった。 霧に覆われた空気のわずかな変化、相手の呼吸。そういったものが、闇の中をまっすぐ走る。あたしに向かって。手刀がまっすぐ伸びる。下段からの突きで迎撃。だが、寸前で暗殺者はわずかに避け、それでも、腕を浅くだが肩まで切り裂いた。血が噴き出す。暗殺者はかまわず勢いを止めない。手の先が、あたしの右の二の腕に触れると、すれ違うように走っていった。 やがて霧が晴れると、気配は完全に消えていた。 「すぐに治療しなければ、彼は死ぬわ。そう遠くへは逃げられないはずよ。」 あたりを真っ白に染めた雪の上には、赤い模様が自然に描かれていた。暗殺者の血で。この量。背骨も斬った。 普通は、死ぬ。普通なら。 「ああ。手配をかけよう。これで奴も終わりだ。それにしてもさすがだな、ルナ。あのズーマをあそこまで追い込むとは。」 「ズーマ? あいつが? あの話に聞く暗殺者の中の暗殺者(アサッシン・オブ・アサッシンズ)?」 「そうだ。強かったよ・・・。」 そう、彼はつぶやいた。参謀本部棟の壊れた入り口奥に横たわる男―シュワルツコフ将軍を見ながら。 彼は遺体に近づいて、無造作に倒れている亡き英雄を起こし、まっすぐに横たえた。出血は無い。首の骨を折られたか。座り、呪文をつむぐ。遺体を浄化し、竜王の加護を求める白魔法。実際に神へ呪文が届くわけじゃない。千年前からは。本当は腐敗の進行を止める精霊呪文だ。それでも、魂に少しでも、気持ちが届けば・・・・。 「彼女から伝言を預かってるの。彼の後は、おっちゃんだってさ。騎士団のボスは。束ねられるのはおっちゃんだけだ、って。」 後ろからそう言うと、ゆっくり彼は立ち上がった。 「そうか。では参謀総長の初仕事だ。すぐにエリザベート大元帥のもとへ参じるとしよう。あの男との対決もあるしな。」 見上げると、城の向こう側は赤々と炎に照らされていた。ワーワーという戦いの声が響いている。 「多分、死ねない体になってるわ。あいつ。」 「想像はついている。」 その時だった。普段から聞きなれている声が響いたのは。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・我と汝が力もて 等しく滅びを与えんことを ドラグスレィィィィィィィィィィィィィィィィィブ!!」 闇夜が閃光で吹き飛ばされる。 「あ、あの娘ったら・・・・・・・・・・」 思わず顔を片手で覆った。 くれぐれも城の外を見張るだけって言ったのに。リナのやつ。帰ったら姉として制裁せねば。 あたしとビリエール将軍は、リナの竜破斬の光の方向へ走った。 王宮裏庭から門、そして樹海とつづくところ。そこで風の騎士団と聖剣騎士団は激突していた。多分、樹海へ回り潜み、フランコ将軍の合流によって夜襲をかけたのだろう。最初から奇襲をねらって指揮官は‘暗殺された’のだ。 あちらこちらで爆発がおき、腕が飛び、首が飛び、白い雪が血で赤に染まっていく。攻防は一進一退。 その上の城壁に、リナは立っていた。 「姉ちゃん見てよ、あれ!」 「ええ。見えてるわよ。」 レッサー、ブラスデーモンの群れが、樹海ごとリナの竜破斬でえぐられながら、再び埋めようとしていた。遠くで闇の中、物凄い数か気色悪くもぞもぞと蠢いている。あれだけ呼び出すのは人間ではできない。魔族がかかわっていることは確定的になった。このあたりのどこかにいるはずである。 そこへ連続してあたりに大きな爆発が起きた。見渡す限りのデーモンや激突する大軍勢の中に、数十人ほどが、王宮城壁の上から、風の騎士団さらに後方の樹海から、レイウィングで上空から、複数方向の暗闇より同時に突然乱入する。ゼフィーリア王国紋章入りのショルダーガードから、赤の竜神の色をイメージした真紅のマントをなびかせる近衛騎士団。彼らに導かれるようにして、門の中から白馬にまたがった彼女―エターナルクイーンも現れた。白色の目立つ甲冑をあえて纏い、存在を示す。魔法と矢で集中攻撃受けながら防御呪文により片手で受け流し、軽く攻撃魔法を返す。もう片手で大きな矛を振るい、周囲の敵をなぎ倒していった。その両側で、あたしたち姉妹は近衛騎士団に加わり、暴れ始めた。隣では、騎士の一人に引かれた馬にビリエール将軍もまたがる。 それを見ていた風の騎士団の何名かは驚いた表情をうかべた。女王、将軍とも、彼らの予定では死んでいることになっていたからだ。別働隊の失敗を確認し、精鋭の猛攻を受けた彼らはしだいに後へ押されていった。 だが、敵は数が多い。なによりもデーモンが。そして魔族に対抗できる力を持つ近衛こと魔道騎士団は精強だが、それゆえに数が少なかった。周辺への被害を考えれば大きな呪文を連打するわけにもいかず(うちの妹はやるけど)、このままいけば疲れてくる。そしてなによりも、今、軍勢の中から馬にまたがって目の前に現れた、敵指揮官である彼は、おそらく不死身なのだ。どこかで見ている魔族を倒さない限り。 馬を降り、ゆうゆうと将軍は歩く。聖剣騎士団の矢が一斉にそこへ放たれ、胸に突き刺さる。邪魔なそれを剣で切り払った。近衛騎士団の攻撃呪文が続けて放たれる。覇王氷河列、魔竜烈火砲、冥王降魔陣、崩霊裂。通用せず。閃光をうっとうしそうにしながら、姿を現した。 「みんなどいて! 竜破斬!!」 リナの竜破斬第二波。聖剣、近衛はふせ、すれすれを光線が貫き命中する。デーモンや逃げ遅れた風の騎士団を一部巻き込み爆発した。 「おとなしく死んでいれば地獄を見ずにすんだものを。無理するなよ。ジジイ。」 煙が静まり、やはり姿を現した将軍に向かって、エリザベートは馬を止めて言った。 「いきがるな。不良娘。」 将軍が言った。 |
12855 | 赤の竜神の騎士U―4 | R.オーナーシェフ E-mail | 2003/1/13 20:48:27 |
記事番号12852へのコメント 三度、大きな閃光が辺りを包んだ。竜破斬。リナじゃない。デーモンの群れのはるか向こうからそれは炸裂した。ちょうどリナが作ったクレーターまで達し、デーモンの中に道を作ったようになる。その中央を、周囲の状況を気にすることもなく、ゆっくりと彼女は歩いてきた。新月の夜のように黒く、流れるような長髪。本当はかなりの婆さんのはずだが、ボディーラインは若いまま、恐ろしさをも内包した美女。レゾと同じ、近代の五大賢者の一人。 「マスター・エイミー・ハノーヴァー。」 振り返り、フランコ将軍はつぶやいた。 「騒がしいわね。うちの家の庭先で何をしているのかしら?」 「戦争さ。」 フランコはエイミーに答えた。 「ああ。喧嘩ね。」 「そうとも言うがな。」 いつのまにか、軍勢やデーモンたちまで静まり返っていた。リナも呪文を連打するのを止めた。なぜか、彼女には誰も手を出さない。出せないでいた。 エイミーはフランコの側をまっすぐ通り過ぎる。エリザベートの白馬をなでた。 「女王側に味方するか? 大賢者。」 「娘みたいなものなのよ。あたしたちにとっては。ね、ピーター。」 ビリエール将軍のほうを見た。 「孫だろ。まだ若いつもりか? エイミー。」 「そうよ。悪い?」 「いや。いいことだ。」 「娘でも、孫でもいいけど・・」 エリザベートは白馬を降りた。 「決着をつけるから、あたしが可愛かったら黙って見ててよ。」 矛を側の騎士にあずけ、持たせていた大きな長剣を受け取った。彼女の背丈ほどもある。あたしの側で、小さくささやいた。 「なんとかできる? 魔族の方は。」 あれだけ攻撃しても滅びず、リナの竜破斬が通用しない。よほど高位の魔族と契約を結んだか。多分、人の形をしていて、デーモンを操れる、それほど離れていないところにいるはずだが。あたりを見ても・・・・・・・ 高位のやつが人間の将軍にペコペコするわけはないか。風の騎士団にはいない。偉そうにしている人間・・・・・・・・・・・・ ああ。なるほど。 だから『よく働いてくれている』、か。 「ねえ、クローディアス王子は?」 「城の中よ。あたしに万が一の事があった時はあいつが王位を継ぐから、安全なところにいなさいって命令しておいた。“監禁してる”とも言うけどね。」 「そう。魔族の方は、何とかできると思うわ。あたしのカンが当たっていれば。」 「信じるよ。ルナに賭けてフランコと戦い、魔族に勝ったときにあたしもあいつに勝つ。ね、あれは用意してある?」 側の騎士にたずねた。 「はっ。ルナ殿、これを。」 「何? これ。」 「ルナの。」 「いらないわよ。別に。」 「ルナのものでしょ? 最初からね。こちらで預かっていたって困るし。そのウェイトレスの格好なんとかしなよ。」 そう言ってエリザベートは呪文を唱え、剣に魔力を込めた。 あたしはウェイトレスが気に入ってるんだけどなあ・・。 「じゃ。いってくるわ。がんばってね。」 「うん。」 とりあえず、それは受け取った。 軽装に慣れているあたしにはショルダーガードは邪魔かと思ったが、意外に軽かった。深い青色に、防御の護符を兼ねた金の飾り。真紅のマント。ショルダーガードには王国の紋章は入ってないが、それ以外は、目の前を歩く近衛の騎士と同じ姿をしていた。なぜ? マネをしたからだ。こちらの方ではなく、近衛騎士団の方が。あの、天井画に描かれた、転生するよりも千年前のあたし、赤の竜神の騎士の姿を。 「あちらになります。」 ステンドグラスからかすかに雪明りが入るだけの、ほとんど闇に近い謁見の間。その中央から、彼は玉座の方向、その向こう側のカーテンを示した。 「ご存知ですか?」 「ええ。『常夜の間』でしょ。話には聞いてるわ。」 彼がカーテンを開いていくと、大きな扉が現れた。はるか高い天井まで、壁だと思っていたところまである。彼は、おそらくエリザベートや側近の一部の者しか知らないであろう、カオスワーズを唱え始めた。 「めんどくさい。」 ボコンッ 正拳突き。 あたしの拳のところが砕け、全面にひびが入っていくと、煙を上げて崩れ落ちた。 「ああああああっ、オ、オリハルコン装甲がっ」 「この方が早いでしょ?」 「大変なんですよ。これ、直すの。予算もかかるし。」 「やむを得ないわ。緊急事態よ。」 「あなたが言わないでください。ま、やってしまったものは仕方ありませんが。」 「じゃ、行ってくるわ。」 「お気をつけ・・・・なくても大丈夫そうですね。」 大きな暗黒が、口を開けて待っている。冥界があたしをデートに誘いたいらしい。 いくら可愛いからって。もう少し、女を見る目をみがいたほうがいいわ。あたしは男には尽くさない。魔族であればなおさら。あたしにかかわると火傷じゃすまないわよ。 暗闇の中を石畳が続く。ぽつり、ぽつりと、たまにライティングは灯されている。先を見るには最低限の明るさが、不気味さを演出していた。階段を降りて、やや湿ってくる。地下に降りたか。また道が続き、しばらく行くと騎士が立っていた。通りの両側に、こちら向きとあちら向き二人づつ。その間に右折して、さらに二人。奥には、やはり大きな扉があった。ちょうど彼らの中央に立つようにして扉を見ながら、ここから立ち去るように言おうとすると、異変に気がついた。彼らは何もしゃべらない。瞳は虚空を見つめ、やや、震えているようにも見えた。 「がっ」 ひとりが声を漏らす。慌て、振り返ると、とたんに口から血を吐き、胸のプレートの間からどろりとしたものが落ちる。髪が抜け、顔が崩れていく。他もそれを追うようにして人の形が崩れていった。重い扉は、向こうから開いた。常夜の間に足を踏み入れる。謁見の間程度の広さだろう。床や壁の表面は大理石か。きっとそれに覆われた、厚いオリハルコンだ。女王、王族の非常時の避難場所で、場合によっては絶対抜けられない地下牢にもなる。明かりはライティングじゃない。壁や天井が淡く光っていた。それを、床の大理石が反射し、ぼんやり青白く包まれる。顔の表情がなんとか分かる程度の明るさでしかないが。奥には簡素なデザインの一段高い玉座。そこに彼は座っていた。 「さすがにゼフィーリアの騎士だよ。精強無比と呼ばれるだけのことはある。彼らはね、この私が魔族だと見抜き、戦いを挑んできたんだ。その勇気に敬意を表して、ご褒美にね。夢を見させてあげたよ。精神にちょっと手を加えてね。」 「で、‘食事’をしていたわけね。」 「そう!そうなんだよ。いや、なかなかに美味かった。君にもご馳走を分けてもらおうと思ってね、目の前で、彼らの姿を崩してみたんだが・・・・、君はケチな人間のようだね。」 「商売人の娘なのよ。欲張り魔族さん。もう隠すつもりも無いようだけど、名は?」 「よく聞いてくれた。私の名は覇王神官ダーイ。」 玉座から立ち上がった。人間のフリして押さえていた瘴気を発し始めた。 「本物のクローディアス王子は?」 「その辺探せばいるだろう。肉の塊になってね。」 屍肉呪法(ラウグヌト・ルシャブナ)か。 「何をしていたの? このゼフィーリアで。」 「この地はね、魔族の間でも興味をもたれている地域なんだ。人間はたまに、その身には過ぎた力を持つことがある。例えば、『クレアバイブルの写本』なんてものによってね。ザナッファーなどという前例もあるし。私くらいになれば関係ないが、下級の連中には結構脅威になるんだよ。だから、その芽は摘むことにしている。赤眼の魔王(ルビーアイ)様の分身を探しながらね。ある魔族は写本を発見して焼くことをしている。私などは、人間の間で伝説となっている者が多く生まれているこの地に、潜入しろと命を受けているんだ。前は別の魔族がやっていたんだがね。」 「ああ。フェリペ王子の件ね。」 「そう。私とは別の系統の魔族だったんだが、大根役者だったようだね。だが、私は違う。」 「どうだか・・・。それで、人間に、ちょうどよく役に立ちそうな連中がいた。」 「その通りだよ。あのフランコは特にね。心に野望を抱き、精神をそれほどいじる必要も無かった。私たちの利害は一致して、契約を結んだんだ。話はここまでかな。もういいだろう。君と知り合えてうれしいよ。赤の竜神の騎士(スイーフィードナイト)ルナ・インバース。有名らしいね。人間の中では強いって話だけど、どれほどのものなのか、楽しませてもらおうか。」 言うや否や、いきなり手から光球を投げた。あたしは目に力を込めた。 虚空ではじける。届かずに、あたしの目の前で炸裂し、薄暗い部屋を光で焼いた。 「まだ小手調べだよ。」 指をパチンと鳴らすと、部屋の中の空間に異形の者が次々に現れる。一斉にあたしに殺到した。あたしは回転しながら右手でマントをばさぁっとひるがえした。 『グゲァ』 煽られ、軽く触れると、魔族は皆、虚空に塵と消える。麺棒や擂り粉木に力を込めてどつくのはたまにやるが、布では試したことは無かった。少し増幅する力があるのだろうか。エリザベート、あたしに合わせて作ったのかもしれない。 「なめてんの? あんた。」 「面白いね。人間っていうのは。少し力があると自信過剰になる。そういうのは身を滅ぼすよ。」 「あんたには言われたくないわね。」 ドンッ、と、アストラルサイドから衝撃。やや大きめのそれがあたしに噛付こうとしたが、イメージで押し返し、砕いた。ダーイが少し表情を歪めた。 「本気で来なさいよ。」 「そうさせてもらおう。」 ダーイがアストラルへ消え、いきなり目の前に現れた。両手を、剣を握るように上段に振り上げて。その部分に黒い、変わった形の剣が現れる。多分、あれも魔族。 あたしは腰の剣を握り、居合いで斬ろうとした。 どくんっ 「!?」 かまわず、斬り裂いた! ダーイの姿が虚空に塵と消える。だが、手ごたえが無い。一瞬、右の二の腕に痛みが走り、居合いが遅れたと思ったが。おとり? だとしたら・・ 「所詮は人間か。スイーフィードナイト!」 気配は後ろから現れた。まっすぐにダーイは剣を振り下ろした。 「終わりか。ふん、こんなものだ。 ・・・・・いや?」 剣で真っ二つに切り裂いたはずのあたしの姿が、虚空に消えていった。 「ま、まさか!? 人間風情が‘おとり’だと?」 「いいえ。」 そのまた後ろから。あたしは語りかけた。 「それはね、『残像』って言うのよ。」 気づく余裕も認めず、ただ、魔族に己が好きな恐怖を与えて。今度は間違いなく、居合いで斬り裂いた。 「楽しんでくれたかしら?」 「にん、げっ、んが、なぜ・・・・・」 虚空に塵と消えていった。 あたしは右の袖をまくり上げた。そこは、ちょうどズーマが最後に触れていった部分だった。濃紺の、粘液のようなものが肌につき、蠢いている。皮膚を侵食しつつあった。 ・・・・? 「んっ!?」 左肩に熱いものが走る。 カン、としか言えない。アストラルの早い動きに気づくのが送れながら、それよりも早く、あたしは低く右へ避け、床を転がった。 「さすがだな。確実に心臓を貫いたと思ったが。」 貫かれた左肩から、じわじわと血が流れ始めた。目の前に現れた彼は、もちろん覇王神官ではない。その感じるアストラル体の大きさからして、部下を失った親玉ってところか。どこかの貴族か王族のような姿の中年男。 「だが、‘それ’に気づくのは少し遅れたようだな。らしくないではないか。千年前よりも弱くなったか?」 「ひょっとしなくても、この粘液もまた魔族だったりするわけね。覇王グラウシェラー。」 ふらふらと、あたしは立ち上がった。 「その通りだ。それもまた、我の一部たる魔族だ。久しぶりだな。赤の竜神の騎士。といっても、人間ならば覚えてはいないか。」 「なんとなく、どこかで会ったな、って感覚はあるわ。」 「そうか。先ほどの我が神官の無礼は許してもらいたい。」 「へー。礼儀正しいのね。」 「我は貴殿の強さを知っておるからな。だが、下の者には知らせてはいないのだよ。魔族が昔、人間に追い詰められたなどと知れ渡ったら、下級の魔族なら存在すら危うくなるのだ。それでは、始めるとしようか。千年ぶりに、‘戦争’の続きを。フェアじゃない、という人間のくだらん価値は通じぬぞ。」 「分かってるわよ。‘戦争’でしょ。」 虚空から、覇王は長剣を出した。 「ふんっ」 一瞬で間合いを殺し、剣を振り下ろす。やや不利な体勢で受けた。体をひねり、力を流す。すぐ離れ、間合いを置いた。 あたしたちの動きにやっと追いつくように、金属の音が鳴り響く。床に落ちたそれは、薄暗い空間に鈍い光を放つ。あたしは自分の剣を見た。途中で切られていた。 あたしの得意技、目の前でやりやがったな。 「本気で来たらどうだ?」 「そうさせてもらうわ。」 それを待っている、というふうでもない。あたしが剣を失ったチャンスに攻撃するのではなく、慎重に探っているようだった。右腕と左肩の痛みもある。あまり余裕は無かった。剣を、床に捨てる。高い音が響く。居合いの体勢に構え、左手に鞘を握る形を作った。 「あれを出すのだな。」 あたしの場合、普通の剣や麺棒でも、呪文無しで魔力剣並みの威力をこめて使うことができる。だが、魔力剣もないではない。それを使うと『欠片』による意志力を増幅しすぎるのだ。普段、本来あたしのものであるその剣は、ここの城の神殿に御神体として祭ってあったりする。あたしはイメージでもう一人の‘妹’に呼びかけ、異空間へと誘った。左手に現れ、この部屋を赤い光で明るく照らす。赤の竜神の残した『欠片』の一つ、赤竜剣。 刹那、あたしのいるところへアストラルから一気に覇王の触手が伸び、空間を歪ませて爆発した。根性で弾くと、煙の中から飛び出し、床を蹴った。空中から逆さに覇王めがけて居合いの体勢をとる。覇王が消えた。後ろ! 「やはり千年前より遅い! 腕に仕込ませたそれが効いたか?」 あわててひねり、鞘で覇王の剣を受けた。叩き落され、床に激突する。 「そろそろ終結させようぞ。‘戦争’を。」 少し離れて、床に降り立った。ゆっくり、あたしに近づいてくる。あたしは起き上がり、剣を鞘から抜いた。 右の二の腕に、刺した。 激痛。じゅっ、と音を立てて、粘液は蒸発した。剣を抜き、血が流れ、指からぽたりと落ちる。あたしは立ち上がった。 「その状態で我に勝つつもりか?」 「人間には、ど根性ってものがあるのよ。神や魔族、ドラゴン、エルフとも違ってね。」 あたしと覇王は睨み合った。 昔、赤の竜神は魔王を人間の心の中に封じた。ドラゴンやエルフよりも命短い人を信じていたらしい。それを知ったときは意外に思った。だから、あたしを普通ではない者にした奴でも、あまり嫌いじゃない。 覇王はすり足でじりっと前へ進む。剣を握る手に力を入れた。あたしは己のスタイルの通りに、また居合いの体勢をとった。 覇王が剣を振りかぶる。 あたしはたまに、そんな竜神を想像して、再現してみたりもする。五千年前に、魔王に炸裂し、七体に分割した・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 赤い、稲妻!! 「ゴハァッ」 静かに剣を鞘にしまって振り返ると、覇王の剣は断ち切られ、塵となって消滅し、覇王自身も斬られた胴の上から崩れ落ち、消滅していった。だが、空間から再び現れた。もっともその姿は魔族にとってかりそめ。アストラル体へのダメージは相当なものだったことが表情からうかがえる。 「まだっ、まだだ!」 再び剣を虚空から出した。多分彼自身の分身か一部なのだろう。 「もういいよ。覇王グラウシェラー。」 いつのまにか、その少年は、部屋の入り口に腕を組み、よりかかっていた。女の子みたいに可愛い、肩くらいまでの黒髪の美少年。 「冥王フィブリゾ。」 覇王はつぶやいた。あいつが、か。やはり、かすかな既視感はある。 「だが・・、」 「君が勝てるわけ無いだろう。僕でさえ、千年前は、負けはしないまでも勝てなかったんだから。神との睨み合いが続く今、僕らのうちの誰かが欠けるわけには行かないんだ。魔竜王の動きも気になるしね。それくらい腹心なら分かるだろう。」 面白くなさそうな表情を浮かべ、覇王はアストラルサイドへ消えていった。 「久しぶりだね。スイーフィードナイト。」 「らしいわね。どう久しぶりなのかは覚えてないけど。」 「千年前にね、滅びの砂漠で結界を張り、必死に水竜王を押さえていた僕は、君の強襲を受けたんだ。僕は危ないところまで追い詰められ、そのせいで神封じの結界がゆらいで水竜王の反撃を許し、結果、赤眼の魔王(ルビーアイ)様はカタートの氷に閉じ込められてしまった。その後、ガーヴ以外の腹心が束になってかかって君に深傷を負わせ、やっと撃退したんだ。憎き敵ってやつなのさ。僕らにとって、君はね。」 深傷を負ったのは知ってる。その後、あたしは黄金竜によって助けられ、治療をうけたのだ。あの天井画に描かれたドラゴンに。それは本人から聞いた。まさか、まだ生きてるとは思わなかったけど。 「だから、ズーマとかいう人間が覇王神官を通して異常に強い奴がいると報告してきた時に、僕も覇王も、ひょっとしてと思ってね。魔竜王側の魔族って様子もないし。それで僕は、表面からかかるのを避けて体の内側から蝕むというアイデアを思いついたんだけど、駄目だったようだね。」 「で、どうするの?」 「また、今度にするよ。今は正面からの衝突は避けたいんだ。でも、決着はそのうちつけるからね。今の君とか、それとも将来転生した君になるかは分からないけど。」 「人間をなめないことね。あたしとは限らないわよ。あなたたちを滅ぼすのは。」 「君以外の人間に、誰がいるっていうのさ。」 そう言い残し、冥王は消えていった。 「例えば・・・・・・、リナ、とかね・・・。」 戦いの終わった薄暗い部屋で、一人、つぶやいた。 そこも、ちょうど、決着がつくときだった。 二つの大きな剣が、流れるように早く、何度もぶつかり合う。汗が周囲に飛び散る。若い女王は大きく振りかぶり、渾身の力で振り下ろす。受ける老騎士には、すでに後ろ盾の魔族はいない。対抗する力も使い切っていた。血が飛び散り、大地に崩れ落ちた。 エリザベートは荒い息をしていた。かなり消耗したようだが、それでも、きっ、と目に力をいれ、周囲を見渡す。まだ、デーモンたちは残っていた。操る主人を失い、大量の野良デーモンと化していた。グルルルルとうなり、敵意をむき出しにしようとしていた。 「我に従え。」 風の騎士団に、落ち着いた、だが、良く響く声で言った。スッ、と長剣を上にかざす。そして、まっすぐ前に、振り下ろした。 『ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ』 すべての騎士団が、一斉にデーモンたちに突撃していった。 あたしは地下道を抜けて樹海の中の小屋から地上へ出ると、最後までそれを見届け、彼女の前に進んで行った。 「お見事。」 「ルナ!」 互いの片手で乾いた音を響かせ、握り合った。 「同じね。」 見ていたエイミーさんは、つぶやいた。 「そうだな。伝説そのまま、だ。」 そう、ビリエール将軍にも言われてから、気がついた。多分エリザベートも。向き合うあたしたちのその姿は、ちょうど謁見の間の天井画中央に描かれた、スイーフィードナイトとエターナルクイーンそのままの姿だった。自身もまた過去に伝説を作った将軍と大賢者は、ゆっくりとあたしたちの前で、下がり、方膝をつき、額ずいた。騎士たちも従い、同じように姿勢を下げていく。波が、広がるように。戦っていたことなど、忘れてしまったかのように・・・。地獄絵図は鎮められ、穏やかな静寂に包まれていった。雪はいつのまにか止み、空には星が顔を見せ、地上は雪景色。東の空は明るくなりつつあった。 「もう、あたしたちの冒険はゴールインかな。」 「そうだね・・・。そうすると、これからは?」 「これからはね、リナが冒険をする番よ。」 あたしはすぐ後ろで見ていたリナを抱えあげ、皆の前で肩に担いだ。 「わぁー♪ 絶景だぁ〜!」 ちょうど、太陽が顔を出そうとしていた。 「あまりジタバタするな! 姉ちゃんでも怪我は痛いのよ!」 |
12856 | 赤の竜神の騎士U―5 | R.オーナーシェフ E-mail | 2003/1/13 20:59:25 |
記事番号12852へのコメント 領主(ロード)・スペンサーの城で、リナが持ってきたもの。それは、スペンサーやウェセックスその他の領主や大臣たち六名による、クローディアスに対する忠誠を示した連判状と、クーデター成功後の恩賞、組閣人事、新領地の配分などの表だった。 ぽたり。静かな、閉店時間の過ぎたリアランサーのカウンターに、彼女の頬から、涙が落ちた。 「仕方ないじゃない。それが政治なんでしょ?」 「・・・うん・・・。」 グラスのブランデーを見つめながら、エリザベートは答えた。 「血の色に見える・・・・」 「思い込んでるだけ。あたしから見りゃ、これから春に出てくる若葉の先の赤い色、ってとこかな。」 隣で、カクテルを一口。最近作り方を覚えた、アプリコット・フィズ。 「思い込みたくもなるよ。6人も殺しちゃったんだから。あたしが、この手で。」 リナがスペンサー邸から持って来た証拠が公になってから、彼女は裏付け捜査を命じ、結果、間違いない事実として六名は拘束された。その後、女王勅令によって五十年ぶりに反逆罪を裁く特別法廷が召集され、七十四年ぶりに貴族階級に対する死刑が確定し、執行された。 「昔、優しくしてくれたおじさんも入ってた・・・。」 「・・そう。」 騒動が治まったんだからいいじゃないか。もう少し穏やかに。禁錮で、しばらくしたら恩赦でも・・。そんな意見もあったという。でもそれは、彼女はしなかった。国をあずかる女王という立場からは、それはするわけにはいかないということを、氷の玉座に座る彼女は分かっていた。だが、玉座ではなく、今カウンターに座り、酒を飲んでいる彼女には、その理屈が冷たい理性だけで割り切れないでいた。殺しは殺し。彼女の手は血で真っ赤。 もっとも、それはあたしも同じだ。こんな力を持っていても思う通りにならない。知り合った男が半魔族化して、結局この手で殺した、なんてことや、あたしの判断ミスで誰も助けられなかったこともあった。ちょうど、千年前に、味方の黄金竜を獣神官に殲滅させられたように。 彼女はブランデーをあおった。 あたしもカクテルを一口飲んだ。 これからも、それほど変わらず、また互いの傷なめあったりする。何も言わなくても、それは互いに分かりきっていた。 彼女は、ことん、と、あたしの肩によりかかった。そこから、また涙が一滴、あたしの手の甲に落ちた。 「酔った?」 「・・うん。」 あたしは、彼女を、胸に抱いた。 「吐かないでよ。涙、以外は。」 やがて、酔い、泣き疲れて寝てしまった彼女を、その日もやはりあたしは城まで担いで帰った。エリザベートといい、リナといい、あたしってば世話焼いてばっかし・・・・。 そして間もなく、冬が終わり、暦の上では春になった。王宮では毎年その日に、ロードその他の連中が王の前に集まり挨拶する。あたしたち姉妹のような庶民でも、中へは入れないが大きく開いた入り口から様子をうかがうことはできた。女王の前に集まった者たちの中には、前ロードを処刑された家の者の姿もあった。彼女は、あえて取り潰さず、兄弟親戚に地位を継がせて領地と家を存続させたのだった。そんな彼らを含む大勢の前で、玉座から彼女は、一通りの言葉を述べてから最後に、こう言い放った。 「あたしは生まれながらの女王だ。逆らうことは許さない。それが気に入らないのなら、帰って戦の支度をすればよい。」 しばらく、誰も何も言わなかった。彼女は、玉座を立った。 「皆の者、大儀。」 「お、恐れながら・・」 後にしようとした彼女は振り返った。言ったのは、スペンサーの息子だった。 「それは、どういう・・・・・」 「分からない? 喧嘩上等夜露死苦っつってんだよ!」 ごほん、とビリエールが咳払いをした。 その後、彼女に逆らおうとするものは現れなくなった。彼女はこの国の女王として、また新しい冒険を始めたようだった。 「強いよね、ああいうときのエリザベートって。なんでかな・・?」 隣で、リナが言った。 「他人の見てないところで、嫌なことを全部吐き出しちゃうからよ。そうするとね、最後には希望が残るの。」 「ふーん・・・。」 「あまり、飲み込めてないようね。」 「・・うん。」 「仕方ないわ。今のリナは希望の塊みたいなもんだからね。」 「姉ちゃん、それ、褒めてるの?」 「多分、褒めてるわ。」 そう言って、あたしはリナの頭をなでた。リナの冒険は、まだまだこれから・・・・・・ 「どうしても?」 「どうしても。今のあたしを確かめたいの。」 「分かったわ。」 家から少し離れた丘で、突然リナから勝負を申し込まれた。目がマジだった。 同時に、腰の剣に手をかけ・・・、 先に地を蹴った!妹だからこそ手加減なし! 「火炎球(ファイヤー・ボール)!」 居合いのフリの体勢のままリナが言うと、まっすぐ突っ込んで行ったあたしを見事に包んだ。だが、 「ぬるい。」 気迫だけで炎をはじき、飛び出すとリナがいない。右のかなり離れた岩の上に立っていた。空を飛ぶ呪文を使ったのだろう。印を結び、呪文を唱えている。 「・・・・・・等しく滅びを与えんことを! ドラグスレィィィィィィィィィィブ!!」 あたしのいるあたりの空間に、大きな力が流れ込み、膨らむ。それを爆発させようとリナから鋭い光線が撃ち込まれる。あたしは剣に‘欠片’の力をこめて、リナから光線が届くタイミングでアストラルのエネルギーの塊を叩き割った。 ぽちゃ、っと水音がした。父ちゃんは釣り糸を上げて、餌を付け替えた。 「で、その後どうした?」 一瞬、あたしのウキが水中に沈んだ。竿を上げると、アワセが遅れたか、魚に餌だけ取られている。生意気娘の顔を思い出す。 「走っていって、殴った。」 「そりゃあ、リナ、痛かったろうな。」 父ちゃんは糸を放すのに合わせて竿を上げ、送り込んだ。ウキが水を走るように動き、糸が沈むと、水面に立った。 「かなり泣いただろう。」 「うん。そりゃもう。痛さもあるし、悔しさも大きかったみたい。姉ちゃん達みたくなりたい、って。ね、父ちゃんはどう思う?」 「そうだなあ。単純な力比べでお前を超えるのは無理だろうな。お前の力は普通じゃねえ。だが、単純な力の強い弱いが、そのまま勝負の結果に結びつくとは限らねえもんだぜ。最後まで生き抜いて笑うことのできる奴が一番強ええんだ。」 それは・・・、あたしもそう思う。 「何か、考えているのか?」 「もっと本格的に鍛えてやろうかな、って。」 「どうやって?」 「やっぱ、旅、かな。」 「ああ。旅はいい。いいぜ、俺は。可愛い娘だし、旅させてやるよ。」 「うん。ありがと。」 そして、父ちゃんは、タバコを指で挟みつつ、口から煙を吐いた。 あたしは近くの草の葉を取り、ナイフ代わりに閃かせた。 静かに、先の火のついた部分が切れ、水面にじゅっと音を立てて落ちた。 「このあたしの目を盗んでタバコ吸うなんて。さすがに父ちゃんね。」 「・・・少しくらい吸わせろよ・・」 そんなわけで、あたしはリナと旅の準備を整え、リアランサーに休暇届を出した。奥でオーナシェフに挨拶して、戻ってくると、エリザベートが来ていた。昼間っから酒・・・ 「よっ。リナと旅に行くんだって?」 「うん。」 「どの辺まで?」 「そうねえ・・・・、前に会った、あのディルス王国の賢者に、リナを会わせてみようかな。」 「ああ。あの知識を、リナにね。リナなら大丈夫かな。でもそうすると・・・・ヤバそうな気がするな。」 「でもきっとリナにとっての世界は広がるわ。リナには広い世界を見せてやりたいの。それがあたしの姉としての愛よ。」 「そう。厳しいお姉さんね。」 「それじゃ、しばらくさよならね。」 「うん。いってらっしゃい。」 ゼフィールのメインストリートには穏やかな陽射しがそそがれていた。表で待っていたリナは、やや背が伸びたようにも見えた。 「少しは、がきんちょから女へ近づいたかな。胸はまだぺったんこだけど。」 「姉ちゃん、あたしはもう女よ。きっとそのうち白馬の王子様を射止めて玉の輿に乗って見せるわ。」 「王子様が知性にあふれた美男子とは限らないわよ。」 「かっこいい人射止めるもん。長身、長い金髪の美形で凄腕の剣士!」 「だいたいそんなパーフェクトにそろっている奴って、どこか一つ欠けていたりするのよね。バカだったり。」 あたしのカンはよく当たるのだ。 「でも、信じられる人を見つけるのはいいことよ。生きる!って気持ちが強くなるからね。」 「姉ちゃんもそう?」 「まだあたしは恋愛より友情だけど、そうね。確かに、いつもあたしは自分が信じるもののために生きて、戦っているわね。」 「じゃあ、もし、エリザベートとの友情が無かったら、姉ちゃんこの国を助けてた?」 「さあ・・。その時によるわね。あたしは神でも君主でもないし、何かに縛られている立場じゃないから。逆にこの国と対立したり、あるいは世界が滅びるのさえ傍観したりすることもあるかもしれない。でも、目の前に、それぞれの立場に鎖でつながれながらも、もがき、真っ直ぐに生きようとしている人がいたなら、あたしはその人のために戦う。自由の戦士として。それが赤の竜神の騎士、スイーフィードナイト。」 そうして、あたしたち姉妹は、旅に出た。 「あたし、姉ちゃんみたいになれるかな?」 「うん。大丈夫よ。あたしが強制的にさせてあげるから。」 「今度の旅、遠慮します。」 「いいから来なさい。」 赤の竜神の騎士U おしまい |
12873 | はじめまして | エモーション E-mail | 2003/1/14 21:59:35 |
記事番号12856へのコメント R・オーナーシェフ様、はじめまして。エモーションと申します。 「赤の竜神の騎士(すみません、番号がわかりません。当方Mac……)」 読ませていただきました。 また、「最後の大賢者」と同じく、ログ保存も。 前回は読み逃げしてしまいましたが、(本当にすみませんm(__)m) 今回は拙いコメントですが、レスをつけさせてくださいませ。 ルナ姉ちゃんのお話だー!と喜んで読みました。 リナの「畏れつつも尊敬する」気持ちが良く分かります。 こんな姉がいたら、絶対そうなるなあと。 言動も考え方もしっかりしていて、さっぱりしていて、大人びていて、 でも、ちゃんとどこか年相応な部分がある。その辺りをきちんと書き分けて おられるのがすごいと思いました。 また、リナ&ルナの両親も、「この2人の親だけある」と。 リナパパは短編で出てきたときに一目惚れ(笑)しましたが、 イメージそのままですね。親として子どもを心配してついつい口出しする部分。 そして人生経験積んだ大人としての言葉が凄く、良かったです。 エリザベートもかっこいいお姉さまですね。 ルナとは本当にベストパートナーなんだな、と思います。 強くて、でも脆い部分もあるエリザベート。ルナの存在は彼女の中でとても 大きいし、ルナにとってもそうなんだってよく分かりました。 生まれた瞬間から厄介なものを背負うことになった2人だから、相手のことが よく分かるのでしょうし、出会えたことって幸福なのだと思います。 これからもずっと互いに支え合うのでしょうね。 お話も、ノリが原作に近くて好きです。何て言うのでしょう。 神と魔、どっちかだけに好意的なウェイト置きすぎじゃなくて、 両方の特質をきちんと書いていますよね。そう言う点が原作に近いなと思いました。 また、伝説のリナのローブ(笑)の事や、少年なゼルもとても楽しませて いただきました。 ルナにかかると、リナもゼルもひたすら可愛いだけですね。 それでは、拙いコメントで申し訳ありませんが、この辺で失礼いたします。 寒さが続いていますので、お風邪など引かないよう、お気をつけ下さいませ。 また、素晴らしい作品を投稿なさるのを楽しみにしています。では。 |
12897 | Re:はじめまして | R.オーナーシェフ E-mail | 2003/1/16 14:22:56 |
記事番号12873へのコメント >R・オーナーシェフ様、はじめまして。エモーションと申します。 えっと、はじめましてでしたっけ? あちらこちらでお見かけしているんですが、あまり話してないかな。今後はよろしくお願いします。 >「赤の竜神の騎士(すみません、番号がわかりません。当方Mac……)」 >読ませていただきました。 ありがとうございます。 Macってそうなのか・・・。タイトルには、二をローマ数字でつけたんですがね。 >また、「最後の大賢者」と同じく、ログ保存も。 >前回は読み逃げしてしまいましたが、(本当にすみませんm(__)m) ちょっと恥ずかしいような・・。でもありがとう。 > >ルナ姉ちゃんのお話だー!と喜んで読みました。 >リナの「畏れつつも尊敬する」気持ちが良く分かります。 >こんな姉がいたら、絶対そうなるなあと。 >言動も考え方もしっかりしていて、さっぱりしていて、大人びていて、 >でも、ちゃんとどこか年相応な部分がある。その辺りをきちんと書き分けて >おられるのがすごいと思いました。 そう言って頂けるとうれしいです。ルナの生き方という部分は、意識したところなんで。 >また、リナ&ルナの両親も、「この2人の親だけある」と。 >リナパパは短編で出てきたときに一目惚れ(笑)しましたが、 同じく。特に、タバコとか。 >イメージそのままですね。親として子どもを心配してついつい口出しする部分。 あのあたりは、普段自分から見た(俺の)親に対する不満。多分、仕方の無いことなのだろうと思います。ルナもまだ若い、という部分であり、また彼女の生き方のこだわりで世間(大人)には妥協したくない、というところですね。 >そして人生経験積んだ大人としての言葉が凄く、良かったです。 やっぱ父ちゃんにはかっこよく決めてもらわないと。 >エリザベートもかっこいいお姉さまですね。 >ルナとは本当にベストパートナーなんだな、と思います。 >強くて、でも脆い部分もあるエリザベート。ルナの存在は彼女の中でとても >大きいし、ルナにとってもそうなんだってよく分かりました。 >生まれた瞬間から厄介なものを背負うことになった2人だから、相手のことが >よく分かるのでしょうし、出会えたことって幸福なのだと思います。 >これからもずっと互いに支え合うのでしょうね。 そうですね。絆は強いです。友達以上、恋人ならぬ○ズ未満、みたいな・・。 ○テナとア○シー的なイメージ。男になびかない点ではリナより上かな。 「デモンスレイヤーズ!」終了時点でリナとガウリイはゼフィーリアに帰って結婚し(断言する!)、でも、まだ姉ちゃんは誰かとラブラブになっているという話はないので、リナに先をこされることになってしまう。そうなると、こういう生き方になるのかな、と思ったんです。 >お話も、ノリが原作に近くて好きです。何て言うのでしょう。 >神と魔、どっちかだけに好意的なウェイト置きすぎじゃなくて、 >両方の特質をきちんと書いていますよね。そう言う点が原作に近いなと思いました。 それは意識しましたね。あの世界はやはり大好きなんで。 >また、伝説のリナのローブ(笑)の事や、少年なゼルもとても楽しませて >いただきました。 >ルナにかかると、リナもゼルもひたすら可愛いだけですね。 キスしちゃいましたね。ゼルに。姉ちゃんにとっては多分、たいしたことないのかな。でも、アメリアは怒るだろうな。ゼル、バレたら困るだろうな・・。 ローブのことは、どうしても書きたかったんだよう・・・ ちなみに、最後にリナとディルスの(L様を知ってる)賢者のもとへ旅に出る ときにルナが自分の生き方を語ったところは、 某秘天御剣流の比古清十朗様の教えを参考にした(パクッたとも言う)りしています。でも赤竜剣は逆刃刀じゃありませんので。覇王に炸裂したのは奥義っぽかったかな・・・。 >それでは、拙いコメントで申し訳ありませんが、この辺で失礼いたします。 ども。 >寒さが続いていますので、お風邪など引かないよう、お気をつけ下さいませ。 あ。ちょっと鼻水が・・ >また、素晴らしい作品を投稿なさるのを楽しみにしています。では。 また会いましょう。 |