◆−Eternal Seed Act.15 −飛龍 青夏 (2003/1/25 16:23:48) No.13089 ┣Re:Eternal Seed Act.15 −D・S・ハイドラント (2003/1/27 19:01:01) No.13145 ┃┗感想ありがとうございます! −飛龍 青夏 (2003/1/27 19:55:50) No.13148 ┣Eternal Seed Act.16 −飛龍 青夏 (2003/1/30 19:21:04) No.13181 ┃┗Re:Eternal Seed Act.16 −D・S・ハイドラント (2003/1/31 18:31:53) No.13193 ┃ ┗物語中の地形・気候について・・・−飛龍 青夏 (2003/1/31 20:43:47) No.13196 ┗Eternal Seed Act.17 −飛龍 青夏 (2003/2/6 07:44:46) No.13244 ┗Re:Eternal Seed Act.17 −D・S・ハイドラント (2003/2/6 21:08:38) No.13251
13089 | Eternal Seed Act.15 | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/1/25 16:23:48 |
こんにちは。飛龍青夏です。 しばらく続き投稿してなくてすみませんでした。話の先を考えながらやっていたらどんどんと時間が・・・(汗)。 今回から、またしばらくの間話が連続します。迷宮編、とでも言いましょうか。ハヤテが仲間に加わって、ちょっとややこしくなってるかもしれません。 では15話! ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 虚無という名を与えられし 我と呼ぶものの存在は 誰が創ったものなのだろうか Eternal Seed Act.15 悪夢 ヴァルスがルシアの襲撃を受けてから三日。本人の傷は完治し、皆でこの場を去ることになった。もちろん、新たなメンバーであるハヤテを加えて。 「どこへ行くつもりでいるのだ?シーウ」 「とりあえずは――」 問いかけられ、シーウは普通に言葉を返す。ハヤテは警戒する必要もない人間だということを、シーウはなんとなく悟っていた。 まだまだ謎の多い人物であることに変わりはないが、とりあえず敵ではなさそうだった。フォルやシャルもそれをわかっているようで、にこにこしながら話しかけたりもしていた。が、やはり収まらないのはヴァルスであった。 恋人であるシーウとの間にいきなり乱入してきたこの男に、そうそう警戒を解くとは思えない。まあ、嫉妬もその原因のなかに混じっていたりするのだが。 シーウたちは、特に何か目的があって旅をしているわけではない。いうなれば、世界を見るための、強くなるための旅。急ぐわけでもないのでゆっくりと行くつもりだった。だが、突然現れてくる刺客がいるのでは、できるだけ安全な旅をしたくもなる。 相手の狙いも、相手の素性も何もわからない。それなのに、相手は的確にこちらの弱みをついてくる。こちらの情報は向こうには伝わっているようなのだ。 「レンティアス湖にある・・・クリスタル・キャッスルの城下町へ」 シーウの言葉で、皆はその方向を向いた。 ――いやぁあああっ!! ――リーシャぁぁっ!! 飛び散る赤い飛沫。きらめく銀の剣。亜麻色の髪が揺れる。その髪を持つ女性が泣き叫んでいる。光を映さない瞳は、しかし恐怖と悲しみの涙を浮かべていた。 そして。 鈍い、音。 人が倒れる音がして、すぐさま“彼”は彼女に駆け寄る。“犯人”には、攻撃魔法を叩き込み、一目散に走る。 近寄って抱き起こしたとき、彼女はまだ息をしていた。だがやはり、受けた傷と時間に比例して、呼吸はどんどん浅くなっていく。 もう、回復魔法も間に合わなかった。 ――リーシャ! 名を呼ぶと、彼女は小さく身じろぎし、うっすらと目を開け、口を開いた。 ――お願い・・・ 彼女は言った。血まみれの手で、そっと“彼”の頬を撫で、 ――私の分まで・・・ちゃんと・・・幸せになって・・・ けが人を動かしてはいけない、などという当たり前のルールに従ったのではなく、“彼”はただ呆然とするばかりだった。彼女の命の灯火は、もう消える寸前だったのだから。 ――私・・・あなたに逢えて幸せだった・・・ありがとう・・・ もう喋るな、という暇もなく、彼女はゆっくりと続けた。 ――私が・・・世界で一番・・・愛した・・・人・・・ 儚げに微笑み、頬を撫でる手がゆっくりと滑り落ちる中、 ――・・・『 』・・・ 彼女が、“彼”に何かを呟き。 その日も、そこで目が覚めた。 眦を伝うものの冷たさで、意識が明瞭になる。また夢を見た。“彼女”を失ったときの、言葉では言い切れないほどの悲しみと苦しみと絶望が詰め込まれた、文字通りの悪夢を。 どうして、今でもこの夢を見るのだろうか。もう自分は、彼女と同じところにはいけないかもしれないのに。それだけのことをしているのに。 身を起こし、眦を伝ったものを拭き、しかし突然疼きだした傷跡の痛みに耐え切れず呻き声をあげる。胸の辺りを押さえ、痛覚を制御しようとする。 「う・・・くっ・・・」 発作的に自分を苛むこの苦痛は、時に自分を現実の世界へと繋ぎとめてくれる。だが、今は逆の効果を発揮したようだ。 “あの時”。あの、魔剣士一族の里を滅ぼしたときの、傷跡。 (あの男・・・!) 自分に向かってきた少女を地に叩き落とし、生き残った子供二人を抱えて脱出したのを見送った後、彼は攻撃を受けた。赤い炎の中に立つ、怒りで空気を帯電したようにぴりぴりとさせていた男に。あの男も、あの少女と同じ髪と瞳の色をしていた。 許されないことをしたのは、自覚していた。 彼が、自分よりも強い力を持った存在かもしれないと、うすうす感づいてもいた。 それでも、戦うことをやめることはできなかった。怒りが、全身を支配して、止まらなくなっていたのだ。ある意味、相手の男は自分を止めようとしてくれていたのかもしれない。だが。 その時の傷跡は、今でも胸に張り付いたまま、痛みをふりまいている。まるで、呪われてでもいるかのように。 彼は――ザーディルス=アルスター=スウォードを名乗る男は、自嘲気味に笑った。よほど疲れているのだろうか。体が重い。 ゆっくりと寝台から降り、暗い部屋の中に光を灯す。光が室内をほのかに明るくし、彼の体も照らす。黒い色の薄着は、痩せた彼の体のシルエットをはっきりとさせていた。 窓は、天窓のようなものがひとつだけ。そこから覗く空は、黒い暗雲で埋め尽くされていた。 「そろそろ・・・歯車を廻し始めねば・・・な」 彼は黒い長衣を纏うと、歩き出した。部下たちの待つ広間へ向かって。 しばらく暗い廊下を歩くと、ホールのような場所に出た。いや、礼拝堂のようにも見える。その一番高い場所へ立ち、彼は暗い影に向かって言った。 「我が部下たちよ」 男が言うと、人の気配が現れる。男、女。青年や、幼い少女。ありえない姿形をした者。姿は人間と変わりないというのに、瞳や髪の色があまりにも非人間的である者。さまざまな人間たちが、暗い影から現れる。 「やがて来る祝福の時まで、我について来て欲しい。我らを疎外した世界の“秩序”を崩し、新たなる理想郷を創り上げるまで」 『はい』 人々は、いっせいに返事をする。だがそれは、主に対するものというより、同じ境遇の中で生きてきた者の中で、一番に認めたものへの返事。彼は、恐怖政治をしく王ではない。ただ、ここのリーダーなのだ。 「今、我らに必要な“混沌神”が、“虚無神”と合流している。“混沌神”は我らに必要な力を持つ人間であり、彼女もまた我らと同じ思いを抱いている」 いったん言葉を切り、スウォードは続ける。 「幾人かの使者が負傷して帰り着き、“混沌神”の警戒心の強さがうかがい知れている。新たなる使者として彼女を迎えに行く者を決めたい」 「なら」 一人の少年が、立ち上がる。 「私が行ってきます」 「サウス」 立ち上がった黒髪の少年は、続ける。 「あと、兄弟も連れて行くつもりです。よろしいでしょうか」 「・・・許可する」 「では、我ら四兄弟、行ってまいります」 そして、四人分の気配が消える。その場は、心配げな空気に包まれかけていた。 「彼らの帰りを待とう。そして、“混沌神”歓迎の準備も始めねばな。サーシャシフト、ラーシャセフト、頼むぞ」 『はい。スウォード様』 名を呼ばれた双子と思しき二人の少年と少女は、一礼をすると出て行った。 礼拝堂は、やがて男の合図に従って、再び誰もいない静寂に包まれた。 シーウたちがレンティアス湖に向かって歩き始める、丁度2日前である。 森の中をざくざくと歩いていると、湿った空気が肌にまとわりついて鬱陶しい。道といえる道は一応あるものの、それほど広いわけでもなく、周りには鬱蒼と草木が生い茂っている。 二日前からほとんど変わらない、風景。この樹海に入ってからというもの、野宿が2日連続になっている。双子にとってはまともな陽だまりもなく、かなり憂鬱な時間が続いていた。 それに屈してかどうしてかはわからないが、今も双子はまともに口を開かず、シーウとハヤテは黙々と歩き、ヴァルスは最後尾でとぼとぼとついてきていた。 何故、ヴァルスが最後尾なのかというと。 彼がシーウの隣を歩こうとすると、ハヤテは一番後ろになる。が、ハヤテは一番新しい地図を持っており、最後尾になると少し面倒になる。しかしシーウとハヤテが交代したのでは、ヴァルスはうんざりした顔でそのうち文句を言い出すかもしれない。 結局、シーウの無言の圧力により、ヴァルスは最後尾を任されることになったのだ。 ――報われない男である。 ふと、目の前の森が開けた。 青い青い、海のような水面に。 「うわぁ・・・」 双子が、思わず声を上げる。広大な湖。向こう岸が霞むほどの広さである。 「ここが・・・」 クリスタル・キャッスルを守り続けてきた自然の壁。透き通った水をたたえ、中心に大きな浮島を浮かべた、レンティアス湖。 それに引き寄せられるように、五人は町へと歩を進めた。 森をでた瞬間に、ノイズのような音がかすかに聞こえたのに気づいたものは、誰もいなかった。 その街の道に人通りはなく、まるでこの街の人間全員が息を潜めているかのようだった。ぴしりと閉められた扉や窓。ひどいところではカーテンまで閉め切っている。何かにおびえているかのように。 そんな中、一人荷物を抱えて歩く黒髪の少年がいた。 「まったく・・・ぼくだけでこっちへ来させるなんて兄さんもひどいなぁ・・・」 黒髪の少年は前髪を払うと呟いた。少し長めだが、肩につかないくらいの長さの黒髪に、綺麗な黒い瞳。年のころは十五、六歳だろうか。腰には少し大振りのダガーが二本。少し離れた街道ではときどき野党がでるので、そこから来たと思えばそれほど珍しくはない格好だ。手に持った袋には何かが詰め込まれていて、見るからに重そうだったが、当の本人はそれほど苦労していない様子でいる。 「船着場船着場っと・・・」 少年はてくてくと歩き出した。 「な、なにこれ?」 シャルが思わず声を上げる。人通りが全く無い。人の気配がないわけではなさそうだから、おそらく皆家の中にこもっているのだろう。 「何かあったのか・・・?」 フォルも呆然と呟くが、クーデターや何かが起きたような跡はない。 この街は湖の周りを囲むようにできた細長い街だ。巨大な湖の周囲四分の一ほどをずっと沿うようにして建物が並んでいる。もちろん、水路のようなものや船着場などあちこちにある。街のどこからでも見える高くそびえる塔のようなものは銀色に光り輝いている。それが、シーウが言っていたクリスタル・キャッスル。文字通り、外見からそう呼ばれているのだ。実際に近くに行くと判るらしいが、当の壁面には細かなクリスタルがたくさん貼り付けられているらしい。 その、いつもは賑やかな街が、何故こんな静寂に包まれているのか。 「とにかく、少し歩き回ってみよう」 シーウの言葉で、皆はやっと歩を進めた。 少し歩くと、広場が見えた。中央に噴水があり、水もいつもどおりに噴出している。だが、それを見る人の影も、子供たちの楽しそうな声もない。 「本当にどうなってるんだ?」 「クーデター、というわけではなさそうだな」 静かな、静か過ぎる街に、皆は視線をさまよわせた。 「誰かいるよ!」 突然、シャルが口を開く。指差した彼女の視線の先には、荷物を抱えた、黒髪の少年。 「すみませ〜ん!」 「ん?」 少年が顔を上げ、シャルを見る。小走りでやってきたシャルと視線を合わせ、 「どうしたの?」 「この街、どうしちゃったんですか?私たち今着いたばっかりで、人がいなくてびっくりしてたんですけど・・・」 「ああ、そういうこと」 少年は軽く頷き、 「ぼくも昨日来たばかりだからよくわからないんだけど・・・話を聞いたら、どうやら王族の人が各自家から出ないようにって命令したらしいんだ」 「!?」 この湖の浮島に立っている塔は実は王宮で、もちろん王族が住んでいる。セントライト王国と友好条約を結んでいる王国で、宝石の国とも呼ばれているクリスタニア王国である。名前のとおり、領土の中に宝石が取れるところがたくさんある。ここの宝石は一級品といわれ、とくにダイヤモンドやエメラルド、ルビーやサファイヤといった、指輪や冠などの装飾品に使われている種類が多い。 だが国王はとても温和な人柄で、いつも賢明な判断を下せる人間だ。そんな王のいる街に何故このような命令が下りたのか。 「それで、他には情報はないのか?」 ヴァルスが尋ねると、 「いえ。でも、噂なら・・・」 「噂?」 「はい。三日くらい前に、王城に変な人が入って行ったらしくて」 「変な人?」 「ええ。なんでもぼくと同じくらいの男の子だったらしいんです」 少年は「ぼくもよくわからないんですけどね」と付け加え、 「宿はもう取りましたか?ぼくのところと同じだったらたぶん部屋が空いてますよ」 そう言って、シーウたち五人を案内していった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― はい!「迷宮編」第一話です。「迷宮編」といっても、迷宮がでてくるわけではない・・・のですが。しいて言うならば心の迷宮、とでも言いますか。そういった話です。 では! 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13145 | Re:Eternal Seed Act.15 | D・S・ハイドラント | 2003/1/27 19:01:01 |
記事番号13089へのコメント > こんにちは。飛龍青夏です。 お久しぶりでございます。 > 虚無という名を与えられし > 我と呼ぶものの存在は > 誰が創ったものなのだろうか たっ確かに・・・ > 問いかけられ、シーウは普通に言葉を返す。ハヤテは警戒する必要もない人間だということを、シーウはなんとなく悟っていた。 まあそれだけで幾分気が楽になりますね > 相手の狙いも、相手の素性も何もわからない。それなのに、相手は的確にこちらの弱みをついてくる。こちらの情報は向こうには伝わっているようなのだ。 まさかシーウが原因じゃ・・・ >彼は――ザーディルス=アルスター=スウォードを名乗る男は、自嘲気味に笑った。よほど疲れているのだろうか。体が重い。 こっこやつは悪っぽいのの親玉っぽいのでは・・・。 >「そろそろ・・・歯車を廻し始めねば・・・な」 そろそろこの話、本格的な部分へ突入するのでしょうか >「では、我ら四兄弟、行ってまいります」 > そして、四人分の気配が消える。その場は、心配げな空気に包まれかけていた。 >「彼らの帰りを待とう。そして、“混沌神”歓迎の準備も始めねばな。サーシャシフト、ラーシャセフト、頼むぞ」 今度の敵は4人? >この湖の浮島に立っている塔は実は王宮で、もちろん王族が住んでいる。セントライト王国と友好条約を結んでいる王国で、宝石の国とも呼ばれているクリスタニア王国である。名前のとおり、領土の中に宝石が取れるところがたくさんある。ここの宝石は一級品といわれ、とくにダイヤモンドやエメラルド、ルビーやサファイヤといった、指輪や冠などの装飾品に使われている種類が多い。 ううむ質、量ともに良い。 なかなか凄そうな国ですね。 > 突然、シャルが口を開く。指差した彼女の視線の先には、荷物を抱えた、黒髪の少年。 先ほどの少年と同一でしょうかねえ > はい!「迷宮編」第一話です。「迷宮編」といっても、迷宮がでてくるわけではない・・・のですが。しいて言うならば心の迷宮、とでも言いますか。そういった話です。 ううむどのように迷いまくるのでしょうか。 それでは大変失礼致しました。 |
13148 | 感想ありがとうございます! | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/1/27 19:55:50 |
記事番号13145へのコメント こんばんは。飛龍青夏です。毎回コメントをいただき、ありがとうございます。 >>彼は――ザーディルス=アルスター=スウォードを名乗る男は、自嘲気味に笑った。よほど疲れているのだろうか。体が重い。 >こっこやつは悪っぽいのの親玉っぽいのでは・・・。 例の、真っ黒な服を着ていた奴です。 >>「そろそろ・・・歯車を廻し始めねば・・・な」 >そろそろこの話、本格的な部分へ突入するのでしょうか そ、そろそろです。そろそろ。あと一段階・・・ってところでしょうか(不安)。迷宮編がその序章、かな。 >>「では、我ら四兄弟、行ってまいります」 >> そして、四人分の気配が消える。その場は、心配げな空気に包まれかけていた。 >>「彼らの帰りを待とう。そして、“混沌神”歓迎の準備も始めねばな。サーシャシフト、ラーシャセフト、頼むぞ」 >今度の敵は4人? やっと出てきた四兄弟です!実は大家族、というか数人の兄弟を一斉に出そうと常々思っていたのでやっと出せて嬉しい状況です。 >> 突然、シャルが口を開く。指差した彼女の視線の先には、荷物を抱えた、黒髪の少年。 >先ほどの少年と同一でしょうかねえ 先ほどの少年との兄弟でして、ここで区別をきちんとつけられなかったのをちょっと後悔してたりします・・・。 >> はい!「迷宮編」第一話です。「迷宮編」といっても、迷宮がでてくるわけではない・・・のですが。しいて言うならば心の迷宮、とでも言いますか。そういった話です。 >ううむどのように迷いまくるのでしょうか。 簡単に言うと、実際の迷宮よりも心の迷宮。心の闇。孤独や不安。憎しみや恨み。そういったものの迷宮のような話になっていきます。多分、シーウとヴァルスの過去もちょっと明らかになると思います。 では! |
13181 | Eternal Seed Act.16 | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/1/30 19:21:04 |
記事番号13089へのコメント こんばんは。飛龍青夏です。 そろそろテスト勉強をしなくてはならない日なのですが、スランプにはまっているのかやる気が出ずに困ってます。受験生の方たちは受験の真っ最中でしょうか。 迷宮編・第二話は、四人兄弟が微妙に総出演。名前の関連性は一目見れば判りますな。ちょっとした設定があって、四人にはその名前がついています。 では、16話。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 僕たちは、いったい誰が誰なのかわからないんだ 皆、それぞれに欠けた思い出しか持っていないから だから、不安で不安で仕方がない だれか教えて 僕を、僕たちの過去を与えて―― Eternal Seed Act.16 異次元結界 暗い神殿のような建物の中を、クレスタは静かに歩いていた。礼拝堂のような場所へ向かって。ゆっくりと、まるでただの空気であるかのように足音も立てずに。 数分後、彼は礼拝堂のようなホールにたどり着いた。その手にはいつもどおり、先の方に緑色の宝石がついた杖。自分たちのシンボルマークとして飾られた、あの黒曜石のような石でできた重ね十字も、その杖の宝石も、魔血玉という自分たちの力を封じ込めたものだ。シーウやハヤテの武器にも、それはついている。 クレスタの宝石はエメラルドのような綺麗な緑色をしていた。クレスタの瞳と同じ色だ。透き通ったその宝石を、クレスタは黒い重ね十字と見比べた。あの、黒い重ね十字は、スウォードの魔血玉だ。黒々とした色は、彼の髪と同じ色。 (――シーウさん) クレスタは、心の中で彼女の名を呼んだ。今回ばかりは、彼女の連れでも危ないだろう。何せ、向かったのはファン四兄弟なのだ。それぞれ性格は違うが、一人一人が強敵であることは違いない。特に、次男のノーストは好戦的な性格で有名だ。 (どうか…狂ってしまわないでください) 彼女を無理に引き込んだとしても、自分たちに協力するかどうかは怪しい。だがそれ以前に、彼女が大切な人を失ったことで“壊れて”しまうのではないかと、クレスタはそれが心配で仕方がない。彼女は今まで、本当に自分を愛してくれた人を失ったことはない。家族を失ったことはあったが、しかし彼らは、本当はシーウを愛してなどいなかった。ただ、同情の中にほんの少しの親心のようなものが芽生えただけだ。多分、シーウはうすうすそれに感づいていた。 その点、ヴァルスは他人だというのにシーウのことを本当に大事にしている。大切に想っている。恋敵のことを心配するようなつもりはないが、彼がいなくなることでシーウが傷つき、悲しむのは、クレスタの望むところではない。 「――クレスタ」 「スウォード様」 振り向くと、黒衣の男が立っていた。白すぎる肌、漆黒の髪、緑と赤のオッドアイ。長い爪。人間離れしたシルエット。 スウォードは、ゆっくりとクレスタの隣にまで歩いてきた。 「あの女のことが心配か?」 「……」 「お前はあの女が欲しいと言っていたな」 「――はい」 くっくっと、笑い、スウォードはクレスタの正面に回りこんだ。 「あいつが、お前の愛しい者か」 クレスタはほんの少しだけ頬を紅潮させた。スウォードは指をぱちんと鳴らすと、どこで手に入れたのか、近くにあった円筒形のクリスタルの中にシーウたちの映像を呼び出した。静止画の中の彼女たちは、湖のほとりに立っていた。 「あれは…」 「奴らは今、あの兄弟の罠にかかりつつある。あの四兄弟は手強いが・・・まあ、あの女一人なら助かるだろうな。“足手まとい”がいなければ」 妙に『足手まとい』を強調する。クレスタは嫌な予感を覚え、言葉を漏らす。 「…まさか」 「あの女を捕縛するための罠…それをあの四兄弟に仕組ませた。サウスは驚異的な知略の持ち主だ。最低限の情報からすでに計画を立案して私に連絡してきた」 「どんな…計画なのです?」 「まあ、そのうちわかる。それと、お前には別の任務を与える」 スウォードは再び指を鳴らし、別の静止画を呼び出した。 「この二人の動きをしばらく監視しろ。現在の居場所はテイル・シティだ」 「――御意」 すっとクレスタの気配が消える。その直後、スウォードは一人になったホールで呟いた。 「ファン四兄弟の邪魔をされては困るのでな…」 クレスタがシーウを慕っているのなら、彼が裏切ることも予想できる。だから、あえてほかの二人の監視にあたらせた。邪魔をさせないために。 「おまえの居場所は……私が創ってやろうといったはずだぞ?クレスタ」 暗いホールに、スウォードの声が響いた。 「あれがお城なんだぁ」 「すっげ〜…」 シャルとフォルが感嘆の声を漏らす。きらきらと光る塔は、まるでクリスタルの剣のよう。それなのに、硬くて冷たい感じは無く、むしろ神秘的な光をまとった柱のようにすら見える。 「夕方はちょっと眩しかったりするけどね」 黒髪の少年――ウエストと名乗った――は苦笑しながら言った。確かに、角度によっては眩しいかもしれない。 「ここです」 ウエストが教えてくれたのは、街で二番目か三番目に大きな宿屋だった。宿屋というよりむしろ、官舎を改装したもののような外見だ。しかし中はセンス良く飾りつけがされていて、見るからに高級そうな、しかし庶民を突き放さない程度の置物などが置いてあった。基本的には、宿屋の主人の妻が骨董品屋で買ってきたものを、手作りのもので囲んだらしい。 「おや、こんな時期にお客様ですか」 カウンターから主人らしき年配の男性が顔をのぞかせる。ヴァルスはゆっくりと歩み寄り、 「部屋は、空いてるか?」 「ええ。二人部屋が三部屋空いています」 「それじゃ、シーウとシャルが一部屋で、俺とフォルが一部屋、ハヤテは一人か」 「それで構わない」 視線を送ると、ハヤテはすんなりと承諾した。 宿屋の主人に頼み、部屋へ通されると、窓の外に絶景が広がっていた。輝く湖面と城、広がる緑。夕焼けが空をグラデーションに染め、絵画のような美しさを見せていた。 「……」 思わず、シーウでさえも言葉をなくす。心を奪われるような景色に、しばらくシャルとシーウは黙って魅せられていた。 「海って…こんな感じなのかな」 「シャルは見たことがないのか」 「うん。ずっと里にいたからね。旅を始めてからも海の近くの町には行かなかったし」 シーウは腕を組んで何か考えるような仕草をし、 「…今度ヴァルスに話してみる。私も一度しか見たことがないからな」 「本当!?」 「ああ」 シャルはおおはしゃぎでベッドの上で飛び跳ねる。 「で、海ってどんな感じ?あの湖みたいな感じなの?」 「うん、もっと広くて……水平線が見える。ずーっと向こうまでなにも見えないくらい広くて、波の音が聞こえて潮の香りがして…水は塩の味がする。湖や川と違ってな」 「生き物はどんなのがいるの?」 「ああ。海の中には魚がいるけど、砂浜にはカニとか貝とか。海の近くの店なら、貝殻で作ったブレスレットとか作ってたりする」 シャルは興味津々で、シーウの話に耳を傾ける。シーウの話す海を見ようとするかのように、目を閉じて、楽しそうに。 「声陣直結印(ヴォイス・リンク)」 ウエストはハヤテの隣の部屋で、呪文を唱えていた。 『ウエストか』 「そうですよ。ノースト兄さん。そっちの様子はどうです?」 『まあ妨害してくる奴もいないから、日が昇るまでには準備ができると思うぜ』 「…そうですか。ぼくのほうも、やっとお客様が見えたのでこっちへ案内しました」 『あんなに戦いたがってなかったくせにな』 もう一人の声は、くっくっと笑った。いかにも好戦的そうな声。どうやらウエストの兄らしい。 『それで、例の“虚無神”も一緒か?』 「はい。五人で仲良くやってきましたよ」 『ガキ二人もか』 「何も気づいていないようです。どうなるかまではぼくにもわかりませんけど」 『とにかく、浮島のほうは結界で封印してある。オレたち以外は入れない』 「ぼくは明日の朝あたりに五人を連れ出します。サウス兄さんとイーストにも言っておいてください」 『わかった。じゃあうまくやれよ』 それきり、会話は途絶えた。一人ウエストは、地図のようなものを広げてそれを眺め、呟いた。 「もうここに来た時点でぼくたちの結界に取り込まれていること…わかっていないようですね。“混沌神”シーウ様」 翌朝。シーウたち四人は食堂にいた。 「で、どうする?ここで必要なものを買い揃えたら、“空の平原”に向かうはずだったろう?」 シーウが切り出した話に、皆は食事の手を止めて顔を上げる。 “空の平原”は、いつでも青空が見上げられることで知られる平原だ。近くに川が流れているので、雨が降らなくとも植物は良く育つ。近頃けっこうまともな道が整備されて、そこを通って遺跡などがよく残っているという“沈黙の砂漠”へ行く予定だった。 基本的にこの旅は急いで行く必要の無い旅なのだが、ヴァルスの“巡礼”のようなものでもあるため、できる限り各地を回ることにしているのだ。 「う〜ん……やっぱ近くの町とかで必要なもの買って、予定通りに行ったほうがいいと思うぞ」 「いくら近いって言っても、セントライト王国の王都まで戻る気はしないしね」 フォルとシャルの言葉に、ヴァルスは頷き、 「やっぱ予定通りでいくか」 「そうだな。特に状況が切迫しているわけでもないし」 皆がそれで納得し、再び食事のために手を動かし始めたその時、ウエストがやって来た。 「皆さん、街を出られるんですか?」 「ああ。ここの店はどこも開いてなさそうだったし、王族の命令が解除されるまで待つってのもなんだかなぁと思ってな」 ヴァルスにそう言われ、ウエストはそうですか、と言うと、隣のテーブルの席に着いた。 「おはよう…」 男の声が聞こえて、シーウはそちらに目を向ける。階段から降りてきたのは、紫の髪と目の持ち主。 「お、おはようハヤテ」 思いっきり眠そうな顔をしてやってきたのは、ハヤテだった。寝ぼけ眼をこすりながら、とてとてと歩いて来る。シーウがちょっとびっくりしたように挨拶すると、ヴァルスたちもそれに倣う。 「眠そうだな」 「どうも朝はだめなんだ…低血圧というやつか……?」 ぼ〜っとしたまま、ハヤテはシーウに言葉を返す。どうやら寝起きはあまり良くないらしい。 この世界にも、当たり前だが病気はある。旧世界からの医学はほとんど伝わっていないが、それでも人々の中には医者をやっているものもいるし、当たり前のように患者もいる。病気も旧世界のものとそれほど変わらないものからその逆までいろいろである。風邪や肺炎などは基本的には薬で治しているが、脳の病気や癌などは、魔法に頼っている面もある。旧世界の医学のように、人の体を切って治す方法というのは、あまり正しく伝わっていないため、できる限り安全な魔法で対処しているのだ。薬で人を治す者は薬師や医者、魔法で人を治す者は魔法医と呼ばれている。 閑話休題。 そんなわけで、当然低血圧や高血圧というものもあるわけで。 「大丈夫か?」 「多分……」 いつもの様子からは考えられないほどその動きは鈍くて、シーウたちは驚いた。今攻撃魔法でもくらえば、たとえフォルやシャルあたりでも倒せるかもしれない。 そんなのどかな朝を、五人は疑いもしなかった。 ウエストが、その手につけた腕輪をなぞり、何かを唱えていたことにも、気づきもしなかった。 意外と、平穏というのは長く続かないもので。 特に、自分たちは平和という言葉に嫌われているのではないかと思うほどに、あっけなくその時は崩れ落ちる。 けれど、それは覚悟していたこと。クレスタたちの襲撃以来、四人は自分たちが何らかのターゲットにされていることを理解していた。だから、こうなることも予測できていた。 だが。 不老不死者の暴走体の大群がいきなり宿屋に突っ込むなど、さすがに考えていなかった。 「おわぁぁああああっ!!」 丸腰のフォルが、シャルの手を引いて階段を駆け上る。細い螺旋状の階段には、不老不死者の暴走体もやってこなかった。要するに体が大きすぎて通れないのだ。だが彼らがその爪で階段を壊してやってくるのも時間の問題だった。 「あ、ありがと…フォル」 「ケガないか!?」 「うん」 双子はお互いを気遣いあいながら、自分たちの部屋へ戻って装備を持ってくる。その間にも、ヴァルスは“裂光剣”――レイ・ブレードを具現化させて暴走体を浄化する。シーウとハヤテはそれを魔法で援護し、シャルとフォルが自分たちの武器を取って帰ってくるのを待っている。 「ヴァルス、変だ!宿の主人がいない!!」 「何!?」 「ウエストとやらもいなくなっている!」 シーウとハヤテの言葉に、ヴァルスは混乱した。さっきまであった主人の気配がない。 三人はお互いを援護し合いながらも、数におされてじりじりと交替する。 「シーウ!ハヤテ兄!!」 階段の上から、フォルが『虚空』と『疾風』を投げてよこす。それを上手く受け取ると、二人も暴走体たちに向かって走った。 「はっ!」 シーウが袈裟懸けに斬り払った暴走体は、空気に溶けるようにして何も残さずにあっさりと消える。シーウは“消去能力”をこの武器にまとわりつかせることが出来るのだ。そしてそれを使えば、ヴァルスの“裂光剣”に匹敵する対不老不死者武器となる。 「斬!」 ハヤテが受け取った『疾風』からは、鎌のような長い刃が伸び、それを振りかぶって攻撃している。斬りつけられた暴走体は、シーウの攻撃とは違い、一瞬だけ薄赤い光に包まれるとふっと消え去っていく。その様子を、シーウは唖然として見つめた。 「ハヤテ…?」 「我にも、おまえと同じ力が備わっている」 「なっ」 「油断するな。まだあと十匹はいるぞ」 ハヤテの言葉に、シーウは『虚空』を握り、走った。次々と舞うように剣撃をふるう彼女の前に、刀を振るった数だけ暴走体が消滅する。 「ラスト一匹!」 ヴァルスの“裂光剣”で、最後の一匹が浄化される。突然すぎる襲撃は、失敗に終わった。 一転して静寂に包まれる宿。あちこちが暴走体のせいで破壊され、見るも無残な状態になっていた。しかし、街全体にしても、宿屋にしても、人々の気配はまったく感じられない。 まるで、最初から誰もいなかったかのように。 不意に、フォルとシャルが宿屋の扉を開け、外に出ようとする。そして、扉を蹴破るようにして開いたまま、フォルの表情は凍りついた。シャルはへたりと床に座り込み呆然としている。 「なんだよ……これ」 フォルが、怯えているシャルをなだめながら言った。 「これは…」 シーウが、呆然と呟く。 そこにあったのは、ただただ長く続く、回廊だった。 「そう。これは私たちからの挑戦状」 「オレたちが作り出した、異次元結界」 「結界を解くにはそれぞれ四方位にいるぼくたちを倒すしかない」 「ボクはそれも無理だと思うけど、でもま、やるだけやってもらおうか」 ――“混沌神”御一行様……。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― というわけで(どういうわけで?)、迷宮編の本題に入りました。異次元結界に関しては、原作のスレイヤーズ本編最終回の、ルビー・アイが作り出した結界と似たようなものだと思ってください。次回で少し説明は入ります。 では! |
13193 | Re:Eternal Seed Act.16 | D・S・ハイドラント | 2003/1/31 18:31:53 |
記事番号13181へのコメント こんばんはD・S・ハイドラントです。 > そろそろテスト勉強をしなくてはならない日なのですが、スランプにはまっているのかやる気が出ずに困ってます。受験生の方たちは受験の真っ最中でしょうか。 勉強ですか・・・何とかがんばってください。 でもあまり悩まぬのが良いかと思います。 平常心を保つことも大事でしょうし。後、御身体には無理をさせぬように・・・。 > クレスタは、心の中で彼女の名を呼んだ。今回ばかりは、彼女の連れでも危ないだろう。何せ、向かったのはファン四兄弟なのだ。それぞれ性格は違うが、一人一人が強敵であることは違いない。特に、次男のノーストは好戦的な性格で有名だ。 〜神といかいうのはないんですかねその兄弟。 にしてもノーストって・・・覇軍? >「あの女を捕縛するための罠…それをあの四兄弟に仕組ませた。サウスは驚異的な知略の持ち主だ。最低限の情報からすでに計画を立案して私に連絡してきた 名前・・・方角っぽいですね。 >「ええ。二人部屋が三部屋空いています」 >「それじゃ、シーウとシャルが一部屋で、俺とフォルが一部屋、ハヤテは一人か」 ハヤテを好ましく思わぬということでしょうけど・・・。 やはりそれなりには経済面に余裕はあるのでしょうかね。 苦しい状態だとやはり2人部屋を3人で使ったりもするでしょうし・・・。 >“空の平原”は、いつでも青空が見上げられることで知られる平原だ。近くに川が流れているので、雨が降らなくとも植物は良く育つ。近頃けっこうまともな道が整備されて、そこを通って遺跡などがよく残っているという“沈黙の砂漠”へ行く予定だった。 様々な土地があるんですね・・・まあ当たり前かも知れないですけど >不老不死者の暴走体の大群がいきなり宿屋に突っ込むなど、さすがに考えていなかった。 にしてもどこから・・・? >「そう。これは私たちからの挑戦状」 >「オレたちが作り出した、異次元結界」 >「結界を解くにはそれぞれ四方位にいるぼくたちを倒すしかない」 >「ボクはそれも無理だと思うけど、でもま、やるだけやってもらおうか」 >――“混沌神”御一行様……。 力勝負・・・ということはやはり4人ともかなりの力があるようですね。 それではこの辺りで・・・。 失礼致しました。 |
13196 | 物語中の地形・気候について・・・ | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/1/31 20:43:47 |
記事番号13193へのコメント こんばんは。飛龍青夏です。コメントありがとうございます。 >> クレスタは、心の中で彼女の名を呼んだ。今回ばかりは、彼女の連れでも危ないだろう。何せ、向かったのはファン四兄弟なのだ。それぞれ性格は違うが、一人一人が強敵であることは違いない。特に、次男のノーストは好戦的な性格で有名だ。 >〜神といかいうのはないんですかねその兄弟。 >にしてもノーストって・・・覇軍? 覇軍・・・。あ。(いまさら気づいた) >>「あの女を捕縛するための罠…それをあの四兄弟に仕組ませた。サウスは驚異的な知略の持ち主だ。最低限の情報からすでに計画を立案して私に連絡してきた」 >名前・・・方角っぽいですね。 次回で四兄弟全員が出場。ほぼ予想通りだと・・・。 >>「ええ。二人部屋が三部屋空いています」 >>「それじゃ、シーウとシャルが一部屋で、俺とフォルが一部屋、ハヤテは一人か」 >ハヤテを好ましく思わぬということでしょうけど・・・。 >やはりそれなりには経済面に余裕はあるのでしょうかね。 >苦しい状態だとやはり2人部屋を3人で使ったりもするでしょうし・・・。 女王からの餞別と、旅の途中で関わった事件のお礼で、だいたい経済面は楽に済んでいます。特に”浄化神”は崇められていますしね。 ヴァルスの嫉妬心については後々まで引きずられると思います。 >>“空の平原”は、いつでも青空が見上げられることで知られる平原だ。近くに川が流れているので、雨が降らなくとも植物は良く育つ。近頃けっこうまともな道が整備されて、そこを通って遺跡などがよく残っているという“沈黙の砂漠”へ行く予定だった。 >様々な土地があるんですね・・・まあ当たり前かも知れないですけど 物語の中の世界では、千年前の暴走体の集合体との戦いで、世界に歪み・・・というか、微妙な気候の変化が起こりましたので、干上がって砂漠になったところや、逆に湖に没したところもあるんです。暴走体の破壊力の凄まじさが、こういったところで物語られているのです。スレイヤーズ原作本編で言えば、リナが重破斬で入り江を消滅させたのと似たようなものですね。 では! |
13244 | Eternal Seed Act.17 | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/2/6 07:44:46 |
記事番号13089へのコメント こんにちは。飛龍青夏です。 前回の投稿からずいぶん経ってる気がします・・・。数週間後にテストも迫っているので、そのころになったらまた投稿が滞ると思います。その時はすみません。 なんだかこのごろ学校で面白い先生が続々と面白い話をしてくれまして。国語の先生にいたっては家族の話とか雑学の話とかで私のいるクラスだけやたらしゃべりまくっておられるのですが、まあそれもまた楽しいのでよしとしてます。ほかにも理科の先生や社会の先生はよくギャグを入れたり音楽の話をしたり・・・と。・・・でも授業がテストに間に合うのかどうかが疑問になってまいりました・・・。 と、まあこの辺でこの話は終わりにしまして。では17話! ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 力を望むことが、悪いなんて絶対言わせない。 力が無いから、悪いなんて絶対言わせない。 オレにはわかってるから。 世界がどんなに理不尽なものか。 世界がどんなに美しいものか。 Eternal Seed Act.17 重ねられた空間 暗い回廊の中を、シーウたち五人は歩いていた。 そこは、どういった魔法で作られたのかすらよくわからない空間だった。いままでに見たことのある結界とはまったく違う形式の結界だったのだ。ハヤテですら、興味深そうに周りを眺めている。 回廊の幅はかなり広く、先はどこまで行っても行き止まりにはならない。等間隔に立ててある支柱のようなものには彫刻まで施されているのに、いくつ目になってもまったく変化のない絵柄だった。コピーされたものが、限りなく続いていくような感覚。 無限、という言葉が、シャルの頭の中で浮かんだ。 「どこまで…続くの……?」 シャルは、力なく呟いた。もう何十分歩いただろうか。いや、それとも何時間だろうか。フォルも疲れ始めたようだが、年上三人組は疲労の色など微塵も見せていない。 「疲れたか?」 ヴァルスが問いかけると、シャルはへたりと座り込んでしまった。暗黒の壁に、ずっと続く回廊。息苦しさが伴って、普通に歩いたよりもずっと疲労感が大きい。 「もう…どれくらい歩いた?」 「まだ十分くらいだな」 「へ?」 シャルが、間の抜けた声を上げる。 「だから、十分」 「……うそ」 シャルは呆然とした。自分は何時間、とすら感じていたのに、この青年には十分程度にしか感じられていなかったのだ。 「どうやって作ったのか知らないが」 ハヤテが、突然話し始めた。 「ここは時間感覚もずれた空間らしい。もしかしたら、現実の空間ではもう一日か一週間経っているかもしれない」 「そうらしいな。ここはどう考えても時間の流れがおかしい」 シーウの言葉に、ハヤテは頷いた。 「異次元空間、とでも言うべきか。この空間から紙一重の次元に、現実空間が存在しているはずだ」 ほんの少しだけ、次元がずれた空間。しかし、次元がずれたなどと、そう簡単に人間が理解できる出来事ではない。その点で、シーウやハヤテは人間を超越していた。 「おそらくあの街も、本当は普通に人々が暮らしていたんだろう。宿屋の主人がいたときは、宿屋の空間は異次元空間にはなっていなかった。だが、暴走体が攻め込んできたときには、私たちのいた食堂は異次元空間となっていた」 それをやったのがウエストであると、シーウたちはうすうす感づいていた。 「おそらくシャルはこの異次元空間と波長が合わなかったんだろう。だから時間の流れが私たちとは違ってしまった」 「私?フォルも?」 「ああ」 この空間には、ある種の波動が満ちている。力を持つ者――“神族”が発するものに良く似たものだ。 「どうりで疲れるわけだ・・・」 フォルがため息混じりにそういった。 その時、待ち構えていたかのように扉が現れた。さっきまでは何もなかった空間に、突然出現した扉。その数、四。 「へ〜え」 ヴァルスが面白そうにつぶやく。外観はそう変わらないそれぞれの扉の向こうに、何が待っているのかはなんとなく想像がつく。自分たちが疲れた状態で、戦わせる気なのだろう。 『待ってましたよ』 「・・・ウエスト」 シーウが名を呼ぶと、少年の声はくすくすと笑い声をあげた。暗い回廊に響く、いつもなら温和な、けれど今は不気味な笑い。 『ありきたりですが、あなた方にはその扉をくぐってほしいんです。ばらばらに、ね』 「戦力を分散させようとしているのは見え見えだが?」 ハヤテの言葉に、再び笑いを含んだ声が答えた。 『この結界は、ぼくたち四人をすべて倒さなくては解けません。そして、ぼくらは一つの扉をくぐった時点で、その回廊との接点を消滅させます。後戻りができないようにね。つまり、あなたたちがここから出るには、ばらばらに扉をくぐり、ぼくたちを倒さなくてはいけないというわけです』 「またずいぶんとせこいルールを・・・」 ヴァルスは呆れ顔である。自分たちがはめられたのは、まあ仕方ない。が、ルールの決定権が向こうにあり、それに従うしかないという、その状況に呆れているのだ。 もしここで断れば、相手はこの回廊の中で何でも自由に攻撃してくるだろう。要するにここは、“彼らの場所”なのだから。 『そう悲観するものでもありませんよ。あなた方のうちの一人は生かして出すつもりですし』 「?」 『シーウさん…いえ、“混沌神”様、あなただけは、無事にスウォード様のところへお送りします』 ウエストの語調が変わった。敬愛の念をこめた口調。シーウはわけもわからず、動揺した。何故自分が“混沌神”様と呼ばれ、仲間に引き入れられようとしているのか、まったくわからないのだ。 『では、どうぞ』 扉が、ゆっくりと開いた。 同じ頃。 暗い神殿とはまた別の建物。その中で、スウォードは寝台の上で胸を押さえていた。苦しげに、喘ぐように息をし、時に呻き声を上げながら、何かに耐えているようだった。 事実、彼の体に、微妙な変化が起こっている。黒い髪も白い肌もそのままだが、緑色の瞳が淡く柔らかい色になり、もう片方の赤い瞳も、いつの間にか同じ色になっていた。 時間にして、約一分。その間に、スウォードは全く違う人間へと変貌を遂げていた。黒い髪、白い肌。淡く綺麗な色をした碧の両眼。 ふらりと立ち上がり、彼は壁にもたれながらよろよろと廊下を歩いた。まるで、何かから逃げようとでもするかのように。彼は、長い前髪を払うと、自嘲気味に笑った。哀しい笑みだった。自分を責めているような、憐れんでいるような、複雑な瞳をしていた。 「リー……シャ……」 掠れた声でその名を呼び、手のひらを見つめる。 彼女は、自分の手が暖かいと言ってくれた。自己を見失いかけていた自分に、優しい言葉をかけてくれた。暖かな、心休まる場所をくれた。 それなのに。 それなのに自分は、彼女が傷ついているとき何も出来なかった。彼女は盲目だった。目が見えないが、気配が読めるからと自分の助けをそれほど必要としなかった。だが、だからといって彼女から離れて言い訳ではなかったのだ。自分が油断した隙に、彼女は殺された。どうしようもなく、抵抗も出来ず、短時間のうちに機械的に。 無力感に苛まれた自分に、語りかけてくる悪魔の声があった。 力をやろう、と。 この世界を恨め、と。 そして自分は、その声に負けた。その声の、口車に乗せられてしまったのだ。 そうして自分は、いったい何を手に入れたのだろう。 何とか体勢を立て直し、ゆっくりと歩く。そこへ、クレスタが現れた。 「――!“ザード様”!!」 その声に、“ザード”という名の青年は、顔を上げた。 シーウたちは、結局それぞれの扉を四つに別れてくぐった。一つ目の扉には、シーウ。二つ目の扉には、ヴァルス。三つ目の扉にはハヤテ。四つ目の扉にはフォルとシャル。 四人は、顔を見合わせ頷くと、決心したように扉の先へと進んだ。 「“混沌神”様のお相手ができるとは、うれしい限りだな」 暗い闇の中、サウス――四人兄弟の長兄である少年は言った。その目の前に、声陣直結印(ヴォイス・リンク)の魔方陣が淡く発光していた。 『こうなるのは大体予想済みだったがな』 「まあそう言うな。お前はあの“浄化神”の相手だろう?相手にとって不足はないはずだ」 『ああ。どうやって戦うか考えてるところだよ。確実に倒すために、な』 「とりあえずは応援してやろう。ウエストとイーストは?」 『ウエストは危ねえな。あの“虚無神”相手じゃあ』 「まあ、イーストが負けることはないだろうから構わないが」 一番上の兄でありながら、弟が倒されることを心配もしない。この少年は一体どういう価値観をもっているのだろうか。 いや、そもそも、この兄弟たちは顔こそ似ているがまったく違う性格をしている。どうしたらここまでバラバラに育つものなのかと疑いたくなる。 サウスは相手を罠にかけたりする奇襲を得意とし、ノーストは真正面から戦うことを好む好戦的な少年だ。ウエストは言葉遣いは丁寧ながら、精神を追い詰めることに関してはプロ並みであり、末弟のイーストは無邪気な残酷さを秘めている。四人はそれぞれバラバラに育ったかのような統一性のない兄弟だった。 「じゃあ、うまくやれよ」 『ああ』 それきり、通信が途絶える。サウスはすっと立ち上がり、辺りを見回した。誰もいない、真っ暗な空間の中にある、無数の蔓。植物の蔓に似ているが、それが道を作り出し、壁を形成している。空間と空間を隔てる、蔓。それが、サウスの結界。 「ここに入ったものは、二度と出られない。貴女以外はね、“混沌神”様」 シーウは、暗い道を歩いていた。辺りは真っ黒で、何も見えないというのに、自分の体と道だけがはっきりと見える。あたかも、自分自身が発光しているかのように。 道は、無数の植物の蔓で出来ていた。でこぼことした道を、シーウは進んでいるのだ。 (どういうことだ……?) シーウは疑問を抱いた。蔓が道を作っているのだとしたら、闇は一体何の役目をしているのか。道を開いているのに、視覚を妨げる闇を放置しているのは何故なのか。それが、わからない。そして、道の続く先も。 びゅるっ 濡れた音が、風を切った。 「っ!!」 反射的に後ろへ跳躍。突如現れたぬめりを帯びた白い触手をかわす。 「なっ…」 白い触手は、水栽培の球根から生えた根のように何かの液体で濡れていた。 ひぅんっ 「蒼氷飛刃(アイス・エッジ)!!」 シーウの呪文に従い、氷の刃が触手を切り刻む。しかしそこから噴き出した液体で、その下にあった蔓が音を立てて溶けた。 (酸!?) びゅびゅっ 「これは…」 新たに十数本の触手が蔓の間から飛び出してくる。切り払うにしても、受けるにしても、攻撃した直後に酸を浴びせられてはたまったものではない。 「『虚空』を溶かしたくはないしな」 苦笑し、『虚空』から手を離す。この蔓につかまらなければいいだけのことだ。でたらめに走っていればそう簡単に絡めとられはしないだろう。 ダッシュをかけ、シーウは不安定な道の上を走った。触手が後ろから伸びてくる。速い。シーウに追いすがり、時に足払いをかけようと先回りする。一体どこから伸びているのかわからない。その長さも。 (どこまで続く…!?) 道が無限に続くような錯覚を覚え、シーウは疑問を言葉にした。心の中で。暗い闇は、道の先に何があるのかわからないようにするためにあったに違いない。こうして追い込んでいるときに、危険なものが先にあったとしても、直前で止まれないように。 不意に、道が二手に分かれた。シーウは勘で右の道を選び、飛び込んだ直後に防壁を張る。 防壁に触れた触手はあっけなく崩れ落ち、シーウはほっと息を吐いた。しかし、その安堵感も一瞬で砕かれる。 蔓の道の切れた目の前に、光。 それが、映像であると理解したとき、思わずぎくりとして後ろへ下がった。 『化け物』 『人間じゃない』 頭の中で、響く声。それは過去の。忌まわしい、心の暗闇の中の記憶。 『あんたなんていなければ良かったんだ!』 『里の面汚し』 『あれでよくザーディルス殿の妹だなどといえる』 『あんなガキ、この里には必要ない。ただの穀潰しを養ってどんなメリットがある?』 顔が青ざめているのがはっきりとわかる。血の気が引く。耳をふさぎたくなる。目を閉じたくなる。 『いらない』 『必要ない』 『消えろ』 『消えてしまえ』 首を振り、自分を否定する言葉を頭の中から追い払う。もう、聞き飽きた。涙も出ない。けれど映像の中の人々は、口々にシーウに否定の言葉を浴びせかける。 そして。 『ごめんね、シーウ。私は』 聞こえてきたのは、姉の声。思い出の中の、最も思い出したくない部分のひとつ。 「やめろ……」 ――聞きたくない。 『私は』 続きを、映像の中の姉が口にする。 「やめろ…」 ――もう、聞きたくない。 『私は、あなたの』 最後の、一言。 『“家族”じゃない』 「やめろぉぉおおおっ!!」 耳を塞ぎ、絶叫する。硬く目を瞑り、首を振る。涙はでない。なのに。 『私もお前の“家族”ではない』 ザードの声。 『私も』 『俺も』 ザードの恋人であったリーシャと、姉の夫だったサルファ。 次々に重なっていく人々の声。浴びせかけられる否定の言葉。自分の存在を否定される辛さ。それをはねのけられない立場。 「違う……」 これは罠。この結界を張った人間の、罠。 「これは幻だ。もう、これは過ぎた過去のことなんだ…!」 「本当にそうですか?」 はっと顔を上げると、黒髪黒目の少年が立っていた。年齢はウエストと同じか少し上くらいだろうか。 「“混沌神”様」 「誰…だ…?」 未だに青ざめた顔で、シーウは問う。少年はくすくすと笑うと、 「サウス、と申します」 「サウス……?」 「スウォード様からの命で、ここへ参りました。あなたを連れ帰りに」 「私…を…?」 「ええ。あなたを。あなたを必要としているんです。私たちは」 びくり、とシーウの体が震えた。 「その言葉で私を揺らがせるために…そのために……あの映像を…」 「クレスタさんからのお土産ですよ」 サウスはすっと歩み寄り、 「どうです?こちらに来ませんか?あなたを否定するものは、こちらには誰一人としていない。そちらにいる限り、あなたは辛い思いをし続ける」 「私は」 「あの“浄化神”でしたら、弟のノーストが相手をしていますよ」 間発入れずに答え笑うサウスに、シーウはぞくりと全身が総毛立つのを感じた。 無数の植物の蔓によって作られた部屋のような場所。それがまるで牢屋のようにも見えて来て、シーウはきっとサウスを睨み付け、己を戒めるかのように『虚空』を強く握った。 「どうです?もっと思い出してみますか?」 「――何を」 「あなたの、過去を」 サウスが指を弾くと、新たな映像が映し出された。シーウは一瞬迷い、けれど目を逸らさずに映像を見つめた。 映像の中の世界は、真っ白だった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 今回はやたらと長い話でした。次回あたりでシーウの過去が明らかになっていきます。迷宮編のなかの過去編といったところでしょうか。二、三話連続でシーウの過去の話になります。 では! |
13251 | Re:Eternal Seed Act.17 | D・S・ハイドラント | 2003/2/6 21:08:38 |
記事番号13244へのコメント >「まだ十分くらいだな」 >「へ?」 >シャルが、間の抜けた声を上げる。 >「だから、十分」 >「……うそ」 > シャルは呆然とした。自分は何時間、とすら感じていたのに、この青年には十分程度にしか感じられていなかったのだ。 ううむ同じく歩いていたのにこれ・・・不思議なることですね。もし会話とか常にしていたらどうなっているのでしょう。 > この空間には、ある種の波動が満ちている。力を持つ者――“神族”が発するものに良く似たものだ。 例の兄弟も神族なんですかね > 同じ頃。 > 暗い神殿とはまた別の建物。その中で、スウォードは寝台の上で胸を押さえていた。苦しげに、喘ぐように息をし、時に呻き声を上げながら、何かに耐えているようだった。 > 事実、彼の体に、微妙な変化が起こっている。黒い髪も白い肌もそのままだが、緑色の瞳が淡く柔らかい色になり、もう片方の赤い瞳も、いつの間にか同じ色になっていた。 > 時間にして、約一分。その間に、スウォードは全く違う人間へと変貌を遂げていた。黒い髪、白い肌。淡く綺麗な色をした碧の両眼。 ううむどうなったのでしょう。 >「――!“ザード様”!!」 > その声に、“ザード”という名の青年は、顔を上げた。 ざっザード! >『化け物』 >『人間じゃない』 > 頭の中で、響く声。それは過去の。忌まわしい、心の暗闇の中の記憶。 >『あんたなんていなければ良かったんだ!』 >『里の面汚し』 >『あれでよくザーディルス殿の妹だなどといえる』 >『あんなガキ、この里には必要ない。ただの穀潰しを養ってどんなメリットがある?』 > 顔が青ざめているのがはっきりとわかる。血の気が引く。耳をふさぎたくなる。目を閉じたくなる。 >『いらない』 >『必要ない』 >『消えろ』 >『消えてしまえ』 > 首を振り、自分を否定する言葉を頭の中から追い払う。もう、聞き飽きた。涙も出ない。けれど映像の中の人々は、口々にシーウに否定の言葉を浴びせかける。 > そして。 >『ごめんね、シーウ。私は』 > 聞こえてきたのは、姉の声。思い出の中の、最も思い出したくない部分のひとつ。 >「やめろ……」 >――聞きたくない。 >『私は』 > 続きを、映像の中の姉が口にする。 >「やめろ…」 >――もう、聞きたくない。 >『私は、あなたの』 > 最後の、一言。 >『“家族”じゃない』 >「やめろぉぉおおおっ!!」 > 耳を塞ぎ、絶叫する。硬く目を瞑り、首を振る。涙はでない。なのに。 >『私もお前の“家族”ではない』 > ザードの声。 >『私も』 >『俺も』 > ザードの恋人であったリーシャと、姉の夫だったサルファ。 > 次々に重なっていく人々の声。浴びせかけられる否定の言葉。自分の存在を否定される辛さ。それをはねのけられない立場。 >「違う……」 >これは罠。この結界を張った人間の、罠。 なかなか凄い罠ですね。 それでは次回楽しみにしつつこの辺りにてさようなら〜 |