◆−君去りし後−ひな(2/22-13:23)No.1317
 ┗待ってました。−灰(2/24-08:24)No.1321
  ┗在りし日の歌を−ひな(2/25-16:52)No.1328
   ┗こっちが本当の『在りし日の歌を』です−ひな(2/25-17:05)No.1329
    ┣何年後なんですか?−灰(2/26-02:43)No.1333
    ┣テーマはガウリナ−ひな(3/1-03:08)No.1347
    ┃┣勉強になりました。(笑)−もりっく(3/3-15:00)No.1356
    ┃┗そしてゼルガディスは−ひな(3/4-02:49)No.1359
    ┃ ┣Re:そしてゼルガディスは−灰(3/5-04:06)No.1362
    ┃ ┗Re:そしてゼルガディスは−りぃみ(3/5-09:45)No.1364
    ┗AFTER THE WAR−ひな(3/6-02:03)No.1365


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1317君去りし後ひな 2/22-13:23


ひなです。
「歌は終わりぬ」のゼルガディスバージョンかな?
サブタイトル「過去との遭遇」(何だそれは)


『君去りし後』


もし人が、その日の暮れにサイラーグ近くの海岸沿いの小さな街に通りかかったなら、「人魚亭」
という名の小奇麗な宿屋兼酒場に寄るだろう。
海のよく見える立地、上手い酒と魚料理のおかげで繁盛している、古い店だ。
ちょうど日が沈みきったときで、一階の酒場の片隅では、吟遊詩人がロマンチックな歌を奏でている。
店内にはいつもより人が少なかったが、皆うっとりとその吟遊詩人の調べに聞き入っている。
だが、すこし首をめぐらせれば、カウンターの片隅に一人の男が座っているのに気づくはずだ。
浅黒い肌に銀色の髪、すこし眼光が鋭すぎるような気もするが、こざっぱりしたいでたちの
その美丈夫は、古い羊皮紙を食い入るように見つめている。
彼がかつて魔剣士ゼルガディスと呼ばれていたことを知るものは、ここにはない。


羊皮紙はすっかり色褪せて、ぼろぼろになっていた。
文字もかなりかすれていたが、リナの丁寧な筆跡が読み取れないほどではなかった。
ゼルガディスはその手紙を読み終えると、そっとカウンターの上に置いた。
「リナさんの知り合いなんだね?」
目の前の老人が、器用な手つきでグラスを拭きながら聞いてきた。
「ああ」
「この手紙のことを、わしはすっかり忘れとったよ。何しろ30年前に預かったきりだからなあ」
「……27年前だ、正確には」
ゼルガディスはぼんやり手紙を眺めながら答えた。
「そうだっけかな? まあ、でもよおく覚えてるよ、彼女のことは。わしがこの店を息子に継がせる前
のことだった。いつか、ゼルガディスという男が来たらその手紙を渡してくれと頼まれてな。まさか、
あのリナ=インバースだったとは思わなかったがね」
老人は言葉を切って、ふっと遠くを見つめるように目を細めた。
27年前、いまのゼルガディスと同じようにこの酒場の片隅に腰掛け、しかつめらしい顔をして手紙を
書いていたリナの姿を再び見つけようとするように。
「明るくて、可愛い子だったな。いまでもはっきり覚えているよ。いまはどうしているんだろうなぁ」
ゼルガディスはひとつ息を吐くと、
「死んだよ」
と短く言った。老人の目が丸く見開かれた。
「そりゃ、本当かい?」
「……ああ。俺も、正確に知ったのはごく最近なんだが……ずいぶん前、そう、20年前にな」
「……そうか。可哀相にな」
老人はそれだけ言うと、黙ってグラスを拭きつづけた。


目の前の老人を眺めながら、こいつもさっき俺と同じようなことを感じたのだろうか、と
ゼルガディスは思った。
リナが死んだ、という知らせを受けたとき。
胸をつきぬけたのは、悲しみではなく、驚きでもなく、何かが終わったのだという確信、
喪失感だった。
その「何か」はリナが死ぬとともに終わり、俺はそれを知らずに生きてきた。
だが、もうとっくに終わっていたのだ。俺のなかでも。
なぜなら、27年前のあの世界は俺のなかで費えてしまったのだから。
死ぬことも怖くなかったあの強烈さ、魂を揺り動かすエネルギーはもうとっくに失われてしまった。
あの頃、俺たちはとても若くて、とても強かった。
いまここで、何かが起こりつつあるという、ぞくぞくするような思いがあった。
何もかもが強烈で、いつも胸が熱かった。
当時、あのエネルギーの深い源流について考えたことがあるとしても(考えた記憶はない)、
おそらくそれを人生の現実として、ごく当たり前にあるものとして受け入れていたのだろう。
結局それは誤りだった。悪魔のように無鉄砲で命知らずな、俺のなかのリナとでもいうべき部分は
いつのまにか消え失せてしまった。
ぱっと消えたんじゃない、ガスが抜けていくように徐々に消えていったのだ。
そう、長い長い旅路の末にようやく元の身体に戻り、人並みに所帯を持ち、つつましやかな家をかまえ、
小さな生命をはぐくみ、神に祈り、愛し、恐れ、おだやかな日々を流れるままにまかせる毎日のなかで、
リナの面影はいつしか遠くなっていた。
リナの姿がどんなだったか、俺はそのうち思い出せなくなるだろう。
あのちょっと狂ったような笑顔や、熱に浮かされたような紅い瞳。
何も話さなかったのに、どんなに俺達が信頼しあっていたか。
頭の上で手のひらをばちんと叩きあわせる仕草がどんなに快かったか。
そうやって見上げる空がどんなに美しかったかも、俺は忘れかけている。
27年間、俺は自分のなかのリナの思い出を食いつぶすようにして生きてきたのだ。
俺は変わったんだ。
ふいに、何かとほうもなく熱いものが、するどく胸をついた。
思考を奪い去るような勢いで、胸のうちを悲しみが突き抜ける。
さっきの老人がそっと目の前にハンカチを置いていったのもかまわず、俺は両手を額に押し当てて
涙が流れるにまかせた。
俺はリナを愛していた。
そう、ガウリイのような愛し方ではないにせよ、俺なりの超然とした愛し方で。
ただひとり、あんなグロテスクな魔物たちが登場するストーリーが、おとぎ話のようにハッピーエンドで
終わるはずがないのだと知っていた女。
(自分の買いものにはちゃんと代価を払う)
あのとき引き受けた重荷は、どこまでも続くのだと。決して終わらないのだと。
(そしていずれ因果は巡ってくる)
あの鎖を死ぬまで手放すことはできないのだと知っていた女。
あの女は、かつて、俺たちのかけがえのない仲間だった・・・。
日に焼けた頬のうえに、涙はとめどなく流れた。
ゼルガディスは手紙を握り締めて泣いた。
泣き続けた。



親愛なるゼルガディス

ここの酒場を覚えている?
冥王との戦いを終えたあと、あたしたちがしばらくのんびりしていたところよ。
あんたがこの手紙を読むのは何年後なのか、あたしにはわからない。
ひょっとしたら、あたしが既にこの世にいないときかもね。
だから、いつか、あんたがここに立ち寄ることを願って、これをここに預けておくわ。
いま、あたしはこの酒場の片隅でこの手紙を書いている。
書きながら、いままで起こったことをずっと思い出している。
ひょとしたら、あんたにとっては人生でいちばん荒れ狂っていた時期かもしれないわね。
さんざん引きずり回されたあげく、手に入れたものはゼロだったんだから。
あたしにとってもそれは同じだけどね。
でも、シャブラニグドゥを倒したときからそれはわかっているのよ。
これから、誰にも想像がつかないほど高い代償を払わなければいけないんだってね。
ま、でも、たとえすべてを失うことになっても、そこから逃げ出すわけにはいかないってことよ。
自分の買いものにはちゃんと代価を払う――そしていずれ因果は巡ってくる。
だけどそれでも、あんたやガウリイと出会わなければよかったとは思わないのよ。
――理由は言わなくてもわかるでしょう?
ねえ、あたしたちは一緒にできるかぎりのことをしたわよね。
あんたは何も言わなくてもあたしのことを理解してくれたし、言葉にはしなかったけどいつもあたしを
慰めていてくれた。
うまく表現できないけど、つまりね、あたしがとても感謝してるってことなの。
いつもあんたを頼りにしていたし、たぶん、これからもあんたのことやあんたの居場所を気にしてると思う。
どこにいても、あんたの人生がしあわせなものであるように祈っているわ。

千の祈りをこめて
あんたの仲間より


Fin.



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1321待ってました。E-mail 2/24-08:24
記事番号1317へのコメント

ひさびさにネットに入ってみたら、とっても心待ちにしていたものが!
読みたかったんですよ・・・幸せ。
幸せな内容ではちょっと、ないですけど。

ひなさんのお話はどれも何か、生な感じがして好きです。
リアル、というのとはちょっと違いますが、生きている感じ。
読んでいてそういう手触りを強く感じるので。

ここではそういう話って少ないですよね・・・。
だから、待ってました。(笑)

この下は戯言。
リナは、私にとっては、絶対に”変われない”人間です。
ズーマとか、意外に似たもの同士だったんじゃないかと。
ゼルもそうではあるけれど、きっとそれ以前の「普通」の状態である
自分を希求していた分、まだ変わりようがあるだろうと思うんで・・・。
どちらが幸福かは、分かりませんけど。まあそれぞれ・・・かな。

んでは、また読みに来ます。

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1328在りし日の歌をひな 2/25-16:52
記事番号1321へのコメント

ひなです。
灰さん、ほんとに感想ありがとうございます。
ちゃんとわかってほしいことを読み取ってもらえて嬉しいです。
コメントいただけるだけで書いた甲斐があるものです。

>リナは、私にとっては、絶対に”変われない”人間です。
>ズーマとか、意外に似たもの同士だったんじゃないかと。

はい、わたしもそう思います。
好きでああいう生き方をしている、と本人は思ってるかもしれないけど、本当は
違うんじゃないかな、と思うのです。
自分の「才能」に振り回されて、どうしてもああいうふうに生きるしかなくて、あれ以外に
生き方なんてないんじゃないか、と。
リナのそういう「異常性」もできたら小説にしてみたいですね。

それでは、また。

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1329こっちが本当の『在りし日の歌を』ですひな 2/25-17:05
記事番号1328へのコメント

大間違いです。
こっちが「歌は終わりぬ」「君去りし後」に続く、「在りし日の歌を」です。
ついでに一応これが完結編です。
「歌は終わりぬ」から、時系列順になっています。
さて、これは何年後のお話なんでしょうか?



『在りし日の歌を』


わたしたちは去っていく。
太陽が沈みゆくころ、思い思いの方向にむかって。
ひそやかな達成感を胸に抱きつつ、ふたたび自分の人生に戻っていくために。
あるものは故郷に帰り、あるものは新しい旅に向かって歩きはじめる。昼の目が閉じ、
闇がしずかに影を落すなか、両手をポケットに突っ込んで、あたたかな街の灯を眺めながら。
わたしたちは後ろも見ずに去っていく。太陽が沈みきるまえに。
そうやって立ち去りながら、最後の別れに振り返ってみたいような思いにかられる。なぜなら、
もう二度とふたたび彼女を見ることはないんだとなんとなく知っているから。
だが、彼女もまた歩き始めている。小さな胸を張って、赤々した夕陽を受けて堂々と歩いている。
その顔は若々しく、自信に満ちて、タフだ。未来の自分を生み出すほどにタフだ。いつも微笑を
たやさない。そして、死とは何かを理解しようと努めている。
そしてわたしは思う。
彼女を見るためならうしろを振り返るまでもない。
わたしたちの心の一部は、永遠に彼女を見ている。永遠に彼女とともにいる。永遠に彼女を愛している。
あの頃の世界が追憶の彼方に消え去っても、愛は幻に変わりはしない。
だからわたしは足早に立ち去る。
そして忘れていく。
あのきらきらした世界を、幻を、追憶を。
忘れていく、何もかも。あのころ人生の全てだと思っていたものを。
そうやって、新しい人生を歩み出すのだ……だが希望を忘れてはいけない。あの頃わたしたちが
信じていたものを。彼女が信じていたものを。
みんな去っていく、遠くなっていく、でもこのすばらしいオレンジ色の世界のなかで、4人が一体で
あるような恍惚感を覚えている。とてもすてきな気分だ。
わたしは立ち去る、いつか何もかもを忘れても、つねに微笑をたやさずに行く。
そうしてこれからの人生を、希望をもって思い描く。どんなものになるのか、まったく見当もつかないけれど。
わたしは彼女たちが好きだった。
大好きだった。



何か夢をみていたのだが、どんな夢だったかよくおぼえていない。
夢うつつのまま、アメリアは隣にいる夫の背中に手をのばし、そのあたたかな肌に寄り添った。
夫はかすかな寝息をたてて、やすらかな眠りを味わっている。
懐かしさが胸内に残っていて、彼女はあれが昔の夢だったんだと気づいた。
昔のことは、細部はすっかり忘れてしまったし、忘却はいまも広がっているけれど……こんなふうに
静かな明け方に思い出すのはいいものだ。若者は死をまっすぐに見つめている。そして死あれば
こそ、愛と欲望もまた輝くのだ。
アメリアは明け方、よくそんなことを考える……そしてあの頃の無鉄砲な若者たちのことを、
すこしだけ思い出すのだ。


Fin.

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1333何年後なんですか?E-mail 2/26-02:43
記事番号1329へのコメント

ゼルと正反対に重なるお話でしたね・・・。
夕焼けの緋い光が目に映るようでした。
長くひく影、とか。夕日の鮮やかに照り返す色とか。
切り取ったように感じました。

コメント返し、ありがとうございます。
私はあまり、こういう所に書き込むのは得意ではないので、
ひなさんが書かれるたんびに感想を書きつつ、
ご迷惑だったらどうしよう、と考えてましたんで・・・。(笑)
けど私は、「終わらない、詩」 でひとめ惚れしてたので。
私自身も小説書きなので、こういうのが書きたいんだ、
という気持ちなのかもしれませんが。
私は未だに満足できるものをひとつも書けていないのです。(笑)

仲間たちによる3部作、おつかれさまでした。

んでは、また。



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1347テーマはガウリナひな 3/1-03:08
記事番号1329へのコメント

灰さん、いつも感想ありがとうございます。
今回は、これまでとちょっと毛色の違う短編です。
かるーく読んでほしいです。
ガウリイ先生の保健体育ですな。




「ねえ、男の人ってそんなに強く女のひとが欲しくなるの?」
とある大きな街の中心部から、宿屋に戻るまでの道すがら、リナは唐突に聞いた。
ここは宿場町の一種で、街はずれには娯楽施設や酒場などが多い。
もうとっぷり日も暮れた頃で、すこし離れた場所ではすけべえ屋の呼び込みがひっきりなしに
聞こえてくる。
ガウリイはその質問にすこし驚いたが、表情には出さずにゆっくり答えた。
「そうだな。個人差はもちろんあるけど、男は性欲というもののせいで、基本的に女を欲しがる
ものなんだ」
「ふうん」
リナは無表情にあいづちをうった。
なんだかよくわからない、と言いたげな表情をしていたで、ガウリイは苦笑した。
いくら利発で大人びているとはいえ、リナはまだまだ15,6の子どもなのだ。男と女のことがわかろう
はずもない。
ふいに、保護者として彼女にきちんとした知識を教えてやらねばならないという義務感がわいてきた。
「リナは、どうして子供ができるのか知っているよな?」
リナはすこし目をそらして、「知ってる」と素っ気無く言った。
「種族の保存のために、男は一般的に女よりも強くて衝動的な性欲を持っているんだ。性欲っていうのは
けっこう厄介なもんでな、男だって好きでそれに振り回されているんじゃないだぜ」
リナはほんのり赤く染まった顔でガウリイを見上げ、真剣に彼の話を聞いていたが、いまいちのみこめない
ふうだった。
「よくわかんないな」
小首を傾げてつぶやくリナの頭を、ガウリイはぽんぽんと叩いた。
「そのうちわかるようになるさ」
「あたし、女だもん」
「女にだって性欲はあるんだ」
「でも、そんなの、わかりたくない」
リナはちょっと怯えたように言った。
ガウリイはそんな彼女にむかってなるべくやさしく諭した。
「たしかに、それだけが目当ての男も確かにいる。でも、セックスは男と女の関係においてはすごく大切な
ことなんだ。いけないことでもないし、ましてや怖いことでもない。お前さんも恋をするようになったらきっと
わかる。好きな相手に近付きたい、何かを共有したい、セックスしたいと思うのは自然なことなんだ」
口調が我知らず熱っぽくなったのは、リナがいつになく真っ直ぐに彼を見上げているからだろう。
リナの視線には、心なしかガウリイに対する尊敬のようなものが感じられた。
「そんなこと、いままで誰も教えてくれなかったわ」
しばらくして、リナがやや掠れた声でつぶやいた。
ガウリイの言葉に大いに心を動かされたらしく、大きな瞳がきらきら光っている。
その表情を見て、ガウリイはすこし胸が締め付けられた。
彼の目の前にいるのは、まだ恋もしたことのない、複雑で傷つきやすい少女だった。魔族も盗賊も怖くない
のに、性という未知の領域が怖くて仕方のないちいさな子ども。
「ほんとうはそういうことをちゃんと知っておいたほうがいいんだ。セックスの仕組みだけ知ってればいいって
もんじゃない。いちばん大事なところを押さえておかないと、世の中は矛盾だらけで何の意味も持たないって
ことになってしまったりする。俺はもっとわかりやすくてシンプルな世界のほうが好きだ」
「いちばん大事なところって?」
「・・・・・愛だ」

真顔で言ったガウリイの言葉に、リナは爆笑した。


俺はそれでも単純な人生が好きなんだ、とガウリイは複雑な思いでひとりごちる。
たとえ自分が好きな女相手に正しい性体験について講義する役回りであろうとも、彼女が初恋も経験してない
がきんちょであろうとも、二人の関係が説明しがたく複雑であろうとも。
「愛」の一言で説明しきれない事柄なんて、彼にはないと思われるのだ。


えんど。


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1356勉強になりました。(笑)もりっく 3/3-15:00
記事番号1347へのコメント

                                  
  上手く書けないんですけど、そこはかとなくいいなーガウリイと思いました。
 読後感が、とっても良かったです。
   
  これからも、がんばってください。楽しみにしてます。
                          
                            それでは、また                   

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1359そしてゼルガディスはひな 3/4-02:49
記事番号1347へのコメント

もりっくさん、コメントどうもありがとうございます。
あんなしょーもない話に感想下さるなんて・・・(汗)
ついでにもういっこ、おまけです。ゼルガディス編ね。




************************************



「それは違うな」
ゼルガディスはにべもなく言い放った。
相変わらずフードで頭をすっぽり覆ったまま、あまり美味しくもないコーヒーを一口すする。
「だって、ガウリイがそう言ったのよ。その・・・・・だから、いやらしいことじゃないって。愛が
大事なんだって」
リナはすこし顔を赤く染めつつ、ムキになって言い返す。
「ほう。めずらしく旦那の言う事を大人しく聞いてたもんだな」
「・・・・・。あんた、喧嘩売ってんの?」
「違う違う。お前さんが無知なのは仕方ない。が、性欲ってのはそんなに甘いもんじゃない。
好きな相手と寝たいと思うのは当然だ、だがそれ以外の相手と寝たり、あるいは寝てみたいと
思うのも当然のことだ。セックスにはいろんな形がある。愛はなくても、十分満足したってことも
ありうる。人間には、時としてそういうことが必要だったりする」
「そんなのが当然なわけ?」
リナは乾いた声で言った。さっきまで執心していたテーブルの上の鴨のワイン蒸しもほったらかし
にしている。
「だから、愛っていうのはそういう矛盾をフォローできなきゃいけない、ということだ。一人の女で
満足できるならどんなに楽かわからんよ」
「あんたに理性が足りないだけじゃない?」
こんどはゼルガディスがムキになる番だった。
「・・・・・。人がせっかく教えてやったのにその態度は何だ。あのなあ、俺はどんな男にも共通する
真理について講釈してやってるんだぜ。旦那は偽善者だ、ペテン師だ、ウソつきだっ」
「何よ、あんた何様のつもり!? 個人的な経験を一般論にまで演繹するんじゃないわよっ。
ガウリイはあんたとは違うもん!」
「あんなウドの大木と比べるな! 大体、あいつはお前には奇麗事しか言わん! お前がつるぺたの
ガキだから適当なこと言っときゃすむと思っているんだ、あのクラゲ男は!」
「なあんですってええ!? あんたこそ、剣山みたいな頭してるくせに知ったような口聞くんじゃないわよっ」
「けっ・・・・・」



お互い、脳味噌をフル回転させて口汚ない罵り合いをひとしきりつづけたのち。

あまりの騒ぎに階上から降りてきたアメリアとガウリイが目にしたのは、ひっくり返されたテーブルやら
あっちこっちに散乱したお皿やらを片付けながら、なぜか話題転じてガウリイとアメリアの悪口で
大盛り上がりしているゼルとリナの姿だった。



仲が良いのか悪いのか、善良な仲間二人を混乱に陥れたゼルとリナの一幕だった。


おわり

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1362Re:そしてゼルガディスはE-mail 3/5-04:06
記事番号1359へのコメント

剣山。
・・・・・・・・・思わず爆笑しました。
何だかやけにむきになってるゼルがいいです。リナもですが。
とばっちりを受けたガウリイとアメリアも大変ですね〜。
楽しく読ませていただきました。
んでは。

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1364Re:そしてゼルガディスはりぃみ 3/5-09:45
記事番号1359へのコメント

このゼルとリナの話の対立は解決はしないですね。
結論からいうと,こればっかりはいくら話し合っても無駄です。
ゼルの気持ちはよくわかる。わかるからこそ,リナにいいたかったのでしょうね。
ちょっときつくいいますが,ガウリイの言い分はきれいごとです。
愛が必要。そうは思います。でも愛という言葉で片づけてほしくないのです。
これは私個人の意見です。これだけは譲れません。そういう人だと思って下さい。
こういった話題をネット上でしていいのかわかりませんけど(^^;
初め読んだとき(ーー;)という状態になりました。こういうのが苦手なのもあります。

ゼルとリナは仲がいいですね。
どちらかというと,ゼルはリナのことを思っている(友として)
ケンカするってことは,それだけ本心で話し合っていることではありませんか?
親友だから忠告もできるし,したいとも思う。こういったこともあるんだと。
ただの友達でしたら,関係を壊したくないからと,優しい言葉だけかけてなだめることは,愛でもないと思いますから。
ケンカしてそれを乗り越えて深まる愛も友情もあります。
ただし,暴力はいけませんね。もちろん言葉の暴力も。

私のこの文に不愉快になりましたら,ごめんなさい。
あなたのことを嫌いでいってるわけではありません。嫌いでしたらいいませんので。






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1365AFTER THE WARひな 3/6-02:03
記事番号1329へのコメント

短編です。
一貫性はちょっとあるかもしんないけど、続きもんじゃないです。


+++++++++++++++++++++++++++++++++++++


「おい、リナ」
ゼルガディスの声で、リナは現実の世界に呼び戻された。
そっと目を開けると、ゼルガディスの顔がぼやけた視界いっぱいに広がっていた。
彼の肩越しに見える天井の木目と自分自身の身体のだるさに気づいて、ようやくここが
どこなのかを思い出す。
「気分はどうだ」
ゼルガディスがリナの額に滲んだ汗をぬぐいながら聞いた。
部屋にはゼルガディスひとりきりで、ガウリイとアメリアの姿は見えない。たぶん、買い出しに
でも行ってるのだろう。
ふだん丈夫なリナが高熱をだして寝込んでしまったので、ふたりとも心配して、かいがいしく
世話をしてくれているのだ。
実際、症状はかなり良くなっていたが、さきほどの夢の余韻が胸内に残り、気分はけっして
良いとは言えなかった。
それでも何とか表情を取り繕い、
「鉛になった気分よ」
掠れた声でゼルガディスに笑いかけたが、彼はやや固い表情でリナを見返しただけだった。
ひょっとして何か変な寝言を言ってたんだろうか、とリナはすこし不安になった。悲鳴を上げたり
してなかったらいいんだが。
疲れのせいだろうか、そのことも何だかどうでもよいような気がする。
正直、ゼルガディスが起こしてくれたのは有り難かった。
何だかとても嫌な、ひどくリアルな夢をずっと見ていたのだから。
だけど思い出そうとすると、何故だか断片しか浮かんでこない。
既に輪郭しか残っていないおぼろげな記憶にリナはすがる。
夢のイメージはなまなましくのこっているが、詳細がどうしても思い出せない。
寒々とした恐怖がよみがえるだけだ。
リナは目を閉じて考える。
あれは目だった。
輪郭のない怪物の体のなかでまっすぐこちらを見つめていた……そして、その目の奥には、
なにかが動いていた。ときとしてそれが見えることもあり、見えないこともある。
でも、何かがその目の奥にあった。"思考"とも呼べないような何かが。狂気よりもなお悪い何かが。
あれは――
「シャブラニグドゥ?」
リナは思わずちいさく呟いた。ゼルガディスがぎょっとしてこちらを振り返った。
「どうした、リナ」
そう、シャブラニグドゥだったかもしれない。
その目を持ったなにかは、リナにさわろうとして、その人間ならぬ手を伸ばしてきたのだ。
叫ぼうとしてなお声ひとつ上げられず、ただ震えるしかなかったリナに。
でも、本当にあいつだったろうか? よくわからない。あるいはゼロスや冥王だったのかも。
もっとべつのもの、魔族ですらないものだったかもしれない。
そして、それからあの声が――
「リナ」
ゼルガディスがリナの青ざめた顔を覗き込んだ。
「どうしたんだ。何かへんな夢でもみたか」
リナはその顔を見上げた。いつも通りのポーカーフェイスだったが、彼女のことを気遣っているのは
その深い目の色でわかった。
ゼルガディスの目に、いまの自分はどれだけ頼りなく、子供っぽく見えるんだろうとリナは思った。
いまは、そう考えるのは苦痛ではなかった。
夢のなかで、リナをほんとうに怯えさせたのは。
正体不明のモンスターではなく、冷然とした聞き覚えのある声だった。
リナはそっと瞳を閉じて、吐息をついた。
「姉ちゃんはもう遅すぎるって言っていた」
「何だって?」
「なにかがとんでもなく狂い出していて――もうそれを正すことは出来ないんだって。姉ちゃん
には警告することはできても干渉することはできないから」
「ちょっと待て、リナ、いったい何の話なんだ?」
リナは首をすくめた。
「さあ。とにかく、夢のなかで姉ちゃんが
(可哀相なわたしの妹)
そう言ってたのよ」
ゼルガディスは何となく釈然としないような表情でふんと鼻をならした。
「おまえらしくもないな。そんなのはただの夢じゃないか」
「知ってるわよ、でも気になって」
「そんな夢、とっとと忘れるんだ。冥王は滅んだし、ガウリイは戻ってきたじゃないか。魔族の襲撃も
さっぱりなくなったし、あれはもうすっかり片がついたんだ。おまえはまだ信じられないかもしれんが。
終わったんだぜ、何もかも」
その言葉には答えずに、リナはあやふやに頷いた。
「だから、そんなことより、はやく体を治せ。その様子じゃよけいガウリイの旦那が心配するぞ。
まったく、あいつは神経症の母親みたいだからな。毎日毎日おまえのことで魔法医を質問攻めに
するもんだから、医者のほうがすっかりうんざりしているぞ」
そう言って、まるでリナの機嫌をうかがうようにぎごちない笑顔をみせた。
彼女を元気づけるためなのか、その不器用な笑顔につりこまれるようにリナも笑った。
「うん、わかった」
「わかったらもう寝ろ」
額を小突かれ、くすくす笑いながらリナはシーツのなかに再び潜り込んだ。
だが、眠りに落ちるその寸前まで、頭の奥では姉の言葉が鳴り響いていた。

(すべてが遅すぎる)




体を丸めて眠っているリナは、ひどく疲れているように見えた。
そりゃ、疲れもするさ。まだたった17なんだ。
ハードな異常事態がずっと続いているのに弱音ひとつ言えなくてずっと我慢していて、体だけが
くたびれていったんだろう。
これまでずっと、戦って、無茶な戦いをして、その結果体だけがすり減って、「このままだと"何とか
なる"まえにこっちがくたばってしまう」と思うような状態だったのだ。
「きっと何とかなる」と信じて戦っていても、ほんとうはとてもそんな風には思えない。
怒りで目の前が真っ赤になりそうで、ともすると誰かに泣きついてしまいそうで、でも現実はちっとも
動かない。
絶望している暇も余裕もない――しかも体はくたびれている。
"希望がない"というのは、ああいうことだ。
けど、もうそんなことは終わったのだ。
完全に落ち着けば、くるしい記憶も薄れる。震えるほどおそろしい悪夢だってそのうち見なくなる。
(もう遅すぎる)
そんなことはない、何も。
根拠のない不安を振り払うために、彼は胸のうちで断言した。
たぶんリナも俺も、そのうちちゃんと新しい糸で自分の人生を織りだしていけるようになる。いまの
俺たちの糸は、乾いた血がこびりついて、不吉なように見えるけれど。
あれはもう終わったんだから。
シーツをそっと引き上げてやっていると、騒がしい物音が下から聞こえてきた。
ガウリイとアメリアが帰ってきたんだろう、二人の賑やかな、明るい声が響く。
ゼルガディスはそっとリナの額を撫ぜると、ドアを開けて部屋から出ていった。
浮かれたようないい気分で、これからの人生に思いを馳せながら。


(一度回り始めた歯車は、けっして止まらない。わたしにも止められない……おまえが代価を払うまで)


(代価を)




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わたしの書くもんには、奇妙に仲のいいゼルガディスとリナが多いなあ。