◆−Eternal Seed Act.22−飛龍 青夏 (2003/4/17 21:34:54) No.14010 ┣Eternal Seed Act.23−飛龍 青夏 (2003/4/19 19:39:40) No.14028 ┃┗Re:Eternal Seed Act.23−颪月夜ハイドラント (2003/4/19 21:08:55) No.14029 ┃ ┗Re:あっ挨拶忘れた。−颪月夜ハイドラント (2003/4/19 21:10:00) No.14030 ┃ ┗ありがとうございます〜。−飛龍 青夏 (2003/4/19 22:21:10) No.14032 ┣Eternal Seed Act.24−飛龍 青夏 (2003/4/27 20:38:24) No.14109 ┃┗Re:Eternal Seed Act.24−颪月夜ハイドラント (2003/4/29 20:32:31) No.14127 ┃ ┗遅くなりましたぁっ!−飛龍 青夏 (2003/5/1 17:32:32) No.14138 ┣Eternal Seed Act.25−飛龍 青夏 (2003/5/2 22:46:47) No.14145 ┃┗Re:Eternal Seed Act.25−颪月夜ハイドラント (2003/5/4 16:43:34) No.14154 ┃ ┗アドバイスありがとうございます〜。−飛龍 青夏 (2003/5/4 22:06:44) No.14158 ┣Eternal Seed Act.26−飛龍 青夏 (2003/5/12 17:46:08) No.14208 ┃┗Re:Eternal Seed Act.26−オロシ・ハイドラント (2003/5/13 20:32:23) No.14218 ┃ ┗こんばんは。−飛龍 青夏 (2003/5/14 21:22:48) No.14228 ┣Eternal Seed 道中記−飛龍 青夏 (2003/5/17 21:17:56) No.14245 ┃┗Re:灼熱の初夏(?)−オロシ・ハイドラント (2003/5/19 16:24:50) No.14263 ┃ ┗Re:灼熱の初夏(?)−飛龍 青夏 (2003/5/19 20:42:03) No.14269 ┗Eternal Seed Act.27−飛龍 青夏 (2003/5/19 20:32:14) No.14268
14010 | Eternal Seed Act.22 | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/4/17 21:34:54 |
こんばんは。飛龍青夏です。 新学期が始まって結構たちました…。新しいクラスはメンバーが微妙な感じなのですが、まあ人生山あり谷ありということで。 ハイドラントさん、コメントありがとうございました。今回はVSウエストです。この話のヒントがぽつぽつとも出てきてます。 ところで、そのうち登場人物のプロフィール…のようなものを書こうかと思います。人数がやたら多いので。とはいっても裏設定はこれからの話に関わるのでまだ公開できませんが。あくまで予定ってことでよろしくです。 では二十二話! ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 勝者が生き残り、敗者はただその命を失う それが、この世の真理ではないのかと それだけを拠りどころにして生きてきた これは間違ったことなのだろうか……? Eternal Seed Act.22 第二ステージ ガッ 石のような床が砕かれ、ウエストは後方へ飛び退る。 「お前ごときに我が倒せると思っているのか」 ハヤテは『疾風』を抜き放ち、封印用の帯を外して刃を創っていた。彼の精神や心によって自在に変形し、硬度や動きすら調整できる伝説の武器。薙刀のようになった今の形態で、ハヤテはウエストを追い詰めていた。 「確かに…力では貴方のほうが圧倒的に有利です」 ウエストは、浅く斬られた肩を一瞥し、 「けれど、心ではどうでしょうね」 「心…?」 「貴方は自分から何かが欠落していることを知っている」 ハヤテは、動きを止めてウエストを睨んだ。 「それが生物としての本能…生存本能や防衛本能、果ては種族維持本能ですら失っているという、生物として成り立たない欠陥であることを」 ハヤテは、死を恐れない。傷つくことを恐れない。シーウを守りたいと言ったあの時の心は、確かに人間の心そのものからだ。だが、それ以前の問題として、ハヤテには欠落したものがあった。 かつてルシアの攻撃によってヴァルスが負傷し、シーウを宥めながら治療したときも、去り際に放った言葉には全く抑揚がなかった。焦りや、憤り、悲しみも苦しみも、ハヤテとってはそれほど自分を動かすものにはならないのだ。 「そして、貴方は人を愛せない」 「……」 「“かつての貴方”は“中和能力”を使い、“彼女”に救われた。その時に“彼女”をいとおしいと、思ってしまった」 “中和能力”によって、失ったものの一部を得た“彼”は、救ってくれた人に対して好意を抱いた。愛情と呼んでもいいほどの。しかし“彼女”は――。 「けれど“彼女”は手に入らなかった。それを知った貴方は愛情というものを切り捨てた。自分が辛くないように。“彼女”に迷惑をかけないように」 「そうだ。我はかつて…“彼女”を愛した」 “中和能力”を使えるのは“混沌神”と“虚無神”のみ。だとすれば“彼女”は“混沌神”だったということになる。 「“彼女”は我を愛してはくれなかった。だが、“彼女”が幸せならそれでいいと思った」 見返りは求めない。ただ、彼女を愛していたから。けれど。 「だが…その挙句このざまだ。“彼女”は我を恨んだだろう。止められなかった、不甲斐ない我を…」 「そう。貴方が止めることができなかったから、“彼女”は死んだ。僕はそう聞いています。あの“伝説”の真実も知っています。スウォード様からみんな教えられているんです」 「あの男が…か。確かにあの伝説が覆されれば、お前たちの現状は変わるだろう」 ハヤテはむしろ穏やかに語り、『疾風』の刃をウエストの方へ向け、 「だが、だからといって人を殺してまで…傷つけ苦しめてまで、あの計画をおし通そうと言うのか?」 シュン…と音を立てて、『疾風』から薙刀のような長い刃が消失する。そしてすぐに、『疾風』本体の両端から緩やかに湾曲した刃が現れた。 「お前たちの計画は確かに虐げられてきたものたちを解放する。だが、そのために世界は安定と平和を失うことになるだろう。それを容認して、幸せになれると思っているのか?人の苦しみを理解している自分たちが日常を崩す側に回ることに、何の罪悪感も抱かないのか?」 ハヤテ問われ、ウエストは沈黙した。いつのまにやら、自分が追い詰められる側になっている。だがすぅっと一息空気を吸い込み、気持ちを落ち着かせると、ウエストは真っ向からハヤテに言い返した。 「僕たちは僕たちの復讐をするために生きてきました。それをいまさら変えられるとでも?ましてや僕たちはすでに人間ではない」 ウエストの言葉に、ハヤテは苦々しげに呟いた。 「お前たちはやはりあの術を……不老不死者の暴走体をけしかけられたのもその術を使ったからか」 「そうですよ。逆に貴方がたには決して使えない技ですから、僕たちにとってはとても便利です」 言ってウエストはダガーを抜き放った。 「さあ。かつて“偽りの伝説”に敗北した、哀れで無力な、そして浅はかな“虚無神”よ。今お前の罪を贖う術を教えてやろう。死という、お前の象徴するものをな!!」 言うが早いか、ウエストは信じがたい速度で突っ込んできた。ハヤテは冷静に対応し、すっと横に身をかわすだけでそれをよける。 「そうまでして…人間という生まれついた器を捨ててまで、どうして復讐に執着する…!」 「貴方にわかってもらおうとは思わない。僕は僕のやりたいように、そしてあの方の命にのみ従い働く!」 ハヤテの横を通り過ぎた直後に反転し、二本のダガーを振りかぶる。 「貴方はわれわれの計画にとって邪魔な存在だ。一刻も早く消えていただく!」 十字に合わせたダガーを投げつけ、ハヤテの首を狙う。ハヤテは『疾風』を使ってそれを弾き飛ばし、すっとウエストの懐に入り込んだ。 「くっ…」 「子供に手荒なまねはしたくないが、しかたないな」 当て身をくらわせ、気を失って倒れるウエストを支えて、ハヤテは上を見上げる。 「こんな子供まで使って…我を倒そうとするのか…スウォード」 自分よりいくつか年下の黒髪の少年を見つめ、ハヤテは呟いた。 (それとも…こうして罪を多く背負って生きることが…我に課せられた罰なのか…?) 心の中でそう問いかける彼に、ひとつの記憶が蘇った。 『――、どうしたの?』 名を呼ばれ、“彼”は顔を上げた。木陰で樹にもたれて眠っていたのだ。 『また昼寝かしら』 問いかけてきたのは、青い髪、蒼い瞳の女性だった。“彼”は自らの前髪を邪魔そうに払い、座りなおす。赤い髪、紅い瞳。“彼”は話しかけてきた女性に無表情に答えた。 『悪いか?』 『昼寝の邪魔をしたかしら。……“あの人”がいなくてつまらないのよ』 女性が“彼”の隣に座り、空を仰いだ。優しい木漏れ日に晒されながら、二人は穏やかな風に包まれた。 『――も、皆も大変ね。じきに決戦になるだろうって言ってたわ』 『わかりきっていることだ。我がこうして深手を負って帰ってきたのだから、結界の強化を全力で行っているのだろう?』 “彼”は自分のわき腹を手で押さえた。戦いで負った深手。ここへ帰って来られたこと自体が奇跡に近かった。 帰ってきたとき、自分の伝えた切れ切れの言葉から状況を理解した仲間たちは、ここを護るための結界を強化しに出かけた。しかし、それでしのげるのもいつまでかはわからない。 『怖くはないか?』 『いいえ。怖くないわ。――がいるもの。そしてあなたや、皆も』 『……そうか』 彼はため息をついた。自分の想いは届かない。彼女の想いは、自分の恋敵と呼ぶべき人間に向けられ、相手もまた彼女を想っている。両想いというやつだ。自分が入り込む隙などどこにもない。 『ケガの具合、どう?』 『まだ少し痛むが…魔法が効いているからな。大丈夫だ』 『そう。良かった』 この束の間の休息がずっと続けばいいと思った。こんな幸せな気持ちになれるのだから。 “彼”と彼女はしばらく語らい、その日一日を過ごした。夕方になると仲間たちが帰ってきて、皆で楽しく夕食を摂った。 本当に、その日が最後の安らかな日だった。“彼”と彼女がお互いに楽しげに話せた、最後の日だった。 次の日。 日常が、世界が壊れた。 そして、彼女と彼女の想い人は、死んだ。“彼”も、そのあとを追うように死んだ。 れから千余年。世界は何とか安定を取り戻し、人々の暮らしも落ち着いている。しかし彼らのことは、知られることはなかった。千年前の、彼らのことを覚えている者も、伝えようとするものも、みないなくなってしまったからだ。それに代わるように、救世主と呼ばれる者たちが現れていた。彼らと共に戦った者たちの中でも、敵に対しての力が圧倒的だった者たちが。手柄を横取りするかのように、人々の前に君臨していた。 “浄化神”と名乗る者たちが――。 「ハヤテ…」 シーウが、ハヤテの戦闘の映像を見て名を呼んだ。映像の中のハヤテはウエストを寝かせると、ふぅっと周りの景色が変わったのを知り、辺りを見回していた。そこに、フォルとシャルも映っている。あの暗い回廊に戻ったのだ。 シーウには、ハヤテの“回想”は見えていない。ハヤテ自身の心の中のみに投影された映像だったからだ。 「ウエストも役に立たないな」 「何?」 シーウがぴくりと反応し、サウスを見る。 「何故…勝てない。私たちは人間をはるかに超える器を持っているのに…」 「サウス、とか言ったな。お前…ウエストや、さっきフォルとシャルに倒されたイーストという少年も、お前の弟ではないのか?」 「そうですよ。ですが、本当の兄弟ではない」 「え?」 苦々しげに、サウスは言った。 「私たちは皆違う母親を持つ兄弟。頭の腐った父親が不倫を重ねた挙句、私たちのような者が生まれてしまった。皮肉にも、顔だけは良かった父に似てね。おかげで兄弟として見られてはいますが、私たち自身はそれほど家族としての意識はない」 シーウは視線を逸らした。望まれずに生まれる子供は、今も世界にたくさんいる。片親の子供や、もちろん孤児も。そんな子供たちは、たいていは施設などで預かられ、それなりの生活を送っていく。しかし、心の傷は並大抵のことでは癒されない。クレスタのような、能力を持つが故に捨てられる子供もいないとは言い切れず、彼らは一生その能力と過去を背負って生きていくことになる。 「だが…仲間ではあるだろう」 自分も血の繋がった家族がいないという境遇ゆえ、シーウはなかなか言葉を選べずに言った。 「貴女に言われる筋合いはありません。私たちは私たちの親を憎み、世界を恨んだ。スウォード様が私たちを集め、世話してくれたのです……たとえ半分しか血の繋がらない兄弟でも、共通の能力を持っている私たちが必要だと言ってくれた…望まれずに生まれた子供でも、人の役に立てると教えてくれた!」 「人を傷つけることが、役に立つことだと教えたというのか?」 「違う!私たちは自分たちと同じ境遇の者たちを救うことができる!そのためなら…理想を貫くためなら力を使うことも厭わない!」 「なら何故」 シーウは、見透かすような瞳で、しかしほんの少し顔を歪めて、言った。静かに、だがはっきりと。 「何故そんな哀しい目をしているんだ?おまえも、おまえの兄弟も」 シーウの言葉に、サウスは衝撃を受けたかのような目をして一歩後ろへさがった。シーウはむしろ穏やかに、言った。 「私は…おまえを責めるようなことをいうつもりはない。だが、おまえのやっていることは…正しくはないだろう」 「っ、ノースト!!」 サウスが怒鳴りつけるように呼ぶと、ひとつの気配が現れた。そして、それに続いて、少し弱い気配も。 現れたのは、サウスによく似た少年だった。どうやら四兄弟の次兄であるノーストらしい。 「何だ?サウス兄さんよ」 ノーストは怪訝そうに兄に尋ねた。 「“浄化神”は片付いたか?」 「いや、これからだ。まだとどめは刺してない」 にやりと笑い、右手を持ち上げる。 「!」 シーウはノーストの右手を見てはっとした。血にまみれたノーストの右腕は、彼自身が傷を負っているわけではないらしく、すでに血が変色し始めていた。 「ま、なんとか歩いてるって奴にとどめさすのもなんだけどな」 ふらふらと、暗闇の向こうから歩いてくるもうひとつの人影。 「ヴァルス!!」 悲鳴じみた声で、シーウは彼の名を叫んだ。 「シーウ…?」 血にまみれたヴァルスは、肩で息をしながらも、列光剣(レイ・ブレード)を手に持っていた。どうやら、まだ致命傷は受けていないらしい。 「“浄化神”よ、“混沌神”様に手を出されたくなければ、大人しくすることだ」 サウスが、短剣をシーウの首筋にひたりと当てて言い放つ。 「くっ…」 体のあちこちをすでに切り裂かれているヴァルスは、悔しげにサウスをにらんだ。 「よそ見してると首がとぶぜ!」 「このっ…!」 突如飛び掛ってきたノーストの剣をレイ・ブレードで弾き、攻撃をかわす。休むまもなく横へサイドステップし、直後に前転するようにしてノーストの連撃をよける。 「へえ。死に損ないかと思ってたら、まだ闘えるんだな」 闘いを楽しむかのように、細身の短剣を構えながらノーストは言った。シーウは自分を拘束している触手のような根から逃れようとしながら、『虚空』を視線だけで探す。 「俺も、まだ楽しめてないしな!!」 ノーストは、言うが早いか再びヴァルスにつっこんで行った。 「ははっ、こんな強い奴久しぶりだ。本気出して闘える相手ってのは本当に面白い!」 「お前の遊びに付き合ってる暇はないんだよ!」 シーウを助けたい一心で、ヴァルスは力ずくでノーストを打ち倒す。剣を弾き、レイ・ブレードの側面で横殴りに地に叩き伏せた。 「ぐっ!」 ノーストは倒されたと思った刹那、後転の要領で追撃をかわし、間合いを取る。 視線で『虚空』を探していたシーウは自分の少し上にひっかかっていた二本の刀に手を伸ばそうとして、サウスに手をはたかれた。 「貴女にこの刀は渡せませんよ」 いつの間にか、サウスが二本の刀を手に取り、それを自分の首に当てていた。 「くっ…」 「抵抗、しないでください」 ヴァルスとノーストの戦いは、長引きそうだった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 今回のメインはハヤテVSウエストでした。次回はごちゃ混ぜ…になるかもしれないし、ならないかもしれない。戦闘シーンは少しありますが。とりあえず楽しみに待っててください(待っててくれる人いるのかな…?)。 では! |
14028 | Eternal Seed Act.23 | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/4/19 19:39:40 |
記事番号14010へのコメント こんばんは。飛龍です。 このごろ歌を聴いたり歌ったりすることが多いのですが、上手いのか下手なのか自分ではわかりませんね〜。やっぱり聞いてくれる人とかがいると違うんでしょうね。この小説も同じような感じです。一人ではわからないことが、二人、三人ならわかる…とかってこともありますからね。 では第二十三話。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 自分が望まれずに生まれたと知ったとき。 自分が存在を認められなかったと思ったとき。 心が軋んで、痛くて。 涙が溢れて――。 Eternal Seed Act.23 第三ステージ 金属音が鳴り響き、二つの人影がお互いに間合いを取るように離れる。 片や黒髪黒目の、短剣を構えた少年。片や青い髪に赤い瞳の、光の剣を構えた青年。 年はそれほど離れていないであろう二人は、ずいぶん前から死闘とも言える闘いを繰り広げていた。 「ふっ」 黒髪黒目の少年――ノーストが、相手の青年に突っ込む。それを青年――ヴァルスは迎えうつように構える。 ギィンッ 歯の浮くような金属音と共に、ノーストが後ろへ倒れる。短剣を弾き飛ばされたのだ。 「くっ…」 「死に損ないじゃなかった…だろ?」 ヴァルスは荒い息をつきながらも、レイ・ブレードをノーストの首筋に突きつけながら言い放った。だがノーストは面白そうに笑い、 「はは…あんた、本当に強いんだな。あんたみたいな強い奴は久しぶりだぜ、本当に。何年ぶりかに楽しめたな…闘いで」 「……」 「オレは強い奴が好きなんだよ。男でも女でも。何も力が強いってわけじゃなくて、心だって技術だって何だって良い。何か群を抜くものを持ってる奴がさ」 ノーストはうつむき、自分の首に突きつけられたレイ・ブレードを眺めた。 「オレは望まれずに生まれた子供だ。親父が不倫を重ねたせいで、似たような兄弟が三人もいる。別にそいつらは嫌いじゃないさ。だが、親父が許せなかった。だからスウォード様のところにいるんだよ」 「スウォードって奴は…おまえたちみたいな…心に傷を持つ奴らを集めてるのか?」 「ま、だいたい皆つらいことの一つや二つは心の奥に閉まってる。オレらみたいな奴だってわんさかいるぜ?」 ヴァルスはレイ・ブレードを握る力を強めた。スウォードは、自分たちと大差ない年齢の少年少女ですら、今のような戦いに出している。それも、似たような境遇の者たちを集めているというのだ。 「ノースト、その辺にしておけ。いつだったか…ファロンがスウォード様の名前を教えてしまったそうだからな。それ以上の情報漏洩は処罰に値するぞ」 違う声がした。ノーストの兄であるサウスだ。 「はいはい。兄貴はそうやって厳しいんだからな〜」 のんきにしゃべってこそいるが、この少年たちはかなりの手練だ。だからこそ、笑っていられるのかもしれない。 「“浄化神”よ、それで弟を人質にとったつもりでしょうが、私にも“混沌神”様がいる。さて、どうしますか?」 サウスがヴァルスに向き直り、言った。彼の後ろにはシーウがいる。動きを封じられてしまった彼女では、自分を拘束している蔓を解くことすらできなくなっている。しかも、何か怪しい動きをすればサウスの攻撃が飛んでくるだろう。 「お互いにだましあいを始めようってことか」 「まあ、それでもいいんですが。こちらは“混沌神”様に傷をつけるなと言われていますしね」 「ならシーウを放してもらおうか」 「私たちの仕事はあなた、“混沌神”様の仲間の抹殺と、“混沌神”様自身を連れ帰ることです。そうそう簡単には放せませんよ」 サウスは短剣を抜き放ち、 「それに、私の思いひとつで、この蔓は動かせますからね。いまだ状況は私のほうが有利なのですよ」 ざわり、と触手のように壁を作っていた蔓が動く。ヴァルスはぴくりと片眉を上げた。この結界がサウスたち四兄弟のものだとするならば、それを操るのも簡単なはずだ。だが…… 「なら、何で俺たちを消さない?」 「…!」 「ここがおまえたちにとって最も都合のいい空間なら、俺を消すのも簡単なはずだ。ハヤテも、フォルも、シャルも無事らしいしな」 「……」 サウスは突然黙り込んだ。ヴァルスは自分の読みを言葉にした。 「確かにここはおまえたちの結界の中で、現実の世界と紙一重の次元にあるところなんだろう。だが、おまえたちは次元を掌握するほどの力はない…違うか?」 サウスたち四兄弟は、四方位にそれぞれが立つことで能力を使い、異次元結界を作り出す。だが、異次元結界は不安定な代物であるため、下手に内包した人間を“消滅させる”とひずみが生じ、やがて反動が四人に返ってしまうのだ。もしも結界内で人間を倒したいのならば、肉体を残さなければならないということだ。 「ここはおまえたちですら自由にはできない空間なんだろう?」 「……ノースト」 押し黙っていたサウスが口を開いた。ノーストははっと振り返り、 「もう結界を保つほどの力は残っていない。帰るぞ」 「兄貴!?」 「ウエストとイーストがやられた。結界が現実世界に侵食され始めている」 「なっ…」 ノーストが驚いたように声を漏らした。 「“混沌神”様」 「…何だ?」 シーウがサウスを睨みつけるように見ると、彼はむしろ穏やかに、 「考えを改めていただけるときを、心待ちにしております」 言うが早いか、サウスとノーストは姿を消した。真っ暗な回廊に戻ったヴァルスとシーウは、見知った人影を三つ見つけた。 「ハヤテにフォル、シャル…」 「あ!シーウ!無事だったんだ!」 シャルが転がるように駆けてくる。シーウはそれを受け止めると、すぐにヴァルスの元へ走った。勝ちはしたものの、彼はすでにあちこちにケガをしているのだ。 「大丈夫か?ヴァルス」 「ああ…なんとか」 どさりと座り込み、ヴァルスは疲れたようにため息をついた。 「シャル、治癒魔法を頼む」 シーウの言葉に、シャルは頷き、ヴァルスに向かって呪文を唱え始めた。 その瞬間、世界が歪んだ。 どさどさどさぁっ 「ぐえっ!!」 「うわっ!」 「きゃあっ!」 突然、足元がぐらついたと思った刹那、五人は見覚えのある宿屋の床に叩きつけられていた。 「ここは…」 シーウが辺りを見回すと、先日泊まっていた宿屋だとわかった。 「どうしました!?」 「あ、宿屋のおじさん!」 フォルが指差した先には、宿屋の主人が驚いた顔をして立っていた。 「いきなり宿屋から消えてしまわれて…探し回っていたのですよ!?」 「ああ、すみません…ちょっと事件に巻き込まれてしまって」 ヴァルスが謝罪すると、主人は不思議そうな顔をしたまま受付の部屋のほうへ戻って言った。食堂には五人だけが残り、やはりウエストの姿は消えていた。 「大丈夫か?ヴァルス」 「まあ、なんとか」 「みんなは?」 「大丈夫だ」 ハヤテが答えると、シーウは安堵の息を吐いた。ばらばらに攻撃されては、危険は多くなるばかりなのだ。フォルとシャルも無事だと知って、シーウはやっと緊張の糸を緩めた。 「とりあえず…それぞれの話を聞いたほうがよさそうだな」 ハヤテの言葉に、皆は頷いて部屋へ戻った。 金髪碧眼の青年は、黒髪の男を前にして紅茶をすすっていた。普通に見ればどう見てものどかな風景なのだが、場所が場所なだけに違和感が大きすぎた。 暗い屋敷の中で、唯一採光用に天窓が設けられている場所。月明かりがその部屋を照らし、二人の人影を包んでいた。 金髪の青年――クレスタが、微笑しながら口を開いた。 「お久しぶりですね、“ザード”様」 「…ああ」 黒髪の青年は穏やかな声で答えた。スウォードと酷似した外見をもつ美青年。黒髪に、白い肌。碧の瞳。黒い長衣は肌の色を際立たせていたが、人間らしさを残したその色を暖かくも見せていた。 「貴方様の姿をみると、スウォード様の姿が恐ろしくなってしまいます。こんなことは、本人にはとても言えませんがね」 「それは…そうだろうな」 ザードと呼ばれた青年は自嘲気味に笑った。クレスタは天窓を見上げ、 「スウォード様の姿は…私たちの未来の姿なのでしょうか…」 「怖いのか」 「いえ。けれど…スウォード様がそうなられてしまったのが…私たちと同じ原因ならば…なんとかして差し上げられないかと」 「…私は…あの姿はスウォード自身の姿だと思っている」 クレスタはザードをすこし寂しげな目で見た。ザードは俯き、 「スウォードが…本当に“伝説の獣”なら…なおさらな」 「…伝説…ですか。あの伝説のせいで、みんなが苦しんでいるのですね…」 クレスタが悲しげに呟く。彼らの心の中には、“伝説”を作ったものへの憤りがあった。過去の事実を捻じ曲げた者たちへの怒りが。 「…私たちの知っている“伝説”を公表したとしても…誰も信じはしてくれないでしょうね…」 「悲しい現実だな…」 クレスタとザードは、お互いに重いため息をついた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 今回出てきたキーワードは”伝説”。人間たちに伝えられている伝説と、現実の相違とは何か…。シーウたちはそれを知るのか。これから物語がぐんと進んでいきます。 ではまた! |
14029 | Re:Eternal Seed Act.23 | 颪月夜ハイドラント | 2003/4/19 21:08:55 |
記事番号14028へのコメント こんばんはラントです。お久しぶりです。 ついに終わりましたね4兄弟編。 完全な敗北でしょうか兄弟は・・・。 にしても哀しい敵。滅茶苦茶憎らしいやつをぶち倒す話も良いですけどもこういうのもまた良いですよね。 キーワードの伝説。 スウォードさんがクレスタ達の未来の姿?伝説の獣? どういうことなのでしょう。混沌神はそれにかかわりがあるのでしょうか。 また謎が出来ましたね。 先が結末が読めないです。 まだまだ長いのでしょうか? >このごろ歌を聴いたり歌ったりすることが多いのですが、上手いのか下手なのか自分ではわかりませんね〜。やっぱり聞いてくれる人とかがいると違うんでしょうね。この小説も同じような感じです。一人ではわからないことが、二人、三人ならわかる…とかってこともありますからね。 あっ私は歌うの好きですけど音痴です。 カラオケで点数低かったですから。 まあ小説についても自分じゃなかなか分からないですよねえ。 私的には灰色っぽい小説ではないかと。どっちかというと明るめの・・・(どういう見方だ?)。 ちなみに色には優劣はないです。雰囲気として・・・。 |
14030 | Re:あっ挨拶忘れた。 | 颪月夜ハイドラント | 2003/4/19 21:10:00 |
記事番号14029へのコメント あっ忘れてました。最後の挨拶。 それではこれで失礼致します。 さようなら〜。 |
14032 | ありがとうございます〜。 | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/4/19 22:21:10 |
記事番号14030へのコメント こんばんは。飛龍です。コメントありがとうございます。 ファン四兄弟(あんまりファミリーネーム出てこなかったんですが)は哀しい宿命を持った兄弟です。できればこの話のラストには幸せにしてあげたい少年たちです。まだまだ若いし…。 それから、キーワードについてちょっとばかりヒントを出してみます。ヒントになってるかどうかは謎ですが…(汗)。 ”伝説の獣”…ヒントは王宮編。その中にちょこっと出てます。でも王宮編の言葉ではまだまだ言い尽くせないほど裏設定があったりして、私もがんばって書こうと思ってます。 ”伝説”…この伝説は、人間たちに語り継がれている、浄化神の伝説とは違います。正確には、「今語り継がれている人間と不老不死の戦いの歴史」とは、ですね。あと、神族の謎に関しては、その”伝説”の中です。 シーウとのかかわり…これはこの物語の中ではかなり大事なポイントです!シーウが混沌神であること。ヴァルスが浄化神であること。そしてハヤテが虚無神であること。それらがからみあっていき、そして歴史の裏側、つまりクレスタたちの知る真実…。 なんだか予告のようになってしまいました。 ではまた! |
14109 | Eternal Seed Act.24 | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/4/27 20:38:24 |
記事番号14010へのコメント こんばんは。飛龍青夏です。 学校で部活が忙しくなってきました〜。とはいっても楽しいのでそれもまた良しと思っていたり。でもクラスの中での揉め事とかはやっかいですね。特に男子…もう少し静かにしてほしひ…。 では二十四話! ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 私が彼女を愛したことが、私の罪だというのなら 神と呼ばれるものは、何故私に罰を与えなかったのだろう 彼女の死は、私への罰なのだろうか 他の何を失っても、私は壊れはしなかったのに Eternal Seed Act.24 知るべきこと 異次元結界が破れ、シーウたち一行は宿屋に強制送還されてしまった。その後、お互いの情報を話し合って整理し、とりあえず敵の情報の一部を、皆が認識し始めた。ハヤテだけは、もとからわかっていたことを何度も聞かされているように、あまり積極的に話し合いに参加しようとはしなかったが。 「ハヤテ」 「何だ?」 シーウに名を呼ばれ、ハヤテは顔を上げた。それぞれの視線が、彼に集中している。 「何か知っているのなら、教えてくれ。前に言っていただろう?あいつらの“計画”を知っていると。なら……」 シーウの問いに、ハヤテはあまり表情を変えずに言った。 「それは、我から聞くよりも、自分たちで“知る”ほうが早い」 「どういう意味だ?」 今度はヴァルスが問いかける。 「お前たちの知らない“事実”を、我が“教える”ことは簡単だ。だが、我にその資格はないし、お前たちもその答えを簡単に“知る”ことができるはずだ」 「…事実?」 「資格って…」 双子が呟き、ハヤテは再び視線を逸らす。紫色の双眸が、窓の外へ向けられていた。しとしとと雨の降る、城下町の景色へと。 雨の降る景色を見ながら、ハヤテはあることを思い出していた。 『雨は嫌いか?』 『ううん。嫌いじゃないわ。好きってほどでもないけどね』 話し声が聞こえた。自分たちの住む屋敷のテラスから、男女の声が。“彼”はそれが自分の想い人と、その恋人だと知った。 しとしとと、雨が降っていた。 『雨ってちょっと困ることもあるけど…結局“恵みの雨”っていうじゃない?』 『そうだな』 『たまには雨に濡れてみるのも気持ちいいし』 『今日はやめておけよ。夏じゃないんだからな』 『ええ』 幸せそうに話す、二人。彼はその場を離れ、独り、廊下を歩いていった。 “どうしたの?” ふと顔を上げると、目の前に、少女が立っていた。しかしその姿は透けていて、向こう側がうっすらと透けて見えている。人間ではない。 『…別に』 “嘘” 目を逸らしたハヤテは、少女の言葉に眉根を寄せた。 “泣きそうな顔してるもの” ほんの少し寂しげに、少女が言った。 しとしとと、雨が降っていた。 美しく、暖かく。 悲しく、冷たく。 たくさんの人の想いを、集めて水滴にしたかのように。 しとしとと、雨が降っていた。 結局、一向は予定通りに“空の平原”を通って“沈黙の砂漠”へ行くことになった。ハヤテは、自分からは何も語ろうとしなかったからだ。 本来の次元に戻った城下町で買い物を済ませ、城下町を抜け、一向は“空の平原”へと向かった。“空の平原”は高地なので、途中、山を登ったり崖を登ったりといろいろあって、徒歩でいくしか方法はなかったが、それゆえに五人はそれなりにゆっくりと余裕を持って目的地を目指した。 整備はされていたが、それでもかなり厳しい道。山を越え、崖を登り、やっと視界が開けたその時。 世界が、青と緑で埋め尽くされた。 思わず、双子は感嘆の声を漏らしていた。 「うわ…」 「すご…い…」 本当に大きく、どこまでも広がっていく湿原。細く延びる道。その先にある山と、雲ひとつ無い青空。絵画のような風景が、目の前に広がっていた。 「“空の平原”…か。誰でもふさわしい名前だと思えるな、これは」 「そうだな」 シーウとヴァルスも、目を細めて言った。初めて来た地でありながら、空気が穏やかで、安心感が持てる。安らかな時間をもたらしてくれる、ただの視覚情報ではない景色。 そんな中、一人、ハヤテだけが、なぜか青ざめた顔で視線を地に落としていた。 「ここ、道だよな」 「早く行こう!」 双子が細い、樹でできた橋のような道に足を踏み入れた、刹那。 どさっ ハヤテが、頭を押さえて倒れた。 「う…あ……!」 「ハヤテ!?」 「ど、どうしたんだ!?」 ヴァルスがあわてて引き返し、ハヤテを起こそうとして、その動きを止める。 ハヤテの髪の色が、瞳の色が、揺らめいていた。赤から紫へ。紫から青へ。そしてまた青から赤へと変わる過程で紫に戻る。発作か何かのように、ハヤテは頭を押さえながら、声を押し殺していた。 「ハヤテ!しっかりしろ!」 シーウが駆け寄り、ハヤテに触れた瞬間。 シーウの中に、“何か”が入り込んできた。 「!?」 突然自分の中に入り込んできた大量の情報に、シーウの意識は圧倒されてしまった。吹き飛ばされそうになる意識を何とかつなぎとめ、目の前の、たった今まで見えていた緑と青の景色ではない、真っ白な空間の中に移った映像を見つめようとする。 『――お前が弱いから…!』 (――!?) 唐突に見えた、赤い炎。三つの人影。だが、その一つはもはや動くことの無い、人形のような状態だった。 『我が弱いから、カオスは死んだんだ!!』 聞き覚えのある声。激昂している男の声に、シーウは意識を集中させようとし、失敗した。未だ情報の激流が押し寄せていて、自分の五感もはっきりとしない。 (誰…だ……?) シーウは今にも途切れそうな意識を必死でつなぎとめながら、問いかけた。だが、口は動いていない。声帯もだ。意識だけの、問いかけ。それに答えるものはいなかったが。 『――俺が、あいつを封印する』 『お前が…だと…!?』 『お前にも手伝ってもらいたいんだ。カオスのためにも』 『…っ、そんな簡単に納得できるか!目の前で仲間が…いや、それ以上に大切な人間が死んだって言うのに……!』 『俺は死ぬだろう』 さっきまで怒鳴っていた男が息を呑んだ気配。もう一人の男は、静かに言った。 『“あいつ”に教えてやるんだ。この世界には、守るものを持つことで強くなれる奴もいるんだってことを。俺が“あいつ”の内部を封印する。お前は“あいつ”の本体を消してくれ』 『お前、カオスに対する償いのつもりか?』 『違う』 一度言葉を切り、静かに、続けた。 『これは、自分のためで、カオスのためで、世界のためだ。自分自身で選んだ。だから、迷うことも何も、無い』 『……』 シーウは、話の無いようについていけないながらも、何とか映像の中の言葉を聞き取っていた。しかし、もう意識が消耗しきっていて、聞き取りづらくなってきている。 『だから…――、お前は……』 ふぅっと、ついに意識が途切れた。さっきまでの白紙の世界から、暗闇へと、意識が吸い込まれていくのがわかった。 (…そう…だ……あの声……は…) シーウは、やっと、“思い出した”。 (……『 』…) 言葉を呟き、瞳を閉じる。意識を、現実に回帰する流れに乗せる。 目を開くと、自分の髪の色が揺れ動くように変わっているのが見えた。目の前には、心配顔のヴァルスと双子。そして倒れたままのハヤテ。 「大丈夫か?シーウ」 「あ、ああ」 気を取り直し、シーウは返事を返した。さっきの、情報が流れ込んでくるような現象は何だったのだろう。どうやら、ヴァルスたちの様子から見て、自分は数秒ほどしか意識を失っていなかったらしい。さっき、映像のようなものを見たことだけはうっすらと覚えているが、それ以外は何も思い出せない。情報の激流に流されて、どこかへ埋もれてしまったように。 「ハヤテ…?」 「く…」 「ハヤテ兄、どうしたんだ?頭が痛いのか?」 何とか立ち上がろうとしながらも、意識が途切れそうなのか、両膝をついた体勢のまま動けずにいるハヤテに、フォルが心配そうに問いかけた。やがてハヤテは頭を押さえていた手を降ろし、ぐったりとしながらも息を整え始めた。 「すま…ない……」 「いや、俺たちはいいんだけど…本当に大丈夫なのか?」 「先に…行ってくれ……すぐ…追いつく…」 ヴァルスの問いに、ハヤテは苦しげに返事をした。途切れ途切れの言葉。よほどひどい衝撃のようなものを受けたらしい。彼が病気を患っているわけではないのは、そこにいた全員が理解していた。なら、何が原因でこんなことになったのか。 「シーウ、どうする?」 「私の髪の色も変わっているというのは、どういうことだ?」 「は?」 「ハヤテが前に言っていた。ハヤテと私は正反対の存在で、“虚無”だと。私は“混沌”と呼ばれている。その相反する存在が、なぜ同じ現象にあっている?」 「それは…」 ヴァルスが考え込むが、シーウは混乱するばかりだった。さっきの映像といい、今自分の髪の色が変化し続けていることといい、ハヤテが倒れていることといい、どれも現実味がわかない。 ハヤテは、心の中で呟いていた。 (罪……それが…我の罰…なのか…?) 痛みをこらえるようにしながらも立ち上がり、ふらふらとおぼつかない足取りで双子の立つ場所まで行く。 「ハヤテさん、無理しないで」 「そうだよ、ハヤテ兄。具合悪いんなら休んだほうがいいって!」 「すまないな…だが…ここから離れねば収まらないからな…」 「え?」 ハヤテの言葉に、双子も混乱した。 「とにかく先へ進んだ方がいい…シーウも危ないからな…」 「私…が?」 シーウが訝しげにハヤテを見る。ハヤテは自嘲気味に笑い、歩いていった。その後を、四人がついて行った。 “空の平原”は、かつて不老不死者の集合体と、十二人の浄化神が戦った場所であり、ここでの被害が最もひどかった。かつて人間が住んでいた街は、復興などできないほどに、完全に荒野と化してしまったのだ。 人々を非難させ、最後までここに残った浄化神たちと、その仲間たちである少数の人間だけが、この地に留まり結界を張って、不老不死者の暴走体を食い止めていたらしい。日に日に強力化していく暴走体の集合体。浄化神たちは、決戦を余儀なくされたという。 そしてここで、最後の闘いが繰り広げられた。 暴走体と“力”のぶつかり合いにより、この地の地形は変化した。その結果、山一つ向こうの川から地下水脈が通り、数メートル地盤沈下を起こしたこの地が水浸しになった。そこへ湿原でも育つ植物たちが根を張り、成長していった。やがて、千年という歳月をかけ、地震などの影響で地盤が少しずつ元に戻り、水脈も川を流させる程度に湧き水を出すようになり、植物の種類も微妙に変わっていった。こうして“空の平原”の景色が出来上がったのである。 しかし今も、浄化神たちが遺したとされる結界はこの地を守り、暴走体を受け付けないようになっているらしい。その代償として、この地を永きに渡りに外界から隔離するという弊害を持ち込みながら。外界から隔離されたこの地は、暴走体を受け入れないだけでなく、邪な人間も入ることは不可能。人間が踏み込むには、それ相応の精神の洗礼が必要になる。つまり、自然界に生きる動植物のみの世界を構築しようとする結界になってしまったのだ。空気や水といった物質は結界を通り抜けられるが、結界を無効化する力でも持たない限り、ここに新たな種類の動植物を放つこともできない。 そしてもう一つ。結界の中には、かつての浄化神とその仲間の“記憶”が、封じ込められているとも言われている。その“想い”自体が、結界を作っているのではないか、と。 “空の平原”を通るためにかかる時間は予想では二日。今日は日が暮れたため、適当な場所で野宿することになった。 双子が川の近くで焚き火をおこしたり、シーウとヴァルスが簡単な寝床を作ったりして、何とか野宿の準備は整った。 その間、ハヤテは未だに良くならない体調のため、近くにあった大木の上で眠っていた。いや、目を閉じていた。髪の色の変化はなんとか収まったが、どうやら頭痛のようなものはまだ少し残っているらしい。心配げに自分を見る双子に、ハヤテは大丈夫だと言って、一人木の上へ登って横になったのだ。 「ハヤテ…大丈夫なのか?」 「まあ、死ぬような病気ってわけでもないだろうし…とりあえず休ませるしかないよな」 シーウの言葉に、ヴァルスも心配げに答える。シーウの髪の色も元の紫銀色に戻り、落ち着いていた。シーウのほうには、それ以外の何の症状も現れていない。 (私たちの知らないこととは…何なんだ……?) シーウの疑問に答えられる唯一の者は、ただ無言のまま瞳を閉じていた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 今回のサブタイトルの前につけた詩は、自分のなかではちょっとブラックな感じです。誰の言葉かというと…言うとネタバレになるかな。ヒントは敵(?)さんチームのどなたかです!(バレバレか…?)その人の心の闇って感じですな。あ、ハヤテじゃないですよ。彼でもあいそうな気もしますが。 ではまた! |
14127 | Re:Eternal Seed Act.24 | 颪月夜ハイドラント URL | 2003/4/29 20:32:31 |
記事番号14109へのコメント こんばんはラントです。 レス遅れました。 > 学校で部活が忙しくなってきました〜。とはいっても楽しいのでそれもまた良しと思っていたり。でもクラスの中での揉め事とかはやっかいですね。特に男子…もう少し静かにしてほしひ…。 うちでも結構騒がしい時あります。たまに誰かが面白いこと言ったりして笑いそうになったりも・・・。 >「何か知っているのなら、教えてくれ。前に言っていただろう?あいつらの“計画”を知っていると。なら……」 >シーウの問いに、ハヤテはあまり表情を変えずに言った。 >「それは、我から聞くよりも、自分たちで“知る”ほうが早い」 ううむどんな意味にしても単純な目的ではないと > ふと顔を上げると、目の前に、少女が立っていた。しかしその姿は透けていて、向こう側がうっすらと透けて見えている。人間ではない。 何者なのでしょう。 亡霊とかそんな感じかな。 > 本当に大きく、どこまでも広がっていく湿原。細く延びる道。その先にある山と、雲ひとつ無い青空。絵画のような風景が、目の前に広がっていた。 ちょっと言ってみたいなあ。ネーミングも良いですし・・・。 >『お前にも手伝ってもらいたいんだ。カオスのためにも』 カオス・・・過去の知りあいですかな。 > そしてもう一つ。結界の中には、かつての浄化神とその仲間の“記憶”が、封じ込められているとも言われている。その“想い”自体が、結界を作っているのではないか、と。 何かのイベントがあるのでしょうか。 それでは私はこれで・・・。 次回もがんばってください。 |
14138 | 遅くなりましたぁっ! | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/5/1 17:32:32 |
記事番号14127へのコメント こんにちは。飛龍青夏です。コメントありがとうございます。 >>「何か知っているのなら、教えてくれ。前に言っていただろう?あいつらの“計画”を知っていると。なら……」 >>シーウの問いに、ハヤテはあまり表情を変えずに言った。 >>「それは、我から聞くよりも、自分たちで“知る”ほうが早い」 >ううむどんな意味にしても単純な目的ではないと 確かに単純な目的ではないです。ハヤテにはハヤテなりの考えがあるのです。たぶんそのうちわかるかと。 >> ふと顔を上げると、目の前に、少女が立っていた。しかしその姿は透けていて、向こう側がうっすらと透けて見えている。人間ではない。 >何者なのでしょう。 >亡霊とかそんな感じかな。 亡霊…イメージはそんな感じですが、実はれっきとした種族です。感情を糧とする種族…ということで登場させています。これもそのうちわかります。 >>『お前にも手伝ってもらいたいんだ。カオスのためにも』 >カオス・・・過去の知りあいですかな。 こ、これはあまりコメントするとネタバレにつながりかねないというぎりぎりの…(汗)。知り合いよりは親しいんですが…う〜む。 いつもコメントありがとうございます。がんばって完結させたいと思うので、よければお付き合いください。 ではまた! |
14145 | Eternal Seed Act.25 | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/5/2 22:46:47 |
記事番号14010へのコメント こんばんは。飛龍青夏です。 部活で劇の発表があったのですがなんとか切り抜けました。台詞とばなくてよかった…。その後打ち上げがあって楽しかったのです!いやもうホント、たまには気晴らしもいいしパ〜っとって感じで。 …でも現実は中間テストが目前。&受験生。 人生って厳しい(涙)。 とか言っておきながら投稿です。がんばって五十話ぐらい行きたいです。では二十五話! ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 罪と罰。 それが鎖。それが戒め。 この世に在ることを認められる、唯一の条件。 Eternal Seed Act.25 記憶の欠片 “空の平原”での野宿の後、シーウたち一行は平原の縦断を続けた。二日目ということで、みな足場やまわりの植物にも慣れていた。 さわさわと、穏やかな風に吹かれて、平原の草花が揺れる。歌うように、囁きあうように。 その風にのって、ときどきシーウの耳に、どこかで聞いたことのあるような声が聞こえてくることがあった。どうやら、ヴァルスにも聞こえているらしいが、双子たちはまったく気づいていない。神族にしか聞こえないものなのだろうか。 シーウは休憩をとるとき、ふと耳を済ませて声を聞いてみようとした。 『――』 人がいるような気配。だが、それは今現在存在するもののそれというよりも、過去の幻影のような感じだった。どれほど耳を澄ませても、意識を集中させても、決して聞こえない、蜃気楼の声。シーウは、なぜか切なくなって空を見上げた。 どこまでも青く、澄み切った空を。 ハヤテも同じように、休憩時間に空を眺めていた。シーウとは離れたところではあったが。ちょうどいいところで見つけた木の下に座り込み、ため息をつくと目を閉じる。 (…あのときのことを…どんなに後悔したことか……) ハヤテは“昔”の記憶を思い出しながら、心の中で呟いた。 やがて、この結界内の圧迫感に慣れてきたものの、やはり疲れている体のためか、眠気が襲ってきた。彼は特に抗う気も起きず、そのまま睡魔に身を委ねた。 やってきたのは、淡く儚い、過去の夢。 青々と、緑が茂っていた。白い石を主な材料とした、神殿風の建物が見える。澄んだ空気と水が、太陽の光の美しさをさらに際立たせていた。 そんな中、赤い髪、紅い瞳の青年は立っていた。ふと、自分に向かって歩いてきた人影に声をかける。 「――カオス」 「おはよう」 「おはよう。“あいつ”は?」 「あいつって……シリウスのこと?」 相手の女性は青い髪、蒼い瞳の女性だった。落ち着いた雰囲気でありながらも、どこか可愛らしい。青年はふいと顔を背け、 「他に誰がいる」 「いっぱいいるわよ。ここにいる貴方以外の男なんて」 「…それもそうか」 妙なところで納得する青年に、カオスと呼ばれた女性はくすくすと笑った。 「ね、聞いてもいい?」 ひょい、と顔を覗き込むようにしながら、カオスが青年に問いかける。 「何だ?」 「アークとは、どうなったの?」 「アーク?」 「貴方まさか、もう忘れたとか言わないでしょうね」 呆れ顔で、カオスが言った。青年は何か考えるような仕草を――しかし無表情で――して、数秒立ってからああ、と呟く。 「…黒髪で、かんざしで髪を留めていて、巫女風の服を来た女か。ついでに体の透けた」 「そこまで覚えているなら名前を覚えてあげてよ」 「それもそうだな。アーク……か」 青年は無表情に呟き、カオスはその正面に回りこんだ。 「だから、そのアークとどうなったかって聞いてるの」 「それは…」 彼にしては珍しく、青年は言葉を濁した。無理もない。彼が想っているのは、紛れも無く目の前の女性なのだ。諦めたわけではなく、ただ見返りを求めないという形で、彼女を見守っている。彼女が幸せならば、他の男と一緒になっても構わない。そのかわり、相手が彼女を泣かせるような人物であれば、絶対に奪いに行くとは心に決めていたが。 だがどうやら、カオスの想い人であるシリウスという男は彼女をとても大事にしているらしい。以前はへらへらとした性格で知られていたが、カオスと恋仲になってからは、きちんとした交際としているとか。 青年には、カオス以外の女性はただの人間で、恋愛の対象にはならなかったはずだ。だが、アークという少女に対して心が揺らいだのは自覚している。 アークと呼ばれた少女は、いつも体が透けている。つまり人とは異なる存在なのだ。もう数百年昔であれば、幽霊などと言われて恐れられていただろうが、れっきとした種族だ。彼女らの種族は精霊族と呼ばれている。いろいろな物に宿った人格だとか、人の心の欠片が集まって創られた者たちだとか、いろいろ言われてはいるものの、本来彼らは人から独立した存在だ。 精霊族が物に宿ると言われているのは、人が物を扱うときに持つ“想い”を糧としているからだ。大切なものにふれるとき、人は思い出を呼び起こしたり、大切にしようと想ったりする。つまり、そういった、ものに蓄積されていく感情を糧とする種族なのだ。 もちろん、植物や動物たちの、明確なものではないが“気”や“生気”と呼ばれるものも少しずつ分け与えられ、森林などに住む者もいる。彼らがいつこの世界に現れたのか、はっきりとした記録は残っていないが、不老不死が完成したころ、そして精神世界の理論が確立され始めたころには、彼らはそれなりに人々に知られるようになっていた。 アークもまた、その一人だった。実体を持たない…というより実体化するほどの高密度の感情を得ていない彼女は、いつもふわふわと浮かんでいるような錯覚を覚える姿をしている。どうやら精霊族は、年齢を重ねるごとに、糧となる感情を吸収し、実体化する力をつけていくらしい。 そのアークが、青年に会ったのは数週間前。青年が、アークが数人の男たちに囲まれていたところを助けたらしく、アークの方はそれ以来恋心を抱いてしまっているらしい。 「コスモスがすっごく楽しみにしてたもの。貴方とアークの恋話聞くの」 「悪趣味なのかどうなのかはわからんが…あまりそういうことを言いふらすな」 「でもアークは本気で貴方のこと好きみたいだし」 青年は、はあとため息をついた。 「アークのことはまだよくわからない。…それにおまえがいるからな」 「え?」 呟いた言葉の後半が聞こえなかったのか、カオスは小さく聞き返すように言った。 「いや、いい」 切ないとか、悔しいとか、そういうことを考えている暇など無かった。自分の力は自分で制御しなくてはならない。その訓練を怠ることは自滅を選ぶのと同じようなものだ。特に、その青年にとっては。 「それじゃ、シリウス探しにいってくるわ。またね!」 走り去る女性を、青年は無表情で見送った。心の中では複雑な感情を抱きながら。 「?」 ふと気配を感じて振り返ると、背後に精霊族の少女が浮遊していた。 “おはよう!” 「……おはよう」 呆れたのか、諦めたのか、少し間をおいて、青年はアークという少女に返事をした。 “また訓練?” 「…ああ」 “毎日大変ね。私も実体になれるのはまだ一日くらいだし、がんばらなくちゃいけないけどね” アークはぺろっと舌を出した。 「……」 “ねえ” 「何だ?」 “もしかして、カオスさんのこと好きだったりするの?” 「なっ」 “図星みたいね” アークはくすくすと笑った。 “私なんかじゃ、カオスさんには到底かなわない。でも、諦めるつもりは無いからね!” 精霊族の少女はそういい残し、ふっと姿を消した。 懐かしき日々の情景を思い起こさせるのは、この地の結界の成せる業なのか。 それとも、昔を引きずり続けている、自分の鎖によるものなのか。 ハヤテは、頬を撫でる風を感じ、ふと目を覚ました。 「ハヤテ?」 「――シーウ。どうかしたのか?」 「眠っていたみたいだったからな。起こそうと思って」 刹那、ハヤテの脳裏に、過去の映像が蘇った。目の前の少女とだぶってみえる、青い髪、蒼い瞳の――。 「うわっ!?」 シーウがバランスを崩して倒れる。ハヤテの胸に飛び込むような形で、体勢を立て直せずに。 ――いつも、手の届かないところにいた、彼女が。 ――目の前にいるような錯覚をして。 「ハヤテ!?どうし…っ!?」 突然腕を引かれ、抱きしめられて、シーウはもがいた。意味も無くこんなことをする男ではない。だからこそ、恐怖が大きい。 「…っ…ヴァルス!」 パニックになりかけながら、それでもシーウはヴァルスの名を呼んだ。 「シーウ!?」 慌てて駆けつけたヴァルスは、ハヤテから奪うようにシーウを引き離した。 「ハヤテ…」 「……」 ハヤテは虚ろな瞳で、地面を見つめていた。人形のような、ガラス球のような瞳で、何も考えていないように。 「お前シーウに何しやがった!?」 今にも殴りかかりそうな剣幕でまくしたてるヴァルスを、シーウが押しとどめる。 「ま、待ってくれ、ヴァルス。ハヤテは別に何も…」 「お前が俺に助けを呼ぶような状況だったんだろ!?」 「ちょ、ちょっとびっくりしただけで、その…」 「ハヤテ!!」 ヴァルスがぐいっとハヤテの肩を掴んで、無理やり自分のほうを向かせる。そして、その瞬間。 バチィッ!! 「ぅわっ!!」 電流が通ったような大きな音がして、ヴァルスが弾き飛ばされる。 「ハヤテ!?」 「今のは…」 さっと身を起こしたヴァルスは、ハヤテの周囲を見て呆然とした。 たった今まで存在していた地面や、草木が、球形にえぐり取られている。空間ごとくりぬいたように。そこから自分が弾き飛ばされたのだと、ヴァルスは悟った。 ハヤテは、さっきまであった地面の高さで浮遊していた。そのまま、まだそこに地面があるかのように歩いて、ヴァルスの目の前に立つ。明らかな、敵意のようなものを放つ、紫銀髪の男。ヴァルスは全身が粟立つのを感じた。 反射的に後ろへとび、ハヤテの蹴りをよける。サイドステップで攻撃をかわしつつ、自分も攻撃態勢を整える。呆然と自分たちを見ているシーウを横目で伺い、ハヤテの攻撃を打ち払ってこちらも蹴りを放つ。 ハヤテの眼にあったのは、憤りか、怒りか。それとも、悲しみ、悔しさ――。それらの中に自分に向けられている部分があったことを、ヴァルスはなんとなくわかっていた。 ハヤテは素手で、しかし凄まじいスピードで攻撃してくる。しかしどうにかしてハヤテを止めなければ、どうしてこんなことになったのかもわからない。 「ハヤテ!」 シーウの叫びがあがった。そのとたん、ハヤテの動きがぴたりと止まる。ヴァルスがそこへ足払いをかけ、転倒させる。 「あ…」 「正気に戻ったか?」 呼吸を少し乱れさせながら、ヴァルスがハヤテを覗き込む。 「…ヴァル…ス」 驚いたように、ハヤテがヴァルスの名を呼んだ。 「他の誰だと思ってたんだ?」 「……何故それがわかった?」 「お前、俺じゃなくて、他の奴を見てただろ。――シーウもそうだったんじゃないか?」 シーウが心配げな顔をしてヴァルスのもとへ駆けてくる。ハヤテはまた、敗北感に苛まれた。 ――いつも、自分は“あいつ”に負けていて。愛する人すら“あいつ”に奪われていて。いつも劣等感がついてまわった。 それでもいいといってくれた少女すら、守れなかった。 (それが、今も……) 独り、心の中で、ハヤテは絶望感に苛まれていた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ハヤテ暴走!の回。まあ本気で彼が暴走したらその辺り一体焦土と化しますからプチ暴走って感じですかな。シーウも暴走したら怖いだろうに…(汗)。 あ、でも意外とシャルとかいつもは穏やかな人が恐ろしいことになるかもしれないし。 ではまた! |
14154 | Re:Eternal Seed Act.25 | 颪月夜ハイドラント URL | 2003/5/4 16:43:34 |
記事番号14145へのコメント こんばんはラントです。 > 部活で劇の発表があったのですがなんとか切り抜けました。台詞とばなくてよかった…。その後打ち上げがあって楽しかったのです!いやもうホント、たまには気晴らしもいいしパ〜っとって感じで。 劇っすか。 私はやったこと一度もないですね。 > …でも現実は中間テストが目前。&受験生。 > 人生って厳しい(涙)。 ……私は勉強しなかった受験生の頃。 > とか言っておきながら投稿です。がんばって五十話ぐらい行きたいです。では二十五話! 五十話だと……私の過去の某作に迫るような量では…… 滅茶苦茶、大変でしょうが、無理に終わらせないようにがんばってください。 長編完結後ってやっぱり何か寂しいですよ。 > 罪と罰。 > それが鎖。それが戒め。 > この世に在ることを認められる、唯一の条件。 罪と罰。 ……罪に勝る罰はなし、とかほざいてるくせに全然考えてもいない私。 まあ実際に罪犯そうとは断じて思いませんけども・・・。 過去編。 気になるような名前ばかりですね。 カオス、コスモス、シリウス、アーク……このような名は果たして偶然なのでしょうか? それと例の彼女は精霊族なのですね。 そしてハヤテ暴走!! やはり凄まじいのですね。 細かい部分までうまく書けていて凄いです。 後、大したことじゃないですけど一つ。 日本語では!や?の後を一行あけるようになっているみたいです。 現在のそれが意図的なものであればすみません。 まあ基本的なルールの一つさえ守ってない私のいうセリフでは断じてないんですが……。(慣れると矯正難しい) それでは、これで……。 次回楽しみにしています。 |
14158 | アドバイスありがとうございます〜。 | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/5/4 22:06:44 |
記事番号14154へのコメント こんばんは。飛龍です。コメント&アドバイスありがとうございます。 >> 部活で劇の発表があったのですがなんとか切り抜けました。台詞とばなくてよかった…。その後打ち上げがあって楽しかったのです!いやもうホント、たまには気晴らしもいいしパ〜っとって感じで。 >劇っすか。 >私はやったこと一度もないですね。 私の通っていた小学校では、年に一度オペレッタという劇をやっていたので、その時にみんなでやりました。でも人数がだてじゃなかったのでごちゃごちゃしてた気も…。 >> とか言っておきながら投稿です。がんばって五十話ぐらい行きたいです。では二十五話! >五十話だと……私の過去の某作に迫るような量では…… >滅茶苦茶、大変でしょうが、無理に終わらせないようにがんばってください。 >長編完結後ってやっぱり何か寂しいですよ。 そうでしょうね。長編完結って…今まで作ってきたものを終わらせるって言うのはちょっと寂しい気もします。でも多分この「Eternal Seed」はうだうだとシリーズ化するかと思います! まず第一部で現在のシーウたちの話を書き、第二部で数年後、さらに第三部で子供たち編とか。…あくまで予定です。はい。 >過去編。 >気になるような名前ばかりですね。 >カオス、コスモス、シリウス、アーク……このような名は果たして偶然なのでしょうか? >それと例の彼女は精霊族なのですね。 この過去話は、ちょびっと重い感じがしてます。私の中ではですが。 過去にあった真実。伝えられた偽善。そういったものを少し語ってみたかったりして。あまり言うとやはりネタバレになるのであまり明かしませんが、ハヤテの”想い人”が出てきます。他にもかなり…書き分けるのが大変だ〜…。 >そしてハヤテ暴走!! >やはり凄まじいのですね。 凄まじいです。虚無神と呼ばれるだけあり、破壊力には長けています。ただ、彼は普段はあまりかっとなることはないので、その力が見えないだけなんです。ただ彼が本っ気で暴走したら止められる人はあまりいないのでは…(汗)。 >後、大したことじゃないですけど一つ。 >日本語では!や?の後を一行あけるようになっているみたいです。 >現在のそれが意図的なものであればすみません。 >まあ基本的なルールの一つさえ守ってない私のいうセリフでは断じてないんですが……。(慣れると矯正難しい) そうですね。確かにこのごろ小説とか読んでると、「!」や「?」の後はひとつあいてますね…。ちょっと調べてみようかな。実は私、この話を書き始めてからしばらくして、「1」を「一」に漢字に直すようになってるので、ちょっと紛らわしいところもあるのです。「1人」を「一人」とか。できるかぎりはルール守りたいですね…。 はうあっ!また長々と…!いろいろありがとうございました。では! |
14208 | Eternal Seed Act.26 | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/5/12 17:46:08 |
記事番号14010へのコメント こんにちは。飛龍青夏です。 この話も26話まで来ましたね〜。30話までのめどはついているのですが、50話までいけるかなぁ…。いや、敵キャラの昔話を絡ませればなんとか。敵キャラの過去とかを考えてみるのも結構面白かったりします。 では二十六話! ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― たとえこの器が朽ち果てようと あたしはここに留る たとえこの心が砕け散ったとしても あたしはここを見守る 我は母 偉大なる、有と無を司りし 永遠なる無限―― Eternal Seed Act.26 沈黙の砂漠、永遠の楽園 風が吹いていた。乾いた、砂塵を含んだ風が。 “空の平原”を徒歩で抜けるのに、三日を費やし、シーウたち五人はその後さらに二日歩いて“沈黙の砂漠”へやって来た。 ハヤテを覗く四人は絶句した。 初めから、人の住める地ではなく、無人の砂漠地帯だということは知っていたが、ここまで何も無いとは思わなかったのだ。 延々と続く、砂丘の色は、薄い黄色というよりも、灰色。寧ろ銀色だろうか。わずかな陰影だけが、そこに立体があることを主張している。寄せては返し、寄せ手は返し、永遠に続くのではないかと思える、銀の砂の海。礫平原もあるのでは、と思ってもいたのだが、空の平原を越え、その一番端に位置する崖からここを眺めたとき、そんなものはまったく見あたらなかった。唐突に途切れる土色の地面と、岩の転がる道。そこから先は銀色の砂に支配された、わざわざ地図に記すことも無いであろう空白地帯。 それでもヴァルスがここへやってくることを選んだのは、興味があったということと、何かにひかれたからという理由にすぎなかった。双子にはなんのかんのと理由を言っていたのだが、どのみち“空の平原”の結界の端には開拓村があったりしたので、ヴァルスの巡礼の意味もあった。その村は、どの国にも属さない、いわば国を捨てた者たちの村。退役した軍人、謀殺された要人の家族など、そういった人々が“空の平原”の結界の外側に、小さな村を作って自給自足の生活をしていたのだ。そこに寄ったついでに、ということで珍しい砂漠を見に来ても、おかしくはあるまい。 「砂漠なのに…なんか…砂って感じがしないね」 シャルが素直な感想を漏らす。 その砂漠は広大だった。砂の地平線が、水平線のように見える。もし蜃気楼で海のようなものが見えたなら、その感覚はもっとはっきりしていたかもしれない。 「この砂…普通の砂じゃない。何かの結晶だ」 フォルが足元の砂をすくって呟いた。さらさらと指の間からこぼれるそれは、太陽の光を浴びてきらきらと輝いた。 よく目を凝らしてみると、確かに砂ではなさそうだ。何かの欠片か、もしくは結晶のような…。 不意に、ハヤテが砂漠地帯へと足を踏み出した。 「お、おい!」 あわててヴァルスが制止の声を上げる。ハヤテはゆっくりと振り向くと、シーウとヴァルスの二人を見て名を呼んだ。 「シーウ、ヴァルス」 「な、なんだ?」 「ここは大陸の端に位置する。つまり、この砂漠を越えれば海だ。だがそこに港が無い理由は、この砂漠の中にある」 「はあ?」 ヴァルスが間の抜けた声を上げる。シーウは口をつぐんだままだ。 「ヴァルス、お前はなにか感じないのか?」 「なにかって…」 「懐かしい、とか、知っているような気がするとか」 「…!」 ヴァルスがはっとしたような顔になる。双子がきょとんとしたまま、三人を見つめていた。 「かつてここは、“空の平原”で戦った者達の育った街だった。街とは言っても、巨大な樹の上に家を建てた街ではあったがな」 ハヤテが、砂漠に向かってまた数歩進んだ。 「その巨大な樹の一番上に、神殿があった。そこで育った四人の“神族”と、街で生まれた不可思議な力を持つ青年が出逢った」 淡々と語りながら、歩を進める、紫銀色の髪の青年。 「シーウとヴァルス、お前たちは絶対に知らねばならないことだ。そしてフォルとシャル、お前たちも、いつか魔剣士一族を復興させるときのために、必要な知識だということを知っておいて欲しい。我が開く扉は、選ばれたものしか先に進むことができない。通り抜けることはできてもな」 ハヤテが言い終わると、四人はしんと静まり返っていた。 「我は、知っておいて欲しいのだ。真実を。そして現実を――」 そう言って、ハヤテは呪文のようなものを唱え始めた。 「白き光より生まれし種。闇と影を抱き、広がりし葉。偉大なる大樹。我らが母、我らが希望」 ハヤテが左右に広げた腕に、光の帯が絡まりつつあった。四人は静かにそれを見守る。何がどうなるのか、わからない。いや、シーウとヴァルスは“知っている”のだが、理 解できていないのだ。双子は動悸が速まるのを感じているのか、シャルは胸に片手を当て て、宥めすかしているようだった。 「友愛に満ちた眼差し。暖かな面差し。其は導師。我らに知恵と力を与えた」 光の帯が、ハヤテの両手に収束していく。ハヤテは瞳を閉じ、続ける。 「暖かな腕、広く深き心。其の力は無限、ゆえに有と無を抱く」 光の帯が、ハヤテの腕を離れ、空中をさまようように舞う。 「大いなる大樹よ。永遠という名を冠する楽園よ。我は行く、汝が許へ。許すのならば扉を開け。許さぬのなら沈黙を。我が名はハヤテ=ソウ=リュウキ。汝の力を受け継ぎし者」 いつの間にか、淡く発光する扉の枠のようなものが見えてきた。ハヤテの両腕から離れた光の帯がその中心、普通の扉で言えば手をかける場所に伸びていき、その棒に巻きつく。やがて扉の彫刻や細工が見えるほどに実体化していく扉が、四人の視界に確認された。 ハヤテは再び口を開く。 「現世の我が名はハヤテ=ソウ=リュウキ。前世の我が名はヴォイド=ダークネス。大樹の扉よ、我が導師よ。我が名を聞き届けたなら、開門を」 扉が開いた。その先に見えたのは、巨大な、樹。 楽園と称された大樹への入り口が、いま開かれた。 「あらあら」 女性の声。長い黒髪を後ろでまとめ、白を基調とした淡い色のドレスを見に纏う、女性。ティーカップをトレイに載せたまま、窓の外を眺める。 「誰かお客様みたいね。それにしても何で五人なのかしら?あの人なら一人で来るはずなのに。あらいけない、あの人なんて言ったら変かしら。幼馴染なんだから」 「どうかしたのか?」 今度は、男性の声。明瞭な声音がよく通った。 「誰かお客様みたい。迎えに行ったほうがいいかしら」 「ほうっておけ。どの道“ここ”へ入ってこれる奴なら、この神殿にたどり着くのも簡単なはずだ」 「それもそうね。クロノス」 「それよりコスモス、あいつとの連絡はとれないのか?十年前にここへ来たきりだぞ」 「もしかして、その十年前の彼だったりして」 白く、長い髪を持った男は、琥珀色の瞳で女性を見つめたが、すぐに外へと目を移す。銀色の砂が支配する海。人間など小さな点ほどにしか見えないのだろう。 二人の男女は、そのままアフタヌーンティーを決め込んだ。 「な、なんだこれ!!」 フォルが叫んだ。扉の先に見えたのは大きな樹。それはいい。だが扉の外側からみると、そこには確かに何も無いのだ。 「扉が現れたのも不思議だけど…その扉からじゃないと見えない樹があるなんて」 シャルも不思議そうな顔をして扉の回りをうろうろしている。ハヤテはふうとため息をつくと、双子の背を押して扉の向こうへと促した。 「通るぞ」 「あ、ああ」 双子はハヤテに促され、恐る恐る進んだ。扉を通り過ぎるのはあっけない一瞬で、どうやら二人は“向こう側”に入れたらしい。 シーウとヴァルスは呆然とし、ハヤテに手招きされてやっと我に返った。 「シーウ、どうした?」 「あ、いや。あの樹…どこか、懐かしい感じがして」 「俺もだ。…初めて見たものなのにな…」 二人は扉をくぐるために、歩を進めた。 扉の枠と交差した瞬間、二人の脳裏に投影されたのは、二人の感じた懐かしさの理由か、それとも儚い幻影だったのか。 夢に囚われるように、二人の意識がふうっと力を失った。 『――え?』 シーウは声を漏らした。真っ白な空間。いつか、ハヤテが夢の中に出てきたときのような。そこに、青い髪の青年と一緒に並んでいる。 『シーウ?』 『ヴァルス…』 二人は辺りをきょろきょろと見回した。実際の肉体はまったく動いていない。おそらく扉を抜ける一瞬に、精神世界では何時間もが感じられるのだろう。 そう、ここは精神世界だった。真っ白で、けれど光があるわけではない。つまりここは――。 『“混沌”の中…だ』 シーウが呟いた。自分の力がそこから引き出されていることを、経験的に彼女は知っていた。ヴァルスは瞬きをした。 『“混沌”?あの、魔法の具現化に必要な力が引き出されているって言う…』 『私の…故郷…“混沌宮”……』 『シーウ?』 夢遊病者のような足取りで歩いていく少女を、ヴァルスが追いかけた。 『シーウ!どういうことだ?ここが故郷って?』 『私は……私…は、父も母もなく…ここで創られた…“彼女”に…偉大なる…母…』 シーウの瞳が虚ろになり、精神体がふらりと力を失う。それをヴァルスが慌てて支える。 だんだんと、真っ白な空間から宮殿のようなものが見えてきた。蒼い水晶でできたような、そんな宮殿。翡翠でできているような、透き通った柱や床、屋根。 『あれが…私の…“混沌宮”……』 『シーウ!』 『ヴァルス…ちがう……“あなた”は……』 ヴァルスは驚愕に目を見開いた。今自分が支えているのは、シーウにそっくりな、けれど蒼い髪、青い瞳の、女性。 (シーウじゃ…ない!?) 『…どこへ行ってたの…?…もう…戦いは……終わったんで…しょう……?』 ヴァルスがはっとして長く伸ばしている自分の髪を目の前にかざす。色が、違う。いつもの青い色ではない。銀色の髪。シーウやハヤテに“空の平原”で起こった現象のようなものなのだろうか。自分が自分でなくなっていくような感覚に、ヴァルスは震えた。自分の顔に手のひらを当てる。次に鏡を見たとき、別人となっているかもしれない、と思ったのだ。 冗談ではない。いくらここが未知の精神世界であろうと、こんなことが簡単に起きるわけが――。 『ねえ、答えてよ』 耐え切れなくなって、ヴァルスは叫んだ。 『違うっ!!』 女性がびくりと身をすくませる。ヴァルスは数歩後ろに下がり、 『俺は、ヴァルス=イクシードだ。あんたの探してるやつじゃない…』 ヴァルスは苦しげに言った。 シーウが別人になって、自分もそうなるかもしれない。そんな非現実的な状況に、精神が破綻しかけている。わけがわからなくて、混乱して、頭の中は真っ白だ。 どうして、こんなことになったのか。 『違うわ。貴方は…』 刹那。二人を衝撃波のようなものが襲った。と入ってもそれは極端に弱い。衝撃波というより、突風だ。 『ハヤテ!?』 ヴァルスが、精神世界に入り込んできた青年に驚きの声を上げた。ハヤテはいつもどおりの格好で、そこにいた。 『ヴァルス、無事か』 『あ、ああ。けどシーウが…』 『やはり、な』 ハヤテが蒼い髪の女性に歩み寄る。女性が、ぱっと明るい顔になる。 『ヴォイド!ヴォイドでしょう?貴方、どうしてそんな姿なの?“戦い”で何かあったの?』 『シーウ。いや…今はこう呼んだほうがいいのか』 ハヤテが、女性に向かって言い放つ。 『カオス。シーウを返せ。お前はもう――』 ハヤテは苦しげに、そこで言葉を切った。 『生きてはいない』 女性が、ふらふらと後ろにさがる。蒼い髪が、揺らめいた。紫銀色に。 『な、何を言ってるの…?私は…ここに…』 『シーウを返すんだ!カオス!!』 叫んだハヤテを、女性が泣きそうな顔で見つめる。そして、その一秒後、ふうっとその姿が揺らめき、シーウが代わりに現れた。どさりと倒れるシーウを、ハヤテが受け止める。 『ハヤテ…今のは?』 『お前たちが知るべきことは、この先にある。物質世界に戻ったほうがいい』 言うと、ハヤテはシーウを伴って姿を消した。霞のように消え去った二人を追うように、ヴァルスも精神世界から消え去った。 過去の謎が、シーウとヴァルスの心を締め付けていた。 物質世界に戻ると、シーウが倒れているのが見えた。 「シーウ!!」 「大丈夫だ。気を失っているだけだからな」 ほっと安堵の息を吐き、ヴァルスは座り込んだ。銀色の砂の上に、いつもつけている自分のバンダナが落ちていた。それを反射的に拾い、額に当てる。あわてた様子のヴァルスを、双子が不思議そうに見る。 「どうしたんだ?ヴァルス兄」 「な、なんでもない。気にするな」 フォルは不思議そうな顔をしていたが、しぶしぶ引いた。ヴァルスがこんなにあわてているところを見たことがない。 「シーウ、どうしちゃったの?ハヤテさん」 「心配するな。精神的ショックで気を失ったんだ。人によっては扉を抜けるときにこういうことがある」 「あの扉って、なんなの?」 あえて、何なのかと聞く。どういうつくりなのかとか、どうして無いはずの樹が見えるようになったのかとか、そういうことは聞かなかった。何なのかときけば、わかるような気がしたのだ。 「簡単に言えば、結界の入り口だ」 ハヤテの言葉に、双子とヴァルスは納得顔をした。その瞬間、一秒前まで存在していた扉が、嘘のように消え去った。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 今回ハヤテが唱えていた呪文は、普通の魔法の呪文とは違います。特別な魔法ですね。ちゃんと魔法の呪文も考えたいのですが…呪文にならない(汗)。大変ですね〜…。 ではまた! |
14218 | Re:Eternal Seed Act.26 | オロシ・ハイドラント URL | 2003/5/13 20:32:23 |
記事番号14208へのコメント こんばんはラントです。 少々レスに遅れました。 砂のない砂漠。 懐かしい樹。 不思議な扉。 現れる過去の断片。 相変わらず細部まで書かれていて驚かされます。 にしてもカオスと呼ばれるものの登場により、謎が深まったようにも思えます。 コスモスとクロノスの会話も気になりますし……。 複雑そうな話になりそうですね。 伏線とかしっかり張られているのかあ、と思うと本当に凄いです。 プロットは完成なされているのでしょうか? たとえ完璧でもそれとおりにいかすのは難しいですし。 さらに、感情の移り代わりにしても凄い。 私にもそんな能力があれば…… ああ、自分のダメさ加減を思い知らされます。 少しずつでも改善したい。 それと旅行風のものも良いなあと最近思ったり(もちろん、えたぁなるしぃど、の影響で) やはり参考になりますなあ。 それでは、大変でしょうけど、がんばってください。 ちなみに……もし、もし、お忙しくなかったりされれば、私HPなぞを作成したので、本気で忙しくなければ、で結構ですけど……チラ見でもしてくださると嬉しいです。(ご存知でしたらすみません) それでは大変失礼致しました。 |
14228 | こんばんは。 | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/5/14 21:22:48 |
記事番号14218へのコメント こんばんは。飛龍青夏です。コメントありがとうございます。 >砂のない砂漠。 >懐かしい樹。 >不思議な扉。 >現れる過去の断片。 > >相変わらず細部まで書かれていて驚かされます。 あまりだらだらと書いてもしょうがないし、かと言って説明が足らなくなっても困るし…と悩みながら書いています。やっぱり難しいですね〜。 >にしてもカオスと呼ばれるものの登場により、謎が深まったようにも思えます。 >コスモスとクロノスの会話も気になりますし……。 カオスという人物については、ちょっと複雑にしました。存在の仕方のことですが。三十話くらいではっきりしてくるはずです。 >複雑そうな話になりそうですね。 >伏線とかしっかり張られているのかあ、と思うと本当に凄いです。 >プロットは完成なされているのでしょうか? >たとえ完璧でもそれとおりにいかすのは難しいですし。 複雑にしすぎるとかえって読む人が飽きるかなぁと思いつつも、複雑にしてしまいました。複雑すぎると大変かなぁとも思ったのですが、ラストは結構予定しています。プロットは大体頭の中に。ちょっとだけ微調整することもありますが、大筋では変えないで行こうと思います。…でもそれがかなり難しいかも…(汗)。 >それと旅行風のものも良いなあと最近思ったり(もちろん、えたぁなるしぃど、の影響で) >やはり参考になりますなあ。 ありがとうございます。私もいろんな人の小説を読んで参考にしてる部分もあります。完璧な物っていうのはないですから、足りた物で足りない物を補っていければ良いですよね。少しずつでも。私もがんばらねば。 それと、えたぁなるしぃど(ちょっと真似てみたり)の短編というか道中記を書いたので、そのうち投稿するかもしれません。かなり短いですが、シーウたち五人の側面が見えるかも。 HP、先日見せていただきました。まだちょっとしか見ていないのですが、身のまわりが落ち着いたらゆっくり見させていただきます。 いつもありがとうございます。では! |
14245 | Eternal Seed 道中記 | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/5/17 21:17:56 |
記事番号14010へのコメント こんばんは。飛龍青夏です。 今回はちょっとした短編を。ちょっと季節が早いのですが、「Eternal Seed」の一行の夏の一日を道中記として書いてみました。面白くしたいと思ったのですがギャグとかもまた難しいことが判明。さらに短い。 今回の話はちょっとした日常の一コマということで。 では、道中記へ! ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― Eternal Seed 道中記 01 夏の一日 「うあっちぃ〜…」 金髪の少年が呟いた。直射日光が目にまぶしい。夏の日差し。 「くぉら!さっき『暑い』って言うなって言ったばっかりだろうがフォル!」 今度は綺麗な青い髪を振り乱して、赤い瞳の青年が怒鳴った。それに少年は手をうちわがわりにしてぱたぱたと仰ぎながら、 「ヴァルス兄も今『暑い』って言っただろ〜…」 「お前のほうが多い!」 「ああ、うるさいっ!!」 次はきらきらと輝く紫銀色の髪の青年が怒鳴りつける。二人はそれでも言い合いを続けているようだった。 ヴァルスとフォルとハヤテのそんな声が聞こえてきて、シーウはため息をついた。季節は夏。もちろん直射日光に当たっていればほかの季節の倍くらい暑い。湿度も高いため、体感する温度はさらにプラス修正される。そんな中旅をしているのだ。男たちが暑さが原因で口げんかをする程度ならまあいいのだが。 「大丈夫か?シャル」 木陰にいたシーウは、目の前の少女に問いかけた。少女は弱々しい声で答える。 「ごめんなさい…シーウ」 「旅は急いでるわけじゃないし、シャルに無理をさせるつもりは無いから、ゆっくり休め。ちょっと水源に行ってくる。水がぬるくなってしまった」 そう言って、立ち上がる。 森の中、ずっと歩き通しだったせいもあって、シャルが熱中症になってしまったのだ。倒れかかったところをフォルが支えるまで気づかなかったため、シーウとヴァルスもかなり後悔した。まだ幼い少女に、この環境はかなり辛かったのだろう。 この世界は、千年前に一度滅びかけてから、自然との共存を目標に歩んできた。そのためか、人間は必要以上に自分の領土を広げようとはせず、また必要以上に動物たちを狩るわけでもなく、そのまま放って置かれている森も少なくない。もちろん、利用者が少ないという理由で、まともな道が整備されていないところも時々ある。そういった森の一つに、シーウたちはルートを設定してしまったのだ。道は広いが直射日光があたるばかりで、足元の状態もお世辞にもよいとはいえなかった。 シャルがいた木の下からしばらく歩くと、地層がはっきりと見て取れる場所についた。崖のようになっている。その崖の、シーウの頭より少し上くらいの場所から、水が流れている。小さな滝のように。シーウはその下に持ってきた水筒を出して水を入れた。シャルが倒れてから、もう三回は繰り返していることだ。 冷たい水が手にあたる。それが心地よくて、シーウは思わずここで水浴びでもできたらいいのにと思った。シャルの看護のため、そんな時間はないのだが。 一度たまった水で水筒を軽くゆすぎ、水を捨てる。二度目は喉が渇いていたので少し手に移してそこから飲んだ。真水なので飲めないことは無い。寧ろ、この森の良い環境のおかげか、その辺で買った水よりもおいしいとも思える。三度目は少し躊躇ったが、思い切り頭から水をかぶった。最後に水をこぼさないギリギリのところまで入れて、シャルの元へ戻った。 「シーウ……水飲んでもいい?」 「ああ。ちょっと待ってろ」 シーウが水筒を差し出すと、シャルは口をつけて少し水を飲んだ。汗をかいた分、喉が渇いていても不思議は無い。シーウは残った水を小さめのタオルにかけて、それでシャルの汗を拭ってやった。倒れたときよりはましになってきたものの、順調に回復しているともいえないだろう。 「水源が近くにあってよかったな」 「そう、だね」 「…にしても」 シーウは言葉を切った。そこへ、先ほどと同じような口げんかの声が聞こえてくる。 「お前が暑いっていうから余計暑く感じるだろうがっ!」 「ヴァルス兄だって暑い暑いって言ってるだろ!?」 「お前のほうが数が多いんだよっ!」 「わざわざカウントするくらいならヴァルス兄も口開かなければいいだろ!?」 「おまえがそうやってさらに返事するから喋る羽目になって体温が上昇して……」 「それは俺もだろ〜!」 「いい加減にしろヴァルス、フォル!我まで暑くなるではないかっ!!」 再び、男たち三人の口げんかの声。そして。 ぴしり、と空気が音を立てた、ような気がした。そのとたん、男たち三人の動きがぴたりと止まる。凍りついたように。シーウが、半眼でゆっくりと三人を振り返った。 「なあ」 びくっと三人が後退する。一歩で数メートルさがったような気もするが。 「シャルが熱で苦しんでるって言うのにおまえたちは……」 怒気というか、諦めというか、そういうもろもろの感情が混ざって黒いオーラに転じている。いつものシーウならこんなにあからさまな感情の表現はしない。が、暑さのせいで自制がきかなくなったらしい。 男たち三人の顔が青ざめる。シーウがすうっと右手をそちらに向け、 「そんなに涼しくなりたいなら氷付けにしてやるから待ってろこの馬鹿男どもぉぉっ!!」 次の瞬間、シーウが魔法の呪文を解き放った。 「北烈風氷嵐っ(ノーザン・ブリザード)!!」 氷の刃――本来ならもっと鋭いのだが――が、ヴァルスとフォルとハヤテに向かって収束していき、三人の足元に突き刺さる。周囲を氷の檻で取り囲まれた形になった二人は、抜け出すことができずに後悔でいっぱいになった。こごえるほど寒いというわけではないが、辺りの気温が一気に下がり、鳥肌が立ったのだ。 シーウが近くまでてくてくと歩いてきて、氷を幾つか拾って帰った。シャルの看病に使う気らしい。 結局、男三人は氷が溶けるまで檻の中で震えていたという……。 シーウの怒ったときの怖さを、お互いに認識しあった三人であった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― シーウが怒った!?という危険の一歩手前のような話になってしまいました。まあ仕組んだのは私なのですが。私的にはヴァルスとフォルとハヤテの言い合いが面白かったです。三兄弟って言うか親友同士というか。 読んでくださった方、ありがとうございます。ではまた! |
14263 | Re:灼熱の初夏(?) | オロシ・ハイドラント URL | 2003/5/19 16:24:50 |
記事番号14245へのコメント こんばんは 暑いですね。 本当に……。 これからパソやるのも大変になって来るかも知れませんね。 > 今回はちょっとした短編を。ちょっと季節が早いのですが、「Eternal Seed」の一行の夏の一日を道中記として書いてみました。面白くしたいと思ったのですがギャグとかもまた難しいことが判明。さらに短い。 ええギャグは難しいです。私もシリアスばかりになりかけですし……。 面白いネタが浮かんだ時に文章化するのが良いかと思います。 >「くぉら!さっき『暑い』って言うなって言ったばっかりだろうがフォル!」 >今度は綺麗な青い髪を振り乱して、赤い瞳の青年が怒鳴った。それに少年は手をうちわがわりにしてぱたぱたと仰ぎながら、 >「ヴァルス兄も今『暑い』って言っただろ〜…」 >「お前のほうが多い!」 >「ああ、うるさいっ!!」 こういう時は沈黙が正解か? でも暑いと口に出ますよね。 >「北烈風氷嵐っ(ノーザン・ブリザード)!!」 > 氷の刃――本来ならもっと鋭いのだが――が、ヴァルスとフォルとハヤテに向かって収束していき、三人の足元に突き刺さる。周囲を氷の檻で取り囲まれた形になった二人は、抜け出すことができずに後悔でいっぱいになった。こごえるほど寒いというわけではないが、辺りの気温が一気に下がり、鳥肌が立ったのだ。 > シーウが近くまでてくてくと歩いてきて、氷を幾つか拾って帰った。シャルの看病に使う気らしい。 > 結局、男三人は氷が溶けるまで檻の中で震えていたという……。 > シーウの怒ったときの怖さを、お互いに認識しあった三人であった。 ううむ恐ろしいですね。 風邪とかひかなかったのでしょうか? そこでシーウが看病したはじめたらハァトな展開に……なるのかな? それでは本編も焦らずがんばってください。 私は飛龍さんと、えたぁなるしぃどを応援し続けたいと思いますので……。 |
14269 | Re:灼熱の初夏(?) | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/5/19 20:42:03 |
記事番号14263へのコメント こんばんは。飛龍です。コメントありがとうございます! >暑いですね。 >本当に……。 >これからパソやるのも大変になって来るかも知れませんね。 うちの地方ではなぜか暑かったと思いきや今度は寒くなりました。いやはや…体調壊す人がいたりして大変です。やっぱり梅雨が近づいてるからですかね〜。 >> 今回はちょっとした短編を。ちょっと季節が早いのですが、「Eternal Seed」の一行の夏の一日を道中記として書いてみました。面白くしたいと思ったのですがギャグとかもまた難しいことが判明。さらに短い。 >ええギャグは難しいです。私もシリアスばかりになりかけですし……。 >面白いネタが浮かんだ時に文章化するのが良いかと思います。 なるほど。面白いネタが浮かんだときに…。参考になります。ありがとうございます! >>「ヴァルス兄も今『暑い』って言っただろ〜…」 >>「お前のほうが多い!」 >>「ああ、うるさいっ!!」 >こういう時は沈黙が正解か? >でも暑いと口に出ますよね。 暑いとつい「暑い」と口にしてしまいますね〜。実はシーウたちの服装、季節感ないのとかもあるんですよ。夏は暑いし冬は寒いというような。ヴァルスは結構軽装なので夏は涼しいほうなのですが、逆に冬は寒いですな。 >>「北烈風氷嵐っ(ノーザン・ブリザード)!!」 >ううむ恐ろしいですね。 >風邪とかひかなかったのでしょうか? >そこでシーウが看病したはじめたらハァトな展開に……なるのかな? おっ!ナイスあいでぃあ!でもパクリになっちゃう!?シーウとヴァルスの恋話でもいいのですが、フォルとシャルの兄妹愛でもいいかなとか思ったり(笑)。 いつもありがとうございます。これからもがんばりますね!では。 |
14268 | Eternal Seed Act.27 | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/5/19 20:32:14 |
記事番号14010へのコメント こんばんは。飛龍青夏です。 短編をちょくちょく書き始めた今日この頃。長く続けることはできるのですが、なぜか短くまとめるのが難しくなってきました…。やっぱり短くわかりやすくという風にまとめてみるのも大変ですね。 大変大変って言ってても上達はしないのですが(汗)、とりあえずこの小説が無駄にならないことを願っています。 では第二十七話! ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 自分が誰かは自分で決める 自分の居場所は自分で作る 自分を信じていられるならば それも それほど難しくは無い…… Eternal Seed Act.27 流魂樹 真っ白な空間に、自分ひとりが漂っていることを知って、シーウは反射的に身構えた。さっき意識が途切れて、何がどうなったのかは知らないが、精神世界では何が起こるかわからない。 『…ヴァルス…?』 記憶が途切れる直前に見た、恋人の名前を呟く。誰もいない。自分の周りにはただ、濃い霧のような真っ白な空間が続いている。光があるわけでも、闇が支配しているわけでもない。ただ、真っ白な霧。 その先に見えたのは、真っ青な宮殿。 『あれは…』 その宮殿が“混沌宮”というのだと、なぜかわかった。 『…どうして…?』 どうして懐かしく感じるのか、理解できない。けれど、それが自分の場所だということが、わかる。理解できずとも、わかってしまう。 初めて“消去能力”が発現したときにも、こんな感覚があった。『使えて当たり前』だということを、なぜか悟ってしまったのだ。自分が自分でなくなったように。誰か、他の人間の記憶をたどっているように。 突然、背後に人の気配が現れた。ばっと振り向くと、そこに立っていたのは、青い髪、蒼い瞳の女性。 『なっ…』 “……” 女性が、悲しげな目でシーウを見つめる。 『だ、誰だ!?』 自分にそっくりな女性を見て、シーウが問う。動揺が焦りを生む。 “私は…あなたの…” その瞬間、シーウは何かとてつもない恐怖を覚え、絶叫した。 「うわああああぁっ!」 絶叫して飛び起き、シーウはかたかたと震える体を自分の腕で抱いた。呼吸が荒い。全身が冷えているような感覚。 恐怖…だ。自分が自分でなくなってしまうような感覚に、シーウは怯えていた。 「ど、どうしたシーウっ!?」 ヴァルスがあわてて駆け寄ってくる。 「ヴァルス……」 「シーウ、すごい汗だよ。大丈夫?」 「あ、ああ…」 シャルにも心配げな顔をされ、シーウはとりあえず答えた。フォルとハヤテもいる。 周りを見回すと、巨大な樹のふもとにいるらしい。砂漠にいたときには強烈な太陽光のせいで半分目を覆っていたものだが、今は木漏れ日程度なのでそれほど強くは感じなかった。どうやら、砂が太陽の光を多少反射していたせいもあるらしい。 「?」 シーウは体が重いのに気がついた。汗をかいている。服が汗を吸って重くなっていたのだ。 恐怖が再びぶり返してきた。あの、青い髪の女性。自分にそっくりな彼女が何を言おうとしていたのか、聞きたくないと思った。それを拒絶して、自分は飛び起きたのだ。 「大丈夫か?」 「…寒い」 ヴァルスの問いに、シーウは震えながら言った。妙に体が冷えている。砂漠を抜けたとはいえ、まだ暖かいこの場所でこんな風に体が冷え切っているなどおかしな話だが、実際、震えるほど寒いのだ。 「精神世界に長時間いたせいだな。慣れていない者は体力を消耗する」 ハヤテの言葉に、シーウとヴァルスがそちらに視線を向けた。 「精神世界…?」 「フォルとシャルは入っていないが、我と、おまえたち二人は扉をくぐった直後に精神世界に意識を引っ張られた。まあ肉体と精神が分離したとでも考えればいい」 「なんで俺たちだけなんだ?」 「それはこの樹に登ればわかる」 言ってハヤテは、呪文を唱え始めた。扉を開いたときのような、そんな呪文。 「枝を揺らす風よ、葉を照らす光よ。我らを守りし大樹の子らよ。我が願いを聞き届けたなら、我らを幹まで送り届けよ」 瞬間、五人の体を光と風が包み込んだ。 「うわっ!」 「な、何これ!」 双子が素っ頓狂な声を上げた。風に乗せられ、光に包まれた五人は、上へ上へ向かって上っていった。一気に数十メートルの高さまで上り、そこからは太い枝を避けながら飛行する。飛翔魔法のようだが、どちらかといえば転移の魔法に近いのかもしれない。 「!」 シーウは見た。樹の枝の合間を抜ける瞬間、自分たちの下に広がる太い根と、転々と見える遺跡のようになった家を。普通の町。普通の村。巨大な樹の幹の間から滝が流れ、川となり、長い時間をかけて土となった葉の上には、草花が存在する。 美しい、楽園。 「…この樹は…」 シーウは呟いた。 「…“永遠の楽園”だったんだ…」 暗い神殿の中。スウォードは四人の少年たちを前にして、怒りをあらわにしていた。その横に控えているのはクレスタだ。 「サウス」 「はい…」 怯えた声で、スウォードに返事をするサウス。他の三人も、みな表情を暗くしている。 「あの浄化神と虚無神をしとめられなかったのは何故だ?あまつさえ、ただの人間である子供二人もだ」 「……」 「言い訳がしたければ言うがいい」 「浄化神…は、我々の力を見抜いていました。虚無神はウエストの話術にはかからず、そしてあの双子は魔剣士一族の能力で…イーストを」 「力をつけてきている、と」 「そう…思います」 スウォードは黒い長衣を翻した。 「クレスタ。“五大幹部”を全て集めよ。会議を開く」 「はい」 「ファン四兄弟には特に罰は与えん。ただし次に私が命令を下したとき力が強化されていない場合は…」 「わかっています」 そう言ったのはノーストだった。 「オレたちはここにいられなくなる」 「…その通りだ。ノースト。役立たずは必要ない」 クレスタは痛みを覚えた。“同調神”であるがゆえの苦痛。四兄弟の心の痛みが、伝わってくる。自分たちが役に立てなかったことの悔しさ。スウォードに認めてもらえなかったことの哀しさ。そして、役立たずと言われたことへの苦痛。 このごろのスウォードがいらついているのは、この組織の幹部なら誰もが知っていることだ。計画が思うように進まず、シーウを捕らえることもできない。焦燥がこみ上げるのは仕方ないだろう。 「下がれ」 『はい』 四人兄弟は暗い表情をして、部屋を出て行った。スウォードは近くにあった椅子に腰掛け、いまいましげに言い放った。 「クレスタ」 「何ですか?」 「おまえはどう思う?」 「…何を…です?」 スウォードは、ほんの少しだけ躊躇するようなそぶりを見せ、 「この計画のことだ。私が負の感情を糧としていること、お前は知っているのだろう?」 「あなたは…かつて人間が造った、不老不死者の進化型です。人間が永遠を手に入れるために必要としたのは…永遠に尽きることの無いもの。それに関して私は何か言うことはできません」 クレスタは静かに答えた。かつて人間が、不老不死を生み出すために使ったのは、紛れもなく永遠に続くもの。人間が生き続ける限り、絶えることの無い力。それがスウォードの糧となっているのだ。 その糧の名は、感情。 精霊族が正の感情を糧としていることを知ったかつての人間は、逆に決して絶えることのない負の感情を糧とすることを決めた。人間はいつも明るい感情ばかりをもっているわけではない。だが、人間ならばいつでも後ろめたいことの一つや二つは抱えている。それを糧として生きていければ、何の問題も生じない。 それでもその理論は不完全で、人間の部分が残った不老不死者たちは、食事をとることが不可欠だった。それがかつての食糧問題を再発させた原因だったのだ。 「私は…秩序を崩すためではなく…負の感情を得るためにこの計画を遂行しようとしているのかも知れない……」 苦しげに呟いたのは、本当にスウォードだったのか、それとも――。 樹の上部に到着したシーウたち五人は、その眺めに圧倒されていた。 “空の平原”に負けず劣らずのいい眺めだ。“空の平原”からここは見えなかったはずだが、こちらからは“空の平原”までがよく見通せる。この樹がどれほど大きいのかがよくわかった例だ。 「この樹…まるで細長くて高い山みたいだね」 「そうだな……」 まだ世界をあまり知らなかった双子は圧倒されるばかりだ。この旅を始めて、そろそろ一年が経つ。旅暮らしに慣れてきてはいるようだが、まだまだ行ったことの無いところはたくさんある。海がそのひとつだ。 シーウはなんとか回復したらしく、しっかりとした足取りで歩いている。ハヤテは辺りを見回していた。 「こっちだ」 ハヤテの言葉に、四人がその後に続いた。右も左もわからないなかで、ハヤテだけは道順を知っているらしい。 「ハヤテ、この樹、なんていうんだ?」 「この樹…か」 「ああ」 ヴァルスの問いに、ハヤテは答えた。記憶の端に残っていたその樹の名前を口にする。 「“永遠の楽園”、流魂樹だ」 「りゅうこんじゅ?」 「魂の流れる樹…といえばわかるか?」 「ああ、なるほど」 納得した顔になるヴァルスをみて、ハヤテは心の中で独りごちた。 (魂の流れる樹というより…魂を生み出す樹だがな) 上へと上りながら、五人はそれぞれの心の中に、それぞれの思いを抱いていた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― シーウと謎の女性のご対面っ。といっても精神世界でですけど…。会ったというより見たという感じでしょうか。 なんとか三十話が見えてきました。読んでくださった方ありがとうございます。よければまたお付き合いくださいませ。では! |