◆−桜の下で−たま(3/16-19:44)No.1419


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1419桜の下でたま E-mail 3/16-19:44


はじめまして、たまです!こちらに投稿させていただくのは
初めてです。ガウリイが光の剣を失って、魔法剣を探している
頃のお話を書きました。
読んで頂ければ嬉しいです。
では読んでやってもいいという方どうぞ。


「桜の下で」


こじんまりとした宿屋の二階、奥まった客室のドアが開かれた。
中から出てきたのは、白い清潔な法衣を来た初老の男性と
長い金髪が印象的な長身の青年。

「先生、ありがとうございました」

青年は沈鬱な表情で深々と頭を下げる。

「かなり前から具合が悪かったんじゃないですか。
魔法を使える人に時々いるんですよ。
治療魔法や魔法薬で体調をごまかしている内に、
限界を超えてしまって倒れる人が。なに大丈夫、
季節の変わり目は疲れが出やすいんですよ。
ゆっくりと体を休めて体力を回復させればすぐに元気になりますよ」

落ち込んでいる若者を励まし医師は帰っていった。

「リナ」

ベットサイドのイスに腰掛け、青年は眠っている少女を
見守っていたが、ふと、手を伸ばし額に手を当て顔を曇らせる。

「また熱があがったな」

ここ何年も保護しているいつも人並みはずれて元気な
少女の顔色が悪いと気づき、
慌てて宿屋にかつぎ込んだのが数時間前。

「大丈夫、ちょっと疲れてるだけだから」
と言い張っていた少女は、ベットに寝かされた途端に
気が抜けたのか意識を失ったのだった。

「う…………んっ。ガウリイ?」

「悪いリナ、起こしちゃったか。気分はどうだ?
そうだ、薬飲もうな」

青年は目を覚ました少女の頭を優しくなで、抱き起こす。

「んっ」

普段なら照れてスリッパの一発も飛ぶところだが、
高熱のためか少女はおとなしく青年に身を預け、
薬を飲んだ。

「よし、いい子だ。リナ食べたいもんあるか?
買ってくるぞ」

再び横になった少女に向かい、明るく問いかける。
が、彼女は

「ごめん、なんにも食べたくない。
それより、ガウリイも食べてないんでしょ。
食堂に行ってきなさいよ」

そう言うと目を閉じてしまった。

「保護者失格だな。こんなになるまで気が付いてやれないなんて」

眠りについたリナ、熱のため赤く染まった
その顔を見つめ、低く呟く。
<もっと早くに気づいてやれなかったのか>。
青年は自分自身に対する怒りと大切な少女の身への心配に
気が狂いそうだった。

「っ………う……………やぁ……………やだぁ」

夜半過ぎ、熱がますます高くなりうなされる
リナの手を握り、耳元へささやく。

「リナ、そばにいる、そばにいるから。
大丈夫すぐによくなるからな。がんばれ」

「や……やめて……ガウリイ……」

「リナっ」

<リナが無理をしていたのは、光の剣を失い魔族に
対抗する術がない自分を守るため>。
それはリナにとっての真実かどうかはわからない。
彼女に尋ねたところで「そうだ」とは口が裂けても言わないだろう。
が、ガウリイにとっては、自分のふがいなさからリナが倒れたことは、
逃げることのできない真実だった。

「今の俺じゃ、お前の役には立てないけど、
けど、ずっとずっと、お前の側にいるから」

ギュッと握りしめる手に力を入れ青年は永遠の誓いをたてる。




「わぁーーー、桜が満開。きっれいねぇ!」

「リナ、無理すんなよ。まだ本調子じゃないんだから。
ほら宿屋に戻るぞ」

倒れてから一週間。熱も下がり動けるようになったリナは、
「桜が満開だよ」との宿屋のおかみさんの言葉に、
心配する保護者をお供に散歩を楽しんでいた。

「おおげさねぇ。ただの風邪だったのに!」

「……………嘘つきが」

満開の桜の花の下、
舞い散る花びらに見とれているリナに聞こえぬよう、
青年は小さく呟いた。そして極上の笑みを浮かべ、
一番大切な少女の名を呼ぶ。

「なぁ、リナ」

「何?」

「来年も、再来年も、その次も、ずっとずっと、
こうして一緒に桜を見ような。約束だ」

「………………………………うん」

「ずっと側にいるんだから、もう気つかって無理したりするな」

「何のこと、わかんない。ほら行くよガウリイ!」

「リナ、走るんじゃない。疲れるだろ!」

笑って駆け出した少女の後を、慌てて青年が追っていく。
若い二人の未来を祝福するように、ピンクの花びらが
二人の頭上に降りそそいでいた。