◆−我は聞く。汝が絶望の、竜の詩…−由季まる (2003/6/9 20:08:49) No.14412
 ┣竜達。それぞれの心、紡ぐ、それぞれの想い…  1.『闇』−由季まる (2003/6/9 20:16:14) No.14413
 ┃┗竜達。それぞれの心、紡ぐ、それぞれの想い…  2.『黄金竜』 (1)−由季まる (2003/6/9 20:23:50) No.14414
 ┃ ┣竜達。それぞれの心、紡ぐ、それぞれの想い…  2.『黄金竜』 (2)−由季まる (2003/6/9 20:59:49) No.14416
 ┃ ┗竜達。それぞれの心、紡ぐ、それぞれの想い…  2.『黄金竜』 (3)−由季まる (2003/6/9 21:10:01) No.14417
 ┃  ┣はしがき:戦争って…−由季まる (2003/6/9 21:32:49) No.14419
 ┃  ┗Re:竜達。それぞれの心、紡ぐ、それぞれの想い…  2.『黄金竜』 (3)−オロシ・ハイドラント (2003/6/11 21:37:50) No.14447
 ┃   ┗Re:あ、有り難うございますうっ!−由季まる (2003/6/14 14:03:20) No.14460
 ┗感動の再会、そして抱擁(違)−戌亥ミナコ (2003/6/10 23:07:01) No.14444
  ┗Re:ああ〜っ!みなっち!みなっち〜!(抱きつき!)−由季まる (2003/6/14 14:30:29) No.14461


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14412我は聞く。汝が絶望の、竜の詩…由季まる E-mail 2003/6/9 20:08:49


まえがき

はじめましての方。これは、4話なので、興味を持たれたら、著作別かカテゴリ別で検索してみてください。
ちなみに、この話だけ見でもわからないとおもうのですが、ヴァルの話になっています。
暗い話になる予定ですので、お気おつけください。


お久しぶりの方。おひさしぶりです。本当に。ごめんなさい。半年ぶりです。
最後まで終わらせます。不細工になるかもしれないし、遅いペースになるとおもいますが、もし読みたいと思われたら、読んでみてください。

以前募集した、ヴァルの母、父の名前と闘神竜の読み方は、戌亥ミナコさんが考えてくれた、ヴァル母=ユノさんと闘神竜=アレス・ドラゴンで決定したいと思います。
ヴァル父は、自分で考えてみます。

以前5話で終わらせると言った私ですが(誰も覚えていないと思うのですが)
自分のできるペースでしようと思うので、それは、忘れてもらえると嬉しいです。


さて。あまり謝ってばかりいても仕方がないので、この辺でまえがきは終わります。
4話は変則的に長くなると思います、『黄金竜』で終わりではないですので、ご注意を。
では、よかったら読んで行ってください。

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14413竜達。それぞれの心、紡ぐ、それぞれの想い…  1.『闇』由季まる E-mail 2003/6/9 20:16:14
記事番号14412へのコメント

我は聞く。汝が絶望の竜の詩…
 竜達。それぞれの心、紡ぐ、それぞれの想い…










 黄金色の者達と
 古の者達と
 それらが狂った竜を生み、それらが彼等の歴史を紡いでいく…。
 それを眺めるは、闇色の欠片。
 もう滅するというのに、すでに過去である、小さき『彼』のそして竜達の歴史を掘り起こし、自らの心を揺らす。愚かな欠片。
しかし、たとえ愚かだとしても―




―一時視点は幼い少年竜である『彼』から離れ、『彼』の知らない竜達の思いを紡ぐ。










1.『闇』




 巨大な闇色の塊が漂っている、果てのない空虚な空間に。
 その空間は、まるで宇宙のようでいて、それとはまったく違っていた。
 何もない。いや、たしかに何かぼやりとしたものが無数にあったはあったがが、それらは現れたかと思えば、消えていった。
 その様子は馬車から窓の外を眺めた景色―現れては去っていく―を何倍も早くしたような、そんなものだった。
 他には何もない。
 巨大な闇色の塊をのぞいては。しかし、よく見ればー見る者がいればーその『闇』もゆっくりではあるが、ぼんやりと存在が消えつつあった。
 何処にその空間があるか誰も―ただ御一人を除いては―知らない。しかし、その空間に来る事がどう言う事か―その空間の意味を―『闇』は、知っていた。
 滅びの道。意識が保たれる最後の空間。金色の母への帰路。
 俗っぽく言ってしまえば、あの世とこの世の間。
 この空間を完全に超えてしまえば、魂は肉体を離れ清められ、輪廻の輪に再び組み込まれる。
 しかし、その『闇』は、輪廻の輪には入れず、魂さえもばらばらに滅び去ってしまい、完全に金色の母へと帰る―世界の終わりまで現世に戻る事はない―そうゆう運命にあった。

 『闇』は、その中で永い間―それは一瞬の事だったのかもしれないが―少しづつ滅びの道を歩みながら、聞き、願い、問うた。
 『闇』の中の『小さな魂』に。
 ここでは時間に意味はなく、一瞬が永遠であり、永遠が一瞬であった。










 『我』は聞くもの。願うもの。そして問うもの。そして生を賛歌する者。
 『我』は『彼』とともに在りて、いま、滅び逝くもの。
 『我』は『闇』色の者の欠片。




  我は『我』にあらず。我は聞かず、願わず、問わない。ただ永遠なる滅びを待つ者。
  我は『彼』とともに在りて、そして、いま滅び逝くもの。
  我は『我』にあらず、しかし、我もまた『闇』色の王の欠片。










 『闇』は―『闇』の片割れは―『彼』の歴史を知る必要はなかった。
 それどころか、ほおっておく事もできた。(もう一つの闇は事実そうしている。)
 償いに、と考えていないわけではないが、それが全ての理由ではない。
 知った事を『彼』に伝えようとも思っていない。
 知る事で、滅びが変わるとは、限らないとは思う。
 それでも…。

 だから、『彼』の記憶を呼び覚まし、静かに聞く。
 そして願い、そして問う。
 『彼』が苦しむとしても。


 それが、たとえ、我が侭なのだとしても。
 



〈続く〉
 

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14414竜達。それぞれの心、紡ぐ、それぞれの想い…  2.『黄金竜』 (1)由季まる E-mail 2003/6/9 20:23:50
記事番号14413へのコメント

我は聞く。汝が絶望の竜の詩…
 竜達。それぞれの心、紡ぐ、それぞれの想い…










 …―戦いは終わった。しかし、皆、戦争で疲弊していた。心も、身体も。
 そして怒りを感じていた。
 世界の命運をかけた戦いだったのだ。犠牲はやむをえなかった。が、それにしても死んだ者の数多すぎた。それなのに、頼りにしていた力強き者達は、とうとう助けには来なかった。
 交流は少なく、反りが合わなかったとしても、戦となると何よりも頼りとなる同胞、そう思ってきたのに。…あの戦争があるまでは。
 同じ神の側に立つ者だと…。

 彼等が、戦争で仲間が殺されていくのに、ただ黙って助けにこなかった事への怒りは、いつからか、自分達を見殺しにしあわよくば竜族の頂点の座をうばうつもりだったのではないか?という疑念に変わった。極端な者は奴等は神をも裏切ったのだと言った。
 それは、はじめは極一部の者の考えであったが、急速にその考えが広がり、いつしか、多くの者がそう考えるようになった。
 仲間を失った悲しみは、怒りに、そして戦わなかった者達への憎しみとなっていったのだ…。
 その中で極一部の思慮深い者たちは、その急速な広まり方に、その考えが引き起こすかもしれない事態に、真剣に頭をいためるようになった。


 それは降魔戦争が終わって十年がたったある日の事である―…










2.『黄金竜』

(1)









 ゴオオォォ〜ン ゴオオォォ〜ン ゴオオォォォ〜〜ン




 荘厳な鐘の音が聞こえる。
 ここは、黄金竜の住まう火竜王の神殿。
 とてつもなく広大な範囲に、神殿とそれに勤める黄金竜達の居住区がある。
 昼の太陽に照らされて、神殿の尖塔がキラキラと反射で輝いていた。
 辺りでは、子供達が教師役の黄金竜から、人に変身する事を教わっていた。
 平和な光景だった。…表向きは。
 その光景を穏やかな顔で眺めていた壮年の女性は、暗い考えにいたり、顔を曇らせた。
 降魔戦争からもうすぐ十年になる、竜の寿命からすれば、些細な年月だが、それでも新しい命が生まれ、育っていく事には変わりはない。
 …それなのに。未だに、成竜の中で、戦争の暗い影にとりつかれたままのものが多い。
 復興してきたせいもあるのだろう。生活が安定してきた今、黄金竜等は他の事を考える余裕がでてきたのだ。
 つまりは、戦争犠牲の償いを求める心が。
 いや、その言葉は間違いであると彼女は思った。
 一つには、償いを求めること事態が無理があるのだし。(彼女も感情は理解できるが)
 二つには、いつのまにか、…償いを求める、それ何処ろではないほどに、黄金竜等の憎しみはつのりつつあったからだった。
 たしかに彼女も、相手に非がないとは思わない、彼等が我々を助けてくれれば…!と戦争中何度も思った事がある。いや、今も。
 しかし、だからといってこのままでは…!
 少しくすんだ白金色のウェーブのかかった髪をたらし、うつむいている。


 コツ…


 「何を、昼間から暗い顔をしておる。ゼーラ。」
 聞き覚えのある声に顔を向けると、そこには、きりっとした、しかしくっきりと深く顔にシワがが刻まれている壮年の男性が立っていた。
 「…バザード様」
 二人は少し距離を持って向かい合い、一瞬沈黙が漂った。
 「顔を合すのは久しいな、ゼーラ。卵の様子はどうだ?」
 「…順調です。何事もなければ、予定どうりに孵ると思われますが。たまには休みをとって、様子を見にいらしてはいかがですか、最長老様?」
 つい皮肉まじりに言ってしまったが、最長老は気づかずに答える。
 「おまえに負担ばかりかけてすまぬが…なかなか私も忙しい身でな。ようやくそれぞれの生活が安定したが、まだこれから…いや…。」
 言葉を切り、目をそらす最長老。
 その言葉を見透かしたかのようにゼーラが口を開く。
 「その考えは、危険ですわ、最長老様。憎しみは憎しみを呼びます。」
 「…おまえが、この作戦に反対しておるのは知っている。しかしな、皆がこれを望んでいるのだ。それに、危険なのは奴等のほうなのだぞ。これは正当なことなのだ。」
 まるで子供に諭すかのように言う。
 「私には、皆の方がおかしく感じます!」
 ゼーラは、つい声を荒げた。
 「彼等が、戦争に協力しなかったからといって、どうしてそれが、危険だと判断されるのですか?」
 しかし最長老は動かぬ表情のまま静かに言う。
 「それならば聞くが、神々と魔族の雌雄を決するかもしれぬ戦いに参加しない事自体が、立派な我々黄金竜への、ひいては神々への裏切りではないのか?
  奴等の数が少なかろうと、我等より強き力を持つもの達が、力を温存し、我等が殺されていくのをただ静観していた事自体、我等に取って代わろうという事のあかしではないのか?
  それが裏切りの兆戸でないと、危険はないと、何故言える?」
 それは、たしかだった。
 彼等は決して、我々黄金竜がどんな苦難の時であろうと、戦いに関わろうとはしなかった。
 その苦難の戦いの中で、ゼーラも大事な妹のような友を亡くした、あるいは彼等が助けてくれていたら助かっていたかもしれない大事な友達。彼に、バザードにとっては大切な、大切な…。
 …でも。
 「そんなもの…そんなものは、理由になっていません。
  彼等が、私達をじかに傷つけましたか、彼等はただ自らの掟に忠実であっただけではないですか。
  それが理由ですか…そんは『刃を振るう恐れがあるから、排除する』なんて、
  それでは、我々は魔族と同じではないですか!」
 掟。そんなもので、戦いに参加しなかったのか、助けてはくれなかったのか。自分で言ってみて彼女も悲しくなる。でも。それでも一方的に憎しみをぶつけ相手を傷つける、そんな事、あって良いはずがない。まして神に仕える者として。
 ゼーラの大事な―今は亡い―友がそうおしえてくれたから。
 だからゼーラは多くの人にこの問いかけをしてきたにだから。でも人々のうねりは止まらなくて今では…。
 沈黙。
 ゼーラは最長老の瞳を見る。最長老の、バザードの瞳は静かで、ゆらぎのない、決然とした瞳だった。しかし、その瞳の奥には何の心も見えなかった。
 それは、最長老になってから、多くなった瞳だったとゼーラは思った。
 特に、あの戦争が終わってからはずっと…。




(続く)

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14416竜達。それぞれの心、紡ぐ、それぞれの想い…  2.『黄金竜』 (2)由季まる E-mail 2003/6/9 20:59:49
記事番号14414へのコメント

我は聞く。汝が絶望の竜の詩…
 竜達。それぞれの心、紡ぐ、それぞれの想い…










2.『黄金竜』

 (2)



 
 「魔族と我々は違う。これは正当防衛なのだから。」バザートは淡々と言う。
 「………本当に、そう思っておられるのですか。」対照的に。向かいあうゼーラは、感情を押し殺したかのような声だ。
 「皆そう思っている。」
 「皆が正しいとは限らないではないですか!そうではなく、最長老様は…!」
 「話し合って、決めた事だ、多くの者が望んでいる。たしかに中には反対する者もいる、おまえのように、少数だがな。
  もちろん多数が正しいとは限らない。だが、奴等の行動を見れば、自ずと奴等の考えがわかるではないか。そこから我々がするべき行動も。」
 正しいと思えてしまうような、静かな理性的な語り口、でもその言葉にも『心』は見えない。
 「わかるってっ……!は、話し合いはしないのですか?話さなければ、考えなんてわかったかなどっ…!」
 「話し合いか…。一度、文書をあちらに送った。
  『今回の戦には何故、参加しなかったのか。
   何故、そちらの力を少しでも、貸してはくれなかったのか。
   今回の我々の被害をどう思っているのか。』
  と、丁寧にさりげない調子で、な。ほどなく返事が返ってきた。それには何と書かれていたかわかるか?」
 「…いえ。」
 「『以前も申し上げたとうり、我等は、掟。
   赤竜神様からの古代からの命により、闇の星の五つの武器のうち最も強力なガルヴェイラを魔族から守る為この神殿を離れる事はできなかった。また我等の個体数が少なく、繁殖力もあまりない為、少数の者でも亡くすのは種族としても損害となるので送る事は出来なかった。御理解頂きたい。
   そちらの損害は詳しい事は解らないが、勇敢に戦い散った者達が、安らかに眠れるよう祈っている。』云々…と。」
 「……………。」
 目の前が暗くなる。あまりに事務的な一方的な返答。これではあんまりではないかっ……!
 ゼーラは身体が底冷えしていくのを感じた。
 仲間の深い深い怒りが彼女自身にもわかってしまうから。
 その静かに降り積もった底深い感情を取り除くすべがわからなかったから。

 いつの間にこんなことになったのだろう。
 はじまりは単純でわかりやすい、魔族と神々(我々)との戦いであったのに。
 いつから同胞同士で憎み合うようになどなったのだろう…!
 戦いの最中で、友を亡くし、親を亡くし、子を亡くし、恋人を亡くし…
 皆、その穴を埋めるかのように、助けに来ない彼等に…古代竜達に、憎しみをむけたのだろうか?
 罪を求め、罰を望み、憎しみ、憎しみ、憎しみ…。やりばのない怒りを吐き出して…。
 それが何処にいきつくのか考えもしないで…。
 皆、激戦の最中に、心を亡くしてしまったのだろうか、自分だけが正しいと思う様になってしまったのだろうか…。
 ねえ、バザード。
 いくら耳を澄ませても心の声は聞こえない。
 「…でっ…ですがっ!」
 何を言えば憎しみがなくなると言うのだろう?
 自分に何が言えるというのだろう。
 どうすればいいのだ!。

 ―竜も、人も、生きている者、いえ、すべてはみな基は同じもの。そう思えば何とだって理解できない事はないって思わない?―

 ふと、今は亡き彼女の無邪気な笑顔と言葉を思い出した。
 …そうだ。
 私は誓ったのだ。
 彼女が死んだあの時に。私が勝手に決めた事だけれど。
 彼女の心を紡ごうと。明るく利発で若かった、まだ未来があった。彼女の変わりに。次の世代へ。
 彼女がいれば絶対に止めたはずだ。だからこそ、私は確信を持って動けるのだ。それは、『違う』のだと。
 もちろん、私は彼女とは違う、でも、それでも彼女が胸にいると思うと心が違う気がした。何か一つぐらい私にも伝えられるかもしれない、変えられるかもしれない…。
 だから、動きつづけなければいけない。 
 そう。耳を澄ますだけでは心の声は聞こえないのだから。
 
 「………。」
 これ以上、言う事がないとみて、バザードが去ろうとする気配を見せると。
 「……バザード……」ゼーラが深く息を吸う。
 「何?」突然名前で呼ばれて、戸惑う。
 「もし、『彼女』が、エリシルフィア様が生きていたなら、あなたを止めたでしょう。」
 「…」
 思わぬ言葉に、一瞬驚き口を開きかけたが、また黙るバザード。 
 「だから、やめてください、こんなこと。憎しみで、憎しみを育てるようなことを。
  誰も望まない、誰も勝たない虚しい戦いをはじめる事を。
  また、泣く子が、あなたの御子のように、エリシルフィア様を―母を亡くすような子が生まれます。
  だから―」
 「何を言う。」
 「は?」
 バザードは相変わらず、能面のような顔で、心が見えない―あるいは失ったかのような―瞳で言った。
 「私は、一感情で一族を動かしたことなど一度もないぞ、これからも。だから、このことと、エリシルフィアのことは関係ない。関係ないのだ。」
 「は…。」
 「彼女が、私の妻が、もしも子が死のうと―もちろん私は悲しいが―生きていようと私は、この作戦を実行するだろう。だから…関係ないのだ。ひとひとりが死んだことなどとは。」
 「………。」まるで自分に言い聞かせるかのように、繰り返す。
 「奴等は危険だ。これは、我等黄金竜族の為であり、世界の為であり、つきつめては神の為だ。」
 「………。」
 「私は、常に世界の安定を考えてきた。これからも、ずっとそうだ。個人的な感情で一族を動かしたりはしない。これからも、ずっと。」
 「………。」
 顔は能面のまま、静かに淡々と話す。
 ゼーラは今度こそ語れる言葉が見つからなかった。彼は本当に世界の為だと確信しているようだった。少なくともそう見えた。
 しかし、違うのかもしれない、彼女はなんとなくそう感じる。妻を亡くした悲しみの衝動でしている事を認めたくないがゆえに世界の為だと思いこもうとしているのかもしれない。
 とても頑固で頑なで、すごく真面目なバザードは。それ故に、自らの感情で、動く事を認められずに、正当にみえる理由をつくりあげ、古代竜に復讐しようとしているのか…?
 しかし。わからない。
 どっちにしろ、確信している彼に何も言える事が見つからない。
 そう考えてしまうと、
 言うべき言葉が見つからない―。



 と、バザードが口を開いた。
 「…ゼーラ。」
 「…はい?」
 呆然としているところに、急に声をかけられて驚くゼーラ。
 「その。…これからは、あまり誰にでもその考えを口にしてくれるな。
  おまえをうとましく思っているものがいるのだ。
   今はまだ私がかばいきれているが、そのうち少数派のおまえを『追放』しなくてはいけなくなるかもしれない。が私は、私の子供の乳母としてではなく。『おまえの兄』として、それはしたくない。」
 「…バザード兄様が追放していった方々のようにはしたくない、と?」固い声でゼーラは答えた。最後まで戦うのだとでも言うように。
 「……………。」
 しばし目をつむりバザードは言った。
 「…おまえのほかに誰に私と、エリシルフィアの子供をまかせられる?」
 「!」
 そうだった。そのとうりだった。
 私がいなくなれば、どこか別の―偏った考えの―者がつくことになるかもしれない。
 そうしたら―そうしたら何を誰が教えるかわかったものではない。
 あの利発で明るかった彼女の子供に。
 いつか、今みたいなことがあっても、きちんと『違う。』と考えられる子供達を増やす為にも。
 誓いを紡ぐ為にも
 今、私がいなくなってしまってはいけないのではないか?。一時の感情でいなくなってはいけないのではないのか…!

 「…………………わかりました。
  これからは、むやみにひとに反対を話したりはしません。おとなしくしています。でも、私の考えは変わりません。」
 「わかった。それで十分だ。」ため息をつく、バザード。
 人が待っているから、と去ろうとするバザードにゼーラが呼び止める。
 「…なんだ?」
 「あの、…子供の名前はお考えになっていますか?」少しどもるゼーラ。ゼーラは普段公私の区別はきっちりつけるように、ときつくバザード―兄にに言われている。
 「いや。…たしかエリシルフィアが考えていたはずだが…。」
 「はい。」
 「?」
 「いえ、あの。…たまには本当に顔を見せに来てあげてくれませんか。
  私はもちろん毎日見に行っていますけれど。卵状態とはいえ、やはり親が見に来ていただいた方が喜ぶのではないかと。」
 「…わかった。」
 少し口の端をゆがめて―笑ったらしい。あの兄が珍しく―去っていった。

 ゼーラはため息をつく。
 ここに残る為とはいえ、表向きには反対できなくなったし、兄の気持ちは相変わらず変えられなかった。…やはり気が思い。
 彼女は思い出す。彼女の仕えていたひとであり、義姉であり、妹のような存在であり、友でもあった、エリシルフィアの事を。
 まだ若く、年も親と子ほど離れている兄と地位を集中する為に結婚させられ―彼女は何も言わなかったが、想い人もいたらしい―それでも明るく、まわりに気配りを忘れなかった彼女の事を。

 
 ―疑っていてはダメ。信じなくては。彼等は、古代竜達は、同じ仲間なのだから。敵ではないのだから。


 ―有難う、ゼーラ。年下の私に、懸命に仕えてくれて。…有難う。


 ―名前を、決めてみたの。男の子ならフィンザード。女の子ならフィリアって。ダメかしら?


 ―…行って!私は、もう、助からない傷だから、だから…


 ―行ってっ!!


 ゼーラはもう一度ため息をつき、最長老とは反対の方向へと歩んでいく。
 彼女自身の誓いが、後に、次の世代に紡がれていったかは、また別の話である。




(続く)

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14417竜達。それぞれの心、紡ぐ、それぞれの想い…  2.『黄金竜』 (3)由季まる E-mail 2003/6/9 21:10:01
記事番号14414へのコメント

我は聞く。汝が絶望の竜の詩…
 竜達。それぞれの心、紡ぐ、それぞれの想い… 










2.『黄金竜』

(3)




 暗く小さい部屋に誰かが立っていた。その人物は微動だにせずにじっと待っていた。
 ふいにドアが開く。光が入りこみ、影ができる。しかし部屋にいた人物は奥にいて顔が見えない。
 入ってきた人物は最長老だ。しかし彼の表情も光を背に受けて、見えなかった。
 「いたか。」
 「…ああ。」
 入ってきた最長老が扉を閉めた。またまったくの暗がりとなる。ここには窓がないようだった。ぶっきらぼうな会話は続く。
 「…本当にいいのか?」
 「おまえこそ、いいのか?」
 「私には、理由がある。」
 「俺にも理由はある。」
 「………。」
 「………。」
 彼等の意思に微塵の迷いもなかった。










 半年後―








 『…奴等は我等だけではなく神々をも裏切った!』
 黄金色の竜達が広場にズラリと並び、壇上の最長老の言葉を聞きながら、それぞれに、咆哮を上げ、武器をかざす。
 その眺めはさながら、黄金色の海が猛々しく波をうっているかのようだった。
 『これは、正義なのだ!!』
 熱のある言葉で指揮があがる、若い者は今にも飛び出しそうである。 
 『世界の平穏の為に、これより、古代竜共を殲滅するっ!!』




 わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!








 湧き上がる、黄金色の群れを目に、塔の中で悲しげな顔をしている者がいた。ゼーラだ。








 その塔の上には、黄金色の海が湧き上がる声と背を冷ややかに見下ろす、黒い塊があった。
 いや、塊というのは間違いで、それは漆黒の大きな翼に小さな人が埋もれていただけなのだが、何故か黒いという印象があった。
 その人間の髪は深い蒼で長く風に流されている、目は限りなく冷ややかだ。その目は黄金色の群れを見下ろしているようで、別の何かを見下ろしていた。


 「―――――――――――――――――――――――…………………――――」


 風がただでさえ小さな、それのいとおしげな呟きをすくいとリ、どこかへと運んでいってしまう。
 しかし、それの冷ややかな瞳の奥にはたしかに限りない憎しみが見えた。








 それの名はリルグ・アザゼル。古代竜であるはずの者だった―




(続く) 

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14419はしがき:戦争って…由季まる E-mail 2003/6/9 21:32:49
記事番号14417へのコメント

最近戦争がありました。
遠くの世界の事のように思うけど、どこかで泣いている人がいるのかな、と思うと、早くやめて欲しいな、と私は思いました。何で、そんな悲しい事をしているのかな、とも。
でももし、その国が、武器を持っていて、人々をおびやかしていて、危ない国ならば、しょうがないのかな、とも。
でも、その場合、危ないのは、国であって、国民ではない、と考えると、どうしていいのかわからなくなってしまいました。
何にしろ、『正義』ではないだろう、おい、とかおもってました。

そんな事をあれこれ考えていたので、今回の黄金竜の話には、まとまらない、私の考えが入り込んでしまったかもしれません。
バザードは実はこういう心だったかも。とか思って書いたのですが、戦争から生まれる、心というものを、戦争の事もよく知らんのに、書いたりして、なんかおかしな事書いてあったら、ほんとすみません。

この話、私には、テーマが大きすぎたんですね(汗)今気づいてもおそいのですが。話は続くのだし。
でも、できる範囲でなんとかまとめられたらな、と思ってます。
がんばろー。

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14447Re:竜達。それぞれの心、紡ぐ、それぞれの想い…  2.『黄金竜』 (3)オロシ・ハイドラント URL2003/6/11 21:37:50
記事番号14417へのコメント

こんばんはラントです。
随分とお久しぶりですね。
まとめて読みました。

「戦争」なのですね。
今の私はあまり真面目な人間ではないし、中学時代にそういうこと考えすぎてた反動か、あまり考えないんですが、当然戦争は反対です。
それにしても、現代を思わせますね。黄金竜と古代竜。

作品中にこれほど一貫したテーマを孕ませているというのは、なかなか凄いことではないかと。
テーマというのは、これまた難しいような気がしますし。

それでは、この次もまたがんばってください。
これで失礼致します。

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14460Re:あ、有り難うございますうっ!由季まる E-mail 2003/6/14 14:03:20
記事番号14447へのコメント

本当にお久しぶりです!
それなのに、読んでくさって、お返事くださって有り難うございます!
私は、嬉しかったです。
…とはいえ、ここで浮かれすぎてまた、ご迷惑をかけないようにしなければ。(引き締め)
がんばります。

オロシ・ハイドラントさん。
そういえば、お名前変わったのですね、オロシ…?
大根おろしのオロシ…とかではないですよね。
何かとても、印象に残るお名前です。


>「戦争」なのですね。
>今の私はあまり真面目な人間ではないし、中学時代にそういうこと考えすぎてた反動か、あまり考えないんですが、当然戦争は反対です。
そうなのですか。
私は、中学時代あまりな〜んも考えてなかったせいか、最近はそんなことを考えてしまうのでしょうか、…そうかもしれないなぁ。


>それにしても、現代を思わせますね。黄金竜と古代竜。
もろに現代から、私が影響をうけてますからね。(苦笑)
本当は、戦争なんて、ない方がいいのですが。

>作品中にこれほど一貫したテーマを孕ませているというのは、なかなか凄いことではないかと。
>テーマというのは、これまた難しいような気がしますし。
そう言われると、恥ずかしいです。
書いていくうちに、なんとなくそうゆう感じになってきただけなので。
ただ…ヴァルガーヴって人物が生まれたのは、「争い」からではないか、と思ったものですから。

>それでは、この次もまたがんばってください。
>これで失礼致します。
有り難うございます!

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14444感動の再会、そして抱擁(違)戌亥ミナコ E-mail URL2003/6/10 23:07:01
記事番号14412へのコメント

ホンにお久しぶりでございます。
首を長くして待ってた、なーんて言うと姉さんを困らせてしまう可能性大ですが…
待ってたよ。そりゃあもぉ痛いほど(笑)

小説の続投、本当に嬉しいです。さっそく読むぞ〜。
と、その前に過去ログを読み返さないと。
ガウリイな奴ですいません。

名前を採用してくださるということで、ありがとうございます!幸せです。
連載はマイペースになさってください。
私もゆっくり感想を書かせていただきますので。

ではでは、短いですが今回はこれにて。

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14461Re:ああ〜っ!みなっち!みなっち〜!(抱きつき!)由季まる E-mail 2003/6/14 14:30:29
記事番号14444へのコメント

本当にごめんなさいっ!そして、待っててくれて有り難うっ!
あう〜(涙)嬉しいです〜!待っててくれたんだねっ!ごめんねっ!

>首を長くして待ってた、なーんて言うと姉さんを困らせてしまう可能性大ですが…
いえいえ、いいんです、そのくらい、言われなくちゃあいけません!
…って、自分で言うのもなんだけどね。(トホ)
>待ってたよ。そりゃあもぉ痛いほど(笑)
ああ〜有り難う〜!そしてごめ〜んっ!(しつこい?)

>小説の続投、本当に嬉しいです。さっそく読むぞ〜。
有り難う〜。ああ、私本当にしつこいくらい今回この言葉いってるね。
でも、本音です。本当は怒られてもおかしくないのに、忘れられてもしかたないのに、覚えててもらって、申し訳ないやら、有り難いやら、嬉しいやらで。

ごめんね。混乱してる文章で(笑)
気を取り直します。

>と、その前に過去ログを読み返さないと。
>ガウリイな奴ですいません。
いえいえ、ガウリイにしたのは、誰やねん!ちゅう話ですから、全然です。
ゆっくり読んできてください。
私もゆっくりで書きますから。

>名前を採用してくださるということで、ありがとうございます!幸せです。
良い名前だなーと思いましたよ!
私のセンスだったらこうはいかない(笑)
父も神話から取れるといいのですが…どうかな(笑)

>連載はマイペースになさってください。
>私もゆっくり感想を書かせていただきますので。
有り難う。
焦りすぎても持たないんだって、最近私、本当にわかりましたよ。

>ではでは、短いですが今回はこれにて。
はーい。また、です。