◆−Eternal Seed Act.30 −飛龍 青夏 (2003/7/2 19:25:26) No.14565 ┣三十話突破おめでとうございます−オロシ・ハイドラント (2003/7/3 21:23:21) No.14577 ┃┗ありがとうございます!−飛龍 青夏 (2003/7/3 22:23:00) No.14579 ┣Eternal Seed Act.31 −飛龍 青夏 (2003/7/3 22:34:07) No.14580 ┗Eternal Seed Act.32 −飛龍 青夏 (2003/7/10 22:16:32) No.14629 ┗Re:Eternal Seed Act.32 −オロシ・ハイドラント (2003/7/18 21:10:18) No.14681 ┗記憶と過去−飛龍 青夏 (2003/7/19 21:24:43) No.14683
14565 | Eternal Seed Act.30 | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/7/2 19:25:26 |
こんばんは。飛龍青夏です。 期末やらなにやらでずいぶんご無沙汰してました。待っててくださった方はすみません。 とうとう三十話まで到達しました!いつもコメントしてくださるハイドラントさん、それとオフラインの友!ありがとうございますです!これからもなんとかがんばりますので、よろしくお願いします。 では第三十話! ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 過去に縛られることなく、未来を知ることもなく、 ただ、今を生きていくということ。 それが、難しくも楽しい。 そんな風に思えるという、今という幸せ。 Eternal Seed Act.30 世界の根幹 シーウたちは言葉を失った。 「この…樹…が?」 掠れた声を漏らしたのは、シーウ。クロノスはそれにすら、平然と言葉を返した。 「そうだ。この樹こそ、我らが母。世界の、全ての根源。オレも、お前たちも、この世界の全ては、この樹が作り出した。“エターナル・シード”から育った樹が、な」 「ちょ、ちょっと待て!“エターナル・シード”ってのは人間を不老不死化させるためのものだろ!?」 「まあ、一般的にはそう知られているが、違う。かつて人間が見つけた、人間の不老不死化の方法。それは植物化に近いものだった」 植物は、たとえば根が残っていれば再び葉を広げる。樹も、枝を少し切られたくらいでは枯れはしない。人間はそれを利用しようと考えた。どう考えても、その考え方は尋常ではなかった。そもそも、動物と植物では細胞のつくりからして違うのだ。それを研究し尽くした人間の、執着というよりも怨念のような心は、今思えば恐ろしいものだっただろう。 人間は見つけたのだ。いかなる方法でか、不老不死になる方法を。それはつまり、あえて人間に寿命という時間制限をつけた神への反逆であった。 全ての母なるものは怒っただろう。もしくは、小さな虫程度の人間の反逆に、ゲーム感覚で付き合ったつもりなのか。そのほうが、納得がいくかもしれない。自分と比べて虫程度、いや、それ以下の力しか持たない人間が“不老不死”を作り上げたところで、“母”は全知全能なのだから。元を消せば、そんなことはどうにでもなる。クロノスを創ったのが“母”ならば、“母”はそれ以上の力を以って、過去の歴史を捻じ曲げられる。 全ては、“母”の見守る子供の遊び、なのかもしれない。 だが、そんなことより事実が立ちふさがっていた。 不老不死を完成させた人間に対し、“母”は神族を創り、世に放った。自らの本体を家とし、教育と訓練を施した。そして、不老不死と神族の対立を際立たせたのだ。 「“母”は…いや、彼女の名前はプラチナ=クリエイト=マザー。白金の女神。オレたちはプラチナと呼べといわれたか」 クロノスは続けた。 「プラチナは、そういった理由で神族を作った。そしてその最初の四人が、カオス、ヴォイド、コスモス、そしてオレ、クロノスだ」 混沌。虚無。秩序。時空。 精神世界を治めることのできるだけの力を持たせ、さらに人間と同じ肉体を与え、それぞれ特殊な力をも授けた。自らの姿を現して、四人にそれぞれ名前を与え、教育をし、育てた。自らの新たな子供たちに。 プラチナは、その時本当に幸せそうだったのだという。それが何故かは、いろいろな解釈の仕方がある。自分の思い通りに育ってくれた子供たちへの満足感。それとも、本当に心から新たな子供の誕生を喜ぶ母の感情。どちらとも取れる。たとえ彼女が全知全能の神であっても。 「プラチナはオレたちにいろいろなことを教えていった。そして次々に神族を創っていった。同調神、流動神、結界神、変化神、他にもかなりの数を…」 そうして、ここには沢山の神族が集まり、都市を造ったのだという。神族の楽園。永遠の楽園。 楽園から自発的に出て行ったものもいれば、外を恐れてここにこもった者もいた。ここには自由があり、けれど決して争いごとは許されず、また起こらなかった。 「だがオレたち四人以外は、誰一人としてこの樹の一番上、つまりここには入ることが許されなかった。聖域とか言ったか。プラチナはあまり一般人には顔を見せたくないらしい」 ところがある日突然、ある一人の青年がやってきたのだ。四人しかここに入れないはずなのに、銀色の髪と金色の瞳を持った青年は、いともたやすく結界を通り抜けてきてしまった。 彼の名は、シリウス。シリウスと名づけられた。 「そいつは、他の神族とは違ってた。浄化能力を持ってたのに、髪の色が違っていたんだ」 普通、浄化神は青い髪と赤い瞳を持って生まれてくるらしい。だがその青年は、まったく違う髪と瞳の色をしていた。それでも能力は浄化神のそれだったのだ。 対応に困った四人はプラチナを呼んだのだという。そしてプラチナは、とんでもないことを言い出した。 『この子はあたしの息子よ。世界でただ一人、浄化神ではない浄化神。人間ではない人間。この子はそのどちらでもない。つまりあたしに一番近いのよ』 青年はびっくりした様子だったが、誰もそれに異論は唱えなかった。プラチナとそっくりな、銀の髪と金の瞳。それを認めたうえで、四人は青年を受け入れた。 そしてしばらくして、別の浄化神が助けを求めてやってきたのだ。不老不死者が暴走し、それを抑えるには自分たちだけでは力が足りないと。四人はしばし考えたが、ある程度の協力はすると約束した。 だが、不老不死者の数は純粋な人間のそれをはるかに上回り、人間たちは地下や洞窟、ひどいときは山の上へ登り、さらにそこに物見のようなものを作ってそこで住むような者も出てきた。人間はまともに日の光の下に出ることができなくなっていった。それは、結界を張れる神族でも同じことだった。当たり前だが、不老不死者は、人間よりも数が少ない神族を圧倒した。力を持っているとはいえ、多勢に無勢。神族も困り果て、浄化神だけが前線で戦える人種となっていた。 カオスたち五人は、“空の平原”の近くに建てられていた城砦のようなものに住み込んだ。そこで五人は、戦いを余儀なくされた。あるいは、楽園から出なければ良かったのかもしれない。けれどそれを、五人は後悔はしなかった。たとえ自分たちの持っているような力を使えなくても、人間は、確かに神族とも同属であった。仲間を見捨てて生き延びて、その先ずっと後悔するより、必死に戦って守ってやりたかった。彼ら人間がそれをどう思ったかはわからないが。 ヴォイドとアークが出会ったのも、“空の平原”の近くに建てられた、その城砦。白い石造りの建物は、城砦という名とは裏腹に、神殿のようにも見えた。結界が日に日に強度を増していく中、アークを含めた六人は、小さな恋と、小さな幸せを知った。 「だが……やはり守りきれはしなかった」 クロノスが辛そうに言った。コスモスの顔も、心なしか青ざめているように見える。 「“空の平原”は決戦の場になったの。そこでの戦いを最後の戦いとするために、私たちも必死で戦った。巨大化した不老不死者の集合体は、まるで大きな黒い獣のようだった…」 次々と他の神族が倒されていく中、カオスとシリウスは前線で戦っていた。その後ろにアークとヴォイド、クロノスとコスモスが援護していた。他にいた浄化神たちは、暴走体の集合体を恐れたためか、怪我を負ったためかはわからないが、とにかく動かない体で、たった六人の人間と巨大な黒い獣の対決を見つめていた。 「ヴォイド…つまりハヤテの前世だが、彼はアークという精霊族の少女と一緒に戦っていた。最初にやられたのはアークだった。ヴォイドを援護していたのだが、不意をつかれたヴォイドを守ろうとして……消滅した」 クロノスは、辛そうに、掠れた声で言った。過去に仲間を失った悲しみは、並大抵ではなかったのだろう。 「シリウスとカオスは見事な連携で確実に攻撃を当てていたが、まったく効果が現れない。そんな時、暴走体の中の人格が目覚めたんだ」 「奴は…名前は無いと言っていたけど……まるで皇帝のような口ぶりで、私たちに呪文をかけようとした。魔法ではなく、術に近いものだったと思う。それで、私とクロノスは吹き飛ばされて……」 「触角と視覚を奪われ、一時的に動けなくさせられた」 それでも彼らは何とかその術を解き、再び援護に回ろうとした。シリウスが、意思を持った暴走体に捨て身の攻撃をくらわせようと突っ込んだときだった。 「暴走体の術は、シリウスの心臓めがけて光線を放とうとした……カオスは、世界を救ってシリウスが死ぬことよりも、シリウスが生き延びることを優先させた。それが悪いことなのかどうかはわからない。でも、おかげで暴走体にとどめはさせなかった。その結果、シリウスは助かった」 カオスは、ほとんど即死の状態だった。シリウスを庇って、青い髪を自らの紅い血でそめながら、シリウスの目の前で倒れていった。それを見たのは、その場にいた全員だった。ヴォイドも、シリウスも、ショックで一瞬呆然としていた。 映像が流れる。戦場と貸した、“空の平原”。 倒れた――動かないカオスを抱き起こして、シリウスは俯いていた。その横に立っていたヴォイドが激昂した。 『お前が弱いから…!』 苦渋の色に顔を染めて、それでもヴォイドは言った。 『我が弱いから、カオスは死んだんだ!』 大切な人が、目の前で死んだ。消えた。自分のせいで。 心が、切り裂かれるようだった。 「結局、シリウスが暴走体の人格を浄化して、ヴォイドが暴走体の肉体の大半を消滅させて、戦いは終わった。二人は……力を使い果たして……アークとカオスの後を追うように死んでしまったがな…」 「私たちがここへ帰ってきたとき、神族はもはやここにはいなくなっていたわ。前線に投入された神族だけではなくて、自発的に暴走体を恐れて出て行った人たちも多かったから。それで世の中に、隔世遺伝なんかで神族が生まれるようになった」 「そうなのよねぇ」 突然、聞いたことのない声が入り込んできた。シーウたちだけでなく、クロノスとコスモスも驚いたような顔をしている。 銀の髪に、金色の瞳。シーウたちは言葉を失った。 「プラチナ…」 「あら、久しぶり。クロノス君にコスモスちゃん。それに生まれ変わりさんたちもいっぱいいるみたいね?」 歩いてきた女性は、こともなげにそう言い放った。プラチナという名が本当なら、彼女は――。 「初めまして、あたし、プラチナっていうの」 それは、千年前、自分たちが創りだされたときに聞いた言葉だと、シーウは悟った。 痛みで、目が覚めた気がする。うなじの辺りまで伸ばしている金髪がさらさらと流れ、身を起こしたときには胸が激痛で焼かれるようだった。 (な…なんだ…?) クレスタは、激痛をこらえながら辺りを見回した。人のいる気配はない。 彼は、たとえ能力を使っていなくても、視界に入る者から感情の波動を受けることがある。悲しみや、怒り。そういったものは特に波動が強く、影響も大きい。しかし今受けているほどの激痛は、今までなかった。 クレスタはよろよろと寝台から降り、廊下へと出た。ここにもまた、人の気配はない。 「誰か…いるんですか……?」 組織の人間は、これより下の階に部屋をあてられている。五大幹部の部屋は特別に大きくされているようで、この階には五部屋しか部屋が無い。スウォードは、もう一つ上の階を使っているはずだ。組織の人間は数十名。五階建てのこの建物は、下の階が長細くなっているため、部屋数も多いが、だからといってこの待遇はどうかとクレスタは思う。スウォードも、悪気は無いのだろう。五大幹部を特に信用し、自分の次に権限を持つ者として扱っている。 「スウォード様…?」 ずきんと胸が痛んだ。クレスタがその場に片ひざをつく。間違いなくこれは精神波動によるものだ。だがどこから、誰が放っているのかがわからない。 精神波動とは、感情の波を意味する。人が、日常的に発している感情の波。それを感じ取ることができる人間は、クレスタのような“同調神”でなくとも、訓練をつんだものならば少しはいる。しかしクレスタほど、事細かに情報を知ることはできないが。 これらの波動の中には、怒りや悲しみだけではなく、幸せなときや、嬉しいときの感情も入っている。それらを糧として、支えとして生きるものがいても、別におかしくはないのだ。精霊族のように。 耳を澄ませると、あちこちから泣き声が聞こえた。組織の人間の声だと、すぐにわかった。 「あ…」 虚ろな衝撃が、彼の心を襲った。 この組織の人間たちは、みな心に傷を持っている。今日という日に、それぞれが意図せずして同時にそれを思い出してしまったのだ。中にはそうでない者もいるだろうが。 次々と耳に入ってくる泣き声。ファロン、五大幹部の同僚、ルシア、ファン四兄弟の末弟であるイースト……。子供や女性の声ばかりだが、この分では男たちも涙は流さずとも苦悩しているに違いない。 (どこに行っても…この苦しみからは誰も……逃れられない) クレスタは、痛みに耐えながら呟いた。 (自分が自分である限りは……過去を消すか、過去を忘れるしか…方法は…無い) 再び激痛が走り、ベッドに戻る余力も無く、クレスタはその場に倒れた。力が強力になるのは助かるのだが、こんなところで弱点が現れるとは思ってもみなかった。 薄れ行く意識の中で、黒衣の男が音も無く歩み寄ってくるのを、クレスタは見上げた。 暗い部屋の中で目が覚めたとき、クレスタはさっきまで自分を苛んでいた苦痛が消失したことを知った。嘘のように、夢のように体が軽い。 「起きたか」 聞こえてきたのは、聞き慣れた、リーダーの声。黒い長衣をまとった男は、いつも通りの、深いビリジアンの左目と、血のように紅い右目を向けてきた。 「スウォード…様」 「お前が倒れているのを見つけてな。能力が高まったのはいいが、こういうところで弱点がつかれるとは」 「すみません、僕はまだ…うまく能力のコントロールができていないみたいですね」 「特に身内に対してはな」 クレスタは、大抵人に対して警戒心を持ってしまっている。それはつまり、五感以外の頼れる感覚、つまり彼にとっては同調能力を開放していることになる。敵意を持って近づいてきた人間に、すぐさま対応できるからだ。 だが逆に、安心しきっていると能力のタガが緩んでしまう。解放しているつもりはなくても、能力を自分の外に向けて解放してしまっているのだ。そこへ、突然何の前触れもなく、他者の心の痛みが突き刺さってくる。無防備すぎるというのも考え物なのだ。 「お前の能力は珍しいからな。コントロールも難しいだろう」 「僕以外でこの能力を持っている人を見たことなんてありませんよ」 クレスタは、同調神としての力を持った神族を、自分以外に見たことがない。聞いたこともない。もしかすると、現在世界に存在している同調神は、彼だけなのかもしれない。 「辛いのか」 唐突にそう尋ねてきたスウォードに、クレスタは動揺した。彼の心に渦巻く、どす黒い感情にだ。 「お前が辛いと思うことも、ここの人間が悲しみ苦しむことも、私にとっては類稀なる食材なのだ。お前が苦しむのなら、私はその分強くなる」 クレスタは、思わず後退った。スウォードの様子がおかしい。いつもよりも、狂気じみた顔をしている。 「スウォード様…貴方は……何を」 「お前がどうして五大幹部の一人に昇格したのかわかるか?」 クレスタは、自分の首に手をかけてきた男から眼が離せず、その爪が食い込んでも気がつかなかった。 「ていのいい、獲物だからだ」 クレスタの首が、スウォードの爪で裂かれた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― クレスタ君がひどい目にっ!?これから彼にはある苦悩が待ち構えているのですが、このときの彼は全く知る由もないのです…。 これから物語りはついにそれぞれの立場がはっきりしたものとなってきます。まだ三十五話くらいまではごたごたしてそうですが(汗)。 ではまた! |
14577 | 三十話突破おめでとうございます | オロシ・ハイドラント URL | 2003/7/3 21:23:21 |
記事番号14565へのコメント こんばんはラントです。 三十話突破おめでとうございます。 随分と長く続いたものですね。 そして、これからも物語は語られてゆく。 困難に負けぬようがんばってください。 > とうとう三十話まで到達しました!いつもコメントしてくださるハイドラントさん、それとオフラインの友!ありがとうございますです!これからもなんとかがんばりますので、よろしくお願いします。 どういたしまして、と同時に驚き! オフラインの友人にも見せておられるとは……。 私には、到底出来そうもないです。 ……まあ、本好きな友人がいないという意味も含めてですが…… 明かされた(?)真実。 > 人間は見つけたのだ。いかなる方法でか、不老不死になる方法を。それはつまり、あえて人間に寿命という時間制限をつけた神への反逆であった。 > 全ての母なるものは怒っただろう。もしくは、小さな虫程度の人間の反逆に、ゲーム感覚で付き合ったつもりなのか。そのほうが、納得がいくかもしれない。自分と比べて虫程度、いや、それ以下の力しか持たない人間が“不老不死”を作り上げたところで、“母”は全知全能なのだから。元を消せば、そんなことはどうにでもなる。クロノスを創ったのが“母”ならば、“母”はそれ以上の力を以って、過去の歴史を捻じ曲げられる。 > 全ては、“母”の見守る子供の遊び、なのかもしれない。 人間が不老不死の術を手に入れたことさえも、“母”の思惑通りだったのかも知れませんね。 それにしても似てるような(スレと) > だが、不老不死者の数は純粋な人間のそれをはるかに上回り、人間たちは地下や洞窟、ひどいときは山の上へ登り、さらにそこに物見のようなものを作ってそこで住むような者も出てきた。人間はまともに日の光の下に出ることができなくなっていった。それは、結界を張れる神族でも同じことだった。当たり前だが、不老不死者は、人間よりも数が少ない神族を圧倒した。力を持っているとはいえ、多勢に無勢。神族も困り果て、浄化神だけが前線で戦える人種となっていた。 神族の力は相当なものと思われますが、それでも圧倒出来るとは、数にしてどれほどの不老不死者がいたのでしょうか? それにしても、“母”はお人が悪い。 >「“空の平原”は決戦の場になったの。そこでの戦いを最後の戦いとするために、私たちも必死で戦った。巨大化した不老不死者の集合体は、まるで大きな黒い獣のようだった…」 獣……敵方組織のボスとの関連性はあるのでしょうか(確か「獣」がどうとか言っていたような記憶が) >『お前が弱いから…!』 >苦渋の色に顔を染めて、それでもヴォイドは言った。 >『我が弱いから、カオスは死んだんだ!』 そして自身の弱さを知ったものは、力を求め暴走する。 哀しいものです。 この場合は、当てはまらないかも知れないけど。 >「スウォード様…貴方は……何を」 >「お前がどうして五大幹部の一人に昇格したのかわかるか?」 >クレスタは、自分の首に手をかけてきた男から眼が離せず、その爪が食い込んでも気がつかなかった。 >「ていのいい、獲物だからだ」 > クレスタの首が、スウォードの爪で裂かれた。 スウォード様恐ひ。 結局、「食料」でしかない、と。 凄かったです。 それでは、私はこれにて失礼します。 今ひとたびのさようならを…… |
14579 | ありがとうございます! | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/7/3 22:23:00 |
記事番号14577へのコメント こんばんは。飛龍青夏です。コメントありがとうございます。 三十話突破しました〜!嬉しいですっ!前に書いていた小説とも呼べない駄文は七十話くらいまで続いたと思うのですが、ストーリーがよくわからんというとんでもないことに(汗)。とにかく、次は五十話を目指したいです! >人間が不老不死の術を手に入れたことさえも、“母”の思惑通りだったのかも知れませんね。 >それにしても似てるような(スレと) 確かにL様と似てるかもしれませんね。けどこれから先、”母”が実際に出現する可能性も有ります。ただ、彼女は多分基本的には不介入を通すでしょうが。 >神族の力は相当なものと思われますが、それでも圧倒出来るとは、数にしてどれほどの不老不死者がいたのでしょうか? >それにしても、“母”はお人が悪い。 当時の人間の少なくとも半分ほどは不老不死者でしたから、かなりの数ですね。それに対し、神族は全てあわせても数千人にも上らなかったのではといった感じです。 >そして自身の弱さを知ったものは、力を求め暴走する。 >哀しいものです。 >この場合は、当てはまらないかも知れないけど。 本当は、彼はそこで暴走していてもおかしくはありませんでした。しかし彼はもともと、制御や制限といったものを持っていなかった人間だったので、怒りが爆発するといったことはなかったようです。もともと”無”を象徴する人でしたから…。 >スウォード様恐ひ。 >結局、「食料」でしかない、と。 この部分は、私的にはちょっと辛い部分がありました。三十一話以降からだんだんとクレスタの話が膨らんでいくのですが、『彼がそこにいる理由』について、クレスタ自身が考え始めるのです。 いつもありがとうございます。できればこれからもお付き合いください。 では! |
14580 | Eternal Seed Act.31 | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/7/3 22:34:07 |
記事番号14565へのコメント こんばんは。飛龍青夏です。 三十話を投稿したばかりですが、三十一話を。これから何回かは、クレスタ君がたくさん出てくるかと思います。 では三十一話! ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― その獣、紅き眼を持ちし黒き獣なり。 その爪は人を裂き、その牙は人を砕く。 名も知らぬその獣は、その身が果てるまで暴れ続け、 やがて、自ら力を使い果たし、 英雄の名を冠されし神族により封印された。 黒き獅子。黒き狼。 不老不死の象徴。醜き鏡像。 Eternal Seed Act.31 真実と事実 「っが…!」 クレスタの体が跳ねた。意識を取り戻した瞬間、激痛が束になって襲い掛かってくる。息が苦しい。喉が痛い。 「ス…ウォード……さ…ま、何を……!」 未だ自分の首に手をかけている黒衣の男に、クレスタは涙目で問いかけた。痛みのせいで、望んでもいないのに涙が滲む。紅い瞳が、こちらを見返している。 そう、とても嬉しそうに。 「お前の苦痛も、苦悩も、全て私の糧となる。お前をここで育てたのは、私の側近としてではない。いつでも食事が取れるようにしていただけなのさ」 「そ……んな…あぐっ!」 首に手を伸ばすと、生暖かい液体が流れていた。男の手に爪を立てるが、彼に痛覚がないのはわかっていた。力で押し戻すしかない。 (息が…苦しい……) 意識が朦朧とする。視界が、青い色に染まる。自分の人間離れした色の血が黒衣の男の顔に返り血として飛んだのだと、ぼんやりと認識する。男が狂気をたたえた瞳で、自分を見つめている。獲物を喰らう獣の如き目つき。 「ザード…様…!」 必死に、“もう一人の彼”の名を呼ぶ。声になったのかどうかは、わからなかった。 と、男の手が力を失い、首から離れる。クレスタはそのまま部屋のドアを蹴破るように開き、廊下へと走った。一刻も早く、あの男から逃げなければ。少なくとも、この傷が回復するまでは。 (空間転移は…あの…祭壇からだ!) 意識が、だんだんと薄れていく。こんな状態でいつもつかっている空間転移の装置を使えば、どこへ飛んでいくかわかったものではない。下手をすれば、海の上に落ちる可能性もある。だがとにかく、この屋敷から出なければならない。 足がもつれる。祭壇にもたれるようにして、何とか転移装置を起動する。 「クレスタ…!」 正気を取り戻したらしい黒衣の男が、祭壇に近づこうとして弾かれたのが見えた。 そして次の瞬間、クレスタの意識は途切れた。 「どうしたの?みんな」 プラチナと名乗った女性に、シーウたちは唖然としていた。明るく、輝いて見える、普通の女性。銀色の髪に、金色の瞳。彼女が、世界の母。 しかしその名とは裏腹に、彼女は飄々といるようにも見えた。何ものにも執着せず、 また肩入れもしない。過大評価もしなければ、過小評価もしない。自分にとっては、目の前にあるものは全てゲームのようなものなのだとでもいうような。 それでも、女性の瞳には幸せそうな光が宿っていた。 「え…えっと……」 シーウが口ごもると、プラチナはふわりと笑い、 「初めまして、シーウちゃん。カオスちゃんとは違うけど、あなたもやっぱりあたしの娘みたいなものよ」 「母さん…?」 聞きなれない、言いなれない響き。自分の口から発せられることなど、なかったはずの言葉。 「実際には、そうじゃないのかもしれないけどね。でも、家族は家族かしら」 年の離れた姉とでも考えればいいのだろうか。 「クロノスくんにコスモスちゃん。今日はこっちが面白そうだから来たんだけど、何かあった?」 「いえ、その、だから、シーウたちが来たから説明を」 「ああ、なるほど。でもクロノスくん、この子は“シーウ”っていう個体なんだから、適当に話しちゃえばいいのよ。あなた、しゃべっているうちに寝ちゃいそうだし」 「うっ」 「クロノスってどこでも寝るからね〜」 プラチナとコスモスの言葉に、クロノスはうつむいた。ぼーっとしていることがしょっちゅうあるような彼なのだから、仕方ないといえば仕方ない。 「プラチナさん?」 ヴァルスの声を聞いて、プラチナがばっと振り返る。 「あ、ヴァルスくん。転生しちゃったのね、人間に。でもあなたはそれでいいと思うわ。あたしと同じような運命に生きて欲しくないもの。それより髪なんか伸ばしちゃって。願掛けでもしてるの?」 「え、いや…」 「それにバンダナもしちゃってるし。例の“刻印”でも隠してるの?」 言われて、ヴァルスが額を隠すように手を当てる。よほど驚いたのか、その話をされたくないらしい。フォルとシャルは、きょとんとヴァルスを見上げている。 「ああ、ごめんね。みんなは知らないのね」 「……」 「その刻印も、あたしがつけちゃったようなものだから…こんなこと本当は言えないけどね」 プラチナが自嘲ぎみに笑う。ヴァルスはそんな彼女を睨みつけるように、額を隠しながら身構えていた。 「ヴァルス兄、刻印って?」 フォルが顔を出して尋ねる。興味津々と言った様子だが、ヴァルスは押し殺したように答えた。 「おまえは知らなくていい」 「でも」 「いいって言ってるだろ!!」 びくっとフォルが震え、ヴァルスがあわてて謝罪する。 「わ、悪い、フォル…」 「…ごめん、ヴァルス兄」 「フォル、ヴァルスも、いつか話してくれる。だからそれまでは…な」 シーウが、うつむいているフォルの肩に手を置いて言った。諭すように。だが、それでも優しく。どうやら、シーウはヴァルスの隠しているものを知っているらしい。 「うん」 「さて、どこまで話したのかしら?クロノスくん?」 「神族が、世界に散らばった理由まで」 「あ、なるほど」 プラチナが納得したように頷いた。 「必ずしも記憶を受け継がない転生に頼るのは馬鹿馬鹿しいことよね。ああ、コスモスちゃんのこと言ってるわけじゃないの。ただ、一度死んだ人間が生き返らないって決めたのはあたし自身なんだから」 女性は、再び自嘲気味に笑った。彼女がこの世界の創造主だとすれば、言葉の内容も納得できる。 彼女が望むままに全てが動き、あるいは彼女を裏切る。世界を“実在するもの”の場所として限定した彼女にとっては、そこで何が起ころうと関係ない。彼女はときに実在し、ときに実在しない。現れたければ現れるが、そうでなければいなくなる。 あまりにも勝手な、創造主。世界そのもの。無、有、無限のつながり。そして、それと知覚することすら不可能な行き止まり。 シーウたちは、これを知らない。彼女が世界そのものであろうとなかろうと、彼女らにとっては意味をなさないからだ。こちらから世界を壊すことができないように、彼女もこちらには必要以上に手を出さない。それ以上でも以下でもない。不可侵の領域。踏み込めない謎とその回答。知る必要すらない。 ただ、今は彼女がそこにいて、話をしているというだけ。 「神族を創ったわけは言わないわ。もしこれが外に知れたら、きっと神族は精神崩壊を起こすからね。今のままでいいの。それが、彼らの存在意義」 「神族はそれ以上でも以下でもない。力を持つだけで、ただの人間だ」 プラチナの言葉に、クロノスが続けた。 「神族の力はあたしが与えたわ。でも、かなり限定した力で、だけどね。千年前の理由はこんなところ。暴走体があなたの前世の人間を殺して、世界が壊滅しかけて。今に至るまでに復興したところも、しなかったところも、いろいろあるのよ。伝説について、あなたたちが気づいた点は?」 シーウに向き直り、プラチナが問いかけた。シーウは少し考えてから、 「暴走体の集合体は、浄化神が倒したのではない」 「そう。そういうことよ。十二人の浄化神は実在したわ。けれど、彼らはあなたたちの手柄を自分たちのものにしたの。あたしは彼らが、あなたたちの援護をできるようにレイを与えたのに――ああ、レイっていうのは、十二の武器を作ってるあの光みたいなものよ――彼らはそれを裏切ったわ。まあ、人間らしさっていうのかしらね?悪い面だけど」 「私たちの前世…は無駄死にしたということか?」 「無駄じゃないわ。少なくとも、十二人の浄化神では暴走体は倒せなかった。あたしはそう思うの。だって、死者の手柄を横取りするような薄汚い人間が、あの暴走体に勝てたと思う?あなたたちがいたから、この世界は救われたようなものよ。クロノスとコスモスの二人を除いて、世界中の人間が救われた」 クロノスとコスモスは、千年間も自責の念に苛まれ続けてきた。ハヤテが転生したと知り、シーウが転生したと知って、やっと安堵の息を吐いた。ずっと肺にたまっていた重苦しい息を、吐き出すことができた。シーウが納得してその事実を受け入れたことで、やっと呼吸が落ち着いたような感じだろう。 「でも、何であんたが…いやすみません、貴女が暴走体を消さなかったんですか?そうすることは容易だったんでしょうに」 ヴァルスが問うた。プラチナは、淡々と語った。 「一言で言えば、面倒だったの。あなたたちが転生することはわかりきっていたし、人間たちがどうやって滅びの道を歩いていくのか、見たかったってこともあるわ。いざとなれば、私は世界を創りなおすことができるんだから。…でも、そうしたくなかった。あなたたちが生まれ変わって、記憶を持たないままでもいい、どんなに時間がかかってもいいから、この目で見てみたかったの。あなたたちの生き様を。……変な性格よね。悪者にもなれるけど、聖女にもなれるのよ?」 「それは力を持ったが故の?」 ヴァルスが口を挟んだ。プラチナは表情を変えずに口を動かした。 「そうね、あたしは力を持ってる。誰にも負けない、最強の、最高の力をね。だから、失ったものがある。永遠に生き続けなければならない宿命がある。見届けねばならない義務がある。創り出し、消し去ることもする。見守ることも、見捨てることも」 それは辛いことなのではないだろうかと、シーウは思った。いや、プラチナに辛いという自覚はあるまい。でなければ、時を統べる事ができるとはいえ、旧世界以前の、それこそこの世界がここまで成長する永い時間を見届けることなど到底できまい。彼女こそ、真の陽光と暗黒だ。有と無の象徴だ。 「ま、昔話はそんなとこね。あなたたちの前世の関係だけど、簡単に言っちゃえば、カオス、ヴォイド、コスモス、クロノスは幼馴染よ。そこへシリウスとアークが入ってきて、まあごちゃごちゃといろいろあって、関係が複雑化したのよ」 「ずばり言っちゃうと、カオスとシリウスが恋人同士で、私とクロノスは親友。みんなともね。ヴォイドとアークがかなりいい感じだったんだけど、ヴォイドはカオスのこと想ってて、いわゆる三角関係化しちゃって」 突然ぺらぺらと喋りだしたのはコスモスだ。この手の話が大好きらしい。 「それでハヤテは今でもシーウちゃんのこと引きずってるのよね」 「私のこと?」 「カオスだと思ってるのよ。シーウちゃんのこと。守れなかった女性が二人もいたから、辛かったとは思うけど。だけど、だからってシーウちゃんをカオスと混同して、傷つけちゃうのは違うわよね」 シーウは押し黙った。先日のハヤテの行動は、今の話で納得できた。ハヤテは自分をすいていたのではない。自分の中に残っている、想い人の幻影を追っていたのだ。 今はここにいないハヤテを思って、シーウはため息をついた。自分が過去の――カオスを否定し、自分が自分であることを肯定したために、彼の想い人は消滅した。いや、正確には、まだ欠片くらいは残っているのかもしれない。以前、精神世界で自分に語りかけてきた彼女の気配が、ほんの少しだけ残っている気もする。けれどそれは、人格を再現するほどの力は持たない。自分が自分であることを否定しなければ、カオスは二度と現れないだろう。そう思う。 「あの、ハヤテは?」 「さっき、飛び出してったあなたの様子を見に行ってからそれっきり。まだ外にいるんだと思うわ」 コスモスは苦笑しながら答えた。 「ヴァルス、その…」 「様子見に行くのか?」 シーウは頷いた。ハヤテが傷ついているのは容易に推測できる。一応、ヴァルスに断ってから行こうと思ったのは、決して自分がヴァルスから離れるわけではないのだと言いたかったからだ。 「気をつけて行けよ」 ぽん、と頭を軽く叩かれ、シーウは微笑した。顔をほんの少し赤らめながら。 「行ってくる」 そういって、シーウは再び神殿の外に出た。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― クレスタ脱走!?そしてハヤテが…。それぞれがそれぞれの過去に、現在に、そろそろ踏ん切りをつけ始めます。次回は多分クレスタの話とハヤテの話が半々ぐらいかなと思います。クレスタには彼の人生に大きな変化をもたらすことになる出会いが――。 ではまた! |
14629 | Eternal Seed Act.32 | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/7/10 22:16:32 |
記事番号14565へのコメント こんばんは。飛龍青夏です。 部活の忙しさで結構疲れております…でも楽しいからOKってことで!ただ問題は睡眠時間がなぜか日に日に減っていること。気がつくと十一時を回っていることがしょっちゅう…(汗)。実は、いつもは十時半くらいに寝ようとしてる人間なのです。 今回はハヤテとクレスタの話が連続して出てきます。場面の区切りって難しいですね…。 では三十二話! ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 暗い穴のなかには何も見えない 欠落という大きな穴 自分の失ったものが存在していた場所 そこにはもう何も無い 何が存在していたのかすらわからない 失ったものが何なのかわからない欠落 ……失うことだけがわかる Eternal Seed Act.32 新たな異邦人 「ハヤテ」 顔を上げると、銀色に紫がかった髪の少女が、神殿の屋根に上がってくるところだった。同じ色の髪をしている青年は、無表情にそれを見つめた。 「様子を見に来たのか」 青年は唇だけを動かすようにして、呟いた。少女は少し苦しげな表情で、近づいてきた。静かに、ゆっくりと。 「……何故」 ハヤテはぽつりと呟いた。問いかけというより、独り言のような声で。それでも、シーウは答えた。消え入りそうな青年の声に、答えなければならないと思ったのだ。 「心配だったから」 「…どうして、我を気にする?」 「仲間だろう?私たちをここへ連れてきてくれた」 「お前はカオスではない」 シーウは、どきりとしてハヤテの数歩手前で立ち止まった。ハヤテは無表情だった。打ちのめされたあとのような、諦めてしまったような、そんな無表情。 「アークもいない。誰も、何も」 「ハヤテ…それは」 「我は誰かに縋っていたかったのだろうな……縋って…その存在を護ることで、自分を護ってきた……」 ハヤテはシーウの言葉をさえぎって語りだした。まるで独り言のように。何も見えていないような表情で、何の感情もこもらない瞳で青い空を見ていた。 「誰も護れず……自分も護れなかった…それで……欠落を埋めることができなくなった…」 青い空の先に何かを見つめる彼の瞳は、虚ろだった。声にも感情は含まれていない。 「中和能力を使ってまで……カオスは我を助けようとした…それが仇となって……我は傷つき、怒り、死んだ。そしてここにいる。……また失う」 中和能力は、カオスの持っていた能力だった。相手の力と自分の力を中和し、共有することで、無力化する。かつてヴォイドが“無”を背負っていることを知ったカオスは、自分の持つ“有”と彼の“無”を中和することによって、彼に心を与えた。本来なら、感情など持つはずのなかったヴォイドに。 「ハヤテ、私は、私たちは死んだりしない。今私たちを追ってきている奴らが何者なのか私は知らない。だけど死なない。ハヤテのことを残して逝ったりしない」 シーウは諭すように、ゆっくりと、しっかりと言葉を紡いだ。虚ろな瞳のハヤテに、少しでも心をわかって欲しくて。 「奴はお前を殺そうとしているのではない。お前の力を欲しているのだ。だから…我はお前を……本来なら殺さなければならないはずだった。ただの人間なら、ただの子供なら…我はその力と記憶を封印していただろう。そうすることで、相手を殺したはずだ」 シーウの瞳が揺れた。ハヤテが、自分を殺そうとしていた? 「我はお前を殺さない。記憶を消すことで、存在を消す。それが、我の殺し方だった。その力はあった。消去能力によって記憶を消し去る。それだけで、その人間は存在しなかったことになる」 これといって変わらぬ表情のまま、ハヤテは続けた。穏やかな風に、髪がなびく。 「お前を殺してしまえば、カオスは消える。だから、カオスを呼び戻すことでお前を消そうとしたのかもしれない。だが、それもできなかった。ヴァルスは邪魔をした。お前がお前であろうとするように……お前がそれでよかったと思うのなら、我はかまわない。“奴ら”を消せばすむのだから」 「私は、カオスじゃない。ハヤテもヴォイドじゃない」 お互いに生まれ変わりの身であるがゆえに、記憶という鎖に縛られた。ハヤテは、前世の記憶を持ってしまった。そのせいで、自責の念に苛まれている。大切な人を護れなかったことも、悔やんでいる。 「我は……本来我の体が育つと同時に成長するはずだった人間を消して……成り代わった身だ。記憶が目覚めたとき、自分が自分でなくなるような感覚に怯えた。けれどそれもだんだんと薄れていった……完全に侵食されてしまったように」 「違う。その前世を受け止めただけだ。ハヤテはハヤテだ。ヴォイドじゃない。彼が…ヴォイドが本当に蘇ったとするなら、そんなことは考えないはずだ」 「我の欠落はそこにある」 「?」 「我は、最初から……欠落があることだけを認識していた。つまり我は…我でないことを知っていた」 風が止んだ。シーウは、髪を払うと、ハヤテの隣に腰掛けた。 「ハヤテ」 「……」 虚ろな瞳が、シーウを見つめた。何の感情もこもらない、ガラス球のような瞳。それが綺麗でも、どんなに透きとおっていても、何の意味も感情も読み取れない。 シーウは、答えを返してくれることを願って、ハヤテに問いかけた。 「どうしたいんだ?」 「どう、とは?」 「いまの自分でいたいのか?ヴォイドとして生きたいのか?」 彼の瞳に、何かの光が揺れた。動揺したのがわかる。 「我は…」 「人は誰だって、足りないところを持っているはずだろう。ハヤテはどうしたいんだ?」 「……我は」 ハヤテは一度言葉を切り、続けた。 「ハヤテ=ソウ=リュウキという名を持つものとして生きたい」 「私は、シーウ=ウィア=ヴィンセントという名を持つものとして生きたい。名前を当てにしなければならないのは少し悔しいが…それでも、無いよりずっといい」 ハヤテにそう言い、シーウは微笑した。カオスとそっくりな、笑顔。 けれどもう、ハヤテはシーウとカオスを同一視できなくなっていた。シーウにはシーウの、カオスにはカオスの笑顔があるからだ。 「この世界に生まれたんだ。生きて、生きて、生きる。それだけだ。誰も文句なんか言わない。誰が何なのかなんて、その人物自身が決めることだ。だから、生きていこう。自分が何なのか、考えて、決めて」 それは、シーウらしくない言葉だった。本来、彼女の口から出るはずの無い言葉。けれどシーウはそれを口にした。言葉が、自然に口をついて出た。 ハヤテが、ふっと笑った。それまで彼を包んでいた冷たい空気が和らぐ。 新しい風が、それぞれの心に吹いた。優しく、穏やかに。 土の感触がした。うつ伏せになった体に、どことなく暖かい土の感触がした。腐葉土の匂い。草木の気配。 (ここは……) ひゅうひゅうと掠れた呼吸を繰り返す。クレスタはうまく働かない頭で、いまの自分の状況を把握しようとした。 自分は、スウォードから逃げてきたのだ。首筋を裂かれて、命からがら空間転移装置までたどり着いて。あの空間転移装置は、使用者の望んだ場所に転移できるようになっている。が、あの錯乱した状態では望んだ場所に行けないのも仕方ないだろう。 自嘲気味に笑おうとして、笑うことすらできないと悟る。目の前がぼやけてしまって、よく見えない。 自分は、自分の場所を捨てたのだと思った。そこから逃げてきてしまった。どうやって帰ればいいのだろう。このまま、“仲間”を捨てて逃げることなどできない。自分と同じような思いをした人間たちを見捨てることなど。 力を振り絞って、手のひらに力を込める。指が地面を掻いただけだったが、もがくようにして立ち上がろうとする。 「くっ…」 何とか上半身を起こし、手近な樹にもたれかかる。たった数十センチの移動で体力を消耗した。首の怪我がよほど酷いのかもしれない。彼は自身の首筋に手を伸ばした。生暖かい液体はもはや乾いてぽろぽろと崩れていたが、傷口が露出していることに変わりはなかった。どうやら頚動脈は無事らしい。そうでなければ、今頃あの世行きだったろう。 小さく呪文を唱え、治癒魔法を行使する。首筋に、温かな光があたり、傷が少しずつ治っていく。その代わりに、クレスタの意識はだんだんと遠のいていった。それをつなぎとめるのに必死になりながら、彼は治癒を続行した。 魔力を消耗すれば、それにと共に精神力を使うことになる。ある種の精神集中をしているのだから当たり前だが、今のクレスタにとって、意識を失うことは危険以外のなにものでもない。 ふいに、かさりと葉擦れの音が聞こえた。 クレスタが視線だけをそちらに向けると、現れたのは黒髪の女性だった。 「あっ…」 女性は、血まみれのクレスタを見てびくりと震えた。死体に見えたのかもしれないと、クレスタは心の中で自嘲した。 どうやら女性はそのクレスタの瞳に気づいたらしく、そろそろと近づいてきた。 「ティア!ちょっと来て!!」 女性が、自身の後方に向かってそう叫ぶ。すると、茂みの中からまた人影が現れた。 「……?」 「はやく手当てしないと…!」 新たに現れた少女は、無言で、しかし怯えた表情でクレスタを見つめた。クレスタは、ぼうっとその少女の瞳を見つめ返した。 (この子…声が……?) 同調能力で見る限り、どうやらこの少女は口がきけないらしい。クレスタは納得した。呆然としていたのではなく、何も喋ることができないから喋らなかっただけなのだ。 自分の前に現れた二人の女性に視線をめぐらせてから、クレスタは意識を手放した。 次に目が覚めたとき、自分が生きているのが不思議だった。クレスタは自分の右手の感覚を探した。 大丈夫だ。腕も指も、ちゃんと動く。左手も、両足も。 視線をめぐらすと、黒髪の女性がいた。自分の寝かされているベッドの隣に、椅子が置いてあったのだ。どうやら、どこかの宿らしい。 「あ、目が覚めたの?」 「……」 口を動かすが、声が出ない。黒髪の女性は慌てて、 「無理しないで!薬の副作用でしばらく喋れないと思うから…!」 こくりと微笑して頷くと、女性は落ち着いてベッドのそばの椅子に座った。 「私、アーク。アーク=スィート=レニア。アークって呼んでいいよ。あ、でも喋れないか」 クレスタは微笑んだ。アークと名乗った女性も、ふわりと笑った。 ふいに、こんこんとノックの音がした。 「ティア?」 そっと扉を開けて入ってきたのは、意識を失う直前に見えた少女だ。淡い金の髪に、綺麗な薄い青の瞳。口が聞けないからか、瞳だけがクレスタを見つめていた。 「この子、ティア。本名はティアシエル=リュクセイド」 少女がぺこりと頭を下げる。 (名前、なんていうんだろう) 少女の心の声を、クレスタは聞いた。同調能力を使っていたのだ。クレスタはアークに口だけを動かして紙とペンと出してもらい、それに自分の名前を書いて見せた。 「クレスタ=リザー…って、あの“同調神”と同じ名前ね?」 クレスタは苦笑した。どうやら自分の正体はばれていないらしい。 「ここ、あの森に近い村の宿よ。怪我治るまで寝てていいわ。一度関わっちゃったら最後までやりとげないと気がすまないの」 クレスタは微笑んで返した。黒髪の女性と、淡いブロンドの少女は、静かに部屋から退室した。 一人になったクレスタは、なんとか上半身を起こすと、自分の杖を探した。『星雲杖』という、クレスタの愛用の武器。だが空間転移したときに杖を持っていなかったため、やはり杖は見当たらなかった。 何の支えも助けも無い状態にあるのだと、人知れずクレスタは震えていた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 今回のサブタイトルの意味は、一つはハヤテが自己の存在を自覚することができたことと、今回初登場の二人の女性ですね。後者の意味の方が大きかったりもしますが。この二人はのちのち結構重要な役回りをすることになるでしょう。 ではまた! |
14681 | Re:Eternal Seed Act.32 | オロシ・ハイドラント URL | 2003/7/18 21:10:18 |
記事番号14629へのコメント こんばんは。 私事情で時間取れなくて遅れてしまいました。 > 部活の忙しさで結構疲れております…でも楽しいからOKってことで!ただ問題は睡眠時間がなぜか日に日に減っていること。気がつくと十一時を回っていることがしょっちゅう…(汗)。実は、いつもは十時半くらいに寝ようとしてる人間なのです。 睡眠時間ですかあ。 私は十二時半くらいに就寝すれば、七時半前後には起きられます。 でも、十時間以上寝る時もあり! にしても……十時半は凄い。私なら出来ないです。 部活がんばってください。 前世……私はどちらかというと、死後はキリスト教的に、転生せずに浄化される方を支持するんですがね。 まあそれはどうでも良いとして…… 前世の支配。 > お互いに生まれ変わりの身であるがゆえに、記憶という鎖に縛られた。ハヤテは、前世の記憶を持ってしまった。そのせいで、自責の念に苛まれている。大切な人を護れなかったことも、悔やんでいる。 辛いですよね。 記憶とは絶対に必要(最近、物忘れのせいで困ってるし)なものでありながら、とてつもなく恐ろしいものでもある。 変えたい過去などいくらでもありますね。まあ完璧な人生などありえないから、たとえ変えられたとしても、今が良くなるとは限らないんでしょうけどね。 おっと、脱線してる。 さて、 >「ハヤテ=ソウ=リュウキという名を持つものとして生きたい」 これで断ち切れたのでしょうか? 多分、それでもまだ前世の記憶と戦っていかねばならないと思いますけども。 >「私、アーク。アーク=スィート=レニア。アークって呼んでいいよ。あ、でも喋れないか」 > クレスタは微笑んだ。アークと名乗った女性も、ふわりと笑った。 > ふいに、こんこんとノックの音がした。 >「ティア?」 >そっと扉を開けて入ってきたのは、意識を失う直前に見えた少女だ。淡い金の髪に、綺麗な薄い青の瞳。口が聞けないからか、瞳だけがクレスタを見つめていた。 >「この子、ティア。本名はティアシエル=リュクセイド」 >少女がぺこりと頭を下げる。 >(名前、なんていうんだろう) > 少女の心の声を、クレスタは聞いた。同調能力を使っていたのだ。クレスタはアークに口だけを動かして紙とペンと出してもらい、それに自分の名前を書いて見せた。 >「クレスタ=リザー…って、あの“同調神”と同じ名前ね?」 アーク。名前は出てたようですけど、同一人物でしょうか? ティア。こちらも名前出てたような。 それではこの辺で失礼致します。 良いお年を(時期外れ) |
14683 | 記憶と過去 | 飛龍 青夏 E-mail | 2003/7/19 21:24:43 |
記事番号14681へのコメント こんばんは。飛龍青夏です。コメントありがとうございます! >前世……私はどちらかというと、死後はキリスト教的に、転生せずに浄化される方を支持するんですがね。 私も、転生するより浄化されたほうがいいかな、と思うときもあります。その逆も(おい)。というか、輪廻転生が実際に起きたときのシュミレートができないんですよね。予想がつかないというか。 もし転生したとしたら、二通りの考えを持つと思うのです。 ひとつは、実際に生まれてくるはずだった人間の存在を自分が奪って居座ったという考え。体を借りたようなものでしょうか。もうひとつは、肉体も精神も本当に自分だという考え。 なので複雑なのです〜…深く考えすぎでしょうかね。 >前世の支配。 >> お互いに生まれ変わりの身であるがゆえに、記憶という鎖に縛られた。ハヤテは、前世の記憶を持ってしまった。そのせいで、自責の念に苛まれている。大切な人を護れなかったことも、悔やんでいる。 >辛いですよね。 >記憶とは絶対に必要(最近、物忘れのせいで困ってるし)なものでありながら、とてつもなく恐ろしいものでもある。 >変えたい過去などいくらでもありますね。まあ完璧な人生などありえないから、たとえ変えられたとしても、今が良くなるとは限らないんでしょうけどね。 前世の記憶を持つ彼らにとって、前世の歴史、過去は鎖のようなものであるとともに、現在彼らが存在しているという証明でもあります。過去が無ければ現在は成立しませんし、未来も続きませんからね。 >アーク。名前は出てたようですけど、同一人物でしょうか? 彼女はこれからちょっとした事件を巻き起こしますよ!そう、台風のようにっ!周りに被害がいかないか心配ですが…。まあとにかく、結構重要な位置にいると思われます。 いつもありがとうございます。では! |