◆−我は聞く。汝が絶望の、竜の詩…−由季まる (2003/7/7 13:17:42) No.14596
 ┗竜達。それぞれの心、紡ぐ、それぞれの想い…  3.『古代竜』 (1)−由季まる (2003/7/7 13:47:16) No.14597


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14596我は聞く。汝が絶望の、竜の詩…由季まる E-mail 2003/7/7 13:17:42


こんにちは。おひさしぶりです&初めまして

はじめましての方。当方はTRYキャラヴァルの過去話です。
ヴァル中心のはずがオリキャラ出張ってます、上手く表現できていれば良いのですが…。
今回の話はアガレス夫婦(ヴァルのおとーさんとおかーさんです)+リルグ(オリキャラです)が中心な感じです。
TRYを見てない方でも楽しめ…たらいいな、と思っております。目標です。
だんだん暗くなっていく予定(予定は未定…です)なので嫌いな方は気おつけて下さい。シリアスです。
実はなんと4話目途中ですので興味を持たれたら各種検索、著作別を使って(さすが書き殴り!色々選べて便利ですね!)探してみてください。ただし、1話〜3話までは投稿小説1で投稿していたので気おつけて下さいね。

改めましてこんにちは。
そうです、よく考えたら以前は投稿小説1で投稿したんでしたね、時間が開いてたので忘れていました(汗)いえ、自分のせいなんですが。
ややこしいのでこのまま『2』の方に投稿しますね。

アガレス夫婦の妻『ユノ』のほうはみなこさんことみなっち!がつけてくれたのですが、夫の方は決まってなかったので『ゼウス』にしました。
もっといい名前がなかったものかと思ったのですが、思いつかず。安直ですねー。
ちなみに、お二方ともローマ神話の神様です。(たしか)


さて、それでは、続きをどうぞ。

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14597竜達。それぞれの心、紡ぐ、それぞれの想い…  3.『古代竜』 (1)由季まる E-mail 2003/7/7 13:47:16
記事番号14596へのコメント
我は聞く。汝が絶望の竜の詩…
 竜達。それぞれの心、紡ぐ、それぞれの想い…










―少し、昔の話




空から眺めるとどこまでも、一面真っ白な画布。一点、蒼い部分が見えた。

どしゃぶりの雪が降る中、何も持たずに蒼い髪に白い肌の青年が立っていた。顔をうつむかせている。
白い肌、が青白くはない。むしろ、引き締まっている身体。その身体を強張らせ、時々何かを抑え込むようにわななかせている。

 ザクザク、ザクザクザク、ザクザクザクザク、ザク、ザク…。

雪を踏み鳴らす音がして、向こう側の森から薄い緑の髪をした女性が現れた。雪避けの木でできた『かさ』のようなものを持っている。女性は手前で足を止め、青年に『かさ』を差しむける。
少しためらってから声をかける。
「リルグ。」
『かさ』を差し向けられたまま蒼い髪の青年―リルグは、無言だ。
背景の雪の白さにその肌の白さがあいまって、リルグが消えてしまいそうに女性は感じる。女性はわざとほがらかに言う。
「濡れちゃうわ。」
「………。」
リルグは微動だにせず、答えない。
「さあ、帰りましょう。みんな心配してるわ。…長老達だって、きっと。」
「………。くそったれ」
「え?」

バサァッ!

黒い羽が舞い散る。『かさ』が吹き飛ぶ。女性は目が点になった。


「…………あいつっ…………あいつら、おまえだってっ!自分達のことしか、考えてないじゃないかっ!!!」


青年は、キッと目前を―こちらを?―にらむと、真っ黒な翼をひろげ、…どしゃぶりの雪にもかかわらず何処へと飛んでいってしまった。
「……リルグ……。」
その怒りに、その変わりように、女性は驚いて追いかける事も忘れてしまった。


いつも、温かなぬくもりを持った彼の瞳に、氷雪のように底冷えする強い憎しみがこもっていた。











3.『古代竜』

 (1)





 昨晩、忘れていた過去を夢で見た薄緑色の髪の女性―ユノ・アガレスは、早めに起きてしまい、寝覚めの酒の入ったお茶をすすりながらその話を夫であるゼウス・アガレスに話した。まだ、息子である、ヴァル・アガレスは隣の部屋で寝たままだ。外ではまだ暗い闇の中雪がゴウゴウと白色を撒き散らしていた。

「心配ねえって。その夢十年以上前の話だろ?誰しも、そういう時期はあるさ。そん時はリルグもそうだったんだろうよ。」
 夫はねむそうな声で答えた。ようするに気にするなということらしい。
 言いたいことはわかる、今は前とくらべものにならないほどリルグも心を開いてくれているのだから。
 「だけど、リルグの心は今もどこかかたくなだわ。それが悪いと言うのではではないのだけど…。」
 あの後、リルグは行方不明になった。降魔戦争が激化していった時期でもあったので、行方がわからずとても心配したのだが、結局、降魔戦争が終わってから、何事もなかったかのように、帰ってきた。
 この前もヴァルがリルグに遊んでもらっていた。息子には特に良くしてくれている。
 よい事だと思う。
 でも、あの後のことは話さない。私など忘れていたのだからこんな事言う資格はないのかもしれないが、…心配になったのだ。

 「長老達に育てられて、ずっと暗かったからな〜あいつ。無理ねえんじゃねえか?反抗期が凄かったのも。
  夢に見るのもわかるけどよ、あの時期、穏やかになったと思ったら、いきなり怒り狂ったし。…いや、わかるけどよ、あいつが言いたかった事も。…誇れねえことも。」
 「…ええ、そうね…。」
 あの降魔戦争の時、我々―古代竜族―の行動は天秤にかければ『正義』とは言えなかもしれないと私達―アガレス夫婦―は思う。黄金竜達が怒るのも無理はない。
 かといって、他の道を選んだかといわれれば…今でもきっと同じ道を選ぶに違いない。
 私達には今も守るべきものがあるから。
 …でも、リルグのあの時の怒りは、おそらくは我々の正しさの―誇りの―なさに向けられたものだったのかもしれない、そう思うと…。

 ユノは、首をふって、自分の感傷を追い出した。感傷にとらわれ過去に戻っても前を向く事はできない。それがユノの考え方であった。
 「そうね。あの子は“あなたと違って”繊細なところがあるもの。」
 ユノは、わざと笑顔で茶化すように言い直した。
 「だから…」
 「なんだ?やけにリルグの心配をしやがって、一緒に旅に出るっていうのに夫や息子の心配はなしかよ!…さてはユノ。おまえあいつに乗り換える気じゃあねえだろうな?」
 いつもの軽口だ、ユノはそんなことは絶対しないと知ったうえで言っている。夫は少年のように嬉しそうなイジワルそうな顔をしている。
 もっとも、その少年は、好きな娘をいじめる時の顔のそれだったが。
 ユノは、そんな夫に半分呆れつつ半分可愛くも、思う。
 「あら。それもいいかもね。
  …って、もう、違うでしょ。」
 スッとユノの指が夫の鼻をつかまえ、ひねった。
 「いでっ!いででででででっ!いっで!いっでえで!ユノぉ!」
 「ちゃんと聞いてください。」
 「ばい。」
 濁点のついた返事をしながら、大人しくなったゼウスを見て、指をはなすユノ、少し微笑む。
 「あまり心配する事もないのかもしれないけれど…あの夢を見たせいか気になって。」
 この前、リルグがヴァルに旅の許可が出た事を報告してくれた時のさわやかな笑顔を思い出す。
 あの子、ヴァルに一番心を開いてくれているのよね。
 「…で?おまえ、俺にどうしろって言いてえんだ?」ゼウスは話を先取りした。右手で赤くなった鼻をさすっている。
 そんな夫の態度には慣れているのか、うなずき、話を続けるユノ。
 「そんな小難しいことじゃないわ。あなたに頼むんだもの。」
 また茶々をいれるユノ。
 「リルグとは、遠縁でもあるのに、ずっと寂しい思いをしてきたのに、ずっと心を聞けないでいて。今更、かも知れないけど。今なら、ヴァルをとおして心を開いてくれている今なら、この旅で、きっと、もう少し心を開いてくれるかもしれない。だから男同士で腹でも割って話してきてほしいの。
  …本当は、私が腹を割って話したいくらいだけれど。しょうがないわ、役目があるんだもの。…それに、男同士の方がいいんでしょう。」
 少しすねたように言う。本当は行きたくてしょうがないらしい。
 「いんや、おまえなら俺なんかより適任だと思うぜ。…役目なんざ、ほっといてくればいいんじゃねえか?」
 ニヤニヤしながらゼウスは言った。また軽口だ。ユノの性格上そんなことはしないと知っている。
 「ほ、おほほほほほほほ。言ってくれるじゃないの!じゃああなたを倒して私が変わりに行って来ようかしらぁ?」
 「お、おいっ、ユノ本気で怒るなよっ…ヴァルが起きるぞっ!」
 「あっ…」
 妻の本気を悟って、ゼウスがあわてて止めた。
 ユノは息子の寝ている部屋の扉の方をみて起きだす気配がないと見ると、安堵する。

 部屋には一時、外の風がヒュウゴウヒュウゴウ鳴る音だけがしていた。
 机の上に置かれた二杯のお茶はすでに冷めている。
 部屋には朝が訪れる前の闇の静けさが漂っていた。

 「………ユノ。」
 「?………。」
 ゼウスがあごをひとなでして、沈黙したのを見て、何か言いたいことがあると察したユノは黙る。
 ゼウスはしばらく宙を見てから、静かに話しはじめた。

 「…俺はよ、たとえばリルグが何かを抱えていたり悩んでいるとして、下手につっつきたくはねえ。
  ひとの想いってのはそいつだけのもんだ、誰かが無理矢理聞き出すもんじゃねえ。と俺は思う。
  あいつは、集落で暮らしにくかったぶん、ひとより多く外に出てる。ひとには言えないような想い出の一つや二つ抱えてるんじゃねえかな。
  だから、俺はあいつの話を無理に聞き出したりはしねえぞ。んなのは聞きたくないからな。」
 「………あなた。」
 ユノは知っている。普段短気で、考えなしで、乱暴に見えるこの夫はその実、とても優しい。
 彼は成り上がりだった。優秀な血筋とされる、アガレス家の者ではない。婿養子なのだ。
 子供の頃は弱かったと聞いている。それを自らが鍛え上げて―もともと才能もあったのだろうとユノは思うのだが―今ではこの集落を代表できるほどの強さを持っている。
 だから、ゼウスは弱い者の気持ちがわかるのだ。この強さばかりが優先されがちな古代竜達の中でそれは何と貴重な事だろうか。面とむかってはあまり言わないが。
 「でも、ま。機会があったら、昔話もいいかもな。」
 「ええ。そう思うわ」
 自然にほほ笑み合った。
 明日には、ゼウス達は旅に出る。おそらく1年は会えないであろう。しばしお別れとなるならば、今少し、二人の世界に浸っても誰が悪いというのだろうか。

 いつの間にか窓からは明るい朝日が差し込んで影が出来た。外の吹雪はおさまったようだ。
 部屋に出来た影と影は少し焦らすように揺れながら近づくと
 静かに重なりあった―








 「はよぉー…。」

 ―が、瞬時に離れ離れになっていた。

 「ヴぁ!」
 「!ヴァルっ!おはよおっ…!」
 そこには、二人の息子であるところのヴァル少年がねむそうに顔をこすってその場に立っていた。 

 「ん〜ん。ヴぁーるーぅ、ってめえぇぇ…。な〜んなんだああああ!畜生うううっ!あぁぁぁん!?」
 「いでっ!いでででででぇっ!どっちがなんだよ!くそっ!クソ親父!てめっ!ひとの寝起きになに…!いでえっ!」
 ゼウスはいきなりヴァルの背後をとると頭をげんこつではさんでそれを上下左右にシャッフルしつつまわした。…なんだかいつもより容赦がないようである。
 
 ユノは知っている。夫はとても、息子を愛していると。
 ただ息子に対してだけはその愛情が優しさ―甘やかす事―になるのを良しとしないところがある。ヴァルに対しての厳しさで表すのだ。
 谷へ突き落とし、迎えに行ってやることより、這い上がることを教えてやる事がヴァルの為なのだと言っている。
 矛盾している。
 まったく、そんなんだから、ヴァルはますます‘クソ’親父が苦手になるばかりに見えるのだが。

 それでもユノは知っている。この家にどんなに愛が溢れている事を。それがどんなに幸せな事かを。
  「リルグも、いつか、本当の意味でこの家に迎えられたら―…」
 どんなに―…










 ―…旅立ちの朝


  ユノは夫と息子、それにリルグの背中が消えるまで、ずっと眺めていた。胸の中で三人の無事を祈りながら。















 ―半年後。
 ここより遥か南で
 黄金色の竜達が荒れ狂う波となって咆哮をあげる。
 古代竜抹殺を神に誓って。




(続く)