◆−――絶交ゲーム〜Zの悲劇 '03〜:名探偵ゼロスとゼル――−オロシ・ハイドラント (2003/7/22 17:24:48) No.14705 ┗絶交以前に友情など欠片もなさそうですが(汗)−エモーション (2003/7/24 22:09:38) No.14721 ┗Re:残酷な仕打ちは友情の裏返し……なわけないか。−オロシ・ハイドラント (2003/7/25 19:55:45) No.14733
14705 | ――絶交ゲーム〜Zの悲劇 '03〜:名探偵ゼロスとゼル―― | オロシ・ハイドラント URL | 2003/7/22 17:24:48 |
―前書き君― こんばんはラントです。 まず、一応明記しておきますが、この話は「本格推理」ものではありません。 ご注意ください。 そして有栖川有栖の「月光ゲーム〜Yの悲劇'88〜」や、エラリー・クイーンの「Zの悲劇」とは何の関係もありません。というかどちらも未読なので、関係あるように書くのが無理ってもんです。 ―前書き君 終― ――絶交ゲーム〜Zの悲劇 '03〜:名探偵ゼロスとゼル―― あの事件は、俺にとっては最悪のものだった。 事件が終わるとともに、俺を取り囲んでいた世界は崩壊してしまった。 そうあれは…… 「断言しましょう。犯人はこの中にいます」 力強さを孕んだ声。美声は部屋中に響いた。 「おい。いきなり何を言い出すんだ」 俺は小声で、名探偵を気取った馬鹿にそう言った。 だが彼はそんな言葉など無視して、 「僕は真相を看破しています」 事件が起きたのは、恐らく昨日の夜だと思われる。 小さな村の小さな宿。俺達はその宿に泊まっていた。 木造の建物だ。一階には階段とトイレ、宿の主人と使用人の部屋、それに宿泊客が食事を摂るための円卓が置かれている。それほど広くはない。 二階には七つの手狭な客室がある。この日は内二部屋が空室であった。 一号室には俺、二号室には俺の旅の連れであるゼロス(実は魔族である)、三号室にはローウェルという青年、四号室にはキャロルというローウェルの連れの女、五号室にはグロムという老人が宿泊している。 事件内容は簡単だ。三号室のローウェルがナイフにようなもので刺され、死亡していた。抵抗の跡などはなかったらしい。現場に凶器はなかった。 気付いたのは翌朝。 四号室のキャロルが、いつもは早起きであるらしいローウェルが起きて来ないのを不思議に思い起こしにいったのだが、反応はなく、そのため宿の主人を呼んで鍵を開けてもらったらしい。 ただ起きて来なかったくらいで、鍵を開けてもらおうと考えるのはどうかと思うが、ローウェルが起こして起きないなどありえないことらしい。 扉は開かれた。 そして室内でローウェルの死体が発見された。 俺、ゼロス、キャロル、グロム、今年で六十になるらしい宿の主人、三十代半ばの使用人風の男、この六人は今一階の円卓を囲んでいる。 凍てついた空気の中で六人の内の五人は、ゼロスの方を向いていた。 「まず注目して頂きたいのが、この事件は「密室殺人」ではないということです」 一人だけ立ち上がっている名探偵気取りのゼロスがそう切り出すと、老人グロムがおもむろに手を挙げた。 「何でしょう?」 ゼロスがグロム老人の方を見て言う。どこか相手を馬鹿にしたような笑いを浮かべつつ。 「「密室殺人」というのは鍵の掛かった部屋で人が殺されており、犯人はその部屋にはいないというもののはずだが、今件はそれに値するのではないか? 知識もないくせにでしゃばりおって!」 しわがれた声は老いたものの弱さを剥き出しにしているが、その反面老練なる強さも感じさせた。 俺は傍観者でありながらこの老人の勢いに気圧されたのだが、ゼロスは冷笑し、 「ご老人。知識がないのはあなたの方ですよ。……あなたは魔術の存在さえ知らないのですか?」 「何を」 老人がゼロスを睨む。憤っているのだろう。容疑者扱いなどされて。 「封錠(ロック)に封除(アン・ロック)……この二つの呪文を使えば、大概の鍵は意味を失います」 「ぬぬぬ。……ん? だがそうなると術を使えぬわしは……」 怒りを湛えた老人の表情に、急に晴れやかさが生じた。 「そうですよ。あなたは魔術を使えない人間です。僕には分かりますから安心してください。……あなたは愚かな人間ですが、人殺しではない。人も殺せないような臆病ものです」 「貴様!」 だがゼロスはグロムなど無視して、 「さてキャロルさん」 「……は、はい」 視点はキャロルに注がれた。 「犯人を早く知りたいですか?」 キャロルは一瞬当惑したような表情を見せたが、 「え、ええ」 それを振り払って頷いた。 「そうですか」 そう言ってゼロスは、ここにいる五人を順番に見回す。 キャロル、グロム、主人、使用人、そして俺。 「犯人の正体は簡単ですよ。術を使えるものこそが犯人なのです。そして、この中で術を使える人間はただ一人」 ゼロスは指差す。 「ゼルガディスさん。あなたですよ!」 ……この、俺を。 「……ゼルガディスさん。あなたは確かに術を使えますね」 ざわめきが起こった。 今ここにいる人間は、ゼロスではなくこの俺を睨みつけている。 だが違う。 俺は断じてやってない。 むしろこの事件の犯人らしき人物は…… 「白状しろ! 貴様がやったんだろ」 ゼロスに代わってグロムが怒鳴り声を上げた。 「違う!」 俺は叫んだ。 「俺は……やってない」 「いいや、貴様が犯人だろう! わしは元々怪しいと思っとったわ」 グロムはすでにゼロスの意のままに動かされている。 「やってない! 俺が術を使えたところで犯人だとは限らないだろうが」 もう止まらない。 誰もが俺を疑っている。 視線が痛い。 俺は無実だというのに……。 「僕の言葉に間違いはありませんよ。……ゼルガディスさん。あなたはお分かりですよね」 彼は魔族だ。 魔族は人の負の感情を喰らう性質ゆえ、人の感情には詳しいだろう。 それに俺達人間を遥かに超越した力を持っている。 彼ならば事件の真相を見破ることも可能なのだろう。 そして彼はけして偽りを述べはしない。これも彼の特性だ。 彼が嘘偽りのないことを言っていないのは間違いない。 しかし俺はやっていない。 となると……まさか! 「騙されるな!犯人は……ゼロス。探偵気取りのやつこそ、本当の犯人だ!」 そうだ。それしかない。 犯人はゼロス。 ……間違いない。 「犯人の正体は簡単ですよ。術を使えるものこそが犯人なのです。そして、この中で術を使える人間はただ一人」 ゼロスはそう言った。 術を使える「人間」はただ一人、と。 ゼロスは人間ではない。彼は魔族だ。 限定されてはいるが術も使える。 それに封錠(ロック)、封除(アン・ロック)など使わずとも、簡単に浸入し足跡を残さずに消えることも出来る。 それに術を使える人間が俺だと言っただけで、俺が犯人だとは言っていない。 嘘偽りは述べていない。ただ紛らわしい言葉で、周りの人間に勘違いをさせているのだ。 「ゼロス。お前が犯人だな!」 俺はその恐るべき魔族を指差した。 だがゼロスは笑顔で、 「答える義務はありません。そんなことよりも皆さん。ゼルガディスさんを取り押さえてください」 「そうだ。そうだ。黙れ殺人鬼!」 使用人が掴み掛かる。 抵抗したら、宿の主人が拳を繰り出して来た。 六十とは思えないパンチに思わず怯む。 ふざけるな! 俺は必死で抵抗した。 だがゼロスの杖であっさりと昏倒させられ、役人に突き出されてしまったようだ。 結局俺が犯人にされた。 血塗れのナイフが、俺の荷物から見つかったのだ。だがこれは罠だ。 ……ゼロス。 恐るべき魔人。 笑顔の仮面の裏側には、身も凍りつくような悪魔の素顔。 俺の旅路に纏わりついて来たゼロス。 それもすべて、俺を絶望の穴に突き落とすがためか? だが本当にそれが真の姿とは思えない。 ゼロス……本性は一体? この事件は、俺にとっては最悪のものだった。 事件が終わるとともに、俺を取り囲んでいた世界は崩壊してしまった。 ……ゼロス。 ―後書き君― 何となく思いついて書いてみました。 続くかも知れません。 続くとしても今回のようなふざけきった話でしょう。 今回が「絶交ゲーム」だったから、次回は「強盗パズル」かな。 「御手洗(おてあらい)ゼロスの挨拶」「御手洗ゼロスのダンス」「御手洗ゼロスのメロディ」……って感じでも良いかな。 まあ、でもよほどのことでもない限り、続くなんてことはありませんからご安心ください。 ―後書き君 終― |
14721 | 絶交以前に友情など欠片もなさそうですが(汗) | エモーション E-mail | 2003/7/24 22:09:38 |
記事番号14705へのコメント こんばんは。 今回も推理小説風ですね。本当に着々とハマっていますね。 タイトルで「月光ゲーム」風なのかなと思っていましたが……ノリはメルカトルな ゼロス(ハマりすぎ)と美袋なゼル(こちらはさらにハマりすぎ)だったのですね。 形としてはある意味、無実の主人公が嵌められる不条理系でしょうか。 ゼロスの悪魔っぷりと、ゼルの不幸っぷりが最高でした。 ゼロスの推理風の語り。リナがいたら力ずくで周囲を黙らせ、ゼロスに無茶苦茶 ツッコミ入れそうですが、嵌められていくというより、いいように振り回されていく ゼルが可哀相やら、苦笑してしまうやら(^_^;) ……本当、不幸です……ゼル……(合掌) ところで、ゼルって、「ロック」と「アンロック」使えたかな……。 悪用を防ぐために教えてもらえないから、呪文構成を自分で編み出すしかない 呪文だと思いましたが。 アニメの「TRY」では、金庫の鍵を呪文じゃなくて、七つ道具で開けてたし。 もっとも、あの状況では「自分はその呪文の使えない」と言っても 「嘘を言っている」としか思われないでしょうけれど。 何にせよ、ゼル君不幸……。 読み終えて、ゼロスは何の目的があってローウェルを殺したのか、という点が 個人的に最大の疑問になりました。 無目的に人間を殺しまくるタイプじゃないですし、目的が「ゼルを犯人にしたてあげること」 だとしても、その理由が分からないですし、それなら別に誰かを殺さなくても良いはず。 ゼロスにとってローウェルは元々抹殺対象で、同時に何かの理由で、ゼルを 当分自由が利かない状態にしたかった、だから一石二鳥なこういう形にした という妄想がぽこぽこ浮かびました。 > 今回が「絶交ゲーム」だったから、次回は「強盗パズル」かな。 さらに続きは「相当の悪魔」ですね。勿論悪魔とはゼロスのこと(笑) ……後は全部短編でミステリーのアンソロにしか載っていないんですよね。 「江神&アリス」シリーズ……。まとめて出してくれないかな……。 > 「御手洗(おてあらい)ゼロスの挨拶」「御手洗ゼロスのダンス」「御手洗ゼロスのメロディ」……って感じでも良いかな。 > まあ、でもよほどのことでもない限り、続くなんてことはありませんからご安心ください。 ……た、探偵役は全部ゼロスですか……(汗)じゃあ、やはり石岡くんは ゼルなのでしょうか?(滝汗)……どこまでも不幸な……。でも、それなら 里美ちゃんはアメリアですね♪ ならノープロブレム(笑)!! ……あれ、じゃあレオナさんは……(滝汗) 「月光ゲーム」を初めとする江神&アリスシリーズ、まだ読まれていないのですね。 こちらは俗に学生アリスと言われています。火村&アリスの方は作家アリス。 学生アリスと作家アリス、両方ともストーリーとは別に、ある種のちょっとした 仕掛けで繋がっています。楽しんで読んでくださいね。 ゼルが不幸だな〜と思いつつ、面白く読ませていただきました。 次に書かれるお話も楽しみにしています。 それでは、変なコメントになってしまいましたが、この辺で失礼いたします。 |
14733 | Re:残酷な仕打ちは友情の裏返し……なわけないか。 | オロシ・ハイドラント URL | 2003/7/25 19:55:45 |
記事番号14721へのコメント >こんばんは。 こんばんは。 > >今回も推理小説風ですね。本当に着々とハマっていますね。 ええ奈落の底を目指してます。 >タイトルで「月光ゲーム」風なのかなと思っていましたが……ノリはメルカトルな >ゼロス(ハマりすぎ)と美袋なゼル(こちらはさらにハマりすぎ)だったのですね。 ……私的には、名(銘)探偵というと、メルカトルなイメージが強いです。 ワトソン役を馬鹿にしながら事件を鮮やかに解決して、犯人を陰湿になぶるようなイメージが。 >形としてはある意味、無実の主人公が嵌められる不条理系でしょうか。 ええ実はそんな感じになっていたり。 でもこのタイプならギャグ風に仕上げた方が良かったかも知れないです。 >ゼロスの悪魔っぷりと、ゼルの不幸っぷりが最高でした。 ……メル美的なものを嫌うゼルファンには辛いかも? > >ゼロスの推理風の語り。リナがいたら力ずくで周囲を黙らせ、ゼロスに無茶苦茶 >ツッコミ入れそうですが、嵌められていくというより、いいように振り回されていく >ゼルが可哀相やら、苦笑してしまうやら(^_^;) あのタイプは損しやすそうですからねえ。 >……本当、不幸です……ゼル……(合掌) アニメなどでもかなり不幸な目にあっていましたが、ついに捕らわれの身! >ところで、ゼルって、「ロック」と「アンロック」使えたかな……。 >悪用を防ぐために教えてもらえないから、呪文構成を自分で編み出すしかない >呪文だと思いましたが。 >アニメの「TRY」では、金庫の鍵を呪文じゃなくて、七つ道具で開けてたし。 >もっとも、あの状況では「自分はその呪文の使えない」と言っても >「嘘を言っている」としか思われないでしょうけれど。 この場合は、使える使えないはあまり重要じゃないんですよね。 ……でも、本当に使えるのでしょうかね? >何にせよ、ゼル君不幸……。 本当に不幸を呼び寄せる体質なのかも? 京○堂に憑き物を落としてもらった方が良いかも知れない(待て)。 > >読み終えて、ゼロスは何の目的があってローウェルを殺したのか、という点が >個人的に最大の疑問になりました。 >無目的に人間を殺しまくるタイプじゃないですし、目的が「ゼルを犯人にしたてあげること」 >だとしても、その理由が分からないですし、それなら別に誰かを殺さなくても良いはず。 確かにそうなんですよね。 >ゼロスにとってローウェルは元々抹殺対象で、同時に何かの理由で、ゼルを >当分自由が利かない状態にしたかった、だから一石二鳥なこういう形にした >という妄想がぽこぽこ浮かびました。 ……手っ取り早くいい加減に動機を作るとしたら、「ゼルに自分の本性を見せ付ける」ですかねえ。それは置いておくとして、今回の殺人動機は次回の伏線になるかも知れないです。 > >> 今回が「絶交ゲーム」だったから、次回は「強盗パズル」かな。 > >さらに続きは「相当の悪魔」ですね。勿論悪魔とはゼロスのこと(笑) そういえば検索する時にその字が出て苦笑した経験が……。 >……後は全部短編でミステリーのアンソロにしか載っていないんですよね。 >「江神&アリス」シリーズ……。まとめて出してくれないかな……。 短編集は、読みたい作家の作品を気軽に読めるから良いですよね。 ……それにしても麻耶氏のメルや木更津の短編集出て欲しい。 > >> 「御手洗(おてあらい)ゼロスの挨拶」「御手洗ゼロスのダンス」「御手洗ゼロスのメロディ」……って感じでも良いかな。 >> まあ、でもよほどのことでもない限り、続くなんてことはありませんからご安心ください。 > >……た、探偵役は全部ゼロスですか……(汗)じゃあ、やはり石岡くんは >ゼルなのでしょうか?(滝汗)……どこまでも不幸な……。でも、それなら >里美ちゃんはアメリアですね♪ ならノープロブレム(笑)!! なるほどハマってますね(なぜか登場作品読んでないのに里美知ってる私)。 >……あれ、じゃあレオナさんは……(滝汗) リナ……はダメだし。 う〜ん。 思えばゼロスってあまり女性に好かれてないんですね。 > >「月光ゲーム」を初めとする江神&アリスシリーズ、まだ読まれていないのですね。 >こちらは俗に学生アリスと言われています。火村&アリスの方は作家アリス。 >学生アリスと作家アリス、両方ともストーリーとは別に、ある種のちょっとした >仕掛けで繋がっています。楽しんで読んでくださいね。 あっ本日「月光ゲーム」を入手致しました。 創元社作品は近所にはなかなか売っていませんでしたので、見つけた時は嬉しかったです。 京極氏の「百器徒然袋―雨」と平行して読むつもりです。 > >ゼルが不幸だな〜と思いつつ、面白く読ませていただきました。 >次に書かれるお話も楽しみにしています。 「強盗パズル」というタイトルに見合うネタがなかなか浮かばず苦戦しております。 どこに強盗を入らせるか、とか。どういう風にパズルにするかとか。 >それでは、変なコメントになってしまいましたが、この辺で失礼いたします。 いえこれだけのコメントをもらえて嬉しいです。 本当にどうもありがとうございました。 > > |