◆−我は聞く。汝が絶望の、竜の詩…−由季まる (2003/8/14 14:56:49) No.14912 ┗竜達。それぞれの心、紡ぐ、それぞれの想い… 3.『古代竜』 (2)−由季まる (2003/8/15 18:40:42) No.14916
14912 | 我は聞く。汝が絶望の、竜の詩… | 由季まる | 2003/8/14 14:56:49 |
どうもこんにちは由季まるです。1ヶ月ちょい過ぎですが、ノベルにもどってまいりました。 もっともお待ちかねた方はいないんだろーなー…。(遠い目) それでも書かせてもらいます。すいません。最後まで書きたい事があるので。 良ければ見てくださると嬉しいです。ついでに感想くださるともっと嬉しいです。 はじめましての方。 どうもはじめまして。初めから後ろ向きなご挨拶でどうもすいません。 この小説はヴァルの過去話になっております。過去といっても、少年時代、黄金竜の襲撃を受ける前です。 ただ、今は話の流れからオリキャラがでばってますが、本質はヴァル中心のつもりです。 これは4話の途中ですので、1話から見てくださる方は、 1話〜3話 ノベル1 4話〜 ノベル2 と少しややこしくなってますので、調べる時には気をつけてください。 おそらく、シリアスで暗い話になるので、そうゆうのが嫌いな方はやめたほうがいいかもしれません。 皆様方。 読んで下さってありがとうございます。今回はいつにもまして、長いので気おつけてください。冒頭にもありましたが、書きたいことはあるので、それをちゃんと伝わるように書けたらいいなーと思っています。 ただ今オリジナルキャラがでばっていてややこしいのでキャラの説明をしておきますね。 それでは、ここまで付き合ってくださって有り難うございました。よかったら、小説もそのままご覧下さい。 今まででたキャラ ヴァル・アガレス(古代竜) 人間時の見た目は10歳前後。薄緑の髪に少々ツリ目だが可愛い顔立ちの少年。母親は大好きだが、父親は鬱陶しくて仕方がない今日この頃。 子供の少ない古代竜の集落において、リルグは兄貴のようでもあり遊び相手でもある。只今大人への階段「試練の旅」の真っ最中。 ユノ・アガレス(古代竜) ヴァルの母親。人間時の見た目は20代中頃。薄緑色の髪をした優しげな美人。しかし性格は明るく以外にさばさばしている。 「旅」に出た息子達を見送り古代竜の集落で、何か役目をしているらしい。 ゼウス・アガレス(古代竜) ヴァルの父親。人間時の見た目は20代中頃。緑色の髪を肩まで伸ばしている大柄な男。短気で乱暴で単純。息子には厳しく、決して優しくしない事で愛情を示している。(つもり)ヴァルの方にはいい迷惑。古代竜の中でも特に強い。ヴァルの「旅」に同行中。 リルグ・アザゼル(古代竜) 蒼い髪に蒼い瞳に整った顔立ちの繊細な物腰の青年。いつも穏やかにしている。人間時の見た目は10代後半。ヴァルとは遠縁にあたり、ヴァルがよくなついている。両親がおらず、古代竜の最長老達に育てられた。今は穏やかだが、昔は荒れていた時期があったらしく、その時期については謎が多いが…?ヴァルの「旅」に同行中。 バザード・ウル・コプト(黄金竜) 黄金竜の最長老。人間時は壮年のキリッとした男性。真面目で融通が利かず。種族の為に古代竜を抹殺する事が正しいと思っている。降魔戦争の時に妻を亡くした。二人の間の子供―卵を生んだ直後の事である。 ナーゼ(黄金竜) 最長老の妻であるエリシルフィアに仕えていた。人間時は白金色の髪の壮年の女性。最長老の妹。度今は本来の仕事である最長老の卵の乳母として、卵の世話をしている。エリシルフィアとは友達だった。この古代竜抹殺に反対している数少ない黄金竜でもある。が子供―卵を守る為あえて、反対しない道をとった。 エリシルフィア・ウル・コプト(黄金竜) 最長老の妻。故人。降魔戦争の時卵を残し死亡。まだ少女の面影の残る若い身ながら、一族の為にバザードと結婚した。明るく利発な女性だった。 *作中の種族設定やら何やら自分設定満載ですので、信じないようにして下さいね。 |
14916 | 竜達。それぞれの心、紡ぐ、それぞれの想い… 3.『古代竜』 (2) | 由季まる | 2003/8/15 18:40:42 |
記事番号14912へのコメント 我は聞く。汝が絶望の竜の詩… 竜達。それぞれの心、紡ぐ、それぞれの想い… りーりーりー 虫が鳴いている。あたりは静かだ、しかしここから見下ろす景色を普通の人間がみたならば、不気味さを感じ逆に落ちつかないだろう。危険だという不気味さ、不安を感じるだろうから。 そこは、人にとってはまだ未開の森だった。人間ではたちうちできないような危険な獣や食人植物等がわんさかいる。 その鬱蒼と視界一杯広がる森を横目に小高い丘の上にたき火を囲んだ二人の男性が談笑していた。 彼等は、『普通』でも、ましてや『ひと』でもなかった。人の姿はしているが、その本質は竜。そして、その中でも特に数が少なく、その中でももっとも強いと言われる種族。『古代竜』だった。 彼等は『試練の旅』の途中であった。 3.『古代竜』 (2) 「…しかしリルグ、おまえは昔、イヤな事があるたびに集落から出ていったよなぁ。」 水袋に入った酒をちびりっとあおりながら、緑色の髪を肩までのばした大柄な男は言った。酒はこの旅の間は貴重なので少しづつ飲んでいる。 「そうでしたっけ?」 もう一人の男がとぼけた顔をして言った。腰まである蒼い髪を無造作にたらしている、こちらの男の方が若い。もうずいぶん前から髪を切っていない。 酒は進められたが飲まないので断った。 顔をくずして、とぼけた顔をして、首を大げさにかしげる。基が端正な顔だけにその様子には親しみが感じられた。 「そうだったさ。いったん暴れ出すと手がつけられねえ、最後には『もういい!』とばかりに集落を飛び出て、何ヶ月、何年も帰ってこなかった。」 とぼけた雰囲気にはとりあわず、真剣な顔で続ける。が急に、にかっと笑って 「もっとも俺も若い時はそんな感じだったけどな。そして、それがたとえどんな旅でも―飛び出してはじまった旅にせよ、大人になる試練の為の旅にせよ―辛い事も苦しい事もある。かならず。」 「………。」 リルグはそれを聞き、少し目を細めた。 緑の髪の男―ゼウスはいつもより少し饒舌だった、それは酔ったせいか、それとも―。 「でも、旅はいい。」 男は断言して、少し後ろを見る。そこには、今はもう即席の草布団ですやすやと眠っている、ゼウスの息子である少年がいた。名をヴァルと言う。 父と同じ肩ほどまでのばした髪と父より少し薄い薄緑の髪が少し乱暴に草の上に散らばっていた。まだ、かわいさの残る少年の生意気そうなつり目のまわりは赤く腫れずいぶん泣いたであろう事がわかる。 それはそうだろう、ヴァルは夜までずっと毒と戦っていたのだから。今はやっと落ちつき眠っている。 本人達の見解はあるだろうが、第三者の目から見れば(見る者があれば)父親であるゼウスにも―そのつもりはなかったとしても―原因はあった。(リルグはその場にいなかった)なのに、「旅はいい」と言い、平気な顔をしている。ように見えた。 「あいつも、この旅が終わる頃にはそう思うようになる。」 「………。」リルグは静かに黙っていた。否定しているわけではなく、肯定しているわけでもないようだった、ただ黙る。 この青年は大体人の話を聞くときは、あまり自分の意見は言わず、黙って聞きに入る。 が、今日は少し様子が違う、何かを考えこんでいた。 『…何で…』 「?。どうした、リルグ。」その様子にゼウスが気づく 「え?あ、いや、ヴァルは大丈夫かな…と…。」 考えこんでいた所から急に、話しかけられた動揺を押し殺して、リルグは返事をした。 「大丈夫さ、おまえが助けたんだ、処置も完璧。そのうちに目を覚ますだろう。」 リルグの動揺に気づかず答える。しかしリルグは表には出さずまた心の内で動揺した。そう今まさにその事で考えこんでいたのだから。 それは本当にたまたま偶然だった。 後で、リルグが聞いた話によれば、二人はいつもの親子喧嘩をしたらしい。いつもならばリルグがどこかの時点で止めに入っただろうが、たまたまリルグはこの先の様子を何日か長く偵察していた為、喧嘩はヒートアップしていった。 ―本当は、偵察と称して、さらに足を伸ばし密会していた。彼にとってこの旅の間に何日か抜けられる事は都合が良く少々キツイ先行調査もかって出たのだ。 ともかく、どこかの時点でヴァルが飛び出し―「おれが一人でやれたら土下座だクソ親父っ!!」と「あーあーやれるもんならやってみろぉってんだ!まだ乳のみ終わったばかりのクソガキがなぁっ!」だったらしいが―一人で森の中へ旅の目的の物―のうちのひとつ―この辺に住む猛獣の生きた時に抜いた牙(生きたときでないと使えないらしい)を探しに行ってしまった。 目的の獣は見つからなかったが、ヴァルも子供とはいえ古代竜。獣にも負けず、探し回っていた。 が、しかし森には猛獣という直接的な危険とは別の危険があった。 キノコ等の植物系統の毒である。 毒、と言っても馬鹿にしてはいけない。たいした事のない毒でも長時間ほっておけば、死にいたるものもある。すぐに抜ける毒でも、痺れている最中に獰猛な獣にあえばお終いだった。たとえ笑いダケだったとしても、笑うと言う事が動きに制限をつけ、そのまま猛獣の牙にかかりながらの笑い死になどとはしゃれなもならない。 一人の時に毒を食べたら、処置する者もいない為そのまま死にいたる事も多い。 経験の浅いヴァルはそんな事も考えず、お腹がへったのか毒キノコを食べたのだ。 しかし、たまたま偶然にもリルグは近くにいた。 「…おまえなら、わかるだろ?」 「え?」 と言ってから、リルグはまた自分が考えに沈んでいた事に気づいた。 しかし、ゼウスは気づない。やっぱり、いつもより酔っているようだった。息子が助かって安心したのだろうか、それとも息子がめったにない危機を生き延びた事をよろこんでいるのだろうか? ―どっちにしろ…。 「だから、旅をする良ささ。おまえにならわかるだろ?旅を、ってってもおまえは長老の許可をもらわねーで、勝手に出て勝手に戻ってきたんだけどよ。ともかく!その間に変わっていったおまえにならさ。」しみじみと言う。勝手に、と言っているが馬鹿にしたような響きはなく事実をただ言っているだけのようだった。むしろ、そのくらいは誰でもするだろ、という響きだった。 変わっていった、と言っても長い間勝手に出ていったのは、2度だけだ。まあ、2度ともたしかに、めったにないほどの経験をして、リルグは変わった。 「そうですね。」 リルグは穏やかに答えたが、どこか、突き放したような氷のような冷たさ、暗さが端にあった。 しかしゼウスは過去を振り返り気づいていない。 一度目はたんなる反発心。 孤児だの、天才だの、可哀想だの、お荷物だの、従えだのと、色々言われてきた。こちらも孤児であるのを引け目に思い、育ててくれた、長老達の言ったとおりにすれば、認めてもらえると思ったこともあったが、それも無駄とわかるだけだった。 大人というのは、子供を道具としてしか見ていない。強くなれと言うくせに、強すぎるとやっかいもの扱いするだけなのだと。 それがわかれば全てが憎らしく。だから全てを壊し、逃げようとした。 その時はじめて、ゼウスに―ゼウス・アガレスに会った。 遥か神魔戦争の時代に戦った英雄アガレスの子孫。自分の先祖―こちらも英雄と呼ばれたアザゼルとは兄弟であったと言われている。噂には聞いていた、それに連なる者は強く、また強さがなければ直系といえども名を継ぐ事は許されない。自分と同じ英雄の血筋。 「…………。」 ギロ 少年、というには背が高く青年、というには幼さの残る顔立ちの、蒼い髪の少年―リルグが、その髪よりさらに蒼い瞳を突き刺すようににらむ。 それをこちらはのんきな顔で見上げて言った。 「俺はおまえのお守りじゃねえんだがなあ。」 リルグはさらにするどく氷のような瞳でにらむが、緑の髪を肩で切りそろえたした青年―ゼウスはまるでとりあわない。 「しっかしおまえちらかしたよなぁ〜、片づけが大変だぞ?」 リルグは空に浮いていた。そのすぐ横の尖塔の上の部分が綺麗に吹き飛ばされていた。真下を見れば、球状の屋根の天井が人一人分より幾分か大きく上に向かって吹き飛んでいた破片はそばの地面の雪の上に散らばっている。 「…………。」 「長老達が怒ってんぞー?」 「…………………。」何かを呟いた。が聞こえない。聞こえるように言うつもりがないのだろう。かと思えば突然苦々しい顔をする。その視線の先には最長老、長老達、更には集落の大人達までもが集まっていた。 うとまれている、そう思っているのだろうか。だとしたら、聞いていたよりも繊細な少年だ。 そうでない事をゼウスは最長老自身から聞いて知っているが、今はそれを言っても聞くまい。それに、両親を死なせてしまった責任を感じているのはわかるが、最長老達の育て方は幼いリルグには厳しすぎたのだ。うとまれてると勘違いされてもしかたない。―まあ、自分も子供の事で言えたくちではないのだが。 「今のうちに謝れば許してくれると思うぞー?」 「…………。」ギロリ。 「おまえ、自分が一番強いからなんでもできるって勘違いしてんじゃねー?どうも、馬鹿だねー。」 ぴく。ゼウスの馬鹿にした口調の言葉に反応する。それを見て叩きこむようにゼウスは言った。 「あん?違うってのかよ? ―それならこいよ、俺が違わねーって事教えてやるからよっ!」 ―拳で聞いてみろってやつさ!! 顔は無表情のまま、氷の視線だけはさらに鋭く、一言二言呟いたかと思うとゆっくりと身体を動かし、ややためるようにしたかと思うと。 背の黒い翼がはためき。蒼い髪がひるがえった。―とても速い。瞬きの間につめより、ゼウスの顔を殴った。 ―そういえば…。 「ほんと、おまえは変わったよ。」しみじみと、またゼウスが言った。それは、普段は見せない優しさがこもった言葉だった。ヴァルがいる時は決して見せようとしない、ゼウスのもう一つの顔。 ふいに、聞きに入っていたリルグが顔を上げ、口を開いた。 「そういえば、あの時…、なんで俺を追いかけなかったんですか?俺はあの時たしかに、あなたを殴ったけど、決して致命傷ではなかったのに…。それどころか追いかけて、止める事だって簡単にできた。」 「あー。あれはな…。」ゼウスは少し、星空を見上げアゴをばりばりとかいて。それから一言。 「旅は、よかっただろ?」 ニカッと、いつもより少しはにかむようにして笑った。 「たしかに。」 ―たしかに、良かったさ。 リルグは表面では笑って答え、しかし心のうちでは別のニュアンスで答えを呟いていた。 ―知らなかった世界を知る事ができた。何よりも大切な事を知る事ができた。 ―…でも。 ―俺は二度目の旅で、それを全て失った。 ―それも全て、俺の周りが全て間違った世界だったからだ。世界を知った俺にはわかった。 ―俺は、それを正す、絶対に。 焼き付けるように何度も心で反芻した言葉を興奮する事もなくたんたんと、冷徹に呟く。 リルグに迷いはない。 何故ならば、“それ”をはじめる為に、迷わない事を自身に絶対条件として課したのだから。 そして、その意味もあって、この『アガレス一家』と親しくしたのだから。 たとえどんなに親しくしていた者であろうと“その時”には容赦はしないのだと誓う為に。“粛清の時”のゆるぎない自信の為に。 しかし。 ―…ならば、何で俺は、あの時、ヴァルを助けた―…? その時、リルグは湖のほとりの木陰で休んでいた。人に会うために予定より足をかなり伸ばしてしかも予定の日にちには戻れるように飛ばしたため、かなり疲れていた。 ヴァル達のいる丘までもう少しという事はわかっていたが、着いた時に疲れ果てていては少し、いやかなりしょうもないな、と思ったのだ。ただでさえ、共に旅をして、穏やかでいながら、油断を見せない事は疲れるというのに。 リルグの仲間である『古代竜』を、共に旅をした二人を“裏切る”と言う行為に何の油断もつくるつもりはなかった。 「………。」 リルグは懐から何かを取り出した、それは紐を通してあり、その紐はリルグの首に繋がっているようだった。 それは、小指の爪程の小さな牙だった。それを切なそうに、しかし口元には微笑を浮かべながら普段は決してしない、複雑さのある表情でながめている。しばらく物思いにふけっていた。 突然顔を上げると、懐に小さな牙を戻し、後ろを振り向いた。 ―今何か、聞こえなかったか?―…。 『………………………………ぅぅっ………………ぅ…。』 たしかに何か聞こえたようだった。―何だろう?―気になり、慎重に深い森の奥へと足を進めた。 「…!」 そこには。暗い森の中で仰向けになりひくひくと痙攣し、ほとんど白目で口から泡を吐いている、ヴァルの姿があった。 ほとんど顔は青というより白で生気がない。 「ヴァるっ!!」 リルグはほとんど何も考えず、勢いよく飛び出し頬をパンパン叩いた。ヴァルは微かにピクリと反応するがそれっきりだった、状態はかなり良くない。 原因はすぐにわかった、ヴァルのすぐ横にかじられているキノコがあった。猛毒キノコだ。一見何の変哲のない普通のキノコだが柄の下の形が他のキノコをは違う独特の形なのが特長のやつだ。その毒は、即効性でトロールの再生能力でも間に合わず、十秒とたたないうちに死んでしまうものだった。 もちろん竜とトロールを比べる事などとんでもないが、この毒は竜にも効く、特にまだ身体が未熟な子供であるヴァルは大人竜程、毒に対する抗体が少ないハズで速く処置しないと…。 ―………。 しないとどうなると言うのだろうか。ここで、死なせなかったとしても、やがては残酷な現実を知りながら死なせる事になる。それなら、いっそここで楽にしてやった方が、ヴァルの為ではないのだろうか? 「………っ。」 リルグはらしくもなく迷っていた。 何故か、先程の考えとは違う、生かさなければならない、と強く心のどこで確信の声がした。押さえようとすれば、胸の奥が熱くちくちくと痛んだ。それが、調度、懐の小さな牙の先端があたっているようで、何だか切なくて…。 「っ!…まよっ…まよっていてはいけないっ!…」 そう、迷いを振り払う為に大きく叫ぶと、興奮の為にぎらつく目をヴァルに向けた。 たまたま偶然だったのだ。ヴァルの倒れている近くで休んでいた事も。そこにしばらくいた事も。声の正体を探ろうとしたのも。―毒を打ち消す薬になるものを持っていたのも。 でも、助けようとした意志は違う。 だからリルグは戸惑っていた、戸惑う事は“それ”をする時にマイナスとなるとわかっていて。 ―何故俺は…。 幸いにも、と言うか、ヴァルの中の毒は即効性の反面、消えるのもはやく、処置もちゃんとされたため、あとは目覚めれば、身体には残らないものだった。 そして、そのヴァルは、先程目を覚まし、隣で泣いていた。安心したからか、悔しいからかはよくはわからない。 ―ただ、俺のことをとても信頼しているんだろうことはわかる。 まるで第三者のようにぼんやり考えた。 ゼウスはヴァルが目の覚める少し前に偵察に、と言って出ていった。「顔を見せなくていいのか」と聞くと。 「必要ねえって!おまえの処置は完璧だったんだ心配いらねえよ。…それに、俺がいてもヴァルは困るだろーしな。」 と言っていたが、本当はゼウス自身が泣いてしまいそうだから、というのがリルグにはわかった。ヴァルを連れてきた時と似たような、くしゃくしゃになるのを一歩手前で我慢しているような顔をしていた。その時は後で必死でごまかしていたが。 ―いつもは厳しい顔をして本当は、子供の事をとても思っている。 またぼんやりと思う。そんな二人を見て、リルグは今までないほど心が困惑した。どう反応すればいいのかわからない、と。 そんな気持ちがはっきりとわからないまでも、ただ、黙りこくってしまう。泣いている者を前に今までのようにさらりと励ます事さえできない。なので、ヴァルの泣き声を聞きながらただぼんやりと考え事をする以外なかった。 何故こうなのかは、ぼんやりとわかっていた。ヴァルを助けたからだ。正確には助ける時に迷ったからだ。 『これは正しいか否か』と。それはそのまま、今現在“行おうとしている行為”に対しての問いとなってしまっているのだと。 しかし、“それ”は“正しい”。それは絶対で、変わらない。 けれど、ヴァルを助けてしまった。ヴァルにとって、残酷な事を見せる事になるとわかっていて。助ける事が正しくないとわかっていたのに見捨てていく事がたまらなくなり、正しくないとわかっていたのにしてしまった事。それが、自分にとって何か重要な事柄を教えているような―…?よくわからない。 ―残酷な目にあわせるというのに―…? ―…いや。だからこそ、か? ?それは、つまり…。 ―残酷な目にあわせる為に助けた…? ふいにそう思った。そう思うと、急にバラバラだった、思考の欠片がぴたぴたとはまっていく気がした。 ―もっとも親しい者だからこそ、もっとも残酷な位置に置く、それすらも迷わない、と…。 ヴァルは俺を信頼している。ゼウスは息子を愛している。それすらも裏切る。何故なら ―俺は正しい。 そう思ったら。それを信じた。そして言った ―俺は迷ってはいけない。 成し遂げなければならない事のために“それ”をする事を、迷う事を。 一度目の旅で大切なものを得て、二度目の旅でそれら全てを失った。失ったのは自分の種族古代竜のせいだった。古代竜に正しさがない事がわかった。 リルグはそれがわかった時“それ”をする以外、前には進めず、“それ”をしなければ、自分は崩れ堕ちていくだけである事がわかった。 彼女の、いや、自分の為にもう止まる事はない。止まる時は死ぬ時だった。 あの時、どうせ一度死んだようなものだった。―よく覚えてはいないが。そして誓った。 だから罪を正す事を、“正義”を行う事を、迷わないと誓った。 「おまえは、こんなところで、…死ぬな。」 最後の言葉には自分でも知らず、力が入った。 ―こいつは、最後まで生かす…俺の正しさの為に。 しかしその身勝手な言葉と裏腹に、感情的な『生かしてやりたい』という気持ちがこめられていた事にリルグは最後まで気づこうとはしなかった。 (続く) @@@@@@@@@@@@ *補足 もし、気づかれた方がいたらごめんなさい。これを送るのに1日あいてしまいました。そのままばーちゃんちに行ったので気づかなかったのです。送った気になってました。 あせっちゃだめですねー。(汗)ただでさえドジなのにぃ〜。 本当にごめんなさい。 |