◆−ローランの歌(前編)−LINA(3/29-21:35)No.1497
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1497ローランの歌(前編)LINA 3/29-21:35


お久しぶりです。
今回は16世紀(くらいの)イギリスを舞台にしたガウリナです!!
お暇があったら見てやって下さい!!






「望み事が叶うなら・・・・。」
ブラダマンテがドーヴァー海峡を睨みながら呟く・・・。
「知らなかったじゃ済まされない事でしょう!!」
彼女とロジェロのした事をリナは責める事は出来ない・・・。
自分自身人の事は言えないのだ。
何故ならガウリイはきっとリナの事をブラダマンテとロジェロと同じ人種だと思っていないだろうから・・。絶対に自分のことを信じてくれていると断言できる・・・。
だから・・・。
尚更辛い・・・。
リナは痛いほどに自分はブラダマンテと同類の人間と自覚しているからだ・・。
「何故・・・。あんな事を・・・。」
日頃ブラダマンテに心酔しているアメリアとて彼女に対する口調が必然的にキツくなる・・。
「憎かった!!ただそれだけよ!!」
涙を堪えながらブラダマンテが言う。
「結果的にそのロジェロと・・・ガウリイを対峙させる事になったのはお前だろう!!」
ゼルガディスがブラダマンテを更に責める・・・。
「止めて!ゼル!!アメリア!!ブラダマンテ姉様をどうこう言った所で状況は変わらないわ!!」
遮ったのは一番辛いはずのリナだった・・・。
「リナさん・・・・。」
アメリアが声を掛ける・・・。
「ブラダマンテ姉様・・・。貴方の『ドゥリンダナ』お借りします・・・。」
無言でブラダマンテは頷く・・。
「リナ・・・。」
「止めないで、ゼル。アメリア。あの子も・・・。ク・ホリンなら・・・。アタシと同じ事を確実的にするでしょうね・・・。ロジェロ様にもよろしく言っておいてね・・。」
ブラダマンテから『ドゥリンダナ』を・・・。
そして・・・。
ク・ホリンからは魔槍『ゲイボルク』を・・・。
槍に目をやりながらリナは呟く・・・。
「ガウリイ・・・。偽証をさせられたとは言え・・・。アタシの罪はブラダマンテ姉様・・・。そしてロジェロ様・・・。更に言えばオルランドと・・・。彼等と同罪なのよ・・。」
彼が信じてくれている限り自分の仕出かした事は始末したい・・・。
自分の為にも・・・。
ガウリイの為にも・・・。



今から二十年以上前の事・・・。
ロンドン郊外の貴族、ガブリエフ家の奥方は誇らしげに微笑んでいた・・。
「双子の男の子が生まれたんですね・・・。」
奥方の友人の貴婦人が彼女に語りかける。
「ええ・・・。兄の方は金髪碧眼の子、弟の方は銀髪に緑色の瞳をした子よ。」
奥方は嬉しそうに貴婦人に言う。
「まあ・・。ホント・・。所でご存知かしら、最近この辺りに有名な占い師の賢女がいらっしゃるそうですのよ?」
物好きな貴婦人はさっそく奥方に薦め様とばかりに話題を焚付ける。
「賢女の占い師・・?魔女ではなくて・・・?」
奥方らしい話題の回避のしかた。
「いえいえ。何しろ得体の知れない魔女などとは訳が違いますわ。かの『アーサー王伝説』の湖の貴婦人ヴィヴィアンの再来とすら言われるニュムエと仰る美しいご婦人ですのよ。そのにこの双子の赤ちゃんの運命を伺って見たらどうです?」
ベラベラしゃべくる貴婦人に流石の奥方も折れた・・・。
「まあ・・・。そうして見ましょう・・・。」
ほとほと疲れ切った口調で奥方は言った・・・。
無論・・・。
友人の貴婦人はそんな奥方の様子に気がつく事無く一人ではしゃいでいたりするが・・・。


「いかがですの・・・・?」
奥方は若い占い師の娘、ニュムエに尋ねる・・・。
「ええ・・・。どちらのお子様も共に健やかに・・・。そして勇猛な軍人となられるでしょう・・・。」
ここで一度ニュムエは言葉を切った・・・。
「如何なさいましたの・・・・?」
妙な胸騒ぎを覚えて奥方はニュムエの顔を眺めながら尋ねる・・・。
「ただ・・・。」
小さく言葉を紡ぐニュムエ・・・・。
「ただ・・・・。如何なのですか・・・?」
奥方がニュムエに心配そうに聞く・・・。
「このお二人のお子様は・・・・。将来互いを殺し合う定めにあります・・・。」
苦しげながらもキッパリとした 口調でニュムエは言い切った。




「踏みこみが甘い!!」
響きの良いアルトの甘い響きながら威厳のある声。
流れるような美しい金髪に対照的な黒い瞳。
背丈こそ中くらいだがその体つきは女性にしては鍛え抜かれているが華奢な印象。
透ける様に白い肌は霧の都ロンドンの恩恵だろうか・・・。
敏捷な動き、繰り出される猛攻撃・・・。
とても女性のものとは思えない・・・。
「リナさん!!」
アメリアが思わず声を上げる・・・。
それから三秒もかからず・・・。
ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!!
弾かれるリナの剣・・・。
大慌てで拾おうとするリナの額に彼女の持つ剣の切っ先が付き付けられる・・。
「・・・・。参りました・・・・。」
仕方なさそうにリナは従姉妹の男装の麗人の女兵士・・ブラダマンテに言う。
「ちっとは腕を上げたわね。」
言ってブラダマンテは微笑みリナに手を貸す。
「ふ・・ぅ〜・・・。疲れた・・・。」
何時も自分に剣術を教え込もうとするこの従姉妹ブラダマンテ。
リナは勿論の事アメリアも彼女にはあこがれていた。
容貌は言うまでも無く知的で完璧な才色兼備なこの女性・・・。
「精進しなさい。リナ。」
ブラダマンテは誇らしげに鞘に高価なサーベルに収める。
「オルランド殿の事・・・。まだ気にしているのね・・・。」
大好きなブラダマンテの絶対に見せたりしない弱さをリナは薄々感付いていた・・。
無論、今のはブラダマンテに気が付かれないようにそっと言った呟き。
そんな事、彼女に聞かれた日には命は無い・・・。
「リナ、今からアタシは軍隊の会議にいかなければならないんだけれども・・・。ク・ホリンも居るわ。一緒に行く?」
さして興味は無いが下宿生活で離れ離れになっている弟に会えるのは魅力的である。
「クーに会えるの?でもクーはまだたったの15歳よ?正規的に軍人になれる年齢に達していないわ。」
「成績優秀なのよ。今度スペインと大規模な海戦がある事は知っているわね?」
ブラダマンテの問いにリナは無言で頷く。
「海洋の権利を掛けた戦い、でしょう・・・?」
「そ。けれど正規的であろうと無かろうと優秀な士官学校生、ないしは軍人は全員強制参加よ。」
優秀な軍人か・・・・。
「ねえ、そこにガウリイ=ガブリエフってヒト入ってない?」
弟がよく手紙に書いて寄越す名前をリナはブラダマンテに聞く。
僅かにブラダマンテの表情が変化するがリナが気がつくはずは無い・・。
「さあね・・・。」
ぶっきらぼうにブラダマンテは答えた。
「リナさん・・・。ブラダマンテさん・・・。急に不機嫌になっちゃいましたね・・。」アメリアがリナに小声で語りかける。
「オルランドを殺したのはそのガブリエフ一族なのよ!!」
吐き捨てるようにブラダマンテは答える・・。
オルランドはブラダマンテの恋人だった軍人だ。
しかし・・・。
昨年の戦争の真っ最中、戦場で命を落した
ブラダマンテはオルランドが味方の何者かの策略にはまったため敵によって惨殺されたと言い張って居る・・・。
が・・・。
真坂弟の最も慕っている軍人がその一族だなんて・・・。
「別にそのガウリイさんてヒトがオルランドさんを貶めたわけじゃありませんよ・・・。」リナにだけ聞こえる声でアメリアが言う。
「そうね・・・。」
正直言って弟の敬愛する人物とやらを恨みたくは無いし・・・。


レンガ造りの高貴な雰囲気の漂う建物・・・。
「ここよ。ここで群議会議が開かれるのは。アタシは先に会場に行ってるわ。リナとアメリアはそこらへんを見学してて。すぐク・ホリンが来ると思うから。」
そう言い残してブラダマンテは去って行く。
「姉上!!アメリア殿!!」
聞きなれた声がする・・・。
「ク・ホリン!!クーじゃないの!!」
すっかり大きくなった最愛の弟を認めリナは叫んで手を振る・・。
「そちらは?」
抱き合って再開を喜びながらリナは弟の隣に居る二人の青年士官を尋ねる。
「ああ!!こっちがゼルガディスさん。で、こっちが・・・。」
一人の青年をク・ホリンが紹介し、もう一人が紹介されるよりも早くそれを遮った。
長い金髪を持つ碧眼の青年。
「ガウリイ=ガブリエフって言うんだ。お前、リナって言うんだろ?ク・ホリンに良く聞いてるよ。」
言ってガウリイは明るい微笑をリナに向ける。
一瞬戸惑いはした物の綺麗な笑顔で話しかけられて気分を害すような人間は世の中広しとはいえそ〜と〜な変わり者か他人の美貌に嫉妬しているような奴だろう。
無論。
リナはそんな人間ではないので喜んでガウリイに自己紹介をする。
「リナ。リナ=インバースよ。アタシもこのクーから貴方の事は良く聞いてるわ。ナンでも・・・。命の恩人なんですって?」
リナのその一言にガウリイは苦笑して頷く。
無論。
それは傍から見ればの話。
彼の心の表情は『苦笑』なんかではない・・・。
忌まわしい過去のみがその『命の恩人』と言う言葉のすべてなのだ・・。
最も・・・。
ク・ホリンを救えた事が最後の救いなのだが・・・。
「ゼルガディスも俺もク・ホリンももう暫くは暇だ。よかったら中庭を案内するよ。」
あえてガウリイは話題を逸らした。
自分の事はもとよりだがク・ホリンにも苦い初陣の思い出を蘇らせたくない。
ある意味・・・。
ク・ホリンの為にあの悲劇は起こったのだから・・・。


「一体ここにはどのくらいの兵士の人達がいるんですか?」
真っ黒な可愛らしい目をクリクリと動かしながらアメリアが聞く。
「さあな・・・。下宿している奴の方が通学してくる連中よりもはるかに少ないからな・・・。」
ゼルガディスが答える。
「まあ・・・。俺達下宿生の方が人数少ない分みんなよく会ってるし仲間同士ってかんじなんだ。まあ・・・。俺にとっちゃ友達じゃない奴の数が通常通学してきてる奴の数かなあ・・・。」
感情論で学生の数を言うガウリイ・・・。
「まあ・・・。別に良いけど・・・。」
さしものリナもこの言い方には返答の余地が無かった・・。
「姉貴、ガウリイって訳のわからない事とか抜けて事を良く言うんだ。今ので分かっただろ?」
ク・ホリンがリナの袖をクイクイと引っ張りながら言う。
まだ彼が十五歳であることとリナ達の家系がオクテである事と重なって軍人みならいにしてはク・ホリンの背丈はリナよりも中指ひとつ分くらい高いくらいである。
もっともそのなだらかな金髪、将来美しい面立ちになるであろう顔つき、体の割りには長くすらりとした手足・・・。
均整が取れてた体格になったらさぞかし軍服の似合う立派な軍人になるだろう。
彼の手にした魔の槍『ゲイボルク』はまだまだ大きく感じられてならないがいずれこれを楽々と使いこなすように・・・。
そう思いながらリナは弟を見やる・・・。
瞳の色は濃いヴァイオレット・・・。
ガウリイのそれに比べたらリナのストロベリーブロンド(もどき)ににた赤っぽい金髪。いずれこのヤンチャ坊主の髪のガウリイのように金色化するのかもしれない・・。
そんな思いに駆られて居るリナに気が付く事も無くク・ホリンは続ける。
「ガウリイのあだ名、何て言うと思う?」
唐突な一言・・・。
「う〜〜ん・・・。そうね・・・。イメージ的にギリシャ神話のトロイ第一の英雄ヘクトルを思わせるけど・・・。」
ブっと吹き出すク・ホリン。
「あら!!違うの?」
その反応にちょっとムっときてリナの語調が少々きつくなる。
「ゴメン、ゴメン。ガウリイがヘクトルのイメージってのは異存は無いけれど・・・。違うな。」
ニヤリっと笑うクー。
「何よ・・・。じゃあアレクサンドロス大王とでもいっておきましょうか?」
更に笑いを堪えるクー・・・。
「成るほど・・・。そ〜ゆ〜見方もあるな・・・。」
意味深にゼルが隣りで呟く・・。
「それ、如何言う意味なの?」
なんとなくハッキリしないのでリナはゼルに問いかける。
「イヤ、何。容姿と勇猛さと英雄伝だけならなるほど・・・。この男もアレクサンドロスやヘクトル、更に言えばカエサルやチェーザレ=ボルジアにもなれるかな・・・と思っただけだ。」
「容姿と英雄伝だけならどんな英雄にもなれるって事でしょ?そんならどんなあだ名があるのよ?」
リナが少々大きな声を出したので張本人のガウリイも振り向く・・・。
「誰がナンで英雄になれるって?」
こんな話を聞けば大概の人間は怪訝な表情、ないしは口調で聞いてきそうなものなのいだが・・・。
当のガウリイは純粋に好奇心から聞いてきていると言った様子である・・・。
「貴方がね、容姿と武勇伝だけならヘクトルにもアレクサンドロスにもカエサルにもチェーザレ=ボルジアにもなれるって。」
そんなガウリイの様子が可笑しくってリナはからかう様に言う。
「・・・・・・。」
ガウリイの沈黙・・・。
が・・・・。
「ヘクトル、アレクサンドロス、カエサル、チェーザレ=ボルジアってナンだ・・・?」しいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいんんんん・・。
「この・・・・。クラゲ・・・・・・。」
思わずガウリイのあだ名を口にするゼルガディスだった・・・・。


「リナ、アメリア、ク・ホリン。居る?」
不意に良く知った女の声がする。
ブラダマンテだ。
「ブラダマンテ姉様・・・。」
リナが言いかけるよりも彼女の行動は早かった・・。
声を掛けてきたリナとアメリア、さらには久々に会うク・ホリンすら無視して彼女はひたすらガウリイに向かって歩いてくる。
その瞳は憎しみに満ちている・・・。
「ブラダマンテさん・・・。」
言いかけるアメリアを身振りで制してキツイ口調でブラダマンテは言う。
「退きなさい。リナ、アメリア、ク・ホリン。」
その手は既に腰に括り付けられたサーベルではなく片手に握られた名剣、かつてのトロイ第一の英雄ヘクトルが持っていたといわれる『ドゥリンダナ』の柄を握り締めている。
「何を・・・。」
困惑しながらリナは尋ねる。
ブラダマンテのガウリイに向ける眼差しは彼女の中にある憎しみをすべて投影したような殺気に満ちてい・・・。
そんな眼差しを受けながらガウリイは・・・・。
他の人間には感じとれないかもしれない・・・。
彼の無表情の中にリナは一瞬とてつもない悲しみとも辛さとも取れない感情を読み取った。
そして・・。
ク・ホリンもガウリイと同じ感情に苛まれている事を。
が、それも一瞬の事。
やがてガウリイもブラダマンテに対して怒りとも憎しみとも取れる眼差しで睨みつける。
「何度目だ。これで。こんな事をしてオルランドが喜ぶとでも思っているのか?」
いかにもブラダマンテを軽蔑した口調でガウリイは言う。
ぞっとするような冷たい嘲りの混じった声・・。
「ガウリイって・・・。ああ言う声で敵に接するの・・・?」
場違いな質問と分かっていながらもリナはゼルとク・ホリンに問いかける。
聞かずには居られない。
第一印象の優しそうなガウリイ。
ク・ホリンをとても大切にしてくれているイメージの中のガウリイは絶対にあんな声を出す事は無いと思っていたから・・・。
「いいや・・・。例外中の例外だ・・・。奴の怒りの感情をここまで引き出すのはブラダマンテとその恋人のオルランドの事件くらいだ。」
ゼルが答える。
「本当にオルランドさんはガウリイさんたちの一族が罠にかけたんですか?」
堪りかねたアメリアが聞く。
「真実はアイツ・・・。ガウリイしか知らない。だがな。断言できる。奴はそんな事の出切る男じゃない。それに・・・ガウリイはその事について一言も語らないんだ・・・。」ゼルが言う。
「ク・ホリン・・・・。」
リナは縋るように弟を見る。
「俺は知らないんだ・・・。脇腹を敵に射抜かれて痛みの余り気絶しちまったんだ・・・。で・・・。気が付いたら・・・嘆きながら怒り狂うブラダマンテと・・・。返り血に塗れたガウリイが居た・・・。」
そうとだけ言ってク・ホリンは沈黙した。
「ガウリイ・・・。ブラダマンテ姉様・・・。」
尚も二人はしばしの対峙をする。
が、それもほんの一瞬の事・・。
「抜きなさい!!」
凛と通るブラダマンテも涼やかながら怒りに満ちた声がガウリイに対決を促す。
「厭だと言ったら・・・?」
尚も嘲るようにガウリイ。
が、その表情にはやはりどこか憂いと辛さが滲み出ている。
無論、そんな彼の様子が逆上したブラダマンテに分かるはずが無い。
むしろ、彼のそんな戸惑いと言っても過言ではない様子がブラダマンテには余裕にすら見えたのかもしれない。
「力ずくでも!!」
もともと美しいアルトの声がさらに低い響きを帯びる。
名剣『ドゥリンダナ』を何時もの剣の型すら忘れ、ただ単に激情に任せて振り回すブラダマンテ。
「ガウリイ!!!」
剣を抜きもせずただただ我武者羅に襲いかかってくる銀色の剣先を避けるガウリイ・・。
が、こんな事では彼が傷付く事は必然的な状況である・・。
思わずリナは声を上げる・・・。
が、ガウリイはあいも変わらずただただ無軌道に襲いかかってくる刃を楽々と回避する。絹のような金色の髪がそのたびに銀色の剣先によって切り落とされる。
息を切らしたブラダマンテの攻撃が一時止む。
その一瞬ガウリイに僅かな隙が生じる。
リナとブラダマンテはその一瞬を見逃さなかった。
僅かな隙・・・。
あくまでそう見えただけに過ぎないその一瞬を・・・。
まんまとガウリイの計略に掛かったブラダマンテ・・・。
無論、師である彼女ですらそうだったのである。
リナがまんまとガウリイの計略を容易く見破れるはずが無い・・・。
ブラダマンテがその一瞬の隙と見えた瞬間を狙って剣を構えなおす!!
攻撃目標は・・・・。
思わずリナは目を背ける・・・。
それろ同時にブラダマンテはガウリイの額目掛けて思いっきり剣を突き刺す!!
予想され得る自体・・・。
からだが凍りついた思い出リナは目を固く閉じた・・・。
が・・・。
そんな予想に反して次ぎの瞬間に聞こえたのは耳を突くような金属音・・・。
そして見たものは・・・。
宙を舞うブラダマンテの剣、『ドゥリンダナ』・・・。
「何が・・・・。」
リナが言ってサッと視線を正面に向けなおす。
「な・・・。」
リナ同様凍りついた様になるアメリアの声が微かに聞こえる。
「何て奴だ・・・。」
ゼルガディスの声が聞こえる・・・。
確かにガウリイは剣を抜いてはいた・・・。
が、その銀色のサーベルは地に無造作に投げ捨てられていた。
彼がそれを使ってブラダマンテの剣を弾いたわけでは無さそうだ・・・。
第一この一瞬でそんな事出来るはずが無い。
「信じられない・・・・。」
凍りついた様に成るブラダマンテと冷酷な瞳でブラダマンテを睨み付けたまま制止するガウリイをリナは交互に見詰める・・・。
ガウリイのその手にはサーベルの鞘のみが握られていた・・・。
しかし、立派な作りと細工が施されているそれはかなりの威圧感がある。
その鞘のみを首筋に着き付けられ凍ったようになっているブラダマンテ・・。
その瞳には明らかに恐怖と言う感情に苛まれている・・・。
「何て人なの・・・・。」
リナはそうとしか言えない。
剣を使わず鞘だけでブラダマンテの攻撃をかわしただけでなく一瞬で彼女の首筋に本物の剣であれば一撃を与える事が出来たのだ。
「もう止めておけ。」
そうとだけ言ってガウリイは地に転がった自分のサーベルを拾い上げる。
「済まないな、リナ。」
先程の冷酷な表情は微塵も無い。
いつものどこか温かい感じの漂うガウリイに戻る。
「まあた何処かで会えたらな。」
言ってガウリイはニッコリと笑ってリナの髪をクシャクシャと撫ぜる・・。
やがて・・・。
何所へとも無く去って行く。
「リナ!!」
放心したようになっていたブラダマンテだがやがてリナの方に歩み寄りその顔に鋭い平手打ちを与える・・。
「ブラダマンテさん!!」
アメリアが責めるが彼女の怒りは収まらない・・・。
「あの男はね!!オルランドを殺したのよ!!」
さらに彼女は劇場し叫び声をあげる。
「ならば貴方は何がしたいのです!!」
いきなり殴られたショックも手伝ってリナは叫ぶようにブラダマンテを問い詰める。
「復讐するわ・・・。」
「無理よ!!姉様はさっきだってあの人に負けたじゃない!!」
「口答えなんてしなしで!!お願いだから・・・。アタシはいずれオルランドの兄、ロジェロと彼の仇をとろうって約束してるのよ・・・。」
恋人であるオルランドを殺されて辛いのは分かる・・・。
しかし・・・。
ブラダマンテは只単に憎しみを誰かに転嫁していなければ居られないだけではないのだろうか・・・・?
その対象がガウリイなのかもしれない・・。
そんな思いのみがリナを苛むのだった・・・・。



「あの男を殺して!!」
怒りに満ちたブラダマンテの声がオルランドの兄、ロジェロを責める。
リナにとって最も聞きたくない話題が否応ながら隣の部屋から聞こえてきていると言う訳だ。
「いい加減にしろ!!」
責めるようなロジェロの声にリナは少々の安堵を感じる。
「貴方、実の弟を殺されているのよ?それを何とも思わない訳?」
責め苛むような嘲るような口調でブラダマンテがロジェロに詰め寄る気配が壁越しに感じ取れる・・・。
「お前は自分の感情でしか物事を見取る事が出来ないのか!!」
ついに激怒したロジェロが荒荒しく扉を開け放ち廊下に出て行く足音が聞こえる・・。
やっとの思い出リナは安堵する・・・。
昔からそうだ。
普段冷静で的確な判断を下せる分、一旦己の劇場に走ったブラダマンテは手がつけられない・・。
独善的で何もかも自分が正しいと思いこんでしまうのだ・・・。
「でも・・・。これで一つ確信は持てた・・・。」
もし・・・。
ブラダマンテが言う様にガウリイがオルランドを害していたとしても・・。
ロジェロのあの反応から見てなんらかの訳があるに違いない・・。
ならばガウリイやク・ホリンのあのつらそうな表情と共に説明がつくし・・。
「さしあたり・・・。ブラダマンテ姉様にはその事情が飲み込めないのでしょうね・・。」日頃一途過ぎる分・・・辛い事に対する免疫が無いのかもしれない。
そんなブラダマンテをオルランドはとても大切に庇っていたし、感情の荒波から庇護していたのも紛れも無い事実だ。
その防波堤を失った今。
ブラダマンテは只単に荒れ狂う事しか出来ないのかもしれない・・・。
「だからって・・・。訳があるに違いない・・・。ガウリイが可哀想だよ・・・。」
彼だって辛いに決まっているのだから・・・。
そんな事を思いながらリナは一人月を見やる。
隣の部屋の扉が再度開け放たれた音を微かに聞く。
大方ブラダマンテが憂さ晴らしに剣術の稽古にでも行くのだろう・・・。
「ガウリイに・・・。コテンパにやられちゃったもんね・・・。」
思わずリナは苦笑する。
「!!?」
不意に光が目に入る。
月明かりや星明り、ましてやランプの光ではなさそうだ・・・。
夜の薄暗い水蒸気のような白い霧を掻き分け一直線に伸びて来る銀色の光。
月が半月である事を考えてみると何が反射してのかもしれない。
「河の方かしら・・・?」
身を乗り出して目を凝らす。
宵の口ながら空は星と月が煌き始めている。
河の光の反射も手伝ってその人物が誰かすぐに分かった。
「ガウリイ!!」
木にもたれて顔こそこちらを向けていないが見事な金髪が銀色の光に反射してとても良く目立つ。
首から掛けたプラチナのペンダントかエポレットに空の灯りを反射させ此方に贈る。
「えっと・・・。」
咄嗟の事である・・・。
鏡を使って反射を返しても良いが部屋の中の明るさとそとの明るさを考えたら有らぬ方向に光を送ってしまう恐れがある。
そのような間抜けな事態は出来れば避けたいのだが・・・・。
しかし・・・。
ガウリイがこちらを見ていないことには如何にも成らない・・・。
「あ!!」
部屋の中を物色し、真っ先に目に入った品物をリナは奏で始める・・・。
スペイン土産のギター・・・。
ハープは竪琴に比べると外見は女性的とは言えないが旋律はこっちの方が好きなのだからしょうがない。
男性的なようでどことなく旋律の儚さが女性的・・・。
曲名は他しか・・・・。
『禁じられた遊び』・・・だっとと思う・・・。
繰り返される微妙な余韻。
突然変わる音程とメロディー。
しかし、儚さは変わらない。
また冒頭のメロディーに戻る・・・。
最後の章の一音が何とも言えないもの哀しさ。
だが・・・。
好きなものは好きなのだからしょうがない・・・・・。
それに気付いたガウリイが此方側をようやく振り向く・・・。
「リナ・・・。」
何かを言いかけるガウリイ・・・。
だがリナは身振りで制する。
何か事情がある事は疑い無い。
「待って!!今行く・・・。」
ブラダマンテが何て言おうと知った事ではない・・。
『好きなものは好きなのだから』しょうがないのだ。
逆にいえば・・・。
ブラダマンテがガウリイを憎む事も嫌いな物は嫌いなのだからしょうがないのだ・・。


「ガウリイ・・・。」
言ってリナはガウリイに駆け寄る・・・。
ガウリイはそんなリナの様子を見て決まり悪そうに微笑む。
「済まないな。ク・ホリンに住所を聞いて来たんだ・・。」
さらにガウリイは苦笑する。
「うんう・・・。」
何を許すのかすら分からないままリナは首を横に振る・・・。
「悪いな・・・。」
言ってガウリイは手もとのペンダントを見つめる・・・。
「珍しいわね・・・。」
そっと近づきリナもガウリイの手もとのペンダントを覗きこむ。
「半月型なんて・・・。」
言ってリナはそっと半月の弦になっている部分を指で辿る・・・。
「そ〜かぁ・・・?確かに珍しい形とは思うが・・・。半月型だなんて洒落た言い方聞いたのは始めてだぜ?」
言ってガウリイもまじまじとペンダントを眺める。
「上限の月ね。今夜と同じ。ん・・・・?」
半分しか彫り込まれていない鷹の細工がそのペンダントにはある・・・。
「構図から言って・・・。双頭の鷹ね・・・。」
このペンダントにはもしかしてガウリイの持つ上弦の月の部分だけでなく『下弦の月』の部分も存在するのではないのだろうか・・・・・?
ふとリナの頭にそんな疑問が過る・・・・。
なら・・・?
その半分は何所に・・・?
それに、その意味は・・・・。
リナの疑問を察したのだろう。
ガウリイが苦笑しながら口を開く。
「もう半分の在りか・・・・。だろ・・・?」
意味深な眼差し。
おもむろにリナは頷く。
「リナになら・・・。言っても良いか・・・。」
不意に空の上弦の月を仰ぎ見ながらガウリイは喋り出す。
「実を言うと・・・。俺には生き別れになっている双子の弟が居るんだ・・・。」
「双子の弟・・・・?」
「ああ・・・。俺が・・・正確に言えば俺達が産まれたばかりの頃・・・。この双子はお互いを殺し会う運命に在るって占い師に言われてな・・・。」
「それで・・・。どうなったの・・・・?」
「どうなったもこうなったもあったもんじゃない。その予言があってすぐ、弟は養子に出されちまったんだ。俺のこのペンダントの残り半分を持たされてな・・・。」
「何も・・・。知らないの・・・。弟の事・・・。」
リナは思わず口篭もる。
「ああ・・・。知らない・・・。そんな人間を・・・。どうやって憎めば良いって言うんだ・・・。逆にいえば・・・。親愛を感じろって言うんだ・・・。」
もしかしたら・・・。
「オルランドを殺したのは貴方なの・・・・・。」
唐突と言えば唐突だがリナは核心をついた話をした。
一瞬ガウリイの感情に走る衝撃・・・。
「ああ・・・。殺したさ・・・。」
その目の焦点は掴めない・・・。
もしかしたら・・・。
ガウリイは自分が殺したオルランドが実の弟かも知れないと言う疑問を抱いているのではないのだろうか・・。
「憎んでいたの・・・。オルランドを・・・・?」
まずはその事を聞きたかった・・・。
理由なんて如何でも良い・・・。
言い訳なら幾らでも後で聞く。
でも・・・・。
まずは何よりもその事を聞きたかった。
「何故オルランドを殺したの!!憎んでいたの!!貴方さっき言ったわよね?知りもしない人間を憎めるかって・・・・。」
その言葉にわずかにガウリイは反応する。
「言い訳なら後で幾らでも聞くわ。だから!!まずはこの事に答えて!!」
このままじゃブラダマンテも・・・ガウリイも壊れて行く。
そして・・・。
そのハザマの自分自身もク・ホリンも!!
「己を弁護するつもりは毛頭無いが・・・・。あれは・・・。オルランドの望みだったんだ・・・・。」
オルランドの望み・・・・・?
「それは・・・。如何言う事・・・・。」
「言えるか・・・。そんな事・・・・。俺は自分を正当化する事になっちまうんだぞ?」罪は罪なんだ・・・。
ガウリイの瞳はそう言い放って居る・・・。
何を言っても無駄だろう。
今の彼には。
そう思いながらリナは軽く溜息をついた・・・。
「分かった。貴方はオルランドを憎んでいなかった・・・。それが理解できただけでも大きな収穫よ。」
リナの一言にようやくガウリイも表情を緩める。
「辛かったでしょ・・・?」
あの時ブラダマンテにむけられたガウリイの憎しみの眼差し・・。
在る意味彼女に対してではなく自分自身に対してだったのかもしれない・・・。
「辛くなかったて言えば・・・。嘘に成るな・・・。」
言ってガウリイは苦笑する。
「でも・・・。オルランドの苦しみに比べれば大した事は無いだろうな・・・。」
更に苦笑して続けるガウリイ。
そんな彼を直視しつつリナは頭を振る。
「そんな事無い・・・。オルランドの無念も分かるような気がするけど・・・。だって・・・。貴方に『殺してくれ』なんて事を頼むくらいですもの・・・。そりゃ・・・。物凄く辛かったんだと思う。けど・・・。結局彼は逃げたに過ぎないわ。辛さをガウリイに押しつけて・・・。ついでに言っちゃえばブラダマンテに憎しみを与えてね・・・。」
きつい様だが事実は事実である・・・。
無論、ガウリイとてそれは分かっている・・・。
真っ直ぐな真実。
核心をついた意見ほど時には痛いものは無い。
他の誰かがいっていたのならばガウリイは激怒していたのかもしれない。
けれども。
リナには確実的に例外な措置を取った。
「有難うな・・・。」
事実。
今の一言でだいぶ気分が楽になったのだから・・・・。
リナとて。
ブラダマンテの苦しみをまざまざと見ているのだ。
人の苦しみが自然と自分の痛みに成ってしまうようになってしまったのかもしれない・・。
嬉しいようで哀しい。
柄にも無くリナはガウリイの一言に苦笑で返礼するのだった。


「ブラダマンテ姉様!!」
ガウリイと会った日の次ぎに朝・・・。
全身を汗と泥、さらには疵に塗れたブラダマンテが倒れるようにしてリナにもたれかかってくる・・・。
「り・・・な・・・。」
辛うじて彼女は口を開く。
「何があったんですか・・・・。」
アメリアがリナを手伝いながらブラダマンテに尋ねる。
「ちからを・・・貸して・・・。アタシの・・・義妹・・・。」
リナの片手をブラダマンテは力一杯握り締める・・・。
そういえば・・・。
道がぬかるんでいる・・・。
ガウリイと別れたあの後・・・。
すぐに自室に戻って寝入ってしまったから気が付かなかったのだが雨でも降ったのだろうか・・・。
今でこそ張れ上がっているが道の状況から考えてそれはまず疑い無い・・・。
ブラダマンテは雨の中・・・。
ただ単に憎しみをぶつける当てもなく剣を振るいつづけていたのだろうか・・・。
憎しみと言うものはその人の人生観ばかりか感情、更に言えば行動までを狂わせ愚かなものにしてしまうのかもしれない・・・。
美しい従姉妹の金髪は湿った絹のようにグショグショな悲惨な状態と化していた。
「姉様・・・。」
予想こそはしていたがヒドイ熱・・・。
かたちだけでもロジェロがブラダマンテに協力する素振りを見せてくれていればこんな事にはならなかっただろう・・・。
ブラダマンテの激情は今に始まった事で無いとは言えそんな事を見ぬけないロジェロをリナは一瞬恨みたい気持ちになった・・・。
とりあえずリナはブラダマンテを寝かせる事に取りかかった・・・。


「困ったものですね・・・。ブラダマンテさんにも・・・。」
さしものアメリアもそう言う・・・。
「せめて・・・。ガウリイを許せとは言わなくても・・・・。憎しみの原因を抹消する事は出来ないかしらね・・・。」
単にオルランドがガウリイに対して望んだ事の結末が現状だと言っても彼女は信用しないだろう。
それどころか激怒するのが良い落ちだ。
でも・・・。
其の為にはガウリイの口を割らせなければならない・・・。
正直言ってリナはその事を不可能だとは思わないが・・・。
ガウリイの意思を尊重したかった・・・。
「復讐劇・・・か・・・。」
自分で言っていてもイヤになる。
英雄や姫君が自分を散々苦しめた悪役を見事剣で葬る復讐の劇は見ていて本当に面白く、悪の滅びる様は痛快でさえある・・・。
しかし・・・。
実際はこんな惨劇でしかない。
苦しいだけの茶番劇も良い所だ・・・。
そんなリナの思いを察したのだろうか。
アメリアがそっと口を開く。
「今度の事には正義も悪もありませんよ・・・。」
「・・・・・。」
沈黙するリナ。
在る意味、そうかもしれないと言う肯定。
そうと悟ってであろう。アメリアが続ける。
「これは・・・。個々の感情のジレンマが生み出した悪夢にしか過ぎないはずです。」
悪夢・・・。
なのだろうか・・・・。
悪夢ならば・・・・。
いずれ醒めるだろう・・・・。
絶対に・・・・・。


「聞かないんだな・・・。何も。」
ガウリイの一言。
「まあね。でも貴方に事情があったてことは分かってるとは言えなくても・・・。理解はしているつもり。」
ゼルガディスも言っていた。
ガウリイはブラダマンテが言うような人物ではないと。
「知りたいとは思わないのか・・・?俺がやらかした事。」
「・・・・・。知りたくないって言っちゃえば嘘になるわね。でも・・・・。誰にだって知られたくない事の一つや二つあるでしょ?あえてそんな事を詮索する悪い趣味は生憎とあたしは持ち合わせてはいないもんでね。」
言ってリナは苦笑する。
「ブラダマンテか・・・・・。」
不意にガウリイは空を見上げながら呟く。
「激情家なのよ・・・。」
ほとほと困り果てたようにリナは言う。
「アイツも・・・・。オルランドもお前と同じような事を言ってたな・・・。」
ガウリイがふと呟く。
感情を自制するガードが緩んでいるのかもしれない。
核心はつけなくても・・・・。
今の彼からならば少しは状況を聞き出せるかもしれない。
ふとそんな誘惑がリナの脳裏をかすめる・・・。
が、それも一瞬の事。
『だちらにせよ・・・。詮索には変わりないし悪趣味な事じゃない・・・。』
口の中だけでそう呟き、菩提樹の幹にもたれかかる。
半月がほんの僅かばかり膨らんできている。
あと数日もすれば満月になるだろう。
何も言わずにガウリイはただソレを睨んでいる。
「アイツは・・・・。オルランドはブラダマンテの為に・・・・。」
微かにガウリイの呟きが聞こえる・・・。
「止めて・・・・。まだ・・・。いい・・・。聞きたくないわ。」
静にリナが遮る。
そう。
確かに今のガウリイからならすべての真実を聞き出す事も可能だった。
が・・・。
リナはあえてそれを遮った。
自分の為にも・・・。
ガウリイ自身の為にも。
そして。
真実を受けとめる目を失った状態に在るブラダマンテの為にも・・・。
「ブラダマンテ姉様・・・・。」
リナが無機質に呟く・・・。
従姉妹の顔は昨夜の熱も手伝い妙に蒼ざめていた・・・。
が、その瞳は強い光が目立つ。
「来なさい!!リナ!!」
病人とは思えない荒荒しい力でブラダマンテはリナをガウリイの傍から引き離す・・。
それと同じに生じる闇夜を引き裂く銀色の光と殺気・・・。
「今よ!!ロジェロ!!」
現れたのは剣の放つ無機質な銀色と同じ髪の色の男、ロジェロ。
一瞬の隙をついてガウリイに剣で一撃を浴びせ掛け様とする。
が、ガウリイはそれを難なくかわし、一瞬でロジェロの戸惑いに付け入り鳩尾に一撃を食らわす。
うめきながら倒れ伏すロジェロ・・・。
「弟を殺しただけではあきたらず・・・。その兄まで傷付けるのね。」
ブラダマンテの強烈なまでの皮肉。
「先に喧嘩を売ってきたのはお前達だろ。」
あくまで物静かな口調でガウリイは言う。
「そうよ・・・。ブラダマンテ姉様・・・。ガウリイに対する逆恨みはいい加減によしなさいよね・・・・。」
強い口調でリナがブラダマンテに言う。
が。
結果的にはブラダマンテの憎しみの矛先を一時的とはいえ自分に向けてしまっただけに過ぎない・・・。
「黙りなさい!!アンタに何がわかるって言うの!!」
ブラダマンテの怒りの声と同じに鋭い痛みがリナの頬を直撃した・・・。
「何て事をするんだ!!」
強く頬に平手打ちを食らったってバランスを崩しかけたリナをガウリイは素早く支える。恐らくブラダマンテが女でなかったら殴り倒していたであろうほどの勢いである。
「貴方に何がわかるって言うの!!」
尚もブラダマンテの激情は収まらない・・。
ガウリイが更にリナをしっかりと支えながらブラダマンテに詰め寄ろうとする。
が、リナはそれを片手で制する。
「何も分かってないのは貴方よ。ブラダマンテ姉様。」
わずかにブラダマンテに動揺が生まれる。
「分かってない・・・ですって・・・・?」
「そうよ。貴方は何も分かってない。ガウリイとオルランドの苦しみも・・・・。確かになるほど。アタシには貴方の苦しみを理解しているようで理解できていないかもしれない・・・。けど・・・。今の貴方はその憎しみしか現実としてとらえていないのよ!!」
「ナンですって・・・・・。」
もう一度言って見なさいとでも言わんばかりの口調でブラダマンテが答える。
「貴方のしている事はガウリイに対する逆恨みでしか無いし・・・・。オルランドの事を裏切っているのよ。」
あくまでもリナの口調は静かだった。
「何を・・・。アタシがオルランドを・・・。あの人を裏切っている・・・ですって・・・?」
さしものブラダマンテの声も震えている・・・。
「ええ。そうよ。」
冷徹にリナは言い放つ・・・。
分かって欲しい。
ブラダマンテには目を覚まして欲しい。
それだけだった。



「済まなかったな・・・。リナ・・・。」
ブラダマンテとロジェロが去って行ったその後。
ガウリイが放心したようになっているリナに言う。
「いいの。別に。」
幾分か晴れやかの微笑でリナはガウリイに答える。
「オルランドの望みだったんだ・・・・。あの事は・・・・。」
辛そうにガウリイが呟く。
「分かってる。聞いたわ。無理をして言わないで。」
優しく腕に触れながらリナはガウリイに言う。
「いいや・・・。言わせてくれ。明日には俺達はもう戦場に行かなければならないんだ・・・。」
戦場・・・・!?
思わずリナはガウリイの顔を凝視する・・・。
「スペインとの・・・海上戦が近いうちにある事は知ってたけど・・・・。」
流石に動揺は隠せない。
「ああ・・・。明日にはもうレヴァント(地中海)に向かう・・・。」
人事のようにガウリイは呟く。
「その前に・・・・。絶対に言っておきたいんだ・・・。」
真実を?
「そんな事、どうだっていい・・・・。」
思わずリナの方をガウリイは見やる。
何時もと声の調子が違う、ひどく震えた声に驚愕を感じながら。
「リナ?」
俯いたままリナは何も語らない。
あの大国スペインと海上戦線ですって・・・・?
あの世界に名をはせる『無敵艦隊』と海軍が戦う?
どう考えたって危険過ぎる。
しかも戦場は陸の上ではなく海洋のド真中だ・・・・。
「ク・ホリンも・・・。弟も行くの・・・?ガウリイと一緒に・・・・?」
「ああ・・・・。アイツも行く・・・・。」
ガウリイの声も震えている。
生きて戻ってこられる保証は何所にも無いのだ・・・。
「だから・・・その前に・・・言わせてくれ・・・。」
「言う前に一つ約束して!!」
強張った固い声でリナがガウリイに言う。
「絶対に帰ってくるって約束して!!ク・ホリンと一緒に!!お願い!!」
後先構わずガウリイに飛びつきリナは涙を堪える・・・。
「イヤだよ!!『今生の別れだから全てを打ち明ける』なんて!!絶対にイヤ!!」
「リナ・・・。」
名前を呼んでガウリイはリナの背中を撫ぜる・・・。
「分かった。絶対に帰ってくる。ク・ホリンと一緒に!!」
力の篭もったガウリイの声にようやくリナは微笑む。
首に掛けられるガウリイの『上弦の月』のペンダント。
「だから・・・。其の時までそれはお前がもっていてくれよ。」
ガウリイから渡された純銀の半月を握り締めてリナは強く頷く。
「聞いてくれるな・・・・。」
真剣なガウリイの声。
「帰ってくるって保証は貰ったもの。聞くわ。」
何があったのか。
リナの一言にガウリイは大きく頷いて語り始めた・・・・。



今からおおよそ三ヶ月前のことである。
「ガウリイ、お前は遊軍に回ってくれないか?」
唐突に親友、オルランドがガウリイに言って来る。
「は・・・・?」
余りにも唐突でそうとしか返答の余地が無い。
「今度の戦の事だ。」
そうオルランドは説明する。
「つまり・・・。ガウリイの率いる予定の本軍の一個小隊とお前の率いる予定の遊軍全軍の指揮権を交替してくれって事か?」
ゼルガディスの問いにオルランドは頷く。
「無理な相談だ。」
何時になく厳しい口調でガウリイが答える。
「そりゃあま・・・。俺もガウリイの言う事が最もだと思うぜ、オルランド。例え全軍とは言え所詮率いているのはさして重要でもない遊軍だ。それに引き換えガウリイが指揮するのはたかが一個小隊とは言え精鋭部隊と言っても過言じゃない本軍の主要軍団だ。それを代われって言うのは虫が良すぎるぜ?」
ク・ホリンが無邪気に言う。
「違う。そう言う意味じゃないんだ。」
真剣な口調のガウリイにク・ホリンは一瞬戸惑った表情を向ける。
だがガウリイは構わず続ける。
「オルランド・・・・。お前がやりたいって言ってる事の意味が分かっているのか?」
ガウリイの問いかけにオルランドは頷く。
「ああ・・・。だからこそあえて無理は承知で頼んでいる。『殿(しんがり)』だろ?」
言ってオルランドは微笑む。
殿(しんがり)と言うのは全軍が撤退した後、一番最後に残り敵の追撃を防ぎながら最後の最後まで戦いを強いられる事は元よりも、孤立無援で戦わなければ成らない命懸けの部隊の事である。
「酔狂な男だな・・・・。」
変わるとも変わらないとも何も答えずガウリイは呆れたようにオルランドを見やる。
「まったく・・・。生きて帰れないかもしれないんだぞ?」
同じようにゼルガディスも呆れ顔である。
「そんな事。戦場に行く兵士は誰だって同じだろ。」
晴れやかな笑顔でオルランドは答える。
「でもさ・・・。あえて名誉の為にこんな仕事選ぶか・・・?別に戦場でみんなと戦いながらだって充分武勇勲は得られるのに。」
年相応の子供地た意見をク・ホリンが述べる。
だがしかし。
その純粋な意見が今のガウリイにはもっとものような気がしていた。
「で・・・・。代わってくれて言うその理由は?」
少々声を低めにしてガウリイは問う。
別に不快でもないのに一寸驚いた事があると彼の声は自然と低くなるらしい。
そのお陰でかなりのカリスマ性を生む効果があるのだが、無論ガウリイ自身がそんな事を気が付く無いし、ましてや意識してしている事ではない。
だが。
かなり周囲の人間にはそれがプレッシャーになってしまうらしい。
ガウリイが感情の起伏を表す事事態が元々珍しいしいつもののほほんとした雰囲気から多少でも離れると戸惑いを感じる者も少なくは無いらしい。
そんなガウリイの調子に多少威圧されながらオルランドは言葉を紡ぐ。
「ああ・・・・。ブラダマンテのためなんだ・・・。」
ブラダマンテ・・・?
「ああ。お前の恋人のアマゾネスか・・・・。」
ハッキリ言ってガウリイの苦手なタイプである。
どちらかと言えばガウリイは『女性は常につつましく、つねにお淑やかで、男性の後ろを3歩後から歩き、常に礼節を欠かさず、良妻賢母で常に従順で在るべきである。』
などと言うクソたわけた女性概念は持ち合わせてはいない。
正直言ってそんな淑女はかえって疲れるだけだし畏れて止まない自分の口煩い乳母を思わされてならなかったりする・・・・・・・・。
なにかにつけて「お坊ちゃま!!お坊ちゃま!!」
「あ〜しちゃいけません、こ〜しちゃいけません!!」
とか口煩い良妻賢母よろしくしゃしゃり出る。
そのくせ決してガウリイと並んで歩くなどと言う真似はせず、3歩後ろを歩く。
しかし・・・・・。
後からとやかく一々口煩く注意される身にもなってみろ・・・・・。
煩いし街中の皆様のお笑い者になるし・・・。
どこぞのおばちゃん達に「か〜〜わいいいいいい!!」などと後ろ指を指された事は成人してからも何度か在る・・・・・。
一体俺を幾つだと思ってるのか・・・・・・・。
だからと言って・・・。
ブラダマンテのような『良妻賢母』とは程遠いイメージの女性もどこかこの乳母に共通したものが在る。
思わず顔をしかめずにはいられない。
「ク・ホリンの従姉妹でも在るんだよな。」
苦笑交じりにガウリイは続ける。
「まあ・・・ね・・・。」
ク・ホリンも苦笑でそれに答える。
これは・・・。
そ〜と〜苦労させられているらしい・・・・・。
「お前の姉さんって人もブラダマンテみたいなのか・・・?」
さらにガウリイ。
もそそうだったら・・・・。
ク・ホリンに「ご愁傷様」と言わなければならない・・・・。
だが、姉の話題が持ちあがった途端、ク・ホリンの顔から苦笑が消えて晴れやかな笑顔になる。
「うんう。姉様、・・・。リナっていうんだけどさ・・。顔貌はブラダマンテほど綺麗じゃないけれど。俺は姉貴が大好きなんだ。ブラダマンテみたいにギーギー怒鳴らないし、そりゃまあ・・・。確かに短気だけど一応怒るときのスジは通ってる。それに・・・。あんまり表には出さないけどすっごく優しい姉貴なんだ。」
まだまだ幼い眼差しをクリクリさせながらク・ホリンは語る。
ちょっとばかしからかってみたくなる。
「姉ちゃんのお膝が恋しくなったか?ク・ホリン。」
グ・・・・・・・。
意味不明な声を上げるク・ホリン・・・。
「ば!!馬鹿言うな!!ガウリイ!!お前こそ俺の姉貴にそのうち惚れるぞ!!絶対!!」やけっぱちの一言。
真坂現実にそうなるとは思っても見なかったガウリイは現段階では笑い飛ばす。
「で、ナンでまたブラダマンテの為に殿(しんがり)なんてする気になったんだ?」
ゼルガディスがオルランドに問う。
「ああ。何か自慢になるような武勇勲を上げろって怒られちまってナ。」
苦笑しながらオルランドが答える。
「なるほど・・・・。」
先日、オルランドの兄弟ロジェロが敵軍の潰滅に一役買った。
ガウリイとロジェロは軍団の中でも抜群の強さを誇っている。
最近では若いク・ホリンもそれなりに実力を認められ、軍団内ではこの三人を総称して『三つ巴の獅子』などと呼んでいるくらいだ。
誇り高きブラダマンテが兄弟や自分の年下の従兄弟よりも出世を遅らせている恋人オルランドに対して文句の一つや二つを言う事は当然の定理だろう。
「まったく・・・。お前もとんだ女を恋人にしたな・・・。」
呆れたようにゼルガディスが言う。
「そうでもないさ・・。それだけブラダマンテは一途だしな。」
言いたい事は分かってる。
ただ単にオルランドは誇り高きブラダマンテの愛情を失いたいだけなのだ・・・。
「頑張れよ・・。」
ガウリイは親友に声援をおくった。



「俺も行くよ。」
オルランドの代わりに遊軍の指揮をしているガウリイに一人の少年兵が語りかけて来た。
乗った白馬の背中からその人物の顔を見る。
無論、声で誰かはわかってはいたのだが・・・。
「ク・ホリン・・・。」
完全武装し、何時になく大人びたその表情にこころなしか戸惑いを覚えながらガウリイは彼の名を呼ぶ。
「俺も行くよ。ガウリイ。オルランドの指揮する本軍ならばともかく・・・。こっちは遊軍にしか過ぎない。俺も行っていいだろ!!ガウリイ!!」
真剣なク・ホリンの眼差し。
まだ16にもならないこの少年の切実な思いがありありと伺える。
「初陣は普通16〜17歳になって初めてするものだゾ?」
あやすようにガウリイはク・ホリンに言う。
「分かってるよ!!そんな事!!」
さらに言い募ってくるク・ホリン。
「死に急いでど〜するんだ・・・・。」
「じゃあナンでブラダマンテは良いの?彼女は女だぞ!!家で庇護されているのが当然の身じゃないか!!それなのに遊軍としてこの戦地に来てるのはナンでなんだ?」
さらに真剣な口調でガウリイに言って来るク・ホリン。
その手にはもう既に彼の獲物、魔の槍「ゲイボルク」が握り締められている。
さしものガウリイも珍しく折れた。
「分かった。ただし・・・。絶対に無茶をしよう何て事を考えるんじゃないぞ!!」
最後にこう諭すのがガウリイの唯一出切る事柄だった。


陣内に撤退命令が下されたのはそれから数分もしない頃だった。
「撤退命令だと・・・?なんでまた・・・・?」
命令を総司令官であるガウリイに伝えに来たのは今回参謀役を買って出てくれたゼルガディスだった。
「俺たちの軍隊の圧勝だ。だからもはやこんな所から引き上げて本国に凱旋するように命令があったらしい。」
ゼルガディスがぶっきらぼうに言う。
「撤退ルートは?」
ガウリイの問いかけにゼルガディスは地図を広げる。
「俺達はこのコースから港に出て艦隊に乗りこんで帰るんだ。」
ざっと羽ねペンにインクをつけてコース説明をするゼル。
「ふ〜〜ん・・・。本隊と別コースって訳か・・・。しかも全然危険の無い場所だな。」「ああ。どさまぎで敵の残兵に出会って交戦するって事でも無い限りな。」
ゼルガディスの一言にガウリイはまじまじ地図をもう一度見やる・・・。
「なあ・・・・。おかしいと思わないか・・・・?」
僅かに眉間に皺をよせながらガウリイは呟く。
「何がだ・・・・?」
「敵は降伏したのか・・・・?」
妙に低くなっているガウリイの声に威圧感を感じながらゼルガディスは頷く。
「罠かもしれない・・・・。」
不意にガウリイが呟く・・・・。
「罠どと・・・?もう既に本軍の3分の2の撤退は完了している。なのに敵は裏を書いて襲ってこようなんて事はしていないぞ?」
妙な事を口走るガウリイに対してゼルは真実を言う。
「だがな・・・。この山と川の形を見てみろ・・・・。」
本軍の撤退コースの一つに描かれている山の一つと周囲を流れているらしい小さい川を示すらしい地図記号をガウリイは指差す。
あわててゼルはそこを見やる。
よくよく見なければ見落としてしまいそうな小さな山と川の記号・・・・。
「ついでに言えば・・・・。状況から行って谷があってもおかしくは無いぜ。」
ガウリイの一言にゼルはようやくハっとする・・・。
「真坂・・・・。」
否応無しに声に焦りが混じる。
「そう・・・・。誰が何と言おうと・・・。天然仕立ての攻撃用要塞だ・・・。」
場違いなほど澄みきったガウリイの声・・・。
無論。
その口調にだれもが圧倒される。
当の本人には他人の目を気にしている余裕があるはずはもちろんの事ながらあるはずがない。
さらにガウリイはその口調を崩さずに言う。
「さらに・・・。殿(しんがり)は我が軍きっての精鋭部隊だ・・・。孤立無縁のこいつ等を潰しておくのは絶好の機会だ・・・・。」
カリスマ性がありながらも彼の声の一旦からは僅かながら焦りの様子が伺える。
「真坂・・・・。」
ゼルガディスが焦ったように呟く・・・。
「だろうな・・・・。敵も軍勢は確実的にこの精鋭部隊を潰した後・・・・。現在も何処かに待機させてるであろう別働隊集団を使って俺達を確実的に潰滅させようって魂胆だ。」



ガウリイがここで一度話を切る・・・・。
リナの足の震えは止まらない・・・。
「大丈夫か・・・?」
気遣うようにガウリイはリナに言う・・・。
辛うじてリナは頷き口を開く・・・。
「で・・・・。一体どうなったの・・・・?」
暫しのガウリイの沈黙・・・。
「予想通りさ・・・・。オルランドと一部の軍勢以外殿(しんがり)連中はほぼ潰滅状態に陥っていた・・・・。」
状況をしっているという事はガウリイは遊軍としての使命も撤退命令も省みずオルランドを救いに行ったに違いない。
「そこで・・・。どうなったの・・・・?」



「オルランド!!!!」
重症を負いながらも親友はまだ健在だった・・・。
「ガウリイ!!」
嬉しそうにオルランドは微笑む。
が、それも一瞬の事。
彼がガウリイがその事態に気が付いて居なかった事を悟って事は疑いが無い。
オルランドの表情の強張った理由を探る為、ガウリイは後ろを振り向く。
「・・・・ク・ホリン・・・・・。」
何故来た・・・・・・・!!?
声に出せないその言葉・・・・。
言えるはずがあるだろうか・・・・。
少年のこの真剣な眼差しを目の前にして・・・・。
「ガウリイ!!俺も一緒に戦うよ!!」
何を言うんだ・・・・・・・。
そう言いたい・・・・・。
無茶に決まっている。
「ゼルガディスは如何した・・・・?」
彼を唯一止めえることの出来た人物の行方をガウリイは尋ねる。
「ブラダマンテの援護を頼みに行った。」
そうか・・・。
とガウリイは肩で返事をする。
「とりあえず俺の兵団を配置につかせる。オルランド、暫く休め。俺はすぐに戻る。ク・ホリン。お前はオルランドを守っていてくれ。」
わかったとばかりに頷いてその場所に座り込むク・ホリン。
それを見届けようやくガウリイは全軍の最前線の配置に着いた。


ガウリイの予測通りまもなく別働隊の敵兵団体が襲撃がおこった。
「ガウリイ!!」
「ゼル!!」
援護にかけつけたゼルガディスの声が聞こえる。
「ブラダマンテは?」
「使者を立てた。もうじき援護に来るはずだ!!」
乱戦中、確認できるのはお互いの声ばかりである。
「一緒じゃなかったのか・・・・?」
「ああ。敵に阻まれてな!!」
やけっぱちなゼルの声が聞こえる。
「敵兵団は・・・・。これだけじゃないのか・・・・?」
一瞬ガウリイの顔から血の気が引く・・・。
「誤算だった・・・・・・・。」
僅かに言ったガウリイの一言・・・・・・・。
「なんだって・・・・?」
どうやらゼルの耳にも届いていたらしい。
「何所へ行く!!ガウリイ!!」
不意に激戦を潜り抜けガウリイは馬を駆る。
体中を弓矢で射抜かれるが気にしている場合ではない・・・。
「オルラントとク・ホリンが気がかりだ・・・・!!」
ガウリイの言わんとする事を察して急いで彼と同じ方向に行こうとするゼル。
が、敵兵に阻まれてそれもままならない。


「オルランド!!!ク・ホリン!!!!」
その場はもはや修羅場と化していた・・・・。
深紅の血を滴らせた折れた鏃が辺りに散乱している。
敵兵の姿こそは無い。
が、それは敵軍団の完全なまでの勝利を意味していた。
「・・・・・・。」
「オルランド・・・・・。」
只でさえ重症を負ったオルランドがこの襲撃に耐えられるはずが無かった。
「ガウ・・・リイ・・・。ク・ホリンは・・・。」
脇腹から血を流し倒れ伏している少年をガウリイは見やる。
矢は毒が塗りつけられている訳では無さそうだ。
出血の量はたしかに相当な物だが幸いにもギリギリの所でク・ホリンの疵は急所からそれている。
「大丈夫だ・・・。今は気を失っているが傷は致命傷と言うわけでもなさそうだ・・・。」暗い声でガウリイはオルランドに告げる・・・。
「良かった・・・。俺のようでは・・・無いんだな・・・・。」
分かってはいる・・・。
喋るのでさえオルランドにとってはとてつもない苦行であると言う事も。
そして・・・。
誰がどうみたって彼の手負っている疵は致命傷なのだと言う事も・・・・。
「頼む・・・・。ガウリイ・・・・・。」
オルランドが声を絞り出すようにして言った・・・。
そう。
言いたい事は分かっている・・・・・。
このままでは。
彼の苦行はもう暫く続いてしまう・・・。
それに。彼自身が耐えられないのだ。



「それで・・・・。貴方はオルランドにとどめを刺してあげたのね・・・。」
震えた声でリナは聞く・・・。
「ああ・・・・・。」
ガウリイの声とて震えている・・・。
好きでそんな事をしたんじゃない。
しかし。
オルランドがこれ以上苦しむのも同じ位辛かったのだ・・・・。
「ブラダマンテは・・・・。その事を知っているの・・・?」
一番肝心な所をリナは聞く。
「知らない・・・・。」



訳がわからなかった・・・。
本人・・・・。非業の騎士、オルランドが望んだ事の結末とは言え・・・・。
ガウリイは自分がした事がまれでわからなかった・・・。
ただ。
引寄せられる様に彼の望みを叶えてやった・・・・。
次ぎの瞬間・・・・・。
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
聞こえたのはブラダマンテの鋭い悲鳴・・・。
血に染まった自分の剣・・・・。
かすかに瞳を開けるク・ホリン・・・・。
自分自身に血痕が付着する事にも構わずオルランドに縋りつくブラダマンテ・・・。
朦朧とした意識の中で唯一認識できた彼女の叫び声。
今にして思えば。
悪夢でしかないとは分かっていても・・・・。



「ブラダマンテが俺を恨むのは当然の事かもしれない・・・。」
ガウリイは無感情に呟いた・・・。
「確かに・・・・。アタシが姉様の立場だったら・・・。そうかもしれない・・・・。でも・・・・。これって誰に責任があるって言うの・・・?ましてやガウリイには何の責任も無い!!!」
ただリナには泣きじゃくる事しか出来なかった。
誰を恨めと言えるんだろう・・・。
オルランド自身?それとも先走った行動をとったク・ホリン?
愚かな行動にオルラントを焚付けたブラダマンテ自身?
更に言えば敵兵団を恨めと言うのか!!?
「ガウリイは悪くない!!絶対に!!!」
そこまで言うともはや涙が止まらなくなる・・・。
オルラントは本当に苦しみに耐えられなかったのだ。
その苦しみを未だにガウリイにのみ転嫁して逃げた・・・・。
「泣くな・・・。リナ!!泣くな!!」
必死でガウリイが言う。
「何よ・・・。自分だって泣きそうな顔してるじゃないの!!!!これでね!!これで・・・・。今度の戦争から帰ってこなかったら絶対に承知しないんだから!!良い!!分かったわね・・・!!」
さらにリナが叫び声を上げる・・・。
「リナ・・・・。ゴメンな。泣かせて・・・。ゴメンな・・・。」
ガウリイの只一つ言える償いの言葉。
「絶対よ!!絶対に帰って来なさいよね!!!」
涙を拭いながらリナがガウリイに言う。
「ああ!!絶対に帰ってくる・・・。約束する。だから・・・。そのペンダント・・・。大切に持っていてくれよ・・・。」
ガウリイはリナに言う・・・。
「ガウリイ・・・・。」
彼の双子の弟とはどのような人物なのだろうか・・・・。
ガウリイが・・・・・。
例え誰であっても絶対に人を憎むなどと言う事は無いはずなのに・・・・・。
その一言をリナは思わず口にする・・・。
そんなリナをみてガウリイは苦笑をする・・・。
「大切に思っている人間を傷つけられれば俺だってソイツを憎むさ・・・・。」
遠い目をしながらガウリイは言う・・・。
次ぎの言葉はわかっている。
『ブラダマンテのように・・・・・。』
だが、ガウリイはその残酷な一言を言えるような人間ではない。
「もしもよ・・・。アタシがク・ホリンに殺されたとか言ったら・・・・?」
リナは思わずガウリイに聞いてみる・・・。
「恨むだろうな・・・。ク・ホリンを・・・。」
真剣な眼差しで言うガウリイ・・・。
その口調と声のトーン・・・。
さらには計り知れないカリスマ性に一瞬リナは戸惑いを感じる・・・。
「ガウリイ・・・。絶対に何があっても信じてるから・・・。」
後に起つ事件の時も変わらない気持ちをリナはガウリイに告げた。
「有難うな・・・。」
ガウリイの心からの気持ち・・・。
レヴァントに行くまでの僅かの残された時間・・・。
何よりもの誓いを二人は呟いたのだった・・・・。

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1499ローランの歌(後編)LINA 3/29-21:43
記事番号1497へのコメント

「一体何が・・・・・・。」
そうとしか言い様が無い。
レヴァントでの海戦はイギリス海軍は強敵スペインの『無敵艦隊』を難なく撃破した。
だが・・・・・。
「今夜が・・・・。峠だそうです・・・。」
沈痛な面持ちでアメリアが答える。
「そう・・・・・。」
ク・ホリンの事だ・・・・。
彼の乗った軍艦が敵兵のやけっぱちの一撃で撃沈されたのだ。
乗組員の大半はその段階で海の藻屑と消えた・・・・。
が、奇跡的にク・ホリンは近くを通りかかった貿易船に救出されたのだった・・・。
そう。
あくまでの近くを通りかかった無関係の船に・・・。
「仲間の艦隊ではなく・・・・・・。」
リナの脳裏にその事実のみがこびり付く。
「何者かが・・・・。ク・ホリンの乗った船団を『蜥蜴の尻尾』にして自分たちは安全圏からスペイン艦隊を攻撃する事を画策したのかもしれない。」
ブラダマンテが低い声で呟く。
「それって・・・・。ク・ホリンは軍団の勝利の為の捨てコマにされたって事・・・?」蒼白になりながらリナが言う。
「ええ・・・。今のところ確信は無いけれども・・・・。一人の男がその疑いで近々『陰謀』の嫌疑で裁判に掛けられるらしいわね・・・。」
どことなしに落ちつかない口調でブラダマンテが言う・・・。
「聞きました。一人の軍人が戦犯として現在議会に拘束されているって・・・・。ロジェロさんが訴えたんでしょう?」
アメリアの問いかけにブラダマンテが頷く。
ガウリイ・・・・。
リナは頭の中だけでその名前を呼ぶ。
彼の行方は知らない・・・・。
生きて何処かの海域を漂流しているのか?
あるいは何処かの国に流れついたか?
もしかしたらもうすでにイングランドのどの辺かまで来ているのかもしれない・・・。
それとも・・・・・・。
最悪の事態をリナは必死で頭から振り払う。
「最悪でも・・・・・。漂流って所よ・・・・。」
無理に自分にそう言い聞かせるのが精一杯だった。



「リナ・・・。貴方に一つお願いがあるのよ。」
ブラダマンテが不意にリナに語りかけてくる。
何時もと何所と無く様子が違い、そわそわしている。
だが。
ク・ホリンの看病にほとほと疲れ果てたリナには彼女のそんな様子に気を使っている暇は無い・・・・。
「アタシに頼みって・・・。一体何・・・?」
暫しの間。
が、ブラダマンテは冷や汗を押し殺し、冷静を装いながら言葉を紡ぐ。
「『偽証』して欲しいのよ。今度の戦犯の男の裁判に証人として出廷してね・・・。」
唐突な言葉・・・。
無論、リナはどう返答を返せば良いのか分かるはずも無い。
「偽証って・・・・。一体全体ナンの為・・・?」
議会の裁判に対して偽証するなどと言うことは極刑と言っても過言ではない。
日頃は法や決まりについて頑ななまでに従うブラダマンテがこんな事を言い出すのも信じられない。
「ク・ホリンの為よ・・・・。」
何時もよりも高ぶったブラダマンテの声。
確実的に様子がおかしいが、この時のリナは混乱も塗れてそれを只単にいつものブラダマンテ特有の激しい感情の起伏から成る激情にしか過ぎないと受け取ってしまった。
「弟の為・・・・?」
「そうよ・・・。ク・ホリンをこんな目に会わせた奴を裁判と言う形とは言え罰さなければならないと思わない?」
鋭い眼光でリナと渾沌と眠りつづけるク・ホリンを交互に眺めながらブラダマンテが言う。
「確かに・・・・。」
弟をこんな目に遭わせた相手が誰であろうと殺してやりたいほど憎い・・・。かもしれない・・・。
ハッキリとは分からないけれども・・・。
ブラダマンテと同じ血が流れている事から察して多分・・・そうなのかもしれない。
「ソイツを罰するべきなのよ!!」
正真正銘の激情に駆られてブラダマンテは言う。
「一体どうやって・・・・?」
戸惑う気持ちとは裏腹にリナの出した賛同と取ってもおかしくない言葉。
「簡単な事よ。何故議会は軍法に背いたソイツを即急に罰せず『裁判』なんてまだるっこしい事をすると思っているの?」
暫しリナは考えて言う。
「証拠不充分で速急に罰するって言うのは不可能だから?」
頷くブラダマンテ。
「ク・ホリンの口からその男が見捨てて自分は犠牲になった、と言う事を言わせるのよ。」「何を言っているの!!ブラダマンテ!!この子は意識不明なのよ?」
言い募るリナにブラダマンテはゾッとするほど美しい笑みで語りかける。
「だからこその偽証よ。ク・ホリンはこの有様。リナ、貴方が弟の代理として議会の裁判に出廷してそう議員に告げるのよ・・・・。」
魔力を秘めた言い方・・・。
リナには頷く事しかなすすでは無かった・・・・。



「戻せ!!船を戻してくれ!!」
ガウリイは必死で艦長に訴える。
砲撃の激戦の続く地点をだんだんと離れて行く艦隊。
只一隻を残して。
無論、只でさえ不利な状況に陥っていたスペイン無敵艦隊は腹いせかのようにその一隻に集中砲火を浴びせ掛ける。
「撃て!!」
残された一隻の味方の船が犠牲になるのも構わず艦長の号令一過、全艦隊の砲撃が鳥かごの鳥と貸した無敵艦隊に浴びせ掛けられる。
「軍法違反だ!!!」
ガウリイの声など誰の耳にも届かない・・・。
仲間を見捨てる・・・・。
ましてや捨て駒とするなど・・・・。
「クッ!!」
無駄な行為と分かっていながらもガウリイは砲撃の耐えない海面に船上から飛び込もうとする・・・。
「馬鹿な事を!!」
不意に腕を絡め取られる。
「ロジェロ・・・・。」
ブラダマンテの恋人、オルランドの兄であるこの男が自分を止めた事を意外に思ったガウリイは思わず凍り付く。
その隙を見逃さずガウリイを縁から甲板にロジェロは素早く引き上げる・・・。
「無駄だ・・・。お前まで無駄死にして如何する・・・。」
多くは言わない。
冷たい光を放つ銀色の髪に覆われその瞳の色は読み取れない。
「無駄だとわかっていても・・・じっとしては居られないだろ・・・。あの船には・・・・。ク・ホリンが乗っているんだぞ!!!??」
絶対に二人とも一緒に帰るとリナに約束したク・ホリン。
「分かっている・・・・。」
海が紅く染まる・・・。
集中的な砲撃の為か海水の蒸発を肌で感じる・・・。
なおも砲撃を続けるように命令する艦長・・・・・。
まるで自分の勝利の名誉さえ得られればク・ホリンはじめとする部下の命など如何でも良いと言わんばかりの追撃。
「止めろ!!止めてくれ!!」
ガウリイにはもはや叫ぶ事しか出来る事は無かった。


その後。
その艦隊の艦長は何者かによって暗殺された。
ただガウリイの記憶に残る物はロジェロの彼に対して投げかけた憎しみの混じった眼差しだけだった。



「リナは居るか?」
ク・ホリンの見舞いに来たのだろうか?
ゼルガディスが妙に慌てた様子でやって来たのはその日の午後だった。
「ブラダマンテさんと法廷に行ってます。何しろ大切な証言をしなくちゃならないとかで・・・。」
アメリアの説明にゼルガディスは舌打ちをする・・・。
「遅かったか・・・・。」
「は・・・?」
呆気に囚われてアメリアが聞き返す。
「先刻・・・。ク・ホリンと同じ船団に乗っていて助かった男が意識を取り戻したんだ。」「・・・・。ク・ホリンくん同様・・・。捨て駒にされてしまった人達の一人ですね。」アメリアにゼルガディスは頷く。
「俺は別働隊として行動してたから詳しい事は知らないのだが・・・。役人ドモの話によると・・・。ロジェロの告発した戦犯の男とはガウリイの事に間違い無い。」
僅かに声に焦りを帯びながらゼルガディスは言う。
「え・・・・・。」
さしものアメリアもそうとしか言い様が無い。
「リナさんとブラダマンテさんが・・・・証言するのは・・・ガウリイさんの犯罪の事なんですか・・・・?」
リナとブラダマンテは知っているのだろうか・・・・?
犯罪人はガウリイであり・・・・。
彼を有罪ニすべく出廷するのだと・・・。
「その事も重大だが・・・。何よりも先に真実を言っておく。軍法破りの戦犯・・・すなわち犯罪者はガウリイではない!!」
「一体・・・・。如何言う事なんですか・・・・?」
訳がわからなくなったアメリアがゼルガディスに詰め寄る。
「意識が戻った男が告白した。自分たちを見捨てたのは先日暗殺された軍団の艦長だと。ついでに言えばガウリイは砲弾の中を海に飛び込もうとすらしたらしい・・・・。」
「どういう事です・・・・?」
アメリアはさらに混乱する。
「ブラダマンテだ・・・。」
吐き捨てるようにゼルガディスはその名を呼ぶ・・・・。
「ブラダマンテさんが何の関係があるんですか・・・?」
確かにブラダマンテ はガウリイの事を憎んでいる。
しかし・・・・。
戦犯とその事と何の関係があるのだろう。
「ここから先は俺の予想にしか過ぎないが・・・・。ロジェロは弟オルランドの生前からブラダマンテに好意を持っていた事は間違いの無い事実だ。それに付け込んでブラダマンテがロジェロを焚付けて・・・・。」
無実のガウリイを告発させた・・・。
更にはリナを欺きガウリイを有罪にさせるべき偽証をさせせようと・・・・。
更に艦長が暗殺された今・・・。
『戦犯』は誰であっても構わないのだ・・・・・・。



「眩しいわね・・・。」
リナの位置からは逆光になっていて被告人の顔は見えないらしい。
無論、表情にこそ驚愕の色を表しながらも声を出す事は許されない被告人・・・。
ガウリイ・・・・。
ブラダマンテは一瞬ながら嘲りの笑みを彼に送る。
その事にガウリイが気が付く余裕があるとは考えられないが。
ナンとでも言うが言い。
リナを自分の目的達成の為に利用したとでも。
さらには最愛のオルランドの兄、ロジェロを良い様に使ったとでも。
「でもね・・・。最初にオルランドを害したのは貴方なのよ?」
聞こえるわけが無いと分かっていても言わずには居られない。


「リナ・・・・。」
低いが確かに聞こえた自分の名を呼ぶ声。
良く知った声・・・・。
一体誰なのか。
看病疲れとブラダマンテの意思に支配された頭ではそれすらきちんと考える事がままならない。
「誰・・・・。」
微かに声を上げてリナは逆光で眩しくて堪らない目を細める。
きらめくランプと蝋の光がその人物の長い金色の髪に反射して尚更眩い印象になって目に飛び込んでくる。
「誰なの・・・。」
大分光に慣れてきた目に突然飛び込んできたもの・・・。
「ガウリイ・・・・・?」
真坂・・・・。
そう言った思いに駆られながらリナは暫くガウリイの顔を凝視する。
あくまでも彼を貶め様などとは夢にも思っていなかったその表情にガウリイは心成しかの安堵を覚えて微笑する。
その微笑にかえってリナはハっと我に帰る。
顔こそガウリイの方を向けたままだが瞳の隅からブラダマンテの表情をさぐる。
自分がリナに探られているなどと言う事態は夢にも思っていないのだろう。
女帝のように轟然とし、魔女のように冷淡な微笑をブラダマンテは浮かべている。
その表情にリナはとてつもない嫌悪感と激怒を覚えずにはいられなかった。
「この人、ガウリイ=ガブリエフ殿は今回の軍法違反の事とは全く無関係です!!
彼は犯罪者なんかじゃないんです!!」
証言を許されてもいない証人の突然の一言に全員の視線がリナに集まる。
「リナ!!」
議会でなかったら確実的にリナに平手打ちを浴びせ掛けていたであろう程激越な表情でブラダマンテがリナを睨む。
「ガウリイはそんな事の出来る人間じゃありません!!第一、陸上戦の一個小隊の指揮官ならともかく、海軍の全艦隊を動かす事なんて彼には不可能でしょう!!」
その一言にもっともだと言うように議会に居るもの全員が頷く。
が、ブラダマンテがそれを許すはずが無い。
「偽証ですわ!!」
不意に低く澄み渡ったアルトの声が館内中に澄み渡る。
無論、その声の主はブラダマンテである。
「この娘の言う事はすべて偽証です。何故なら・・・。この男は私の友人、オルランドを殺しました。この目でハッキリとその現場をわたくしは見ました。間違い在りません。さらに・・・。この男・・・。ガウリイはここに居る娘、わたくしの従姉妹のリナすらたぶらかしたのです。」
否応無しに澄みきったブラダマンテの美しい声、さらには完全無欠と言っても過言ではない容姿に一同は惹き付けられる。
「違うわ・・・。元々オルランドは致命傷を負って助からなかったのよ!!それを・・・。その苦しみからガウリイは解放して上げただけよ!!!」
泣きながらリナには叫ぶしかすではない・・・。
無論、そんな状態にある彼女がその一言にブラダマンテが僅かな衝撃の表情を見せた事も気が付くはずが無かった。
だが。
ガウリイはリナの一言に縋りつこうともしない。
ただただ黙して何も語らない。
このごに及んで何も言わないのだろうか?
だとしたら。
そんな人間がク・ホリンを裏切るわけが無い。



「遅かったか・・・・・。」
ゼルガディスとアメリアが市中で目にした物は・・・・。
罪人用の辻馬車に乗せられ、両手を縛られたガウリイ。
その後を同様な形の馬車に乗せられ、やはり両手首を縄で戒められたリナ・・・。
二人を監視するかのようにただただその行列に付き従うブラダマンテ。
その表情は読めない。
「リナさん・・・・。」
アメリアが呟く。
「アンタ、あの娘の知り合いかい?」
野次馬の一人がアメリアに声を掛けてくる。
「ええ・・・。でも・・・。ナンでリナさんまで・・・。」
「ああ。男の方は知っての通り戦犯の罪で牢獄送りさ。で、あっちの娘の方はあの男を庇う偽証を議会でしたんでな。仲良く二人で牢獄行きって事さ」
面白そうにリナとガウリイを眺めながら野次馬は言う。
その言葉にアメリアはまじまじとリナとガウリイを眺める。
「信頼しっきてる顔だな・・・。どっちも・・・。」
ゼルガディスの言葉にアメリアは頷く。
かつて。
これほどまでに威風堂々とした罪人を見た事があるだろうか・・・・?
いや・・・。
『罪人』ではに。
彼等はある意味一人の男の苦しみと一人の女の憎しみに巻き込まれた言わば『犠牲者』」だ。
だが・・・・。
この二人ならば抜け出す事が出来るだろう。
アメリアはそう確信したのだった。



暗い・・・。
牢屋だからそれは当然かもしれないけれども・・・・・。
イヤな物は否なのだから仕方が無い。
「今夜は満月か・・・・。」
小さく繰りぬかれた石制の窓、と言うよりもたんなる採光の為の隙間から見える月を眺めながらリナは呟く。
「ガウリイ・・・。大丈夫かな・・・。」
隣りの牢に幽閉されているであろうガウリイ。
自分はまだ良い。
今まで自由のみであったのだから。
それに引き換えガウリイはどうだろう。
数日間に及ぶ拘束期間の挙句たった一度きりの・・・しかも訳の分からない裁判の為にいきなり牢獄行きである。
「彼に・・・・。何の罪があるっていうのよ・・・。」
そうとしか言えない。
月の光のみが一弾と心地よく牢屋を満たす・・・。
「リナ。」
隣りから微かに聞こえて来る声。
あくまで聞こえて来るのは声のみ。
「ガウリイ!!」
その名前をリナは呼ぶ。
だが、視線を何所に向けて良いのか分からない。
「こっちだ!!」
そんなリナの様子を察したかのように声は方角を示す。
「ガウリイ!!」
思わず笑いの混じった声を上げるリナ・・・。
彼はかなり頑張っているらしい・・・。
隣の部屋にもあるであろう採光の為の小さな隙間から一生懸命こちらの隙間に手を伸ばしているのだ。
月明かりを浴びてその手は妙に白く、美しい。
「無理しないでよ!!」
自分自身そんな事言いつつも無理をしながら隙間まで思いっきり背伸びをしてその手を握る。
「冷たいな・・・。お前の手・・・。寒くないか・・・?」
言われてみればちょっと冷える。
「平気よ。」
言われるまで気が付かなかった・・・とは流石にちょっと馬鹿らしくて言えない。
「そう言うガウリイは大丈夫なの?どっか痛い所、無い?」
今度はリナが聞く。
暫しの沈黙・・・。
が、やがて・・・・。
「腹が減った・・・・・・・・。」
いつものカリスマ性は何所へやら・・・・・。
妙に情けない声でガウリイが答える・・・・・。
・・・・こんな時まで・・・・・。
ク・ホリンが手紙に書いてよこした彼の人物像はかなり的確であったらしい・・・。
ある程度どころかかなりのピンチの状態でもかれは必ず・・・。
「腹が減った・・・。」
と一日一回は言うと・・・・。
かく言うリナとて空腹は同様・・・・。
「これで・・・。良かったら・・・。」
リナが自分から進んで食べ物を人に分けてやる事なんか珍しい・・・。
そうク・ホリンに聞かされていたガウリイは少々意外な思いを抱きながら掌の飴玉を眺める。
「言っとくけど、アタシが2個!!アンタが1個だからね!!」
壁越し、と言うよりも隙間越しにリナの怒鳴る声が聞こえる・・・。
やはり・・・。
ク・ホリンの言った通りの人物だった・・・・・。
ガウリイは思わず苦笑する。
「まったく!!俺がそこに居たら!!お前の煩い口に飴玉2個いっぺんに放り込んでやってるぜ!!」
からかう様にガウリイはリナに言う。
「あら。味が混じって美味しいわね。その方が。」
リナがアッサリと言い返す。
「あ・・・。そうそう。これ。」
リナが必死で隙間から何かを此方に渡そうとする。
銀色の光が隙間越しに部屋中を照らす。
月明かりと星明りを反射しているらしい。
が、リナの腕の長さから考えてこちらの採光窓まで届くはずが無い。
再度ガウリイは窓から手を出す。
良く見えないが物質の感触、光を反射する性質から考えてその物の正体はすぐに察しがついた。
「持っててくれたのか・・・・?」
嬉しいような照れ臭いような想いからガウリイはそうとしか言えない。
「当たり前でしょ!!誓約書みたいなモンなんだから!!」
ムキになって反論しているらしいリナ。
手に渡されかけた半月型・・・・上弦の月の形のペンダントをガウリイはリナの手の中に押し戻す。
「ガウリイ。さっさと貰ってよね。手が痺れるじゃない!!」
怒った様にリナが言う。
「もう少し・・・。持っててくれ。」
ガウリイの言動に多少の戸惑いを覚えるリナ。
「ガウリイ・・・・?」
何度渡そうとしてもペンダントは掌に押し戻されてくる。
「真坂とは思うけど・・・。『形見として持っててくれ』なんて言った日には承知しないわよ!!」
多少感情の乱れが伝わってくるリナの口調。
「いいや。その反対だ。」
それに対してキッパリとしたガウリイの口調。
何時ものカリスマ性のある声に加えて優しさが溢れ出している言い方。
「ガウリイ・・・・?」
「絶対に・・・。生きてここを出よう・・。な、リナ。それまで。それはお前が持っててくれ。」
「分かった・・・・。」
大人しくリナはそれを受け取った。
ガウリイは・・・・。
絶対に自分を信じてくれている事を確信しながら・・・・。


リナが証拠不充分で釈放されたのはその日の早朝だった。
「ったく・・・・。無茶しやがって・・・。」
「心配したんですよ!!リナさん!!」
迎えに来たアメリアとゼルガディスが言う。
当然と言えば当然だがブラダマンテの姿は見うけられない。
「ブラダマンテは?」
さしたる返答を期待せずリナは一応と言った形で聞いてみる。
が、二人は見当違いな反応を示した。
「その事でです!!」
アメリアが真剣な声でリナに詰め寄る。



「決闘ですって・・・・・?」
突然の事にもう何がなんだか分からなくなってリナは叫ぶ。
「誰と誰が・・・・?」
さらにアメリアにリナは詰め寄りながら聞く。
「良いか、リナ。落ちついて聞け。一応ガウリイは投獄されていながらも刑は確定されてはいない。それは何故か分かるか?」
暫しの間。
「証拠不充分なら・・・・。アタシと同様に釈放されている筈だし・・・・。」
混乱した頭では考えが纏まらない。
「いや・・・。その『証拠不充分』だからこそ、なんだ・・・。刑も確定されなければ、更に言えば釈放もされないのは・・・。そこで。真意をハッキリと戦って証明すると言う方法が取られる事に成ったんだ・・・。」
「つまり・・・。『決闘』に勝ったらガウリイは無罪。負けたら彼は有罪になるって事?」リナの問いにアメリアは頷く。
「時代錯誤も甚だしいわね・・・。獅子心王・・・・。リチャードはもとよりも・・・。アーサー王の円卓の騎士の時代じゃあるまいし・・・・。ジョン『失地王』とタメが張れるほどの愚作だわ・・・。」
すなわち。
何百年も昔の騎士道精神の盛んな時代に開発された『決闘』による無実の証明という極めて危険極まりない解決方法。
「で・・・。ガウリイが自分の無実を証明する為に戦うの?」
「多分・・・。そうなると思います。でも。本来ならば他の人が代理で戦った方が良いんですけれどもね。」
あっさりといってのけるメリア。
リナはゼルガディスの方に視線を移す。
「そうしたいのも山々だが・・・。」
言ってゼルガディスは先日の戦争で負傷した右腕をリナとアメリアに見せる。
「・・・・。そっか・・・。じゃあ・・・。誰が・・・?」
縋るようにアメリアをリナは見ながら聞く。
「それが・・・。ガウリイさんを助けたいのは・・・。同僚の皆さんも同じ気持ちだってゼルガディスさんから聞きました・・・。けど・・・。勝ち目が無いんです。」
言いにくそうにアメリアが続ける。
「だから・・・。如何言う事よ・・・。」
「良いか。リナ。良く聞け。ガウリイの有罪を立証する為に戦うのは・・・。ロジェロだ・・・。」
ゼルガディスが言う。
「ロジェロ・・・・。ブラダマンテに焚付けられたのね・・・。でもそれが如何って言うのよ。ロジェロと戦って勝てばガウリイの無実は立証されるんでしょう?」
苛立った口調でリナが言う。
「忘れたのか・・・?お前。ロジェロとガウリイ、更に言えばク・ホリンに剣術で敵うような奴が居ると思うか?どいつもこいもロジェロと聞いて怖気ずいちまってるんだ!」
「・・・・・・・。」
そう言われてみればそうだ。
ロジェロ、ガウリイ、ク・ホリンは武術においては『三つ巴の獅子』と言われるほどの実力を持つ。
無闇滅多にそんな人間と、ましてや重大な決議が下される場所で戦おうなどと言う酔狂な人間はまずいないだろう・・・・。
「じゃあ・・・・。如何すれば良いのよ・・・。」
このままではガウリイは自分自身の為に戦うなどと言う彼の最も嫌う事をしなかればならなくなってしまう。
最も。
他人に頼る事を好むようなタイプにも見えないのだが・・・。
「ク・ホリンさんは・・・・?」
遠慮がちにアメリアが聞く。
「一昨日一晩中看病してたけど・・・。全然目を覚ます気配は無いし・・・・。無理はさせられないわ・・・。」
率直にリナは答えた。
「バチよ。」
突如良く知った声が後方から聞こえる。
条件反射的にリナ達は其方の方向を振り返る。
「ブラダマンテ・・・・・。」
その名をリナは呼び捨てする。
ほんのきのうまで輝くようであった金色の髪は妙に色あせて感じれられるのは気のせいだろうか・・・・?
更に言ってしまえは比類無き美しさは憔悴の為か見るも無残に破壊されていた。
「バチだと・・・・。」
諸悪の根源はすべてこの女にある・・・。
そう思うとゼルガディスとしても怒りを自制する事は出来ない。
「オルランドを・・・・・・。」
呆けたように言うブラダマンテ・・・・・・。
その表情は読み取れない。
「残酷だけれども。ガウリイはオルランドをむしろ救ってあげたのよ。あのまま生きていても・・・。いずれ彼は助からなかったわ・・・。その間の苦しみからガウリイはオルランドを救ってあげた。それだけ。」
容赦無くリナはブラダマンテに言い放つ。
「わたしの・・・・わたしのオルランドは・・・・・。」
手に何かを握り締めながらブラダマンテは尚も呟く。
この女は自分のした事を自覚しているのだろうか?
「ブラダマンテ・・・・・。」
尚もリナはその名前を呼ぶ。
「今言った事は・・・・。本当なの・・・。リナ・・・・。」
急に正気に戻ったようにブラダマンテはリナに尋ねる。
「ブラダマンテ・・・・?」
「オルランドは・・・・。ガウリイにむしろ助けられたの・・・・?」
突き放すようにリナは頷く。
「そんな・・・・・・・。」
「事実よ。」
冷たいと分かっていてもこれだけはハッキリとさせておかなければならない。
「ブラダマンテさん・・・。」
彼女の急激な変化にアメリアは戸惑いを感じながら呼びかける。
いつものブラダマンテなら有無を言わさずリナに平手打ちを与えていただろう。
だが。
今日のこの彼女はナンなのだろう?
「ロジェロが・・・・。これを私に持っていてくれって言ったのよ・・。自分の命の次ぎに大切な物だって・・・・。」
言ってブラダマンテは手に握った品物をリナに見せる・・・。
「これは・・・・・。」
驚愕を覚えずに居られない。
思わず自分の首から下げられている銀色のペンダントをリナは見やる・・・。
「下弦の月・・・・。」
ブラダマンテの手に握られている物と自分の首から下げられているガウリイのペンダント・・・。
上弦、下弦の違いこそあれども同じ半月の形をした物。
「ロジェロが・・・・。これを貴方に・・・?」
リナの問いかけにブラダマンテは静に頷く。
「アタシは・・・。オルランドの恩人だけでなく・・・。ロジェロも殺してしまったのね・・。」
自分の命の次ぎに大切な物をロジェロはブラダマンテに預けた。
その事の意味する事にブラダマンテはようやく気が付いたのだ。
純粋に自分を慕ってくれたロジェロを良いように服襲撃の道具にして使用してしまった事の罪悪感。
ロジェロはブラダマンテの為に戦って死ぬつもりであると言う事を。
さらには・・・。
オルランドとガウリイの真実。
すべてが彼女を責め苛んでいるに違いない。
しかし。
彼女が仕出かした無意識の犯罪をブラダマンテ自身が知るはずはないだろう。
ロジェロは恐らく自分の出生の秘密を知っていたのだろう。
だからこそ。
ブラダマンテにこの下弦の月のペンダントを渡したに違いない。
自分の兄、ガウリイと戦わなければ成らない事。
ブラダマンテに対する愛情の板挟みとなって。
「ブラダマンテ・・・。良く聞いて・・・・・・・。」
今の彼女には残酷な仕打ちである事は疑い無かった。
だが。
リナは敢えて真実をブラダマンテに告げる事を決意したのだった。
ブラダマンテに対してもロジェロに対しても怒りが込み上げてくる。
状況と感情に流されているばかりで何もしない。
もちろん。
それと同じ人種である自分自身に対しても・・・・。



「ガウリイとロジェロは双子の兄弟なのよ・・・。」
きつい口調でリナは胸元からガウリイから預かったペンダントをだし、ブラダマンテに見せつけた・・・。



「望み事が叶うなら・・・・。」
ブラダマンテがドーヴァー海峡を睨みながら呟く・・・。
「知らなかったじゃ済まされない事でしょう!!」
彼女とロジェロのした事をリナは責める事は出来ない・・・。
自分自身人の事は言えないのだ。
何故ならガウリイはきっとリナの事をブラダマンテとロジェロと同じ人種だと思っていないだろうから・・。絶対に自分のことを信じてくれていると断言できる・・・。
だから・・・。
尚更辛い・・・。
リナは痛いほどに自分はブラダマンテと同類の人間と自覚しているからだ・・。
「何故・・・。あんな事を・・・。」
日頃ブラダマンテに心酔しているアメリアとて彼女に対する口調が必然的にキツくなる・・。
「憎かった!!ただそれだけよ!!」
涙を堪えながらブラダマンテが言う。
「結果的にそのロジェロと・・・ガウリイを対峙させる事になったのはお前だろう!!」
ゼルガディスがブラダマンテを更に責める・・・。
「止めて!ゼル!!アメリア!!ブラダマンテ姉様をどうこう言った所で状況は変わらないわ!!」
遮ったのは一番辛いはずのリナだった・・・。
「リナさん・・・・。」
アメリアが声を掛ける・・・。
「ブラダマンテ姉様・・・。貴方の『ドゥリンダナ』お借りします・・・。」
無言でブラダマンテは頷く・・。
「リナ・・・。」
「止めないで、ゼル。アメリア。あの子も・・・。ク・ホリンなら・・・。アタシと同じ事を確実的にするでしょうね・・・。ロジェロ様にもよろしく言っておいてね・・。」
ブラダマンテから『ドゥリンダナ』を・・・。
そして・・・。
ク・ホリンからは魔槍『ゲイボルク』を・・・。
槍に目をやりながらリナは呟く・・・。
「ガウリイ・・・。偽証をさせられたとは言え・・・。アタシの罪はブラダマンテ姉様・・・。そしてロジェロ様・・・。更に言えばオルランドと・・・。彼等と同罪なのよ・・。」
彼が信じてくれている限り自分の仕出かした事は始末したい・・・。
自分の為にも・・・。
ガウリイの為にも・・・。



「ガウリイの代理に戦う者が見つかっただと?」
決闘の行われる場内ではその事実が速急に伝わってきた。
「あのロジェロ相手に・・・・・。命知らずもいたもんだな・・・・。」
野次馬達が騒ぎ立てる。
「しかし・・・・。ガウリイとロジェロの本気の対決が見られないのはつまらないな。」暢気に下らない話をし合う。
「知らないって事は幸せな事ですね。」
アメリアが皮肉を言う。
「仕方がないだろ。」
あくまで冷静なゼルガディス。
「ブラダマンテ。良く見ていろ。」
ゼルガディスの言葉にただただブラダマンテは項垂れながら頷いた。



ロジェロと対峙し、入場してきたのは立派な剣を腰にさし、手には立派な槍を構えた一人の小柄な人物だった。
「ブラダマンテか?」
「何言ってるんだ。あの槍はク・ホリンのものだろう!!」
あちこちから勝手な憶測が飛ぶ。
それも単にその人物の持っている二つの立派な武器ゆえの事である。
「リナ・・・・・・・・・。」
それが誰であるのかを真っ先に悟ったのはガウリイだった。
「ガウリイ。」
そっとリナはガウリイに駆け寄る。
「危険なことは止めろ・・・。」
厳しい口調でガウリイはリナに諭そうとする。
「あいてはあのロジェロだぞ?」
だが、リナの様子はなんら変わりは無い。
「だから?」
突拍子の無い一言にさしものガウリイも言葉に詰まる。
「だからって・・・・。怪我でもしたらどうするんだ!!」
自分の無実くらいは自分で証明する。
ガウリイがそう言うよりも早くだった。
目の前にリナが何かを付き付けて来る・・・・・・。
「それは・・・・・?」
二つの銀色の半月。
上弦の月と下弦の月・・・・。
「下弦の月は・・・・・。ロジェロの物なの。」
「何だって・・・・・・・?」
ガウリイは二つのペンダントを交互に見やる。
自分の物である上弦の月。
そして。生き別れになった弟の物である下弦の月。
「実の兄弟である・・・貴方とロジェロを戦わせる訳にはいかないわ。」
せめてものリナが出来る償い。
「貴方の無罪を証明する事はあたしでは十中八九不可能だと言う事は分かりきっている・・・。でも。貴方をこんな目に落し入れたのはあたしのせいでもあるわ。」
「リナ・・・・・・。」
「待ってて・・・。せめてもの償いよ。ロジェロには悪いけど。ブラダマンテに仕込まれた腕を発揮できるチャンスでもあるしね。」
勤めて明るくリナは言う。
「待ってくれ!!リナ・・・・。ロジェロは・・・。アイツは俺が双子の兄だと事を知っているのか・・・・?」
リナを行かせるわけにはいかない。
そうとは分かっていながらもガウリイは訳のわからない事を口走っている自分を一瞬呪った。
不意にク・ホリン達を救おうとして無駄とは分かっていながら海に飛び込もうとしたした自分・・・。
それを必死で止めたロジェロをガウリイは不意に思い出す。
「知っているわ。だから。ブラダマンテと貴方との間で悩んだんでしょうね。更に・・・。血は繋がっていないとしても彼にとっては大切な弟であったでしょう・・・。オルランドとの間でも・・・・。」
そう。
紛れも無い事実だ。でなければ。ガウリイと同等の実力を持つこのロジェロが何時しか彼に戦いを挑んだ時、ああアッサリと敗北をきしていた筈が無い。
「そうか・・・・。」
遥か前方のロジェロを睨みながらガウリイは呟く。
「けど・・・。最終的に彼はブラダマンテを選んだ。それだけよ。」
酷と分かっていながらもリナはガウリイに真実を告げ、決戦の場所に去っていく・・・。無論、放心したガウリイに気が付かれないようにしながら・・・・・。
が、それは本人の想い過ごしにしかすぎなかった。
「ガウリイ・・・・。」
腕を思いっきり捕まれて引き止められる。
「お前が俺に何をしたって言うんだ・・・・?」
「アタシはブラダマンテに騙されたとは言え・・・。後もう一寸で貴方を犯罪者にしてしまうとこだったのよ!!わかってるの?ガウリイ!!?」
驚きのあまりリナは後ろを振り返りながら言う。
「けど・・・。実際はそんな事はしないで・・・。それどころか自分まで投獄されちまっただろ?」
あくまでガウリイの口調は静かである。
「ガウリイ・・・。」
絶対にガウリイを実の弟と戦わせてはならない。
その事だけがリナの精神を支配した。
「構わないさ・・・。」
ガウリイのその言葉にリナは一瞬唖然とする。
「今・・・・。何て言ったの・・・・。」
自分の耳を信じたくなかった。
「聞こえなかったか?『構わない』って言ったんだ。あくまで俺は俺の事実無根を晴らすためにアイツと戦う。例え・・・。実の弟であったとしてもな。」
「何を言ってるの・・・・・。」
これ以上ガウリイに辛い想いをさせたくない。
「アイツは板挟みの末、ブラダマンテを選んだんだ。なら・・・。俺はリナの安全を選ぶ。それだけだ。」
言ってガウリイはリナからク・ホリンの槍、『ゲイボルク』を引っ手繰る。
もう、何を言っても無駄だ。
呆れ果てた想いと諦めを交えてリナはガウリイに言う。
「剣は?」
腰に吊るしたブラダマンテの名刀、『ドゥリンダナ』を渡そうとする。
が、ガウリイは首を左右に振った。
「あくまで・・・。それはロジェロの大切な人間の物だ。俺が使うわけにはいかないさ。」
そうとだけガウリイは言う。



何時間が過ぎただろうか。
決着は未だにつかない。
ガウリイにロジェロ。両者は一歩も譲ろうとしない凄まじい戦闘を続ける。
「ブラダマンテ・・・・・。」
リナは従姉妹の方を見やる。
ブラダマンテは黙し、何も語ろうとしない。
ただただ項垂れてガウリイもロジェロもその瞳には見えていないのであろう。
「・・・・・・。目を瞑って自分の過ちを見ないようにしたい訳・・・?」
そんな従姉妹に強烈な怒りを感じてリナはブラダマンテを睨みながら言う。
「あんたに何がわかるって言うの。リナ・・・。」
悲しみとも絶望ともつかない声でブラダマンテが言う。
「分からないわ。自分の憎しみの為にガウリイとロジェロをここまで追い詰めたあんたの気持ちなんて分からないし・・・。分かろうとも想わない。」
あくまでリナの声は冷徹だ。
「リナさん・・・・。」
アメリアが止める間もなくリナは柵を乗り越えて決戦が行われている場所まで駆け抜けていく。
「ガウリイに罪は無いわ!!」
観衆に聞こえるようにリナは大声を叫ぶ。
「リナ!!?」
ロジェロとの戦いの手を休める事無く、すぐ近くまで突如舞い降りてきたリナにガウリイは驚いたように視線を巡らす。
「かと言って・・・。ロジェロも負けたわけじゃない。」
そう。
負けと言う言葉は即ち『死』を意味しているのだから・・。
「何を言っているんだ?」
審議官からの抗議の声が当然の言ながらリナに集中する。
その間もガウリイとロジェロとの戦いはやむことが無い。
「リナ・・・。」
ブラダマンテがアメリアに付き添われてリナの傍にやって来る。
「仰って下さい。ブラダマンテ姉様。そもそもガウリイを告発したのは貴方とこのロジェロ殿。貴方が仰って下さらなければ何にもなりません。」
彼女に決着を着けさせる意味もある。
後は。
ブラダマンテの一言次第なのだ。
「この勝負は無効です。よって。ガウリイの告発は必然的に取り下げます・・・。さらに、ロジェロとの勝負も決着の必要がありません・・・。」
出来る限り威厳を保ったブラダマンテの声が場内に響く。
「ロジェロ。お願い。止めて。」
ブラダマンテの言葉にロジェロが剣を退く。
「ガウリイも・・・。止めてくれるよね?」
微かに微笑みながらリナが言う。
良くは分からないがリナのその表情につられてガウリイも自然と剣を退く。
「何故この勝負が無効と言うんだ・・・?」
審議官の一人が当然の言ながらブラダマンテにクレームをつける。
「今回の戦犯は先日暗殺された海軍の艦長だ。その立証は生きて帰った兵士の一人がしてくれる。」
ゼルガディスがさっさと言ってのける。
「それに。もうとっくに決闘の時効時刻は過ぎています。」
言ってリナは懐中時計を審議官に着き付ける・・・。
丁度。午前十二時を迎えてる。
「勝負の日時は昨日一日。よって。本日に持ち越された勝負はもはや無効。二人は引き分けと見なすのが当然でしょう。」
「しかし・・・。」
尚もなにかいちゃモンをつけようとする審議官に
「いいですよね!!!!」
ブラダマンテから借りた名刀『ドゥリンダナ』を着き付け脅すリナだった・・・・。
その言い分が通ったがリナが審議官に対する脅迫罪で告訴されそうになったのをガウリイが力に物を言わせて取り下げた事を付け加えておく・・・。



「ブラダマンテは・・・?」
一段落のついたある日の事。
ガウリイがリナに尋ねて見る。
「ま。ロジェロ次第ね・・・。」
自分の仕出かした事の罪に気付いた彼女の落胆がどれほどのものかリナには想像すらつかない。
多分・・・。
ロジェロがついていてくれるから大丈夫だとは思うのだが。
「ロジェロも物好きね・・・。普通ブラダマンテを恨んでもおかしくないのに。」
しかし。
彼はガウリイの双子の弟だ。
ブラダマンテはもとよりも人を恨むなどと言う事が出来ないのかも知れない。
皮肉な形で実際の予言となった『殺しあう双子の兄弟』・・・。
しかし。二人は生きている。
「いや・・・。そんな事じゃなくってさ・・・。」
ガウリイが言いにくそうに切り出す。
「何・・・?」
「ブラダマンテはまだ・・・。俺の事怒っているのかなって思ってさ・・。」
「・・・・・。」
それも。ロジェロ次第だろう。
「けど・・・。あたしと貴方の事をとやかく言う事は無いと思うわ。今回の事で人を憎む事の悲惨さを彼女もよく分かったと思うの・・・。」
それだけは確実的に言える。
「そうだな・・・。」
そっとガウリイも呟く。
この人でも人を憎むなんて事があるのだろうか・・・?
「俺も・・・。ブラダマンテがリナを平手打ちした時・・・。殺してやろうかと本気で思った・・・・。」
ガウリイが更に言う。
「やめてよ・・・。」
本心からリナはそう言う。
色々な意味で。
「さ、ク・ホリンのお見舞いに行きましょう。ブラダマンテの治療には時間が掛かるけど・・・。ク・ホリンの治療は楽な物よ。」
「そうだな。」
言ってガウリイとリナは晴れた空の下、ク・ホリンの快復を観察しに行くべく歩き出したのだす。
「ク・ホリンには感謝している・・・。」
何時しかの『絶対に俺の姉ちゃんに惚れるからな!!』と言ったあの少年の捨て台詞がガウリイの脳裏を掠める。
「ガウリイが無事で・・・。絶対にあの子も喜ぶわ。」
リナが笑いながら言う。
「そうだな・・・・。」
笑いながらリナとガウリイは坂道を駆け出して行った。
もう。
憎しみや苦しみの煩わされる事も無い爽やかな晴れた日の昼下がり。
ブラダマンテも分かってくれただろう。
ガウリイも同様の事を考えているとは露知らず・・・。
そう思いながらリナは空を眺めるのだった。