◆−カオティック・サーガ:虚構へ続く扉の再生−オロシ・ハイドラント (2003/9/2 20:44:41) No.15000 ┣一つの無意味な話−オロシ・ハイドラント (2003/9/2 20:45:33) No.15001 ┗三日目−オロシ・ハイドラント (2003/9/2 20:47:39) No.15002 ┗カオティック・サーガ――神魔英雄伝説:第三章――−オロシ・ハイドラント (2003/9/2 20:50:01) No.15003 ┣15:「解毒」作戦−オロシ・ハイドラント (2003/9/2 20:54:08) No.15004 ┣16:ラルタークとラーシャート−オロシ・ハイドラント (2003/9/2 20:57:01) No.15005 ┃┗戦いの前奏曲(どっかで見たようなタイトル)−エモーション (2003/9/2 22:25:53) No.15007 ┃ ┗Re:戦いの前奏曲(どっかで見たようなタイトル)−オロシ・ハイドラント (2003/9/3 21:12:09) No.15012 ┣17:妹と兄−オロシ・ハイドラント (2003/9/4 20:22:57) No.15013 ┣18:ノーチェと永遠の虚無−オロシ・ハイドラント (2003/9/4 20:26:16) No.15014 ┣――19:セフィードの涙――−オロシ・ハイドラント (2003/9/4 20:41:17) No.15015 ┃┗黒衣の騎士はやはり黒馬に乗るのかな。−エモーション (2003/9/4 22:28:50) No.15018 ┃ ┗Re:黒衣の騎士はやはり黒馬に乗るのかな。−オロシ・ハイドラント (2003/9/5 19:26:45) No.15023 ┣20:天界の神族−オロシ・ハイドラント (2003/9/5 20:50:15) No.15024 ┣21:夜明けの闇−オロシ・ハイドラント (2003/9/5 20:55:21) No.15025 ┃┗ソゾフさんって……−エモーション (2003/9/7 21:48:12) No.15035 ┃ ┗Re:結構お気に入りだったり(ソブフ)−オロシ・ハイドラント (2003/9/8 21:56:43) No.15044 ┣大体のあらすじ(本編二章まで)−オロシ・ハイドラント (2003/9/5 21:39:51) No.15026 ┣登場人物表−オロシ・ハイドラント (2003/9/9 21:36:08) No.15056 ┃┗Re:ミスについて−オロシ・ハイドラント (2003/9/10 01:30:15) No.15062 ┣22:闇色の宴−オロシ・ハイドラント (2003/9/10 18:11:30) No.15068 ┣23:アマネセルの秘密−オロシ・ハイドラント (2003/9/10 18:26:01) No.15069 ┃┗衝撃の事実ですね−エモーション (2003/9/11 22:18:00) No.15084 ┃ ┗Re:衝撃の事実ですね−オロシ・ハイドラント (2003/9/12 21:10:37) No.15091 ┣24:竜の誇り−オロシ・ハイドラント (2003/9/13 19:48:02) No.15094 ┃┗ミルさん登場♪−エモーション (2003/9/14 22:48:57) No.15116 ┃ ┗Re:ミルさん青春編(?)−オロシ・ハイドラント (2003/9/16 21:02:09) No.15140 ┣25:造られた未来達−オロシ・ハイドラント (2003/9/16 21:17:12) No.15142 ┣26:勇者の戦い−オロシ・ハイドラント (2003/9/16 21:21:29) No.15143 ┃┗謎だらけですね、羅針盤……。−エモーション (2003/9/16 23:10:47) No.15146 ┃ ┗Re:謎だらけですね、羅針盤……。−オロシ・ハイドラント (2003/9/18 20:36:17) No.15150 ┣27:灼熱の鎖に繋がれ−オロシ・ハイドラント (2003/9/19 20:08:07) No.15153 ┣28:ジェネラル・スィヤーフ−オロシ・ハイドラント (2003/9/19 20:13:34) No.15154 ┣29:覇王軍−オロシ・ハイドラント (2003/9/19 20:17:32) No.15155 ┣30:メシア−オロシ・ハイドラント (2003/9/19 20:21:01) No.15156 ┃┗世紀末救世主伝説……違う(−−;)−エモーション (2003/9/19 22:51:45) No.15162 ┃ ┗Re:コスプレしたソブフさんって……(笑)−オロシ・ハイドラント (2003/9/20 21:35:07) No.15174 ┣31:再戦−オロシ・ハイドラント (2003/9/20 21:14:20) No.15173 ┃┗Re:31:再戦−エモーション (2003/9/21 23:23:01) No.15185 ┃ ┗Re:31:再戦−オロシ・ハイドラント (2003/9/24 18:47:19) No.15195 ┣32:凄なる戦い−オロシ・ハイドラント (2003/9/24 21:21:59) No.15198 ┣33:出陣−オロシ・ハイドラント (2003/9/24 21:45:07) No.15199 ┣34:復活−オロシ・ハイドラント (2003/9/24 21:54:52) No.15200 ┗三章の後書:邪なる風の吹く中−オロシ・ハイドラント (2003/9/24 22:03:18) No.15201 ┗一番動きのある章でした。−エモーション (2003/9/25 22:57:11) No.15211 ┗Re:一番動きのある章でした。−オロシ・ハイドラント (2003/9/27 20:17:58) No.15219
15000 | カオティック・サーガ:虚構へ続く扉の再生 | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/2 20:44:41 |
◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ こんばんはラントです。 この話の投稿は随分と久しぶりになります。 本来なら七月中に終える予定だったのが、色々見直ししてたせいで九月に。 本当に遅れてしまいましてすみません。 ところで、 本編第二章の12「贖罪」での >「いや、私の計画のためには不可欠なのだからな……」 は、 >「ああ、私の計画のためには不可欠なのだからな……」 の間違いでした。 大変申し訳ございません。 HP公開版では修正させていただきます。 ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ |
15001 | 一つの無意味な話 | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/2 20:45:33 |
記事番号15000へのコメント ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ 二人の人間がいた。 一人は世界が唯一無二のものであると考え、もう一人は世界が複多数存在すると考えていた。 この二人に、世界をテーマとした議論をおこなわせた。 すると、二人は意気投合することとなった。 一人目は自分自身にとっての世界は一つであると考え、二人目は自分自身には一つだが世界中の一つ一つの命は違う世界を持っていると考えていたのだ。 ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ |
15002 | 三日目 | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/2 20:47:39 |
記事番号15000へのコメント ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ ――三日目―― それにしても、疲れがひどい。 朝食用に取って置いたサンドウィッチがなくなっていたのだが、いつの間にか食べていたようだ。そろそろ私も危うくなった。 だが、この話は欠かすわけにはいかないのだ。 話を続けよう。 デーモン大量発生。 これは前も言ったが、文字通り凄まじい数のデーモンが出現した。魔族達に召喚されたのだろう。 世界各国の被害は相当なものだっただろう。 それでも、竜やエルフ達は、僅か二十日程度の時間――あくまでも推測であるが――で、デーモン達を殲滅した。彼らは純粋な魔族から考えるとさほどの力を持っていないものの、それでも、けして弱くはないのだ。 だが、それは陽動作戦の第一段階に過ぎなかったのだ。 過ぎなかったのだが、ここで一つ注目してみたいことがある。 純粋な神々は、戦闘に参加しなかったのか? 調べでは、天界と呼ばれる場所に、かつて赤の竜神の部下だったもの達が、住んでいるらしい。 しかし、戦闘に参加した種族は、我ら人間、竜族、エルフ、ドワーフ……。 最も力を持つ神々は参加していない。カタートの水竜王は、間違いなく召還したと思うのだが……。 これは一つの謎だ。 真実はどうなのだろう。 本当は根拠のない推論などはしたくないが、私としては、当初神族は水竜王側の勝利を確信していたのではないかと思う。そのため、参加しなかったのではないか。 もちろん、これを持論とし続けるつもりはない。 これから、探求や議論などを重ねていこうと思う。 いずれ真相は自ずと正体を現すだろう。私はそう信じ続けたい。 さて、本題に戻るとしよう。 竜やエルフ達は、南下を始めた。 この辺りの情報は、最近になって発見された資料によって、判明したものだ。ちなみに、エルフ族によってもたらされたものだ。 竜族はセイルーン周辺に向かったのだ。 恐らく、そこに諸悪と根源がいると推測したのであろう。 もちろん、その『諸悪の根源』さえも囮に過ぎない。 また、その囮こそが、初めに滅びた高位魔族である、冥神官(プリースト)であるという可能性が強い。 冥神官はあっさりと滅ぼされたらしい。 やはり、数の力というものは恐ろしいものだ。 そして、魔王復活と、最後の戦いが待っている。 私は疲れたのでこれで休むことにする。 ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ |
15003 | カオティック・サーガ――神魔英雄伝説:第三章―― | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/2 20:50:01 |
記事番号15002へのコメント ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ ――神魔英雄伝説:第三章―― 「敵は、事件の作者だ。君達は登場人物だ。登場人物が作者を指弾することは出来ないぞ」 引用:京極夏彦「絡新婦の理」 ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ |
15004 | 15:「解毒」作戦 | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/2 20:54:08 |
記事番号15003へのコメント ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ ――15:「解毒」作戦―― 作戦は無事決行された。 暗い部屋の中で、冥王フィブリゾはその作戦「解毒(デ・トックス)」を反芻した。 まず、カタートに、ノーストというスパイを送り込んだのが始まりだった。 ノーストは、一つの情報を入手して来た。 それが、水竜王が負の「毒」と呼ばれるものを作成し、人類を絶滅させようと企んでいる、という情報だった。 人類が絶滅すれば、同時に人の心に封じられた七つの魔王シャブラニグドゥの欠片も、同時に滅び去ってしまうだろう。 これは疑いようのない事実だ。論理的に説明がつけられているのだから。魔王を人の心に封じ込めた赤の竜神も、もしやこれを狙っていたのかも知れない。 フィブリゾは焦った。まだ毒は完成していないようだが、ただなりゆきを見守っているわけにはいかない。 早急に、他の四人の王にそれを伝え、五人で会議を始めた。それぞれの部下達には、必要時以外は、絶対に知られないように命令した。 そして作戦は完成した。 まず、邪なる真実――今の人類は事実上、魔王の力によって誕生したこと。それゆえ人は邪悪な存在であり、神は人を消し去ろうとしていること――を人類に伝える。それでも伝えた相手の国の民は、邪悪に染まってはいないと思えるようなニュアンスで。 愚かな者達は、この期に他国を攻め落とすことを考えるだろう。正義の名に置いて。人など所詮その程度の浅知恵しか持たぬ。 そして国々は争いを繰り返す。それによって、人々の間に不穏な空気をもたらすのだ。 神に見捨てられ、魔に飼われ生きてゆく人々。同時期に起こる争いによって、彼らは絶望と不安に包まれるだろう。それは容易く消える感情ではない。 五人の王は、早急に人間の心から、魔王シャブラニグドゥを探し出す必要があった。そうでなければ、水竜王には勝てぬからだ。 人に対して負の感情を与えれば、それだけ魔王が復活する可能性が増す。そうなれば、発見も容易となる。 とはいえ、人類すべてを調べるのは大変だ。 それでも、コンピュータ――ちなみに、フィブリゾが製作したものである――を使えば、少しは手間を省くことが出来るだろう。 そこで、魔族一機械に長けている獣王ゼラスの部下ゼロスに、その仕事が任された。 ゼロス――スパイ活動をおこなったノーストにもだが――には、特別に計画内容を伝えられることとなった。 当然、負の感情を与えるという方法が、一種の賭けであることには承知の上である。そんなことをすれば、水竜王やその配下に、作戦のことを気取られかねない。 魔王発見前に、そうなることは絶対に避けたい。 しかし、人類全体に巨大な負の感情を与えでもしなければ、コンピュータでは発見が困難である。コンピュータは広範囲を迅速に調べられるが、その分、見逃す可能性も多く出て来る。絶望や不安を与えることによって、見逃す確率を少しでも低下させなければならない。 結局、その賭けには、勝ったとも言える。 魔王の欠片を一つ見つけた。 しかし、たったの一つでしかないのである。 すでに作戦は決行されている。 果たして勝てるか? その後、デーモン係にあらかじめ用意させておいた召喚装置でデーモン(デーモン達は地上の生物ではなく、召喚装置が作り出す偽りの肉体に憑依させることとなる)を多数呼び出し、さらにノーチェを囮にして、竜やエルフ達の注意を誘う。 彼らは、水竜王の指示を仰がずに即動くだろう。そういう連中だと、フィブリゾは知っている。 そして、その隙にカタート山へ攻撃を掛ける。五人の王が直接だ。 竜、エルフを中心とした連合軍は、ノーチェに勝利した後、カタートの危機を知りすぐさまそちらへ向かうだろう。 そこへ、数人の高位魔族と下級魔族達で編成した部隊が、立ちはだかる。戦場はカタート付近の森となるだろう。 ちなみにそこへの高位魔族の配置が多すぎては、ノーチェが倒される前に水竜王などに存在を気取られてしまい、陣形を整えることさえも出来ないので、アマネセル、スィヤーフ、ゼロスの三人だけとなった。 五人の王は水竜王との激突を避け、他の神殿を破壊していく。それによって、天界の神族を出来るだけ多数引き付けるのだ。 そしてこれからが、重要になる。 実は、五人の王の内の四人は、密かにあるものを作成していた。 それは、「北の極点」「魔界」「滅びの砂漠」「群狼の島」という四つの場所に、魔力を込めた祭壇を造ったのだ。 その四つに、それぞれに覇王、海王、彼、獣王が立つことによって、神の力を封じる強力な結界を張ることが出来る。その結界は、外部からの侵入者――水竜王以外の竜王など――を防ぐ効果も同時にあるのだ。 これを使用すれば、天界の神族など虫けらに等しい存在となる。そして水竜王もかなりの力を失うだろう。 そして、最後の戦いだ。 復活した魔王と、残った王の一人である魔竜王は、水竜王に戦いを挑む。 ここで重要なのは、魔竜王に僅かながらも、竜という性質があることだ。それは水竜王とも共通する性質だ。 それを利用し、魔竜王を介してダメージを与えれば、それは100%の威力で伝わる。これは魔族間の属性学によって証明されている。 上手くいけば勝てる可能性は、なくもない。 けして高くはないが、絶望的ではないだろう。 それにしても今回の戦いは大規模なものになりそうだ。 魔族と神族は、神魔戦争以降も十数回の戦いを繰り広げたが、そのほとんどのものの規模は大きなものではなかった。 両軍ともに上層部にはほぼ犠牲は出ず、ある一つの戦いを除けば、下級兵を消耗しただけに過ぎなかった。 だが今回は多大な犠牲が出ることだろう。 彼の部下達も危険に晒されている。 特にノーチェは滅びてしまう確率が高い。うまく敗走出来るとは考え難い。連合軍から逃げるということは、下等生物から逃げることを意味するのだから、プライドのある魔族ならけして逃げようとは思わないだろう。 解毒剤もまた毒を持っているのか。 なぜこのような作戦を立ててしまったのだろう。 「……アム」 ふと出た声は、一人の部下の名。 彼女がフィブリゾの部下――娘となったのはちょうど四千年ほど前のことだ。 最も新しい高位魔族として迎えられてから四千年。 あの時に魔族は変わって、そしてフィブリゾ自身も大きく変貌した。 恐怖と滅びを司りし冥(くら)き王は、少年の持つ純粋な優しさを手に入れた。 非道の限りを尽くした彼は、ノーチェではなく、彼女によって変えられた。 それだけではない。彼女は武勲もまた立てた。 あれは終戦から千年と少し経った頃だろうか。 神々が、魔族を駆逐するためにとった作戦「最後の審判(ザ・ラスト・ジャジメント)」を破局へと導いてくれた。 「最後の審判」と呼ばれた作戦は、魔族内部の不満分子を掻き立てて内乱を起こさせ、その機に乗じて全軍を持って魔族を討つというものであった。 この作戦が、「魔族社会に不満を持つ者=神族しての善き者」を助け、「魔族社会にしがみつこうとし続ける者=神族としての悪しき者」を裁くというものであるからこう名付けられた。とはいえ、それは口から出任せだろう。実際は反乱を企てた魔族達も同じように始末される運命にあったのだと思われる。 その作戦は、神魔戦争以前の魔族にならばけして通用せぬものであった。あの長きに渡る戦いの中では、魔族社会は頑強なる一枚岩であったのだ。 しかし、戦争で魔族達の主、赤眼の魔王シャブラニグドゥという強力な指導者を失い、さらに大規模な改革――魔族個人の自由がある程度尊重させるようになった――が起こったため、強固な岩に亀裂を生じさせる結果となったのだ。 計画の第一段階は成功した。 魔界には神族の間者が入り込み、下級の魔族達をそそのかした。 そして反乱が始まった。 多数の下級魔族の命が失われ、魔族一の美女、覇王女ネージュを喪失する結果となった恐怖の内乱が巻き起こった。 当然、冥王たるフィブリゾも他の王達もこの反乱に必死で対処した。 だが結果をもたらしたのは彼らではなく、アマネセルの単独行動であった。 彼女は反乱の首謀者を神族と見抜き、かつ直接反乱軍をそそのかした神族の者を押さえた。 そして反乱軍を頂点から瓦解させることにも成功した。 フィブリゾはこれを讃えた。 しかし、彼女はこれだけにとどまらず、姉ノーチェとともに軍を率いて攻めて来る神族軍の内、最強の部隊の一つでもある高位神族アドリアンの軍勢を、巧みな用兵術によって退けた。 フィブリゾ達五人の王は、残りの四部隊への攻撃に集中出来たため、勝利を得ることとなった。 激突での犠牲はほとんど出ず、「最後の審判」は失敗に終わっと充分に言えるだろう。 反乱による犠牲は確かに出たが、これは魔族社会の不安定さを指摘してくれるありがたい機会とも、言えなくもなかった。 こうしてアマネセルは一時的ながら「英雄」となった。 それ以後も、彼女はいくつかの功績を立てている。 ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ ……下手くそなくせに文字詰まっててすみません。 |
15005 | 16:ラルタークとラーシャート | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/2 20:57:01 |
記事番号15003へのコメント ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ ――16:ラルタークとラーシャート―― 魔竜王区、竜神官居住地域、青竜館に竜将軍ラーシャートは招かれていた。 「ついに始まりましたなあ」 「そうじゃのう」 竜将軍ラーシャートと竜神官ラルタークは、二人テーブルを挟んで、ティーを飲みつつ会話に興じていた。 「ところで、ここに神族軍が攻めて来るとか……」 壮年の男ラーシャートが訊く。 「ああ、冥王様も言っておったのう。だが、もし来ても安心じゃわい」 老人ラルタークは笑って答えた。 「安心? だが、冥王様も魔竜王様もおられんぞ」 「わしらが軍を率いるのじゃ。ダイ殿にグラウ殿、ノースト殿にシェーラ嬢、後セフィードの坊ちゃんもおるしのう」 「だが、ノーストのやつは当てになりませんな。あやつは勝手にどっかいきますわい。少なくとも私はそう思いますな」 「そうかの。まあそれでも、そなたの他に四人おるわけじゃ。一応、わしは大将役をやれと言われておるからの。そなたらで各軍を指揮すれば良いわい」 「ほう。ラルターク殿が総大将かい。そりゃあ責任重大ですのう」 「ほぉほぉほぉ、じゃから安心すれば良い。冥王様もわしらの勝利を確信しておるわい」 ラルタークは笑いながら白髪を撫でる。 「大した自信ですなあ。ところで本当に来ますかねえ」 「絶対、じゃと冥王様は言うがのう。神族も忙しいし、そう簡単に動くとは限らんからなあ。わしは六十割ほどと見ておる」 「となると、六十パーセントの確率で、ラルターク殿は厳罰に処されますな」 言ってラーシャートが笑うと、ラルタークは素早く、 「何を言うとるか。わしは負ける戦いなどせんぞ。我が軍は確実に勝てるわい。どうせ敵もそれほどの数を揃えられはせん」 「私ら暇人と違って、神族は忙しいと聞きますからな」 「まあ、来るにしてもアドリアンと、ティディアスくらいじゃろう。恐らく、他は忙殺されとるわい。馬鹿なやつらだ」 「まあ、あまり心配せんで良いということですな」 ラーシャートは天井を眺めた。 「その通りじゃ」 頷き、ラルタークは茶を啜る。 温かい息を吹く。 和やかな空気。 しかし、 「ところで、連絡取りませんかい?」 不意に、ラーシャートがそう切り出した。 「何のことじゃ?」 「だから、他の者にですわい。勝手に出掛ける者もおるかもしれんやないですか」 ラーシャートは真剣に見える。 「いや、ラーシャート殿。心配しすぎも良くない。しかし、そうじゃな。 ヤウシナ、全軍の頭に、今のこと連絡して来てくれぬか」 どこからともなく、かしこまりました、という声が聞こえた。 「よし、これで安心じゃな」 「そうですな」 そして二人は、談笑に戻った。 ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ |
15007 | 戦いの前奏曲(どっかで見たようなタイトル) | エモーション E-mail | 2003/9/2 22:25:53 |
記事番号15005へのコメント こんばんは。 「カオティック・サーガ」、ついに再開しましたね。 冥王さまが立案した降魔戦争の計画。 さすがにややこしいといいますか、手が込んでいると言いますか。 ……あとは相手が作戦にのってくるように、上手く誘導&落とし穴の上に 金貨を置いておく、というところですね。 それにしても、こうしてみていると、ガーヴ様って本当に……対竜王用のために、 魔王様から竜属性として創られたんじゃないか? という気がしてきます。 ……反抗もしますね、それは(苦笑) ゆっくりと戦いが始まりだそうとする中、和やかに談笑するラルタークさんと ラーシャートさん。 この後、彼らは追い込まれ翻弄される状況の中で、何を考え、どう思う事に なるのでしょう。 それでは、短いですがこの辺で失礼します。 続きを楽しみにしています。 |
15012 | Re:戦いの前奏曲(どっかで見たようなタイトル) | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/3 21:12:09 |
記事番号15007へのコメント >こんばんは。 こんばんは > >「カオティック・サーガ」、ついに再開しましたね。 本当に久しぶりです。 携帯のサイト(ちなみにサイトのタイトルは「綾辻行人・有栖川有栖のJ−ミステリ倶楽部」)に有栖川有栖氏が小説のミスに関することを書かれていまして。それを読んだら勇気が出て来て……結果として投稿ということになりました。 やはり思い切りも大事だなあと思いました。 > >冥王さまが立案した降魔戦争の計画。 >さすがにややこしいといいますか、手が込んでいると言いますか。 >……あとは相手が作戦にのってくるように、上手く誘導&落とし穴の上に >金貨を置いておく、というところですね。 直接攻めろ! との声も大きいかも知れませんけどねえ。 実際、力押しでもいけそうな気がしなくもないような。 でも敵の数は滅茶苦茶多いっぽいですし…… > >それにしても、こうしてみていると、ガーヴ様って本当に……対竜王用のために、 >魔王様から竜属性として創られたんじゃないか? という気がしてきます。 >……反抗もしますね、それは(苦笑) 確かに、それはありえるかも知れませんねえ。魔族ですし。 > >ゆっくりと戦いが始まりだそうとする中、和やかに談笑するラルタークさんと >ラーシャートさん。 とりあえず和やかな会話をさせたいなあということで書いたエピソードであります。 まあ彼らは結構、経験者ってイメージがありますから。 >この後、彼らは追い込まれ翻弄される状況の中で、何を考え、どう思う事に >なるのでしょう。 実はこちら側のエピソードはそれほど多くもなかったり……結構空白の多い物語になってしまったようです。 > >それでは、短いですがこの辺で失礼します。 >続きを楽しみにしています。 非常に嬉しいお言葉です。恐らく、明日には続きが出るかと……。 それでは、これで…… ご感想どうもありがとうございます。 |
15013 | 17:妹と兄 | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/4 20:22:57 |
記事番号15003へのコメント ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ ――17:妹と兄―― 目覚し時計が鳴響く。 振動音。 不快感を誘う。 しかしジンは一向に目覚めない。 アザラシの如き風体の男は、今もなおいびきを掻いて眠り続けている。 すべてを忘れ、ただ安息の地に居座り続ける喜び。それこそが至上の喜び。 しかし突如、楽園は失われた。 彼の部屋は爆破されたのだ。 閃光が空間を覆い尽くす。純粋なる破壊の意志が眠りから覚め、辺り一面を蹂躙した。 部屋の出入り口である扉は、文字通り消滅した。 それでも同じく爆発の猛威に晒されたはずの室内は、傷一つ負ってはいなかった。 しかし、それはこの部屋があらゆる攻撃を無力化するほどの耐久性を持つがためのことであって、爆発のエネルギーは確実にこの部屋に放出されている。 そしてその威力は、下等な魔族ならば一撃で葬り去れるほどのものである。 だが、部屋の主は眠っていた。 それを見て、この爆発を引き起こした張本人たる一人の少女は、消滅した扉の向こう側へ、起きなさいと強く叫んだ。 それでもジンは反応しない。少女はもう一度、攻撃を加えた。だが、今回も効果がなかった。 少女は諦めずに攻撃を繰り返す。十六度目の爆発が起こった直後、海王神官親衛隊隊長であるジンは自然に目を覚ました。 「何だよ。……俺が悪いってか」 食堂。ジンは起きるなり、その場所へと連れて来られた。 「そうよ。あんたがしっかりしてれば、こんな事態にはならなかったのよ」 少女はあまりにも遅い朝食を摂っているジンに鋭い言葉を投げ掛けた。 「でもなあ……お前が見張れば……」 「うるさい!」 恫喝。その勢いに飲まれ、ジンは怯んだ。 「全く。……馬鹿な兄を持つと苦労するわ」 そう少女はジンの妹に当たる。だがそれほど兄妹としての絆は強いわけではない。少なくとも、彼女はそうだと思っている。 「なあウォッカ……全責任は俺が」 彼女――ウォッカは海王神官親衛隊の隊員の一人だ。 つまりジンはウォッカの上司である。 だが冴えない顔と、無駄な脂肪の多すぎる身体、能天気な性格……上司の威厳など全く感じさせない。 その上、呑気に朝食を食べている様といったら……。 「ああ、もうっ! そんなことはどうでも良いのよ」 ウォッカはテーブルを思い切り強く叩き、立ち上がる。 「なら……」 「セフィード様がいなくなったのよ! 少しは心配出来ないの? 出来ないのね。薄情者だから。偽りの忠誠心しか持たない、クズだから……」 「おいおい待てよ。そんなこと言ったって……」 失踪することなど分からなかった――と言いたげな目付きだ。 「前からセフィード様が外泊を繰り返している事実は知っていたでしょう? それともそれさえ知らなかったの? どっちにしても責任者失格よ」 「おいおい……」 腹が立つ。 その態度。 状況を何ら理解しない。 魔族の汚点。 クズ。 こんなやつが兄。 認めない。 こんなクズは。 「本当ならここであたしが粛清したいくらいだわ」 ウォッカは殺意を湛えた視線を向ける。 ジンは脅えていた。確かに脅えていた。情けなさすぎる。 「ウォッ……カ……」 「本当にどうしようもない男だわ。セフィード様のことも知らずに眠り続けて……」 「でも……な。すぐに……戻って来るって……」 「そんな保証、どこにもないわ!」 どこへいかれたのかも知れないのよ――テーブルを激しく叩いた。 「わ、悪かった……」 「遅いのよ!」 セフィードは待機命令を出されていたにも関わらず、外出した。 外出したのだろう。 親衛隊長であるジンならば、阻止出来ていただろう。能力ではなく地位ゆえに。 だがその男はこんな日にも関わらず――眠っていた。 セフィードは本当に戻って来るのか? (……帰って来ないかも知れない) そんな予感。 ウォッカは涙に濡れていた。 それからしばらくして、魔竜王区からの連絡があった。 ウォッカはセフィードがいないことを告げた。 ジンは妹と別れるなり、舌打ちした。 (何を偉そうに……) 自分も何も出来なかったというのに。 だが、昼間まで寝ていたのはまずかったな……それだけは反省することにした。 とはいっても、妹への怒りが止むわけではない。まだ心は落ち着いていない。 やはりウォッカにも責任はある。 主を想う気持ちがあるのならば、自分で見張るくらいのことをしてみろ。 それに責める相手も間違っている。責めるべき相手は……失踪した海王神官であり、そしてウォッカ自身だろう。 自分が悪いとは少しも考えていない。傲慢すぎる。 ああ、怒りが膨れ上がって来た。 ジンは自室へと歩みを進めた。 海王宮はかなり巨大な建造物である。迷宮というほどではないが、細長い回廊というのものは、どうにも迷路を連想させる。 だが道順を知らぬわけではない。ジンはすでに海王宮を知り尽くしている。 確実に順路を進み、考えごとをするがため自室へと……。 細い廊下。角を曲がる。まだ細い廊下。 そしてもう一度、角を曲がろうとした瞬間、 ゴツン! 何かにぶつかった。 ジンは自然とぶつかった対象を睨みつけていた。 これも怒りのせいだ。 だが、すぐに後悔することとなった。 「ごめんなさい」 そう言ったのは、漆黒のドレスを身に纏い、艶やかな黒髪を有した美しき美女。 「あ」 ジンは呆然となった。 彼女こそが海王ダルフィン。 「あ……すみません」 顔が曇ってゆく。 まずいことをした。 汗が身体中から這い出して来る。 何ということを……。 「良いのよ」 だがダルフィンは笑顔を見せてくれた。 「つまらないことにこだわるものじゃないわ」 「あっ……」 海王は過ぎ去った。 彼の主のさらに上に属する大魔族は、一言を残し去っていった。 そういえば彼女は知っているのだろうか? ジンは思った。 海王ダルフィンは、セフィードの失踪を知っているのだろうか。 いや知っていても、大したことと思ってはいないのかも知れない。 そうだ! 失踪しただけだ。 けして滅びたわけではない。 そうだ。心配することも必要だが、安心することも大事だ。 そうだ。深刻になり過ぎていたようだ。 ジンは安堵を取り戻した。 同時に怒りも消え去っていた。 ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ |
15014 | 18:ノーチェと永遠の虚無 | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/4 20:26:16 |
記事番号15003へのコメント ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ ――18:ノーチェと永遠の虚無―― 世界暦3978年七月六日午前。作戦開始から地上時間で二十日経過。 すべてを包む闇の雲。 ノーチェは、黒雲を出現させた。 世界に不吉な予感を与え、同時に自らの力を誇示する。 セイルーンに近い、とある森に彼女はいた。 静かで美しい森だが、一瞬にして魔に喰われてしまった。 微かに注いでいた聖なる光も、大いなる闇の前に消え去った。 静寂。命すらも感じられぬ静寂。 だが、これで良いのだ。 これで良いのだ。 彼女の主は――フィブリゾはこれを望んでいる。 どれだけ経てば連合軍は訪れるのだろう。魔族を忌諱する知的種族達によって構成された連合軍。数百万、数千万にも及ぶとされる連合軍は……。 彼女は滅びる。 すでに、自覚していた。 命など、捨てても良かった。 そういえば、すべてが終われば、どうなるのだろう。 ふと、ノーチェはそう考えた。 滅び。その先は……一体何なのだ。 思えば、魔族の目的とは、世界の滅びなのだ。 だが、その目的を達成すればどうなるのだろう。 虚無など、想像出来ない。覚めない夢など、どうして想像出来ようか。 たとえ、輪廻転生と呼ばれるものが存在しても――そんなものは存在しないと思っていはいるが――すべてが滅びれば関係がない。 それを考えると恐ろしくなる。 ひどく、恐ろしくなる。 だが、すべてが滅びれば、確実に永遠の虚無が訪れるはずだ。 永遠の虚無。やはり、全く想像出来ない。 止めよう。 そう思った。 考えても、仕方がない。もうすぐ会えるのだ。その永遠の虚無とやらに……。 静かに待った。待ち続けた。 恐怖は薄れていった。 時だけが、流れる。 ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ |
15015 | ――19:セフィードの涙―― | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/4 20:41:17 |
記事番号15003へのコメント ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ ――19:セフィードの涙―― 七月六日午後。 セフィードは命令を破り、無断外出をしていた。 ジンやウォッカにはどう思われるだろうか。心配するだろうか? もしかしたら喧嘩でもするかも知れない。責任の擦りつけ合いなどで……。 全く、馬鹿なことをしたものだ。 彼は、一国の実権を握っていた。そしてその国を、繁栄させようと考えていた。 当然、魔族にとってそれはゲームに過ぎない。つまり、セフィードはゲームに夢中になっていたのだ。 ちなみに、その国はかなりの力を持っていた。名を、ハーディヌスと言った。 元々セフィードは、ハーディヌスに予言者として訪れていた。 その国は他国を軍事力で圧倒し続ける強国であった。 またその国の王は死に近付いており、王位継承問題が発生していた。 第二王子が第一王子を密室で殺害し、その直後に王が病死した。そのため第二王子が王位を手にすることとなったのだが、そこへある男が現れた。 その男の名は、モルワイデ・タ・ラ・ファイロヴァンス。亡国の貴族であり、探偵でもあるという。 銘探偵を自称する彼は、密室殺人事件を解き明かし、第二王子の殺人者としての素顔を晒しめた。 だが第二王子は犯行を認めはするものの、その行為を無理矢理正当化した。 世間は納得しなかったが、第二王子ウィンヒルは王位を継承した。 ウィンヒル王による独裁政治は、まさしく恐怖政治と言えた。国民を絶対的な力によって握り潰し、過剰なまでの秩序を重んじた。 それはまさしく、四千年前に滅んだ魔王シャブラニグドゥが造り上げたとされる究極の質実主義よりも、なお非情なものであった。当然、魔王の政治内容を知るものなどハーディヌス国民には誰一人としていないのだが、ウィンヒルは魔王と呼ばれていた。 魔王ウィンヒル。彼の率いる軍隊は、魔族と同等なほどに恐れられた。彼は読唇だが、女性には全く興味を持たず、婚姻さえしていなかったため、戦と支配こそが伴侶とまで言われたほどだ。 血を愛す魔王。ウィンヒルの悪名は凄まじい。それだけ恐れられていたのだ。 反乱は何度か起こったが、どれも圧倒的な武力によって鎮圧された。 そしてその頃になってセフィードは、王城へ招かれた。ウィンヒル王の側近であり、彼が唯一心を許した元第四王子、エルウォルネスによって。 エルウォルネスはセフィードの正体を見抜いていた。王などよりもよほど恐ろしい男だと思えた。 セフィードもまた側近として待遇された。 そしてセフィードの魔力が加わり、武力は一層高まった。 二人の兄弟を始めとする王の親類達は、皆反逆者として討伐された。 王はそれからというもの、他国の侵略に明け暮れていた。否、すでにそれは王の意志などではなかった。 この国の王は、すでにセフィードの傀儡と化していた。 彼の魔力と、王の権力により、数多の戦争に勝利していった。 すでに版図は、相当膨れ上がって、膨大な力を持っていた。 そろそろウィンヒルにとって変わろうか? 地上に溢れているデーモンなど何の問題ともならぬ。彼は高位魔族なのだから。 セフィードは、随分ゲームに熱中していた。それは、魔族の運命から逃れんとしていただけなのかも知れない。 カタート攻撃よりも、魔族のゆく末よりも、ゲームの方がずっと大事に思えていた。 戦場に赴くこととなった兄。今頃彼は何をしているのだろうか。 「ねえ」 スィヤーフは、王に話し掛けた。 「…………」 王は沈黙を続けている。さながら人形であった。 すでに無用な言葉は吐かぬ。必要時にのみ、限られた言葉を発する人形だ。 すでに魔王と言う名は似合わない。セフィードは微かに笑った。 七月七日午後。 その時、セフィードは追い詰められていた。 その日に、すべての終わりを迎えようとしていた。 それは、たった一人の男であった。 だが、たった一人に、追い詰められてしまった。 沈黙の城内。黒衣の騎士が、彼に迫っている。金色の剣を持った騎士が……。 すでに、王と側近は始末された。 このままでは彼の夢が藻屑と消える。 すべてが消滅してしまう。 敵は恐ろしい。とてつもなく恐ろしい男だ。 高位魔族であるセフィードさえも、恐れ戦いている。 もしや、連合軍自体よりも、この男一人の方が、より脅威となるのかも知れない。 壁に追い詰められ、剣を突き付けられた。男は無言で威圧する。 その状況で、セフィードは後悔した。 (兄様……) 兄には、悪いことをし続けた。 今さら、あの叩き落された薔薇くらいでは、許してもらえないだろう。 謝りたい。 最期に謝罪したい。 本当に後悔している。 本当に後悔している。 他のことなど、どうでも良い。 ……とにかく謝りたい。 「さあ、これで終わりです」 男は言った。 (兄様……ごめん……なさい……) 結局、謝罪は心の中。 涙が滴り落ちると同時に、消え去った。 滅びの淵にて、セフィードは、魔族にも兄弟愛が存在するということを完全に悟った。 七月七日この日、ハーディヌス王家の血は完全に絶えた。 ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ |
15018 | 黒衣の騎士はやはり黒馬に乗るのかな。 | エモーション E-mail | 2003/9/4 22:28:50 |
記事番号15015へのコメント こんばんは。 いよいよ始まった降魔戦争。 滅びを認識しつつも、主たるフィブリゾくんの計画通り行動しているノーチェさん。 滅びの恐怖を感じつつも、ある種、悟り(?)を開いて静かにその時を待つ彼女を 見ていて、何故か「生け贄の乙女」と言う言葉が頭に浮かびました。 そして、いきなり失踪したセフィードさん。一体どうしたのかと思ったら…… > 彼は、一国の実権を握っていた。そしてその国を、繁栄させようと考えていた。 > 当然、魔族にとってそれはゲームに過ぎない。つまり、セフィードはゲームに夢中になっていたのだ。 「シムシティ(古っ!)」ならぬ「シムキングダム」ですか……。 今だと「三国志」とか「サッカーチームを作ろう」みたいなものでしょうか。 今回のアトリエシリーズも、ある意味似たようなものですが。(錬金術で村おこし……) セフィードさん、実はやりこむタイプだったのですね。(←おいっ!) 閑話休題 さて、ハーディヌスという国は、何だかある意味「魔族より魔族らしい」国王に 率いられた国、なんですね。 魔族としても、やはりつけいりやすくて、そういう意味では楽なのかもしれませんが。 放っておいても自ら勝手に滅んだだろうとは思うものの、最初はともかく、 最後はもう完全にセフィードさんの傀儡となってしまっている辺りは、 ただ、ため息をつくだけですね。 それにしても…… > その男の名は、モルワイデ・タ・ラ・ファイロヴァンス。亡国の貴族であり、探偵でもあるという。 > 銘探偵を自称する彼は、密室殺人事件を解き明かし、第二王子の殺人者としての素顔を晒しめた。 この方、私の脳内では、もうビジュアルがマンガ版のあの方(笑)に 固定されてますが、謎を解いた後、無事だったのでしょうか?(汗) モデル同様の頃され方されていたら、嫌だなあ……(滝汗) ラストに現れた黒衣の騎士……ダ○ューン卿(笑)……じゃなくて、 以前出てこられた方でしょうか。 すみません。ちょっと記憶があやふやになっています。(後で読み返してこよう) 仮にも高位魔族を追いつめて滅ぼすのですから、かなり強い方ですよね。 兄のスィヤーフさんへ謝りながら滅んだセフィードさん。 多少なりとも、それがスィヤーフさんに届いたらいいのに、と思いました。 今日の投稿分はキャラが滅んでいく序章、といったところでしょうか。 さすがに降魔戦争だけに、仕方のないことなのでしょうけれど。 なんとなく「銀英伝」の8〜10巻をふとイメージしました。 この後、登場する方々のどんな思いや行動が見られるのかな、と思っています。 それでは、続きを楽しみにしつつ、今日はこの辺で失礼いたします。 |
15023 | Re:黒衣の騎士はやはり黒馬に乗るのかな。 | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/5 19:26:45 |
記事番号15018へのコメント >こんばんは。 こんばんは。 > >いよいよ始まった降魔戦争。 あまりにも前置きが長すぎたような気もしますねえ。ようやく本番というところです。 > >滅びを認識しつつも、主たるフィブリゾくんの計画通り行動しているノーチェさん。 >滅びの恐怖を感じつつも、ある種、悟り(?)を開いて静かにその時を待つ彼女を >見ていて、何故か「生け贄の乙女」と言う言葉が頭に浮かびました。 境遇的には似てるような。まあ無抵抗な乙女ではないでしょうけど。 > >そして、いきなり失踪したセフィードさん。一体どうしたのかと思ったら…… > >> 彼は、一国の実権を握っていた。そしてその国を、繁栄させようと考えていた。 >> 当然、魔族にとってそれはゲームに過ぎない。つまり、セフィードはゲームに夢中になっていたのだ。 > >「シムシティ(古っ!)」ならぬ「シムキングダム」ですか……。 >今だと「三国志」とか「サッカーチームを作ろう」みたいなものでしょうか。 >今回のアトリエシリーズも、ある意味似たようなものですが。(錬金術で村おこし……) ええ、その手のシミュレーションゲームを意識しつつ書きました。 >セフィードさん、実はやりこむタイプだったのですね。(←おいっ!) 結構はまってるみたいですねえ。 私はこういうゲーム苦手みたいですけど。 > 閑話休題 >さて、ハーディヌスという国は、何だかある意味「魔族より魔族らしい」国王に >率いられた国、なんですね。 そうなりますねえ。魔族よりよっぽど性質が悪いでしょう。 >魔族としても、やはりつけいりやすくて、そういう意味では楽なのかもしれませんが。 初心者モードでしょうかね(笑)。 >放っておいても自ら勝手に滅んだだろうとは思うものの、最初はともかく、 >最後はもう完全にセフィードさんの傀儡となってしまっている辺りは、 >ただ、ため息をつくだけですね。 完全に玩具状態でしね。 > >それにしても…… >> その男の名は、モルワイデ・タ・ラ・ファイロヴァンス。亡国の貴族であり、探偵でもあるという。 >> 銘探偵を自称する彼は、密室殺人事件を解き明かし、第二王子の殺人者としての素顔を晒しめた。 > >この方、私の脳内では、もうビジュアルがマンガ版のあの方(笑)に >固定されてますが、謎を解いた後、無事だったのでしょうか?(汗) >モデル同様の頃され方されていたら、嫌だなあ……(滝汗) 確かにありえなくもないですね。 私は、黒い鳥の名前のタイトルの方のあの方なイメージですから、さらりと去っていったと思っていますが。 > >ラストに現れた黒衣の騎士……ダ○ューン卿(笑)……じゃなくて、 >以前出てこられた方でしょうか。 ええその通りです。 >すみません。ちょっと記憶があやふやになっています。(後で読み返してこよう) すみません。今までのあらすじ書こうと思ったけど忘れてて……。 >仮にも高位魔族を追いつめて滅ぼすのですから、かなり強い方ですよね。 そりゃあもう強いです。降魔戦争編にはこういう無茶苦茶に強いやつを出そうとずっと前から思っていましたし。 >兄のスィヤーフさんへ謝りながら滅んだセフィードさん。 >多少なりとも、それがスィヤーフさんに届いたらいいのに、と思いました。 謝りたい人に死なれてしまったら悲しいだろうなと、幼い頃にふと思ったことがありまして、そんな心境をイメージして書いてみました。この場合は逆ですが。 > >今日の投稿分はキャラが滅んでいく序章、といったところでしょうか。 >さすがに降魔戦争だけに、仕方のないことなのでしょうけれど。 やはり戦争ものとなるとキャラの死は避けられぬ運命ではないかと。 >なんとなく「銀英伝」の8〜10巻をふとイメージしました。 実はこれ以降、「銀英伝」を意識した箇所もあったりします。8〜10巻となると未読になるかと思いますけど。 >この後、登場する方々のどんな思いや行動が見られるのかな、と思っています。 次回投稿は今日か明日を予定しております。 > >それでは、続きを楽しみにしつつ、今日はこの辺で失礼いたします。 ご感想本当にどうもありがとうございます。 それではこれで…… |
15024 | 20:天界の神族 | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/5 20:50:15 |
記事番号15003へのコメント ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ ――20:天界の神族―― 地上ではデーモン達が壊滅状態に追い込まれたが、この騒ぎは壮大なる戦いの前奏曲にすぎぬであろう。神族の誰もがそう確信していた。 「どういうことだ!」 天空神族軍居住界域――通称天界(訳注:この略称は日本語翻訳時に作成した略称であり、実際の略称ではない。魔界という略称も同様である) 巨大な都市のその一区画。 「白亜の宮殿」内部のその中心――神王の間で、美貌の神族、アドリアンは焦っていた。 そして、憤りに焼かれていた。 真っ白の部屋には王座があり、王座の前にはコンピュータを置いた台がある。ただそれだけの部屋だ。 天界五神の一人であり、同僚のティディアスと並んで猛将と名高いアドリアンは、コンピュータに向かい、水竜王から届いたメールに目を通していた。 くだらない無駄な文章の後に、『我々は、天界の力を借りる意志はない。兵力は温存しておけ』との言葉。 なぜなのだ? なぜなのだ? 「間違いない。大事態が起こるはずなのだ。なのに、なぜ我々を頼らない!」 各地の竜族などは召還しているが、神族の干渉は拒んでいる。 なぜなのだ? なぜ頼らない? 無断で軍を出そうかと思った。だが、それは許されざる行為だ。神族の最高位――火竜王、水竜王、地竜王、天竜王――の内の一人以上に、許可を得なければならない。 見守るしかないのか? (ふざけるなよ!) アドリアンは、思わずディスプレイに癇癪をぶつけた。 仕方がない。 軍を率いることが出来ぬのならば、単独で戦地へ赴こうではないか。 美貌の英雄アドリアンは、そんな考えを持ち始めた。 ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ |
15025 | 21:夜明けの闇 | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/5 20:55:21 |
記事番号15003へのコメント ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ ――21:ノーチェ、夜明けの闇―― 七月七日午後。 静かな森に、気配が生まれた。 集団ではなく気配は一つ。 (まさか!?) 気配の方向へ向き直る。 目を凝らして、闇の奥を見た。 人影があった。 それは光を纏っていた。 金色の輝き。あまりにも美しく、そして力強い。 (嘘!?) ノーチェは我が目を疑った。だが闇の中でも見通す瞳は、けして嘘を吐かない。 夢……でもなさそうだ。 正体は間違いない。彼だ。 ノーチェの顔が、綻んだ。 「どうも、こんにちは。……またお会いしましたね」 声がする。それは、彼女の記憶と合致した。 「ええ、こんにちは」 笑顔で、言葉を返す。 違和感が生じたが、敢えて気にはしなかった。 黒衣の騎士。あの雨の日に出会った男。 彼は剣を抜いていた。その剣が世界を照らしている。それはまさしく金色の剣。 ノーチェは緊張し出した。 「あの……」 「ソブフです。……ソブフ・ガブリエラ」 ついに名前を知ってしまった。 ……ソブフ。その名前を心に深く刻み込む。 ソブフは、ノーチェのすぐ近くにまで来ていた。 「私は……ノーチェと申します」 「なるほど……美しいお名前です」 「それは……どうも」 顔に熱を感じていた。赤く染まっていることだろう。 禁断の妄想が展開する。 言葉は、失われたようだ。 「どうしました?」 心配してか、訊いて来る。 彼女は何とか、 「いっ……いえ」 何とか、返事をした。 「緊張の必要は、ありませんよ」 「あっ……はい、すみません」 唇が震えていた。言葉を紡ぐのも、一苦労だ。 「こちらこそ……無理に話し掛けてしまって……」 ノーチェよりも先に、ソブフが頭を下げていた。 「そんなことありません」 ノーチェがそう言うと、 「ありがとうございます」 ソブフは頭を上げた。 「少し、歩きましょうか」 それから彼はそう言った。 「え、ええ、そうですね」 ノーチェが受け答える。 二人は静かに歩み出した。 暗い森。 だがソブフの剣はその闇を切り裂き、世界を明るく照らしている。 「無気味ですね」 「え……あっ、はい。そうですね」 まさか暗いのは自分の仕業とは言えまい。 それにしても、自分がなぜここにいるのかを訊かないのだろうか? こんな暗い 森の中に少女が独りという構図はおかしい。 だがソブフは訊いて来なかった。ノーチェはそれを嬉しく思った。 (……優しい人) 彼が好きだ。彼を愛したい。どうせこれから滅ぶのだから、それくらいは許されるのではないだろうか? 主に愛されぬのならば、せめてソブフには……。 「それにしても……森というのはいつ見ても良い」 「そう……ですか?」 ノーチェが訊くと、ソブフは興奮気味に、 「生命の尊さを身で示す美しい木々、時折聴こえる生命の鼓動、まさしく大自然! ……ああ、失礼」 「い、いえ……」 正直ノーチェは息苦しかった。魔族にはこちらの世界での生命を賛美する言葉が、苦痛に感じられる場合がある。 それからしばらく歩き、やがて二人は休憩を取ることとなった。 二人は大きな木の根元に座る。 しばらく静かな時間が続いた。 だが、彼女には至福の時だった。 森のメロディが、甘い妄想に火をつける。そして風が拍車を掛ける。 甘美な世界に、ノーチェはずっと浸っていた。同時に、それを必死で隠していた。 「ところで……」 不意に、メロディが止んだ。そう思えた。 ソブフが、会話を切り出した。 それは、口調からして、真剣なものだと推測出来る。 何? 不安と、期待が入り混じる時。 「あなたは、運命というものを、どのようにお考えですか?」 え? 「どういう……意味でしょうか?」 その言葉は、出来るだけ柔らかい口調を持たすよう心掛けた。 「あなたの、運命に対する考えですよ」 ノーチェは、しばし考えてみた。 運命。運命。運命といえば……。 ……あなたと私の出会い、さすがにそれは言えない。 「いえ……」 「私は、あなたを出会えたのが、運命的だと思っていますよ」 え? またもや、驚かされた。 「それは……どういう……」 顔が、一層赤味を増す。 「ノーチェ、ソブフ。夜と朝。これほどまでに象徴的な名です」 思えばそうかも知れないが、だが……。 「夜と朝は、二つで一つ。夜と朝はともに存在する必要があるのです」 ということは……。 「まあ、夢を見過ぎかも知れませんが」 それは、むしろノーチェに相応しい言葉だろう。彼女は、妄想をなお膨らませていた。 「ところで……」 しばらく経って、また話題が切り出された。 ノーチェは、脳内の妄想を強制終了させ、現実に帰還し、次の言葉を待った。 「……なぜ私が、あなたに会いに来たか、お分かりですか?」 ソブフはそう言って立ち上がる。 どういうことだ? さっき言った、運命とやらではないのか? 違うのか。 自分の予想というものがほとんど当たったことのないノーチェは、違うのだろうと思った。 「いえ……分かりません」 そう答えた。 「そうですか……」 ソブフは、残念そうな顔をしていたように思える。 「私が、あなたに接触した理由は……」 その瞬間。 ノーチェは……現実を疑っていた。 刃。 刃が自分の腹部に、突き刺さっている。金色の刃だ。 それは、ソブフが自分に突き刺しているのだ。 理解は……出来た。 だが…… (まさか……) 「ノーチェさん。あなたの夜は、私の夜ではない」 確かにそうだ。ノーチェとソブフは、夜と朝を意味するが、言語の種類が違う。 ノーチェは旧大陸西方(訳注:スペイン語とほぼ同一)語、ソブフは旧大陸南方(訳注:ペルシャ語とほぼ同一)語だ。 だから、けして相容れない。 つまり……敵だと言いたいのか? いいや、これは夢だ。 これは夢だ。 これは夢だ。 これは夢だ。 これは夢だ。 これは夢だ。 これは夢だ。 これは夢だ。 これは夢だ。 これは夢だ。 これは夢だ。 これは夢だ。 これは夢だ! 「嘘……でしょう……」 ノーチェから、一気に涙が溢れた。 裏切られた? そんなはずはない! 「嘘ではありません。私はあなたを滅ぼすために、ここに来た」 これは夢なのだ。 「私は、あなたに好まれるよう意識しつつ接触しました」 これは夢に違いない。 そうだ。夢に違いない。 目覚めれば、平穏な日々が待っている。 冥王フィブリゾ、アマネセル、スィヤーフ、セフィード……皆が目覚めを待っていてくれる。 そうだ。そうに違いない。 楽しい一日がこれから始まろうとしているのだ。 そんな小さな期待を抱いて、ノーチェは滅び去った。 だがこれで、気になっていた永遠の虚無を感じることが出来るのだ。 そして、愛したものに滅ぼされたのなら、これこそ至上の幸福なのかも知れない。 「……あなたは愚かだ。恋愛を繰り返していたのも、その点では妹に負けないため。くだらない! 単なる劣等感が、あなたの尊い命を奪った」 最後にアマネセルの姿が浮かんで消えた。 そうだ。ノーチェは劣等感を消すために、必死で恋愛を繰り返していた。 私は馬鹿だった。 私は愚かだった。 ああ、簡単に相手を信じてしまうなんて。 迂闊すぎた。 だが、今さら悔やんでもどうしようもない。 ノーチェという存在が完全に分解され、永遠の虚無の元へと還ってゆく。 ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ |
15035 | ソゾフさんって…… | エモーション E-mail | 2003/9/7 21:48:12 |
記事番号15025へのコメント こんばんは。 何故か動く事を禁止する竜王たちに、苛立ちを覚えるアドリアンさん。 不可解と言えば、不可解ですよね。確かに。 水竜王のもくろみはとんでもない代物とはいえ、他の竜王たちが動かないのには、 何か理由があるのでしょうか。 そしてノーチェさん……(TT) 簡単に言えば「色仕掛け(苦笑)で手玉に取られて、とどめを刺された」んですね。 ソゾフさん……目的のためなら、取れる手段は全部割り切って取る方ですね(汗) それにしても、午前中はセフィードさん、午後はノーチェさんと、連続して 高位魔族を倒すって……。凄すぎ……。 何気に忙しく動いている方ですね、ソゾフさんって……。 本当に人間なのですかと、言いたくなります。 ゼロスあたりとは戦ったら、どうなるのかな、とふと思いました。 >「……あなたは愚かだ。恋愛を繰り返していたのも、その点では妹に負けないため。くだらない! 単なる劣等感が、あなたの尊い命を奪った」 ソゾフさんは多少なりとも、ノーチェさんを不憫だと思ったのでしょうか。 > そうだ。ノーチェは劣等感を消すために、必死で恋愛を繰り返していた。 ノーチェさんは「誰かにとっての一番」、「特別」になりたかったのですね。 それで恋愛を繰り返す、というのは悲しいものがあります。 > 私は馬鹿だった。 > 私は愚かだった。 > ああ、簡単に相手を信じてしまうなんて。 > 迂闊すぎた。 恋愛ってそういうものだと思いますが。 あとから振り返ってみると、普段ならやらないような、自分は馬鹿かもしれないって、 思うようなことをしてしまいますから。 もちろん、一応相手と自分をひととおり、見て判断することの出来る方もいますが、 ノーチェさんはまったく周囲が見えなくなる、のめり込んじゃうタイプなのですね。 そして、それが滅ぶ結果になった……。悲しいですね。 楽しんで読ませていただきました。 予定にあったとは言え、滅んでしまったノーチェさんですが、彼女がこの時点で 滅んだこと、そして、もしかしたら予定外に滅んだのかもしれないセフィードさんのこと。 この7月7日の午前と午後に起きた二人の高位魔族の滅びは、フィブリゾ様の計画に、 また、他の魔族達にどんな影響を与えるのでしょうか。 ソゾフさんの正体も気になります。 それでは、少々駆け足気味なコメントかもしれないですが、この辺で失礼します。 続きを楽しみにしています。 |
15044 | Re:結構お気に入りだったり(ソブフ) | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/8 21:56:43 |
記事番号15035へのコメント >こんばんは。 こんばんは > >何故か動く事を禁止する竜王たちに、苛立ちを覚えるアドリアンさん。 >不可解と言えば、不可解ですよね。確かに。 >水竜王のもくろみはとんでもない代物とはいえ、他の竜王たちが動かないのには、 >何か理由があるのでしょうか。 そこまで特別な理由はないです。他の竜王が動かないのは、単に水竜王が自治権(みたいなものかな)を行使したからとかそういう理由でしょう。 > >そしてノーチェさん……(TT) >簡単に言えば「色仕掛け(苦笑)で手玉に取られて、とどめを刺された」んですね。 つまりはそうなりますね。 >ソゾフさん……目的のためなら、取れる手段は全部割り切って取る方ですね(汗) >それにしても、午前中はセフィードさん、午後はノーチェさんと、連続して >高位魔族を倒すって……。凄すぎ……。 なかなか真似の出来ることではないですよね(いや絶対無理だって) >何気に忙しく動いている方ですね、ソゾフさんって……。 日本人気質?(笑) >本当に人間なのですかと、言いたくなります。 一応人間。しかしただの人間ではないというところでしょうね。 >ゼロスあたりとは戦ったら、どうなるのかな、とふと思いました。 結構良い勝負になるかも知れないです。 > >>「……あなたは愚かだ。恋愛を繰り返していたのも、その点では妹に負けないため。くだらない! 単なる劣等感が、あなたの尊い命を奪った」 > >ソゾフさんは多少なりとも、ノーチェさんを不憫だと思ったのでしょうか。 どうでしょうかね。ソブフ君の内面はあえて書かないようにしていますから。 > >> そうだ。ノーチェは劣等感を消すために、必死で恋愛を繰り返していた。 > >ノーチェさんは「誰かにとっての一番」、「特別」になりたかったのですね。 >それで恋愛を繰り返す、というのは悲しいものがあります。 どんなものでも良いから一つだけは一番になりたいって思いは結構あるんじゃないかなあと思います。 確かに、それを恋愛で……というのには哀しさを感じます。 > >> 私は馬鹿だった。 >> 私は愚かだった。 >> ああ、簡単に相手を信じてしまうなんて。 >> 迂闊すぎた。 > >恋愛ってそういうものだと思いますが。 >あとから振り返ってみると、普段ならやらないような、自分は馬鹿かもしれないって、 >思うようなことをしてしまいますから。 多分そうなんでしょうね(恋愛未経験者)。 >もちろん、一応相手と自分をひととおり、見て判断することの出来る方もいますが、 >ノーチェさんはまったく周囲が見えなくなる、のめり込んじゃうタイプなのですね。 >そして、それが滅ぶ結果になった……。悲しいですね。 この場合「悪い男に騙された」なんてものじゃないですからね。 > > >楽しんで読ませていただきました。 それは何よりのことです。 >予定にあったとは言え、滅んでしまったノーチェさんですが、彼女がこの時点で >滅んだこと、そして、もしかしたら予定外に滅んだのかもしれないセフィードさんのこと。 >この7月7日の午前と午後に起きた二人の高位魔族の滅びは、フィブリゾ様の計画に、 >また、他の魔族達にどんな影響を与えるのでしょうか。 >ソゾフさんの正体も気になります。 その辺りは、じわりじわりと明らかになっていくと思います。 > >それでは、少々駆け足気味なコメントかもしれないですが、この辺で失礼します。 >続きを楽しみにしています。 良きコメントをありがとうございます。 それではこれで……。 |
15026 | 大体のあらすじ(本編二章まで) | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/5 21:39:51 |
記事番号15003へのコメント 大体のあらすじ 水竜王が恐ろしいことを企んでいるらしい。人類を絶滅させ、同時に人間の心に封じられた魔王を消滅させてしまおうとしているらしいのだ。 冥王フィブリゾを始めとする高位魔族達は対策を練った。 解決策は一つしかないと思えた。つまり水竜王を倒すのである。 水竜王を倒すには、魔王シャブラニグドゥの力が必要だ。四千年前に人の心に封じ込められた魔王が。 高位魔族達は結果的に魔王を心に封じた人間を見つけることに成功した。レイ・マグナスという男である。高位魔族の一人、ゼロスはレイ・マグナスを捕獲することに成功した。 また高位魔族達は、魔王を見つけ出すため――人々の心に負の感情が芽生えれば芽生えるほど、魔王は発見しやすくなる――に滅びの予言などを駆使し、世界を乱戦の渦に巻き込んでいた。人間達は大規模な争いを繰り返している。 高位魔族達は、魔王を見つけ出したし、計画を新たなステップへ進めた。つまり水竜王を倒すための作戦についてである。 この作戦は「解毒(デ・トックス)」と呼ばれた。 「解毒」作戦の内容が魔族全体に公表される。 そして作戦が開始されようとしていた。 またこの間にも、様々なことが起こっている。 海王将軍スィヤーフと海王神官セフィードが喧嘩をし、スィヤーフが海王ダルフィンに折檻された。セフィードは自分が悪かったと思い、スィヤーフに彼が大好きな黒い薔薇を箱に入れてプレゼントしようとしたが、中身を見るよりも前に叩き落された。 冥神官ノーチェが素敵な男性に出会ったとの話もある。 魔竜王ガーヴが謎の男に出会い、戦って敗れた。 覇王将軍ノーストは、ヴェノムと呼ばれる謎の人物の元を訪れていた。 彼らの未来は、彼らにはまだ分からない。 |
15056 | 登場人物表 | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/9 21:36:08 |
記事番号15003へのコメント 登場人物 名前:役職:初登場章:紹介 魔族サイド スィヤーフ:海王将軍:本編一章:薔薇と煙草を愛する黒衣の男。 セフィード:海王神官:本編一章:百合と悪戯を愛する銀髪の少年。スィヤーフの弟。 ダルフィン:海王:本編一章:セフィードに優しくスィヤーフに厳しい黒髪の貴婦人。 ジン:海王神官親衛隊隊長:史上最悪の作戦(めもりある):アザラシ男。 ウォッカ:海王神官親衛隊隊員:本編三章:ジンの妹。性格は結構キツい。 ノーチェ:冥神官:本編一章:恋多き少女。 アマネセル:冥将軍:本編一章:類稀な才能を持つ上、誰からも好かれる武人風少女。ノーチェの妹。 フィブリゾ:冥王:本編一章:魔族一の戦略家であり、狡猾残忍な性質を持つが、実際は心優しい少年である。 ゼロス:獣神官:本編一章:笑顔の似合う謎の神官。 ゼラス:獣王:本編一章:ゼロスの上司、普段は厳しいが、プライヴェートでは結構優しい。名前に意味は特にない。 ゼリア:猫:冷たい悪夢と獣達(短編):ゼロスが作った猫。だがゼロスには懐かず、ゼラスに懐いている。 ノースト:覇王将軍:本編一章:冷酷非常で狡猾な男。 シェーラ:覇王将軍:フィブリゾの誕生日:優しく健気な少女。フィブリゾが好き。ノーストの妹。 ネージュ:覇王女:本編一章(ただし名前のみ):故人。絶世の美女であり、覇王軍では特別な存在であった。ノーストの姉。 グラウシェラー:覇王:本編二章:優秀な戦術家。部下を道具として扱うが、その扱いの巧みさには右に出るものはいないという。 ラルターク:竜神官:本編一章:老練、老獪な男。執事としても優れている。 ヤウシナ:番兵兼召使い:史上最悪の作戦(めもりある):ラルタークの部下の少年。生真面目な性質。ちなみに名前の文字を並び替えたりしてみると…… ラーシャート:竜将軍:本編三章:経験豊富な将。あの口調は多分実際のものとは違うだろうが、気に入っているのでまあ良し。 ガーヴ:魔竜王:本編一章:魔族一好戦的で神族には随分恐れられている男。ソブフという男に破れ、猛特訓を始めた。 神族サイド ラグラディア:水竜王:本編一章:四竜王の一人。公式的には世界最強の存在の一人。 アドリアン:天界五神:本編三章:美貌の猛将。ちなみに名前は、ルビンスキーではなくゲーム小説「風よ。龍に届いているか」に出て来て来る謎の男アドリアンから取った。 ティディアス:天界五神:フィブリゾの誕生日(誕生日シリーズ、ただし名前のみ):最強の神族にして蛮勇。ちなみに名前の文字を並べ変えたりしてみると…… 人間サイド ウィンヒル:ハーディヌス国王:本編二章(名前が出たのは三章):魔王とも呼ばれる最悪の王。名前の由来は分かる人には分かる……はず。 エルウォルネス:ウィンヒルの側近:本編二章(名前が出たのは三章):ウィンヒルの弟。魔王ウィンヒル以上に恐ろしい男かも知れないらしい。 モルワイデ・タ・ラ・ファイロヴァンス:銘探偵:本編二章(名前が出たのは三章):銘探偵。とりあえず名前の方は気にしないでください。 ?サイド ヴェノム:?:本編二章?:謎の男。 ソブフ:?:本編二章:謎の剣士。その実力は高位魔族に匹敵するほど。 ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ 本編は、明日か明後日には続きを出すかと。 今、またミスを発見してしまったために、もう一度見直しをしていますから。 |
15062 | Re:ミスについて | オロシ・ハイドラント | 2003/9/10 01:30:15 |
記事番号15056へのコメント >名前に意味は特にない。 という記述はゼラスではくゼリアへのものでした。まあ些細なミスですね。 |
15068 | 22:闇色の宴 | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/10 18:11:30 |
記事番号15003へのコメント ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ ――22:闇色の宴―― スィヤーフ、アマネセル、ゼロスは地上に溢れたデーモン達の統率などをおこなっていた。出来るだけ正体を知られるように。 だが、デーモンはあらかた片付けられ、カタート付近の森にて、部隊の編成をしていた頃であった。 七月八日午前。 その報告を聞いた時、悲しくはあったが、驚きはしなかった。 アマネセルは事前に、それを見ていた。塔の上で、セフィードの話し合い、そして別れた直後、あの時に見た。 奇妙な図形。それはあまりにも緻密で、あまりにも巨大。 多数の線が中心に向かって進んでゆき、同時に左右が交わることもある。それによって図形が複雑になっていく。 さながら……蜘蛛の巣。いやそれ以上に複雑だ。 その図形が、彼女に未来を告げていた。ノーチェが滅びるという未来を。セフィードが滅びるという未来を。 彼女らへの報告は、冥王フィブリゾからのものであった。 まず冥神官ノーチェが滅びたこと。ノーチェが滅びた直後に、結界の拠点の最終点検をおこなっていた五人の王が、カタートへ向かい、攻撃を始めたこと。それに 海王神官セフィードが滅びたことであった。 ノーチェが滅びたのは予定よりかなり早くのことであった。 五人の王達は、すぐさまカタートを襲ったのだ。ノーチェの突然の滅びには驚いたが、それを解明することよりも、迅速に計画を進めることが大事だと判断したというのだ。実際はまだノーチェの元にすら辿り着いていないらしい。 予定は狂った。だが、作戦は変更しない。このままでゆけるはず。 カタートへ向かって来る連合軍を迎え撃つ役であるアマネセル、スィヤーフ、ゼロスは、陣形の完成を早めるよう言われた。 (……セフィード) スィヤーフは悔やんでいた。 弟が滅びてしまった。それは悲しい。 だが、それだけではない。 弟のプレゼントを叩き落としてしまったことを、謝ることが出来なかった。 後悔している。 全く、だめな兄だ。 プレゼントの件だけではない。 セフィードに優しくしてやった覚えなど、今まで生きて来た数千年、数万年の時間の中でも数えるほどしかない。 ああ、何という罪深い兄であろうか。 スィヤーフは自身を責め続けた。 (姉……) こうなることは分かっていた。 作戦を聞いた時から薄々感づいていたし、それよりも前にあの図形が示してくれた。 それでも自分は何も出来なかった。 彼女を守る騎士であるべきだったのに……。 大将格である三人の内の二人がそのような状態であったにも関わらず、準備は着々と整っていった。 元々カタート周辺にいたであろう少数の隊に襲われたりもしたので手間取った。 それでも、その次の日の夕刻には何とか納得のいく陣形が出来上がった。 その間もカタートでは激しい戦いが続いていたらしい。五人の王は圧倒的な力でカタート残留軍を押しているが、敵兵力が多すぎるため、まだまだ戦い始まったばかりというところだ。 陣形が完成した頃には、連合軍の主力部隊の一つ、竜戦士部隊が到着したが、しばらくは睨み合いとなった。 相手は援軍が近付いてくるのを待っているのだと思われる。第一陣が敗れ掛けた頃に、第二陣が訪れるという様に、こちらに休息の暇を与えないようにするため。 七月十一日午後。 戦いを前にした高位魔族陣は休息を取ることにした。夜は安全だ。闇は魔族に味方するであろう。 恐らく、明日の朝には敵は動くのではないだろうかと思われる。 主力兵力の第二陣、第三陣も随分と接近して来ているのだ。 「いよいよ、だな」 三人は黄色い天幕の中にいた。明かりは薄い。 どうせ敵がまだ来ないことは知っているので、それほど警戒はしていない。 「そうですね」 ゼロスは明るい返事を返した。余裕が見られる。やはり強い。 スィヤーフはひどく緊張していた。 セフィードが滅んだというショックは覆い隠しているが、戦いというものに対する恐怖は、なかなか消すことの出来ぬものだ。 「……スィヤーフ。元気がないな」 「ああ、やっぱり恐えぜ」 本心を吐いた。恐ろしいに決まっている。 「そうだな。我も正直、恐い」 アマネセルが同じ気持ちだったのは驚いた。 「僕もですよ。でも恐がってばかりでは、いられませんしね。相手は数こそ多いものの、個々は虫ケラにすぎないのですから」 「それもそうだな」 やはりゼロスは強い。アマネセルもまた強い。 「……俺はやっぱり恐いな。たとえ烏合の衆でも、数というのは恐ろしい」 沈黙。雰囲気は限りなく暗い。 盛り上がるつもりでいたのだが、誰もが飲酒をする気にはなれなかった。 「なあ、スィヤーフ」 アマネセルが言った。 「何だ?」 「覚えているか?」 「何がだ?」 アマネセルは笑った。彼女の笑い顔は、あまり見られるものではない。美しかった。 「お前、ゼロスを好きになったことがあったよな」 スィヤーフは当惑した。 ゼロスは笑みを堪えている。 「ほら、あの時だ。恋文の……」 何のことだろう? 思い出せそうで、思い出せない。 「ラルタークのところで修行したよな。あれは凄かった」 「ああ、思い出したぜ!」 そうだ。あの時だ。 セフィード――今は亡き弟セフィードの、部下であるウォッカが手紙を持って来たあの時だ。 今となっては、スィヤーフ自身にとっても、ただの笑い話にすぎない。 「だがな。なぜお前がそんなことまで……」 「我には見えるのだ。どうも見えてしまう時が、まれにあるのだ」 「見える?」 ゼロスは今も笑っている。 「そうだ。見える。なぜだか知らんが……見える」 理解が出来ない。 見える、とはどういうことだ? スィヤーフには自分の視界にあるもの以外のものが、見えたことなど一度もない。 「まあ良い。ところでゼロス」 「はっ、はい」 アマネセルはゼロスに視線を向けた。 「見回りにいってやれ。差し入れには酒が良い」 「お酒……を?」 「そうだ。全軍に振るまってやれ。だが酔い潰さぬほどにな」 「あ、はい。分かりました」 ゼロスは天幕を抜け出て、夜の森に繰り出していった。 「さて」 スィヤーフに視線が戻る。 「言ってもらおうか」 「へ?」 アマネセルの言葉の意味が分からなかった。 「何を言うんだ?」 するとアマネセルは真剣な顔付きで、 「姉でもゼロスでもない。お前が好きな女の名を言うんだ」 しばし躊躇した後、スィヤーフはその名前を言った。 (……馬鹿な男だ) 気付いていた。遠い昔から気付いていた。 彼女は、それに対してどうも思わなかったため、今まで動きを見せはしなかったが、気付いていたことには変わりがない。 スィヤーフが本当に好きなのは、アマネセル自身に違いない。 |
15069 | 23:アマネセルの秘密 | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/10 18:26:01 |
記事番号15003へのコメント ――23:アマネセルの秘密―― 七月十二日午前。 天幕を消し去り――当然、魔力で造り上げたものである――、高位魔族達も、所定の位置についていた。 敵軍はもうじき来る。 アマネセルとスィヤーフは、天蓋越しに空を見詰めていた。 ちなみにゼロスは森の西の方向にいる。 彼には二人とは別の役割があるのだ。 アマネセルとスィヤーフはすでに武器を構えている。 アマネセルは剣を、スィヤーフは黒い薔薇を持っている。スィヤーフは自身が最も愛す薔薇を武器として戦うのだ。 しばらくして風が鳴動し、金色の光が宙より注いだ。 黄金竜と黒竜達は、一斉に吐息を吐き出し、森を蹂躙した。 同時に、竜の背に乗ったエルフやホビット(注:小柄な種族で敏捷性に長ける。絶滅種)達は、魔法の矢を多数発射して来る。 だが、魔族側にも引けを取らない戦力があった。 デーモン達が、多数の火の矢を吐き出して、それより若干上の魔族達も、黄金竜を打ち落とそうとしてゆく。 アマネセルの太刀筋から生まれた烈風が、空へと届き絶叫が響いた。 スィヤーフの薔薇からは、花粉の弾丸が撃ち出される。 竜族は圧倒的に不利であった。魔族は森に紛れ、的確に対空攻撃を放って来る。 竜族の犠牲はあまりに多数であったため、エルフやホビットが大地に降りて、竜がひとまず退却という状況になった。 竜は西に逃げる。西は背後以外で唯一、魔族の砲撃を受けない場所なのだ。 背後へ逃げることは――追撃を受けるため――不可能だし、空間転移もすべての竜が使えるものではない。 西は、罠である。当然、竜達は気付いているのだろう。 しかし、西にしか逃げ場がないのだ。 間違いなく、西に向かう。 アマネセルやスィヤーフ達は、ここでエルフとホビット、そして今はいないが、ドワーフ、ノーム(注:やや小柄で、神に対する信仰心の極めて強い種族。絶滅種)達を片付ければ良い。 知力と魔力に長けたエルフ、敏捷性と射撃の能力が侮れないホビットが今の相手だ。 だが、この数は大したことがない。 すぐに片がつくだろう。 だが敵はこれで終わりではない。 人間の神殿(テンプル)騎士団、各国騎士団、協会魔道士同盟軍、エルフの主力魔道士部隊、聖騎士同盟、魔法弓矢部隊、ホビットの狩人隊、森賊部隊、ドワーフの各部族騎士団、魔法武具戦士団、ノームの僧兵団、各種族の傭兵、農民兵達……まだ強敵がいる。 第二陣、第三陣と敵が増えてゆくと、やがて戦局は揺らぐことであろう。単体の 能力は明らかに魔族側が優位だが、あまりにも数が違いすぎる。 滅びる間際まで戦わねば、勝てないかも知れない。 当然だがこの主力から退却するのは許されていない。 これだけの数があれば、五人の王でさえも、簡単には全滅させられないし、天界の神族と合流されると非常に厄介だ。 もっとも、こちらに対して神族が襲い掛かって来た場合のみは、カタートへの退却は許されているのだが。 戦況は不利ではないが、決して優位ではない。 だが、その状況は、思うより早く覆ることになる。 「まずい!」 戦いが始まって半日が経った頃、アマネセルが突如叫んだ。 もう先発隊はほとんど壊滅している。そろそろ本軍が到着する頃だ。 「どうした!」 叫び返すスィヤーフ。 「周りを片付けておいてくれ!」 「どうしたんだよ!」 アマネセルは、すでに走り出しながら、 「まずいやつが来たんだ!」 スィヤーフは言葉を返す。 「……生きて戻れよ」 ……絶対に帰って来るんだ。お前のことを愛しているから。 彼女は、森に消えていった。 アマネセルは必死で走っていた。 走るのは、相手を引き付けるためだからだ。 影が見える。人型だ。 凄まじい力を感じさせる相手とは、その影であった。 やがて随分深くへ来て、アマネセルは立ち止まった。 「出て来い!」 そして呼び掛ける。 森が揺れた。 影が現れる。 姿も露となった。 黒衣の騎士がそこにいた。 剣を抜いたままのソブフが、そこにいた。 自分と同じ体勢だ。だが、相手が圧倒的に優位に見えた。剣を持つ手が自ずと震える。 「……はじめましてですよね。アマネセルさん」 「我は貴様を知っているがな」 数日前に、姉を……滅ぼした男だ。間違いようがない。彼女の持つ謎の力が、見せた姿と一致している。 「なぜ、知っているのでしょう?」 ソブフは、歩み寄って来る。アマネセルは問いに答えようとはしない。 「近寄るな!」 制止は効かなかった。 ソブフは確実に近付いて来て、言った。 「確か……あなたは、不思議な力があるんでしたよね」 ズキッ! 心でそんな音がしたような気がする。 「なぜ……それを……?」 「それくらいは、調査済みです」 空いた左手で黒い短髪を、撫で上げて言った。 「ちなみに、その能力が何を意味するか、教えて差し上げましょうか? あなたは恐らく、それを知らない」 能力の意味? そういえば、考えたことなどなかった。 アマネセルは、黙り込む。 「羅神盤という言葉は……ご存知ですか?」 首を振った。 「では……神託という言葉は?」 神託とは、巫女などが知ることの出来る神の啓示のことだ。 だが…… 「それと何の関係がある!」 「ありますよ。あなたの能力は……」 ソブフはしばし、アマネセルを見詰めていた。 そして首を振ると、 「あなたの能力は、その神託とも関係があるものなのですよ」 「何だと!」 どういうことだ。 どういうことなのだ。 「なぜ神託の仕組みは存知ですか?」 ソブフは、微かに笑った。 知らない。いや、どうでも良い。 「どうやら、知らないようですね。……まあ良い」 真上を見ている敵。無用心だが、隙はない。 「あなたは、過去や未来が見える時に、おかしな図形が浮かびませんか?」 おかしな図形? まさか……。 「……あれか」 思わず口に出してしまう。 「やはり」 ソブフの、二度目の微笑みは、先ほどよりも輝きを増した。 「……あれが、羅神盤なのです」 「……羅神盤?」 「そう。すべての必然と大いなるものの力――偶然を、記したものが羅神盤なのです。すべての未来が、羅神盤には描かれています」 そんなものが、あるのか。 そんなものが、あって良いのか。 「未来は、偶然と必然の集積などではない! 我は我の意思で動いている。そんなものに未来を勝手に決められてたまるか!」 「意思など幻想ですよ」 「何だと!」 「意思というものは過去を――過去の情報を完全に知りさえすれば、把握することが出来るのですよ。あれは過去の集積です。あなたが今何を思い、何をしようとするかは、過去の集積によって定められています」 今の自分は、過去によって形成されている。 どんな馬鹿な。 「ただ、すべての存在の必然的な未来を見通し、必然的な未来を捻じ曲げる未知の偶然を操ることの出来る存在は、ただの一人しかいらっしゃいません」 「竜神か?」 「いえ……もっと高位の方です。大いなるものですよ」 いるのか? そんな存在が……。 「金色の大神様、ご存知ではないですか?」 「さあ?」 知識としては知らない。しかし、どこか聞いたことのある名だ。 ……すべての魔族の王。金色の母。 ならば、その方こそが、真の意味での神? 「貴様は……何者だ!?」 「ふふっ」 「何がおかしい?」 ソブフは失礼、と頭を下げて、 「いえ、今はあなたの正体について話すところなのですよ」 そうなのだ。 アマネセルは身構えた。 「私の正体は、ただの人間ですが、あなたは……違う」 そうだ自分は…… 自分は…… 「あなたは神族です」 何? 今、何と言った? 「あなたは……神族です。間違いありません。神族です」 どういうことだ? 自分は、魔族だと思っていた。 いや、魔族に違いなかったはずなのだ。 これは、どういうことなのだ? 「どういう……ことだ?」 恐る恐る、言葉にしてみた。 恐ろしい、悪寒が走った。 まさか……神族? 「羅神盤が見えるのは、神や竜族である証拠です。魔族にけして見えるものではありませんよ」 本当に……そうなのか。 だが、なぜ人間風情がそんなことを……。 「そして、ごく一部の高位神族でなければ、たとえ見えたとしても羅神盤は読めません。例外はほぼないです」 でたらめではないのか? 「でたらめを言っているわけではないですよ」 しかし、ソブフはそう言った。 「証拠はありませんが、とある高位神族の方から聞いたことですので、恐らく間違いのない情報ですよ。あの方は、竜王などよりも、ものごとをよく知っておられる」 それほどの高位神族との接点。やはり、ただの人間ではないらしい。 だが、そんな思考は一瞬で消える。 それよりも、自分の正体の方が、ずっと大事だ。 自身が、根本から崩れようとしている。 圧倒的な恐怖が彼女を包んでいる。 「ところで、高位の魔族は常に人間の姿を取っているようですね」 話題が変わったようだが、恐怖はまだ頭の中心にあった。 「……確か、昔はそのような姿となることは、まずなかったのではないでしょうかね」 人間の姿を持つ魔族。 そういえば違った気がする。おぼろげな記憶だが、多分間違いはない。 当時、魔族も神族もすべてデータでしかなかった。 とはいえ、データを識別するのもデータなので、実質は今とそれほど変わりはないが。第三種族――人間のような――から見ると随分違って見えることだろう。 ただのデータではなくなったのは、神魔戦争が終わり、魔王シャブラニグドゥが哺乳類の一種――人間に封印されたことで、人間が誕生した後だ。 「神魔戦争の……後からだ」 「ちなみに、あなたが誕生したのは?」 「それは……」 アマネセルは、思い出してみた。 情報を模索する。 少しずつ記憶の糸を辿って、過去へと遡っていく。 すると、 (まさか!?) 神魔戦争の直後。 そうだ。 神魔戦争が終わってすぐに創られたとなっている。先の記憶も、ちょうどその頃のものであった。 「あなたは終戦前後に、冥王フィブリゾに拾われたのです。ちょうど神族が人間の姿を、取り始めるようになる頃に……」 どういうことだ? 「まさか……」 「あなたは、神族だ。だが、冥王に拾われて魔族になった。いや中途半端な魔族になった。記憶を消され、数多の知識を詰め込まれ、上辺だけの魔族となった」 「ふざけるな! そんなことがあるはずが……」 「なら、高位の魔族が必要外でも、人間の姿をしているのはなぜですか?」 「それは……人間が……」 魔王を封じた存在だからだ。人が魔王から生まれた邪悪な種族であることを暗示するために、魔族は人の姿を取ることにしている。 理屈はよく分からないが、そう聞いたことがある。 ちなみに神族は、人を自分の姿に似せて創ったという話を、人に創作させるためだ。当然、実際は逆なのだが……。 「魔王を封じた存在だから、というのは違います。それも理由の一つではありますが、本当の理由は……」 風に揺られて、枝から巣立った木の葉が、二人の間で輪舞する。 また風が吹いた。 そして、ソブフの口が動く。 「あなたの存在を隠すためですよ。データ体はすべてを曝け出していることになる。何も隠すことが出来ないので、魔族と神族の違いは一目瞭然です。その違いをどうにか隠そうとしていたフィブリゾは、人間の姿を取らし、データをその姿の内に封じ込めることによって、見た目での判断を不可能にしたんですよ」 「まさか……」 自分一人のため? 信じられない。 そんなことがあるはずが……。 「でも、これは冥王に感謝すべきではないですか?」 「え?」 「冥王は、あなたを愛してくれたのですよ。一目惚れでしょうね」 確かに、これだけのことをやってくれた。 しかし、そんな感情を持っているのならば、真実を伝えてくれれば良かった。 そう、あの日にでも……。 「嘘だ!」 「嘘ではありませんよ」 ソブフは楽しんでいた。 間違いない。楽しんでいた。 彼女は、どう答えるか。 それを待っているのだ。 そして、アマネセルは…… 「……殺す」 殺意を込めた声を…… 「なるほど、私に八つ当たりでもしますか?」 「違う! 姉の仇だ」 そうだ。仇だ。 護れなかった主君の仇を討つ。 アマネセルは叫んだ。 そして、剣を一振りした。 風が生まれる。音を立てて疾走する。 だが、ソブフは平然と、魔力の風を……切り裂いた。 「喰らえ!」 アマネセルが大地を蹴る。 そして袈裟斬りを掛ける。自慢の一撃。 独学で学んだ剣だが、彼女はかなりの技量を持っている。 だが、ソブフは平然と受けた。 「やはり、バレていましたか」 ソブフはそう言った。それを合図に彼は退く。 地に足が着くと同時に、アマネセルも後退した。 そこへ突きが襲った。 素早い一撃を紙一重でかわしたアマネセルは、さらに後へ下がり、剣から風を生み出した。 風は黄金の刃に斬られたが、諦めずに再度放つ。 「甘い甘い!」 棒切れのように振り回されている冥将軍の剣から出でる魔風を、容易くすべて叩き落したソブフは、相当なスピードで飛び掛かって来た。 太刀筋も、動きも見えない。 アマネセルは、空間を渡って背後へ回る。 だが、即座に反応された。 振り向き様の一撃は、アマネセルの剣と衝突する。 強い! 最初の一撃で、まともに戦える敵ではないと分かっていた。 だが、思う以上に強かった。 アマネセルは逃げる。 ソブフが追う。 剣がぶつかり合う時は、常に危機感が強くあった。 速すぎる。あまりに速すぎる。 四方八方から襲う烈風と、戦っている気になれた。 「くっ!」 剣と剣がぶつかり合い、衝撃で弾き飛ばされた。 それでも浮遊術で体勢を整え、追撃に何とか備える。 相手はただの人間なのだ。 生身の肉体。強力な攻撃が一度でも当たれば、たちどころに滅してしまうはず。 攻撃が来た。 剣を受ける。後退。 飛び上がる。空中で剣を打ち合った。 だが、両者ともに無傷。すれ違う。 反転して、向かい合う。 斬撃が交差。鍔迫り合い。 力に押されて、逃げる。追うソブフ。 さらに剣戟の音。 一撃だ。一撃で良い。 だが、その一撃さえも当てることは困難だ。小技は通じず、大技を放つ隙はない。 捨て身で戦うか? だが、それで勝てるだろうか。 こんな相手は初めてだ。 長い時間攻防を続けた。 圧倒的に、自分が不利だとアマネセルは思った。 予想だにしない強敵だった。 速すぎる。神速の剣に、ついていくだけでも精一杯だ。 だが、逃げるわけにはいかない。 自分がたとえ神族だとしても、ソブフに滅ぼされたノーチェは姉なのだ。 逃げられない。負けられない。 ならば……勝つしかない。 勝つためには? その時、彼女は閃いた。 だが、それは果たして可能なのか? 今までやろうとしたことはない。 それでも、出来るような気がする。 ならば……やるしかない。 ソブフが襲い掛かって来る。 まだだ。剣を翳した。 まだ……来ない。 必死で防御した。 防戦一方でも辛い。 早く。早く降りて来い。 ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ |
15084 | 衝撃の事実ですね | エモーション E-mail | 2003/9/11 22:18:00 |
記事番号15069へのコメント こんばんは。 降魔戦争も中盤に入ってきた、というところでしょうか。 ノーチェさんの滅びが予定より早かったといっても、まだ修正がきく段階なのですね。 神族側の戦力状況等が、細かく書かれていて凄いです。 こういうのは読むのは平気ですが、私には書けませんから。 スィヤーフさんとアマネセルさんの、お互いに対する気持ちは、ちょっと 微妙なものがあるんですね。 そして、やはりと言いますか、現れたソゾフさん……(^_^;) この方は、神族側として動いている……のかもしれないのでしょうけれど…… どうも、別にちゃんと思惑といいますか、別系統の方からの命令に忠実に、 尚かつ好き勝手に動いているように見えます。 高位神族と関わりがある、という辺り、本当に何者?! と、これしか言えませんね。(汗) 実は神族だったアマネセルさん。 ……冥王様、一目惚れしてお持ち帰りですか……(←ちょっと待て) 神族側から見たら、拉致と変わんない気もしますが。(汗) 一部の高位神族しか読めないものを、読んでしまえる……。アマネセルさんは 本来の神族としても、かなり特殊な立場なのですね。 > 当時、魔族も神族もすべてデータでしかなかった。 > とはいえ、データを識別するのもデータなので、実質は今とそれほど変わりはないが。第三種族――人間のような――から見ると随分違って見えることだろう。 >「あなたの存在を隠すためですよ。データ体はすべてを曝け出していることになる。何も隠すことが出来ないので、魔族と神族の違いは一目瞭然です。その違いをどうにか隠そうとしていたフィブリゾは、人間の姿を取らし、データをその姿の内に封じ込めることによって、見た目での判断を不可能にしたんですよ」 この辺りの設定、とても凄いです。ああ、なるほど、と納得できます。 コンピュータのプログラムみたいですね。 データ体は、プログラムをオープンネットにそのまんま置くようなもの、 人の形を取るのは、プログラムを自分のコンピュータの、それも何重にも セキュリティでガードしたバーチャルネットに置くようなもの、と解釈しました。 そしてノーチェさんのために、ソゾフさんと戦い始めたアマネセルさん。 無事でいられると良いのですが……。 衝撃の事実が判明して、話がどう展開していくのかなと思いました。 続きを楽しみにしています。 それでは、今日はこの辺で失礼いたします。 |
15091 | Re:衝撃の事実ですね | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/12 21:10:37 |
記事番号15084へのコメント >こんばんは。 こんばんは > >降魔戦争も中盤に入ってきた、というところでしょうか。 >ノーチェさんの滅びが予定より早かったといっても、まだ修正がきく段階なのですね。 大丈夫ではあるようです。 >神族側の戦力状況等が、細かく書かれていて凄いです。 >こういうのは読むのは平気ですが、私には書けませんから。 この辺りには死ぬほど頭を悩ませました。 どこかおかしいところがあるんじゃないかって。 いや、完成した今でも、少しおかしいんじゃないかなって思いますけど。 ……本当に難しいです。 > >スィヤーフさんとアマネセルさんの、お互いに対する気持ちは、ちょっと >微妙なものがあるんですね。 >そして、やはりと言いますか、現れたソゾフさん……(^_^;) まさしく神出鬼没。 >この方は、神族側として動いている……のかもしれないのでしょうけれど…… >どうも、別にちゃんと思惑といいますか、別系統の方からの命令に忠実に、 >尚かつ好き勝手に動いているように見えます。 真面目なタイプには見えないですしね。 >高位神族と関わりがある、という辺り、本当に何者?! と、これしか言えませんね。(汗) 詳しいことは言えませんが、重要なキーを握っている人物です。 > >実は神族だったアマネセルさん。 >……冥王様、一目惚れしてお持ち帰りですか……(←ちょっと待て) >神族側から見たら、拉致と変わんない気もしますが。(汗) そうでしょうね。あちら側では、とっくに死亡(?)扱いされているでしょうけど。 >一部の高位神族しか読めないものを、読んでしまえる……。アマネセルさんは >本来の神族としても、かなり特殊な立場なのですね。 元々、かなり高位の存在だったのでしょう。 > >> 当時、魔族も神族もすべてデータでしかなかった。 >> とはいえ、データを識別するのもデータなので、実質は今とそれほど変わりはないが。第三種族――人間のような――から見ると随分違って見えることだろう。 > >>「あなたの存在を隠すためですよ。データ体はすべてを曝け出していることになる。何も隠すことが出来ないので、魔族と神族の違いは一目瞭然です。その違いをどうにか隠そうとしていたフィブリゾは、人間の姿を取らし、データをその姿の内に封じ込めることによって、見た目での判断を不可能にしたんですよ」 > >この辺りの設定、とても凄いです。ああ、なるほど、と納得できます。 >コンピュータのプログラムみたいですね。 >データ体は、プログラムをオープンネットにそのまんま置くようなもの、 >人の形を取るのは、プログラムを自分のコンピュータの、それも何重にも >セキュリティでガードしたバーチャルネットに置くようなもの、と解釈しました。 大体そんな感じで良いような気がします。 ……正直、コンピュータ関連には疎いですけど。 > >そしてノーチェさんのために、ソゾフさんと戦い始めたアマネセルさん。 >無事でいられると良いのですが……。 結末はまた来週ってところですね。いや、多分今週中(明日まで)には出せると思いますけれど。 > >衝撃の事実が判明して、話がどう展開していくのかなと思いました。 >続きを楽しみにしています。 >それでは、今日はこの辺で失礼いたします。 このコメントを読み、本当に癒されました。 どうもありがとうございます。 それでは…… |
15094 | 24:竜の誇り | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/13 19:48:02 |
記事番号15003へのコメント ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ ――24:竜の誇り―― ドラゴンズ・ピーク周辺は、カタート山脈から遠く離れていたため、戦場にはなっていなかった。 しかし、戦の嵐はやがてこの辺りも同じく蹂躙することとなる。 七月八日午後。 青年竜に、不吉な予感が降って来た。奇妙な図形とともに……。 間違いない。何かが起こっている。 だが、たとえ何が起こっていようと、自分には何も出来ないだろう。 七月十二日午前。 青年竜は飛び立った。やはり何もしないわけにはいかない。それが数日悩んだ後の結論であった。 何かが起こっているに違いないのだ。 大人達は何も教えてくれない。知らないのかも知れないし、わざと黙っているのかも知れない。 真実を見ねば。何が起こっているのかを確かめなければ。大人達は非協力的だ。頼れるのは自分だけ。 青年竜は大空へと舞い上がった。 青年竜といっても彼は黄金竜であるため、その齢は千を越えている。 ただそれほどの年齢にも関わらず、青年竜と言われるのは、単にその他の竜の年齢と経験が、彼を遥かに越えているだけのことだ。 「どこへいくのだ?」 近くにいた一万歳を越える黄金竜――アステアの言葉を振り切り、遥か天の彼方へ。 ドラゴンズ・ピークの空は、今日も変わらず美しいが、不穏な空気が存在することに違いはない。 竜の数がいつもより少ないのも事実だ。 青年竜は空を飛んでいる。 声は飛んで来るが、追って来る大人は今のところはいなかった。 若い翼は風を受けて、遥かなる天へと竜を導く。 巨大な山脈カタート。蒼と白のコントラストが美しい。空を飛ぶのは久しぶりだ。 幼き日の思い出の重なって、ふと微笑みが漏れた。あの頃は、父の背に乗って大地を見た。感激し、感動した。何度見ても素晴らしい光景だ。 だが、不穏な雲が不意に襲い掛かる。 爆音。 少々遠くからだが、鮮明に聴こえる。 一瞬、迷った。いくべきか否か? 彼はいった。 方向転換し、東の方向へ……。 その時、微かに叫びが聴こえた。 過去に聴いたことはないが、その声の質からして……断末魔と判明出来た。 それは、一つではない。 断末魔が響いている。 少しずつ、音が大きくなっていく。 悪夢。恐ろしい光景を、青年竜は見た。それは、確かな未来であった。 一人の男に蹂躙される竜達。竜達は水竜王に仕えるカタートの守護者達であろう。ドラゴンズ・ピークに住む平凡な竜と違い、戦闘訓練を受けた者達。その彼らが……。 笑っていた。その男は。 予感が、確信に変わる。 この光景が、現実で起っているのだ。 逃げなければ……。 逃げなければ……。 生まれて初めての恐怖に囚われた青年竜。 だが、来た。 金色の群れ。はっきりと見えるその現実。 正面から黄金竜が、逃げて来る。 その瞬間、激しい断末魔が響いて、同時に竜達が砕け散った。 そして残ったのは……神官衣の一人の男。 「そこに一人いますね」 現実でも、笑っていた。 恐ろしい。恐ろしい男だ。 この時、後悔という感情を覚えた。 大人の竜達を、あれほど簡単に倒す男。 敵うはずのない強敵だ。 逃げなければ……。 逃げなければ……。 ドラゴンズ・ピークから、これほど離れたというのは初めてな気がしていた。 逃げることも、戦うことも不可能だ。 青年竜は、顔を手で覆い隠し、震え続けた。 微かに開いた視界から、男が近付いて来るのが分かる。宙を歩いている。 何者とは考えなかった。ただ恐怖の存在でしかなかった。死神を連想したかも知れぬ。 男は近付いて来る。 青年竜の震えは強まる。 後、三歩。 夢なら覚めて欲しい。 後、二歩。 早く現実に帰りたい。 後、一歩。 これは夢だ! そして…… 青年竜は、ひぃいと情けない声を出した。これも初めてのことだ。 男の手が、伸びて来る。あれが自分を殺す手なのか? ……感触。触れたのだ。 地震の如き激しい揺れが、最後の抵抗として起こった。 男が気にした様子はない。 肩に触れていた男の手に、力が掛かる。 瞬間に、意識が真っ白になった。大いなる光に飲まれていく。 このまま、神の元に還るのか? 過去が思い起こされていく。急速回転する走馬灯。 ……死ぬ。 それでも、足掻きはしなかった。 ただ、必死で受け入れようとした。 死ぬ覚悟を決めようとしていた。 爆風が巻き起こったのはその瞬間だった。 青年竜が見開いた世界には、神がいた。 しかし、それが神ではないことが、すぐに判明した。 恐らく後をつけて来たのだろう。一人の竜がそこにいた。 青年竜はその竜を知っていた。自分を子の代わりに育ててくれた雄竜。ドラゴンズ・ピークの中では、勇者とも呼ばれている存在。 「アステア様!」 青年竜は思わず声を出した。 「おやおや、また一匹」 神官衣の男が言った。 「どうせ僕と戦っても、勝てるはずがないというのに」 竜は震えていた。それも勇者と呼ばれし最強の竜が。 (アステア様ほどの竜が……) アステアは命ある者の身であるにも関わらず、ドラゴンズ・ピークに攻め込んで来た魔族軍の頭目であった魔族を、実力行使で退けた経験があるという。葬った下級魔族は数えきれぬほどだ。 「ゼロスよ。貴様には勝てぬかも知れぬ。だが、わしは貴様と戦わねばならぬのだ」 アステアは言った。声が震えている。だがそれでも強さを感じさせる。 これこそが勇者の声だと、青年竜は思った。 「そうですか? ならば仕方がありませんね」 アステアに、ゼロスと呼ばれていた恐ろしい男はそう言う。それが随分と様になっていて、青年竜は不安になった。 「じっくりといたぶり殺して差し上げますよ」 青年竜は悲鳴を上げそうになった。声は、なおも続く恐怖に飲み込まれたが。 「言ったな。その言葉を忘れるなよ」 ゼロスが杖から、光の弾を撃ち出した。 その方向は……自分? 青年竜の目が眩む。 遠ざかっていた死が、急に距離を縮めて来た。 「逃げろミルガズィア! お前はわしら一族の長となるべきものだ。羅神盤の読める竜など、お前の他に誰もいない!」 アステアに言われて、必死でミルガズィアは逃げた。 「なるほど、ミルガズィアさんですか」 青年竜――ミルガズィアの無様な姿をゼロスは見ていた。 「あなたはミルガズィアさんを護りたかったのですね」 「命を賭してもな」 そしてゼロスとアステアは対峙した。 ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ |
15116 | ミルさん登場♪ | エモーション E-mail | 2003/9/14 22:48:57 |
記事番号15094へのコメント こんばんは。 今回はミルガズィアさんのお話ですね。 そしてドラゴン・スレイヤーなゼロスのエピソード…… これだけでも萌……じゃない、燃えますね♪ 最初、青年竜をもしかして……と思いつつ、羅針盤を読んでいるので、 違うのかな?と思いました。 やはり若りし頃のミルガズィアさんでしたか。 ミルガズィアさんも、羅針盤を読める設定なのですね。 > そして残ったのは……神官衣の一人の男。 >「そこに一人いますね」 > 現実でも、笑っていた。 > 恐ろしい。恐ろしい男だ。 ただ笑いながら、そしてそこにいるだけで相手に恐怖を与えるゼロス……。 圧倒的な強さと、やはり魔族なんだな、という怖さを感じさせますね。 そしてミルガズィアさんを逃がすために、そんな相手と戦おうとするアステアさん。 「羅針盤を読める」というのは、相当に深くて大きな意味を持つのですね。 >「逃げろミルガズィア! お前はわしら一族の長となるべきものだ。羅神盤の読める竜など、お前の他に誰もいない!」 もっとも、この言葉。ゼロスに聞かれて平気だったのかな? とは思いましたが。 言葉の前半は……まあ、ちょっとまずいかも、ですが、後半は……。 ゼロスが羅針盤のことを、知っているかどうかは分かりませんが、 何となく、この言葉を聞いたら、分からなくても「念のために抹殺しておきますか」 とか思いそうなので。 まあ、そんなことを考える余裕もなく、つい口に出たのでしょうけれど。 もうシリアスな展開ですね。 圧倒的な強さを持つゼロスに対して、アステアさんはどう戦うのでしょうか。 それでは、今日はこの辺で失礼いたします。 続きを楽しみにしていますね。 |
15140 | Re:ミルさん青春編(?) | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/16 21:02:09 |
記事番号15116へのコメント >こんばんは。 こんばんは。 > >今回はミルガズィアさんのお話ですね。 >そしてドラゴン・スレイヤーなゼロスのエピソード…… >これだけでも萌……じゃない、燃えますね♪ 相当な活躍見せてます。 ゼロスのエピソードはメインではないですが、出る場所では結構やってくれてます。 > >最初、青年竜をもしかして……と思いつつ、羅針盤を読んでいるので、 >違うのかな?と思いました。 >やはり若りし頃のミルガズィアさんでしたか。 >ミルガズィアさんも、羅針盤を読める設定なのですね。 偶然にも読める体質なようです。 かなり特別な存在になります。 > >> そして残ったのは……神官衣の一人の男。 >>「そこに一人いますね」 >> 現実でも、笑っていた。 >> 恐ろしい。恐ろしい男だ。 > >ただ笑いながら、そしてそこにいるだけで相手に恐怖を与えるゼロス……。 >圧倒的な強さと、やはり魔族なんだな、という怖さを感じさせますね。 やっぱりゼロスはこうでなくちゃ。 ダークゼロスはやっぱり魅力的です。 >そしてミルガズィアさんを逃がすために、そんな相手と戦おうとするアステアさん。 >「羅針盤を読める」というのは、相当に深くて大きな意味を持つのですね。 まあ未来が見えるわけですから。 一種の予言者とかに似てるかも。 > >>「逃げろミルガズィア! お前はわしら一族の長となるべきものだ。羅神盤の読める竜など、お前の他に誰もいない!」 > >もっとも、この言葉。ゼロスに聞かれて平気だったのかな? とは思いましたが。 >言葉の前半は……まあ、ちょっとまずいかも、ですが、後半は……。 >ゼロスが羅針盤のことを、知っているかどうかは分かりませんが、 >何となく、この言葉を聞いたら、分からなくても「念のために抹殺しておきますか」 >とか思いそうなので。 >まあ、そんなことを考える余裕もなく、つい口に出たのでしょうけれど。 ミルさんピンチですね。 結構まずい台詞だったかも。……でもまあ、元々標的だったわけですし、今さら関係ないかも知れませんが。 > >もうシリアスな展開ですね。 >圧倒的な強さを持つゼロスに対して、アステアさんはどう戦うのでしょうか。 ここからシリアスが続くかと思います。 いろんなエピソードが重なっていくはずです。 > >それでは、今日はこの辺で失礼いたします。 >続きを楽しみにしていますね。 嬉しいコメントをどうもありがとうございます。 それでは、これで…… |
15142 | 25:造られた未来達 | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/16 21:17:12 |
記事番号15003へのコメント ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ ――25:造られた未来達―― 七月十二日午後。 アマネセルは戦い続けた。 強敵だった。あまりにも手強い相手であった。 危機的瞬間を、何度も迎えた。 防御を続けるのに精一杯であった。 ソブフの持つ金色の剣は、強力な攻撃魔法さえも、切り裂いてしまう性質を持っていたのだ。 そんな彼女を助けたのは、皮肉にも神の力であった。神の力があったからこそ勝てた。 そう羅神盤。彼女は羅神盤を利用した。 未来を読み、敵の動きを読んで、それに対応した攻撃を行なった。彼女は、それが可能な戦士であった。 未来を裏切るかのように、アマネセルは戦い、そしてソブフを追い詰めた。 突風を巻き起こし、それによって吹き飛び転がった仇に、彼女は剣を突きつけた。 確かに、彼女自身も深い怪我を負った。すでに、満身創痍。命すらも危うい状況だ。 それでも、勝利したのだ。仇に……。 そして…… 「待ってください」 アマネセルは、そのまま刺し殺す気であったが、急に掛かった声には驚かされた。 余裕に満ちているのだ。 「さすがです」 「賛辞などいらん」 そして、今度こそ…… 「私は負けました。あなたの力は素晴らしい」 「だから、賛辞はいらんと言っている」 「この程度の言論の自由ならば許されているはずです」 笑った。ソブフが笑った。 「羅神盤のお陰ですよね」 「何が言いたい!?」 いつしか、聞き入っている。 羅神盤――忌々しき神の能力。 危ない。早く殺さねば…… 「神の力も、悪くないものでしょう」 「だから、何が言いたいのだっ!?」 「あなたは、私の行動を、羅神盤を読むことによって理解し、その通りに行動させないことで……未来を変えた」 「勝ったのは、我の実力だ」 「ええ、実力です。羅神盤をこれほどまでに使いこなせる者など、あなたの他には何人といないでしょうから」 「そんな賛辞もいらんわ!」 アマネセルはようやく剣を突き刺す気になった。 だが……剣が突き刺せない。この時になった気付いた。 今は、まだ突き刺せない。 「ところで……羅神盤というものは完全なるものだと思いますか?」 話が変わっている。いつしか、そちらに頭がいっていた。 完全? 完全なのだろう。 過去を、そして未来を完全に記しているのだから。 「そうだ」 断言した。 「そうですね。でも、あなたの見るそれは、完全ではない」 「……どういう意味だ」 やはり、会話に飲まれている。 不思議だ。 好印象を受ける相手ではない。 巧みな話術を駆使しているわけでもない。 知りたいからなのか? 彼の言葉の続く先を知りたいのか? 「未来が見えることによって、変わる未来もあるでしょう?」 「それも……羅神盤の中には……」 未来を知ることも、書き込まれてるはずだ。 だから、羅神盤は完璧で完全なのだ。唯一無二なる未来が記されていると言ったではないか。 「ですが、あなたの見たそれには書き込まれていなかった。となると、あなたの見たそれは違う」 「どういうことだ?」 危機的状況であることを、相手は忘れている。自分も、自分の立場を忘れている。 「あなたの見た未来は、その通りになりましたか?」 「……え?」 なっていない。違う。 見た未来と、今とは違う。 羅神盤の示す通りなら、負けていたのはアマネセルなのだ。 負けないように動いたからこそ、アマネセルは勝った。 未来を変える唯一の方法……未来を完全に知ること。ある一定の未来に辿り着くまでのプロセスをすべて知っていれば、その未来に辿り着かずに済むことが出来る。そして羅神盤は、そのプロセスまでもが見える。 未来を知ることで変わる未来……羅神盤の存在が、羅神盤を不完全にしている? 不完全な羅神盤は、羅神盤ではない? 「お分かりですか?」 「ああ……だが、それに何の意味が?」 「あなたの見た羅神盤は、真実の羅神盤ではなく、ただの虚構の未来です」 「どういうことだ?」 「未来は唯一無二のもののはず。だが神は、実在しない未来まで見える。もしや世界は一つではないのかも知れない」 世界は……一つではない? 「実際に、異世界というものは存在するらしいですが、それとは別で、この世界でありながらこの世界ではない世界が存在するのではないかということです。それは虚構の世界なのでしょうけど」 「意味が分からん」 「話は変わりますが、神託というのは、神が知ることを、巫女などに伝えるものです。その内容の中には羅神盤で見たものも随分と含まれています。しかし、そこで伝えられる未来はかなりの確率で的中します。これはなぜか?」 「そんなことは、どうでも良い!」 しかしソブフはそれを無視し、 「簡単です。経過を省いて結果だけを告げる。これだけで未来が変えられる――変えられるという言い方は適切ではないですけどね――確率は大きく減少します。さらに、無駄に分かり辛く伝えるということもやっているようです。それでも神託がその通りにならない可能性は充分にありますけれども」 「結局何が言いたい!?」 「別に。単にひけらかしがしたい気分だったのですよ」 「……まさか、時間稼ぎか?」 「そうとも、言いますね」 その瞬間、視界が揺らいだ。 激痛。 朦朧とする中で見たのは……多数の敵。どうやらソブフは、彼らの接近に気付いていたようだ。 エルフ達の、魔法の矢を受けた。すでに傷を多く負っているため、この程度の攻撃さえも充分な痛手となってしまった。 その機に乗じて、ソブフは斬り掛かる。アマネセルに……。そして結果的に彼を救うこととなったエルフ達に。 「き……さ……ま……」 激しい一撃を受けて倒れ込む。立ち上がる気力はもうない。 「私は、ここでは終わらない。ヴェノム様とともに、世界を再生させる」 「ヴェ……ノム? ……世界の……再生だと?」 「ヴェノム様は、私に力をくださった方です。そして世界の再生とは……」 ソブフは剣を構え、 「羅神盤などという、悪質なものに支配された全世界を消し去り、浄化して、さらなる良き世界を創り出すことですよ!」 振り下ろした。 「世界は一つで良い。余計なシステムがおかしな世界を創り出してしまう」 アマネセルが暁の塔を好んだのは、「暁」という神のシンボルに惹かれたためかも知れない。 だが、間違いなくアマネセルは、フィブリゾの娘であり、ノーチェの妹である。 ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ |
15143 | 26:勇者の戦い | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/16 21:21:29 |
記事番号15003へのコメント ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ ――26:勇者の戦い―― 幼い竜達に対して、ある試験が実施された。 簡単な問答から実技試験まで、各試験の合間には大人達が試験の感想などを尋ねて来る。 それは羅神盤を持つ竜を調べる検査であった。 結果、ミルガズィアという竜がそれに該当した。 あれから七百年が経つ。 七月十二日午後。 光の弾が、無数に宙を踊る。 だが、そのすべてをゼロスは弾き飛ばした。 アステアは分かっている。この男にはけして敵わぬことを……。 それでも戦わねばならぬ。ミルガズィアを逃がす必要があるのだ。 ゆえに戦う。アステアはもう一度、光の弾を生み出した。 同時に空間を渡り、ゼロスの背後に回った。 爪を突き立てる。せめて傷だけでもつけてやろう。 だがゼロスもまた空間転移し、さらにアステアの背後へ回った。 すると自分こそが光の弾の餌食となる。 アステアは咄嗟に脇に避けた。避けつつ身体を反転させ、ゼロスの方に向き直る。 襲い掛かるゼロスの杖を、全魔力を集中させた腕で受け止めた。 だが衝撃は凄まじく、傷こそ受けなかったものの吹き飛ばされ、危うく大地へ墜落してしまうところであった。 アステアは再びゼロスと接近する。 それにしてもミルガズィアは無事であろうか。 彼はミルガズィアを護る役目を負っていた。そのため今回、連合軍として前線に出ることはなかった。彼はミルガズィアを第一に想っていた。 ミルガズィアは、本当に逃げ切れるのだろうか。ドラゴンズ・ピークではだめだ。 あそこも恐らく襲撃される。 違うところへ逃げてくれ。アステアは祈った。 そして祈りつつも、爪を突き出す。ゼロスは軽く動いて、簡単にかわした。 反対の爪で襲い掛かる。策略などはない。ただ死を恐れぬように戦っているだけだ。 そうだ。恐い。アステアは今、恐怖とも戦っている。 すべてはミルガズィアのために。 アステアはミルガズィアのために、必死に戦った。 そしてアステアはミルガズィアのために、朽ち果てた。 最後に、敵にかすり傷を負わせたことを誇りに思いつつ…… ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ |
15146 | 謎だらけですね、羅針盤……。 | エモーション E-mail | 2003/9/16 23:10:47 |
記事番号15143へのコメント こんばんは。 羅針盤の謎……未来が作られているとすれば、一体誰が作っているのでしょう? 神……なら、もうちょっと自分たちに有利に作る気がしますし……。 それにしてもソゾフさん……敵も味方もぺぺぺのペい! って、感じですね(汗) エルフまで巻き込む……(汗) この回でアマネセルさん退場ですね。 自分でそうと知らずに変転とした人(?)生を歩んだアマネセルさん。 それでも自分の望む立場を取れたのは、彼女にとっては良かったのかな、と思います。 ……ところで、羅針盤で未来を読めるのなら、フィブリゾ様がアマネセルさんを 連れ去ることも、アマネセルさんが自分を魔族だと思いこんで生きていくことを、 神魔戦争のころに誰か一人くらい(それこそアマネセルさんの本来の身内など)、 読んでそうなものだと思ったのですが……。そう上手くいくものでもないのかな。 ゼロスVSアステアさん。 さすがに余裕ですね……ゼロス。 でも窮鼠猫を噛む、という諺のとおりといいますか、そうそう気を抜くわけにも いかないようですね。 アステアさんもさすがに、かなわないと言っても、勇者の名は伊達じゃないのですね。 羅針盤を読める、という事もあるのでしょうけれど、やはり自分が親代わりになって 育てたミルガズィアさんだから、逃がしたいと思っているし、必死なのでしょう。 最後にアステアさんが負わせたかすり傷。 かすり傷ではあっても、後々響くのかな〜と邪推していたりします(笑) さすがにもう完全にシリアス一辺倒ですね。 話ももう中盤に来ているのだろうと思いますが、続きがどうなるのかな、と楽しみです。 それでは、今日はこの辺で失礼します。 |
15150 | Re:謎だらけですね、羅針盤……。 | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/18 20:36:17 |
記事番号15146へのコメント >こんばんは。 こんばんは。 > >羅針盤の謎……未来が作られているとすれば、一体誰が作っているのでしょう? >神……なら、もうちょっと自分たちに有利に作る気がしますし……。 未来が作られるのは自然現象すかねえ。 完全に定まりきった未来は、完全に定まっているがゆえに、誰かに知られると確実に変わるというのに、知るシステムがあるという時点でおかしいですからねえ。 本当にややこしいシステムです。 まあこんなシステム知らなくても何の問題もないですけどね。この物語読むのにしても、大まかなところまで知っていれば大丈夫かと思いますし。 > >それにしてもソゾフさん……敵も味方もぺぺぺのペい! って、感じですね(汗) >エルフまで巻き込む……(汗) ……可哀相なエルフ達。 >この回でアマネセルさん退場ですね。 後追いとなってしまいました。 >自分でそうと知らずに変転とした人(?)生を歩んだアマネセルさん。 >それでも自分の望む立場を取れたのは、彼女にとっては良かったのかな、と思います。 幸せではあったのでしょう。 >……ところで、羅針盤で未来を読めるのなら、フィブリゾ様がアマネセルさんを >連れ去ることも、アマネセルさんが自分を魔族だと思いこんで生きていくことを、 >神魔戦争のころに誰か一人くらい(それこそアマネセルさんの本来の身内など)、 >読んでそうなものだと思ったのですが……。そう上手くいくものでもないのかな。 まあ意外に役に立たないものだったりします羅神盤。 自由に何でも見れるわけではないですから。 > >ゼロスVSアステアさん。 >さすがに余裕ですね……ゼロス。 >でも窮鼠猫を噛む、という諺のとおりといいますか、そうそう気を抜くわけにも >いかないようですね。 原作でも、魔族は油断したせいでリナ達に敗れたということが多いようですから。 >アステアさんもさすがに、かなわないと言っても、勇者の名は伊達じゃないのですね。 >羅針盤を読める、という事もあるのでしょうけれど、やはり自分が親代わりになって >育てたミルガズィアさんだから、逃がしたいと思っているし、必死なのでしょう。 >最後にアステアさんが負わせたかすり傷。 >かすり傷ではあっても、後々響くのかな〜と邪推していたりします(笑) ゼロスのエピソードはしばらくお休みとなるかと思います。 これからは五腹心達が結構メインになりますかな。 > > >さすがにもう完全にシリアス一辺倒ですね。 まあ元々、シリアスな話を予定して書きましたし。 >話ももう中盤に来ているのだろうと思いますが、続きがどうなるのかな、と楽しみです。 半分は過ぎ、後半戦に入ったかと思います。これからが本番だと思いますけれど。 それにしても三章って長い。一章と二章と四章足したくらいあるかも知れない(爆)。 >それでは、今日はこの辺で失礼します。 今回も良いご感想ありがとうございました。 明日にはようやくテストも終わりますので、次回分を投稿したいと思っています。 それでは…… |
15153 | 27:灼熱の鎖に繋がれ | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/19 20:08:07 |
記事番号15003へのコメント ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ ――27:灼熱の鎖に繋がれ―― 彼女がフィブリゾの部下――娘となったのは四千年ほど前のことだ。 誤解を招かぬように言えば、彼女がフィブリゾに拾われ、部下――娘となったのは四千年ほど前のことと言えば良いだろう。 それは終戦直後の話である。 魔族領域で倒れている神族を見つけた。その神族達は満身創痍で気を失っており、瀕死状態と言えた。 フィブリゾはその神族に惹かれた。魅了された。理屈ではない。理性など崩壊してしまった。 フィブリゾはその神族を持ち帰った。 その神族こそがアマネセルである。 アマネセルはほぼすべての記憶を失っていた。傷が深かすぎたのだろうか。 基本的な情報や技能を残したのみの彼女に、フィブリゾは同情を禁じえなかった。 しかし、ただ同情するだけではなくフィブリゾはアマネセルを魔族として生かすこととた。 彼は彼女に、様々な知識を授けた。アマネセルを魔族化させた。 だが知識だけでは魔族にはならぬ。 魔族と神族の違いは一目瞭然なのだ。 だからフィブリゾは適当な理由をつけ、アマネセルとすべての魔族達に人間の姿を取らせた。 そして人間の姿の裏にデータを隠した。 そうすることで本質を隠そうとした。 さらに、アマネセルの人間としての姿は、すでにいたフィブリゾの部下であるノーチェに似せた。姉妹と印象つけるために。 またアマネセルがフィブリゾの部下として誕生した理由は、「いつか訪れるであろう神との再戦の時のために備えての新しい戦力」という言葉で説明された。この言葉は嘘ではない。ただ、それがすべての真実ではないだけだ。 これだけの手を施した結果、誰もアマネセルを神族だとは思わなかった。姉となったノーチェでさえも。 そう。アマネセルは魔族と化した。すでに神族ではない。魔族なのだ。 あれから四千年。 七月十四日午前。 フィブリゾは、カタートにいた。 ノーチェが滅んだ。 そして、アマネセルも滅んだ。 部下の死は――娘の死は、鮮明に伝わって来た。すぐに分かった。 同じ人物に、滅ぼされた。さぞ悔しかったであろう。 終わってしまった。 本当にこれで良かったのか。 より良い作戦があったのではないか。作戦の予定は狂ったが、予定通りでも、それほどの違いはなかったはずだ。 選択は正しかったのだろうか。 分からない。分からない。 今、解は出せそうにない。 忘れよう。 フィブリゾは、思念を解き放った。 周りの雑魚が、邪気に触れて、あらかた屠られていく。だが、その攻撃は彼の魔力を激しく奪う。 魔族にとって自分を傷付けうる敵の大群というのは脅威である。数で攻められれば、どんなに攻撃を防ごうとも、やがては傷を受けるし、その傷が些細なものであれ、積み重なれば深手と化す。攻撃するにも自身の力を消耗するわけで、どうも長期戦には向かない体質である。これは神族も同じなのだが。 フィブリゾは、カタートにて竜族達と戦っている。他の王も、どこか遠くない場所にいるはずだ。 ちなみにカタートを攻撃しているのは、彼ら五人のみである。竜族の群れと充分に渡り合えるだけの力を持った中級魔族を当用するべきだというゼラスの案があったが、無駄な犠牲になりかねないと、フィブリゾとグラウシェラーが猛反対したのだ。 カタート攻撃陣は、神殿を破壊しつつ、竜族達と戦っている。敵数はあまりにも多い。質というものも考慮入れれば、連合軍ほどでないにしろ、相当な戦力であるに違いない。 意外に勇敢な者が多く、大変だ。それに臆病ですぐに逃げてゆく者も、こちらの魔力を確実に吸い取る。いわば魔力の無駄というものである。 すでに、かなりの時間戦い続けている。無傷ではない。普段戦い慣れていないせいもあるが、それを考慮してもかなりのダメージを受けている。 それでも神殿はまだまだ残っている。すでにかなりの数を壊したが。 各神殿には、どうやらカタートの君主である水竜王の力を増幅する装置が取り付けられているようで、そうなると、それをすべて破壊しかければならないことになる。 単に竜族達を倒し敵兵力を削ぐだけでなく、騒ぎを起こして天界の神族を及び出すだけでもなく、神殿破壊にはこのような重要な意味があった。 やはり彼ら五人で当たったのは正解であっただろう。中級程度の魔族を数人連れて来たとしても、それが役に立ったとは思えない。より多数を当用すれば、成果はあるだろうが、犠牲も増える。 今回の戦場に、天界の神族はいなかった。それは実に幸いなことであった。 今度こそは、アマネセルの正体に気付かれてしまうのではないか。急にそんな予感がしたのだ。 フィブリゾは、カタートを守る者達と戦い続けた。 灼熱の鎖に繋がれたが如く、苦しみを浮かべながら。 ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ |
15154 | 28:ジェネラル・スィヤーフ | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/19 20:13:34 |
記事番号15003へのコメント ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ ――28:ジェネラル・スィヤーフ―― 七月(十二日午後から十五日午後までの間と思われる) 「くっ!」 なぜ、戦場に森を選んだのだ。スィヤーフは思った。 誰がここで戦うと言い出した? 大空を翔ける竜族への対策としては、確かに有効だ。 しかし、敵は竜だけではない。 竜族などほんの一部だ。個人的な戦闘能力が高く、機動力にも長けているためリーダー的な存在とされているが、最強の相手ではない。 エルフとホビットの矢が襲う。 精神精霊魔術が、彼に向かって来る。 絶え間なく続く攻撃。 さらに、魔力剣を持ったドワーフや、人間が命を捨てて飛び掛って来る。 遥か後方では、生の賛歌隊が合唱をしている。 使い魔の自動で動く剣に、突撃部隊を片付けさせ、薔薇の花粉弾で、射撃部隊を撃ち殺していく。 だが、敵は無尽蔵。僅かなダメージが蓄積していく。 死の香る森。 次に、死神に喰われるのは彼自身なのか? (ふざけるなよ!) スィヤーフは戦い続けた。 諦めはしない。 下等種族に負けるわけにはいかないのだ。 我が身を削って攻撃を繰り返す。とにかく敵を根絶やすため。 一体、何日が経ったであろうか。 エルフが死んだ。 ホビットが死んだ。 人間が死んだ。 ドワーフが死んだ。 ノームが死んだ。 デーモンが滅んだ。 戦場では、すべて駒だ。 たとえ、彼の弟であってでもだ。 高位魔族でさえも、戦場では滅びを覚悟して戦わねばならぬ。 自分も同じである。例外などない。 哀しいものだ。 ふと、感傷を抱く。 だが、そんなことを思う暇などない。 諦めはしない。下等種族に負けるわけにはいかないのだ。 戦った。スィヤーフは戦った。 敵兵力は確実に減少している。スィヤーフだけではなく、下級魔族達も必死で戦い続けていた。 ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ |
15155 | 29:覇王軍 | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/19 20:17:32 |
記事番号15003へのコメント ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ ――29:覇王軍―― 地上時間七月十五日午前。 峻嶺な山脈に囲まれた覇王宮。その玄関口にて。 「どこへいく気ですか? 兄様」 黒髪の覇王将軍(ジェネラル)シェーラは、覇王宮を抜けようとしていたノーストを捕まえて言った。 「それは、私の勝手だとは思わないか。それとも、お前には私をつけ回す趣味があるのか?」 「ありません!? でも、今は外出厳禁です」 「なぜだ? その理由が分からぬ」 「神族が攻めて来るかも知れないのです。非常時の対処をおこなうのも、待機役の義務です」 シェーラは、懸命にそう訴えたが、ノーストはそれを鼻で笑い、 「何を言うか。臆病者の神族が攻めてくるというのか? 馬鹿らしい。その程度の心配をする、グラウシェラーやフィブリゾのようなのクズの命令になど従っていられるか!」 「兄様っ!」 ノーストは去ってゆく。シェーラの言葉は、通じなかった。 元々、忠誠心に欠ける男だったが、ああなったのは、いつからだろうか。 「冥王様はクズじゃないです! それに覇王様だって……」 シェーラは誰もいない外へ向けて、怒鳴るように言い放った。 彼女にとって、覇王グラウシェラーと冥王フィブリゾは特別な存在とも充分に言える。 彼女という存在を、創り出したグラウシェラー、彼女を今の彼女へと昇華させたフィブリゾ。 ある日、フィブリゾはこう言った。 「君は僕を慕っているみたいだけど、君に相応しい魔族は他にいる。君はその心をグラウシェラーに捧げるべきさ。半分でも良い。 ……魔族に自由権をもたらした僕がいうのは何だけどさ。彼は主である以前に、君の父親だよ。君を求めて君を創ったんだ。だから君は彼の期待に答えるべきだよ。分かる? でもグラウシェラーが君にとんでもないことをして来たら、いつでも僕のところにおいで」 シェーラは、グラウシェラーに必死で仕えた。フィブリゾに言われた通り。 しかし、それはグラウシェラーのためではなくフィブリゾのために……。 彼女の心は未だフィブリゾを向いている。 (すべてはフィブリゾ様のために……) 「シェーラ」 突如声がした。思考の世界が崩壊し、現実へと投げ出されたシェーラは、戸惑いつつも声の方へ振り向く。 「……ダイ兄様」 背後には、一番上の兄がいた。 金髪碧眼の貴族風の美青年。ただ美しいだけでなく、カリスマ性に似たものを保持している。振り向いたシェーラの瞳に、その姿が飛び込んだ。 ノーストとは、また別の美しさを持っていた。 「どうしたんだ? また、ノーストか?」 小さく頷く。その表情は曇り空を思わせた。 「気にするなよ。どうせ、あんなやつは役に立つまい」 「でも……」 「でも、じゃない。あんなクズはいてもいなくても同じだ。なぜお前はあんなクズのことを気にするのだ?」 クズ? 覇王がクズ。ノーストもクズ。 クズだらけなのか? この世界は……。 違う。誰もクズなんかじゃない。シェーラはそう言おうとしたが、 「分かったな!」 強い言葉に反撃することは出来なかった。 (……ノースト兄様) 兄を想う妹。 シェーラは孤独だった。 長女ネージュと、次男ノーストは白銀の髪。 長男ダイと、三男グラウは金色の髪。 シェーラだけが黒髪だ。 しかし、ネージュが滅んだ今、ノーストは自分と同じ……孤独。 シェーラは、兄弟の中ではノーストを第一に想っていた。 それは、孤独から解放されたいがため? ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ |
15156 | 30:メシア | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/19 20:21:01 |
記事番号15003へのコメント ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ ――30:メシア―― 七月十五日午後。 スィヤーフは瀕死とも言えた。 もう何日戦っているのだろうか。 随分と、敵の数が減っている。 だが、視界は揺らぎ、荒い呼吸が止まらない。 激痛に身体中がうめき声を上げ、スィヤーフを苦しめる。 もう……だめだ。 彼は、自らの滅びを覚悟していた。 大量の敵を屠ったが、その呪詛は凄まじい。 今も、数多の矢が彼に向かって降り注ぐ。敵はまだいるのか? 微かな痛みが積もり積もって、激しい痛みをまたもや与えた。 終わる。 もうじき、終わる。 終わってしまう。 終わってしまう。 すでに視界は真っ白だ。 何も見えない。ただひたすら攻撃を続ける。 満身創痍のスィヤーフは、己の最期を悟りつつも、それでも必死で戦い続けた。 せめて……敵を全滅させてから、滅びよう。 その強い意志だけが、彼を支えている。 そういえばアマネセルは無事なのだろうかか。 冥将軍アマネセル。セフィードと交流のあった彼女とは、何度も話をしていた。 その姉ノーチェともある程度の親交はあったが、アマネセルの存在の方が彼にとっては大きかった。 彼はいつしか彼女を好いていた。 武人口調と、それと矛盾するようなミステリアスな部分が妙に気に入っていた。当然、それがすべての理由ではないのだが。 口には出さない。照れているわけではないが、なぜかはばかられた。 彼女はまずいやつが来たと言った。 まずいやつとは、どんなやつだろうか? 脅威となる存在だとすれば天界の神族か? それもアマネセルですら苦戦を強いられるような高位の神族? そうだとしたら、やはりまずい。 彼女の身も危ういということだ。 やはり滅んでしまったのか。 もう会うことも出来ないのだろうか。 考えは悪い方へ向かう。 どんなにプラス思考を試みても、彼女が滅びたという考えは拭い去れない。 勘が悪いスィヤーフでも、今度のことは本当だと思う。 ……アマネセルが滅んだ? アマネセルは滅んだ。 アマネセルは滅んだ。 アマネセルは滅んだ。 どんどんそれが真実に思えて来る。 いや、それは現実だ。 実際、気配が見当らない。彼女の持つ強い気配が。 やはり滅んだのか。 絶望感が心を貫く。 奇跡はそんな時に起こった。 突如現れる凄まじい輝き。 閃光が世界を覆った。 盲目状態のスィヤーフでも感じられる光。 エルフ達が倒れてゆく? 白い光は、どこか神々しく思えた。 それは、幻なのかも知れなかった。 幻覚を見ているのだ。 だが、違うと確信したのは、その声を聞いたからであった。 「スィヤーフ」 美しい声。救世主のそれに違いない。 どこかで聞いた気がする声だったが、それは気にしないことにした。 「スィヤーフよ」 「誰……だ?」 力ない声で訊ねる。 「私は、お前を救うものだ」 すると、神々しき声が返って来た。 「救う……もの?」 「そうだ。この世界に不満はないか?」 不満。 不満など、数え切れぬほどあった。 夜空の星よりも、天より降る雨の粒よりも、砂漠の砂よりも、過去の大戦で流れた血の量よりも、さらに多いとスィヤーフは思った。 その最たるものこそが、弟の滅び。そしてアマネセルの滅び。 「弟が……滅びた……らしいのです。それに……」 スィヤーフは言った。彼の唯一の神に向けて。 すると、微かな笑い声。そして、 「……そうか。ならば、私について来い。世界を変えてやる」 スィヤーフは、一瞬迷ったが、 「はい」 頷いた。 「それでは、いこう」 「分かりました。……救世主様」 それと同時に、世界が歪んでいく。 盲目と化したスィヤーフにも、それは感じられた。 空間を渡る? どこへいくのだ? だが、そのゆき先を知るよりも早く、彼は力尽き、大地に倒れ込んだ。 スィヤーフはなぜ、救世主についていったのだろうか? 弟が滅びたため? いや、それだけではない。 弟との最悪の別れを造り上げた世界を、憎悪していたためだ。 仇を討つよりも、後を追うよりも、世界の不条理を正そう。 そう強く決めて、気絶した。 森の魔族軍が事実上、全滅したのはその直後のことであった。 ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ |
15162 | 世紀末救世主伝説……違う(−−;) | エモーション E-mail | 2003/9/19 22:51:45 |
記事番号15156へのコメント こんばんは。 フィブリゾ様、スィヤーフさん、シェーラちゃんと、三者三様の現在の状況ですね。 アマネセルさんが特にお気に入りだったとはいえ、さすがにノーチェさん、 アマネセルさんと、部下であり娘でもある存在を一度に失ったのは、分かっていても フィブリゾ様にとってはかなりの痛手ですね。 それでも着々と進んでいくカタート攻略。降魔戦争としてはクライマックスが 近くなってきたのでしょうか。 ……そう言えば、平和主義者のレイ=マグナスさんは、一体どこで登場に……。 シェーラちゃんの心配を余所に、いきなり独断専行で、勝手にどこかへ行ってしまうノーストさん……。 本当に、この方は……(^_^;) ノーストさんも、裏でどう動いているのか謎ですね。 それにしても、やはり健気にフィブリゾ様を思い続けるんですね、シェーラちゃんは。 もう、ぼろぼろの状態のスィヤーフさんの前に現れた自称救世主……。 胡散くさいですねー(汗)実はコスプレ(笑)したソゾフさんとか(笑) 魔族が相手に対して神々しいとか思う辺り、何だか不思議な感じです。 でも、そんな「本来魔族として、それはどうよ?」という感情を持ってしまうくらい、 セフィードさんとアマネセルさんが存在しないというのは、彼にとって 「間違っている」世界でしかないのですね。 それだけ、この2人は彼にとって大切だったのですね。 ……あ、ノーストさんにも、これは当てはまりますね。 さて、この後どうなるのでしょう。降魔戦争そのものは、そろそろ終結に 向かうのでしょうけれど、この胡散臭い救世主絡みの件は、まだまだこれからのようなので、 続きを楽しみにいたします。 それでは、今日はこの辺で失礼いたします。 |
15174 | Re:コスプレしたソブフさんって……(笑) | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/20 21:35:07 |
記事番号15162へのコメント >こんばんは。 こんばんは > >フィブリゾ様、スィヤーフさん、シェーラちゃんと、三者三様の現在の状況ですね。 >アマネセルさんが特にお気に入りだったとはいえ、さすがにノーチェさん、 >アマネセルさんと、部下であり娘でもある存在を一度に失ったのは、分かっていても >フィブリゾ様にとってはかなりの痛手ですね。 精神的ダメージはやはり相当なものでしょう。 >それでも着々と進んでいくカタート攻略。降魔戦争としてはクライマックスが >近くなってきたのでしょうか。 ええ、そろそろ最終決戦というところです。 >……そう言えば、平和主義者のレイ=マグナスさんは、一体どこで登場に……。 マグナスさんの登場は四章の方になるでしょう。もう四章近いですが。 >シェーラちゃんの心配を余所に、いきなり独断専行で、勝手にどこかへ行ってしまうノーストさん……。 >本当に、この方は……(^_^;) 魔族一の問題児といっても間違いではないでしょうね。 >ノーストさんも、裏でどう動いているのか謎ですね。 謎です(待て) >それにしても、やはり健気にフィブリゾ様を思い続けるんですね、シェーラちゃんは。 本当に良い子ですシェーラちゃん。 ……出番は少ないですが(笑) > >もう、ぼろぼろの状態のスィヤーフさんの前に現れた自称救世主……。 >胡散くさいですねー(汗)実はコスプレ(笑)したソゾフさんとか(笑) 想像して笑っちゃいました。ソブフさん救世主バージョン。 >魔族が相手に対して神々しいとか思う辺り、何だか不思議な感じです。 >でも、そんな「本来魔族として、それはどうよ?」という感情を持ってしまうくらい、 まあでも、魔族は魔王に神々しさみたいなものを感じていると思いますし、この場合の神々しいというのは、そういったような感じです(意味不明?) >セフィードさんとアマネセルさんが存在しないというのは、彼にとって >「間違っている」世界でしかないのですね。 >それだけ、この2人は彼にとって大切だったのですね。 最も大切な二人とも言えるでしょうね。 もう、すべてを失ったに近い心境でしょう(本当にすべてを失ったわけではないですけど)。 そんな時に、現われた救世主。 これは落ちても仕方ないですね。 >……あ、ノーストさんにも、これは当てはまりますね。 ええ、彼もそうです。 > >さて、この後どうなるのでしょう。降魔戦争そのものは、そろそろ終結に >向かうのでしょうけれど、この胡散臭い救世主絡みの件は、まだまだこれからのようなので、 >続きを楽しみにいたします。 >それでは、今日はこの辺で失礼いたします。 今回も良きご感想をどうもありがとうございました。 それでは…… |
15173 | 31:再戦 | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/20 21:14:20 |
記事番号15003へのコメント ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ ――31:再戦―― 七月十七日午前。 戦闘開始から、かなりの時間が経っている。 敵兵力はかなり減少し、勢いに拍車が掛かって来たが、森での戦いに勝利した連合軍がこちらへと向かって来た。 どうせ元々、森の軍は負ける予定だったのだ。結局は時間稼ぎである。 予定が狂ったお陰で、稼げた時間は少なくなったが、天界の神族が来なかったため、これで充分だ。 それに魔王の復活も予想よりも遥かに早まっているようで、むしろ予定が狂ったのが良い結果をもたらしたと言えるかも知れない。 もしも予定通りであったならば、神殿を破壊しきらない内に魔王が復活していただろう。 魔王が復活すれば、水竜王が直接出て来る可能性も上昇してしまう。いや、ほぼ確実に出て来るだろう。 水竜王は、恐らくあらゆる罠の可能性を検討しているのだ。どのようなものを想像しているのかは全く分からないが。 その罠の正体が魔王だと気付けば、自ら出る以外の選択肢はなくなるだろう。 水竜王が出て来るのが魔王復活以前ならば、逃走すれば済むことだが、魔王復活後だと厄介なことになる。 第一に魔王を逃走させるというのは、非常に不名誉なことであり、魔王も屈辱を味わうことになる。かといって普通に戦って勝てるとは思えない。 第二にせっかくの隠し球を明かしてしまうことになるのだ。神族達の警戒心を強めてしまう。 とにかく、予定が狂ったこと――カタートへの攻撃が早まったことは、実に良い結果をもたらした。 これで良かったのだ。 同刻。 正面から襲い掛かって来る敵を、獣王ゼラスは睨みつけた。 一匹の竜が震え出したその途端に、その身体が弾け飛ぶ。連鎖し、すべての竜が滅んだ。 閃光が走る。だが、竜族自慢のドラゴンブレスも、彼女の前には無力であった。 「ガーヴ、ここはもう私一人で充分だ」 「ああ分かったぜ!」 ともに戦っていた魔竜王ガーヴは、その大剣を一振りした。 途端に、辺りの敵が全滅し、断末魔の多重演奏が始まった。 それと同時に、ガーヴの姿は消えていた。 「全く、派手なやつだな」 随分と時間が経ったが、まだ彼に疲労の色はない。 むしろ、ますます輝いて来ているというほどだ。 純粋な戦闘能力では五人中、二位以下となるガーヴだが、こういった戦いに限っては、最も優れてた者と言えるかも知れない。 「さてと、ここを落とすか」 先ほどの場所から転移して来たガーヴは、山間の小さな神殿の前にいた。視界は良好だ。 早速、その場所へ向けて剣を振る。 剣より生まれた衝撃波が、すぐさまそれを粉砕した。轟音が鳴り響く。しかしそれだけであった。 「ここには敵がいねえのか?」 気配はない。この区域に生命の反応は、全く感じられなかった。 「誰もいねえんだな?」 辺りを見回して確信する。 ただ白雪と岩が見えるのみ。 敵は、神殿とともに全滅したのだろう。叫びを上げる暇もなく。あるいは、無人の神殿だったのかも知れない。 「仕方ねえな。上がるか?」 そして再び転移を始めようとしたが、 「ん?」 そこには……微かな気配。 「誰か、いるな?」 ガーヴがそれに感づいた。 その瞬間。 「てめえ!」 背後から襲い掛かって来る気配。 ガキィン! 素早く振り向き、受け止めた。 力強い一撃だ。 腕が痺れる。 影を睨みつけた。 敵には距離を取られた。 再び、襲い掛かって来るか? ガーヴは警戒していたが、来るのは剣ではなく、言葉であった。 「さすがです。まさか奇襲が通用しないとは」 金色の剣を手にしたソブフが彼の視界に姿を現していた。 「また会えるとはな」 ソブフは、ガーヴの真正面にいた。 二人は、互いに歩み寄る。 「全く、ようやく出会えましたよ。この邂逅を運命に感謝するとしましょう」 そして二人は、駆け出した。風のように、嵐のように。 視線はすべてを語っていた。魔竜王ガーヴと光の剣士ソブフは再び激突する。 「くたばれ!」 その瞬間、刀身がぶつかり合って、火花が散った。 ガーヴは剣を引く。そして、ソブフの二撃目を、素早く右方向へかわした。 さらなるソブフの一撃。速い。しかし、ガーヴの眼はそれを確実に捉えていた。 ソブフの突きを、ガーヴは弾く。だが、黄金色に輝く刃は軌道を修正し、横方向から襲って来る。 「くっ!」 何とか剣を盾にしたが、ソブフの猛攻は終わっていない。それでもガーヴは刃の暴風をうまく凌いでいた。前回のように簡単にやられたりはしない。 ガーヴは獅子の如く戦った。 だが、ソブフの神速の剣は、そんなガーヴを嘲笑っているかのようであった。 「あなたは運命についてどう思われますか?」 激しく繰り出される斬撃とともに、その言葉が投げ掛けられた。 ガーヴはその素早い剣捌きを必死でかわしつつ、 「んなもん知るかよ! 俺は運命なんぞ信じねえんだ」 無理矢理、言葉を口にした。 その瞬間…… ズキュ! ガーヴの肩から血が飛んだ。紅い飛沫が、微かに雪の大地を染める。 一瞬のほんの僅かの隙をついた一撃。針の穴に糸を通すかのような神技。 「どうです?」 「その……卑怯技が、か?」 距離を取りつつ、ガーヴが毒づく。 だが、ソブフは笑っていて、 「ええ、中々の戦法でしょう?」 「くだらねえ!」 傷の痛みに耐え、再びガーヴは距離を詰めた。 キィン! 威勢の良い音を立てて、刃が交差。そして、そのまま鍔迫り合い。 押し合うが、やはり無傷のソブフが優位であった。 「畜生!」 確実に押されているガーヴ。 傷がひしひしと、身体中に伝わって来る。痛い。魔族であるため、外見上の傷を消すことは出来たのだが、実際のダメージは何ら変わっていないのだ。 必死で呼吸。あの剣から受けた傷は相当なものだ。 強い。 自分では、勝てないのか? たかが人間。 たかが人間が、なぜこれほどの力を持っている。 ソブフは、過去に見た誰よりも、倒さねばならぬ敵に思えた。 負けられない。 勝つ。 ガーヴは渾身の力を込めた。 だが、 「ぐおっ!」 その瞬間、ソブフが剣を引き、ガーヴの懐へ突進した。 その攻撃は素早くかわした。ガーヴの瞬発力は並ではない。 そして、よろめきつつも次の攻撃を剣で受ける。 「ぐっ!」 痛い。だが堪えた。 さらに何度か打ち合う。 しかし、その時すでに、ガーヴは敗北を悟っていた。 いつかは、負ける。 体力がどんどん削られていく。 元々、ガーヴは無傷ではなかった。対するソブフは全く傷を負っていないと思える状態で戦いを挑んで来た。初めからガーヴは不利であったのだ。 ガーヴは負ける。このままでは、負けてしまう。 だから、せめて少しでも長く戦っていたい。それがガーヴの心境だった。それでも勝とうとする気持ちも、まだ残っていたが……。 ソブフの攻撃。敵は完璧に主導権を握っている。 がーヴはそれを受け流す。だが、常識外れに速い太刀は、さらにガーヴの懐を襲う。 しまった! それこそがソブフの得意技。 咄嗟の反応は、紙一重で間に合わず、ガーヴは腹部に深い傷を受け、雪の大地へ倒れ込んでいった。 ソブフが歩み寄って来る。 またも……負けたか。 そう……彼は負けた。 二度の敗者。 一度の完敗後、必死で鍛錬を重ねたが、勝敗には何ら影響を与えなかった。 「……畜生」 声には覇気が欠けていた。 死神の足音は、あくまで淡々と、ゆっくりと近付いてゆく。 それは余裕ではなく、警戒心からのものであろう。 それにしても、ここで滅びてしまうのだろうか。 滅びる。そういえば経験したことがない。経験して見ようか。あの世への土産として。 いや、それは……だめだ。そうだ。ここで滅んではいけないのだ。 「運命というものは……存在するんですよ」 そして剣を振り下ろす。油断はしていない。 冷酷無情。笑っていた男が、急にそんな印象を持ち出した。 「すべては運命によって、決められています。……羅神盤という」 剣が近付いて来る。 だが、すべての行為は、敵に察知されてしまうだろう。 ならば。ならば…… 剣がガーヴの喉元へ至る瞬間、 「そう、すべては運命の元に……」 ならば…… ガーヴはその時、決心をした。 歯を食い縛り、思い切った。 このままでは、滅びが来る。滅びてはいけないのだ。 ならば…… 「ならば、これがてめえの運命だっ!!」 「っ!!?」 「……死ねよ!」 凄まじい光がソブフを焼き、そして完全に姿を消し去った。 「まさか……」 ガーヴの放った魔力は、ソブフという恐ろしき怪人を滅ぼすことに成功したのだ。 だが、 「畜生!」 ガーヴは、天に向かって叫んでいた。 最後の手段を、使ってしまった。 魔力。それは裏切り。 剣の力で勝ちたかった。だが、それは不可能だった。 不可能だったからこそ、殺してしまった。 負けたも同然だ。ガーヴはそう思っていた。 そうだ。やはり負けたのだ。 それも、永遠の負け犬。 しかし彼は生きなければならなかったのだ。さらなる敵を迎え撃つため……。 夜明けの剣だけが大地に転がっている。 空は無表情。少し、暗い。 冷たい風は、慰めにもならぬ。 ガーヴは、天を見詰め続けた。 その表情は、悲壮感さえ感じさせた。 最終決戦が近付いている。 だが、ガーヴは傷を負いすぎた。そして、その気にもなれない。 他の王達が結界を張って、魔王が復活するまでそう時間はない。 (休むか?) ガーヴは、眠ることにした。そうすれば、ダメージも少しは癒えるだろう。 ガーヴは眠り始めた。 再び戦う時が来るまで……。 ソブフは予定通り、滅びた。 ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ |
15185 | Re:31:再戦 | エモーション E-mail | 2003/9/21 23:23:01 |
記事番号15173へのコメント こんばんは。 予定が狂って、でもそれが他の微妙にズレた予定と上手くかみ合って、 結果としてはノープロブレム……。 こういうのって、後から見ると本当に予定された運命どおり、という感じがしますよね。 そしてガーヴ様対ソゾフさん。 どちらもやたらと強いだけに、戦う場面はさすがに迫力ありました。 これでガーヴ様がソゾフさんと同じく、無傷状態のコンディションでしたら、 この戦い、どこまで続いたのかな、とも思いましたし。 できればベストの状態での戦いを見たい組み合わせです。 ……それにしてもソゾフさん、いくら万全じゃないと言っても、人間なのに ガーヴ様をここまで追いつめる……。 ……ゼロスより強いのでは……。 >「そう、すべては運命の元に……」 > ならば…… > ガーヴはその時、決心をした。 > 歯を食い縛り、思い切った。 > このままでは、滅びが来る。滅びてはいけないのだ。 > ならば…… >「ならば、これがてめえの運命だっ!!」 >「っ!!?」 >「……死ねよ!」 > > > 凄まじい光がソブフを焼き、そして完全に姿を消し去った。 >「まさか……」 > ガーヴの放った魔力は、ソブフという恐ろしき怪人を滅ぼすことに成功したのだ。 この辺りで、まだ滅ぶわけにいかないと、咄嗟に魔族の力を使ったことで、 多少運命、といいますか、予定が変わったのかな、と思いましたが…… > ソブフは予定通り、滅びた。 ラストのこの文で、うわあと思いました。 さすがにソゾフさんでも、羅針盤に示された自分の運命は知らなかったのですね。 とうとう昇天しましたか、ソゾフさん。……結局、正体不明のままですね。 まあ、それもソゾフさんらしいような気もしますが。 表立って動いていた方々が、ほぼ昇天(ちょっと違うかも)して、 この後の展開は一応原作キャラの活躍になるのでしょうか。 (個人的にはゼラス様が出てきて、ちょっとご機嫌です。) それでも謎の救世主と、それについていったスィヤーフさん、羅針盤のこと、と、 まだまだ謎の部分もありますし、続きが楽しみです。 それでは、今日はこの辺で失礼いたします。 |
15195 | Re:31:再戦 | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/24 18:47:19 |
記事番号15185へのコメント >こんばんは。 こんばんは。 > >予定が狂って、でもそれが他の微妙にズレた予定と上手くかみ合って、 >結果としてはノープロブレム……。 >こういうのって、後から見ると本当に予定された運命どおり、という感じがしますよね。 ソブフの行動はむしろ魔族にとって+の方向に結びついた? これが彼の意図したこと? 謎は四章で明かされるはずです。 > >そしてガーヴ様対ソゾフさん。 >どちらもやたらと強いだけに、戦う場面はさすがに迫力ありました。 戦闘シーンは時々、ディスプレイの前で実際に動いてみたりしながら書いてます。知識は全くないんで、いい加減ではありますが。 >これでガーヴ様がソゾフさんと同じく、無傷状態のコンディションでしたら、 >この戦い、どこまで続いたのかな、とも思いましたし。 >できればベストの状態での戦いを見たい組み合わせです。 その場合、持久戦に持ち込まれるとソブフは不利でしょう。一応、人間なようですし。 >……それにしてもソゾフさん、いくら万全じゃないと言っても、人間なのに >ガーヴ様をここまで追いつめる……。 >……ゼロスより強いのでは……。 互角以上には戦えるのではないかと。 > >>「そう、すべては運命の元に……」 >> ならば…… >> ガーヴはその時、決心をした。 >> 歯を食い縛り、思い切った。 >> このままでは、滅びが来る。滅びてはいけないのだ。 >> ならば…… >>「ならば、これがてめえの運命だっ!!」 >>「っ!!?」 >>「……死ねよ!」 >> >> >> 凄まじい光がソブフを焼き、そして完全に姿を消し去った。 >>「まさか……」 >> ガーヴの放った魔力は、ソブフという恐ろしき怪人を滅ぼすことに成功したのだ。 > >この辺りで、まだ滅ぶわけにいかないと、咄嗟に魔族の力を使ったことで、 >多少運命、といいますか、予定が変わったのかな、と思いましたが…… > >> ソブフは予定通り、滅びた。 > >ラストのこの文で、うわあと思いました。 >さすがにソゾフさんでも、羅針盤に示された自分の運命は知らなかったのですね。 人間ですから、自分では見えないので誰か(神族)に教えられてもらうしかないわけですけど、教えてくれる人が全く本当のことを教えてくれるとは限りませんし。 >とうとう昇天しましたか、ソゾフさん。……結局、正体不明のままですね。 >まあ、それもソゾフさんらしいような気もしますが。 いきなり現われて、いきなり去って行く。 台風一過ってところすかなあ。 > >表立って動いていた方々が、ほぼ昇天(ちょっと違うかも)して、 >この後の展開は一応原作キャラの活躍になるのでしょうか。 ええ、最終決戦も近いです。 >(個人的にはゼラス様が出てきて、ちょっとご機嫌です。) ……本当にチョイ役。あんまり目立ってない原作キャラって多いかも。 >それでも謎の救世主と、それについていったスィヤーフさん、羅針盤のこと、と、 >まだまだ謎の部分もありますし、続きが楽しみです。 そろそろ、謎が明かされたり、色々なものが繋がったりします。 >それでは、今日はこの辺で失礼いたします。 またまた良いご感想どうもありがとうございました。 それではこれで…… |
15198 | 32:凄なる戦い | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/24 21:21:59 |
記事番号15003へのコメント ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ ――32:凄なる戦い―― 同刻。 思い切って地上に向かったアドリアンは、カタートへ赴き、五人の王を一人でも討つことに決めた。 アドリアンの対戦相手は決まっていた。選択は間違っていないはずだ。 魔竜王ガーヴはまず避けた。 猛将と謳われるアドリアンも、命知らずな男ではけしてない。 もしもそれほどの男であれば、冥王フィブリゾや魔竜王ガーヴに平気で挑んでいることだろう。 冥王フィブリゾ、魔竜王ガーヴ――神族間では、現魔族軍の双璧とまで言われている。 現在、魔界で最強の魔族とされ、知略にも長けた冥王フィブリゾ、そのフィブリゾには実力では劣るものの、魔竜王ガーヴもその滅びを恐れぬ戦い振りは全神族を戦慄させている。 五千の神族軍を独力で征したこともあれば、同等以下の兵力にて、蛮勇ティディアスの軍を敗走に追い込んだこともある。 アドリアンが気に掛けているのは、後者の方である。ティディアスはけして逃げぬ。 アドリアンと違い、真に無謀な神族だ。しかも直接的な戦闘能力は四竜王に次いで高い。さらに気性の荒さというものも含めて、最強の神族と呼ばれている。 彼の軍もまた勇猛だ。一度、乱戦に持ち込まれれば、同数の兵力ではどのような軍勢であろうと敵わない。 ティディアスを敗走させるなど、ほとんど不可能に近いと思っていたアドリアンである。滅ぼす方がよほど容易い。 やはりアドリアンはガーヴに勝てない。それは自分自身が最もよく知っている。 恐怖を感じる相手には、絶対に勝つことは出来ないのだ。 カタートの寒風が吹きつける。 巨大な山脈の一角、その大地は平らとなっており、まさしく一騎打ちの場に相応しい。 そこに今、二つの美貌が対峙していた。 一つは美しき猛将アドリアン。 そしてもう一つは、絶対なる覇の王グラウシェラー。 「汝は、我と戦うのか? ……アドリアン公」 静寂の中。辺りに竜の影はない。先ほどまでは数百の竜がこの地の真上に陣取っていたのだが、グラウシェラーの剣によってすべて片付けられたのだ。 グラウシェラーの威厳に満ちた声のみが、響き渡る。 「われでは役不足か?」 アドリアンが訊き返す。同じく強さを感じさせ、さらに美しさを孕んだ声だ。 「相手として不足はない。汝とは戦いたいと思っていたわ」 「それがありがたいなグラウシェラー公。さて、挨拶はこれまでにしよう」 アドリアンは虚空より、一本の剣を取り出した。カリボルンという銘の聖なる剣である。 「そうだな。それと……」 グラウシェラーは辺りを見回し、 「邪魔が入るとつまらん。ここは良い戦いの場となりうるだろうが、出来れば結界でも張って欲しいな」 「では共同で張れば良い。そうすれば、どちらも逃げられぬ」 「そうだな」 グラウシェラーは頷いた。 風も雪も遮断され、ただ二人だけがある。 「ゆくぞ」 言ったのはアドリアンであった。カリボルンを掲げ、斬り掛かっていく様は、勇敢なる獅子を思わせた。 グラウシェラーは静かに佇む。愛剣エクスカリバーは腰に差したまま。しかし、けして余裕を見せているわけではない。 その鋭い眼光は、アドリアンの動きを見つめていた。 素早く剣を抜く。風と同化した銀の剣が、アドリアンの攻撃を受け止めた。 グラウシェラーは後退した。退きつつも、魔力の蛇を生み出す。 アドリアンは一太刀によって、蛇を切り裂き、距離を詰める。グラウシェラーは空間転移し、敵の背後に具現化した。 振り向き様に剣を放つ。カリボルンは、背後を取っていたグラウシェラーの腹部を軽く撫でていた。 「ぐっ」 声を漏らす覇王。 だが魔力を風として解き放っていたグラウシェラーは、アドリアンを吹き飛ばすことで、さらなる一撃を受けることを避けていた。 アドリアンは、吹き飛ばされつつも光の弾を撃ち放った。だがそれは容易くかわされる。 飛ばされるところまで飛ばされたアドリアンは、再び駆け出しグラウシェラーへと迫った。 (……勝てる) 今までの戦いから、アドリアンは勝算を見出していた。巧みな剣捌き、空間転移や風により間合い取り、どうやら正攻法を得意としているようだ。 将としてのグラウシェラーも、奇抜で姑息なものでなく、正統的でかつ優れた戦術を好む。 彼はまさしく名将であるのだ。 (時間は掛かるかも知れぬが、これは勝てる) アドリアンの顔が綻んだ。だが油断せぬよう戒める。 アドリアンはグラウシェラーとぶつかり合い、三度連続で打ち合った。 それから交差する。猛将は名将の脇腹を斬り抜いていた。 膝をつく覇王。だがすぐに逃げ去る。 間合いを取って体勢を立て直し、再びぶつかり合う。互いに飛翔し、空中で剣戟の乱舞をおこなった。 今度の勝者はグラウシェラー。アドリアンは手傷を負った。 やはり一筋縄ではいかぬと思った。 しかし、さらに激突する。どうせ逃げられない。戦うしかないのだ。 何度もぶつかり合い、互いにダメージを与え合った。 剣を振る。魔力を駆使する。傷を負う。確実に両者は疲弊してゆく。 繰り返し、繰り返して、ついにアドリアンはグラウシェラーの首を捉えた。 一気に切り裂く。すべての力を込めて。 魔族とはいえ人間の形をしている以上、この部分は弱点と化す。無論、首を切り取ったのみで滅びるわけではないが、精神的なダメージがより大きく入るのだ。 全身全霊を込めた斬撃。アドリアンは全力で一閃した。 カリボルンが覇王を襲う。エクスカリバーは間に合わない。 だが剣が首に至るその瞬間、閃光が迸り、爆音が轟いた。 焼ける身体。あまりにも速すぎる。油断していたようだ。 爆風が身を持ち上げ、後方へと運んでゆく。 大地に叩きつけられた美貌の将は、歯噛みし覇王を見詰めた。 「悪いな。魔法こそが我の真骨頂なのだ」 強い。本当に強い。これほど短い時間で、これだけの魔力を解放するとは。 今の一撃で判明した。 予想以上の強敵だ。噂でのみ知る魔竜王ガーヴ、この男はガーヴと比べても遜色のない相手なのではないだろうか。 「ふふっ……」 アドリアンは笑った。そして立ち上がる。 戦いとは、やはり愉しいものだ。 戦慄は愉悦でもある。 アドリアンは剣を構えた。その姿は、過去のどのアドリアンよりも美しい姿であった。 「グラウシェラー。吾は貴様を倒す」 「やれるものならばな」 傷は深い。 本当に勝てるだろうか? 敵の瞳を見やる。凄まじい。凄まじい眼光だ。 だが負けられない。 一歩を踏み出す。魔法を恐れてはいられない。 「ほう」 グラウシェラーはエクスカリバーを振り上げた。 剣で迎え撃つか。 アドリアンはグラウシェラーの腹部へ一閃した。 斬りつけるとともに、空間転移し反撃を避ける。 爆風はそれと同時に起こった。グラウシェラーが魔力を解き放ったのだ。 だが、その魔力攻撃を受けたはずのアドリアンは、それでも悠然と立っていた。魔力で盾を造り上げ、防御したのだ。 「汝もやりおる。だが勝つのは我だ」 グラウシェラーは咆哮し、突進してゆく。アドリアンも同じようにして、攻め込んだ。 刃を激しく交差させる。 大胆にして、隙はない。 純粋な剣技のみで比べれば、アドリアンに一日の長があるだろう。 しかしグラウシェラーの魔力は、アドリアンを凌いでいる。そのため常に、魔法への対処を考えてしまうのだ。逆にグラウシェラーは、アドリアン程度の魔法ならば簡単に防ぐことが出来る。 結果、戦闘能力はほぼ互角といったところである。 だが膠着状態には至らなかった。 激しく斬りかかって来たアドリアンを、随分と傷を負い疲弊していたはずのグラウシェラーが、鋭く凄まじく素晴らしい一撃を持って迎え撃ち、カリボルンを打ち砕いたのだ。 まさしく会心の一撃である。さらにその時のエクスカリバーには、グラウシェラーの魔力が大量に注ぎ込まれていた。 そして返す刀で、アドリアン自身を引き裂き、爆破魔法によってとどめを差した。 そしてアドリアンは滅びた。 だが最期、彼は笑っていた。 グラウシェラーは勝利した。不利な状況であったに関わらず。 だが、この戦いによってかなりの手傷を負ったことには違いない。これからは苦戦しそうだ。 それから、彼は竜達と戦い続けた。 七月十九日の正午頃、彼は「北の極点」へと向かった。 ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ アホかと言われそうですが、エクスカリバーとカリボルンは一緒の剣です。エクスカリバーが英国読み、カリボルンがフランス読みです。 |
15199 | 33:出陣 | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/24 21:45:07 |
記事番号15003へのコメント ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ ――33:出陣―― 地上では、七月十七日の正午頃だろうか。リフラフは、突如姿を眩ませた父、アドリアンの部屋にいた。 天へ向けて伸び上がった漆黒の髪に黒く鋭い眼差し、さらに黒いマントを身に着けた黒い美青年。ただ肌は白磁の如し。 彼は父の座る王座に腰掛け、コンピュータと向き合っていた。 彼はコンピュータに残された文章に目を通すと、傍らにいた神兵に、地上に彼の父がいないか調べるように言い、下がらせた。 そして今一度、父の書き置きを読み直す。 「もしや、誰かが見つけてくれるかと思い、ここに書くことにした。 地上が危ない。しかし兵は動かせぬ状況だ。 ならば、私だけでも出陣する。正義のために……。 私に続くものがあれば、遠慮などいらん、ついて来い」 「親父……殿」 再び無機質な活字が、肉声を持って彼に伝わる。 リフラフ以上に美麗で優雅な容姿をしていたアドリアンだが、彼以上に正義感の強い武人であった。 リフラフは拳を握り締める。 勇気ある父。 正義のためには戒律さえも打ち破る。 強き父。 彼の目標地点であり、そこは最果ての地のように遠い。 神族の鑑たるアドリアン。 最高の親父を持ったと、リフラフは真に思った。 「やっぱり、俺も……いくぜ!」 たとえ、命に背いても。 そうだ。命令なんて関係ない。 すべて、神々のために――世界のためにやることだ。 リフラフはしばしの夢想に入った。希望も未来が見えた。 父とともに魔族の最期を見届ける光景。強くなったな、そう父に言われた。 「リフラフ様!」 妄想に浸っていたリフラフの元へ、先ほどの神兵が戻って来た。 「どうした?」 リフラフは即、我に返る。兵の表情には深刻さを感じられた。 「実は……」 兵は、思考を処理して、 「どうしたのだ? 早く言え」 「……実は、」 兵はしばし黙り込んだ後に、リフラフの方をしっかりと見据えると、 「地上にアドリアン様の反応が見当りません」 「何だと!」 リフラフは強く怒鳴った。 「それはどういうことだ!?」 「それは……」 「はっきりと言え!」 彼の声は鋭い雷鳴を思わせた。 「はっ、はぃい!」 リフラフは美しいが、それ以上に恐ろしい。その睨みの視線は、時の大河さえ凍てつかせ、悪魔の邪視さえ打ち砕くほどに思える。 「……恐らく、ですが……アドリアン様は何者かに滅ぼされましたのではないかと」 リフラフの理性は地に落ちて砕け散った。封印されていた地獄の焔が今、力をつけて燃え上がる。 リフラフは、その神兵を殴りつけた。烈風が兵の頬を打ち据える。 リフラフは何度も殴り掛かった。気が付けば、大地に伏す神兵。彼は必死でリフラフから逃げていった。 リフラフは少し落ち着いた。そして……泣いた。それがまさしく理性の水であったのだろう。 その時になって羅神盤が見えた。 僅かな過去――父が、覇王グラウシェラーに滅ぼされたシーン。 なぜ、もっと早く知ることが出来なかったのか。 何と役に立たぬものなのだろうか。 羅神盤を意識して見る方法は強く念じること――必ず見えるわけではないが――だが、知りたい情報を知りたい時に知るコツは存在しない。 思えば、過去の戦いでも羅神盤は使われた。 だが、「最後の審判」を始めとする作戦はすべてことごとく失敗した。 未来を知れば、その未来は多少なりとも変化する。つまりその未来は真の未来ではない。未来を知ったという事実が加算されるために……。 羅神盤が魔族との戦いで役立ったことなど、数えるほどしかない。 「リフラフ様!」 別の神兵がやって来る。 だが涙に濡れたリフラフは、反応をしなかった。 それを察した兵は、 「ティディアス様が、魔族の本拠地を攻めるため、こちらの軍にも参加して欲しいとのことです。ちなみに、火竜王様より許可が下ってております。それでは、私は伝えましたので」 そう言って、去ってゆく。 「分かった」 しばしして、リフラフが呟いた。 (……遅すぎるぞ) ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ |
15200 | 34:復活 | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/24 21:54:52 |
記事番号15003へのコメント ◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆ ――34:復活―― 水竜王は、待機を続けるよう言われた。ヴェノムという男にである。 あれは得体の知れない男だ。 突然彼の元に現れ、ある提案を持ち掛けて来た。 「人類破壊計画」である。 最初は反対したものの、結局は誘惑に屈してしまった。誇り高き神たる自分が。 そしてついにここまで来てしまった。 ああ、竜達が滅ぼされてゆく。 ああ、カタートが闇に覆われてゆく。 七月十九日午後。 ここを除くすべての神殿が破壊された。 そして、ついに結界が張られてしまった。 神封じの結界。 魔族の恐るべき呪術。 これを狙っていたというのか。 天界の神族を召還しなくて本当に良かった。 これほどまでに禍々しい結界の魔力の前では、最高位の神族でさえ虫ケラ同然の存在と化すだろう。 (ヴェノムの忠告を信じても良かった。しかし、あやつは何をしておるのだ) そして、七月二十日午前。 カタートの中央神殿にいる水竜王は感じ取っていた。 神殿内が揺れている。 祭壇に伏した巨大な蒼竜は、遥か遠くを見詰めていた。 重圧。 重き枷。 力は今も奪われている。 それでも彼は見ていた。 つい先ほど発生した強大な力を。 その力こそ…… (……魔王シャブラニグドゥ) すでに連合軍は無意味だ。時間的な問題で機能しない兵力は多数ある上、たとえそのすべてがカタートに集結しえたとて、あの恐るべき魔王の前では真に烏合の衆でしかない。戦闘能力というものは意味をなさず、ただ逃げ惑うだけとなろう。 最強の敵との決戦。 予感はしていた。 結界が張られた時には確信に変わっていた。 避けられぬ戦い。 今、それが始まろうとしている。 「ヴェノムなどもはや、頼りにならん。我が出るしかないようだ」 |
15201 | 三章の後書:邪なる風の吹く中 | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/24 22:03:18 |
記事番号15003へのコメント こんばんはラントです。 風邪っぽいです最近。 二日ほど療養しました。 治ったか治ってないか微妙なところです。 それにしてもようやく長い三章が終わりました。 ソブフ活躍&退場の荒々しい(同時に粗々しい)章だったと思います。 未だに大きなミスを見落としているような気がして脅えまくっている私ですが、それでも勇気を出して四章も早めに投稿していきたいと思います。 それでは…… |
15211 | 一番動きのある章でした。 | エモーション E-mail | 2003/9/25 22:57:11 |
記事番号15201へのコメント こんばんは。 まず3章の終了、お疲れさまでした。 荒々しい、と書かれていましたが、一番展開が激しく進んでいく章だったと思います。 またソゾフさん、大活躍の章でもありましたね。他の章ではさりげなく 動いていましたが、3章そのものを動かしていたのは、ソゾフさんだったと思います。 ある意味では、一番面倒で大変な部分を、ソゾフさんは担当していたのではないでしょうか。 アドリアンさんの死……何となく、「我が人生に一片の悔いなし」といったものを感じました。 4章への伏線になっている部分もあるようですが、3章は登場したそれぞれの キャラたちが、一番それぞれ自分らしく、動いていた章なのだと思います。 それにしても水竜王様すら動かしていたヴェノムさん……。 ソゾフさんの後の黒幕っぽい方でもあり、スィヤーフさんをヘッドハント(違う) した方(ですよね?)で……一体何者でしょう。 神族も魔族も、この方の書いた筋書きにそって、動いているのでしょうか……。 降魔戦争の大詰め、4章。 ほぼ原作キャラの活躍になるのでしょうけれど、降魔戦争の陰で動いている ヴェノムさんについて、多少分かる章になるのかな、といろいろ勝手に予測しています。 風邪を引かれたとのことですが、大丈夫ですか? 治りかけが肝心ですので、あまり無茶はしないようにしてくださいね。 本当に変な気候といいますか、どうも、どこの地域も極端な温度差が続いていますので。 こちらもいきなり普段の12月の気温と、変わらない気温になったりしていて、 風邪気味の方が多いです。 私も秋物通り越して、冬物のセーターやカーディガンを引っ張り出し、 冬用の掛け布団を追加しました(汗) ……さすがに冬物のコート類は出してませんが(笑) それでは、4章の開始を楽しみにお待ちいたします。 でも無理をせず、体調にお気を付けてくださいませ。 |
15219 | Re:一番動きのある章でした。 | オロシ・ハイドラント URL | 2003/9/27 20:17:58 |
記事番号15211へのコメント >こんばんは。 こんばんは > >まず3章の終了、お疲れさまでした。 >荒々しい、と書かれていましたが、一番展開が激しく進んでいく章だったと思います。 一章、二章でゆったりと進んでいたのが一気に爆発したといったところです。長さでも最長で、全体の三分の一以上ですからメインの章とも言えるでしょうね。 >またソゾフさん、大活躍の章でもありましたね。他の章ではさりげなく >動いていましたが、3章そのものを動かしていたのは、ソゾフさんだったと思います。 この章の主役と呼ぶに相応しいかも。倒された瞬間に脇役に代わったとも言えますけれど。 >ある意味では、一番面倒で大変な部分を、ソゾフさんは担当していたのではないでしょうか。 まあでも、楽しみ半分でやってるような。 > >アドリアンさんの死……何となく、「我が人生に一片の悔いなし」といったものを感じました。 戦士の心理は分かりませんが、彼はこれで良かったのではないかと。 >4章への伏線になっている部分もあるようですが、3章は登場したそれぞれの >キャラたちが、一番それぞれ自分らしく、動いていた章なのだと思います。 ストーリーを考えた上で、それにそって無理のないようにキャラを動かすというのが、どうにか出来たんじゃないかと思います。いや、多少の無理はあるかも知れませんけど。 > >それにしても水竜王様すら動かしていたヴェノムさん……。 >ソゾフさんの後の黒幕っぽい方でもあり、スィヤーフさんをヘッドハント(違う) >した方(ですよね?)で……一体何者でしょう。 ヘッドハントの方とヴェノムが同一人物であるかどうかは、今のところは「それは秘密です」と言わざるおえない状態です(笑)。 >神族も魔族も、この方の書いた筋書きにそって、動いているのでしょうか……。 思惑通りになっていそうな感じが思いっきりしますからね。 >降魔戦争の大詰め、4章。 >ほぼ原作キャラの活躍になるのでしょうけれど、降魔戦争の陰で動いている >ヴェノムさんについて、多少分かる章になるのかな、といろいろ勝手に予測しています。 ええ、敵(?)のことについても出て来るかと。 > >風邪を引かれたとのことですが、大丈夫ですか? >治りかけが肝心ですので、あまり無茶はしないようにしてくださいね。 >本当に変な気候といいますか、どうも、どこの地域も極端な温度差が続いていますので。 >こちらもいきなり普段の12月の気温と、変わらない気温になったりしていて、 >風邪気味の方が多いです。 >私も秋物通り越して、冬物のセーターやカーディガンを引っ張り出し、 >冬用の掛け布団を追加しました(汗) >……さすがに冬物のコート類は出してませんが(笑) 今年は本当に風邪に悩まされる年な気がします。 風邪ひきっぱなしで、どうにか治したいと思っています。 それにしても十二月の気温ですか(驚)。それほどまでとは。 > >それでは、4章の開始を楽しみにお待ちいたします。 >でも無理をせず、体調にお気を付けてくださいませ。 どうにか風邪は治したいです……と言いながら結構無茶なことやってる私ですが、本当にどうにかしようと思います。 今回も良質なご感想をいただけて、本当に感謝しています。 それではこれで…… |