◆−薔薇とか幻視感とか・9−ザズルア=ジャズルフィードゥ (2004/2/1 03:27:59) No.15938


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15938薔薇とか幻視感とか・9ザズルア=ジャズルフィードゥ 2004/2/1 03:27:59


 最近某所でさ、セイド君が非常に不幸なわけよ。

ハ:何よいきなり。(汗)

 いや、その最近不幸なセイド君が幸せになる短編が書きたいわけよ。

ハ:へぇ・・・。書けば?

 いや、でもね。この話終わってからの方がちょっと面白い展開になるんよ、それ。

ハ:ならなおさらさっさと書きなさいよ。(怒)

 はいな。それでは長らくお待たせいたしました。待ってない人もちょっと見ていっておくんなまし。
 それでは、薔薇とか幻視感とか・9をお楽しみいただければ光栄です。












 そして、また次の日。ハールはここ数日連続で歌っている光加減と涼しさのバランスが取れた日陰で歌を歌い、演奏していた。また明日、と約束したから。
 それからしばらくも待たないうちに待ち人は来た。だいたい演奏にくる時間を覚えられたのだろう。一番乗りでお客さんとなった。
 ハールはにこっ、と笑んで返した。演奏中なので声はかけられない。
 砂漠の町の片隅で一時歌の花が咲く。そこに黒山の人だかりが出来る。
 あとにそこに残ったのは詩人の美女とその目の前においてあった器の中に集まった硬貨、そして緑髪の青年だった。

「・・・こんにちはっ!」

 集めたお金を腕に、ハールはスラークににこっと笑い、言った。

「あぁ、こんにちは。」

 スラークはハールに笑み返した。





「ただいま。」
「お帰りスラーク兄ちゃん!」

 街から外れ気味の一軒家。スラークが帰ってくると幼い子供たちが彼を出迎える。

「・・・兄ちゃん、その人は?」

 子供の一人が彼の隣にいる女性に気づき、スラークに尋ねる。

「はじめましてっ!あたしはハールって言うの。」

 にこっと笑み、子供に自己紹介するハール。彼女に子供たちがいっせいに自己紹介し返す。

「ねぇ、ハール姉ちゃんってスラーク兄ちゃんのカノジョなの?」
「「!?」」

 子供の一人に尋ねられ、顔を真っ赤にするハールとスラーク。

「え・・・、えっと・・・。」
「ち、違うよっ!」

 どもるスラークと否定するハール。

「えー、うそだー!」
「兄ちゃんが女の人連れて来たの初めてだもん。」
「こ・・・、こらっ!ハールが困るだろ!」

 はやし立てる子供たちにスラークが叱り付ける。
 と、帰ってきたのだろう外からやってきたスラークより少し年下くらいの少年たちがスラークに耳打ちし、なにやら小声で話し始めた。
 しばらくして、話が終わったのかスラークは立ち聞きすることもなく眺めていただけのハールに話し掛けた。

「悪い、来てもらったのに何だけど急に用事が出来たんだ。すまないけどここで待っててくれないか?」
「そうなんですかぁ・・・。えぇ、いいですよ。」

 にこっ、と笑んで承諾するハール。

「お前らもハールに失礼なことすんなよ。」
「はーい!」

 スラークは小さい子供たちに言って、ハールに本当にすまないなともう一度謝罪してから出て行った。

「ねぇねぇ!ハールお姉ちゃん!ままごとして遊ぼ!」

 女の子がハールを誘う。が、

「えー!オレとかくれんぼしよーぜー!」
「やだー!アタシがハールお姉ちゃんと遊ぶのー!!」

 次から次へと他の子供たちがハールによってたかってくる。

「あー・・・、はいはい。それじゃあ順番ね。ね?」
「はーい!」

 子供たちは元気よく答えた。





「もーいーかい?」
「まーだだよ!」

 10歳ほどの男の子が壁に顔を向けている間に他の子供たちがちらばって隠れる。かくれんぼである。

「何処に隠れようかな・・・?」
「ハールお姉ちゃん、こっちこっち!」

 子供たちに付き合い、隠れるところを探していたハールを小声で女の子が呼ぶ。他の子達よりもちょっと年上のお姉さん的な立場の女の子である。一緒に隠れようと手招きしている。ハールはそれに誘われて女の子のところに隠れた。

「えへへ、ありがとう。」
「どーいたしましてっ。」

 女の子はいたずらっぽくハールに笑んだ。

「見つからないといいね。」
「そうだねっ。」

 くすくすっ、とハールと女の子は笑う。
 女の子は耳を貸してと手招きする。ハールはそれに応えて女の子に耳を近づけた。

「ねぇね、ハールお姉ちゃんってスラーク兄ちゃんのこと好きなの?」

 女の子の囁きに、ハールは思わず声を上げそうになった。

「だ・・・だから何で・・・っ!?」

 なんとか小声にしてハールは女の子に言った。

「え?違うの?スラーク兄ちゃんはハールお姉ちゃんのこと好きみたいだから付き合ってくれればいいなーって思ってたのにー。」
「す・・・っ!」

 顔を真っ赤にして慌てだすハール。

「そ、そんなのありえないよっ!」
「なんで?何でそう思うの?
 兄ちゃんハールお姉ちゃんのこと話すときすっごく嬉しそうなんだよ?」
「・・・だって、あたし美人でもないし・・・。性格だってそんなにいいわけじゃないし、歌以外とりえないし・・・。」

 自分なんて人に好かれる人間じゃない、と否定するハール。女の子は首をかしげる。

「なんでそうおもうの?
 ハールお姉ちゃん美人さんだし、ワタシたちと遊んでくれて優しいし、お歌だってすっごく上手じゃない。」
「そ・・・そんなこと・・・っ」
「それとも、スラーク兄ちゃんが好きじゃないの?」

 女の子の問いにハールは固まった。
 自分がスラークのことを好きなのか?そんなことを考えたことは無かった。
 友人としては間違いなく好きであろう。だが・・・恋愛面ではどうだろうか?

「それは・・・。」

 しかし、次の瞬間にはハールの思考が途絶えることとなった。自分を呼ぶ声が響いたから。

「ハールっ!何処にいる!?」

 その声は、この場にいるはずの無い低い、男の声。しかし、ハールの知る声。

「何者だっ!?よそ者が勝手に入ってくるな!」

 その男を押しのける子供たちを掻き分け、ハールはその声の主の元へ近づいていく。

「どうしたのゼルガディス!?」