◆−いつでも夢を−ひな(4/17-22:44)No.1595
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1595いつでも夢をひな 4/17-22:44


最近投稿すくないですね。さみしい。
みんな投稿してー。
というわけで投稿。


『いつでも夢を』
 

「だいぶ、調子が良いみたいだな」
 ベッドの上に横たわっているリナを眺めながら、ゼルガディスが言った。
「ええ、何とかね」
 リナは微笑んだ。笑ってはいるが、その頬はずいぶんこけている。
 リナが入院したのは、冥王との戦いが終わってから、ちょうど半月後だった。
 抵抗力を失い、体が弱りきっていたところに、折悪しく流行り病にかかってしまったのだ。
 まず、ゼルガディスがいちはやくそれに気づいて、彼女を病院に引きずっていった。
 診察を受けるまでもなく、彼女には入院が言い渡された。
 付き添いは認められず、ガウリイたちには2日に一度の面会だけが許された。
「リナ」
「なに?」
「具合が悪いときは無理をするな。ちゃんと言えよ……ガウリイに。そしたら、こんな辛気臭い
病室に押し込められる羽目にもならなかったかもしれないんだぞ」
 ガウリイがさらわれてから、リナとゼルは、こんなふうに腹を割って話し合うことが多くなった。
 あのときから、二人の間には共通の言葉が存在するようになったのだ。
「だって、あのあと、ガウリイだって疲れてたでしょ。心配かけたくなくて」
「おまえが入院して、側にいられなくなることのほうが、ガウリイは心配なんだぞ」
 リナが考え込むように押し黙った。
 その沈黙を破るようにして、ドアが勢いよく開いた。
「リナ! 元気か?」
 両手に果物だの何だのをいっぱいに抱えて、ガウリイが飛び込んできた。
 ゼルガディスが室内にいることにすこし顔をしかめたが、すぐに彼女の側に駆けていって、その顔を
のぞきこんだ。
「リナ、調子は? 具合、悪くなってないか?」
「うん、大丈夫よ」
「可哀相に。こんなに痩せて、ろくなもん食ってないんだろ? あ、お腹へってないか? りんごでも擦ろうか」
「ううん、いい」
 ガウリイのたたみかけるような質問にやや気後れしつつ、リナは首をふる。
「相変わらず殺風景な部屋だなあ。花買ってきたから、飾っておいてやるよ。食べ物いっぱい買ってきたから
好きなときに食っていいんだぞ。それから、本も買ってきたからな。ほかになんか欲しいもんあるか? そうだ、
体拭いてやろうか。頭洗う? それともそろそろ休んだ方がいいかな。子守り歌うたおうか?」
「あの、ガウリイ」
「お医者さんは良くしてくれるか? 看護婦さんはやさしい? ここの病院が嫌だったら、もっと大きな病院に
代わってもいいんだぞ。なあ、リナ、おまえほんとに大丈夫か? なんだか顔色が悪いぞ」
「たぶんおまえのせいだと思うぞ」
「何か言ったか、ゼル」
「べつに」


 面会時間が終了して、二人は病室から追い出された。
 ガウリイは、何度も何度も、名残おしそうにリナの頭を撫でて、病室から出た。
 外はもう日が暮れる間際で、赤々とした夕陽が空をオレンジに染め上げていた。
「なあ、ゼル」
「ん?」
 石造りの道を歩きながら、ガウリイがふと話し掛けた。
「リナのことなんだけどさ」
「またかよ。言ってみな」
 彼女が入院してからというもの、ガウリイは「リナが、リナが」とやかましいことこの上ない。
 ややうんざりしながら、ゼルガディスはガウリイの言葉を待った。
「退院させようかと思ってるんだ」
「退院!?」
 ゼルガディスは驚いて聞き返した。
「何で、また!?」
「だってさ」
「だって、何だよ」
「あんたとリナって、最近いいムードだから」
「はあぁ!?」
 思わずゼルガディスはすっとんきょうな声をあげた。
「なんか、リナのやつ、入院してから何かとあんたを頼ってるし。俺には何も言ってくれないくせにさ。
あんたも珍しいくらいリナのそばにいて、ちょっかいだしてるし。普通だったらビール瓶で頭割ってるぞ」
 ガウリイの口調は、まるでゼルガディスをなじるようだった。
「あのな、俺はあくまで仲間として」
「そんなの関係ねえよ。仲間ですむなら職場恋愛なんか起こるわけないだろうが。友情が恋愛感情に
なるなんて、よくあることだよ。パターンじゃないか、パターン。それに、あんたも妙に熱心だし」
「ガウリイ!」
「ほら、すぐそうやってムキになる」
「バカ、呆れてるんだよ。ったく。おまえそんな目で俺のことを見てたのか?」
 ガウリイの目の奥が、かちりと光った。彼は憤慨したようにゼルガディスに向って怒鳴った。
「だって、リナはぜんぶあんたにしか言わないじゃないか。俺には『大丈夫だから心配しないで』、
こればっかりでさ。俺だって、リナの愚痴聞きたいんだよ。あいつの弱音聞きたいんだよ。
なのに、あいつはあんたにしか言わねえんだよ!」
「……ガウリイ」
 ゼルガディスは半ば呆気にとられて、目の前の男を眺めた。男の表情には、ふだんの保護者の
面影はみじんもなく、恋敵を見つめる瞳で彼を睨んでいる。
「……本気だったのか?」
「当たり前だ。俺の辞書には本気と無視しかない。ギアで言ったらローと高速走行しか
存在しないの。セカンドとかサードとかいう中途半端なのはない。分かるか、この例え」
「……。まあ、それなりにな」
「……ゼル、あんた、俺の嫉妬深さを知らんだろう」
「は?」
「悪いが、俺はやたら嫉妬深いうえに執念深いぞ。嫌な相手だと我ながら思うぜ。逆らわないほうが
身のためだと思うがな。さもなくば毎朝クツのなかに地雷を仕掛けて……」
「アホか。とにかく退院なんて無理だ」
「どうして! 薬飲んで寝るだけなら、宿屋でも充分だろ?」
「馬鹿いえ。リナの体がこれからどうなるか、全くわからないんだぞ」
「じゃあ、せめて俺をリナの側にいさせてくれよ。なあ、頼むよ。俺、病院の食堂のおばちゃんに
変装する。頬かむりして、割烹着着て。な、それならいいだろ? 絶対、ばれないから」
「絶対、ばれるぞ」
 ゼルガディスが呆れた声音でツッコんだ。
 そして、苛立たし気につけくわえた。
「勝手なことばかり主張するな。大体がな、リナの体調が悪化したのも、今回の心労からきてるんだぞ。
おまえがさらわれて、リナがどれだけのストレスを感じていたと思う?」
 ガウリイは何か言いようとしたがそのまま口を閉じた。そして、額に手を押し当てて吐息をついた。
 泣き笑いの表情で、ガウリイはゼルガディスのほうを向いた。
「……情けないよな、俺」
「まあな」
「あのな、そんなにハッキリ言わんでもいいだろう」
「フォローできないだろ、今回ばかりは」
 突き放すような乾いた言い方に、ガウリイは苦笑した。
「あんた、ひょっとして俺が嫌いだろ」
 ゼルガディスはちいさく肩をすくめた。
「いいや。ま、好きでもないがな」
「リナのことは?」
「またか。しつこいな」
「いいから、答えろよ」
「さあ、どうだろうな」
「ゼルガディス!」
 やれやれ、と言いたげにゼルガディスは空を仰いだ。
「おまえが考えてるようなことは何もないから、安心しろ。俺がリナを好きなのは、
あいつが面白い野郎だからだ。そりゃ、女として見たことがないわけじゃないが、
野郎とどうこうってことを期待する奴はいないんじゃないか?」
「ふうん。……なら、いい」
 あっさりとそう言って、ガウリイは視線をゼルガディスから外した。 
「リナが回復しなかったらどうする?」
 ふいに、ゼルガディスが問いかけた。
「ひょっとしたら、ずっとあのままかもしれんぞ。あるいは、後遺症がのこったり」
「それなら、それでかまわんさ」
「ずっと側にいるつもりか?」
「リナが許すかぎり」
「あいつが全身不随になったら? ボケたらどうする?」
「あのな、俺はもうあいつから離れないって決めたの。たとえリナが発狂しようが老化しようが
そばにいる」
「ずっと?」
「ずっと、ずっとだ」
 ゼルガディスはガウリイの顔を見た。
 さわり、と夕暮れの風が二人の間を吹きぬけた。
 ふいにガウリイがくるりと踵をかえして、もときた道にむかって歩き始めた。
 ゼルガディスはその背に向って呼びかけた。
「おい、どこへ行く」
「掃除のおばちゃんに変装して、リナのところへ行く。やっぱり心配だ」
「つまみ出されるぞ」
「心配すんな、上手くやるから」
 どこの世界にそんなガタイの掃除のおばちゃんがいるんだバカ、と怒鳴りかけて、ゼルガディスは
あきらめた。
 こういう男なのだ。
 バカと言われようとクラゲと言われようと、リナの側にいたいのだ。
 それだけがこの男の望みなのだ。
「せいぜいがんばれよ」
 迷いのない足取りで遠ざかっていく背に向ってちいさくつぶやくと、彼もまた歩き始めた。
 もう泣かせるなよ、という言葉を喉元で飲み込みながら。
 両手をポケットに突っ込んで、あたたかな街の灯を眺めながら。
 

Fin.

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1674Re:いつでも夢を天海鳳凰鳥 5/15-11:53
記事番号1595へのコメント

はじめまして、天海鳳凰鳥と申します。
私としてはゼルリナが大好きなんですが、こういうのも悪くないですね。
ガウリイが二人の関係(笑)にやきもちを焼くなんて(はあと)
ちょっとドキドキものです。
何かまとまりのない文章ですが、これからも頑張って下さいね。