◆−バレンタインネタ(ゼルアメ)−bookmark (2004/2/15 00:04:39) No.16001
 ┣素敵でした♪−じょぜ (2004/2/15 13:32:21) No.16009
 ┃┗Re:素敵でした♪−bookmark (2004/2/15 23:16:06) No.16013
 ┗ずっとバレンタインならイイのに……−G.O. (2004/2/17 10:37:35) No.16015
  ┗Re:ずっとバレンタインならイイのに……−bookmark (2004/2/20 20:42:32) No.16023


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16001バレンタインネタ(ゼルアメ)bookmark 2004/2/15 00:04:39


 こちらには初投稿です。どうにか日付が変わる前に!と思ったんですが(汗)。
 いちおうゼルアメです。

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 この冬いちばんの冷え込みだと、天気予報が告げたのは今朝のニュース。
 空は快晴。白い雲が所々浮かんではいるが、澄んだ冷たい空気が抜けるような青さを際立たせていた。
 休日だと言うのに、彼女は朝食もそそくさと出掛けていった。
 どこへ行くとも言わなかったので、おそらく散歩と称したご近所巡りだろう。
 部屋の窓から見かけたことがあるが、何が嬉しいのか、軽い足取りで元気に歩いていた。後ろ頭しか見えずとも、確実にその表情は笑顔のはず。
 暫くすれば帰ってくるのはわかっているので、気にせずテーブル上のノートPCの画面に向かった。
 キーを叩き始めてから小一時間。
 ただいまと言った彼女は、少しばかり紅潮した頬と冷えた手と、どこで手に入れて来たのか、小さな鉢植えを持っていた。
 聞くと、開店準備中の花屋で貰ったとのこと。得意げに話す様子は、親に褒めてもらいたくて一生懸命になっている子供のようで。
 でかい目を見開き、身振り手振りに会話の再現。
 話し終わってにこにこと目の前にいるのを見ると、彼女が良く例えられている小犬そのもの。尻尾があれば、さぞかし目一杯に振られているだろう。
 良かったなと頭を撫でたりしないし、特に感心したりすることも無いのはいつものことで、彼女もそれを期待はしていない。せいぜい愛想の無い相槌を打つ程度が限界なのだが、それでも構わないらしい。
 窓に近い棚に鉢を乗せ、グラスで汲んだ水をやる。
 花を付けない観葉植物の深緑の葉が、陽射しを柔らかく弾く。
 それをしばらく眺めてから、濃いめに入れた紅茶のティーサーバーをテーブルに置く。白いカップとスプーンは二人分、砂糖とミルクは一人分。葉が開く僅かの時間を無言で過ごし、互いのカップを満たすと白く湯気が立ち上る。
 とりとめの無い会話を何となく交わしながら、次第にそれは無くなっていく。
 時間と空間を共有してはいても、何もかも同じことをしたりはしない。
 俺は俺でやりたいことがあり、彼女もそれは同じ。持ち帰った仕事であったり、読みたい本であったり。対象は様々だが、一緒に居ても、別の行動を取っていることは、別に珍しいことじゃない。

 今日の彼女は、昨日買ったばかりだと言う本を熱心に読み始めていた。発売を心待ちにしていたそれを、この休日に読みたかったらしい。寒さも手伝って外出を予定していなかったのだが、ちょうど良かったということだろう。
 時折、画面から外した視線を向けると、一心にページをめくる顔が見えた。
 時にそれは笑いを浮かべていたり、声にはならずとも何か言っているようであったり。

 紙の音が途絶えたことに気付いたのは、どれくらい時間が過ぎた頃か。
 いつの間にか、彼女はページを片手に眠り込んでいた。
 起こしてベッドに連れて行った方がいいか、それとも毛布の1枚でも掛けておけば大丈夫だろうか、などと考えていた矢先。
 聞き慣れた電子音が、テーブルの脇に置いてあった携帯から流れ出した。
 電話ではない。アラームで設定している音。
 慌てて止めて彼女を窺う。目を醒ます様子は無く、依然幸せそうに寝息を立てている。

「さて、この間に始めるとするか」

 眠る彼女を確認し、シャツの袖を捲り上げる。そして、キッチンのカウンターに置いてある愛用のものを身に付けてから、冷蔵庫を開けた。

***** ***** ******

 覚醒を誘ったのは甘い匂い。
 何かを洗っているらしい、水の音と食器の触れ合う音。
 あれ、ここはお菓子屋さんじゃなくケーキ屋さんでもなく。
 と言うか、こういう匂いとは絶対に縁が無さそうな所じゃなかったかしらと。

「え?」

 薄く開いた視界の真ん中。
 見慣れた部屋、見慣れた窓、見慣れた家具、見慣れない――。

「わ! どうしたんですか、これっ!?」

 微睡みなどと言う言葉とは全く縁が無い程の勢いで、彼女は飛び上がった。
 いつもは、ノートPCと書類と本とマグカップと灰皿くらいしか置かれないテーブル。
 今そこには、甘く芳香を放つ茶色を主体とした物体の数々。
 どれも品良く皿に盛られ、ざっと見ただけでも、二桁はありそうで。

「起きたか」

 振り向けば、咥え煙草のいつもの彼。
 片手に硝子の器を持ち、いつもの無表情で立っていた。

「もしかして……これ、全部ゼルガディスさんが作ったんですか!?」

 買ってきたと言わないところが、普段からの彼の器用さを知り尽くしている証拠でろう。通常ならば、まずそう思うはずだが、何事も如才なくこなす彼にとっては、この方面も例外ではないらしい。

「他に誰が作る。この時期だからな、雑誌とか新聞とか、ネットなんぞにもレシピと作り方程度は、掃いて捨てるほど載ってある。
 おまえ、好きだろうが、こういうのが」
「もちろん好きですけどぉ」
「何だ、まだ足りんか」
「十分です!
 ……って言うか、何でゼルガディスさんが作るんですか! 今日は女の子から好きな人にですね」
「それは菓子屋に乗せられている日本だけだ。
 いいから先にこれを食え。溶けてしまうぞ」

 差し出されたのは彼が手にしていた硝子の器。表面が少し溶けかけた三色のアイスクリーム。

「自信作だ」

 バニラとチョコと抹茶のアイスはどれも極上。このまま売りに出してもいいのでは無いかと、甘さと冷たさを噛みしめながら、彼女は少し口惜しくなる。
 これ以外の並べられたどの皿を食べても、きっとその出来は上々で。

「……ずるいですぅ」

 どちらかといえば不器用な自分。
 でも、今日、この日くらいは彼のためにと考えて。
 下手に手作りをして、材料も時間も無駄にするよりはと、せめて選びに選んだ物を用意してきたければ、これではそれを出すのも何だか情けなく。
 そんな彼女の気持ちに気付いているのかいないのか。
 湯気の立つマグをテーブルに置き、項垂れた頭をコツンと小突き。

「おまえに食わせてやりたかったから作っただけだ。喜ぶ顔が見たかったからな」
「でも……!」
「それにだな、女から一方的にだけじゃ不条理も甚だしい。
 こういうのはだな、やりたいと思えばやればいい。得手不得手もある。
 それても何か? おまえは俺が作ったのがそんなに不満か?」
「そんなことはないです! ……って言うより、上手すぎて……」
「おまえにも得意なものがあるだろう。俺に出来ないことも出来る」
「……」
「そう落ち込むな。心配しなくても、貰う物はちゃんと貰うぞ、有り難く」
「あ、じゃあわたしからの……」

 と、慌てて立ち上がろうとする彼女の手を彼が掴み。

 彼女が自分のチョコを彼に渡せたのは、それから暫く後のことだったのは、これもまたいつものこと。

「来月は絶対にリベンジですっ!」

 と、彼女が心に誓ったのは言うまでもない。

==================================================================
 お目汚し、失礼しましたっ。

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16009素敵でした♪じょぜ 2004/2/15 13:32:21
記事番号16001へのコメント

初めまして、じょぜと申します。
バレンタインネタラッシュですね〜。月並みな感想なんですが、とてもよかったです。

こういう、日常の何気ないひとこま、というのが個人的に大好きでして。
バレンタインならアメリアががんばっちゃいそうなイベントですが、ゼルが彼女の眠ってるすきに作っちゃうのはらしくもあり、意外でもありました。

> 時間と空間を共有してはいても、何もかも同じことをしたりはしない。
> 俺は俺でやりたいことがあり、彼女もそれは同じ。持ち帰った仕事であったり、読みたい本であったり。対象は様々だが、一緒に居ても、別の行動を取っていることは、別に珍しいことじゃない。

> 良かったなと頭を撫でたりしないし、特に感心したりすることも無いのはいつものことで、彼女もそれを期待はしていない。せいぜい愛想の無い相槌を打つ程度が限界なのだが、それでも構わないらしい。

とてもゼルらしいな、と思います。
このお話のゼルアメは自立していて大人な二人ですね。
アメリアの、ゼルのことを全部わかってるところがいいなあと思うし、
静かな信頼、というものを感じました、お互いに。

それでは、失礼します。

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16013Re:素敵でした♪bookmark 2004/2/15 23:16:06
記事番号16009へのコメント

 初めまして。コメントをありがとうございました。
 他の素敵な時期ネタに較べれば他愛も無い拙作ですが、感想を付けていただいて光栄です。
 現代版パラレルなので、二人とも年齢を上げてしまいました。ゼルの家事上手は、きっちり個人的趣味です。(笑)
 なので、あまり「らしく」ないだろうなあと思っていたので、ゼルガディスらしいとのお言葉が有り難かったです。

 読んでくださって、どうもありがとうございました。

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16015ずっとバレンタインならイイのに……G.O. 2004/2/17 10:37:35
記事番号16001へのコメント

こんにちは。あまりの嬉しさに、レスするまで時間がかかってしまいました。甲斐性ありまくりな魔剣士と、自然に愛らしさを撒く姫が、やはり素敵です。原作の二人が遠く離れていることの多い状況なだけに、現代版はこんな感じが好きです。常に側に居るからこその精神的な距離感が、です。

> ただいまと言った彼女は、少しばかり紅潮した頬と冷えた手と、どこで手に入れて来たのか、小さな鉢植えを持っていた。
> 聞くと、開店準備中の花屋で貰ったとのこと。得意げに話す様子は、親に褒めてもらいたくて一生懸命になっている子供のようで。

この部分が凄く好きで……私はいつも魔剣士視点でゼルアメを書くせいか、姫の描写でグッとくることが多いのです。見慣れない新しい店に興味をそそられ、準備で忙しそうな店主につい声かけてしまって、鉢植えをもらったりする、なんていうか、そういうてらいのない、なつっこい姫の魅力がぎゅっと詰まってます。魔剣士気分で(勝手に)顔が綻んでしまうのです。ぜったい、この後、腕を振るうスイーツの量に影響する気がするんですが、この愛らしさは!

くわえ煙草の仏頂面で、完璧スイーツを山と作る魔剣士のギャップもエエです(笑)ここまで器用な男はちょっと勘弁願いたいという気がしないでもないですが、

>「おまえにも得意なものがあるだろう。俺に出来ないことも出来る」

なーんてことを、あっさり言えるのはポイント高いですよね(ぐっ)!
そして当然のように「いただきます」で「ごちそうさま」なあたりが……リ、リベンジ……がんばってくださいまし姫!ぜひ!

これを目汚しとおっしゃるのなら、私はもっともっと汚れたい気分です。ここでこれを読めて、心の底から嬉しかったです。二度目、三度目の好機があることを祈りつつ……美味文、ありがとうございました!

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16023Re:ずっとバレンタインならイイのに……bookmark 2004/2/20 20:42:32
記事番号16015へのコメント

 コメントありがとうございました。
 や、何だか過分なお褒めのお言葉、照れるとゆーよりお恥ずかしいッス。

>この部分が凄く好きで……私はいつも魔剣士視点でゼルアメを書くせいか、姫の描写でグッとくることが多いのです。

 姫は難しいです(汗)。可愛くなりすぎてお子様になるのはダメダメですし、かと言って少なすぎると姫の愛らしさが出ませんし。
 私自身も魔剣士視点の方が楽で、毎度姫には苦労してますので、そう言っていただけると光栄です。

>くわえ煙草の仏頂面で、完璧スイーツを山と作る魔剣士のギャップもエエです(笑)ここまで器用な男はちょっと勘弁願いたいという気がしないでもないですが、

 居たら便利この上ないですが、おそらくヤツがここまでマメ男さんなのは「姫限定」と思われます(笑)。ちなみにスイーツ以外も何でもイケます(^^)。結構すごいヤツかもしれません(笑)。

 拙作を読んでくださってありがとうございました。また……があるかは謎ですが、出たときにはまたどうぞ宜しくお願い致します。