◆−The road to marriage(ゼルアメ)−bookmark (2004/2/21 15:28:00) No.16026
 ┗ほんわかあったかv−ひよ子 (2004/2/21 17:04:36) No.16027
  ┗Re:ほんわかあったかv−bookmark (2004/2/22 13:07:31) No.16033


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16026The road to marriage(ゼルアメ)bookmark 2004/2/21 15:28:00


「で、先にどっちに行くんだ?」

 春を思わせる陽射しの昼下がり。
 彼女のたっての希望で、図らずも公園でランチを取る羽目になった男がぼそっと呟いた。
 日当たりの良いベンチに並んで座って小一時間。
 残り少ない紙コップのコーヒーを、一気に喉に流し込む彼の隣には、未だにぱくぱくもぐもぐと口を動かす彼女。横目で見れば、数種類のフルーツとデザートらしき残骸が、膝の上に堆く積み上げられている。
 当然彼の言葉に返事が出来る訳も無く、栗鼠のように膨らませた頬で、大きすぎる瞳だけが、何か言いたげに彼を見ていた。

「……飲み込んでからで良い」

 彼の声は、些か疲れたようにも呆れたようにも聞こえる。
 が、傍から思うほどそうではないと、彼を良く知る者なら知っていること。

「うちは、いつでもいいそうです…………っと、御馳走様でした」

 口の中のものを飲み込んで、ついでにお茶を一口飲んで、ようやく彼女は言いたかった言葉を出した。ガサガサと多種の包みを片付けながら、持参のウエットティッシュで口元と指先を拭う。

「いつでもってのがいちばん厄介だな」
「ゼルガディスさんの方はどうなんですか?」
「こっちも同様だから困るんだ。
 あの野郎、『貴方の大事な方が来られるなら、何をおいても最優先で都合を付けますとも。ええ当然でしょう!』とかぬかしやがった」
「あははは…………何か、想像つきますね(汗)」

 彼と彼女がこんな所で悩んでいるのは、いわゆる『両親への結婚のご挨拶』と言うヤツである。
 が、そもそも互いに知らない仲では無い。
 双方共に、既に互いの家族とは何度か顔を合わせており、それ故に今更、という感が強い。
 だが、こういうことにはけじめが必要だし、それはつまり形式である。無くてはならないものではないが、大したことでないのも事実であり。

「まあ、ここで考えていても仕方が無いし、面倒なことはさっさと済ませてしまいましょうか」
「それは賛成だ。だから、どっちに行くのかと聞いているんだが」
「やっぱりそちらに伺う方が先だと思うんですけど」
「こっちか」
「はい。今日はいらっしゃるんでしょう? この間お会いした時に、次の学会までには日があるから、久しぶりにゆっくり出来ると仰ってましたから」

 正確には、彼の場合『親』では無い。
 彼の両親は早くに亡くなっており、母方の祖父が保護者として彼を育て上げた。
 その祖父は多岐に渡る研究者、学者として世界的に著名であり、特に医学薬学においては、その業界では名を知らぬ者は居ない。同時に、考古学者や作家としての一面も持ち、実年齢を一切感じさせない外見と相まって、かなり有名な人物だった。
 だが、彼にとってはただのクソジジイでしかない。それも力いっぱい妙な。
 思えば声を荒げて叱られたことも無いし、当然手を上げられたことも無い。
 だが、いつもにこやかな笑顔と共に在った有無を言わせぬ迫力と重圧は、子供心にも、怒声以上に十分であっただろう。かえって不気味この上無い。
 周囲から見れば、彼は溺愛されて育ったと思われている、らしい。
 それも間違ってはいないが、何しろあの祖父は――――何か違う。

「ゼルガディスさん?」
「あ、すまん。何だったかな」
「だからですね、これからゼルガディスさんの方にご挨拶に行きましょうって」
「……良いのか」
「良いに決まってます。それとも何かご都合が悪いですか?」
「いや……そうだな。厭なことは先に済ませるか」
「何ですか、厭なことって。そんなにわたしのことを話すのが厭なんですか?」
「ンな訳あるか」
「じゃ、先に電話しておいた方が良いですね。お願いします」

 昼食の残骸を片付けに彼女が離れ、彼は思い切り渋面で携帯を手に取った。
 会話すること数十秒。
 彼女がその場に戻った時、彼がいつにも増してどんよりとしていたのは言うまでも無い。

***** ***** *****

 1時間後。
 広い立派な書斎に通されて、彼女はいつもと変わらず、彼はどこか居心地悪そうに座っていた。
 二人の眼前には穏やかな笑顔を浮かべた一人の男。言わずもがな、彼の祖父である。気に入りのとっておきだと言う紅茶を自らの手で入れ、二人と自分の前にそれぞれ並べた。勿論、お茶請けに数種のクッキーやパイがある。孫がこの手の甘いものに食指が動かないことは当然知っているから、彼女のためだけに用意したと思われる。

「よくいらっしゃいましたね、アメリアさん。いつかいつかと、本当に待たされましたよ」
「えっと……すみません、どうも」
「いえいえ、貴女が謝る必要はありません。どうせこの不肖の孫が、あーだこーだと難癖をつけたのでしょう。……まったく、思い切りが悪いことです」
「……誰のせいだ、誰の」
「何か言いましたか、ゼルガディス」
「何も」
「ふ……まあいいでしょう。
 それで、今日こそはちゃんと話をしてもらえるんでしょうね?」
「ちゃんとも何も……今更だろうに」
「ゼルガディスさんってば!」
「全くこの子は……。
 申し訳ありません、お嬢さん。両親が早くに亡くなったせいで、こんな甲斐性無しの根性曲がりになってしまいまして」
「アンタの育て方だろうが」
「背格好は十分大きくなりましたし、頭の中身もまあそれなりに出来の良い子供ではあるんですが、何分性格面がどうにも……」
「だから、アンタのせいだと言ってるだろうが」
「情緒とか機微とか、そう言ったものが欠片も無いので、きっと苦労されているのではないですか?
 私なら、こんな魅力的で可愛らしいお嬢さんがお嫁さんになってくれるのであれば、どんな言葉も態度も惜しみませんが、この子のことですから、気の利いた愛の言葉ひとつ言わないんでしょう?」
「え、ええっと、まあ、その……たくさんは……無いです、ケド」
「今回だって、散々こちらがお尻を叩いた挙げ句の行動ですから、もしそうしていなければ、いつまでたっても踏み切らなかったんじゃないかと。
 なあなあで済ましてしまうような馴れ合いは、アメリアさんご本人にとっても、貴女のご家族の方にも失礼極まりないですからね」
「でも……ゼルガディスさんの気持ちもわかりますし」
「ありがとうございます。貴女が心の優しいお嬢さんで本当に良かった」
「ともかくだな!」

 彼女と祖父の会話が進む中、すっかり存在を忘れ去られた彼が、ようやく話に割り込むと。

「ともかく?」
「うっ…………ともかくだな……つまり……」
『ゼルガディスさん、頑張れっ!』
「何ですか、ゼルガディス。ハッキリ言いなさい」
「ともかく、俺は彼女と一緒に暮らす。今日来たのは、今まで世話になった……だろうから、一応は断っておくべきだろうと思っただけで」
「…………ゼルガディス」

 彼の言葉を聞いた祖父が、天を仰いで溜息をつく。
 時を同じくして、彼女も困ったように小さく苦笑いを洩らす。
 二人同時に思ったことはきっと同じで。

『全くもう、この子(人)は』

 暫くの沈黙の後。
 言ってやったぞ居直る彼に、どうしようもないと諦め顔の祖父が言う。

「ゼルガディス」
「何だ」
「アメリアさんの親御さんに言う時は、もう少し頭を使いなさい。
 でなければ、その場で反対されて蹴り出されても自業自得ですよ」
「……む」
「大丈夫です。うちのとーさん、いえ、父もわかってますから。ゼルガディスさんの性格」
「いえいえアメリアさん、娘の父親というものを甘く見てはいけませんよ。
 平素はどうであれ、いざ!と言う時には変わるものです。
 ……はあ……こんなことでは上手くいくものもいかないのではと……」
「まあそういう訳だからな。これで筋は通したぞ、このクソジジイ」
「ゼルガディス!」
「やれやれ、これで面倒事がひとつ片付いた。行くぞ、アメリア。気分直しに好きな所に連れて行ってやるぞ」

 彼が急ぐのは、祖父にこれ以上余計なことを言わせないため。多分。
 何しろ口達者な保護者は、放っておくと、何を言い出すかわからないことを散々思い知っているからで。

「お待ちなさい。
 ……ああ、ゼルガディスは外に出ていて宜しい。アメリアさん、ちょっと」
「は? わたしだけ?」
「心配しなくてもすぐ済みますよ」

 気色ばむ彼を、まるで犬猫のように片手で追い払って部屋の外に出すと、どこから取り出した綺麗な薄葉紙で、残ったお茶菓子を包んで彼女に手渡した。

「内緒ですよ、私が言ったとは」
「??」
「このお菓子は、あの子が作った物です。貴女はこういった物がお好きなのでしょう? だから、すぐわかりましたよ、好きな女性が出来たことはね」
「え、あの、それって」
「器用な子ですから、何を教えてもすぐコツを掴むんです。
 でも、自分を表現することだけは、幾つになっても下手で、そのせいでいろいろと誤解されたり、ご迷惑をお掛けすることもあったと思います。
 けれど、根は良い子なんです。あんな根性曲がりですけれどね」

 内緒話のような囁きに、思わず彼女は微笑みを洩らす。
 きっと彼が思っている以上に、この保護者は彼を良く理解していて、その上で、ああやって彼を貶したり、からかったりしているのだろうと。

「ええ、わかってます。わたし、ゼルガディスさんのこと、大好きですから」

 一筋の迷いも無い彼女の言葉に、満面の笑顔を返して、彼の祖父は彼女の小さな手を握りしめた。

「宜しくお願いしますね」
「はい! こちらこそ、いろいろと至らないところばかりですけど」

 そうして、外でしびれを切らした彼がドアを蹴り開ける前に、彼女は礼を言って部屋を出た。
 手にはしっかりと小さな包みを持って。

***** ***** *****

「……ったく、やれやれだったな」
「そうですか? わたしは楽しかったですよ」
「どこがだよ……」

 あれから彼女のリクエストで郊外まで車を走らせ、夕闇が迫る空の下、小高い丘の上で、眼下を走る高速の車の流れを見下ろしていた。

「次はうちですね」
「……だな」
「覚悟、出来てます?」
「それなりに、な」
「頑張ってくださいね。今日より手強いかもしれませんよ?」
「何とかなるだろ」
「何とかじゃ困りますよぉ」

 第1ラウンドは何とかクリアしたものの。
 迫り来る第2ラウンドの相手はかなりの強敵。
 二人の安寧の日々(特に彼)は、未だ遠い。

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16027ほんわかあったかvひよ子 2004/2/21 17:04:36
記事番号16026へのコメント

こんにちは、ひよ子と申します。
前回のバレンタイン話に引き続き、再びbookmarkさんのお話が拝読できて嬉しいです。

ゼルアメはもちろんのこと、レゾさんの魅力大爆発なお話でしたね!
からかわれるゼルがとても楽しかったです(^^)
そしてアメリアとの内緒話のシーンでは、「レゾさんはやっぱりゼルのおじいさんなんだね!」とじんわりきてしまいました。
アメリアも嬉しかったでしょうね。自分の好きな人のことを理解してくれる人がいるって、すごく嬉しいことだと思うので!

とても楽しくて優しくてあったかい素敵なお話でした!
できることなら、第2ラウンドも拝読させていただけたらなぁと不躾なことを願いながら、この辺で。
どうもありがとうございました!

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16033Re:ほんわかあったかvbookmark 2004/2/22 13:07:31
記事番号16027へのコメント

 こんにちは、コメントをありがとうございました(^^)。

>ゼルアメはもちろんのこと、レゾさんの魅力大爆発なお話でしたね!
>からかわれるゼルがとても楽しかったです(^^)

 他の方が書かれるレゾは、いかにも!という感じで格好良いというか風格があるのですが、私が書くと、どうも変なじーさまになってしまうようです(苦笑)。そう言う意味ではダメダメなのですが、ひよ子さんには気に入っていただけて嬉しいです。

>できることなら、第2ラウンドも拝読させていただけたらなぁと不躾なことを願いながら、この辺で。

 無いことも無いんですが……レゾより難しいですね、フィルさん。(^^;)
 と言うか、見え見えの展開になりそうでそれも何だかなーと思ったり。
 とか言いつつまた出てくる可能性もありますので、その時にはまたどうぞ読んでくださると光栄です。ありがとうございました。