◆−いまさら新年のご挨拶&ヴァルフィリ話−じょぜ (2004/2/22 10:57:29) No.16031
 ┣−じょぜ (2004/2/22 11:05:26) No.16032
 ┃┗新年早々結構なお手前で。−夜宵吹雪 (2004/2/24 18:47:11) No.16046
 ┃ ┗めぐさんご懐妊にあわせてみたわけで(笑)−じょぜ (2004/2/25 01:07:47) No.16052
 ┣楽屋裏というかその後(ギャグです)−じょぜ (2004/2/25 00:49:19) No.16051
 ┃┗Re:楽屋裏というかその後(ギャグです)−オロシ・ハイドラント (2004/2/25 19:10:56) No.16054
 ┃ ┗ちょっと真面目に語ってみます−じょぜ (2004/2/27 10:42:21) No.16058
 ┗楽屋裏というかその後2(ギャグですはい)−じょぜ (2004/2/29 23:16:32) No.16071
  ┣Re:楽屋裏というかその後2(ギャグですはい)−オロシ・ハイドラント (2004/3/2 20:18:38) No.16076
  ┃┗仲良し四人組は吐く時も仲良く……(すいません)−じょぜ (2004/3/3 18:27:51) No.16077
  ┗Re:楽屋裏というかその後2(ギャグですはい)−R.オーナーシェフ (2004/3/4 20:52:43) No.16080
   ┗ありがとうございます!−じょぜ (2004/3/5 01:18:34) No.16082


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16031いまさら新年のご挨拶&ヴァルフィリ話じょぜ 2004/2/22 10:57:29


お久しぶりです。
ほんっとーにいまさらですが、一坪様、皆様にご挨拶申しあげます。
あけましておめでとうございます、どうぞ今年もよろしく(ぺこり)。

2のほうに投稿するのは初めてで、ちょっと緊張してます。
クリスマスもバレンタインの話もできませんでした(涙)。
で、相変わらず暗めな話で、無駄に長いんですが、いまはこれが精一杯って感じです(涙々)。
ヴァルフィリでフィリヴァルで、ややVSが入ってます。
最後はなしくずしにハッピーエンドにしました(笑)。

長いので、ほんとはいくつかに分けるべきなんでしょうが、一気に読んでいただきたいので、あえてこのままいきます。
ではどうぞ。読んでくださる方に感謝をこめて。

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16032じょぜ 2004/2/22 11:05:26
記事番号16031へのコメント

 軛                    
 


【再会】

 雪、だと思った、初めは。
 そう、あのとき、舞い散る雪ともみまごう真っ白な羽がふりそそぐ中、私は光に包まれてゆっくりと降りてくるひとつの小さな物体を受けとめた。蒼天の下、震える手を伸ばし、まさかの思いで言葉もなく。
 リナさんたちが次々と駆け寄って来て、のぞき込んでくる。手のひらに光球がゆるやかに停まるのを感じたか、感じないか、ごくわずかな接触があったかと思うと、突然、光をほとばしらせて、その球はヴァルガーヴへと姿を変えた。 

 角がないだけだった。翡翠色の髪も、金の瞳もそのままだった。私は泣きたいほど嬉しかった。いえ、泣いていた。リナさんが、泣くんじゃないわよ子どもみたいにと笑っていたから、たぶんそうだったのだろう。人目もはばからずに、私は彼に抱きついていた。



【憧憬】 

 お嬢さんと呼ぶと返事をしなくなっていた。
 前々から、そう呼ぶのをやめてくれと言われていて、そのうち本気でイヤがっていることがわかると、俺はわざとのように連発してやった。眉をつりあげて怒る顔が面白くて、適当にあしらっては忘れた頃に口に出す。お嬢さんをお嬢さんと呼んでどこが悪い。俺にしてみれば褒め言葉のつもりなんだが。
 無視という手段で抵抗されるとこっちもつまらないので、火竜王の巫女、と呼んでみることにした。それは一回だけでやめた。お嬢さんと呼ばれるよりも、もっと傷ついた顔をしやがった。
 フィリアです。お嬢さんでも巫女でもないです。
 ああそうですか。
 俺はそっぽを向く。
 どれほど残酷な目にあっても精神(こころ)が汚れないやつがいる。強いのか鈍いのか、もともとそんな、何にも傷つけられない透明な心を持って生まれてきたのかは知らないが。あんたは侮辱されたと思うのか、そんなふうになりたかった俺の気持ちなどなにひとつわからずに。



【逆流】

 記憶を持ったまま、魔族の力だけを失って彼が戻ってきたことを、私がいかに自分に都合よく解釈していたか気づくのに、それほど時間はかからなかった。潜在意識、記憶という、不確かでとらえどころのないもやのようなものがヴァルガーヴを苦しめつづけていた。彼のやすらかな眠りを奪うそれを私は初め、激しく憎んだ。自分の中にこれほどの憎悪、憤怒の感情があるとは知らなかった。魔族にすらこんな感情を抱いたことはなかった。憎んで憎んで、憎悪という名の祈りを捧げても、まだ悪夢はやまない。あの夜を私は一生忘れないだろう。うなされた彼が、ふいに飛び起きるなり、荒い呼吸をととのえながら私を睨みつけたあのまなざしを。
 ゲートで私の言葉に失笑していた彼に、もう一度会った。記憶が消えていないとはこういうことだったのかと、頭を殴られたような衝撃でようやく悟った。
 それは、私の中にある憎悪だけでなく、苛だち、憐憫などのさまざまな感情を微塵に砕いた。私はひとりになって泣きつづけた。たやすく打ち壊せると思っていた垣根は、いまや大きな壁となってそそり立っていた。


 
【牽引】 

 憎くないかと聞かれたら、素直に否とは言えない。
 自分の中でくすぶっているあの黒い影が、いつかまたどす黒い霧となって吹き出すのが怖かった。悪夢を見るのは俺自身が望むからなのか、悪夢のせいで黒い感情が吹き出すのか。
 賭けをしましょう、ヴァルガーヴ。
 元巫女の娘が、ある日突然、白々しいほど明るい声で言った。
 なにを?
 私の命を。
 なんのために。
 内緒。
 彼女は笑みを崩さないまま俺の顔をのぞき込み、どうしても、あなたが誰かを、なにかを憎くてたまらなくなって、その気持ちを抑えきれなくなって、苦しくてどうしようもなくなったら。
 突然、言葉を切って唾をのみこんだ。
 なったら?
 最初にあなたが殺すのは、私。
 どう? と問いかけてくる。それって人質ってことか。
 ええ、そうよ。



【理由】

 ───ヴァルガーヴさんはいつまでここにいる予定なんです?
 ゼロスにそう聞かれたとき、私は息が止まりそうになった。平静をよそおったまま、白地に果実や小枝を描いたカップの点検をしながら、ずっとですよ答えた。獣王の腹心は笑みをたたえたまま、具体的にはいつまで? とティーポットを持ち上げる。私は一瞬答えにつまる。いつまでいるのか決めるのは彼だけど当分いるはずです。へえそうなんですか。
 カウンターに頬杖をついて私を見上げた。
 ───同じこと繰り返して楽しいですか?
 ………どういう意味。
 ───おやとっくにわかってると思ってましたがねえ。
 震える手を必死に抑えて私はカップを置いた。
 ───せっかく新しい生を与えられて。あなたの大嫌いな魔族の力も失くなって。なにもかもまっさらな状態からやり直せるのに。
 ───今度はあなたが、たったひとり生き残った火竜王ゆかりの竜族のあなたが。
 ───たったひとり生き残ったエンシェント・ドラゴンの彼を。
 ───そばにおいて縛りつける。
 ゆっくりと歌うように喋り続けるゼロスを私は思わず平手打ちしようとした。彼はすっと消え、一瞬ののち、私の頭のあたりに浮いていた。
 ───彼を守る、という名目のもとに?
 やめて、と私は叫んでいた。
 ───それとも懐柔策? まあどっちでもいいですけど。ようやくの思いで生き残ったらあなたがいる。当たり前のように。それ、彼にとって嬉しいことなんですかね。
 ───こっちに来たほうが幸せになれるかもしれませんよ。
 あなたといるより、と付け加えてゼロスは消えた。蒼白な顔の私を残して。
 だからある日言った、賭けをしましょう。
 賭けをしましょう、あなたが私から離れていかないように。
 むごく、あさましい、愚かな約束をさせた。



【水底】

 時折、まだ夢を見る。
 うなされるときもあるらしく、目覚めるとこの女は必ずそばにいて、静かに汗を拭ってくれていた。
 俺が少し落ち着いてくると氷の入った水を寄こす。飲み干す間、つぶれた枕やクッションをふくらませ、叩き直して、お休みなさいと呟いて明かりを消す。
 初めは、消さないほうがいいですかと聞かれたが、俺は首を横に振った。暗かろうが明るかろうが同じことだ。そうしてふと気づくと、彼女の手首を握りしめていた。いつのまにか、俺が悪夢を見た夜は、眠りに入るまでそばにいるのが習慣になっていた。
 なにかお話でもしたほうが落ち着きますか?
 闇にまぎれて、ひそやかな声で、ふと小さく笑う。
 ………子守歌でも歌いましょうか?
 ガキじゃあるまいし。
 それともお茶、飲みますか? 温まったほうが───。
 いい。黙っててくれ。
 ジジイみてーなかすれた声が、我ながら情けない。 
 口をつぐむ彼女の手を、それでも離さないままでいるのは、もっと情けねえが。
 深い深い海の底のような静けさの中。
 波の中をたゆたうような睡魔が襲ってくるまで。



【告白】

 脳の襞をかきわけてすべりこんでくる思い。
 頭の中で警鐘が鳴る。きん、と澄んだ音が眼の奥から刺すように鋭く。
 偽善者。
 キッチンの床にティーカップを叩きつけ、両耳を押さえてうずくまる。
 どこまでも嘘つきのどこまでも愚かな女。心の中はどろどろとした膿と欲で爛れて、眼もあてられないほど醜いくせに。
 ええ、ええ、そうよ。自分の中の真っ黒な思いを認めるわ。うなされる彼を眺めながら、どんな残酷な考えがよぎったか。
 贖罪の思いなど二の次で。
 いつか───いつか昔の悪夢を見るのは私のせいだと気づいて、逃げて行ってしまう。あの大きな翼を広げて鳥のように。逃げて行く彼を止める力も権利も私には、ない。なにもなかった。彼と私の間には、あの罪以外なにひとつ。
 それくらいなら夜が永遠に明けなければいい。このままずっと彼が私を頼ってくれるなら、いつまでも悪夢が終わらなければいい。
 ゼロスに言われるまでもなかった。私がいちばんふさわしくない場所にいることなど、とうにわかっていた。
 だからあんな賭けを持ち出した。彼が私から逃げて行かないように。一秒でも長くそばにいられるように。私を殺してと頼んだのは、償うとか、救うとか、そんな大層な理由ではなく。

 私が死んだら泣いてくれるかしら。
 ただの物体に過ぎなくなった私を抱きしめて、ほんの一瞬悔やんでくれるかしら。
 もしかしたら、彼にとって、昔のあるじ以上に大きな場所を占められるかしら、と。

 もう、そんな考えが真っ先に浮かんでしまうほど溺れていた。
 
 これは私の罪。他の誰でもない私の罪。



【背中】

 声を立てずに泣く、いつも。
 俺が気づいてないとたぶん思っているんだろう。俺の髪の色と同じ宝珠を抱きしめて泣きじゃくることも。いまならきっと、俺が死ねと言ったら素直に従うだろう。縊り殺そうと手をかけたら抗わないだろう。ナイフを渡したら胸か、喉か、どっちか突き立てるだろう。それともめった刺しにしてくれと言って受け取らないかもしれない。ただひとつ、俺に殺されることだけを望んで。
 新手の拷問か罠なのかよ。
 俺がどうしてお前の手の中に落ちてきたと思う。俺が望んで、お前を選んで、あのときこの世界に戻ってきたのはなんのためだと思う。
 引き寄せて抱きしめる。ずっとこうしたかったのだと思いながら。



【懇願】

 死にたい。
 彼の腕の中で私は、信じられないほどの量の涙を流した。気づかれまいと、聞かせまいと声を殺して泣いた日々よりも、もっとたくさんの涙を。すがりついて、まるで噛みつくように。子どもというより獣が吠えるような声で。私を殺して。もうあなたが、いいえ私が苦しまなくてすむように。もう終わりにしたいの。お願いだから殺して。いますぐに。自由になって。枷を外すわ。私を殺して自由になって。
 


【獄】(ひとや)

 殺さねえよ。
 涙で汚れた頬を親指でぬぐう。人質だと自分で言ったじゃねえか。そんな簡単に死んでもらっちゃ困るんだよ。苦しいならなおさら生かしとく。苦しくてたまらない? だったらそいつを引きずって生きてくしかねえだろ。俺も、お前も。そんな簡単に楽になんかならねえんだよ。そんなこと承知で俺の手を取ったんじゃないのか。後悔したって遅いんだよ、少なくとも俺は逃がすつもりはないからな。まだ終わりになんかならねえぞ、絶対。終わりじゃないと言ったのはお前のほうだろうが!
 徐々に泣きやみ、俺の胸に顔をうずめたまま、吐き出すように言う。


 だって、私はあなたを殺したんですよ、一度。

 なら、お前を殺さないことが俺の復讐だと言ったら、笑うか?
 

 肩の震えがふいにおさまり、ゆっくりと俺の顔をみあげ、頬に手をさしのべてくる。

 いいんですか? それで。
 生きていていいんですか、あなたのそばで。

 枷の嵌る音が耳の奥で聞こえた。






【追憶】

 なにやってるんですか。
 頭上からかかる声。振り仰がなくても誰なのかわかる静かに間延びした言い方に、俺は無言のまま目の前の風景を眺め続ける。荒野に風がただ吹いて髪をなぶられながら、蒼天を向こうにただ立ち尽くす、緑がふたたび覆い尽くすにはまだまだ時間がかかるだろう大地の上で。
 なにしに来た。
 いやですねえあなたもフィリアさんも僕にはつっけんどんで。
 お前がめでてーだけだろ。
 そうそう、ここに来る前フィリアさんの様子見てきたんですが、やけに嬉しそうでしたよ、なにかいいことがあったんですかね。
 てめーもマジ懲りねえな、あいつに会いに行ってぎゃあぎゃあわめかれてそんなに面白いか? 
 一緒に暮らしてる人に言われたくないですねえ。
 
 どうです、毎日楽しいですか。宙に浮いたまま俺の正面にまわりこんでくる。暖かな風が俺と奴のマントを吹き上げる。もうそろそろ飽きませんか、あのナマイキな小娘との生活も。フィリアさんの、償いという自己満足につきあってやった感想はいかがです? やっぱりゴールド・ドラゴンは最後の一匹まで息の根を止めておいた方がいいと思いません?
 自己満足ね。
 雲が流れてふいに陽光が顔をのぞかせた。まぶしさに一瞬眼を細めた俺をゼロスは変わらずの笑みを浮かべて、見ている。
 何事にも深入りもせず関心も持たず高見から眺めている眼。
 ここに来たのはフィリアさんへの憎しみを新たに確認するためですか、それとも?
 単なる墓参りだ。
 墓標もなーんにもありませんけど?
 うるせえよ。
 あなたがあのときぜーんぶ吹っ飛ばしちゃいましたからねえ、みごとに。
 俺は神殿があったところのほぼ中央まで歩みを進めた。もうなんの波動も感じられない。亡骸のかけらひとつ残さず、俺があのとき衝撃波で粉々にした。
 いやはやまったく、どうしてあのときこの世界を守るなんて側についたのかちょっと後悔してるんですよ。
 後ろから声がする。俺は小さくため息をついて振り向いた。
 てめーの口からそんな言葉が出てくるとはな。
 いえ僕の意見じゃなくて獣王様の、ですけど。僕ごときが悔やむなんて言ったら我があるじへの侮辱にも等しいですから。
 なにげない調子で喋り続ける、べらべらとよく動く口だ。
 リナさんたちがねえ、またやってくれたんですよ。
 漏らす言葉は穏やかだった。思わず顔を上げ眼があった瞬間、奴のそれは決して笑ってはいなかった。
 また?
 問い返す俺に今度は答えず、遠くに眼をやる。

 今度はうまくいくと思ったんですけどねえ。
 あなたによく似ていましたから、彼。性格も、覚醒のきっかけも、その後の暴走ぶりもほんとによく似ていたんですよ。ですから今度こそはってね。
 俺が黙っていると際限なく愚痴り始める。なにしに来たんだまったく。
 だあってねえ、うまくいきそうになるといっつもいっつもあの人たちが邪魔するんですよ。世をはかなみたくもなるじゃありませんか。これで二回目なんですよ、ルビーアイ様の器を壊してくれたの。ねえ一回くらいこっちに花を持たせてもいいと思いませんか? あなたのときには不本意ながらも協力してあげた借りがあるってのに。
 てめえの嘆くとこを見れるってな、生きてはみるもんだな。
 ヴァルガーヴさん、ずいぶん我慢強くなりましたね。でも以前のブチ切れっぷりもよかったですよ、またあの頃に戻りたいとか思いません? ガーヴ様の仇!ってリナさんを追い回しませんか? 今度は僕もおつきあいしますよ? 

 ぐぐいと身を乗り出してくるバカ神官に、無言でカカト落としを食らわせてやった。



【深紅】

 ここ数ヶ月、確かに様子が変だった。やけに熱心に祈っていたり、不安げに空の向こうを眺めては何時間も庭で立ち尽くしていたりした。会話の途中でふいに口をつぐんで、立ち上がるなりすごい勢いで窓を開けて蒼白な顔になったりする。
 問いただすと、なにか大きな、瘴気の塊のような力の流れを感じると答え、眉をひそめて組んだ指を強く額に押しあてると、リナさん大丈夫かしらと呟いたのが耳に入ったが、聞き返さなかった。聞かずとも何が起こっているのかわかるような気がした。おそらく、この世界の魔王が目覚め、そういった厄介ごとには必ずリナ=インバースが関わっていることも、これまた聞くまでもないことだ。

 俺のめんどくさそうな顔をみても一向にめげず、聞きもしないのに喋り続ける。
 あなたとフィリアさんじゃどっちが強いですかね。
 僕にはあなたのほうが脆いように見えますよ、ヴァルガーヴさん。
 精神(こころ)、つまり中身のことですけど。どんなに強い精神力の人でも弱みを突っつかれるとあっけないもんですよね。今回はほとんど偶然で魔王様の器が目覚めたんですけど、あの変貌ぶりはおみごととしか言いようがありませんでしたよ。
 
 ふいに言葉を切って、楽しそうに、実に楽しそうに俺を見やる。神経を逆なでされるような、最悪の不快感。

 ほんとにねえ、たったひとり───たかがひとり、いなくなっただけで、ああも自暴自棄になってくれるとは思いませんでしたよ。
 それくらいあなたにそっくりでしたからね、見てくれじゃありませんよ。
 髪の毛は燃えるような赤でしたから。

 あわれむようなまなざし。
 舌なめずりして負の感情を味わうのが眼に見えるようだ。
 俺に、よく似ていたという魔王の器。
 そいつが覚醒した理由もまた、よく似ていたと。
 紫の眼に虚ろの闇を滲ませ、俺に問う。



【選択】

 その人がいないと生きていけないほど、なぜヒトは誰かに執着したりするんでしょうね。
 前から疑問だったんですよ、考えても無駄なことだと思いつつも。
 だって「命あるもの」は「生きる」ことが目的なわけでしょう。
 それがあっさりと不可能になる事態を、なんで自分から引き起こすのか。
 まるで溺れるように、ね。それって僕たち「滅びを望むもの」と同一の行為なんじゃないかって、ときどき思いますよ。
 
 ゆっくりと杖で俺を指し示す。

 フィリアさんが誰かに殺されたら、あなたも『彼』のように、いえ、昔みたいに世界を滅ぼしたいと思いますか?

 一陣の横なぐりの風に、思わず片目をつぶったのは俺だけだった。
 こいつ──────。

 とまあ、そんなことを聞いてみたくなるほど、彼とあなたがあまりにも似ていたわけでして。なにしろあなた、前科が前科ですし。

 ああ───そうだな。ぶっ壊したいと思うだろうな。
 世界を?
 いや。
 ……では、あのお方を?

 
 当たり前のように俺の名を呼ぶ声が、ある日ふいに途絶えたら。


 かぶりを振って、俺はゼロスににやりと笑いかける。露骨に嫌そうな顔を一瞬見せて顎を引く。



 潤む瞳を、大きくみひらいて。

 ───望みどおりこの世界を破壊し、浄化しようとしているのに。

 何度俺に拒絶されても怯むことなく。

 ───あなたはどうしてそんなに哀しい眼をしているのですか。

 最後の瞬間まで、俺から眼をそらさないでいてくれた。



 答えは───。
 答えは最初からそこにあったと、今ならわかる。
 この枷は外れない。他の誰でもないこの俺がそう望んだ。

 結局は逃げられやしない。

 お前が苦しむなら横でそれを俺は見ている、どれほど心が切り裂かれても眼をそらさずに。俺が苦しむときそばで泣き叫べ、それでもこの腕から離しはしないから。
 
 背負ったものの重みに押し潰されるのは、どっちが先だろうな、フィリア。



【彼方】

 ゼロスの姿は虚空へ溶けて消えた。
 ───酔狂な賭けですね。 
 そう言って笑って肩をすくめた。早く帰れと蹴りを入れる真似をしてやると、笑みのまま姿を消した。
 もう一度、荒れ果てた大地へと眼を転じて、俺は心で呟く。
 
 あいつが捧げる祈りを、俺は受け入れるから。
 もう───いいだろう?

 誰かがそっと頬に触れてくるような、そんな風が吹いた。



【息吹】

 かちゃり、と陶器の触れあう音に起こされた。
 しゅんしゅんとやかんからお湯の吹き上げるかすかな雑音。
 ソファにもたれていつのまにか眠っていたらしく、私はゆっくりと身体を起こして、音のするほうを探した。
 眠い眼をしばたたいて、あくびをひとつ抑える。

    夢を見ていた。
    真っ白な、清らかな羽に交じって降りてきた、小さな小さな光の珠。

 ヴァルガーヴがカップを片手に入ってくる。
 ………起きたのか。
 ………お帰りなさい。
 私の前にお茶を置いて、ふたたびキッチンへ引っ込み、今度はカップをもうひとつとクッキーを両手に戻ってくる。
 ソファではなく、私の足もとにあぐらをかいて座り込むと、ぼそりとひとこと、ただいま、と呟いた。
 私も床の上へすべり降りると、お茶をひとくち飲んで咳払いをする。

 あのね、ヴァルガーヴ。
 なんだよ。
 もうひとつ、賭けをしませんか?
 ………あ?

 私たち以外誰もいないのだから、内緒話みたいにささやく必要はないのだけれど。
 それでもやっぱり小さな声で、彼の耳に口を寄せ、そっと告げる。



    今度は、私の手のひらにではなく───。



 一瞬、息をとめ、まじまじと私の顔を見つめてくる、金の瞳を大きく開いて。その顔がだんだんと赤くなってくると、おかしくておかしくて笑わずにはいられなくて、もう一度、同じ言葉を繰り返した。




 私絶対女の子に賭けますから、あなたは男の子にしてくださいね。

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16046新年早々結構なお手前で。夜宵吹雪 2004/2/24 18:47:11
記事番号16032へのコメント


どうも、お久しぶりの夜宵吹雪です。

いやはや、いいものを見ましたよー。相変わらず心理描写が素敵ですーvv
ゼロスが出てるのがちょっと嬉しい。
私もがんばんないとなー。
現在執筆中の作品でヴァルフィリ書きたいんです。禁断症状が・・・(危ねぇ)
そんなワケでご馳走様!みたいな(笑)
あー、あと。ちょっとアンケートなんですが。いえ、読み飛ばしても構わないんですが。
私が執筆中の「スクール・オブ・ミステリーワールド」のヴァルとフィリアの関係。何かご希望がありますかー?
とりあえず、それでちょっと短編・・・と呼ぶのもおこがましいショートショートを書くので。
ヴァルとフィリアの出会い編。ネタとしてはヴァルが中学のときに、フィリアの家に出稼ぎ(笑)に行って知り合ったとゆーのと。
じょぜさんの望む他の関係。何かありますかー?あったら聞きます。
もともと、学園モノのヴァルフィリとギャグを書きたいが為に書いてるシロモノですので、よろしければ(笑)

そんなわけで。何か、アンケートの方が主軸になってますが・・・・まあ気にしないで。
これからも頑張ってヴァルフィリを書いちゃってください!!
See you again!

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16052めぐさんご懐妊にあわせてみたわけで(笑)じょぜ 2004/2/25 01:07:47
記事番号16046へのコメント

ども、いつもレスをありがとうございます。どうぞ今年もよしなに。m(__)m

喜んでいただけたようで……じつは投稿した後、死ぬほど後悔したのも事実(笑)。
なんかざーとらしーかなーって……ラストは初めから思いついてたんですけどね。
ゼロスは私の中ではあんな感じです。誰のことも好きでも嫌いでもない人、じゃなくて魔族。たぶん好きなのは自分と自分の上司だけ……かな。
こんなんでも楽しんでもらえたら幸いです。

スクール〜のほうも読ませてもらってますよ。レスできてなくてすみませんが(汗)。
ヴァルフィリを見逃すはずないじゃないですか、ええ。
で、リクエストなんすけど、その、今回にちなんで妊娠ネタなんかどうかと。
周りが勝手にどんどん暴走して「ヴァルっ! 男なら責任とらなきゃだめでしょーが!」とリナに喝を入れられたりとかして、ラブコメの王道みたいなやつを(笑)。
もちろん最後は、全然妊娠なんかしてなくて、誤解でしたちゃんちゃん、とまるくおさめてください(笑)。
私が書くと変にナマナマしくなるので、吹雪さんならきっと、さらっと上手にまとめてくださると思います。

て、書いてるうちに、馬鹿なショートギャグを思いついたので、よかったら読んでやってください。
感想ありがとうございました!!!!!

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16051楽屋裏というかその後(ギャグです)じょぜ 2004/2/25 00:49:19
記事番号16031へのコメント

L「きーたわよーフィリア! よかったじゃない!」
G「よーおめでとーフィリア」
A「いーなー、おかーさんになるんですねっ」
Z「で、名前はもう決めたのか?」
「まだなんです。なんかもう迷っちゃって」(にこにこ)
 
 四人がくっちゃべってる横で、ヴァルガーヴがつっぷしている。

「おーいどうしたんだー?」
「あ、ヴァルガーヴさんおめでとうございます。おとーさんになるんですねっ。ご感想は?」
「……………」
「なんだ? 父親になる自信がないのか?」
「ちっちっゼル、こいつに限ってそーんな神経持ち合わせてるわけないわよ。
 ねー、パ・パ?」

 突然、だん! とテーブルを叩く。

「誰が誰のだ! ええリナ=インバース!」
「ほらほらあーんまり青筋立てて怒鳴ると胎教によくないわよ、パパ?」
「そうですよ。赤ちゃんにはやさしくしてあげないと。怖がられちゃいますよ、お父さん?」
 
 ステレオで言われ、がっくりと再び平べったくなる。

「だから……だからこいつらには教えたくなかったんだ………」
「ところでヴァル、名前、ちゃんと考えてくださいね」
「そーそ、それよ! あたしとねーちゃんの名前なんか超おすすめ!」
「あっじゃあ、あたしとねーさんのも!」
「へえ、アメリアって姉さんがいたのか?」
「前に話したじゃないですか! ガウリイさん並の背丈で、髪は長くて高笑いが好きな」
「スト──────ップ!!!!」
「な、なんですか?」
「悪いこと言わないわ、その名前だけはやめといてお願いフィリア」
「そうですね、そうしましょう」
「なんでですかっ!」
「生まれるのが女とは限らんだろう」
「男だったらさあ、オレの名前やってもいいぞフィリア」(無心)

 ガウリイ以外全員声をハモらせ、

『却下』(瞬殺)

 終わり。

 おあとがよろしくないようで。逃げます。

 めぐさん、ご懐妊おめでとうございます。m(__)m

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16054Re:楽屋裏というかその後(ギャグです)オロシ・ハイドラント URL2004/2/25 19:10:56
記事番号16051へのコメント

どうも、こんばんは。
お久しぶりです。ハイドラントです。
実は数日前にも一度感想文を書こうと思っていたんですが、これだけの作品にしょうもない感想書くわけにはいかないなと脱落してしまいました。でも数日経って少し言葉が浮かんで来た気がするので、本当にしょうもないかも知れませんが、書かせて頂きます。


夏の午後の暗い部屋のような作品だと思いました。
まず文章がリアル。そのリアルさが幻想味を生み出し、夏の眩しくもどこか寂しげな陽射し、あるいは冬の澄んだ空気に包まれているかのような雰囲気を醸し出していると感じました。
いくらでも読みたくなる綺麗な文章です。
さらにその綺麗な文章で描かれたヴァルとフィリアの二人だけの閉鎖世界(ゼロスは外界からの来訪者)は重い苦しみが満ち溢れているにも関わらず、輝かしい光がどこかから差し込んでいるように見えます。まさに暗い部屋に差し込む外の光のようです。
物語のラスト。閉鎖世界の第三の住人となるであろう新しい命は、二人を軛から解き放ち、光ある地へと導くことが出来るのでしょうか。
本当に素晴らしい文学作品だと思います。


楽屋裏というかその後
どうなるんでしょうね、名前?
個人的には意味のある名前が良いかなあとか思います。
愛とか救いとか解放とか幸福とか……。


しょうもないというより、わけの分からない感想になってしまったかも知れません。わけ分からなかったらすみません。気に触ってもすみません。
それではこれで失礼致します。

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16058ちょっと真面目に語ってみますじょぜ 2004/2/27 10:42:21
記事番号16054へのコメント

 お久しぶりです。吹雪さん同様、いつもいつもレスありがとうございます。
 どうぞ今年もおつきあいください。m(__)m

 とても素敵な感想をありがとうございます。
 綺麗な文章……いえいえ、ラントさんの表現も充分綺麗です。

 時期は特にいつという限定はなしで、どの季節にもあうような雰囲気にしてみたのです(笑)。
 とりあえず、特別暑くも寒くもない頃かなあとぼんやり考えてはいたんですが、夏の午後あるいは冬の澄んだ空気、にはちょっと驚きました。でも夏と冬という真逆の季節を連想させたということは、雰囲気伝わったということでいいのかな。

 ヴァルガーヴとフィリアをね、どうしてもくっつけたい一心で書いた話なんですが(笑)。
 相当、苦しんで葛藤を経ないと、くっつくのは難しいだろうと思ったんです。
 でね、「償わなきゃ」というフィリアと、「被害者」のままのヴァルガーヴだったら永遠に対等になれないなあと。対等になれないのに恋愛感情を生まれさせるのは無理だなあと。

 こっから先は私見なんですが。
 フィリアは確かに衝撃の事実を知って、リナたちと会った頃よりはだいぶ成長したんでしょうが、しょせん「自分が犯した」わけでもない罪を背負い続けるのは限界があるだろうと。
 で、ヴァルはヴァルで、この世界で生きてくことを選んだ以上、ゴールド・ドラゴンが自分に負わせた傷や痛みを「許そう」とする気持ちがあるのかと、その辺をどうするのか書いてみたかったわけです。

 で、フィリアには自分の中にも汚い部分があるってことを自覚してもらって、初めて一族が犯した過ちを自分のものとして感じられると、そういうふうにしたくて、一連の台詞を吐かせたわけなんですが。
 具体的に何かしたわけではなくとも、自分の利己的な感情のために、しかもそれは「好き」という感情であってもヴァルガーヴを(また)不幸にしかねない。
 それを「私の」罪、と言わせたかったんですね。

 罪は償わなければならなくて、でも、傷を受けたほうもいつまでも糾弾し続けるのもどうかと思うので、ヴァルには彼女を、彼女の一族を「許す」という台詞をどうしても言わせたくて、だいぶ悩みました。ヴァルらしく言わせなきゃならないので、どうするべえと(笑)。
 
 二人の間に生まれる命は確かに救いであり、希望でしょう。
 それでも、償いも許しも一瞬で終わるのではなく、死ぬまで続くものだと思います。
 だからフィリアは償い続けるし、ヴァルガーヴは許し続ける。ずっとね。
 子どもは自由に生きてってほしいけど、二人はお互いにとって「枷、軛」になることを望んでるので、それは一生外れないし、外さないでしょう。
 でもそれは「幸いな束縛、義務」と言うべきもので、辛いだけじゃないです。進んで受け入れてるのだから苦しいだけじゃないでしょう、きっと。

 ということを伝えたかったんですが、伝わらなかったら私の表現不足!(笑)。
 精進します。ええ。
 ラントさんが、すごく丁寧に書いてくださる内容や気持ちは伝わってますので、本当にありがたいですよー(涙)。

 名前は……どうしましょうね。
 ドラゴンにドラまたの名前をつけるわけにゃいかないし、くらげの名前じゃ将来が果てしなく不安だし(ひでえ)、王女様でも正義おたくじゃやっぱり心配だし、パーティの中じゃ唯一常識人で大賢者の血縁でもそいつの性格が性格だし……ううむ。
 誰か考えてください(笑)。

 具合が悪いそうで、そんな中レスありがとうございました。
 お大事に、ゆっくり休んでくださいね。では。

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16071楽屋裏というかその後2(ギャグですはい)じょぜ 2004/2/29 23:16:32
記事番号16031へのコメント
とりあえずバカ話です、はい。
二日酔いネタなんで、お食事前やお食事中の方は気をつけてください、すみません。
ではどうぞ。m(__)m




楽屋裏というかその後2




 狂乱の一夜──────が、明けた。


 窓からさんさんと陽射しがふりそそぐ、ヴァルガーヴとフィリアの家のリビングには、総勢四名の死体が転がっている。
「うううう………あったま痛いぃぃぃぃ………」
 栗色の髪をがしがしとかきむしりつつ、死体その一が起き上がった。
「あーあ………こりゃすごいわ」
 水を飲もうとふらふらしながら立ち上がると、部屋の全景がよく見渡せる。
 カーペットに散乱する空の酒瓶、グラス、肴などなど。
 フィリアのおめでたにかこつけて、夕べは飲めや歌えのどんちゃん騒ぎだったのだ。

 テーブルにうつぶせて、すやすやと眠るガウリイ。よだれが垂れている。
 壁に叩きつけられたまま気絶したかのようなゼルガディス。ちょっと肩を押したら、その姿勢のままばったり倒れること間違いなし。
 その隣で漂流死体のようにぴくりとも動かないアメリア。

 キッチンに入るなり、リナは立て続けに三杯の水を飲み干し、ようやく人心地がついて、ふらふらと戻ってみると、ゼルガディスが頭を抱えながら周りを見渡していた。
「起きた?」
「………なんとか」
「ちょっとこの子死んでんじゃないでしょーね」
「起こしてみりゃわかるだろう」
 そりゃそうだ、とアメリアをごろんと仰向けにしてみると、
「………もう………飲めませ………勘弁して……くださ……」
 眉間に皺を寄せ、ぶつぶつとうめいている。
「ガウリイはどうした」
「あそこ」
「真っ先につぶれて正解だったな」
「まったくだらしないったらウチの男どもは。あれくらいへーぜんと飲めないわけ?」
「お前が悪酔いしすぎなんだよ。
 ヴァルガーヴと派手にやりあうし」
 ソファがひっくりかえり、壁があちこち焦げていたりするのが誰のせいか言うまでもない。
 カーテンはずりさがっているし。家が半壊してないのが奇跡でなくてなんだろう。
「ふん、あいつがつっかかってくるからよ」
「ところでな」
「なに」
「水、くれないか」

 キッチンから出てきたリナの手には、おぼんに三つのお冷や。
 立ち上がる気力もないゼルガディスを「だっらしないわねー」と思う存分ののしり、恩着せがましくコップを渡していると、もぞもぞとアメリアが身体を起こし始めた。
「ふああ……おはよーございますぅぅぅ……」
 大あくびを隠そうともせず、それでもきちんと朝の挨拶をする。が、そのままふたたびころんと二度寝しかけ、リナに反対側から足で戻された。
「こらこらしゃきっとせんかいっ!」
「……朝ごはんは……いいです……なんにもたべられません………」
「じゃとりあえず水でも飲んでなさい」
「ありがとーございます………」
 ふらふらと左右に揺れる身体をなんとか保ちつつ、こくこくと水を飲む。
 横で、ゼルガディスはがんがんに痛み始めた頭を抱えだす。
「……さて、と」
 残るはひとり。
 いとやすらかな顔で眠り続けるくらげをいかにして起こすか。
「やっぱこれしかないわよね」
 残るひとつのカップをぐいと飲み干し。
 すう、と大きく深呼吸をし、ガウリイの頭上でアクア・クリエイト(三連打)をぶちまけた。



「おっおっおまえなっリナっ!! 心臓麻痺でも起こしたらどーすんだっ!!」 
 三十分後。
 一同は二日酔いの最悪な面持ちを残しつつも、一応眼は覚めていた。
「あんた起こすのには一番てっとりばやいでしょーが」
「ううう……びしょぬれだ……」
「じゃファイアーボールでてっとりばやく乾かしてあげよーか?」
「眼がマジだぞ、ドスきいてるし」
「やーだー冗談よーうふ」
「にしては半眼でコワイんですけど」
「マジだったらドラ・スレにするってマジで」
「オレが悪かったあやまるから」
「それにしても……すごいですねー……」

 すっかり明るくなった部屋を見、しみじみとアメリアが呟いたのをきっかけに、三人は大きくうなずいた。

「ちょぉぉぉぉっとやりすぎちゃったわねー」
「同意を求めるな、少なくとも俺には」
「あたしにもです」
「オレ全然おぼえてねーや」
「あんたが素面ですらまともに覚えてたってことあるわけぇぇぇぇぇ?」
「ない」
「なら黙っとらんかいこの口わあああああっ!」
 ふいにアメリアが真っ青な顔で胸のあたりを抑えだした。
「───ゼルガディスさん」
「? どうした」
「やばいです」
「………なにが」
「吐きそうです」

 横でうぎゃうぎゃ騒いでいたリナとガウリイがぴたりと動きを止め。
 口を抑えたアメリアをお姫様だっこしたゼルガディスが、猛ダッシュで洗面所へと駆け込んだのが同時だった。

 ほどなく聞こえてくる、水をざあざあ流す音。

 やれやれとげっそりした顔で戻ってきたゼルガディス。
「ま、間に合った?」
「なんとかな…………畜生、頭がガンガンする」
「あとでフィリアに薬もらっときなさいよ」
「あれ、そういやフィリアとヴァルはどうした?」

『あ』

 とりあえずリビングにはいない。
「……かな?」
 天井を指差し、リナはゼルガディスに問う。
「……かもな。そもそもあの二人の家なんだし」
「よね」  
 一瞬落ちた沈黙。
 二階には当然、フィリアとヴァルガーヴの部屋と言うか寝室があるわけで。
「………顔赤いぞリナ」
「あんたこそ紫よ」
 ふん、とそっぽをむく二人の会話に、ガウリイは当然ながらついていけずきょとんとしている。
「………夫婦なんだし、野暮よね」
「………馬に蹴られたくはないな」
 あらぬ方を見たまま、リナとゼルガディスが会話を成立させていると、
「お、アメリアお帰りー」
 よろよろと真っ青ながらも、どこかほっとしたような顔のアメリアが入ってきた。
「ど、どうも……ご迷惑をおかけしましたゼルガディスさん……」
 脱力しきったようにぺたんと座りこむ。顔はまだちょっと赤い。
「……ああ……きもちわるかった………」
「まあでもすっきりしたっしょ」
「はい……」
「よかったな、じゃあリナ、オレちょっと行ってくるわ」

 へ、どこに? というリナの言葉に答えるはずもなく。
 いきなり真顔になると、ガウリイも猛ダッシュで部屋を飛び出して行った。 

 ───ほどなく聞こえてくる、水をざあざあ流す音。

「………」
「………」
「ところで、ヴァルガーヴさんとフィリアさんは?」
『上』
 でっかい眼を天井に向け、ああ、と無邪気にうなずくアメリア。
「じゃ、起こしてきましょうか」
『駄目』 


 しばらくして。
 ばったん、という派手な物音が聞こえた。どうやらガウリイがなにかにつまずいたらしい。
「あででででで………あ、あれ」
「どーしたのよもー……」
 うんざりしながらも一応気になったのか、のろのろとリナはやってきて眼を丸くした。
「なんだ、ここにいたの」
「なんでこんなとこで寝てんだ?」
 階段の下の、ちょうど薄暗いデッドスペース。
 お互いにもたれかかるようにして、ヴァルガーヴとフィリアがすうすうと寝息を立てていた。
 ガウリイはちょうど、ヴァルガーヴがタイミングよく突き出した足につまずいたのだろう。
「まあま、仲のよろしいことで」
 手と手を握り合ったまま眠り続ける二人に、リナは苦笑してしまう。
「で、なんでこんなとこにいるんだろな?」
「───二階に避難しようとしてここで力尽きたんだろ」
 ゼルガディスがやってきて、リナと同じような表情を浮かべる。アメリアは二人を起こさないようにそーっと近づいて、にっこりと笑った。
「どんな赤ちゃんが生まれるんでしょうね」
「とりあえず母親に似るといいわよ」
 と言ったらヴァルガーヴがどーゆー意味だとつめより、聞いたとおりの意味よとすでに酔いがまわり初めていたリナが言い放ち、修羅場へと突入したことはもちろん誰も覚えていない。
「リナに言われたくないよなー……」
「同感です」
「なんか言った?」
『いーえーなんにも』
「(ふん)………ドラゴンてさ、最初は卵で生まれんのよね」
「ああ、出産は人間より早いが、孵化に時間がかかるらしいな」
「へーどのくらいなんだ?」
「だいたい百年ぐらいかかるそうだ。種族によって差はあるみたいだがな」
「なんか不思議ですよね。先に生まれても、殻を破って出てくるのはあたしやリナさんの子どもたちより後なんですね」   
「あんたのぉ? あんたと誰の子どもなのかなーアメリアぁ?」
「リ、リナさんこそっ」
「ほらほら正直に吐いちゃいなさいよ〜? ねーガウリイ」
「そーだぞー吐いちゃえば楽だぞー」  
「ガ、ガウリイさんまで」
 アメリアがちろっとゼルガディスを上目づかいで見やると。
 赤くなったゼルガディスの顔が、急転直下、真っ青になった。
「………?」
「おらおら〜どーしたのかな〜ゼルぅぅぅ?」
「……思い出した」
「へ?」
「〜〜〜せっかく忘れてたのに」
 うっと口元を抑える。
「なにが?」
「お前らが吐け吐け言うからだぞっ!」

 どだだだだっと涙眼で洗面所へと駆け込むゼルガディス。

「………もう飲み過ぎるのやめましょーね」
「………そだな」
 ため息をつくアメリアとガウリイ。
 ふいにリナが、やば、と呟いて立ち上がる。
「──────こーゆーのってうつるのよっ!!!!!」
 絶対あたしがお酒に弱いとかじゃないからねっ! と怒鳴りつつゼルガディスの後を負う。


 洗面所から聞こえてくる騒ぎにも一向に起きる気配のない若夫婦を残して。
 ガウリイとアメリアは疲れきった顔でリビングに戻ると、とっちらかった部屋を眺めて再び大きくため息をついたのだった。


 終わり。

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16076Re:楽屋裏というかその後2(ギャグですはい)オロシ・ハイドラント URL2004/3/2 20:18:38
記事番号16071へのコメント

どうも、こんばんは。
ハイドラントです。


本編とは全く違うムードで展開されていますが、こちらも小説として良く出来ているなあ、と思いました。
やっぱり小説巧いと思います。読んでて気持ち良いですし、キャラの台詞や行動も違和感なく物語に溶け込んでいますから。
ギャグ小説としても素晴らしいです。単にキャラの言動や行動で笑わせるのではなく、ある一定の場面行動を繰り返すことで笑わせるというテクニカルな方法を使っているのがこのサイトでは新鮮な気がしました。そのタイミングも絶妙だと思います。
>「(ふん)………ドラゴンてさ、最初は卵で生まれんのよね」
>「ああ、出産は人間より早いが、孵化に時間がかかるらしいな」
>「へーどのくらいなんだ?」
>「だいたい百年ぐらいかかるそうだ。種族によって差はあるみたいだがな」
>「なんか不思議ですよね。先に生まれても、殻を破って出てくるのはあたしやリナさんの子どもたちより後なんですね」   
そう考えると、悲しいような寂しいようなもどかしいような……。
単にギャグ小説として完結させていないのも凄いと思います。


存分に楽しませて頂きました。
そろそろ失礼致します。

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16077仲良し四人組は吐く時も仲良く……(すいません)じょぜ 2004/3/3 18:27:51
記事番号16076へのコメント

どうも、たびたびありがとうございます。m(__)m

なんちゅーか過分なお誉めの言葉に感謝感謝です。
個人的には「読んでて気持ちいい」とのお言葉がとても嬉しいです。
やった! と思いました(笑)。

「軛」を読まなくても独立して読める話にしたつもり……というより、あれの雰囲気をわざとぶちこわしたれ、と思いまして。
なんかシリアス書くとギャグでバランスを取りたくなるんですね(笑)。

あの四人の仲間以上恋人未満的な距離感が大好きなので、基本はガウリナ・ゼルアメなんですけど、ゼル&リナ、ガウ&アメもいれてみたつもりです。
気の回しすぎなゼルとリナ、あんまりわかってないアメリア、吐く直前まで平然としてたガウリイ(笑)とか、書いてて楽しかったっす。

楽しんでもらえてこっちもよかったです。ありがとうございました!!!!!

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16080Re:楽屋裏というかその後2(ギャグですはい)R.オーナーシェフ 2004/3/4 20:52:43
記事番号16071へのコメント

どうも、じょぜさん。前に一度ヴァルフィリ読ませてもらって感想を書かせていただいたことがありましたが、結構久しぶりに読んだヴァルフィリかな。もう、いろいろぐだぐだ書くのは止めときましょう。とにかく!
すっごく、すっごくいい!!こういうの大好きです。めちゃラブラブです。読めてとってもうれしいです。

> 答えは───。
> 答えは最初からそこにあったと、今ならわかる。
> この枷は外れない。他の誰でもないこの俺がそう望んだ。

> 結局は逃げられやしない。

> お前が苦しむなら横でそれを俺は見ている、どれほど心が切り裂かれても眼をそらさずに。俺が苦しむときそばで泣き叫べ、それでもこの腕から離しはしないから。
 
> 背負ったものの重みに押し潰されるのは、どっちが先だろうな、フィリア。

この辺、やっぱ「デモンスレイヤーズ!」のガウリイの台詞からかな。とても大好きなシーンです。これこそがまさに、L様がすべる悪夢(ナイトメア)なんでしょうね。そんな中で、なおも光を見なさいと、それがNEXTオープニングの“生きる理由”で、スレイヤーズのテーマだろうと思ってます。その光っていうと・・・・・・・・・
やっぱ、ラブですな。うん、やっぱこういうのって、いい!
ハイドラントさんが、夏の午後の寂しげな陽射し、なんて表現されてましたが、周囲の空気は静かだろうなと俺も思います。でも、そろそろこの辺でしっとりと、雨がほしいですね。そして、ため息と、ちらっと視線を合わせて・・、こ、子作りっスかぁっ!?みたいな・・・・・・ごめんなさい。暴走しました。

また、ガウリイの名前はダメですかね。たくましく育ちますよ。頭はともかく・・・・・ダメかなぁ。
それから、二日酔いの翌日は、朝ごはんは必須です。お味噌汁。あとお茶ね。また、“ちゃんぽん”だけは絶対ダメ。記憶ぶっ飛びます。経験者は語るってやつです(この場を借りてごめんなさい)。
お酒とは上手く付き合って。そうすりゃお二人さんちゃんと二階へ行けたのにねぇ・・・・・・・

安産を祈りますと、すでに手紙で書きました。キングレコード・スターチャイルドへあててね。こちらのカップルにも祈っておきましょう。

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16082ありがとうございます!じょぜ 2004/3/5 01:18:34
記事番号16080へのコメント

 どうも、オーナーシェフさん、お久しぶりです!m(__)m

 ものすごく喜んでいただけて、本当に私もめっちゃ嬉しいです!
 読めて嬉しいなんて、これほど書き手にとってありがたい言葉もないです。ありがとうございます。

>この辺、やっぱ「デモンスレイヤーズ!」のガウリイの台詞からかな。
 はい、これ書くとき、セレンティア〜とデモン〜を何回も読み返しながら書いてました。
 ガウリイのセリフは読めば読むほど深いなあと感じます。
「オレたちが、あいつを手にかけたことは変わらない」
 は、ためらいながらもヴァルガーヴを倒すために決断したフィリアの思いそのままだし、
「いろんな重いものを背負いながらそれでも前へ進まなきゃならない」
 てのも、もう本当にその通りだなと。しかもその重荷をおろせる日はきっと最後までないんだろうな、と思います。

>> 背負ったものの重みに押し潰されるのは、どっちが先だろうな、フィリア。
 結局、その重みに最後は潰されてしまうのかも知れないけど、生きてく以上投げ出すこともできない、なら、もう引きずってくしかないなと思って、ヴァルガーヴにもそういうセリフを言わせたんですけどね、なんか辛いセリフだなって思います、自分で書いといて(笑)。

>そんな中で、なおも光を見なさいと、それがNEXTオープニングの“生きる理由”で、スレイヤーズのテーマだろうと思ってます。
 そう、それでも最後は光が射すと、やっぱりそれがスレイヤーズだと私も思います!

>こ、子作りっスかぁっ!?みたいな・・・・・・ごめんなさい。暴走しました。
 ラストから話を考えたんで、ああいうふうになったんですが、今読み返すと、ちょっと急ぎすぎたかな(汗)とも思います。でもいーや、めぐさんに合わせちゃえと。へっへっへっ(殴)。

>また、ガウリイの名前はダメですかね。たくましく育ちますよ。頭はともかく・・・・・ダメかなぁ。
 ガウリイの名前は私は好きなんですが、とりあえずあの連中ならやめておけって言うんじゃないかと……(笑)。オチはあんまり深い意味はないです。ヴァルガーヴのことを「パパ(はぁと)」と呼んで、ここぞとばかりにねちねちからかうリナの絵が浮かんできたので書いてみたという(笑)。
 真面目に考えるなら、ミリーナかルークの名前をつける、というふうになるの……かな。

>それから、二日酔いの翌日は、朝ごはんは必須です。お味噌汁。あとお茶ね。また、“ちゃんぽん”だけは絶対ダメ。記憶ぶっ飛びます。経験者は語るってやつです
 おおっそうだったんですか! いや、二日酔いに味噌汁って確かによく聞くんですが、ほんとかなーって……すいません。実は当方ぜんぜん飲めない体質なもんで。まあ吐いた経験ぐらいはあるので(笑)こんな感じかなと。憶測で書くとやっぱボロが出ますね(泣)。

>そうすりゃお二人さんちゃんと二階へ行けたのにねぇ・・・・・・・ 
 ふっふっふっほんとはね、「起こしてきましょうか」「駄目」のとこで終わりにしちゃおうかと思ったんですね。ええ。
 それだとさすがにヤバイかと思い付け加えたんですけど(笑)。
 まあ、ヴァルフィリは「軛」でらぶらぶにしたんでいいや今回は寝かしとけと思い、それでもお手々つないでるんですから、いやですねえまったく(誰のせいじゃ)。

>安産を祈りますと、すでに手紙で書きました。キングレコード・スターチャイルドへあててね。こちらのカップルにも祈っておきましょう。
 スタチャのめぐさんのコーナーに行ったら、最初体調がすごく不安定だったそうで、そんな中、自分が演じたキャラたちが励ましてくれたとあり、リナの名前があがってたのがとても嬉しかったです。ほんと安産だといいですね。
 ドラゴン夫婦の最初の子どもは、はてさてどっちに似るのでしょうか。安産祈願ありがとうございます。二人に代わってお礼を申し上げます。m(__)m

 感想ありがとうございました!!!!!