◆−Once upon a time?−朋夜 (2004/5/17 00:22:34) No.16393 ┣おまけ−朋夜 (2004/5/17 23:45:21) No.16395 ┃┗ごちそうさまでした。−ザズルア=ジャズルフィードゥ (2004/6/5 17:43:47) No.16424 ┃ ┗ありがとうございますっ!−朋夜 (2004/6/6 00:22:26) No.16427 ┣Once upon a time? U−朋夜 (2004/6/12 00:51:38) No.16455 ┣おまけ U−朋夜 (2004/6/12 01:08:04) No.16456 ┣Once upon a time?〜Miss Cast〜−朋夜 (2004/6/15 01:52:19) No.16467 ┃┗Re:Once upon a time?〜Miss Cast〜−TAX (2004/6/28 12:01:20) No.16521 ┃ ┗きょ、恐縮です・・・−朋夜 (2004/6/29 23:03:25) No.16526 ┃ ┗続きというのはですね・・・−TAX (2004/6/29 23:34:53) No.16527 ┣Once upon a time? V−朋夜 (2004/7/2 00:47:15) No.16535 ┗おまけ V−朋夜 (2004/7/2 00:54:54) No.16536 ┗好きです!−TAX (2004/7/3 02:12:44) No.16544 ┗嬉しいです!−朋夜 (2004/7/4 00:02:21) No.16547
16393 | Once upon a time? | 朋夜 | 2004/5/17 00:22:34 |
はじめまして朋夜といいます。 以前からこちらにお邪魔しては、皆様の作品をただひたすら読んで、読んで、読みまくる日々を過ごしておりましたが、つい先日ネタが浮かんだので筆、もといキーボードをとり、清水の舞台から飛び降りるつもりで投稿させて頂きます。小説を書いた事のない人間が書く文章なので、お見苦しい点が多々あると思いますが、どうかご容赦の程を・・・ それでは、スレイヤーズOnce upon a time「赤ずきん」をお贈りします。 注:作者はゼルアメ贔屓に付きカップリングはゼルアメです。 『赤ずきん』 昔々あるところに一人の可愛らしい女の子がいました。その女の子はいつもお母さんお手製の真っ赤なずきんをかぶっていたので、みんなから『赤ずきんちゃん』と呼ばれていました。 そんなある日の事、 「赤ずきんちゃん、こちらにいらっしゃい。」 「ねえ、お母さん。あたしには『リナ』って名前があんだけど・・・・・・」 なぜ母親までもが彼女を名前ではなく、『赤ずきんちゃん』と呼ぶのかというツッこみはこの際なしです。お母さんは赤ずきんちゃんの呟きを黙殺しました。 「・・・・・・いい度胸してんじゃない、フィリア。」 その言葉にお母さんは激しく動揺しましたが、役目を果たさなくてはなりません。持ち前の責任感から何とか自分を奮い立たせ、手にしたバスケットを赤ずきんちゃんに差し出しながらこう言いました。 「森の奥に住んでいるおばあさんのところまで、これを―――」 「イヤ。」 お母さんのお願いは最後まで口にする事さえ許されず、たった二文字で却下されました。しかしここで怯んでいてはお話が終わってしまいます。何とか説得しようと試みましたが、赤ずきんちゃんはなかなか首を縦に振りません。しかたなくお母さんは最終手段に訴えました。 「あんまり我がままばかり言ってると、お姉さんにいいつけますよ。」 それを聞くやいなや、赤ずきんちゃんはお母さんの手からバスケットをひったくると、玄関の扉を蹴破り、ものすごいスピードで森の方へと消えてゆきました。 ―――よほどお姉さんのお仕置きが怖いようです。いえ、よくは知りませんが・・・・・・ 数十分後、鬱蒼とした森の道なき道をものともせず突き進む赤ずきんちゃんの姿がありました。 「まったく、何だってこぉんな物騒なトコにお年寄りが一人で住んでんのよ。」 確かにその通りなのですが、おとぎ話とはそういうものです。気にしてはいけません。 ともあれ、道中で出あった追いはぎをけ散らし、盗賊からお宝を巻き上げ、ようやく道の半分まで来た赤ずきんちゃんのもとに、どこからともなく一枚の紙切れが舞い降りました。 そこには――― 『新装開店!銅貨3枚で90分間食べ放題!! レストラン:リアランサー』 それはここから少し離れたところにある、このあたり一帯で一番おいしいと評判のお店でした。 普段なら決してありえない価格破壊に、朱い瞳を輝かせた赤ずきんちゃんでしたが、日付と時間を確認して愕然としました。 「そ、そんな・・・・・・」 そう、そのチラシの有効期限は今日の午後3時までだったのです。今からおばあさんの家に行って、引き返していたのではとてもじゃないけど間に合いません。こうして頭を抱えている間にも時間は刻一刻と過ぎて行きます。苦悶の表情で考えあぐねること数分、 「・・・・・・くっ。」 結論が出たようです。手にしたチラシを丸め、遠くに放り投げようとして―――動きを止めました。その視線の先には、この森に住む銀色の毛並みに青灰色の眼の狼が、木の幹にもたれかかって、なにやら分厚い書物を熱心に読んでいる姿がありました。 ―――ニヤリ しばしその様子を眺めていた赤ずきんちゃんの口元に笑みが浮かびました。どうやら良いこと(?)を思いついたようです。 「ヤッホー。ゼルぅ。」 「何の用だ。」 こちらを一顧だにしないその態度にカチンときましたが、すぐさま愛想を顔に貼り付け言葉を続けます。 「実はー、ちょっとお願いが―――」 「断る。」 人の話を最後まで聞かず、あっさり却下する様に赤ずきんちゃんはプチ切れました。自分も先程まったく同じことをしていたのですが、無論それは棚上げです。すかさず口の中で呪文を唱え始めます。 「おい待てっ!さすがに竜破斬はまずいだろ!!」 慌てて叫ぶ狼に少し溜飲が下がったのか、赤ずきんちゃんは呪文の詠唱を中断しました。 「じゃあ、お願い聞いてくれんのね?」 断ろうものならこの辺り一帯に大きな被害が出てしまいます。据わりきった朱い眼を向けられた狼に選択肢はありませんでした。 ―――何故俺がこんな事を・・・・・・? 森の奥へ向かう狼は自問自答を繰り返していました。片手にバスケット、その銀色の頭には真っ赤なずきんをかぶって・・・・・・。 そう、赤ずきんちゃんの秘策とは、自らの赤ずきんを狼にかぶせる事によって、狼を自分に仕立て上げ、代わりにおばあさんのところへ行ってもらおうというものでした。 そんな事をしても、すぐばれてしまうんじゃないかと思ったそこの貴方。メルヘンを侮ってはいけません。 色が白いというだけで自分たちの母ヤギの手と、天敵である狼の手を間違え家の中に招き入れてしまう・・・こういった現実ではまず考えられないような事象がごく当たり前に存在するこの世界では、赤いずきんさえかぶっていれば、中身が誰だろうとそれは『赤ずきんちゃん』であると認識されてしまうのです。 赤ずきんちゃんの作戦は、それらの法則を上手く利用した物であると言えましょう。 それはさて置き、銀色に赤という組み合わせによって、遠目からもはっきりくっき入り分かるような目立つ出で立ちと化した狼の機嫌の悪さは、途中で絡んできた山賊の末路から容易に推察する事が出来ました。 今やその怒りは赤ずきんちゃんだけではなく、森の奥に住んでいるというおばあさんにも向けられています。 「大体何だって年寄りが、しかも一人でこんな辺鄙なところに住んでるんだ・・・・・・」 どこかの誰かと同じ様な事を言ってます。案外このお二人・・・いえ一人と一匹、考え方が似ているのかもしれません。 そうこうする内にふいに木々が途切れ、少し開けた場所に出ました。そこに建っていたのは色とりどりのお花に囲まれた、赤い三角屋根の小さな白い一軒家。どうやらここがおばあさんのお家のようです。目の前に広がるのどかな風景と、背後の暗く殺伐とした森のギャップに少し戸惑っていた狼でしたが、何とか気を取り直し扉をノックします。 すると――― 「はぁい!いま行きまーす。」 という明るい元気な声と、 どん!がらがっしゃぁぁぁぁぁぁん! 何かが盛大にひっくり返る音が辺り一帯に響き渡りました。 あまりの大音量に一瞬首を竦めた狼は、その後室内から物音一つしない事を不振に思い、中の様子をうかがおうと扉に顔を近付け、 ばんっ! 何の前触れもなく勢いよく開いたそれに顔面を殴打され、しゃがみ込んでしまいました。 「あああああっ!ごめんなさい、大丈夫ですかっ!」 頭上から降って来た声の主に反射的に向けられた鋭い青灰色の一瞥は、次の瞬間、予想外のものを目にしたショックでその表情が抜け落ちました。 そこにいたのは、肩で切り揃えられた黒い艶やかな髪に、白磁の肌。瑠璃色の双眸が印象的なそれはそれは可愛らしい女の子。 「あっ、あのぅ・・・・・・?」 自分を凝視したまま文字通り凍り付いてしまった狼に、打ち所が悪かったのかと女の子はオロオロうろたえます。 「しっかりして下さい、赤ずきんちゃん!」 「誰が赤ずきんちゃんだ!」 その一言にようやく復活した狼がすかさず切り返します。そして自ら発した声にハタと我に返ったのか、しげしげと目の前の人物を眺め、おそるおそる口を開きました。 「まさかとは思うが、お前ひょっとして・・・・・・」 「もうっ、自分のおばあさんに対して『お前』なんて言っちゃいけませんって、どうしたんですか、赤ずきんちゃん?」 ありえません。いったいどこの世界に、孫であるはずの赤ずきんちゃんより年下のおばあさんがいるというのでしょう。 己の許容範囲を超えた事実を突きつけられ、狼の視界がくらりと傾いだその拍子に、かぶっていた赤いずきんがパサリと足元に落ちました。その下から現れた銀色の頭におばあさん(?)の大きな目がまん丸になります。 「おっ、狼さん!?なんで狼さんが赤ずきんちゃんのずきんをかぶってたんですかっ!」 驚いているにもかかわらず、狼にきっちり『さん』付けするあたりなかなか律儀な性分の持ち主のようです。 「ハッ、さては狼さん、赤ずきんちゃんを食べましたね!!」 「恐ろしい事を言うんじゃない!」 顔色を変えた狼は、瞬時におばあさんのとんでもない発言を全否定しました。ええ、それはもう力いっぱい。もし赤ずきんちゃんの、いえ、その自称保護者である金髪碧眼の猟師に聞かれでもしたら、明日からお天道様を拝めなくなってしまうことでしょう。考えただけで冷や汗ものです。 「じゃあ、どうしてなんですか?」 きょとんと首を傾げ、向けられた瑠璃色の視線を直視した狼はなぜか落ち着かない気分になりました。 「そ、それはだな―――」 なんだかそこはかとなく居心地が悪そうです。その様子を不思議そうに眺めていたおばあさんでしたが、やがてポンと手を打ってこう提案しました。 「ここじゃあなんですし、良かったらお家に入りませんか?」 「!!」 思わず言葉に詰まった狼の手を引いて、おばあさんは家の中へ入るよう促します。 「おい、お前―――」 「あっ、わたしのことはアメリアって呼んで下さいね。」 にっこり。 その愛らしい笑顔に今度こそ二の句が告げなくなった狼は、おばあさんに連れられて扉の向こうに消えていきました。 さて、その後おばあさんと狼はどうなったのでしょう? ぱたん、がちゃり。 「?どうして鍵を閉めるんですか?」 ―――それは秘密です。 おわり |
16395 | おまけ | 朋夜 | 2004/5/17 23:45:21 |
記事番号16393へのコメント 『おまけ』 一方その頃、赤ずきんちゃんはというと――― 「ちょっとガウリィ!それあたしのっ!!」 「なーに言ってんだ?こういうのは早い者勝ちだろっ!」 いつの間に合流したのか、今や自他とも認める金色の髪の猟師と、件のレストランでお食事・・・もとい料理をめぐって激しい攻防を繰り広げていました。 店中のお客さんが自らの手を止め、その光景に見入っています。中には怖いもの見たさからか、わざわざ席を立って二人の周囲を取り囲む人まで出てくる始末。 「こんなところで何してるの?『赤ずきんちゃん』。」 制限時間いっぱいまで続くかと思われたそれは、少女の一声で呆気なく終焉を迎えました。 聞き覚えのある―――いえ、聞き間違えるはずのないその声に、赤ずきんちゃんは一切の思考を停止しました。 顔にびっしりと汗を浮かべ、ぎこちなく振り向いた先にいたのは――― 「ね、ねーちゃん?」 「質問に答えてくれかしら?」 ・・・・・・それから、何があったのかは ―――ええっと、僕の口からはちょっと・・・・・・ おしまい |
16424 | ごちそうさまでした。 | ザズルア=ジャズルフィードゥ | 2004/6/5 17:43:47 |
記事番号16395へのコメント お初にお目にかかります。(多分)ゼルアメ作家のザズルア=ジャズルフィードゥです。 今回のお話、楽しく読ませていただきました。(笑) 語り部がゼロスだということは最後まで気づけませんでしたがなんとも美味しい・・・げふんげふん。面白い配役で。決して小説書き慣れていないとは思えないほど面白くかけていたと思います。 では、短いですが今回はコレにて失礼します。また、面白いお話を思いついたら是非投稿して読ませていただければ幸いです。それでは。 |
16427 | ありがとうございますっ! | 朋夜 | 2004/6/6 00:22:26 |
記事番号16424へのコメント こ、こちらこそはじめまして、ザズルア=ジャズルフィードゥさん。朋夜と申します。まさかレスを頂けるとは思っていなかったので、狂喜乱舞しております。 ご指摘頂いた語り部・・・当初そんなつもりは全くなかったんですが、ある日突然「そうだ、ゼロスにしよう」って感じで(いえ本当に)採用決定。 理由は―――今となっては私にも分かりません・・・ このような行き当たりばったりな話に暖かいお言葉を下さって、本当にありがとうございます。 それではまた、どこかでお目(?)にかかれる日が来る事を祈りつつ、本日はこの辺で失礼します。 |
16455 | Once upon a time? U | 朋夜 | 2004/6/12 00:51:38 |
記事番号16393へのコメント お久しぶりです。またやって参りました朋夜です。 ええっと突発的に思いついたネタ第2弾。もう語り部にキャラクターを当てるのは止めようと思ったのですが、この人の乱入には勝てませんでした。という訳でもう一回(恐らく)だけ、この方式にお付き合い下さい。 それでは、やっぱりゼルアメなスレイヤーズ迷作劇場Once upon a time「トム・ティット・トット」。 もしよろしければ、最後までお付き合い下さい。 『トム・ティット・トット』 ほんの僅か目を放した隙に、 「な、ないっ!!」 そこにあった五枚のパイは消え失せていました。 「私の娘は一瞬で五枚のパイを食べた〜」 楚々とした雰囲気とさらりとした長い黒髪の持ち主は、我が子の所業を歌い上げます。勿論辺りに人の気配はありませんが、なかなか出来る事ではありません。 しかし、 「私の娘は一日で五束の糸を紡いだ〜」 何処からともなく現れた城仕えの高官を目の当たりにして、さすがに体裁が悪いと思ったのでしょう、咄嗟に歌い直しました。 王の花嫁を探す人物の前でその歌を――― 結果。 「なんでこうなるんですか――――――っ!(泣)」 殺風景な部屋の一室にて、糸車を前に叫ぶ黒髪藍眼の少女の姿が見られました。 本来この場にいるべき当事者は、五枚のパイを平らげたという事実が発覚すると同時に、高笑いを残してとんずら。怒髪天を衝いた暁色の瞳の二番目の娘が後を追います。食べ物が絡んでいるので、それはもう執拗に。 たった一人残された人の良い末娘は、困り果てる母親の様子を見るに見かねて、しぶしぶ長姉のフリをしてお城までやって来たのですが・・・・・・ 「貴女にはこれから一月の間、この部屋で試験を受けて貰います。」 瞳の色すら窺えないニコ目で、おかっぱ頭の高官はどこか楽しげに続けました。 「とはいっても内容はいたってシンプルです。そこに置いてある糸車を使って、一日に五束の糸を紡いで下さい。見事達成のあかつきには、王の花嫁への道が開ける、とまあこういう訳ですね。」 さらりと告げられたノルマは、熟練者であれば何とか可能なレベルのものではあったのですが、糸車に触ったことすらない少女にとって、それは無理難題を吹っかけられたも同然です。 尤も、遠い空の下で今まさに逃・追走劇を続ける二人の姉達ならば、あらゆる意味で常人離れしているので、問題なく片付けていたでしょうが。 ともあれ一日目で落第決定を確信した少女は、もともとそんな気など微塵も持ち合わせていないこともあり、逆にホッとしました。 しかし、そんなささやかな心の平穏も、続く言葉によって跡形もなく消し飛びます。 「ああ、そうそう忘れるところでした。もし出来なければ、その首を刎ねる事になるのでご注意を。」 「―――はい?」 「それではまた明日。頑張って下さいね。」 ばたん。 瞬きを二度。告げられた言葉を胸中で反芻する事三回。 「え・・・・・・・・・・・・」 ようやく我に返ったのは、扉の向こうに相手の姿が消えてしばらくたってからでした。 「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」 「煩い。」 頭を抱え大絶叫する少女の耳に飛び込んで来たのは、苛立ちを含んだ低い声。 次から次へ降りかかる事態に、もはや思考が追いついていません。混乱したままキョロキョロ辺りを見回す蒼い眼は、窓際に佇む存在を映した途端その場に釘付けられました。 そこにいたのは、白銀の髪に青灰色の瞳と肌を持つ、 「か。」 「か?」 「可愛いですっ!」 ぎゅぅぅぅぅぅっ! 「―――って、おっ、おいっ!放せ!!」 ・・・・・・・・・・・・抱き人形サイズの悪魔でした。 ―――しばらくお待ち下さい。 「成程、奴の考えそうな事だ。」 見た目からは想像もつかないような力を発揮する、ほっそりした白い二の腕からなんとか抜け出した悪魔は、ようやく落ち着きを取り戻した少女から事情を聞いて頷きました。 「お知り合いなんですか?」 「・・・昔、ちょっとな。」 あまり触れてほしくない話題のようです。僅かに逸らされた視線からそれを感じ取った少女は、慌てて話題の転換を試みました。 「で、でも、いくらなんでも首を刎ねるっていうのは冗談ですよね。」 多少無理のある、明るい声で紡がれる希望的観測は、 「いや、本気だろう。」 どこまでもそっけない一言によって撃沈。 ・・・遠まわしにとか、オブラートに包んでとかいう配慮はどうやら品薄とみえます。ええ、まったく嘆かわしい事に。はぁ、どこをどう間違えたんでしょうか・・・・・・・・・・・・いえ、こちらの話です。気にしないで下さい。 「そっ、あっ、えっ、ど、どどどどどどどどうしましょう〜〜〜〜〜〜」 「!―――ああ、いや、そういうつもりでは・・・その、だな・・・・・・」 見る見る涙で曇っていく瑠璃色に、珍しく、本当に珍しく動揺する悪魔。己の言葉がつくり出した状況を、何とか収拾しようと必死で考えを巡らせます。 自らの力を行使すれば容易に片は付くのでしょうが、そうすると少女は対価を払わなくてはなりません。なにしろ自分は悪魔で、契約なくして、他者への干渉は叶わないのですから。 しかし、目の前で瞳を潤ませる存在に対してその方法をとる事は、なぜか酷く躊躇われました。ついさっき出逢ったばかりの、名前さえ知らない相手だというのにです。 ―――名前? 一つだけありました。使う日など来る筈がないと思い、記憶の片隅に追いやっていた契約が。これを上手く利用すれば少女は何一つ犠牲にすることなく、また自分も何ら制約を受けることなく力を揮えるというものです。しばらくの逡巡の後、やおら手を伸ばすと虚空から一枚の羊皮紙を取り出しました。 「おい、これにサインをしろ。」 「は?」 端的なのにも程があります。 用件のみをずばり口にした悪魔に、零れ落ちそうになっていた涙もどこへやら。ぱちくりと目を瞬く少女に、ようやく自らの説明不足を自覚したのでしょう。 「力を貸すといっている。」 ですから、もっと他に言い方というものがあるでしょうに。それでは何一つ――― 「ええっと、これ、契約書・・・ですよね?うーんっと・・・えーっと・・・つまり―――何とかしたいのはやまやまなんだけど、契約なしに好き勝手は出来ないから、これにサインをして自分と契約を結べ。そうすれば助けてやる―――っていう事ですか?」 「ああ、そういう事だ。」 ―――伝わってますね。驚きです。 というより平然としてる場合ですか。あなた、言外を完全に読まれてるんですよ? 「あの、でもソレって、確か対価が必要なんですよね?わたし持ち合わせが―――」 「一日三回チャンスをやる。」 「え?」 「一ヶ月の間に俺の名前を言い当てる事が出来れば、払わなくていい。」 「もし、当てられなかったらどうなるんですか?」 「そっ・・・・・・」 首を傾げながら掛けられた当然の問いに、急に言葉に詰まる悪魔。なんとか答えを返そうとしましたが、どう言ったら良いものか散々悩んだ挙句、手にした羊皮紙を押し付けて一言。 「読め!」 唐突な態度を訝りながらも、記された文字を追っていた少女は、最後の一文に辿り着いたところで顔色を一気に変えました。 「あ、ああああああああああああのっ!こっ、これって――――――!?」 これ以上ないくらい狼狽に狼狽を重ねた面持ちで指差したその箇所には、 ―――其を果たす事叶わぬ時 汝 その生涯を我と共に歩まん 之を以って対価となす――― 早い話が嫁になれと。 なかなかどうして思い切った内容に、白磁の頬に朱をのせ、せわしなく契約書と自分を交互に見やる少女と、まともに目を合わせることすら出来ないそのままに、 「無理にとは言わん。どうするかはお前が決めろ。」 悪魔は決断を迫る一言を放ちました。 その日を境に、城の一室にこっそり忍び込む、五束の糸を手にした白銀色が見られるようになりました。 初めの内こそ渡す物を渡し、条件である一日三回の名前当てを終えると、さっさと踵を返していましたが、日を追う毎に少しずつ、少しずつ、共に過ごす時間が長くなっていきます。少女の方に至ってはお茶の用意までして、今か今かと楽しそうに待ち侘びる始末。 しかし二人でいる時が増えていくにつれ、約束の日はその距離を縮め、徐々に姿を現し始めます。 最終日前日。 いつものように香茶を手に、一時の会話を楽しんでいた少女と悪魔の元に、 ばんっ! 「アメリア!無事!?」 赤銅髪の主が扉を蹴破って飛び込んで来ました。 「リナさん!?」 ほぼ一月ぶりに再会した姉に、一瞬、現在自分の置かれている状況を忘れ叫ぶ少女。すぐさま背後の存在を思い出し、慌てて後ろを振り返ると、そこは既にもぬけの殻。 「なに?どしたの?」 「あ・・・いえ、なんでもないです。ところで、どうして此処に?」 疑問符を浮かべる緋色にホッと胸を撫で下ろしつつ、その手に握られたロープの先に視線を走らせると、 「ほほほっ」 簀巻き状態で床に転がっている長姉と目が合いました。 「・・・・・・・・・・・・」 「よーやく捕獲して戻って来たら、あんたが城に連れてかれたって言うじゃない。で、そこら辺の衛兵を締め上げ・・・もとい衛兵にお願いして案内して貰ったってワケ。」 「そ、そーですか・・・・・・」 詳しく聞かないほうが身の為だと思ったのでしょう。あえて何も言わず、ギクシャクとした動きで首を縦に振りました。 「ところで、あんたゼルと知り合いだったの?」 「え?」 「今そこにいた奴よ。銀髪に岩肌の―――」 しっかり見られていたようです。しかし、それも今となっては瑣末な問題でした。 「ゼル・・・・・・?」 「だから、ゼル、よ。ゼルガディス。」 当初から抱えていた疑問は、ここに来てようやく一つの答えを弾き出しました。 そして約束の日。 「トム、」 「おい?」 「ティット、」 「アメリア!」 「ト―――」 「考え直せ!今ならまだ―――」 「嫌です。」 「なっ!」 小さな、けれどはっきりした拒絶に悪魔は絶句しました。 その様子を眺め、にこりと微笑んで少女は最後の名前を完成させます。 「トット。」 その声音にようやく呪縛から開放され、眼前で穏やかな光を浮かべる蒼に戸惑い、次に湧き上がる感情は憤怒。 「この、馬鹿が・・・ッ!」 「馬鹿はどっちですか!!」 絞り出すような呟きに、怯むことない切り返し。悪魔が口を開くより早く、少女は言葉を紡ぎます。 「リナさんを知っていたんですよね?そのうち此処に来る事も。そうすれば―――」 「!!」 「気付かないって、そう思ったんですか?」 ふわりと笑うその顔に、悪魔はようやく敗北を認めました。己の思惑など通用するような相手ではなかったのだと。 「ああっ!」 「な、なんだ?」 「で、でも、もしかしてご迷惑でしょうか?わたしが、その・・・・・・おっ、おっ、お嫁さん・・・なんて・・・・・・・・・・・・」 先程までの態度が嘘のよう。急にまごまごと狼狽えるその様子に、暫し呆然としていた悪魔でしたが、 「クッ・・・・・・」 やがて肩を震わせ声を押し殺して笑い出しました。 「わ、笑わないで下さい!真剣なんですから―――っ!!」 羞恥から来る紅潮をその表情にのせ、両の手を握り締めて怒る様に、零れる笑みを抑えられないまま、己が手をその華奢な肩へと伸ばします。 その姿が―――人形サイズの可愛らしいと言えなくもない姿が、少女よりも幾ばくか年上であろう青年のそれへ瞬時に入れ替わりました。 突然その外見を変えた悪魔に、声を上げることも忘れ引き寄せられた少女が、間近で囁かれた何事かを耳にして全身見事に茹で上がり、次の瞬間、二人は揃ってその気配を部屋から消し去りました。 後に残るは、ただ五束の糸のみ・・・ さて、それからしばらくの間二人は行方をくらます訳ですが、まあ問題はないでしょう。そのうちひょっこり帰って来るでしょうし。 まあ、尤もその頃には二人ではないかもしれませんが。 いずれにしても、その時が来るのを――― ぞくっ 「ゼルガディスさん?」 「いや、ちょっと悪寒が・・・・・・」 ―――楽しみにしてますよ、ゼルガディス? おわり |
16456 | おまけ U | 朋夜 | 2004/6/12 01:08:04 |
記事番号16393へのコメント 『おまけ』 「ったく、このあたしを利用しようなんて・・・」 二人が消えた直後、物陰から這い出してきたのは紅い眼をした中間子。 この代償はかなり高くつきそうです。とりあえず次にあった時、死ぬほどからかわれることは間違いありません。 「なあ、お前さんか?オレの花嫁ってのは。」 それまで考えに没頭していたのでしょう。いきなり背後から聞こえた声に、 すぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん 手にしたスリッパで反射的に相手を殴り倒すほど驚きました。 「痛ってててて・・・・・・いきなり何すんだ!」 「るっさい!断りもなしに乙女の背後を取るよな奴は、火炎球のひとつやふたつぶちかまされたって文句言う資格なんかないわっ!!」 「何処の世界の話ですか、それは!ああっ王様、大丈夫ですか!?」 「おうさま?」 聞こえた三番目の声に、思わず眉根が寄ります。金色の頭を押さえ立ち上がった長身は、王様というより王子様といったほうがぴったり来るような外見の主でした。 しかし、見た目に振り回されるといった感性など持ち合わせていない赤髪は、今回の元凶とばかりに相手を睨めつけます。 「あんたね?ゼロスとかいう高官に命じて、こぉんな騒動を引き起こしたのは。」 「ゼロス・・・って誰だそりゃ?」 「自分の部下を忘れるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「あ、あの・・・・・・確かに王は、その、記憶力に乏しいところはありますが、ゼロスとかいう、非っ常に不愉快かつ鼻持ちならない名前の人間はこの城にはいませんけど・・・・・・?」 戦々恐々としながら答える青い瞳の従者の声に、 「なんですって?」 その眉間の皺がより一層深くなった事は言うまでもありません。 「あのぅ・・・・・・」 はい、なんですか? 「そろそろ退散したほうがよろしいのでは?今回の事がばれたらお、互い只じゃ済まないと思うんですけど・・・・・」 それもそうですね。 ―――また滅ぼされでもしたら、流石に洒落になりませんし。 おしまい |
16467 | Once upon a time?〜Miss Cast〜 | 朋夜 | 2004/6/15 01:52:19 |
記事番号16393へのコメント 次から次へと、考え付くのはこんなのばっか・・・ ええっと、三度やって参りました、朋夜です。新しい語り部を確立すべく、今回はちょっと趣向を変えてみました。果たして結果は・・・・・・今は何とも言えません。(待て) ともあれ、Once upon a time 〜Miss Cast〜「長靴をはいた猫」へ、もし宜しければお進み下さい。 『長靴をはいた猫』 貧しい粉屋の三人の子供たちに残されたのは、粉引き小屋と一頭の驢馬、そして青い瞳の愛らしい仔猫のみ。 「ならば俺はこれを貰おう。」 即断即決とはこの事です。末弟である青年は二人の兄を差し置いて、真っ先に仔猫の所有権を主張しました。その勢いに鬼気迫るものを感じ取ったのか、何を言う事もままならず、ただただ頷く長男次男。 こうして先手を打ち、反対勢力がその芽を出す前に根絶やしにした青年と仔猫は、共に末永く幸せに暮らしたそうです。 おわり 「―――って、ちょっと待って下さい、勝手に終わらせるなんて酷いじゃないですか!」 そんな事はありません。これ以上続けたら物語が破綻してしまいますから。 「どーいう意味ですか、それは!?」 「まあ待て、アメリア。確かにそいつの言う事は一理ある。」 「そんな・・・ゼルガディスさんまで・・・・・・」 それではお聞きしますが、貴女はこの物語がどのようにして進行していくのかをご存知なのですか? 「勿論です!わたしの愛と勇気と正義の力で、ゼルガディスさんを幸せにするんです!!」 それで、その具体的な方法は? 「え?」 まさかとは思いますが、何の策もなしにそれを成し遂げられるとは―――思ってらっしゃいましたね、根拠もなしに。 「策って―――ええっと、そんなのものが必要なんですか?」 「必要というより必須だな、この話の場合。」 その通りです。従って主人公である貴女に今回要求されるのは、先程仰った『愛』や『勇気』や『正義』ましてや『力』といったものではなく、『知恵』・『機転』・『度胸』といった類のものになります。 「それって・・・わたしよりもゼルガディスさんやリナさんの方が、この役に向いてるってことですか?」 そのリナさんという方はともかくとして、こちらの方は――― 「俺か?」 『度胸』という点で役不足かと。 「おいっ!」 そもそも貴女の目のある所で、堂々と嘘を吐けるとは思えませんし。 「―――っく!」 「嘘、って・・・?」 ええ、これはそういう物語ですから。 「は?」 領民を王をその口八丁で丸め込み、最後には主を貴族に仕立て上げたうえで、一国の姫君との婚姻を成立させる―――あの、どうかしましたか? 「こ、婚姻って・・・結婚の、こと、ですよね・・・・・・」 「ア、アメリア・・・?」 「〜〜〜〜〜〜駄目です!そんなの絶っっっ対に、駄目ですっ!!」 「落ち着け!暴れるな!!ってあんたも見てないで止めろ――――――!!!」 ああ、やはり破綻してしまいましたね。 「誰のせいだ!誰の!!」 おしまい |
16521 | Re:Once upon a time?〜Miss Cast〜 | TAX E-mail | 2004/6/28 12:01:20 |
記事番号16467へのコメント きゃ・・・きゃぁ〜!! は、初めまして。 こんにちは、TAX(=芽衣)と申します。 さ、最高です!! ご馳走様なゼル、キュートなアメリア、リナにナーガも最高なんですが、 糸紡ぎの語り部レゾさん・・・いいっ(何かがおかしい人) ガウリイもいいし、ちゃっかり姉ちゃんの名前を持ち出すフィリアも らしくて。 童話からこんなに面白いパラレルを書けるなんて、凄いです!! 長靴を履いた猫の兄二人とは、誰なんでしょうか? ああっ! 本当に面白かったです! もしも続きを書かれるのならば、是非読みたいです。 いえ、書いてください(コラ待て こんな作品を生み出して下さって、本当に有難うございます。 では、失礼致します。 |
16526 | きょ、恐縮です・・・ | 朋夜 | 2004/6/29 23:03:25 |
記事番号16521へのコメント 初めまして、ええっと、こちらではTAXさんとお呼びしたほうがよろしいのでしょうか?朋夜です。 この様な拙い文章を気に入っていただいて、ええもう、本当に嬉しいです。ありがとうございます。 兄二人。うーん、特に考えてはいなかったのですが、強いて挙げるなら、神出鬼没の獣神官とか姫の従兄弟とかでしょうか。この二人以外で引き受けてくれそうな人―――すっ、すみません思い浮かびません!(早) つ、続きですか?ってどれのでしょう?いえ、実は現在『V』を書いているんですが、T・Uとは全く繋がらない話ですし・・・。あと、元ネタが童話でもないような・・・・・・あ、ゼルアメに変わりはありません。これだけは断言できます! なんか、だんだん文章にまとまりがなくなってきたので、今回はこれにて失礼いたします。それでは、また。多分近いうちに。 |
16527 | 続きというのはですね・・・ | TAX E-mail URL | 2004/6/29 23:34:53 |
記事番号16526へのコメント こんばんは、TAXでございます。 いえ、こちらですでに別の芽衣さんという方が登録をされてましたので、 適当にHNをつけただけなんですよ(笑) ここ以外では、芽衣でやっております。 あまり、お気になさらずに・・・ お兄さん、ゼロスとアルフレッドだったんですね。 謎は全て解けた(金田一ふう←? スッキリスッキリです☆ 続きと言うのはですね、ぜひとも新作を拝見させて頂きたかったのです。 すごく、楽しみにしております。 Vを執筆されているとの事ですので、今か今かと心待ちにしていますね! 一ゼルアメラーとして、応援させて頂きます。 それでは、芽衣なのか何なのか・・・なTAXでした。 失礼致します。 |
16535 | Once upon a time? V | 朋夜 | 2004/7/2 00:47:15 |
記事番号16393へのコメント ふぅ、やっと出来た・・・まさにそんな感じです。 シリーズ三作目、通算四回目(おまけをカウントすると六回目)の投稿になります。朋夜です。 前三作が童話を元にしていたのに対して、今回の元ネタはおそらく童話ではありません。 というよりこの話を知っている人ってどれ位いるんでしょう? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 元の話を知っている方、ごめんなさい。 知らない方、決してこの様な話ではありませんのであしからず。 ある意味問題作なOnce upon a time「コッペリア」僭越ながら始めさせていただきます。 『コッペリア』 町の外れのお屋敷で 静かにひっそり暮らしてる 誰一人としてその姿 目にした者はないとう言う 希代の若き人形師 だがしかし それが故 憶測が憶測呼び寄せて 尾びれ背びれが付きまくり 今やすっかり怪しい人 さてはて 真偽の程は如何に? 一体どういう経緯からか、噂の人物が住むという家の鍵を手に入れた少女たちの取る行動は、 「リナさーん、やっぱり止めましょーよぉ・・・・・・」 「なぁに言ってんの。こんなチャンス滅多にないんだからっ、と。」 あろうことか、白昼堂々不法侵入。 やんわりとした制止の声もどこ吹く風。なんら躊躇うことなく、人様のお宅にいそいそと忍び込むのは赤い髪の娘。聞く耳など端から持ち合わせていないといったその態度に閉口しつつ、良心と好奇心の間で揺れていた蒼い瞳の少女も渋々ながら後に続きます。 果たしてその向こうで二人を待つものは。 「わぁ・・・すごいですぅ・・・・・・」 「ホント、たいしたモンねー。全部売っ払ったら一体いくら位になんのかしら。」 「・・・・・・リナさん?」 「冗談よ、じょーだん。」 それはそれは精巧に作られた、から繰り人形の数々。中には人と見紛うほどの物もあり、件の人形師の腕前が、他の追随を許さないものであることを物語っていました。 「あっ、あっちにも何かあるみたいですよ。」 「ちょっ、ちょっとアメリア?こらっ、待ちなさいってばー!」 先程までの消極的な態度とはうって変わって、頬を紅潮させどんどん奥へと進む黒髪藍眼の少女。一気に二階へ駆け上がり、手近な扉を押し開けて、そぉっと中を覗き込むと、その姿勢のまま硬直。 「何、アレ―――」 唐突に動きを止めた友人の向こう側、飛び込んで来た光景に我が目を疑い、上擦った声を上げました。 南向きに大きな窓が設けられ、明るい午後の光が差し込むその部屋は、穏やかで暖かな雰囲気に満ち溢れています。大きく開け放たれた窓の側、一冊の本を手に椅子に腰掛けるのは一人の乙女。 風にそよぐ艶やかな黒髪。僅かばかりに伏せられたつぶらな瞳は輝く瑠璃の色。一点の曇りすら見当たらない、きめの細かい白純の肌。白を基調とした衣服に身を包んだその姿は紛うことなく――― 「わたし・・・・・・ですよね?」 ようやく呪縛から開放され、微動だにしない自分そっくりの存在に恐る恐る歩み寄り、ある事実に気が付いて更に驚きました。 「に、人形!?」 「へっ?」 動かないのも道理。そう、それはつい今しがた目にしてきたもの達とは段違いの完成度を誇る一体の人形でした。 『・・・・・・・・・・・・』 もはや言葉もありません。お互いただ呆然と顔を見合わせていると、扉の向う側からこちらに近付いて来る足音が聞えてきました。その気配にようやく己を取り戻し、息を殺して様子を窺うこと暫し。 「おーい、リナぁ。何処だー?」 次いで聞えた呑気な声に一気に脱力。呼ばれた当の本人は、我知らずその両の手を握り締めています。 「あンの、く、ら、げ〜〜〜〜〜〜〜」 「ああっ、リナさん落ち着いて!」 沸々と湧き上がる怒りを何とか宥めようと言葉を掛けるも、あまり効果はない模様。いつもなら隠し持っているスリッパもしくはハリセンで即座に張り倒しているのでしょうが、こっそり忍び込んでいる手前それは実行不可能です。 持てる忍耐力全てを総動員して、衝動を抑えていましたが――― 「おっ、なあなあ、そこのアンタ。リナを―――」 「あほかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 どげしっ! よりにもよって家人に声を掛けるといった暴挙を目の当たりにして、堪忍袋の緒が切れました。電光石火の勢いでその後頭部に鋭い蹴りを繰り出し、たちまち相手を昏倒。しかしそれを許さず、襟首を引っ掴み、前後に激しく揺さぶります。 「一体全体、なぁぁぁに考えてんのよっ!この―――」 「あのー。」 「後にして!!」 「いや、そういう訳にもいかんのだが・・・」 「煩いわね!後にしてっ・・・て・・・・・・?」 見ると所在なさげに立ち尽くすこの家の警備担当と思しき二人組。一瞬で全てを理解した娘は、半ば引き攣った誤魔化し笑いを浮かべつつ、口の中で素早く呪を唱えます。 「『明り』よ!」 掌から生み出された閃光に怯んだ二人の隙をつき、未だ意識のない相棒を半ば引きずるようにして遁走を図りました。一連の所要時間、三秒フラット。 神業といって差し支えないであろう所業に、しばらく呆気に取られていた男達でしたが、すぐさま気を取り直して侵入者たちの追跡を始めます。 「何かあったんでしょうか?」 俄かに騒がしくなった二階の様子に、首を傾げるのは年齢不詳なこの家の主。自室から顔を出すと、一陣の風の如く玄関へ向かう男女と、それを追いかける男二人と危うくぶつかりそうになり、ますます首を傾げる羽目になりました。 そうして釈然としない面持ちのまま部屋に戻ろうと踵を返しましたが、ふとある事に思い至り二階へ続く階段へと歩を進めます。 一方。 「ど、どうしましょう・・・・・・」 完全に部屋から出るタイミングを失った少女は、一人途方に暮れていました。今なら誰に姿を見られることなく、至極簡単にこの場を抜け出せるのでしょう。 けれどそうしない理由がひとつだけ。 窓の側に静かに佇む、自分と全く同一の外見を持つ存在。一体どうして、何の為に、どんな人が作ったのか気になって気になって仕方がありません。 しかしそれもほんの僅かな間。扉と人形との間で彷徨っていた眼は、突如浮かんだ考えに、より一層その輝きを増しました。 かちゃ。 柔らかな日差しが差し込む部屋、開かれた窓、そしてその傍らには物言わぬ一体の人形。 今朝方と何等変わらぬ部屋の様子に、自分の考えが杞憂に終わったことを感じ取ったのか、家主はほっと安堵の息を吐きました。さて、自室に戻ろうと身を翻しドアノブに手を掛けたところで、気付いた微かな違和感に再び室内を振り返ります。 その先にあるのは、とある少女の姿をこれ以上ないくらい正確に写し取ったヒトガタ。それを今一度確かめようと近付き手を伸ばしかけたところで、背後から掛けられた声に動きを止めました。 「何をしている。」 「おや、ゼルガディス。」 物凄く不愉快そうにこちらを睨みつける端正な顔立ちの青年から発せられた、刺々しさを多分に含んだ声音を別段気にしたふうでもなく、さらり軽く受け流し飄々と答える主。 どうやらこの程度のやり取りは日常茶飯事と見えます。 とはいえ、あっさりあしらわれた方はそうはいきません。が、ここで怒りを露にすれば却って相手の思う壺と判断したのか、込上げてくるものをぐっと堪え、至極冷静な口調でもう一度同じ言葉を繰り返します。 こういった言動こそが、相手に面白がられる要因になっているのだという事実に、微塵たりとも気付いていません。 「つい先刻、侵入者があったようでしたので様子を見に来たんですよ。貴方の大事な人形にもしものことがあっては一大事ですからね。」 「誤解を招くような言い方は止めろ!」 確実に神経を逆撫でする言葉をわざわざ選んで投げ掛けては、返ってくる反応をこの上なく楽しんでいるようです。 「ああ、失礼。貴方の大事な人の姿をした人形―――と言うべきですね。」 「な―――!!」 絶句。伝わり来る愕然とした空気に、大いに気を良くしたのでしょう。更に追い討ちを掛けるべく、客観的事実を次々暴露。 「姿を見掛ければ見えなくなるまで、声を聞けば聞こえなくなるまで、その間の意識はうわの空。おまけに行動は支離滅裂。そんな奇行を延々繰り返した挙句、あそこまで姿形の似通った人形を作り出しておきながら、まさか気付かれていないとか思っていたんですか?」 「―――似ていると、そんなことが何故分かる。」 絞り出すように口を吐く無駄とも思える抵抗を、一笑に付して真顔で一言。 「声から大体のどのような顔をしているのか、想像するくらい訳ありません。」 「――――――――――!」 理論上は有り得なくはないのですが、実際にはまず不可能と思われることを、さらりと口にする様に、急速に血の気が下がってゆきます。 「勿論冗談です。どこぞの魔王じゃあるまいし、そんな真似出来る筈―――ってなんですか、今の間は?」 「・・・・・・」 半ば呆れるような答えに対し、顔色を完全に失ったまま沈黙を守る孫に溜息をひとつ。 「・・・・・・自分の祖父を一体なんだと思ってるんですか、貴方は。」 きっと、どこぞの魔王だと思っているのでしょう。 その台詞にさすがに反論しようと口を開いた青年は、見るともなしに見てしまった窓際の存在に、咽喉もとまで出掛かっていた言葉を思わず飲み込みました。 風にそよぐ黒髪も、伏せられた蒼い眼も、白い衣服に身を包んだ姿も、何一つとして変わってはいません。しかし、誤魔化しようがないくらい上気したその頬は――― それが何を指し示すのか理解した瞬間、完全に思考を停止した若き人形師。 そして、真っ赤な顔でおずおずとした眼差しを向ける、今の今まで人形のフリをしていた少女。 「さてと、お膳立てはここまでです。後は二人でどうぞごゆっくり。」 満面の笑顔で二人を見守っていた家主でしたが、やがて馬に蹴られることを懸念したのか、そう言い残してさっさと退散してしまいました。 「・・・・・・え、ええっと・・・・・・」 「・・・・・・・・・いや、これは・・・」 そんな気遣いも虚しく、残された二人がまともな会話を成立させるには、相当な時間が必要とされるようです。 町外れのお屋敷で ひっそり暮らす人形師 如かして その実態は ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ じゃあ、恋する青少年ってことで。 「ちょっと待て!何なんだそれは!!」 「え。違うんですか?」 「う・・・・・・」 私、何か間違ってますか? おわり |
16536 | おまけ V | 朋夜 | 2004/7/2 00:54:54 |
記事番号16393へのコメント おまけ 「ふぅ、もう追って来てないでしょうね・・・」 追っ手の追跡振り切って、自業自得であるにもかかわらず、理不尽だと言わんばかりの口調でそう洩らすのは金髪碧眼の相棒を引き連れた逃走劇の主人公。 しばらくの間、周囲に人の気配がないかどうか、気配を隠しつつ注意深く辺りの様子を探る赤毛の娘を繁々と眺めていた片割れは、ふと過ぎった疑問を何とはなしに口にしました。 「なあ、リナ。」 「何よ。」 「お前さん、なんだってあの家に行ったりしたんだ?」 ぴたり。と、その動きが止まります。 「か、鍵、拾ったのよ。」 「あの家のか?」 「そっ、そーよ!落ちてたのよ、文句ある!?」 どういう訳かこめかみに一筋の汗を浮かべ、朱い目をつっと逸らしながら答える様を多少不思議に思ったのですが、取り敢えず質問を続けることにしました。 「ふーん。よくその鍵があの家のだって分かったな。」 「は?」 「いや、だってふつー鍵って名前とか書いてないし、『落ちてた』ってことは落とした奴を見たってわけでもないんだろ?」 本当にごく稀に、思わぬところで核心を突いて来る自称保護者の一言に、 「・・・・・・あんた・・・実は全部分かってて言ってるんじゃあないでしょうね?」 と、そら恐ろしげに呟いたか何とか・・・・・・。 それにつけても、何故彼はタイミングよくあの場に現れたのでしょう? 「あ、今回は僕じゃありませんよ。」 となるとやはり―――どこぞの魔王とか? おしまい |
16544 | 好きです! | TAX E-mail URL | 2004/7/3 02:12:44 |
記事番号16536へのコメント こんばんは! 新作、拝読いたしました。 やはり、朋夜様の作品、好きです〜!! 何と申しますか、安心して読めるんです。 そして、読むとホッと一息つけるというか。 幸せな気持ちになれます。 コッペリアは、存じないのですが(不勉強なもので。。 人形って、すごくいいです。 朋夜様のモチーフは、本当に素敵です。 今回は、さらに先を想像させていただいて、一人悦に入ったり・・・ 「あなたは、誰ですか?」 「・・・グレイワーズだ。」 「どうして、わたしがいるんですか?」 「・・・・・。」 「・・・・・。」 「どうせなら、正義を行使しているわたしにして下さい。」 「・・・はっ?」 「次回作です!」 「・・・・・。」 なんちゃって・・・ ああっ、すみません(滝汗) |
16547 | 嬉しいです! | 朋夜 | 2004/7/4 00:02:21 |
記事番号16544へのコメント こんばんは、TAXさん。 とっても素敵な二人の会話を考えて下さって、ありがとうございます。 思わず画付き・声付きで想像してしまいました。 果たして正義を行使する姫人形を、魔剣士は作れるのでしょうか? Ans.何としてでも作っていただきましょう。 ・・・・・・すみません、嬉しさのあまり壊れてます。 おっかなびっくりながらの投稿となりました今回の話ですが、気に入って頂けたようで幸いです。 『コッペリア』は多分知らない人の方が多いと思うので、あまり気になさらないで下さい。 なにせ私も、子供の頃にチラッと何かの本で見かけたのをつい最近思い出し、この話を書き出すまであらすじさえうろ覚えでしたから。 ―――よくこんなんで書こうと思ったな私・・・ なんか段々まとまりがなくなって来たので、本日はこの辺で。 また新しい話を思いついたらこの場に参上させていただきます。 それでは、また。 P.S.あ、あと『様』付けはちょっと・・・ 普通でいいです、普通で。ええ、そのような敬称に見合った器ではないので、本当に。 |