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 ┗エンドレス1-6−お日SAN (2004/7/29 16:11:43) No.16612


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16440エンドレス1-1お日SAN E-mail 2004/6/8 22:39:56


友人・錦龍影悟との合作です。
オリジナルですが、どうぞお楽しみ下さい。

 エンドレス1-1


これはとある国の、とある国王の時代のお話。
その頃の世界には、まだ、『鬼』や、『魔族』が生きていた時代でした。
そんな時代のお話………。


アルタイル王国。
小さくも無く、大きくも無い、わりと平和な国である。アルタイル国王は、民の信頼も厚く、民の為の政治を行なっていた。
その国王には、一人の子供がいたが、今は国にいない。
その子供…国王の息子は、一人の女とカケオチをしたのだ。
果たして何故カケオチなどをしたのか、それは今は伏せておこう。
それから、二十年の月日が流れたが、何の便りも無い。このままでは、次の国王がいなくなってしまう。
困った国王は、国の軍を指揮して、息子と、女の行方を追ったが、何一つとして手がかりは無かった。
諦めて、王族以外の人間を国王にしようとした時、事件が起こった。
国王の息子の息子…つまり、国王からすれば孫にあたる人物…が、名乗りを上げたのである。


太陽のやわらかな日差しを受けてそびえ立つ、一つの屋敷があった。
なかなか大きな屋敷だが、実際に住んでいる人数は、たったの三人だという。
その屋敷の前に、国王の、ガネットが、共の者も連れずに立っていた。
「ハァ…。」
短い溜息と共に、屋敷の呼び鈴も押さずに門を開けた。


その頃、屋敷の中では、新聞を読んでいる男が一人、椅子に深く腰掛けている。
「お茶です。アザートス様。」
「ん。そこに置いといてくれ。」
お茶を持ってきた女の顔を見て、男が言った。
男は新聞を置いて、ティーカップに手を伸ばし、美味しそうに飲んだ。
「うまいぞ。アクア。」
「恐れ入ります」
うやうやしく、女が礼をする。
男は、黒い髪に、青い瞳。顔も整っており、なかなかの美形だ。
実は、この男、アルタイル王国第一王位継承者である。
その名も、アザートス・トゥルーズ・サタン・ニグルス・アクサルト・ファウスト・ルーンサス・サクラ・エル・パルス・アルタイルという。
……舌をかまないように。
女の方は、茶色の髪に、瞳を閉じていて分かりにくいが、青い瞳をしている、美人である。
名を、アクア・マリテリィーゼという。
ほんわかとした雰囲気をぶち破ったのは、けたたましいサイレンの音だった。
それと同時に、使用人がドアをノックする。
「入れ。」
「し、失礼します!何ですか!?この音は?」
男…名前が長いのでアザートスと呼ぼう…がいうと共に、使用人が入ってきた。
「あら。そう言えば、貴女はご存知ありませんでしたか。これは、不法侵入者対策のサイレンで…。」
アクアがさらりと言ってのけた。
「ベルも鳴らさずにこの屋敷内に入ると、このようなサイレンが鳴るようになっていますの。」
「は…はぁ。」
「すまんが、何処の不届き者がこの屋敷内に入るなどという行為を行なっているのか、見てきてくれないか?隠しカメラで。」
アザートスがさらっと言うと、使用人は頷いた。
『一体いつの間に…?』という、気持ちを抱きつつも、使用人が部屋を出て行くと、アザ―トスは、再び新聞を広げた。
「お茶が冷めてしまいましたわね。新しいのをお持ちします。」
アクアがティーカップを持ち去り、新しいお茶を持ってくるのに、さほど時間はかからなかった。
「どうぞ。」
「ん。悪いな。」
まるで何事も無かったかのように振舞う二人。
いまだに鳴り響いているサイレンを無視しながら…。
再び、ドアがノックされた。
「入れ。」
こちらもさっきとまるで変わらない。
「失礼します。判明しました。」
「まぁ。何処の愚か者がそんな事を…?」
アクアが、『愚か者』あたりにアクセントを加えながら、言うと、使用人は、息を吸い込み、言った。
「ガネット様が…。」
「追い返せ。」
間髪入れずに、アザ―トスが言った。
「……。し、しかし…。」
「それなら心配要りませんわ。ここに辿り着けるかどうか…。」
「それが…。二階までのトラップは、全てクリアしています…。全部、はまってますけど…。」
アクアが、少し困った表情をして、アザ―トスを見ると、アザートスは、露骨に嫌そうな顔をして、
「腕を上げたか…。爺さん。」
と言った。
「仕方が無い。楽しんでもらおう。アクア。」
アザ―トスが指を鳴らすと、アクアが部屋から出て行った。
「あ、あの…?アクア様は一体何を…?」
「トラップを止めてもらう。何なら見とくがいい。楽しいぞ?」
本当に楽しそうに笑うアザートスは、まるで、新しいオモチャを貰った子供のようだ。
…。否。本当に、新しいおもちゃが手に入ったのだろう。
「は、はぁ…。」
使用人がそう頷いてからしばらくして、アクアが帰ってきた。
「ご苦労。」
「いえ…。ついでに…捕獲してきた方がよろしかったでしょうか?」
何て事をいうんだ…。この人は…。
と、言おうとした使用人の頭の後ろから、何かが引きずってくる音が聞こえた。
そして…。
「ア〜ザ〜ト〜ス〜…!」
何やら薄汚れている者が、部屋に入ってきた。
それは、まぎれも無く、ガネットであった。
ガネットがこの屋敷に入ってから、既に二時間がたっている。
「これはこれは。爺さん。どうしたんだ?そんなに汚れて…?」
「お・前・の・せいだっ!」
叫びながら詰め寄るガネットに対し、満面の笑顔で答える、アザートスとアクア。オロオロしている使用人がいた。
「この屋敷は一体なんだ!?落とし穴はある、天井が下がってくる、槍が飛んでくる…!!」
と、指を折って数えるガネットに向かい、
「スリルがあっただろう?」
「不法侵入者対策です。」
爽やか笑顔で流そうとする二人がいた。
「お前という奴は…!」
「喜んでもらえなかったのか…?」
「あ。アザートス…!?」
明らかに、先程とは違う表情で訴える、アザ―トスを見て、ガネットは動揺する。
そうだ。これは孫の些細な(?)スキンシップなのだ。それなのに、自分ときたら…!孫の気持ちも分かってやらなくて…!
やはり、ガネットも国王である前に、一人の爺さんなのだ。当然、孫は可愛い。
…たとえ、国に帰ってきた理由が『金が無くなったから』という、ふざけるにも程がある孫でも…。
「ま、まぁ。楽しいと言えば…楽しかったかな…?」
「本当か?なら…。」
と言いながら、アクアに目で合図をする。
アクアが、紐(何処から出てきたのかは置いておいて…。)を引くと、ガネットは消えた。
よく見ると、ガネットが居た辺りに、落とし穴がある。しかも…。結構深い。この部屋は四階だから、どうやら一階まで続いているらしい。
「心置きなく、ゆっくりと楽しんでくれ。」
ニッコリと、使用人に微笑んで、
「面白いだろう?」
と、言った。
「え、えぇ……。」
                       【1-2へ続く】

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16445エンドレス1-2お日SAN E-mail 2004/6/9 23:05:47
記事番号16440へのコメント


  エンドレス1-2

その後、ガネットが這い上がってくるのに、さらに一時間かかった。
「諦めの悪い爺さんだ。」
「うるさいわ!」
使用人が、人数分のお茶を持ってきて、テーブルに置く。
「何の用だ?爺さん。」
「決まっている。アザートス。いい加減に王位を継承せい!」
「断わる。」
きっぱりと、アザートスが言った。
「新聞と煙草が吸えない所なんか、俺は嫌だ。」
「…。まぁ、ワシもお前さんが継ぎたくない本当の理由は分かっておるが…。」
その瞬間、アザ―トスが、ガネットを睨んだ。
その視線を受けて、ガネットは話題を代える。
「いや…。とにかく、お前が継がねば、お前の死んだ父さんも悲しむ事に…。」
「勝手に親父を殺すな。」
その言葉に、ガネットは反応する。
「…。お前、死んだと言わんかったか…?」
「…。まぁ、細かい事は置いといて…。」
「細かくないわっ!」
その叫びも空しく、アザートスは話を進める。
「そう怒るな、爺さん。」
「〜!とにかく、お前には、王位を継いでもらう!」
「そうだな…。とりあえず、今の王室で、煙草と新聞が読めるのなら、考えてもいいぞ。」
すごい事を大胆に言う男だ。
だが、これを認めなければ、自分の代で終わる事になる。それは避けなければ…。
「…。お前のやりたい様にやれば良い。王位を継げば、この国はお前の者だ。私は、国の外れで隠居生活を送るよ。」
と、消え入りそうな声で言った。
「国外れまで行かなくても、ここがあるじゃないか。」
「へ?」
ガネットは思わず我が耳を疑った。
「すまんが、そうなればこの爺さんを世話してやってくれるか?」
と、アザートスが使用人に言った。
「は、ハイ!お任せください!」
と、いう使用人の言葉を聞いて、満足そうなアザートス。
「な?悪くないだろう?」
「アザートス…。お前…。」
ギリギリで涙をこらえたガネットは、空に向かい、
「儀式じゃ!儀式をするぞー!!」
と叫んだ。


アザートスの王位継承の儀式から三日後。
国では、一つのイベントが始まっていた。
そのイベントとは、軍隊の入れ替えである。
アルタイル王国では、王位が変わるごとに軍隊が入れ替わるのだ。
もちろん、前の軍隊の人々が参加してはいけないという規則は無いから、大抵はあまり変わらない。
会場に、アザートスとアクアが入ってきた。
「つまらんな…。」
あからさまに不機嫌そうなアザートスは、席に着き、新聞を広げる。
それからしばらくすると、司会者の声が聞こえてきた。
「決まったぁ!勝者、アベンチュリン!」
黒髪に、茶色の瞳の青年が、フィールドで剣を収めた。
アザートスの方を少し見て、意味ありげに笑った。
「すごいです!前騎士団団長を、いとも簡単に倒してしまいました!」
「痛た…。」
前団長が、起き上がろうとすると、上から手が出てきた。
「…?」
「すまない。大丈夫ですか?本気でやらないと、こっちが危なかったもので…。」
と、アベンチュリンが言った。
「…。負けたよ。」
と、言って、起き上がる。
その瞬間に、また司会者が叫んだ。
「こちらもすごいです!カーネリアン!こちらも、前特攻隊長を、一撃で倒してしまいました!」
司会者の声を聞かずに、男が、前隊長に歩み寄った。
「悪いなぁ!立てるか?」
金髪に、赤い瞳。190センチぐらいであろうか。
「今回の入れ替えは、どうなってしまうんでしょうかっ!?」
と、はやし立てる、司会者の声に気付いたアザートスは、やっと新聞をたたんで、会場を見た。
「何の騒ぎだ?」
本当に何も聞いていなかったアザートスに、アクアが事情を説明した。
「ナルホド。それは楽しそうだ…。」
アザートスの言葉を遮るかのように、司会者が声を上げた。
「おおっと!これは珍しい!親衛隊副官のハウライト様と、策士の、トパーズ様が、姿を現しました!」
司会者の声に、その場に居た全員が振り返った。
一人は、珍しい銀の髪に、青い瞳。こちらがハウライトだ。
もう一人は、金髪碧眼。ちょっと幼い雰囲気が残っている男。こちらがトパーズだ。
「うわ〜。見られてるよ。」
「弱ったな…。メインは俺らじゃないだろうに…。」
二人は口々にそう言うと、観客席のほうに移動した。
その、移動する、ほんの一瞬。
ハウライトとトパーズが、アベンチュリンとカーネリアンを見た。
そして…四人は意味ありげに笑った。
「変わってないな…。あの二人は。」
「そうだね。よく目立つや。」
と、いう会話をしながら、席に着く二人。
それからさらに時は流れ、遂に入れ替えのイベントが終わった。
「御苦労なことだ。なぁ。アクア?」
「仕方ありませんわ。さぁ、短くても良いですから、挨拶を…。」
アクアが促すと、アザートスは、めんどくさそうに立ち上がり、(本当に短いが)挨拶をした。
「これからは、お前達が軍の顔だ。くれぐれも、アルタイルの名を汚さぬようにな。」
それだけ言うと、また新聞(今度は違う新聞)を広げた。
しかし、軍の人間にとっては、それだけで充分だった。


アザートスとアクアが部屋を出ようとした時、警備の声が聞こえた。
「いや…。やはり、いくらあなた方でも…。」
「お堅い事言うなって!いいじゃねぇか。」
その声の主は、先程のイベントで、見事騎士団特攻隊の隊長の座を得た、カーネリアンだった。
「一つ言ってもよいか?」
この声は、カーネリアンの物ではない。
こちらは、やはり先程のイベントで、騎士団の団長の座を手に入れた、アベンチュリンの物だった。
「な、何か…?」
これには、警備の者もさすがにうろたえた。
言っちゃ悪いが、アベンチュリンの眼つきには、恐ろしい物がある。つまり、良いとは言えないのだ。
そんな男が、自分を睨んでいるのだから、怖いというものである。
「俺達が用があるのは、貴方ではなく、国王陛下なのだ。挨拶をしたい。通してくれないか…?」
言い方こそ軟らかいが、その茶色の瞳は、間違いなくこう物語っていた。
『お前には用はない。とっとと失せろ』
と。これに気付かないほど、警備の者も馬鹿ではない。
恐る恐る、アザートスに声をかける。
「あ、あの…国王陛下。その…。」
「聞こえている。」
「で、では…。どうしますか?」
少しの沈黙の後に、
「入ってもらってはどうですか?」
と、言うアクアの声に答えて、
「入らせろ。」
と、言った。
そこで、二人は部屋に入る事を許された。
「何の用だ?」
国王からの第一声が、それである。
二人は、少し顔を見合わせて、どちらともなく膝をついた。
「いえ。挨拶に来ただけであります。我は、アベンチュリン・エメル。本日より、騎士団の団長を勤めさせていただきます。」
「あぁ。お前が…。確か、前団長を簡単に倒したという…。」
「簡単ではなかったですが…。まぁ。その者です。」
「それにお前は…。」
と言いながら、カーネリアンを見る。
「は。本日より、騎士団特攻隊の隊長を勤る事になりました。カーネリアン・ハタリスタです。」
アザ―トスが何かを言いかけたところで、部屋の扉が開いた。
見てみると、そこには、ハウライトと、トパーズがいた。
「今日は次から次へと…。何の用だ?」
と、言うアザ―トスは、心底めんどくさそうだ。
「ノックもせずに、失礼します。私達も、挨拶に…。」
「実際に会うのは、僕達も、これが初めてですし…。」
と言うと、二人も膝をつく。
「親衛隊副官。ハウライト・ゼノン。」
「策士、トパーズ・サファルド。」
『以後御見知りおきを…。』
最後の部分は、二人がはもった。
「あらあら。勢ぞろいですわね。私は、秘書の、アクア・マリテリィーゼです。」
「俺の挨拶は省くぞ。ここの所、同じ挨拶ばかりを言っているからな…。」
と言って、ここ数日の事を思い出した。


その挨拶の現場を、天井裏で見つめている、一人の男がいた。
黒髪を、上の方で束ね、黒い忍び装束に身を包んでいる。その黒い瞳は、小さな穴から挨拶の現場をのぞいている。
「…。何だかマイペースな奴らだなぁ。王の部屋に、ノックせずに入るか普通…?」
この男。実はこの国の人間ではない。
彼は、東の国(名前は知らない。ホントに。)からのスパイである。
名を、オニキス・クォーツという。
一言一句、決して聞き逃すまいとしているこの男。後で報告書を書かねばならないので、メモする紙を、懐から取り出す。
全員の名前を書き終わると、再び視線を戻す。


「それにしても、変わってないなぁ。お前ら。」
ハウライトが言った。もちろん、アベンチュリンとカーネリアンに対してだ。
「うるせぇ。お前だって、何にも変わってないじゃねーか。」
「アベンチュリンはちゃんと標準語使うようになったんだね?」
「まぁ…。あの言葉は、分かりやすいからな…。」
と、仲良く話す四人を見て、ニコニコと笑うアクア。
「まさか、本当に来るとは思いませんでしたわ…。皆様。これから我が主を、宜しくお願いいたしますわ。」
アクアがそう言うと、四人は胸を張って、『任せろ』と言った。
そんな中、アザートスは…。
「お前ら、知り合いか?」
と、すっとぼけた事を言った。
その一言で、四人はこけたし、アザ―トスは相変わらず不思議そうな顔をしている。アクアは…。ニコニコと笑っていた。
「まぁ。アザートス様。お忘れになりましたの?」
「俺も会っているのか?こいつらに」
「えぇ。では、昔話でもしましょうか…。」
と、表情を崩さずに、アクアが言った。
そして、四人は悟ったという。
『一番変わってないのはこの女だ』と…。
天井裏でメモをしているオニキスは、新しい紙が必要になりそうだ、と思ったが、手を休めることなく、耳を傾けた。
                        【1-3へ続く】

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16451エンドレス1-3お日SAN E-mail 2004/6/10 22:10:21
記事番号16445へのコメント


  エンドレス1-3


それは、今から二年前の話。
アザ―トスが、アクアを連れて、アルタイル王国に帰ってきてから、数日が過ぎたときだった。
「いい天気だな。アクア」
「そうですわねぇ。」
と、相変わらずのほほ〜んとしていたときだった。
「こんな日は、散歩でもするか。」
「それはいいですわね。」
と、いう事で街に出た。



街の中心に、大きな教会があった。
その教会では、年に一度、ブドウ酒を街の人、旅人を問わず、この街にいる皆に振舞われていた。
このブドウ酒は、とても評判が良く、全国各地から人が集まってくる、アルタイル王国の伝統的なイベントであった。
そのイベントが、まさかあんな事になると、誰が予測しただろうか。



街の外れに、一人の男が現れた。
この男が、アベンチュリンである。
「…。何や。騒がしい街やなぁ。」
男の口から、東の国出身者特有の、訛りのある言葉が出てきた。
「まぁええわ。ちょっと休ませてもらおうか。」
そう言いながら街の中に入っていった。
街に入ったとたんに、アベンチュリンは自分の胃の辺りを押さえた。
(…。やっぱ、直らへんなぁ。この体質は…。どうにかならへんかなぁ。)
彼は、胃の痛みに耐えながら街を歩く。
「こんにちは!只今ブドウ酒を配ってるんですけど…。いかがですか?」
突然、目の前にシスターが現れてアベンチュリンに微笑みかけた。
「ぶ、ブドウ酒…?」
アベンチュリンは、酷くなる胃の痛みと戦いながら、シスターに問いかける。
「ええ!今日は年に一度のイベントの日ですから!」
「……。貰おうか。」
と、消え入りそうな声で答えた。
「はい!どうぞ!」
と、言いながら、アベンチュリンの手に、グラスを握らせた。
アベンチュリンは、その場で飲み干した。
酒には強いほうだ。このぐらいでは酔わない。
それに、胃の痛みが限界にきていたので、この場から一刻も早く逃げ出したかった。
飲み干したグラスをシスターに返す。
「いかがでしたか?」
「うまいなぁ。せやけど、教会で酒なんて飲んでええの?」
「ええ。うちの教会は、そういう規則は無いんです!」
「へぇ…。ほな、な。ありがと。」
と言い、逃げるようにその場をあとにした。



それから、易い下宿所を探して、何とか胃の痛みを鎮めることができた。
「かなわんなぁ…。ホンマ…。」
と、独り言を言いながら、ベッドに横になる。
「はぁ…。それにしても、ホンマ珍しい街やな。ちょっと平和ボケしとるゆーか…。」
横になっていると、何だか眠たくなってきた。
目を閉じて、少しだけ眠りについた…。



「火事だー!!教会が燃えてる!全員広場に集まれ!火を消すぞー!」
アベンチュリンの眠りは、その叫び声により、覚める事になった。
「何や…?火事!?」
教会が火事だと言った。
彼は、荷物をまとめて部屋の窓(二階)から、飛び降りた。
そして彼は一人、街道を走り出す。
教会の道なら覚えている。自分の足なら、他の人より、早く着く。
彼は、広場と思われるところに出た。
そこには自分以外にも、割とたくさんの人がいて、思うように進まない。
炎が大きくうねりを上げ、教会を火の海とする。
その時、アベンチュリンの胃が、激しく痛んだ。
中に、女がいる…!
耳を良く澄ましてみると、女の声は、一つではなさそうだ。子供の声もする。
「やばいなぁ…!」
アベンチュリンは、何とかバケツリレーをしている人の間にもぐりこむ。
彼に向かい、バケツが渡されたが、炎の勢いを見る限り、それは全く無駄だった。
アベンチュリンは、バケツを奪い取るようにすると、教会にではなく、自分にかけた。
こうなれば、自分が行くしかあるまい…!
そう思い、辺りを見渡した。
すると、すぐ隣に、同じような格好をした男がいた。
水に濡れた金の髪を、手で後ろにやると、向こうモアベンチュリンに気付いた。
「お前も行くのか?」
これが、カーネリアンであった。
「………。」
アベンチュリンは、男を無視して、炎の中に身を躍らせた。
「な…!待ちやがれ!!」
後ろから男…カーネリアンが叫んでいるような気がしたが、気にしない事にした。
「テメェ!シカトか!こら!?」
「やかましぃな。黙れや少しは。」
「んだとこのガキ!?」
教会の中は、荒れ狂う炎の海だった。
「ちっ!行けねぇじゃ…!」
「退けや!」
カーネリアンの叫びを無視して、アベンチュリンは剣を取り出し、炎に向かい一振りした。
すると、炎が数秒小さくなる。
しかし、男二人が先に進むのには、その数秒で充分だった。
「やるじゃねぇか!剣の風圧で炎を静めるなんざ、だれにでも出来るもんじゃねぇぜ!」
「誉めても何もでぇへん。お前、炎の消し方も考えへんで、何でここに来たんや?」
二人は火に包まれた柱などを飛び越えながら話していた。
「俺?俺の理由は簡単だ。シスター様が、俺を呼んでるんだよ!」
「…お前、アホやろ?」
きっぱりはっきりと言った、アベンチュリンに対し、カーネリアンは、当然怒る。
「おま…!」
と、言いかけて、二人の足が止まった。
階段がある。どちらに行けばよいのか…!
「参ったな…。上にも居やがるし、下にも居るぜ!」
「…何でわかんねん?」
この男。何の迷いもなくこう言ったのだ。
まるで自分が見てきたかのように…。
「ん?俺様には、色々友達が居るからよ。」
「…。今はそれ所や無いな。俺は上行く。お前下行けや!」
「わかった!」
そう言い残し、アベンチュリンは階段を一気に駆け上がる。
上の方は、少し炎の勢いが小さかった。まぁ、時間の問題だが…。早くした方が良さそうだ。
「何処におる…!返事せぇ!!」
と、アベンチュリンが叫ぶと、奥の部屋から声が聞こえた。
『助けて』と……。
「そこから動くなよっ!」
一声吼えると、アベンチュリンは声の方を目指した。
「ここか。」
一つの部屋に行き着き、扉を蹴破る。
中には四人の子供達が、泣きじゃくりながら、アベンチュリンを見ていた。
「こんなにおるなんて、聞いてへんで…!」
一人か二人なら、抱きかかえてここから連れ出す事も可能なのだが、子供とはいえ、数が多い。抱きかかえてここから出るには、無理がある。
「お…にいちゃん…誰?」
子供の一人がそう言った。
「説明しとる暇ないんや。これで全員やな?」
「う、うん……。」
「この階には、もう誰も居ないよ…。」
「そうか…。」
と言いながら、窓から外を見る。そんなに高くなさそうだ。自分にしたら、だが……。
「おい。この中に、高いとこ怖い奴、おるか?」
「え…?それは…。大丈夫だよ。皆、木登りとか大好きだし…。」
その言葉を聞くと、アベンチュリンは下に向かって叫んだ。
「お前ら!誰でもええ!!毛布かなんか持って来い!今から、子供投げる!しっかり受け止めろや!?」
「ええ!?」
これには子供たちも驚いた。木登りの高さとは、わけが違う。
外では何人かが、毛布を持ってきて、広げた。
それを確認して、アベンチュリンは子供たちを説得する。
「大丈夫や。木登りよりちょっと高い所なだけや。安心せぇ。絶対、大丈夫や。」
「う…、うん。」
恐々頷くと、アベンチュリンは、子供たちの頭をなでた。
「よう言うた。ほな、行くで!」
そう言うと、一人の子供を窓から投げた。
子供は毛布の中に入り、大丈夫、と他の子供達に言った。
二人、三人、遂に、最後の子供も綺麗に毛布の中に入った。
「これで終わりやな…!」
アベンチュリンは、階段まで行くと、一気に駆け下りる。
下に着くと、声が聞こえた。
「お前!生きてやがったか!!」
あの男…カーネリアンの声だ。
「人を勝手に殺すな。それより、どないや?」
「あぁ。何とか全員、外に出した。だけど…。もう一人いるらしいんだ。」
カーネリアンは、奥を指差した。
「あそこの奥に…。」
「マジか…。」
二人は、何も言わず、奥へと向かう。
やがて、一つの部屋に辿り着いた。先程と同じ様に、ドアを蹴破る。
中に、女が一人、隅の方で震えていた。
アベンチュリンの胃が、悲鳴を上げた。
「どうした?」
「なんでもない…。それよりここからどどないして出るんや!?」
「レディ。何処か知りませんか?」
「い、いえ…。」
後ろには、炎が渦を巻いている。出る事は不可能だ。
「くそっ!」
と、カーネリアンが吐き捨てたとき、床が開いた。
「!?」
「こっち!早く!!」
さらに驚いた事に、中から少年が出てきた。
金髪碧眼の少年が…。
この少年が、トパーズである。
「何だかよくわからねぇが…。行くしかねぇな!」
「そうみたいやな。」
先にシスターが入り、次にアベンチュリンが、最後にカーネリアンが入ると、少年…トパーズが床板をはめる。それと同時に、教会の柱が壊れた。
中は薄暗かったが、狭くは無かった。
「ところで、ここは何処なんだ?」
「ここは、ワインを寝かしてる所だよ。この教会自慢の、ブドウ酒のね。」
カーネリアンの問いかけに、トパーズが答えた。
「これで人は全員?」
「あぁ。上のガキも、全員外に出した。ここなら、しばらく大丈夫やろ。」
「酸欠にならなければ、ね。」



その頃地上では、必死の消火活動が行なわれていた。が、まるで話にならない。
人々が諦めたときだった。
「水よ…。天の空を駆け巡り、速やかにこの地上へと現れたまえ!!」
一人の男の、低い声で呪文を唱えると、教会めがけて、バケツをひっくり返したように、水が現れた。
「…。ま、初めてにしたら、こんなもんか。」
民家の上から、銀の髪をかきあげて男が言った。
この男が、ハウライトである。
男が地上に降りると、人々が道を開ける。
「闇よ…。地の底から這い上がり、無に返せ!」
男…ハウライトがそう叫ぶと、瓦礫の山は一瞬で消え去った。
ただ一つ…。地下室への入り口を残して…。
「…うらぁ!」
一声男の吼える声がした。
すると入り口の扉が壊れて、上に飛んだ。
中から男が三人と、シスターが一人出てきた。
「はー。酸素があるってのは、嬉しいねぇ。」
「そうだねぇ…。」
シスターが、他の仲間たちの所に帰ったのを確認すると、アベンチュリンが言った。
「それにしても…。何でここが火事なんかになったんや?」
「放火じゃねぇの?」
「当たりだ。御三方。」
ハウライトが言った。三人に歩み寄りながら。
「……。」
アベンチュリンが、人ごみの中に入った。
「お、オイ…?」
ハウライトを無視して、一人の男の手を取った。
「お前やな?」
と、男を睨みつけた。
「な、何を言うんだ!君は…!」
「とぼけても無駄や!火薬の匂いぷんぷんするわ。」
男が何かを言う前に、トパーズが、その男の近くに居た男の手を取った。
「貴方も、ですね。同じ火薬の匂いがします。」
二人の男が、アベンチュリンと、トパーズにより、広場の中央に引きずり出された。
「く、くそっ!」
「言いがかりだ!」
「何とでもほざけや。えぇ?」
アベンチュリンの方が、口の方では一枚上だった。
「それから…。貴女もですね?」
と、ハウライトが、(いつの間に回ったのか)後ろの方の女に声をかけた。
ハウライトにより、女も広場の中央に引きずり出され、女は泣き崩れた。
「これで全員…。かな?」
「いや…。ちょっと待ちな。」
今まで黙っていたカーネリアンが口を開いた。
「お前もだ。」
と言って、一人の男を連れ出した。
「俺のお友達にかかれば、すぐに分かるぜ。」
ニッと笑ってカーネリアンが言った。
「くそっ!」
その一言で、男達が、全員、ナイフや剣を取り出した。
そして、四人めがけて襲い掛かる!
「下手な剣や…。剣を交える気にもならん。」
そう言って、アベンチュリンが、一人の剣を受けて、弾き飛ばす。その後、手刀で後頭部を殴る。
「同感だ。俺は剣は使わないけど…。」
ハウライトは、女の後頭部を打つと共に言った。
「出直してきなっ!」
そう言って、男のみぞおちに拳を入れるカーネリアン。
トパーズの後ろから、男が襲う!
「殺気バレバレ。やる気あるの?」
と、明らかに口調が違う。男に右ストレートをくらわし、決着は着き、歓声が上がった。
                     【1-3へ続く】

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16454エンドレス1-4お日SAN E-mail 2004/6/11 22:30:09
記事番号16451へのコメント


  エンドレス1-4

さて、教会の放火犯を捕まえる事が出来た四人は、礼金を貰う為に、王宮に行った。
「うわ〜。すごいなぁ。」
王宮に着くと、トパーズが言った。
「ああ。これはすごい…。」
ハウライトも続けて言った。
確かに、一般庶民から見れば、そう見えるものだ。これでも、一つの国の王が居る所なのだから、当たり前と言えば当たり前だが…。
「それにしてもよぉ。何だって俺達はこんな所にいるんだ?」
「王が直々に会いたいんだとさ。」
カーネリアンの問いかけにハウライトが答えた。
「えぇ!?王様に会えるの!?」
トパーズがやや興奮気味に言った。
「そ。俺達にお礼が言いたいんだってさ。」
「お礼?」
アベンチュリンが不機嫌そうに言った。
「すごーい!王様に会えるんだ!」
「そいつは、御苦労な事だな。」
はしゃいでいるトパーズと、少し呆れ顔のカーネリアン。そして、仏頂面のアベンチュリンと楽しそうなハウライトが、王室に入る事になった。



「よく来てくれた。」
そう言って四人を迎えたのは、アルタイル王国国王、ガネットである。
「そなた達の働き、実に見事であった。アルタイルの住人共々、心から御礼を言いたい。ありがとう。」
「いやぁ。たいした事はしてませんよ。俺達。」
「いやいや。そんな事は無い。そなた達のおかげで、何人の命が救われたか…。本当にありがとう。」
ニッコリと微笑むガネットは、部下の者に目で合図をした。
すると、一人の男が四つの袋を持って来て、それを四人の手に握らせた。
「少ないが、お礼の心じゃ。受け取ってもらいたい。」
アベンチュリンが、手にずっしりと重みのある袋の中身を見てみると、金貨が二十枚ほど入っていた。
「こ、こんなにいいんですか?」
思わずカーネリアンが口を開く。確かに多い。
「よい。貰ってくれ。」
「国王。少しよろしいですか?」
一人の部下の者が、ガネットに歩み寄り、耳元で何やら囁いた。
「…。あいつは来ないと?」
「その様です。」
「無理矢理にでも連れて来れなかったのか?せっかくこうして来てくれているというのに…。」
「そ、それが…。屋敷に入ろうとしたところ、いきなり玄関から、炎の矢が飛んできて、逃げようとしたら、床が抜けたらしいです。」
そう言うと、王に一礼して、部屋を出て行った。
ガネットは、長く重い溜息をついた。
「いや…。すまんな。我が孫に会わせたかったのだが…。来ないらしい。本当に、申し訳ない。」
「孫…。ですか?」
トパーズが不思議そうに聞いた。
「ワシの後継ぎなのだが…。ちょっとな。いや。呼び止めて悪かった。本当に、申し訳ない。」
「いえ。では、これで失礼します。」
ハウライトが言うと、四人はそろって王室をあとにした。



「後継ぎって事は、王子様だよねぇ。」
街の外れの公園に着くと、トパーズが言った。
「聞いた事ないけどなぁ。そんな人がいたなんて…。」
「なんだ。お前ここの住人なのか?」
カーネリアンがトパーズに聞いた。
「うん。僕は生まれも育ちもここだもの。」
「へぇ。だからあんな所に地下があることも知ってたのか…。」
「まぁね。びっくりしたよ。炎の中に飛び込んでいく人たちがいるんだもん。」
アベンチュリンとカーネリアンを見ながら言った。
「まぁ。それは驚くわな。俺だって、そんな奴がいるとは思わなかったし。」
「綺麗なシスター様を炎の中に置いておく訳にもいかねぇからな。」
「お前の理由はそれか…。でも、お前は違うだろ?」
苦笑しながらハウライトは先程から何も話していないアベンチュリンに話を振った。
「…。そこのアホと一緒にされたら困るわ。」
「おいコラ!そいつはもしかしなくても、俺の事か!?」
カーネリアンがアベンチュリンに詰め寄った。
「自覚しとるやないか。」
「なっ…!このガ…!」
カーネリアンの言葉は、近づいてくる足音により、掻き消された。
走ってくるのは、黒髪に青い瞳の男だった。
男はアベンチュリン達を見つけ、叫んだ。
「悪い!少しかくまってくれ!」
と言いながら、ちょうどアベンチュリン達の後ろにあった茂みの中に、身を潜めた。
「かくまえって…?」
困惑する四人は、男が来た方向から(おそらくはこの国の騎士団だと思われる)人間が来るのを発見した。
四人は同時に悟ったに違いない。
『これはやばい』と………。
「そこの方々!少しお話を聞いてもらえますか?」
一人の男が、アベンチュリンに話しかけた。
「な、何か…?」
「先程、ここに黒い髪の男が走って来ませんでしたか?」
「あぁ。そいつなら…。向こうの方に走って行ったで。」
先程の男が本来行くべきはずの進路を話した。
「そうですか…。ご協力、ありがとうございます!」
そう言って敬礼すると、男達は去って行った。
物凄いスピードで去っていく男達をしっかり見送って、後に取り残された者たちを代表して、ハウライトが茂みに声をかける。
「あの…。行ったみたいですよ?」
「そうか!いや、全くしぶとい奴等だ。」
そう愚痴をこぼしながら、男が出てきた。
「本当に助かった。礼を言おう。」
「はぁ。あの…。あなたは?」
おずおずと、ハウライトが口にする。
「これは失礼した。俺は…アクサルト。アクサルト・ルーンサス。お前らは?」
そう男…アクサルトと名乗る男が言って、アベンチュリン達は初めて、自分達が互いに自己紹介もしていない事に気が付いた。
「そーいや。まだしてなかったな。誰からいく?」
溜息混じりに、しかし笑いながらハウライトが言うと、トパーズが勢いよく手を上げた。
「はーい!僕!トパーズ。トパーズ・サファルド!」
次に、カーネリアンが小さく手を上げた。
「俺がいくぜ。カーネリアン・ハタリスタ。」
その次に、ハウライトが言った。
「俺は、ハウライト・ゼノン。よろしく。」
ハウライトが言い終わると、四人の視線が一気にアベンチュリンに注がれる。
アベンチュリンは、正直答える気など起きなかったが、皆に言わせておいて、自分だけ言わないというのは気が引けた。
「……。アベンチュリン。アベンチュリン・エメル。」
全員の自己紹介が終わると、アクサルトは、
「では、奴等が戻ってくる前に、俺は逃げるとする。
アクア。」
「はい。」
アクサルトが指を鳴らすと、一人の女がアベンチュリン達の後ろから出てきた。
「!?」
驚きを隠せない三人に対し、女は一礼する。
「初めまして。アクアと申します。」
ただ一人、女…アクアが来る事を分かっていたアベンチュリンは、痛む胃の辺りをさすった。
「我が主がお世話になりました。これはほんのお礼です。受け取ってください。」
と、(何処から取り出したのか)袋を四人に渡した。
「ちょ、ちょっと待って下さい!俺達、そんな…。」
「気持ちですわ。では…。」
そう言うと、何処からどう見ても怪しい二人組みは、人とは思えないスピードで即刻その場を立ち去った。
「何だったんだろうね。あの人たち…。」
トパーズが思わずそう言った。
「…おい、袋の中身見てみろよ!!」
先に袋を開けたと見られるカーネリアンが、驚きの声をあげた。
アベンチュリンも見てみたが、確かに驚くはずだ。
中には、先程貰った礼金の倍はある金貨が入っていたのだから。
                   【1-5へ続く】
***********************************
あ〜っ、アクアさんが出てきているから、たぶん勘の鋭い方には、ばれますね。『アクサルト』さんのフルネーム。
さあ、みんなで考えよう!(←こら)

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16611エンドレス1−5お日SAN 2004/7/29 16:09:23
記事番号16440へのコメント


エンドレス、飽きもせずに続編です。

  
  エンドレス1−5

さて、教会の放火犯を捕まえる事が出来た四人は、礼金を貰う為に、王宮に行った。
「うわ〜。すごいなぁ。」
王宮に着くと、トパーズが言った。
「ああ。これはすごい…。」
ハウライトも続けて言った。
確かに、一般庶民から見れば、そう見えるものだ。これでも、一つの国の王が居る所なのだから、当たり前と言えば当たり前だが…。
「それにしてもよぉ。何だって俺達はこんな所にいるんだ?」
「王が直々に会いたいんだとさ。」
カーネリアンの問いかけにハウライトが答えた。
「えぇ!?王様に会えるの!?」
トパーズがやや興奮気味に言った。
「そ。俺達にお礼が言いたいんだってさ。」
「お礼?」
アベンチュリンが不機嫌そうに言った。
「すごーい!王様に会えるんだ!」
「そいつは、御苦労な事だな。」
はしゃいでいるトパーズと、少し呆れ顔のカーネリアン。そして、仏頂面のアベンチュリンと楽しそうなハウライトが、王室に入る事になった。



「よく来てくれた。」
そう言って四人を迎えたのは、アルタイル王国国王、ガネットである。
「そなた達の働き、実に見事であった。アルタイルの住人共々、心から御礼を言いたい。ありがとう。」
「いやぁ。たいした事はしてませんよ。俺達。」
「いやいや。そんな事は無い。そなた達のおかげで、何人の命が救われたか…。本当にありがとう。」
ニッコリと微笑むガネットは、部下の者に目で合図をした。
すると、一人の男が四つの袋を持って来て、それを四人の手に握らせた。
「少ないが、お礼の心じゃ。受け取ってもらいたい。」
アベンチュリンが、手にずっしりと重みのある袋の中身を見てみると、金貨が二十枚ほど入っていた。
「こ、こんなにいいんですか?」
思わずカーネリアンが口を開く。確かに多い。
「よい。貰ってくれ。」
「国王。少しよろしいですか?」
一人の部下の者が、ガネットに歩み寄り、耳元で何やら囁いた。
「…。あいつは来ないと?」
「その様です。」
「無理矢理にでも連れて来れなかったのか?せっかくこうして来てくれているというのに…。」
「そ、それが…。屋敷に入ろうとしたところ、いきなり玄関から、炎の矢が飛んできて、逃げようとしたら、床が抜けたらしいです。」
そう言うと、王に一礼して、部屋を出て行った。
ガネットは、長く重い溜息をついた。
「いや…。すまんな。我が孫に会わせたかったのだが…。来ないらしい。本当に、申し訳ない。」
「孫…。ですか?」
トパーズが不思議そうに聞いた。
「ワシの後継ぎなのだが…。ちょっとな。いや。呼び止めて悪かった。本当に、申し訳ない。」
「いえ。では、これで失礼します。」
ハウライトが言うと、四人はそろって王室をあとにした。



「後継ぎって事は、王子様だよねぇ。」
街の外れの公園に着くと、トパーズが言った。
「聞いた事ないけどなぁ。そんな人がいたなんて…。」
「なんだ。お前ここの住人なのか?」
カーネリアンがトパーズに聞いた。
「うん。僕は生まれも育ちもここだもの。」
「へぇ。だからあんな所に地下があることも知ってたのか…。」
「まぁね。びっくりしたよ。炎の中に飛び込んでいく人たちがいるんだもん。」
アベンチュリンとカーネリアンを見ながら言った。
「まぁ。それは驚くわな。俺だって、そんな奴がいるとは思わなかったし。」
「綺麗なシスター様を炎の中に置いておく訳にもいかねぇからな。」
「お前の理由はそれか…。でも、お前は違うだろ?」
苦笑しながらハウライトは先程から何も話していないアベンチュリンに話を振った。
「…。そこのアホと一緒にされたら困るわ。」
「おいコラ!そいつはもしかしなくても、俺の事か!?」
カーネリアンがアベンチュリンに詰め寄った。
「自覚しとるやないか。」
「なっ…!このガ…!」
カーネリアンの言葉は、近づいてくる足音により、掻き消された。
走ってくるのは、黒髪に青い瞳の男だった。
男はアベンチュリン達を見つけ、叫んだ。
「悪い!少しかくまってくれ!」
と言いながら、ちょうどアベンチュリン達の後ろにあった茂みの中に、身を潜めた。
「かくまえって…?」
困惑する四人は、男が来た方向から(おそらくはこの国の騎士団だと思われる)人間が来るのを発見した。
四人は同時に悟ったに違いない。
『これはやばい』と………。
「そこの方々!少しお話を聞いてもらえますか?」
一人の男が、アベンチュリンに話しかけた。
「な、何か…?」
「先程、ここに黒い髪の男が走って来ませんでしたか?」
「あぁ。そいつなら…。向こうの方に走って行ったで。」
先程の男が本来行くべきはずの進路を話した。
「そうですか…。ご協力、ありがとうございます!」
そう言って敬礼すると、男達は去って行った。
物凄いスピードで去っていく男達をしっかり見送って、後に取り残された者たちを代表して、ハウライトが茂みに声をかける。
「あの…。行ったみたいですよ?」
「そうか!いや、全くしぶとい奴等だ。」
そう愚痴をこぼしながら、男が出てきた。
「本当に助かった。礼を言おう。」
「はぁ。あの…。あなたは?」
おずおずと、ハウライトが口にする。
「これは失礼した。俺は…アクサルト。アクサルト・ルーンサス。お前らは?」
そう男…アクサルトと名乗る男が言って、アベンチュリン達は初めて、自分達が互いに自己紹介もしていない事に気が付いた。
「そーいや。まだしてなかったな。誰からいく?」
溜息混じりに、しかし笑いながらハウライトが言うと、トパーズが勢いよく手を上げた。
「はーい!僕!トパーズ。トパーズ・サファルド!」
次に、カーネリアンが小さく手を上げた。
「俺がいくぜ。カーネリアン・ハタリスタ。」
その次に、ハウライトが言った。
「俺は、ハウライト・ゼノン。よろしく。」
ハウライトが言い終わると、四人の視線が一気にアベンチュリンに注がれる。
アベンチュリンは、正直答える気など起きなかったが、皆に言わせておいて、自分だけ言わないというのは気が引けた。
「……。アベンチュリン。アベンチュリン・エメル。」
全員の自己紹介が終わると、アクサルトは、
「では、奴等が戻ってくる前に、俺は逃げるとする。
アクア。」
「はい。」
アクサルトが指を鳴らすと、一人の女がアベンチュリン達の後ろから出てきた。
「!?」
驚きを隠せない三人に対し、女は一礼する。
「初めまして。アクアと申します。」
ただ一人、女…アクアが来る事を分かっていたアベンチュリンは、痛む胃の辺りをさすった。
「我が主がお世話になりました。これはほんのお礼です。受け取ってください。」
と、(何処から取り出したのか)袋を四人に渡した。
「ちょ、ちょっと待って下さい!俺達、そんな…。」
「気持ちですわ。では…。」
そう言うと、何処からどう見ても怪しい二人組みは、人とは思えないスピードで即刻その場を立ち去った。
「何だったんだろうね。あの人たち…。」
トパーズが思わずそう言った。
「…おい、袋の中身見てみろよ!!」
先に袋を開けたと見られるカーネリアンが、驚きの声をあげた。
アベンチュリンも見てみたが、確かに驚くはずだ。
中には、先程貰った礼金の倍はある金貨が入っていたのだから。



その後、宿に戻ったアベンチュリンは、再びベッドに横になり、今後の身のフリを考えていた。
何故か分からないが、金ならある。何処にでも行くことはできるが、特に行きたい所も無かった。
ただ一つ…。自分の生まれ故郷以外は。
その時だった。
「よぉ!アベンチュリン!!入るぜぇ!」
何の前置きも無く、部屋の扉が開いた。
その声の主は、カーネリアンの物であったが、後ろにはハウライトとトパーズの姿もあった。
アベンチュリンは、扉が開いたと同時に自分の剣を抜き、カーネリアンの首筋に当てたところだった。
「いきなり何さらす…!!」
静かに怒りを放つアベンチュリンに対し、カーネリアンは何も言えないでいた。当然だが。
「アベンチュリン。それじゃ喋れん。」
冷静にハウライトが言った。
アベンチュリンは、仕方なく、剣を鞘に収めた。
「お前は人を殺す気か!?」
「黙れや。」
「アベンチュリン…。それはいくらなんでも…。」
きっぱりと言い放つアベンチュリンに対してトパーズが助け舟を出した。
「知るか。いきなり人の部屋に入る奴が悪いんや。」
またもやきっぱりと言い放つ。
「お前なぁ。」
「何しに来たんや?」
明らかに嫌そうな顔をしてアベンチュリンが言うと、カーネリアンが、
「つれないねぇ。炎の中を一緒に潜り抜けてきた仲だって…。」
「俺たちは。」
今度は本当に斬られかねない、と思ったトパーズがカーネリアンの口を塞ぎ、ハウライトが話を切り出した。
「お前に会いに来たんだって。そんなに殺気立つなよ。」
「俺はお前らに用なんかあらへん。」
「まぁそう言わず。…。何だって、あの炎の中飛び込んで行ったのか、知りたくてさ。」
「はぁ?」
と、間の抜けた声を出したアベンチュリンを見て、もう大丈夫だと思ったトパーズがカーネリアンの口から手を離した。
「そんな事聞くためにわざわざ来たんか?」
「ま。それはついでだけどさ。」
「僕達、それが気になってさ。それなら本人に直接聞こう、って…。」
「暇な奴等やなぁ。」
本気で呆れた顔をして、アベンチュリンは机に剣を置いた。
「なんか理由があるんじゃねぇの?例えば俺みたいに…。」
「カーネリアンみたいに、シスター目当てじゃないんでしょ?」
すかさずトパーズが聞いた。
「当たり前や。何で俺が女の為に命はらなあかんねん。」
「お前、女嫌いだったのか…。」
「よくあんな密室状態で耐えれたね。あの人、割とアベンチュリンに引っ付いてたのに。」
と、冷静に突っ込むハウライトとトパーズ。
確かに、あれは自分自身を誉めてやりたかった。
「それじゃ何であんな事をしたのか、お聞きしたいもんだなぁ。」
カーネリアンがからかい混じりに言った。
「…。別に。目の前で人に死なれんのは、あんま気持ちエエもんや無いからな。理由なんか、いらんやろ?」
「…。面白くねぇ奴。人生楽しまなきゃ、損ばっかするぜ?お兄さん。」
と、言いながら、机の近くにあった椅子を自分の近くに引き寄せて、カーネリアンがぼやく。
「いいんじゃないか?それはそれで。」
「でもさー。アベンチュリンって、結構もてそうなのに、勿体無い。」
先のハウライトの言葉には何にも反応しなかったアベンチュリンだが、トパーズの言葉には異常なまでに反応した。
「?おい。アベンチュリン?どうかしたか?」
ハウライトの言葉に、アベンチュリンは我に帰る。
「な、何でもあらへん…。」
「はー。もしかして、図星なんじゃねぇの?」
カーネリアンは、そう言うと机ごと後ろに倒れた。
見ると、アベンチュリンが、服の腰の辺りに巻いていたベルトのカバンの中から小さなナイフを取り出して、カーネリアンに投げつけていた。
完璧なコントロールであった。カーネリアンの隣にいたトパーズにはかすりもせずに、カーネリアンだけに狙いを定めていた。
「テ…。テメェ!いきなり…!!」
カーネリアンは(本当に)ギリギリの所で避けた。
しかし、カーネリアンよりも、隣にいたトパーズの様子がおかしい。
「トパーズ?大丈夫か?」
その様子に気がついたハウライトが声をかける。
「……。」
「お、おい。」
カーネリアンも、さすがに気づいた。
「いきなり…。」
『!?』
トパーズから発せられた声は、明らかに先程までとは違う。もっと…。低い…。
「いきなり何すんだ!?えぇ!?かすって無いから良かったものの…!」
……言葉使いまで変わっていた。
トパーズ…と思われる人物は、アベンチュリンに向かい、指を突きつける。
「特にお前!いきなり投げんな!びっくりしただろうが!それに壁に穴あいちまっただろうが!?どうすんだよ!?結構高いんだぞ!壁の修理代ってのは!」
何やら途中から話の内容が違うが、あえて伏せておこう。とにかく、わかる事はただ一つ。
この人物は、先程のトパーズではない、という事だ。
「あの…。失礼ですけど。どちらさ…。」
と言いかけたハウライトの言葉を無視して、
「あー。ホンマや。穴あいてもうた…。」
「まずいんじゃねぇ?いくらなんでもよぉ。」
「な?しかも、結構深いぜ?こりゃ、このまま逃げるってのはどうだ?」
順に、アベンチュリン、カーネリアン、そしてトパーズと思われる人物が、ナイフが作った穴を見て、口々に感想を漏らす。
「コラコラ。お前らなぁ。」
と言いながら、ハウライトが、口の中で小さく呪文を唱えた。
「…。癒しの風よ。傷つきし物の為に吹け。」
と言うと、風が現れ、壁を撫でたかと思うと、壁の穴は無くなっていた。
「これでいいだろう?」
満足そうにハウライトが言うと、
「やるねぇ。凄いもんだな。」
「恩にきるわ。」
「初めて見たなぁ。これが…。」
と、先程の順番通りに、また感想を漏らす。
「で?お前は何者だ?」
ハウライトがトパーズに聞いた。
トパーズは、微笑を浮かべながら
「それは、本人に聞いてくれよな。」
そう言って、眼を閉じると、床に倒れこんだ。
「…。あれ?」
トパーズ本人が起きて床から起き上がるのに、長い時間は要らなかった。
「…。出ちゃったみたいだね。」
「何だよ。さっきの奴。」
「あれねぇ。僕の人格の一つなんだよ。」
平然と答えるトパーズに対して、三人はさほど驚いてはいなかった。
「何で驚かないの?」
という問いかけに対して、ハウライトは、
「別に、そんな所かなって思ってたから。」
と、肩をすくめて言った。
「同じく。」
カーネリアンも言った。
「俺は、お前より酷い奴知っとるから…。」
と、アベンチュリンが言うと、トパーズは
「僕より、酷い人…?」
「あぁ。俺の…身内に一人おるねん。そいつで慣れた。せやから、あんま気にせんでも大丈夫やで。」
「…うん。」
と、やや俯きながら答えた。
その時、扉がノックされた。
「失礼します。」
そう言って、部屋に入ってきたのは、少し前、街の外れの公園であった、あの男達であった。
「…。何の用ですか?」
と、アベンチュリンが言うと、男達は軽く敬礼して、
「アベンチュリン様、カーネリアン様、トパーズ様にハウライト様と御見受け致します。」
リーダー格の男は淡々と、何か台本があるかのように読み上げていった。
「そうですけど…?俺たちに何か用ですか?」
ハウライトが言うと、男は咳払いを一つして
「あなた方は今日の夕方、街外れの公園で、男に会いましたね?隠さなくても結構です。」
「…あぁ。そういやそんな事もあったねぇ。」
と、カーネリアンが言うと男達の一人は
「そうですか…。その男実は…。我がアルタイル王国第一王位継承者、アザートス様なのです。」
男の言った内容を四人が飲み込むのに、しばらくの時間を必要とした。そして…
『ウソッ!?』
と、声をそろえて叫んだという。
「…まぁ、驚かれるのも無理はありませんが…。」
と、納得したように頷く男。納得してよいものか…。
「で、でも!あの人『アクサルト』って…!」
と、トパーズが言った。確かに、あの男は自分の事を『アクサルト』と名乗った。間違いない。
「ほ、ホンマや!なんかの間違いちゃうんか!?」
「あの人、そんな事一言も言ってなかったですよ!?」
「ってか、王位継承者がガードもつけずに街歩いて良いのかよ!?」
と、皆口々に意見する。
しかし、この意見は、男達のリーダー格の男の言葉によって、意味をなさなくなった。
「あの人は…そういうのが嫌いな方でして…。御屋敷にも、本人と秘書、それから使用人が一人いるだけですから…。アクサルトというのは、アザートス様の名前の一部です。アザートス様の名前、全部言いましょうか?」
『いえ……。結構です…。』
四人の声が、(長い沈黙の後に)見事に同じ言葉を口にした。
それから、しばらくの沈黙の後にやっと男が口を開いた。
「そ、そこで。あなた方四人、明日もう一度王宮まで御足労願えますか?」
「お、オイオイ。まさか罪になるとかじゃないでしょうね?」
男の言葉に対して、カーネリアンがリーダー格の男に近寄った。気持ちは痛いほどわかる。
何と言っても、相手は第一王位継承者なのだから。
「あ、大丈夫です。それはありません。王がもう一度、あなた方に会いたいとのことです。多分、アザートス様の事を紹介したいのだと思います。では、明日の正午、王宮でお会いしましょう。」
爽やかなスマイルを残し、リーダー格の男は自分の部下を率い、最後に四人に敬礼して、去って行った。
部屋に残された四人は互い互いに顔を見合わせた。
「……。どう思う?」
「多分。危害は加えへん思うけど…。」
ハウライトの問いにアベンチュリンが答えた。
向こうがそう言うのだ、信じるほかない。
それから四人は…、自分達の寝床に帰っていった。
迷ったってしょうがない。成るようにしかならないのだから。
                       【1−6に続く】

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16612エンドレス1-6お日SAN 2004/7/29 16:11:43
記事番号16440へのコメント


    エンドレス1−6

そして、約束の翌日の正午。四人は再び王室へと足を踏み入れた。
「二度も呼び出したりして、申し訳ない。先日いなかった我が孫、アザートス本人が話たがっておるのでな。」
ガネットは相変わらず、ニコニコしながら四人に話しかける。
四人を代表して、ハウライトが曖昧な言葉を返した。
「それにしても…遅い。何をして…。」
「失礼します。アザートス様がお着きになりました。」
という声が、ガネットの言葉をかき消した。
「通せ。」
と、短くガネットが言うと、王室の扉が開いた。
そこから出てきたのは、間違いなく昨日街外れの公園でであった、あの男だった。あの女もいる。
「遅れて申し訳ございません。」
と、ガネットに対して一礼した。
「理由は後でいい。皆さんに挨拶しろ。」
ガネットが言うと、男は、四人に向き直り、
「ようこそ。私はアザートス。アザートス・トゥルーズ・サタン・ニグルス・アクサルト・ファウスト・ルーンサス・サクラ・エル・パルス・アルタイル。覚えていてもらうと、ありがたい。」
「秘書を務めます、アクア・マリテリィーゼです。」
二人は挨拶が終わると、ガネットの両隣に立った。
「さて、話というのはだ。そなた達、私達に仕えぬか?」
と、言ったアザートスの言葉は、誰も想像していない物だった。
「つ、仕えるって…?」
「そうだ。先日の活躍、実に見事であったと聞く、そこでだ。そなた達さえ嫌でなければ、私達に仕えてもらいたい。」
「…。私は、今現在、修行中の身ですが、いずれはこの王宮の親衛隊に入りたいと願っております。」
ハウライトが言った。前から思っていたらしい。
「僕…私も、ここの策士を務めたいと願っておりますが…。」
トパーズも言った。昨日の雑談でわかったことだが、トパーズの父親は、現在この王宮の策士を務めているのだそうだ。
そして、全員の視線は残ったアベンチュリンとカーネリアンに自然と集まる。
「………。私は、その様な大切な事は、とてもではありませんが務まりません。」
カーネリアンが言うと、ガネットが
「難しく考えなくても良い。『仕える』というのは、何も親衛隊や策士のような仕事ばかりではないのだから。」
「そう言われましても…。」
「…。アザートス様に一つ聞いてもよろしいですか?」
今まで口を閉ざしていたアベンチュリンが、口を開いた。
「何ですか?」
アザートスが言うとほぼ同時に、アベンチュリンが言葉を続ける。
「何で私たちなのですか?」
しばらくの間、沈黙があった。
「私はこの国の住人ではありません。昨日ここに来たばかりの者です。そんな者を雇うのは、何か理由がおありですか?できれば、その理由をお聞かせ願いたい。」
アザートスは、横目でガネットを見ると、
「国王と、その他の方々。外してもらえないでしょうか?彼らと話がしたい。」
何か言いたそうなガネットを見て、アクアが一言、
「お願いいたしますわ。」
と、笑顔で言った。
その笑顔に負けて、国王やその他の人々は王室から出て行った。
「ふぅ。やっぱり疲れるもんだ。この口調は。」
「仕方ありませんわ。国王様の前ですもの。」
ガラリと口調が変わるアザートスに対し当然のように振舞うアクア。それを見て、ぽかんとする四人。
「あ、お前らも楽にしていいぞ。疲れるだろ?特にアベンチュリンは。普通に話せばいい。『私』と無理に言う事もない。」
と言われても、どうすればいいものか…。
「さて、お前の問いに答えよう。アベンチュリン。俺がお前達を選んだ理由はただ一つ…。」
アザートスが息を大きく吸い込んだ。
その場の空気に緊張が走る。
「お前達が強いからだ。」
『……。は?』
見事四人の声がそろった。
「考えてもみろ。お前達が強いと、俺が楽ではないか。」
サラリと、大胆な事を言う所はこの時かららしい。
それを聞くと、カーネリアンは笑い出した。
「お、おもしれぇ!その話乗ったぜ!!」
「そうか。それはありがたい。」
「嬉しい限りですわね。」
微笑を返すアザートスとアクア。
そして…アベンチュリンは…。
「…考えといたるわ。」
と、言った。
「よし。来てくれることを祈っている。」
「お願いいたしますわね。アベンチュリン様。」
と、微笑みながら、アクアはアベンチュリンの手を取った。
アベンチュリンは…。固まった。
決して『女の人に触られて嬉しい』とかいうものではない。
例えるのなら、犬アレルギーの人が犬牧場に入れらたような、そんな感じである。
アクアがそれを知っているのかどうかは定かではないが、良しとしよう。
「い、今すぐやないで。俺が…そうやなぁ。アルゴールの大会で優勝したら、ってゆうのはどや?」
アクアから(半ば無理矢理)手を放しながら、アベンチュリンが慌てて言った。
アルゴールの大会というのは、その名の通り、アルゴールという国で年に一度行なわれている、武人の『最強』を決める大会である。
もちろん、武人なら誰もがその場に立ちたいと思う場所の一つでもあるため、危険も多い。最悪の場合死ぬような怪我をする事もある。
そのような危険な大会に挑もうというのだ。
「正気か?」
「当然。」
アザートスとアベンチュリンの間に、短い言葉のやり取りが行なわれた。
そして…。
「わかった。それではこうしよう。…俺が王位を継ぐ時に、軍の入れ替えの大会がある。」
「それに勝てばいいんだな。わかったぜ!」
カーネリアンが言うと、アクアが、
「頑張ってくださいね。」
と、微笑んだ。それに対し、
「もちろんです。貴女のために…。」
と、言いながらアクアの手を握るカーネリアンがいた。
その直後、何か鈍い音がしたが、それには触れないでおこう。
と、まぁ。こういう事であった。



「………。覚えてらっしゃいますか?アザートス様。」
「全然。」
長かった昔話を聞き終えて、アザートスが最初に発した言葉がそれだった。
「…。それは酷いんじゃないですかぁ?」
と、カーネリアンが唸った。
「でもあの火事では、アベンチュリンの剣技と、カーネリアンの『霊と話せる能力』が活躍したんだよな。」
「その後すぐ、アベンチュリンはアルゴールの大会のための修行に行ったんだよね。カーネリアンは、たまに来てたけどさ。」
ハウライトとトパーズがしみじみと言うと、思い出したようにトパーズが、
「そうだ。アベンチュリンがここに居るって事は、優勝したの?」
「何だ。トパーズ、知らねぇのか?」
その問いかけに、当人のアベンチュリンではなく、カーネリアンが答えた。
「先月…だったっけ?大会。」
「俺も聞いたぞ。お前と対戦した奴の末路なら。」
ハウライトも会話に混ざった。
「え?どうなったの!?」
「病院行き。それも重症。」
ハウライトがサラリと言うと、トパーズがアベンチュリンに本当かどうか聞いた。
「ああ。そうだ。」
「しかも、全員十五秒以内に倒したんだって?」
カーネリアンが言うと、それにも短く答えた。
「…あぁ。そういえばそんな奴等もいたなぁ。」
と、ボソっと言うアザートスに対して、アクアは、
「思い出しましたか?それは何よりです。」
と、我が主に向けて、笑顔を送った。
「そういえば、アベンチュリン様。私も一つお聞きしてもよろしいですか?」
「な、何か?」
「あなたの『女性恐怖症』、治りましたか?」
と言って、アベンチュリンに向かっても微笑んだ。
ただし、先程アザートスに向けた物とは全然違う物だが……。
「……。いえ。」
「何だよー。まだ治ってないのか?」
「大変だなぁ。お前も。」
「もう治りそうにないね。」
と、はやしたてる三人に、剣を抜きそうになるアベンチュリン。
「とにかくだ。これから、よろしく頼むぞ。お前達。」
アザートスが最後の締めくくりにそう言うと、全員、声をそろえて、
『仰せのままに。』
と答えた。



その頃、天井裏のオニキスは。
「成る程な。これでいい報告書が書けそうだ。」
と、一人満足そうな声を上げた。
「それにしても、あの黒い長髪の男が、今回のアルゴールの大会の優勝者か。今のところ、注意するのはこいつだけだな。」
これから書く報告書の内容を考えながら、オニキスは笑みを浮かべた。
かくて、物語の幕が開く。

                          第一部終了

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