◆−本編、やっと更新・・・−蛇乃衣 (2004/7/16 21:24:16) No.16575
 ┣『CIV』― Nine years ago 5 ―−蛇乃衣 (2004/7/16 21:30:42) No.16576
 ┣『CIV』― Nine years ago 6 ―−蛇乃衣 (2004/7/16 21:39:11) No.16577
 ┣『CIV』― Nine years ago 7 ―−蛇乃衣 (2004/7/16 21:44:45) No.16578
 ┣『CIV』― Nine years ago 8 ―−蛇乃衣 (2004/7/16 21:50:53) No.16579
 ┣待ってました!−リィ (2004/7/20 23:05:10) No.16588
 ┃┗Re:お待たせしました!−蛇乃衣 (2004/7/24 16:51:01) No.16596
 ┣The Schemer Loves Toys−蛇乃衣 (2004/7/24 16:44:22) No.16595
 ┣『CIV』― Invitatin ―−蛇乃衣 (2004/7/25 12:43:21) No.16597
 ┣『CIV』―裏設定解説その3―−蛇乃衣 (2004/8/8 18:40:58) No.16627
 ┗『CIV』― Invitatin 2―−蛇乃衣 (2004/8/29 22:09:59) NEW No.16782


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16575本編、やっと更新・・・蛇乃衣 2004/7/16 21:24:16


こんにちは。蛇乃です。
本編を、しかも過去編で中途に放り出し状態でしたが、やっと続きを投稿できました。
待ってきて下さった方(いらっしゃいましたら)申し訳ありません。
区切るポイントが難しく、結局、過去編は終わりまで書いてしまいました。
今度からは、時間軸が「今」に戻ります。

って、これを書いたのは、ツリーの形を気にしてのことだったり・・・。

読んで頂けると嬉しいです。

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16576『CIV』― Nine years ago 5 ―蛇乃衣 2004/7/16 21:30:42
記事番号16575へのコメント

―――なにかが聞こえたような気がした。

「……ぅ……うう……」
朦朧とする頭、霞む視界で、意識を取り戻したゼルガディスが最初に知覚出来たのは、頬に触れる床の冷たさだった。
「………ぁ…れ……?」
ホコリとカビの臭いが鼻を付く、人を静かに拒絶している空間。
静かではあるけれど、小綺麗に片付けてある今の家とは懸け離れている。
そう、ここは家じゃない。
「――!!」
けして気温のせいだけではない、氷塊を背に押し付けられたかのようにヒヤリとした感覚が全身を駆け抜け、意識が鮮明になる。
途切れた記憶でも、自分が誘拐されたことは十分に分かった。
(ここはどこだ?)
ゼルガディスは身を起こそうとし、かなわず無様に転がった。
「っ……」
手首と足首が、それぞれロープで縛られてしまっている。
腕が後ろに回されているため、体を支えることさえも難しい。
縄が擦れて、わずかに動かしても痛みがくる。
声がかすれるのは、嗅がされた薬のせいか、それとも精神的な部分が影響しているのか。
ゼルガディスは首を巡らして辺りを観察した。
小さな窓から入り込むわずかな光のおかげで、真っ暗闇というわけではない。
眼は慣れてきたが、この部屋には隅の方に段ボール箱などが置いてあるぐらいだった。
(どうしよう……)
どうにかして逃げ出せないものかと、考えを巡らせる。
この部屋には誰もいないが、危害を加えられなくとも、一晩ここに放置されれば、この寒さだ、凍死もありえなくはない。
無意識に、拳をギュッと握り締めたその時。

―――ガゥン!ガゥン!ガゥン!

銃声が耳を叩いた。
ビクリ、と、身体に震えが走る。
血の気が引いてゆくのが、自分でも分かった。
(今の……)
物音は止み、―――いや。
(――誰か来る!!)
コツ、コツ、コツと、早いペースの足音が近付いてくる。
(殺される―――!?)
どくん、どくんと、自らの内から大音量が響く。
まるで、心臓だけではなく、身体中すべてが脈打っているようだ。
鼓動とはこれほど大きくなるものなんだな、と、頭のどこかが場違いなことを囁く。

コツ、コッ――――

足音が止まる。

――ガチャッ……

動くに動けないまま、ゼルガディスは眼を見開いて、暗い扉が開かれるのを凝視した。
「………ゼルガディス?」
「―――――!!」
耳に馴染んだその声に、ゼルガディスは緊張が切れ、力が抜けきってしまった。
「ゼルガディス!」
レゾが駆け寄り、ゼルガディスを抱き起こした。
「……ぁ……レゾ……」
なぜ彼だけがいるのか、ゼルガディスは考えもしなかったが、とにかく、助かったのだと思えた。
「無理にしゃべることはありません」
言いながら、手足を拘束していた縄を解く。
「っ…!」
傷口にレゾの指が触れ、ゼルガディスはうめきを漏らした。
レゾは一瞬弾かれたように指を引いたが、そっと手、足首を診る。
「――健や筋肉に異常はないようですね…」
そうは言うものの、レゾの声にほっとした響きは少ない。
怪我の具合いがどう、ということが、問題ではないのだ。
己の存在が、ゼルガディスに危険をもたらした。
その事実が、悔しく、腹立たしく、苦しかった。
なかば無意識に、ゆるゆるとレゾは腕を上げた。
彼はゼルガディスを抱き締めようとしたのだ。
が――
(私は…彼に関わるべきではなかったのか……?)
ぴくり、と、動きが止まる。
蘇る、かの声。

――“彼らは『赤法師』を知ってはならないのだよ”――

(知れば、危険が及ぶから、か……?)
中途で止まった腕の不自然さに、レゾは躊躇いがちに、銀の髪に触れた。
ゼルガディスは、髪をすり抜ける指の冷たさに顔を上げた。
「……レ…ゾ……?」
かすれる声で名を呼んだのは、唐突に、彼が泣いているのではと、そんな気がしたからだ。
表情が見えるわけでも、声が震えているわけでもないのだが。

「――ここを離れなくては…」
やや間を置き、自身に向けてか、ぽつりと呟いてレゾが立ち上がった。
「歩けますか?」
ゼルガディスはこくりと頷いた。
しびれてはいるが、歩けないことはない。
「家に…家に行って、傷の手当てをしましょう……」
レゾは、ゼルガディスの肩に腕を回し支える。
二人はその部屋を出た。

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16577『CIV』― Nine years ago 6 ―蛇乃衣 2004/7/16 21:39:11
記事番号16575へのコメント

階段を降り、下の情景を目に入れた時、ゼルガディスは思わず息を詰めた。
暗がりにも容易に想像がついた。
床に転がるそれらの物体が、もとは生きた人間だったことは。
銃声も聞いていた。
流れる空気に混じる異臭にも気付いていた。
まさかとは思ったが…
ゼルガディスは、隣を歩く彼の白い顔を見あげ、尋ねた。
「警察、は……?」
その声がわずかに震えていることに、レゾは気付いたのだろう。
「――通報はしていません…」
前方を見据えたまま、彼は静かに、声音だけは静かに言った。
心なし、肩に置かれた手に力が入った。
ゼルガディスは視線を前に戻す。
やはり、そこにあるものは変わらない。
死体だ。
屍だ。
彼が殺した。

――――自分のせいだ。

ぴたりと、急に歩みを止めてしまった子供に、レゾは戸惑った。
ゼルガディスが自分に対し、恐怖やら軽蔑の念を抱いたのだと思ったのだ。
予想はしていた。
覚悟は―――しきれていなかったようだ。
だが、今はとにかく、この場から離れなくてはならない。
「ゼルガ―――」

――!!?―――

背筋に疾った“冷気”に、レゾがゼルガディスを抱えるように横へ跳んだのと、銃声が空気を震わせたのは僅差だった。
床を二度転がり、その勢いを利用し、すぐに立ち上がるレゾ。
「隠れてなさい!」
唖然としているゼルガディスに言い残し、彼は発砲者に向かって跳んだ。
「逃がすかよ!赤法師!!」
歪んだ笑みを浮かべ、二刀ナイフの男が叫ぶ。
弾は一発だけだったのか、彼はあっさりと拳銃を捨てる。
(防弾チョッキを着ていたか…)
心中で呟いたレゾの手には、すでに一振りの杖が握られていた。

目の前で繰り広げられる光景を、スクリーンに映し出されているフィルムの連続かのように、ゼルガディスは現実感を掴みきれないまま眺めていた。
逃げろという声がする。
だが、逃げるなという声もするのだ。
無意識の内に後退り、指に感じた冷たい感触に我に返った。
「―――!?」
拳銃だ。
ゼルガディスはとっさに、それを拾い上げた。
――ズシリと重い。
小振りのものではあったが、それでも、少年の手には似つかわしくない重みがあった。
ふと顔を上げ、ゼルガディスがそれを見付けたのは偶然だった。
「―――!!」
座り込むゼルガディスと、接近戦を展開しているレゾら二人。
それとちょうど三角形の頂点の一つを成す位置で、一人の男が起き上がったのだ。
一度ゆらりとしたが、その場に膝立ちになる。
その手が懐に伸び、次に取り出されたそれには、なにかが握られていた。
(銃だ…!)
ゼルガディスの心中に応えたかのように、その男は両腕を水平やや上に上げる。
狙いは―――
(レゾ!!)
「…ぇ…!!―――!?」
注意を促す声は、わずかにかすれた音を生み出しただけだった。
(声が…そんな……)
「レ……ぉ!…ぇ…ゾ!!」
目の前の敵に集中しているレゾは、後ろにも、ゼルガディスにも気が付かない。
一方、銃を構える男も、味方を巻き込むのを恐れてか、狙いを定めきれていないようだ。
しかし、

カカァンッ!!

ひときわ高く大きな音を生み、切り結んでいた二人が距離を取った。
大きく後ろへ跳び、着地するレゾ。
動きが、止まった。

(危ない―――!!)

響いたはずの銃声が、ゼルガディスには聞こえなかった。
その男が崩れ落ちる。
それを、視界で捕えながら、認識できなかった。
「ゼル…ガディス……」
己の名が他者に紡がれ、現実に引き戻された。
肩が痛い。
腕も痛い。
どうしてだ?

自分は今、何をした?

「……あ………」
ガタガタと、金属のカタマりにかけた指先から、震えが走る。
「…ぁ…あああ……あ……」
歯の根も合わず、意味を成さない声が漏れる。
見えるのは、己の手と、その先に倒れるヒト。

自分ガ殺シタ―――

「ぅあああああああ!!!」
何に対してなのかは不鮮明だったが、この時彼は、飲み込まれるような恐怖を感じていた。

「っの、クソガキがっ!!」
舌打ち一つ。吠えて、ナイフの男がゼルガディスへと斬りかかる。
「ひっ……!!」
殺気に縫い留められ、ゼルガディスは硬まる。
「ゼルガディス!!」
叫びよりも早く、レゾの体は動いていた。

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16578『CIV』― Nine years ago 7 ―蛇乃衣 2004/7/16 21:44:45
記事番号16575へのコメント


刹那の出来事だった。


薄闇の中、迫り来る刃物の銀光に視線が吸い込まれた。
間近の死が、どこか他人事のようだった。
死にたいわけじゃない。
けれど、死んだら父さんと母さんにもう一度会えるかと、そんなことを思った。

「ゼルガディス!」

抱き締められた。
――既視感?
だって、彼が今まで自分を抱き締めたことなんてなかった。
視界が隠れて、回された腕がきつい。
温かい。
――いやだな。
母さんはこうして動かなくなったんだ。
また……――



ぐしゅりと、鈍く濡れた音がした。
突き出されたナイフは、とっさにかざされた掌をも貫いた。
肉とその先のものが裂ける感触に、男は勝利を掴んだと確信した。
だが、貫かれた左手にぐっと力が入り、勢い良く振り払われる。
「―!?――」
血を滴らせた鋼が、空に舞う。
それが床で跳ね返る音を耳にしながら、男は動かなかった。
動けなかった。
青い、青い一眼に射竦められ。
氷すら切り裂かれてしまうほど鋭く、冷たく、真っ直ぐな眼光。
赤い服の殺し屋が、右に抱える少年の手から銃を取る。
穿たれた左手が上がり、銃口が向けられ、そして――

        ―――ガウン!

なぜ避けられなかったのか、白濁してゆく意識で男は考えた。
答えはでなかった。
ただ、少年を“守った”“暗殺者”が、滑稽で仕方がなく、もはや震えぬ喉で男は笑った。


ゴトリと、レゾの左腕が下がった。
右腕の力は緩まず、動かない。
ゼルガディスはいつの間にか握り締めていた赤いコートを放した。
「レゾ…?」
返事がない。
「っレゾ!?」
「――大丈夫…生きていますよ」
一呼吸後に降ってきた声に、ゼルガディスは安堵の息をつき、顔を上げ、

「―――!!」

驚愕に言葉を失った。
常は白皙のレゾの顔。その左半分が、赤い。
滴る血に、黒の髪がべったりと貼り付いている。
「レゾ…あ、あんた……左眼……潰れ……」
「ああ…大丈夫ですよ。熱くはありますが、痛みはあまりな――」
「大丈夫なわけないだろ!!」
噛みつくように、ゼルガディスは震える声で叫んだ。
「…ゼルガディス?」
「どこが…大丈夫なんだよ!……血が、こんなに…出てるだろ……?」
自分の袖口で頬の血を拭い、濡れた前髪を払う。
「斬られてんだぞ!痛くないはずないだろ…!……くそ…くそっ………なんなんだよっ…血が……止まれよ!止まれってんだっ……!!」
レゾの血で、ゼルガディスの袖も手もぐっしょりと濡れてゆく。
されるがままになりながら、レゾは視覚の利く右の瞳で悪態を付くゼルガディスをしばし見ていた。
「…ゼルガディス……なぜ、泣いているのです?」
率直な疑問を口にする。
悪態を付きながら、ゼルガディスは透明な液体を瞳から溢していた。
「好きでっ…泣いてんじゃっ…ない…!」
「怪我を?どこか痛むのですか?」
「――――痛いよ…」
レゾが何か言うよりも早く、ゼルガディスは立ち上がった。

「痛いんだ……」

少年は、困惑の表情を浮かべる男に、そっと腕を回した。


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16579『CIV』― Nine years ago 8 ―蛇乃衣 2004/7/16 21:50:53
記事番号16575へのコメント

東の空が明らみ始めた頃、骨董品店でじっと座っていたゼルガディスは、扉の開く音にハッと顔を上げた。
地下室とを繋ぐ階段から、白衣を持つ二人の男と一人の女が出てきた。
男達はゼルガディスに目礼しすぐに店を出ていったが、女――外見だけならば、まだ少女と呼べるだろう――は、立ち上がったゼルガディスの前で足を止めた。
エリシエル=ヴルムグンである。
「あの……レゾは……?」
無言のエリシエルに、ゼルガディスは尋ねた。
次の瞬間、

びゅっ!

風を裂き、エリシエルが右手を振るった。
殴られる。と、眼を閉じ息を詰めたゼルガディスだったが、予想した衝撃はこない。
ゆっくりと目を開ける。
エリシエルの右手は、ゼルガディスの顔に届く寸前でピタリと止められていた。
「どうして……」
エリシエルがポツリと呟く。低い、無理に押さえた声だ。
「どうして笑えるの…?」
視線は、ゼルガディスに向けられてはいたが、見ているのはゼルガディスではなかった。


義眼の手術が終り、目が覚めたレゾは、開口一番にゼルガディスのことを尋ねた。
“なぜですか?”
声が震えないように、エリシエルはレゾに尋ね返した。
“なぜ、あの子供がそんなに大切なんです?あなたがこんな大怪我をすることなんてなかった…!”
たった一人の肉親だからか?
なにも知らず、ヒダマリで生きてきたのに?
“なぜって…”
レゾはふと言葉を切り、
“――ああ、大切だったのですね…彼女が…”
答えではない言葉を呟いた。
“まったく…確かに私も、己の命など考えませんでしたが……血筋なのでしょうか…”
“…レゾ様…?”
困惑気味にエリシエルが声をかけると、レゾは微笑んで言った。
“なぜでしょうね”
“え…?”
“本当のことを言うとね、理由は、分からないのですよ”
穏やかな、楽し気な笑み。
今まで、こんな表情をする彼を見たことがなかった。
“――けれど大切なんです。とても、ね”


ぎゅっと拳を握り、彼女は腕を引いた。
エリシエルは怒りを込めて、ゼルガディスを睨みつける。
「手術は成功したわ…まだ、麻酔の効果は残っているけどね……」
「――ありがとう…」
「あんたに礼を言われる筋合いなんてないわよ……私が動いたのはあの方のため……」
エリシエルがわずかに身を屈め、ゼルガディスの瞳をのぞきこむ。
「なぁんにも知らずに、出来ずに、ただ守られて…いい御身分よね?……せめて、自分の身を守れるぐらいにはなりなさいよ…」
ゼルガディスは反論せず、ただ黙ってエリシエルの視線を受け止めていた。
エリシエルは顔を反らし、店の入り口へと足を進める。
「私があんたを殺すことないけど……」
扉を開けたところで、彼女は振り向いて言った。
「あの方を殺したら、許さないから」
扉は閉じられ、カランと鳴ったベルの音はどこか哀しげだった。


白い病室の白いベッドにレゾはいた。
寝ているのだろうかと、ゼルガディスは静かに近付く。
額から左目にかけて、包帯が巻かれていた。
彼の左の眼球は、やはりもう、つかいものにならなかった。
今はこの下に義眼がある。
ゼルガディスがそっと触ろうと手を伸ばしたとき、レゾの右の瞼が開いた。
「怪我はちゃんと治療しましたか……?」
とっさに言葉が出なかったゼルガディスに、レゾが尋ねた。
こくりとゼルガディスはうなずく。
「そう…なら、いいのですが……」
レゾは小さく息を吐く。
「――すみません、ゼルガディス」
「え?」
「あなたに…嫌な思いをさせてしまいました…」
彼が人を殺させてしまったと言っているのだと、ゼルガディスは悟った。
けれどそれは、ゼルガディスも同じだ。
「うん…でも……あんたが死んだら…もっと嫌だから…」
レゾは驚いたように目を見開き、泣きそうな顔になって、そして微笑んだ。
「ありがとう―――あなたが生きていて良かった」
緩慢な動きで両腕を上げ、ゼルガディスをそっと抱き寄せた。
「ごめんなさい…」
謝罪の言葉を口にしたのは、今度はゼルガディスだった。
「なぜ、あなたが謝るのです?」
「俺は…なにもできなかったから……」
レゾの頬に、膝立ちになったゼルガディスの髪がさらさらと触れる。
「あなたは私を助けてくれましたよ?」
「でも…あの後、結局あんたにかばわれて…怪我、させたし…」
「左眼は、たいしたことではありません。少なくとも、私にはそうです。それにね、あの時だけではない」
レゾは腕を緩め、ゼルガディスの目を見て、優しい笑みを浮かべた。
「あなたが、私という存在を救ってくれたのです。あなたが気付かないところでね」
「レゾ…」
もう一度、レゾはゼルガディスを抱き締めた。
ゼルガディスもまた腕を回す。
「俺、強くなるよ」
「そうですね…お互いに、強くならなくてはいけませんね」


温かいと思った。

この温もりを守りたいと思った。

話したいことが、聞きたいことが、沢山あるけれど

今は眠ろう?

優しい夢が見れるから。

起きてからでも大丈夫。

こんなに近くにいるのだから。

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16588待ってました!リィ 2004/7/20 23:05:10
記事番号16575へのコメント

おぉぅ! 蛇乃衣さんの新しいツリーができてる!!
>待ってきて下さった方(いらっしゃいましたら)申し訳ありません。
お待ちしておりましたm(__)m テ○ト等で忙しいのはわかってたのですが、続きがとっっっっても気になってX2(^_^:
>区切るポイントが難しく、結局、過去編は終わりまで書いてしまいました。
>今度からは、時間軸が「今」に戻ります。
わーいv もうすぐ読めるv

>読んで頂けると嬉しいです。
はい早速読ませていただきますねv
それでは「CIV」にダイブしてきます!

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16596Re:お待たせしました!蛇乃衣 2004/7/24 16:51:01
記事番号16588へのコメント


>おぉぅ! 蛇乃衣さんの新しいツリーができてる!!
はい、やっとできました;

>お待ちしておりましたm(__)m テ○ト等で忙しいのはわかってたのですが、続きがとっっっっても気になってX2(^_^:
はわぁ(照)そう言って頂けると、とっっっっっても嬉しいですv
嬉しすぎて溶けてしまいます〜。きゃーvv

>わーいv もうすぐ読めるv
本日短文投稿しました。次も近日中に〜。

>はい早速読ませていただきますねv
>それでは「CIV」にダイブしてきます!
どぶんっ!とどうぞ! 金色クラゲにご注意下さいませ(笑)

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16595The Schemer Loves Toys蛇乃衣 2004/7/24 16:44:22
記事番号16575へのコメント


ぱっぽー ぱっぽー

可愛らしい鳩時計が、真夜中の時を告げる。
コポコポと耳に心地良い水泡の音は、この広い部屋の仕切りがわりの水槽から。
ライトに照らされ、踊る熱帯魚がキラリと銀色に輝いた。
大きな部屋に、光源といえば並ぶ水槽に設置されたもののみ。
仄暗い空間に、いくつもの影、影。
しかしぴくりとも動かぬそれらは、目を凝らせば、沢山のオモチャだということがわかる。
人形、ヌイグルミは勿論のこと、木馬、汽車と飛行機の模型、ラジコンカー、風船、カレイドスコープ、エトセトラエトセトラ。
街中のオモチャ屋を詰め込んでも足りないほどの量だ。
不気味ともとれそうな静けさの中、突如電子音の軽快なメロディーが流れだした。

「……ん…」

その音に、動かぬオモチャばかりだと思われていた中、一つの影が身じろいた。
大きな――二メートルちかくある――クジラのヌイグルミにもたれかかっていたその影は、人形に紛れていた音の発信源に手を伸ばした。

「はい、もしもし?」

綺麗な、変声期前の少年の声だ。

「なぁんだ、君か……どうかした?計画の変更は指示しただろ?」

影はごろりとヌイグルミの海に仰向けになった。

「大丈夫、大丈夫……ま、彼だったことには少々驚いたけどね。それならそれで、巧く使えるだろ…?」

楽し気に、電話の向こうの人物に笑いかける。

「彼の一番やわらかいところを突けばいい…簡単だよ」

弾んだ声音とは裏腹に、その瞳は、少年らしからぬ狡猾さを備えていた。



リナ達が現在拠点にしている洋館に一通の手紙が届けられたのは、次の日の早朝のことだった。



*****

あ、短い;
ふふふ。でも、新キャラ登場なのです(嬉)さて、誰でしょう?(バレバレですね)
ちなみに彼のアダ名は『腹黒ピーター』『陰険エセガキ』だったりします(笑)

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16597『CIV』― Invitatin ―蛇乃衣 2004/7/25 12:43:21
記事番号16575へのコメント


「ここですか…」
とあるビルの最上階。
人工の光の下、一度手紙に落とした視線を上げ、レゾは一人呟いた。
目の前には瀟洒なレストラン。
手紙に指定されている店である。


「夕食のお誘いのようですね…」
玄関先で手紙を一読し、レゾはなんの手紙かというリナ達の問いにそう答えた。
「夕食って…」
「本当にそう書いてあるのです。文面上は、ね」
ひょい、と肩をすくめてみせる。
実際、それだけで終るとは思わないが。
「誰からだ?ブラン側か?」
「さあ……本人曰く“誠実なる協力者”だそうですよ」
「うっさんくさいわね〜」
「まあ、ね。――ですが、罠であれなんであれ、何か掴めるかもしれません」
今はどうしても、ゼルガディスに関する手掛りがほしい。
「そうだな」
「罠だったらぶち破るまでよ!」
「あの…水をさすようですが、私一人で行きますよ?」
『え?』
リナとガウリイの声が重なった。
「なっ、なんで?」
「宛名が“赤法師”とありますし…一人で来い、ということでしょう」
不満そうな顔をするリナに、レゾは苦笑を浮かべる。
「食事ができずに残念ですか?」
「まぁったくだわ!さんざん飲み食いしてやろうと思ったのに!」
冗談には乗ってきてくれたが、そのままくるりと踵を返し、どうやら自室に戻るようだ。
「――気を付けなさいよ」
階段を上がりきる前に、ぽそりと彼女は呟いた。
聞こえていたかどうかも確かめずに、そのまま歩みを進めていく。
リナの背を見つめながら、レゾは先ほどの苦笑とは違う、小さな笑みを浮かべた。
「――リナさん、まだ怪我は治っていませんから…彼女の方こそ気をつけてあげて下さい」
赤青の瞳と、空色の瞳が交錯する。
「なにもないとは、限りませんから」
「ああ。任せろ」
ガウリイは力強く頷いた。
「だから、レゾ――」
「はい?」
「無茶はするなよ」
レゾは表情こそ変えなかったが、すぐに応えは返ってこなかった。

己より十も年上で、くぐり抜けた死線もずっと多いだろう男に、こんなセリフを言う必要はないのかもしれない。
けれど、ガウリイは時々思うのだ。
彼は“唯一”を守るためになら、他への執着をあっさりと捨ててしまう。
そして“他”には、彼自身もきっちり分類されているのだ。
しかも、あまり自覚がない。
彼の“唯一”は、そんなことを絶対望まないのに―――

「えっと…こっちのことは考えなくて…というか、気ぃ配らんでもいいからさ。自分に…自分の周りに集中してろよ。うん」
ハニーブロンドの頭を掻きつつ、ガウリイは付け足した。
伝えたいことが言い表しにくいのだが、レゾはちゃんと組み取れたようだ。
微苦笑を浮かべ、彼は「はい」とうなずいた。


「いらっしゃいませ。“赤法師”様でございますね」
店に入ったレゾを見留め、モノトーンの制服をきっちり着こなしたウェーターがにこやかに会釈してきた。
「御予約を承っております。どうぞこちらへ」
目印として着て来たワインレッドのコートを預け、レゾはウェーターの後に従う。
「あちらでございます」
案内されたのは、店の最奥のテーブルだった。
鉢植えのグリーンやオブジェで、テーブルとテーブルの間には不自然でない壁がある。
加えて、偶然か必然か、周りのテーブルには誰もいない。
孤立した空間の中、人間は一人だけいた。
夜景を眺めていたその人物は、まるで今気付いたかのようにレゾの方を振り向き、立ち上がった。
「いやぁ、良かった。来て下さって…」
黒髪の男だった。歳は、まだ青年と呼べるだろう、二十代前半といったところか。
にこりと、表面は害のない笑みを浮かべる。
レゾも、無表情にならない程度の微笑を作った。
「こんばんは。初めまして」
「今晩は。今日は御招待どうもありがとう――“誠実なる協力者”…さん」
どこか皮肉げに響かせられた呼称に、青年の笑みが困ったような色を含む。
「――申し遅れました。僕はゼロス=メタリオムと言います」
栗色よりも薄い、けれど黒を含んだ鼈甲色の瞳を持つ彼はそう名乗った。


*******

一つ前、タイトルに『CIV』ってつけるの忘れていました;


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16627『CIV』―裏設定解説その3―蛇乃衣 2004/8/8 18:40:58
記事番号16575へのコメント

――オリキャラ解説――
『レゾ父』ことアクィダ=グレイワーズと、『ゼル母』ことライア=グラツィオーソについて


↑というより、レゾについての補足ですか;
裏設定のくせに長いです。
本当は本編の中で説明入った方が良いとは思うのですが……私の技量では無理です(悲)


******


グレイワーズ家は、裏の裏で、呼び名である『赤法師』を引き継ぐことで、代々暗殺を生業としてきました。
人数はいても一代に三、四人。あくまで『赤法師』として暗殺をするのであって、『だれが』というのはあまり重視されていませんでした。


本編でもチラッと出しましたが、アクィダとライアは異母兄妹なんです。
歳も十歳ぐらい離れています。
アクィダは赤法師を受け継いだのですが、ライアは赤法師についてまったく知りませんでした。
というのも、二人の父、つまりレゾとゼルガディスにとっては祖父にあたる『赤法師』は、ライアの母親にはなにも言わず(アクィダの母親は既に亡くなっています)、一般人の振りをしていたからなんです。
裏の世界に巻き込みたくなかったんですよ。
ですが、やはり無理がでてきたので、死んだふりをして妻と娘の前から消えたのです。
そういうわけで、ライアは兄がいることも知らず、いわゆる『表の世界』で育ち、結婚をして、息子――つまりゼルガディスが生まれました。

それで、アクィダですが、彼はライアの存在を知っていました。
同じ立場のはずなのに、『普通の生活』を送っているライアを羨ましく思う気持は多少ありましたが、それ以前に、血の繋がった妹が大切だったんです。
守るべき存在として、愛してたのですね。まあ、平和とか安らぎといったものの、“象徴”として見ていたふしもありますが…。同一化?疑似体験?みたいな……(悩)

彼が『赤法師』になることで、ライアを守ることになったんです。睨みをきかせていられるし、仮に『赤法師』がいなくなったとしても、その存在があった事実は消えないわけで、「血筋は絶っておいた方が安心」なんて考える輩がいたら、ライアに危険が降りかかるかもしれない。
『赤法師』になる可能性がある甥っ子(ゼルガディスですよ)まで生まれましたし。
そう考えて、アクィダは『赤法師』を続けていたんです。


と、ここまでは彼一人での問題なのですが……その役目を自分の息子――つまりレゾに押し付ける形になってしまったのです。
なにも知らせずに。
というか、“守るために”という理由でレゾが赤法師になるとは思わなかったんです。
自分で育てといて何ですが(爆)
まあ、ゼルガディスと暮らし始める以前のレゾじゃ、なりませんでしたね。
どうして自分の存在すら知らない人間の為に、と;
十二、三歳ぐらいから、『赤法師にはならない』って言ってましたし。
でも継いでもらわなきゃ困るわけで…
結果、レゾを騙す形で自分を殺させて、『赤法師』にしてしまったわけです。(詳しくは、このネタで番外編かけるかもなので、今は省きます〜)
レゾの方も、暗殺なんて断固としてやらない、という態度にでても良かったんですけれど、“どうしてここまでしたのだろう”という思いが湧いてきて、とりあえず『赤法師』になったわけです。
父親を殺してしまった負い目も多少ありましたし…。
レゾは“人殺し”が嫌なわけではなく(無論、好きでもありませんが)、それよりも、“人に命令されて殺す”のが嫌でしたから。


アクィダは、レゾが嫌いだったわけじゃありません。
でも、一番念頭にあったのはライアなんです。(シスコンと言ってしまうと身も蓋もないのですが;)
ライアに対してはその身を盾にし、レゾにはあるだけの武器を与えた。
そんな感じです。
でも“一番”のために切り捨てたということは、否定しきれないでしょう。
理解し合おう方向には行かなかったわけですしね。
レゾは、切り捨てられたことを心から許しきることは出来ていません。
でも、自分も“ゼルガディス”という命がけで守りたい、なにを犠牲にしても良いと思える存在ができたことで、理解と納得はしているのです。
で、自分が怪我をしたときに『血筋でしょうか』なんて思ったわけですよ。
レゾも、父親をもとから嫌っていたわけではないので、自分が切り捨てられた理由が、憎しみとかじゃなくて、(例え対象が自分じゃなくても)愛という感情だったことで、少しは救いになったんです。
肉親を恨んだり、嫌い続けるのって、やっぱり辛いものがあると思うんです。
なんだかんだでアクィダは、レゾにとって一番関わりが深かった人ですしね。
それに、過去が一つでも違っていたら、ゼルガディスに会うことはなかったかもしれない。
そうも思うから、レゾはアクィダを恨んではいませんし、今は嫌ってもいませんよ。


……自分でも、設定に無理な部分ががあるなぁと思うので、あんまりつっこまないで下さい;;

なんだかんだと述べましたが、“ゼルガディス”という存在が、過去は過去としてしまえるほど、レゾにとって大きいものなんだってことです。はい。

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16782『CIV』― Invitatin 2―蛇乃衣 2004/8/29 22:09:59
記事番号16575へのコメント

「それで、私にどう協力していただけるのです?」
白身魚のワイン蒸しを一口味わったところで、それまでのごく普通の世間話から、レゾはそう切り出した。
料理も会話も、ここからがメインだ。
「一言で言ってしまいますと、ブラン側が集めた情報の横流しですね――銀髪の彼、あなた方も消息が掴めていないのでしょう?」
ゼロスが答える。
「―――けれど、あなたはブランの部下なのでは?」
「おや、ご存じでしたか。
 そうなんですよ。まあ、あの人には臨時で雇われているだけなんですけどねぇ……
 でも、雇い主は雇い主。そこが問題なんです」
うんうんと一人うなずくゼロスに、レゾは視線で先を促す。
「実は僕が受けた依頼というのが、あなた方の生け捕りでして…」
「生け捕り?それはまた面倒な……」
嫌味でもなんでもなく、心底からの感想がもれる。
ターゲットが自分達だという自覚はあるのだろうか……?
「そーなんですよぉ。そりゃあ、本業が暗殺ってわけでもないですけど……まだ死体を運べって言われた方が楽です。ねぇ?」
こちらも、本人を目の前にしている分の配慮やら気遣いなどはまったくないらしい。
レゾはわずかに首を傾げ、
「競売にでもかけるつもりでしょうか…?」
「あ、なんでも、自分でなぶり殺しにしたいそうです」
…にこやかに告げる台詞ではないが、相手も相手なので、まあ、バランスはとれているのかもしれない。
「悪趣味ですねぇ……ビルを爆破されたことがそんなに悔しかったのでしょうか?崩しはしなかったのに…それとも、パーティーを台無しにしたことを根に持って?」
「両方だと思います」
「大人げないですね」
「いやぁ、まったく」
これを笑って許せたらそれこそ聖人である。
そして聖人は巨万の富なんぞ持てないし、持たないだろう。おそらく。
「――それで話をもとに戻しますが、やっぱりこの業界、クライアントからの信用が重要だっていうのはお分かりでしょう?」
「ええ。そうですね」
「あなた方に情報を流すっていうのは、立派な契約違反になると思うんですよ」
「まあ、そうでしょうね」
「まずいかなぁ、と……」
「――矛盾していません?」
協力するというお誘いだったと記憶しているのですが?
ロゼワインを一口。淡紅色の液体の適度な辛味が、口内にじわりと広がり、喉を滑る。
「ですから、あなたに契約無効の状況にしていただけると嬉しいなぁ、なんて」
にこにこと、こちらは添えものの野菜を片付けていく。
「あ、ちなみに会社ではなくて、あくまでブラン氏本人からの依頼ですから」
「―――ただの闇医者に、あまり期待されましてもね…」
グラスのワインを飲みきってから、レゾは眉と唇とを苦笑の形にした。
「そんな、御謙遜を……“赤法師”は、ただの闇医者でも、ただの泥棒でもないでしょう?」
鼈甲色の瞳が、確信を持って目の前の人物を見据える。
猛禽類を思わせるのは、その色だけではない。
レゾは夜景に目をやった。
道は行き交う車のライトで、まるで光る川のようだ。
分厚いガラスに遮られ、外部の音はここまで届かない。
鼓膜を震わすのは、流れているのを忘れてしまう程店に馴染んでいる、穏やかな哀愁の漂うクラシック。

視線は外に落としたまま、レゾはややあって口を開いた。
「――あなたがあの男を裏切る必要性はない……それだけのメリットを、私は期待されているのですか…それとも、すでに用意されている?」
紅と蒼の瞳が、再び油断ならぬ“協力者”を写し出す。
「それは秘密です……と言いたいところですが、もっと単純ですよ」
ピッと人指し指を立て、ゼロスは言う。
「僕、昔話に出てくるコウモリって結構好きなんです。賢い生き方だと思いません?」
受ける印象はコウモリというよりタヌキだ。
「…褒め言葉として受け取っておきましょう……」
「あと、実は以前、彼――ゼルガディス…さん、でしたよね?…彼と偶然お会いしたことがありまして。ちょっと親しみがあったのも、理由の一つです」
「ほぅ…」
反応は、小さな呟き。
意外だったのは、目の前の男が彼を知っていたからか、それとも“親しみ”を理由としたからか……
レゾは一つ息をつき、
「まあなんにせよ、情報は欲しいところです…協力をお願いしますよ――“獣神官”、さん」
その名に、ゼロスの瞳に鋭い光が宿った。
しかしそれは一瞬のことで、すぐにまた、食えない笑みを形作るパーツの一部となる。
「――あれ?お教えしましたっけ?」
ゼロスの声のトーンは変わらない。
レゾもすまして答える。
「“獣神官”の噂は、私も聞いていますよ――
 ―依頼者の“障害”を“排除”する武装組織『ザ・ビースト』の柱……相応に抜け目ない人物だそうで…」
「いやぁ…哀しい中間管理職ですよ。…でも、どうして僕を獣神官だと断定したんです?」
「ああ、たいしたことではありません…ブランのパソコンと電話のデータに『ザ・ビースト』と接触した記憶が残っていましたし……
 後は、あなたが私を“赤法師”だと知った方法とほぼ同じだと思いますが…?」
「そうですか……」
ゼロスは何かを考えているようだった。

ここで、ウェイターが次の料理とワインを運んできた。
今度は赤ワインだが、先程のものも、産地はどこだろうか。
(ゼルガディスはあまり甘いものを好みませんが、ワインなら甘口のものでも喜ぶのですよね…)
グラスに注がれるパイロープのような紅を眺め、レゾはそんなことを考えた。
(――いったい、どこにいるのでしょうか……)
ここから見える夜景だけでも、NYの街は広く深い。
「――赤法師さん?」
料理に手をつけないレゾに、ゼロスがいぶかしげな声をかける。
「……なんでもありませんよ。ただ、この曲の題名が思い出せなくて…」
何処かで耳にした旋律。
甘く華やいだ波と静かな憂いの波が交互に押し寄せるそれの名は、なにであったか……


*****

ああ、なんだかもう・・・この二人って口調が似すぎ。書きにくいです(泣)