◆−魔王対勇者:連載第一回−ハイドラント (2004/8/8 13:29:37) No.16626
 ┣むしろ真っ先に神と対決のよーな……(汗)−エモーション (2004/8/10 22:39:22) No.16632
 ┃┗Re:避けられないというか、避けたくない戦い?−ハイドラント (2004/8/11 21:49:05) No.16633
 ┣魔王対勇者:連載第二回−ハイドラント (2004/8/25 00:29:45) No.16716
 ┣魔王対勇者:連載第三回−ハイドラント (2004/8/25 23:19:56) No.16733
 ┃┗街の外に出てしばらく歩いているとやがて夜になるでしょう(byドラクエ)−エモーション (2004/8/26 22:47:43) No.16747
 ┃ ┗Re:街の外に出てしばらく歩いているとやがて夜になるでしょう(byドラクエ)−ハイドラント (2004/8/27 21:49:46) No.16757
 ┗魔王対勇者:連載第四回−ハイドラント (2004/9/6 22:15:10) No.16821
  ┗地味でも念力……かなあ?−エモーション (2004/9/7 23:48:41) No.16823
   ┗Re:地味でも念力……かなあ?−ハイドラント (2004/9/8 20:22:19) No.16826


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16626魔王対勇者:連載第一回ハイドラント 2004/8/8 13:29:37



 著者の言葉風
 小説の悪い見本というのは、こういうものを指すのかも知れません。

 
 魔王対勇者:連載第一回――草原に目覚める


 1
 ――よくぞ来られました若人よ。
 青年は夢の中で、声を聴いた。若い男の声に聴こえる。
 ――あなたこそはこの世界を悪しき魔の者より救い出す勇者。
 声の主の顔を想像してみる。浮かんで来たのは、気弱そうだが、いかにも人柄の良さそうな二十半ばくらいの男のものだった。
 ――さあ目覚めなさい、そして悪を討つのです。
 それにしてもごちゃごちゃうるさい。明らかに安眠妨害だ。


 2
 目覚める。眠りに就いた時と同じ、仰向けで寝ている体勢。だがなぜか違和感がする。もの凄く不快だ。
 目を開くと、眩しい光が降り注いだ。ぼんやりと青空が見える。青空?
 声が聴こえた。
 ――よくぞ目覚めました、勇者よ。
「あ?」
 ――唐突ではありますが、残された時間はそれほど長くはないのです。
 どこかで聴いたことのある声だと青年は思ったが、そんなことはどうでも良い。今は眠いのだ。
「だから何なんだ?」
 ――だから早く旅立つのです、勇者よ。
 明らかにこちらの気分など無視したような態度。青年の中で何かが切れた。
「だから何なんなんじゃいボケ。ごちゃごちゃうるせえんだよ!」
 身体を起こし、怒鳴り散らす。だが相手を探すも、姿はどこにもない。眠気は一気に吹っ飛んだが、開いた部分は怒りに埋められた。
 ――どうやらご機嫌が優れないようですね、勇者よ。
 姿の見えない声の主は、あくまでも落ち着いた口調で言う。
「誰が勇者だ、誰が!?」
 ――おや、自覚がない?
「当たりめえだろうがよ」
 ――夢の中であれほど言ったのに……。
 呆れた、という風な声。それもまた青年の神経を逆撫でする。
「知るか! 第一テメエは一体何もんなんだ。それにここは……」
 と言って青年は辺りを見回した。燃えるような熱気と光を放つ太陽を中心に、展開する空は、どこまでも蒼く澄んで、大地には背の低い草ばかりが生い茂る草原が延々と続いている。
「俺は俺様マイベッドで気持ち良く寝てたはずなんだ。なのにここは何だ? こんな草の上にいたせいで髪も身体もぐしょ濡れじゃねえか。これはテメエのせいなんだろ!」
 そう、青年は自宅のベッドで眠りについたはずなのに、いつの間にかこんな場所に移動している。彼が違和感を持った要因は、考えてみるに、シーツや布団の感触の代わりに草の感触がしたこと、彼愛用のフカフカの枕がなくなっていたこと、草が朝露で濡れていたこと、屋外ではなく屋内にいてもろに陽射しを浴びたことなどが主で、これらはすべてこの睡眠中の不可解な場所移動が原因となっていると言って良いだろう。
 ――確かにそれは私のしたことです、申し訳ありませんでした。でも仕方がなかったのです。
「ほお、仕方がないとな……」
 ――ええ、大事の前の小事です。
「なるほど、つまりは今すぐ殺されてえと……」
 ――だから謝ったじゃないですか。さあ早く魔王を……
「うるせえ! お前の謝罪にゃ誠意ってもんがねえんだよ。誠意がよ」
 ――じゃあ、どうすれば良いって言うんですか?
「決まってるだろ、金払えや」
 ――金? お金ですか?
「他に何があるってんだ。良いか、誠意がどれだけあるかってのは、金をどれだけ出せるのかってのと同じなんだよ」
 ――いや、同じじゃないと言い切れますが……
「黙れ。さっきから話訊くに、テメエは俺に何かやらせようとしてるようだが、そうなるとテメエの立場は依頼人ってことになるな。そして俺は仕事人だ。仕事人には依頼を断る権利がある。依頼人の態度が悪けりゃ、当然断る。だから依頼人は仕事人の機嫌を取らなきゃならねえ。つまり俺は神様でテメエは奴隷ってことになる」
 ――その理屈もどうかと……
「いちいちうるせえな。とにかく俺は金払えって言ってんだよ。慰謝料に賠償金、それに依頼の成功報酬。全部で合わせて……」
 ――分かりました、分かりました。後で払いますから、今は早く旅立ってください。
「約束だな!」
 ――ええ約束します。でもお金がそんなに大切ですか?
「テメエに好かれるかどうかってことよりはよっぽどな」
 
 
 3
「そもそもの話だがよ」
 青年は草地をフラフラとだらしなく歩きながら言う。誰もいない虚空に向けて。
「俺は何すりゃ良いんだ?」
 ――……そう言えば、まだ詳しく説明してませんでしたね。
 姿の見えない相手の返答には、若干ながら間が開いた。ひょっとして、説明が必要なことをうっかり忘れていたのだろうか。
「それにお前は何者なんだ。姿が見えねえのに声は聴こえる」
 青年は、まだ不機嫌ではあるものの、寝起きの時に比べれば眠気も随分引いたため、大分冷静になったと言える。見えない相手への呼称が「テメエ」から「お前」に変化しているのはその証左だろう。
 ――ああ、私ですか。私は神です。
 紙とか髪とか加味ではなく、神と言っていることは言葉の響きからして明らかだった。
「……ああ、サイコ野郎か」
 ――ち、違いますよ。私はこの世界を管理していた十三人の兄弟神の末っ子のハリーと申します。
 ちなみに某眼鏡の魔法少年とは何の関係もない。それこそ、「世界の中心で愛を叫ぶ」と「世界の中心で愛を叫んだけもの」(ハーラン・エリスンって人の意味不明なSF小説)くらい、SMAPの曲「らいおんハート」と「ファイナルファンタジー8」の主人公スコールの武器の「ライオンハート」と恩田陸の小説「ライオンハート」くらい、関係ないので、気にしないでください。
「神サマにしては随分とチンケな名前だな。まあ信じてやるか。サイコ野郎怒らすと後が恐えからな」
 ――だからサイコ野郎じゃありませんって!
「じゃあ、誇大妄想狂、毒電波野郎、キ(ぴー)ガイ……ええと後は、「私は神だ」協同組合副組合長、こん中から好きなの選べ」
 ――全部嫌です! それに何なんですか最後のやつは? わけ分からないし、何で副なんですか。
「いちいちやかましいな。そういうのが流行りか?」
 ――はい? どういうことです。
「最近の小説はお前みてえなクソ情けねえやつが出て来るのが流行りなのかって聞いてんだよ」
 ――小説? どういうことです?
「ほう、あくまでとぼけるか?」
 青年はニヤリと笑ってみせ、
「それとも神サマのくせに本当に気付いてねえのかな?」
 ――だから、どういうことなんですか?
「俺という人間もお前というサイコ野郎も所詮は活字の集まりで出来てるってことだよ。おい、そこでこっち眺めてる読者さんよ! あんたにゃ分かるだろ」
 ――ちょ、ちょっと、止めてくださいよ。
 神を名乗る者ハリーは、完全に狼狽しているようだった。
 声だけでその様子を察した青年は一層楽しそうになって、
「止める? 何で止めなきゃならねえんだ?」
 だがあまりにも調子に乗り過ぎたようだ。突然、ハリーが怒鳴り声をあげた。
 ――何ででもです! 話を台なしにするつもりなんですか、あなたは! いい加減にしてください! ホント承知しませんよ!
 その怒鳴り声は、烈火の如く激しさと、万年氷の如き冷たい殺意を合わせ持つ、筆舌尽くし難いほど恐ろしいものであった。言葉の凶器ならぬ声の凶器だ。青年もさすがにこれにはたじろぐ。
「そ、そんなに怒んなよ。どうせこんなくそつまんねえ……いや、今のなし、前言撤回! とにかく、続けるぞ。ええっと、何の話だったっけな」
 ――あなたがこれから何をすれば良いか訊いたんでしょう。全く、あなたって人は……。
「ああ、そうかそうか。まあ良い、許してやる」
 ――許すのはこっちの方です。
「なるほど、許してくれるのか。なら、とっとと話せ、読者が呆れて読むの止めちまう前にな」
 ――次そういうこと言うと、ただじゃおきませんよ。
「そういうことってどういうことだ?」
 ――私達のいるこの世界を小説呼ばわりすることです。
 ハリーは、溜息混じりに言った。


 4
 ――まず初めに言っておきますが、この世界はあなたの知っている世界とは大きく異なる部分があります。
「まさか、剣と魔法のファンタジー世界でございます〜、なんて言うんじゃねえだろうな」
 ――ええ、概ねその通りですよ。そういうのお好きなんですか?
「大嫌れえだよ。虫酸が走るほどな」
 青年はそう吐き捨てて、舌打ちをした。こんな世界に連れて来られた不満を大いに込めて。
「その手のファンタジーなんて、どれも一緒みてえなもんだし、筋は大概つまんねえし、オチなんて丸見えだ」
 ――そんなに悪し様に言わなくても……
「とにかくだ。ホントにその通りなら、とっとと元の世界に戻せ。俺は嫌だ、そんな世界!」
 ――ダメです、あなたが目的を果たすまではね。
「カチ殺されてえのか!」
 そう言って青年はハリーの胸倉を掴むべく手を伸ばした。ハリーには姿がないため、もちろん、手は空を切るのみだったが。
 ――無駄ですよ。さっき私を奴隷に喩えましたが、生殺与奪権を握っているのは私の方ですからね。あなたが私に従わないのなら、私はあなたを永久にこの世界に繋ぎ止めておきますよ。
「汚ねえぞ、この悪魔野郎、本性現したな」
 ――何とでもどうぞ、奴隷さん。何と言われようと私が神であることには変わりないのですから。
「畜生、いつか俺の足舐めさせて、顔踏みつけてやるからな」
 ――へえ、大層な夢持ってらっしゃるんですね、神社にでも願掛けにいって来てはいかがです。……あっ、剣と魔法のファンタジー世界に、神社なんてないか。
「テメエ……」
 ――まあ、そう怒らずに。話を続けましょうよ。
 怒らせたのはあんただと思うが。
「じゃあとっとと話せや、このサイコ悪魔!」
 最早、青年は自分でも何を言っているのか分からなかった。


 5
 ――この世界は元々、私と私の十二人(神ですから人っていうのはおかしいですが、まあ擬人法みたいなものだと思ってください)の兄が、治めていました。
「…………」
 ――でもある日突然、魔王を名乗る者が現われて、十二人の兄を倒してしまいました。私は安全な場所に避難したので助かりましたが。
「…………」
 ――兄達を倒した魔王は、破滅の儀式というものを始めました。文字通り世界を破滅に導くための儀式です。
「…………」
 ――この世界は一見平和そのものですが、この破滅の儀式が完了してしまうと、世界はたちまち滅びてしまいます。
「…………」
 ――魔王には本来なら私が挑むべきなのですが、兄達と同じくらいかそれ以下の強さしかない私に勝ち目などあるはずがありません。負けると分かっている戦いに臨むのは愚者のやることです。かといって、この世界に魔王と戦ってくれそうな猛者などどこにもいない、誰も彼も皆ヘタレばっかりです。
「…………」
 ――ですから、私は異世界から勇気ある者、勇者を適当に選び出して、魔王と戦わせることにしました。そしてその記念すべき第一号に選ばれたのがあなたです。
「ちょっと待て!」
 ずっと押し黙っていた青年は急に声を上げた。
「どういうことだ、その適当にってのは!?」
 ――ああ、サイコロで選びました、一億二千万個くらい目のあるやつ。
 そんなサイコロが物理的に存在可能なのかどうかは疑問だが、神様(自称だけど)が存在するというのなら、まあ存在するのだろう。
「つうことは……」
 ――ええ、あなたはあなたの国の人間ほとんど全員の中から偶然選ばれたのですよ。どうです、あなたがここへ来れた確率は、とてつもなく低かったんですよ、それにしても機嫌直ったみたいですね。
「一億二千万分の一……」
 青年はその途方もない数字に、世界の神秘を垣間見た。ありがたくも何ともない神秘だったが、その神秘は彼の昂ぶる感情を瞬間冷凍して心の冷凍庫(?)に封じ込めてくれた。
 ――とにかくです。あなたの目的は魔王を倒し、破滅の儀式を止めること、それだけです。言っておきますが、断ることは出来ませんよ。分かりましたか?
 青年は自らの理不尽な運命を嘆きつつも、がっくりと項垂れるように頷いた。いや、本当にそれが肯定の意を示す頷きだったのかどうかは分からないが。
 ――そうだ、あなたにこの勇者の剣を差し上げます。軽くて持ち運びにも困りませんし、初心者でも簡単に扱えますから、安心ですよ。
 ハリーがそう言うと、中空に突然、一振りの細い、飾り気とかそういう言葉とは全く無縁の地味な剣が現われた。それはゆっくりと下降していって、そして青年の利き手へと収まる。想像以上に軽い、重さを全く感じさせない剣だった。
「はははははは、ありがとよ、はは」
 青年は少し壊れていた。まあどうせすぐに元に戻るのだが。
 ところで勇者がハリーの言った通り、日本国民ほぼ全員の中からランダムで選ばれたのだとしたら、生まれたばかりの赤ん坊や寝たきりの老人が選ばれた可能性もある、ということになる。もしそうなっていたら、どうなっていたのだろう。


 あとがき
 小説の世界というのは現実世界から見れば明らかなフィクションですが、小説世界に住む者から見れば、紛れもない現実なのです。だからあなたも、もし自分の住んでいる世界が小説の中の世界だということに気が付いても、それを認めてはいけません。認めてしまうと、そこからあなたの世界が壊れ始めます。
 ……って何書いてるんだろ、私。
 失礼致しました。

 

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16632むしろ真っ先に神と対決のよーな……(汗)エモーション E-mail 2004/8/10 22:39:22
記事番号16626へのコメント

こんばんは。
別世界の神による拉致・(別世界に)監禁・命がけの強制労働の三連コンボに、
見事にぶち当たってしまった不幸な青年の物語ですね。
いきなりこの状況では普通は反発しますよ。そりゃあ……(^_^;)
また、会話のノリがTRPGにおける神(GM)と冒険者Lv1(PC)の
会話みたいだなあと、真っ先に思いました。すみません。m(__)m

13人兄弟の神様。この世界は多神教なのですね。それにしても自分が倒せない相手が、
何故適当に異界から拉致ってきた勇者(かもしれない)に倒せると思えるのでしょう。
この世界の者には出来ないけれど、異界の者であればできる、それなりの
特殊攻撃技(?)がある……とか。
実はなんとなくとか、遊んでるだけだったら、凄くやだな(笑)

> ちなみに某眼鏡の魔法少年とは何の関係もない。それこそ、「世界の中心で愛を叫ぶ」と「世界の中心で愛を叫んだけもの」(ハーラン・エリスンって人の意味不明なSF小説)くらい、SMAPの曲「らいおんハート」と「ファイナルファンタジー8」の主人公スコールの武器の「ライオンハート」と恩田陸の小説「ライオンハート」くらい、関係ないので、気にしないでください。

この部分に思わず吹き出してしまいました。確かにまるで関係ない。(笑)
そーいえば片山恭一氏はタイトルの元ネタ作品を、読んだことがあるのでしょうかと、
さらにどーでもいい疑問が浮かびました。

もうヤケというか、ほとんど選択の余地なしで暫定・勇者1号となった青年。
彼の不幸はまだ始まったばかりーっ! ですね。

……かなり変な感想になってしまいました。すみません(汗)
それでは、続きを楽しみにお待ちしています。

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16633Re:避けられないというか、避けたくない戦い?ハイドラント 2004/8/11 21:49:05
記事番号16632へのコメント


>こんばんは。
どうも、こんばんは。
>別世界の神による拉致・(別世界に)監禁・命がけの強制労働の三連コンボに、
>見事にぶち当たってしまった不幸な青年の物語ですね。
>いきなりこの状況では普通は反発しますよ。そりゃあ……(^_^;)
すんなり受け入れられる人がいたら、凄いと思います。私だったらわめき倒します。
>また、会話のノリがTRPGにおける神(GM)と冒険者Lv1(PC)の
>会話みたいだなあと、真っ先に思いました。すみません。m(__)m
ううん、TRPGはやったことないですねえ。リプレイとかなら読んだことありますから、無意識の内に似させていた、という可能性もありますが。
>
>13人兄弟の神様。この世界は多神教なのですね。それにしても自分が倒せない相手が、
>何故適当に異界から拉致ってきた勇者(かもしれない)に倒せると思えるのでしょう。
>この世界の者には出来ないけれど、異界の者であればできる、それなりの
>特殊攻撃技(?)がある……とか。
まあそういう風に思い込む可能性も充分にありえますね。
>実はなんとなくとか、遊んでるだけだったら、凄くやだな(笑)
呼び出す相手をサイコロで決めるくらいだから、ありえなくもないような……
>
>> ちなみに某眼鏡の魔法少年とは何の関係もない。それこそ、「世界の中心で愛を叫ぶ」と「世界の中心で愛を叫んだけもの」(ハーラン・エリスンって人の意味不明なSF小説)くらい、SMAPの曲「らいおんハート」と「ファイナルファンタジー8」の主人公スコールの武器の「ライオンハート」と恩田陸の小説「ライオンハート」くらい、関係ないので、気にしないでください。
>
>この部分に思わず吹き出してしまいました。確かにまるで関係ない。(笑)
>そーいえば片山恭一氏はタイトルの元ネタ作品を、読んだことがあるのでしょうかと、
>さらにどーでもいい疑問が浮かびました。
多分あのタイトルはエヴァンゲリオンの最終回のタイトル「世界の中心でアイを叫んだけもの」(ちなみに私は観てない)から取ったものだと思われますから、微妙ですね。
>
>もうヤケというか、ほとんど選択の余地なしで暫定・勇者1号となった青年。
>彼の不幸はまだ始まったばかりーっ! ですね。
う〜ん、それほどアンラッキーストーリーじゃないような気もしますけど、まあお読み頂けると嬉しいです。
>
>……かなり変な感想になってしまいました。すみません(汗)
>それでは、続きを楽しみにお待ちしています。
それでは、ご感想どうもありがとうございました。

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16716魔王対勇者:連載第二回ハイドラント 2004/8/25 00:29:45
記事番号16626へのコメント



 著者の言葉風
 今回の投稿が随分遅くなってしまったのは、ちょっと未確認飛行物体に連れ去られて、強制宇宙旅行させてもらったのは良いんですけど、地上とのあまりの気候の違いに体調を崩してしまい、日本に帰った後、ずっと寝込むはめになったからです。もちろん嘘です。嘘吐きは泥棒の始まりっていう古い言葉がありますけど、この程度の可愛い嘘なら、泥棒に昇華しはしないでしょうから、まあ許してください。


 魔王対勇者:連載第二回――森を抜ける


 1
「……ペテン師野郎」
 思わずそんな言葉が口を突いて出た。
 平原はまだ続いている。緑の大地と透き通るような青空の他には何も見えない。のどかな風景だが、もう飽きた。
 ――ペテン師野郎?
「お前のことだよ」
 ――私がいつペテンを言いました? あなたを騙すようなことは言った覚えがありませんが。
 青年の言葉に、ハリーは凍らせた刃物のような冷たく鋭い口調で返す。
「それは……」
 ――的外れな悪口は止めることですね。いくら腹が立っているからと言って。
「……畜生!」
 ――鳥でも獣でも魚でも虫でもありません、神です。
「クソ野郎」
 ――クソもついてません、さっきお風呂入りました。ちなみにあなたに話し掛ける少し前。
「風呂マニア」
 ――それは的を射た評価ですね。でも残念、私にとっては悪口じゃないです。
「いちいち突っ掛かるな、せけえぞ!」
 ――せこいってことですね。それはちょっと傷つきました。泣きたい気分です。泣きますよ。
「うるせえ!」
 青年は歩くペースを速めた。


 2
 どれだけ歩いただろうか、突然目の前に巨大な森が出現した。横は万里の長城か、最近の作者の小説一作の執筆期間のように長く伸びていて、端は全く見えないし、奥ゆきも、ここからでは分からないが、かなり長そうだと直感出来た。
「おい、何だこれは?」
 ――何って森じゃないですか。
「そうだけどよ、遠めにゃあ、こんなもん全く見えなかったんだが」
 そう、森はいきなり現われた。これだけのものなら、相当離れた場所からでも見えて然るべきなのに。
 ――ああ、それはですね。この世界の特徴ゆえのことです。
「ああ、そうか。まあ良いや」
 青年はそう言って、早々に森に入ろうとする。
 ――ちょ、ちょっと待ってくださいよ、訊きたくないんですか?
「何がだ?」
 ――この世界の特徴についてですよ。
「興味ねえよ、んなもん」
 ――まあ、そう言わずに。
「そんなに語りてえのなら、木にでも話してろ。俺はいくからな」


 3
 森の中は夜というほどではないにせよかなり暗く、また異常なほど静かである。どういうわけか虫や鳥の声さえ全くしない。
 ――この世界は実は、世界全部が一続きになっているわけではなく、いくつもの空間に分けられているんですよ。
 腐葉土を踏み締め、背の低い木の枝を掻き分けながら歩く。後ろを向いても、もう草が生えているだけののどかな大地は全く見えない。
 ――そして一つの空間の端までいくと、隣にある空間にワープするんですね。
 だが、心細いとか恐いとかそんな感情は青年にはなかった。彼は黙々と進んでいく。
 ――まあロールプレイングゲームとかでよくあるマップ切り替えみたいなものですね。まあ木さんはそんなこと言われても分からないと思いますけど。
「さっきから、うるせえぞ!」
 青年はさっきからずっと、どこかの木に話し掛けている神(いい加減しつこいようだが自称)に向かって、恫喝した。
「木に話し掛けんのならもっと小声でやれ! 耳障りだ!」
 ――無理ですよ。この木さん結構ご長寿ですから、耳が遠いんですよ、だから……
「どうせ聴こえやしねえんだから良いだろうが!」
 ――良くありません!
 ちなみにこのここで、ハリーが語ったことについては、今後も何度か触れますが、全然重要なことではないので、別に忘れても良いです。伏線でもありません。
 

 4
 くだらない会話を延々と続けるのは、もううんざりなので、とっとと話を進めることにする。
「きゃあー!」
 やかましい声が突然、森に響いた。青年の向いている方を仮に北とすると大体、西北西くらい、左斜め前よりちょっと左寄り、くらいの方角に発信源があるのではないかと思われる。
 ――今のは女の子の声ですね。
「確かに」
 ――怪物にでも襲われそうになってるんでしょうか?
「いや、違うな」
 青年は自信ありげに言う。
「悪どいやつが、悲鳴を利用して旅人をおびきだして、獲物にしようとしているんだ」
 ――でも女の子ですよ。
「甘いな。女の子=純粋無垢で純情可憐、そして善悪で言えば善なんて式は、ここみてえなファンタジー小説の世界じゃ成立たねえんだよ。一見純粋無垢な少年少女は残酷な悪役だっていうのは、登校中にぶつかった異性が実は転校生だった、と同じくれえ陳腐なもんだ」
 それはちょっと言い過ぎだが……。
 ――ちょっと気になる言葉がありましたが、まあ良いでしょう。つまり、あなたは怪物が恐いわけですね。
「単に罠に掛かりたくないだけだ。とにかくいくぞ」
 青年は悲鳴のした方とは全く違う、東北東辺りに向けて歩き出した。
 ――やーい、臆病者ー。
 

 5
 前方に白い光が見える。森の出口だ、と青年は判断した。だがそこにすんなりと辿り着くことは出来なかった。突然、目の前に何者かが現われ、彼を呼び止めたからだ。
「ふふふっ、あの罠に引っ掛からなかったのはあなたが初めてよ」
 それは少女の声であり、その声の主もまた一人の少女であった。ちなみに姿形に関する詳しい描写は面倒だし、くどくなるから、やらない。適当にイメージしてください。
「でも、結局あなたも同じ運命を辿ることになるわ。元魔王軍大尉であるこの私の手に掛かり、苦しみ悶えながら、魂を抜かれて死ぬという運命をね」
 そう言って、少女は哄笑を上げた。だが、青年達は少女の存在など完全に無視して、
「やっぱり俺の方が正しかったじゃねえか」
 ――私は、魔王軍のことに、そんなに詳しいわけじゃありません。間違えて当然の問題でしたから、ちっとも悔しくありません。
 ハリーは悔しそうに言った。
「まあ、お前もこれでもうお前にゃ、神を自称する資格はねえな。今度から俺の下僕と名乗っとけ」
 ――馬鹿も休み休み言いなさい。下僕はあなたの方ですよ。
「バ」
 ――はい?
「カ」
 ――何を言ってるんです?
「馬鹿を休み休み言ってんだよ」
 ちなみにこれは、作者がこの前読んだ小説に出て来たギャグをそのまま流用、つまりパクったものである。ちなみにその小説は鳥飼否宇の「本格的」という少々変則的な推理小説で、趣向が面白くまた笑える。無理して読むほどのものでもないですが、興味のある方は是非読んでみてください。まあそれはさておき……
「いい加減にしなさいよ、あんた! さっきから独り言ばっかり言って、あたしを無視しないでよ」
 どうやら、少女にはハリーの声が聴こえていないようだ。まあたとえ聴こえていたとしても、「独り言」という部分が「低レヴェルな会話」になっただけで、結局何も変わっていなかっただろうけど。
「ああ、そうか、そうか。悪かったな!」
「ふっ、お詫びなら地獄で言いなさい!」
 そう言って、少女は右手を突き出し、人差し指で青年を指差した。すると指先から光の球が生まれ、青年に向かって飛んでいく。
 だが青年はそれをあっさりとかわした。青年の身のこなしが巧みだったからではない、光の球の速度が、光のくせに平均的な中年男性がジョギングの時の速度(書いた自分が言うのもなんだが、どれくらいだろう?)にも及ばないほど遅かったからである。
「お前に言いたいことがあるんだがな」
 青年は悔しがる少女に向けて言った。
「その安っぽい台詞回しどうにかかんねえかな」
「キイッー、言いたくて言ってるわけじゃないわよ! 全部作者のせいなのよ、作者の!」
 憤慨して叫び散らす少女。
 ――あの、そういうこと言うの止めてもらえます? 作者とかそういうこと。マジ殺意とか覚えますから。
 ハリーは若干キレ気味だ。
「何よ、今の言ったの誰? どこにいるの?」
 ハリーの姿を探し、少女はきょろきょろし出した。どうやら今の声に限っては普通に聴こえたようだ。
「あなた、じゃないわよね。声が全然違うし。う〜ん、でも魔王様が今さらあたしなんかに声掛けて来るわけなんてないし、この前いった定食屋のお兄さんの声にも似てるような気がするけど……」
 ――ほら、今がチャンスですよ。あの人は私を探しています。この隙を狙って、あのけしからんことを言うバカ少女をグサッと。
 ハリーが悪魔的な声で囁く。
「ざけんな!」
 ――え? 何でですか?
「こいつがお前を見つけてくれるかも知れねえだろうが。そうなったら俺も憂さ晴らしが出来る」
 ――あなたは何を考えてるんですか。第一、私の肉体はこんな場所にはありませんよ。いくら探しても無駄です。だから早く……
「断る! お前に従うつもりなんてねえよ」
 

 6
「もう、全く見つかんない! 良いや、あたし帰る」
 ハリーを探すのに疲れた少女は、本来の目的を忘れて森の出口に消えた。
「ほらな」
 少女がハリーを探し回っている間、ずっと大きな木の根元に腰掛けてくつろいでいた青年は、勝ち誇ったように声を上げた。
 ――何がほらな、です?
「お前に言われた通り不意打ちしたら負けてたかも知れねえだろ。だからずっとお前を探さして、本来の目的を見失わせりゃ良い。俺はそう考えたわけだが、どうやらその考えは正しかったようだな」
 ――あなたはあのバカ少女に私を探してもらおうとしていたんでしょうが。そんな都合の良いことは言わせませんよ。
「何言ってる、あれはカムフラージュだ。もしあそこで俺の考えを正直に話して、それがあいつに聴こえたら、あいつは本当の目的思い出して、全部台なしじゃねえか」
 ――はいはい、そういうことにしておきましょう。
 こうして青年は森を抜けた。


 あとがき
 早々に続き出すつもりが、随分遅れてしまいました。本当の理由は話を一気に終らせるつもりが、どんどん長引き、苦戦させられたせいです。ちなみに結果的に全体の長さは原稿用紙百十枚分くらいになりました。当初はその半分くらいの予定だったんですが。ちなみに連載回数は六回の予定。
 それでは、これで失礼します。

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16733魔王対勇者:連載第三回ハイドラント 2004/8/25 23:19:56
記事番号16626へのコメント



 著者の言葉風
 最近パン屋でバイトやってるんですが、私は思考が半ば趣味みたいなもののようで、どうしても仕事中に全然関係ないことを考えてしまい、そのせいでミスを犯すことさえあります。まあどうでも良い話なんですがね。


 魔王対勇者:連載第三回――町を目指す

 
 1
 森を抜けると、また草原が続いていた。だがこちらの草原は起伏に富んでいて、また様々な色をした花が、容姿の美醜はともかくとして、諸処に咲き乱れている。 しばらく歩くと、九十九折になった道に出た。ハリーが言うには、この道を辿っていくと、町に辿り着くのだという。まあ嘘ではないのだろう。
「思うんだがな」
 歩きながら、青年が言う。
「お前らって日本語話すよな」
 確かにそうである。青年もハリーもあの少女にしても用いていた言語は、正真正銘の日本語で、本当は異国語で話しているのを、作者が和訳したという設定があるわけではない。
 ――ああ、それは、さくしゃのつご……じゃなくて、私達兄弟神が日本好きだからですよ。
「……そういうもんなのか」
 ――そういうもんなんですよ。ちなみに私はあなたの世界全体についても結構詳しいです。自慢になりますが。
「まあ良い。それにしても町までは後どのくれえだ?」
 そう言って、青年は遠くを見た。町の姿は全く見えない。それが、町がこの空間とは隣り合った別の空間にあるためなのか、単に距離が離れているためなのかは分からないが、まあそんなことはどっちだって良い。
 ――ああ、もう少しですよ。田舎の人の感覚で。
「つうことは、野宿覚悟か?」
 ――ああ、それなら心配要りませんよ、この世界、陽なんて暮れませんから。
「何だと……」
 さすがにそれには驚いた。ただしそれはがっかり、落胆、という気持ちが少なからず、というか、ふんだんにブレンドされた驚きだったが。
「それじゃあ、まるでRPGじゃねえか」
 青年の言っているRPGというのは、もちろんコンピュータゲームソフトのジャンルの一種であるロールプレイングゲームのことだろうが、歩いてて陽の暮れるRPGなんて普通にあるぞ。それこそ十年以上前から(多分)。
 ――でも、宿屋とかに泊まれば、ちゃんと夜になりますよ。
 それだとますますRPGだろうが! と青年は思ったが、口にするのは止めた。どうせこんなことを言っても何にもならない。
 今はただ歩くことにした。
 
 
 2
 眩い光を放つ太陽は空の頂点から大地を見下ろしている。このポジョションは思えば、目覚めた時からずっと変わっていない。
 思えば、それほど暑くない。これだけ激しい陽射しの中にあるのに、それほど汗は出て来ないし、身体も概ね正常である。草の褥で寝てたのに、風邪をひいた様子もない。
 青年はそこまで考えて、自分があまり疲れていないことに気がついた。あれほど歩いたのに。
 だが、これらの謎について尋ねることはしなかった。どうせつまらない答えが帰って来るに決まっている。
 やがて青年の思考は全く別のものに切り替わる。
 ――何か考えごとですか?
 ハリーのいきなりの言葉に、青年は、少々大げさかも知れないが、胸を冷たいもので貫かれたような感触を覚えた。考えごとをしているというのはそう簡単に他人に分かるものなのだろうか。まあ彼は少なくとも普通の人間ではないようだから、特殊な能力か何かで分かるのかも知れないが。
「な、何でもねえよ」
 咄嗟にそう言った青年は、今の言葉は何でもなくない時にもごまかしのために多く使われる言葉だということを思い出し、しまった、と思った。
 ――本当に何でもないんですか?
 ハリーの悪魔的な声。思わず殴りたくなる。
「しつけえな。何でもねえって言ってるだろうが」
 ――本当ですか。
「本当だ」
 ――本当の本当に?
「本当の本当の本当の本当だ」
 何となく、先取りしてみた。
 ――分かりました。で、何を考えてたんですか?
「どうせ正直に言っても嘘だろ、って言うんだろ?」
 ――真実味と、もし本当だった時の面白さで判断します。
 すると青年は、腕を組み、歩みはそのままに空を一秒か二秒ほど見上げて、
「分かった。言ったらしばらく一人にしてくれるってんのなら、言ってやっても良いぜ」
 ――分かりました、約束しましょう。
 ハリーは少し嬉しそうな声で言う。
「本当の本当にか?」
 青年も心なしか嬉しそうだった。
 ――ええ、本当の本当の本当の本当です。
「いや、信じられねえな。ダメだな」
 ――本当ですよ、私の目を見てください。
「お前、目ねえだろ」
 声が聴こえるだけで、姿は全く見えない。
 ――ああ、そうでしたね。
「残念だったな、出直して来な。……って、そういや俺達、何の話してんだっけな?」
 ――ええと……何の話でしたっけ?
 ……アホですか、あんたら。


 3
「なあ、お兄ちゃんよ」
 青年の足元には不安と恐怖を誘うような大きな影が五つあり、目の前には影の主である五人の男が立っている。彼らは青年のゆく手を完全に封鎖している。
「はっきりと言っちまうんだけどよ」
 彼らはいきなり現われた。別空間からワープして来たかのように。そうなると彼らのすぐ向こうには、空間の端があることになるのか?
「俺達、親友だったよねえ、確か」
 腹が立つほど馴れ馴れしい態度。だが大抵の人間は、腹を立てる前に脅えて萎縮してしまうだろう。
「だからさ、金貸してくんない」
 悪魔が具現化した姿と評しても良いかも知れない。それだけ恐ろしく、忌まわしい存在だ。
「ねえ、良いでしょ」
 彼らは皆、みすぼらしい服を身に着けているが、身体の方は貧弱とは程遠い。歳は全員、二十代の半ばくらいだろう。
 一人は金髪のロングヘアで、別の一人は茶髪のショートカット、さらに別の一人は赤毛のモヒカンヘアで、残った二人はスキンヘッド。また全員が鉄パイプを手にしている(それにしても、何でこんなやつらの描写してるんだろう)。
 青年は黙って彼らを見つめている。まだ一言も発していない。
「失語かい? なあお兄ちゃんよ」
 と金髪の男。
「何か言えよ、黙ってちゃ何も始んねえぜ」
 と茶髪。
「親友につれなくしないでくれよな」
 と赤毛。
「貸してくれるだけで良いんだからさ」
 とスキンヘッドA。
「ホント、十二兄弟神に誓って絶対返すから、お願い」
 とスキンヘッドB。この男だけちょっとカマっぽい。
 青年は彼らの言葉を一通り訊いた後、視線をあらぬ方向に変えて、一言。
「金くれ、だってよ」
 彼の声は実にあっけらかんとしていた。
「だからさ、金出してくれねえか。お前なら出来んだろ」
 青年が言葉を向けた相手はもちろんハリーである。だが、彼のゆく手を阻む、男達にハリーの姿は見えない。
「おい、誰に話し掛けてんだよ、お兄ちゃん」
「トチってんのか?」
「お前がそんな頭がおかしいやつだなんて、初めて知ったよ、長い付き合いだけどさ」
「ちょっとショックだね」
「ねえ正気に戻ってよぅ」
 青年は男達の声には何の反応も示さない。
「なあ無視すんなよ」
 青年はもう一度、ハリーに呼び掛ける。
 ――何なんですか?
「そいつらに金払ってやってくれ。お前なら金くれえ出せるだろ」
 ――まあ出せますけど、嫌ですよ。私だって無限にお金持ってるわけじゃないんですから。
「小銭で良いだろうがよ、五円でも一円でも」
 ――そんなやつら倒せば良いじゃないですか。その勇者の剣で。
 そう、ずっと無視して来たので忘れている読者も多いかも知れないが、青年はハリーから勇者の剣という剣をもらっていて、当然今も右手に持っている。
「断る。めんどい」
 ――面倒じゃないですよ。三秒で倒せますから。
「ほう言ったな」
 ――何がですか。
「三秒以内に全員倒せなかったら、いくら払う?」
 ――払いませんよ、そんなトリビアルなことで。
「何で、英語混ぜるんだ?」
 ――それはさくしゃ……じゃなくて、何となくです。
 ちなみにトリビアル(些細な、些末な、とかいう意味)が本当に英語なのかどうかは保証出来ない。
「さっきからごちゃごちゃうるせえぞ」
 突然、怒声が上がった。
「こっちがおとなしくしてると思って、つけあがりやがって!」
 青年のゆく手を阻む男達は、今や完全にブチ切れている。
「いい加減、本気でカチ殺すぞ!」
「そうだ、この(ぴー)野郎」
「そうよ、そうよ、ぶち殺してあげるわぁ」
 最後のやつだけはあんまり変わってないかも知れない。
 ――あああ、怒らせちゃいましたね。
「全く、お前のせいだぞ」
 ――あなたのせいじゃないですか!
「責任転嫁してる場合かよ」
 ――してるのはあんたの方じゃないですか。
「何をしてるって?」
 ――責任転嫁ですよ。
「言葉は正確に使わねえとな。頭悪りいやつは分からねえな」
 ――ということは、あなたは頭が悪いわけですね。
 ハリーは勝ち誇ったように言う。
「いや、俺は分かってたさ。ただこれ読んでる読者ん中にはもしかしたら、分からねえやつもいるかも知れねえからな」
 青年は平然と切り返す。それにしても、この発言は読者に対して非常に失礼である(青年に代わってお詫び致します、ごめんなさい)。それに、これ読んでる読者っていうのは、ハリーの前では禁句だ。
 ――あっ、言いましたね。
 その声は、液体窒素くらいの冷たさはあるのではないかと思われた。つまりは絶対零度である。青年は身体を震わせた。
「い、いや待て」
 ――待ちません! あなたは言ってはいけないことを言いました。一度注意したにも関わらず。……少々、痛みを知ってもらいましょうか。
 冷酷な口調のハリーは、それでもどこか楽しげに見えた。青年の恐怖はさらに募った。
「おい、まだ無視するつもりか」
 青年のゆく手を阻む男の一人が、そう言って青年に掴み掛かろうとしたその時、空が赤く光った。


 4
「ったく死ぬかと思った」
 あの赤い光の後、大爆発が起こり、そのせいで、青年は黒こげになっていた。普通ならこんな言葉が吐けるような状態ではないはずなのだが、なぜか怪我や火傷などはさほどひどくない。ただ見た目が凄まじいことになっただけである。
 ――全く、もし次があったら、ホントこんなものじゃ済ませませんよ。
 ハリーはまだ怒っている。そんなにこの世界が活字の集合によって出来ているということを指摘されるのが嫌なのだろうか。
 ――今、何かおっしゃいました?
 げげっ、地の文見るなんて反則だぞ。
 ――何かおっしゃいましたか? と私は訊いてるんですけどね。それに地の文って何のことでしょう?
 いえいえ、何も言っておりません、何でもございません、ご機嫌をお直しください、お願いします。
 ――まあ、良いでしょう。でも次からは許しませんよ。
 はい(それにしても私の存在を認めるのは、これを小説だと認めていることとイコールになるんじゃないかな?)。
 ――あれれ? また何かおっしゃいませんでした?
 い、いえ、何も。
「おいさっきから、誰と話しんだ? まさか、さく……いや、何でもない」
 とにかく話を進めることにしよう。
 ハリーの怒りの鉄槌は、青年を黒こげにしただけではなかった。彼のゆく手を阻んでいた男達にも同時に被害を与え、ビビらせて逃げ帰らせた。
 再び歩き出すと、突然町らしき姿が見えた。やはり、すぐそこに空間の端があったのだ。
 だが、見えるといってもすぐ近くではない。辿り着くまでにはもう少し掛かりそうだ。
「そういや、さっきの馬鹿男どもの一人が、十二兄弟神って言葉を吐いたけどよ、何でお前が含まれてねえんだ」
 別に数に含まれていないのがハリーだとは誰も言っていないのだが、そう確信してしまえるところが青年らしい。そして青年のその考えは当たっていた。
 ――ああ、それは私が魔王から逃げたからですよ。人々は勇敢に戦って散っていった兄達を讃えましたが、賢く退却した賢者な(別に兄達が愚かだと言うわけじゃないですけど)私を卑怯者と罵り、元からいなかったことにさえしました。自分達こそ本当にヘタレなくせに。
 ハリーは極めて悲しげに思える声でそう言った。
「確かにそれはひでえな。まあ同情はしねえけどよ」
 ――そうですか。
 ハリーの声は未だ悲しみを帯びているようだった。
 

 あとがき
 こんばんは、偶然本屋で見つけた「馬鹿★テキサス」という鹿が表紙の小説が気になってならないハイドラントです。
 どうにか二夜連続投稿が出来ました。それが粗を生む結果になってないか心配ですけれど(まあ、元々粗だけで出来ているような作品ではあるんですけれど)。
 HPは相変わらず進んでないです。それどころかHPを作ることに疑問を覚え始めたりしてます。夏休み前にはオープンの予定だったのに。
 TRYも全然手付かずです、これ終わったら再開する予定なんですけども、どうもあれに手を入れるのは勇気と気力が必要です。
 それでは、これで失礼致します。
 

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16747街の外に出てしばらく歩いているとやがて夜になるでしょう(byドラクエ)エモーション E-mail 2004/8/26 22:47:43
記事番号16733へのコメント

こんばんは。

> 青年の言っているRPGというのは、もちろんコンピュータゲームソフトのジャンルの一種であるロールプレイングゲームのことだろうが、歩いてて陽の暮れるRPGなんて普通にあるぞ。それこそ十年以上前から(多分)。

タイトルはこの文章に答えて、確かドラクエ4の街(城?)の住人の台詞。
PS2版ではなくファミコン版の時からのものなので、確かに10年以上前からですね♪
日が暮れなかったのって……DQ1は確実にそうだったと思うけれど……
2と3はどうだったか……(さすがに覚えてない)
あとはRPGというかゲーム故のものと言えば……食品類に賞味期限なし(笑)
アトリエシリーズのザールブルグ三部作じゃ、半年前の牛乳やタマゴを使って、
食品作ってたりしましたよ。材料の風船魚(ふぐのこと。もちろん生)も、
半年ほったらかしにしても、全然腐りませんでしたし(笑)
でもグラムナード編からは、一定期間経つと食品類が腐るようになりましたが。
……と、話題がずれてる(汗)

拉致被害者な勇者の青年(そういえば、彼に名前はないのでしょうか)は、
とりあえず神様とボケツッコミ漫才をしつつ、旅をしている……のですね。
某十二国記みたいに、見知らぬ世界に一人きりで放置されるよりはましかも、
と思ったら、何だかんだ言っても、青年にとっては結構気が紛れるのかもしれないですね……多分(^_^;)

魔王の手下の女の子……何だかシェーラちゃんをふと思い出しました。
間が抜けてて可愛いですが、いいのか、魔王の手下がそれでと(笑)
下っ端さんなのでしょうか。
そして町を目指す青年の前に現れた、この世界のゴロツキさんたち♪
ここでも交わされる神様こと、ハリーと青年の会話はひたすら漫才状態ですね。
神様にも金銭の限度があるのですか……。お小遣いかな(笑)
ふと、それではこの世界での青年の生活費は、どうなるのだろうと思いました。
でも、怒りの大爆発であっさり青年とゴロツキさんにダメージを与えるあたりは、
さすがに神様なんですね。地の文にまでケンカ売るのもさすがです。
この世界の人々から蔑ろにされているらしい神様・ハリーと、拉致被害勇者の青年。
無事に魔王を倒して名誉挽回と無事帰還を果たせるのでしょうか。
続きを楽しみお待ちしています。

パン屋さんでバイトをなさっているんですか? パンの生地でもこねているのかな〜とか、
そんなことを想像してしまいました。生地をこねつつなら考え事位出来そうだなと。
ただ、焼きもあるとこだと、気を付けてないと危険な場合もありますから
気を付けてくださいね。
では、今日はこの辺で失礼します。

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16757Re:街の外に出てしばらく歩いているとやがて夜になるでしょう(byドラクエ)ハイドラント 2004/8/27 21:49:46
記事番号16747へのコメント


>こんばんは。
どうも、こんばんは。
>
>> 青年の言っているRPGというのは、もちろんコンピュータゲームソフトのジャンルの一種であるロールプレイングゲームのことだろうが、歩いてて陽の暮れるRPGなんて普通にあるぞ。それこそ十年以上前から(多分)。
>
>タイトルはこの文章に答えて、確かドラクエ4の街(城?)の住人の台詞。
>PS2版ではなくファミコン版の時からのものなので、確かに10年以上前からですね♪
>日が暮れなかったのって……DQ1は確実にそうだったと思うけれど……
>2と3はどうだったか……(さすがに覚えてない)
多分、歩いてると陽が暮れるRPGはDQ3が最初だと思います。私が知らないだけで、先例があるのかも知れませんけど、海外の黎明期作品とかに(海外の作品はシステムが緻密で複雑なものが多いらしいですし)。
>あとはRPGというかゲーム故のものと言えば……食品類に賞味期限なし(笑)
>アトリエシリーズのザールブルグ三部作じゃ、半年前の牛乳やタマゴを使って、
>食品作ってたりしましたよ。材料の風船魚(ふぐのこと。もちろん生)も、
>半年ほったらかしにしても、全然腐りませんでしたし(笑)
確かに大概の作品は腐らないですねえ。食品が腐らないんじゃなくて、その世界の住人の舌と胃袋が腐敗というものに異常なほど鈍感なだけなのかも知れませんが(んなわけないか)。
>でもグラムナード編からは、一定期間経つと食品類が腐るようになりましたが。
>……と、話題がずれてる(汗)
へえ、そうなんですか。そうなると、台所を預かる者の気分が味わえる?
>
>拉致被害者な勇者の青年(そういえば、彼に名前はないのでしょうか)は、
>とりあえず神様とボケツッコミ漫才をしつつ、旅をしている……のですね。
ええ、大体そんなところのようです。
漫才となるとどっちがボケでどっちがツッコミなのか、微妙ですけどね。
まあ、ハリーに実体があったとしたらドツキ漫才になってるってことは、まず間違いないと言えるでしょうが。
ちなみに青年の名前は決まってないです。当初は実はヴァルだったとかいうオチとか考えてましたが、完全オリジナルでいきたいし、それにもう日本出身だと書いてしまいましたから、もう使えなくなりました。
>某十二国記みたいに、見知らぬ世界に一人きりで放置されるよりはましかも、
>と思ったら、何だかんだ言っても、青年にとっては結構気が紛れるのかもしれないですね……多分(^_^;)
それに、こういう人に文句言ってばっかりの人間は、えてして、一人になると何も出来ないものですからね。
逆に放置した相手を探して復讐するのに躍起になるという可能性もありますけれど。

>
>魔王の手下の女の子……何だかシェーラちゃんをふと思い出しました。
>間が抜けてて可愛いですが、いいのか、魔王の手下がそれでと(笑)
>下っ端さんなのでしょうか。
確かにどうしても無能の香りがプンプンと……
ちなみに即興で何となく書いたキャラでモデルさんはいません。書く前、構想時点ではもっと強敵の予定でした。
>そして町を目指す青年の前に現れた、この世界のゴロツキさんたち♪
>ここでも交わされる神様こと、ハリーと青年の会話はひたすら漫才状態ですね。
>神様にも金銭の限度があるのですか……。お小遣いかな(笑)
貯金箱にお金をコツコツ貯めていく神様……何か異様。
後、考えられるのは、夜道を歩いている人にいきなり声掛けて威かすことが日課になっていて、その人が脅えて逃げていった時に落としていった金品がそのまま収入になるとか? 悪質さセコさ、どっちの面から考えても、もはや神のやることじゃないですが。
>ふと、それではこの世界での青年の生活費は、どうなるのだろうと思いました。
そんなに長く滞在しませんから、大丈夫です(笑)。
>でも、怒りの大爆発であっさり青年とゴロツキさんにダメージを与えるあたりは、
>さすがに神様なんですね。地の文にまでケンカ売るのもさすがです。
思えば、ハリーが初めて実力の見せ付ける場所ってここが最初のような。そうなると青年の反応も少しは変わって来るかも(何かこっちが読者みたいな書き方だ)。
>この世界の人々から蔑ろにされているらしい神様・ハリーと、拉致被害勇者の青年。
>無事に魔王を倒して名誉挽回と無事帰還を果たせるのでしょうか。
>続きを楽しみお待ちしています。
どうもありがとうございます。続きは出来れば今月中には出したいと思っています。
>
>パン屋さんでバイトをなさっているんですか? パンの生地でもこねているのかな〜とか、
>そんなことを想像してしまいました。生地をこねつつなら考え事位出来そうだなと。
いえ、下っ端なので掃除・洗いものなど雑用中心です。後はピザトーストのトッピングや、パンに塗るためのソース作りとか。
>ただ、焼きもあるとこだと、気を付けてないと危険な場合もありますから
>気を付けてくださいね。
焼きはないですが、ピザのトッピングはあんまり慣れてないせいか、集中してないとすぐ手順間違えるので、気をつけたいです。
>では、今日はこの辺で失礼します。
それでは、ご感想どうもありがとうございました。

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16821魔王対勇者:連載第四回ハイドラント 2004/9/6 22:15:10
記事番号16626へのコメント

 著者の言葉風
 突然ですが、超能力が一つだけ使えるとしたら、どんな能力が良いと思いますか? 
 私は、そうですねえ、念力はちょっと地味な気がするし、瞬間移動は移動する楽しみを奪われそうだし、人の心は読みたくない、タイムワープとか出来てもいきたいところ多過ぎて疲れるはめになりそうなので、ヒーリング能力とかですかねえ。最近疲れも溜まってるし。


 魔王対勇者:連載第四回――洞窟に入る


 1
「ふふふふふっ、はははははっ!」
 哄笑が響く。
「私は元魔王軍所属、そして今は流浪の旅人狩り」
 声の主は、青年(ちなみに黒コゲ状態はなぜかいつの間にか治った、理由は不明)の進む道を塞ぐように立っていた。
「旅人よ、これ以上先に進みたければ、私と対決しろぉ!」
 黒いマントに黒いフード、それに真っ黒な仮面に身に着けたその男は、そう言って、青年を指差す。長いマントから突き出された腕は、肌色というにはあまりにも青みが掛かっていて、彼の正体が人間であるかどうかは定かではない(まあこの描写は必要だっただろう)。
「元魔王軍か。そういや森で俺を罠に掛けようとしたあいつも……」
 ――ああ、それはですね。魔王が最近になって自軍の者を一斉に解雇したんですよ。破滅の儀式に必要な人材を残してね。……あっ、ちなみに解雇された人達は魔王を恨んではいますが、魔王の恐さを知っているので、復讐することは考えません。つまり彼らもヘタレなんですね。
 それを聞いた青年は、
「リストラ、か。時代の悲劇ってやつだよな。全く世間は厳しい。弱虫のヘタレちゃんは見事にホームレスってわけか」
 哀れむようにそう言い、やりきれないといった風に溜息を吐く、もちろんこれは演技だ。
「う、うるさい、同情するな、馬鹿にするな。身を案じろ! 私は流浪の旅人狩りだぞ」
 本気で怒ったのか、怒鳴り声を上げる黒マントの男。演技を止めた青年は冷めた眼差しを向ける。
「悪りいけどな。俺は、まともにザコの相手してやるほど慈悲深くはねえんだ」
「ザコだと! 私を愚弄するのか」
 辛辣な口調に、黒マントの男は触発されたのか、マントの下に隠されていた黒い靴で地面を蹴って、青年の方に向かって来る。
 青年は静かにハリーから手渡された勇者の剣を両手で構えた。
 黒マントの男はマントから両手を正面に向けて突き出す。両手の間から光の球が生まれた。
 その時、青年の腕が勝手に動き出した。何かに引きずられるかのように。
「な?」
 引きずる力は存外に強く、青年は黒マントの男の方へ足を踏み出してしまった。そこへ光の球が飛んで来た。黒マントの男が発射したのだ。そのスピードは相当速い。少なくとも平均的な中年男性のジョギングの時の速度よりはずっと。
 危ない、と思った。だが、よけようにも身体を引きずる不思議な力のせいで何も出来ない。光の球へと突っ込んでいく。
 だが、ぶつかると思ったその時、勇者の剣が光の球に接触し、それを、まるでバターを切るかのように真っ二つにした。左右に分かれた球は、そのまま泡のように消え去る。
 だがこれに驚いている暇などなかった。謎の力はなおも青年を引きずる。黒マントの男の方へと。
 黒マントの男はもう一度、光の球を生み出し、発射する。だが勇者の剣はまたもやそれを切り捨てた。
 これはもしや、と思った青年は引きずる力に抵抗するのを止め、逆にその力に身を任せることにした。
 黒マントの男の三度目の攻撃(それにしてもこいつの攻撃は単調だな)。だが、三度目の球が発射されるよりも先に、勇者の剣は黒マントの男自身を切り裂いていた。
「ぐふっ」
 RPGに出て来るボスモンスターとかの死に際台詞の定番ともいうべき台詞を吐いて、黒マントの男は倒れた。地に伏したその身体は、液体状になっていき、溶けて跡形もなく消え去った。この時点でこいつが人間でないことは完全に証明されたと言って良いだろう。
「ふん、「流浪の旅人、狩り」だか、「流浪の、旅人狩り」だか分かんねえんだよ!」
 青年はもはや何もない地面に向けて、そう吐き捨てる。だが、勝った、という実感はなかった。
 ――凄いですね、勝ちましたよ。
 だが、ハリーはかなり嬉しそうだ。自分の応援していたスポーツチームがギリギリのきわどいところで優勝した時なんか、ちょうどこんな風になるのではないだろうか。いや、よく分かんないけど。
「何言ってやがる、こいつのせいだろ」
 それに対し、青年は、冷めた顔で手に持つ勇者の剣を指差す。剣から外した左手の、人指し指で。
 ――はい?
「こいつが俺を無理矢理動かしたんだ。あいつに勝ったのは俺じゃなく、この剣だ」
 そう、あの謎の力は勇者の剣によるものだったのだ。まあ大体予想はついてただろうけど。
「こんな剣に頼らずとも俺なら普通に勝てた。なのによ……」
 ――ああ、なるほど、何で不機嫌かと思ったらそんなことですか、はは。
「笑うのかテメエ!」
 まあこいつの性格ならここで冷笑してもおかしくないかも知れない。
 ――その剣は持ち主の戦士としての本能を引き出す力を持っているんですよ。あの動きはあなたの戦士としての本能がそうさせたもの。だから、あの人を倒したのはあなたの実力ということになります。
「何だ? その戦士としての本能ってのは?」
 ――それはですね……
「いやいや、説明せんで良い。ついでにこの話も、もうどうでも良い! とっとと進むぞ」
  
 
 2
 ようやく町に辿り着く。町は活気に溢れていた。
世 界の危機とかそういうのは全く連想出来ない。実は魔王なんてどこにもおらず、世界を滅ぼすという破滅の儀式などというものも、本当はおこなわれていないのかも知れない。(いや、魔王はいるだろうけどね。話のタイトルからして「魔王対勇者」だしさ)。
 大通りには露店が立ち並び、人込みが出来ていて、様々な声がやかましいくらい飛び交っていた。
 地面は石畳となっていて、建物は大体が石で造られている。そう遠くないところに高い山が見えるのだが、そこのどこかに石切り場でもあるのかも知れない。
「で、どうする?」
 無数に人がいきかう中、青年が言う。
 ――どうする、と言いますと?
 やかましいこの場所、だがハリーはその言葉をうまくキャッチしていた。
「金ねえぞ、宿すら泊まれねえ」
 ――宿ですか、ああ、それなら簡単ですよ、ここ人多いでしょう。だから簡単に出来ますよ、万引きとか、スリとか、引ったくりとか、……
 ハリーはそんなことなんでもない、という風に言う。
「……なるほどな。じゃあ早速やるか?」
 青年はニヤリと無気味な笑いを見せた。
 ――冗談に決まってるじゃないですか、お金なら私が出します。
 青年が、何だよ、といった風に舌打ちをしたその時、勇者の剣が出て来た時と同じように中空から、何枚かの銀貨が青年の手元へと静かに降って来た。青年は慌てて、それを握り締める。
 ――これで充分泊まれますよ。
 
 
 3
 適当に見つけた宿の一室。ドアの真向かいにある小窓から覗く世界は青黒い夜の闇に染まっていた。部屋は陽の光の代わりに、部屋中央の円卓におかれたランプによって照らしている。
「ホントに夜になるんだな」
 ――ええ、だから言ったでしょう。
 青年は部屋の右隅にあるベッドに身を投げ出す。フカフカだとは脅されでもしない限り言えないが、草の褥よりはよっぽど良い。
 それにしても静かだ。外は風さえなく、部屋には時計一つもない。一階が食堂(その言葉が頭に浮かんだ時、青年はこの世界に来て以来、何も食べていないことを思い出した、だがそれほど空腹というわけではない)とか酒場(そういえば、青年は酒を飲めるのだろうか?)とかになっているわけではないため、ほとんど音と呼べるものはない。隣室に誰か泊まっているとしたら、同じようなことを気にしているかも知れない。
 ――ところで今後の話ですけどね。
「何だ?」
 ――この町から山が見えましたよね。
「ああ」
 石切り場があるのではないか、と考えた山だ。
 ――そこに向かってもらいます。
「何があるんだ?」
 ――魔王と戦うために必要な武器があります。
「いきなり最強武器ってやつか、まだ始まったばかりだろ」
 ――じゃあ、もう少し色んなところ回りますか?
「いや、良い。その山にいく」
 慌てて言った。
 ――ちなみにその武器ですが、
「くどい説明は良いからな」
 ――武器ですが、
 ハリーは無視して続ける。
 ――魔王に倒された、私の十二人の兄の残留思念が合わさって出来た剣です。
「呪われた恨みの魔剣ってとこか」
 ――聖剣です。
 やや強い口調で訂正する。
 ――その剣は山の、聖域の洞窟という場所にあります。
「洞窟に入るのか?」
 ――ええ、貴重な体験になりそうでしょう?
「ならねえよ、寒みい」
 ――寒くないですよ、あなたはこの世界ではそれほど温度変化などを感じないようになっているはずですから。
 このことは暑い陽射しの中、歩いていても暑くなかった理由の説明にもなる。やはりつまらない答えだった。
「そうかよ、まあ良い。で、お前はその山について詳しいんだよな」
 ――ええ、だから情報収集とかする必要はありませんよ、ご安心ください。
 ハリーは明るく言った。
「なら今日はそろそろ寝るぜ。ここ来ていきなり疲れ出て来たからな」
 青年はそう言うと、一度立ち上がって、ランプの灯を吹き消し、またベッドに戻り、眠り始めた。
 

 4
 山までは徒歩で向かった。そこまで青年を運んでくれる乗りものがどこにも見当らなかったからである。それでも数時間程度で山には辿り着けた。
 ――わざわざ宿に泊まる必要なんてなかったかも知れませんね。
 ハリーがそう漏らしたくらいである。まあ青年も同じ気持ちだとは、絶対に思えないが。
 例の洞窟は正確には、山の麓にあるのだという。わざわざ高いところまで登らないで済むのは、楽で良い。作者としても(?)。
 ――こっちです。
 さほど深くない森をハリーの指示通り、進んでいくとすぐに開けた場所に出る。そこには高い崖があり、その崖の下には大きな横穴がトンネルよろしくアーチ状に口を開いていた。
 ――ここが例の洞窟です。
「割とデケえな」
 もちろん入り口のサイズが大きいという意味だ。言って、くだらない平々凡々な感想だ、と思い、一ミリリットルの半分くらい(つまりちょびっと)自己嫌悪した。
 ――中も広いですよ。
「まあとにかく入るか」
 青年は平然と洞窟の方まで歩いていく。暗闇を恐れた様子は全くない。
 そしていざ穴の中へ入ろうとすると、
 ――あっ、この先はお一人でいってもらえませんか? つまり会話はなしということで……
「まあ良いっていうか、むしろその方が良いが、何でだ?」
 ――いえ、その……聖剣は兄達の残留思念で作られたものって言いましたよね。つまり聖剣=兄達ということになるわけなんですが、私は兄達に顔を合わすことなど出来ません。
 ハリーは恐る恐るといった風に語る。
「逃げたからか?」
 ――ええ、そうです。一人生き残ったという罪の意識があるせいで、どうしても私を恨んでいるんじゃないかと考えてしまって、ホントは魔王を倒すための最後の希望みたいに思ってくれているのかも知れないし、たとえ今はそう思っていなくても、私が魔王を倒そうとしていることを伝えれば、考えを改めてくれるような気もします。でも、それでも会うのが恐くて……
「でも声だけなんだろ。お前は俺に向けて声届けてるだけで、すぐそばにいるわけじゃねえんだろ。じゃあ別に顔合わすことにならねえじゃねえか」
 ――いえ、そうじゃないんです。確かに私の本体はずっと遠いところにいるんですが、意識というか精神だけはあなたのすぐ側にあるんです。まあいわゆる幽体離脱みたいなもんです。そんなわけで今の私は精神だけの存在、精神体なわけでして、精神から直接声を出してるんです。
 ちなみにどうやったら精神体が声を出す、つまり空気を振動させることが出来るのか、という質問にはお答えできない。ずばり、考えてないからだ。
「へえ、お前の声、俺以外にゃ聴こえねえみてえだから、てっきり、ケータイで話すみてえに、遠くから話してんだと思ったが」
 ――ああ、あなた以外に聴こえないようにしたのは、誰もいないところから声が聴こえると、変に思われそうだから、わざとそうしたんです。まあそのせいで、あなたが変な人に思われることになってしまいましたがね。とにかく、私は会話する時は、常にあなたの側にいるも同然なんです。理由を説明するのは面倒なので省きますが、とにかく側にいないとダメなんです。そういうわけで、あなたと会話するということは、あなたにとってはそうじゃないとしても、私にとってはあなたと一緒にいることに他ならないんです。そして、あなたと一緒にいれば、兄達と顔を合わすことになる。顔を合わせば、たとえ精神体だけの状態でも(兄達は皆、鋭いですから)見つけられて、話し掛けられるかも知れない。そう考えると、どうしても……。
「お前じゃねえからよく分からんが、まあ良いだろう。だが、洞窟に入ってから、聖剣とやらのとこまでは距離あるんだろ。なら、洞窟入った後もしばらく話せるんじゃねえのか。まあ、別に話したくねえけど」
 ――いえ、さっきは兄達に顔を合わせるのが恐いと言いましたけど、正直、兄達のいるこの洞窟に入るって時点で恐いんですよ。ホント情けない話ですが……
「確かに情けねえな。それじゃあ臆病者って言われても仕方ねえぞ」
 ――…………。
「つうわけで、俺はいくからな」
 改めて青年は、洞窟内に足を踏み入れようと……
 ――あっ、ちょっと待ってください。
「何だ、まだあるのか?」
 ――兄達に会ったら、お願いして欲しいことがあるんですけど。
「外出た後は、寝てるようにってか?」
青年のいきなりの発言に対し、ハリーは、
 ――ええっ! 何で分かったんですか。
「勘だよ、勘。万一にも見つかって話し掛けられたりしたら嫌なんだろ」
 ――す、凄い勘ですね。いや本当で。いやあ、どんな人間にも一つくらいは取り柄があるってよく言いますけど、まさか……
「とにかく寝てるように言や良いんだな」
 ――それともう一つ。
「何だ?」
 ――当てられません?
「分かんねえよ」
 ――じゃあ言います。兄達に、私の名前を出さないでください。なぜなら、私の名前を出したら、お願いを聞き入れてくれなくなる可能性があるからです。
「お願いって、寝ててくれってやつか?」
 ――そう、それ。
「随分と慎重だな」
 ――ええ、それはまあ……
「まあ良いか。じゃあな」
 こうして青年は今度こそ洞窟へと入っていった。


 あとがき
 八月中に出す予定だったのに、こんなにも遅れてしまいました。でもここからは速いですよ(根拠の薄い発言)。
 それにしても今回はひときわ面白くないですね。結局、繋ぎだということです、はい。
 でも次回は最終回の一回前ということで、山場です。それなりにご期待ください。
 というわけで、失礼致します。
 
 

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16823地味でも念力……かなあ?エモーション E-mail 2004/9/7 23:48:41
記事番号16821へのコメント

>超能力を持つとしたら
「エスパー魔美」で主人公の魔美が、超能力でよく空中をフワフワ浮いているのですが、
あれがいいなあと思ったので。あれは念力の応用……なのかな?
でも高畑さんのような良き理解者&アドバイザーがいないと、超能力者なんて
やってられないだろうなという気も。

こんばんは。

拉致被害勇者、聖剣を取りに行く……前の段階、ですね。
どうやら青年は、何やら不思議な理屈でこちらの世界に存在しているのですね。
ひょっとしたら「不眠不休でも平気なのでは?」と思ってしまいました。
でも例えそうでも、体力的にはともかく精神的な面で見たら、適度な休憩は
必要なのでしょうね。
昔読んだ某ファンタジー(女神の選定を受けた者たちが世界を救う旅に出るという、
かなりオーソドックスな話)では、「女神の選定を受けた時点で、その者たちは
神々に近い存在になっているため、食事や睡眠といった、本来人間にとって必要な行為が、
いざとなったら全部省略できてしまうし、それが身体に悪影響を出すこともない
(ただし、世界救済が終までの期間限定処置)」という設定がありましたが、
それに近いものかな、と思いました。

兄達を怖がるハリー。
おいおい、と思うけれど、その気持ちも分からないでもないですね。
どうしたって負い目はあるでしょうし、相手がどう思っているかなんて分かりませんから。
ヘタレだろうがチキンだろうが、それなりに行動しているだけマシなのかも。
……まあ、青年にとってはひたすら迷惑だったわけですが。(^_^;)

次回は山のひとつなのですね♪
聖剣を手にするために、洞窟へ入っていく青年。
そこで何が待ち受けているのでしょうか。
……個人的に兄たちがどんな方々なのか楽しみです。
それでは、今日はこの辺で失礼します。
続きを楽しみにしていますね。

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16826Re:地味でも念力……かなあ?ハイドラント 2004/9/8 20:22:19
記事番号16823へのコメント


>>超能力を持つとしたら
>「エスパー魔美」で主人公の魔美が、超能力でよく空中をフワフワ浮いているのですが、
>あれがいいなあと思ったので。あれは念力の応用……なのかな?
確かに、そうなのかも知れませんね。そう考えると念力も案外悪いもんじゃないような……。でもやっぱり、演出効果がないのは……
>でも高畑さんのような良き理解者&アドバイザーがいないと、超能力者なんて
>やってられないだろうなという気も。
正直、超能力者さん方の事情についてはあんまり詳しくないですけど、聞くところによると超能力のせいで不幸になる場合が多いとか。そうだったらわざわざ欲しいとまでは思わないかも。
>
>こんばんは。
どうも、こんばんは。
>
>拉致被害勇者、聖剣を取りに行く……前の段階、ですね。
ええ、結局何も起こっていない回だったりします。変な人が一人出て来ただけで。
>どうやら青年は、何やら不思議な理屈でこちらの世界に存在しているのですね。
>ひょっとしたら「不眠不休でも平気なのでは?」と思ってしまいました。
多分、平気でしょうね。大抵のRPGでも怪我しない限りそうですから(笑)。
>でも例えそうでも、体力的にはともかく精神的な面で見たら、適度な休憩は
>必要なのでしょうね。
まあそういう考え方も出来ますね。あるいは「落ち着ける場所に辿り着いたら休むもの」という考えが青年にあって、ただそれに従順に従っただけという可能性も。
>昔読んだ某ファンタジー(女神の選定を受けた者たちが世界を救う旅に出るという、
>かなりオーソドックスな話)では、「女神の選定を受けた時点で、その者たちは
>神々に近い存在になっているため、食事や睡眠といった、本来人間にとって必要な行為が、
>いざとなったら全部省略できてしまうし、それが身体に悪影響を出すこともない
>(ただし、世界救済が終までの期間限定処置)」という設定がありましたが、
>それに近いものかな、と思いました。
青年に関するアレコレについては、「なぜだか分からないけど、そういう風になっている」というのが(答えになってないけど)答えだったりします。
>
>兄達を怖がるハリー。
>おいおい、と思うけれど、その気持ちも分からないでもないですね。
>どうしたって負い目はあるでしょうし、相手がどう思っているかなんて分かりませんから。
確かに人の気持ちなんて完全には分かるわけないですから(それこそ心を読める超能力者でもない限りは)、今回ハリーが言ったようなことを言われた時は、まずは一応その通りに受け止めておく必要があると思います。まあ納得出来るか、共感出来るかは別として。
>ヘタレだろうがチキンだろうが、それなりに行動しているだけマシなのかも。
>……まあ、青年にとってはひたすら迷惑だったわけですが。(^_^;)
たとえそういう事情があったにせよ、被害者には変わりないですし、それに性格が性格ですから(笑)。

>
>次回は山のひとつなのですね♪
まあ、山といっても作者が過大視してるだけで、正直子供が作った砂の山みたいな程度のものかも知れませんし、ついでにいえば最終回に盛り上がりがあるのか、そして重要なのかどうかも眼高手低ならぬ眼底手奈落な作者には判断着きませんから、「世界に一つだけの小山」になってる可能性もありますけれど……。
>聖剣を手にするために、洞窟へ入っていく青年。
>そこで何が待ち受けているのでしょうか。
>……個人的に兄たちがどんな方々なのか楽しみです。
>それでは、今日はこの辺で失礼します。
>続きを楽しみにしていますね。
今夜中に出せれば良いんですけど、明日明後日になるかも知れませんし、ずっと後になる可能性も否定出来ない。まあ、がんばります。
それでは、ご感想どうもありがとうございました。