◆−Once upon a time? W −朋夜 (2004/9/29 01:13:31) No.16863
 ┗おまけ W−朋夜 (2004/9/29 01:28:44) No.16864


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16863Once upon a time? W 朋夜 2004/9/29 01:13:31


 な、何とか9月中に間に合いました。
 前回の投稿から約3ヶ月・・・・・・本当に、本っ当にお久しぶりの朋夜です。
 そして今回思いついたものは『白雪姫』。しかも主役はリナでお相手はガウリイ。私にしては珍しく、このお話はガウリナ前提!
 そう思って書き上げて、いざ読み返してみると・・・ゼルアメの方が目立ってるような気が・・・・・・
 世の中って不思議ですね。
 とにもかくにも世にも奇妙な童話パロ、Once upon a time『白雪姫』のはじまりはじまり。






『白雪姫』


 追い出しても、追い出しても高笑いと共に舞い戻って来る継母。
 ついに我慢の限界値を振り切った白雪姫は決意します。
「もぉやだ出てく、こんな城」



 こうして快適(?)なお城での生活と、泣く泣く別れを告げた白雪姫が訪れたのは、何かと便利で使い勝手のいいアイテム―――もとい昔馴染みの狩人のもとでした。
「そーゆー訳で、ゼル。どっかいい物件知らない?」
「知らん!というか何故俺に聞く」
 転職した覚えなどこれっぽっちもないというのに、自分を不動産屋扱いする白雪姫に呆れ果てる狩人。
 当然、白雪姫のお願いを叶えるつもりはありません。
 とはいえ、白雪姫の方も簡単に引き下がるような人物ではありませんでした。血のように赤いと称される二つの瞳に不適な光が宿ります。
「ねぇ、ゼル」
「何だ」
「アメリアは元気?」
 実に何気なく切り出された名前に、飲んでいた香茶を気管に入れてしまった狩人は激しくむせ返りました。
「お・・・お前・・・・・・どこでそれを!?」
「さあ?あたしが知ってんのは、あんたが何かと理由を付けて、森の奥の住んでるその『アメリア』って娘に逢いに行ってるってことだけよ」
 それだけ知っていれば充分です。絶句する狩人を横目に白雪姫は続けました。
「そういえばあの人、このこと知って―――」
「絶対言うな!!」
 ばんっ、とテーブルに両手を付き、身を乗り出して叫ぶ姿を双眸に映し取った白雪姫は満足そうな表情を浮かべ、決定的な敗北を感じ取った狩人はガクリと肩を落としました。



 もはや訳が分かりません。
 森の中にひっそり佇む一軒家。お伽話に出てきてもおかしくないような、小さく可愛らしいお家の玄関先で、小人は首を傾げています。
 目の前には諦めきった空気を、これでもかと言わんばかりに纏った狩人。
 そして、その背後からひょっこり現われ、止める間もなくずかずかと家に上がり込むのは―――
「お邪魔しまーす」
「・・・・・・あの・・・ゼルガディスさん?」
 突然押し掛けて来た白雪姫に戸惑う小人。
 しかしながら、今の狩人にこれまでの経緯を説明する気力は残っていません。
「頼む・・・・・・今は何も聞かないでくれ・・・・・・・・・・・・」
 返って来たのは深い疲れを宿した声。小人は頭上に無数の疑問符を浮かべました。
 そんな二人の様子を気にも止めず、室内をそして外の森を眺めていた白雪姫はにっこり笑ってこう言います。
「決めた。ここにする」
『は?』
 どうやらこのお家と周囲の環境がことのほか気に入ったようです。白雪姫は転居先を森の小人のお家に定めました。
 本人の意思をどこまでも無視した決定事項にしばし呆然としていた狩人と小人は、いそいそと荷解きを始めた白雪姫を見てようやく現状を理解しました。
「おい、リナいい加減にしろ!」
「ちょっと待って下さい!いくらなんでも勝手すぎます!!」
 猛然と抗議の声を上げる二人の視線から逃れるようにして、白雪姫はこっそり懐から取り出した目薬を点眼しました。そのままくるりと振り返り、狩人と小人―――主に小人を見つめながら、はらはらと涙(嘘)をこぼして哀願を開始。
「お願い、しばらくの間でいいの!あんな・・・・・・あんな継母のいるトコに帰るくらいなら、あたし―――」
「え・・・・・・」
 ―――不味い!
 そう思った狩人は、慌てて白雪姫の口を塞ごうとしましたが、
「分かりました!こんな所でよければ好きなだけいて下さい!!」
 少し遅かったようです。
 白雪姫の両の手を取って高らかに宣言する小人を止めることなど、一体誰に出来ると言うのでしょう?
 狩人は無駄かもしれないと思いつつ、それでも一応忠告するべく口を開きます。
「アメリア、そいつは―――」
「ゼルガディスさんも、協力してくれますよね!?」
 期待に満ちた二つの蒼を目の当たりにした猟師の返答は・・・・・・言うまでもありませんね。



 とまあこんな風に始まった白雪姫と小人の奇妙な共同生活は、大した騒動も起こらず比較的平穏に過ぎてゆきました。

「アメリア、しっかりしろ!一体何があったんだ!?」
「うっしゃあ!『マンドラゴラ』ゲット!」
「『マンドラゴラ』って・・・・・・まさかこいつに抜かせたのか!?」
「そーだけど?」
「馬鹿な!そんな事をすればいくらこいつでも―――」

むくり。

「はう・・・死ぬかと思いました・・・・・・もぉっ、リナさん酷いじゃないですか!」
「!!」
「何?なんか問題でもあんの?」
「どうかしたんですか、ゼルガディスさん?」
「・・・・・・・・・・・・いや・・・何でもない・・・・・・」

 訂正。
 小さな騒動は常に絶えなかったようです。



 さて、仕えるべき主のうちの一人を、ある日突然失ったお城では。
「平和ですね、フィリアさん」
「そうですね、シルフィールさん」
 白雪姫付きの侍女が二人、優雅にお茶を飲んで過ごしていました。
 よほど白雪姫に苦労させられていたのでしょう。
 心安らかな面持ちからは、己が主の失踪という、異常な事態から派生する筈の不安や悲嘆といった類のものは、一片たりとも読み取れません。
 そのうえ更に幸運は続き、白雪姫が出奔して間もなく、今度はお后様が後を追うようにお城を飛び出してしまったのです。きっと今頃は、どこか遠い異国の地にて、迷子になっていることでしょう。
 趣味と実益を兼ね近隣の盗賊を潰して回るお姫様に、手段の為に目的を選ばないお后様。そして、そんな母娘が繰り広げる攻撃呪文の応酬や、そのとばっちりから開放された二人・・・いえ、この国に住む全ての人々は、ようやく手に入れた平和な暮らしを思う存分満喫していました。

「あとは・・・お后様の部屋にあるあの禍々しい鏡を何とかすれば・・・・・・」
 不敵な笑みと共にスカートの裾をそっと上げ、モーニングスターを取り出す青い瞳の侍女。
「・・・さすがにそれはどうかと・・・・・・」
 同僚の形相にたじろぎつつも、黒髪の侍女は消え入りそうな声で制止の言葉を紡ぎました。



 同時刻。お后様の部屋にて、
「はあ・・・・・・お二人とも何処に行ってしまったんでしょうか・・・」
件の鏡の中に棲む精霊がひとり、溜息混じりに呟いていました。
「困るんですよねぇ、勝手にいなくなってしまわれては」
 人々がかねてより待ち望んでいた安らぎに満ちた穏やかな時間と空間も、人間の負の感情を糧とする彼にしてみれば、ただの苦痛でしかありません。
 一刻も早く二人を連れ戻し、今の状態を何とか覆したいのですが、肝心の足取りを掴めないのではどうすることも出来ないように思われます。
 腕を組み、トレードマークのおかっぱ頭を傾けて、鏡の精は考え込みました。
 自分の広大な情報網を駆使して尚、行方を辿れないとなると―――
「リナさんの方は、ゼルガディスさんが絡んでいると見たほうがよさそうですね」
 万事においてソツがなく、細部にまで気の回る狩人が関わっているのだとすれば、白雪姫のひとりやふたり秘密裏に匿うといった程度のことは、なんなくやってのけそうです。
「ふむ」
 いったん結論が出てしまえば後は簡単でした。
 鏡の精は狩人の動向をそれこそ重箱の隅をつつくかの如く洗いなおし始め、程なく白雪姫の居場所を突き止めることに成功しました。



「林檎はいかがですか?」
「いらない、毒入りだから」
 林檎売りに扮した鏡の精の勧めを、一目でそれが毒入りだと見抜いた白雪姫は拒否します。
「・・・・・・なんで分かったんですか?」
 笑顔を絶やさぬまま、しかし、こめかみに一筋の汗を浮かべて尋ねる鏡の精に、白雪姫はふっと微笑むと遠い目をしました。
「詳しく聞きたい?」
「結構です」
 なんだかとんでもない昔話を聞かされそうです。優れた危険察知能力を持つ鏡の精は、即座に申し出を断わりました。
 と、そこに。
「おっ。美味そうだなー、それ」
「ああ、よろしければどうぞ」
「ちょっ―――」

しゃく。

 どこからともなく現われた金髪碧眼の王子様が、鏡の精の勧めるままに林檎を一口。
 そのままにこにこと機嫌良く林檎を頬張る王子様を、白雪姫は信じられないものを見るような目で見つめます。
「なんだよ?」
「・・・・・・なんともないの?」
「何がだ?」
「いや・・・・・・だからそれ」
「それって、林檎がどうかし―――」

ぽと。

ぱたり。

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
 いきなり倒れた王子様を言葉もなく見守っていた二人でしたが、
「ええっ!?ちょっと、ガウリイ!?」
「おやおや、死んでしまいましたね」
「なぁぁぁぁぁに呑気なこと言ってんのよ!?あ・ん・た・のっせいでしょーが!!」
「そう言われましても、リナさんが大人しく林檎を食べてくれさえすれば、このような事態は避けられたかと」
「んな無茶な理屈があるかぁぁぁぁぁっ!!」
 鏡の精の微妙な正当性を含んだ物言いに、とうとう白雪姫は暴れだしてしまいました。
 その騒ぎを聞きつけて、狩人と小人が森の奥から姿を現します。
「騒々しいな。何の―――」
「おや、ゼルガディスさん」
「ゼロス!?」
「お客様ですか?」
『違う』
 ひとり場の空気を読み違えた小人に対し、狩人と二人がかりのツッこみを入れた白雪姫は、それによって幾分か冷静さを取り戻したようです。ちらりと王子様の方へ視線を走らせ、次に鏡の精を睨み付けました。
「そんなに怖い顔しないで下さい。世界一と言われる美貌が台無しですよ」
「煩い。とっととガウリイを生き返らせる方法を教えなさいよ」
 かなり本気で怒っています。
 本音を言えばもう少し白雪姫で遊んでいたかった鏡の精ですが、これ以上彼女を怒らせるのは得策ではありません。少々残念に思いながらも、王子様の蘇生方法を教えることにしました。
「これは意外ですねぇ。リナさんともあろうお方が、こんな簡単なことをご存知ではないとは」
「・・・・・・」
 やはりというか何というか、勿体付けた言い回しを用いる鏡の精を、冷たい一瞥と沈黙で以って迎え撃つ白雪姫。
「王子様の呪いを解く方法なんて、今も昔もたった一つしかないじゃないですか」

 知りたいのは解毒法です。解呪法ではありません。

 言って、くすりと笑みを湛え、告げられた内容に。
「・・・・・・へっ?」
 頓狂な声を上げた白雪姫の雪のように白い肌が、一瞬にして上気します。
 そこに先程のような緊迫した雰囲気は、影も形もありません。
「ぢょ・・・・・・ぢょーだんでしょ・・・っていうかそれ、別のお話じゃあ・・・・・・」
「いえ、展開的にはこれで合っている筈ですよ。ねぇ、ゼルガディスさんにアメリアさん?」
「ええ、まあ・・・・・・」
「間違ってはいないが・・・・・・」
 揃って頷く狩人と小人を視界に収め、心身ともに固まる白雪姫。それを楽しそうに眺める鏡の精に、倒れ伏している王子様。誰一人として動こうとしないこの状況―――約一名、動きたくとも動けない人が交ざっていますが―――は、傍から見る限り三竦みさながらの様相を呈しています。
 さあ、果たして白雪姫は、王子様を無事生還させる事が出来るのでしょうか?





 そして―――



「今思い出したんですけど」
「?」
「リナさんって、確か『麗和浄』が使えましたよね」
「ああ。だがこの場合、そいつは役に立つのか?」
「さあ?でも、試してみる価値はあると思うんですけど・・・・・・」



 背後で交わされる狩人と小人の会話が指し示す、もうひとつの解決策に気が付く可能性はあるのでしょうか?





おわり

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16864おまけ W朋夜 2004/9/29 01:28:44
記事番号16863へのコメント

『おまけ』



「明日から静かになりますね」
 一悶着のその後で、白雪姫と王子様を送り出した帰り道、小人はぽつりと呟きます。
 勿論、二人が幸せになってくれたことに関して、異論がある筈はありません。
 ただ、これまでが賑やか過ぎた分、明日からの生活は何処かしら味気ないものになりそうで、それがほんの少し淋しく思われます。
「あいつらの事だ。そのうちなんだかんだと理由を付けて、またお前の所に入り浸るようになるだろう」
「そうなんですか?」
「ああ、保証する」

 随分と妙な保証もあったものです。

 しかし実体験に基いて語られた言葉には、かなりの説得力があったらしく、小人はその表情から翳りを消してにこりと笑いました。
「あ、そうだゼルガディスさん。良かったら家に寄って行って下さい。珍しいお茶が手に入ったんですよ」
 久々に二人きりになれるチャンスです。
 狩人に断わる理由はありませんでした。



「あれ?」
 玄関扉のノブを回した小人はきょとんと瞳を瞬きます。
「どうした?」
「いえ・・・・・・鍵、ちゃんと掛けたと思うんですけど」
「開いていたのか」
 こくりと頷く小人を押しのけ、薄く開いた扉の隙間から室内の様子を覗う狩人。次の瞬間その顔から、ざぁっ、と音を立てて血の気が引いてゆきました。
「???」
 ぎこちない動きながらも、音を立てないよう細心の注意を払って扉を閉め、突然の豹変ぶりに目を丸くしている小人に向かって、必死の形相で語りかけます。
『喋るな!』と。
 ―――が。
「ゼルガディス?」
 中に潜んでいたらしい人物にはしっかり気付かれていました。

ばんっ!

 咄嗟に後ろ手でドアノブを握り締め、もたれかかる様にして扉を閉めた狩人は、誰が白雪姫に自分と小人との逢瀬をリークしたのかを知りました。
「あの、中に誰かいるんですか?」
「・・・・・・」
「はっ!もしや悪!?ならば正義の鉄鎚を―――」
「下すな!いや、下してもいいが・・・・・・やっぱり駄目だ、入るんじゃない!!」
「えっと、でも、ここわたしのお家なんですけど?」
 堂々巡りの押し問答は、痺れを切らした不法侵入者が勝手口から出て来るまで、途切れることはありませんでした。




 ・・・・・・これはやっぱりアレでしょうか。
 真偽の程を知りながら、白雪姫に伝えなかった事に関する―――天罰とか?

「そ、」




「そんなわけがあるかっ!!」






おしまい