◆−『CIV』― Melody Memory ―−蛇乃衣 (2004/10/28 10:32:28) No.16882 ┣『CIV』― Downpour 1 ―−蛇乃衣 (2004/10/28 10:41:23) No.16883 ┃┗『CIV』― Downpour 2 ―−蛇乃衣 (2004/10/28 11:14:56) No.16884 ┃ ┗・・・・・・−リィ (2004/10/29 20:33:46) No.16885 ┃ ┗Re:・・・・・・−蛇乃衣 (2004/11/2 00:38:28) No.16888 ┣『CIV』― Downpour 3 ―−蛇乃衣 (2004/11/2 00:49:21) No.16889 ┣『CIV』― Downpour 4 ―−蛇乃衣 (2004/12/29 20:50:44) No.16935 ┣『CIV』― Sturm und Drang ―−蛇乃衣 (2004/12/29 21:09:50) No.16936 ┗『CIV』― BREEZE ―−蛇乃衣 (2004/12/29 21:23:14) No.16937 ┗祝! ゼルさん救出!8(*><*)8−りぃ (2005/1/2 03:37:20) No.16942 ┗Re:祝! ゼルさん救出!8(*><*)8−蛇乃衣 (2005/1/7 19:55:53) No.16951
16882 | 『CIV』― Melody Memory ― | 蛇乃衣 | 2004/10/28 10:32:28 |
こんにちは!ちょこっと復活した蛇乃です! 本編更新の歩みはナメクジ並ですけどね・・・・・自分で言っててなんだかなぁ・・・ 『CIV』、そろそろルークさんとゼロスさんが出張ってきます。 しかし・・・ふと省みると、リナちゃんが逆ハーレム状態ですね;そういうのはあまり好きじゃないのですが・・・。 でも、まあ、うちのリナちゃんはガウリイさんとペア、というのがみなの頭にありますし。 女の子、出したいのですが・・・ポジションがないのですよ・・・。 ******** 「…シチリアーノ?」 耳に染み入る繊細な音色の名を、まどろみから抜け出したゼルガディスは記憶から掬いだした。 優しく、どこか哀しい、フルートの響き。 「お、知ってるのか」 ソファに寝転んでいた黒髪の男は身を起こし、心なし嬉しそうな顔を見せた。 「名前程度だがな。作曲家は…フォレ、だったか?」 「そう、そいつ」 「しかし意外だな、ルーク。クラシックが趣味だとは」 それも、音を閉じ込めているのは黒く光を弾くレコードだ。 物が散々としている――その割に、どこか静寂を漂わす――この部屋には、少々不釣り合いに思える。 「好きなのはこの曲だけだ……いや、好きっつぅのでもねーか。……時々無性に聞きたくなる、そんなとこだな」 口は緩く弧を描いているが、わずかに翳りがある。 「そうか」 正直、違いの程は良く分からなかったのだが、ゼルガディスは敢えて尋ねなかった。 ゆっくりとベットに上半身を起こし、ルークに向き合う。 「だいぶ回復したな、ゼルガディス」 昨日に比べ、顔色が良い。 「けど、まだ骨は完全にくっついてねぇんだからな」 「分かっている」 水をくれないか?との頼みに、ルークは冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、軽く放る。 それは巧い具合いに、ゼルガディスの右手に捕えられた。 「あ、ふた開けられるか?」 「問題無い」 ボトルを左手に持ち変え、右手で開ける。 折れてしまった左腕に負担をかけないようにだ。 幸い、右の腕は無事で、手首を軽く捻挫していたがそれも今は治っている。 ごくり、と一口。 喉を滑り落ちる水のひんやりした冷たさが、体に染み渡っていく。 ヘリから落下したあの時、ゼルガディスは偶然裏路地のボロ小屋に落ち、大怪我を負ったものの一命を取り止めたのだ。 小屋の中に、段ボールや発砲スチロールの箱やらが積まれていたのも幸いだった。 周りのビルに入っている店から出たものが集めて置かれていたのだろう。 もっとも、ゼルガディスの落下中の記憶は曖昧であり、小屋に打ち付けられた衝撃にて完全に意識は途切れてしまっていた。 なので、自分が死ななかった要因は、全て目の前の男から聞いたものである。 「ぽっきりいっちまったのが、左腕だろ、肋骨二本だろ…あれ?三本だったけか……?」 「二本だ」 わざわざ指を立てて数えてゆくルークに、ゼルガディスは訂正した。 「ああ、一本はヒビ入ってたのか。左足股もヒビだろ?あと、捻挫が数箇所。切り傷擦り傷打撲多数……」 ルークは改めてゼルガディスをまじまじと見た。 「運が良いっつーか悪いっつーか……ホント、よく生きてたよなぁ。お前、簡単に死なない分痛い目ばっかあいそうだ」 「しみじみと言うな。しみじみと」 「いや、だってよぉ。頭からダクダク血ィ流して倒れてんの見付けた時は、正直駄目かと思ったぜ?」 「ダクダクって…それは額を切っただけだっただろうが。誇張しすぎだ。それに…」 ゼルガディスはここでいったん言葉を止めた。 大きく、ゆっくりと深呼吸をする。 微熱を持て余す身体には、一度にのお喋りが負担になる。 まあ、ゼルガディスは元々口数の多い方ではないのだが、この部屋には二人だけなわけだし、いつの間にか相手の言動に一言、最低でも何かのリアクションを返す(人はそれをツッコミと呼ぶ)のが習慣になってしまっていたので、ちゃんと会話は続いていく。 「――それに、駄目だと思ったんなら、どうして俺を連れて来た?」 わざと、呆れを含ませた口調で尋ねた。 本当は、もっと前から聞きたかったのだが…… どうして自分を助けたのか。 わざわざ自分の部屋にかくまってまで。 この男はわざわざ詳しく――いや、ほとんど全く聞いてこないが、自分が問題を引き連れてきそうことは明らかなのだ。 自分の意識が戻らぬ間、追手は来なかったのだろうか? 「いや、落ちてるもんは拾っとこーかと」 「貧乏性が」 間髪いれずに打ち返された言葉に、しかしルークは奇妙な笑いを口の端に浮かべた。 『浮かべた』というより、無意識の内にそんな表情になってしまったのだろう。 にやりとした、それでいて泣き笑いのような、そんな顔をした。 「ん〜…」 彼は困ったように後ろ頭をかいた。 「納得しねぇか。やっぱり」 「掛け値なしの良心だけで動くようには見えないな」 「ハハッ、言うねぇ〜」 肩をすくめてみせ、ルークはベットの脇に近付くと壁に背を預けた。 「まあ、普通なら厄介事はごめんなんだけどよ、そのまま見殺しにするのも夢見悪ぃだろ?それにさ、あんた少し似てんだよ」 「似てるって…誰に?」 「昔惚れた女」 「……………」 「いや待て別に俺は男に興味無ぇし病人怪我人襲う趣味も無ぇよ!その目はやめろその目は!」 慌てて弁解するルーク。 針の鋭さを持つ白い眼は幾分和らいだものの、ゼルガディスのぶぜんとした表情はそのままだ。 「だから大丈夫だっての…おいおい……過去に嫌なことでもあった―――」 ギロッと睨み付けられ、ルークは言葉じりを飲み込んだ。 (う〜む…地雷だったか……?) 「そうじゃない」 タイミングの良さに、一瞬、読心術でも会得しているのかと疑った。 だとしたら、まずい。 「あんたの性癖うんぬんをつついてるんじゃない」 「…じゃ、なんだよ?」 はぁ、とゼルガディスはため息をついた。 不機嫌さに呆れと疲れがプラスされたようである。 「じゃあ、お前は、自分が『昔惚れた“女”』に似てるって言われて、どう思うんだ?」 「……まあ、嬉しくはないな」 ゼルガディスは再びため息をついた。 頭痛がする。熱がまた少し上がったかもしれない。 「……寝る」 「あー…なら、なにか腹に入れて薬飲め。今夜、医者来るぞ」 「医者……」 ふと、腕だけなら間違いなく一流の“医者”が脳裏に浮かんだ。 それから、『世界の宝は私のものよ!』と豪語する栗色髪の大泥棒と、彼女の相棒であり“自称保護者”でもある金髪の彼の顔も。 彼等と連絡をつけられないまま、もう三週間になる。 心配しているに違いない。 (そういや……) 落ちる寸前の記憶が蘇る。 (リナが怪我をしたな…) レゾもいることだし、命に別状はないと思うが。 ゼルガディスの曇った表情をどう取ったのか、 「心配すんな。腕は確かだし、口も固ぇ奴だ」 ルークが言った。 「――そうか…」 わずかな間の後に頷くゼルガディス。 そして気付く。 レコードはいつの間にか止まっていた。 |
16883 | 『CIV』― Downpour 1 ― | 蛇乃衣 | 2004/10/28 10:41:23 |
記事番号16882へのコメント 「ひっどい雨ね」 地上を覆いつくす雨音に、リナは本日何度目かのため息をついた。 窓を覗けば、さながら滝の裏にいる雰囲気を味わえる。 天にはさぞかし分厚い雨雲が広がっているのだろう。 「傷、うずくのか?」 かけられたガウリイの声に、リナは自分が右腕を包帯の上から撫でさすっていたことに、初めて気付いた。 「ん?…まあ、少しね」 たいして痛くはないからと、軽くひらひら手を振ってみせる。 「昨日の夕方からから雨、雨、雨。こうどしゃ降りだと、さすがに気が滅いるのよねぇ……」 毛布の敷かれたリビングのソファに寝転がり、柔らかな毛先に頬を押し付けた。 レトロな感じのテレビからは絶え間なくニュースが報道されているが、リナのアンテナには引っ掛からない。 微笑みを浮かべるアナウンサーがブラウン管の向こうで読み上げるのは、珍しくものどか和やかなニュースばかりで、望んでいる情報はちっとも流れてくる気配がない。 「もう少し寒くなったら、大雪になるな。…なあ。あれ、使えると思うか?」 同じく、真面目にニュースを聞くことなどせず、せいじいBGMがわりにしているガウリイの指差した先、 だだっ広いリビングにふさわしい大きさの、煉瓦造りの暖炉がたたずんでいる。 火のともっていないそれは暗く、むしろ寒々とした印象を与えてくる。 「…さあ…レゾに聞いてみないと……なに仕掛けてあるか、分かったもんじゃないし」 「だよなぁ」 けれど、尋ねるべき人物がここにはいない。 しばし、途切れない雨音とアナウンサーの声だけが部屋を埋め尽す。 「――四日で帰るって言ってたわよね?」 もう、六日姿を見ていない。 「48時間もオーバーしてるじゃない」 「多少ずれるかもしれない、とも言ってただろ?」 「―――めっずらしぃー……」 「なにが?」 「ガウリイが、人の話覚えてたことが」 「おいおい。俺だってなぁ……」 リナはぶつぶつ言っているガウリイに忍び笑いをし、 アナウンサーの表情が硬質なものに変わったのを視界の片隅に捕えた。 ブラウン管を通り越し、緊張が伝わってくる。 「ガウリイ」 身を起こしたリナの呼び掛けに、ガウリイも画面に注目する。 『只今、新たなニュースが入りました――』 時刻は前に戻る。 「まったく、忌々しい雨だ」 本格的に降り出してきた雨に、ブランはそう呟くと、ボディーガード一人を従え、迎えの車に乗り込んだ。 暖房の効いた車内。 わずかに感じる、甘い香り。 心地良い、花と柑橘類が混ざりあったような良い香りだ。 運転手の趣味だろうか。 紺の制服と白い手袋に身を包んだ、褐色の肌の男だ。 そうだとしたら、なかなか良い趣味だとブランは思った。 深く息を吸う。 車内に漂っているそれが、鼻孔を通り身体に染み込んでゆく。 ブランが煙草を取り出すよりも少し早く、車滑らかに進み出した。 窓ガラスには、雨霧に包まれた町並みが映っては流れ消えてゆく。 「忌々しいと言えば……」 ブランの眉が寄り、煙草をくわえた唇が歪む。 「あのコソ泥らめは、まだ捕まらんのか」 パーティーを開けば台無しにされ、バカンスに行けば会社で爆破騒ぎ。 おかげで経営にも支障が生まれた。 故に、わざわざ社長である自分が動かなければならない。 食事をし、酒を飲み、愛想笑いをするのも楽ではないな、と、労働をなめた発言を心中で呟く。 コンツェルンに入ったヒビは全体から見れば多少といった程度だが、ブランのプライドに入ったヒビは相当深い。 『土台が脆いのだ』、という意見は、彼の深層心理のどこからも出ないようだ。 「…獣神官からは、まだなにも連絡がありません」 後ろに座る男が答えた。 「たかがネズミ数匹だ。なのにこんなに手間取っているとはな。“獣神官”とやらの底も知れたものだ」 紫煙を吐き出し、灰皿に煙草を押し付ける。 「ヅェヌイはしつこく言っておったが…これならば、そう大げさに警戒せんでもよかったか……」 肺に広がった苦さは、しかし、一息空気を吸い込んだだけで甘い香りに覆い尽された。 (ヅェヌイ…) 頭に浮かんだ副社長の地位にいる男の顔。 いつも極彩色の服を着、コメディアンのようではあるが、裏工作にたけ、そしてそれを楽しむ男だ。 「使える男だが、奴も油断はできんな」 ブランは、ぽつり、と誰にともなく呟いた。 拍子に、また深く入り込む甘い空気。 香りが、先程よりも強くなっている。 むせかえるぐらいなのに、不思議と不愉快とは思わない。 「ふむ……」 身体が軽くなっていくようで、思考もふわふわと落ち着かない。 ただ、春のまどろみのように、気持良い。 煩かった雨の音も、耳を素通りしてゆく。 夢の中にでもいるようだ。 ドサッと、後ろから音がした。 肩越しに見やれば、後ろに座っていたボディーガードの男がシートに横になっている。 眠っているようだ。 職務怠慢、と普段ならば腹を立てるところだが、ブランはなにも言わず再び前を向き、シートに座り直した。 いや、腹を立てるよりも先に、明らかな異常を感知するべきだった。 ブランは出来なかった。 男が何をしようが、もうどうでもよかったのだ。 怒りとか、腹立たしいとか、不安だとか、そういった感情は、雨にすべて吸い込まれ、流れていってしまったようで。 先程、煙草にぶつけた苛立ちも―― (いや…そもそも) ふと考える。 (儂はなにに腹を立てていた…?) 本格的に降り出してきた雨粒と、せわしなく動くワイパーの音が、時間の流れを掴みにくくする。 車に乗ってからどのくらいたった? 車に乗って、どこまで行くはずだった? 「おい」 ハンドルを握る運転手に声をかける。 (儂は今、いったい――) 「どこに向かっているんだ?」 ずっと沈黙を保ち続けていた運転手は、しばししてから口を開いた。 「――あなたに行き着く先があるとすれば―――」 車が止まった。 いつのまにか、細い裏通りに来ていた。 運転手が振り替える。 褐色の肌。黒い髪。 濃い茶色の瞳は、どこか作り物めいて。 「地獄なのでは?」 それが、白く霞んでゆく意識の中、ブランが最期に聞き取れた言葉だった。 |
16884 | 『CIV』― Downpour 2 ― | 蛇乃衣 | 2004/10/28 11:14:56 |
記事番号16883へのコメント 夢の中に落ちていった老人を静かに見つめ、運転手はポケットから小さな袋を取り出した。 それには、一枚の白いハンカチが入っていた。 彼は身を伸ばし、綺麗に折り畳まれたそれでブランの鼻と口を覆う。 ブランはわずかに眉を寄せ、 それだけだった。 運転手はさらに十秒ほどしてから、ハンカチを取り去った。 引いた腕がハンドルに当たり、ガタッと音を立てたが、ブランはぴくりとも動かない。 これからも、もう動くことはないだろう。 運転手は奥のボディーガードも起きていないことを確認し、助手席に置いてあったコートを手に、雨が降りしきる外へとその場を後にした。 雨の中を走る。 打ち付ける冷たさは、まるで針のようだ。 一つ目の角でコートをはおり、二つ目の角を曲がると同時に手を顔に当て、 ビリッ 現れたのは白皙の顔。 剥がされた人工皮膚のマスクは、ポケットに押し込まれた。 彼――そう、レゾ=グレイワーズはそのまましばらく裏路地を駆け、雨のしのげる場所を見付けると、そこで初めて一息ついた。 水分を含んだ服は重く、髪が頬に張り付く。 やはりぴったりと肌に吸い付いてしまっている手袋は外し、それもポケットに入れた。 直に外気に触れることになった指先の爪が、薄い紫色になってしまっている。 外壁に背を預け、レゾは携帯を取り出した。 ゆっくりと、記憶を確かめるようにしてボタンを押してゆく。 最後にこの番号にかけたのは、もうずっと前になる。 ――現在、この番号は使用されておりません―― 無機質な女性の声を無視し、 「雀から烏へ伝言です。あなたの祈祷書の一節を、悼辞として読み上げて下さい」 ――ブツッ 『――やあ、レゾ。お久しぶり……半年ぶりかな?』 合成音が途切れ、変わりに聞こえてきたのは変声期前の少年の声だった。 『まあ、これを通して話すのは…だいたい十年ぶりになるけどね』 クスクスと、笑い声。 そういえばと思い出す。 故意なのかかそうでないのかは知らないが、電話の向こうの彼は、“仕事”の話しをする時はいつも、まるでいたずらを持ちかけるような雰囲気で喋っていた。 「こんにちは、フィブリゾさん。なによりですよ――お変りないようで」 一息の間だけだったが、相手が沈黙した。 『…おかげさまでね』 わずかに崩れた機嫌が手に取るようにうかがえる。 こんなところも変わっていない。 半年前も、十年前も。まだレゾが暗殺者だった時も。 『で?この“暗殺依頼”関連専用の番号にかけてきたってことは、殺し屋復帰したわけ?僕ならいつでも仲介してあげる』 君なら今からでもすぐスケジュールが詰まるよ。 と、本気なのか冗談なのか分からない応答をくれる。 「これに電話したのは、あなたとすぐ連絡を取りたかったからですよ」 たとえ夜中でも、彼が出てこなかった記憶は無い。 だが、正直なところ、いまでも繋がるという確信も無かった。 彼は最後に、『いつでも待っている』と言ってはいたのだけれど。 『で、なにか急用でもあるのかな?』 弾みを取り戻した声音とは対照的に、 「――先程、ブランがコマドリを飼いました」 静かに、低く囁くようにレゾは言った。 Who killed Cock Robin? 『誰そコマドリ殺せしは?』 I,said the Sparrmw, 雀はいひぬ『我こそ!』と 『――ふぅん…』 つられてか、わずかに声のトーンが下がる。 含みを、忘れたはずはない。 そもそも、この言い回しはフィブリゾが使い出したのだ。 『そりゃまたなんで?どうして僕に言うのさ。警察に通報してほしいとか?』 「とぼける必要はないでしょう?あなたがそうさせたのに」 『なんのこと?』 「あなたが、ゼロス――あの獣神官の本当の依頼人なのでしょう?そして彼を使って、消そうとしていた」 ブラン=コンクニールを。 『……君の予測って、少し突飛なんじゃない…?』 レゾは構わず続ける。 「売り込んだのか、はたまた偶然かは知りませんが、雇われたとはいえ、彼はあまり信用されてなかったようですね。 なかなか近付けなかったのでしょう?」 ここで、捕まえるべき泥棒がレゾ達だと分かった。 レゾに暗殺をけしかけてから、逆にゼロスは本来の目的――己のブラン暗殺をほのめかせ、自分の方へと注意を引いたのだ。 「お忘れかもしれませんが、闇医者の『赤法師』と暗殺者の『赤法師』が同一人物だと知る人間なんて、ほとんどいないんですよ?」 というよりも『暗殺者・赤法師“Red Oracle”』自体が、噂には尾ひれが着きものだとしても、なかば都市伝説のごとき存在となってしまっている。 すでに死んでしまったと伝える者もいる。 正確ではないが、正解とも言えるだろう。 『赤法師“Red Oracle”』は、もう、暗殺者の名ではないのだから。 小さく、レゾは非難めいたため息をこぼし、 「一年ほど前でしたか、あなたの会社でパソコン用のゲームの開発をしているとお聞きしましたよね」 ふいに話をそらした。 フィブリゾにも、ちゃんと表だった仕事がある。 しかも、世界でも指折りのおもちゃ会社の社長という地位だ。 手掛ける中心はリアルな映像、クリアな臨場感が売りのゲームで、大きなアミューズメントパークも経営下にある。 いろいろと“普通”の会社ではないことは、いまさら言うまでもないが。 「ずいぶん熱を入れて話されていましたが…まだ、発売されていませんね」 機械越しには、なんの声も聞こえてこない。 フィブリゾは、沈黙をもって続きを促している。 「良く似た品を、どこでしたか…小さな会社が発売してはいましたけれど」 関心はそれほどなかったのだが、ニュースや新聞でも割りと大きく取り上げられていたので、レゾの記憶にも残っていたのだ。 よくこんな小規模会社が、というのが初めに浮かんだ感想だった。 「今も、凄い人気でしょう?ですが、近々他の企業と合併されるらしいのですよ。吸収される、と言っても差し支えありません。 私は、そんな必要ないと思うのですが……確か、合併するのは――」 『コンクニール・コンツェルン』 ぼそり、とフィブリゾが呟いた。 そして盛大なため息が続く。 『そうだよ。コンクニール・コンツェルンが裏に回ったのさ』 今まで溜めていたのか、開き直ったかのようにハキハキと喋り出す。 『ま、僕も油断してたんだけどさ。ブランにそんな度胸あるとは思わなかったし。いろいろとゲーム以外のノウハウも持ってかれてね』 たいした痛手じゃないけど、と付け足すあたり、それが事実だろうとも、彼の見栄がうかがえる。 『あの会社もさ、せっかく僕が目をかけたのに、ブランに寝返るなんて見る目がないね………なんだい?』 レゾが小さく笑っているのを聞き留めて、フィブリゾは不機嫌そうに尋ねる。 「いえ……その会社、どちらにつこうとも、どのみち吸収されてしまったのだろうな、とね」 フィブリゾは無言で、あまり子どもらしくない笑みを浮かべたが、その気配はレゾにも伝わった。 ふ、と。レゾから笑みが消える。 「……私は、あなたの方の事情なんて、どうでもいいのですよ」 だから、利用されたなどと、あれこれ言うつもりもない。 「私は、ゼルガディスが戻ってくれば、それでいいんです」 他に、なにを望むというか。 『――だろうね…』 フィブリゾは形容しづらい、静かな相槌を打った。 「獣神官は、動かしていただけるのでしょうね?」 『もちろん。わかってる。ゼル君、僕も好きだし……それに、君ばっかりが弱味を握ってるのはズルイだろ?君のも“目に見える形”であった方が良い』 「……その様なことはありませんよ」 なにに対する否定だろうか。 フィブリゾは敢えて聞かなかった。 『雨…』 「はい?」 『そっち、雨が凄いでしょ』 雨音が、わずかだが、レゾの声に混じってフィブリゾまで届く。 『止むと良いね』 「ええ」 『止んだら、遊びに来なよ。みんなで』 「そうですね…聞いてみますよ」 『うん。じゃあね』 「それでは」 そして、通信は切られた。 |
16885 | ・・・・・・ | リィ | 2004/10/29 20:33:46 |
記事番号16884へのコメント ・・・・・ドキドキv ・・・・・ワクワクv |
16888 | Re:・・・・・・ | 蛇乃衣 | 2004/11/2 00:38:28 |
記事番号16885へのコメント ・・・ウキウキv・・・ソワソワ。・・・・・・・ビクビク・・・ がんばります。 |
16889 | 『CIV』― Downpour 3 ― | 蛇乃衣 | 2004/11/2 00:49:21 |
記事番号16882へのコメント 「あ〜あ…分かっちゃったか」 デスクに足を乗せ、椅子の後ろ脚だけでバランスを取りながら、フィブリゾはさして残念そうでもなく呟いた。 両腕は頭の後ろで組まれている。 肩に届くかいなかの、わずかにクセのある黒い髪。 一見、少女と見間違えてしまいそうなほど、その容貌は中性的な愛らしさを湛えている。 十二、三の美少年。 大方の受ける第一印象はこうであろう。 そして勘の良い者ならば、それに首を傾げるかもしれない。 彼の大きな黒い瞳の奥に溶ける、少年には持ち得ない狡猾な光を感じ取り。 (ま、僕としても、動いてくれたならそれで良いんだけどさ) とりあえず、目的は達成されたのだから。 フィブリゾはぼんやりと、天井に視線をさ迷わせる。 一般的なオフィスよりも高い位置のそれには、壁を含んだ一面に絵が描かれている。 空だ。 東側から淡黄の朝焼けの情景に始まり、中間の白雲が浮かぶ抜けるような青を過ぎ、西側の紅い夕焼け、宵の紫紺で締め括られている。 今、フィブリゾが背にしている大きな窓が南にあり、この階が地上遠く離れていることもあって、天井が本当の空のようにずっと遠くに感じる。 (…暇になっちゃったなぁ) もちろん仕事はあるのだが、細かな実務は下に任せてある。 (レゾもゼル君もヴァル君もガーヴ…はいいとして……ちっとも遊びに来ないしなぁ…) もともと頻繁に来ていたわけでもないが、彼等が自分と同じ背丈くらいのころは、それでも今よりは顔を会わせていたものだ。 開発中のゲームなどをテストプレイして、感想を言ってもらったりもした。 レゾは全体を通して興味が薄かったようだが、ゼルガディスとヴァルはなかなかに鋭いところを突いてきて、聞きがいがあった。 「ふふっ……」 記憶に、思わず小さな笑みがこぼれる。 心の中の情景を懐かしむのは、深い大人の眼差しだった。 大人びている、というわけではない。 子供じみた口調や動作が演技というわけではないが、こちらの方が本来の彼と言える。 この少年の姿をした彼の年齢は、レゾやガーヴよりも上なのだ。 とうに、壮年の域に達しているのだ。 「さってと…約束もしたことだし、ゼロスに連絡――」 ズキンッ 「――――っ!」 突如襲った胸の痛みに、フィブリゾは思わず息を詰めた。 バランスが失われ、椅子から崩れ落ちる。 ドクドクドクと、急速かつ不規則に心臓が脈打つ。 (薬…) 服を握り締めながら、引き出しをあさる。 見慣れた錠剤を取り出すと、一粒飲み込んだ。 「――っはぁ………」 フィブリゾは毛先の長い緑の絨毯に頬を押し付け、鼓動が正常なリズムに戻るまでじっとしていた。 (いい加減慣れたとはいえ、やっぱり、ちょっとキツイな……) 身体の成長を止めるための薬。 それを初めて飲んだ時は、“成長しない”ということを曖昧にしか捕えていなかった。 むしろ、永遠に子どもでいられると、そんなふうに思いさえした。 ――そんなわけがないのに。 (でも、なにもしなかったら余命一年だったもんなぁ…) フィブリゾは、生まれつき心臓病を患っていた。 大まかに言うと、血液を身体に送り出す、ポンプとしての機能が弱いのだ。 血を正常に巡らせるには、大人の身体は大きすぎた。 選ばざるを得なかったようなものだけれど、 (それでも、僕が、決めたんだから…) 子どもの姿での生涯を、悲観したりはしない。 けれど―― (にしても、レゾしか薬の製法知らないってのは問題だよね) フィブリゾは痛みをまぎらわせるために、わざと他のことを考え続けた。 (効き目が良いのは認めるけど、バカ高いんだよね。法外だよ、法外――って、そもそも無免許か……) 年をおうごとに、併用する薬の数が増えてゆく。 年月というものは、確かに体に降り積もっているのだと、あまり喜べない形で実感する。 だいぶガタがきていると、二代目主治医のしかめられた顔を思い出す。 無愛想無表情無感動なお子様だった彼が、無免許とはいえ、まさか医者になるとは思わなかった。 てっきり、暗殺者として一生を終えるものだとばかり思い込んでいた。 (“お変りないようで”、か……) そう言った彼は、随分と変わった。 死の縁を歩いているのは変わらないくせに、その足取りは、強くしっかりと大地を踏みしめて。 (分かってるさ……) 銀髪の子どもと、緑の瞳の子どもの成長は、若木のようにしなやかで凄まじくて。 あっという間に、少年から青年の変化をとげて。 (変化があって当たり前なんだから…) フィブリゾは仰向き、瞳を閉じた。 すでに胸の痛みは和らぎ、心臓も規則正しく振動している。 子どもの姿での生涯を、悲観したりはしない。 けれど、 どうしてだろう、他人の変化のめまぐるしく輝くところばかりが目につく。 まるで、嫉妬しているみたいではないか。 「なんだかなぁ……」 おもわずこぼれ出たため息まじりのそれは、誰に聞きとめられるでもなく、塗料の香りが残る固い空に吸い込まれていった。 |
16935 | 『CIV』― Downpour 4 ― | 蛇乃衣 | 2004/12/29 20:50:44 |
記事番号16882へのコメント 「…では、明日の夜に」 ――ガチャン… ルークは受話器を下ろした。 家――という意識は、ルークにはあまりないのだが――から三ブロックほど離れた場所にある公衆電話でのことである。 ガラス戸を開け外に出れば、夜の冷気がまとわりつく。 冬の寒さは、陽が落ちるとさらに容赦無い。 雨が降っていれば、なおさらだ。 「寒ぃ…」 反射的に口を突いて出た。 ならばなにか上に着ろ、と。思わずそう言いたくなる、シャツにジーンズ、薄手のジャケットと、ルークはそんな格好である。 頭を冷やしたかった。 いや、もう冷えきっているのかもしれない。 けれど、確かに感じるのだ。 熱っされてどろどろに溶け、てらてらと光を放つものが胸の内にある。 これが冷え固まって、風化してゆくことなど、あるのだろうか。 傘をさし、ルークは家に向かって歩き出した。 昼はまだスコールのようだった雨も、今はもう弱くなっている。 夜半を過ぎれば、完全に上がるだろう。 ヘッドライトの中に、幾本もの針が浮かび、路上へと落ちてゆく。 ルークはゆっくりと、夜の街へと足を進めた。 考えなければならないことは山ほどあるのに、頭に浮かぶのは、フルートのやわらかな旋律ばかり。 優しく、強く、耳に滑り込むメロディー。 回る黒い円盤。 ――綺麗な曲でしょう? 頬と、肩を包むさらさらとした銀の髪。 ――父が、よく吹いていたわ 懐かしそうに、どこか遠くを見つめていた緑の瞳。 初めて見た微笑みは、 ――この曲だけが、繋がりだった 悔しいくらい、哀しげで、 苦しいくらい、綺麗で―― 気付くと、すでに家に着いていた。 鍵を開けて部屋に入り、そして感じる人の気配。 “誰か”がいる家に帰ることに違和感がなくなっている自分に、苦い笑いがこみ上げてきた。 (なにをいまさら…) ゆっくりと緩慢な足取りで、さして広くもない部屋を横切り、ベットの脇に立つ。 ナイト・テーブルに並ぶ、空のコップ、皿、スプーン。 破られた銀色の包み紙が、黄色がかった明かりに照らされている。 薬はちゃんと飲んだらしい。 じっと、見下ろす。 眠る、いや、眠らされている青年は、壁の方を向いていて、その表情は分からない。 わずかな体の上下で、その呼吸が安定していることを知る。 「……初めっから、そのつもりだ」 己自身に言い聞かせるため、ルークはわざわざ声に出した。 そう、初めから、この算段があって助けた。 ゼルガディスにも言われたが、けして、良心からの行動ではない。 「餌、だ」 ただ、ある程度怪我が治らないと、連れていくのも運ぶのもたいへんだから。 相手を、焦らした方が良いから。 「だから、時間をおいただけだ」 けれど、そのおいた時間のせいで、なお躊躇いが生まれたのは否定できない。 「ゼルさんよ…あんたもカタギじゃあねーんだろ…?」 だから理解しろとは言わないし、許せなんて、言えもしないが。 彼にもそれなりの覚悟はあるだろうと、勝手に思う。 夕刻のニュースに、自分はのろのろしすぎていたと焦った。 なにかが、これから大きく回り出すに違いない。 自分にとってどう働くかは分からないが、まだ間に合う内に、こちらも動かなければ。 勝算なんて、ないに等しい。 行き当たりばったりの、えらく危険な賭けだ。 しかも、得るものはないときている。 愚かなことなのかもしれない。 いや、愚かなのだろう。 少なくとも彼女はそう言うだろう。 冷めた口調で 哀しげに。 それでも ――それでも 「悪ぃな…」 聞いているはずのない相手に、ぽつりと、呟いた。 ****** お久しぶりです!蛇乃でっす!! パソ解禁!!(喜) オフの事情で今まで触れなかったのですよ。 ツリー落ちてなくて良かったv それにしても…久しぶりの投稿だっていうのに……ああ、文章が壊れてきている…… ルクミリ、大好きなんです。 好きだから、言いたいことが多すぎて、逆に上手くまとめられません(泣) ――って、作中の女性、ミリーナだってわざわざばらしてる…… |
16936 | 『CIV』― Sturm und Drang ― | 蛇乃衣 | 2004/12/29 21:09:50 |
記事番号16882へのコメント チィン―― しんと静まりかえった最上階に、エレベーターは止まった。 ゆっくりと扉が開き、中から一人の男が降りてくる。 いや、正確には二人か。 たたずむルークが抱える布袋には、ゼルガディスが入れられている。 深夜ということもあり、人気はない。 正面入り口から入り、ここまで来たのだが、誰とすれ違うこともなかった。 ロビーからすぐにエレベーターに乗ったとはいえ、部外者が大きな布袋を持って社内をうろついても、警備員の一人、駆けつけてくる様子もない。 まあ、当たり前といえば、当たり前だろう。 ここのトップなら、どうとでもなることだ。 ルークは軽く深呼吸をし、導くようにともされた明かりに沿って、廊下を進んだ。 「よう。来たぜ」 指定された部屋は、予想を裏切り、がらんとしていた。 特筆するとすれば、正面の、窓を背にした大きな机ぐらいだ。 室内はそう明るくないが、木製の、重厚な作りということがうかがえる。 「改装中だ…この前、かなり暴れられてな……殺風景ではつまらんか?」 ルークの心中が顔に出たわけではないが、その机の側にたたずむ数人のうち一人が言った。 「いや、ごてごてしてんのは嫌いでね……副社長さん」 口の端を上げ、ルークは笑ってみせた。 「時間ぐらいは守れるようだな」 その人物――ヅェヌイは、言いながら腕時計をチラリと見、数歩距離を縮めてくる。 他の影は動かない。 互いに、はっきりと相手を捕えた。 ヅェヌイは熱帯を連想させる、鮮やかな黄と緑の組み合わせの服装をしていた。 形はスーツに近いと言える。袖や裾が異様にダブダブだが。 奇抜、良く言えば斬新か。 ルークの記憶では、ヅェヌイはコンツェルンでも、IT部門を中心に任されていたはずだ。 人とは違ったアイディア、オリジナリティーが求められる場。 彼のこの服装も、そういったことに関係しているのだろうか。 まあ、少なくともルークには、良い趣味とは思えないが。 「…だが、その呼び名は気にいらんな。明日には正式に社長だ」 「――先に言っとくが、あれは俺の知ったこっちゃないぜ」 「ふん…どうでもいいことだ。細かいことにはこだわらんようにしていてな」 むしろ、せいせいしたとでもいう口ぶりである。 「――で、ソレがあのコソ泥の一匹か?」 視線で促され、ルークは布袋の中からゼルガディスを出した。 銀髪の青年は、猿轡はされていないが、後ろ手で縛られている。 「死んでないだろうな?」 「眠っているだけだ……ちゃんと生かしたまま連れてきたんだ。多少の色は付けてもらえるんだろ?」 「“正式な社員”になりたいってことだったな」 「そ。長いものには、巻かれとけってね」 肩をすくめるルーク。 「…ゼロス」 ヅェヌイに名を呼ばれ、後ろに控えていた男の一人が前へと出た。 スーツを着た他の男達とは異なり、革の繋ぎを身にまとっている。 かがみこみ、ゼルガディスの顔を確認する。 「間違いありません」 彼が、そう言い終えるやいなや、 ルークはとっさに横に跳んだ! 肩口に走る、熱さと痛み。 「ぐっ…!?」 鉛玉が、彼の左肩をえぐっていた。 後ろで沈黙していた男達が、やはり言葉もなく銃を発砲したのだ。 体勢を立て直すと同時に、ルークもまた銃を取り出し引金を引く。 しかし、 「っが!」 その右手を、ゼロスが強かに蹴り上げた。 弾は天井の端に食い込み、持ち主を離れた銃が、硬い音を響かせ床に転がる。 「ダメですよ。おとなしくしてなくては…」 ニコリと笑みを浮かべ、薄い瞳がルークを見下ろす。 「…サイレンサー付きとは…準備いーじゃねぇか……」 立ち並ぶ男達が構える銃の先端、四角いものが付いている。 「簡単に、他人は信用しないようにしていてね」 小馬鹿にしたように、ヅェヌイが言う。 「すみませんね。……ルーク…さん?…改装が終わりもしていない内の銃撃戦は避けたいので……」 ルークの銃へ近付こうとするゼロスを 「待て。拾うな」 ヅェヌイが制する。 ガチャリ―― 「そのまま、こっちを向け」 銃口の先、延長線上に、ゼロスは捕えられていた。 「…どういうことでしょう?」 ゆっくりと両手を上げ、ゼロスは静かに問う。 ヅェヌイは笑みを深くした。 「今、言ったばかりだろう?俺は簡単に己以外を信用する気はない。 お前は初めから、うさんくさかったしな…その男と繋がっている可能性もある……」 「いちいち可能性を挙げていたら、キリがありませんよ?」 「ああ。だからこそ、殺しておくのさ。火種は、ほおっておくとまずいだろう? 処分する死体が一つ増えたところで、手間はかわらん」 優位を確信してか、饒舌になるヅェヌイ。 「なるほど…」 ゼロスは一つうなずいて、 「でも、少し遅かったようですね」 ずっがん!!! 重くも派手な音が、夜気を震動させた! 「な……」 さすがにあっけに取られる一同。 そんな中、一人ゼロスだけがさっと伏せた身を起こし、苦笑気味に風に乱される髪を押さえた。 そう、風。 地上よりも、なお一層冷めたく強いそれは、遮ぎられれこともなく、この場の者を打ちすえる。 なにせ、部屋の北東の壁は、今の爆発で吹っ飛ばされてしまったのだから。 「これは……」 ヅェヌイの呟きを途中で吹き消したのは、圧倒的な光と音だった。 バババババババッ!! 静かな闇夜を掻き乱し、現れたのは一台のヘリコプター。 ライトから放たれる白光の矢が、男たちの瞳孔を絞る。 ヘリの扉が開かれ、ボディ・スーツに覆われた上半身が二つのぞいた。 大きなゴーグルで顔の半分が隠れているが、その体型から一人は男、もう一人は女…というより少女ということがうかがえる。 二人の豊かな髪が、荒々しくはためいている。 『はぁいv』 声は聞き取れなかったが、少女の唇はそう型どられた。 二人が握る、SFにでも出てくるようないびつな形の銃は、細いチューブで、背中に背負われた銀色のボンベだかタンクだかに繋がれている。 それが、立て続けに発砲された。 しかし、出てきたのは鉛玉ではなかった。 バチャッ、と透明な粘液が男たちの手を濡らす。 「――!?」 いぶかしげだった彼等の表情が、すぐさま驚愕のそれへと変わる。 ネトリとした物質は見る間に白濁し、手の自由を奪ったまま、硬化してしまったのだ。 「その銀髪を渡すな!」 我に帰ったヅェヌイが命を飛ばす。 ゼルガディスを盾にとろうと、彼の近くにいた男二人が駆けた。 「っ!」 ゼロスの右手が素早く動き、彼愛用の銃から針が放たれるが、膝を折ったのは一人。 その陰になる形で助かったもう一人は、うつ伏せに倒れるゼルガディスへと手を伸ばし―― ズムッ! 手を伸ばした方向からの見事なトー・キックにみぞおちを直撃され、うめきを上げることも無く崩れ落ちる。 「まったく…もう少し地味にできないもんかね…あいつらは……」 呟きながら、むくりとゼルガディスは身を起こした。 「な…お前……」 起きてたのか、と、かすれた声で呟くルーク。 「薬には多少詳しくてな。痛み止めか、睡眠薬かぐらいは味で分かる」 本気で一服盛るなら、何処かの誰かのように無味無臭のものを用意しなくては。 「いやぁ、お見事でした」 ゼロスは周りを銃で威嚇しながらも、称賛の言葉を送った。 先程の、両手が使えないながら、体を反転させた勢いも加えられた一撃は、称えるに充分なものである。 ゼルガディスはちらりとゼロスに一瞥をくれ、 「少なくとも今は、敵じゃないようだな」 「まったくその通りです」 ゼロスは隠し持っていたナイフでゼルガディスの縄を切った。 「さて、いきましょう」 「ああ」 ゼルガディスは視線を下げ、 「いくぞ」 ルークの腕を取り、引き起こした。 『え?』 ゼロスと、そしてルークの声が重なった。 「ボヤッとするな!死にたいのか!?」 そう言われると、答えは一つしかない。 多少よろつきながらも、ヘリへと向かう。 その二人から半歩遅れ、 「あなたを騙していたんでしょう?」 怪訝な顔のゼロス。 隠していないのか、隠しきれていないのか、口調には嘲りの欠片が紛れていた。 甘い、とでもいうのだろう。 「お互い様ってとこだ…」 ゼルガディスはそうとだけ答える。 自分を売った男か、殺そうとしていた男か、どちらに向けられたのか定かではないが。 「よぅ!無事でなにより。うれしいぞ」 片手を上げ、黄金に輝く髪の仲間は軽い調子で再会の言葉を口にする。 「こりゃどうも。相変わらず派手だな…骨に響いたぞ?」 ゼルガディスは苦笑を返した。 「いやぁ…オレが考えたわけじゃないしなぁ…」 「だと思ったさ……こいつも頼む」 ゼルガディスはルークをガウリイにわたした。 「おう」 力強く一つ頷いてから、彼はルークを機内へと運び込む。 一つ息を吐き、自分も乗り込もうとしたゼルガディスの前に、スッと細い手が差し出される。 「今度は、放さないわよ」 リナだ。 褐色のガラス越しに、自分を映す瞳。 謝罪の意がそこにあり、口元には喜びの笑みがあった。 「ああ」 ゼルガディスも、小さく、同じ笑みを浮かべる。 ヘリの巻き起こす乱風に押し負けぬように、しっかりと、手を握った。 ****** Sturm und Drang 疾風怒濤 |
16937 | 『CIV』― BREEZE ― | 蛇乃衣 | 2004/12/29 21:23:14 |
記事番号16882へのコメント 疾風怒涛の勢いの救出劇は、アジトであるゴーストハウスに到着したことで、やっと幕を下ろせた。 すでに夜明けまで数時間となった時刻。 冷蔵庫に入っていたコーラを喉に流し込み、ゼルガディスはあくびを噛み殺した。 ひどく疲れている。それに眠い。 寝たフリは一日中していたわけだが、実質一睡もしていないかったのだ。むしろ、いつもより神経を研ぎ澄ませていたぐらい。 一階で後始末をしているガウリイとゼロス(当然のごとくこの場にいる彼に、もはや違和感を感じる気力もない)に先に休むことを願い出て、ゼルガディスは緩慢な動きで階段を上がっていった。 長い廊下に並ぶ扉を五つほど通り越した時、 「ゼルガディス」 背後からの声に振り向く。 薄暗い廊下に赤い影。 「――レゾ……」 穏やかな微笑をたたえた彼が、小さな鞄を手にたたずんでいた。 「ルークさんの治療、すみましたよ。出血がひどかったですが、輸血をしましたし、大丈夫。 今は、ぐっすりと眠っていますよ。一応、リナさんが、側についていてくれています」 「そうか……すまないな」 「いいえ…あなたが助けようと思った方ですから」 今回ヘリを操縦していたのは彼だったし、ここに着いたら着いたで、すぐにルークの治療に取り掛かったため、今まで落ち着いて言葉を交せていなかった。 ふと、沈黙が落ちる。 ゼルガディスは内心、なにを言うべきか迷った。 いや、謝罪なり感謝なり、伝えればいいのは分かっているのだが、こう、あらためて面と向かうと、言葉が詰まってしまう。 それに、この沈黙をどう捉えているのか、レゾの方はじっとこちらを見ている。 もう少し、オーバーなリアクションを予想してなくもなかったのだが…… 「――ゼルガディス」 「…なんだ?」 結局、レゾに先を越された。 彼は鞄をひょいと持ち上げ、 「あなたも、怪我が完治しているわけではないのでしょう?一度、見せて下さい」 ゼルガディスに割り当てられていた一室。 数週間使われていなかったのだが、そこは綺麗に掃除され、ゼルガディスが最後に見た時のまま、温かみを残していた。 「ソファよりベッドがいいか?」 「そうですね。包帯を巻き直しますから、背持たれがない方が楽です」 ゼルガディスは上着を脱ぎ、ベッドの端に腰かけた。 すでにほどけかけていた包帯を、レゾがスルスルとはずしてゆく。 全部をはずし終ってから、腕を上げ下げされたり、手首足首をゆっくり曲げられたり、肋骨を軽く押されたり、指を引っ張られたりした。 最初の、「痛ければ言ってください」以来無言で進む作業を、ゼルガディスもまた無言で眺めていた。 多少痛い場合があったが、声は出さなかった。 出さずとも、わずかな表情の変化や体への力の入り具合いで、レゾは察してくれる。 最初の「痛ければ…」は、痛みを隠すな、というニュアンスに近いのだ。 診察が終ったのか、レゾは聴診器を鞄にしまい、新しい包帯と薬を取り出した。 手足から薬を貼り、素早く、しかし丁寧に包帯を巻いてゆく。 改めて、手際が良いな、と感心してしまう。 己の身体が白い布で包まれていくのが、わずかにざらつき、ひんやりとする感触で感知出来た。 眼を閉じると、その感触が強まるような気がする。 キシ、とベッドのスプリングが鳴った。 レゾが背後に移動したらしい。 肩を巻き、胸を巻いて、 ヂョキッ 包帯の端を留めた。 ――ここで、レゾは完了の合図に、直接声をかけるか、患者をポンと軽く叩くのが常なのだが、 (…終ったよな……?) 今日はそれがない。 かといって、動いてもいないようだ。 「………なぁ、レ」 コト、と。肩に重みがかかる。 前に回された腕。 ゆるく、抱き締められた。 ゼルガディスは眼を開けた。 「レゾ…?」 「……おかしいですよねぇ……」 くぐもった声。 彼が頭を動かし、押し付けられている前髪もクシャクシャと動く。 少し、くすぐったい。 「あなたは…無事だったのに……」 振り向こうとして、やめた。 かわりに、力を抜いて、レゾに少しだけもたれかかる。 「…なぜ……」 ゼルガディスは再び眼を閉じた。 ひんやりとした薬と、わずかにざらつく包帯。 肩口に、しめった、けれど不思議なほど温かな感触が、じわりと広がる。 ゼルガディスはなぜか、昔のことを思い出した。 九年前の、クリスマスのことだ。 「…大丈夫だ…」 あの時、自分は泣いていた。 悔しさとか、安堵とか、様々な感情がぐるぐると渦巻いていたけれど、その全ての感情は、泣くという行為に辿り着いた。 「……大丈夫だ…」 背中の彼に、そして自分自身に、ゼルガディスは言った。 「――生きている……」 そういえば、と気付く。 彼が泣くのを見るのは、初めてだ。 ******* きっと無事だと信じてはいたけれど、それでも、不安がまったくないとはいかないわけで。 緊張の糸が切れてしまったのですよ。 ここのレゾさんは、別に泣くのを堪えはしないけれど、滅多なことでは泣きませんね。 泣けない、といいますか。泣き方が分からないといいますか… ああでも、初めて涙を流したのが嬉し泣きだったら、素敵かなぁと思ってみたり… |
16942 | 祝! ゼルさん救出!8(*><*)8 | りぃ | 2005/1/2 03:37:20 |
記事番号16937へのコメント ゥワアアァァァァァァァーーーーー(大歓声)!!!! ブラボー! ハラショー! 2,3日覗かないでいたら一挙三作掲載されてますぅ〜!!! しっかしお姫様(?)の目覚めがみぞうちに蹴り一発とはこれいかに(笑) お久しぶりです&明けましておめでとうございますv 蛇乃衣さんが受験で忙しいと知っていても「いかにひさしき〜」(by百人一首)な気持ちでお待ちしてましたv なんかレゾがどんどんへたれてきていい感じです。これからもゼルにぞっこんでお願いしますね (そしてそろそろ漫才コンビ+αを復活させて欲しいです) 次回作を楽しみに。 でわ(^^)/~~~ |
16951 | Re:祝! ゼルさん救出!8(*><*)8 | 蛇乃衣 | 2005/1/7 19:55:53 |
記事番号16942へのコメント こんばんは!お久しぶりですりぃ様!(まだ明けましておめでとうございますという挨拶は有効なのか・・・;) お返事遅くなってすみません。連載の方もなるべく早く、頑張りますよぅv >しっかしお姫様(?)の目覚めがみぞうちに蹴り一発とはこれいかに(笑) 気苦労の多いお姫様ですから、ストレス発散もかねて、こう容赦なく(笑) >蛇乃衣さんが受験で忙しいと知っていても「いかにひさしき〜」(by百人一首)な気持ちでお待ちしてましたv (///)嬉しいです!待って頂いていると思うと、意欲も泉のごとく湧きます!(問題はその意欲を形に出来ないってことですが・・・) >なんかレゾがどんどんへたれてきていい感じです。これからもゼルにぞっこんでお願いしますね (そしてそろそろ漫才コンビ+αを復活させて欲しいです) いい感じですか。よかったぁ。ここのレゾさんはゼルさんがエネルギー源なので、しばらく会えなくてへたれてしまったのでしょう。 >次回作を楽しみに。 でわ(^^)/~~~ ありがとうございました〜!今後もよろしくお願いします! |