◆−Sister Princess-X'mas version-−穂波 (2004/12/19 23:54:29) No.16924 ┗万歳!!−大玉A子 (2004/12/22 14:41:20) No.16925 ┗遅くなりましたがありがとうございます!−穂波 (2004/12/29 00:15:42) No.16933
16924 | Sister Princess-X'mas version- | 穂波 URL | 2004/12/19 23:54:29 |
こちらに投稿させていただくのは本当に久しぶりです…。 ええと、以前投稿させていただいた義理兄妹ゼルアメネタです。 今回はシリアス度が無意味に高いですが(汗)。あと、外伝からマックさんにも登場願ってます。賞味期限が近い話ですが、よろしければ、お読みくださいませ。 -------------------------------------------------------------------- 赤いリボンに金色の鈴、ガラスの珠を要所に飾り、色鮮やかな電飾が明滅するクリスマスツリー。アメリアが二時間かかって準備した会心の作の根元には、色鮮やかにラッピングされたプレゼントがそこかしこに転がっている。 見慣れた筈の居間は、華やかな飾りつけと普段の倍以上の人数が占拠することにより、ゼルガディスの常とは異なるにぎやかさに満ちている。 華やかに飾り付けられたツリーの天辺に輝く星よろしく皆から少し離れた位置で、本日の料理長である青年は黙ってグラスを傾けながら部屋の様子を傍観していた。 「え、そうなんですか、リナさん?」 ツリー近くのソファーでは、赤と白のサンタクロースの衣装…ただし、ズボンではなく膝上丈のふんわりとしたスカートにブーツといったいでたちのアメリアが、握りこぶしで目を輝かせていた。パーティグッズ売り場で見つけ「可愛いですよね」と本人は気に入っていたようだが、間違っても外には出せない格好だ。幸いにしてこの場にはいないが、彼女の従兄弟あたりが見つけたら連れ去りかねない。 アメリアの前で細身のジーンズにラメ入りのセーターという格好のリナがピザを摘みながら何か話している。学生服と違って大人びた雰囲気を最初見たときは感じたが、口を開けば当然いつものゴーイングマイウェイな生徒会長だった。時々やけにハイテンションな笑い声が聞こえてくるあたり、結構酔っているのかもしれない。 クリスマスパーティーなんぞ、ゼルガディスの柄ではない。だが、生徒会仲間のリナに同じ剣道部主将であるガウリイ、そして何故かこの二人に可愛がられている同居人、妹のようなアメリアがこういった祭騒ぎを好まないわけはなかった。 夜遅くまで騒いでも問題ない場所、という理由で選出されたセイルーン家のリビングで繰り広げられている饗宴はまだまだ終わる気配を見せない。アメリアの父であるフィリオネルは会社関係のパーティで戻るのは明日になるのがわかっているので、アルコールも出し放題だ。クラッカーにチーズといったオードブルをつまみにシャンパンを空けるゼルガディスの隣、いつのまにかスープ鍋を底まで攫ったらしいガウリイが、おそらくチキン目当てに腰を下ろしていた。 「それにしても、このチキン旨いなっ! なんかさっぱりしてて食べやすいぞ」 「……酒と醤油に葱で下味をつけたからな。というか、旦那は別にケンタッキーでもなんでも、旨いって食うだろ」 「あれはあれで美味しいと思うぞ、でも、これはこれで旨いんだから謙遜するなよ!」 何処までも笑顔でいつもの健啖ぶりをいかんなく発揮するガウリイに、ゼルガディスは面倒になってひとつ頷いた。 祭騒ぎは得意じゃないが、いつものメンバーが集まって騒ぐのにはそれなりに慣れている。普段なら、もう少しゼルガディスも馴染むのだが、いかんせん今日はそうもいかないわけがあった。 「へぇ、兄さん学校だとそんな風なんですか?」 アメリアの声に、再び少女たちに視線を向ける。 やや前のめりになって話に熱中しているアメリア、サーモンのマリネを小皿に山と積んでいるリナ、そしてアメリアと今話しているのはミランダ=マックスター。ベリーショートの黒髪がすっきりした目鼻立ちに似合っている、一見少年と見まごうような少女だった。 「家だと、違うのか?」 小首を傾げたマックに、アメリアが大きく首を縦に振る。 「はい、全然違いますよ! でも、いいなぁ。わたしも、兄さんが剣道やってるところ見てみたいです! あ、マックさんも女子の副部長さんなんですよね? やっぱり剣道上手なんですか?」 矢継ぎ早に言葉を発するアメリアに、マックが苦笑する。 おそらく、元気のいい小型犬に甘えられているような心境なのだろう。自分も何度も似たような経験をしているゼルガディスには、マックの心境の察しがつき、そしてアメリアがどうやら彼女を気に入ったことまでわかってしまった。 「ん、マックとアメリア仲良くやってるみたいだな」 「……そうだな」 「マックもアレで結構人見知りするから心配してたんだが、大丈夫だったみたいだな。あいつも最近ちょっと落ち込んでたし、気になってたんだが。うん、良かった良かった」 どうやら純粋に二人の仲を喜んでいるらしいガウリイの声に、ゼルガディスは仏頂面をさらに不機嫌にゆがめた。 「って、お前さんは嬉しくなさそうだな? マックは女の子なんだから、仲良くしたって妹にとって悪い虫にはならないと思うぞ」 見当違いのようでいて、ある意味的を射ているガウリイの台詞を、ゼルガディスは手にしたグラスの中身を飲み干すことで聞こえなかった振りをした。 ガラス戸を開けて出たテラスには、冬の星空が広がっていた。 圧倒的な冷気はアルコールの熱をあっさりと奪っていく。すぐに寒さに震えることになりそうだが、今は気持ちよさのほうが上回っていた。 パーティも終焉に近づき、部屋の喧騒から逃げるようにして、ゼルガディスはテラスに出てきていた。 独りになりたかったのか、或いはこの孤立された場所に誰かが続くことを予想していたのか……。 自分でもはっきりしなかったが、答えはガラス戸の開く音に動かない自分の足が証明していた。 軽やかな足音が、すぐ隣まで来て、止まる。 「なんで、こんなところにいるんだ?」 聞こえてきた声に、ゼルガディスは納得し、その半面で落胆した。 わかっていた。 彼女が、此処に来ることを、予想していた。 『ゼル……お前、付き合っている女、いるのか?』 無人の剣道場。 偶然か作為か今となってはわからないが、その日の早朝稽古には、二人しかいなかった。 汗をタオルで拭いながら、独り言のように、マックはそう呟いた。 ただそれだけ。その答えを返す前にガウリイが現れたため、問いは宙に浮いたまま今日に至っている。 問いかけの意味がわからないほど、ゼルガディスは鈍くない。 マックのことが嫌いなわけでも、ない。 性別を感じさせない同級生の少女は、無理に男っぽく装っている面も含めて、言動が読みやすく付き合いやすい相手だった。異性で同じように感じるのは、リナくらいのものだろう。 女としてみたことはあまりないが、他に付き合っている相手がいるわけでもない。 何度か告白はされたことがあるが、何も知らない相手とわざわざ付き合いたいと思ったことはなかった。 有象無象の名前も知らない少女と比較すれば、マックと付き合うのは随分と現実味を帯びている。 そして、それはゼルガディスの抱えている悩みを軽減してくれるものかもしれなかった。 アメリアの笑顔。 クリスマスツリーの前で、天使のように輝いていた、ゼルガディスを兄と慕う少女の微笑。 それを、守れるのなら。 相手がマックであるなら、不足などある筈も……。 「な、聞いてるのかよ?」 横柄な口調で、そのくせ僅かに緊張した瞳で、マックがゼルガディスを見上げていた。 薄く化粧をしているのか、唇が何時もより赤みを増していた。男のように振る舞い、男として認識されることを喜んでいたマックが化粧をしている事実に、ゼルガディスは自然と彼女の顔から目をそむけた。 赤い唇。それは、ゼルガディスに対する意思表示に他ならないだろう。 「……別に、只の酔い覚ましだ」 「そっか」 軽く頷くマックに、再び顔を向ける。 「お前は、何故此処に?」 わかっていながら問いかけた。 マックは不意をつかれたように、まばたきを繰り返した。 「お、俺は……」 ごくり、と喉を鳴らしてマックが沈黙する。 白い拳がぎゅっと固められていた。 彼女が勇気をかき集めていることは、全身から伝わってくる。 「俺、お前が……」 続く言葉は、聞くまでもない。だから、答えなければいけない。 それはおそらく、ゼルガディスの何より大事にしている少女の笑顔を守ることにも繋がる筈だ。 例え本心でなくても……今更嘘が一つ増えたところで、どうということもない。 わかっていた、わかっていて水を向けたのに、マックの真摯さにゼルガディスはたじろぐ自分がいることに動揺した。 『兄さんは、わたしの自慢ですから!』 耳の奥で、無邪気な瞳で断言する少女の声が木霊する。 誰より何より大切な、妹のようでいて、それだけではなくなってしまった少女の言葉。 裏切れないものが、あった。 嘘を幾ら重ねても良心など痛まない。 けれど、ただひとつ、少女の笑顔はどうあってもゼルガディスには裏切れなかった。 それがどれだけ自分を追い詰めるか、わかっていても。 ゼルガディスはぎりっと奥歯をかんだ。 冷たい空気を肺一杯に吸い込むと、告白の言葉を口にしたマックに向き直る。 「お前のことは、嫌いじゃない。だが、俺には他に、好きな奴がいる」 「……そっか」 マックの顔が、くしゃっと歪む。 泣き出しそうな、それをギリギリで堪えた不自然な笑顔。 「あはは、そっか、そうだよな、ごめん、変なコト言っちまって!」 「いや、俺も……応えられなくて、すまなかった」 「あ、いやそんなことないけど、さ。悪い、ちょっと、ひとりにしてくれないか?」 マックは俯いて、必死に口元を微笑ませながら、そう訴えてきた。 「……ああ。風邪、引くなよ」 ゼルガディスはきびすを返して、マックに背を向けた。 ガラス戸を締める寸前、微かな嗚咽が耳に届いたが、そのままゆっくりとテラスへの通路を閉じた。 パーティが終わったのは、零時も近くなった頃だった。 一足先に帰ったマックのことは、酔って気分が悪くなったようだとゼルガディスは説明しておいた。ガウリイもアメリアもその説明を素直に信じたようで、「気分の悪いマックさんを一人で帰すなんてひどいです!」とゼルガディスは妹に怒られる羽目に陥った。もっともリナあたりは何か気付いている可能性が高いが、アルコールで洞察力が落ちていることをゼルガディスとしては願うばかりだ。 大量の生ごみを片付け、食器を洗うのに小一時間。 最後の皿を食器棚にしまったゼルガディスは、漂ってきた珈琲の香りに振り返った。 「はい、ご苦労様でした、兄さん」 赤い三角帽子が揺れるその下に、深い海の青さを宿した双眸が微笑んでいる。 珈琲カップを差し出すアメリアに、ゼルガディスは苦笑した。 「お前は、先に休んでいいと言っただろ?」 カップを受け取り、一口飲んでからカウンターに置く。暖かな液体は、ほんのりと湯気を昇らせていた。 「わたしだって、お片づけくらいできますよ! ちゃーんと燃えるごみは袋に詰めて、掃除機までかけちゃいました! その上兄さん用の珈琲まで淹れたんですから、褒めてくれてもばちは当たらないと思います!」 えっへん、と胸を張る幼い表情に目を細め、ゼルガディスは帽子をどけるとアメリアの頭に手を置いた。 「ああ、助かった。ありがとう、アメリア」 ゆっくりと頭を撫でてやると、アメリアの表情がふんわりと緩む。 喉をくすぐられた猫のように、うっとりと瞳が閉じられた。 アルコールがまだ抜けきっていないのか、ほんのり色づいた頬。 無防備に、少女は両目を閉ざしてゼルガディスの前に立っている。 そんな筈はないとわかっているのに、その姿勢がキスをねだっているように、見えた。 ぎくりと腕が強張る。 ほんの数センチまで近づいたことのある唇、けれどふれたことのない唇。 アメリアの絶対的な信頼。 ゼルガディスとアメリアを繋いでいるものは、家族という絆。 だから、気付いてしまったそれ以外のものは、封じなければいけない。 ここにいる少女を、妹以外の女として認識することは、許されていない。 そんなことは、誰よりゼルガディス自身がよくわかっている。 理解はしていた。今でも理解はしている。 だが……。 頭に置いていた指が滑って、アメリアの頬にふれる。 輪郭をなぞるように、そっと。 やわらかな感触。理性なんて、いっそ投げ出してしまいたくなる。 ゼルガディスはアメリアの顔に自分の唇を寄せた。 「……え?」 呟いて、アメリアは目を開けた。 自分のおでこを抑えて、驚いたように目を丸くしている。頬は相変わらず、赤い。 「クリスマスだからな、サービスだ。ほら、早く寝ろ」 無愛想に言い放つと、アメリアはようやく合点がいったのか、ひとつ頷いた。 「あ、お休みのキス……ですか?」 「そんなようなものだ」 「えへへ、確かに大サービスですねっ!」 嬉しそうに笑ったアメリアが、突如ゼルガディスの襟首を引っ張った。 「!?」 頬に一瞬だけ、マシュマロのような感触が押し当てられた。 「わたしからもおかえしですっ! それじゃ、おやすみなさい」 最後まで笑顔を浮かべ、多少は恥ずかしかったのかぱたぱたと足音を立ててリビングを出て行こうとしたアメリアが、扉のところで振り返った。 「メリークリスマス、兄さん!」 明るい声と共に扉が閉ざされ、珈琲の湯気が消える頃、ゼルガディスはずるずると壁にもたれて座り込んだ。 「……っとに、限界に挑戦させたいのか、お前は?」 諦めなければいけない。 認めてはいけない。 そんなことわかっている。 けれど、アメリアの唇がふれた頬が熱を持っていてどうしようもない。 他の誰かと付き合ったところで、きっとこの熱は冷めないだろう。 そんな、自覚してもどうにもならないことを自覚させられて。 「とんだクリスマスプレゼントだな」 苦笑しながら呟いたゼルガディスの声は、それでもどうしようもなく、幸せそうだった。 -------------------------------------------------------------------- ……うーん、明るいんだか暗いんだか幸せなんだか微妙ですね(汗)。 此処までお付き合いくださりありがとうございました。 皆様楽しいクリスマスを過ごされるよう、願っております。 |
16925 | 万歳!! | 大玉A子 URL | 2004/12/22 14:41:20 |
記事番号16924へのコメント こんにちは穂波さん…拝読いたしました! 本年度分の勇気ふりしぼって書き込みさせていただきます! めっさツボです! このニアピン按配…! 姫の無邪気慕い寄りに、あちこちやばくなっている魔剣士の悶絶ぶりがたまりません。 本当に穂波さんの文章には、わたくし、いいように感情を動かされてしまって……いちいちキューーとなったりゴーーーンとなったりです! これほどの文章が読めるなんて、クリスマスってエエなあ!と握りこぶしです。ぜひまたこんな按配でよろしくお願い申し上げます。 |
16933 | 遅くなりましたがありがとうございます! | 穂波 URL | 2004/12/29 00:15:42 |
記事番号16925へのコメント こんばんは、大玉さん。 嗚呼、すみません、いい加減遅すぎですが独自設定つけすぎな話に感想くださりありがとうございます! >めっさツボです! このニアピン按配…! ありがとうございますっ! ラブラブ一歩手前、なポジションは基本ネタですが大好きなのです。 ニアピンになっているなら、とても嬉しいのです! >姫の無邪気慕い寄りに、あちこちやばくなっている魔剣士の悶絶ぶりがたまりません。 私の書くゼルはどうしてこうから回っているのか自分でも謎ですが(笑)、喜んでいただけたのなら良かったです。 また、そのうち兄妹ネタは書きたいなーと思っていますので、何時になるか分かりませんが(え)、見かけたら読んでいただけると幸せです。 では、拙い話を読んでくださり、本当にありがとうございました! |