◆−月の裏側−かるの (2005/3/11 01:27:27) No.16980
 ┣もひとつ−かるの (2005/3/11 01:44:50) No.16981
 ┣初めまして。−イヌひこ (2005/3/24 02:13:39) No.17006
 ┃┗Re:初めまして。−かるの (2005/3/25 23:38:28) No.17010
 ┣Oh My ……!!−かるの (2005/4/18 19:59:07) No.17027
 ┣だからその手は離さないで−かるの (2005/4/18 20:02:00) No.17028
 ┗Soul Stasion−かるの (2005/4/18 20:04:37) No.17029


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16980月の裏側かるの 2005/3/11 01:27:27


こちらではずっと読み専だったんですが、何とかそれっぽいものができたので投稿いたします。
ゼルアメで暗めな上に、ゼルが微妙にポエマーちっくです;
それでも宜しかったら読んでやってください。


―――


「月の裏側には何があると思いますか?」
美しい満月が顔を覗かせる窓の下で、彼女は唐突にそう言った。


  月の裏側


ここはセイルーン王宮、アメリア王女の私室。
一国の姫君がこんな真夜中に、男と一緒にぼんやり月を見ているなんて、誰が信じるだろう。
しかも、相手の男はお尋ね者の合成獣だ。
とても褒められたものではない。
そして、それは自分にとっても同じこと。
俺には何よりも優先すべき目的が有り、こんなところに寄ってる暇は無いはずだった。
だが、どれほど自分を叱咤しようとも、事あるごとに彼女の部屋へ向かうことを止めることはできなかった。
そしてまたアメリアも、テラスからの侵入者をいつも笑顔で招き入れた。

今もその何度目かの逢瀬の中、まだ冷めやらぬ熱を持て余し、二人並んで窓の外を眺めているところだった。
開け放たれた窓から、冷たく少し湿り気を帯びた夜の空気が侵入し、長いカーテンを揺らしていた。

「…なんだって?」
「もう、聞いてなかったんですか。
 月の裏側には何があると思いますかって聞いたんです」

言葉は聞こえていたが確認のために問うてみると、彼女はむくれながらも同じ言葉を返してきた。

「月の裏側、か」
「ええ、そうです。
 お月様は、私たちにはいっつも同じ面しか見せてくれていないそうですよ。
 逆にお日様はよく観察してみると、表面の模様がゆっくり動いてて、
 それで太陽はちょうどライティングの光のようにまあるくて、
 クルクル回っているんだと判ったんだそうです」
「へえ。よく知っていたな」
「えへへ、少し勉強したんです」

得意げに話すアメリアの頭を撫でてやると、彼女は嬉しそうに笑った。

「で、だから月の裏側がどうなっているのか、誰も見たことが無いんです。 
 ゼルガディスさんは月の裏側、どうなってると思います?」

突拍子も無い問いかけに、少しは考えてみたのだが、彼女が気に入りそうな答えはあいにく浮かばなかった。
これはお手上げだ。
だが彼女との付き合いも長く、こういうときの対処法はすでに学習済みだ。

「…アメリア、お前はどう思うんだ?」
「わたしですか?
 そうですね……わたしはやっぱり、月も太陽と同じできっとまん丸で、
 蜂蜜みたいな、やわらかーい黄色をしているんだと思いますよ」
「蜂蜜、ねえ。それじゃあ時々月が赤く見えるのは、どういうことなんだ?」
「それはきっと、お月様が怒ってるんですよ」
「………そうか」
「そうです」

返す言葉が見つからず黙っていると、アメリアは俺に体を寄せ、月を見上げて囁いた。

「黄色は幸せの色です。
 綺麗なお月様を見てやさしい気持ちになれるのは、きっとお月様が幸せだからです。
 あなたとこうやって月を眺めることは、わたしにとって、一番幸せなことなんです」

俺は彼女を抱き寄せ、その唇にキスをした。



安らかな寝息を立てるアメリアを腕に抱き、俺は一人、月を見上げていた。
たった一人の愛しい存在。

でも、やっぱり俺たちは正反対だ。

あの奇麗な月の裏には、きっと想像もつかないような無秩序で、醜悪で、デタラメなモノがあるに違いない。
表が美しく輝くほどに、裏のそれは醜さを増し、悪臭を放つ。

そうだろう?

だって、そうでなけりゃ不公平だ。
俺は奇麗なままではいられない。
俺はそれが増殖していくのを止められない。

お前に優しく微笑むたびに、俺の中でそれが膨らむ。
それは重く、確かな存在感でもってじわりじわりと這い上がってくる。
特にこんな奇麗な月の夜には。



夜風に冷えたのか、アメリアが小さく肩を震わせた。
ずり落ちた毛布をかけ直してやると、彼女はくすぐったそうに体を曲げ、薄く目を開いた。
「…ゼルガディスさぁん」
はっきりとしない発音で俺の名を呼ぶアメリア。
「ああ、ここにいる」
「……はぃ」
呼びかけに答えると彼女は嬉しそうに笑い、また深い眠りの中へと落ちていった。


君が無邪気に笑うから、俺も静かに微笑んだ。
君をまたひとつ好きになったから、俺の中でそれが震え、また膨らんだ。

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16981もひとつかるの 2005/3/11 01:44:50
記事番号16980へのコメント

こちらは「月の裏側」の続きです。
が、方向性が360度回って上にジャンプするくらい違います。
バカ話で始まりシリアスで終わるというよくわからん構造をしておりますが、こちらも宜しければお読み下さい。


───


空は夜明けを告げようとしていた。
美しい満月は差し込む朝日に追いやられ、その輝きを失いつつあった。



  月の裏側の裏側



窓の外に広がる街はまだ眠っていたが、俺はすでに旅立ちの支度を終えていた。
彼女と過ごすのは一晩だけ。
これが俺の決めたルールだった。
甚だしく身勝手なルールであることは承知の上だが、こうでも決めておかないと俺はきっと、ここから旅立てなくなる。
ならば初めからこんなところに寄らねば良いのだが、それができるのなら俺がこうしてぐちぐち悩む必要も無いわけで、とにかく、できないことを言っても仕様の無いことだ。

そしてもうひとつ、旅立つ前のルールがあった。

「おい、アメリア、起きろ」
「……むぅ。…………ぐー…」

彼女は元来寝起きはいいほうだ。
が、それは十分に睡眠をとったときのことであり、もちろん昨夜、十分な睡眠など取れるはずも無く、従ってアメリアがすぐに起きてくれるはずも無かった。
布団を引っぺがせば、枕を抱えて丸くなる。
声をかければ、ますます枕にしがみつく。
頬たたけば、無意識ながらも拳が飛んでくる。
その睡眠に対する執着は見事だが、起きてもらわねば話が進まない。
俺は、最終手段に出ることにした。

彼女の頭側に回り込み、手の位置を考え、安全地帯を見極める。
そして彼女が幸せそうに顔を埋めているその枕、これがまたやたらとでかくてふかふかしているんだが、これを逆手にに取り、端っこを掴んだら一気にひっくり返す勢いで顔の上に置き、押さえ込む。
こうすれば誰でも一発で起きる。
つーか、起きなきゃ死ぬ。
事実、アメリアも最初はもごもご言うだけだったが、今は足をばたつかせ、俺の手を引っかこうとしてやがる。
ここで、生身の人間であれば痛い思いをしたり、また被害者の爪に残った皮膚から御用となってしまうわけだが、キメラの俺には関係の無いことだ。
すでにアメリアの抵抗も弱々しくなっており、その腕の色も少し紫がかって…………ちょっと、やばい。

「ぷはぁーーーっ!けほけほっ。
 ゼッゼルガディ、スさん、ころっ殺す気、で、すかぁー!!」
「おはよう、アメリア。朝焼けが綺麗だぞ」

不思議なアクセントで俺を責めるアメリアの気を逸らそうと、話題を変えようとしたのだがうまくいかず、結局鉄拳制裁を喰らうことになった。
だがまあ、これも予想範囲内の被害だ。

「んもぅ。いつもいつもこんな起こし方して。やめてくださいって言ってるのに」
「お前が普通に起きてくれるんなら、俺も普通に起こしている」
「でも、こんな朝早くでなくったって…」
「それは俺のポリシーの問題だ」

アメリアがなんと言おうとも、男にはどうしても譲れない矜持というものがあるのだ。

「またそんなこと言っちゃって。
 見つかりたくないんなら、わたしがこっそり逃がしてあげるのに」
「お前は俺に、シーツか何かに紛れ込んで、洗濯物と一緒に脱出しろとでも言う気か」
「あ、その案は駄目です。
 洗濯物のカートが壊れちゃいます。ゼルガディスさん重いから。
 ここはやっぱり、ダストシュートを滑り落ち…」
「却下だ、却下!!誰がそんなことするか!
 大体お前んとこのはそのまま焼却炉につながってるだろうが」
「ゼルガディスさんなら大丈夫ですって!あ、でも髪の毛は溶けちゃうかも」
「恐ろしいことをさらっと言うな!!」

髪が溶けたら俺は首を括る。いやマジで。

「とにかく俺は行く。見送れ」
「……ゼルガディスさん、なんか偉そう…」
「文句を言うな。そもそもお前が言い出したことなんだぞ」

そう、事の発端は最初のときの次の朝のことだ。
ちなみに最初のときというのはアメリアが初めてであって、もちろん俺にはそれなりの経験があるため、まあイロイロあったものの、我ながら良くやったと今思い出しても自分を褒めてやりたくなるようなときのことで、このことは事細かに、それこそアメリアの協力さえあれば事実を忠実に再現してやれるほどしっかり鮮明に覚えているのだが、教えてやらない。ざまあ見ろ。

っと、話が脱線してしまったが、要するに次の朝、俺は彼女に何も言わず旅立ったのだ。

そして再びセイルーンに足を踏み入れ、彼女を訪ねたときに事件は起こったのだった。


     〜以下、回想シーン〜

「久しぶりだな、アメリア」
「ゼルガディスさん……!」

日の落ちた宵の空は暗く、薄いカーテン越しにテラスに佇む人物の顔は見えなかった。
だがその声を聞いた瞬間、それまで身構えていた少女はぱっと駆け出し、思いっきりカーテンを引いた。
部屋の明かりに照らし出されたのは、白い服を着た背の高い男だった。
フードから覗くその顔は、明らかに人間ではなかった。
しかし、この部屋の主である少女には、そんなことは全く、関係無いようだった。

「ゼルガディスさんっ!!」
少女は男の名前を呼び、その胸に飛び込んでいた。
「…ただいま、アメリア」
男も少女を抱き返し、彼女の耳元でそっと囁いた。

そのまましばし、二人は声も無いままに、ただ、抱き合っていた。

やがて、少女は顔を男の胸に埋めたまま、口を開いた。

「どこに行ってらしたんですか?ずっと……寂しかったですよ」
「ああ、すまん」
「何にも言わないで出て行くんですもん。ずっと不安で…寂しくて…」
「ああ、本当にすまなかった」

男は腕に力を込め、そして少女の異変に気づいた。
少女は相変わらず男の背中に腕をまわし、胸に顔を埋めていたが、その小さな手には尋常ならざる力が篭り、体はこわばり、小刻みに震えていた。
「ア、アメリア?」
少々上ずった男の声は、しかし彼女の耳には届いていないようだった。

「心配で…ムカムカして…だんだん腹が立ってきて……そーですよ。
 どーしてあんなコトしといて黙って出て行っちゃうんですか〜〜っ!!!」
やわらかな抱擁は突然、凄まじい締め付けのベアハッグへと姿を変えた。
その威力たるや、岩をも砕く勢いである。文字通り。

「ちょ、ちょっと、待って……」
「翌日、わたしがどんな思いでいたと思うんですか〜!
 なんか痛くて、うまく歩けなかったしぃ〜〜!!」
「そ、それ俺のせいじゃな…」
「問答無用ッ!!受けよっ正義の鉄拳!!!」
次の瞬間、男の体は宙に浮き、気が付いたときには背中から床へ叩き付けられていた。
なんと少女は岩石製の男相手にスープレックスぶちかましたのだ。
そして、あまりの衝撃に声も出ない男に飛び掛り、その身にたっぷりと“正義の鉄拳”をお見舞いするのだった……。合掌。


※ベアハッグ・・・相手の胴回りに両腕を回して持ち上げ、絞め付ける技。柔道のサバ折り。
※スープレックス・・・相手に抱きつき、後方に反り投げる技。

     〜回想シーン、以上〜


「出て行くときは必ず見送らせろ、そう言ったのはお前だぞ」
「それはそうですけど…」

アメリアは下を向きなにやら両手をこねくり回していたが、やおら顔を上げ、潤んだ瞳に上目遣いで俺を見つめた。

「ぶっちゃけ、もうあんまり新鮮さも無いし、日の出頃に起こされるくらいなら寝てたいなーとか」
「……………………まじですか?」
「いいえ。ちょっといじめてみたくなっただけです」

上目遣いのまま言い切ったアメリアに、俺の何かがプチンと切れた。

「出てくっ!今すぐ出てってやる!!」
「ああっ嘘です!嘘です!謝りますからそんなこと言っちゃイヤですぅ〜〜!!」
「うるさいっ!嘘でも言っていい嘘と悪い嘘がある!俺は出てく!もう二度と来るかっ!!」
「えっ…ちょ、ちょっと待ってください!ゼルガディスさん!」
「離せアメリア!俺は出てい、く…」
「やっゼルガディスさん!お願いです!本当に謝ります!!
 だから、お願いですからもう来ないなんて言わないで…」
「……」
「お願いだから、言わないで…」

アメリアは俺の腕にしがみつき、必死にお願いを繰り返す。
伏せた顔は見えなかったが、彼女が泣いていることは容易にわかった。

またやっってしまった。
俺はため息を付いた。
彼女にこんな中途半端な関係を強いているのは、俺だ。
彼女につらい思いをさせているのは、俺だ。
彼女を泣かせるのは、いつも、俺だ。
いくら彼女の言葉に腹が立っていたとはいえ、俺は絶対に言ってはいけないことを言ってしまったのだ。
悪いのは、俺だ。
 
「すまん、アメリア。ひどいことを言った」
「…いいえ。悪いのは、わたしです。
 ほんの冗談のつもりで、あんなひどいことを…。
 ごめんなさい。本当に、ごめんなさい……」
「もういい。心にも無いことを言ったのは俺のほうだ。
 だからもう、泣き止んでくれ……」

アメリアを引き寄せ、思い切り抱きしめた。
彼女はそっと俺に体を預けた。

「…また、会いに来てくれますか?」
「ああ。お前に、会いに来る」

会わずにはいられない。
彼女無しではいられない。
キメラだとか、王女だとか、そんなこと頭から吹き飛んじまうくらい、俺は、アメリアが好きなのだ。

「……良かった」

アメリアは顔を上げ、まだ涙の残る顔で、にっこり笑った。
俺は胸にこみ上げてくるものを言葉にすることができず、ただ黙って、彼女の唇に自分のそれを重ねた。



「もう、夜が明け切っちゃいましたね」
「ああ。そうだな」

俺が起きたときはまだその縁しか見えなかった太陽は、いまやすっかり昇りきり、その姿を東の空に晒していた。

「綺麗ですね」
「……そうだな」

朝焼けなんかより、目尻を赤く染めたアメリアのほうがずっと綺麗だ。
なんてことが言えるはずも無く、俺はぼんやり彼女を見つめ、しきりに考えていた。
体のこと、旅路のこと、セイルーンのこと、アメリアのこと、アメリアとのこれからのこと。
だが、何一つとして答えは出なかった。

「ゼルガディスさん」

アメリアは俺に向き直り、ふわりと微笑んだ。
どくりと、俺の中で何かが脈打つ。
愛情、恋慕、それだけではない何か、重く暗いもの。
それは俺の咽に引きつるような痛みを与え、声を閉ざす。
伝えたいことは山ほど有ったが、咽を抜け、空気を震わす言葉はひとつも無かった。

「ゼルガディスさん、昨日わたし、月のことを聞いたでしょう。
 あれね、なんだか月とゼルガディスさんが似てるような気がしたからなんです」

いきなりそんなことを言われても、俺は彼女の言葉の意味を理解できなかった。

「わたし、あなたのことが好きです。
 あなたといると、すっごく幸せなんです。
 昨日月の裏側には何があるかわからないって言いましたよね。
 ゼルガディスさん、わたしには何も言ってくれないでしょう?
 だからあなたが何を思っているのか、本当にわからなくて、
 全然理解できなくて、イライラしちゃうこともあります。
 でも、あなたが優しい人で、わたしのことを真剣に考えてくれていることはわかります。
 だから、これから先もあなたのことを全部理解できるかわからないけど、
 ずっとずっと、わたしはゼルガディスさんのことが大好きです」

アメリアの言葉に、俺は動けなかった。
指先どころか、視線すら動かせなっかった。

「それでですね、ゼルガディスさんも、わたしのことで理解できないこと、いっぱいあると思うんです。
 わたしは王女なんて立場だし、正義のことだってあるし…。
 ううん、それだけじゃなくて、不安だとか嫉妬だとか、わたしの中の汚い気持ち、
 何一つあなたには話せなかった。
 でもですね、そんなこといいんです。
 ただ、わたしはあなたに、優しくて暖かな光を届けたい。
 あなたがわたしに幸せをくれるように、わたしもあなたを幸せにしたい」

「わたしはあなたの、月になれますか?」

気が付けば俺は、彼女を掻き抱いていた。
自分の声はみっともないほど震えていた。
混乱した言葉の羅列は、自分でも何を言っているのかわからなかった。
だけど今、俺は言わねばならなかったのだ。

熱を帯びた頭は、ついさっき自分がしゃべった言葉さえ覚えていなかった。
だが、俺は自分が最後にこう言ったのを、確かに聞いた。

「アメリアに会うことができて、俺は幸せだ。
 そうだ。俺はすごく、幸せなんだ」

俺がしゃべっている間、アメリアは何も言わなかった。
ただ、黙って聞いていてくれた。
そして俺が話し終わると、俺をやさしく抱きしめ、「ありがとう」と言ってくれた。
それで俺は、俺がちゃんと伝えるべきことを伝えることができたのだと知った。


 月の裏側にたとえ何があろうとも、彼女は毎夜月を見上げるだろう。
 そして俺のことを、想ってくれるだろう。
 それを知っている限り、俺は幸せなのだ。

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17006初めまして。イヌひこ 2005/3/24 02:13:39
記事番号16980へのコメント

初めまして、こんにちは。イヌひこと申します。
作品読ませて頂きました。2つともとても素敵なお話でした。
かなり出遅れたレスなので、気付いて頂けるか心配ですが…;

えと、可愛くてポエマーな(笑) ゼルガディスさんが大好きでした。
私はゼルが大好きで、なのでゼル視点で素敵なお話に出会えるととても嬉しくなります。
ポエマーなゼル…は、正直ちょっと印象と違うーと思っていましたが
(すみません、偏見です(><;)
かるのさんの小説はとても暖かくて、
ゼルの悩みとか優しさとかが自然に伝わってきました。

特に二話が好きだったのですが、
「ちなみに最初のときというのは〜〜」の辺りのゼルの独白、私的に最高でした(笑
久々の再会に怒って技をかけるアメリアもすごく可愛いです。彼女らしいなあ、と頬が緩んでました。
えーと、まだ好きなところとかあるのですが、この辺にしておきます。
全然上手に言えてなくて辛いのですが
ちりばめられた言葉がそれぞれとても素敵に思える作品でした。

あのあと、こちら様の絵板に描かれているゼルアメは
かるのさんの投稿された作品ですよね?
ゼルがとってもかっこよかったです!!小説はなんだか可愛いというイメージがあったのですが、イラストのゼルはすごくかっこよくて、一目惚れしてしまいました(笑!
小説、イラストとともに、次回作期待しています。これからもがんばってください。

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17010Re:初めまして。かるの 2005/3/25 23:38:28
記事番号17006へのコメント

イヌひこさん、初めまして。かるのと申します。
感想、ありがとうございます!

ポエマーなゼルは、自分でも書きながら、ちょっとゼルさん語りすぎ!とか思ったんですが、結局修正できずそのままに…
反対に、二話目のギャグ部分は自分も楽しく、サクサク書けたところです。
どこかでお馬鹿な話を書かないと、なんか息が詰まるというか…(^^;
その分シリアス部では、言葉選びに結構悩んだので、褒めていただけてすごく嬉しいです!!

あと、絵板にもこっそり描かせて頂きました。こちらも感想、ありがとうございます。
やっぱりゼルの基本は「かっこいい」ですよね!
アメリアが常にフル回転なのに対し、ゼルはちょっと抑えた感じの渋さが魅力だと思っとります。

これからも、この熱い想い(笑)を吐き出していきたいので、その辺がちょっとでも表現できるよう、がんばります(^o^)/
レス、本当にありがとうございました!

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17027Oh My ……!!かるの E-mail 2005/4/18 19:59:07
記事番号16980へのコメント

こっそりゼルアメ3連発。
どれも短く、それぞれつながりは全くありません。
というか、短いのしか書けません…;
一つでも気に入っていただけるものがあれば、幸いです。

───


   Oh My ……!!




 どんな屈強な戦士にも、まだあどけない子供にも、恐怖という感情は等しくある。それは本能のような根源的なものであったり、その人物の経験に起因するごく個人的なものであったりと、種類は様々ではあるが、誰もが何かしらの恐怖を持っている。
 それは当然、このキメラの男にも当てはまる。いかに彼が強い精神力を持つ一流の魔法剣士でも、やはり恐怖を持っている。その大半は忌まわしい過去に起因するアレコレであるのだが、最近、それとは全く違う種類の恐怖が、一つ増えた。いや、それは恐怖というより畏怖に近い。

 それは目の前にいる少女である。
 大きな青い瞳は好奇心に輝き、常に何かを探しているような印象を与えている。肩で切りそろえられた黒髪の、その先が少しはねているのが、まるで彼女の性格を表しているかのようだ。大国の姫君などという肩書きは、その行動からは、全く想像できない。正義知らしめ、悪を砕くため旅する聖王都の巫女頭。
 アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン。
 彼女こそが、彼の最も新しく、かつ、最も扱いかねている恐怖の種だ。

 無論、彼にとってたかが小娘一人ごとき、恐るるに足るものではない。たとえそれが、素手で魔族をぶっ飛ばす、超合金製であってもだ。しかし相手が、瞳を潤ませ、頬を赤らめやって来るともなれば話は別だ。いや、そうであったとしても、相手が彼女で無かったならば、恐怖を感じることも無かったであろう。相手がこの、アメリアでさえなければ。

「ゼルガディスさん、今日もがんばりましょうね。
 手掛り、見つかるといいですね」
 朝食の席で、彼女は元気に宣言する。
 彼の行く遺跡に彼女もついて行くことは、もう決定事項らしい。今までの経験から考えると、どれだけ反論しようが、この決定が覆る可能性は無いに等しい。
 彼は口の中のものを咀嚼し、「ああ」とだけ呟いた。

 ──いつからこうなった?
 四人での旅とはいえ、その内二人には確かな絆があった。彼らにその意識があったかどうかは知らないが、決して割り込むことのできない二人の会話は少なくなく、当然その分、余り者の二人、ゼルガディスとアメリアの会話も増えていった。
 それは別に構わなかった。同じ旅をするもの同士、時には共に戦うこともある。お互いを理解しておくことは、生き抜く上でも必要だった。
 やがて彼女は視線を絡め、嬉しそうに笑うようになった。
 それも別に構わない。少女の視線に多少の気恥ずかしさは感じていたが、かといってどうこう言うものではない。何より彼女は嬉しそうだ。時に生命の危機に晒されるこの旅で、それでも笑えるということは、悪いことではない。
 そして彼女は腕を絡め、手を繋ごうとするようになった。
 さすがにこれには少し構った。ただの旅の仲間にならば、普通こんなことはしまい。彼女の気持ちに、今更慌ててももう遅い。しっかリ気付いていたくせに、ずっとそれから目を逸らしていたのだ。再び目にしたときそれは、ばっちり大きく育っていた。

 そしてそれは現在も、すくすくと成長中らしい。
 気分はまるで闘牛士。真っ赤な顔で、自分めがけて突っ込んでくる彼女から、すんでのところで身をかわす。それでも彼女はひるまない。今度こそはと狙いを定め、再び地を蹴りやって来る。
 これが本当の闘牛ならば、彼はさぞかし見事に牛をさばいたことだろう。しかし、現実に突っ込んでくるのは牛ではなく、さばく訳にももちろんいかない。二度と向かってくる気にならないように、痛めつけて追い払うことも考えたが、それは彼にはできなかった。

 彼女がそうであったように、彼にもまた、育つ気持ちがあったのだ。
 だが、真っ直ぐ育った彼女のそれとは大きく違い、彼のはずいぶん、捻じ曲がっていた。
 駆け寄ってくる足に、足払い。伸ばされる手を、捻り上げ。囁かれる愛の言葉には、うろたえながらも顔面チョップで応対した。
 一応弁解しておくと、彼とてただ、照れ隠しのためにこのような蛮行に出たわけではない。互いの立場、過去、身分、祖国、目的。彼が気持ちを押し込めようとする理由は、山ほどあった。何にも増して、当て無き旅を続けるために、自分を惹きつけ、留め置くものを持つわけにはいかなかった。このことを、言葉を尽くして説明しようにも、口下手な彼にできようはずも無く、結局一番慣れ親しんだ形を持って、返答としてしまうのだった。
 だが、どう言い訳をしようとも、実に自分勝手な理由と行為である。彼女に見限られても無理はない──彼はそう考えていた。ところがどっこい、彼女はそんな予測を、軽々と飛び越えた。
 彼の理不尽な対応が、彼女の心の、おかしな所に火を点けたらしい。
 無下に扱われれば扱われるほど、彼女は喰らいついて来た。その心情は、あの「ダメな子ほど可愛い」というやつかもしれない。もしくは「不良を更正させようとする熱血教師」だったのかもしれない。
 何にしろ、彼は全くひるまぬ彼女を見るにつけ、深い安堵と共に、底知れぬ恐怖をひしひしと感じていた。いや、それは恐怖というより畏怖に近い。彼は信仰を持たないが、このときばかりは、神にすがる人の気持ちがわかるような気がした。



「ゼルガディスさん、今日はとってもいい天気ですよね!」
 隣を歩くアメリアの声は、いつものごとく、威勢が良かった。だが、ゼルガディスはその中に、どこか作り物めいた偽物臭さを感じていた。そしてそれは、たぶん正しい。

 彼らが朝から出かけていった遺跡は、遺跡とはもう名ばかりの、ただの風化した巨石の集合だった。散らばる石から、かつてこれを建設した先人たちの意図を読み取ることは、もはやできず。結果、彼らはまだ日も高いうちからの撤退を余儀なくされたのだ。
 成果はゼロ。いつもどおりの結果ながら、彼はやはり、少し落ち込む。アメリアとしては、そんな彼を少しでも元気付けたい一心からのおしゃべりなのだが、あいにく相手はそんな心使いを素直に受け取れるほど、素直な人間ではなかった。
「あのあの、ですからこれからお散歩に行きませんか。
 地図で見たんですけど、ここから少し行ったところに湖があるんです。
 実は見つけたときから行きたいなーって思ってて、せっかくですし、これから一緒に行ってみませんか」
「……うるさい」
「えっ」
「うるさいと言っている。行きたければどこへなりとも勝手に行け!」
 気が付けば怒鳴っていた。少しの後ろめたさと抑え切れない破壊衝動。信じられないといったふうに、こちらを見詰める青い目が、ひどく癇に障った。
「大体俺は、お前について来いなんていったことは一度も無い。
 なのに毎回毎回…………迷惑だ!二度と俺について来るな!」
 アメリアの肩が、びくりと震えた。見開かれたままの瞳がじわりと揺らいだ。

 これで終わりだ。
 ゼルガディスはその感覚に、奇妙な満足感を覚えた。これで彼女は自分から離れて行く。自分を脅かす存在を、今、自分の手で排除したのだ。
 そのはずなのに、彼は手足がすうっと冷たくなっていくのを感じた。
 何故だか判らないが、それを彼女に悟らせてはならないと思った。ゆっくりと首を回し、視界からも彼女を排除したとき、叩きつけるような言葉が耳朶を打った。
「嘘です!それは嘘です!
 確かにわたし、あなたに迷惑をかけてしまうこともあるけど、でも、あなたを一人になんてできません!
 今のわたしじゃ力不足かもしれませんけど、あなたには必要なはずです!」
 彼は震えた。怖いと思った。そう言い切れる彼女の強さが。そして彼女の言葉に、未練がましく縋りつきたくなる自分の弱さが。
「……やめろ。必要ない。俺には何も……」
「いいえ、あなたには必要です!あなたを愛している人が!」
 背中に暖かな衝撃を受けた。彼女がぎゅっと、彼を捕まえていた。
「わたしはあなたが、好きなんです!!」

 彼の体から、諦めと共に力が抜けていった。
 捕まってしまった。何もかも。
 それは幸せな諦観だった。体の隅々まで暖かい血が通い、確かなリズムを刻み始める。中心から末端へ、心地好い熱が広がっていく。固く凍り付いていたものが、緩み、溶け出していく感覚。
 彼はその感覚に、もう抵抗はしなかった。だが、それでも彼女は彼を放さなかった。腰に回した腕に力を込め、自身を背中に押し付ける。その感触に眩暈を起こしそうになりながら、彼は空を仰ぎ見た。空は果てしなく、どこまでも突き抜けた青だった。

 オー、マイ、──
 その続きが出てこない。彼は祈るべき神を持っていない。
 彼はこのとき、唐突に理解した。人は縋るために神を必要とするのではない。どうしようもない時、己の無力を痛烈に実感した時に、その名を吐き捨てるため、神が必要なのだ。
 そんな神は持っていない。唯一、その代わりになれそうなものが、頭に浮かんだ。それはひどく場違いな気がした。だがそれ以外、代用できそうなものは無い。
 彼は仕方なく、心の中でその名を呼んだ。

 オー、マイ、スウィート、アメリア。
 あんたはとびきり、怖い奴だ。



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17028だからその手は離さないでかるの E-mail 2005/4/18 20:02:00
記事番号16980へのコメント

 澄み渡った空は声や光だけでなく、緊張感さえも何の劣化も無く届けてしまうものなのだろうか。
 アメリアはそんなことを考えていた。彼女自身はいつも通りに振舞っているつもりなのだが、今日は彼との会話が少ないように思える。そして訪れる沈黙に、ぴりぴりと痺れるような緊張を感じるのだ。
 ゼルガディスはもともと口数の少ない男である。今日だって、交わした言葉の数自体は、いつもと変わらないだろう。しかし彼は、今朝から一度も、彼女と目を合わせていない。否、合わせようとしない。それはやはり、彼にも何かしら思うところがあるからなのだろう。
 だったら嬉しいな、と彼女は思う。
 間もなくやってくる別離を思えば、今この場でひっくり返って子供の様に泣き喚いてしまいたかったが、それでも彼女は心の片隅に、暖かさを感じることができた。
 顔を上げ、澄み渡る空のあまりの青さに、彼女は目を細めた。鼻を抜ける空気を感じるたびに、涙が出そうになる。それでも構わず、大きく手を振り、彼の隣を歩き続けた。勢い良く手を振り上げると、その手に着けたアミュレットが太陽を反射し、深い青が眩い光を放った。

 やがて、少し開けた場所で道は二股に分かれた。彼は足を止め、いつもより、ほんの少し低い声で彼女に告げた。

「アメリア、ここでお別れだ」





   だからその手は離さないで





「悪いが、俺はあんたと一緒には行けない」

 ゼルガディスはアメリアから目を逸らし、呟くように言った。
 その言葉は予測済みだった。一言一句まで予想通りの台詞に、彼女の顔は思わず笑みを形作る。だが表情とは裏腹に、まぶたの裏に涙が溜まっていくのがわかった。ぐっと歯を食いしばり、顔を上げる。彼は相変わらず彼女を見てはいなかったが、それでも構わず口を開いた。

「わかりました。ゼルガディスさんの邪魔しちゃいけませんもんね。
 私、あなたの望みが叶うように祈ってます!」

 声は震えてしまったが、涙を零すことなく言えたことに彼女は安堵した。そして続けて言うべき言葉を思い出し、慌てて捲くし立てた。

「あ、あの、それでですね、このアミュレット、持ってってくれませんか?
 コレ、お守りなんです。一個だけじゃあんまり効き目無いかもしれないですけど、でも・・・」
「・・・…わかった。もらっておこう」
「あっ、ハ、ハイ!」

 アメリアの顔がぱあっと明るくなる。
 だが、ゼルガディスはそれでも彼女を見ようとはしなかった。うつむいたまま差し出された男の手に、彼女は慌ててその細い手首からアミュレットを外し、静かに乗せる。そしてそのまま、彼の手を両手で包み、そっと呼びかけた。

「ゼルガディスさん」
「・・・・・・」
「ゼルガディスさん」
「・・・・・・・なんだ」
「こっち見てください」
「・・・・・・」
「私を、見てください」

 ゼルガディスが、ゆっくりと顔を上げる。しかし、その目線は彼女を捉えてはいない。アメリアはそっと両手を伸ばし、男の頬に添えると、やさしく自分の方に向かせた。
 薄い碧の瞳に自分がが映っていることを確認し、アメリアは少し微笑んだ。単に、彼とやっと目を合わせることができて、嬉しかったからかもしれない。それとも、彼の瞳に、僅かな怯えを感じ取ったからかもしれない。
 この別れに対して、彼が自分と同じ感情を、たとえそれが自分のそれの、何分の一か程度の小さなものであっても、感じてくれているのなら、それは喜ばしいことだと彼女は思う。この小さな満足感に勇気を奮い立たせ、彼女はゆっくりと言葉を紡いだ。

「あなたの望みは叶います。
 たとえ、どんなに時間がかかろうとも、あなたはきっと、真に望むものを手に入れることができます」
「そんな奇麗事はたくさんだ」
「奇麗事じゃありません。真実です。きっと望むものを手に入れることができます。だから」

 アメリアははにかむように微笑み、そっと囁いた。

「手に入れたものは、もう、放しちゃダメですよ」

 言葉とともに、彼女の手がゼルガディスの頬から離れていく。彼の手はそれを追いかけ、しかし、捕まえることなく空を切った。

 二人の視線が交錯する。

「・・・おれの手には、何も無い。今までも、これからも」
「いいえ、確かにありました。あなたの手の中に。
 今だって、少し手を伸ばすだけで、それはあなたのものになるんです」
「・・・・・・」
「でも、あなたは手を伸ばさない」
「・・・・・・」
「・・・それでも私は、いつだってここにいますから」

 そう言って彼女は、ほんの一瞬、彼のアミュレットを握っている手に触れた。その感触に、胸が震える。その冷たい肌を何よりも愛しいと、強く、強く思う。
 
「だから、私を手に入れる勇気が出たら、攫いに来てくださいね。
 私は、伸ばした手を引っ込めるつもりなんて、全然ありませんから!!」

 目に涙を浮かべながらも、彼女ははっきりとそう宣言した。驚いたように見開かれたゼルガディスの瞳に、最後にとびっきりの笑顔を見せると、身を翻して駆け出した。彼女の故国、セイルーンへと続く道へと。
 残された男は、彼女のアミュレットを握り締め、ただ、その小さくなっていく後姿を見送った。

 アメリアはとうとう、一度も振り返らなかった。
 彼女の姿が視界から消えても、彼はしばらく、そのまま立ち尽くしていた。しかしやがて、踵を返し体を反転させると、一度だけ空を見上げ、歩き始めた。彼女とは反対の方向へ。

 彼もまた、振り返ることはなかった。
 だが、アミュレットが軋むほど堅く握り締められた拳を緩めることは、どうしてもできなかった。


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17029Soul Stasionかるの E-mail 2005/4/18 20:04:37
記事番号16980へのコメント

   Soul Stasion




 俺は列車に乗っていた。
 傾きかけたまま固定された太陽が、すべてを黄金に染めている。
 視界に広がるのは、どこまでもまぶしい黄金の小麦畑だ。
 永遠の落日、それが俺の魂の風景。

 アメリア、今お前に会いに行くから待っててくれ。




──ゾルフ!ロディマス!
お前たち、どうしてこんなところに。
そうか、俺にわざわざ会いに来てくれたのか。…ありがとう。
……なんだその顔は?
あれから何年経ったと思っているんだ?俺だって成長くらいする。
おい、似合わないはともかく、気持ち悪いってのはどういうことだ?
そりゃまあ、わからんこともないがな。
……俺はずいぶん無能な上司だったしな。
本当にすまなか…いや、謝らせてくれ。そうでもしなきゃ俺の気がすまん。
ああ、そのことだけじゃない。お前たちにはずっと世話になりっぱなしで…。
……そうだな。一方的に謝るのはただの自己満足かもしれんな。だがこれだけは言わせてくれ。最後まで俺についてきてくれて、嬉しかった。ありがとう。
……ああもう、だから俺だって成長くらいすると言っただろうが!
あいつらに会って、俺も変わったんだ。
ん?なんだ、にやにやして……。
なっ、そっそれをどうして……ああ、そうだ。彼女に会いに行くんだ。なんか悪いか!?
うるさい!照れてなどいない!!
ん、ああ、もう発車の時間か。
ああ。俺は行く。
……うん、お前たちも元気でな。じゃあ、な。


……やっぱりな。あんたとはどうしても顔を合わせることになるだろうと思っていたよ。レゾ。
元気だったかだと?ああ、元気だよ。おかげさまでね。
……いや、全く恨んでいないと言えば嘘になるが、さすがにもう、復讐心は持ち合わせちゃいない。もう、終わったことだしな。
そんな顔するなよ。まるで俺がいじめているみたいじゃないか。
…合成獣にされてやっと見えたものもあるしな。
ああ。特に己の傲慢さという奴は嫌というほど思い知ったよ。あんたは結局、死ぬ間際まで気が付かなかったようだが……。
おっおい!だからそんな顔するなよ!
まったく…本当に、あんた、憑き物が落ちたというか…。
俺の中のあんたは最高に嫌な奴だった。ちょっと前までの俺だったら、こんな風にあんたと話はできなかっただろうさ。
まあ、な。確かに俺はあんたの全てを許すなんて、できないかもしれない……だがまだ、先は長いんだろう?それでもあんたは、俺のたった一人の家族、だったんだからな。
ああ、だからそんな顔は…………もう、発車の時間のようだな。
…ああ。今の俺には帰る場所があるんだ。…俺を、待っててくれている奴がいるんだ。
……うるさい。やっぱりその嫌な性格は地だったんだな。本当に嫌な奴だ。
わかった、わかった。彼女にもよろしく言っとくよ。忘れてなかったらな。
…ああ、それじゃあ、な。くそじじい。


相変わらず騒がしいな。リナ。ガウリイ。駅のずいぶん手前から声が聞こえていたぞ。
いいや、聞こえていたのは主に、あんたの甲高い…いや、なんでもない。
…ふう、性格のほうも相変わらずだな。旦那、あんたも苦労してるだろう。
我慢強いから、ってあんたもくらげのままなんだな。大丈夫なのか?
…確かに。リナと一緒なら大丈夫だろうな。別の面では大いに心配だが…。
おっおいリナ!!お前こんなところでもスリッパ持ってんのか!?
乙女の必需品?俺の聞き間違えか?あんたほど乙女という言葉が似合わん女はいないと思うが。大体とうにそんな…。
わっわかった!すまん、俺が悪かった!だからスリッパはよせ!
……はあ、本当に変わってないな。…安心したよ。
なっ、べ、べつに彼女のことなんか考えていないぞ!
い、いやただちょっと思い出しただけで…。
……ああ、そうだ。ばっちり思い出してたよ。ったく、わかっているならいちいち聞くなよ。
そうだな。俺たちはお前らと違って、四六時中、いつもべったりくっついてる訳にはいかないもんでね。おや、どうしたんだ、リナ?顔が真っ赤だぞ?
ああ、わかったよ旦那。この辺で勘弁しといてやるさ。だがリナに比べたら、可愛いもんだろう?
嫌な性格?そいつはあいにく、血統書付きなんでね。
…ああ、もう時間か。早いもんだな。
そりゃあ早く会いたいさ。
…言っただろう?こっちは四六時中一緒にいるわけには、いかなかったんだ。
ああ。それじゃあ行って来る。お前らも…まあ、言わんでもそうだとは思うが、元気でな。
じゃあ、な。


……フィルさん!!てっきり彼女のところにいるのだと思っていたんだが…。
まあ、確かに彼女はもう子供じゃないんだが…。どうもあんたの娘というイメージが強くてな。ところで隣の女性は……?
妻っ!?その格好でっっ!!?
い、いや、だってそんな格好だし、その高笑いも…ってちょっと待ってくれ、それじゃあ、あんたが彼女の母親なのか!?
……悪夢だ。
いや、なんでもない。俺は何も言っていない。
と、とにかく、俺に会いに来てくれて感謝するよ。…ありがとう。
まだなかなか使い慣れない言葉なんでな。なんだかむず痒くなる。だが、本当に、あんた達には感謝している。それこそ、言葉で言い表せないぐらいに。
……彼女という人間を作り出してくれたこと。それだけでも俺にとっては、本当に感謝すべきことなんだ。その上、あんたは彼女と、こんな俺との仲も認めてくれた。
娘の幸せのため、か。だが正直、俺はずっと不安だったよ。本当に俺で、彼女を幸せにできるのかってな。
…やっぱり親子だな。彼女もよく、そう言っていた。そんな後ろ向きな考えはやめろ、ってな。
ああ、俺は彼女といられて幸せだった。その後の、何倍もの長い一人の時間を差し引いても、それでも幸せだったと思う。
い、いや、俺は惚気てなんか……。ほ、ほらもう、発車の時間だ。準備をしないとな。
…そうか。彼女は次の駅にいるのか。
ああ知ってる。彼女は俺を、待ってくれている。
…了解した。俺は、彼女と一緒に、幸せになるよ。
それじゃあ元気で。それから最後に、…ありがとう。



 列車は、どこまでも続く黄金の小麦畑を駆けていく。
 アメリア、俺はもうすぐ、お前に辿り着く。


 やがて列車は終着駅に到着する。
 俺は立ち上がり、開くドアを抜けて行く。



ずいぶん待たせてしまったな。変わりはないか?
……アメリア。
ああ、本当にずいぶん長いこと遠回りをしてしまってな。俺も会いたかった。お前に。
ニセモノってお前…。
ばか。あれからどれだけ経ったと思ってるんだ。俺にだって色々思うことがあったんだ。特にな、お前がいなくなってからの生活は、本当に長かった。
あっ、ばか、おい……泣くな。泣くのだけはやめてくれ。…泣かれると、どうしていいのかわからなくなる。
そうだ。笑っていてくれ。お前は笑っているほうがずっと……。
ずっと…………あー……、ああ、アメリア、そういえば…。
なっ、誰が相変わらず甲斐性無しだ!!お前こそ、その無神経な発言は相変わらずだな!
はん?正義の使者?本当に変わってないな。お前は相変わらずお節介でお転婆で、表情をコロコロ変えやがって……本当に変わらない。俺の、アメリアだ。
ん、今更何、赤くなってるんだ?俺がどうしてここにいると思っているんだ?
ああ、これからはずっと一緒だ。
俺も、お前に話したいことが山ほどある。だがまず、すまん。言い忘れていたことがある。ずっと列車の中で、一番最初に言おうと思っていたんだが。
……それじゃあ言うぞ。

ただいま、アメリア。




 すべてが黄金に染まる場所。
 長い旅路の果てにたどり着いた、ここが俺の、魂の終着駅。

 永遠に沈まぬ太陽の下、俺はすべてを手に入れた。