◆−ルクミリ過去話−ぷかり虹子 (2005/3/15 23:31:10) No.16993
 ┗ルクミリ過去話−ぷかり虹子 (2005/3/16 23:15:58) No.16994
  ┗はじめまして。−青月 かなた  (2005/3/26 17:49:27) No.17011
   ┗Re:はじめまして。−ぷかり虹子 (2005/3/30 01:07:12) No.17013


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16993ルクミリ過去話ぷかり虹子 E-mail URL2005/3/15 23:31:10


日頃は魔族ばかり書いてるのですが、ルークとミリーナを書きたかったので頑張ってみます。私の中で二人はこういう出逢いのイメージなんですが・・・。
少々、雰囲気がダークなのでご注意下さい。

*****


 そろそろ死ねるかもしれない。

 深く息を吐きながら、俺は思った。不思議と恐怖は無かった。
 あるのは、絶え間なく続く、鈍くて鋭い痛み。
 目の前に広がるのは、ゴミの山。なんてこともない薄暗い路地裏。
 誰の目にも止まらず、誰に悲しいと思われることもなく、このままここにいれば、きっと死ねる。
 目を閉じれば、もう何も見えなくなって、闇と一つになるだけ。
 こんな最期が俺には似合いだ。
 いっそ笑いさえこみ上げてくる。痛みが激しくて笑う力も無かったが。

「なんだって……こんなところに来ちまったのかなぁ……」

 血と泥のついた手をぼんやり見つめながら、俺は虚ろに呟いた。
 それでも復讐したかった。憎んでいたのだ。
 俺の家族を、まだ幼かった妹を殺した、あのろくでなしの人間どもを。
 だから殺し屋になった。目的は果たした。
 だけど、あいつらを殺しても、何故か、やめられずにいた。
 まるで心の中に空いた穴を埋める代わりのように、殺して、殺して。
 やけに疲れた。
 今日の標的をボディー・ガードしてた傭兵は強かった。仕事は片づけたが、深手を負った。本当は、この傷を治す魔法も知ってる。だけど、どうしてか唱える気にならない……。
 疲れてるのだ。もう、終わりにしてほしい。
 痛みも、そろそろ感覚が麻痺してきた。頭が霞んで、景色が歪む。

「ひどい傷ね」

 ふいに掛けられた声に、俺は目を上げた。
 ……女だ。
 服装からして、旅の傭兵だろう。
 暗い路地で、銀色の髪は月明かりにも似て見えた。

「……誰だ」

 俺はそう聞いたが、声は舌にもつれて、まともな言葉になったかも怪しかった。
 女は無表情だった。感情を持たない人形のようにも見えた。

「貴方、死にたい?」

 その問いは、闇のように静かで。

「それとも、生きたい?」

 俺は何て答えたのだろう。覚えていない。ただ、あまりにも眠かったのだ。
 視界が揺れる。
 女の姿も、なにもかも、見えなくなっていく。
 見えるのは、闇だけ。ただ、深い闇だけが落ちて―




「………おいルーク!」

 呼びかける声に、俺はハッと目を開けた。
 灰色の壁。ゴミだらけの路地裏。
 太陽は空に昇っていて、俺を見下ろすのは、見慣れた姿。

「……ジャック」

 俺に人を殺す術を教えた十歳年上の男は、やたら見開いてる右の瞳と、目の色素が弱くていつも細められている左の瞳を、こちらに向けながら言った。

「何やってるんだ。帰ってこないし、死んだかと思ったぜ」
「俺は……生きてるのか?」
「寝ぼけてんじゃねえ、てめえで治したんじゃねえの?その傷」

 言われて俺は自分の体を見下ろす。
 服は血で染まっているが、どこも痛みは感じない。なんで……。
 ハッとして跳ね起きて、俺はジャックの肩を掴んだ。

「あの女は!?」
「女ぁ?なんだそれ。夢でも見たのか?どんな女だよ」
「……銀髪で、すげえ綺麗な女……」
「飢えてんの?そんな女いねえって。夢だろ、それ」
「夢………?」

 ハッキリと覚えてる。幻だったとも思えない。この怪我を治してくれたのも、あの女かもしれない。微かに首を振って黙り込んだ俺に、ジャックは興味なさそうに肩を竦めた。

「ま、お前さんの夢はどうだっていい。新しい仕事だぞ」
「……んだと?」

 鬱陶しそうに俺は呻いた。

「また殺しかよ」
「お前の好みだと思うぜ、金と権力にものを言わせてる横暴な悪徳大富豪を殺してくれって、可哀想な市民の方から嘆願されてねぇ」

 いつもどこか嘲笑するように、皮肉げに喋るジャックは、軽く指を振る。

「好きだろう?悪人を殺すの」
「どーだっていいさ……」
「覇気がねえなぁ」
「俺はあんたほど変態じゃねえよ」
「殺戮ほどステキな商売は無い。お前にもそのうち分かるさ。いや、ホントはもう、とっくに知ってるんじゃねえの?」

 ジャックは歌うように言って、薄い唇を曲げて笑った。
 俺は反吐が出そうだ。
 こいつを殺せば、この小汚い悪夢から抜け出せるだろうか。だけど今更だろうか。
 俺の手もこいつと同じ。既に真っ赤だ。この血のように赤い髪のように。


******

 いったん切ります。

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16994ルクミリ過去話ぷかり虹子 E-mail URL2005/3/16 23:15:58
記事番号16993へのコメント



 ″仕事″は、明後日。
 そう言われてジャックと別れて、俺は一人で辺りをうろついていた。散歩というには、あまりにも俺はキョロキョロしすぎていただろう。もう夕方になるってのに、歩を休めて家に帰る気にならない。この辺りにまだいるんじゃないかと。
 銀髪を見るたびに、あの女じゃないかとハッとしてしまう。そのたびに違うと気がつく。

「……いねえなぁ」

 やっぱ、やみくもに捜して見つかるほど甘くねえか。
 呟いて、なんとなく反対側の道路のほうに目をやった時だ。
 銀の髪が揺れている。スラリとした背の高い女。
 確かにあれは。
 目を丸くして見ている俺には気づかず、女はスタスタと歩いてすぐ横の酒場に入っていった。




 
 赤茶けた煉瓦作りの酒場の中。ざわめきと酒の臭いがする。俺は一歩足を踏み入れて、辺りを捜した。隅の一角で、あの女は一人で座っている。
 俺はその背を眺めながら、なんて言おうかと一瞬ためらった。
 その隙に、だらしない笑みを作った酔っぱらいが、ヘラヘラと女に話しかけてきた。

「よお、あんた美人だねー。俺と飲まない?」

 女は冷ややかな横顔で言った。

「断るわ」
「まーそう言うなって。連れいないんだろー?寂しそうだから相手してやろうって言ってんじゃねーの」

 馴れ馴れしく肩に手をかけようとする男の肩に、俺は馴れ馴れしく手を置いてやった。

「な、なんだてめえ……」

 驚いてこちらを見る男を、目つきの悪さをいかんなく発揮して睨みつける。

「俺の連れだ。手ぇ出すんじゃねーよ」

 なんくせつけたいところだろうが、俺の眼光の鋭さに太刀打ちできないと見て取ったのだろう。舌打ちして男は離れた。
 女は相変わらずの無表情で、こちらを見ようともしない。仕方なく俺は女の前に座って、軽く片手を挙げた。

「よ、また会ったな」
「………私は貴方の連れになった覚えはありません。助けてくれたのには礼を言うけど」
「あんた、昨夜、俺を助けただろ?お返しってやつさ」

 言われても女の目には何も灯らない。まるで感情が見えなかった。

「私が助けたわけじゃありません」
「じゃあ誰だよ」
「たまたま一緒にいた神官です。貴方の傷は深かったし、出血がひどくてリカバリィじゃ危険だったから、その人に頼んだだけ」
「どっちでもいいさ。あんたが頼んだから、俺は今も生きてるってことだろ。しかしあんたは、なんで俺を助けようとしたんだ?何者かもわからねえ赤の他人なのによ」

 女は、なんてこともなさそうに返す。
 
「別に……目の前で死にかけてるから、放ってもおけなかっただけ」

 その一言に俺は驚いた。それまで俺の周りに、そんなこと言う奴はいなかった。
 妙に胸がソワソワしてきて、俺は頭を掻きながら言った。
 
「なあ、あんた……俺に聞いたよな、死にたいか生きたいかって」
「ええ。貴方は何も答えなかったけど」
「もし俺が死にたいって答えてたら、放っといてくれたか?」
 
 女は一瞬、真面目に俺を見つめた。

「わからないわ……貴方、死にたかったの?」

 聞かれて俺は口ごもる。そして小さく息を吐いた。

「………そうかもしれねえな」
「そう。余計な真似だったかしら」
「いや……どうだろうな。わからねえ。しかし死ななくて良かったかもな」
「どうして?」
「あんたみたいな美人に逢えたから」

 に、と笑って片目を閉じた俺に、女はフイと視線を逸らし、カタンと席を立つ。
 慌てて俺は前に回る。

「おいおい、まだ名前も聞いてないぜ」
「貴方に名乗る気もありません」
「冷てーなぁ、自分で助けておいて。俺の名はルークってんだ。どこの宿に泊まってんだ?あんた旅人だろ?」
「どうしてそんなこと聞くんです?」
「どうしてって……」

 俺も思わず自分に問いかけた。なんでこんなに、この女のことが気になるんだ?
 命を助けてもらったことなんて、そこまで恩義に感じてもいねえのに。
 こんな能面みてえに無表情で素っ気ない女に、なんでつきまとってるんだろう。
 ………わかんねえ。
 だけど、この感情の消えたような目を見てると、気になるんだ。
 笑わないんだろうか。この瞳には怒りも喜びも宿らないんだろうか。
 何を考えてるんだとか。知りたくて仕方ねえ。
 今までこんなに他人のことを気に掛けたことは無かったのに。

「あんたに惚れたんだ」

 ほとんど無意識に言った俺に、女は一瞬絶句し、やがて静かに睨んで言った。
 
「赤毛の男は嫌いなんです」



 
「おいルーク!」

 相変わらず、怒ってもいないような、だが鋭い呼び方でジャックは呼ぶ。俺はうんざりしながらもドアを開けた。

「あんだよ」

 俺より背の低いジャックは腕を組んだまま、こちらを見上げるようにして言う。

「仕事だって言っただろ。さっさと用意してこい」
「あー……わりぃがキャンセル」
「なにぃ?」
「女にフラれた傷が痛んで行く気にならねえ……。結局、名前も教えてもらえなかったぜ……」

 遠い目をする俺に、ほう、とジャックは呟く。

「そりゃめでてぇな」
「……何がめでてえんだ?」
「お前が女に惚れるとは思わなかったからさ」
「ああ?てめえ、俺をホモだとでも思ってたわけか!?」
「いや……そういう意味でもねえんだが……」

 ニヤニヤしながらジャックは返す。

「お前は人間嫌いだからよ」
「てめーに言われたくねえ」
「まあ、女のことはさっさと諦めて下に降りて来な。今日は俺もついてってやるからよぉ」

 そう言われて俺は、なんとなく尋ねた。

「……そういえばジャック。あんたは昔、俺を助けたな。あんたでも、死にかけてる人間を見殺しに出来ないとか思うのか?」
「バカじゃねえのか?」
 
 軽くせせら笑うようにジャックは肩を竦める。

「あれはただの気紛れだ。それに相手がお前だったから助けたんだぜ」
「なんで」
「お前の目があまりにも、世界中を憎んでるように光ってたからよぉ。勿体ないと思ったのさ。うまく育てば立派な……悪党になれるだろうにってな」

 口笛を吹きながらジャックは階下に降りていった。
 俺は一人、取り残されて佇む。
 悪党か……。
 なんとなく俺は舌打ちした。
 あの何もかもを嘲笑してるような背中を思いっきり蹴りつけてやりたかった。
 多分、俺が一番嫌いなタイプの人間なのだ。あのジャックという男は。
 嘘が無いのだけが救いだが。頭から足のつま先まで闇に浸かったような奴だ。
 なのにどうして俺はここにいるんだろう。
 こうして俺も、あの男と同じになっていくんだろうか。

 俺はいったん部屋に戻り、剣と防具を身につけ、黒いマスクをつけた。
 顔が見えないように。闇と同化するように。俺は消え、殺すだけの闇になる。

 なんとなく、あの女の姿が、脳裏をよぎった。
 ここに来てからずっと、辺りがモノクロみてぇに見えてる。
 あの銀の髪。あんなに輝いて見えたものは、久しぶりだった。
 もう見ることもないなら。それだけが残念だ。


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17011はじめまして。青月 かなた  2005/3/26 17:49:27
記事番号16994へのコメント

 はじめまして、青月かなたと申します。
 実は虹子様のHPは前々から通っていて、考察や小説に惚れていました…。特にゼラス様受けが好きな人間拍手で押したりしていました。ゼロゼラに萌えを感じます。

 今回、この作品を拝見して、とても感動を受けまして、レスさせていただきます。
 なんか、もうダークでシリアスで全体的にクールな感じが最高です!
 ルクミリ大好きなのもあるのですが、これはルークさんが言葉で言い表せないような哀愁というかかっこよさがあって、ときめきます。

> 馴れ馴れしく肩に手をかけようとする男の肩に、俺は馴れ馴れしく手を置いてやった。
>
>「な、なんだてめえ……」
> 驚いてこちらを見る男を、目つきの悪さをいかんなく発揮して睨みつける。
>「俺の連れだ。手ぇ出すんじゃねーよ」
>
>「よ、また会ったな」
>「………私は貴方の連れになった覚えはありません。助けてくれたのには礼を言うけど」
>「あんた、昨夜、俺を助けただろ?お返しってやつさ」
 この辺とかもうヤバイくらいにツボなのです。
 この後の淡々としたミリーナさんの態度とかももう素敵で素敵で!

> 俺も思わず自分に問いかけた。なんでこんなに、この女のことが気になるんだ?
> 命を助けてもらったことなんて、そこまで恩義に感じてもいねえのに。
> こんな能面みてえに無表情で素っ気ない女に、なんでつきまとってるんだろう。
> ………わかんねえ。
> だけど、この感情の消えたような目を見てると、気になるんだ。
> 笑わないんだろうか。この瞳には怒りも喜びも宿らないんだろうか。
> 何を考えてるんだとか。知りたくて仕方ねえ。
> 今までこんなに他人のことを気に掛けたことは無かったのに。
 このくだりでむやみに怪しい笑みを浮かべてしまいました。
 こういったシリアスさがこのカップリングのだいご味の一つだと思っています。 

>「あんたに惚れたんだ」

> あの銀の髪。あんなに輝いて見えたものは、久しぶりだった。
> もう見ることもないなら。それだけが残念だ。
 次回への期待が際限なく膨らむくだりです。
 ということで、これからも楽しみにしています。

 いきなり萌え語り気味なレスで申し訳無いと思いつつ、失礼させていただきます。
 それでは。

 

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17013Re:はじめまして。ぷかり虹子 E-mail URL2005/3/30 01:07:12
記事番号17011へのコメント

初めまして、感想コメントありがとう御座います!
前からホムペに通ってくださってたとは嬉しいです(照)
ゼラス様受けが好きなんて同志に逢えてホントに感激です!
投稿して良かったです。今後もよろしくお願い致します〜。

そして小説、シリアスに書きたい!という気持ちで書いたものの、なんか重いなぁと思ってたので、格好いいと言っていただけてホッとしました。
ルクミリ良いですよねー私も好きです。

> こういったシリアスさがこのカップリングのだいご味の一つだと思っています。 
そうですよね、どっちも結構シリアスなもの持ってそうなキャラですし。

> 次回への期待が際限なく膨らむくだりです。
ありがとうございます。今ちょっと不安になってるんですが。
大体のストーリーを書いてた文章をうっかり消しちゃったので(汗)
・・・書けるんだろーか!と(ドキドキ)
な、なんとか思い出しつつ書き上げますね・・・・それでは。