◆−スレイヤーズvsヘッポコーズ−織原 瑞穂 (2005/9/5 20:18:04) No.17213
 ┣Re:スレイヤーズvsヘッポコーズ−まさとも (2005/9/13 10:15:47) No.17238
 ┃┗ありがとうございます−織原 瑞穂 (2005/9/13 22:51:50) No.17239
 ┣はじめまして−羅城 朱琉 (2005/9/14 08:29:24) No.17243
 ┃┗遅くなって、すいません(^^;)−織原 瑞穂 (2005/9/27 23:11:16) No.17279
 ┗Re:スレイヤーズvsヘッポコーズ−風谷 鈴(元修羅) (2005/9/28 18:58:34) No.17284


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17213スレイヤーズvsヘッポコーズ織原 瑞穂 E-mail 2005/9/5 20:18:04



 こんにちは、織原瑞穂と申します。
 始めましての方が大部分だと思いますが、そうでない方、本当にお久しぶりです。ご無沙汰してます。メールアドレス変わってます。今、動いているのは上記の携帯電話アドレスだけになります。よろしくお願いします。

 えーと……こちらの方に投稿させて頂くのは二回目になります。
 が、一回目のはまだ完結してません。すいません、書いてます、何年もかかってますが、何度も破っては書き直してます……で、息抜きで書いた物の方が先に上がってしまったので、投稿させて頂きます。

 vs物です。
 元ネタは、この「書き殴り」さまに来られている方でしたら説明不要だと思います、富士見ファンタジア文庫刊神坂一著「スレイヤーズ!」シリーズ……のアニメ版、テレビ東京系アニメ「スレイヤーズ」「スレイヤーズNEXT」「スレイヤーズTRY」と、
 こちらは、あまり知ってる方はいらっしゃらないと思いますが、富士見文庫ドラゴンブック刊「新ソード・ワールドRPGリプレイ集」の@〜I。及び富士見ファンタジア文庫刊「ソードワールド短編集・へっぽこ」シリーズ。通称「ヘッポコーズ」になります。

 ここから少し余談になりますが、皆さんはTRPG(テーブルトーク・ロール・プレイング・ゲーム)というものをご存知でしょうか?
 いえ、その前に、RPG(ロール・プレイング・ゲーム)をご存知でしょうか?
 RPGとはゲームの一種です。直訳すると「役割を演じるゲーム」になります。
 今の日本で一般的に言われているRPGは、TVゲームのRPGになると思います。
 TVゲームRPGに必要な物は、ゲームソフト、ゲームハード(ゲーム機)、そしてTVに、電源。あとは遊ぶ(プレイする)人。
 そして、すでに決まっているシナリオ(道)に従って、キャラクター(人物)を動かすゲームになります。いくつか選択肢があると思いますが、その時はキャラクターの性格等や、ひょっとすると遊ぶ人の性格によって行動決定していくものになると思います。でも、基本的にシナリオは分岐があるとしても、攻略本が出るほど、完全に決まってる物が殆どだと思います。
 TRPGにも、基本的にシナリオはあります。でも絶対ではありません。攻略本などありません。あるのは、そのゲーム世界の理りを記してあるルールブックだけです。
 TRPGに必要な物は、基本的に、遊ぶ人(プレイヤー)数人、そしてGM(ゲームマスター)と呼ばれる進行役一人。あとは、筆記用具、ルールに沿ったキャラクター用紙、そして乱数を作るための道具……殆どがサイコロ、です。
 TPRGは「会話で進める、役割を演じるゲーム」になります。
 プレイヤーの会話(キャラクターの行動)次第で、シナリオはいくらでも変わります。
 臨機応変に対応出来るシナリオを作成する、もしくは把握をし、プレイヤーの「ロール・プレイング」を妨げずに、一つのシナリオを終わらせる。それがGMの役割です。
 そして、プレイヤーは、自分のキャラクターの「ロール・プレイング」を楽しむ。
 それがTRPGです。


 十年近く前になりますが「スレイヤーズ」も、富士見文庫ドラゴンブック刊で「MAGIUS」(マギウス)というルールに沿ったシナリオ及びリプレイ集が出されたことがあります。
 「スレイヤーズ」を知っている方でしたら、一つの読み物としても楽しい物だと思いますので、興味がある方は、そちらを入門として頂けるのも良いと思います。

 TRPGには沢山のルールブックが出ています。主だった物で「D&D」(ダンジョンズ&ドラゴンズ)、「GURPS」(ガープス)、そして、今回の元ネタとなっているヘッポコーズの世界のルール主体である「ソード・ワールド」があります。

 ただ、今回の元ネタとなっているヘッポコーズ「新ソード・ワールドRPGリプレイ集@〜I」は、ルールを知らなくても、おそらく楽しく読める本だと思います。
 試しに、大きな本屋で富士見文庫の棚を見てみて下さい。そこに、この本(一番上に細い黄色の帯、その下が黒→白のグラデーションの背表紙です)が並べてあったら、ぜひ手に取って見て下さい。おそらく表紙に大きな剣を振り回した白い服(鎧かも)栗色の髪の少女がいると思います。
 ぱらぱらとめくって見て下さい。リプレイ集を読んだことがない方は、ここでびっくりするかもしれません。中身は舞台の脚本みたく「○○○(キャラクター名) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜(台詞)」と、なっています。普通の文もたまにあります。それはGM(ゲームマスター)の書いた、読みやすくするための説明文とかです。
 あとは、挿絵とか文章を少し見て、面白そう、もしくは、挿絵のキャラがどんな性格の人か知りたくなったら、ぜひレジへ持って行って下さい。そして読んで、ぜひ彼ら(彼女ら)を好きになって下さい。よろしくお願いします。


 説明が長くなりました。
 スレイヤーズとヘッポコーズ、両方ともご存知の方でないと、以下の文章はかなり理解不明のものだと思いましたので。
 さて、以下の文章ですが、時間背景としては、スレイヤーズはTRY後、ヘッポコーズはI後になってます。ネタバレしまくってますので、ご注意を。
 ちなみに、私、織原瑞穂は、基本的にガウリナ、ゼルアメ、そしてヒスイリの人間です。
 なので、ちょっとした所にほんの少し好みを出してしまいました。
 キャラクターとしては、リナとゼルガディスとヒースが、かなりでしゃばってます。
 また、かなり詰め込み過ぎたので、長文(テキスト文書にして100kb以上)の上に読みづらいという、文字書きにあるまじき文章を書いてしまいましたが、ご容赦下さい。……読まれる方は何日かに分けて読んで頂いた方が、目にも心にも優しいと思います。
 誤字脱字もかなりあると思いますが、笑って見逃してやって下さい。

 そして、あと、もう一つ。
 ヘッポコーズI後に、ファンの間ではかなり話題になった、ヒースの使い魔のこと。
 おそらく今後出されるであろう、富士見ファンタジア文庫のヘッポコーズの小説で書かれると思います。
 なので、今後の展開次第で、以下の文章は「あー、昔、こういうの書いてた人がいたなー」と笑いのネタになる可能性大です。
 私も、その時は、きっと「うわーーっ」とグルグルと自分の考えの未熟さに悶え恥ずかしがると思います。
 今後、ヒースの使い魔ネタが公式で出ましたら、こういうネタを書いたという人のことを見逃して頂けるとありがたいです――

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「レディース&ジェントルマン! さて、舞台はここ、アレクラストは新生王国オーファンの近く、ヤスガルン山脈の竜信仰の村の特設会場! 血を血で洗う戦いの場です!」
 リナ達一行が連れてこられたのは、北のカタート山脈と言われても納得してしまうだろう、雪の残る山脈の中の、小さな即席舞台だった。
「今回の戦いは、異世界から来た『デモン・スレイヤー』リナ=インバースご一行と、オーファンの誇る『バンパイヤ・スレイヤー』ファリスの猛女、イリーナ・フォウリーご一行」
 けれど、どうも違ったらしい。
 リナは唖然とした目で、空と、山と、観客に沸く舞台の周りと、そして対峙している五人組を見た。
 ちなみに、その五人組のうちの一人、目つきが微妙に皮肉っぽく、淡い象牙色の長髪を青いリボンで結んで、銀の斧槍(ハルバード)を背負っている青年が、司会席に向かって叫んでいた。
「ちがーう! この天才魔術師ヒースクリフ・セイバーへーゲン様ご一行だ!」
「……失礼、オーファン魔術師ギルドのほらふき魔術師ヒースクリフ・セイバーへーゲンご一行との対決になります」
 その言葉に、司会席のゼロスはあっさり前言を訂正した。が、その肩書きに不満があったのか、魔術師の青年――ヒースはジタバタ暴れかけ、後ろの栗色の髪の女の子――この子は、凄く頑丈で重そうな甲冑を着ていたが――に取り押さえられていた。
「ちなみに、この対決、司会は『それは秘密です』がチャームポイント、獣神官ゼロスと」
「芸術神(ヴェーナー)神官、吟遊詩人を生業としてます、バス」
「……なんで僕が司会席にいるのかわからないけど、戦闘解説、精霊使い(シャーマン)戦士のエキュー」
「が、お送りいたします」
 司会席にいるのは、黒髪おかっぱのスットコ魔族、獣神官ゼロスと、あとは鮮やかな色彩の服を身につけた、にこやかな笑顔を絶やさない、背の小さいずんぐりとした体形の……おそらく亜人のドワーフと見受けられる男。そして赤い髪の、微妙に冷めた目をした少年。ドワーフがバスで、少年がエキューと言うのだろう。
「……えーと、ゼロス?」
「はい、なんでしょう? リナさん」
 リナの引きつった声での呼びかけに、ゼロスはいつもと変わらない笑顔で聞く。
 それに、リナの血管の数本が切れた。
「なんで、戦わなくちゃならんのじゃーーっ!!」


 きっかけは、ゼロスの些細な声かけだった。
「リナさん。面白い所があるんですけど、行ってみませんか?」
「行かない」
 食堂でゴハンを食べつつ、リナは即座に断った。
「……えーと……」
「行かない。減るし、ないし、イヤ」
「?」
 あっさり答えるリナの言葉に、ガウリイは疑問の表情をした。意味が判らなかったらしい。
 それに答えたのはゼルガディス。
「……つまり、リナは、そんなことに付き合えば時間は減るし、少しは良いことがあるかもしれないですよ?という言葉を予想して、そんなことあるはずないと。その上で、前みたく、魔族の考えに踊らされるのはイヤだと」
「そ」
 あっさり頷くリナに、アメリアは驚きのまなざしでゼルガディスを見る。
「すごーい! ゼルガディスさん、なんでわかったんですか!?」
 それにゼルガディスは冷たい目でゼロスを睨みつけながら言う。
「俺も、リナと同意見だからだ」
「あれ、ゼルガディスさんにも嫌われちゃいましたか? 僕」
「貴様の行動のどこをどう見れば、好きになれるんだ」
 睨みつけ続けるゼルガディスに、アメリアはバタバタと慌てて仲裁に入る。
「ああああ、と、とりあえず、どんな所なんですか?」
 それにゼロスはにっこり笑って答えようとしたのを見て、リナはフォークをテーブルに置いて立ち上がる。
「あたし聞かないから」
「そうだな」
 その言葉に、ゼルガディスも一緒に立ち上がる。
「え? 聞かないんですか?」
「聞いて、それでも断れるなら良いけど……多分、聞いたら後戻り出来ないからね」
 リナの言葉に、ゼルガディスも頷く。
「お前も聞くな。こいつのせいで何があったか忘れたのか」
「そりゃ、忘れてないです。忘れてないですけど……」
 アメリアは、うーん、でも、と悩んだ顔でゼロスを見上げる。
 話をしようとしている人の話を聞かないという選択肢は、アメリアの中にはなかったらしい。
「あ、今回は魔族の方絡みじゃないです。それだけは断言します」
「……?」
 疑問の顔を向けるリナに、ゼロスはにっこり笑って言う。
「それどころか、これから向かう先には魔族の方はいらっしゃいません」
「……だからと言って、厄介ごとではない保障がどこにある?」
 それにうーんと困ったような笑みをゼロスはする。
「えーと……そうですね、皆さんには本当のことを言いますが、これは赤眼の魔王(ルビーアイ)様より上位にあたる方からのお願いなんです」
「上位? と、なると、金色の魔王(ロード・オブ・ナイトメア)!?」
「あの御方の名をみだりに呼ばないで下さい!」
 ゼロスは慌てて叫ぶ。叫んだ上で、困惑した顔で言う。
「違います。あの御方と近い階位にいらっしゃるかもしれませんが、あの御方ではない方からのお願いです」
「お願い? って、ゼロスに?」
 階位が上なら、命令出来るはずなのに、お願い?
 リナのその疑問に、ゼロスは頷く。それに、ゼルガディスはリナと視線を合わせ、頷く。
「ゼロス。詳しく話せ」
 しかし、その言葉にゼロスはにっこり笑ってはぐらかす。
「詳しくもなにも……僕が言えるのはここまでです」
「……貴様」
 尖り始めるゼルガディス。ふと、リナは、何か納得したように頷く。
「なるほどね。ゼロスに命令出来ないということは、直接の上位ではないということ。……ゼロス。あんたが連れて行こうとした先って……異界?」
「さすがリナさん。よくわかりましたね」
 その言葉に、ゼルガディスは疑問の声を上げかけ……上げる前に、答えを見つけたのか、なるほどなと頷く。
「……どういうことなんですか? ゼルガディスさん」
 判らないアメリアが、ゼルガディスの袖を引いて質問をする。それにゼルガディスは視線を向けずに……ゼロスの方を睨んだまま答える。
「金色の魔王(ロード・オブ・ナイトメア)は、混沌の中の混沌、全てのものの母。それと近い階位にあるということは、創造主に等しい力を持つものだ。……多分だが、俺達のこの世界と同じような世界がまだあるのだろう。その世界の創造主が、今回こいつに頼んだ奴だ。直接の上でないから命令権は持たない。お願いという形になったのだろう」
 それにゼロスはにこにこ笑ったまま答えない。ゼルガディスはそんなゼロスをじろっと睨みつける。
「それで、そいつは俺達を呼んで、何をするつもりだ?」
「さあ? 僕ごときの考えでは及ばないことだと思います」
 あっさり、さらっとかわすゼロスに、リナは人の悪い笑みを浮かべる。
「……あんた、子供の使い?」
「僕を怒らせても、何にも出ませんよ?」
 ゼロスは苦笑する。それにリナも諦めた顔をする。
「そーね。んじゃ、質問を変えるわ。そこに連れて行って、あんたはあたしらをどうしろって言われてるの?」
「それは秘密です……と、言いたい所ですが、ってリナさん、その呪文は止めて下さい!」
 竜破斬(ドラグ・スレイブ)の詠唱を始めたリナに、ゼロスは慌ててストップをかける。
「……えーと、会って欲しい人たちがいるらしいです」
「会って欲しい人?」
「ええ。最近名前が売れ始めた人たちなんですけどね」
 笑って答えるゼロス。それにアメリアはリナに視線を向ける。
「……どうします? リナさん。会うだけなら……」
「……うーん……」
 悩むリナに、ゼルガディスは肩を竦めて、ゼロスに聞く。
「おい。異界と言ったな。……そこに俺の身体を戻す方法はあるのか?」
「それこそ、行ってからのお楽しみじゃないですか?」
 にっこり笑う獣神官に、ゼルガディスは舌打ちをする。
「おい、リナ」
 呼びかけるゼルガディスの声に、悩み続けていたリナは顔をゼロスに向ける。
「……ゼロス。本当に会うだけ?」
 それにゼロスは笑う。
「ええ。とりあえずは」
「そいつらって、話、通じる?」
 まさかとは思うが、いきなり戦いを挑んできたり、言葉が通じないとかだったら、かなり面倒になる。そう思いリナはゼロスに聞くが、ゼロスはにっこり笑って頷いた。
「ええ。言葉も通じますし、気が合う方達だと思いますよ。魔術師も戦士も神官もいます。色々と話をされるのも良いんじゃないかと」
「魔術師? 魔道士じゃなくて?」
 リナの疑問の声に、ゼロスは頷く。
「向こうじゃ魔術師です。まあ、こっちの魔法と良く似てますが、こっちにはない種類のもあります」
 それにリナはむむむと唸り……ぐるりと仲間を見渡す。ゼルガディスは身体を元に戻す方法があるかもしれない、ということなら否は無い。アメリアはあまり警戒心なく、会うだけならと肯定的。……ガウリイに選択権はない。リナは新しい魔術とやらに興味が出ていた。
「……じゃあ、行くだけ行ってみましょうか」
「おう」
「はい」
 そしてワンテンポ遅れて、
「……で、どこに行くんだ?」
「聞いてなかったのか! このクラゲ!!」
 全く聞いてなかったガウリイを怒鳴りつけるリナがいた。


「なんで、あたしらが戦わなくちゃならないの! あんた、会うだけで良いって言ってたでしょ!」
 それに司会席のゼロスはにっこりと笑った。
「ええ。『とりあえずは』と。会って頂いた結果、相互理解には戦って頂いた方が手っ取り早いみたいですので」
 それにキーーッと暴れるリナと、同じく怒るアメリア。ゼルガディスは最初から諦めていたのか、ため息をつく。……ガウリイは始めから聞いていない。
「騙すなんて悪です!」
 アメリアはびしっとゼロスを指差して叫ぶ。
「言葉で人を騙しての狼藉、天が許してもこのアメリアが許しません! 天罰を下します!」
 ちなみに司会席はかなり遠くて高い。周りに観客がいるので広域攻撃魔法は使えない。“翔封界(レイ・ウィング)”で飛び上がろうとしたアメリア。
「……おい、あっちにもイリーナがいるぞ」
「そうだねー」
「……規格外娘がまた一人か」
「規格外ってなんですか! ガルガドさん!」
 敵方の方からのヒソヒソ声に気付く。
「?」
 ふと視線を向ける。と、途端にそっぽを向く魔術師ヒースと金髪長髪尖り耳の女性。そして栗色の髪の少女はドワーフに怒り続けている。けれども残りの二人、重そうな鎧を身につけたドワーフと、黒髪のツンツン頭の少年はこっちを見ていた。いや……一人、ツンツン頭の少年は笑顔で手を振ってすらいる。
 アメリアも条件反射で笑顔で手を振り返す。
「何やってるんだ」
 ゼルガディスの呆れた声。それにアメリアはふと我に返る。てへへとゼルガディスを見上げ、ゼルガディスはそれに呆れたため息をつく。その動きで、敵側の視線がゼルガディスにも向く。
「……あの人って、ダークエルフですか?」
「いや……あれはキメラだな。だが……人を材料に使うなんて、そんな無茶苦茶聞いたこともないぞ」
「キメラ? でも、他の普通の生き物とならともかく、石となんて……」
「だから、無茶苦茶だと言ってる。多分ゴーレムとの掛け合わせだと思うが、よく生きていると思う。意識がありそうなのが真剣に不思議だ」
 その声に、ゼルガディスもふと敵側に視線を向けてしまう。
 視線の先は、魔術師と栗色の髪の少女と尖り耳の女性。魔術師は尖り耳の女性にひそひそと指示をした。
「……半分エルフ、“精霊力感知(センス・オーラ)”だ。普通の生き物か?」
 それにカッと怒りそうになるゼルガディス。しかし、その直後に尖り耳の司会席の方を指した指差しと悲鳴じみた声に、そっちの方を見てしまう。
「……あの人! 生きてない!」
 指差された先はゼロス。それに、あー……と、リナ、ゼルガディス、そして再度飛び上がろうとしていたアメリアの三人が冷めた笑みを浮かべてしまう。
 そして栗色の髪の少女も、何かの呪文を唱え……
「汝は邪悪なり!」
 びしっとゼロスを指差して宣言する。そして指差したまま、すぐ脇の魔術師に詰問調で怒鳴る。
「なんで兄さんはあんな人の依頼を受けたんですか!?」
 それに魔術師は誤魔化すように耳を掻きながら更に脇のドワーフに聞く。
「……えーと……勢いか?」
「お前さんが酒を奢られ、おだてられた勢いで依頼を引き受けとった。わしは止めたぞ」
 それに尖り耳が、あんたは……と冷めた眼で魔術師を見る。その視線から逃れるように魔術師は言う。
「って、あん時はノリスもいたぞ! なんでお前が気付かない!」
 脇の少年を掴み上げようとした魔術師。その手からあっさり逃れて少年は言う。
「えー、だってヒース、“精霊力感知(センス・オーラ)”しろとも何とも言わなかったよー。ボクの責任?」
 それに、ドワーフも呆れのため息をつく。
「クソガキ……いい加減レベルに見合った洞察力というものをだな……」
 そんな敵方の言葉を聴きながら、リナたちはぼそぼそと作戦を練り始める。
「どうする?」
「俺はこのままゼロスの方をぶっ倒したい」
「人を騙すのは悪です」
「オレはどうでも良い……けど、倒したら帰りはどうするんだ?」
 その言葉に、ぴきっと凍る三人。
「……死なない程度にとっちめる……」
「……まあ、はなから滅ぼせるとは思ってないが……」
「……機嫌を悪くされたら、帰してもらえないんでしょうか……」
 真剣に考え込んでしまう三人。残りのガウリイはどうしたもんかため息をつきつつ敵方に言う。
「おーい、お前さんたち。どうする? オレたちと戦うか? それともあいつをとっちめるか?」
 その言葉に、邪悪ですーーっとジタバタして司会席に向かいそうになっている少女をおそらく全力でだろう、かなり一生懸命抑えている魔術師とドワーフが答える。
「……まあ、俺様達はどうでも良いんだがっ……って、イリーナ! ちょっとは大人しくしてろ!」
「良くはない。違約金は前金の三倍返しだぞ。お前さん、全額前金で受け取ったといっとらんかったか? ……あと、抑える必要あるのか?」
「げっ。……そうだった……。あと、おやっさん、必要性はある。こんな所で至高神(ファリス)神官の悪名を広めるのはまずい。そうじゃなくても、至高神(ファリス)は融通効かんって言われてるからな」
「戦いから逃げるのは、戦神(マイリー)の意思に反するが……」
「そうです! それに、邪悪な人でしたら、違約金も返す必要ないです!! ヒース兄さん! ガルガドさん! 離して下さい!!」
 ジタバタ暴れている少女に、リナとゼルガディスとガウリイが呆れた顔をする。
「……昔のアメリア見てるみたいだわ」
「……今もあんまり変わらん」
「リナにも少し似てないか。悪人に人権がないと言い張る辺り」
 ガウリイの台詞の直後に、リナが殴り倒す。
「あたしはあそこまで無茶苦茶じゃないわよ!」
「……十分……いや、なんでもない」
 うかつな一言を言いかけたゼルガディスを一睨みしてから、リナは言葉を敵側に投げる。
「あんたたち、ゼロスのこと倒すの?」
「邪悪は倒します!」
 思いっきり頷く少女。
 その頭を慌てて押さえつける魔術師とドワーフ。
 それにリナは苦笑して言う。
「あたしらも倒したいんだけど……」
「なら、一緒に正義を……!」
 やはり慌てて押さえつけられる少女。リナは苦笑を隠す気もない。
「あたしら、あいつがさっき言ったように、この世界の人間じゃないのよ。帰り道知ってるのあいつだけ。あんたたちが道知ってるなら、手伝っても良いんだけど」
 それに少女以外の全員が顔を見合わせる。そして最後には魔術師の顔を全員が見る。尖り耳が魔術師を突付いて答えを促す。
「ヒース。あんたの無駄な知識を使う良い機会よ」
「……えーと……だな。多分、カーウェス師がその呪文を知ってると思う……“移送の扉(ディメンジョン・ゲート)”だな。だが……あれは術師の知っている場所でないとゲートを繋げられない」
「……? つまり?」
「お前さんたちの誰かが、魔術師(ソーサラー)としてカーウェス師と同レベルまで上がらない限り、道を作れないということだ」
 それにリナは頭を掻いて、少し考え、
「魔術師(ソーサラー)って簡単?」
 それに魔術師がさすがに何かを叫ぼうとして、
「……簡単じゃないと思うけど……」
「ヒースでも出来ることだと思うと……」
「性格歪むんで、止めた方が良いと思います」
「あー、確かにの。まともな御仁はハーフェン殿ぐらいだしの」
 各々の主張に、魔術師も怒りにこめかみをぴくぴく引きつらせる。
「あ、あのな……俺でも、とか、性格が歪むって……」
 しかし、アメリアたちも、それらの台詞に各々好き勝手言う。
「……リナさんでしたら、これ以上歪むことないですし……」
「ああ。常々、自分のことを天才魔道士って言ってるんだ。やらせてみるのも一つの手だな」
「魔法オタクなのは変わらんしな」
 その冷たいのか温かいのか判らない台詞にリナも怒りに震える。
「あんたら……あたしのことをそう見ていたのか!」
 怒鳴られ、ひぇーーっと仰け反るガウリイ達に、少女達は生温かい目を向ける。
「ヒースがもう一人いるみたいだね」
「……向こうはそれでも人望があるみたいだから、全然違うわよ」
「そうですね。兄さんには人望ありませんから」
 冷たい言葉に、背中を向け、完全にいじける魔術師。
「……いいんだいいんだ……俺様の友達は今は亡きフレディだけだ……」
 そんな魔術師にかまわず、リナは気を取り直して質問を続ける。
「覚えるのにどれくらい時間かかるの? 素質って必要? その呪文使える人、今、どれくらいいるの?」
 それに魔術師も気を取り直して、答える。
「魔術を勉強するには、基礎の基礎だけで大体五年から三年近くかかる。特待生の俺様でも一年ちょいかかった。素質は必要だ。使えん奴は一生使えん。あと“移送の扉(ディメンジョン・ゲート)”だが、現存する古代語呪文の中で最高の難易度だ。この大陸でも使える人間は十人もいないと思う。うちの……オーファンのカーウェス師、あと、オランのマナ・ライ師、だったら確実に使える」
「……この大陸にはどれくらいの人間がいる? いや、別の大陸もあるのか?」
 ゼルガディスからの質問に、ヒースは真面目に答える。
「ここはアレクラストという大陸だ。ここには大小合わせて十五近くの国がある。一つの国で人口は大体百万近く。総人口は統計取れてないが、大体一千五百万人ぐらいのはずだ。フォーセリアの中では最大の大陸……だと思う。あと西にケイオス・ランド、南西にファーランド、南に呪われた島、南東にアザーン諸島、そして東にイースト・エンドがある。アザーン諸島とイースト・エンド以外は未調査だ。どんな土地で、どれだけ文明が残っているか、全くわからん」
 一息に言い切るヒース。言った後、周りから洩れた感嘆の声に、ほれ、俺様賢いだろう、崇め奉りなさいとばかりに偉そうに胸を反らしていたが……
「ヒースがほらを吹いてない」
「めずらしく、本当のこと言ってる」
「え? マウナ、全部合ってるの?」
「合ってる……と思う。どうしたのヒース? 熱でもあるの?」
「……あのな……俺様は正直者だぞ。……知らんことは面白可笑しく言うが……」
 肩をガクっと落とすヒースに、リナ達は反応に困ってしまう。
「まあ、判ったわ。覚えるのはそこそこ難しいと。……どうする?」
 最後の質問は、ゼルガディス、ガウリイ、アメリアに対してだった。
 それに肩を竦めるゼルガディス。
「ここまで世界が違うとな。ただ出来ればしばらく調査してみたい。俺の身体を元に戻す方法があるかもしれん」
「……帰り道は確保しておきたいです。ここでお婆ちゃんになっちゃうわけにも……」
 とほほと言いたげなアメリア。そしてガウリイは、
「ん? オレはどうでも良いぞ。メシが美味くて生きていけるならな」
 にぱっと笑って答える。
 それにリナも考える。
「……あたしは、新しい呪文というのに興味あるけど……一年……」
 そしてリナは、苦笑して顔を上げた。そして司会席のゼロスに言う。
「ゼロス!」
「はい、なんでしょう? リナさん」
 今までの会話を全部聞いていただろうに、それでも笑顔を崩さないゼロス。
 大したもんだ、と、やはり笑顔のバスは思う。エキューはつまらなさそうに頬杖をついたまま。
「一回戦えば、帰り道を開けてくれる?」
「ええ」
「……おっしゃ。ならあんたの思い通りっていうのは気に入らないけど、戦ってやろうじゃん」
 それにアメリアは声を上げてしまう。
「リナさん!?」
 リナは苦笑したまま、アメリアに答える。
「あいつの言った通り、ここの魔術とやらがどんなものかは、実戦でぶつかってみないとわかんないからね。で、今までのものと比べて弱けりゃこのまま帰る。使い物になるなら覚えて帰ると」
「……やれやれ」
 そんな結論になるだろうと思っていたゼルガディスが諦めたようにため息をつく。
「あんたたちも、依頼料もらっちゃってたんでしょ? まあ、あいつの口車に乗っちゃったのが不運だと思って、大人しくボコられてよ」
 間違いなく自分が勝つと思っているリナに、ヒース達も少し戦意が上がる。
「邪悪の手下になるんですか!?」
 いや、問答無用で最初から戦意がヒートアップしている少女が一人いたが。
「……手下って訳じゃないけど……」
 それにリナは引きつった笑みで答える。そして尖り耳も諦めたように言う。
「依頼料……もらっちゃったのは確かだし」
「まあ、バスに喉が枯れるまで歌ってもらえば返せるだろうけどな」
 淡々としたヒースの言葉に、きっと睨みつける尖り耳。それに慌てて視線を背けるヒース。
「まあ、契約は「クソ生意気な四人組と、ちょっと戦ってくれませんか? お灸をすえる程度で良いですので」ということだ。殺すこともない。……イリーナ、手加減しろよ」
「悪の手下に……」
 ぐっと何かを堪えるように呟く少女――イリーナに、ヒースは淡々と言う。
「邪悪判定で黒なのは、あのゼロぽんだけだったんだろう? 俺たちもあいつらも邪悪じゃない。後でゼロぽんの罪状を明らかにしてから、思いっきりしばけ」
「……そ、そうですね! 操られているだけの人には罪はありません! 真の邪悪こそ撲滅せねば!」
 その言葉に、ナイス操り、とイリーナ以外のリナ達を含めた全員が思う。
「……話終わりました?」
 ゼロスの言葉に、全員が頷く。それにゼロスはにっこりと笑みのまま続ける。
「じゃあ、全員の紹介をしますので、その間、作戦タイムなり休憩していて下さい」


「さて、メンバーの紹介をさせて頂きます。まずは、異界から来た『デモン・スレイヤー』。問答無用天下無敵唯我独尊、ドラゴンも跨いで通る、通称ドラまた天才魔道士リナ=インバース! 彼女は、僕の世界での魔王さま《赤眼の魔王(ルビーアイ)》シャブラニグドゥさまの七分の一を倒し、またその五人の腹心のうち二人を滅ぼす原因となった無数のトラブル・メーカーでもあります!」
「トラブル・メーカーは余計じゃ!」
 叫ぶリナに、冷めた笑みを浮かべる残りの三人。
 そしてヒース側でも、
「……改めて見ると、見事な幼児体形だな」
 余計な呟きに、お盆で叩かれ、拳で吹っ飛び、
「『炸弾陣(ディル・ブランド)!』」
 地面から吹き上げる石つぶてに吹き飛ばされる魔術師が一人。
 それに、おおおーーっと感心する少女と尖り耳と観客。
「こらーっ、誰が幼児体形だーーっ!!」
 叫ぶリナを、お、落ち着け、と抑えるガウリイ。それを苦笑する他の人たち。吹っ飛んだ魔術師の心配をする者は一人もいない。
 そして生温かい目で、側の少年を見るドワーフが一人。
「トラブル・メーカーか……」
「ん? 何? ガルガド?」
 そしてそんな視線にニコニコ笑ったまま聞くツンツン頭の少年。それに生温かい目を続けるドワーフがいた。
「続いては、天才剣士ガウリイ=ガブリエフ! 彼は向こうの世界での伝説の剣、光の剣の元保有者でした、超一流剣士! だたし、脳みその出来はミジンコクラスです!」
「いやー、ゼロスに褒められると何か怖いなー」
 にこにこ笑っているガウリイに、リナが、褒めてないわーっと突っ込みを入れる。
 その突っ込みの激しさに、敵側の全員が引く。
「……あれ、イリーナあたれ。というか多分、あの防御力だとイリーナ以外誰があたっても傷つけられんだろ」
 突っ込みの激しさに全然堪えていないガウリイに、ヒースは言う。それにマウナも頷く。
「……そうね。完全に戦士なのは彼だけみたいだし」
「はい! 腕がわきわきします! 手ごたえありそうです!!」
 あっさり答えるイリーナに、生暖かい目を向ける他の面々。
「そして、魔剣士ゼルガディス! 彼はロック・ゴーレムと邪妖精(ブロウ・デーモン)と合成された合成獣(キメラ)です! ……あ、皆さん。珍しいからってお持ち帰りはダメですよ。知識欲旺盛な方でも、解剖禁止です。ご了承下さい」
「……持ち帰り? ……解剖?」
 引きつるゼルガディス。一部、がっくりとする観客。
「へー。合成獣(キメラ)って、ああいう人も作れるんですか?」
「だから無理だ。俺様でも聞いたことないぞ。ダークエルフを基盤としてもおそらく無理だろ。……邪妖精(ブロウ・デーモン)って悪魔(デーモン)の一種か?」
「さあ……? ただ、彼は邪悪じゃないです。それだけは確実です」
 そのひそひそ声を聞いて、少し嬉しいアメリア。
「良かったですね、ゼルガディスさん。邪悪じゃないですって」
「……比較基準が、ゼロスとなると、全然信用出来ん。というか嬉しくない」
 しかし、少し耳が赤くなるゼルガディス。
「そして最後に、セイルーンの巫女姫アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン! 彼女は正義を愛する白魔法の使い手にして、向こうの世界では大国であるセイルーン聖王国の第二王女です!」
 それに照れながらぺこりと頭を下げるアメリア。
「へー、お姫様なんだ」
「……イリーナ。見習え。あれが正しい女の姿だ」
「すごい胸だねー」
「そう、それもある」
 あっさりセクハラ発言をするノリスとヒース。それに改めて突っ込みを入れるイリーナとマウナ。
「まあ、ヒースは放っておいて、一番やっかいそうなのは……」
「間違いなく魔法が使えるリナ=インバースだの。それとあのゼルガディスだろう」
「回復系のアメリアさんも、回復されたら戦闘が長引いて面倒です」
「ボクたちと同じで、殆ど全員が魔法使えるんだねー」
 それにぴきっと引きつる面々。復活したヒースが脇のハーフエルフに言う。
「……マウナ。全員に“沈黙(ミュート)”だ」
「了解」
「ヒース兄さんは、一応“抗魔(カウンター・マジック)”よろしくお願いします」
「おっけー」
「その後は、わしとイリーナに“火炎付与(ファイア・ウェポン)”を頼む」
「へいへい」
「その上で、イリーナがあのガウリイさんにあたって、……ガルガドさん、あのゼルガディスさんをお願い出来ますか?」
「わかった。硬そうだからの」
「ノリスは、アメリアって子を。当身を食らわせればすぐ倒れるだろ。終わったら精霊呪文で補助。イリーナかおやっさんが手間取っていたら攻撃を拡散してくれ」
「わかった。ヒースは?」
「俺様は、後衛のリナ=インバースを魔法で潰す。……“麻痺(パラライズ)”が決まれば一発なんだが」
「大丈夫でしょ。あんた“麻痺(パラライズ)”だけは効くから」
「まあ、手が空いたら凹りに来てくれ。あの呪文、俺様は何も出来ないのがつまらん」
 鼻をほじりながらの言葉に、全員が苦笑する。
「続きまして、今度は「へっぽこーず」の紹介をさせて頂きます。司会は変わりまして、吟遊詩人のバスがお送りします」
「「へっぽこーず」?」
 疑問の声を上げる面々に、バスはほっほっほと笑う。
「へっぽこだから、へっぽこーずと呼ばれているらしいですの。英雄でもへっぽこ。おお、歌になりそうですな」
 それにブーイングの声を上げる面々。
「まあ、それは置いておいて。最初は、邪亜竜(ワイバーン)を一撃で倒した至高神(ファリス)の猛女、イリーナ・フォウリー。彼女は可愛らしい外見と裏腹に、人間の限界を超えた筋力の持ち主です。また、至高神(ファリス)の神官戦士でもあります」
「……バスさん、その猛女というのいい加減やめて下さい」
 照れと怒りで泣きそうになっているイリーナだが、その身を包んでいるのは大の大人でも持てなさそうな甲冑であり、背に背負っているのは鉄板と見間違いそうなほどの両手剣(グレード・ソード)と片手剣(バスタード・ソード)と盾、そして腰には巨大な棍棒と岩をくくり付けているのだから説得力がない。
「……あの子ね。アメリアもどき」
「どうやら、神官みたいだな。攻撃呪文は使えるのか?」
「神に仕える身で、刃のついている武器で戦うなんて邪道です!」
 ぷんぷんと怒っているアメリア。それにリナはまあまあと宥める。
「まあまあ、アメリア。世界が違うんだから。それに至高神(ファリス)なんて始めて聞く神様の名前だしね。……ガウリイ。あの子はお願い」
「おう、任された」
 あっさり答えるガウリイ。
「次は、魔術師(ソーサラー)ヒースクリフ・セイバーヘーゲン。オーファン魔術師ギルドの特待生であり、また彼も至高神(ファリス)の信者であります。……そうは見えないですが」
 それにヒース側から一気に笑い声が上がる。
「こらー、バス! この「正義のために戦い、弱者の盾とならん」が信条の俺様に失敬な!」
「え? 「弱者の盾とならん」じゃなくて「強者に盾になってもらう」が信条じゃないの?」
 マウナの言葉に、更に笑いがおきる。
「ヒース、薄いからねー」
「階段から落ちる時も、一人で死に掛けてるもんね」
「あれは、この鉄塊娘が一緒に落ちてくるからだ!」
 わめき続ける魔術師に、リナたちも笑ってしまう。
「まあ、あいつはあたし一人であたってみるわ。この世界の魔法というものを見てみたいからね」
 それに、ゼルガディス、アメリアも頷く。
「任せる。まあ、ここに残る時は、俺も覚えることになるだろうからな」
「次は、精霊使い(シャーマン)兼、狩人(レンジャー)マウナ・ガシュマ。オーファンの冒険者の宿「青い小鳩亭」の養女であり、見ての通り、エルフ族の血を引く、ハーフエルフです」
 それにぺこりと頭を下げるマウナ。
「……精霊使い(シャーマン)?」
 リナが疑問の声を上げる。
「……俺たちの知っている魔法を、更に細かく分割したものじゃないか? 精霊を元とする魔法だけのエキスパートかもしれん」
「そっか」
 納得するリナ。
「攻撃魔法使える奴、二人目だな」
「次は、戦神(マイリー)の神官戦士ガルガド。オーファン神殿の司祭であり、見ての通り、ドワーフです」
 それに無骨に軽く会釈するガルガド。
「戦神(マイリー)ってなんでしょう?」
 疑問の声を上げるアメリア。それにゼルガディスも眉をひそめる。
「さあな。神様の名前の一つだろうが……あいつは俺があたるか?」
「そうね。あと手が空いたら、さっきのハーフエルフも」
「わかった」
 淡々と頷くゼルガディス。
「最後は、盗賊(シーフ)兼、精霊使い(シャーマン)ノリス・ウェストイック。へっぽこーず随一のトラブル・メーカー。耳の丸いグラスランナーという説もあり。あの世返りはするは、猫にはなるは、挙句の果てに悪人に身体を乗っ取られ、今じゃオーファンを素顔で歩けない、……歌の材料と狂言回しにはなれど、主人公にすると大変なお人ですな」
 それにヒース側で一気に爆笑がおきる。
「……確かに……っ。バスでも大変か……っ」
「クソガキを主人公にしたサーガなど誰が聞きたいものか」
「デボンだった時の歌なら、きっとかわいいと思います」
「……うん、ずっとデボンだったら良かったんだけどねー……」
「ひどいよー、みんなー」
 笑い転げているヒースに、嫌そうにしているガルガド、慰めようとしているがそれでも笑っているイリーナに、引きつった笑みを浮かべているマウナ。
 それにどこまで本気で怒っているのか、苦笑で訴えるノリス。
 それを見ながら、リナたちは苦笑する。
「魔法使える人間、三人目」
「あとの神官二人も、武器は持っているが可能性はあるぞ」
「そうですね……」
「……決定。速攻全員ぶちのめす」
「そうだな……」
 ゼルガディスはしばし考える。
「アメリア。お前はあのハーフエルフかノリスって奴のうち、近い方をぶちのめせ」
「了解です。手隙にしてしまう最後の一人は大丈夫ですか?」
 それにリナもゼルガディスも考え込む。
「……広域魔法でぶっ飛ばしても良いんだけど……」
 リナの言葉にガウリイを主として全員が引きつった顔でおいおいと突っ込みを入れる。
「判ってるって。ガウリイを巻き込むからね。それはあくまで最終手段で。……ハーフエルフも、ノリスって子も、黒魔法は使わないみたいだから、気合入れて避ければ大丈夫でしょ」
「……最終手段って……手段として残しておくのか」
 ぼやくガウリイを淡々と無視して、リナは基本方針を決める。
「呪文詠唱の隙を与えないように」


「準備は大丈夫ですか?」
「はい」
「いいわよ」
 両方から上がった声に、ゼロスはあっさりと戦闘開始の合図を出す。
「では……レディー・ファイト!」
 それにスレイヤーズ側全員が一斉に走り出しりだす――更にその内の三人までも呪文詠唱を始める――のを見て、へっぽこーず側全員が一瞬うげっと引きつる。
「まさか、全員前衛!?」
「嘘だろ!?」
 へっぽこーず側の後衛のマウナとヒースが悲鳴を上げる。
 そして驚愕しながらも、対抗するように、イリーナとガルガド、ノリスも前に動き出そうとする。
「『万物の根源、万能なる力(マナ)よ! 身を内より守る壁となれ!』」
「『風の精霊(シルフ)よ! かの者達の音、声を伝えるのを妨げよ!』」
 ヒースの腕輪から魔法が発動して、ヒース達全員が淡い光に一瞬包まれる。
 そして、マウナの声と共に、リナ達全員の周りの空気が一瞬止まる。
「…………――!?」
 なんですか!?と叫ぼうとしたアメリアが、声が出ないことに気付く。
「アメリア!?」
 リナにはかからなかったらしい。そして、ガウリイも無事。
「『魔皇霊斬(アストラル・ヴァイン)!』」
 ゼルガディスも無事だったらしい。ゼルガディスの剣に赤い光が這う。
「……“火炎付与(ファイア・ウェポン)”か」
 それを見て、ガルガドが声をあげる。
「ヒース! 次はこっちにも!」
「わかった!」
 その声にイリーナも声を上げる。
「兄さん! わたしにも!」
「わかったわかった! ……けど、クソガキはいらんだろ」
 それに一瞬不満そうにするノリス。けれどもすぐ気を取り直したように言う。
「そだね。ヒース精神力少ないもんね」
「っるさい! カンタマも本来お前がかけることだぞ!!」
「ボク、カンタマのコモンルーン持ってないもん」
「バスに借りておけっ!! ……って、全員もっと散れ!!」
「みんな、散って! もっと!」
 危険感知能力が何か感じたのか、狩人(レンジャー)二人が叫ぶ。
 それに全員が、尋ね返すことなく散開する。
「『火炎球(ファイアー・ボール)!』」
 その直後、全員がいた中心部にリナの呪文が炸裂した。

「さて、最初から全員飛ばしてます」
「そうだね。戦闘になったので、僕、エキューが解説するよ」
「よろしくお願いします。では、まず異界側――通称スレイヤーズと呼ばせて頂きます、の攻撃から。まず全員移動をしながらのガウリイさん以外呪文詠唱。で、アメリアさんとリナさんが“火炎球(ファイアー・ボール)”で、ゼルガディスさんが“魔皇霊斬(アストラル・ヴァイン)”でしたが、アメリアさんがマウナさんの“沈黙(ミュート)”によって発声を封じられました」
「こちら、へっぽこーずは、まずヒースの“抗魔(カウンター・マジック)”これは魔法抵抗力を上げる呪文です、これを仲間全員に。そしてマウナさんが“沈黙(ミュート)”で敵側全員の呪文を封じようとしたんですが、アメリアさん以外は失敗しちゃったみたいです。非常に惜しかったです」
「けれどリナさんの“火炎球(ファイアー・ボール)”も、そこそこ避けられ、それと“抗魔(カウンター・マジック)”の効果でしょうか、あまり効かなかったみたいですね」

 打ち掛かっていったガウリイの剣を、イリーナは避けることなく、煌びやかな盾で受け止める。
「……おっ」
 その行動にガウリイの方が驚く。そしてイリーナの方は思っていたより重い剣に、少し力を入れる。
「……なかなか、ですね」
 にやりと嬉しそうに笑う。そして、剣を跳ね飛ばす。
 ガウリイも笑ってしまう。
「お前さん、強いな」
「そこそこだとは思ってますが……あなたも強そうですね。良い鍛錬になりそうです。よろしくお願いします」
 イリーナは改めて頭を下げて、そして剣を構える。

 ゼルガディスは長剣をガルガドの胴体に叩き込もうとして、小さな盾で防がれたことに軽い驚きを浮かべた。そして、ガルガドの槌鉾(メイス)が、ゼルガディスの頭を掠める。
 一瞬で、ゼルガディスはガルガドの力量を見切る。
 戦士としての力はゼルガディス以下に見えるが……
「『戦神(マイリー)よ!』」
 その直後、激しい衝撃波がゼルガディスの身体を押し戻した。
「……くっ」
 “気弾(フォース)”と呼ばれる神聖呪文を、ゼルガディスはまともに食らい、後ろに倒れそうになるが、意思の力でそれを押しのける。
「……ほぉ」
 感嘆の目を向ける目の前に立つドワーフをゼルガディスは見る。呪文を詠唱していたように見えなかった。
「……今のはなんだ?」
 その質問に、ガルガドは一瞬きょとんとしてから、頷いて答える。
「これこそ、我が戦神(マイリー)から託された神聖魔法の一つ“気弾(フォース)”」
「呪文を唱えていたようには見えなったぞ」
 ゼルガディスの言葉に、ガルガドは優しく答える。
「他の魔法は祈りが必要だが、これだけは一つの神言だけで大丈夫なのだ」
「……そうか。……もう一つ、質問しても良いか?」
「なにかな?」
 淡々と聞くガルガドに、ゼルガディスは尋ねる。
「なぜ、あっさり答える。俺は敵なんだぞ」
 それにガルガドは苦笑しながら答える。
「卑怯な行いは戦神(マイリー)も許されまい。そなたはこの世界に不案内。教えておくのも良かろう」
「……なるほどな」
 ゼルガディスはふっと笑う。そして顔を引き締める。
「では、改めて、行くぞ!」
 ゼルガディスは剣を改めて向ける。それにガルガドも顔を引き締めて迎え撃つ。

「……――!」
 アメリアは泣きそうな顔で口をぱくぱくさせていた。
「アメリアさんは「こんなの正義じゃないです!」って言いたそうな感じですね」
「おっと、その間に、ノリスがアメリアさんに向かって行ってます。接近戦を挑むつもりでしょうか。素手ですが……」
「素手でも十分だと思ったのでしょうか」
 その言葉の通り、ノリスが向かってきたのを見て、アメリアは泣きそうになっていた顔をきっとノリスに向けて、
「……おーー! ノリス、返り討ちにあってます!」
「今の一撃は効きましたね! もんどりうってますよ」
「その間にアメリアさんは、呪文をかけただろう耳の綺麗なマウナさんの方に向かってます!」
 そのアナウンスに「耳の綺麗な、は余計だーーっ」とマウナが叫んでいるが、エキューは見事にスルーする。
「あああ、マウナさん避けて下さい! アメリアさんの拳がーーっ!!」
「おお、それでもなんとか避けてますね。お。消えました」
「これは“姿隠し(インビジビリティ)”の呪文ですね。これはアメリアさんでは見つけられないです」
「ちなみに、ノリス君の失敗原因はなんでしょうか?」
「一重にアメリアさんの力の見誤りでしょう。……彼女は格闘家ですか?」
「そうですよ? おや、言ってませんでしたっけ?」
 それにヒースとノリスから「聞いてないぞーーっ」と悲鳴が飛ぶ。しかしゼロスはそ知らぬ顔で司会を続ける。
「さて、イリーナさん対ガウリイさんは、見事な剣技対決になっております。一方ガルガドさん対ゼルガディスさんは、魔法のコンビネーションをどれだけ上手く決められるかにかかっているみたいです」
「そうですね。どちらも多少当たっても堪えないタフな人たちばかりですので、見所一杯になりそうです」
「そして、最後、ヒースさん対リナさんは……」
「……二人とも、空を飛んでますね」
「追いかけっこでしょうか?」

「こらーー! 逃げるなーー!! 『烈閃槍(エルメキア・ランス)!』」
「ふざけるな! 逃げなかったら当たるだろうが!」
「えーい! ちょこまかと! 『青魔烈弾波(ブラム・ブレイザー)!』」
「ひょえーっ!! じょ、冗談じゃねーーっ!! 当てるな!!」
「当てるつもりでやってるの!! きーーー!! 避けるな! この、口先だけ魔術師!! 『炎の矢(フレア・アロー)!』」

「……あの二人は、何をしているんでしょうか?」
「えっと……最初に空に逃げたのは、ヒースの方です。リナさんの魔法から逃れ、上空から呪文を使おうとして“飛行(フライト)”で空中へ」
「それを追って、リナさんも“翔封界(レイ・ウィング)”で空中へ。でも“翔封界(レイ・ウィング)”の制御と二つ目の呪文詠唱に手間取り、ヒースさんの先回りが出来ないようですね」
「ヒースは“飛行(フライト)”の制御なんて必要なく、飛んだままもう一つ呪文使えるはずなんですけど……詠唱のためにちょっとでも軌道を真っ直ぐにしようとするとリナさんに当てられそうで出来ないみたいですね……未熟です」

「未熟って言うな! 本気で怖いんだぞ!! そんなこと言うなら代われエキュー!!」
「遠慮しておきます。僕は今は解説員なので。……安心してヒース。人間必ず一回は死ぬんだし、今なら骨ぐらい拾ってあげるから」
「くそーーっ!! 覚えてろーー!!」
「……ちなみにヒースさんは、どうしてハルバードを使わないんですか?」
「使えないんです。技能持ってませんから」
「……使えないのに、なんで、あんなに後生大事に背負ってるんですか?」
「さあ? あのハルバードは本人「大きい銀のアクセサリー」だと胸を張って言ってましたが……」

「いい加減、当たって落ちろ!! 『氷の矢(フリーズ・アロー)!』」
「ひっ! あ、当たったら凍るだろう!!」
「当たり前でしょ! あんたも反撃しなさいよ! このへっぽこ!!」
「へ、へっぽこって言うな!! この幼児体形魔道士!!」

「あ。ヒースさん。禁句を言いましたね……」
 司会席のゼロスが冷や汗を流しながら呟く。
「え?」
 聞きなおすエキューに、ゼロスは空を飛んでる二人を見ながら言う。
「リナさんにとって、あのセリフ……というか、身体の一部を指して言うセリフは禁句なんです。……あ、ほら、落とされました」
 最後には呪文も剣もなしで、足でど突き倒されたヒース。そのまま地面に落下しそうになり、慌てて地面直前に体勢を立て直す。
「ひっ」
 その目の前に、集中が途切れ“姿隠し(インビジビリティ)”の効果が切れたマウナが、突然現れる。
 そのマウナを抱え上げ、ヒースは今度は横飛びする。
「『火炎球(ファイアー・ボール)!』」
 いた空間が一瞬で紅蓮に包まれる。
 そこには、マウナを探していたアメリアが……
「……えっと、アメリアさんがとばっちり食ったようですが……」
「アメリアさんなら大丈夫でしょう。ほら、もう復活してますよ」
 その言葉の通り、一瞬で黒こげになっても、すぐに立ち直るアメリア。空中のリナに叫ぶ。
「――――――!! ――――!!」
 しかし言葉になってない。それをリナは良いことに、
「あ、生きてる、大丈夫ね? ほら、あのツンツン頭が復活してるから、任せたわ!」
 言うだけ言って、再び空中に戻るリナ。冷や汗が流れていたが。
 それに涙目で抗議しつつ、それでも視線をキッとノリスに向けるアメリア。
「ひえーーっ!!」
「ノリス任せた!! 防御専念してろ!! お前なら避けられる!!」
「避けられなかったら!?」
 ヒースの無責任な言葉に、答えたのはマウナ。
「あんたの運がなかっただけ! 今度は復活させないから、心して避けて!」
「ひぇぇーー!!」
 泣きそうになりながら、それでも必死で避けるノリス。それにやはり泣きそうになりながら攻撃を続けるアメリア。
「ア、ア、ア、ア、アメリアさん、止めようよ!!」
「――――――――!」
 それに何を叫んでいるのか判らないけど反論をしているアメリア。

「アメリアさんは何て言ってるんでしょうか?」
「……多分、最初は「リナさん! ひどいです!!」で、後は「大人しく倒されて下さい!」あたりだと思います」
 ゼロスの言葉に、舞台のアメリアはこくんと頷く。頷いたまま、速度を弱めずノリスに殴りかかる。
「……おっと、そうこういってる間に、イリーナさん対ガウリイさんの決着が付きそうですね」

 力強く振られる大剣に、さすがにガウリイも、当たったら死ぬと確信して、冷や汗を流す。
 かと言って、いつもの剣技を乱すこともない。
 必要最低限の動作で避け、必要最低限の動きでイリーナを追い詰める。
 イリーナの剣の風圧で、髪の毛の数筋が切られても、ガウリイは焦ることなく動く。
 反対にイリーナは、意外と身軽なガウリイの動きに疲労を重ねていた。
 渾身の振りも、体当たりも、ガウリイが当たることはない。
 代わりに来る重い剣戟は、避け損ねたら手痛い一撃に確実に変わっていた。
 イリーナは、ガルガドみたく“気弾(フォース)”を使うことも一瞬考えるが、すぐにその考えを振り払う。
 魔法を使っていない人に魔法を使うことは正義じゃないと。この戦いを剣技のみで勝つことこそ、至高神(ファリス)様の試練とばかりに。
 そして、イリーナは再び剣を振う。しかし、その力は次第に鈍くなっていく――

 一方、ガルガド対ゼルガディスは、お互いに精神力と体力の削りあいになっていた。
「『すべての力の源よ 輝き燃える赤き炎よ! 炎の矢(フレア・アロー)!』」
 ゼルガディスの呪文に応じて出てきた炎の矢の束。それが飛んでくる前に、ガルガドは躊躇うことなく真正面から体当たりで散らす。
 多少焦げが出来たことに、ガルガドは一瞬顔を顰め、祈りを唱える。
「『勇壮なる戦神(マイリー)よ、我に癒しの力を』」
 そして、ガルガドの怪我があっさり治る。
「……今のは?」
「戦神(マイリー)に怪我の治癒を願った。……おぬしのは?」
「火の精霊に頼んで、炎の矢を作ってもらった」
「……なるほどの。近くに火がなくても作れる“炎の矢(ファイア・ボルト)”と同じか」
 納得しているガルガド。それに改めて剣を向き合うゼルガディス。
「じゃあ、次、いくぞ」

「なんか、ガルガドさんとゼルガディスさん、和んでますねー」
「……和んでても、やってることは戦闘のはずなんだけど……あ、二人に、リナさんとヒースから叱咤が飛んでる」
「けれど、あっさり無視してますね……お二方とも」

「こらーーっ、ゼル! 真面目に戦えーーっ!!」
「おやっさん!! とっとと終わらせてこっちを助けてくれ!!」
「黙っとれ! 今、大事な戦いの最中だ! ……じゃあ、行きますぞ。ゼルガディス殿」
「ああ。……周りがちょっと煩いが……気にすることじゃないな」
「そうだの」

 マウナは、ヒースに掴み上げられ、一緒に空を飛びつつ、闇の精霊シェイドを三体呼び出す。それを後方から地面スレスレに飛んでくるリナにぶつけようとするが、秒速十五メートルで突き進んでいるため、なかなか上手くいかない。
 逆にリナはその直径十メートルの暗闇の数々を秒速十メートル弱で突き進んでくる。
 それにめげずにまた呼び出すマウナ。ヒースとマウナとリナの飛び抜けた空間が、制御の離れたシェイドで漆黒となりかける。
「ヒース! もっと速度落として! 当たらない!」
「無茶を言うな! 速度落としたら魔法が飛んでくる! あいつデタラメだ!」
「デタラメも無茶苦茶もあたしたちの専売特許でしょ! 何とかして!」
「出来ん! 無理だ! お前こそ何とか隙を作れ!」
 マウナを落とさないように掴んでいるため、魔法が使えないヒース。なんとかマウナを安全に降ろすためにリナと同じく地面スレスレを飛ぶが、かなりの速度で飛んでいるため、なかなか降ろせない。
 そして、舞台から出るわけにはいかないので、結局、舞台端の外周上を飛ぶことになり……制御の外れたシェイドが今度はヒース達の目の前に迫りそうになる。慌てて高度を上げて飛び越えるヒース。その下をヒース同様、猛烈な速度で突き抜けるリナ。
 けれども、その内一つには当たったらしい。突き進むリナがクラっとよろけ、その周りの空間が一瞬で明るくなった。
「やった!!」
 ヒースはそのマウナの歓声に、急いで方向転換しつつ速度を落とす。
 そして、マウナを落とし、リナと距離をとり過ぎないように着地し、複雑な身振りで古代語呪文を詠唱し始めて――
 その矢先に、かろうじて空中にいたリナが方向を変え、手近な暗闇に入る。
「……くそっ」

「なんで、ヒースさんは呪文を唱えないんですか?」
「古代語呪文は、目標が見えてないとかからないのが多いんだ。リナさんがそれに気付いたとは思えないんだけど……結果的には大正解だね」

 リナの居るだろうシェイドの浮かぶ空間を、どこから飛び出てきても良いように、警戒するヒース。と、突然周りの精霊分布が乱れ、空気が軋んだようにマウナには感じられた。
 マウナは本能的に呪文を紡ぐ。
「『氷の矢(フリーズ・アロー)!』」
「『風の精霊(シルフ)よ! 我を助けよ! 来たりて楯となれ! 我らに飛びくるものを逸らせ!』」
 一瞬の差。かろうじて、飛んできた氷の矢が風に弾かれる。

「これは?」
「多分、リナさんが氷の矢を作って投げつける“氷の矢(フリーズ・アロー)”という呪文を使ったのだと思うんだけど、それを賢いマウナさんが“風の守り(ミサイル・プロテクション)”で風乙女(シルフ)にお願いして、飛び道具全てを無効にしたんだ。さすが耳が尖ってるマウナさん!」

 キンキン響くアナウンスの声に、マウナとヒースは顔を顰める。
 と、大地に接するように浮かんでいたシェイドから微かな足音が聞こえた。ヒースは一瞬でそちらの方向を向き、飛び出てくるリナの姿を認め――
「『万物の根源たる力(マナ)よ! 見えざる力となりて束縛せよ!』 」
 それにリナの動きが止まる。睨まれたまま動けない。
「……っ!?」
「……成功。マウナ、ぼこれ」
 慎重に、精神集中が途切れないようにヒースが言う。
 それにマウナがグッジョブと親指をびっと上げてからリナに向かって動こうとして――リナが必死に呼吸を調節しながら、にやりと笑う。
「……『輝く光よ 我が手に集いて力となれ! 明り(ライティング)!』」
 動きも一切為しに、動かない口で必死に呪文詠唱をして、持続時間ゼロの閃光を作る。その光と、驚愕に、ヒースは集中を途切らせてしまう。
「……お、お前、化けもんかっ!?」
 その気になれば呼吸どころか心臓の拍動すら麻痺させることが出来る魔法を、一度決まったはずなのに打ち破られた。そのことにヒースは思わず叫んでしまう。
 リナの方は、一瞬で束縛が解けたのを感じ、そのままヒースに向かって走る。その額には必死になった名残の脂汗。
「……姉ちゃんのシゴキに比べりゃ、こんなもん!」
 向かってくるリナの剣を、ヒースは必死で避ける。それに舌打ちするリナ。
「ヒース! そのまま! 『闇の精霊(シェイド)よ! ここに来てかの者の心を恐怖で縛れ!』」
 マウナの呪文に合わせ、一瞬だけ暗闇がリナを中心に発生し、軽い音をたて、すぐ消える。精神ダメージを食らい、リナが少しやつれた顔をするが、しかし戦意は全く失せていない。
「……さっきもきた精神ダメージの魔法ね……でも効率悪すぎ! 『永久と夢幻をたゆたいし すべての心の源よ! 烈閃槍(エルメキア・ランス)!』」
 詠唱と共にリナの目前に光の槍が発生する。それがマウナに向かって飛び、当たる。
「……っ」
 そのままポテッと倒れるマウナ。それに焦るヒース。
「マウナっ!?」
「身体にダメージはないはずよ。……さて、残るはあんただけね」
 リナの言葉に、ヒースはリナの方を睨む。焦りを取るかのように一つ大きく深呼吸をして、そして目が据わる。複雑な身振りで呪文詠唱を始める。
 それにリナはにやりと笑う。詠唱を始める。
「『万物の根源、万能なる力(マナ)よ! 電光となりて敵を打て!』」
「当たんないわよ! 『――大地の底に眠り在る 凍える魂持ちたる覇王 覇王雷撃陣(ダイナスト・ブラス)!』」
 ヒースとリナ、両方の呪文が同時に唱え終わる。……が、リナの方は発動しなかった。
「……え?」
 ヒースの方からは太い電撃が真っ直ぐ向かう。
「うそ!?」
 悲鳴を上げつつ避けられないリナ。
 真っ直ぐ電撃はリナに当たり……そして、リナの後ろにあった暗闇(シェイド)を突き抜け、その向こうにいたガウリイとイリーナに当たった。
 金属に落雷したような音に、さすがにゼルガディス&ガルガド、アメリア&ノリスの動きが止まる。
「……なんだ?」
「……またやったか……」
「――――――?」
「……えーと……」
 疑問の顔を向ける二人と、呆れと冷や汗を流す二人。
 そして、ヒースは、発生した音で事態を悟り、青い顔で、倒れたリナとガウリイと……その向こうでブスブス黒い煙を上げながら立ったままの金属鎧を見る。
「……えーと……マウナさん……は倒れてるので、ガルガドくん、イリーナさんを治してあげてくれなさい……。イリーナ……生きてるな?」
 震える声で言うヒース。
 そしてガルガドが動く前に、金属鎧から、低い笑いが響いてくる。
 生きている証拠の音に、一瞬だけ安堵の息を吐くヒース。しかし続く低い含み笑い――怒りの証拠と、言葉に、完全に腰が引ける。
「……兄さん……確かにわたしは“火炎付与(ファイア・ウェポン)”は欲しいと言いました……。待ってても来なかったから、忙しいんだろうなーと思ってたんですけどね……でも“雷付与(サンダー・ウェポン)”は欲しくなかったんですよね……」
「ま、待て! イリーナ! これは事故だ!! マウナの“闇の精霊(シェイド)”で視界が通ってなかったんだ!! 意図してじゃない!!」

「“雷付与(サンダー・ウェポン)”ってなんですか?」
「……あー、えーと……ヒースの奴、今まで二回、今回入れて三回、イリーナに間違えて“電撃(ライトニング)”をかけてるんです。その時のヒースの苦しい言い訳。そんな古代語魔法ないから」

「……ふっふっふ、至高神(ファリス)様もおっしゃいました。「敵を倒すには、まず味方から」と」
「違う! それは激しく違う!! 「敵を欺くには、まず味方から」だろう!! 第一、至高神(ファリス)がそんなこと言うはずない!! 真っ当勝負が旨だろう!! 聞いてるか!? お前、神官だろ!?」
 慌てるヒース。それにため息をついてイリーナに“治癒(キュア・ウーンズ)”をかけるガルガド。治してもらって、改めて剣を振り回し、そしてスチャっと、イリーナは真っ直ぐ剣をヒースに向ける。
「とにかくだまし討ちは悪です! 今度こそ天罰を受けて下さい!!」
 そしてヒースを追いかけ始めるイリーナ。必死に逃げるヒース。
「やめろ! 死ぬ! お前に斬られたら本気で死ぬ!!」
「そうしたら生き返らせます! わたしが最高司祭レベルになるまで棺の中で反省していて下さい!」
「おー、そうだの。わしが腐らんように呪文をかけといてやるからの」
「おやっさん!!」
 泣きそうになりつつ叫ぶヒース。それを見つつ、ゼルガディスも転がった面々を眺める。
「……まあ、景気良くやったな。これはリナ……じゃないな。あの魔術師か」
「すまんの。すぐ治すから待っとれ」
 そしてガルガドがリナたちに“治癒(キュア・ウーンズ)”をかける。
 それに地面に突っ伏したままリナがゼルガディスに聞く。
「……なんで、あたしじゃないって判るのよ」
「これは“覇王雷撃陣(ダイナスト・ブラス)”に似ているが、この世界じゃ、黒魔法が使えなかった」
「……黒魔法が使えない?」
 それに頷くゼルガディス。
「俺もさっき戦っていて気付いた。多分、根源となる魔族がいないからだろう」
 そういえばそんなことゼロスが言ってた……と頭を抱えるリナ。そんなリナの後ろにガウリイとアメリアが寄ってきていた。
「おー、いてて……終わったか?」
「……終わったというか、終わっちゃったというべきか……」
 視線の先には、追いかけっこをしているヒースとイリーナ。そして気絶から回復してもらったマウナが、回復要員として待機中。
「結局、どっちが勝ったんですか?」
 “沈黙(ミュート)”の効果時間が切れ言葉が戻ったアメリアが、とほほという顔をして聞く。

「……そういえば、どちらの勝利になるの?」
「とりあえず終わった段階で立っていたのは、ヒースさん、ノリスさん、ガルガドさん、そしてアメリアさんとゼルガディスさんだったから、多数決で言えばへっぽこーずの方ですね」
「うーん、でも、劣勢か優勢か言ったら、イリーナとガウリイさんではガウリイさん。ガルガドとゼルガディスさんでは、本気を出していたらゼルガディスさんだったよ。アメリアさんとノリスは……これは多分運の悪い方だろうね。ノリスが避け切れなかった時か、アメリアさんが避け切れなかった時かで。だから総合力ではそっちの方の勝ちだったんじゃない?」
「まあ、結果が全てということで、立っていた方の多数決で行きましょう」
「了解。んじゃ、へっぽこーずの勝利ということで。マウナさーん、格好良かったですよー!! 倒れた姿も美しかったです!!」

「……あの子は尖り耳フェチなの?」
 アナウンスを聞きながら、リナは呆れた顔でマウナに聞く。それに恥ずかしそうに頷くマウナ。
「多分、ゼルガディスさんもストライクゾーンだと思うよ。尖り耳だし、頭良さそうだし」
 にこにこ笑いながら言うノリスに、ゼルガディスはぎょっと身を引く。アメリアが慌ててゼルガディスを庇うように前に立つ。
「だ、ダメです! ゼルガディスさんは男の人なんですから!」
 その反応に、ノリスはふーんと笑って見ている。それにアメリアは知らず赤くなって、それでもゼルガディスを庇うように立っている。
 そんなアメリアを、マウナも笑ってみている。
「……な、なんですか?」
 見られている気恥ずかしさにもじもくとマウナに聞くアメリア。
 それにマウナは、ふとアメリアの頭をぽんぽんと撫でながら言う。
「ほーんと、イリーナにそっくり。というか、イリーナもあなたぐらい素直だったら良いんだけど」
「それは無理ー。素直なヒースと素直なイリーナなんて、何か違うよ」
 ため息をついて言うマウナに、にこにこ笑って言うノリス。即座にマウナから拳のアタックがノリスの顔面に入る。
「人が夢と希望を話しているのに、茶々を入れない!」
 そのままゴリゴリと拳を押し付け続けるハーフエルフに、アメリアが慌てて止めに入る。
 ふと脇を見ると、ヒースの悲鳴が聞こえる。
「……あ、斬られた」
「あ、でも、すぐおっさんが治した。すげーな。遠くからでも治せるのかー」
「……すぐ起き上がってまた逃げ出すあいつも凄いな」
「そうですね。リナさんから逃げてるガウリイさんを見ているようです」
 にこにこ笑っていうアメリアに、ゼルガディスが凍る。ガウリイはにこにこ笑ったまま無反応。そして、リナは、
「……アメリアー? あたし、あそこまでひどくはしてないわよー?」
 にっこり笑ってアメリアに脅しをかける。
「あ? え? えーと……すいません、嘘は言えません! 嘘つきは悪になるんで!!」
 言うだけ言って逃げるアメリア。それを追いかけるリナ。
「……体力あるな」
 ぼそっと呟くガウリイ。それにゼルガディスは苦笑し、腰を上げる。
「さてと」
「ん? どうした? ゼル」
 それに嫌そうに司会席の方を見上げてゼルガディスは言う。
「……あいつが逃げる前に、とっ捕まえる。……あんたらも一緒に行くか?」
 言葉の最後の視線を向けられ、マウナは頷く。ノリスは笑ったまま、いってらっしゃーい、と手を振っていた。
「そうか? 逃げないと思うけどな」
 ガウリイの言葉に、ゼルガディスは冷めた笑みを浮かべる。
「逃げなくても、だ。少しとっちめておきたい」
 そして追いかけっこをしている二組に声をかける。
「アメリア! あと、その……至高神(ファリス)の神官! 手伝ってくれ!」
「え?」
 声をかけられたイリーナは驚いて振り向く。
「なんですか? えーと……」
 名前が思い出せなかったらしい、口よどむ少女に、ゼルガディスは苦笑する。
「ゼルガディスだ。お前さん、正義を信じてるか?」
 それに一瞬で目をきらきらさせて頷くイリーナ。
「はい! 当然です!」
「そうか。なら、生命の賛歌とか歌えるか?」
 質問に、イリーナは、えっと……と、ちょっと首を傾げて答える。
「わたしは大地母神(マーファ)ではないんで微妙ですけど……」
 それに不思議そうな顔をするアメリア。
「また別の神様がいるんですか?」
「はい」
 きっぱりと頷くイリーナ。それにちょっと困った顔をしつつ……それでも言うゼルガディス。
「生きものが生き続けようとすることは、正義だな?」
「はい。秩序に則って生きるのが正義です」
「……」
 それにすでにプシューと煙を上げかけるアメリア。しかしゼルガディスはあっさりと頷く。
「なら、あの獣神官を懲らしめるのを手伝ってくれ。あいつは見ての通り、捻じれた存在だからな。……神殿とかで歌ってる歌を歌ってくれれば良い」
「……それだけで良いんですか? 光れますけど?」

「司会をしていたゼロスさんが離席したため、再び代わってワタクシ、バスが司会をさせて頂きます」
「相方がいないとつらいらしいんで、僕も引き続き。ちなみにイリーナが今「光る」と言ったのは、死霊(アンデット)とかに効果のある“聖光(ホーリー・ライト)”のこと。……ゼロスさんって、アンデッドなのかな? 僕が見た限り、もうちょっと違う……負の精霊の塊というか……もっとわけの判らないものだと思うけど」

「いや。あいつは負の感情を糧としている魔族だからな。神への賛歌とかでも……正の気持ちをぶつけるだけでも十分痛いだろう。お前さん、自分の信念に自信はあるか?」
「当然です!!」
 ヒートアップするイリーナ。それにゼルガディスは小さく微笑む。イリーナの頭の上をぽんっと手を置く。
「頼むぞ。……アメリア、追いかけて捕まえろ! 逃げられたら、面倒だ!」
「はい! アメリア、行きます!」
「二番! イリーナ・フォウリー、行きます!」
 アメリアが“翔封界(レイ・ウィング)”で飛び、もう一人の少女が走っていくのを見て、ゼルガディスも“翔封界(レイ・ウィング)”で飛び上がる。
 それを見つつ、マウナが唖然としたように言う。
「……えーと……あの人って、ヒースのカッコいい版?」
「イリーナ使い上手いね。……トレード出来ないかな?」
 ぼそっと呟くノリス。それにあんたがトレード言うなとばかりに睨みつけるマウナ。けど、その言葉に妙に乗り気になるガルガド。
「……そうだのー。ゼルガディス殿なら、ひょっとしたら戦神(マイリー)の勇者の啓示が降りるかもしれんし……クソガキや、このほら吹き魔術師よりも……」
「おやっさん!?」
 悲鳴を上げるヒース。
 それにふと我に返ったように、頭をふるガルガド。
「いや、いかん。誘惑に負けちゃいかん。これでもわしが一生懸命育てたパーティじゃ。見捨てるわけには……いや、見捨てても……」
 しかし気持ちは揺れているらしい。ぶつぶつ呟くガルガドを、ヒース達は哀しい笑みを浮かべて見ていた。


 そして。
「どうだった? ゼル」
 結局、全員でオーファンの王都のファンという街まで来て、ヒースたちの紹介……というか、こちらの通貨を持っていなかったリナたちは、ヒースたちのツケで「青い小鳩亭」という、妙に新しい感じのする冒険者向けの宿に泊まっていた。
 そして、それぞれの目的のために、しばらく滞在し――
「俺の身体は、呪いとかではないので解除出来ないそうだ。くそっ、死んだ人間すら生き返らせることが出来るのに、なんで身体一つ元に戻せないんだ」
 ゼルガディスは、今日、ガルガドと一緒に戦神(マイリー)神殿まで行き、身体を元に戻す方法を聞いていた。しかし、結果は芳しくなかったようだ。
「……そうねー。あたしもヒースと一緒に魔術師ギルド行ってみたけど……」
 魔術師ギルドでもあまり良い情報はなかったらしい。そしてリナの意図していたものと、この世界の魔法はまた違うものだったらしい。
「なーんか、聞いてみたら、この更に前の時代の方が魔法が発展したんだって。その時代の魔法を掘りおこして使っているようじゃ……」
 それでも、この数日のレクチャーだけであっさり共通語と下位古代語の読みを覚え、本を読んでいるリナ。と、下からガシャンギジッガシャンギシッという重い金属音が階段を上ってきた。
「……イリーナが来たみたいね」
「アメリアも一緒か?」
 その声と一緒に扉がバタンと開く。
「お邪魔しますー!」
 その勢いで、扉が反対側の壁にぶつかり、そして跳ね返って、またイリーナにぶつかりそうになり、慌てて扉を押さえるイリーナ。
「……」
 頭を抱えて怒鳴りつけようか真剣に悩んでいるゼルガディス。それに気付いた、一緒に入ってきたアメリアが慌てて抑える。
「あ、まあまあ、ゼルガディスさん。イリーナさんも悪気があるわけじゃないんで」
「……悪気がなければ良いってもんじゃないが……」
 ふとイリーナが、リナの読んでいる本に気付く。
「あれ? もう下位古代語覚えたんですか?」
「あ、うん。まあね」
 あっさり答えるリナに、イリーナはどよーんと落ち込む。
「……至高神(ファリス)様、教えて下さい。どうしてわたしは覚えられないんですか? どうして異界の方々があっさり覚えているものを覚えられないんですか?」
 完全に落ち込んでいるイリーナ。
「おーい、イリーナ。マウナが怒ってるぞ。扉壊すなって……って、おわっどうした!?」
 扉の所で蹲っている甲冑に、同じく階段を昇ってきたヒースが驚く。それにふと顔を上げて、また床にのの字を書くイリーナ。
「下位古代語が読めないから、いじけてるだけ」
 それにあっさり答えるリナ。
「……なるほど」
 それに苦笑するヒース。イリーナの頭をぽんぽんと叩いて慰める。
「ほら、イリーナ。お前さんが頑張ってるのは誰でも知ってる。いつか覚えられるさ。……まあ、このリナが規格外なだけだ」
「……兄さん」
 うるうると幼なじみを見上げるイリーナ。それに苦笑するヒース。
「おっと、俺様は今日はハーフェンの伝言で来たんだ」
 そしてリナの方を見て言う。
「リナ、お前さん、魔術師ギルドの特待生になるつもりあるか?」
 それに驚いて顔を上げるアメリアとイリーナ。
 それにヒースは不満そうな顔で頭を掻きつつ言う。
「仏のハーフェンがまた余計な仏心出してな。お前さんさえ良ければ、ハーフェンの研究室で引き受けるとさ。当然授業料無料。生活も寮で出来る。試験は受けてもらうって言ってたけど、お前さんなら余裕だろ。……どうする?」
 聞きながら、あまりにも不機嫌そうなヒースの様子に、イリーナは疑問に思う。
「……兄さん、どうしてそんなに不機嫌そうなんですか?」
 それにヒースは不機嫌な顔を直しもせずにガリガリと頭を掻く。
「あー。不機嫌だからだ。お前のことじゃないから気にするな」
 それに不思議そうな顔をするイリーナ。
「じゃあ、誰のことなんですか?」
「……聞くな。言いたくない」
 ぶっきらぼうに言い切るヒース。
「まあ、返事は直接ハーフェンに言え。じゃあな」
 言うだけ言って、部屋から出て行くヒース。それを慌てて追いかけるイリーナ。
 それを微妙な苦笑だけで見送って、リナは再び本に視線を戻す。そして、ヒースを少し哀れみの視線で見ていたゼルガディスは、再び窓の外に視線を向ける。一人アメリアだけが興奮したように言った。
「すごいです! リナさん! 当然受けるんですよね!」
「……うーん、考え中」
 気の無い返事をするリナに、アメリアはへっ?と疑問の顔を向ける。
「どうしてですか? 魔法オタクのリナさんらしくない」
「魔法オタクって言うな! ……まあ、費やす時間に見合う収益があるか……っていうことでね」
「…………」
 それを聞き流しながらも、少しため息をついてしまうゼルガディス。……リナ=インバースは周りの思いなど全く気にしていない。気付いていながらも、無視をする。ヒースクリフ・セイバーヘーゲンの苛立ち――リナという「天才」への苛立ちと、己の未熟さへの憤り――も。
 そして、知っているのか知らないかは判らないが、リナという「異界の魔術」を目にし、なんとかもっと深く知ることが出来ないかと勧誘した魔術師ギルドの思惑も。
 ――ギルドはどうでも良いが、ヒースに関しては気の毒だなと思う。
「それよか、アメリアの方はどうだったの? 至高神(ファリス)神殿はどうだった?」
 それにアメリアはちょっと困ったような笑顔を浮かべる。
「凄かったです。皆さん、至高神(ファリス)の正義を信じてて。正義という言葉で一つにまとまってて……神様の奇跡も本当にあって! 神様がはっきりと判る形でいて……」
 そして黙ってしまうアメリア。顔を伏せてしまう。それにゼルガディスは窓の外に視線を向けたまま聞く。
「赤の竜神(スィーフィード)とは、全然違ったか?」
 それに俯いたまま頷くアメリア。そのまま黙ってしまう。……ゼルガディスは小さく息をつく。
「……ずるいな。この世界は」
 その言葉に、アメリアはピクッと肩を震わせる。
「神がちゃんといて、祈りさえすれば助けてくれる。……俺たちがいた世界とは……あの神封じの結界のあった世界とは、全然違う。祈れば生き返りすらあるんだからな」
 それに頷くアメリア。ゼルガディスは小さく言う。
「お前の信仰が弱い訳じゃない。この世界が特殊なだけだ」
 それに、アメリアの膝の上にポトッと涙が落ちる。それに慌てて首を振って涙を拭うアメリア。無理矢理笑顔を作る。
「いえ! 世界は関係ないです! わたしも巫女の一人で、神託も受けたことがあるんです! 人様の世界を羨んだりするのは良くないです。半島を覆っていた結界は解けてますし、わたしはもっと頑張ります!」
「……そうか」
 ゼルガディスは小さく微笑む。リナも安心したように頷いて笑う。アメリアは笑って反省する。
「ありがとうございます。ゼルガディスさんに心配をかけちゃうなんて、わたしちょっとダメでした」
「……そうだな」
 ゼルガディスの言葉に、リナはちょっと悪戯っぽく笑う。
「あれ? ゼル、否定しないの? 心配なんてしてない、慰めてなんてないって」
 それにそっぽを向くゼルガディス。しかし耳は赤い。
「……そんなことより、ゼロスの魂胆は判ったのか?」
 あからさまに話しを逸らされるが、リナはあっさり乗ってやる。
「多分、だけど、ヒースも言ってた、あの古代語魔法最高レベルの魔法ね。“移送の扉(ディメンジョン・ゲート)”。異界にすら行ける魔法をあたしに覚えさせることが目的なんじゃないかって。他に目立ってあたしらの世界にない魔法って“精霊力感知(センス・オーラ)”ぐらい……でも、ゼロスぐらい上位でないと、見た目で魔族って判るからね。だから“精霊力感知(センス・オーラ)”は除外。また神を根源とするのは向こうに持ち込めないだろうし、精霊魔術は向こうの方が確実に強い」
「……それで、その“移送の扉(ディメンジョン・ゲート)”をお前さんに使わせて何が出来る? 知ってる所にしか行けないんだろ?」
 それにリナはちょっと苦笑する。
「逆を言えば、思い出せる場所だったらどこにでも行ける。例えば、あんた切望の異界黙示録(クレア・バイブル)のある場所にだって」
 それに驚いた顔を向けるゼルガディス。
「あとは、覚えてないけど、あの金色の魔王(ロード・オブ・ナイトメア)、混沌の源にも、あたしは行ったことがある。……それで何をするかは全く判らないけどね」
 苦笑して手を上げるリナ。それにゼルガディスは、悩みつつ言う。
「異界黙示録(クレア・バイブル)は……いや、ゼロスのことだ、あの竜の峰(ドラゴンズ・ピーク)の入り口の他に、別の入り口を知ってると思う。それは除外しよう。で、……金色の魔王(ロード・オブ・ナイトメア)……」
 ゼルガディスは、リナから目を背ける。
「混沌は……あれは人の入れない空間だ。……俺はあれに飛び込んでいったガウリイの身体が、砂のように崩れて消えていくのを見た。……物体は入り込めん。それは確かだ」
 アメリアも複雑な顔をしながら頷く。
「わたしも見ました。リナさんは光の塊になって……追っていったガウリイさんはそのまま消えちゃいました……。あんな空間に道を作っても使えないです。それこそ魔族の人みたいな精神体でないと」
「魔族でも多分無理だ。……あれが金色の魔王(ロード・オブ・ナイトメア)本体だとすれば、それと匹敵する精神を持っていない限りは入り込めんだろう。道を作るだけ無駄だ」
 ゼルガディスとアメリアの言葉に、リナは椅子の背もたれに凭れ掛かって呟く。
「……うーん、だとすると、何が目的なんだろ? 他に何か思いつく?」
 それにアメリアは、ふと笑う。
「遊びに行くのに便利です! 今回みたいにゼロスさんに何処かに連れて行ってもらって、その後、その場所に好きに行けます!!」
「……どんな場所にワザワザ呪文使っていくのよ。ゼロスも、いくらなんでも楽しい遠足のために、こんなことしてるんじゃないでしょ」
「遠足でも良いじゃないですか! 実際、今回は異界の方々とお友達になれました! こんな風に楽しく使えば――」
「かくして、また騒動の種を、異界でもばら撒くのか。……黒の竜神(ヴォルフィード)世界の連中みたく」
 ぼそっと呟くゼルガディス。それにピキッと引きつるアメリアとリナ。
「んじゃ、あんたはどう思うのよ?」
 リナの言葉に、ゼルガディスはちょっと考える。
「……ゼロスの考えそうなことだと、お前に覚えさせて、あとはお前の自由に任せる。どの方向に行っても騒乱しか起こらん。物資輸送……商売に使おうが、移動に使おうが、どこかに泥棒に入るために使おうが、どう転んでも事が平穏に終わるはずがない。絶対に、あいつが喜ぶ混乱の方向に行くだろう」
「……あんたは……」
 怒りにプルプル震えるリナを、アメリアが必死にリナさん抑えて!と取り押さえる。それをゼルガディスは違うか?と淡々としている。
「あ、じゃあ、ゼルガディスさんだったら、どう使いますか!? ゼロスさん云々は除いて!」
 慌ててアメリアが話を誤魔化すために聞く。それにゼルガディスは、一瞬思考し、そして苦笑する。
「旅に出た時、戻るのに楽だろうな……悪いが、それぐらいしか思いつかん」


「あれ? ヒースは?」
 マウナはイリーナに冷たい飲み物を届けながら聞く。ついさっき、不機嫌という表情そのまま階上から降りてきて、テーブルについていたと思ったのに、今はいない。イリーナは飲み物を受け取りながら答える。
「ありがとマウナ。兄さんだったら帰っちゃった」
「おかしいわねー。てっきりいつものエールと焼き鳥を注文すると思っていたのに……」
 首を傾げながら呟くマウナ。それにイリーナはミルクを飲みながら言う。
「なんか急に忙しくなったから、用があったら学院寮まで伝言しろって言ってた」
「……ふーん」
「でも三日間は手が離せないから、絶対に連絡するなって」
 その言葉に、意味ないじゃん、とマウナは思う。
「ところで、ヒース、なんであんなに不機嫌だったの?」
 それに首を傾げるイリーナ。
「わたしも判らないです。リナさんに伝言に来させられたのが理由でしょうか?」
「伝言?」
 聞きながら、マウナは話が長くなりそうだと思って、後ろのカウンターの義母に休憩にして良いかアイコンタクトを取る。了解の微笑みとカウンターにマウナ用のドリンクを置く義母。
「ありがと、お義母さん」
 レモネードを取り、お盆をカウンターに戻し、マウナはイリーナの据わっているテーブルに戻る。
「お待たせ。んで、伝言って?」
「リナさんに、学院の特待生にならないかって」
 その言葉に、思いっきりレモネードを噴いてしまうマウナ。
 噴いて……そのまま笑い転げてしまう。
「……そ、そりゃ、不機嫌になるわ。……あー、気の毒ーーっ」
 笑いすぎて涙が出てきたらしい。マウナはエプロンで涙を拭きつつ、笑いを堪えようとする。
「え? どうして?」
 さっぱり判らないイリーナ。それにマウナは苦笑して答える。
「あのね。あいつはプライドだけは人一倍高いの。それをぽっと出てきた異界人に自分と同じ立場になられたら、そりゃ不機嫌一直線でしょ」
「……あ」
 ようやく理解出来たイリーナ。
「オマケに、リナはヒースより遥かに才能があるみたいだしね。彼女、まだあんたと同じ十七才よ。ヒースより一つ下なのに、魔法の能力で言ったらヒースとトントンか少し越えてるみたいだし」
 それにこくんと頷くイリーナ。あの戦いの後、ヒースとマウナの二人を一人で抑えていたことを聞いてイリーナも驚いた。
「……でもって、それ以上に、彼女の意思の強さ」
 そして、ヒースの“麻痺(パラライズ)”を、意思の力で打ち破ったというのだから、並大抵の意思力でない。
「逆恨みも妬みもやっかみも出来なかったら、自分の未熟さを呪うしかないって」
 マウナは苦笑する。
「なるほど、あいつが飲まずに帰るわけね。今頃、必死になって勉強してるんでしょ」
「……ヒース兄さんの不機嫌の原因って、ヒース兄さん自身だったんですか……」
 それに頷くマウナ。そして、ふと、三日……三日……と考える。
「……ねぇ。あいつ、フレディの次の使い魔、召還しないって言ってたわよね?」
 それにイリーナはきょとんとする。
「しない、とは言ってませんでしたが……でも、多分、しないと思いますよ? 兄さん、情に厚いから」
 それにマウナは苦笑してしまう。
 先のバンパイア戦の中、大切な者を失う痛みを思い知らせようとした敵によって、ヒースの使い魔が死んだ。その時「愛しいものを奪われる苦しみを思い知ったか!」と言った敵に、ヒースは死んだ使い魔を抱えて涙をボトボト落としながら「やかましい! 愛しくなんかないんだい! 使い魔は便利な道具なんだい!」と駄々っ子のように泣き叫んでいた。敵を討ち終わり、ファンに戻ってくるまでもフレディの死体を大切に保管していた。そして、復活の魔法をかけてもらえないか真剣に悩み、そして諦め、しょんぼりとしながら学院の敷地の片隅にお墓を作っていた。
 それをパーティ全員が知っている。
「……それは否定しないけど……でも、便利な道具……ってね」
「便利な道具って……あれは兄さんお得意の強がりですよ?」
 イリーナの言葉に、マウナは苦笑する。使い魔が便利な道具っていうのは確かなのだ。感覚を共有出来て、いざという時は使い魔の精神力を魔法につぎ込むことも出来る。
 あの戦いでフレディを亡くした後、ヒースが新たな使い魔を召還しなかったのは、ヒースの感傷。新しい使い魔を召還して、あれだけ大事に思っていたフレディのことを忘れさってしまうことへの怖れ。
 けれど、理性では、使い魔の不在は、大きなデメリットとして捉えているだろう。
 元々、精神力が魔術師としては少ないヒース。
 いつもは少ない収入から高価な魔晶石を買い込み、細かい所で使っていた。この間の戦闘でも、後半はマウナもヒースも魔晶石から精神力を引き出して使っていたのだ。
 死者が出るかもしれない戦闘で、呪文の出し惜しみは出来ない。
 次の犠牲者を出さないためには、感傷は捨てて、理性を拾うしかない。
 ……イリーナは知らないことだが、先の戦いでイリーナが死んだ時、一番ショックを受け、そして一番に事態打開策を思考し対応をしたのもヒースだった。
 彼は、冷たくなったイリーナを背負い、一昼夜飲まず食わずで空を飛び続けファンに戻り、戦神(マイリー)神殿に飛び込んで……暴れた。責任者を出せと。王様出せ、責任取れ、復活させろと。
 マウナも後で聞いた話だが、それは凄い暴れっぷりで、結局ヒースは彼の師匠の魔法で強制的に眠らされて、地下牢に放り込まれたというのだから、かなりのものだったのだろう。
 けれども、それで、なんとかイリーナは生き返った。僅かにでも時間が遅ければ間に合わなかった。……ヒースが、自分しか出来ないことを、決断し行動しなければ間に合わなかったのだ。
「……まあ、三日後のお楽しみ、かしらね。新しい子がいたら、褒めてあげよ」
 それは、自分の気持ちを投げ打ってでも、いま生きている仲間を取ったということになるから。
 マウナは微笑みながら、残ったレモネードを飲み干した。


 ガウリイは、ゆっくりと芝生に横になった。
 芝生をちょっと下った所からは、まだ剣を指南する声と音が響く。ここは戦神(マイリー)神殿の敷地内。鍛錬場のすぐ近くの丘だった。
「……お疲れですか?」
 突然、脇から聞こえてきた声に、ガウリイは驚くことなく、ちょっと首を傾けて笑う。
「まあな。ここの連中はタフな奴が多いからな」
「ガウリイさんらしくないセリフですね。あなた以上にタフな人などそういないでしょうに」
 にっこり笑ってゼロスが言う。それにガウリイは苦笑する。
「お前さんに褒められるのは何か怖いな。タフな奴が多いのは確かだぞ? この世界は……みんな生命力に満ち溢れてる」
 ゼロスはガウリイの隣に並ぶように腰を下ろした。見るではなく、眼下の鍛錬場を眺める。
「……そうですね。僕もここまでとは思ってませんでした」
 ガウリイは面白そうに笑う。
「なんだ。お前さん、あのイリーナにやられたのが結構堪えてるのか?」
 それにゼロスは苦笑する。
「……彼女もアメリアさんと同じぐらい純粋でしたから。普通の攻撃ならまだしも……」
 思い出したくないとばかりに、身を震わせるゼロス。それにガウリイはまた笑う。
「やっぱりこの世界は変だ。お前さんがそんな弱音を吐くなんて」
「弱音じゃないです。事実ですよ」
 ゼロスは苦笑する。
「……んで、何だ? オレとただ話をしに来たって訳じゃないだろ?」
 笑ったまま聞くガウリイに、ゼロスはにっこり笑い答える。
「ただ話に来ました……と言っても信じて下さらないですよね? ええ、いつ頃、皆さん帰られる予定なのかと思いまして」
 それにガウリイは首を傾げる。
「さあ? リナやゼルは小難しい顔で魔術とやらを見てるし、あの二人次第だろ」
「……そうですか」
 ちょっと落胆したようなゼロスの言葉に、ガウリイはおや?と疑問に思う。
「お前さん、早く帰りたいのか?」
 苦笑するゼロス。
「ええ。いくら獣王(ゼラス)様から了承を頂いたとはいえ、これ以上、あの方を放って置くのも不安ですし、下の人たちが勝手なことをしてないか心配なんです。かと言って、リナさん達を置いて帰る訳にもいきませんから困ってるんですよ」
「……お前さん、本当に、ただ頼まれただけなんだな……」
 苦笑するガウリイ。それに頷くゼロス。
「そうです。おや? 信じて頂けてなかったんですか?」
「ああ。特にゼルとリナはな。今でも、お前さんが何を企んでいるのか頭ひねってるぞ」
「裏も何もないですよ。僕はただ皆さんをここに連れてきて、あのへっぽこさん達と会わせて、出来ることならちょっとだけでも戦わせるように、それしか言われてないです」
「お前さんは日頃の行いが悪いからなー。裏を読むなって言われても仕方ないんじゃないか?」
 それにゼロスは苦笑する。
「日頃の行いと言われましても……僕は命令に従ってるだけですよ?」
「それで日頃の行いが悪いって言われてるんだ。お前さん、自分のやりたいこととか無いのか?」
 あっさり聞くガウリイに、ゼロスはふと真顔になり、眼を細めて言う。
「……ただの人間風情に言われるのも、不愉快です。むしろ皆さんのような身勝手な行動を取らないのが、僕の誇りですから」
 おー怖っと、ガウリイは笑顔を引きつらせて身体を引く。どうやら地雷を踏んだようだ。
 でも、ゼロスもそれ以上追求するつもりはないらしい。
 にっこり笑顔に戻って、
「では、僕はちょっと出かけてます。帰るつもりになったら声をかけて下さい」
 さっさと消えようとする。それにガウリイも笑って頷く。
「リナに伝えておく。お前さんが帰りたがってるってこともな」
「…………」
 墓穴を掘ったかと一瞬思うゼロス。リナに伝わったら、面白半分苛め半分で、帰還を無意味に引き伸ばされかねない。
「……帰りたがってることは言わなくて結構です」
「そうか?」
 ガウリイは不思議そうに聞くのを、ゼロスは頷くことで肯定する。
「では……」
 そして消えるゼロス。ガウリイは小さく苦笑して、再び寝っ転がる。
 眼下には、訓練に懸命な戦神(マイリー)神官達。
 ここ数日、暇を持て余していたガウリイを、ここまで連れてきたのはガルガドだった。
 イリーナも出来ることなら至高神(ファリス)神殿で鍛錬をつけて欲しいと言っていたが、今日はアメリアに至高神(ファリス)神殿案内とする約束をしていたらしく、また後日、必ずお願いしますと頼まれていた。
「……まあ、悪くないな」
 この世界は、妙に生命力に溢れた者が多い。
 良い鍛錬になる。
 ガウリイは強くならなくてはならない。
 リナを守るために。
 だから、もうしばらくここに居ても良い。
 リナも強くなれるなら言うことはない。
 出来ることなら、あの入口出口を作る呪文を覚えるまで帰るのを待っても良い。
 そんな魔法があるなら、リナだけでも、生き延びることは出来るだろう。
 前の戦いで、《闇を撒くもの(ダークスター)》に世界を滅ぼされかけた。
 世界が終わるかもしれないと思った。
 本当は、世界など終わっても良い。けれど、リナの生きる世界を滅ぼされるのは困る。
 最後の最後の、本当に最後の瞬間までリナは諦めないだろう。
 ――だからこそ、最後の生き延びる術を持っていて欲しかった。



 ――そして、三ヵ月後。
 元の世界に戻る準備を終わらせた面々が、ファンを見下ろす郊外の丘の上に立っていた。
 そしてかなりの仏頂面でヒースがリナに別れの言葉を向ける。
「もう二度と来るな、クソ女」
 それにリナも、かなり捻くれた笑顔でヒースにさらっと答える。
「残念でした、また来れたら来るわよ、このほら吹き魔術師。そん時は、あたしの方がレベルが上だもんねー」
「だからもう来るなって言ってんだ! さっさと帰れ!!」
 威勢の良い罵詈雑言に関わらず、ヒースはリナに本気で怯えているらしい。
「……リナ。ヒースを苛めるのもそれぐらいにしてやれ……」
「へーんだ! 今度来る時は、インバース師って呼ばせてやるわよ!! それまでにあんたもそのへっぽこ、どうにかしておきなさいよ!」
 ゼルガディスの諌めの言葉にも関わらず、リナはヒースにかなりの勢いで突っ掛かる。ヒースもムキになって当り散らしていた。
 何かあったのか?とゼルガディスもアメリアも疑問に思うが、ここ三ヶ月程、魔術師の塔に篭って魔術の基礎をハーフェン導師に習っていたリナの動向は、ヒースぐらいしか判らない。
「へっぽこ言うな!! お前のせいで俺様、学院連中やラヴェルナ導師からもへっぽこ呼ばわりされてるんだぞ!!」
「自業自得!! あんたのレベルで導師になれてないんだから、へっぽこでしょ! このへっぽこ!!」
「導師になってないのは単位が足りてないだけだ!! そんなことでへっぽこ呼ばわりするな!!」
「そんなことだけじゃないでしょ!! あたしでも簡単に出来る“眠りの雲(スリープ・クラウド)”を遺失呪文だなんて!! 本当の遺失呪文を知ってるカーウェス師が呆れてたわよ!」
 リナは、「異界の魔術」と交換条件に、カーウェス師から遺失呪文である“移送の扉(ディメンジョン・ゲート)”を教わっていた。しかし、それを知らない他の者達から見れば、リナがあまりに優秀なので最高導師に直接教わっていたのだと思っただろう。そして、それをリナは否定しない。優秀なのは間違いないからだ。たとえ、今、使える「魔術」が見習い魔術師以下であったとしても。リナは全ての魔術を自筆の呪文書に記してある。異界でも勉強を続けていれば、いずれは最高導師レベルの魔術を使えるようになるだろう。
「……ぐっ」
 カーウェス師、という発言に、ヒースがかなり引きつった顔をする。
 それに、ピンッとくるマウナ。呆れた溜息をつく。
 ヒースのことだから、カーウェス導師と直接会っているリナに、またプライドを刺激されまくっていたのだろう。それがこの口喧嘩の原因かと。
 ヒースはふと思いついたように叫ぶ。
「……だ、だからか! ハーフェンが悲壮な顔をして、俺に“眠りの雲(スリープ・クラウド)”だけは次の導師試験の前にちゃんと覚えてくれって言ってきたのは!」
「まあ、次の導師試験の課題が“眠りの雲(スリープ・クラウド)”になったとしても自業自得でしょ」
 あっさり言うリナに、ヒースはぐおおっと頭を抱える。そしてそのままガックリと肩を落とし、疲れた果てたように呟く。
「……お前、とっとと帰ってくれなさい……俺様、疲れたぞ……あることないこと、全部、上に話しやがって……おかげで俺様、ここ三ヶ月、怒られ、説教され、笑い者にされ……あげくに導師試験まで……」
 それにリナは胸を張って言う。
「あたしは、事実しか話してないわよ! それに、あたしに最初に嘘教えまくったのはあんたでしょ!」
「……う、嘘じゃねぇぞ……ウェットに富む俺様の他愛ないジョークを理解しないお前が……」
「ジョークだったら、ジョークらしく言う! もっともらしく言うから、あたしが笑われたのよ!!」
「……まず信じねぇネタだけ厳選したつもりだったぞ俺……」
 ここまでで、やっとエキューが納得したとばかりに頷く。
「なるほど。ヒースのほらって、結果的に、大嘘だからね。リナさんが怒って当然だ」
 それに、全員が納得したとばかりに頷く。
「あれ? ガルガドさんは?」
 ヒースが原因のこんな時は、ガルガドが嗜めるのが常だったので、違和感があったのだろう。アメリアの疑問の声に、エキューがちょっと離れた所を指し示す。そこには蹲って泣いているガルガド。
「……ガルガドさん……」
 全員が気の毒そうな顔をしてガルガドを見た上で、視線をゼルガディスに向ける。
 それに、リナとヒースも口論を止めて、ガルガドとゼルガディスを見る。
「……ゼル。残ってあげれば?」
 そして、ヒースも少し立ち直って言う。
「あー……どうだ? お前さんさえ良ければ、おやっさんのためにも、残ってくれないか?」
 リナとヒースの声に、ゼルガディスは淡々と答える。
「俺は最初からリナが基礎を覚えたら帰ると言っていた。期待されても困る」
「けどさ……ほら、ひょっとしたら、ゼルガディスさんの身体を戻すアイテムがどっかにあるかもしれないし……」
「古代王国では色んなアイテムが作られてましたし、ひょっとしたら……」
「そう思って、ここ二ヶ月半、色々な遺跡(ダンジョン)に潜ったが、軒並み外れだった。それにギルドに聞いても、良い返事がなかったしな」
 マウナとイリーナの言葉にもゼルガディスはすげない。
 ゼルガディスは最初、リナと一緒に魔術師ギルドの方を当たっていたが、古代カストゥール王国時代のアイテムに色々な効果があると知って、魔術を覚えるのはリナに完全に任せ、遺跡探しの方に力を入れるようになった。その延長で、盗賊ギルドの方に入り、遺跡探索に精通した者で編成されている「穴熊」と言う分類の盗賊(シーフ)として、遺跡の罠外しの術を身につけ、かなりの個数の遺跡に潜ったが、全部外れだったらしい。
 ……ちなみに、リナ達全員の生活費等々を全て稼ぎ出したのは、ゼルガディスだったりする。ゼルガディスにとっては外れでも、売ればかなりの金額になるアイテムがたくさん見つかっていた。
「穴熊のおじさん、ゼルが帰るの、凄く寂しがってたよ? 良い情報探して、おじさん自ら聞き込みやってたの、ボク始めて見た」
「そうですの。ワタクシにまで聞きに来てました」
「それに、出来れば「穴熊」後継者になって欲しいという話があったって聞いたけど?」
 ノリスとバス、盗賊ギルドに所属している二人からの言葉に、ゼルガディスは一瞬で無表情になり黙る。それにノリスは、ああ本当なんだーと能天気に笑う。その笑みに、ゼルガディスは睨みつけ、
「黙れ。大体常識で考えろ。こんな新参者の異界人に、そんな話があって良いはずないだろう」
 その反応に、ここ三ヶ月でゼルガディスの性格を把握しまくっていた全員が、あー……と生暖かい笑顔になる。
「……良い人だったんだ。その穴熊のトップの人って……」
「ゼルガディスさんが、庇うぐらいですから……」
「でもって、ゼルガディスさんのその性格って、ガルガドが気に入るポイントに、メチャクチャ嵌ってる……」
 ゼルガディスは何を言っても無駄かと溜息をつく。
「帰って欲しくないと言えば、ガウリイの方もだろう。戦神(マイリー)神官の連中に、あんたこそ私の勇者だ、って勧誘されてたそうじゃないか」
「うーん……だけど、ここ最近はほとんどなかったぞ?」
 それにへっ?と疑問の眼を向けるイリーナ。
 どこで手合わせしていても、戦神(マイリー)神殿からのそういう人たちが凄い邪魔だったことを知っているだけに、意外だったらしい。真っ直ぐな不思議そうな眼に、ガウリイは頭を掻きつつ原因らしきことを思い出す。
「えーと……なんだ。神殿で、すごく強い奴と戦ってからかな? 団長とか、あと陛下って呼ばれてた奴だったけど」
「「「「「へ、陛下!? リジャール陛下!!?」」」」」
 さすがに、へっぽこーず全員が絶叫する。
「へー、リジャール国王と戦ったの。で、どうだった?」
「団長というのは、さしずめ近衛団長あたりか」
「王様が強いのは良いことですね」
 しかし、ロイヤルな雰囲気に強いリナ達は一切気にしない。……というか、現役お姫様もいる一行がそんなことぐらいでびびるはずがない。
「おう。最初の一回は、なかなか決着つかなくてな。最後、美人で偉そうな奴にビビッって魔術をかけられて相手が連れてかれた。その後、何回かやったけど、二本に一本は持ってかれてたなー。団長の方は少し弱かった」
「……ローンダミス、弱いって言われてるよ……」
「というか、……竜殺しのリジャール陛下と五分五分なんですね……」
「……そんな奴、迂闊に勧誘出来ないよな……俺様、神官連中に始めて同情したぞ」
「ビビッってやった偉そうな奴って……ラヴェルナさん……?」
「あの人だったら、やりそう。さしずめ「公務が溜まってるので、暇なことは後にして下さい」とか……」
「おお! それだ! 言ってた!!」
 ガウリイの言葉に、全員ががっくり肩を落とす。
「歌に出来ないのが、悔しいですな」
 それまでニコニコ笑いながら聞いていただけのバスが、ちょっと本気で哀しそうに言う。
 それに、ノリスが、
「ん? でも「至高神(ファリス)の天使」の歌、作ってたよね?」
「ええ。アメリアさんは良い題材でした。芸術神(ヴェーナー)よ、感謝します」
 それにアメリアは照れたように笑う。
 アメリアは、ここ三ヶ月、遺跡に潜るゼルガディスの手伝いとマウナに精霊魔法を教えてもらう他に、時間がある時は、イリーナと一緒にご近所の治安を守る手伝いをしていた。“翔封界(レイ・ウィング)”を多用し、ひらひらと空から現れ、「正義」の言葉と共に、悪党を倒したり、怪我をした人を助けたりした結果、ついたあだ名が「至高神(ファリス)の天使」。
 「猛女」と「天使」のペアは、ファンではかなり有名になっていたが……
「なんで、わたしは「猛女」なんでしょう……」
「「猛女」という名に相応しいのはお前だけだ。安心しろ。もう二度とそんな女は出て来ないだろう」
 ヒースのあっさりとした言葉に、イリーナの拳がヒースの顔面に入る。
「『知られざる生命の精霊よ、この者の傷をすべて癒したまえ』」
 そして、そこにすぐにアメリアの“快癒(ヒーリング)”が飛ぶ。それに、上出来と頷くマウナ。リナが言う。
「結局、アメリアだけだったわね。“精霊力感知(センス・オーラ)”から精霊魔法覚えたの」
「先生が良かったからですよ。ね、マウナさん」
 アメリアはマウナに微笑む。マウナも微笑む。そこに怪我を治してもらったヒースが懲りずに茶々を入れる。
「エキューと違って存在価値を揺るがさない相手だったから教えやすかったのか? 半分エルフ」
 それにマウナからお盆がヒースに飛ぶ。
「存在価値を揺るがすって……え? そんな!? マウナさんは尖った耳でそこに居てくれるだけで十分なのに!」
「黙ってなさい、尖り耳フェチ」
 マウナの言葉に、しょぼーんと落ち込むエキュー。
 ふと、上空から羽音が響いた。一羽の青いリボンを付けた鴉が、顔面に真っ赤なお盆の痕をつけ、顔を押さえていたヒースの肩に降りる。
 ヒースの新しい使い魔だった。名前はフレディJr.(ジュニア)。
 結局、あの三日後にヒースは新しい使い魔を連れて小鳩亭に顔を出した。
 そして、その場でJr.は仲間達によってヒースから奪われ、誕生祝いを受けた。
 口々に「お父さんみたく早死にしちゃダメよー」とか「今度はわたしが盾になりますからね」とか「ヒースは友達いないから、よく愚痴るかもしれないけど、困ったら僕の所においで」とか「苦労するかもしれんが、耐えるんだぞ」とか「わーい、新しい子だー」とか歓迎の歌とか聴かされていた。
 肝心の召還主であるヒースは除け者になっていたが、それでもJr.と感覚共有していたから、全部聞いていた。召還されたばかりのJr.が微妙に困惑していたことも知っていたが、それでも聞いておけ、と、お前の仲間だから、と、大人しくさせていた。
 最後に、酔っ払った誰かによってJr.にお酒を飲まされて、ヒースまで感覚共有でふらふらになりかけたことも、一つの思い出だろう。
「……と、結局、ゼロぽん見つからなかったみたいだ」
 顔面から手を離し、ヒースは使い魔からの言葉を伝える。
「Jr.でも見つからなかったか……。んじゃ、呼ぶしかないわね」
「良いの? イリーナいるよ?」
 ノリスの言葉に、全員が苦渋の決断に迫られているイリーナを見る。ヒースが言う。
「……イリーナ。異界に帰るって言ってるんだ。無駄に退治する必要はないな?」
「…………」
 真剣に考え込んでいるイリーナ。ゼルガディスが更にもう一押しする。
「最初の時の、お前の歌でもかなりのダメージが行っていた。これ以上ダメージを与えると、俺たちが帰れるか判らん。あんな奴、別に滅ぼしてくれて構わんのだが、今回だけは俺たちのために見逃してくれ。……俺としても非常に不本意だが……」
「……わかりました。今回だけです」
 ゼルガディスの言葉で、やっと頷くイリーナ。ほっとする一同。
「んじゃ……ゼーーローースーー! 帰るわよーーっ!!」
 リナが叫ぶ。しかし返答がないし、姿が現れる気配もない。
「……おや? ゼーーローースーー!!」
 再度叫ぶが返答がない。
「……帰るって連絡してたのか?」
 ヒースの質問に、首を横に振るリナ。
「でも、あいつのことだから、どっからかずっと観察してると思ってたんだけど……」
「……まさか、三ヶ月待たされると思わなくて、帰ったか?」
 ゼルガディスの言葉に、ちょっと青くなるリナとアメリア。
「そんな! だから早く帰ろうって言ったのに! リナさん!」
「あああ、待って! 待って! アメリア! 大丈夫! 大丈夫だから!」
 胸倉を掴んでリナを揺さぶるアメリアに、リナは泡を吹きそうになりながら慌てて制止する。
「根拠がないな」
 ゼルガディスの淡々とした発言に、ガウリイはのほほんと答える。
「大丈夫だろ。あいつ、オレたちを置いて帰るわけにはいかないって言ってたから」
「本当ですか!? ガウリイさん!?」
 アメリアの質問に、ガウリイは笑顔で答える。
「本当、本当。もうちょっと待ってよう。ひょっとしたらトイレに行ってるだけかもしれんし」
「魔族がトイレに行くかーーっ!」
 リナの突っ込みがガウリイに炸裂する。その音にもいい加減なれて目立った反応をしなくなっているへっぽこーず。
「……うーん、でも、帰れなかったら、どうなるんですか?」
 イリーナの率直な質問に、ヒースは嫌そうに答える。
「今までと変わらん。あいつが“移送の扉(ディメンジョン・ゲート)”を覚えるまで、こっちの世界にいるだけだ」
「あれ? 覚えること確定?」
 マウナの発言に、ヒースは不承不承ながら頷く。
「……悔しいが、あいつなら確実にそのレベルまで行く。下手するとラヴェルナ導師以上の天才だ」
「三ヶ月で、基礎覚えたもんねー。ヒースでも一年以上かかったのに」
「言うな、クソガキ。くそっ。俺様帰るぞ」
 言うだけ言って帰りかけるヒース。それを後ろから残りの面子が笑う。
 ヒースがここ三ヶ月、かなり真面目に勉強しているのは全員が知っている。時間を潰しに小鳩亭に来なくなったし、エールもかなり控えてる。今までは、人にバレるような形で勉強に励むことを恥と思っていたようだが、すでに形振り構ってられない心理状態らしい。
 まだ導師の資格は取れていないが、間違いなく近い内に導師となれるだろう。そして、ハーフェン導師を追い抜く日も近いだろう。
「……あ。来ました」
 アメリアの言葉の通り、その次の瞬間、ゼロスが何もない空間から現れる。そのオーラを間近で始めて見たアメリアの顔がかなり引きつる。しかし、それに構わずゼロスはいつもの笑顔で声をかける。
「お久しぶりです、皆さん」
「おそーい!!」
 そこにリナの声が響く。それにゼロスも苦笑する。
「三ヶ月もほったらかしだったので、てっきり定住するかと思ってました。そろそろ、帰りますか?」
 それに頷くリナ達。ガウリイが苦笑する。
「お前さん、大丈夫だったか?」
「……大丈夫です。いい加減、僕だけ帰ろうかと思ってましたが……」
 ゼロスが引きつった苦笑でガウリイに答える。
「あたしたちを置いて帰ろうなんて、そんなこと許さないわよ」
「ええ、リナさんならそう言うと思って待ってたんです」
 リナのドスの効いた声に、ゼロスも慌てて答える。
「んじゃ、帰りましょ」
 リナが、ゼロスを促す。そしてアメリアがへっぽこーずの方を向いて……泣きそうな笑顔で頭を下げる。
「お世話になりました」
 それにマウナも泣きそうな笑顔で頷き……アメリアに駆け寄り、抱きつく。
「……元気でね」

「……おやっさん。ゼルガディス、帰っちまうぞ」
 ちょっと離れた場所でずっと泣いていたガルガドの背中を、ヒースは叩く。
 それに情けない顔でヒースを見上げるガルガド。
「……わしは……やっと理想の男を見つけたと思ったのに……」
「ああ、わかってる。おやっさんがそう思う男だから、あいつは自分の世界に帰るって言ってるんだ。ほら、見送ってやれよ。……逃げるなよ」
 それに、ガルガドは、きっとヒースを睨みつける。
「わしは逃げたりせん」
「おっ、そうだ、そのノリだ」
 ヒースは小さく笑う。その顔に、ガルガドは……ふと苦笑する。
「……お前さんが、わしに説教する日が来るなんてな」
「年寄り臭いことを言うなよ」
 それにガルガドは笑う。
「お前より年寄りなのは確かだからな。見逃せ」
 そして、ガルガドが来るのを待っているゼルガディスに向かって歩く。
「……世話になったな」
 前に立ち止まるガルガドに、ゼルガディスは言う。それにガルガドは涙でまだ歪んでいる顔で、でも微笑んで言う。
「……こっちこそ、良い夢を見させてもらった。礼を言う」
「…………」
 ゼルガディスは、それに困惑する。
「……良い夢?」
「ああ。わしはずっと……こいつらと一緒にパーティを組むようになってから、理想とする盗賊(シーフ)を探していた。勇者は、まあ至高神(ファリス)神官じゃったがイリーナがいたからな。あのノリスに代わる真っ当で職業意識のある盗賊(シーフ)を……、その夢を短い間だったが叶えてもらった。ありがとう」
 ガルガドは、頭を下げる。そして真っ直ぐゼルガディスに向き合い、言う。
「お前さんが、こっちの世界に生まれてきていたら、きっとわしはお前さんに付き従う従者として生きていただろう。それだけが残念だ」
 それに、ゼルガディスは、微妙な顔をする。
 そして、言うべきか言わざるべきか、かなり長く躊躇った上で、ゼルガディスは言った。
「……俺も、良い夢を見させてもらった。感謝する」
 それに、不思議そうな顔をするガルガドに、ゼルガディスは苦笑する。
「三年前のことになるが……俺には、部下がいた。ロディマスという男だ。騎士をやっていたと言っていた。実直で、誠実で、堅実で、何故俺に付き従ってくれるか判らないほど良い男だった。その男を……俺は……判断ミスで失ってしまった。ロディマスも……ゾルフも……俺に付いてきてくれたばかりに……」
 そして悔恨をゼルガディスは胸の中に押し込めて、ガルガドに微笑む。
「あんたはロディマスじゃないのは判っていたが、勝手に重ね合わせていたようだ。すまない。そして、ありがとう。あんたと一緒に旅が出来て楽しかった。……元気で」
 そして右手を差し出すゼルガディスに、ガルガドは眼を見開く。
 このタイプの男が右手を差し出すなど滅多にあることではない。
 思わず「一緒に行かせてくれ!」と叫びそうになるガルガドだったが、必死にその叫びを抑える。ゼルガディスの差し出した右手を、振るえる手で握り締める。それだけで堪えきれずに、もう一つの手も――両手で、ゼルガディスの右手を握り締める。涙が出そうになる。けれどもガルガドは堪えた。

「ガウリイさん。お元気で」
 イリーナは笑顔で手を差し出した。それにガウリイは笑顔で握り返す。
「イリーナも元気でな」
「はい!」
 頷くイリーナに、ガウリイは苦笑しながら周りを見る。出来ればガルガドにも挨拶をしたかった所だったが、どうやらゼルガディスから離れる気がないらしい。
「……おやっさんは、ゼルガディスと離れがたいみたいだな」
「そうみたいですね。……アメリアさんは、マウナから離れがたいみたいですし」
 お互い挨拶したかった相手が、他の者に捕まっているのに笑い合ってしまう。
「挨拶出来なかったら、伝えておくよ」
「よろしくお願いします。ガルガドさんにも伝えておきます」
「ああ。……まあ、リナがあの入口出口の呪文を使えるようになったら、また来るかもしれないから、あんまり焦るつもりもないな」
 あっさり言うガウリイに、イリーナも笑う。
「そうですね。兄さんも、リナさんならきっと覚えられるって言ってます」
 それにガウリイも笑う。
「じゃあ、またな、という方が合ってるか」
「ですね。またお会いしましょう。その時も真剣勝負でお願いします」
 イリーナの真剣な言葉に、ガウリイは更に笑う。
「ああ。また手合わせしような」

「おい、クソ女」
「何よ、ほら吹き魔術師」
 ゼロスと一緒にいるリナに、ヒースは声をかける。実に嫌そうだったが。
「お前、呪文書は完璧か?」
「当然。あたしを誰だと思ってるの?」
 リナも棘々しく答える。それにヒースは気にしないふりをして質問を重ねる。
「“移送の扉(ディメンジョン・ゲート)”は、カーウェス師からしっかり教わったな?」
「……ええ」
 リナは頷く。
「あと、上位古代語の詠唱、ばっちりだな?」
 リナは質問の意図が読み切れないまま、頷く。
「発動体は? 何を持ってる?」
 それに、リナは手軽に買えた木製の魔術師の杖(メイジスタッフ)を示す。あとカバンの中に、ゼルガディスが遺跡で見つけてきた腕輪と指輪があったが、引っ張り出すのが面倒だったので黙っていると――
「……ほれ。やる」
 ヒースは自分の発動体の腕輪を外して、リナに放り投げた。
「……え?」
「お前、剣士でもあるんだろ。手は自由な方が良い」
「え!? だって、あんた! これ、あんたの発動体でしょ!? どうすんのよ!」
 焦るリナに、ヒースは胸を反らして言う。
「俺様をなめるな。これでも実力は導師レベルだぞ。発動体なんぞなくても魔法ぐらい使える」
 それは事実だった。導師になるための試験に、発動体なしで魔法を使うという課題がある。基本的に、しっかり集中しイメージすれば発動体などなくても、呪文は発動する。ただ、いつもよりかなり難しくなるが……
「良いから持っていけ。また来た時に返してくれれば良い。……いや、“発動体作成(クリエイト・デバイス)”で、もっと良いもん作って持ってこい」
 その言葉に、リナはふと笑う。そして預かった腕輪を腕に嵌め、じっくりと腕輪を見る。
「……これ、発動体でなければ四百ガメル。発動体ってことを含めて、やっと四千ガメル程度のものね」
「いきなり値踏みするか!?」
 叫ぶヒースに、リナはにっこり笑って言う。
「十倍にして返すわよ。四万ガメル相当のもの、期待してて」
 ヒースは、始めて見た皮肉っぽくないリナの普通の笑顔に、驚いて口をパクパクさせた。

「ゼロスさん。ちょっと聞いて良い?」
 ゼロスは、脇でリナとヒースが会話をしているのを最初の刺々しい会話の分だけ心地よく聞いていたので、突然かけられたエキューの声にちょっと驚いた。
「はい、なんでしょう?」
 けれど、いつもの笑顔で答える。
 それにエキューは淡々とゼロスに脇に立って聞く。
「ゼロスさんって、何者?」
「……謎の神官(プリースト)です」
 あまりにあっさりと聞かれたことに、ゼロスもさすがに引きつる。
「うん。獣神官ってことは聞いた。けど、人間じゃないでしょ。かと言ってアンデッドじゃないし、デーモンとも違う。僕から見ると、巨大な負の精神精霊の塊にも見えるし、もっと歪んでいる混沌に近いものにも見える。邪神を“精霊力感知(センス・オーラ)”するとこんな感じかとも思う。……ということで、ゼロスさん、何者なの?」
 その言葉に、ゼロスは薄目を開けて、エキューを見る。
「……凄いですね、“精霊力感知(センス・オーラ)”とはそこまで判るものなのですか?」
 それにエキューは、気配が危ないことに気付いていながらも、淡々と無視する。
 僕ってこんなに無謀だったかな?って思いつつ、けれど、自分に何かあったら必ず守ってくれる仲間がいるという確信が自分を変えたことを知っていた。
「ううん。これだけ近づかないとね。“精霊力感知(センス・オーラ)”って、意識で嗅ぐ匂いに近い。でも、ゼロスさん並みに変だと、そこそこ離れていても異質なものがいるって判る」
 気配を探ることに近いのかもしれない。五感以上の六感で感じるもの。
「僕は魔族です。……そうですね。異界のもっと偉い魔族によって創られた存在ですが、僕も創ることが出来ますから、あなたがたで言う神に近いものかもしれません。同族しか創れませんが」
「ふーん、納得。……魔族って、リナさん達の味方? 敵?」
「敵ですね。生きとし生けるものの天敵と、いつも言われてます」
 あっさりと答えるゼロスに、エキューは面白そうに笑う。
「敵なら何でリナさん達と一緒にいるの?」
「別の創造主に頼まれたからですよ。あなた方に会わせろと」
「え? 僕たちと?」
「何で?」
「興味深い話をしてますな」
 顔を上げると、ノリスとバスも寄ってきていた。それにゼロスもたじろぎそうになるが堪える。
「創造主って、どんな人?」
「人じゃないだろう。神以上の存在だよ」
「始原の巨人……のことではなさそうですの」
 そして視線で回答を求める三人だったが、ゼロスはにっこり笑って、
「それは秘密です」
 と答える。ブーイングをするノリスに、ニコニコ笑顔のまま、しかし落胆しているバス。そしてエキューは、
「……まあ、神様の一種と思っとく」
 とあっさりスルーする。
「なんで会わせたかったか?という質問も答えられない?」
「ええ」
 あっさり頷くゼロス。
「なら、ゼロスさんはどう思ってるの?」
 エキューの度重なる質問に、ゼロスもちょっと苛立ってきた。
「エキューさんは、どう思ってるんですか?」
 意地悪な質問返しに、エキューは頷く。
「僕は、リナさん達の弱体化を狙ってだと思う」
「え?」
 その反応にゼロスの方が驚いてしまう。その声を、説明を求められているものと思ったエキューは更に言葉を続ける。
「僕が最初にびっくりしたのは、リナさん達の精霊魔法の中身。あとでゼルガディスさんとアメリアさんに聞いたけど、呪文の内容が「全ての力の源」と「求めている精霊の種類」両方に訴えているものだった。僕らで言えば、古代語魔法と精霊魔法、両方の力を使っているのに等しい。それで、近くにその精霊がいなくても、力を借りれるようになっていた。精神の精霊は誰でも持ってるから関係ないけどね。かなり無理矢理な力だよ。マウナさんもこの違和感には気付いていたみたい」
「……そうか。あの時感じた違和感ってそうだったのね」
「そうですね。まずその場にその精霊が働いてなければいけない、というこっちの魔法は、すごい制約きついです」
 マウナとアメリアも話に加わってきたのに、ゼロスはちょっと驚く。
「次。リナさんが古代語魔法を覚えたけど、僕が言うのもなんだけど、古代語魔法はかなり面倒なもんだよ。身振り手振りが必ず必要。発動体を持っていないとダメ。身体の動きを妨げるものは禁止。唱えている間は動けない。……確かに無敵に近い力を示すものが多いけど、リナさんだったら、元の世界の魔法の方が強いんじゃないかな? リナさん達、詠唱しながら全力疾走してた。こっちの世界の制約の多いのに切り替える必要ないでしょ」
「……確かにね」
「言われてみればそうだな」
 リナとゼルガディスの声に、ゼロスは慌てて回りを見る。と、すでに全員がゼロスとエキューを囲んで座っていた。
「だから、僕は、リナさん達の弱体化が目的だと思う。で、ゼロスさんが基本的にリナさん達の敵だっていうのなら、ほぼ正解かな? 目新しい魔法で、こっちの方が便利そうに見せて、実は不便って。どう?」
 エキューの言葉に合わせて、全員がゼロスをじっと見る。それにゼロスは冷や汗を流しながら逃げ出したくなる。その気配を感じて、ヒースはリナに言葉だけ向ける。
「クソ女、今だけその魔術師の杖(メイジスタッフ)貸してくれ」
「あげるわよ」
 リナがヒースに杖を投げ渡す。そして、その会話に反応してアメリアも、
「イリーナさん、準備お願いします」
「はい」
 二人がメガホンを構える。そしてゼルガディスも、
「ガウリイ、バス、武器を貸せ。“魔皇霊斬(アストラル・ヴァイン)”をかける」
「おう!」
「仕方ないですな」
 ガウリイとバスが武器をゼルガディスに渡す。そしてエキューは淡々と言う。
「精神生命体、だったよね? “闇の精霊(シェイド)”使える人は、全員よろしく」
 頷く精霊使い(シャーマン)達。そして再びヒースが言う。
「おやっさん。“戦の歌(バトルソング)”を頼む」
「わかった」
 頷くガルガド。そして……
「で、ゼロス。あんたはどう思ってるわけ?」
 リナがにっこり笑いながら、ゼロスに訊ねる。周りはすでに戦闘準備を完了させた面々。
「……って、僕が滅びたら、皆さん帰れなくなりますよ!?」
 慌ててゼロスが叫ぶ。それにヒースは微妙に悔しそうにリナに言う。
「安心しろ、クソ女。お前なら、あと十年あれば“移送の扉(ディメンジョン・ゲート)”が使えるようになる」
「あんたに真面目にそう言ってもらえると安心するわ。ということで、ゴメン、アメリア。帰るの十年後になるかもしれないけど……」
「諦めました。お爺様の容態が心配ですが、言えば判ってもらえるはずです」
「ゴメンね。……ということで、こっちはオールオッケー。で? どうなのゼロス?」
 改めてゼロスに脅しをかけるリナ。
 冷や汗をたらたら流しながらゼロスは周りを見渡し……
「……それは……」
 そして、にっこり笑って消えそうになる。
「秘密です」
「ヒース! “麻痺(パラライズ)”を!」
「わかってる! 『万物の根源たる力(マナ)よ! 見えざる力となりて束縛せよ!』」
 リナの声に合わせて、ヒースが呪文を唱える。
 ゼロスはあっさり抵抗しようとするが……
「……え?」
 動けなくなる身体に、一番驚愕したのはゼロスだった。
 そして、指示をしたものの、本当にかかると思ってなかったリナも、驚愕に顎を落としそうになっていた。
「……あんた、“麻痺(パラライズ)”だけで食っていけるわ……」
 それに、集中したまま、胸をえっへんと反らすヒース。
「……まさか、本当にゼロスさんにかかるとは……」
「恐るべき威力だな」
 アメリアとゼルガディスの賞賛の声に、ヒースは更に偉そうに胸を反らす。
 そして、ガウリイとへっぽこーずの残りの面子が、上げた攻撃の腕をどうしようか困った上で、苦笑して腕を下ろす。イリーナが言う。
「集中が途切れたら終わりです。兄さんが気を散らす前に」
「そうね。さーて、ゼロス。声は出せるわね。きりきり答えてもらおうじゃない」
 ゼロスは呆然としていた。

「僕は何にも考えてなかったですよ。第一、不敬にあたります」
「…………」
 それにリナは周りに目配せをする。途端に周りに湧き出る闇の精霊(シェイド)の数々。それに慌てるゼロス。十個ぐらいはどうってことないが、百個単位で出てくる物にはさすがに存在が危うい。そしてこのメンバーで一番の稼ぎ頭となっていたゼルガディスは常に魔晶石を大量に備蓄していた。今も、大粒の物を、精霊使い達に渡している。
「で、でも! リナさん達の弱体化なんて考えてません! そんなことする意味がないですよ!」
 それに、リナとゼルガディスは顔を見合わせ、そういえばそうか、と頷く。
「……まあ、元の世界の魔法に切り替えれば良いだけの話だもんね」
「“重破斬(ギガ・スレイブ)”という、世界最強の魔法を知ってる以上、リナの強さに影響はない……確かに、一理あるな」
 でしょ?と苦笑するゼロスに、リナはにやりと笑う。
「じゃあ、質問を変えようかしら。あんたは何も考えてなかった。あんたの言う所の創造主の考えを読むのは不敬。……んじゃ、あんたの行動に了承を出した獣王ゼラス・メタリオムは、どう考えていたと思ってるの?」
 その質問に、ゼロスの笑顔が引きつる。
「……そ、それは……」
「秘密、なんて言わないわよね?」
 リナの脅しに合わせて、アメリアとイリーナが背後からメガホンを上げる。
「獣王(ゼラス)様の考えを読むのも、不敬です!」
「でも、直接の部下のあんたが読まないっていうのも失礼よね。第一、獣王ゼラス・メタリオムには、あんたしか直接の部下いないんだから。不在にするっていう時、何があったの?」
 笑顔で問い詰めるリナに、ゼロスは抵抗することを諦める。
「……断るのも面倒くさいから、さっさと終わらせて戻ってこい、と。ついでに何か面白いことがあれば報告しろ、と。……リナさん達は基本的に僕達の眼中にあんまりないんです! ちょっと大きい害虫がうろついているけれど下手に手を出すとかぶれるから放っておけ、って言われてるぐらいなんですから!」
「あたしを害虫呼ばわりするか! このゴキブリ魔族!!」
「……害虫ですか……」
「手を出すとかぶれるか……言いえて妙だな」
 あまりの言いようにゼロスをどつきまくるリナに、愕然とするアメリア、そして納得してしまうゼルガディス。
「なら、オレ達をこっちの世界に落として、そのまんま帰っちまえば良かったんじゃないか?」
 ガウリイの言葉に、それもそうだ、とリナとゼルガディスがゼロスを見る。
「出来ればそうしたかったです! でも、この間の《闇を撒くもの(ダークスター)》さんの件以来、異界に迷惑をかけるのはいけないって通達が来たんですよ!」
「通達……って、どなたからですか?」
 魔族に通達、などと言う、どこかミスマッチな言葉に、アメリアが質問する。
「……あの御方、の辺りからです……。僕も中間管理職なんですから、詳しくは判らないんですって!!」
 それに、リナは首を傾げる。
「……おかしくない? 異界に迷惑をかけるのはいけない。でも、うちらはここに来てる。それも多分こっちに近い創造主の意思で。で、連れて帰ることは確実にしなくちゃいけない。……何が目的だったんだろう?」
 首を傾げるリナ、アメリア、ゼルガディス。それにマウナが恐る恐る挙手をする。
「あのー……ちょっと思ったんだけど、言って良い?」
 それにリナは視線で何?と聞く。
「……ひょっとするとだけど……ただ面白そうだったから……っていうのは?」
 マウナの言葉に、一瞬、場が凍る。
 リナとゼルガディスとアメリアが引きつった笑いをしそうになるが、へっぽこーずの方では同意の声が上がる。
「そうかも。ボク楽しかったし!」
「……そうですね。皆さんと一緒で楽しかったです」
「そうだの」
「否定はしない。そこまで簡潔に考えて良いものかは疑問だけど」
「芸術神(ヴェーナー)と似通った神なのかもしれませんな」
「おう! そうかもな! まあ、良いじゃないか、リナ。それで強くなれたんだから」
 最後にガウリイが笑って言った内容に、リナも、一瞬顔を綻ばせてしまう。
「……まあ、ね。確かに、強さが上がったし、悪くなかったわね」
「……何か企みがあったとしても、その時はその時か」
「ですね。今は、とりあえず楽しかったですし、気にしないでおきましょう」
 そして、ゼロスの方を見る。まだ“麻痺(パラライズ)”にかかって動けない状態にある魔族に、ふとイリーナがあることに気付く。
「兄さん」
 脇では、集中をしている……俗に言う「睨めっこ」状態のヒース。
 それを思わずしみじみと見て……爆笑するリナ。
「……あ、あんた、やっぱ、間抜け!!」
「……リナさん、笑いすぎです……」
「……アメリア。気の毒だから見ないでやれ」
 リナに関してはすでに止めることを諦めたゼルガディス。
 そして、リナの笑い声に、ヒースが切れる。
「お前なーー!! 人をバカにするのもいい加減にしろ!!」
「だ、だって、間抜けなんだもん!!」
 集中が途切れ、魔法の効力が切れ、身体が自由になるゼロス。疲れた溜息をつく。
「……やれやれ」
「お前さん。ワザとかかった……ってことはないか。すごいな。この世界の魔法ってもんも」
 ガウリイの声に、ゼロスは苦笑する。
「僕もここまでとは思いませんでしたよ。びっくりです」
 そして、笑い転げているリナと、怒りまくって蹴り飛ばそうとしてイリーナに取り押さえられているヒースを見る。
「……良いのか? オレ達が強くなって」
 ガウリイの真面目な声に、ゼロスは視線を向けることなくにっこりと笑う。
「良いんじゃないですか? 強くなると言ってもたかがしれてます。せいぜい楽しませて下さい」
 ゼロスの視線はリナに向いたまま。それがこの魔族の意識の向きようを示している。
 リナの保護者は大きく溜息をついた。まだまだやっかい事が続きそうだった。

「じゃあ……」
 いいかげん、かなりの時間が過ぎていた。それにリナは気付き立ち上がる。
「今度こそ、本当に、またね」
「ですね。みなさんお元気で」
「またな」
「……じゃあな」
 それに、イリーナたちも頷く。
「お元気で」
「あんまり無茶するなよ、お前ら。……クソ女は、もう来るな」
 それに殴りかかろうとして、ガウリイとアメリアに取り押さえられるリナ。
「兄さん! なんでそんな素直じゃないことを言うんですか!」
 そして説教を食らうヒース。しかしヒースは耳を掻いて聞かないふり。その耳をマウナが掴み上げる。
「ヒース。これが最後かもしれないんだから!」
「……それはないだろ。……リナ、なら、必ず、また来る」
 小声でリナには届かないように言われたセリフ。しかしリナの高性能の耳にはしっかり届いてしまった。リナは、小さく笑う。
「そう思ってるなら、はっきりと言いなさい!」
 そしてマウナにどつかれてヒースはよろよろとリナたちの前に行かされる。
「……あー……待ってない。待ってないから、いつでも来い」
 その素直じゃない言葉に、リナは苦笑する。
「いつになるかわかんないから、それまで死ぬんじゃないわよ」
 それに、ヒースの後ろの面々の方が、うんうん、確かに、ヒースが一番薄いもんね、と頷く。
「……それって、俺様が一番死にそう宣告ですか?」
「うん」
 あっさり頷くリナに、ヒースが落ち込む。落ち込んだヒースに構わずリナは、ヒースの肩に止まったままのフレディJr.の頭を撫でる。
「元気でね。こんな飼い主に付き合って死んじゃダメよ」
 それに軽く喉だけで鳴くJr.。そしてリナはヒースの背中をどついてイリーナ達の方に戻す。
 それを受け止めて笑って大きく手をふるイリーナ。そしてマウナも軽く手を振る。
「元気でね」
 そしてノリスも手を振る。
「またねー」
 ガルガドとエキューとバスは声だけで別れを告げる。
「元気での」
「また、だね」
「ご無事を祈っております」
 それに、リナたちは全員笑顔でうなずく。そして、ゼロスの杖の一振りで、リナ達全員の姿が消えた。

「……帰っちゃったねー」
 ノリスがちょっと寂しそうに呟く。
 それに寂しさがもう一度出たのか、ガルガドが涙を堪える。
「あー……おやっさん、泣くな。腕の良い盗賊(シーフ)だったらノリスがいるだろ」
「腕だけで言うな! あんなスピリット溢れる……あれだけの奴は……もう……」
 そして、泣きそうになるガルガド。しかし、鼻を一つ啜って、ガルガドは涙を振り切る。そしてノリスの丸い耳を掴みあげて、ファンの街に向かって歩き出す。
「来い! クソガキ! 鍛え直してやる!!」
「えーーっ!? なんで今更!?」
「今更も何もあるか! お前に足らんのは魂だ! 心だ! 鍛え直してやる!」
 ノリスが悲鳴を上げるが、それに構わずガルガドはノリスを引っ張って街に向かう。
「……おやっさん、復活」
 その後ろ姿に、ヒースが呟く。
「まあ、良い歌の題材になりそうな方ばかりでしたが……ワタクシには皆さんがいますからな」
「面白かった。久々にまともに話出来る人だったしね。あの尖り耳加減はちょっと勿体無かったけど」
 ちょっと惜しそうに、けれど笑顔で言う、バスとエキュー。
「また手合わせ出来ると良いんですけど」
「また来るわよ。きっと」
 イリーナとマウナも笑って言う。
「……来るだろうな。十年先か、もうちょっと前か……」
 あれだけやっかいそうな魔族と年中戦っているなら、さぞかし上達も早かろう。ヒースはリナ達に軽く同情をするが……
「それまで、兄さんは死なないように、ですね」
 にっこり笑ってイリーナが止めを刺す。また落ち込むヒース。今度は座り込んでしまう。
 マウナが苦笑しながら頷く。
「あたしも、なんとか生き延びないと」
「大丈夫! マウナさんは僕が守ります!」
 尖り耳への下心が洩れ見えるエキューの言葉に、マウナは遠い眼をして言う。
「クラウスさんの方が良いな……」
「くっ、やっぱり最後の敵はあいつか……っ」
 そんな他愛ない会話に、皆が笑う。ヒースも皮肉っぽい笑みながら浮かべ、立ち上がる。大きく欠伸をして背筋を伸ばす。
「さーて……久々に小鳩亭に行くか。腹減った」
 ヒースは自分の肩を軽く揉みかけ……手に持っていた魔術師の杖(メイジスタッフ)を思い出し、杖で肩を押しほぐす。
「ヒース、斧槍(ハルバード)やめて杖に戻したら?」
 それにエキューが言う。しかしヒースはあっさり答える。
「いや。ハルバードは俺様の銀アクセだから」
「だったら、いっそのことハルバードを発動体にしちゃうとか」
「めんどい」
 何が面倒なのか、ちょっと謎に思うエキュー。まだ“発動体作成(クリエイト・デバイス)”が使えないからハーフェン導師に頼むのが面倒なのか、それとも重いハルバードを構えるのが面倒なのか。
「良いんだ。俺様はこれで。さ、今日は飲むぞーっ、厄介な奴が帰ったからな!」
「リナさんが帰った途端にこれか……」
 思わずぼやく面々。しかし、それでもここ三ヶ月のヒースの苦労を労わることに否はなかった。


「ふー、帰ってきたわよーー!!」
 リナは大声で叫んだ。
 移動した先も、やはり眼下に街が望める小高い丘の上。しかし、眼下にあるのは見慣れたセイルーンの六芒星の街並みだった。
「……やれやれ」
 ゼルガディスがやっと落ち着いたとばかりに肩を竦める。
「わぁーー、セイルーンです! 帰って来れました!!」
 アメリアが嬉しそうに街に向かいそうになっている。
「とりあえず。ただいま、だな」
 ガウリイが周りの光景を安心したように見る。
 そして、ゼロスは……
「お疲れ様でした。いやー、助かりました」
 にこにこと、ツアーガイドのように、声をかけていた。
 あまりの白々しさに、誰も見向きしない。
 リナ達全員がそれぞれ思い思いの方向を見て、そして街に向かおうとしている。
 しかし、その反応も、背後からかけられたゼロスの次の言葉までだった。
「また機会がありましたら……って、また一件お願いが入ってるんですけど、ちょっと休んだら行ってみます? 今度は錬金術の発展している世界で、アメストリス、という世界なんですけど……」
「「「「誰が行くかーーっ!!」」」」
 全員の絶叫が、セイルーンを見下ろす丘の上に響き渡った――

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17238Re:スレイヤーズvsヘッポコーズまさとも URL2005/9/13 10:15:47
記事番号17213へのコメント

 こんにちは。
「へっぽこ」は私も大好きな作品なので「スレイヤーズ」メンバーとの競演楽しく拝見させていただきました。素晴らしかったです!
ヒースのリナに対する態度といい、ガルガドのゼルガディスに対する態度といいリプレイそのものなのですごく良かったです。
でも一番つぼを着いていたのはガウリイがリジャール陛下とローンダミスと手合わせしていた所でしょう。次はぜひリウイと手合わせはいかがでしょうか?そしてリナちゃんはぜひラヴェルナさんと魔法対決をお願いします。
ローンダミスとラヴェルナさんはリプレイ10巻でファンになってしまったので
次このお話の続きをかかれる事があればこの二人の出番もあれば…と思います。(そういったらデケーナとかチビーナとかもいろいろ出てきたら楽しいだろうなぁ・・・)
 今度は「へっぽこ」達がリナちゃん達の世界に来るお話も出来たらお願いします。
いろいろ長々と書いてしまいましたが、次ももし書く予定がありましたら期待して待っています。では・・・。

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17239ありがとうございます織原 瑞穂 E-mail 2005/9/13 22:51:50
記事番号17238へのコメント

 こんばんは、始めまして。
 読んで頂きありがとうございました(^^)


 へっぽこーずに関しては、なるべくリプレイに近いように書きたいと頑張ったので、そう言って頂けると嬉しいです。
 ……ただ、ユーモアセンスがあんまりないので、ヒースの法螺が一切書けなかったのがちょっと残念。
(「ラ」の付く邪神系の法螺とか書けたらなーと思っていたんですが、上手く思いつかなかったです。呪われた島(ロードス島)に関しても、法螺のつもりが真実だったら意味ないし……こう考えると、ヒースの法螺って結構難しいです。)


 アレクラストでのスレイヤーズの行動は、彼らのレベルに合わせて考えてみました。
 とりあえず、リナとガウリイは、超英雄ポイント持ちの魔術・剣術Lv10相当。
 ゼルガディスもやはり超英雄ポイント持ちの魔術・剣術・盗賊Lv各8相当。
(これは、経験値を分散させたらこれぐらいかと)
 そしてアメリアは、超英雄ポイントなしの魔術・格闘Lv各8相当。
(超英雄ポイントがないのは、レゾ=シャブラニグドゥを倒してないから)

 ……と思うと、リナはLv10のカーウェス最高導師、ガウリイもせめてリジャール国王陛下が出てこないと、退屈かと(笑)
 ゼルガディスはLvがちょい低めなので、とりあえずオーファン盗賊ギルドの穴熊頭領後継者候補ぐらいが妥当かと。
 アメリアが一番扱い悪いですが、マウナから精霊魔術教わって、ゼルガディスの手伝いをして、イリーナの手伝いをしていたら、これぐらいが無難かな〜と(汗笑)

 で。すいません、水野良先生のリウイは読んでないんです(汗)
 だから、ラヴェルナさんとローンダミスがこの扱い。オフィシャル読んでいたら、もう少ししっかり出せたかと思ってます。ちょっと反省してます。
 あと、情報を見る限り、リウイPTはロードス島に行ってパーン、ディードリットと出会ってるらしいので、もうアレクラストのこの時代で引っ掻き回すのも無理かな〜と思ってます。アトン騒動の後で、彼らがアレクラストに無事戻ってくるなら話は別だと思いますが……。
 ……まあ、リウイとヒース、あとアイラで、オーファン賢者の学院のドタバタコメディを書きたいという誘惑もなきにしもあらずですが……全員1Lv未満の魔術師見習いドタバタコメディ……むっちゃ難しそうです(汗)

 リナとラヴェルナさんは、今後戦う機会があったら、1ラウンドで戦闘が終わると思います。
 Lv10のリナの圧倒的勝利。
 もしもラヴェルナさんが、賢者の学院で禁呪扱いになった「異界の魔術」を体得したとしても、Lv10とLv9の差は大きいと思いますし……あと、へっぽこで書かれたドジっ子属性……(これに関しては、ヒースPLも責を負うべきだと思います……秋田みやびGM一人の責任とするのは、あまりにもきついですよ……/涙)知力が人間の限界値のラヴェルナさんでも、リアルラックで、まず勝てないと思います。

 というか、ガウリイvsローンダミスも、ローンダミスの1ゾロ乱舞で負けた部分があるかと……(これも、イリーナPLがGMと一緒に責を負うべきですね……/涙)


 ということを長く書きましたが、多分、続きは書かないと思います(^^;)
 書くとしたら、スレイヤーズの関係しない、純粋なヒス×イリを、対応して下さるサイトさんにお渡しする形になると思います。
 ヤムヤル(スゲーナ)も、チビ・プチ・ロリーナも、そっちだったら書けるかもしれませんが……えーと……総登場人物4人+1体+7人、計12人の多人数vs物は、もう書けません(汗)
 5年後ぐらいに、ひょこっと発動体を返しに来たリナが、ヒースとイリーナのドタバタ新婚生活を見て大爆笑するというのは、容易く想像付くのですが(笑)
(ついでに、付与魔術系の魔術師になっていたリナが四万ガメル相当の結婚祝いをあっさり作り出してプレゼント、というかヒースに対しては嫌がらせをするというのも/笑)
 続きを期待していただいているのに、すいません(^^;)
 色々な展開期待ありがとうございます。楽しく考えさせて頂きました。
 また、もしも、ですが、何か面白い展開が想像出来たら、書くかもしれませんので、その時はよろしくお願いします。
 ではでは――

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17243はじめまして羅城 朱琉 2005/9/14 08:29:24
記事番号17213へのコメント

 はじめまして、こんにちは。羅城 朱琉と言います。読み方は「らじょう あける」です。

 へっぽこの方は、つい先日ようやくリプレイを集め終えたばかりですが、とても楽しく読ませていただきました。いつか、リナたちが再び彼らに会えるといいな、と思ってしまいます。
 ところで、最後の一文で示唆されているのって、『鋼の錬金術師』の世界ですよね?続きを書かれるんでしたら、ぜひとも読んでみたいです。

 では、大変短いですが、この辺で。

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17279遅くなって、すいません(^^;)織原 瑞穂 E-mail 2005/9/27 23:11:16
記事番号17243へのコメント

 こんばんは、羅城さん。読んで頂きありがとうございました。
 レス遅くなってすいませんでした、もう少しでツリーが落ちるので、慌てて返信(汗)

 えーと……多分、続きは書かないです〜(汗)
 ラストの「アメストリス」。はい、ご明察の通り、ハガレンです(笑)映画を見た直後だったのでつい勢いで書きましたが……私、ハガレン関係はちょっと苦手で書けないんです。
 あそこはちょっと現実と近すぎるのと、エヴァ状態(既存情報が大量にあり、それなのに付随するはずの情報が欠落しずぎ)、錬金術理論が完全解明されていないので書きづらくて。
 あと、この文の続きという観点で言うと、最大の難点が、スレイヤーズを向こうの世界に落とせる時間枠が、漫画・アニメ共に、まずないんです(^^;)

 えっと、書く以上は、エルリック兄弟と、マスタング大佐を筆頭に軍部連中をちゃんと出したいです(笑)
 更に言えば、ゼルガディスのためにDr.マルコーも出してあげたい。
 そーすると……それだけ本筋に近い時間枠になると、ホムンクルス連中が出てきておかしくない、と(滝汗)
 つーか……言っちゃなんですが、ホムンクルス達を除いて、ハガレン世界の誰も、スレイヤーズの敵になりえないということが、最大の難点。
 力ある者の所には、同等に近い力ある者が集まるのが摂理だと思っているので(^^;)
 んで、スレイヤーズとホムンクルス、一緒に出したら、どちらかが倒れるまで戦っちゃいます。そーすると、歴史、変わっちゃいます。……却下。

 んで、そーじゃなくて、普通に、スレイヤーズがハガレン世界に紛れ込んで傍若無人に走り回る……と、すると、どう考えても、軍部から見た謎解き&事態の収拾物になって……えーと……ハガレン世界の誰もスレイヤーズを止めることが出来ない話なんて、書いてても楽しくないです(涙)
(ホークアイさんの銃も平気で跳ね返す超合金娘&岩男がいますし、指パチを無効化出来るアクア・クリエイトが使える魔道士もいるし、手パンで作った物を一刀両断出来る凄腕剣士もいる……無敵ですね……/滝涙)

 ということで、やっぱり続きは書けないなーと。
 リナ達も「誰が行くか!」と叫んでますし(笑)
 期待して頂いていたのに、申し訳ないです(^^;)
 では――

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17284Re:スレイヤーズvsヘッポコーズ風谷 鈴(元修羅) 2005/9/28 18:58:34
記事番号17213へのコメント

小説1でお世話になってます。元修羅の風谷 鈴(ふうや りん)ともーしますぅ。見せていただきました!「スレイヤーズvsヘッポコーズ」見せていただきました!私はバブリーズ・へっぽこ・ぺらぺら大体見てるんですけど、へっぽこが一番面白いです!ほんとに面白かったです!今度はぺらぺらも見たいです!