◆−自殺免許−ハイドラント (2005/9/23 17:26:53) No.17254
17254 | 自殺免許 | ハイドラント | 2005/9/23 17:26:53 |
マエガキ 「自殺」なんてついてますけど、暗いお話ではありません。 テンポが速くて軽く読めるお話です(多分)。 ヘンなお話なので、ところどころツッコミを入れながら読むことをおすすめ致します。 あっ、拙いところは見なかったことにしてくださいね(笑)。 でも全部拙かったら……どうしましょう? ――自殺免許―― 会社をリストラされた。 正確にはリストラされそうな気がしたので、こっちから辞めてやったのだが、まあ大差ないと思う。 妻はそんな私を口汚く罵り、息子を連れて家を出ていった。 翌日には何もなかったような顔をして戻ってきたが。 再就職先を探したが、これがなかなか見つからない。 途方にくれた私は、とりあえず一家心中でもしてみることにした。 一家心中といっても、妻と息子は私の自作したロボットなので、電源を切るだけだ。 無論、心中のことを伝え、合意の上で、おこなった。 一応電池は抜いたが、別に破壊する必要はないと思われたので、そのまま物置に保存しておくことにした。 後は私だけだ。 最初は、一家心中というからにはやはり同じ場所で同じ死に方をするのが最適だと思ったが、よくよく考えてみると、私には電源スイッチなどついていないため、同じ方法で死ぬことはできない。 同じ場所で死ぬことはできなくもないが、同じ方法で死ねない以上、それは無意味である。 つまり好きな場所で好きなように死ねば良いのだ。 近場に自殺の名所があるのでそこにいくことにした。 断崖絶壁である。 一応、観光客などが僅かながらもいたので、人目につかない場所を探した。 15分ほどで心の準備を整えた私は、勇気を振り絞り、崖に向かって跳躍した……つもりだった。 だがその瞬間、頭に激痛が走った。 強烈な電流を流されたような痛み。 当然、私の跳躍は阻止された。 痛みはなおも続き、私は頭を抱えてうずくまる。 そのまま気を失ってしまった。 意識が戻ったのは夕方だった。 飛び降りようとして気を失ったのは昼下がりのことだったから、ずいぶんと長く気を失っていたらしい。 けれども、からだには特に異常はなさそうだった。 痛みももう残っていない。 どうやら飛び降りるのは向いていないらしい。 家に帰った私は、今度は庭の木で首を吊ろうと思った。 しかしまた同じ種類の激痛が襲ってきて、気を失ってしまった。 * なぜ自殺しようとすると激痛に襲われるのか。 その理由を私は調べることにした。 誰かに相談するという手もあったが、自分が自殺を企んでいることを他人に知らせるのはそれだけで嫌だったし、その上、もしも死ぬなだの何だのと説得されたりしたらさらに嫌なので、自力で調べることにする。 さいわいパソコンは持っていて、インターネットに接続できる環境だった。 理由はすぐに分かった。 世間では知っていて当然のことだったようだ。 私たちの頭には、自殺防止装置という装置が取り付けられているのだという。 それは文字通り、自殺を防止する装置で、いつどこで誰がなぜどのようにして取り付けたのかは、誰も知らないようだが、この装置が取り付けられている限り、人は自殺することができないらしい。 自殺しようとすると、装置がどのようにしてそれを感知するのかは分からないが(脳波か何かか?)、頭に電流が流れるのだという(実際そういう痛みを感じた)。 時限装置などを使おうと思っても無駄で、それを仕掛けようとした時に電流が流れるらしく、また他人に自分を殺すよう依頼しようとした時も同様らしい(試しにやってみたら本当だった)。 装置は手術をおこなえば簡単に取り外せるらしいが、その手術を受けるためにはある条件を満たす必要があるのだという。 その条件というのは、自殺するための免許、自殺免許を取得すること、であるらしい。 自殺免許は単に筆記試験に合格すれば手に入るらしいのだが、その試験は相当な難関らしく、これまでに年1回合計で20回おこなわれているらしいが、その中で合格者はまだ5人しか出ていないのだという。 といっても別に、受験者数が極端に少なかったわけではなく、毎年最低でも数百名が受験しているようだ。 試験などとは全く無縁の人生を送ってきた私でも、難度の非常識さは実感できた。 それでもこの試験を突破しない限り自殺はできない。 私は早速、オンラインショッピングで、試験の過去問を購入した。 届いた過去問に挑戦してみたのだが、全く歯が立たない。 基本的には国語の現代文のような感じなのだが、文章が悪意を感じるほど難解な上、やたらと長く、いきなり数式だの化学式だの、どこの国のものかさえ分からない言葉だのが出てくることがあって、まったく読めないし、その上、設問になるとさらにわけが分からない。 下手くそな猫の絵が描かれていて、この絵がここに描かれている理由を答えよ、などという問題まで出てくるし、もっとわけの分からない問題もある。 解答や解説も一応、用意されてはいたのだが、それを読んでも、納得することができるどころか解説の文章自体、微塵も理解できなかった。 そもそもこれは本当に私のような真っ当な人間に解ける問題なのだろうか。 何か宇宙人的な思考回路のようなものが必要なのではないだろうか。 そんな妄想じみたことも考えつつ、私は試験勉強を始めた。 だが成果は全く出ない。 そもそも何を勉強すれば良いのかさえ、あまりよく分からなかった。 難関国立大学として有名なT大の文系学部に自殺免許取得科(略して自免科)と呼ばれる学科が最近できたらしい。 なぜT大なのかはよく分からないのだが(国立だからか?)、自殺免許試験の問題が全く理解できない人でも、ここへいけば理解できるようになるのだという。 そういうわけで私はT大を受験することにした。 やはり独学では無理だと分かったのだ。 自殺を企んでいることが他人に分かってしまうが、この際仕方がない。 T大入試は確かに難関ではあるものの、一応、普通の問題しか出題されない。 自殺免許試験に比べれば何ということもないだろう。 1年目は惜しくも不合格だったが、2年目には合格できた。 自免科の学生は10代や20代よりも、むしろ30代以上が多かった。 私と同世代くらいの学生もいた。 皆、勉強熱心で勉強にしか興味がないように見えた。 大学の授業は難しかった。 しかし、どうにか理解することはできた。 これなら何とかなるかも知れないと思った。 * さて現在、私は自免科の4回生である。 卒業年ではあるが、実はここでは基礎的なことを教えるだけで、ここを卒業しただけでは、自殺免許取得など到底無理であるらしい。 これ以上のことは結局独学でどうにかするしかないのだという(自殺免許試験の家庭教師など無論いない)。 しかし諦めるつもりなど毛頭ない。 大学での勉強によって私の実力は飛躍的に上昇した。 今後どのような勉強をすれば良いのかも、大体見当がつく。 まだまだ先は長そうだが、決して挫けはしない。 私は絶対に自殺免許を取得するのだ。 ところで昨年末より、経済的な理由から、ロボット工場でアルバイトをしている。 アルバイトといっても、私には能力があるらしく、下手な正社員とより収入はずっと多い。 そのことで嫉妬はされているものの、直接いやがらせなどを受けるわけではないし、工場長にも気に入られているようなので、卒業後はもしかしたらここに就職することになるかも知れない。 無論、自免科のことは秘密である。 仕事と勉強の両立は大変だが、生活保護制度がなくなってしまった現在、これは仕方のないことだ。 アトガキ 何となく自転車を漕ぎながら自殺を減らす方法について考えていたら、「自殺裁判」なんていうアイデアがでてきました。 でも、裁判のことはあんまりよく分からないので、じゃあ試験か何かにしようと思ったら、こんなお話ができました。 基本的には去年の終わりだか今年の初めだかに投稿した「「のあ」の方舟」とほとんどおんなじような造りになっています。 両方読まれた方にはバレバレだと思ったので書きました。 面白いかどうか分かりませんが、もっとこんな感じの話書いてみたいと思います。 今後はさすがにちょっと変えていかないといけないでしょうけれど。 それでは、読んでくださった方どうもありがとうございます。 作中におかしな点などがございましたら、遠慮なくご指摘ください。 |