◆−〜a narcissus〜−青月かなた (2006/7/31 22:20:19) No.17818
 ┗はじめまして…ですよね?−びぎなーいっく。 (2006/8/10 09:35:55) No.17821
  ┗Re:レス感謝です。−青月かなた (2006/8/13 12:18:31) No.17823


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17818〜a narcissus〜青月かなた 2006/7/31 22:20:19


 前書き。
 もはやお久しぶりです、よりはじめましての方が正しいのでしょう。
 青月かなたです。
 先日百話物語チャトで足を運び、スレイヤーズモノ久しぶりに書きたいなーとも思ってはいましたが…構想段階。
 とりあえず部活に提出したものを出して見たい♪と投稿してみます。
 テーマは水仙の出てくる話。
 楽しんでいただければ幸いです。

           〜a narcissus〜

 彼女が笑う。屈託のない笑顔で。屈折もない笑顔で。
「ねぇ―――」
 少なくとも僕の目には、そう映る表情。
 彼女が本当に屈託のない人間なのか。本当に屈折していないのか。
本気でそう思っているなら、それは浅ましい信仰だ。
脳の片隅で己の嗤う気配。そんなわけがない、と僕はそれに答える。
 そんな道理も保障もあるわけがなく、それが二十年生きた人間の真実だとは思っていない。
 にも関わらず―――心奪われる。夢を見る。
 彼女のこの笑顔を見ていたいと、想っている。
「あなたは、自虐的すぎる」
 僕がとりとめない思考と想いに囚われる間にも、笑顔のままの彼女は続ける。
「だから」
柔らかな指先が、温かな掌が、僕の手を包み込む。
鼓膜にしみこむ声はソプラノ。高いくせにやけにしなやかな響きに、脳内を侵される。
「もう少し、自惚れても、いいと思うけど?」
 僕は答えない。答えることができなくなった。
 よりにもよって―――貴女がそれを言うのか。
 自惚れても、良いと言うのか。
僕は貴女に、この手に、この声に―――必要とされていると。そう思って良いと。
 貴女はそう思っているのだろうか? その瞳に、僕は映って
いるのだろうか。

 分からない。
 彼女が分からない。
 ……分かりたい。

 今、僕が立っている場所はなにかの分岐なかもしれない。
 今、踏み出したらなにが変わるのだろうか。
 彼女はどうなるだろう。僕はどうなるだろう。
 僕はどうなりたいのだろう。彼女はどうなりたいのだろう。

よく晴れた空の下、無意識の内についたため息は瞬白く染まり儚く消えていく。その白い色とコート越しの冷えた空気に、現在の季節と時刻を実感する。
 人通りの少ない道路にあるバス停のベンチに腰掛ける青年は、いつの間にかずり落ちてしまった眼鏡を直した。
冬。なおかつ早朝。それは一人で人を待つ時間ではない。
青年は心の中でそっと呟き、再びため息をついた。
 彼のため息の原因は寒さだけではない。ここで会う約束をした、ある一人の女性。
もうすぐ、予定のバスが来るのだが、彼女は来ない。
(あっちから言ってきたことなんだけどな)
 場所も時間も彼女の提案だ。ちなみにバスこそ来てはいないが待ち合わせの時間はゆっくり過ぎている。
 ―――自分から誘っておいて守らないとはなんて了見だ。
 もし彼がそう言える人間なら、繰り返すため息の数は減るのだろう。
(間に合わなかったら…どうしよう?)
 携帯電話に表示される時刻を見、時刻表を仰ぎ、思う。
こんな寒い場所で待ちぼうけくらうのは嫌過ぎる。あり得ない話ではないが、あって欲しい話ではない。
 着々と溜まる不安と今更になって迫る睡魔に青年は秀眉を寄せる。
「…いくらなんでも、それは嫌だな」
 ぼそりと呟いた。と、
「篠沢! ゴメン! 間に合った?」
ぶんぶんとオーバーな動作で手を振りつつ彼の名を呼ぶ声が一つ。
「…一応、セーフ」
 篠沢。篠沢深次はその賑々しい声に答えて、微笑した。

 乗客の少ないバスの中、辺りを憚った小声ながら、懸命に謝り続ける女性の声。
「ほんと、ゴメン。…二度寝しちゃて」
「間に合ったから、いいよ」
「…すぐそうやって納得しちゃうよね、いつも」 
「弥澄さんが朝に弱いのは今に始まったことじゃないから」
 慣れたよ、と付け足すと不満げな顔で黙り込まれた。
 弥澄さん、と深次が呼ぶ女のフルネームは有野弥澄。
 篠沢深次との関係は自他共に認める恋人同士。
「嫌味だよね、それ」
 ふぅ、と息をつきながら小さく首を振る。それに合わせて、ゆるやかかつ好き勝手にウェイブした黒髪が揺れた。
「…急いでくれたのは、分かるから」
「え?」
「髪、いつもよりぼさぼさしてるってことは、それだけ急いで来てくれたんだ…と思ったんだ」
「……ぼさぼさって言わないでくれる?」
 手入れ、大変なんだから。
 憮然とした声音で弥澄。
「ん。ごめん」
 いちいち分かりやすい彼女に苦笑を浮かべていた深次が不意に真顔になる。
「…今まで訊いても、教えてくれなかったけど……そろそろ教えてくれない?」
「なんのこと?」
 問いに返ってきたのは問いかけ。
 とぼけるような、はぐらかすようにな問いかけが返ってきた。
 予想通りと言ってしまえば、そう。今までと全く変わらない返答に挫けそうになりつつも、気を取り直し問いを重ねる。
「なにをしに行くの?」
「用事とかやることとかがなきゃ、私と出かけるのなんてゴメンだってこと?」
「……いえ、そんなことは」
 ないけど、という後半の声はやたら不明瞭だ。
「それなら気にしないでいいじゃない。もういっそ寝たら? だいぶかかるだろうから。なんなら膝を貸してあ・げ・るv 私ったら出血大サービスねっ」
 しなをつくり、ふふふと笑う。
「……謹んで遠慮させてもらいます。
 寝顔を他人に見られるのは趣味じゃない」
「そっか。そうだっけ」
 弥澄は唇に笑みを乗せたまま、正面を向く。
 それっきり、会話が途切れる。
 深次は窓へ眼をやり、黙り込む。
(ずるいよな)
 窓に向けた眼は、景色ではなく写り込む横顔を見つめる。胸の内で繰り返す。
(ずるい、よな)
 用事なんてなければ―――なんて。
 惚れた弱み、と呼ぶには些か情けないのかもしれない。
(…最初から、負けっぱなしだったからかな)
 深次は回想する。
 ……始まりは、特に変哲もない出会いだった。
 本当に些細な出来事。茶番めいてすらいる、ありきたりに陳腐な出来事。ただ、彼女は。変わった人物だった。
 穏やかに破天荒に。解き放つように捕らえるように。
 姿も言葉もとてつもなく鮮烈に目に焼きついて。
 いつの間にか、彼女を眼で追った。不思議な程ゆるやかに心奪われた。
 自分は、どこに置いてもなにをしても立ち回るのが上手いとはいえない人間だった。負けっぱなしの生き方。流されやすい感性。 
特に欲するものなどない、無気力な人間。それが自分。篠沢深次という人間。 ―――なのに。
 有野弥澄の傍にいたかった。彼女の隣を欲した。
 そのために、なにかをしたいと思った。
 それは衝動。今までの己には、間違いかけていたそれを感じた。それは間違いないのだが。
 当然、押しの弱いその性格までそう変わるものではないのだった。
(結果・振り回される。…ってことなんだよなあ)
 そう、今日のように。
 様々なことを乗り越え獲得した彼女の隣は、妙なトラブルまみれ。気まぐれ道中。
(とりあえず一緒にいるのは嬉しい。いや…、そうじゃなく)
 負けっぱなしの人生を変えられるかと感じさせた存在―――それに負けまくってどうするんだという話だ。
「…篠沢?」
「え?」
「どうしたの? 眉間皺だらけよ」
「ん………ぼーとしてた、だけだよ」
「…そ。そろそろ着くと思うよ」
 時計をちらりと一瞥し言う弥澄。
「了解」
 今までの思考などすべて仕舞いこみ。
 深次は微笑んで答えた。

 バスを降りた。そこは、山道だった。
「聞いたとおり、気持ちいいところー」
「なにもないけどね」
「…呆れた?」
「いや、多少予想はしてたよ。こんなもんだろって」
 喋りながらも互いに足を止めない。
「ここ、水仙が綺麗って聞いたから」
「水仙、好きなの?」
「見たかったの」
「ふぅん」
 適当な相槌をうつ。と、弥澄が立ち止まる。
「どうしたの?」
「あなたと、見たかったんだけど」
 どこか拗ねたような声音と目線。それを向けられて深次はやや面食らう。理由が分からない。
「えっと…」
「なにか、言うことは?」
 弥澄は畳み掛けるようにまくしたてる。
「………………。光栄です、とか?」
「…あっそ。
 …ついた。ここね」
 視界が開ける。
 澄んだ水面を囲む、真っ白な水仙。
「…中々綺麗だね」
「ん。…水仙の花言葉って、知ってる?」
「……? いや、知らない。全然」
「自惚れ、自己愛」
「…ロクでもないね」
「そう?」
 弥澄がくるりと振り向く。その顔に浮かぶのは笑顔。
「あなたには、あってると思うけど」
 弥澄は笑う。屈託のない笑顔で。屈折もない笑顔で。
 「失礼な」そう呟き眉を寄せる深次と反対の表情で。
 互いに反対の表情で向かい合う。
「ねぇ―――。
 あなたは、自虐的すぎる」
 深次は軽く目を見開き、答えない。面食らった。
 そんな彼の態度に全く構わず、弥澄は続ける。
「だから。 
 もう少し、自惚れても、いいと思うけど?」
 それだけを言い切り、じっと深次を見つける。
 ひたむきと評する他ない眼差しに居心地悪そうな表情を浮かべて、彼が口を開く。躊躇いがちに、
「どこら辺が、自虐的だと思うのかな」
「んー。色々あるけど……。そうね。
 私はうじうじ後ろ向き名人間を見ると振り回したくなる。
 ……でも、でも。それだけなら、こんなそこそこ長い時間一緒にいたりしないと思ってる」
「……」
「あなたはなにかにつけて後ろ向きで意思の弱い人間だと思うのだけど…なんとなく、それだけじゃないんだよね」
「買い被りすぎだよ」
「ほら、その辺が自虐的だって言ってるの」
 ごく自然な様で答えた深次をぴしゃりと制す弥澄。
 誘導尋問だよ、と深次はごく小さく呟いた。
「私は、あなたになにか言ってほしい。この際ちょとくらい我侭でもいい。そりゃたまにイラつくから振り回したりするけど…。同情とか気まぐれとかで…一緒にいると思ってるならそれは間違いって…こと…」
 弥澄は常より早口にそう告白する。羞恥からか頬は真っ赤だ。
 その彼女よりさらに顔を赤く染め、深次はなにかを言おうとする。何度か唇を空回りさせた末、深呼吸をして、
「……なんて言ったら、いいのか…非常に悩むけど……、
 ありがとう」
「…分かれば、いい」
 そう言ったきり、両者ともに赤い顔で黙りこむ。冷たい空気に熱がと宿るような錯覚。二人を満たすのは気まずい空気。気まずいはずの空気。
 それでも二人は、互いにやわらかく微笑み合った。


 
                  ―END―


 あとがき
 駄目めがね、というメモを見つけました。
 どうやら、この話らしいです。
 ……なにがどう駄目で対象が人だったのかめがねだったのかも、また謎です。
 友人には『振り回し甲斐があっていいなこういう男』とのありがたい感想を貰いました。
 亭主関白は過去の言葉のようです。
 では、次こそはスレイヤーズものを書くと誓いつつ。
 あとがきに幕を下ろさせていただきます。

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17821はじめまして…ですよね?びぎなーいっく。 2006/8/10 09:35:55
記事番号17818へのコメント

はじめまして…ですよね?(^^;)
こんにちは。
時々書き込んでちょくちょくのぞいておりますいっくと申します。

全体的に爽やかな空気のお話だな〜と思ったのですがナニをおいても。
………。
…すいません。
ウケました。駄目めがね。
めがねは駄目、なんだ…。(笑)

自分に自信が持てないヒトに水仙の花言葉
なるほど、こんな考え方もあるのか、と楽しませて頂きました。
私も割に自虐的な人間なのですが少し元気づけられた気がします。
自己愛も悪い事じゃないぞと。(行きすぎるとアレですが)

ではでは、また青月様の素敵なお話に出会えることを楽しみにしつつ。

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17823Re:レス感謝です。青月かなた 2006/8/13 12:18:31
記事番号17821へのコメント


>はじめまして…ですよね?(^^;)
>こんにちは。
>時々書き込んでちょくちょくのぞいておりますいっくと申します。
 そうだと思います。こちらこそはじめまして。
 そしてこれからもよろしくお願いします♪
>全体的に爽やかな空気のお話だな〜と思ったのですがナニをおいても。
>………。
 爽やかな話も目指していたのでそういっていただけると嬉しいです。
>…すいません。
>ウケました。駄目めがね。
>めがねは駄目、なんだ…。(笑)
役に立たなかった謎のメモですが、受けていただいたなら役にたったのでしょうか…(笑)
 
>自分に自信が持てないヒトに水仙の花言葉
>なるほど、こんな考え方もあるのか、と楽しませて頂きました。
>私も割に自虐的な人間なのですが少し元気づけられた気がします。
>自己愛も悪い事じゃないぞと。(行きすぎるとアレですが)
 かなり強引な話だ、と思っていましたが、楽しんでいただけて、なにかを与えられたなら、本当に嬉しいです。
>ではでは、また青月様の素敵なお話に出会えることを楽しみにしつつ。
 はい。こちらこそまたお会いできるのを楽しみにしています。
 レスありがとうございました。