◆−ジンテーゼ1−LINA改めCANARU(6/3-20:10)No.1784
 ┣ジンテーゼ2−LINA改めCANARU(6/3-20:12)No.1785
 ┣ジンテーゼ3−LINA改めCANARU(6/3-20:17)No.1787
 ┣ジンテーゼ4−LINA改めCANARU(6/3-20:18)No.1788
 ┣ジンテーゼ5−LINA改めCANARU(6/3-20:20)No.1789
 ┗ジンテーゼ6−LINA改めCANARU(6/3-20:22)No.1790


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1784ジンテーゼ1LINA改めCANARU 6/3-20:10


「サラ」はM様、「ティリーシア」はさかおりまい様、「ケイオス」「アンミリデット」はセイム様に考えていただきました!!

真夏の日差しが照りつける町中。
僅かな街路樹の木陰によりかかり行き交う車の群を眺める若い女性。
かつては波打つ美しいウェーブのかかったロング・ヘアーだった白銀に近いブロンドはショート・ヘアーになっている。
しかし・・・。
見間違うことのないアンヴァー(琥珀)の瞳。
身につけた純白のワンピース・ドレスが辛うじてかつての面影を残す。
「初めまして・・・。いいえ・・・。お久しぶりですねえ・・・。サラさん。」
ゼロスがその女性・・・サラに向かって一言いう。
「ゼロスか・・・。」
苦笑しながらサラが呟く。
そう。
初対面にして因縁の巡り会い。
「彼らは・・・。どうしてます?」
サラは軽く頭を振る。
「会ってはいるだろうな・・・・。ただし・・・。『お互い』を『認識』しては居ないことは確実的だろうな・・・。」
言ってサラは苦笑する。
「・・・・・。いずれ・・・。その時は来ますよ。」
いつもの笑みを浮かべてゼロスはを見やる。
「だが・・・・。繰り返されはしないさ・・・・。もはやバビロニアは遠い昔さ。」
サラの呟き。
「貴方にしては・・・・。弱気な発言ですねえ・・・。サラさん。」
「いいや・・・。アニタ・・・・。アニタ=アルギュロス・・・。今のあたしの名さ。」サラ・・・いいや。アニタの眼差しはもはや遠くにあった。



ローカル列車は常に「お見合い式座席」では無く四人掛けのボックス席と相場が決まっている。
広がる山脈の新緑と渓谷が眩しい。
鉄橋の下を流れるマトモに岩肌を露出した清流もこれまた一驚。
グリーンの一面に見栄えるハイ・ウェイが妙に鮮やかに感じる。
「眩しいな・・・・。日除けをおろしてくれ。」
本を読みながらゼルガディスが呟く。
「ダメです。せっかくの景色を見なくちゃ来た意味ありません。」
アメリアが抗議の声を上げる。
「なあ・・・。駅弁でねーのか・・・?リナー??」
あくまでその事に拘るガウリイ・・・。
なにやら必死で見ているリナをガウリイはつっつく・・・。
「もう!!煩いわね!!アタシは1999〜2000年の年越しそばを何処で食べるか考えることで手一杯なのよ!!」
リナが抗議の声をあげる。
「そーですねえ・・・。」
アメリアが同調する。
ざっと彼らの関係を述べてみよう。
彼ら四人は超名門ブルジョワジー一貫制度大学と高校のサークルの先輩、後輩にあたったりする。無論年齢から見たとおり男性陣が大学、女性陣が高校の生徒である。
今日は単なる合宿の帰り。
偶然同じ方向と言うこともさることながら幼なじみ、と言う要因も重なって一緒に帰宅途中と言うだけの話である。
「う〜ん・・・・・。えっと・・・。パリにロンドン・・・・。ウィーンにニューヨーク・・・。ベルリン、ローマ・・・・・。ヨーロッパですね。」
リナの旅行パンフレットを見ながらアメリア。
「そーそ・・・。去年はみんなでシンガポール・・・。一昨年は北京だったでしょ?」
コクコクコクと頷くアメリア。
流石にブルジョワジー学校のお嬢様・・・・。
一般市民と感覚が違っているのは気のせいだろうか・・・・?
「くだらん。この円安時に無駄金をはたきに海外に行ってどーする?」
リアリストの経済学部のゼル。
「なあ・・・・。正月って言うモンは家で寝てるモンじゃねーのか・・・?普通?」
ただ単単位が取れれば良し。日本古来の伝統を重んじる(?)国文学部のガウリイ。
「えー!!いまはインターナショナルの時代ですよ!!細かいことを気にしてて何とします!!」
国際人の英文学部(志望)のアメリア。
「ねえ・・・。コンスタンティノープル(イスタンブール)なんてどう?あ、エジプトも良いわね。バビロニアの遺跡も見たいけど・・・・。今となっちゃ治安が一寸ねぇ・・・。」旅行大好き。ちなみに歴史的な物事の洞察も大好き史学部(志望)のリナ。
「オマエなあ・・・。正月早々俺に顔見せてくれたっていいだろ・・・?」
ゴネるガウリイ・・・・。
「あ!!」
その反動(?)で手を滑らせたリナ。
一枚のパンフレットがそこから滑り落ちる・・・・。
「古代ギリシァ・・・・?マケドニア・・・・・?アケメネス朝ペルシャ・・?」
ふと手を止める・・・・。
どこかで聞いたことのあるような・・・・。
不意に襲う頭痛・・・・。
「リナ!!?」
「リナさん!!!?」
アメリア、ゼル、ガウリイの声・・・。
それすらも頭に響く・・・。いや・・・むしろ更に頭痛に拍車をかける・・・。
不意に額から汗が零れる・・・。
瞬間。リナの意識は暗転した・・・・。



朝には太陽の戦車が天空をかける。
夜には月の船が天空に浮かぶ・・・・・・。
光が眩しい。
今はまだ太陽の戦車が天空を駆け回っているのだから。
無理に寝返りを打つ。
日光が降り注ぐ大草原。
姉のティリーシアにこんな事をしているところを見られたらどやされることは絶対だろう。
けれども。
リナは逆らいたかった。
何に?姉ではない。姉のことは大好きだし。
答えは単純。
全ての「サイクル」に。
太陽の戦車に支配され人は活動する。
自分でもそれはよく分かっている。胸が鼓動して血が体中を流れて躍動している。
月の船に導かれて人は静寂する。
何もかも全て物事のサイクルに操れてるんだ・・・。
そう思うと自分がちっぽけに感じてならない。
無性に腹立たしさを感じる。
「アケメネス・ペルシャ国王・・・ダレイオス二世の妹のこのアタシともあろうものが・・・。」
思わず苦笑する。
今や地上無敵を誇る大帝国のペルシャ。
その国王の妹・・・・いわば王女のアタシが・・・?
何を恐れる必要があるのであろう・・?
「また。此処にいらっしゃいましたか・・・。」
爽やかなアルトな声。
昼間の日光に際立つ夜空の星の髪の色。
「サラ!!」
言ってリナは立ち上がる。
農業神、マルドゥックの神殿の巫女サラ。
とても大人びたその雰囲気はリナと同じ十一歳とは思えない・・・。
産まれた土地は「空中庭園」が有名な美しい土地、バビロニアらしい。
しかし、彼女の銀色の髪を見る限りアカイオス(ギリシャ人)の血が混じっていることは疑いない。
「どうなされたのです?」
何時も他人に対して男っぽい言葉遣いのサラもリナに対してだけは丁重である。
「・・・・・。無意味ね・・・・。」
思いをわずか一言で片づける。
恐れなのか・・・?
だが何を恐れるのだろう・・・?
「貴方の望みは・・・・。精神の解放・・・。」
唐突に放つサラの一言。
訳が分からずリナはサラを凝視する。
「いずれ現れるわ。はるかヨーロッパ・・・・。ギリシャはマケドニアの地。金色の髪と蒼い瞳の英雄が。そして・・・・。束縛は解かれるはずよ。絶対に・・・。」
そして・・・。
その者こそ世界の「王」となるのだった・・・・。



「クソ!!」
何時にも増して兄、ダレイオス二世の機嫌が悪い。
「どうしたの・・・・。お兄さま・・・・。」
リナは姉のティリーシアに聞いてみる。
「敵国・・・。ギリシァのマケドニア王がついにギリシァの統一にかかろうとしているのよ・・・。」
怯えたように姉は言う。
その余波が・・・。
いつこの大国、アケメネス朝ペルシャに襲いかかってきても何の不思議もないのだ。
「そう・・・。」
一瞬の胸の高鳴り。
サラの言葉が胸を過ぎる。
いつまでもこんな所で燻って居るつもりはリナには毛頭なかった。
このままじゃ兄の政略に利用されて20歳も年上の成金貴族に嫁がされるのが良いオチだし。
遙かなる土地ギリシァ。
その英雄・・・会いもしない人物に対する憧憬は日々深まるばかり。
リナの精神は現状からの脱却を望んでいた・・・・。
それが何故なのか?
リナにすら定かではない。



マケドニアの新緑の季節は美しい。
白く透き通るエンタシスの柱と若葉のコントラス、更に言えば木漏れ日すら躍動に満ちている。
「ブケファラス!!行くぞ!!」
思いっきりガウリイは愛馬の腹を蹴る。
それに答えるようにして嘶くブケファラス。
彼以外、乗りこなせる者など決していない荒くれの名馬である。
これはまだガウリイが十歳だった頃の話である。
父王フェリペ二世が買った立派な荒馬、ブケファラス・・・。
が・・・・。
誰一人・・・どんな立派な武将でもその荒馬には乗りこなせない始末である・・・。
「ええい!!残念ながらこの馬は始末するしかあるまい・・・。」
苛立った父王の声。
「何をおっしゃいますの!!お父上!!」
姉ラウィニアの甲高い声。
「このような荒馬!!ガウリイの手に掛かれば一溜まりもありませんわ!!」
姉の強引な一言。
しかし、この立派な荒馬に乗ることに対してガウリイは何の恐れもない。
むしろ喜び勇んでブケファラスに跨った・・・。



躍動する感覚。
馬の筋肉と鬣が素肌に心地よい。
頬に当たる風、髪をなぶる風圧・・・・。
人々が与える荒馬を乗りこなしたという喝采などもはや耳に届かない・・・・。
ただひたすらガウリイは馬を駆けさせた。
まるで。
何かを探し求めるかのように・・・・。
そう・・・・。あの時と同じだ・・・・・。
十六歳になった今、改めて初めてブケファラスに乗りこなしたときの感覚が蘇る。
あの後・・・・。あったこと・・・。
ガウリイは思い返していた・・・・。



「葡萄が無くなってる?」
親友、ケイオスの一言にガウリイは怪訝な顔をする。
「風で落ちたんじゃないのか?」
幼なじみのゼルガディスの一言。
「そんなこと無いって!!」
更に別の親友、アンミリデットもガウリイに詰め寄る。
大人にとってはどうでも良いことかもしれない。
そかし。
まだ十歳を迎えまもないガウリイ達にしてみればかなり重大なことである。
「折角楽しみにしてたのに!!」
年少のケイオスが年長のガウリイに向かってゴネる。
(と言っても実際年齢は二つほどしかかわらないのだが。)
「壊滅していた訳じゃ無いんだろ?」
あくまで冷静なゼルガディス。
「けど!!二房ほど昨日よりか減ってた!!ついでに言えば一昨日より四房減ってた!!」
アンミリデットが未だ言う。
う・・・・・む・・・・。
暫く考え込むガウリイ・・・・。
「よし!!分かった。張り込みをするぞ!!」
かくして。
彼らの葡萄を守るべく四人は其処に張り込みを開始したのだった・・・・。
が・・・・。
年少のケイオスとアンミリデットはガウリイとゼルを残してスヤスヤと眠りこける・・。更に・・・・。
ゼルガディスも学問所の時間だとか言って帰っていく・・・。
残されたのは・・・。
ギリシァの小国、マケドニアの王子ガウリイのみ・・・。
「ちっきしょおおおおおおおおおお!!!!」
何度スヤスヤ眠りこけって居るケイオスとアンミリデットの口に軽石を詰め込んでやろうと思ったことか・・・・。
最もそんなことをしたところで「張り込み」を提案したのはガウリイ自身なのだし、自己満足的な八つ当たりにしかすぎないことは重々承知である・・・・。
「しっかし・・・・。葡萄盗んで売りさばくわけでも・・・て・・・。あ・・・。」
其処に現れたのは一人の少女。
年の頃ならガウリイより5〜4歳くらい下。
明るめの栗色の髪の毛を今は無造作に束ねている・・・。
顔かたちから言ってギリシァ人で無いことは疑いなし。
なかなか可愛い子供であるが・・・・。
「ケイオスより年下・・・。だよなあ・・・・。あの子・・・。」
ボソっと呟くガウリイ・・・・。
大きめの石に立って思い切り背伸びをしながらムシャムシャと葡萄をつまみ食いしている・・・。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
彼の視線を感じてだろうか・・・?
やおら彼女が此方を振り向き硬直する。
無論、ガウリイとてリアクションに困って硬直する・・・。
ピョコン!!と少女が石から飛び降りてこっちにやってくる・・・。
「ゴメンね!!ティリーシアお姉ちゃんが病気なの!!でね・・・。リナ・・・。葡萄を採ってきてあげようと思って・・・・。」
うそをつくなうそを・・・・・・。
この目でハッキリとオマエが喰っとるのを見たぞ・・・・・。
余りにも少女が可愛いので内心そう思いつつも無理矢理言葉を飲むガウリイ・・・。
「ダメだろ・・・・。勝手に人のモノを取っちゃ・・・・。で・・・。お家は?」
暫く少女は考え込む・・・・。
が・・・・。
その顔はやおら青ざめる・・・・。
「ダ・・・・ダレイオスおにーちゃん・・・・。」
思わずガウリイは少女の視線の方向・・・・すなわち彼自身の真後ろに佇む人物をみやる。
「ダメじゃないか!!リナ!!」
年の頃なら15〜16。
ピュロス・・・・紅蓮の瞳と同色の髪。
その眼孔は鋭くとてもその年相応のモノとは思えない。
「あ・・・・あはははははははは・・・・。」
それに射落とされてだろうか?
リナが不意に乾いた笑い声をあげる。
よくよくみればこの少女・・・リナもこの少年によく似ている。
いずれはこの優しい色の栗色の髪も少年である兄のような情熱的な紅蓮に染まるのかもしれない。
リナの眼孔自体にもその気配はもうすでに幼くして伺えている。
「済まなかったな。君。妹が何か悪さを?」
言って片手でピョイと暴れるリナを自分の肩に担ぎ上げる。
「かたぐるまいやあああああああ!!!!」
無意味に反論するリナ。
その尻を問答無用で(軽めにだが)叩くダレイオス。
「あ・・・。いえ。可哀想です。止めてやって下さい。」
あわててガウリイは止める。
「まったく。誰に似たのだか・・・。とんだお転婆娘でね。少しは姉のティリーシアを見習ったらどうだ?」
優しく肩の上の妹にダレイオスは言う。
「いやよ。ねえ様は大好きだけど。脆弱だモン。アタシはね。大きくなったらにい様の軍団を助ける隊長になりたいの!!」
その一言に少年・・・ダレイオスはハハハと笑う。
「軍団・・・・?」
一瞬ガウリイは凍り付く。
軍団・・・・。ダレイオスの名・・・・。
聞いたことがある。
いいや・・・。幾度となく聞かされた大帝国アケメネス朝ペルシャの王位継承者、ダレイオス王子・・・・・。
いずれはギリシァ諸国の好敵手となるであろう大帝国・・・・。
その王子と妹の姫君だというのか・・・・?
「名乗るが遅れたな。俺の名前はダレイオス。オマエはなんと言う名だ・・・?いい目をしている・・・・。」
年長者らしくガウリイの頭に片手を乗せダレイオスは彼に聞く。
「アレクサンドロス・・・・。ギリシァ語で『護る男』と言う意味だ。最も大半以上の人間は愛称の『ガウリイ』で俺のことを呼ぶ。」
「ガウリイ・・・か・・・。言い名前だな。いずれ・・・。また会うことになるやもしれんな。」
意味深な一言・・・。
含み笑いを一つ残してきびすを返すダレイオス・・・。
「ガウリーイ!!アタシはリナよ!!本当の名前はロクサネっていうんだけど・・・。ダレイオスにいさまの付けてくれたあだ名・・・。リナってみんなは言うの!!」
ダレイオスの肩越しにリナが叫ぶ。
「リナ・・・だな!!」
ガウリイも同様にリナに叫び返す。
「そっちの名前の方がロクサネ(本名)よりいい!!もう葡萄盗んじゃだめだぞ!!」
声を限りにガウリイは叫ぶ。
返ってきたのは葡萄ではなく向日葵のようなリナの満面の微笑みだった。
「葡萄は・・・・。ウチのブケファラスが食い荒らしちまった事にするか・・・。」
一人・・・・。
誰にともなく囁くガウリイ。
姉貴には内緒にしておこう。
絶対あのババアはとやかく言うに決まっているから。
最も・・・。
ブケファラスには悪いことをしたなあ・・・・。
そう思いつつガウリイは葡萄畑を後にした・・・。
残されたのは。
リナが食い散らかした葡萄のカスと未だ眠りこけるケイオスとアンミリデッドのみ・・・である・・・。



リナは何かを求めていた・・・・。
ダレイオスすら彼女のことを自身の「片腕」と認めるようになった今でも・・。
幼い頃の夢通り、最前線を指揮するペルシャ軍副司令官となった今でも・・。
それがなになのか・・・?
十代を半ばをすぎた今でも分からない・・・。
ただ分かるのは・・・・。
サラの予言した「何か」を待っている自分だけなのだった・・・・。


(続きます。)

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1785ジンテーゼ2LINA改めCANARU 6/3-20:12
記事番号1784へのコメント
「まったく!!一体どうしたって言うんだ?」
ガウリイの苛立った声に電車内も人々の目が一斉に此方に集まる。
「日射病じゃなんですか?」
苦しむリナの様子を見ながらアメリアが言う。
「だから、日除けをおろせと言ったんだ!!」
「そんなあ・・・・。ゼルガディスさああんん・・・・。」
情けない声でアメリアが言う。
「とにかく・・・。おい!!リナ・・・?」
ぐったりとして意識がない・・・?
さしものガウリイにも多少の焦りが走る・・・。
「どうしましたか・・・・?」
一人の男が彼らに駆け寄ってきたのはその時だった・・・。




「十六歳の時だったな・・・。」
あれからはや数年。
ここ、マケドニア国王にして父親のフェリペ二世の摂政にガウリイがなってからだ。
「大変だったな。『弱輩者の軟弱息子』なんて烙印押された上反対は勢力があの『姉上』を担ぎ上げはじめたしな。」
ゼルガディスが言う。
「・・・・・。姉貴には毛頭『俺をけ落として権力を握る』なんて考えは無かったがな・・。」
苦笑しながらガウリイが答える・・・。
彼としても辛いところなのだ。
彼に対する姉ラウィニアの過剰なまでの偏愛と期待が。
むしろ、それどころかガウリイをダシにして自身が裏で権力を握ろうとしているフシさえある。
有る意味・・・。強力なバック・ボーンであったりする事実も否めないのだが・・・。



「コリントス同盟?」
兄、ダレイオスが彼の片腕でもあるリナを自室に呼び寄せたのはその日の昼下がりだった。「ただの同盟じゃないんですか・・・・?」
リナの問いに兄は頷く。
「ああ・・・・。スパルティ(スパルタ)を除外したギリシァ諸都市国家の軍事同盟体だ・・・。そして・・・。その筆頭はマケドニア・・・。」
「それって・・・・?」
「そう。有る意味マケドニアは全ギリシァを統一したこととなる。」
「・・・・・・。」
それが意味すること・・・・。
すなわち・・・・。
マケドニア・・・いや・・・ギリシァ全土の諸都市国家の次なるターゲットは此処・・・。アケメネス朝ペルシャにしぼられる、と言う事実である。
「つまり・・・。全ギリシァとの戦も程近い・・・と・・・?」
リナの一言に兄は沈痛な面もちで頷く。
「ああ・・・・。してやられたよ・・。あの男・・・・。アレクサンドロス・・・。いいや・・・。『ガウリイ』には。」
ガウリイ・・・?
遠い記憶のどこかで聞いたことのあるような名前である。
「マケドニア王子・・・。アレクサンドロス殿は・・・。勇猛な武将と聞き及んでます。ついでに言えば・・・。僅か十六歳で国王の摂政となり・・・。」
リナの言葉にダレイオスは僅かに苦笑する。
「そなたが・・・。覚えておろうはずは無い・・・か。」
あの時の葡萄園の事を。



「ねえ・・・。リナさん。そろそろ戦争が始まるんですか?」
間延びした調子で従姉妹のアメリアが聞いてくる。
「さあねえ・・・・。」
曖昧な返事をするアメリア。
これが他の国・・・・強いて言うならバビロニアやカルタゴなどの国々ならさしたる不安もかんじないだろう。
しかし・・・。
ギリシァと言う辺りが妙に引っかかる。
「そーなったら・・・。リナさんも戦場にいくんでしょ?」
そんなことを言えば姉のティリーシアが死ぬほど心配するに決まっている。
だからあえてアメリアは小声で告げる。
「まあ・・・。ね・・。」
兄ダレイオスの片腕の将軍としていままでリナは数々の手柄を得てきたのだ。
「ついでに言えば・・・。小さいときアタシ、数日間だけれどもギリシァに行ったことがあるらしいのよ・・・。全然覚えてない得れどもね。」
言ってリナは苦笑する・・・。
もしかしたら・・・。
その時に何かがあったのかもしれない・・・と。



「祝宴・・・ですか・・・?何の?」
ガウリイは姉のラウィニアに逆に問い返す。
ハア・・・と美しい口元から甘ったるいが・・・疲れを含んだため息が漏れる・・。
「だからそなたは『クラゲ』などと口さがの無い者どもに陰口をたたかれるのです。」
おい・・・・。
滅茶苦茶疲れるような公務押しつけ、悠々自適に寝転がって果物ムシャムシャ喰ってるアンタだけには言われたくない!!
そう口元まで出掛けたがあわててガウリイは言葉を飲み込む。
この女を怒らせたらクリュタイムネストラ王妃に殺害されたアガメムノン王よろしく悲惨な運命になりかねない・・・。
最も姿、形こそ神話上の傲慢な王妃、クリュタイムネストラを彷彿とさせるこの姉だが、占い、神秘、秘儀式宗教に凝っている所を見ると、狂乱の女予言者カサンドラー的要素の方が多いかもしれない。
どちらにせよ絶世の美女、ヘレネーには度々遠い。
「はあ・・・。」
曖昧な返事をそんなことをふまえつつ返すガウリイ。
「まあ・・・。よかろう。」
あくまで尊大な口調のラウィニア。
「ガウリイ。そなたも直ちに支度をなさい。今日は私達の妹、クレウーザの結婚式だろうに。大広間で待ってます。父上、母上ももうすでにいらっしゃってますよ。」
そう言ってフェニキア風の長い裳裾の衣装を翻し一足先に去っていく姉・・。
「どーりで・・・。今日は一段と御髪上げが煌びやかだと思ったぜ・・・。エジプトのピラミッドか・・・・。あんなに高く髪結い上げて・・・・。」
姉の後ろ姿を眺めながら呟く・・・。
「それにしても・・・。重くねーのかな・・・。金銀パールに珊瑚礁の髪飾り・・・。さらには四重の黄金白銀のペンダントときてやがる・・・。あーあ!!よく見ればあんな所にでっかいエメラルドのブローチちけてやがる・・。縁取りの宝石はカーネリングか・・・?豪華ならそれで良いってか・・・?金襴緞子の真っ赤なマントも暑そうだぜ・・。まさかでっかい宝石のついたドハデなあの指輪してねーだろーなあ・・・?」
呆れたようにさらに呟くガウリイ・・・・。
「確かに顔かたちは綺麗だけど・・・・。いい年こいた長姉が・・・・。若々しい末妹に対抗心起こしたところで・・・・。うんうん・・・。ムダムダムダムダムダムダ!!!」
一人で勝手に納得し、面倒くさそうに執務室の机から立ち上がるガウリイ・・・。
「今のこと・・・。ラウィニア殿に聞かれたら・・・。オマエ・・・。殺されてるぞ・・・。」
ゼルガディスのツッコミ。
「だろーな・・・。でもホントの事なんだから仕方ねーだろ?」
ガウリイの一言にゼルガディスは苦笑しながら頷いた。
成金娘じゃあるまいし・・・・。
ちっとは姉の派手好きと宝石好きが治って欲しいと真摯に願うガウリイだった。



「的の総大将はやっぱりフェリペ二世?」
アレクサンドロス・・・いいや。ガウリイの父親の名前をリナが言う。
「ああ。奴ほどの力量がある者でなければ我が国への遠征は不可能だろう。」
ダレイオスがリナに言う。
「で・・・・。その副将が・・・。」
問題の『ガウリイ』と呼ばれるマケドニア王子、アレクサンドロス三世。
「いずれ・・・。戦の時はやってくる。いいな。リナ・・・。」
強い眼差しでリナを見やるダレイオス。
まるで・・・。
何かを予感しているように。



「そろそろ・・・。ですね・・。」
聞き慣れた声にサラは思わずそちらの方を見やる。
「ゼロスか・・・。」
腰に掛かった剣に手を掛けつつサラがゼロスに鋭い眼差しを送る。
「おお・・・。コワ。別に今日は喧嘩を売りに来たわけではありませんよ。」
「・・・・・・。ミトラの神官のオマエがここ・・・・。ペルシャ人の神殿に現れること事態・・・。有る意味での『宣戦布告』と私はみなしているのでな。」
強い口調でサラは言う。
が。
もはや剣に掛けられた右手は引かれている。
「まあ・・・。確かに。『被支配者』の ミトラの神官の僕が『支配者』の貴方・・・。マルドゥックの巫女の 所に現れるのは・・・。有る意味で『宣戦布告』じみてますね。何。今日は一寸お話をしに来たんですよ。有る意味、僕たちミトラの神官達にも関係があることでしてね。」
「もともと私もバビロニア人・・・。そう。オマエもな。現在の陣営は違っている。分かり切ったことだろう?」
「・・・・相変わらずな方ですねえ・・・・。」
「・・・・・。我が兄とて・・・・。リナ様の害になるやもしれぬ者に話すことなどあると思うか・・・?」
「・・・・。流石は我が妹殿・・・・。『己の真実』さえ無事であらばそれで良し・・と?」「・・・・・。貴様にだけは言われたくなかった・・・・・。」
珍しくふてくされたように言うサラに思わずゼロスは苦笑する。
「まあ・・・。良いでしょう。今日の訪問は僕にも・・・サラさん。貴方にも好都合となる話を持ってきたんですよ?」
ゼロスの一言にサラはピンと眉を跳ね上げる。
「貴様と違い・・・。私は『都合』などと言った物事で動いているのではない、と言ったはずだ・・・。更に言えば・・・。私の意志はあのお方・・・・リナ様のモノだとも言ったはずなのだが?」
一見は無機質な声。
だが、奥底にはあからさまに不愉快だと言ったニュアンスを含んだサラの言葉。
「そのリナ様にも関係のある事ですよ。強いて言えば・・・。これから僕が属すであろう陣営の方にもね。」
ゼロスの言葉にさしものサラも興味を持った様子だった・・・。
「どういうことだ・・・・?」



「父上!!!」
ラウィニアの絶叫が辺り一面に木霊す!!
新郎に泣き叫ぶようにすがる末妹のクレウーザ・・・。
床一面に流れる血潮・・・・。
返り血を浴びた男が呆然とその場に佇む。
が、それも一瞬のこと。すぐさまゼルガディス、ケイオス、アンリミデット等ガウリイの腹心達に取り押さえられる。
そのばに崩れ倒れる母親のオリュムピアス。
恐怖・・・?悲しみ・・・?混乱・・・?
自問自答するガウリイ・・・。
その割には自分の意識はハッキリとしていた・・・。
だが・・・。
床一面を流れる血潮、人々の絶叫・・・・。
それらを見たり、聞いたりすると体が動かない・・・。声が出せない・・・。
「暗殺だ!!マケドニア国王フェリペ二世殿下の暗殺だ!!!」
ゼルガディスの声にようやく我に返るガウリイ・・・。
「直ちに犯人を連行しろ!!事後処理の会議を開く!!」
直ちに命令を下すガウリイ。
「血を清めて・・・。父上を丁重に・・・。」
かすれた声でラウィニアに頼むガウリイ・・・。
顔色を真っ青にし、辛うじてガウリイに頷き返すラウィニア・・・。
先ほどの憎々しいほどの生気は微塵も感じられない。
「お兄さま・・・・。」
震えた声でクレウーザがガウリイを見やる。
「・・・・。妹を・・・。頼む・・・。」
彼女の夫となった兵士にガウリイは言う。
彼がしっかりと頷くのを見届け、ガウリイはゼル、ケイオス、アンリミデッドと共に室内を後にした・・・。



「マケドニア国王の暗殺・・・だと・・・?」
サラはゼロスを凝視しながら言う。
「ええ・・・・。今日中には起こることですね・・・。」
ゼロスはとんでも無いことを何時もと変わらぬ口調でスラスラと言ってのける。
「馬鹿な・・・。」
反射的にサラの口からその言葉が紡がれる。
「信じるも信じないも貴女の勝手です。ただ・・・。リナ様と僕のこれから属すであろう陣営の方には・・・・。この方が都合がいいんですけれどもね。」
「・・・・・・。否定する理由は何処にもなし・・・。か・・・。まあ・・。いいさ。仮にも『伝説の英雄』とやらがこれから起こるであろう困難を乗り切れなかったら?」
「その時は・・・・。その方は『その程度の男だった』と言うだけの話ですよ。」
アッサリ言ってのけるゼロス。
「所詮・・・。己の利益・・・か・・・。」
さしものサラもコレには呆れたように言う。
「ま・・・。世の中そんなモンでしょう。じゃ、サラさんご機嫌よ。今度会うときは『味方』としてですね。」
「私としては・・・。良い迷惑だな・・・。」
言ってサラは苦笑する。
どうも相性が悪いのだ。
この変わり者の兄とは。
「姿形も性格も正反対だな・・・・・。母上に離婚経験の有無をそのうち聞いて見ねばならんな・・・。」
一人言ってサラは苦笑する・・・。
「まったく・・・。どーして我が妹ながらあの方は強情なんでしょうかねえ・・・。そのうちお母様の前夫の存在の有無を問いただしてみましょう。」
全く同じような事を言っているこの二人・・・。
ハッキリ言ってそれは「知らぬが花」である・・・。
あらかじめ断っておくが彼らはれっきとした「血を分けた兄妹」である。
念のために。



ガウリイが父王の跡を継ぎ、マケドニアの国王となったのはそれから数日後の事であった。「良いですか・・・。ガウリイ・・・。」
未だに姉の顔色は優れない。
「そなたは世界の覇王となる者なのです。私はそなたが世界の覇者と成るためには何事も惜しみません。父上の意志を継ぐのです。良いですか・・・?ガウリイ・・。」
もともと思いこみの激しかったこの姉。
ここ数日、その気配はますます強まってきている。
「落ち着いて下さい。姉上・・・。」
辛うじてガウリイは言う。
自分だって辛いのだ。
統一したばかりのギリシァ諸都市ポリス。
その「統べる者」が突如地上から姿を消されたのだ・・・。
いつ、まだ年若い彼に反乱の波が押し寄せるか分かったものではない・・。
名目上彼は父の跡を継ぎ「コリントス同盟の筆頭」「マケドニア国王」と言う地位を保ってこそはいるのだが・・・・。
「後生です!!この姉の命に代えても!!」
この女を其処まで駆り立てるのは何なのだろう・・・?
一瞬その疑問がガウリイの脳裏に過ぎる。
「分かりました・・・。姉上・・・。」
言ってため息を付くガウリイ・・・。
「頼みましたよ。ガウリイ。私にはもはやそなたしか無いのですからね。」
呪縛・・・・。
一瞬そんな言葉が胸の内に生じる・・・・。
この姉・・・ラウィニアは気でもふれてしまったのだろうか・・・?


「フェリペ二世が暗殺されただと!!?」
「はい。閣下。私もつい先刻聞き及びました。」
ダレイオスの問いにサラが答える。
「なれば・・・。戦の危機は避けられたのですね?」
安心したようにティリーシアが言う。
「いいえ・・・。そうとは思いません。姉上・・・。」
あくまで冷静な口調でリナは言う。
「リナ・・・さん・・・?」
アメリアが怪訝そうにリナに聞いてくる。
「兄上も・・・。私と同感ですよね・・・?」
挑むように兄を見ながらリナは言う。
其処に居合わせた一同が不振そうな顔をする。
当のリナ、ダレイオス、そしてサラ以外は。
「ああ・・・。そうだ・・・。侮れぬ若造・・・。アレクサンドロスが背後にはまだ控えている・・・。」
絞り出すような声でダレイオスは言う・・・。
アレクサンドロス・・・・。
いいや・・・。
彼の記憶に残る金色の髪と透けるような蒼い瞳・・・。
並々ならない気品と高貴な雰囲気をたたえたあの少年・・・。
『ガウリイ』・・・・。



「コリントス同盟の方はどうなった・・・?」
ケイオスにガウリイは聞く。
「全会一致でガウリイを筆頭に据えることを昇任したぜ。」
嬉しそうにケイオス。
「ふーん・・・。」
無関心にガウリイ。
「反乱は避けられたんだぞ?」
アンリミィッドが言う。
「ただ単にそれだけの力を諸都市国家が持たないだけだ。もう少しでも軍事力が有れば真っ先に俺達マケドニアを潰しに掛かっただろ。俺自身を認めたわけでは無い。」
あっさりガウリイは言う。
「・・・・。ペルシャ遠征はどうする・・・?」
ゼルガディスが聞いてくる・・・。
「ペルシャか・・・。」
何時しかの記憶。
栗色の髪の少女と紅蓮の髪の少年・・・・。
ロクサネ・・・いいや。リナとダレイオス兄妹・・・。
「いずれ・・・。また会えるな・・・。」
誰にともなくガウリイはそう呟くのだった。


(続きます。)

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1787ジンテーゼ3LINA改めCANARU 6/3-20:17
記事番号1784へのコメント

未だ意識の戻らないリナ・・・。
「リナさんが・・・。友達が意識不明なんです!!」
アメリアが縋り付くようにその人物に告げる・・・。
「すまんな・・・・。その様子からすると・・・。アンタ医者か何かか?」
ゼルガディスが聞く。
「一応。今のところまだ『見習い』なモンでね・・・。」
その人物は苦笑しながら答える。
「頼む・・。」
ガウリイまでもが心配そうに言った・・・。




「言いたいことは分かっている・・・。」
うつむき加減にサラが言う。
「ならば言うまでもない。去れ。」
サラに対するダレイオスの唐突な一言。
状況判断が出来ずリナは唖然とする。
「兄上・・・・?」
ダレイオスが何故最愛の人物であるサラに対してそんな冷酷な一言を言い放てるのだろう?
対して(多少うつむいてはいるものの)サラは至って冷徹な様子だった。
「貴方は貴方の役目を果たす。それだけのことだ・・・。」
あくまで無感情な口調を崩さずにダレイオスに語りかけるサラ。
「・・・・。そうさせてもらう・・・。マケドニアとの戦に瀕している今・・・。オマエへの感情など無用の長物だ。」
「ダレイオス・・・・!!?」
兄の感情、サラの感情がまったく読めずリナは苦悩する・・・。
「サラ・・・。」
もはや後ろ姿のみになった人物の名をリナは虚しく呼ぶ。
が、当然の事ながら返事があるはずもなかった。
「どういうつもりなの?ダレイオス?」
何年ぶりかにリナは兄に対してタメ口をきき、呼び捨てをする。
「・・・・・。目的達成のためだ。サラには悪いことをしたとは思っている・・。」
決してリナの方を直視しようとしない兄の態度。
室内中に響きわたる鈍い音・・・。
信じられないと言った面もちで初めてリナの方を直視するダレイオス・・。
その片方の頬はリナの拳をマトモに食らい、微かに内出血を催している・・。
「・・・・。アタシが男で貴方の立場なら・・・・。貴方とまったく同じ事をしたでしょうね・・・。」
「・・・・。」
妹の一言にさしもの兄も黙さずにはいられない・・・。
「・・・・。けれどもね・・・。それ以前に・・・。個一人感情としてアンタを許せなかった・・・。それだけよ!!」
乱暴に言い放ち部屋を後にするリナ。
「リナさん・・・。今鈍い音が・・・。」
「何でもないわ。アメリア。」
ドア越しから聞こえてくる会話・・・。
「そうだ・・・。本当に何でもない・・・。」
同調するわけでも無くダレイオスは呟く・・・。
「すべては・・・。俺の役目を果たすためだ・・・・。リナ・・・。」
そうとしか言いようがない・・・。
何故なら。
それは遠回しにサラが望んだことだったからだ・・・・・。



「随分・・。自己犠牲的な事をなさいましたねぇ・・・。サラさん・・。」
あのような体験と屈辱を受けた女性ならばふさぎ込み、下手をすれば狂乱の体になったとしてもおかしくないのに全く持って毅然としているサラにゼロスが言う。
「ゼロスか・・・。」
その声に敵意こそはないが、あからさまに「うんざり」している様子が伺える・・。
「珍しいですね。剣を抜かないんですか?」
ゼロスがサラに問いかける。
「・・・・。今度会うときは味方だと言ったのは貴様の方だろう・・・?」
露骨に疲れを隠さない口調でサラは言ってのける。
「・・・。相変わらず口の減らない巫女ですね・・。少しは女性的なフィリアさんやシルフィールさんを見習ったらいかがですか?」
「・・・・・・。私を殺す気か・・・?ついでに言えば・・・。貴様も精神攻撃をマトモに食らって死ぬぞ・・・・。」
冗談とも本気ともつかないサラの一言にゼロスは『最もです』とでも言いたげな苦笑を浮かべて同意する。
「此方の準備はほぼ万端です。後は・・・。あの方と貴方の『マスター』の面会だけですよ・・。」
からかうようにゼロスがサラに言う。
「・・・・。リナ様の身の安全は保障するのであろうな・・・・?」
挑むようにサラが言う。
「ええ・・・。あくまでもリナさん『だけ』の安全は保証しますよ。あのお方は・・・とても人間に対して丁重な方ですし。」
「シラフの状態ならばの話だろう?かなり酒癖が悪い男と聞き及んでいる。」
見事にゼロスの仕掛けようとした「ダレイオスの身の安全」と言うテーマから話題を逸脱させるサラ。
「ま・・・。多分大丈夫でしょうね・・・。」
これ以上この話題にふれたら後が怖いことを察してゼロスは逃げに回ることを決意した。「まあ・・・いい・・・。ただし・・・。リナ様に対して屈辱を与えるようなことが有れば・・・・。迷わず私は貴様と貴様の養護する者を斬り捨てる。」
例えそれが・・・。
伝説の人物であれ・・・・ダレイオスであれ・・・・・。



「リナ・・・。ダレイオス兄様はサラさんを危険にさらさないためにあえて切り捨てたのですよ。」
ティリーシアが宥めるように言う。
「そうですよ、リナさん・・・。本当にサラさんは気の毒ですが・・・。だからってダレイオスさんを殴るなんてリナさん!!いけないですよ!!あくまでもサラさんの安全のために・・・。」
「それが許せないのよ!!」
説教するアメリアを素早く制する リナ。
「は・・・?」
呆気にとられるアメリア。
「第一ね!!心中・・・・。なんて格好の良いモンじゃないけど・・・・。アンタの勝手で切り捨てられる方の身にもなってみなさいよ!!自分の無力さを痛感させられるだけじゃない!!それに・・・。サラには・・・うんう・・・。アタシにだって実力ってモンはあるわ。それすら否定する権利ってどんな男にも無いはずよ・・・。まあ・・・。最も・・・。『目的』を果たすために涙ながらに恋人が自分を捨てるってのが女の王道だなんてくそたわけた事言ってた人が昔いたような気がするけど・・・。」
ボソっと最後に一言付け足す・・・。
「リナ・・・。それ・・・。思春期時代の・・・。私です・・・。」
恥ずかしそうにティリーシア・・・。
しーーーーーーーーーーん・・・。
暫しの間・・・・。
気まずい沈黙・・・・・・・・。
「さってと!!行かなきゃ!!」
無意味に大声を上げてその場を立ち去るリナ。
無論。
その額にはおびただしい冷や汗が浮かんでいることは言うも無い・・・。



「ペルシャ進軍の準備は万端ですね。」
聞き慣れた美しい声が背後からする。
いつもの事ながら何よりもゾっとするこの口調と声紋。
「ラウィニア姉上ですか・・・。」
仕方なしにガウリイは姉の方に向き直る。
「暫く会えなくなりますね。ガウリイ。最もそなたは全世界の覇者となるべき者。いかなる苦行にとて耐えてみせるでしょう。」
はぁ・・・。
いつもの事ながらこの誇大妄想癖にはつくずく疲れさせられる。
狂乱のトロヤの女予言者、カッサンドラじゃあるまいし。
これじゃあ姉、エレクトラの復讐心に翻弄されるオレステスのよーな気分である・・。
自分としてはアキレウスのように成りたいとは思うのだが・・・・。
到底このアマゾネスに敵うはずはない・・・・・。
「もったいなきお言葉。有り難うございます。姉上。姉上も早くお幸せに。」
一見丁重に聞こえるこの言葉も直訳すれば
『大げさなご挨拶ワザワザありがとよ!!(いちいち煩いから)さっさと嫁に行きやがれ!!』
と言う意味だったりもするのだが・・・・。
さしものこの『毒蛇婦人』は気づきもせず満足顔である。
「待っておりますよ。ガウリイ。そなたが世界の商勝者となり、再びこの地に凱旋する日を・・・。」
はぁ・・・。
姉に聞こえないようにガウリイはため息を付く・・。
できればコイツの存在のある限り・・・・俺としては進軍を続けたい・・・。
心底そう思いつつ軍団の最前列に立つガウリイだった・・・。


「『大げさなご挨拶ワザワザありがとよ!!(いちいち煩いから)さっさと嫁に行きやがれ!!』」
不意に誰かがガウリイに聞こえるように言う。
「そーいういみだったんだろ?」
ケイオス。
「そーそ。あんなに畏まって!!ガウリイじゃないみたいだったゼ!!」
アンリミディッド。
「まーな・・・。」
曖昧な返事をするガウリイ。
「まあ・・・。さしもの大王様も『毒蛇婦人』の姉上には敵わない、と言うわけだ。」
冷やかすようにゼルガディス。
「あーあ・・・。あの『誇大妄想癖』と言い俺に対する呼び方の『そなた』と言い・・・。何とかならないモンかねえ・・・。」
姉の自分に対する偏愛は有る意味常軌を逸している。
今回もペルシャ大遠征とてそれからの逃避、と言う事実を否めないところが痛い。
そんなことを考えながら愛馬、ブケファラスの首筋をそっとさすってやる。
「そーいえばさあ・・。俺達がまだ子供だったとき。ブケファラスが葡萄畑の葡萄を食い荒らしちまった事、あったよね。」
アンリミディッドが不意に言う。
「そーそ!!俺もお前も眠むっちまってさ。その現場を押さえたのはガウリイだけだったんだよな。」
ケイオス。
「そーだったな・・・。のんきにぐーすか寝てるお前らの口にガウリイは腹立ち紛れに軽石詰め込んでやろうと思ったと言ってたぞ。」
ゼルガディスが横から口を挟む。
「まーな・・。」
またもや曖昧な口調でガウリイが答える。
あの時であったペルシャの若者・・・。そして小さな少女・・・。
「ダレイオス・・・・。リナ・・・・。」
兄と妹の名前が自然と口から零れる。
ダレイオスは今やペルシャの国王となり・・・。
風の噂ではリナは「ダレイオスの片腕」と称されるくらい聡明かつ勇敢な王女にして一将軍となったと聞いている。
実際にロードス島にあるペルシャの海軍の勇猛さはオリエントからギリシァ諸都市国家に住む者ならば誰一人知らない者は居ない。
その事を思わず口にしていたのだろうか・・・?
「女将軍が率いる艦隊、だそうだな・・・。」
ゼルガディスが呟く。
「ああ・・・。ロクサネとかいう女性(ヒト)だってね。」
ケイオスが続く・・・。
ロクサネ・・・。リナの本名・・・・。
「どういった形での再会になるのやら・・・。」
思わずガウリイは苦笑する・・・。
兄ダレイオス同様、その髪は紅蓮に染まったのかもしれない・・・。
地中海の夕日に映える艦隊を率いるリナか・・・・。
葡萄を摘み喰いし、兄に尻をぶたれたあの子供からはとても想像が出来ない。
あるいみ・・・。
微笑ましいかもしれない・・・・。
姉の呪縛から解かれたからであろうか・・・・?
本来ならば敵についてそんなことを考える余裕すらないはずのガウリイは無性に楽しい気持ちになっていたりした・・・。


「ロードスに待機させてある艦隊でアタシが撃退しましょうか?」
マケドニア軍団の進行を聞き、リナは真っ先にダレイオスにそう言う。
「いや・・・。それは避けた方がいい。」
兄の一言にリナは「何故?」と言うような眼差しを向ける。
「あくまで今回の主力は歩兵戦闘だ。無駄な海戦は避けて連中の油断の隙につけ込んで海軍を動かせばいい。」
なるほど・・・とリナは頷く。
「リナ・・・。」
あくまで心配そうな姉。
「大丈夫よ。」
「そうです。リナさんにはアタシもサラさんも付いてます!!」
今から安全地帯にただ一人逃れるティリーシアへのアメリアのせめてもの餞の言葉。
「絶対に・・・。無事でね・・・。」
姉の一言に強くリナは頷く・・・。
そして。
それが姉妹の今生の別れとなった・・・・・・。



「サラさん・・・・。」
神殿の一番高い場所・・・。
アメリアがサラに声を掛ける・・・。
「燃える・・・・・。」
流石に覚悟していたこととはいえ・・・・。
目の前に繰り広げられるこの光景にサラとて恐怖を感じないわけではない。
ただ、あくまでも冷静さを保つのがやっとの状態である。
「負けてるんですか・・・。私たち・・・。」
ダレイオスの率いる軍団が次第に数を減らしていることはこの位置から見ていてもよく分かる・・・。
「ダレイオス・・・・。」
この戦いが始まってから初めてその名前をサラは口にする・・・。



「敵の総大将ダレイオスを探せ!!」
この地にのりこみ何日が立つだろう。
ガウリイは皮肉な思いでその名前を口にする。
果たして自分は彼を討つのだろうか?
それとも捕虜として捕らえるのだろうか・・・?
どちらにせよ・・・。
リナは死ぬほど悲しむに違いない・・・。
せめてもの救いはこの戦のさなか、リナが自分の率いる艦隊を出撃させなかった事くらいである・・。



「兄上!!」
味方の軍勢の混乱のさなか、リナは叫ぶ。
「兄上は?何処?」
一人の部下を捕まえて兄の消息を尋ねる。
「あちらです。どうもダレイオス閣下は重傷を負っていらっしゃるようで・・。」
言いにくそうに部下は言う。
「状態はまさに・・・。最悪ね・・・。」
馬の背にぐったりとしなだれかかり、全身から出血を催しているダレイオス・・・。
普通の女なら絶叫し、あるいは気を失ったりするかもしれない。
が、あくまで冷静沈着なのがリナ・・・。あるいはサラである・・・。
「く!!」
思い切り自分の馬の腹を蹴り上げ、やおら駆け出すリナ!!
「リナ殿!!?」
周囲の者の共学の声と制止を振り切り兄の居る方へ駆け出すリナ。
自分のかぶっていた兜をやおら脱ぎ、ダレイオスの立派な黄金づくりの深紅の飾りのついた兜を取り上げ、それを被る。
「兄上には悪いけど・・・。」
言って自分の一将軍専用にしかすぎないシンプルな作りの兜と交換する。
無論、盾、剣、さらにはマントまでも兄のモノと自分の品をそっくり入れ替える。
「我こそはペルシャ軍総司令官ダレイオス二世だ!!」
事を成し終えたリナは大声を上げて敵のギリシァ側の陣営に単身乗り込むに至った!!
「り・・・・な・・・?」
苦しそうに兄が制止にかかる。
が、次の言葉すら発さないうちに、彼の馬の腹をリナは思い切り蹴り上げる。
否応なくその場から離れざるおえないダレイオス・・。
「・・・。不名誉なんて思わないでね・・・。女に助けられたなんて言ったて・・。それは貴方の勇敢な「妹」にして「弟」なのよ・・・。」
訳の分からない慰め一つ。
今兄を失うのはペルシアにとっても自分の感情にとっても得策とは言えない。
「ま・・・。殺すような野暮な真似はしないでしょ・・・。ガウリイってひとはシラフなら人間に対して丁重だって言うし・・・。」
じゃあシラフじゃあなかったら・・・・?
「その時はその時よ・・・。」
とだけ言ってリナは再度馬を駆けさせた・・・。


「ダレイオスを捕らえた。
その報告を受け一端勝利として軍を陣営に引かせたガウリイ・・・。
「リナ・・・・。」
ダレイオスと思ったその人物の兜を自ら脱がせたとき現れた忘れもしないその人物の顔・・。
その名前を思わず口にする・・・。
予想通りに紅蓮に染まったその髪・・・・。
あの無邪気な子供のことは今でも覚えて居るのに・・・・。



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1788ジンテーゼ4LINA改めCANARU 6/3-20:18
記事番号1784へのコメント

「・・・・。」
リナとガウリイの間に長い沈黙が流れる・・・。
が、その沈黙を破ったのはリナの一言だった・・・。
「貴方誰・・・・?」
ずこ・・・・・・。
些かオーソドックスかつシンプル・・・更に言えば散文的な言い回しだが・・・。
的確な質問であったりする・・・・。
無論、「ずこ」という音とはガウリイがコケた時の効果音だと言うことを付け足しておく。「おいおい・・・。そりゃ・・・。こっちの台詞だぜ?ダレイオス国王かと思って捕虜にしてみれば・・・・。」
此処から先の言葉はなんだか照れくさいので割愛するガウリイ。
対してリナはそんなことにはお構いなし。
「『ダレイオス』と言うのは仮名で、実のところは別の名前を持った女王かもしれないわよ?」
あえてリナは冷やかしたように言う。
「オマエさんが・・・か・・・?」
とてもそうは見えない・・・。
「そうよ。」
いけしゃあしゃあとリナは言う。
「ソレは無いな。俺は幼いときに一度だけダレイオスに会ったことがある。その時・・・。葡萄を盗んだ小さな妹が尻をぶたれてったけなぁ・・。」
白々しくガウリイは言ってみせる。
「・・・・。」
リナの額に浮かぶ微かな冷や汗・・・。
無論、それは「正体を看破された」と言う理由からではない。
過去の汚点・・・・。
ましてや兄に『尻をぶたれた』などと言う場面を(覚えはないとはいえ)みすみす見物されていた・・・と言う事実に対する焦りである・・・。
そんなこと・・・。
そんなこと・・・。
そんなこと・・・・。
アタシの中に流れる王朝の血が許さないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!
表情にこそ出さないが内心滅茶苦茶焦りまくりのリナだったりする・・。、
リナの沈黙を(別の意味での)戸惑いと受け取ったガウリイは更に言葉を紡ぐ。
「なんでもさ。その小さな王女様は自分がムシャムシャ葡萄を盗み喰いしてるのをバッチリ目撃されてるのに・・・。『病弱な姉様のタメ』なんてごまかすんだぞ?まあ・・・。ダレイオスに免じて盗みの事実は俺が隠蔽してやったんだけれどもな。」
ちょっとまてい!!
アタシはそんな事言ったのかあああああ!!!???
それにアンタ自身なんでそんな詳細おぼえとるのかなあ!!!???
口にこそださねどもリナの混乱はピークに達していた・・。
「ともかく・・・。アンタ・・・。アタシのこと知ってるの・・・?」
辛うじてリナは言葉を紡ぐ・・。
「だから・・・。言ってるだろ・・・?知ってるも何もオマエさんが葡萄・・・」
「すとおおおおおおおおっぷうううううううううううう!!!!!!!」
絶叫しながらリナはガウリイの言葉を遮った・・・。
まあ・・・。
もしも彼の言っていることが「真実」であるのなら・・・。
「若気の至り」と言うことで始末しておこう・・・。
そう結論付けてリナは口を開く。
「貴方・・・。何者よ・・・。」
本来ならばサラよろしく「貴様」と呼びたいところ。
が、あくまでも此方は囚われの身。
あまり身分に不相応なことをしてアッサリ斬り捨てられでもしたら元も子もない。
「俺か・・・。忘れたのか・・・?」
葡萄事件の事すら覚えていないのだから仕方がないことなのかもしれない。
「金髪・・・ね・・・。」
サラの予言めいた言葉がふとリナの脳裏に過ぎる・・・。
この人・・・なのかもしれない・・・。
そう思うリナ・・。
「俺はアレクサンドロス・・・。最も言い名でみんなガウリイと呼ぶ・・・。オマエは・・・。ロクサネ・・・。ダレイオスの実妹で・・・。言い名は『リナ』だろ・・?」
アレクサンドロス・・・いや、ガウリイの言葉にリナは頷く。
「そうよ・・・。ダレイオスはアタシの実のお兄さまよ。勘違いしないで。此処にアタシが居るのは兄が臆病なタメなんかじゃない。兄ほど勇敢な人は居ないわ。ついでに言えば・・・。アタシほど兄を愛してる妹ってのの居ないんじゃないかしら?」
動揺した様子も怯えた様子もなくリナは言う。
「確かに・・・。オマエさん勇敢だな・・。」
思わずガウリイは言う。
「悪いけど・・・。アタシ、兄のためになら死ねるわよ。」
軽く言い放たれる一言だが確実的な真実。
「別にオマエの兄さんを殺そうなんて考えちゃいない。俺の臣下になってくれればいいだけだぞ?」
本当のところの企みをガウリイ。
「馬鹿?アンタよく『クラゲ』とか言われるんじゃない!!?」
急にリナが笑いながらガウリイに言う・・。
う・・・・。
いきなり図星を突かれたか・・・・・・・・・。
『その様なことだからそなたは【クラゲ】などと陰口を言われるのですよ。』
「・・・・。うるへぇ〜〜〜〜・・・・。」
フラッシュバックする姉の言葉にガウリイは無意味に独り言を言い反抗する・・。
「何・・・。独り言言ってるのよ・・・・。」
冷たいリナの眼差し・・・。一寸身に応えたりする・・・・。
「そうだな・・・。時々言われる・・・・。で、どーして分かったんだ・・・?」
出来れば聞きたくないのだが・・・。
聞きたいと言う好奇心の方が遙かに勝った結果の言葉。
「己の名誉を捨ててまで生き延びようとする兄じゃないわ。『王』ではなくて『臣下』なんて地位にあの人はぜったいになることを拒む。」
断言するようにリナは言う。
ペルシャ大帝国の王者が他国のモノに決して屈服するようなことがあってはならないのだ。
「・・・・。オマエさんの意志とはいえ・・・。女、ましてや妹を身代わりにしたんだぞ・・・・?」
「言っちゃ悪いけど・・・。だからこそ尚更兄は死にものぐるいで貴方と戦うわ。無論、アタシを取り戻すタメにね。」
そこまで計算していたとは・・・。
「流石はロードス艦隊の女将軍だな・・。」
ガウリイの感嘆の声。
「まあね。最も兄上はさっさとアタシのこと厄介払い(嫁入り)させたいみたいだったけど。」
無感情にリナは言う。



「どうすればリナを救えるんだ・・・・。」
切り捨てたはずのサラの元に行かねばならない皮肉さ。
もっともそれは彼女自身が望んだことでもあるのだが・・・。
その為だろうか。
ダレイオスはサラの居る神殿を訪れても彼女と面会は叶わなかった。
代わりに対応にあったたのは良く知った顔のアメリアと黒衣の青年。
「明日・・・。アタシとサラさんもギリシァ陣営にリナさんのお供、と言うことで行くことになってます。」
ダレイオスがリナを見捨てたと思いこんでいるアメリアは不機嫌そうにそうとだけ告げ、その席を後にする。
「やれやれ・・・。サラさんと言いアメリアさんと言い・・・・。かなりのリナさん贔屓ですねえ・・。」
面白がっているかのようにゼロスが呟く。
「・・・・。サラの・・・・兄だったな・・・。」
ダレイオスが呟く。
「ええ。一応、ですがね。端的に言っておきます。多分そのうち貴方はリナさんに会えますよ。向こうの方から放っておけば来てくれます。そして・・・。その時こそ貴方の『役目』を果たすときですよ。」
『役目』・・・・。
リナが産まれたときから覚悟していた一言・・・・。
「託せと言うのか・・・・・・?」
妹をあの男に・・・。
「まあ・・・。結末を言えばそうなりますね。」
ダレイオスの葛藤を知ってか知らずかゼロスはアッサリと言ってのける。
「だが・・・。俺は戦い続けるぞ・・・。」
これは。
兄としてではなくペルシャ王としての決意。
「どうぞお好きなように・・・。けれども。これだけは忘れないで下さい。サラは・・・・。きっと『泣く』でしょうね・・。」
まさか。
そんなことが有るはずがない。
そう自分に言い聞かせダレイオスは席を立った。
「リナ・・・。おまえは何も知らなくて・・・。良かったのかもしれない・・・。」
そんな作為的な事実。
ダレイオスがリナに唯一してやれた兄らしい事だった。



「何よ・・・・?」
ガウリイがまじまじとリナの髪を見ている・・。
「いや・・・。」
曖昧に返事をする。
本当に深紅だな・・・・。
幼い頃は多少濃い色合いの栗色だったリナの髪。
今は兄のダレイオス同様深い赤毛となっている。
加えてその瞳も血の流れの色のように赤い。
「そんなに赤毛が珍しいの?」
大抵のアカイオス(ギリシァ人)は茶、黒、金色の髪の色である。
かと言ってペルシャ人にとて赤毛が多い訳ではない。
同じ白人でもむしろ、アラブ系に近いペルシャ人は大半が黒髪である。
実際、アメリアの黒髪は典型的なソレである。
正直言い、例外的なのは『赤毛』を特色とする王家。
そして、この地域には珍しい銀色の髪のサラだった。
「ツケって奴よ。」
苦笑しながらリナは言う。
先祖代々の遺伝子の賜、と言った所か。
「ツケでそんな綺麗な髪?」
思わずガウリイはリナの髪を賞賛する。
「まあね・・・。代々いとこ同士とかはとこ同士とか・・・。下手すれば叔父と姪とか伯母と甥とか・・・。『血統の純粋性を損なわないようにするため』とか言う理由で血縁結婚が盛んだったのよね・・・。家の王家。で、その悪影響をマトモに遺伝子に取り込んじゃったのがアタシと兄貴よ。ま、一種のアルビノ(白化個体)ね。」
なるほど。
それならばリナの見事な赤毛と赤い瞳の理由は説明がつく。
「・・・・。」
とはいえガウリイは沈黙する。
そう言ったリナのいう所の「ツケ」に対して同情しているからではない。
そんんあ些細な理由など払拭するくらい宿命じみたモノをリナから感じずにはいられなかった・・・。
「ガウリイ!!」
呆然とする彼に対して突如声が掛かる。
ゼルガディスだった。
「よお!!ゼル。」
ガウリイは(捕虜はリナではなくダレイオスだと思ってるゼルに)気軽に声を掛ける。
ちらりとガウリイ・・・そしてリナを一瞥するゼル・・。
と同時に深いため息・・・。
「勘違いするなよ・・・。ダレイオスかと思って捕らえたらそれが妹のリ・・ロクサネ女将軍だった・・・。それだけだ。」
妙な誤解をされる前にガウリイはさっさと言ってしまう。
「・・・・クラゲ・・・。」
全然意味のない言葉をガウリイにかけるゼル・・・。
「ま。この状況じゃアタシは『現地妻』と思われても仕方ないわね。」
一人納得するリナ。
「あのなあ・・・。俺にはそんな趣味ねーぞ!!それに!!まだまだ花の独身貴族だ!!」いつになくムキになって反論するガウリイ。
「『貴族』じゃなくって!!『国王』でしょ!!」
何となく訂正するリナ。
まあ・・・。やはり深い意味はない。
「所でガウリイ・・・。オマエ、今『シラフ』だろーなあ・・・。」
ジト目でゼルが聞いてくる。
「・・・・?」
一瞬理解に悩むガウリイ。
「あっそかあ!!」
ポンと手を打ち明るい声を上げるリナ。
「この人・・・。『 シラフ』の状態なら丁重でも、いっぺんお酒を飲むと自制心なくなって悪酔いするわ、大暴れするわ大変なのよね!!?俗に言う『酒癖が悪い』てヤツでしょ?」
あっさり言いにくいことを言ってのけるリナに多少たじろぐゼルガディス。
「まーな・・。でもアンタ・・・。そーなったら無事ではすまんぞ・・。」
「でしょうね・・・。女と分かる前に『ダレイオスめ!!』とか言われて兄の黄金の兜ごとアタシは斬り捨てられていたでしょうね。」
これまたアッサリリナ。
「おい・・・。お前ら・・・・・。」
ガウリイの顔がひきつる・・・。
「俺って・・・・。シラフの時と酔っぱらった時・・・。そんなに違うのか・・?」
「覚えてないから尚更『クラゲ』と言われるんだ!!」
あくまで厳しいゼルガディス。
先日の酒の席では無礼講、と言うこともあってガウリイに対してなれなれしい進言をした部下を何が気に障ったかこの男、思いっきり殴り飛ばしたのであった・・・。
「まあいい。多分、そちらの姫君にだろ。付き人と名乗る二人の女が来ている。その姫君を帰すか・・・。帰さないと言うのなら共にこの陣営に止まると言って聞かないんだ。」困ったようにゼルガディスが言う。
「・・・・サラとアメリアね。で、アタシを帰すの?帰さないの?酒さえはいんなければアタシは貴方なんか単なるクラゲだと思ってるし・・・。怖くはないわよ。ガウリイ。」言ってくれる・・・。
「シラフのうちに言っておく。あくまでリナ、オマエはダレイオス牽制の為に人質になってもらう。」
ガウリイのきまじめな一言。
「あ。やっぱり?」
その様子が何時になく、面白かったのだろうか?
思わずリナはプっと吹き出さずにはいられない。
(クラゲが君主面してやがるの・・・・・。)
そう思うと笑わずにはいられない。クラゲの王様ねえ・・・・。
妙にデフォルメされた蒼いクラゲが錫杖を持ち、王冠を被っているところを空想してしまうのは自分だけだろうか・・・・?
ともあれ怯えた様子もなく言ってのけるリナ。
本当に大物かもしれない・・・。
色々な意味で・・・・。
「やっぱり・・・か。まあ・・・。覚悟の上じゃなけりゃ・・・。兄貴の身代わりなんて普通しないよな・・・。」
意味の分かるような、分からないような事を口走るガウリイ。
「折角来てくれたアメリア・・・て、親戚の子とアタシ付きの巫女の娘達・・・。追い返すような野暮な真似はしないでしょ?そりゃーまあ・・・。アンタには足手まといになるでしょうけど・・・。」
クラゲの王様に向かってリナ。
「まーな・・・。俺だって海軍の女帝にさからってみすみす怒られたくはないしな。」
苦笑しながらガウリイ。
(ありゃま・・。ホント丁重(低調)なヤツだ事。)
密かにリナが思っていることもつゆ知らす。
ガウリイの意向でアメリア、サラがリナの元を訪れることが許されたのだった。



「リナさん!!」
「リナ様!!」
アメリアとサラが同時に駆け寄ってくる。
「やっほー!!元気?」
気軽な口調でリナは馴れ合う。
丁重、を通り越してかなりの『優遇』すら受けている様子。
「リナさん・・・。まさかマケドニアの国王と言う人を脅迫してこんないい待遇を受けてるんじゃあ・・・。」
額に汗をかきながらアメリア・・・。
勝ち気なリナならそんなことを平気でやりかねない・・・。
「・・・・。勝手にウチのガウリイ君主が惚れ込んで優遇してるだけだ。そうだろ?リナ殿。」
からかうようにケイオス。
「馬鹿!!」
一応一言だけ反論するリナ。
「なーんだ・・。嫌がるリナさんを無理矢理本国につれてかえって略奪結婚する、なんてベタな展開にはならないんですね。」
本気でつまらなそうにアメリア・・・。
「あのねえ・・・。敵将の妹を人質ならいざ知らず・・・。そんなことするヤツが居てたまりますか!!」
支離滅裂に絶叫するリナ。
「ウチのガウリイならやりかねませんよ。変わり者だから。」
アンリミィッデトも続く。
「だああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!そーなる前に絶対に兄じゃが助けに来てくれるんだからああああああああああああ!!!」
さらに絶叫するリナ。
「オマエ・・・。ひょっとして『ブラコン』か・・・・?」
あくまでも冷静なゼルガディスのツッコミ。
「あ。そのフシ、十分にあります。後、此処には居ませんがリナさんのお姉さんのティリーシアさんに対しては完全なシスコンです。」
「アッサリばらすのね・・・・。アメリア・・・。」
冷たい口調でリナ。
「ブラコンなのか・・・。」
何時の間にやら其処にいたガウリイ。
「そうですよ!!多分リナさんはダレイオスさんが健在な限り絶対にお嫁に行かないって公言してました!!」
ガウリイを誰とも知らず(多分、マケドニア王とは思っていなかったんだろう)タメ口で屈託もないが取り留めも無いことをいうアメリア。
「そーなのか・・・?」
ガウリイがリナにいう。
「妹が自分の見込んだ兄を慕うって、悪い?そりゃま、何時までの兄貴にへばりついてたらあまり世間からいい顔されないけど。」
挑むようにリナがガウリイに問いかかける。
有る意味・・・。
姉が自分に掛ける期待もリナと同種類のモノなのかもしれない。
けれども・・・。
確実的に姉の期待はリナがダレイオスに寄せるそれよりも『思いやり』という部分が欠如していた。
・・・・・羨ましいよな・・・・・。
口にこそ出さないがガウリイは心底そう思う。
「若くて綺麗なのになぁ・・・。勿体ないぞ・・・。」
別の方面で心底思っていることを言う。
「・・・・。そんな基準で人間の価値を決めて欲しくはないわ。」
リナとて容姿に自信がないわけではないのだが・・・。
(実際そう言われて悪い気はしないし。)
聞き飽きたお世辞や美辞麗句はもうたくさん。
そう言った信条と正しい価値観を重んずる気持ちの方が強かった。
それだけである。
「そー言うアンタの金髪も・・・。なかなか綺麗だよ。ガウリイ。」
一番はじめに目に付いた金色の長髪の髪を誉める。
「ありがとよ!!」
本当に嬉しそうなガウリイの笑顔。
「え・・・????え・え・え・え・え・え・え・え・え・え・!!!??」
ただひたすら混乱するアメリア・・・。
どーやらこの期に至るまで彼女はガウリイを一介の兵士か将軍とでも思っていたらしい・・。
ペルシャではギリシァの君主と家臣の間柄のようにお互いに親密というわけではない。
実際にダレイオスの前に重臣達は平伏し、挨拶をする。
そして、妹のリナに女達は恭しくスカートの端を摘んで足を曲げる。
そんあ家臣団の挨拶もなしに突然に登場し、突然に話に参加したガウリイはアメリアにとって(身なりの善し悪しは何処の世界でも共通なので)位の高い将軍、くらいにしか認識しきれなかったようである。
最もリナはサラやダレイオスから散々ギリシァについての予備知識をたたき込まれていたのでガウリイのそんな態度にもアッサリと合点がいったのだが。
むしろそれによってうち解けた気配すら感じられる。



「リナ様。ガウリイ殿。話があります。」
サラが唐突に言い出したのは室内に三人だけになった時だった。
「サラ・・・?」
時は来た・・・。
「私の神殿にご同行願います。」
怪訝な顔をするリナたガウリイ・・・・。
着実に「伝説」は進行しつつあるのだった・・・。


(続きます)

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1789ジンテーゼ5LINA改めCANARU 6/3-20:20
記事番号1784へのコメント

小高い丘を登る。
森の中を横ぎち更には湖の湖畔の畔を越える。
「サラ・・・・・。」
思い詰めた様子でもないのだが先ほどからただひたすら沈黙を守るサラ。
リナの呼びかけに答える様子もない。
「なあ・・・。何処まで行くんだ・・・?」
ガウリイの問いにさあ・・・と言いかけるリナ。
しかし、それよりも僅かに早く
「ゴルディオンの結び目の所まで・・・。」
サラが初めて沈黙を破った。
「ゴルディオンの結び目・・・?」
ガウリイが怪訝そうにリナに尋ねる・・・。
「聞いたことがあるわ・・・・。ここからもう少し行った所に今のアケメネス王朝依然・・・・アッシリア時代の巨大な建造物があるの・・・。其処には・・・アッシリア王朝の初代の国王が奉納した黄金の車を柱に結んでがあるんだけど・・・・。その車と建造物の柱の結び目・・・。それがゴルディオンの結び目って言うの。」
簡単にリナが説明する リナ。
「ふえ・・・・。たかが柱に車が縄で結んであるだけの話なんだろ?大層な名前付けてるなあ・・・。」
どーでも良いことに感心するガウリイ。
「だが・・・。それが何百年も昔から・・・。さらに何人たりともその結び目をほどくことが出来なかったと言ったら・・・?」
サラがガウリイに畳みかける。
「・・・・・・。伝説的だな・・・・。」
少し考えてからガウリイ。
「実際に伝説よ。あたしの兄・・・。ダレイオスも結び目をほどこうとしたけど・・・。単なる徒労に終わったし・・・。その結び目をほどくことが出来たモノはアジアに君臨する王となることが出来るという伝説があるのよ。」
リナが言う。
「ソレが俺・・・てか・・・?」
姉ラウィニアの絵空事がガウリイの脳裏に蘇る・・・。
「そーとは言ってない。けど・・・。予言では金髪の西方から来た勇者様とやらがソレを成し遂げるというのよ。」
リナが思い出したように付け加える。
「昔は・・・。そんな勇者様が来てくれることを期待していたときもあったけど・・・・。誇大妄想はもう捨てたわ。」
「・・・・・賢明だな・・・。」
リナの言葉と自分の過去を照らし合わせるガウリイ。



これは父王フェリぺ二世が暗殺される数年前の話である。
「何をおっしゃるのですか!!父上!!」
いつものごとく甲高く耳障りな姉、ラウィニアの声。
「ガウリイ・・・。『毒蛇婦人』の姉上が何かお気に障った事があったようだぞ・・・。」
ゼルガディスが迷惑そうに言う。
「ほっとけ・・・・。」
誇大妄想癖の激しい上、オカルトじみた事柄に関しては目がない姉。
更には産まれ持った激越的な性分のためこの頃では父王すら彼女の感情の暴走をくい止めることが不可能な状態である。
そのツケがガウリイ自身に降りかかってくることが何よりも迷惑している事なのだが・・。
「一夫多妻の制度は常識とはいえ・・・よりによってあの者の姪を妻に迎えるとは!!」ああ・・・。
そういえば姉の政敵の大臣アッタラスの姪を父王は何度目かの妻に迎えると言っていた。「まったく・・・。迷惑なことだな・・・・。」
そんな事を考える父にも、とやかく文句を言いたがる姉にも。
そんなガウリイの気持ちを知ってか知らずか・・・。
その日はついにやってきた・・・。


主演の花嫁と父王が上座に鎮座する。
不機嫌な姉ラウィニア。
ガウリイ自身そんな険悪な環境にいて面白いはずがない。
自然と酒の方に手が伸びる。
「そのへんのしとけ。ガウリイ。」
ゼルガディスが止める。
シラフの時ならばいざ知らず・・・ひとたび酒が入ったときのガウリイは手に負えない。まさにそんなときだった・・・。
「姪と国王のこの結婚でマケドニアに正式な世継ぎが誕生することを!!」
花嫁の叔父、姉の政敵、アッタラスが意図的にか不用意にかとんでも無い一言を漏らす。次の瞬間・・・。
ラウィニアの金切り声よりも先にガウリイの黄金の杯がアッタラスの顔面に直撃した!!「貴様!!今、何と言った!!?」
怒り狂ったガウリイの声。
俄に祝宴の席に動揺が走る。
「俺が妾腹の子とでも言うのか!!?正式なマケドニア王位継承者は俺であるはずだろう!!!」
ただでさえ父王の態度に腹を立てていたラウィニアも大声でがなりたてガウリイの援護に回るのにさしたる時間はかからなかった。
「いい加減にしろ!!」
いまにもアッタラスに斬りかからんばかりのガウリイの首筋に父王の剣先が突きつけられる!!
「俺を侮辱したこの男を許して置くわけにはいきません!!」
声を限りにガウリイは怒鳴る!!
「貴様!!」
父王の拳がガウリイの右頬を僅かにかすめる。
ギリギリでかわしたとはいえ口元をマトモに殴られわずかに血が零れる・・。
が、父王の方もただでは済まなかった。
したたかにガウリイに拳を交わされたため、反動で体がよろけ結果、足下がふらつき床に転ぶようなかたちとなってしまったのだった。
それを見逃すようなガウリイではない。
あからさまな侮蔑を込め、こうあざ笑う。
「見ろ!!諸君!!この方はアジアに渡るとなさっているが、椅子から椅子を跨ぐ間にお転ぶになるとは!!!」
怒りにまかせてそう叫ぶ。
何を望んでいるんだろう・・・?
そんなことすら考えずただただ激情にかられて・・・・。


これが・・・。
「ゴルディオンの結び目を・・・・・。」
解いた・・・・。
唖然とするリナ。あくまで冷静沈着なサラ・・・。
今までだれ一人解くことの出来なかったこの結び目をガウリイは解いた・・・。
いや・・・。
正確に言うと彼は『断ち切った』のだ・・・。
「結び目を・・・。剣を使って断ち切るなんて・・・・。」
唖然とリナは呟く・・・。
この人は・・・。本物の英雄なのだろうか・・・・?
そんな考えが頭を巡る・・・・・。



「同行願うぞ!!」
「疲れるからイヤです。」
ゼルガディスの一言にミもフタもなくアッサリとお断りするアメリア。
「アメリア・・・。私たちは一応『捕虜』なんだぞ・・・?」
サラの一言にシクシクシクと泣き出すアメリア・・・。
哀れ・・・・・・。
「何処に軍団を移動させようって言うの?」
何故か軍団の先頭は腹心達に任せリナの隣に馬を並べる人物・・・。
ガウリイにリナは訪ねる。
「イッソスの方面だ。」
「賢明ね・・・。」
リナの兄、ダレイオスは今シリア平原あたりに居るというもっぱらの噂。
其処まで行くにはイッソスはもってのこいの陣営の場所である。
「兄上を追ってシリア平原に行くんでしょ?」
一応そう言った兵法学を兄から教授されているリナはガウリイに聞いてみる。
「ああ。オマエさん達人質と負傷兵はイッソスに駐屯させるつもりだ。」
「ふーん・・・。足手まといだから・・・てか?ま。いーわ。兄貴とアンタが戦うところは見たくないし。」
リナの言葉にガウリイは途轍もなく曖昧な笑みを送る。
本来ならばリナを返しても良いのだが・・・・。
実際にダレイオスからも身代金との引き替えに妹を解放せよ、との通達が来ている。
「・・・・。傍に置いておきたくなったなんて・・・。言えないよな・・。」
政治的な理由にかこつけてリナの返還を拒否したものの・・。
やっぱり危険な目やましてや兄と戦うところは見せたくない・・・。
「ねえ、ガウリイ。」
ボーっとしていたがリナの声でふとガウリイは我に返る。
「何だ・・・リナ・・・。」
先ほど以上に曖昧な笑みを送る。
「兄上がモタモタしている理由、教えてあげよっか?」
「は・・・・?」
何とも言えない表情で語るリナにガウリイも反応に困ったらしい・・・。
「あ、勘違いしないで。『弱点』を教えるんじゃなくってあくまでもダレイオス兄じゃがモタモタしてアタシを助けに来ない理由よ!!」
いや・・・。
一応穏便に身代金との交換条件での交渉はあったのだが・・・・・・。
まあ・・・。
この際この事は公私混合の罪科につきトップ・シークレットとしておこう・・。
「バクトリアのせーよ!!」
は・・・・?
「ばくてりあ・・・?病気持ちなんか・・・?オマエのにーちゃん・・・・。」
滅茶苦茶言葉に詰まってガウリイは訳の分からない事を思わずのたまう・・・。
「馬鹿!!この寄生虫プランクトンバクテリア付きクラゲ!!」
「ひでえ・・・。」
いくら何でも此処まで言われたことは初めてである・・・・。
「バクトリアってヤツはアケメネス王朝以前のアッシリア時代からのこの国の重臣でね・・・。何かにつけて仕切りたがるのよ。アタシもティリーシア姉上も結構言い寄られて困ってるのよ・・。」
忌々しそうにリナ。
「つまり・・・。野心旺盛な良からぬ家臣、てか?」
ガウリイの言葉にリナは頷く。
どーやら・・・。何処に行ってもそーゆーヤツは居るらしい。



ガウリイ達がダレイオスの居るというシリア平原に向かったのは翌日のことだった。
「南の海岸に近いシリア門を通って行く。」
ガウリイが指示を下す。
「シリア門ねえ・・・。」
無関心そうにリナが言う。(実際にルートには無関心なのだから仕方ない。)
かくして。ガウリイ達一行はリナ、サラ、アメリアに別れを告げた・・。



「居るんだろ・・・。ゼロス・・・。」
イヤそうな声を上げるサラ。
「我が妹殿ながら鋭い勘ですねえ・・・。ははははは!!」
「『ははははは!!』じゃない!!まったく・・・。何の用事だ・・・。」
こんな時にのんきに砂糖菓子を摘んでいる兄に苛立ちを隠さずサラ。
見掛けによらず案外この女性、気が短いのかもしれない。
「いや・・。何。一寸ね。そこをもう何マイルか行ったところでダレイオスさんの軍勢にお会いしたんですよ!!ほら、あっちの方。」
ゼロスがその方向を示す・・・。
「北の・・・ユーフラテス川沿いの・・・。アマノス関の方から来たって事・・?」
唐突にかかるリナの声・・・。
「どーゆー事です・・・。リナさん・・・。ダレイオスさんはシリア高原の方に居るんじゃないんですか・・・・?なんでこっちに進軍してるんです。・・・?」
困惑気味にアメリア。
「ええ・・・。正式的に言えば・・・『居た』のよ!!ガウリイ達が向こう・・・すなわちシリア高原に行ってる間に・・・兄じゃ達がこっちに来しまったようね・・。」
「すれちがい・・・て・・・事ですよね・・・?」
アメリアの一言にリナは頷く。
「まあね。ガウリイ達が南、兄じゃが北の方向を通ったとなれば・・・。当然中間地点で両者が出会う訳は無いことがれだしね・・・。」
苦笑しながらリナは言う。
「じゃあ・・・。どうなるんです・・・・?」
アメリアがリナに聞く。
「直ちにガウリイは引き返してくるわ。それしか方法は無いもの・・・。」
リナの額にはこころなしか汗が浮かんでいる・・・。
「じゃあ・・・。その前にダレイオスさんの庇護下に逃げることだって・・・。」
「罠よ!!」
このどさくさに乗じてペルシャ陣営に帰ることを提案するアメリアをリナは遮る。
「多分・・・。これは・・・。ガウリイのはった兄じゃに対する罠よ・・・。」
口ではそう言ったものの確信は持てなかった・・・。
ガウリイがあのゴルディオンの縄を断ち切ってから・・・。
有る意味リナはガウリイに心酔してしまったのかもしれない・・・。
「ここを・・・。ガウリイの所を離れたくないのかも・・・。」
口には出さなくともリナはそう胸の内で呟いた・・・・。



ここ、イッソスへのガウリイの帰還はそれから間もなくの事だった・・・。
「ガウリイ!!」
思わずリナはほっとする。
ダレイオスの別働隊がもしかしたら途中の道のりに潜んでいるかもしれないと懸念していたのだった。
「リナ・・・・。」
ガウリイの意外そうな声・・・。
もはや彼女はダレイオスの手の内に再び帰った者と半ば諦めていたのだった。
「ダレイオス兄上の所に戻るにはあの戦場を通り抜けなくちゃいけないんでね・・。
怖いから此処で大人しくしてたのよ。」
言ってリナは留守を任されていた兵団とペルシャの見慣れた軍団が戦う乱戦の戦場を指さす。
無論、そんなことは見え透いた嘘だ。
ペルシャ軍団の大半の人物は将軍としてもダレイオスの妹としてもリナを見知っている。みすみすそんな高貴な人物を傷つけるような真似はしないだろう。
「そっか・・・。」
そうとだけガウリイは言う。
あんまり追求したくないしこれからみ居てくれることに越したことは無い。
「兄と・・・。一騎打ちするのね・・・。」
言いにくい一言をリナ。
「ああ・・・・。」
ガウリイ・・・・。



ダレイオスの剣とガウリイの剣が激しくぶつかる!!
何度も同じ戦闘の繰り返し。
が、何度もガウリイはダレイオスの馬を剣で撃ち殺す。
更にはダレイオス自身にもかなりに重傷を負わせ退散させることに成功した。
ギリシァ軍は大勝利した訳である・・・。



「いいんですか・・・。リナさん・・・。」
アメリアがリナに聞いてくる。
「ん・・・?何が・・・?」
わざと呆けをかますリナ。
「ダレイオスさんですよ・・・・。」
アメリアの言葉にリナは苦笑する。
「ソレくらいでくたばる兄だったら要らないわよ。」
冗談と本気ともつかない言葉。
「リナさん・・・・。」
「冗談よ。でもね・・・・。」
兄に事は今でも大好きだった・・・・。けれども・・・。
果たして彼が『理想』なのだろうか・・・・?
そう思うと少なくとも疑問がないわけでも無かったのだった・・・・。
「それに・・・。約束したんだ・・・。」


数日前のこと・・・。
「リナ・・・・。」
イッソスの森の中を何気なく散歩していたリナの側にガウリイがやってくる。
「何?」
何気なくリナは聞く。
「ダレイオスの身の安全の保障は絶対にする・・・。だから・・・。今度もガウガメラに遠征するのだが・・・・。イッソスに残って俺を待っててくれないか・・・・?」
待ってる・・・・?捕虜として「拘束」されているんじゃなくって・・・・?
「分かったわ・・・・。」
考えるまでもなくその言葉が出てきて約束されたのだった・・・・。


「ガウリイ・・・。何時になったら遠征なんてやめるんだろ・・・。」
兄が滅びるとき・・・。
ちなみに。
「すれ違い」事件についてはガウリイ的には何の計略も罠も無くむしろ「成り行き」だったと言っている・・・。
「クラゲ英雄ね・・・・。」
そうと分かっていながらも思わずそう呟かずにはいられない・・・。
思わず笑う。
何気なしに周囲を見渡す・・・。
が、不意にリナの足が止まる・・・。
もうアメリアは着いてきていない・・・。
けれどもこの気配は・・・・・・?
「アンタは・・・・・・・・・!!!!!」



ガウリイが遠征から帰ったのはその日の夕方だった・・・。
「勝利はしたがダレイオスには逃げられた・・・。リナは・・・?」
思わず出る名前。
「そちらにも逃げられたようですよ。」
からかうように留守を任せていた重臣が言う。
「逃げた・・・?馬鹿な・・・。待ってるってアイツは約束したんだぞ!!」
酒も入っていないのに語調が荒くなる。
慌てた重臣は大急ぎで言葉を付け足す。
「いえ・・・。しかし・・・。昼からお姿が見当たりませんし・・・・。」
困惑の様子は隠せない。
「姿が・・・・?今日の昼から・・・・??」
イヤな予感がする・・・・。
「ガウリイさん!!大変です!!」
唐突にアメリアとゼルガディスが室内に飛び込んできたのはその時だった!!
「どうした・・・?」
リナが絡んでいることは疑いがない。
「これが・・・。リナさんの散歩してた中庭に・・・・。」
慌ててアメリアの持っていた紙切れをひったくる・・・。

『ペルシャ王の妹は我が軍団を裏切った事により処刑する。助けたくばペルセポリスの宮殿まで来、直接対決を申し込む。  ペルシャ王ダレイオス腹心バクトリアのベッソス』と書かれている・・・。
「ガウリイ・・・・。」
「ペルセポリスに進軍する。」
そうとだけ言い放ちガウリイはその場を立ち去ったのだった・・・。


(続きます。)

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1790ジンテーゼ6LINA改めCANARU 6/3-20:22
記事番号1784へのコメント

「飲まなかったんだな!!?」
リナの肩を揺さぶりながらガウリイが言う。
「・・・え・・・?うん・・・?」
炎上するペルセフォリス・・・・。
さらに再会したとたんにガウリイのこの反応にさしものリナも答えるのがやっとの状態である。
最も普通の女性のように混乱したり泣き叫んだりしないところが彼女らしい。
「と・・・言うより・・・。たしなまないの・・・。兄上が・・・ダレイオスが『判断力が鈍るから』って事で誕生日以外飲ませてくれた事がなくって・・・。」
「・・・・。そうか・・・。」
賢明な兄である・・・・。
「ペルセポリスの火を消せ!!ダレイオスとバクトリアを探し出すんだ!!」
ケイオスに命令するガウリイ。
「兄上は・・・・?居ないの・・・・?」
突如リナの顔色が変わる・・・。
「未だ逃走中か・・・・。さもなくば・・・・。だが。分かる。確実的に生きてはいる・・。」
ガウリイの言いたいことはリナにも察しがついた・・・。



「いったい!!」
ガウリイの残した見張りの目をかいくぐって侵入してきた人物・・・。
奸臣、バクトリアのギッソス・・・・。
「しばらくそこで大人しくしていろ!!」
あまつさえも後頭部を殴られ気絶させられて誘拐されてやったてのに・・・。
「両手縛って背中殴って部屋に押し込む事は無いでしょ!!」
そう言った思いから「人質」と言う境遇を忘れマトモに文句を言うリナ。
「黙れ!!貴様はダレイオスとアレクサンドロスをおびき寄せる餌なんだぞ!?」
ギッソスが逆切れしてリナを怒鳴る。
「自分の死期を自分で早めただけの話ね。」
皮肉たらたらでリナが言う。
「やかましい!!」
乱暴に投げ入れられる食物と葡萄酒の入った袋。
さらに嫌みたらしく杯まで投げ入れられて来る。
「いい〜だ!!」
とりあえずドア越しに居るであろうギッソスに精一杯の悪態をつくリナだった・・・。



「進軍は順調でしょうか・・・?」
サラにアメリアが問いかける。
「順調で当然・・・。」
上の空、と言った口調でサラが答える。
・・・・・・・・ダレイオスが『役目』を果たす時は近い・・・・。
直感的にそうサラは感じていた。
そして。それが何を意味する事なのかも・・・・・。
「私たちも着いていけばよっかたでしょうか・・・・?」
アメリアがサラに聞く・・・。
「いいや・・・。行っても辛い思いをするだけ・・・・。」
相も変わらず上の空でサラはアメリアに・・・いや・・・自分自身にそう呟いた・・・。



バクトリアに同調したペルセポリスはガウリイの城門を開くようにと言う要請に決して応えようとはしなかった。
「バクトリアのダレイオスに対する謀反は確実的だぞ・・・・。」
ゼルガディスがガウリイに言う。
「それがどうした?誰が見たって分かるだろ?君主に無断で一つの都市を自分の要塞にしちまってるんだからな。反逆以外の何者でもないだろ?逃亡中のダレイオスにそれを征伐する能力もナシと判断したなら尚更だ。」
ガウリイがあっさりと言ってのける。
「これを利用してダレイオスを完全に滅ぼそうとか思わないのか・・・・?」
ゼルガディスが言う。
「・・・・・・・・。これだけは言って置くが・・・・。アイツはリナをさらったんだぞ?つまりは。俺にも反逆した、って事さ。」
散文的ながら実に要点をついている言葉でガウリイは進軍の意志を表明する・・。
「たく・・・。公私混合、職権乱用も甚だしい奴だな・・・。で、あの城門はどうする?並大抵のことでは破れないぞ?」
暫しの間。
だが、やがてガウリイは静かながらハッキリとした声でこう呟いた。
「焼き討ちにする。」
と・・・・・・・・。



「本気なんか!!ガウリイ!!」
アンリミディッドがガウリイに怒鳴る。
「冗談でそんなこと言えるか?所詮この町は反逆者の巣窟だ。」
感こもらない声。
だが、その内にはリナをさらった挙げ句その兄ダレイオスすら貶めようとしているバクトリアのギッソスに対するすさまじいまでもの敵意と憎しみが潜んでいる。
「でも・・・・。」
「やめておけ!!ケイオス。例えシラフの時でもコイツの逆鱗に触れてただで済んだ奴は今までに存在したか?」
何かを言いかけたがゼルガディスの一言に口をつぐむケイオス。
「何・・・。大丈夫さ。絶対にリナを助けてギッソスを葬る自信がある。」
激怒から来る出任せではないだろう。
ハッキリとした言葉でガウリイは三人に言うのだった。



「一寸!!のどが渇いた!!こう暑くちゃ何か飲みたくなるでしょ!!」
ギッソスの部下であろう。見張り番の男にギーギー文句を言うリナ。
酔っぱらって眠りこけることを未然に防ぐためだろうか。
腰には水の山羊の乳が入った革製の袋をぶら下げている。
どーも先ほどからリナはそれが目についてたまらないのだ。
「うるせーな!!其処に葡萄酒があるだろ!!」
面倒くさそうに男は言う。
「・・・・・・・・。杯が汚いからいや。新しいの持ってきてよ。」
樽に入ってはいるものの葡萄酒は杯に注がれてはいない。
これは・・・。一寸したチャンスかもしれない・・・・。
「うるせーな!!たく!!これだからお姫様って奴は・・・・。」
ぶつぶつ言いながら男はリナのタメに新しい杯をそこら辺から持ってくる。
「ぐ・・・・・・・・・・・・。」
それと同時にバタリと倒れる・・・・・。
「まさか・・・・。此処まで腹がガラ空きとは思わなかった・・・。」
未だ右手に拳を作ったままリナが呟く。
鳩尾をマトモに殴られピクピクしてるギッソスの部下・・・。
ちと哀れ・・・・・・・・・。
「ま。油断する方が悪いのよ。アタシはダレイオスの『妹』である前に『弟』なんだもの。」
何時しか兄に言った意味不明の慰め言葉をリナは再度気絶している男に言ってやる。
「と・・・。逃げるその前に・・・・。」
酷くのどが渇いた・・・・・・。



ペルセポリスが焼き討ちにされ始めたのはその日の夜半過ぎだった・・・。


炎上する巨大都市。
焼け落ちる瓦礫の合間合間を縫いながらガウリイは進軍そっちのけでギッソス・・・あるいはリナを探して奔走する。
「指揮は任せたか・・・・。」
ゼルガディスの苦笑混じりの一言にも何らかの感慨を抱く気分にすらなれない。
「貴様がアレクサンドロスか・・・・?」
不意に背後から聞き覚えのない声がする。
「ああ・・・。そうだ・・・。リナはどうした?」
その茶髪の男をギッソスと判断し、ガウリイはひとまず腰の剣を抜きかける。
「リナ・・・?ああ。ロクサネ王女か・・・・。ご苦労なことだ。わざわざこの町を焼き討ちにまでしたと言うのにな・・・・。」
嘲るようにガウリイに言うギッソス・・・・。
「どういうことだ!!」
自然と声が凄みを帯びる。さしものギッソスもそれに臆したのだろう。少々の怯えを交えながらガウリイに言う。
「自ら毒の葡萄酒を仰がれただろうな!!何せこの暑さだ!!今頃はさぞかし苦しみ炎に巻かれている頃だろう!!」
「何だと!!!」
ギッソスは初めからそのつもりだったのだ・・・・。
ダレイオス、さらにはリナまでも殺害しようとしていたのだ・・・。
そして・・・。あわよくばガウリイも・・・・。
本気でガウリイの逆鱗に触れた人物がただ事では済まなくなることは周知の事実である。
ガウリイとギッソス・・・・。
両者の間に炎上し、崩れ去った巨木が間を隔てなかったらガウリイがギッソスを単なる肉片となるまで切り刻み続けるのは時間の問題だっただろう・・・・・。


逃走するギッソスの背中を憎々しい思いで何時までも見送っている時間はガウリイにはもう無かった・・・。
ついでに言えば、その理由も半分以上消え去っている。
「リナ・・・・。」
全く持って無事な姿のリナ・・・・。
「ガウリイ!!?まさか!!放火したのアンタなの!!?」
煤と埃にまみれながらリナは怒ったようにガウリイに言う。
「無事・・・だったのか・・・・?」
一刻も早くリナをつれて安全なところに逃げなければならない。
「無事なにも・・・。アンタがこんなことして・・・・。」
何やら言いかけるリナの手を問答無用で引っ張り退散するガウリイ・・・・。
このままでは・・・ダレイオスの身に危険が及ぶのは時間の問題だった・・・。


「葡萄酒は飲まないで山羊の乳を飲んだわ。」
「飲まなかったんだな!!?」
リナの肩を揺さぶりながらガウリイが言う。
「・・・え・・・?うん・・・?」
炎上するペルセフォリス・・・・。
さらに再会したとたんにガウリイのこの反応にさしものリナも答えるのがやっとの状態である。
最も普通の女性のように混乱したり泣き叫んだりしないところが彼女らしい。
「と・・・言うより・・・。たしなまないの・・・。兄上が・・・ダレイオスが『判断力が鈍るから』って事で誕生日以外飲ませてくれた事がなくって・・・。」
「・・・・。そうか・・・。」
賢明な兄である・・・・。
「ペルセポリスの火を消せ!!ダレイオスとバクトリアを探し出すんだ!!」
ケイオスに命令するガウリイ。
「兄上は・・・・?居ないの・・・・?」
突如リナの顔色が変わる・・・。
「未だ逃走中か・・・・。さもなくば・・・・。だが。分かる。確実的に生きてはいる・・。」
ガウリイの言いたいことはリナにも察しがついた・・・。
ギッソスの次の狙いは逃走するダレイオス・・・・・・。



「何処に行くんだ!!ガウリイ!!リナ!!」
ゼルガディスが大声で二人に呼びかける。
「急遽再進軍だ!!ダレイオスが危ない!!」
端的に言えばギッソスを再度討伐に行く、と言う意味である。
「分かった!!」
全軍がガウリイの後に続く。
「リナ、相乗りするか?」
自分の馬の後方を指さしてガウリイ。
「馬鹿にしないでよ。こうみえてもロードス島海軍将軍なのよ?アタシは。それに・・・。そんなことしたら速度が必然的に遅くなるでしょ?」
言うが早いかリナはさっさとそこら辺に居た馬をかっぱらい、素早く乗りこなして駆け抜ける。
「・・・・・早いな・・・・・。」
呆れとも感心ともつかない口調でガウリイも馬の腹を蹴り、リナの後を追うのだった。




「ダレイオス兄上!!」
リナ、ガウリイを先頭にした一団が逃走中のダレイオスに近づいたのはその時だった・・。「リナ・・・・。アレクサンドロス・・・・。」
ガウリイ・・・・。
心の中でダレイオスはそう呼ぶ。
妹の隣に居る青年・・・・。紛れもなく何時しか幼いときに葡萄畑で妹のやらかした悪戯によって困り果てていたあの金髪の少年・・・・。
そして。サラが言っていた「妹のリナを託すべき」英雄・・・・。
「大丈夫だ!!」
何時もと変わらない兄の朗々とした声・・・・。
「何が大丈夫なのよ!!すっかり敵兵・・・ギッソス達に囲まれて・・・・。」
なかば涙声でリナはダレイオスに言う・・・。
「何時もそうよ・・・・。自分一人で背負い込んでさぁ・・・・・・。」
全ての敵兵の槍はダレイオスの頭、脇腹、首筋に固定されている。
「死んだら・・・・。許さない・・・・。助けに行くから・・・。待ってなさいよ・・。」涙を溜めた目でガウリイに訴えるリナ・・・・。
それに頷くガウリイ。
二人が馬に鞭を入れようとしたその時だった・・・・。
「来るなァァァァァァァァ!!!!」
やおら絶叫し、敵の総大将であるギッソスに向かい駆け出すダレイオス!!
「兄上!!!!!」
実の妹、リナの目の前でダレイオスは敵の槍に腹を、足を、胸を貫かれる・・・。
辺り一面に飛び散る鮮血・・・・。
「やめろ!!ダレイオス!!」
ガウリイの制止を無視し、ダレイオスはギッソスに斬り掛かる・・・・・・。
同時に倒れ伏す両者・・・・・・・・。
相打ちだった・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



感じる・・・・・・。
貴方は役目を果たした・・・・・・・。
それは貴方自身も望み・・・・・自分自身も望んだこと・・・・・。
分かってはいる・・・・。
それに、アタシの意志はあの方のタメにのみ存在する・・・・。
けれども・・・・・。
「ダ・・・レイ・・・オス・・・・・。」
こうなることは分かってはいた・・・・・・・・。
分かってはいた・・・・・・。
けれども・・・。流れる涙が止まらないのは・・・・月の光のせいだろう・・・。
サラにはそうとしか言いようがなかった・・・。
何故なら。
それは彼女が産まれて初めて流した仮名下の感情の涙だったからだ・・・。
「ごめんさい・・・。リナ様・・・・。」
貴方も今はさぞ・・・悲しんでいる事でしょう・・・・。



「リナ・・・・。リナ・・・・・。」
ダレイオスの声が耳元でする。
「ダレイオス・・・・・?」
涙目をこすりながら目を開ける・・・。
「リナ・・・・・。」
視界に飛び込んできたのは最愛の兄ではなかった・・・。
「ガウリイ・・・・・・。」
しかし、不思議に失望はしなかった・・・・。
「あのまま寝ちゃったんだ・・・・。」
苦笑しながらリナは続ける。
あの後・・・・・・。大方の事態が片づくまでリナは毅然としていた・・・。
が・・・・・。
兵団が陣営地に戻り、ガウリイと二人だけになったとき、彼女の平成は破られた・・・。
覚えた居るのは・・・・。何時になく滅茶苦茶に泣きはらした事だけだった。
「馬鹿みたいだったかな・・・・・・。あんなに大泣きしちゃってさ・・・。けでね・・・。今までダレイオスはあたしの世界の「全て」だったの・・・・。ちっちゃい時からずっとダレイオスの背中だけ見てきて・・・・。一緒に同じ道を歩いてきて・・・・。でも・・・・。急にその『道』が壊されちゃった・・・・。ホント。馬鹿みたいでしょ?」
「そんなことはない・・・・。」
そんな世界を持つ兄との信頼関係・・・・。
むしろ羨ましいかもしれない・・・・。
「俺にも姉が居る。けどな・・・。誇大妄想癖ばかり先行するつまらない女だ。俺が世界の帝王だとよ。」
わざと自嘲的にガウリイはいってのける。
「・・・・・。それ・・・・。今だからこそ言えるけど・・・・。ホントだよ・・・。きっと・・・。」
予想外のリナの反応に一瞬呆気にとられるガウリイ・・・・。
「リナ・・・・?」
「だから・・・・。ダレイオスは・・・・。貴方に全てを賭けたんだと思う・・・。」
まだ微かに涙を目に溜めながらリナ・・・・。
「そうだな・・・・・・。」
そう。信じてみるのも悪くはない・・・・・・。
果てしない大帝国。リナが一緒にいれば出来ることかもしれない・・・・。




「リナ!!」
唐突にかかるガウリイの声!!
「ダレイオス!!!????」
電車中に響きわたるリナの正体不明の絶叫・・・・。
「おまえなあああああ!!大丈夫かあああああ!!俺の名前はガウリイ=ガブリエフだぞおおおおおお!!!!!?????」
目覚め一番訳の分からない事を叫んだリナにガウリイが叫び返す。
「大丈夫。それだけの元気ならもう心配ありませんよ。」
見知らぬ男の声・・・だが聞き覚えがある・・・・・。
「ご迷惑をおかけしました。ピュロス(深紅)先生!!」
「まだまだ医師見習いですよ。正規の病院を開業しましたら是非ご贔屓に。」
「リナさん!!この方にお礼を言ってくださいね。リナさんのことずっと介抱してくださったんですよ・・・て・・・リナさん・・・・・?」
アメリアの言葉すら耳に入らず呆然とするリナ・・・。
その若い医師見習いと言う男の赤毛・・・・。そしてその顔立ち・・・・。
「ダレイオス・・・・・・・・。」
そう・・・・・。間違いなく・・・・それはダレイオスのモノ・・・・。
「古代ペルシャの王の名前ですね。奸臣に殺されたと言う。そんな王様がもし生まれ変わったとしたら・・・・。一体何になるんでしょうかねえ・・・。」
ダレイオス・・・いや・・・。ピュロスが面白そうに一同に言う。
「オカルトマニアか・・・?アンタは?」
ゼルがピュロスにつっこむ。
「いえ・・・・。何となく言葉が出たんですよ。何故でしょうね・・・・・。」
不思議そうにピュロスが言う・・・・。
貴方よ・・・・・・。
そう言いたいのをリナは辛うじて抑えた。


「ねえ・・・。ガウリイ・・・・。」
「ん・・・。何だリナ?」
電車から降りたその後。
もはや此処は田舎ではなく都会の蒸し暑い一カ所である。
「『大帝国』の王者アレクサンドロスは・・・・。三十二歳でバビロニアでマラリア熱にかかって死んだの・・・・。で・・・・。その奥さん・・・・。女王のロクサネは・・・・。その後何を望んだと思う・・・・?」
唐突に聞いてみたくなった一言。
「そーだな・・・・。ロクサネって女王の気持ちはわからねーけどさ・・・。俺がアレクサンドロスならロクサネに『生まれ変わってもまた会いたい』って思って欲しいぜ・・・。俺がアレクサンドロスだったとしてもロクサネに対してそう思ったと思う・・・。」
「・・・・・。そだね・・・・。」
どーやら・・・。
まったく同じ事を考えていたらしい・・・・。


「サラ・・・・・。私たちのした事って無駄だったのかな・・・・・。」
大帝国が夢の彼方の昔になってしまったような気がする・・・・。
「いいえ・・・・・。決してそんなことはありません・・・・・。」
「また・・・・。会えるかな・・・・。みんなに・・・・。」
「ええ・・・・・。きっと・・・・・・。」
「良かった・・・・・・・・・・。」
『あの時』のリナの『サイゴ』の言葉・・・・・・・・・・・・。
リナ・・・・・・。私の意志よ・・・・・・。永遠に・・・・・・。
それが・・・。サラの認めた二度目の涙・・・・・・・・・・。


「また・・・。会えたんですか・・・?サラさん・・・・。いいえ。『アニタ』さん。」ゼロスの問いかけにアニタは微かに肩をすくめる。
「さあな・・・・。けれども・・・・・・。」
アニタの視線が示すその先・・・・。



「ねえ!!ガウリイ!!金木犀!!いい匂いね!!」
「う〜ん・・・・。トイレの芳香剤のにおいだ!!」
「どーしてそーゆー事を!!!!!!!!!!!!!」
更に掛け合いは続く・・・・・・・。
過去の面影は二人には全くなかった。
しかし・・・・「望み」は叶えられていた事にリナは気付いているとはさしものサラ・・・アニタにも与り知らない所だった・・・・。

『テーゼ』も『アンチ・テーゼ』ももはや存在しない

Synthese=『ジンテーゼ』
新たな高次の概念による、矛盾の解決。


(終わり)