◆−時の旅人 57.5:天に光を、地には花を−羅城 朱琉 (2006/10/16 08:22:14) No.17870 ┣ワオ。楽しそうな展開。−十叶 夕海 (2006/10/16 23:17:07) No.17874 ┃┗そういう手もあったなぁ・・・・。−羅城 朱琉 (2006/10/17 08:41:30) No.17875 ┣時の旅人 58:迷宮の内へ−羅城 朱琉 (2006/11/20 08:29:46) No.17909 ┃┗実現しなかったはずの平行異世界・・・・ね。−十叶 夕海 (2006/11/20 23:34:59) No.17911 ┃ ┗歪んだ道は元に戻るのか、予測できない未来に繋がるのか・・・・−羅城 朱琉 (2006/11/27 08:41:29) No.17913 ┗時の旅人 59:嘆きと絶望の物語−羅城 朱琉 (2006/12/22 08:23:30) No.17925 ┣Re:時の旅人 59:嘆きと絶望の物語−神高 紅 (2006/12/24 23:52:46) No.17926 ┃┗大を生かし、小を殺した。−羅城 朱琉 (2007/1/13 11:46:41) No.17930 ┗ちょいと遅れました。−十叶 夕海 (2007/1/7 23:12:43) No.17927 ┗それは、『誰』の望みなのか・・・・?−羅城 朱琉 (2007/1/13 12:13:37) No.17931
17870 | 時の旅人 57.5:天に光を、地には花を | 羅城 朱琉 | 2006/10/16 08:22:14 |
こんにちは、羅城 朱琉です。 最近、パソコンに向かうとレポートしか書いていません。と、いうわけで、しばらくはやたらと更新が遅いです。・・・・って、既に遅いけれど。 では、早速どうぞ。 時の旅人 57.5:天に光を、地には花を ボクが「嫌いダヨ」と言ったら 私が「嫌いだ」と言ったときに キミは「ありがとう」って返した。 あなたは「ありがとう」と答えた。 変なヤツって思ったケド だから、あなたの印象は「変なヤツ」でしたね。 今なら少し、分かる気がする。 まあ、解らないわけではないけれど。 きっと、許されてばかりだと あなたの周りの人は、皆、優しいから その分自分で自分を責めて あなたの全てを許すのでしょう? それで、もっと苦しくなるんダネ。 断罪を望むのならば、それは辛いことでしょうね。 イイよ。 それならば、こうしましょう。 なら、ボクはキミを許さない。 私も、あなたを許してあげるわ。 どれだけの時が経とうと、絶対に。 あなたの犯した、全ての『罪』を。 大嫌いなキミだけど、苦しんでる事を知ってるから あなたは、苦しんでいるのでしょう? ボクはいつでも言ってあげる。 知っているから、許してあげる。 キミが忘れないように 忘れてもいいよ、と キミが繰り返さないように 繰り返しても仕方ない、と 何度でも、キミに「大嫌い」と言うヨ。 誰より優しく、あなたに『許し』を囁いてあげる。 それで、ボクは許してあげる。 そうして、あなたに刻みつけましょう。 許さないことで、キミを、許してあげる・・・・ 許すことで、あなたの心に、永遠の苦しみを刻みましょう・・・・ * * * * * 平和でのどかな昼下がり。人通りの少ない、少し外れの街道を、一台の幌付馬車が通っていた。御者台に座るのは、2人の女性・・・・内一人は、『少女』と呼んだほうが正しそうだが。 一人は、外ハネ気味の黒褐色のショートヘアに、右が琥珀色、左が緑がかったレモンイエローという、変わった取り合わせの、どこか猫を思わせる瞳の少女。年のころなら10〜12歳くらいであろう。幼い外見に相反して、動きを妨げない皮鎧や、背負った弓は使い込まれている。外見どおりに受け取るならば、狩人見習いの少女、と言ったところだろう。 もう一人は、黒に近い群青の長髪に灰緑色の瞳という、これまた変わった色を持つ女性。そろそろ20代になろうかと言ったところだろうか。白地に青紫で縁取りされた、詰襟風のかっちりした服を着込み、薄藍色のマントを左肩で留めている。腰にサーベルを佩いたその姿は凛々しくて、神に仕える聖騎士であろうと思われた。 それぞれ、名をエリカ=レイラーズとフリアレーテ=リリエンツァイフと言った。 「・・・・・・・・二度あることは三度ある、と言いますけれど・・・・本当になったりましたわね。」 ゆっくりと馬車を進めながら、フリアレーテがぽつり、と呟いた。 「そうだネ。まったく・・・・バカと言うかアホと言うか。ボクはもう、呆れ返ったヨ。」 どこかわざとらしい片言口調で、エリカが返す。その手の内には、一冊の薄い本があった。 「アミイも、あんなのもう見捨てればいいのにネェ。お人よしというカ、何というカ。」 外見相応の幼げな仕草で足を揺らしながら、エリカは本を開く。 「『中枢予定表』の方も、相変わらずダヨ。アレもアイツも、全然変わってない。『学習』ってコトバ、知らないのかナ?」 本は、語り部の持つ『予定表』に酷似していた。しかし、これには何も書かれていない。 『白紙の予定表』。定まらぬ未来の象徴。そして、アミリータが彼女達に送ったもの。 「そう言うものではありませんよ、エリカ様。少なくとも、私のときよりは随分ましな状況になっておりますもの。それは、素直に評価するべきですわ。」 「そう言うフリアが、一番性質悪いヨ。本当は全然、一欠片も、許してないくせに。陰険なんだヨネ。」 そう言うエリカに、フリアレーテは肯定の意味を込めて穏やかに笑った。 * * * * * 今も思い出す。 赤黒く染まった空を。大地を割る雷を。縋るように手を伸ばした朋友を。魂を引き裂くような、絶望の叫びを。 「フリアは、元は王女サマだったんだよネ?」 「一応は、そうでございました。今更、数千年も昔の栄光を語ったところで、詮無いこととは思いますが。」 とある世界の大国の第2王女にして、最強の魔法使いであり、優れた剣の腕を持つ騎士でもあり・・・・国の守護神とすら謳われた、フリアレーテ=リリエンツァイフ。 「エリカ様は、賢者でいらしたのでしょう?」 「見習いの、ネ。それも、もう昔のことダヨ。」 また別の世界で、あらゆる力にまつろわぬことを誇りとした賢者の集団に生まれ、知と武と魔を兼ね備え旅を愛し、幼くして伝説に名を刻んだ、エリカ=レイラーズ。 彼女らの世界は、既に無い。 壊されたのだ。『輪転の女王(レジーナ・オブ・クロノス)』と『中枢予定表』の諍いに巻き込まれて。 * * * * * 数日前のこと。唐突に、あの女が現れた。 『時空の王』の一人、破壊神と呼ばれる・・・・そのくせ、妙に明るい、銀の女性・アミリータが。 フリアレーテとエリカという、ある意味正反対の二人がどうして出会ったのか、それはここでは語らない。二人は、長い間共に旅をしてきた。理由は、お互いが正反対であったから、であろう。それだからこそ楽しいのだ、と、二人は考えている。 世界から世界へ旅を続けるもの、帰るべき世界を持たぬ『放浪者』として、アミリータとは顔見知りであった。それでも、彼女から何か『頼みごと』をしてくるのは初めてのことだったが。もっとも、あれを頼みごとと言っていいのかはよくわからない。 『二度あることは三度ある。今回の主役はアリエス=オルフェーゼ。望まれぬ運命を砕き、運命の鎖から全てを解き放つのに協力して欲しい。』 アミリータは、そう言った。 『時空の王』は嫌いだ。『運命』だの何だのと言う奴は気に食わない。それでも・・・・二人はそれを責めるつもりは無い。その同じ立場に、かつて自分もいたのだから。 「ねえ、フリア。夜は怖いと思うカナ?冬は寂しいと思うカナ?」 「?」 唐突なエリカの問いに、フリアレーテは首をかしげた。エリカは気にせず続ける。 「ボクは、そうは考えないヨ。だって、夜がないと朝も来ない。冬が無ければ春も無いからネ。」 それで、言いたいことがわかったのだろう。フリアレーテは遠い目をして言った。 「誰しもが、天には光が満ちて、地には花が咲き乱れていて欲しいと考えるのでしょう。ですから、闇に閉ざされる夜には恐怖を、花の枯れ果てた冬には寂寥を覚えるのでございましょうね。夜の先には次の朝が、冬の果てには新たな春があることを知っているのに・・・・。」 「思い出させてあげようヨ。夜に怯えた女の子に、もうすぐ朝だってコトを。」 エリカは言い、 「そうですね。冬の終わりで蹲っている方に、春を見せて差し上げましょう。」 フリアレーテが答える。 自分達の時は無理だった、『運命からの解放』。今度こそ、成し遂げようと思った。 今、運命に翻弄されている少女たちのため、かつて、運命に放浪された自分達のため。 『時空の王』にではなく、彼女達のために、二人は動くことを決めたのだ。 * * * * * ――くすくす―― ――くすくす―― 闇の中で、一人の人物が笑っていた。 夜闇の漆黒の髪は、動きやすいショートカット。同じ夜色の切れ長の瞳は、ふてぶてしいまでの自信に満ちている。スレンダーな体を覆うのは、品のよい黒のタキシード。その上から、やはり黒のインバネスコートを羽織って、そのままどこぞの夜会にでも出席できそうだ。全てが黒で纏められた中、肌だけはぬけるように白い。男子の礼服をすっきりと着こなしているが、その人物は女性だった。 ――くすくす―― ――くすくす―― 闇の中で、一人の人物が嗤っていた。 柔らかで響きの良いアルトの美声で、しかし、その声にはっきりと嘲りの色を滲ませて。 『不動の放浪者』の二つ名を持つ女性は、くすくすと笑い続けていた。背後に気配が生じても、それは変わらない。 『何がそんなにおかしいの?』 気配の主・・・・アミリータが問うた。 「愚かだと、思ってな。ヒトも、神も、魔も、母も、全て全て、愚かだよ。」 嘲り笑いを浮かべながら、『不動の放浪者』は答えた。 『あなたも、元はヒトでしょう?』 「そう、その通り。だからこそ解る。皆々愚かで仕方ない。中でも一番愚かなのは、『螺旋の預言者』であろうな。私が覚えていることを、何故、どうして、忘れている?」 詠うように、『不動の放浪者』は言葉をつむぐ。 『あなたが知っている方が変なのよ。あなたが『あのこと』を知っているという事実は、ファラですら知らないのよ?』 「知ろうと思えば解ることだ。だからこそ、私は思うよ。『螺旋の預言者』は、無知こそ罪と言ったが、違う。本当の罪は、無知なことではない。無知を自覚しつつ、知ろうとしないこと。それが、罪。」 くす、と嗤い、『不動の放浪者』は最後の一節を詠った。 「だから、私は見ているよ。『罪人』を自称するものが、本当の『罪人』となる瞬間を。『運命』が勝つのか、『革命者』が勝つのか。そして、いかなる結末を迎え、いかなる未来が訪れるのかを。ただただ、私は傍観しているよ。知って、何もしない。・・・・だから、私の協力を期待しない方がいいよ、フェビュエール殿。」 『・・・・偽悪者。私が、知らないと思っているの?』 『不動の放浪者』は、初めて表情を変えた。 「・・・・何を?」 アミリータは、溜息をつく。そして、ぽつりと言った。 『『中枢予定表』・・・・押さえててくれているんでしょう?そのせいで、そこから動けない。』 『不動の放浪者』は、僅かに目を眇めた。 『誰も彼も、何で『自分は悪』と振舞うんだろうね・・・・?』 珍しく、寂しげに呟くアミリータは、そう言ってふと姿を消した。 一人闇の中に残る『不動の放浪者』は、片手で目を覆うと、皮肉気な笑いを浮かべる。くっ、と嗤いを洩らし、呟いた。 「偽悪者、か・・・・。一応、褒め言葉として受け取っておくよ。」 そして、静かに目を閉じると、再び闇にたゆたい始めた。 あとがき、或いは語り部の告げる未来 語:やあ、こんにちは!ここで会うのも随分久しぶりだね。こんかいはどうだったかな? さて・・・・これで、主要な登場人物がほとんど全員出揃ったわけで、ようやくクライマックスに向かっていくわけだ。 じゃあ、早速未来の欠片を語ろう。 望むのは、終焉。求めるのは、未来。 外れた時は迷走を始め、干渉する手は歪みを帯びる。 切り札は、銀の髪の少女の内。 望まれた『正しい未来』の末に、彼らは何を見るのか・・・・? 次回、『時の旅人』58話、『迷宮の内へ』 じゃあ、またね! |
17874 | ワオ。楽しそうな展開。 | 十叶 夕海 | 2006/10/16 23:17:07 |
記事番号17870へのコメント ユア:ACT64を編集していて、語り部さんとアルカディア、《道化師》と《影の語り部》の立場が、真逆ながら似ているなと思い、胃痛を悪化させてる十叶夕海です。 久遠:生み出したのが、《道化師》だけど、止めようとしているのが、《影の語り部》だから、逆と言えば逆よね。 ユア:では、ホットミルク片手に、レス行きます。 > > ボクが「嫌いダヨ」と言ったら > 私が「嫌いだ」と言ったときに > キミは「ありがとう」って返した。 > あなたは「ありがとう」と答えた。 > 変なヤツって思ったケド > だから、あなたの印象は「変なヤツ」でしたね。 > 今なら少し、分かる気がする。 > まあ、解らないわけではないけれど。 > きっと、許されてばかりだと > あなたの周りの人は、皆、優しいから > その分自分で自分を責めて > あなたの全てを許すのでしょう? > それで、もっと苦しくなるんダネ。 > 断罪を望むのならば、それは辛いことでしょうね。 > > イイよ。 > それならば、こうしましょう。 > なら、ボクはキミを許さない。 > 私も、あなたを許してあげるわ。 > どれだけの時が経とうと、絶対に。 > あなたの犯した、全ての『罪』を。 > 大嫌いなキミだけど、苦しんでる事を知ってるから > あなたは、苦しんでいるのでしょう? > ボクはいつでも言ってあげる。 > 知っているから、許してあげる。 > キミが忘れないように > 忘れてもいいよ、と > キミが繰り返さないように > 繰り返しても仕方ない、と > 何度でも、キミに「大嫌い」と言うヨ。 > 誰より優しく、あなたに『許し』を囁いてあげる。 > それで、ボクは許してあげる。 > そうして、あなたに刻みつけましょう。 > 許さないことで、キミを、許してあげる・・・・ > 許すことで、あなたの心に、永遠の苦しみを刻みましょう・・・・ > > ユア:この一節すきですね。 久遠:対照的だけど、同じのような雰囲気が、でしょう? >「・・・・・・・・二度あることは三度ある、と言いますけれど・・・・本当になったりましたわね。」 > ゆっくりと馬車を進めながら、フリアレーテがぽつり、と呟いた。 >「そうだネ。まったく・・・・バカと言うかアホと言うか。ボクはもう、呆れ返ったヨ。」 > どこかわざとらしい片言口調で、エリカが返す。その手の内には、一冊の薄い本があった。 >「アミイも、あんなのもう見捨てればいいのにネェ。お人よしというカ、何というカ。」 > 外見相応の幼げな仕草で足を揺らしながら、エリカは本を開く。 >「『中枢予定表』の方も、相変わらずダヨ。アレもアイツも、全然変わってない。『学習』ってコトバ、知らないのかナ?」 > 本は、語り部の持つ『予定表』に酷似していた。しかし、これには何も書かれていない。 > 『白紙の予定表』。定まらぬ未来の象徴。そして、アミリータが彼女達に送ったもの。 >「そう言うものではありませんよ、エリカ様。少なくとも、私のときよりは随分ましな状況になっておりますもの。それは、素直に評価するべきですわ。」 >「そう言うフリアが、一番性質悪いヨ。本当は全然、一欠片も、許してないくせに。陰険なんだヨネ。」 > そう言うエリカに、フリアレーテは皇帝の意味を込めて穏やかに笑った。 > ユア:エリカ嬢ですね。 久遠:・・・・面白いコンビよねぇ。 エリカちゃんとフリアちゃん。 > > * * * * * > > > 今も思い出す。 > 赤黒く染まった空を。大地を割る雷を。縋るように手を伸ばした朋友を。魂を引き裂くような、絶望の叫びを。 > > >「フリアは、元は王女サマだったんだよネ?」 >「一応は、そうでございました。今更、数千年も昔の栄光を語ったところで、詮無いこととは思いますが。」 > > とある世界の大国の第2王女にして、最強の魔法使いであり、優れた剣の腕を持つ騎士でもあり・・・・国の守護神とすら謳われた、フリアレーテ=リリエンツァイフ。 > >「エリカ様は、賢者でいらしたのでしょう?」 >「見習いの、ネ。それも、もう昔のことダヨ。」 > > また別の世界で、あらゆる力にまつろわぬことを誇りとした賢者の集団に生まれ、知と武と魔を兼ね備え旅を愛し、幼くして伝説に名を刻んだ、エリカ=レイラーズ。 > > 彼女らの世界は、既に無い。 > 壊されたのだ。『輪転の女王(レジーナ・オブ・クロノス)』と『中枢予定表』の諍いに巻き込まれて。 ユア:・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 久遠:なに、しまった!!って顔してるの? ユア;いえ、そういう方々もいるんですね。と思って。 (こっちの二人にも、諍いは在ったはずだよねぇ、マズッた。) 。 > 『時空の王』は嫌いだ。『運命』だの何だのと言う奴は気に食わない。それでも・・・・二人はそれを責めるつもりは無い。その同じ立場に、かつて自分もいたのだから。 >「ねえ、フリア。夜は怖いと思うカナ?冬は寂しいと思うカナ?」 >「?」 > 唐突なエリカの問いに、フリアレーテは首をかしげた。エリカは気にせず続ける。 >「ボクは、そうは考えないヨ。だって、夜がないと朝も来ない。冬が無ければ春も無いからネ。」 > それで、言いたいことがわかったのだろう。フリアレーテは遠い目をして言った。 >「誰しもが、天には光が満ちて、地には花が咲き乱れていて欲しいと考えるのでしょう。ですから、闇に閉ざされる夜には恐怖を、花の枯れ果てた冬には寂寥を覚えるのでございましょうね。夜の先には次の朝が、冬の果てには新たな春があることを知っているのに・・・・。」 >「思い出させてあげようヨ。夜に怯えた女の子に、もうすぐ朝だってコトを。」 > エリカは言い、 >「そうですね。冬の終わりで蹲っている方に、春を見せて差し上げましょう。」 > フリアレーテが答える。 > 自分達の時は無理だった、『運命からの解放』。今度こそ、成し遂げようと思った。 > 今、運命に翻弄されている少女たちのため、かつて、運命に放浪された自分達のため。 > 『時空の王』にではなく、彼女達のために、二人は動くことを決めたのだ。 ユア:確かに、夜が無ければ朝も来ず、冬が無ければ春も来ず。 久遠:それに気がついても、怖がる子も居るわよねぇ。 ユア:それは、少し哀しいです。寂しいです。 > > > * * * * * > > > ――くすくす―― > > ――くすくす―― > > 闇の中で、一人の人物が笑っていた。 > 夜闇の漆黒の髪は、動きやすいショートカット。同じ夜色の切れ長の瞳は、ふてぶてしいまでの自信に満ちている。スレンダーな体を覆うのは、品のよい黒のタキシード。その上から、やはり黒のインバネスコートを羽織って、そのままどこぞの夜会にでも出席できそうだ。全てが黒で纏められた中、肌だけはぬけるように白い。男子の礼服をすっきりと着こなしているが、その人物は女性だった。 ユア:男装の麗人!! 久遠:それだけで食いつくとは。 ユア:好きなのですよ、男装の麗人は。 > > ――くすくす―― > > ――くすくす―― > > 闇の中で、一人の人物が嗤っていた。 > 柔らかで響きの良いアルトの美声で、しかし、その声にはっきりと嘲りの色を滲ませて。 > 『不動の放浪者』の二つ名を持つ女性は、くすくすと笑い続けていた。背後に気配が生じても、それは変わらない。 >『何がそんなにおかしいの?』 > 気配の主・・・・アミリータが問うた。 >「愚かだと、思ってな。ヒトも、神も、魔も、母も、全て全て、愚かだよ。」 > 嘲り笑いを浮かべながら、『不動の放浪者』は答えた。 >『あなたも、元はヒトでしょう?』 >「そう、その通り。だからこそ解る。皆々愚かで仕方ない。中でも一番愚かなのは、『螺旋の預言者』であろうな。私が覚えていることを、何故、どうして、忘れている?」 > 詠うように、『不動の放浪者』は言葉をつむぐ。 >『あなたが知っている方が変なのよ。あなたが『あのこと』を知っているという事実は、ファラですら知らないのよ?』 >「知ろうと思えば解ることだ。だからこそ、私は思うよ。『螺旋の預言者』は、無知こそ罪と言ったが、違う。本当の罪は、無知なことではない。無知を自覚しつつ、知ろうとしないこと。それが、罪。」 > くす、と嗤い、『不動の放浪者』は最後の一節を詠った。 >「だから、私は見ているよ。『罪人』を自称するものが、本当の『罪人』となる瞬間を。『運命』が勝つのか、『革命者』が勝つのか。そして、いかなる結末を迎え、いかなる未来が訪れるのかを。ただただ、私は傍観しているよ。知って、何もしない。・・・・だから、私の協力を期待しない方がいいよ、フェビュエール殿。」 >『・・・・偽悪者。私が、知らないと思っているの?』 > 『不動の放浪者』は、初めて表情を変えた。 >「・・・・何を?」 > アミリータは、溜息をつく。そして、ぽつりと言った。 >『『中枢予定表』・・・・押さえててくれているんでしょう?そのせいで、そこから動けない。』 > 『不動の放浪者』は、僅かに目を眇めた。 >『誰も彼も、何で『自分は悪』と振舞うんだろうね・・・・?』 > 珍しく、寂しげに呟くアミリータは、そう言ってふと姿を消した。 > 一人闇の中に残る『不動の放浪者』は、片手で目を覆うと、皮肉気な笑いを浮かべる。くっ、と嗤いを洩らし、呟いた。 >「偽悪者、か・・・・。一応、褒め言葉として受け取っておくよ。」 > そして、静かに目を閉じると、再び闇にたゆたい始めた。 ユア;好みです、むしろ、大好きです。『不動の放浪者』さん。 久遠:・・・・・偽悪者ね。 ある意味、エイレンちゃんよね。 ユア:・・・・・語るべきことを語るべき時に語らないから? それは、仕方ないです。 『不動の放浪者』さんの憎まれ口と同じで。 > > > あとがき、或いは語り部の告げる未来 >語:やあ、こんにちは!ここで会うのも随分久しぶりだね。こんかいはどうだったかな? > さて・・・・これで、主要な登場人物がほとんど全員出揃ったわけで、ようやくクライマックスに向かっていくわけだ。 > じゃあ、早速未来の欠片を語ろう。 > 望むのは、終焉。求めるのは、未来。 > 外れた時は迷走を始め、干渉する手は歪みを帯びる。 > 切り札は、銀の髪の少女の内。 > 望まれた『正しい未来』の末に、彼らは何を見るのか・・・・? > 次回、『時の旅人』58話、『迷宮の内へ』 > じゃあ、またね! ユア:次回も楽しみですv 久遠:そうね。でもハートマークは止めましょう。 ユア;それだけ、楽しみなんです。 二人;ともあれ、また次回。 > > |
17875 | そういう手もあったなぁ・・・・。 | 羅城 朱琉 | 2006/10/17 08:41:30 |
記事番号17874へのコメント > > >ユア:ACT64を編集していて、語り部さんとアルカディア、《道化師》と《影の語り部》の立場が、真逆ながら似ているなと思い、胃痛を悪化させてる十叶夕海です。 >久遠:生み出したのが、《道化師》だけど、止めようとしているのが、《影の語り部》だから、逆と言えば逆よね。 >ユア:では、ホットミルク片手に、レス行きます。 朱琉:いえいえ、逆の立場な皆様方の話も、楽しく読んでいますので。 アミイ:意味不明な始まり方してないの。その意味は? 朱琉:ええと・・・・胃痛悪化させないように気をつけてくださいね、ってことと、本日『家族の写真』にレスできないかもですごめんなさい、でも読みました、ってことです。 アミイ:最近、本当に1日1レスが危ういのよね、朱琉。 朱琉:では、返レスです。 > >> >> ボクが「嫌いダヨ」と言ったら >> 私が「嫌いだ」と言ったときに >> キミは「ありがとう」って返した。 >> あなたは「ありがとう」と答えた。 >> 変なヤツって思ったケド >> だから、あなたの印象は「変なヤツ」でしたね。 >> 今なら少し、分かる気がする。 >> まあ、解らないわけではないけれど。 >> きっと、許されてばかりだと >> あなたの周りの人は、皆、優しいから >> その分自分で自分を責めて >> あなたの全てを許すのでしょう? >> それで、もっと苦しくなるんダネ。 >> 断罪を望むのならば、それは辛いことでしょうね。 >> >> イイよ。 >> それならば、こうしましょう。 >> なら、ボクはキミを許さない。 >> 私も、あなたを許してあげるわ。 >> どれだけの時が経とうと、絶対に。 >> あなたの犯した、全ての『罪』を。 >> 大嫌いなキミだけど、苦しんでる事を知ってるから >> あなたは、苦しんでいるのでしょう? >> ボクはいつでも言ってあげる。 >> 知っているから、許してあげる。 >> キミが忘れないように >> 忘れてもいいよ、と >> キミが繰り返さないように >> 繰り返しても仕方ない、と >> 何度でも、キミに「大嫌い」と言うヨ。 >> 誰より優しく、あなたに『許し』を囁いてあげる。 >> それで、ボクは許してあげる。 >> そうして、あなたに刻みつけましょう。 >> 許さないことで、キミを、許してあげる・・・・ >> 許すことで、あなたの心に、永遠の苦しみを刻みましょう・・・・ >> >> > > >ユア:この一節すきですね。 >久遠:対照的だけど、同じのような雰囲気が、でしょう? アミイ:この二人は『似ていて正反対』だからね。 朱琉:好きと言っていただけて嬉しいです。 > > >>「・・・・・・・・二度あることは三度ある、と言いますけれど・・・・本当になったりましたわね。」 >> ゆっくりと馬車を進めながら、フリアレーテがぽつり、と呟いた。 >>「そうだネ。まったく・・・・バカと言うかアホと言うか。ボクはもう、呆れ返ったヨ。」 >> どこかわざとらしい片言口調で、エリカが返す。その手の内には、一冊の薄い本があった。 >>「アミイも、あんなのもう見捨てればいいのにネェ。お人よしというカ、何というカ。」 >> 外見相応の幼げな仕草で足を揺らしながら、エリカは本を開く。 >>「『中枢予定表』の方も、相変わらずダヨ。アレもアイツも、全然変わってない。『学習』ってコトバ、知らないのかナ?」 >> 本は、語り部の持つ『予定表』に酷似していた。しかし、これには何も書かれていない。 >> 『白紙の予定表』。定まらぬ未来の象徴。そして、アミリータが彼女達に送ったもの。 >>「そう言うものではありませんよ、エリカ様。少なくとも、私のときよりは随分ましな状況になっておりますもの。それは、素直に評価するべきですわ。」 >>「そう言うフリアが、一番性質悪いヨ。本当は全然、一欠片も、許してないくせに。陰険なんだヨネ。」 >> そう言うエリカに、フリアレーテは皇帝の意味を込めて穏やかに笑った。 >> > >ユア:エリカ嬢ですね。 >久遠:・・・・面白いコンビよねぇ。 > エリカちゃんとフリアちゃん。 朱琉:『許さない振りして許しているもの』と『許す振りをして許さないもの』のコンビですから。 アミイ:そのくせ、どこか似ているという、そんな二人。 > >> >> * * * * * >> >> >> 今も思い出す。 >> 赤黒く染まった空を。大地を割る雷を。縋るように手を伸ばした朋友を。魂を引き裂くような、絶望の叫びを。 >> >> >>「フリアは、元は王女サマだったんだよネ?」 >>「一応は、そうでございました。今更、数千年も昔の栄光を語ったところで、詮無いこととは思いますが。」 >> >> とある世界の大国の第2王女にして、最強の魔法使いであり、優れた剣の腕を持つ騎士でもあり・・・・国の守護神とすら謳われた、フリアレーテ=リリエンツァイフ。 >> >>「エリカ様は、賢者でいらしたのでしょう?」 >>「見習いの、ネ。それも、もう昔のことダヨ。」 >> >> また別の世界で、あらゆる力にまつろわぬことを誇りとした賢者の集団に生まれ、知と武と魔を兼ね備え旅を愛し、幼くして伝説に名を刻んだ、エリカ=レイラーズ。 >> >> 彼女らの世界は、既に無い。 >> 壊されたのだ。『輪転の女王(レジーナ・オブ・クロノス)』と『中枢予定表』の諍いに巻き込まれて。 > >ユア:・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 >久遠:なに、しまった!!って顔してるの? >ユア;いえ、そういう方々もいるんですね。と思って。 > (こっちの二人にも、諍いは在ったはずだよねぇ、マズッた。) 朱琉:・・・・・・・・いえ、仲悪いなら諍いもあるよなー、と、単純に・・・・。 アミイ:私、ノーコメント。 > >。 >> 『時空の王』は嫌いだ。『運命』だの何だのと言う奴は気に食わない。それでも・・・・二人はそれを責めるつもりは無い。その同じ立場に、かつて自分もいたのだから。 >>「ねえ、フリア。夜は怖いと思うカナ?冬は寂しいと思うカナ?」 >>「?」 >> 唐突なエリカの問いに、フリアレーテは首をかしげた。エリカは気にせず続ける。 >>「ボクは、そうは考えないヨ。だって、夜がないと朝も来ない。冬が無ければ春も無いからネ。」 >> それで、言いたいことがわかったのだろう。フリアレーテは遠い目をして言った。 >>「誰しもが、天には光が満ちて、地には花が咲き乱れていて欲しいと考えるのでしょう。ですから、闇に閉ざされる夜には恐怖を、花の枯れ果てた冬には寂寥を覚えるのでございましょうね。夜の先には次の朝が、冬の果てには新たな春があることを知っているのに・・・・。」 >>「思い出させてあげようヨ。夜に怯えた女の子に、もうすぐ朝だってコトを。」 >> エリカは言い、 >>「そうですね。冬の終わりで蹲っている方に、春を見せて差し上げましょう。」 >> フリアレーテが答える。 >> 自分達の時は無理だった、『運命からの解放』。今度こそ、成し遂げようと思った。 >> 今、運命に翻弄されている少女たちのため、かつて、運命に放浪された自分達のため。 >> 『時空の王』にではなく、彼女達のために、二人は動くことを決めたのだ。 > > >ユア:確かに、夜が無ければ朝も来ず、冬が無ければ春も来ず。 >久遠:それに気がついても、怖がる子も居るわよねぇ。 >ユア:それは、少し哀しいです。寂しいです。 アミイ:でも、それが哀しく寂しいことに気づかない、思い出せない子もいるから・・・・ 朱琉:お二方に叩き起こしていただきましょう。 > >> >> >> * * * * * >> >> >> ――くすくす―― >> >> ――くすくす―― >> >> 闇の中で、一人の人物が笑っていた。 >> 夜闇の漆黒の髪は、動きやすいショートカット。同じ夜色の切れ長の瞳は、ふてぶてしいまでの自信に満ちている。スレンダーな体を覆うのは、品のよい黒のタキシード。その上から、やはり黒のインバネスコートを羽織って、そのままどこぞの夜会にでも出席できそうだ。全てが黒で纏められた中、肌だけはぬけるように白い。男子の礼服をすっきりと着こなしているが、その人物は女性だった。 > >ユア:男装の麗人!! >久遠:それだけで食いつくとは。 >ユア:好きなのですよ、男装の麗人は。 朱琉:・・・・・・・・・・・・・・・・ アミイ:何気まずげな顔してるのよ? 朱琉:いえ、この方、実はセルフパロディ的なかたでして・・・・だから、名前を出してないんですが・・・・ アミイ:続き書く気ないでしょうに・・・・。出せば? 朱琉:・・・・・・・・・・・・・・・・『色なき世界』のシドその人。 アミイ:・・・・・・・・こんな性格だったわけ? 朱琉:はい・・・・。 > > >> >> ――くすくす―― >> >> ――くすくす―― >> >> 闇の中で、一人の人物が嗤っていた。 >> 柔らかで響きの良いアルトの美声で、しかし、その声にはっきりと嘲りの色を滲ませて。 >> 『不動の放浪者』の二つ名を持つ女性は、くすくすと笑い続けていた。背後に気配が生じても、それは変わらない。 >>『何がそんなにおかしいの?』 >> 気配の主・・・・アミリータが問うた。 >>「愚かだと、思ってな。ヒトも、神も、魔も、母も、全て全て、愚かだよ。」 >> 嘲り笑いを浮かべながら、『不動の放浪者』は答えた。 >>『あなたも、元はヒトでしょう?』 >>「そう、その通り。だからこそ解る。皆々愚かで仕方ない。中でも一番愚かなのは、『螺旋の預言者』であろうな。私が覚えていることを、何故、どうして、忘れている?」 >> 詠うように、『不動の放浪者』は言葉をつむぐ。 >>『あなたが知っている方が変なのよ。あなたが『あのこと』を知っているという事実は、ファラですら知らないのよ?』 >>「知ろうと思えば解ることだ。だからこそ、私は思うよ。『螺旋の預言者』は、無知こそ罪と言ったが、違う。本当の罪は、無知なことではない。無知を自覚しつつ、知ろうとしないこと。それが、罪。」 >> くす、と嗤い、『不動の放浪者』は最後の一節を詠った。 >>「だから、私は見ているよ。『罪人』を自称するものが、本当の『罪人』となる瞬間を。『運命』が勝つのか、『革命者』が勝つのか。そして、いかなる結末を迎え、いかなる未来が訪れるのかを。ただただ、私は傍観しているよ。知って、何もしない。・・・・だから、私の協力を期待しない方がいいよ、フェビュエール殿。」 >>『・・・・偽悪者。私が、知らないと思っているの?』 >> 『不動の放浪者』は、初めて表情を変えた。 >>「・・・・何を?」 >> アミリータは、溜息をつく。そして、ぽつりと言った。 >>『『中枢予定表』・・・・押さえててくれているんでしょう?そのせいで、そこから動けない。』 >> 『不動の放浪者』は、僅かに目を眇めた。 >>『誰も彼も、何で『自分は悪』と振舞うんだろうね・・・・?』 >> 珍しく、寂しげに呟くアミリータは、そう言ってふと姿を消した。 >> 一人闇の中に残る『不動の放浪者』は、片手で目を覆うと、皮肉気な笑いを浮かべる。くっ、と嗤いを洩らし、呟いた。 >>「偽悪者、か・・・・。一応、褒め言葉として受け取っておくよ。」 >> そして、静かに目を閉じると、再び闇にたゆたい始めた。 > > >ユア;好みです、むしろ、大好きです。『不動の放浪者』さん。 >久遠:・・・・・偽悪者ね。 > ある意味、エイレンちゃんよね。 >ユア:・・・・・語るべきことを語るべき時に語らないから? > それは、仕方ないです。 > 『不動の放浪者』さんの憎まれ口と同じで。 朱琉:あぁ、なるほど・・・・。この人動かして、エイレンさんたきつけてもらうという手もありましたね。 アミイ:・・・・もしかして、話、変わる? 朱琉:・・・・もしかしたら、少し。 > >> >> >> あとがき、或いは語り部の告げる未来 >>語:やあ、こんにちは!ここで会うのも随分久しぶりだね。こんかいはどうだったかな? >> さて・・・・これで、主要な登場人物がほとんど全員出揃ったわけで、ようやくクライマックスに向かっていくわけだ。 >> じゃあ、早速未来の欠片を語ろう。 >> 望むのは、終焉。求めるのは、未来。 >> 外れた時は迷走を始め、干渉する手は歪みを帯びる。 >> 切り札は、銀の髪の少女の内。 >> 望まれた『正しい未来』の末に、彼らは何を見るのか・・・・? >> 次回、『時の旅人』58話、『迷宮の内へ』 >> じゃあ、またね! > >ユア:次回も楽しみですv >久遠:そうね。でもハートマークは止めましょう。 >ユア;それだけ、楽しみなんです。 >二人;ともあれ、また次回。 朱琉:はい、では、また! 二人:また今度!! > > >> >> |
17909 | 時の旅人 58:迷宮の内へ | 羅城 朱琉 | 2006/11/20 08:29:46 |
記事番号17870へのコメント こんにちは、羅城 朱琉です。 大変遅くなりましたが、時の旅人58話、ようやくの更新です。 懐かしい(?)人も現れる今回、早速どうぞ! 時の旅人 58:迷宮の内へ アリエスとユヴェル・・・・『中枢予定表』の消えた場所を凝視したまま、語り部はしばし動かずにいた。やがて、その口が言葉を紡ぎだす。 「これで、あと一つ・・・・いや、二つか。」 そうとだけ言って、語り部は身を翻す。呆然と立ち尽くしたままのエヴァンスとディスティアに向かい、薄く微笑んだ。 「やあ。遅くなってしまったけど、改めて。久しぶりだね。」 「・・・・・・・・何を、考えている?」 地を這うような暗い声。この声は、ディスティアのもの。 「一体、何がどうなっているんだよ・・・・」 どこか茫洋とした、これは、エヴァンスの声。 語り部は、笑う。 「さて、何から語ろうか・・・・。」 そして、再び語り部は語る。先日、ルピナスたちの前で語ったことを。己の正体、アリエスのこと、『運命の一対』という運命、『中枢予定表』のこと・・・・。 長い長い話が終わったその後で、語り部は言った。 「まあ、いろいろあった、ってことさ。」 有りすぎるほどにあったたくさんのことを、最終的に『まあいろいろ』で片付けて、語り部はやはり笑う。 それは、どこか虚ろで、儚い笑顔だった。 語り部に促され、二人は森の奥の小屋に入った。めいめい適当な位置に腰掛けて、語り部を見やる。『薄い微笑み』というポーカーフェイスを貼り付けた語り部は、窓枠に腰掛けて外を見ていた。 痺れを切らしたエヴァンスが、語り部を呼ぶ。 「で・・・・わざわざここまで連れて来て座らせた、ってことは、まだ何かあるんだろう?」 ポーカーフェイスのまま、語り部は答える。 「あるよ。ただ、今は待っている。」 「待つ?・・・・何を?」 「皆が来るのを・・・・ね。とりあえずは・・・・7人。最終的には倍くらいになるかな。」 「だから、それを待っていったいどうするんだ、って聞いてるんだよ!」 語り部は、窓の外から視線を戻し、ゆっくりと言った。 「解き明かすのさ。『中枢予定表』が望んでいた『運命』、それが変わった結果の現在、アリエスを使って、『中枢予定表』が何をしようとしているのか。・・・・予想の範疇を出ないところもあるけれど、僕の知る全て・・・・本当に『全て』を。だから・・・・・・・・今は、待っている。」 * * * * * それからしばらくは、静かな時が流れた。誰も、何も話そうとしない。 皆、わかっているのだ。口を開けば、全てを語りつくす・・・・或いは聞きつくすまで、言葉を止めることはできないのだと。 だから、言葉はない。 静かな緊張感が、辺りを包んでいた。 と、語り部が動いた。その白く細い腕が、すっと持ち上がり、まっすぐ外を指し示す。 「まず、6人。」 エヴァンスとディスティアは、誘われるようにその指の先を見る。 木々の間をぬけて、現れた6人の影。 赤を纏う、若き伝説の魔道士・・・・リナ=インバース。 金の髪の、伝説の片割れ・・・・ガウリイ=ガブリエフ。 『白』の二つ名を持つ、合成獣の青年・・・・ゼルガディス=グレイワーズ。 熱き意思を湛えた巫女姫・・・・アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン。 そして、揺らぐ悔恨の影と無限の慈愛を併せ持つ神官・・・・レンシェルマ=ヴァリードと・・・・・・・・ 語り部にとってはつい先ほど別れたばかりの・・・・しかし、実際には4日の時が過ぎた、彼。 あの時、重い真実に打ちのめされ、光のなかったその瞳には、今は静かな『決意』のようなものが宿っている。 『四大家』の一つ、『護り』のサーヴァリルが末裔。儚く脆く、優しく強い、青年・・・・・・・・ルピナス=セレス=ヴァリード。 「来たね。」 語り部は、彼らにうっすら微笑みかけた。 「・・・・・・・・」 無言で語り部を見つめるレンシェルマ。その瞳には、気遣わしげな色が宿っている。安心させるように笑みを深くして、語り部はレンシェルマに言った。 「伝えて、くれたかい?」 「・・・・・・・・はい。」 レンシェルマが、静かに答える。語り部は、微笑んだまま頷いた。 それに続けるように、ルピナスが口を開く。 「あんた、まだ俺達に何か隠してるだろう!?」 語り部は、あえて答えと別のことを言う。 「口調・・・・戻ったね。シオンの口調だ。」 「はぐらかすな。」 言うルピナスは、しかし冷静で。それが、何かの覚悟を感じさせた。だから、語り部も答える・・・・その覚悟ゆえに。 「隠してる・・・・というより、言うべきタイミングを見計らっている、だね。・・・・でも、もう終わり。時は満ちた。僕はもう、何を語るにも制約を持たないよ。だから・・・・全てを語れる。推測に頼らざるを得ない部分もあるけれど、ね。」 そして、6人を小屋に招きいれ、めいめい座らせると、空中を見て、言った。 「盗み聞きをせずとも、ここに来て一緒に聞けばいい。君にも、その権利はあるのだから。」 答えはない。しかし、語り部は苦笑して続けた。そこに『誰か』がいると、確信しているように。 「僕は言ったよ。待ち人は、『とりあえずは7人』だと。今、6人が現れた。最後の一人は、君だよ・・・・フェリセ。」 数瞬の沈黙。そして・・・・ 「・・・・・・・・性格悪いですよ、相変わらず。」 溶け出すように、銅色の人物が顕現する。 かつては『混沌の王・ステラ=ウェリン=フェリセ=ディアライト』であった、アリエスの親友・・・・フェリセ=ニーランデルが。 一瞬、リナが色めきたつ。ガウリイもまた、緊張を瞳に浮かべ、ルピナスは・・・・・・・・一度、自分を殺した相手を凝視していた。その視線を真っ向から受け止めて、フェリセはルピナスに向けて口を開く。 「謝りは、しないよ。あの時は、あれが正しいと思ってやったことだから。ただ・・・・・・・・生きててよかった、とは思う。 ・・・・・・・・例え、『運命の一対』であったとしても、アリエスが好きになった相手だからね。」 「あんた、知って・・・・」 驚きを隠せない声で、ルピナスは返す。フェリセは、静かに頷いた。 「もちろん。だって・・・・アリエスの記憶の封印を解いたのは、あたしだもの。知ってなければ、しないし、出来ないよ。」 「別に、知っていても不思議ではないよ。」 このままでは埒が明かないと思ったのだろう。横から語り部が口を挟んだ。 「フェリセは、元『混沌の王』だから。」 この後、大混乱が起こったことは・・・・・・・・まあ、言うまでもないことだろう。 * * * * * 混乱が収まるのを待って、語り部は再び口を開いた。 「さて・・・・そろそろ時間もないことだし、続けていいかな?」 「続けるも何も。結局、何を言いたくてここに人を集めたのか・・・・それすら、まだよくわからないのだけど?」 「焦るな、ディスティア。すぐ話すさ。ただ、物事には順序がある。語ることは、あまりにも多い。だから・・・・一つずつ、語ろう。」 語り部は、そう言うと懐に手を入れ、『それ』を取り出した。 黒い表紙の、本。タイトルも何もないその本は、縁に金と赤で縁取りがしてある以外には装飾もない。 「これは、『予定表』。この世界の『運命』が全て記された、『中枢予定表』の一欠片だ。本の形をとってはいるが、『本』というよりは、触れたものに知識を伝える記憶媒体、と言ったほうが正しいだろう。」 「異界黙示録(クレアバイブル)のオリジナルみたいなものね。」 「その通り。理解が早くて助かるよ、リナ=インバース。」 口を挟んだリナに微笑んで返し、語り部は続けた。 「まず、語ること・・・・それは、この世界が本来辿るはずだった『運命』。・・・・ルピナスが生き返ったときに歪みが生じた、『中枢予定表』が本来進めようとしていた・・・・世界の破滅の物語だ。」 語り部はそう言い置いて、厳かに話し始めた。 あとがき、或いは語り部の告げる未来 語:やあ、ここで会うのは本当に久しぶりだね。今回は、どうだったかな? ここから、皆が合流してくる。その番外編も交えつつ進む物語を、どうか見守って欲しい。 では、・・・・未来の欠片を、語ろうか。 一人の青年の死から、それは始まった。 少女は嘆き、絶望が心を壊す。 少女を対価に終焉をまぬかれた世界に待つのは、思いもよらなかった最悪の結末。 これは、本来あったはずの、哀しい物語・・・・ 次回、『時の旅人』59話、『嘆きと絶望の物語』 では、また、次で会おうね。 |
17911 | 実現しなかったはずの平行異世界・・・・ね。 | 十叶 夕海 | 2006/11/20 23:34:59 |
記事番号17909へのコメント ユア:こんにちわ、微妙にハイテンションのユアです。 久遠:胃痛とアレのダブルパンチだものね。 脳内麻薬垂れ流し似近いのかもしれないわね。」 ユア:それでは、素敵に無敵にちょっと無礼に、レス行きます。 > > アリエスとユヴェル・・・・『中枢予定表』の消えた場所を凝視したまま、語り部はしばし動かずにいた。やがて、その口が言葉を紡ぎだす。 >「これで、あと一つ・・・・いや、二つか。」 > そうとだけ言って、語り部は身を翻す。呆然と立ち尽くしたままのエヴァンスとディスティアに向かい、薄く微笑んだ。 >「やあ。遅くなってしまったけど、改めて。久しぶりだね。」 >「・・・・・・・・何を、考えている?」 > 地を這うような暗い声。この声は、ディスティアのもの。 >「一体、何がどうなっているんだよ・・・・」 > どこか茫洋とした、これは、エヴァンスの声。 > 語り部は、笑う。 >「さて、何から語ろうか・・・・。」 > そして、再び語り部は語る。先日、ルピナスたちの前で語ったことを。己の正体、アリエスのこと、『運命の一対』という運命、『中枢予定表』のこと・・・・。 > 長い長い話が終わったその後で、語り部は言った。 >「まあ、いろいろあった、ってことさ。」 > 有りすぎるほどにあったたくさんのことを、最終的に『まあいろいろ』で片付けて、語り部はやはり笑う。 > それは、どこか虚ろで、儚い笑顔だった。 久遠:流石と言うか、なんというか、ね。 ユア;語り部節炸裂☆ってかんじですね。 久遠:そうと言えば、そうだけど、少し違うと思うわ。 ユア;じゃあ、語り部さんマジック。 それ以上の追求を許さないと言う意味で。 > > > 語り部に促され、二人は森の奥の小屋に入った。めいめい適当な位置に腰掛けて、語り部を見やる。『薄い微笑み』というポーカーフェイスを貼り付けた語り部は、窓枠に腰掛けて外を見ていた。 > 痺れを切らしたエヴァンスが、語り部を呼ぶ。 >「で・・・・わざわざここまで連れて来て座らせた、ってことは、まだ何かあるんだろう?」 > ポーカーフェイスのまま、語り部は答える。 >「あるよ。ただ、今は待っている。」 >「待つ?・・・・何を?」 >「皆が来るのを・・・・ね。とりあえずは・・・・7人。最終的には倍くらいになるかな。」 ユア;・・・・倍? 久遠:七人は、下の七人よね。 ユア:なんんか、最終回に、向かってスタートダッシュな感じですね。 >「だから、それを待っていったいどうするんだ、って聞いてるんだよ!」 > 語り部は、窓の外から視線を戻し、ゆっくりと言った。 >「解き明かすのさ。『中枢予定表』が望んでいた『運命』、それが変わった結果の現在、アリエスを使って、『中枢予定表』が何をしようとしているのか。・・・・予想の範疇を出ないところもあるけれど、僕の知る全て・・・・本当に『全て』を。だから・・・・・・・・今は、待っている。」 ユア:あの××××××野郎の基本思考から、考えたら、その元の運命の結果?に戻そうとするのかしらね。 久遠:その罵倒語は、公共の場じゃ、危ないわよ。 ユア:理解済み、でもこの罵倒語でも、《中枢予定表》には、褒め言葉の範疇かと。 ・・・・・・・語り部さん、乙女チックヒーロー(ヒロイックヒロインでも可能)よね。 > > > * * * * * > > > それからしばらくは、静かな時が流れた。誰も、何も話そうとしない。 > 皆、わかっているのだ。口を開けば、全てを語りつくす・・・・或いは聞きつくすまで、言葉を止めることはできないのだと。 > だから、言葉はない。 > 静かな緊張感が、辺りを包んでいた。 ユア:こういうもどかしい、微妙な間って素敵ですね。 久遠:もうすぐ、だもんね、ジュリちゃんが、家族の写真で、似たようなことを誘発させるの。 > > と、語り部が動いた。その白く細い腕が、すっと持ち上がり、まっすぐ外を指し示す。 >「まず、6人。」 > エヴァンスとディスティアは、誘われるようにその指の先を見る。 > 木々の間をぬけて、現れた6人の影。 > 赤を纏う、若き伝説の魔道士・・・・リナ=インバース。 > 金の髪の、伝説の片割れ・・・・ガウリイ=ガブリエフ。 > 『白』の二つ名を持つ、合成獣の青年・・・・ゼルガディス=グレイワーズ。 > 熱き意思を湛えた巫女姫・・・・アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン。 > そして、揺らぐ悔恨の影と無限の慈愛を併せ持つ神官・・・・レンシェルマ=ヴァリードと・・・・・・・・ > > 語り部にとってはつい先ほど別れたばかりの・・・・しかし、実際には4日の時が過ぎた、彼。 > あの時、重い真実に打ちのめされ、光のなかったその瞳には、今は静かな『決意』のようなものが宿っている。 > 『四大家』の一つ、『護り』のサーヴァリルが末裔。儚く脆く、優しく強い、青年・・・・・・・・ルピナス=セレス=ヴァリード。 ユア:・・・・・・(ニィと、人の悪い笑み) 久遠:『おお皆さんだ。』『成長したね、我が息子。』って? ユア:大体は。 > >「来たね。」 > 語り部は、彼らにうっすら微笑みかけた。 >「・・・・・・・・」 > 無言で語り部を見つめるレンシェルマ。その瞳には、気遣わしげな色が宿っている。安心させるように笑みを深くして、語り部はレンシェルマに言った。 >「伝えて、くれたかい?」 >「・・・・・・・・はい。」 > レンシェルマが、静かに答える。語り部は、微笑んだまま頷いた。 > それに続けるように、ルピナスが口を開く。 >「あんた、まだ俺達に何か隠してるだろう!?」 > 語り部は、あえて答えと別のことを言う。 >「口調・・・・戻ったね。シオンの口調だ。」 >「はぐらかすな。」 > 言うルピナスは、しかし冷静で。それが、何かの覚悟を感じさせた。だから、語り部も答える・・・・その覚悟ゆえに。 久遠:男の子のこういう覚悟した感じの雰囲気って、美味しそうよね。 ユア:ルピは、男の子という年齢じゃないし、美味しそうってなに、美味しそうって? 確かに、かっこいいけど。 >「隠してる・・・・というより、言うべきタイミングを見計らっている、だね。・・・・でも、もう終わり。時は満ちた。僕はもう、何を語るにも制約を持たないよ。だから・・・・全てを語れる。推測に頼らざるを得ない部分もあるけれど、ね。」 > そして、6人を小屋に招きいれ、めいめい座らせると、空中を見て、言った。 >「盗み聞きをせずとも、ここに来て一緒に聞けばいい。君にも、その権利はあるのだから。」 > 答えはない。しかし、語り部は苦笑して続けた。そこに『誰か』がいると、確信しているように。 >「僕は言ったよ。待ち人は、『とりあえずは7人』だと。今、6人が現れた。最後の一人は、君だよ・・・・フェリセ。」 > 数瞬の沈黙。そして・・・・ ユア;・・・・・・・・・語り部さんの『話』に対する姿勢と《泉の乙女》の姿勢が、似てるような似てないような。 久遠:どちらも、タイミング計ってると? ユア;そう。 それと、たしかに、それは、性格悪いです、語り部さん。 >「・・・・・・・・性格悪いですよ、相変わらず。」 > 溶け出すように、銅色の人物が顕現する。 > かつては『混沌の王・ステラ=ウェリン=フェリセ=ディアライト』であった、アリエスの親友・・・・フェリセ=ニーランデルが。 > 一瞬、リナが色めきたつ。ガウリイもまた、緊張を瞳に浮かべ、ルピナスは・・・・・・・・一度、自分を殺した相手を凝視していた。その視線を真っ向から受け止めて、フェリセはルピナスに向けて口を開く。 >「謝りは、しないよ。あの時は、あれが正しいと思ってやったことだから。ただ・・・・・・・・生きててよかった、とは思う。 > ・・・・・・・・例え、『運命の一対』であったとしても、アリエスが好きになった相手だからね。」 >「あんた、知って・・・・」 > 驚きを隠せない声で、ルピナスは返す。フェリセは、静かに頷いた。 >「もちろん。だって・・・・アリエスの記憶の封印を解いたのは、あたしだもの。知ってなければ、しないし、出来ないよ。」 >「別に、知っていても不思議ではないよ。」 > このままでは埒が明かないと思ったのだろう。横から語り部が口を挟んだ。 >「フェリセは、元『混沌の王』だから。」 > > この後、大混乱が起こったことは・・・・・・・・まあ、言うまでもないことだろう。 ユア:フェリセさんって、気持ちのいい人ですよね。 久遠:そうよねぇ、普通は口にしにくいことをちゃんと口に出せるんだから。 > > > * * * * * > > > 混乱が収まるのを待って、語り部は再び口を開いた。 >「さて・・・・そろそろ時間もないことだし、続けていいかな?」 >「続けるも何も。結局、何を言いたくてここに人を集めたのか・・・・それすら、まだよくわからないのだけど?」 >「焦るな、ディスティア。すぐ話すさ。ただ、物事には順序がある。語ることは、あまりにも多い。だから・・・・一つずつ、語ろう。」 > 語り部は、そう言うと懐に手を入れ、『それ』を取り出した。 > 黒い表紙の、本。タイトルも何もないその本は、縁に金と赤で縁取りがしてある以外には装飾もない。 >「これは、『予定表』。この世界の『運命』が全て記された、『中枢予定表』の一欠片だ。本の形をとってはいるが、『本』というよりは、触れたものに知識を伝える記憶媒体、と言ったほうが正しいだろう。」 >「異界黙示録(クレアバイブル)のオリジナルみたいなものね。」 >「その通り。理解が早くて助かるよ、リナ=インバース。」 > 口を挟んだリナに微笑んで返し、語り部は続けた。 >「まず、語ること・・・・それは、この世界が本来辿るはずだった『運命』。・・・・ルピナスが生き返ったときに歪みが生じた、『中枢予定表』が本来進めようとしていた・・・・世界の破滅の物語だ。」 > 語り部はそう言い置いて、厳かに話し始めた。 ユア:どうなっていたんでしょうね。 久遠:一種の正義なんでしょうけど、変わったことをねじ曲げてまで、持ってこうとするのは・・・ね。 ユア:どのみち、興味深いです。 > > > あとがき、或いは語り部の告げる未来 >語:やあ、ここで会うのは本当に久しぶりだね。今回は、どうだったかな? > ここから、皆が合流してくる。その番外編も交えつつ進む物語を、どうか見守って欲しい。 > では、・・・・未来の欠片を、語ろうか。 > 一人の青年の死から、それは始まった。 > 少女は嘆き、絶望が心を壊す。 > 少女を対価に終焉をまぬかれた世界に待つのは、思いもよらなかった最悪の結末。 > これは、本来あったはずの、哀しい物語・・・・ > 次回、『時の旅人』59話、『嘆きと絶望の物語』 > では、また、次で会おうね。 > ユア:はい、楽しみにしてます。 二人:それでは、また次回。 > > |
17913 | 歪んだ道は元に戻るのか、予測できない未来に繋がるのか・・・・ | 羅城 朱琉 | 2006/11/27 08:41:29 |
記事番号17911へのコメント > >ユア:こんにちわ、微妙にハイテンションのユアです。 >久遠:胃痛とアレのダブルパンチだものね。 > 脳内麻薬垂れ流し似近いのかもしれないわね。」 >ユア:それでは、素敵に無敵にちょっと無礼に、レス行きます。 朱琉:こんにちは、ひたすらに遅くなった羅城 朱琉です。最近、胃の調子が思わしくなくて、そろそろ1日くらい絶食しようかと考えてたりします。それでも、テンションは結構ハイだったりします。 アミイ:絶食は休日にしなさい、流石に。学校行ってるときに食事抜くと、倒れるわよ、マジで。 朱琉:では、ロウなのかハイなのかよくわからないテンションで返レス参ります。 > >> >> アリエスとユヴェル・・・・『中枢予定表』の消えた場所を凝視したまま、語り部はしばし動かずにいた。やがて、その口が言葉を紡ぎだす。 >>「これで、あと一つ・・・・いや、二つか。」 >> そうとだけ言って、語り部は身を翻す。呆然と立ち尽くしたままのエヴァンスとディスティアに向かい、薄く微笑んだ。 >>「やあ。遅くなってしまったけど、改めて。久しぶりだね。」 >>「・・・・・・・・何を、考えている?」 >> 地を這うような暗い声。この声は、ディスティアのもの。 >>「一体、何がどうなっているんだよ・・・・」 >> どこか茫洋とした、これは、エヴァンスの声。 >> 語り部は、笑う。 >>「さて、何から語ろうか・・・・。」 >> そして、再び語り部は語る。先日、ルピナスたちの前で語ったことを。己の正体、アリエスのこと、『運命の一対』という運命、『中枢予定表』のこと・・・・。 >> 長い長い話が終わったその後で、語り部は言った。 >>「まあ、いろいろあった、ってことさ。」 >> 有りすぎるほどにあったたくさんのことを、最終的に『まあいろいろ』で片付けて、語り部はやはり笑う。 >> それは、どこか虚ろで、儚い笑顔だった。 > >久遠:流石と言うか、なんというか、ね。 >ユア;語り部節炸裂☆ってかんじですね。 >久遠:そうと言えば、そうだけど、少し違うと思うわ。 >ユア;じゃあ、語り部さんマジック。 > それ以上の追求を許さないと言う意味で。 アミイ:『語り部節』で、あってる気がするわ。 朱琉:あの人独特の語り口調、という意味でですね。 > >> >> >> 語り部に促され、二人は森の奥の小屋に入った。めいめい適当な位置に腰掛けて、語り部を見やる。『薄い微笑み』というポーカーフェイスを貼り付けた語り部は、窓枠に腰掛けて外を見ていた。 >> 痺れを切らしたエヴァンスが、語り部を呼ぶ。 >>「で・・・・わざわざここまで連れて来て座らせた、ってことは、まだ何かあるんだろう?」 >> ポーカーフェイスのまま、語り部は答える。 >>「あるよ。ただ、今は待っている。」 >>「待つ?・・・・何を?」 >>「皆が来るのを・・・・ね。とりあえずは・・・・7人。最終的には倍くらいになるかな。」 > >ユア;・・・・倍? >久遠:七人は、下の七人よね。 >ユア:なんんか、最終回に、向かってスタートダッシュな感じですね。 朱琉:正確には・・・・+8人? アミイ:一人くらい増減するかも、ってことで、すこし暈し気味。 朱琉:そして、そろそろ最終回に向けて、広げに広げまくった巨大風呂敷をたたみに行きます。 > >>「だから、それを待っていったいどうするんだ、って聞いてるんだよ!」 >> 語り部は、窓の外から視線を戻し、ゆっくりと言った。 >>「解き明かすのさ。『中枢予定表』が望んでいた『運命』、それが変わった結果の現在、アリエスを使って、『中枢予定表』が何をしようとしているのか。・・・・予想の範疇を出ないところもあるけれど、僕の知る全て・・・・本当に『全て』を。だから・・・・・・・・今は、待っている。」 > >ユア:あの××××××野郎の基本思考から、考えたら、その元の運命の結果?に戻そうとするのかしらね。 >久遠:その罵倒語は、公共の場じゃ、危ないわよ。 >ユア:理解済み、でもこの罵倒語でも、《中枢予定表》には、褒め言葉の範疇かと。 > ・・・・・・・語り部さん、乙女チックヒーロー(ヒロイックヒロインでも可能)よね。 朱琉:罵倒語・・・・・・・・(想像中)・・・・・・・・予測の範疇のものなら、ほぼ全て褒め言葉ですね・・・・。 アミイ:そうねぇ。あの馬鹿なら、そう思うわよねぇ。・・・・・・・・運命、元に戻すために、アリエスちゃん連れて行っちゃったし・・・・。 朱琉:で、それを何とかしようと動く語り部さん・・・・。第5部が終わるころには、さらに『ヒロイックヒロイン度』が増しそうです。 アミイ:『乙女チックヒーロー度』じゃなくて? 朱琉:どちらかといえば、『ヒロイックヒロイン』かと思われます。 > >> >> >> * * * * * >> >> >> それからしばらくは、静かな時が流れた。誰も、何も話そうとしない。 >> 皆、わかっているのだ。口を開けば、全てを語りつくす・・・・或いは聞きつくすまで、言葉を止めることはできないのだと。 >> だから、言葉はない。 >> 静かな緊張感が、辺りを包んでいた。 > >ユア:こういうもどかしい、微妙な間って素敵ですね。 >久遠:もうすぐ、だもんね、ジュリちゃんが、家族の写真で、似たようなことを誘発させるの。 朱琉:そういっていただけて嬉しいです&それは楽しみです。 > >> >> と、語り部が動いた。その白く細い腕が、すっと持ち上がり、まっすぐ外を指し示す。 >>「まず、6人。」 >> エヴァンスとディスティアは、誘われるようにその指の先を見る。 >> 木々の間をぬけて、現れた6人の影。 >> 赤を纏う、若き伝説の魔道士・・・・リナ=インバース。 >> 金の髪の、伝説の片割れ・・・・ガウリイ=ガブリエフ。 >> 『白』の二つ名を持つ、合成獣の青年・・・・ゼルガディス=グレイワーズ。 >> 熱き意思を湛えた巫女姫・・・・アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン。 >> そして、揺らぐ悔恨の影と無限の慈愛を併せ持つ神官・・・・レンシェルマ=ヴァリードと・・・・・・・・ >> >> 語り部にとってはつい先ほど別れたばかりの・・・・しかし、実際には4日の時が過ぎた、彼。 >> あの時、重い真実に打ちのめされ、光のなかったその瞳には、今は静かな『決意』のようなものが宿っている。 >> 『四大家』の一つ、『護り』のサーヴァリルが末裔。儚く脆く、優しく強い、青年・・・・・・・・ルピナス=セレス=ヴァリード。 > >ユア:・・・・・・(ニィと、人の悪い笑み) >久遠:『おお皆さんだ。』『成長したね、我が息子。』って? >ユア:大体は。 朱琉:今後、ルピ君にはきっちり成長していただきますv 朱琉:だって、アリエスちゃんを救えるのは、きっと、彼だけだもの。 > >> >>「来たね。」 >> 語り部は、彼らにうっすら微笑みかけた。 >>「・・・・・・・・」 >> 無言で語り部を見つめるレンシェルマ。その瞳には、気遣わしげな色が宿っている。安心させるように笑みを深くして、語り部はレンシェルマに言った。 >>「伝えて、くれたかい?」 >>「・・・・・・・・はい。」 >> レンシェルマが、静かに答える。語り部は、微笑んだまま頷いた。 >> それに続けるように、ルピナスが口を開く。 >>「あんた、まだ俺達に何か隠してるだろう!?」 >> 語り部は、あえて答えと別のことを言う。 >>「口調・・・・戻ったね。シオンの口調だ。」 >>「はぐらかすな。」 >> 言うルピナスは、しかし冷静で。それが、何かの覚悟を感じさせた。だから、語り部も答える・・・・その覚悟ゆえに。 > >久遠:男の子のこういう覚悟した感じの雰囲気って、美味しそうよね。 >ユア:ルピは、男の子という年齢じゃないし、美味しそうってなに、美味しそうって? > 確かに、かっこいいけど。 朱琉:美味しい・・・・・・・・? アミイ:ツッコミは無しよv朱琉。 > >>「隠してる・・・・というより、言うべきタイミングを見計らっている、だね。・・・・でも、もう終わり。時は満ちた。僕はもう、何を語るにも制約を持たないよ。だから・・・・全てを語れる。推測に頼らざるを得ない部分もあるけれど、ね。」 >> そして、6人を小屋に招きいれ、めいめい座らせると、空中を見て、言った。 >>「盗み聞きをせずとも、ここに来て一緒に聞けばいい。君にも、その権利はあるのだから。」 >> 答えはない。しかし、語り部は苦笑して続けた。そこに『誰か』がいると、確信しているように。 >>「僕は言ったよ。待ち人は、『とりあえずは7人』だと。今、6人が現れた。最後の一人は、君だよ・・・・フェリセ。」 >> 数瞬の沈黙。そして・・・・ > >ユア;・・・・・・・・・語り部さんの『話』に対する姿勢と《泉の乙女》の姿勢が、似てるような似てないような。 >久遠:どちらも、タイミング計ってると? >ユア;そう。 > それと、たしかに、それは、性格悪いです、語り部さん。 アミイ:元から、あまり性格よくはないけれど・・・・ね。 朱琉:語り部さんなりに、考えあってのことですから。 > >>「・・・・・・・・性格悪いですよ、相変わらず。」 >> 溶け出すように、銅色の人物が顕現する。 >> かつては『混沌の王・ステラ=ウェリン=フェリセ=ディアライト』であった、アリエスの親友・・・・フェリセ=ニーランデルが。 >> 一瞬、リナが色めきたつ。ガウリイもまた、緊張を瞳に浮かべ、ルピナスは・・・・・・・・一度、自分を殺した相手を凝視していた。その視線を真っ向から受け止めて、フェリセはルピナスに向けて口を開く。 >>「謝りは、しないよ。あの時は、あれが正しいと思ってやったことだから。ただ・・・・・・・・生きててよかった、とは思う。 >> ・・・・・・・・例え、『運命の一対』であったとしても、アリエスが好きになった相手だからね。」 >>「あんた、知って・・・・」 >> 驚きを隠せない声で、ルピナスは返す。フェリセは、静かに頷いた。 >>「もちろん。だって・・・・アリエスの記憶の封印を解いたのは、あたしだもの。知ってなければ、しないし、出来ないよ。」 >>「別に、知っていても不思議ではないよ。」 >> このままでは埒が明かないと思ったのだろう。横から語り部が口を挟んだ。 >>「フェリセは、元『混沌の王』だから。」 >> >> この後、大混乱が起こったことは・・・・・・・・まあ、言うまでもないことだろう。 > > >ユア:フェリセさんって、気持ちのいい人ですよね。 >久遠:そうよねぇ、普通は口にしにくいことをちゃんと口に出せるんだから。 朱琉:ある意味、この話の中で一番まともでいい人です。 アミイ:とてもまっすぐで、優しくて、思いやりがあって・・・・それゆえに道を間違えることもあるけれど、それを認めて、先へ進める。 それがきっと、フェリセちゃんの強さなのよ。 > >> >> >> * * * * * >> >> >> 混乱が収まるのを待って、語り部は再び口を開いた。 >>「さて・・・・そろそろ時間もないことだし、続けていいかな?」 >>「続けるも何も。結局、何を言いたくてここに人を集めたのか・・・・それすら、まだよくわからないのだけど?」 >>「焦るな、ディスティア。すぐ話すさ。ただ、物事には順序がある。語ることは、あまりにも多い。だから・・・・一つずつ、語ろう。」 >> 語り部は、そう言うと懐に手を入れ、『それ』を取り出した。 >> 黒い表紙の、本。タイトルも何もないその本は、縁に金と赤で縁取りがしてある以外には装飾もない。 >>「これは、『予定表』。この世界の『運命』が全て記された、『中枢予定表』の一欠片だ。本の形をとってはいるが、『本』というよりは、触れたものに知識を伝える記憶媒体、と言ったほうが正しいだろう。」 >>「異界黙示録(クレアバイブル)のオリジナルみたいなものね。」 >>「その通り。理解が早くて助かるよ、リナ=インバース。」 >> 口を挟んだリナに微笑んで返し、語り部は続けた。 >>「まず、語ること・・・・それは、この世界が本来辿るはずだった『運命』。・・・・ルピナスが生き返ったときに歪みが生じた、『中枢予定表』が本来進めようとしていた・・・・世界の破滅の物語だ。」 >> 語り部はそう言い置いて、厳かに話し始めた。 > >ユア:どうなっていたんでしょうね。 >久遠:一種の正義なんでしょうけど、変わったことをねじ曲げてまで、持ってこうとするのは・・・ね。 >ユア:どのみち、興味深いです。 朱琉:ある意味、とても平和な未来です。 アミイ:ある時期まではね。そして、ある意味ではとても公平。でも、それは・・・・少数の犠牲の上に成り立っている。 朱琉:『大を生かすために小を殺す』のか、『大小共倒れの可能性を抱いても、両方を生かす術をとる』のか・・・・。 アミイ:どちらも、間違いじゃない。どっちが正しくもない。ただ、己の信念に見合うのがどちらか、という問題よ。 > >> >> >> あとがき、或いは語り部の告げる未来 >>語:やあ、ここで会うのは本当に久しぶりだね。今回は、どうだったかな? >> ここから、皆が合流してくる。その番外編も交えつつ進む物語を、どうか見守って欲しい。 >> では、・・・・未来の欠片を、語ろうか。 >> 一人の青年の死から、それは始まった。 >> 少女は嘆き、絶望が心を壊す。 >> 少女を対価に終焉をまぬかれた世界に待つのは、思いもよらなかった最悪の結末。 >> これは、本来あったはずの、哀しい物語・・・・ >> 次回、『時の旅人』59話、『嘆きと絶望の物語』 >> では、また、次で会おうね。 >> > >ユア:はい、楽しみにしてます。 >二人:それでは、また次回。 朱琉:はいでは、また。 二人:また今度! > > >> >> |
17925 | 時の旅人 59:嘆きと絶望の物語 | 羅城 朱琉 | 2006/12/22 08:23:30 |
記事番号17870へのコメント こんにちは、お久しぶりです、羅城 朱琉です。 実習やら試験やら何やらで、本当に遅くなってしまいました、すみません。 では、早速どうぞ。 注)ダーク&シリアスにつき、注意してください。 時の旅人 59:嘆きと絶望の物語 「まずは、注意事項。この『予定表』は、本来全ての歴史が記されている。目的としている部分を見るために、なるべく余計なことは考えず、頭を白紙にしておくこと。そうでないと、考えに引きずられて全然違うものが見える可能性があるからね。・・・・まあ、逆に言えば、強く望めば別のことも見える。ただ、今は必要ないだろう?僕がナビするから、完全に視点が定まるまでは何も考えないように。 もう一つ、見ている間は、僕から離れないように。これから見るものは、ただの記録。何が見えても、それはどうすることも出来ない。・・・・わかったかな?」 そう言って、語り部は一人一人を見る。全員が頷いたのを確認して、語り部は右手を差し出した。 「手を。」 短い指示に、皆が語り部の手に自らの手を重ねる。 そして、語り部は左手で『予定表』を掲げ、聞き取れないような小声で、呪文を呟いた。 * * * * * ひゅう、と、風を切るような音がした。同時に、痛みを感じるほどの寒さがルピナスを襲う。しかし、それは一瞬のことで、すぐさまその感覚は消失した。いつの間にか閉じていた目をゆっくりと開くと・・・・そこは一面灰色の世界だった。 辺りを見回すと、皆が同じく辺りを見回している。よく見ると、全員を取り巻くように、薄く発光する銀色の輪が浮かんでおり、その中心に語り部がいた。語り部は、半眼でその右手の上を見つめている。目を凝らすと、そこには金と銀の入り混じった光の螺旋環が回っていた。 やがて、周りの灰色に他の色が混ざり始める。それは見る間に形を整え、見覚えのある場所となった。 語り部が呟く。 「ルピナスが一度死んだあの日・・・・場所は『自由宮殿(フリーダムパレス)』。ここから、運命は決定的に変わった。それまでも、少しずつ変わってはいたけれど・・・・ここから、見ていくよ。 『予定表』に記された歴史では、ルピナスはここで命を落とすことになっていた。」 まるで本当にその場所にいるかのような臨場感で、周りは動いていく。 ―― フェリセの手から放たれる、3条の光。 ルピナスを庇うように、立ちはだかるアリエス。 それでも、光はルピナスを貫く。 ―― 「『癒霊捧歌(サティナ・カントゥス)』は、発動しない。アリエスの魔力が、足りない。」 ―― 詠うような呪文をアリエスは唱える。 しかし、何も起こらない。 深紅に染まった手を呆然と見つめて、アリエスは放心したように天を見上げる。 唇が動き、言葉を紡ぐ。 「私は・・・・私は、また、守れなかった・・・・・・・・」 嘆くでもなく、叫ぶでもなく・・・・しかし、あまりにも切ない、虚ろな声で。 ―― 「絶望が、心を壊す。そして・・・・」 ―― その瞳から流れる、一筋の涙。 涙に色を奪われたのか、涙が色を染め替えたのか・・・・ アリエスの瞳から、光が消える。色が消える。 残ったのは・・・・ ―― 「赤き魔王が、解放される。」 ―― 暗い暗い、真紅の闇色。 アリエスは・・・・『アリエス』だったものは、嗤う。 闇に染まった笑みで。 『赤眼の魔王(ルビーアイ)』シャブラニグドゥとして・・・・ ―― 「なっ・・・・!?」 その呻きは、一体誰のものなのだろうか?呻きすら洩らせず、アリエスを見続けるルピナスには解らない。 「アリエスの内には、魔王の欠片がある。7つの欠片のうち、3つが。それは、生来のものではない。瘴気を封じる『封魔体質』・・・・フェラナート家の真の目的は、始祖たるリブラがその身に封じた2つの欠片を解放しないよう護り続けること。アリエスはその欠片を受け継ぎ、さらに1つの欠片を発見・封印した。 しかし、それはとても危険なことだ。アリエスの意思がしっかりしているうちはいい。欠片とはいえ魔王を押さえておけるほどに、アリエスは強い。しかし・・・・」 語り部は一呼吸置き、呟くように言う。淡々とした中に、僅かな苦渋を滲ませて。 「一度、箍が外れれば、魔王はアリエスの身体を乗っ取り覚醒する。時の力に護られた、滅多なことでは傷ひとつつけられないアリエスの身体を・・・・ね。 ・・・・最強の魔王サマの出来上がりだ。 ・・・・・・・・と、ここで世界が終わっていれば、まだ良かったのかもしれないね。」 周囲に変化が訪れる。いつの間にか、『自由宮殿(フリーダムパレス)』は地に落ちていた。 ―― 瓦礫の中、嗤う『アリエス=シャブラニグドゥ』。歓喜するように、集う魔族たち。 しかし、その動きが突如止まる。アリエス=シャブラニグドゥのすぐ傍に、小さな光が生じていた。 落下の衝撃を殺しきれなかったのだろう、満身創痍と言ったほうが正しいであろうが、強い光を宿した瞳がある。 リナ=インバース。ガウリイ=ガブリエフ。ゼルガディス=グレイワーズ。アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン。そして・・・・レンシェルマ=ヴァリード。 アリエス=シャブラニグドゥは嗤う。いっそ愉快だと言わんばかりに、涼やかなソプラノで・・・・アリエスの声で、語る。 「ほう・・・・三度見えたな、魔道士よ。名は・・・・リナ=インバース、と言ったか?」 そして、次いでレンシェルマを見る。 「シーシェンズの若造か・・・・。なるほど、お前なら、我を封じることも叶おうな。だが・・・・出来まい。この我を・・・・『アリエス=オルフェーゼ』を、封じることなどな。」 余裕の表情で、アリエス=シャブラニグドゥは手を翳す。膨大な魔力が集い・・・・放たれようとしたその瞬間、アリエス=シャブラニグドゥは動きを止めた。 「おのれ・・・・・・・・」 苦悶の表情で睨みつけるのは、5人の遥か後ろ。そこには、4つの人影が立っていた。 一人は、黒髪に濃紺の瞳の、どことなくレンシェルマに似た壮年男性。 一人は、白いフード付のマントで顔を半分以上隠した、戦士のような動きやすい赤の服を着た、恐らくは少女であろう人物。 一人は、白髪に髭を蓄え、杖を突いた、好々爺然とした老人。 一人は、蒼い長髪をポニーテールに纏め、目隠しをした、異国の剣士風の女性。 「・・・・・・・・兄さん・・・・・・・・」 レンシェルマの、呆然とした声がする。壮年男性がレンシェルマを一瞥し、冷ややかな声で吐き捨てた。 「フン・・・・役立たずめが。」 レンシェルマは、痛みを堪えるような顔で地面に視線を落とした。 ―― 「彼らは、『シーシェンズ』と『ヴェルリュード』の直系たちだ。 壮年男性が、グラン=ディオ=エレル=シーシェンズ。・・・・レンシェルマの、兄。 フードを被った少女が、オカリナ=ロンド=エフェメル=シーシェンズ。レンシェルマにとっては、姪に当たる。 老人が、アレックス=フレジル=ヤン=ヴェルリュード。 異国の剣士風の女性が、プロト=テンノ=ノア=ヴェルリュード。」 ふと、レンシェルマの様子が気になって、ルピナスは辺りを見回す。しかし・・・・・・・なぜか、レンシェルマはいない。 怪訝に思っているうちに、周りは先に進んでいく。 ――「魔に、堕ちたか。『フェラナート』の末裔よ。」 グランが、苦々しげに言う。何かしらの力が発動しているのだろう、その手に白い光が灯っていた。 オカリナの手の内にも同じ光が生じ、それによってアリエス=シャブラニグドゥはよりいっそう苦悶の表情に顔を歪める。 その横で、アレックスが深々と溜息をついた。 「聞いたところ、お前様は相当に長く生きておるようじゃな。・・・・あるいは、よく耐えた、と言うべきなのやもしれん。」 その手元で、杖がかちりと鳴る。杖から引き抜かれた刃が、青い電光を纏った。そして、少ししわがれた深い声で、言う。 「今まで大層、辛かったことじゃろう・・・・。・・・・・・・・ここで殺してやるのが、お前様に対する、せめてもの礼じゃ。」 プロトが、一歩前に出る。携えた長刀を一息に抜き払うと、やはりその刃に青い電光が走った。 「お待ちください、御老公。この者の器自体は・・・・まだ、使えるかと。」 そう言って、グランは光を灯した右手を掲げる。より一層の白光が、その手を包んだ。 「貴重な『フェラナート』・・・・その、最大の器といわれたものです。殺してしまうのではなく・・・・償わせましょう。その身を、更なる器とすることで。」 そして・・・・グランとオカリナ、二人の手の内から、周囲を染め上げるほどの白い光が溢れた。 最後に聞こえたのは・・・・アリエス=シャブラニグドゥの、苦しげな叫び・・・・。 ―― 「シーシェンズの力は『許し』。魔に囚われたものを、眠らせる。時から切り離し、永久に覚めない眠りのうちに封じる。そうして・・・・苦痛の生から解放されることを『許して』やる。 そして、ヴェルリュードの力は『裁き』。こっちはもっと単純に、魔に囚われたものを倒す力だ。相手がいかに強かろうと、時の壁があったとしても・・・・あらゆる理を無視して、ただただ相手を『裁く』のさ。」 語り部は、そう言って少し目を細めた。・・・・嗤っている。『四大家』たちを見て、嘲るように。 「彼らは・・・・『四大家』の存在意義を、覚えてはいないのだろうね・・・・。だから、こんなことが言えるんだ。」 ―― 光が収まった後、そこに『魔王』はいなかった。 いたのは、崩折れ、ぴくりとも動かない『アリエス』。グランは無遠慮にアリエスに近づき、荷物を運ぶようにアリエスを担ぐ。 他は誰も、動かない。いや・・・・動けない。・・・・いや。レンシェルマだけが、ゆっくりと立ち上がった。そして、グランの前に立ちふさがる。 グランは、それを見て・・・・嘲笑した。 「何の真似だ?レンシェルマ。・・・・まさか、『なぜこの娘を』などと言うわけではあるまいな?」 レンシェルマは押し黙る。・・・・まさに、それを言おうとしていた。 「フン・・・・。出来損ないは、やはり出来損ないだな。仮にも『シーシェンズ』を名乗るものが、それが?見苦しい。役目を果たしただけだ。それすら理解できんか?」 「だからと言って・・・・こんなやり方が・・・・ッ!!」 怒りと、困惑と、驚愕とで震えるレンシェルマの声が、痛々しい。しかし、グランは気にも止めはしなかった。 「これが、我々のやり方だ。文句は言わせん。」 自らを『正義』と信じるが故の、傲岸不遜さ。それが、今のグランの声にはあった。 ―― 「ある意味、これから後の世界は、とても平和なものだったんだよね。でも・・・・その『平和』のために犠牲となったものを知るものは、いない。」 それからしばらく、早送りで時は進んだ。 復興し、痛手から立ち直った世界。大きな災いもなく、文明は少しずつ進歩していっている。対して、ほぼ全ての魔王の欠片を失った魔族は、あまり表立って活動はしなくなった。 文明の進歩と、魔族の脅威からの解放。それによって、魔法は徐々に衰退していく。特に、『攻撃魔法』と呼ばれるものの衰退は著しい。そして・・・・残るのは2つの家だけとなったかつての『四大家』においても、やはり力の衰退は起こっていた。 そして、およそ1000年の月日が流れた・・・・。 ―― 最初に『それ』に気がついたのは、その時代『シーシェンズ』を名乗っていた、一人の少女だった。 彼女はしかし、シーシェンズの力を持ってはいない。ほかの者たちも・・・・。もはや、シーシェンズの力を持つものは、誰一人として存在していなかった。 時を止められ、永遠の眠りについている者たちのいる場所・・・・『奥津城』と呼ばれるそこで、『彼女』は目覚める。 腰より長い艶やかな髪は、光を弾く銀色。 古めかしい旅装束は、今となってはほとんどいない『魔道士』のもの。 二度と開かれぬはずだったその瞳は、今ははっきりと開かれ・・・・右は、万変の淡緑色、左は、禍々しいほどに鮮やかな深紅。 「誰・・・・!?」 怯えた声で、シーシェンズの少女が問う。『彼女』は、辺りを見回し・・・・虚ろに微笑んだ。 「ああ・・・・一体、どれほどの時が過ぎたのか・・・・。まさか、再び目覚めることになろうとはな・・・・。」 悠然とした態度で、『彼女』は立ち上がる。そして、その目がようやくシーシェンズの少女に向けられた。 「誰か、と問うたな?・・・・私は、かつて『アリエス=オルフェーゼ=ヴィータ=フェラナート』と呼ばれし者。 そして、『赤眼の魔王(ルビーアイ)シャブラニグドゥ』であったもの。 今は・・・・何、なのだろうな・・・・?私が知りたいよ。」 ―― 「何が要因だったのか・・・・そんなことはわからない。ただ、『中枢予定表』が適当に決めたことなのかもしれない。確かなことは・・・・ここに立つ『彼女』は、アリエスであり、魔王であり、そのどちらでもないもの。」 ――「ただ一つ、確かなことは・・・・私の役割。私の望み。 ・・・・・・・・この無意味な世界に・・・・・・・・私に数多の犠牲を強いてきたこの世界に、終焉を。」 それが、シーシェンズの少女が最後に聞いた言葉だった。 ―― そして、深紅に染まる視界。 ―― それから先は、ただ破壊と殺戮で世界は埋め尽くされた。人も、動物も、植物も。神や・・・・魔族でさえ。 『彼女』は、全てを等しく薙ぎ払う。闇色に染まった、時の魔力で。 『彼女』は、しかし、何も還さない。混沌へと還ることすら、世界に許さない。 完全なる消失。完全なる『無』。 それが、この世界を滅ぼすまで・・・・そう長い時間はかからなかった。 ―― 世界が滅びる、その瞬間。全てが無に消える、その刹那。皆は見た。 全てが消え去ったその後で、自らが放った消滅の闇に飲まれながら・・・・・・・・『彼女』が、アリエスの顔で・・・・とても嬉しそうに、笑っていたのを。 そして、暗転。 「これが、『中枢予定表』が定めていた未来の、その結末。 『混沌』と『時』の多大な干渉を受けたこの世界が周囲に及ぼす影響を払拭し、それでいて、最も苦しむものが少ない・・・・そんな、『幸せな末路』。」 語り部は、そう締めくくる。 深淵の闇は徐々に薄れ、元の世界へと戻りつつあった。 あまりに大きな衝撃のため麻痺した頭の片隅で、ルピナスはふと思う。 (そういえば・・・・レンさんはどこへ行ったのだろう・・・・?) と。 あとがき、或いは語り部の告げる未来 語:やあ、こんにちは。今回はどうだったかな?僕からは・・・・ちょっと、今回はノーコメントだ。 さて、次回は、なぜかいなかったレンシェルマの方に話は移る。では、少し、語ろうか。 それはやはり、一人の青年の死から始まった。 少女に残るのは、『護れなかった』という思い。『護りたい』という願い。 深紅の大地で目覚めた少女は、薄れゆく記憶に縋り、旅立つ。 苦い悔恨と、切なる願いと共に・・・・ 次回、『時の旅人』60話、『哀しみと贖罪の記憶』 次回は、来年になるね。寒くて風邪も流行っているし、ノロウィルスも猛威を振るっているし・・・・。本当に体調には気をつけて。 じゃあ、またね。よいお年を! |
17926 | Re:時の旅人 59:嘆きと絶望の物語 | 神高 紅 | 2006/12/24 23:52:46 |
記事番号17925へのコメント 紅:メリークリスマス!お必死ぶりです羅城さん!紅です。 コ:どうも『本当に』久しぶりだな。コウだ。 ク:どうも……『ホントー』にお久しぶりですね……クロスです…… 紅:…………ごめん、謝るからそれ以上強調しないで…… コ:サボり倒したお前が悪い。 紅:うう反省してます、ではレス感想いきます…… >「なっ・・・・!?」 > その呻きは、一体誰のものなのだろうか?呻きすら洩らせず、アリエスを見続けるルピナスには解らない。 >「アリエスの内には、魔王の欠片がある。7つの欠片のうち、3つが。それは、生来のものではない。瘴気を封じる『封魔体質』・・・・フェラナート家の真の目的は、始祖たるリブラがその身に封じた2つの欠片を解放しないよう護り続けること。アリエスはその欠片を受け継ぎ、さらに1つの欠片を発見・封印した。 > しかし、それはとても危険なことだ。アリエスの意思がしっかりしているうちはいい。欠片とはいえ魔王を押さえておけるほどに、アリエスは強い。しかし・・・・」 > 語り部は一呼吸置き、呟くように言う。淡々とした中に、僅かな苦渋を滲ませて。 紅:3つは規格外にも程があるでしょう。 コ:単純に考えても三倍の負荷か。 ク:肉体的にも何か問題はないんでしょうか…… >「一度、箍が外れれば、魔王はアリエスの身体を乗っ取り覚醒する。時の力に護られた、滅多なことでは傷ひとつつけられないアリエスの身体を・・・・ね。 > ・・・・最強の魔王サマの出来上がりだ。 > ・・・・・・・・と、ここで世界が終わっていれば、まだ良かったのかもしれないね。」 > > 周囲に変化が訪れる。いつの間にか、『自由宮殿(フリーダムパレス)』は地に落ちていた。 コ:性質悪いな、そりゃ。ほぼ、完全無敵じゃねえか。 ク:何時までも切れない無敵モード……卑怯にも程がありますね…… > 苦悶の表情で睨みつけるのは、5人の遥か後ろ。そこには、4つの人影が立っていた。 > 一人は、黒髪に濃紺の瞳の、どことなくレンシェルマに似た壮年男性。 > 一人は、白いフード付のマントで顔を半分以上隠した、戦士のような動きやすい赤の服を着た、恐らくは少女であろう人物。 > 一人は、白髪に髭を蓄え、杖を突いた、好々爺然とした老人。 > 一人は、蒼い長髪をポニーテールに纏め、目隠しをした、異国の剣士風の女性。 > 「・・・・・・・・兄さん・・・・・・・・」 > レンシェルマの、呆然とした声がする。壮年男性がレンシェルマを一瞥し、冷ややかな声で吐き捨てた。 > 「フン・・・・役立たずめが。」 > レンシェルマは、痛みを堪えるような顔で地面に視線を落とした。 ―― 紅:兄登場、でもなんかいやーな空気。 ク:兄弟仲良くしなきゃダメですよー…… コ:いや、そんな状況でも、空気でもねーだろーが。 >「彼らは、『シーシェンズ』と『ヴェルリュード』の直系たちだ。 > 壮年男性が、グラン=ディオ=エレル=シーシェンズ。・・・・レンシェルマの、兄。 > フードを被った少女が、オカリナ=ロンド=エフェメル=シーシェンズ。レンシェルマにとっては、姪に当たる。 > 老人が、アレックス=フレジル=ヤン=ヴェルリュード。 > 異国の剣士風の女性が、プロト=テンノ=ノア=ヴェルリュード。」 > ふと、レンシェルマの様子が気になって、ルピナスは辺りを見回す。しかし・・・・・・・なぜか、レンシェルマはいない。 > 怪訝に思っているうちに、周りは先に進んでいく。 紅:なんかプロトが普通に偉い立場に見える!? コ:下っ端じゃなかったのか。 紅:まさか、直系までになっているとは…… > ――「魔に、堕ちたか。『フェラナート』の末裔よ。」 > グランが、苦々しげに言う。何かしらの力が発動しているのだろう、その手に白い光が灯っていた。 > オカリナの手の内にも同じ光が生じ、それによってアリエス=シャブラニグドゥはよりいっそう苦悶の表情に顔を歪める。 > その横で、アレックスが深々と溜息をついた。 > 「聞いたところ、お前様は相当に長く生きておるようじゃな。・・・・あるいは、よく耐えた、と言うべきなのやもしれん。」 > その手元で、杖がかちりと鳴る。杖から引き抜かれた刃が、青い電光を纏った。そして、少ししわがれた深い声で、言う。 > 「今まで大層、辛かったことじゃろう・・・・。・・・・・・・・ここで殺してやるのが、お前様に対する、せめてもの礼じゃ。」 > プロトが、一歩前に出る。携えた長刀を一息に抜き払うと、やはりその刃に青い電光が走った。 > 「お待ちください、御老公。この者の器自体は・・・・まだ、使えるかと。」 > そう言って、グランは光を灯した右手を掲げる。より一層の白光が、その手を包んだ。 > 「貴重な『フェラナート』・・・・その、最大の器といわれたものです。殺してしまうのではなく・・・・償わせましょう。その身を、更なる器とすることで。」 > そして・・・・グランとオカリナ、二人の手の内から、周囲を染め上げるほどの白い光が溢れた。 > > 最後に聞こえたのは・・・・アリエス=シャブラニグドゥの、苦しげな叫び・・・・。 ―― ク:まるで勝手な言い方ですね……礼だの、償いだの、使えるだの……はっきり言って、私はあまり好きじゃないです…… コ:まあ、胸糞悪いのは確かだな。口出すつもりはないがな。 >「シーシェンズの力は『許し』。魔に囚われたものを、眠らせる。時から切り離し、永久に覚めない眠りのうちに封じる。そうして・・・・苦痛の生から解放されることを『許して』やる。 > そして、ヴェルリュードの力は『裁き』。こっちはもっと単純に、魔に囚われたものを倒す力だ。相手がいかに強かろうと、時の壁があったとしても・・・・あらゆる理を無視して、ただただ相手を『裁く』のさ。」 > 語り部は、そう言って少し目を細めた。・・・・嗤っている。『四大家』たちを見て、嘲るように。 >「彼らは・・・・『四大家』の存在意義を、覚えてはいないのだろうね・・・・。だから、こんなことが言えるんだ。」 コ:裁くだの許すだのご大層なことだな。 ク:自らの存在意義を忘れる……それはなんて悲しい事でしょう…… 紅:時間はあらゆるものを風化させてしまいますからねえ。 > ―― 光が収まった後、そこに『魔王』はいなかった。 > いたのは、崩折れ、ぴくりとも動かない『アリエス』。グランは無遠慮にアリエスに近づき、荷物を運ぶようにアリエスを担ぐ。 > 他は誰も、動かない。いや・・・・動けない。・・・・いや。レンシェルマだけが、ゆっくりと立ち上がった。そして、グランの前に立ちふさがる。 > グランは、それを見て・・・・嘲笑した。 > 「何の真似だ?レンシェルマ。・・・・まさか、『なぜこの娘を』などと言うわけではあるまいな?」 > レンシェルマは押し黙る。・・・・まさに、それを言おうとしていた。 > 「フン・・・・。出来損ないは、やはり出来損ないだな。仮にも『シーシェンズ』を名乗るものが、それが?見苦しい。役目を果たしただけだ。それすら理解できんか?」 > 「だからと言って・・・・こんなやり方が・・・・ッ!!」 > 怒りと、困惑と、驚愕とで震えるレンシェルマの声が、痛々しい。しかし、グランは気にも止めはしなかった。 > 「これが、我々のやり方だ。文句は言わせん。」 > 自らを『正義』と信じるが故の、傲岸不遜さ。それが、今のグランの声にはあった。 ―― 紅:レンさんはこのまま生かせるわけにはいかないでしょうけど、相手が悪すぎますね。 コ:まあ、このグランの行動も確かに正義だろうな。レンシェルマから見たなら悪であろうと、多数にとって正しいかどうかは関係なくな。 ク:ですが、私は少なくとも……許容したくありません…… コ:それに関しては俺も同意だな。 >「何が要因だったのか・・・・そんなことはわからない。ただ、『中枢予定表』が適当に決めたことなのかもしれない。確かなことは・・・・ここに立つ『彼女』は、アリエスであり、魔王であり、そのどちらでもないもの。」 > > ――「ただ一つ、確かなことは・・・・私の役割。私の望み。 > ・・・・・・・・この無意味な世界に・・・・・・・・私に数多の犠牲を強いてきたこの世界に、終焉を。」 > それが、シーシェンズの少女が最後に聞いた言葉だった。 ―― > > そして、深紅に染まる視界。 紅:なんかFF5のネオエクスデスみたい。 コ:また分かりにくいたとえを。 ク:台詞から……まるで世界に復讐を求めている……そう呟いているよう見えます…… > 世界が滅びる、その瞬間。全てが無に消える、その刹那。皆は見た。 > 全てが消え去ったその後で、自らが放った消滅の闇に飲まれながら・・・・・・・・『彼女』が、アリエスの顔で・・・・とても嬉しそうに、笑っていたのを。 > > そして、暗転。 > >「これが、『中枢予定表』が定めていた未来の、その結末。 > 『混沌』と『時』の多大な干渉を受けたこの世界が周囲に及ぼす影響を払拭し、それでいて、最も苦しむものが少ない・・・・そんな、『幸せな末路』。」 > 語り部は、そう締めくくる。 紅:本当にこれが幸せと呼べるのでしょうか。 コ:さあな、その相手が誰かにもよるさ。多数のために少数を潰す、中枢予定表としての働きならなにも間違っちゃいないのかもな。 ク:でも……やりきれないです…… > あとがき、或いは語り部の告げる未来 >語:やあ、こんにちは。今回はどうだったかな?僕からは・・・・ちょっと、今回はノーコメントだ。 > さて、次回は、なぜかいなかったレンシェルマの方に話は移る。では、少し、語ろうか。 > それはやはり、一人の青年の死から始まった。 > 少女に残るのは、『護れなかった』という思い。『護りたい』という願い。 > 深紅の大地で目覚めた少女は、薄れゆく記憶に縋り、旅立つ。 > 苦い悔恨と、切なる願いと共に・・・・ > 次回、『時の旅人』60話、『哀しみと贖罪の記憶』 > > 次回は、来年になるね。寒くて風邪も流行っているし、ノロウィルスも猛威を振るっているし・・・・。本当に体調には気をつけて。 > じゃあ、またね。よいお年を! 紅:ではでは、さよーなら。こちらこそよいお年を。 コ:じゃあな。 ク:バイバイ…… |
17930 | 大を生かし、小を殺した。 | 羅城 朱琉 | 2007/1/13 11:46:41 |
記事番号17926へのコメント >紅:メリークリスマス!お必死ぶりです羅城さん!紅です。 >コ:どうも『本当に』久しぶりだな。コウだ。 >ク:どうも……『ホントー』にお久しぶりですね……クロスです…… >紅:…………ごめん、謝るからそれ以上強調しないで…… >コ:サボり倒したお前が悪い。 >紅:うう反省してます、ではレス感想いきます…… 朱琉:こんにちは、あけましておめでとうございます、羅城 朱琉です。 カタリ:やあ、久しぶりだね。今年も遅筆だと思うけど、よろしく頼むよ。 じゃあ、早速返レスと行こうか。 > >>「なっ・・・・!?」 >> その呻きは、一体誰のものなのだろうか?呻きすら洩らせず、アリエスを見続けるルピナスには解らない。 >>「アリエスの内には、魔王の欠片がある。7つの欠片のうち、3つが。それは、生来のものではない。瘴気を封じる『封魔体質』・・・・フェラナート家の真の目的は、始祖たるリブラがその身に封じた2つの欠片を解放しないよう護り続けること。アリエスはその欠片を受け継ぎ、さらに1つの欠片を発見・封印した。 >> しかし、それはとても危険なことだ。アリエスの意思がしっかりしているうちはいい。欠片とはいえ魔王を押さえておけるほどに、アリエスは強い。しかし・・・・」 >> 語り部は一呼吸置き、呟くように言う。淡々とした中に、僅かな苦渋を滲ませて。 > >紅:3つは規格外にも程があるでしょう。 >コ:単純に考えても三倍の負荷か。 >ク:肉体的にも何か問題はないんでしょうか…… カタリ:体に影響・・・・出てるよね? 朱琉:多少。まだ描写していませんが。 > >>「一度、箍が外れれば、魔王はアリエスの身体を乗っ取り覚醒する。時の力に護られた、滅多なことでは傷ひとつつけられないアリエスの身体を・・・・ね。 >> ・・・・最強の魔王サマの出来上がりだ。 >> ・・・・・・・・と、ここで世界が終わっていれば、まだ良かったのかもしれないね。」 >> >> 周囲に変化が訪れる。いつの間にか、『自由宮殿(フリーダムパレス)』は地に落ちていた。 > >コ:性質悪いな、そりゃ。ほぼ、完全無敵じゃねえか。 >ク:何時までも切れない無敵モード……卑怯にも程がありますね…… カタリ:確かに、『ほぼ』完全無敵だね。だけど、もちろん弱点はあるわけだ。 朱琉:『四大家』がありますから。 > >> 苦悶の表情で睨みつけるのは、5人の遥か後ろ。そこには、4つの人影が立っていた。 >> 一人は、黒髪に濃紺の瞳の、どことなくレンシェルマに似た壮年男性。 >> 一人は、白いフード付のマントで顔を半分以上隠した、戦士のような動きやすい赤の服を着た、恐らくは少女であろう人物。 >> 一人は、白髪に髭を蓄え、杖を突いた、好々爺然とした老人。 >> 一人は、蒼い長髪をポニーテールに纏め、目隠しをした、異国の剣士風の女性。 >> 「・・・・・・・・兄さん・・・・・・・・」 >> レンシェルマの、呆然とした声がする。壮年男性がレンシェルマを一瞥し、冷ややかな声で吐き捨てた。 >> 「フン・・・・役立たずめが。」 >> レンシェルマは、痛みを堪えるような顔で地面に視線を落とした。 ―― > >紅:兄登場、でもなんかいやーな空気。 >ク:兄弟仲良くしなきゃダメですよー…… >コ:いや、そんな状況でも、空気でもねーだろーが。 朱琉:レンさんとグランお兄さんは、仲がよろしくないのです。 カタリ:正確には、グランが一方的にレンシェルマを憎んでいる、かな? > >>「彼らは、『シーシェンズ』と『ヴェルリュード』の直系たちだ。 >> 壮年男性が、グラン=ディオ=エレル=シーシェンズ。・・・・レンシェルマの、兄。 >> フードを被った少女が、オカリナ=ロンド=エフェメル=シーシェンズ。レンシェルマにとっては、姪に当たる。 >> 老人が、アレックス=フレジル=ヤン=ヴェルリュード。 >> 異国の剣士風の女性が、プロト=テンノ=ノア=ヴェルリュード。」 >> ふと、レンシェルマの様子が気になって、ルピナスは辺りを見回す。しかし・・・・・・・なぜか、レンシェルマはいない。 >> 怪訝に思っているうちに、周りは先に進んでいく。 > >紅:なんかプロトが普通に偉い立場に見える!? >コ:下っ端じゃなかったのか。 >紅:まさか、直系までになっているとは…… 朱琉:プロト嬢、普通に偉いです。 カタリ:『ヴェルリュード』のナンバー3で、『四大家』全体でも10番以内に入る地位だ。 > >> ――「魔に、堕ちたか。『フェラナート』の末裔よ。」 >> グランが、苦々しげに言う。何かしらの力が発動しているのだろう、その手に白い光が灯っていた。 >> オカリナの手の内にも同じ光が生じ、それによってアリエス=シャブラニグドゥはよりいっそう苦悶の表情に顔を歪める。 >> その横で、アレックスが深々と溜息をついた。 >> 「聞いたところ、お前様は相当に長く生きておるようじゃな。・・・・あるいは、よく耐えた、と言うべきなのやもしれん。」 >> その手元で、杖がかちりと鳴る。杖から引き抜かれた刃が、青い電光を纏った。そして、少ししわがれた深い声で、言う。 >> 「今まで大層、辛かったことじゃろう・・・・。・・・・・・・・ここで殺してやるのが、お前様に対する、せめてもの礼じゃ。」 >> プロトが、一歩前に出る。携えた長刀を一息に抜き払うと、やはりその刃に青い電光が走った。 >> 「お待ちください、御老公。この者の器自体は・・・・まだ、使えるかと。」 >> そう言って、グランは光を灯した右手を掲げる。より一層の白光が、その手を包んだ。 >> 「貴重な『フェラナート』・・・・その、最大の器といわれたものです。殺してしまうのではなく・・・・償わせましょう。その身を、更なる器とすることで。」 >> そして・・・・グランとオカリナ、二人の手の内から、周囲を染め上げるほどの白い光が溢れた。 >> >> 最後に聞こえたのは・・・・アリエス=シャブラニグドゥの、苦しげな叫び・・・・。 ―― > >ク:まるで勝手な言い方ですね……礼だの、償いだの、使えるだの……はっきり言って、私はあまり好きじゃないです…… >コ:まあ、胸糞悪いのは確かだな。口出すつもりはないがな。 朱琉:はっきり言いましょう。書いてた私も自分で文句言ってました。 カタリ:でも、こいつらという存在を見せないことには、伝わらない事実がある。彼らはあまりに身勝手だけど・・・・これが、本来の存在理由を見失った『四大家』の姿だから。 > >>「シーシェンズの力は『許し』。魔に囚われたものを、眠らせる。時から切り離し、永久に覚めない眠りのうちに封じる。そうして・・・・苦痛の生から解放されることを『許して』やる。 >> そして、ヴェルリュードの力は『裁き』。こっちはもっと単純に、魔に囚われたものを倒す力だ。相手がいかに強かろうと、時の壁があったとしても・・・・あらゆる理を無視して、ただただ相手を『裁く』のさ。」 >> 語り部は、そう言って少し目を細めた。・・・・嗤っている。『四大家』たちを見て、嘲るように。 >>「彼らは・・・・『四大家』の存在意義を、覚えてはいないのだろうね・・・・。だから、こんなことが言えるんだ。」 > >コ:裁くだの許すだのご大層なことだな。 >ク:自らの存在意義を忘れる……それはなんて悲しい事でしょう…… >紅:時間はあらゆるものを風化させてしまいますからねえ。 朱琉:約1000年経ってますからね・・・・。 カタリ:僕にとっては瞬きひとつの時間でも、人間にとってはあまりに長いよね・・・・。 > >> ―― 光が収まった後、そこに『魔王』はいなかった。 >> いたのは、崩折れ、ぴくりとも動かない『アリエス』。グランは無遠慮にアリエスに近づき、荷物を運ぶようにアリエスを担ぐ。 >> 他は誰も、動かない。いや・・・・動けない。・・・・いや。レンシェルマだけが、ゆっくりと立ち上がった。そして、グランの前に立ちふさがる。 >> グランは、それを見て・・・・嘲笑した。 >> 「何の真似だ?レンシェルマ。・・・・まさか、『なぜこの娘を』などと言うわけではあるまいな?」 >> レンシェルマは押し黙る。・・・・まさに、それを言おうとしていた。 >> 「フン・・・・。出来損ないは、やはり出来損ないだな。仮にも『シーシェンズ』を名乗るものが、それが?見苦しい。役目を果たしただけだ。それすら理解できんか?」 >> 「だからと言って・・・・こんなやり方が・・・・ッ!!」 >> 怒りと、困惑と、驚愕とで震えるレンシェルマの声が、痛々しい。しかし、グランは気にも止めはしなかった。 >> 「これが、我々のやり方だ。文句は言わせん。」 >> 自らを『正義』と信じるが故の、傲岸不遜さ。それが、今のグランの声にはあった。 ―― > >紅:レンさんはこのまま生かせるわけにはいかないでしょうけど、相手が悪すぎますね。 >コ:まあ、このグランの行動も確かに正義だろうな。レンシェルマから見たなら悪であろうと、多数にとって正しいかどうかは関係なくな。 >ク:ですが、私は少なくとも……許容したくありません…… >コ:それに関しては俺も同意だな。 朱琉:何を持って『正義』とするかは、その個人の考えや経験、環境によって異なってきますから。 カタリ:だから、戦争が起きるんだしね。 > >>「何が要因だったのか・・・・そんなことはわからない。ただ、『中枢予定表』が適当に決めたことなのかもしれない。確かなことは・・・・ここに立つ『彼女』は、アリエスであり、魔王であり、そのどちらでもないもの。」 >> >> ――「ただ一つ、確かなことは・・・・私の役割。私の望み。 >> ・・・・・・・・この無意味な世界に・・・・・・・・私に数多の犠牲を強いてきたこの世界に、終焉を。」 >> それが、シーシェンズの少女が最後に聞いた言葉だった。 ―― >> >> そして、深紅に染まる視界。 > >紅:なんかFF5のネオエクスデスみたい。 >コ:また分かりにくいたとえを。 >ク:台詞から……まるで世界に復讐を求めている……そう呟いているよう見えます…… カタリ:ある意味、そうだね。 世界を憎んでもどうにもならないけれど、憎まずにはいられない。そんな感じだ。 > >> 世界が滅びる、その瞬間。全てが無に消える、その刹那。皆は見た。 >> 全てが消え去ったその後で、自らが放った消滅の闇に飲まれながら・・・・・・・・『彼女』が、アリエスの顔で・・・・とても嬉しそうに、笑っていたのを。 >> >> そして、暗転。 >> >>「これが、『中枢予定表』が定めていた未来の、その結末。 >> 『混沌』と『時』の多大な干渉を受けたこの世界が周囲に及ぼす影響を払拭し、それでいて、最も苦しむものが少ない・・・・そんな、『幸せな末路』。」 >> 語り部は、そう締めくくる。 > > >紅:本当にこれが幸せと呼べるのでしょうか。 >コ:さあな、その相手が誰かにもよるさ。多数のために少数を潰す、中枢予定表としての働きならなにも間違っちゃいないのかもな。 >ク:でも……やりきれないです…… 朱琉:これは、いわゆる『大の虫を生かすために小の虫を殺す』やり方です。 カタリ:『赤の世界』という大を生かすために『アリエスたち』という小を殺し、『全ての世界』という大を生かすために『赤の世界』という小を殺す。 為政者の考え方・・・・なのだろうね。 > >> あとがき、或いは語り部の告げる未来 >>語:やあ、こんにちは。今回はどうだったかな?僕からは・・・・ちょっと、今回はノーコメントだ。 >> さて、次回は、なぜかいなかったレンシェルマの方に話は移る。では、少し、語ろうか。 >> それはやはり、一人の青年の死から始まった。 >> 少女に残るのは、『護れなかった』という思い。『護りたい』という願い。 >> 深紅の大地で目覚めた少女は、薄れゆく記憶に縋り、旅立つ。 >> 苦い悔恨と、切なる願いと共に・・・・ >> 次回、『時の旅人』60話、『哀しみと贖罪の記憶』 >> >> 次回は、来年になるね。寒くて風邪も流行っているし、ノロウィルスも猛威を振るっているし・・・・。本当に体調には気をつけて。 >> じゃあ、またね。よいお年を! > >紅:ではでは、さよーなら。こちらこそよいお年を。 >コ:じゃあな。 >ク:バイバイ…… 朱琉:はい、では、また。 二人:今年もよろしくお願いします。またお会いしましょう。 |
17927 | ちょいと遅れました。 | 十叶 夕海 | 2007/1/7 23:12:43 |
記事番号17925へのコメント > こんにちは、お久しぶりです、羅城 朱琉です。 > 実習やら試験やら何やらで、本当に遅くなってしまいました、すみません。 > では、早速どうぞ。 > > 注)ダーク&シリアスにつき、注意してください。 ユア:こんにちは、帰省したり、レポートしたりで、少し遅れましたです。 久遠:妙にハイテンションね? ユア:いやいや、何を言います、うさぎさん。 家族の写真の年末話と、SSとキャラ語り(ディスティアLOVE関連)とかが、テンションあげないとやってられないのですよ? 久遠:それじゃ、レス行くわね。 > > > > > 時の旅人 > > 59:嘆きと絶望の物語 > >「まずは、注意事項。この『予定表』は、本来全ての歴史が記されている。目的としている部分を見るために、なるべく余計なことは考えず、頭を白紙にしておくこと。そうでないと、考えに引きずられて全然違うものが見える可能性があるからね。・・・・まあ、逆に言えば、強く望めば別のことも見える。ただ、今は必要ないだろう?僕がナビするから、完全に視点が定まるまでは何も考えないように。 > もう一つ、見ている間は、僕から離れないように。これから見るものは、ただの記録。何が見えても、それはどうすることも出来ない。・・・・わかったかな?」 > そう言って、語り部は一人一人を見る。全員が頷いたのを確認して、語り部は右手を差し出した。 >「手を。」 > 短い指示に、皆が語り部の手に自らの手を重ねる。 > そして、語り部は左手で『予定表』を掲げ、聞き取れないような小声で、呪文を呟いた。 久遠:語り部ちゃんを、ハード&ソフトにした出来の悪いバーチャルリアリティ? ユア:・・・・・・ノリとしては、そう言うもんでしょう? 私は、あの《予定表》は、嫌いには、なれないです。 久遠:・・・・・・・あの子も、『悩ん』で、決めたことでしょうし。 無自覚、自覚関係なくね。 ・・・・・・・・かといって許せる訳ではないけどね。 >「ルピナスが一度死んだあの日・・・・場所は『自由宮殿(フリーダムパレス)』。ここから、運命は決定的に変わった。それまでも、少しずつ変わってはいたけれど・・・・ここから、見ていくよ。 > 『予定表』に記された歴史では、ルピナスはここで命を落とすことになっていた。」 > まるで本当にその場所にいるかのような臨場感で、周りは動いていく。 > > ―― フェリセの手から放たれる、3条の光。 > ルピナスを庇うように、立ちはだかるアリエス。 > それでも、光はルピナスを貫く。 ―― > >「『癒霊捧歌(サティナ・カントゥス)』は、発動しない。アリエスの魔力が、足りない。」 > > ―― 詠うような呪文をアリエスは唱える。 > しかし、何も起こらない。 > 深紅に染まった手を呆然と見つめて、アリエスは放心したように天を見上げる。 > 唇が動き、言葉を紡ぐ。 > > 「私は・・・・私は、また、守れなかった・・・・・・・・」 > > 嘆くでもなく、叫ぶでもなく・・・・しかし、あまりにも切ない、虚ろな声で。 ―― > >「絶望が、心を壊す。そして・・・・」 ユア:詭弁だし、嫌いな言い方だし、過去編でもいったけれど。 アリエス嬢に庇われて、我が息子は、幸せだったと思うよ? 久遠:でも、大切な人を・・・・自覚していなかった大切な人でも、イナクなれば、心はあっさり『命』を手放すの。 家族の写真の《水衣の君》も、そうだったもの。 > > ―― その瞳から流れる、一筋の涙。 > 涙に色を奪われたのか、涙が色を染め替えたのか・・・・ > アリエスの瞳から、光が消える。色が消える。 > 残ったのは・・・・ ―― > >「赤き魔王が、解放される。」 > > ―― 暗い暗い、真紅の闇色。 > アリエスは・・・・『アリエス』だったものは、嗤う。 > 闇に染まった笑みで。 > > 『赤眼の魔王(ルビーアイ)』シャブラニグドゥとして・・・・ ―― > 久遠:まだ、この運命のアリエスちゃんでも、良いのかもしれないわ。 ユア:自分の殻に閉じこもらずに、大切な人を奪った世界に、報復する手段を手に入れることができるから? 久遠:そーね。 《水衣の君》セシルちゃんは、それすらできなかったもの。 >「アリエスの内には、魔王の欠片がある。7つの欠片のうち、3つが。それは、生来のものではない。瘴気を封じる『封魔体質』・・・・フェラナート家の真の目的は、始祖たるリブラがその身に封じた2つの欠片を解放しないよう護り続けること。アリエスはその欠片を受け継ぎ、さらに1つの欠片を発見・封印した。 > しかし、それはとても危険なことだ。アリエスの意思がしっかりしているうちはいい。欠片とはいえ魔王を押さえておけるほどに、アリエスは強い。しかし・・・・」 > 語り部は一呼吸置き、呟くように言う。淡々とした中に、僅かな苦渋を滲ませて。 >「一度、箍が外れれば、魔王はアリエスの身体を乗っ取り覚醒する。時の力に護られた、滅多なことでは傷ひとつつけられないアリエスの身体を・・・・ね。 > ・・・・最強の魔王サマの出来上がりだ。 > ・・・・・・・・と、ここで世界が終わっていれば、まだ良かったのかもしれないね。」 ユア:確かに、『まだ』良い結末でしょう。 ・・・・・・まだ、抵抗の真似事ぐらいはできるでしょうから。 久遠:ルークは、ミリーナを愛していたから、絶望した。 ・・・・・・・・・アリエスちゃんも、ユヴェルちゃんの身代わり的な意味もあったかもしれないけれど、ルピナスちゃんを愛していたのにね。 > > 「ほう・・・・三度見えたな、魔道士よ。名は・・・・リナ=インバース、と言ったか?」 > そして、次いでレンシェルマを見る。 > 「シーシェンズの若造か・・・・。なるほど、お前なら、我を封じることも叶おうな。だが・・・・出来まい。この我を・・・・『アリエス=オルフェーゼ』を、封じることなどな。」 > 余裕の表情で、アリエス=シャブラニグドゥは手を翳す。膨大な魔力が集い・・・・放たれようとしたその瞬間、アリエス=シャブラニグドゥは動きを止めた。 > 「おのれ・・・・・・・・」 > 苦悶の表情で睨みつけるのは、5人の遥か後ろ。そこには、4つの人影が立っていた。 > 一人は、黒髪に濃紺の瞳の、どことなくレンシェルマに似た壮年男性。 > 一人は、白いフード付のマントで顔を半分以上隠した、戦士のような動きやすい赤の服を着た、恐らくは少女であろう人物。 > 一人は、白髪に髭を蓄え、杖を突いた、好々爺然とした老人。 > 一人は、蒼い長髪をポニーテールに纏め、目隠しをした、異国の剣士風の女性。 > 「・・・・・・・・兄さん・・・・・・・・」 > レンシェルマの、呆然とした声がする。壮年男性がレンシェルマを一瞥し、冷ややかな声で吐き捨てた。 > 「フン・・・・役立たずめが。」 > レンシェルマは、痛みを堪えるような顔で地面に視線を落とした。 ―― > >「彼らは、『シーシェンズ』と『ヴェルリュード』の直系たちだ。 > 壮年男性が、グラン=ディオ=エレル=シーシェンズ。・・・・レンシェルマの、兄。 > フードを被った少女が、オカリナ=ロンド=エフェメル=シーシェンズ。レンシェルマにとっては、姪に当たる。 > 老人が、アレックス=フレジル=ヤン=ヴェルリュード。 > 異国の剣士風の女性が、プロト=テンノ=ノア=ヴェルリュード。」 > ふと、レンシェルマの様子が気になって、ルピナスは辺りを見回す。しかし・・・・・・・なぜか、レンシェルマはいない。 > 怪訝に思っているうちに、周りは先に進んでいく。 ユア:・・・・・・・・・・・(口をぱくぱくさせている) 久遠:オカリナちゃん、シーシェンズで、レンちゃんの姪なの?ってなところね。 > >「シーシェンズの力は『許し』。魔に囚われたものを、眠らせる。時から切り離し、永久に覚めない眠りのうちに封じる。そうして・・・・苦痛の生から解放されることを『許して』やる。 > そして、ヴェルリュードの力は『裁き』。こっちはもっと単純に、魔に囚われたものを倒す力だ。相手がいかに強かろうと、時の壁があったとしても・・・・あらゆる理を無視して、ただただ相手を『裁く』のさ。」 > 語り部は、そう言って少し目を細めた。・・・・嗤っている。『四大家』たちを見て、嘲るように。 >「彼らは・・・・『四大家』の存在意義を、覚えてはいないのだろうね・・・・。だから、こんなことが言えるんだ。」 ユア:・・・・・あ〜、四人ともぶちのめしても良い? 久遠:珍しく、役目を遂行しようとしているだけの人間相手に怒ってるわね。 ユア:《予定表》は、よくも悪くも、機械です。感情を交えません。 でも彼らは、どういっても人間です。感情を交えました。 なのに、それでも、《役目》を遂行しようとする人間には、吐き気がします。 《役目》を遂行しようとするなら、言葉上でも、感情を交えるな、下衆野郎共!! 私は、そう断言します。 久遠:うあ〜、ユアちゃん、マジギレモード。 (小声)朱琉ちゃん、ごめんね、無駄に失礼なこと言ってるわ。 > >「ある意味、これから後の世界は、とても平和なものだったんだよね。でも・・・・その『平和』のために犠牲となったものを知るものは、いない。」 > > それからしばらく、早送りで時は進んだ。 > 復興し、痛手から立ち直った世界。大きな災いもなく、文明は少しずつ進歩していっている。対して、ほぼ全ての魔王の欠片を失った魔族は、あまり表立って活動はしなくなった。 > 文明の進歩と、魔族の脅威からの解放。それによって、魔法は徐々に衰退していく。特に、『攻撃魔法』と呼ばれるものの衰退は著しい。そして・・・・残るのは2つの家だけとなったかつての『四大家』においても、やはり力の衰退は起こっていた。 > そして、およそ1000年の月日が流れた・・・・。 ユア:科学にしろ、魔法にしろ、それが発展するのは、戦争が・・・・対立があるときなんですよね。 皮肉ですが。 久遠:そうして、『牙』を失った後に、『獣』はやってくるのよね。 > >「何が要因だったのか・・・・そんなことはわからない。ただ、『中枢予定表』が適当に決めたことなのかもしれない。確かなことは・・・・ここに立つ『彼女』は、アリエスであり、魔王であり、そのどちらでもないもの。」 ユア:・・・・・・・どっちかであれば、ありようもあったでしょうに。 > > ――「ただ一つ、確かなことは・・・・私の役割。私の望み。 > ・・・・・・・・この無意味な世界に・・・・・・・・私に数多の犠牲を強いてきたこの世界に、終焉を。」 > それが、シーシェンズの少女が最後に聞いた言葉だった。 ―― > 久遠:・・・・・・キモチは、解るわよぅ。 解るけど、その無意味な世界が、ルピナスちゃんや、ユヴェルちゃんたちとも、巡り会わせたのよぅ。 ユア:同時に、別れさせたけれどね。 ・・・選んでしまったのは、彼女自身だしね。 > >「これが、『中枢予定表』が定めていた未来の、その結末。 > 『混沌』と『時』の多大な干渉を受けたこの世界が周囲に及ぼす影響を払拭し、それでいて、最も苦しむものが少ない・・・・そんな、『幸せな末路』。」 > 語り部は、そう締めくくる。 > > 深淵の闇は徐々に薄れ、元の世界へと戻りつつあった。 > > あまりに大きな衝撃のため麻痺した頭の片隅で、ルピナスはふと思う。 >(そういえば・・・・レンさんはどこへ行ったのだろう・・・・?) > と。 > ユア:あ〜、やっぱ、《予定表》殴っちゃダメ? 久遠:(無視して)確かに、《赤》の世界を消して、犠牲が少ないやり方よね。 小さな肩のアリエスちゃんに、ほとんどを押し付けた、クソったれてはいるけれど。 > > あとがき、或いは語り部の告げる未来 >語:やあ、こんにちは。今回はどうだったかな?僕からは・・・・ちょっと、今回はノーコメントだ。 > さて、次回は、なぜかいなかったレンシェルマの方に話は移る。では、少し、語ろうか。 > それはやはり、一人の青年の死から始まった。 > 少女に残るのは、『護れなかった』という思い。『護りたい』という願い。 > 深紅の大地で目覚めた少女は、薄れゆく記憶に縋り、旅立つ。 > 苦い悔恨と、切なる願いと共に・・・・ > 次回、『時の旅人』60話、『哀しみと贖罪の記憶』 > > 次回は、来年になるね。寒くて風邪も流行っているし、ノロウィルスも猛威を振るっているし・・・・。本当に体調には気をつけて。 > じゃあ、またね。よいお年を! > ユア:改めて、新年あけましておめでとうございます。 本年もよろしくお願いします。 久遠:新年レス第1号がこれでごめんね。 二人:ともあれ、また次回。 あるいは、家族の写真で会いましょう。 それでは、また。 |
17931 | それは、『誰』の望みなのか・・・・? | 羅城 朱琉 | 2007/1/13 12:13:37 |
記事番号17927へのコメント >> こんにちは、お久しぶりです、羅城 朱琉です。 >> 実習やら試験やら何やらで、本当に遅くなってしまいました、すみません。 >> では、早速どうぞ。 >> >> 注)ダーク&シリアスにつき、注意してください。 > >ユア:こんにちは、帰省したり、レポートしたりで、少し遅れましたです。 >久遠:妙にハイテンションね? >ユア:いやいや、何を言います、うさぎさん。 > 家族の写真の年末話と、SSとキャラ語り(ディスティアLOVE関連)とかが、テンションあげないとやってられないのですよ? >久遠:それじゃ、レス行くわね。 朱琉:こんにちは。こちらも、テストと再試とレポートと実習で遅れました。しかも、現在の実習では顕微鏡を多用・・・・。ドライアイのせいでコンタクトがつけられず、病院に目薬もらいに通っている羅城には結構つらいです。 アミイ:用法は守りなさいよ・・・・。それ、一日4回でしょう?6回も8回もささない! 朱琉:目、痛いんですよ・・・・。 では、返レスです。 > >> >> >> >> >> 時の旅人 >> >> 59:嘆きと絶望の物語 >> >>「まずは、注意事項。この『予定表』は、本来全ての歴史が記されている。目的としている部分を見るために、なるべく余計なことは考えず、頭を白紙にしておくこと。そうでないと、考えに引きずられて全然違うものが見える可能性があるからね。・・・・まあ、逆に言えば、強く望めば別のことも見える。ただ、今は必要ないだろう?僕がナビするから、完全に視点が定まるまでは何も考えないように。 >> もう一つ、見ている間は、僕から離れないように。これから見るものは、ただの記録。何が見えても、それはどうすることも出来ない。・・・・わかったかな?」 >> そう言って、語り部は一人一人を見る。全員が頷いたのを確認して、語り部は右手を差し出した。 >>「手を。」 >> 短い指示に、皆が語り部の手に自らの手を重ねる。 >> そして、語り部は左手で『予定表』を掲げ、聞き取れないような小声で、呪文を呟いた。 > > >久遠:語り部ちゃんを、ハード&ソフトにした出来の悪いバーチャルリアリティ? >ユア:・・・・・・ノリとしては、そう言うもんでしょう? > 私は、あの《予定表》は、嫌いには、なれないです。 >久遠:・・・・・・・あの子も、『悩ん』で、決めたことでしょうし。 > 無自覚、自覚関係なくね。 > ・・・・・・・・かといって許せる訳ではないけどね。 朱琉:そう言って頂けると、大変ありがたいです。 アミイ:この話の中に、『本当に悪いもの』っていないのよね。少なくとも、朱琉はそのつもりでいるわ。 朱琉:『どこで狂ってしまったのか・・・・』が、テーマのひとつですから。 > > >>「ルピナスが一度死んだあの日・・・・場所は『自由宮殿(フリーダムパレス)』。ここから、運命は決定的に変わった。それまでも、少しずつ変わってはいたけれど・・・・ここから、見ていくよ。 >> 『予定表』に記された歴史では、ルピナスはここで命を落とすことになっていた。」 >> まるで本当にその場所にいるかのような臨場感で、周りは動いていく。 >> >> ―― フェリセの手から放たれる、3条の光。 >> ルピナスを庇うように、立ちはだかるアリエス。 >> それでも、光はルピナスを貫く。 ―― >> >>「『癒霊捧歌(サティナ・カントゥス)』は、発動しない。アリエスの魔力が、足りない。」 >> >> ―― 詠うような呪文をアリエスは唱える。 >> しかし、何も起こらない。 >> 深紅に染まった手を呆然と見つめて、アリエスは放心したように天を見上げる。 >> 唇が動き、言葉を紡ぐ。 >> >> 「私は・・・・私は、また、守れなかった・・・・・・・・」 >> >> 嘆くでもなく、叫ぶでもなく・・・・しかし、あまりにも切ない、虚ろな声で。 ―― >> >>「絶望が、心を壊す。そして・・・・」 > >ユア:詭弁だし、嫌いな言い方だし、過去編でもいったけれど。 > アリエス嬢に庇われて、我が息子は、幸せだったと思うよ? >久遠:でも、大切な人を・・・・自覚していなかった大切な人でも、イナクなれば、心はあっさり『命』を手放すの。 > 家族の写真の《水衣の君》も、そうだったもの。 アミイ:全てにおいて、行動理念は『大切だからこそ』、に収束するのでしょうね。だから、果たされないときには傷つく。心を壊してしまう。 > >> >> ―― その瞳から流れる、一筋の涙。 >> 涙に色を奪われたのか、涙が色を染め替えたのか・・・・ >> アリエスの瞳から、光が消える。色が消える。 >> 残ったのは・・・・ ―― >> >>「赤き魔王が、解放される。」 >> >> ―― 暗い暗い、真紅の闇色。 >> アリエスは・・・・『アリエス』だったものは、嗤う。 >> 闇に染まった笑みで。 >> >> 『赤眼の魔王(ルビーアイ)』シャブラニグドゥとして・・・・ ―― >> > >久遠:まだ、この運命のアリエスちゃんでも、良いのかもしれないわ。 >ユア:自分の殻に閉じこもらずに、大切な人を奪った世界に、報復する手段を手に入れることができるから? >久遠:そーね。 > 《水衣の君》セシルちゃんは、それすらできなかったもの。 朱琉:ただ、『アリエス』は復讐を望んでいたのかというと・・・・それは少し悩むところです。 アミイ:ここで補足するのもなんだと思うけど・・・・。 アリエスちゃんは、復讐の無意味さはわかっているのよね。けれど、悲しくて苦しくて、一瞬心が壊れかけてしまった。それで、魔王にのっとられた。という流れね。 > > >>「アリエスの内には、魔王の欠片がある。7つの欠片のうち、3つが。それは、生来のものではない。瘴気を封じる『封魔体質』・・・・フェラナート家の真の目的は、始祖たるリブラがその身に封じた2つの欠片を解放しないよう護り続けること。アリエスはその欠片を受け継ぎ、さらに1つの欠片を発見・封印した。 >> しかし、それはとても危険なことだ。アリエスの意思がしっかりしているうちはいい。欠片とはいえ魔王を押さえておけるほどに、アリエスは強い。しかし・・・・」 >> 語り部は一呼吸置き、呟くように言う。淡々とした中に、僅かな苦渋を滲ませて。 >>「一度、箍が外れれば、魔王はアリエスの身体を乗っ取り覚醒する。時の力に護られた、滅多なことでは傷ひとつつけられないアリエスの身体を・・・・ね。 >> ・・・・最強の魔王サマの出来上がりだ。 >> ・・・・・・・・と、ここで世界が終わっていれば、まだ良かったのかもしれないね。」 > >ユア:確かに、『まだ』良い結末でしょう。 > ・・・・・・まだ、抵抗の真似事ぐらいはできるでしょうから。 >久遠:ルークは、ミリーナを愛していたから、絶望した。 > ・・・・・・・・・アリエスちゃんも、ユヴェルちゃんの身代わり的な意味もあったかもしれないけれど、ルピナスちゃんを愛していたのにね。 朱琉:確かに、『まだ』良い結末です。アリエスにとっても、世界にとっても・・・・。 > > >> >> 「ほう・・・・三度見えたな、魔道士よ。名は・・・・リナ=インバース、と言ったか?」 >> そして、次いでレンシェルマを見る。 >> 「シーシェンズの若造か・・・・。なるほど、お前なら、我を封じることも叶おうな。だが・・・・出来まい。この我を・・・・『アリエス=オルフェーゼ』を、封じることなどな。」 >> 余裕の表情で、アリエス=シャブラニグドゥは手を翳す。膨大な魔力が集い・・・・放たれようとしたその瞬間、アリエス=シャブラニグドゥは動きを止めた。 >> 「おのれ・・・・・・・・」 >> 苦悶の表情で睨みつけるのは、5人の遥か後ろ。そこには、4つの人影が立っていた。 >> 一人は、黒髪に濃紺の瞳の、どことなくレンシェルマに似た壮年男性。 >> 一人は、白いフード付のマントで顔を半分以上隠した、戦士のような動きやすい赤の服を着た、恐らくは少女であろう人物。 >> 一人は、白髪に髭を蓄え、杖を突いた、好々爺然とした老人。 >> 一人は、蒼い長髪をポニーテールに纏め、目隠しをした、異国の剣士風の女性。 >> 「・・・・・・・・兄さん・・・・・・・・」 >> レンシェルマの、呆然とした声がする。壮年男性がレンシェルマを一瞥し、冷ややかな声で吐き捨てた。 >> 「フン・・・・役立たずめが。」 >> レンシェルマは、痛みを堪えるような顔で地面に視線を落とした。 ―― >> >>「彼らは、『シーシェンズ』と『ヴェルリュード』の直系たちだ。 >> 壮年男性が、グラン=ディオ=エレル=シーシェンズ。・・・・レンシェルマの、兄。 >> フードを被った少女が、オカリナ=ロンド=エフェメル=シーシェンズ。レンシェルマにとっては、姪に当たる。 >> 老人が、アレックス=フレジル=ヤン=ヴェルリュード。 >> 異国の剣士風の女性が、プロト=テンノ=ノア=ヴェルリュード。」 >> ふと、レンシェルマの様子が気になって、ルピナスは辺りを見回す。しかし・・・・・・・なぜか、レンシェルマはいない。 >> 怪訝に思っているうちに、周りは先に進んでいく。 > >ユア:・・・・・・・・・・・(口をぱくぱくさせている) >久遠:オカリナちゃん、シーシェンズで、レンちゃんの姪なの?ってなところね。 朱琉:はい、そうなんです。設定を眺めてて、『アリエスに恨みを持っている』立場で・・・・と考えたら、こうなりました。 アミイ:でも、実は・・・・というのが、そのうち明かされるはず。 > > >> >>「シーシェンズの力は『許し』。魔に囚われたものを、眠らせる。時から切り離し、永久に覚めない眠りのうちに封じる。そうして・・・・苦痛の生から解放されることを『許して』やる。 >> そして、ヴェルリュードの力は『裁き』。こっちはもっと単純に、魔に囚われたものを倒す力だ。相手がいかに強かろうと、時の壁があったとしても・・・・あらゆる理を無視して、ただただ相手を『裁く』のさ。」 >> 語り部は、そう言って少し目を細めた。・・・・嗤っている。『四大家』たちを見て、嘲るように。 >>「彼らは・・・・『四大家』の存在意義を、覚えてはいないのだろうね・・・・。だから、こんなことが言えるんだ。」 > >ユア:・・・・・あ〜、四人ともぶちのめしても良い? >久遠:珍しく、役目を遂行しようとしているだけの人間相手に怒ってるわね。 >ユア:《予定表》は、よくも悪くも、機械です。感情を交えません。 > でも彼らは、どういっても人間です。感情を交えました。 > なのに、それでも、《役目》を遂行しようとする人間には、吐き気がします。 > 《役目》を遂行しようとするなら、言葉上でも、感情を交えるな、下衆野郎共!! > 私は、そう断言します。 >久遠:うあ〜、ユアちゃん、マジギレモード。 > (小声)朱琉ちゃん、ごめんね、無駄に失礼なこと言ってるわ。 朱琉:いえいえ。私も書いてて自分でどつきたくなりましたから。 アミイ:でも、『本当に悪いやつ』いないんでしょう? 朱琉:はい、一応は。 > > >> >>「ある意味、これから後の世界は、とても平和なものだったんだよね。でも・・・・その『平和』のために犠牲となったものを知るものは、いない。」 >> >> それからしばらく、早送りで時は進んだ。 >> 復興し、痛手から立ち直った世界。大きな災いもなく、文明は少しずつ進歩していっている。対して、ほぼ全ての魔王の欠片を失った魔族は、あまり表立って活動はしなくなった。 >> 文明の進歩と、魔族の脅威からの解放。それによって、魔法は徐々に衰退していく。特に、『攻撃魔法』と呼ばれるものの衰退は著しい。そして・・・・残るのは2つの家だけとなったかつての『四大家』においても、やはり力の衰退は起こっていた。 >> そして、およそ1000年の月日が流れた・・・・。 > >ユア:科学にしろ、魔法にしろ、それが発展するのは、戦争が・・・・対立があるときなんですよね。 > 皮肉ですが。 >久遠:そうして、『牙』を失った後に、『獣』はやってくるのよね。 アミイ:確かに、皮肉なことよね。 朱琉:人を救うはずの医療技術でさえ、大きく発展する影には戦争がありますから・・・・。 > > >> >>「何が要因だったのか・・・・そんなことはわからない。ただ、『中枢予定表』が適当に決めたことなのかもしれない。確かなことは・・・・ここに立つ『彼女』は、アリエスであり、魔王であり、そのどちらでもないもの。」 > >ユア:・・・・・・・どっちかであれば、ありようもあったでしょうに。 朱琉:どちらでもない『彼女』は、本当に悲しい存在です。 > >> >> ――「ただ一つ、確かなことは・・・・私の役割。私の望み。 >> ・・・・・・・・この無意味な世界に・・・・・・・・私に数多の犠牲を強いてきたこの世界に、終焉を。」 >> それが、シーシェンズの少女が最後に聞いた言葉だった。 ―― >> > >久遠:・・・・・・キモチは、解るわよぅ。 > 解るけど、その無意味な世界が、ルピナスちゃんや、ユヴェルちゃんたちとも、巡り会わせたのよぅ。 >ユア:同時に、別れさせたけれどね。 > ・・・選んでしまったのは、彼女自身だしね。 アミイ:悲しみは、残ってしまったのね。アリエスちゃんが『彼女』となっても。 朱琉:『心壊す嘆き』がアリエスを壊して、『未来の果て』を『闇色』にして・・・・。 アミイ:・・・・あのねぇ、何でそこでその超・内輪ネタを入れるのかしら?それ、オフ友が作ってくれた『時の旅人』のイメージソングの一節でしょう? 朱琉:今回のイメージにぴったりだったので。掲載許可もらったので、問題ないです。 > >> >>「これが、『中枢予定表』が定めていた未来の、その結末。 >> 『混沌』と『時』の多大な干渉を受けたこの世界が周囲に及ぼす影響を払拭し、それでいて、最も苦しむものが少ない・・・・そんな、『幸せな末路』。」 >> 語り部は、そう締めくくる。 >> >> 深淵の闇は徐々に薄れ、元の世界へと戻りつつあった。 >> >> あまりに大きな衝撃のため麻痺した頭の片隅で、ルピナスはふと思う。 >>(そういえば・・・・レンさんはどこへ行ったのだろう・・・・?) >> と。 >> > >ユア:あ〜、やっぱ、《予定表》殴っちゃダメ? >久遠:(無視して)確かに、《赤》の世界を消して、犠牲が少ないやり方よね。 > 小さな肩のアリエスちゃんに、ほとんどを押し付けた、クソったれてはいるけれど。 アミイ:大を生かし、小を殺す。胸糞悪いやり方だけど、為政者の考え方ではあるのよね。 > >> >> あとがき、或いは語り部の告げる未来 >>語:やあ、こんにちは。今回はどうだったかな?僕からは・・・・ちょっと、今回はノーコメントだ。 >> さて、次回は、なぜかいなかったレンシェルマの方に話は移る。では、少し、語ろうか。 >> それはやはり、一人の青年の死から始まった。 >> 少女に残るのは、『護れなかった』という思い。『護りたい』という願い。 >> 深紅の大地で目覚めた少女は、薄れゆく記憶に縋り、旅立つ。 >> 苦い悔恨と、切なる願いと共に・・・・ >> 次回、『時の旅人』60話、『哀しみと贖罪の記憶』 >> >> 次回は、来年になるね。寒くて風邪も流行っているし、ノロウィルスも猛威を振るっているし・・・・。本当に体調には気をつけて。 >> じゃあ、またね。よいお年を! >> >ユア:改めて、新年あけましておめでとうございます。 > 本年もよろしくお願いします。 >久遠:新年レス第1号がこれでごめんね。 >二人:ともあれ、また次回。 > あるいは、家族の写真で会いましょう。 > それでは、また。 朱琉:改めまして、あけましておめでとうございます。 アミイ:今年も一年、よろしくね! 二人:では、また! |