◆−時の旅人外伝・まえがき−羅城 朱琉 (2006/11/6 08:30:47) No.17888
 ┣時の旅人外伝:金桂の香に、君を覚ゆる−羅城 朱琉 (2006/11/6 08:31:47) No.17889
 ┣時の旅人外伝:銀桂は鮮血に濡れて−羅城 朱琉 (2006/11/6 08:32:36) No.17890
 ┃┗彼の時に在りては 哀しみなれど 迎える時に 喜びあらんことを・・・・・−十叶 夕海 (2006/11/6 18:58:06) No.17892
 ┃ ┗始まりのときは、悲嘆のうちに過ぎた。ならば、新たなる時にて、新たなる幸せを・・・・−羅城 朱琉 (2006/11/7 08:48:02) No.17897
 ┗時の旅人外伝:そしてまた、桂花に風は吹く−羅城 朱琉 (2006/11/6 08:33:22) No.17891
  ┗レンさんは、幸福を運ぶ東南の風だといいですね。−十叶 夕海 (2006/11/6 21:56:12) No.17893
   ┗凍った心を溶かす南風は、もうしばらくすれば吹くでしょう。−羅城 朱琉 (2006/11/8 08:32:50) No.17898


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17888時の旅人外伝・まえがき羅城 朱琉 2006/11/6 08:30:47



 こんにちは、羅城 朱琉です。
 さて、ものすごく久しぶりの更新、なんですが・・・・・・・・今回は、本編ではありません。
 この3部作は、『光華』のダイジェスト版になります。
 傾向として、
  1:金桂の香に、君を覚ゆる → およそ120年前。甘め。
  2:銀桂は鮮血に濡れて → およそ120年前。シリアス&ダーク&狂気。
  3:そしてまた、桂花に風は吹く → およそ12年前。シリアス?
 と、なっております。
 では、どうぞ!

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17889時の旅人外伝:金桂の香に、君を覚ゆる羅城 朱琉 2006/11/6 08:31:47
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  時の旅人外伝
   金桂の香に、君を覚ゆる


 今年もまた、風に甘い香りが混ざり始めました。

 遠い、遠いところにいるあなたの元にも、この香は香っていますか?

 幾星霜経とうとも、消えゆかないあなたの面影を

 金桂の香りに、思います。




     *     *     *     *     *


 風が、甘い。そう気付いたのは、つい昨日の事。サイラーグに入る前に、ひっそりと咲くオレンジ色の花を見た。
 今は、牢の中で、月明かりを眺めながら、姿の見えぬ花の香りを乗せた甘い風に包まれている。


 鉄格子のはまった窓から、月の光が差し込む。甘さを帯びた牢屋の空気とあいまって、光に照らされたアリエスは非現実的なまでに神秘的に見えた・・・・まるで、本当にヒトではないかのように。牢屋の隅で丸くなっているフェリセの規則正しい寝息を聞きながら、アリエスはじっと月を見ていた。
「・・・・眠れない?」
 壁にもたれていたユヴェルが、小さな声で問いかける。
「ユヴェルこそ。起きてたんだ。」
 やはり小さな声で、アリエスは返した。月のあえかな光に染められた、月影色の瞳をユヴェルに向け、アリエスは儚げに微笑んだ。
「眠れないのは、いつものことだよ。ユヴェルも知ってるでしょう?私、睡眠って、ほとんど必要じゃないから。・・・・・・・・考え事も、してたんだけどね。」
「考え事?・・・・・・・・何を考えていたか、聞いてもいい?」
 ゆっくりと立ち上がるユヴェルを気配で感じながら、アリエスは、月を見上げて言った。
「今日一日、いろいろありすぎたから。・・・・ここの町の入り口で会った、『ソニア』と『シェリエ』と名乗る二人組でしょ?同じく町入り口付近で会った少年でしょ?突然倒れたジェイドさんに、あの・・・・・・・・私を見て『人殺し』と言った、ミリルティーナさん。」


  ―――気をつけたほうがいいわよ。きっと、あの町で、何かが起こるから。―――
  ―――無意味なことを言うね。どうせ、『運命』なんだから、逃れられない。・・・・まあ、覚悟くらいはしておいた方がいいかもね。―――
 『シェリエ』と名乗る女性の忠告。『ソニア』と名乗る女性の言葉。これは、この状況を言っていたのだろうか?

  ―――・・・・ふーん。―――
 興味なさげに呟いた、少年。

  ―――あなたは・・・・・・・・もしや・・・・―――
 アリエスを見て、そう呟くなり倒れた青年、ジェイド。

  ―――人殺し!!あんたの・・・・あんたのせいよ!!―――
 倒れたジェイドをかき抱き、涙ながらに叫んだ女性、ミリルティーナ。

 わけが、解らない。

「どうして、私達を『人殺し』呼ばわりしたのかな、と思って。あの時、ジェイドさんはまだ生きていた。それ以上に、なんの外傷も無いのに、私達を見るなりいきなり『人殺し!』・・・・だったからね。ちょっと気になってたの。」
 それは、ユヴェルも考えていたことだった。小さく頷いて、自分の考えを付け加える。
「それは、僕も思っていた。どうせ、すぐに証拠不十分で釈放されるだろうから、その後で、出来ればもう一度会って話を聞きたい。」
「そう・・・・ね。」
 少し言葉を濁したアリエスが気に掛かりはしたものの、その後すぐに言葉を続けたアリエスに、その疑問も霧散する。
「そういえば、ユヴェル・・・・さっきのことだけど・・・・」
「さっきのこと?」
「偽名よ、偽名。『ソレイユ』って、『太陽』でしょう?似合わないことこの上ないじゃない。」
 苦笑して言うアリエスに、ユヴェルは告白のつもりで言った。
「僕にとって、アリエスは太陽だから。」
 『僕の太陽』だなんて、随分クサい台詞で、古典的な愛の告白だと思う。しかし・・・・
「そう?月に例えられたことはあるけど・・・・太陽に例えられたのは初めてよ。」
 案の定、あっさり流された。内心で涙を拭いつつ、表面でもやはり少し落ち込む。
 そんなユヴェルを知ってか知らずか、アリエスは月を見上げて、囁くように言った。
「私は、光を放てない。ただ光を映すだけ。その光は冷たくて、ただ無慈悲に流れるだけ。『月』は、温もりを与えられないよ。だから、私は『月』なのね。」
 そう言ったアリエスは、どこか虚ろで儚げで・・・・そのまま、存在自体が月光に溶けてしまいそうに思えて、ユヴェルは慌ててアリエスに手を伸ばした。
 驚くほどあっさりと、アリエスは引き寄せられる。手の中に納まったアリエスの腕の、低い体温を感じながら、ユヴェルは言った。
「アリエス。月は、暖かいですよ。」
 不思議そうな顔をするアリエスに言い聞かせるように、ユヴェルは話した。
「太陽とは違った温かさが、月にはあります。
・・・・・・・・夜闇の中で眠りと安息を護り、蹲る人の傍らに、何も言わずただ寄り添う・・・・そんな温もりが、月にはあります。それは、太陽のように、強く眩しいものではないけれど、安らぎと癒しを与える・・・・そんな、温かさだと思いますよ。」
「ユヴェル・・・・」
 思いがけず言われた言葉に、アリエスは戸惑いを隠せなかった。と、そうしているうちに・・・・
 ふわりと、ユヴェルがアリエスを抱きしめた。
「アリエスは、温かいです。綺麗で、凛々しくて、優しくて、温かい・・・・・・・・僕は、そんなあなたを、愛しています。」
 ひゅ、とアリエスが息を呑んだ。ユヴェルはアリエスを抱きしめたまま、言い募る。
「愛しています、あなたを。アリエス=オルフェーゼ=ラーナ・・・・あなただけを。」
 そして、僅かに体を離し、アリエスの目を見つめる。緑がかった月影色の瞳が、ユヴェルの姿を映しこむ。
「愛しています、アリエス・・・・」
 そして、触れ合う唇。
 ほんの数瞬の、掠めるような口付け。
 再び目を開いた時に見えたのは、放心したようなアリエス。ユヴェルの心の奥底で、罪悪感が疼く。しかし・・・・今は、それすらも甘く感じていた。

 体を離して、そのまま眠りにつくのに、どれだけの精神力を必要としたのか解らない。それでも・・・・
(・・・・今は、おやすみ、アリエス。愛しい『月』の姫・・・・)
 心の中で、そんな芝居がかった言葉を呟いて、ユヴェルは瞳を閉じた。


     *     *     *     *     *


 呆然と座り込んだまま、アリエスは必死で今のユヴェルの行動の意味を考えていた。
(なななななな・・・・何がどうなって一体・・・・!!?)
 火照った顔を抑え、深呼吸する。
(なんで、どうして、ユヴェルが私にきっ・・・・キスを・・・・・・・・○×▼□★っ!!!!)
 ひたすら動揺しながら、言葉になっていない悲鳴を上げて、アリエスは頭を抱えた。
(愛って・・・・愛って・・・・・・・・!??・・・・・・・・あぁ、もう!!全然解らないですっ!!!!)
 挙句の果てに、プチ・ヒステリーを起こして、ようやく少し頭が冷えたようだ。
 息を吐き、再び月を見上げて、アリエスは考えた。
(私が人に愛されるだなんて・・・・考えたことも無かったよ。私には、愛とか、よくわからない。・・・・でも、ユヴェルと一緒にいるのは、何だか心地よい。ずっと、隣にいたいと思ってしまう。・・・・・・・・これは、愛なんでしょうか?・・・・もし、これが『愛』ならば・・・・
 私は、きっとユヴェルを愛している。)
 紅潮した頬に手をやり、次いで唇に触れる。
(温かい・・・・)
 口付けの余韻が、微熱のように残っていた。
(いいのかな?ヒトを、好きになって・・・・・・・・)
 きっと、今なら引き返せる。この、甘く香る風のせいにしてしまえる。でも・・・・それをしてはいけないと思った。いや、それはできないだろうと、そう、思った。
 風向きが、変わったのだろう。牢の窓の鉄格子の隙間から、オレンジ色の花が入ってきた。それを、手のひらで受け止めて、アリエスは再び月を眺めた。


 きっと、愛。
 多分、愛。

 引き返せなくなってもいい。この甘い金桂の香りのせいにして、少し素直になろう。

「ユヴェル・・・・・・・・          」

 呟いた声は、誰にも届かず、ただ、甘い風を震わせた。





########################################

 改めまして、こんにちは。羅城 朱琉です。
 さて、私的に甘さの限界を極めた話でしたが、どうだったでしょうか?

 今回のタイトルに出てくる『金桂』は、『金木犀』という名でよく知られています。『変わらぬ魅力』の花言葉を持つ、オレンジ色の小さな花です。花の大きさの割りに匂いが強く、甘くいい香りがします。

 さて、では、次でまた会いましょう!


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17890時の旅人外伝:銀桂は鮮血に濡れて羅城 朱琉 2006/11/6 08:32:36
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  時の旅人外伝
   銀桂は鮮血に濡れて


 甘い、甘い香り。

 噎せ返るほどの血臭すら、甘く染め替えるほどに。

 甘い純白の花は、血の色に染め替えられても

 なお高潔にあれるのだろうか・・・・?




     *     *     *     *     *


 ぽたり、ぽたりと、地面に血が滴る。大地は既に深紅に染まっていて、滴る雫がどこに落ちたかも解らないけれど。
 紅い赤い闇の中、アリエスは一人立ち尽くしていた。自身も全身を命の赤に染めて、転がる死体の只中に、虚ろな瞳で空を見上げていた。
「ふ・・・・・・・・」
 唇が、歪む。こらえきれなくなったように、アリエスは笑い出した。くすくす、くすくすと、壊れ狂った笑いを。
「くすくす・・・・
いないよ、もう、誰も。だぁれも、いない。
皆、壊れて、何も、ない。
 運命、これが、そう、『運命』。
 知ってるよ、カミサマ、なんて、残酷、なんだよ・・・・」
 嗤いながら紡ぐのは、狂った言葉。剣は手から離れ、深紅に染まった手を眺めて。

 周りに転がるのは、既に命なき『モノ』たち。つい先ほどまで、生きて、会話していた、見知った『モノ』たち。
 傍らに倒れているのは、フェリセ。ミリルティーナの攻撃からアリエスを庇い、死んだ。
 足元にうつ伏せているのは、ミリルティーナ。今さっき、アリエス自身が、手にした刃で貫いて殺した。
 少し離れて転がっているのは、町を破壊した魔獣・ザナッファー。エドアールが、『光の剣』でもって、倒した。
 そして・・・・すぐ後ろで事切れているのは、ユヴェル。本当の名を、『ユヴェル=ディティス=フィリオ=サーヴァリル』という。


  ――あ・・・・あぁ・・・・・・・・――
 魔獣を見つめて、放心していたミリルティーナ。

  ――こいつは、俺が倒す。お前らは、他に用があるんだろう?――
 魔獣を前に、光り輝く剣を携え、力強く笑ったエドアール。

  ――やめて・・・・殺さないで!彼はジェイドなのよ!!――
 魔獣の正体・・・・ジェイド=ディフィシーレ=ラーナ。
 狂気にも似た深い愛情の産物・・・・『封魔装甲ザナッファー』を着た、その成れの果て。

  ――あんたさえいなければ・・・・!ジェイドは、あんたの身代わりになったのよ!――
 『ラーナ』の運命・・・・『封魔体質』の持ち主だったジェイド。魔を封じることで、瘴気からも隔離しようと考えたミリルティーナ。
 ジェイドの傍に、『護り』の運命を担う『セレス』はいなかった。
 愛するものを逝かすため、『許し』の運命を捨てた、『ヴァリード』であるミリルティーナ。
 ジェイドと対になるはずであった『セレス』・・・・『サーヴァリル』は、アリエスの傍らにいた。

  ――・・・・忘れさせられていたから・・・・起こった悲劇、なのかもしれない。いえ、喜劇、かもしれない。だって・・・・愛すら偽りなのだもの。――
 解かれた、記憶の封印。アリエスは、すべてを思い出した。
 そう、『運命の一対』のことも。

  ――その気持ちは、本当にあなたのもの?――
 知ってしまったこと。知りたくなかったこと。
 ユヴェルは、『サーヴァリル』。
 アリエスは、『フェラナート』。
 絶望が二人の心を殺し、憎しみがユヴェルを殺した。

 そして、全てが赤く染まり、残るは静寂と、血の臭い。


 アリエスは、嗤う。笑いながら、壊れた言葉を紡ぎ続ける。
それが、ふと止まった。

「私が、殺した・・・・フェリセも・・・・ユヴェルも・・・・・・・・」

 ぽつりと、紡がれる言葉。

「何で、私だけ、生きているのでしょう・・・・・・・・?」

 紅く染まる、瞳。

「こんなもの・・・・もう、いらない。
 こんな世界・・・・もう、イラナイ・・・・・・・・」

 瘴気が、『魔』が、解放される・・・・・・・・



「結局、なるようにしかならなかった、か。」
 淡々とした声が、聞こえて。
 アリエスの首筋に、衝撃が走る。
 アリエスの意識は、闇に呑まれた。


     *     *     *     *     *


 赤黒い瘴気が吹き上がるのを見て、シェリエは咄嗟に空間転移をする。絶望に呑まれ、魔を解放せんとしている少女の背後に現れ、首筋に手刀を叩き込んだ。間一髪、瘴気の噴出は止まり、アリエスはくらりと傾ぐ。それを片手で受け止めて、シェリエは安堵の溜息を漏らした。地面が比較的血に汚れていない場所までアリエスを運び、自らのマントを外して地面に敷くと、その上に、返り血がつくことも構わずアリエスを横たえる。
「結局、なるようにしかならなかった、か。」
 少し離れた場所に立つソニアが、無感情な声で言う。シェリエは、柳眉を吊り上げた。
「こんなことが、あんたの言う『正しい運命』なわけ!?」
 怒気を顕にいうシェリエに対して、ソニアは変わらず淡々と返す。
「それが、全ての調和のためならば、滅びもやむを得ない。」
 瞬間、パン、と、ソニアの頬が鳴った。
 シェリエが、ソニアの頬を平手打ちにしたのだ。
「それは、本心?」
「ああ。」
 シェリエは、両手をソニアの頬に添え、顔を固定した。その目を覗き込み、言う。
「これを見て、まだそれを言うの!?あんな小さな子たちの心を壊して、絶望で世界を壊させて、何が『正しい運命』か!!言えるものなら言って御覧なさい、『レイノリス』!!」
 『ソニア』と名乗っていた女性は、一息で姿を変える。銀の髪に同色の瞳の、中性的で曖昧な容貌の麗人に。
「何が正しいのか、など、関係ない。必要なのは『調和』だけ。それが、『輪転の女王(レジーナ・オブ・クロノス)』の役目。意思など、感情など・・・・必要ない。邪魔なだけだよ、『アミリータ』。」
 『シェリエ』・・・・アミリータは、レイノリスから手を離し、拳を固める。
「・・・・だから、創ったの?あの、感情のない運命製造装置・・・・『中枢予定表』を。」
「そう。良かったと思っているよ。より客観的に、『調和』を保てるようになったからね。」
 怒りも極限を過ぎると、かえって心が凪になる。アミリータは、今、それを身をもって知った。だから、言う。常からは考えられないほどに、淡々と。
「もう、いいよ。わかった。・・・・キミに運命を語る資格はない。最低限の『心』すら残っていないならば・・・・『華散夜の滅消者』アミリータが、キミを滅する。」
 そこまで言ったところで、急に思い直したのか、首を左右に振った。
「いいえ・・・・滅する価値すらない。せいぜい、自分の世界を弄り回して、『調和』『調和』と囀っていればいいわ。」
 言って、アミリータはアリエスに歩み寄る。そして、その額に手を翳し、ぽつりと呟いた。
「キミのお姉さんがかけた封印、かけ直すよ。今は、まだ、この記憶は無いほうがいいでしょうから・・・・。キミの中の痛みが和らぎ、穏やかに有れるようになるまでは・・・・。」
 アミリータの手に、淡い光が灯る。と、その手がやんわりと押しのけられた。
「・・・・・・・・」
 無言でアミリータの手を押しのけたのは、レイノリス。
「まだ、苦しませるつもりなの?」
 刺々しい声で、アミリータは言う。レイノリスは、無言でアリエスの額に触れた。一瞬、触れた指先に光が灯り、消える。それは、アミリータがやろうとしたことと同じこと・・・・記憶の再封印。
 確かに、ここはレイノリスが支配する時の内。アミリータが行うよりは、レイノリスが行った方がずっといい。それは解っていても、なお不可解な行動に、アミリータは怪訝そうに目をひそめた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・だって、仕方ないじゃないか。」
 レイノリスが、ぽつりと言った。
「世界を私するわけにはいかないんだ。ならば、主観のない『調和』を考えるしか、ないじゃないか。」
 相変わらず淡々とした、しかし、どこか複雑な感情を秘めて、レイノリスは言う。アミリータは、少し驚いたような表情をしつつ、それを声には出さずに問い返す。
「だからと言って、『調和』によって生まれる苦しみを放っておくわけ?」
「全てを幸せにすることなんで、出来ない。誰かの幸福の裏には、必ず他の誰かの苦しみがある。」
「それは否定しないわよ。それでも、特定の個人や団体だけが苦しむのは、間違ってるんじゃない?」
「最大多数に最大の幸福を、とした場合、そうなってしまうこともある。」
 アミリータは、小さく溜息をついた。
「『可哀想』とか、思わない?」
 レイノリスは、不思議なものを見るようにアミリータを見つめる。
「感情なんて、ない。君も、そうなのではないのか?」
「このバカ。どこをどう見たら、私に『感情がない』なんて思うわけ?」
「さあね。僕がそうだから、君もだと思っただけだよ。」
 レイノリスは目を閉じて、小さく呟く。
「何にしろ、この世界は、ここで滅びる運命にはない。この少女も、死ぬ運命にない。・・・・僕は帰るよ、アミリータ。結局、君が何で僕をここに連れてきたのか、解らずじまいだったけれど。」
 そして、レイノリスはふと姿を消す。
 その後を見て、アミリータは深く溜息をついた。
「私が、ここにキミをつれてきたのはね・・・・・・・・レイノリス、キミに、取り戻して欲しかったからよ。
 キミが自ら忘却のうちに封じてしまった、かつては確かにあった、キミの『心』を。」
 揺らぐ金剛石の瞳は、寂しげに染まっていた。
「『今』を司り、それゆえに全てを支配する、『運命の主』・・・・『輪転の女王(レジーナ・オブ・クロノス)』たるレイノリス。そうなってしまう前のキミに、私はもう一度会いたい。」
 一度目を閉じると、アミリータは悲しみの色を強引に押さえつけ、アリエスの元へ歩み寄る。
 返り血に濡れた頬を拭い、くしゃりと髪を撫でて、アミリータは言った。
「レイノリスが立ち去った以上、私はもうここに留まることは出来ない。だから・・・・ごめんね、ここに置いていくよ。
 アリエス=オルフェーゼ=ヴィータ=フェラナート。『封じ』のフェラナートの末裔。キミの行く道は、苦難に満ちたものになるでしょう。けど・・・・それに負けないで。キミは、『希望』。私達にとってはあと8000年後に、キミが生まれると・・・・レイノリスが、動き出すと知っているから、私はあのレイノリスを見捨てずにいられるのよ。
 ・・・・・・・・じゃあ、ね。時の果てで、また会いましょう。」
 そして、アミリータも消える。

 後には、血の臭いを孕んだ甘い風のみが残った。





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 さて、打って変わってダークな1話でしたが、どうだったでしょうか?

 こちらのタイトルの『銀桂』は、『銀木犀』のことです。『高潔』の花言葉をもち、前述した金木犀に似ていますが、花の色は白く、花のつき方や葉の形も違います。羅城は、家に生えている1本以外で見たことがないので、あまりない花なのかもしれません。こちらも、甘いいい香りがします。

 では、最終話へどうぞ!


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17892彼の時に在りては 哀しみなれど 迎える時に 喜びあらんことを・・・・・十叶 夕海 2006/11/6 18:58:06
記事番号17890へのコメント



ユア:こんにちは、ユアです。
久遠:泣きはらすほどじゃないけど、浮かない顔だけど妙にハイテンションなユアちゃんとちょっぴり涙眼の久遠お姉さんよ。
ユア:前話が幸せ風味で、このお話は・・・・。なので、このお話から感想レス行かせていただきます。
久遠:タイトルの『彼の時に在りては〜』は、まんま『この百二十年前のことは哀しいけれど、未来は喜び(=水色ハッピーエンンド)があるように』と言うことね。
   それじゃ、レス行きましょう。

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> ぽたり、ぽたりと、地面に血が滴る。大地は既に深紅に染まっていて、滴る雫がどこに落ちたかも解らないけれど。
> 紅い赤い闇の中、アリエスは一人立ち尽くしていた。自身も全身を命の赤に染めて、転がる死体の只中に、虚ろな瞳で空を見上げていた。
>「ふ・・・・・・・・」
> 唇が、歪む。こらえきれなくなったように、アリエスは笑い出した。くすくす、くすくすと、壊れ狂った笑いを。
>「くすくす・・・・
>いないよ、もう、誰も。だぁれも、いない。
>皆、壊れて、何も、ない。
> 運命、これが、そう、『運命』。
> 知ってるよ、カミサマ、なんて、残酷、なんだよ・・・・」
> 嗤いながら紡ぐのは、狂った言葉。剣は手から離れ、深紅に染まった手を眺めて。


久遠:何を当たりま・・・。
ユア;久遠、そうかもしれないけどね。
   ・・・・・・アリエス嬢、それでも、見守ることしか出来なくても、カミサマは、残酷ではないんですよ。
久遠:・・・・・んとに、数百年生きてるかもしれないけれど、アリエスちゃんは子どもね。

>
> 周りに転がるのは、既に命なき『モノ』たち。つい先ほどまで、生きて、会話していた、見知った『モノ』たち。
> 傍らに倒れているのは、フェリセ。ミリルティーナの攻撃からアリエスを庇い、死んだ。
> 足元にうつ伏せているのは、ミリルティーナ。今さっき、アリエス自身が、手にした刃で貫いて殺した。
> 少し離れて転がっているのは、町を破壊した魔獣・ザナッファー。エドアールが、『光の剣』でもって、倒した。
> そして・・・・すぐ後ろで事切れているのは、ユヴェル。本当の名を、『ユヴェル=ディティス=フィリオ=サーヴァリル』という。


ユア;・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
久遠;ある種のシンクロニシティ以前に、やりきれないわね。
ユア:・・・どうして、なんて言っちゃ行けないですけど、言いたいです。

>
>
>  ――あ・・・・あぁ・・・・・・・・――
> 魔獣を見つめて、放心していたミリルティーナ。
>
>  ――こいつは、俺が倒す。お前らは、他に用があるんだろう?――
> 魔獣を前に、光り輝く剣を携え、力強く笑ったエドアール。
>
>  ――やめて・・・・殺さないで!彼はジェイドなのよ!!――
> 魔獣の正体・・・・ジェイド=ディフィシーレ=ラーナ。
> 狂気にも似た深い愛情の産物・・・・『封魔装甲ザナッファー』を着た、その成れの果て。
>
>  ――あんたさえいなければ・・・・!ジェイドは、あんたの身代わりになったのよ!――
> 『ラーナ』の運命・・・・『封魔体質』の持ち主だったジェイド。魔を封じることで、瘴気からも隔離しようと考えたミリルティーナ。
> ジェイドの傍に、『護り』の運命を担う『セレス』はいなかった。
> 愛するものを逝かすため、『許し』の運命を捨てた、『ヴァリード』であるミリルティーナ。
> ジェイドと対になるはずであった『セレス』・・・・『サーヴァリル』は、アリエスの傍らにいた。


久遠:巡り合わせが悪かったと言えば、それまでだけれど。
ユア:アリエス嬢自身は、何もしていないですのに、血が、したことかもしれないですが。
久遠:だけどね、ミリルちゃん、起こった不幸を誰かになすり付けても自分の無力感は消えないの。
   もっともっと、重くなって自分に返ってくるだけよ。

>
>  ――・・・・忘れさせられていたから・・・・起こった悲劇、なのかもしれない。いえ、喜劇、かもしれない。だって・・・・愛すら偽りなのだもの。――
> 解かれた、記憶の封印。アリエスは、すべてを思い出した。
> そう、『運命の一対』のことも。
>
>  ――その気持ちは、本当にあなたのもの?――
> 知ってしまったこと。知りたくなかったこと。
> ユヴェルは、『サーヴァリル』。
> アリエスは、『フェラナート』。
> 絶望が二人の心を殺し、憎しみがユヴェルを殺した。


ユア:これは・・・・・・《戦乙女》と《妖鳳王》にも、通じる問題ですね。
久遠:でもね、誰かを好きになるって、誰かを愛するって、そう簡単なことじゃないの。
   きっかけは、『運命の一対』だとしても、後を育てるのは二人よ。
ユア:・・・・・・・・私が、涙を流しても良いことじゃないんですけどね。

>
> そして、全てが赤く染まり、残るは静寂と、血の臭い。
>
>
> アリエスは、嗤う。笑いながら、壊れた言葉を紡ぎ続ける。
>それが、ふと止まった。
>
>「私が、殺した・・・・フェリセも・・・・ユヴェルも・・・・・・・・」
>
> ぽつりと、紡がれる言葉。
>
>「何で、私だけ、生きているのでしょう・・・・・・・・?」
>
> 紅く染まる、瞳。
>
>「こんなもの・・・・もう、いらない。
> こんな世界・・・・もう、イラナイ・・・・・・・・」
>
> 瘴気が、『魔』が、解放される・・・・・・・・
>
>
>
>「結局、なるようにしかならなかった、か。」
> 淡々とした声が、聞こえて。
> アリエスの首筋に、衝撃が走る。
> アリエスの意識は、闇に呑まれた。


久遠:・・・・・・・愛していた人が居ない世界なら、愛していた人を奪う世界なら、私はいらない。
   ・・・・・・・愛していた人の縛鎖になるなら、この命すらもいらない。
   ある意味で、『貴方ノイナイ世界ハ・・・・』のジュリよね。
ユア;微妙に台詞が違いますが、賛成です。
   ・・・・・・・居なくなった・・・殺してしまったとしても、『運命の一対』だから、分らない恋心までなら、此処まで・・・・・世界を壊したいと思うほどに、絶望なんてしないでしょうに、アリエス嬢?

>
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>     *     *     *     *     *
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> 赤黒い瘴気が吹き上がるのを見て、シェリエは咄嗟に空間転移をする。絶望に呑まれ、魔を解放せんとしている少女の背後に現れ、首筋に手刀を叩き込んだ。間一髪、瘴気の噴出は止まり、アリエスはくらりと傾ぐ。それを片手で受け止めて、シェリエは安堵の溜息を漏らした。地面が比較的血に汚れていない場所までアリエスを運び、自らのマントを外して地面に敷くと、その上に、返り血がつくことも構わずアリエスを横たえる。
>「結局、なるようにしかならなかった、か。」
> 少し離れた場所に立つソニアが、無感情な声で言う。シェリエは、柳眉を吊り上げた。
>「こんなことが、あんたの言う『正しい運命』なわけ!?」
> 怒気を顕にいうシェリエに対して、ソニアは変わらず淡々と返す。
>「それが、全ての調和のためならば、滅びもやむを得ない。」
> 瞬間、パン、と、ソニアの頬が鳴った。
> シェリエが、ソニアの頬を平手打ちにしたのだ。
>「それは、本心?」
>「ああ。」
> シェリエは、両手をソニアの頬に添え、顔を固定した。その目を覗き込み、言う。
>「これを見て、まだそれを言うの!?あんな小さな子たちの心を壊して、絶望で世界を壊させて、何が『正しい運命』か!!言えるものなら言って御覧なさい、『レイノリス』!!」
> 『ソニア』と名乗っていた女性は、一息で姿を変える。銀の髪に同色の瞳の、中性的で曖昧な容貌の麗人に。
>「何が正しいのか、など、関係ない。必要なのは『調和』だけ。それが、『輪転の女王(レジーナ・オブ・クロノス)』の役目。意思など、感情など・・・・必要ない。邪魔なだけだよ、『アミリータ』。」
> 『シェリエ』・・・・アミリータは、レイノリスから手を離し、拳を固める。
>「・・・・だから、創ったの?あの、感情のない運命製造装置・・・・『中枢予定表』を。」
>「そう。良かったと思っているよ。より客観的に、『調和』を保てるようになったからね。」
> 怒りも極限を過ぎると、かえって心が凪になる。アミリータは、今、それを身をもって知った。だから、言う。常からは考えられないほどに、淡々と。
>「もう、いいよ。わかった。・・・・キミに運命を語る資格はない。最低限の『心』すら残っていないならば・・・・『華散夜の滅消者』アミリータが、キミを滅する。」
> そこまで言ったところで、急に思い直したのか、首を左右に振った。
>「いいえ・・・・滅する価値すらない。せいぜい、自分の世界を弄り回して、『調和』『調和』と囀っていればいいわ。」
> 言って、アミリータはアリエスに歩み寄る。そして、その額に手を翳し、ぽつりと呟いた。
>「キミのお姉さんがかけた封印、かけ直すよ。今は、まだ、この記憶は無いほうがいいでしょうから・・・・。キミの中の痛みが和らぎ、穏やかに有れるようになるまでは・・・・。」
> アミリータの手に、淡い光が灯る。と、その手がやんわりと押しのけられた。
>「・・・・・・・・」
> 無言でアミリータの手を押しのけたのは、レイノリス。
>「まだ、苦しませるつもりなの?」
> 刺々しい声で、アミリータは言う。レイノリスは、無言でアリエスの額に触れた。一瞬、触れた指先に光が灯り、消える。それは、アミリータがやろうとしたことと同じこと・・・・記憶の再封印。
> 確かに、ここはレイノリスが支配する時の内。アミリータが行うよりは、レイノリスが行った方がずっといい。それは解っていても、なお不可解な行動に、アミリータは怪訝そうに目をひそめた。
>「・・・・・・・・・・・・・・・・だって、仕方ないじゃないか。」
> レイノリスが、ぽつりと言った。
>「世界を私するわけにはいかないんだ。ならば、主観のない『調和』を考えるしか、ないじゃないか。」
> 相変わらず淡々とした、しかし、どこか複雑な感情を秘めて、レイノリスは言う。アミリータは、少し驚いたような表情をしつつ、それを声には出さずに問い返す。
>「だからと言って、『調和』によって生まれる苦しみを放っておくわけ?」
>「全てを幸せにすることなんで、出来ない。誰かの幸福の裏には、必ず他の誰かの苦しみがある。」
>「それは否定しないわよ。それでも、特定の個人や団体だけが苦しむのは、間違ってるんじゃない?」
>「最大多数に最大の幸福を、とした場合、そうなってしまうこともある。」
> アミリータは、小さく溜息をついた。
>「『可哀想』とか、思わない?」
> レイノリスは、不思議なものを見るようにアミリータを見つめる。
>「感情なんて、ない。君も、そうなのではないのか?」
>「このバカ。どこをどう見たら、私に『感情がない』なんて思うわけ?」
>「さあね。僕がそうだから、君もだと思っただけだよ。」
> レイノリスは目を閉じて、小さく呟く。
>「何にしろ、この世界は、ここで滅びる運命にはない。この少女も、死ぬ運命にない。・・・・僕は帰るよ、アミリータ。結局、君が何で僕をここに連れてきたのか、解らずじまいだったけれど。」
> そして、レイノリスはふと姿を消す。
> その後を見て、アミリータは深く溜息をついた。
>「私が、ここにキミをつれてきたのはね・・・・・・・・レイノリス、キミに、取り戻して欲しかったからよ。
> キミが自ら忘却のうちに封じてしまった、かつては確かにあった、キミの『心』を。」
> 揺らぐ金剛石の瞳は、寂しげに染まっていた。
>「『今』を司り、それゆえに全てを支配する、『運命の主』・・・・『輪転の女王(レジーナ・オブ・クロノス)』たるレイノリス。そうなってしまう前のキミに、私はもう一度会いたい。」
> 一度目を閉じると、アミリータは悲しみの色を強引に押さえつけ、アリエスの元へ歩み寄る。
> 返り血に濡れた頬を拭い、くしゃりと髪を撫でて、アミリータは言った。
>「レイノリスが立ち去った以上、私はもうここに留まることは出来ない。だから・・・・ごめんね、ここに置いていくよ。
> アリエス=オルフェーゼ=ヴィータ=フェラナート。『封じ』のフェラナートの末裔。キミの行く道は、苦難に満ちたものになるでしょう。けど・・・・それに負けないで。キミは、『希望』。私達にとってはあと8000年後に、キミが生まれると・・・・レイノリスが、動き出すと知っているから、私はあのレイノリスを見捨てずにいられるのよ。
> ・・・・・・・・じゃあ、ね。時の果てで、また会いましょう。」
> そして、アミリータも消える。
>
> 後には、血の臭いを孕んだ甘い風のみが残った。
>

ユア:突っ込みどころ多過ぎて・・・・・。
久遠:良いようが無い?
ユア:ええ、まあ、一言で言うなら、性格違うねぇ、と約一万年前のお二方何ですね〜。
久遠:性格違っても、ベースの感情皆無と感情豊富は、変わってないようだけど。

>
>
>
>
>########################################
>
> さて、打って変わってダークな1話でしたが、どうだったでしょうか?
>
> こちらのタイトルの『銀桂』は、『銀木犀』のことです。『高潔』の花言葉をもち、前述した金木犀に似ていますが、花の色は白く、花のつき方や葉の形も違います。羅城は、家に生えている1本以外で見たことがないので、あまりない花なのかもしれません。こちらも、甘いいい香りがします。
>
> では、最終話へどうぞ!

ユア:巡り合わせだけではないけれど、誰も悪くはないのに。
久遠:最終話ね、次ぎに行きましょうか。
ユア;了解。
   それじゃ、最終話に。


>
>

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17897始まりのときは、悲嘆のうちに過ぎた。ならば、新たなる時にて、新たなる幸せを・・・・羅城 朱琉 2006/11/7 08:48:02
記事番号17892へのコメント


>
>
>ユア:こんにちは、ユアです。
>久遠:泣きはらすほどじゃないけど、浮かない顔だけど妙にハイテンションなユアちゃんとちょっぴり涙眼の久遠お姉さんよ。
>ユア:前話が幸せ風味で、このお話は・・・・。なので、このお話から感想レス行かせていただきます。
>久遠:タイトルの『彼の時に在りては〜』は、まんま『この百二十年前のことは哀しいけれど、未来は喜び(=水色ハッピーエンンド)があるように』と言うことね。
>   それじゃ、レス行きましょう。
朱琉:こんにちは、朱琉です。
アミイ:幸せ風味からこの展開まで、実はこの時間軸で言うと半日くらいしか空いてないのよね・・・・。
朱琉:今からの幸せのためとはいえ、心苦しかったです・・・・。
   では、レス参ります。

>
>>
>>
>>     *     *     *     *     *
>>
>>
>> ぽたり、ぽたりと、地面に血が滴る。大地は既に深紅に染まっていて、滴る雫がどこに落ちたかも解らないけれど。
>> 紅い赤い闇の中、アリエスは一人立ち尽くしていた。自身も全身を命の赤に染めて、転がる死体の只中に、虚ろな瞳で空を見上げていた。
>>「ふ・・・・・・・・」
>> 唇が、歪む。こらえきれなくなったように、アリエスは笑い出した。くすくす、くすくすと、壊れ狂った笑いを。
>>「くすくす・・・・
>>いないよ、もう、誰も。だぁれも、いない。
>>皆、壊れて、何も、ない。
>> 運命、これが、そう、『運命』。
>> 知ってるよ、カミサマ、なんて、残酷、なんだよ・・・・」
>> 嗤いながら紡ぐのは、狂った言葉。剣は手から離れ、深紅に染まった手を眺めて。
>
>
>久遠:何を当たりま・・・。
>ユア;久遠、そうかもしれないけどね。
>   ・・・・・・アリエス嬢、それでも、見守ることしか出来なくても、カミサマは、残酷ではないんですよ。
>久遠:・・・・・んとに、数百年生きてるかもしれないけれど、アリエスちゃんは子どもね。
アミイ:アリエスちゃんだって、『カミサマ』が優しいものなんて思っちゃいなかったけどね。
朱琉:あえて荒っぽい言葉で言うなら、『手前、ここまでしやがんのか!?残酷にもほどがあるだろう!?』という心境。
アミイ:とはいえ、その場でその感情だと判るわけでなし。あとから名前をつけるなら・・・・ね。
    基本的に、個人を見られない神は、残酷と呼ばれるのかも。
朱琉:理性ではわかっていても、ついつい言わずにはおれなかったんでしょう。
アミイ:まあ、そういう意味では確かに『子供』かも。外見が歳をとらないと、健全な精神の発育も難しいのね。

>
>>
>> 周りに転がるのは、既に命なき『モノ』たち。つい先ほどまで、生きて、会話していた、見知った『モノ』たち。
>> 傍らに倒れているのは、フェリセ。ミリルティーナの攻撃からアリエスを庇い、死んだ。
>> 足元にうつ伏せているのは、ミリルティーナ。今さっき、アリエス自身が、手にした刃で貫いて殺した。
>> 少し離れて転がっているのは、町を破壊した魔獣・ザナッファー。エドアールが、『光の剣』でもって、倒した。
>> そして・・・・すぐ後ろで事切れているのは、ユヴェル。本当の名を、『ユヴェル=ディティス=フィリオ=サーヴァリル』という。
>
>
>ユア;・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
>久遠;ある種のシンクロニシティ以前に、やりきれないわね。
>ユア:・・・どうして、なんて言っちゃ行けないですけど、言いたいです。
朱琉:・・・・・・・・・・・・・・・・(冷汗)
アミイ:これを初めから決めてた上に、これすらも伏線と言い切る朱琉って、一体・・・・。

>
>>
>>
>>  ――あ・・・・あぁ・・・・・・・・――
>> 魔獣を見つめて、放心していたミリルティーナ。
>>
>>  ――こいつは、俺が倒す。お前らは、他に用があるんだろう?――
>> 魔獣を前に、光り輝く剣を携え、力強く笑ったエドアール。
>>
>>  ――やめて・・・・殺さないで!彼はジェイドなのよ!!――
>> 魔獣の正体・・・・ジェイド=ディフィシーレ=ラーナ。
>> 狂気にも似た深い愛情の産物・・・・『封魔装甲ザナッファー』を着た、その成れの果て。
>>
>>  ――あんたさえいなければ・・・・!ジェイドは、あんたの身代わりになったのよ!――
>> 『ラーナ』の運命・・・・『封魔体質』の持ち主だったジェイド。魔を封じることで、瘴気からも隔離しようと考えたミリルティーナ。
>> ジェイドの傍に、『護り』の運命を担う『セレス』はいなかった。
>> 愛するものを逝かすため、『許し』の運命を捨てた、『ヴァリード』であるミリルティーナ。
>> ジェイドと対になるはずであった『セレス』・・・・『サーヴァリル』は、アリエスの傍らにいた。
>
>
>久遠:巡り合わせが悪かったと言えば、それまでだけれど。
>ユア:アリエス嬢自身は、何もしていないですのに、血が、したことかもしれないですが。
>久遠:だけどね、ミリルちゃん、起こった不幸を誰かになすり付けても自分の無力感は消えないの。
>   もっともっと、重くなって自分に返ってくるだけよ。
朱琉:『愛ゆえに盲目』なんです、ミリルさんは。
アミイ:狂愛、ってやつね。世界と引き換えにしても悔やむことはないほど愛しい『ただ一人』のために・・・・・・・・本当に、狂ってしまったのでしょう。
朱琉:狂う、とまでは言わなくても、心の掛け金が外れていたのは確かです。

>
>>
>>  ――・・・・忘れさせられていたから・・・・起こった悲劇、なのかもしれない。いえ、喜劇、かもしれない。だって・・・・愛すら偽りなのだもの。――
>> 解かれた、記憶の封印。アリエスは、すべてを思い出した。
>> そう、『運命の一対』のことも。
>>
>>  ――その気持ちは、本当にあなたのもの?――
>> 知ってしまったこと。知りたくなかったこと。
>> ユヴェルは、『サーヴァリル』。
>> アリエスは、『フェラナート』。
>> 絶望が二人の心を殺し、憎しみがユヴェルを殺した。
>
>
>ユア:これは・・・・・・《戦乙女》と《妖鳳王》にも、通じる問題ですね。
>久遠:でもね、誰かを好きになるって、誰かを愛するって、そう簡単なことじゃないの。
>   きっかけは、『運命の一対』だとしても、後を育てるのは二人よ。
>ユア:・・・・・・・・私が、涙を流しても良いことじゃないんですけどね。
アミイ:まあ、突然記憶が復活すれば・・・・・・・・流されもするでしょう?
朱琉:だからこそ、100年経ってもアリエスは後悔していますし。だからこそ、ユヴェルを忘れられませんし。

>
>>
>> そして、全てが赤く染まり、残るは静寂と、血の臭い。
>>
>>
>> アリエスは、嗤う。笑いながら、壊れた言葉を紡ぎ続ける。
>>それが、ふと止まった。
>>
>>「私が、殺した・・・・フェリセも・・・・ユヴェルも・・・・・・・・」
>>
>> ぽつりと、紡がれる言葉。
>>
>>「何で、私だけ、生きているのでしょう・・・・・・・・?」
>>
>> 紅く染まる、瞳。
>>
>>「こんなもの・・・・もう、いらない。
>> こんな世界・・・・もう、イラナイ・・・・・・・・」
>>
>> 瘴気が、『魔』が、解放される・・・・・・・・
>>
>>
>>
>>「結局、なるようにしかならなかった、か。」
>> 淡々とした声が、聞こえて。
>> アリエスの首筋に、衝撃が走る。
>> アリエスの意識は、闇に呑まれた。
>
>
>久遠:・・・・・・・愛していた人が居ない世界なら、愛していた人を奪う世界なら、私はいらない。
>   ・・・・・・・愛していた人の縛鎖になるなら、この命すらもいらない。
>   ある意味で、『貴方ノイナイ世界ハ・・・・』のジュリよね。
>ユア;微妙に台詞が違いますが、賛成です。
>   ・・・・・・・居なくなった・・・殺してしまったとしても、『運命の一対』だから、分らない恋心までなら、此処まで・・・・・世界を壊したいと思うほどに、絶望なんてしないでしょうに、アリエス嬢?
朱琉:一時の激情でユヴェルを傷つけて、それを悔やみ、その絶望で世界を滅ぼそうとするんですから・・・・・・・・十分愛してると思うんですけどね。
アミイ:思い返せば、悔いしか残らない。それが愛かすら曖昧で・・・・でも、もう少し落ち着いて見ることができれば、ここまで深く想いあった二人も、そうそういないんでしょうけど。

>
>>
>>
>>     *     *     *     *     *
>>
>>
>> 赤黒い瘴気が吹き上がるのを見て、シェリエは咄嗟に空間転移をする。絶望に呑まれ、魔を解放せんとしている少女の背後に現れ、首筋に手刀を叩き込んだ。間一髪、瘴気の噴出は止まり、アリエスはくらりと傾ぐ。それを片手で受け止めて、シェリエは安堵の溜息を漏らした。地面が比較的血に汚れていない場所までアリエスを運び、自らのマントを外して地面に敷くと、その上に、返り血がつくことも構わずアリエスを横たえる。
>>「結局、なるようにしかならなかった、か。」
>> 少し離れた場所に立つソニアが、無感情な声で言う。シェリエは、柳眉を吊り上げた。
>>「こんなことが、あんたの言う『正しい運命』なわけ!?」
>> 怒気を顕にいうシェリエに対して、ソニアは変わらず淡々と返す。
>>「それが、全ての調和のためならば、滅びもやむを得ない。」
>> 瞬間、パン、と、ソニアの頬が鳴った。
>> シェリエが、ソニアの頬を平手打ちにしたのだ。
>>「それは、本心?」
>>「ああ。」
>> シェリエは、両手をソニアの頬に添え、顔を固定した。その目を覗き込み、言う。
>>「これを見て、まだそれを言うの!?あんな小さな子たちの心を壊して、絶望で世界を壊させて、何が『正しい運命』か!!言えるものなら言って御覧なさい、『レイノリス』!!」
>> 『ソニア』と名乗っていた女性は、一息で姿を変える。銀の髪に同色の瞳の、中性的で曖昧な容貌の麗人に。
>>「何が正しいのか、など、関係ない。必要なのは『調和』だけ。それが、『輪転の女王(レジーナ・オブ・クロノス)』の役目。意思など、感情など・・・・必要ない。邪魔なだけだよ、『アミリータ』。」
>> 『シェリエ』・・・・アミリータは、レイノリスから手を離し、拳を固める。
>>「・・・・だから、創ったの?あの、感情のない運命製造装置・・・・『中枢予定表』を。」
>>「そう。良かったと思っているよ。より客観的に、『調和』を保てるようになったからね。」
>> 怒りも極限を過ぎると、かえって心が凪になる。アミリータは、今、それを身をもって知った。だから、言う。常からは考えられないほどに、淡々と。
>>「もう、いいよ。わかった。・・・・キミに運命を語る資格はない。最低限の『心』すら残っていないならば・・・・『華散夜の滅消者』アミリータが、キミを滅する。」
>> そこまで言ったところで、急に思い直したのか、首を左右に振った。
>>「いいえ・・・・滅する価値すらない。せいぜい、自分の世界を弄り回して、『調和』『調和』と囀っていればいいわ。」
>> 言って、アミリータはアリエスに歩み寄る。そして、その額に手を翳し、ぽつりと呟いた。
>>「キミのお姉さんがかけた封印、かけ直すよ。今は、まだ、この記憶は無いほうがいいでしょうから・・・・。キミの中の痛みが和らぎ、穏やかに有れるようになるまでは・・・・。」
>> アミリータの手に、淡い光が灯る。と、その手がやんわりと押しのけられた。
>>「・・・・・・・・」
>> 無言でアミリータの手を押しのけたのは、レイノリス。
>>「まだ、苦しませるつもりなの?」
>> 刺々しい声で、アミリータは言う。レイノリスは、無言でアリエスの額に触れた。一瞬、触れた指先に光が灯り、消える。それは、アミリータがやろうとしたことと同じこと・・・・記憶の再封印。
>> 確かに、ここはレイノリスが支配する時の内。アミリータが行うよりは、レイノリスが行った方がずっといい。それは解っていても、なお不可解な行動に、アミリータは怪訝そうに目をひそめた。
>>「・・・・・・・・・・・・・・・・だって、仕方ないじゃないか。」
>> レイノリスが、ぽつりと言った。
>>「世界を私するわけにはいかないんだ。ならば、主観のない『調和』を考えるしか、ないじゃないか。」
>> 相変わらず淡々とした、しかし、どこか複雑な感情を秘めて、レイノリスは言う。アミリータは、少し驚いたような表情をしつつ、それを声には出さずに問い返す。
>>「だからと言って、『調和』によって生まれる苦しみを放っておくわけ?」
>>「全てを幸せにすることなんで、出来ない。誰かの幸福の裏には、必ず他の誰かの苦しみがある。」
>>「それは否定しないわよ。それでも、特定の個人や団体だけが苦しむのは、間違ってるんじゃない?」
>>「最大多数に最大の幸福を、とした場合、そうなってしまうこともある。」
>> アミリータは、小さく溜息をついた。
>>「『可哀想』とか、思わない?」
>> レイノリスは、不思議なものを見るようにアミリータを見つめる。
>>「感情なんて、ない。君も、そうなのではないのか?」
>>「このバカ。どこをどう見たら、私に『感情がない』なんて思うわけ?」
>>「さあね。僕がそうだから、君もだと思っただけだよ。」
>> レイノリスは目を閉じて、小さく呟く。
>>「何にしろ、この世界は、ここで滅びる運命にはない。この少女も、死ぬ運命にない。・・・・僕は帰るよ、アミリータ。結局、君が何で僕をここに連れてきたのか、解らずじまいだったけれど。」
>> そして、レイノリスはふと姿を消す。
>> その後を見て、アミリータは深く溜息をついた。
>>「私が、ここにキミをつれてきたのはね・・・・・・・・レイノリス、キミに、取り戻して欲しかったからよ。
>> キミが自ら忘却のうちに封じてしまった、かつては確かにあった、キミの『心』を。」
>> 揺らぐ金剛石の瞳は、寂しげに染まっていた。
>>「『今』を司り、それゆえに全てを支配する、『運命の主』・・・・『輪転の女王(レジーナ・オブ・クロノス)』たるレイノリス。そうなってしまう前のキミに、私はもう一度会いたい。」
>> 一度目を閉じると、アミリータは悲しみの色を強引に押さえつけ、アリエスの元へ歩み寄る。
>> 返り血に濡れた頬を拭い、くしゃりと髪を撫でて、アミリータは言った。
>>「レイノリスが立ち去った以上、私はもうここに留まることは出来ない。だから・・・・ごめんね、ここに置いていくよ。
>> アリエス=オルフェーゼ=ヴィータ=フェラナート。『封じ』のフェラナートの末裔。キミの行く道は、苦難に満ちたものになるでしょう。けど・・・・それに負けないで。キミは、『希望』。私達にとってはあと8000年後に、キミが生まれると・・・・レイノリスが、動き出すと知っているから、私はあのレイノリスを見捨てずにいられるのよ。
>> ・・・・・・・・じゃあ、ね。時の果てで、また会いましょう。」
>> そして、アミリータも消える。
>>
>> 後には、血の臭いを孕んだ甘い風のみが残った。
>>
>
>ユア:突っ込みどころ多過ぎて・・・・・。
>久遠:良いようが無い?
>ユア:ええ、まあ、一言で言うなら、性格違うねぇ、と約一万年前のお二方何ですね〜。
>久遠:性格違っても、ベースの感情皆無と感情豊富は、変わってないようだけど。
朱琉:こういう風だったから、レイノリスは『中枢予定表』を作ったんです。そして、レイノリスが今の『語り部さん』になったからこそ、この『時の旅人』の物語があるんです。
アミイ:ある意味、これが、全ての始まりだったのよ。

>
>>
>>
>>
>>
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>>
>> さて、打って変わってダークな1話でしたが、どうだったでしょうか?
>>
>> こちらのタイトルの『銀桂』は、『銀木犀』のことです。『高潔』の花言葉をもち、前述した金木犀に似ていますが、花の色は白く、花のつき方や葉の形も違います。羅城は、家に生えている1本以外で見たことがないので、あまりない花なのかもしれません。こちらも、甘いいい香りがします。
>>
>> では、最終話へどうぞ!
>
>ユア:巡り合わせだけではないけれど、誰も悪くはないのに。
>久遠:最終話ね、次ぎに行きましょうか。
>ユア;了解。
>   それじゃ、最終話に。
朱琉:はい、では、最終話で。・・・・と、言いつつ、時間がないためそちらの返レスは明朝になります。
アミイ:じゃあ、またね!
二人:では、また!

>
>
>>
>>

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17891時の旅人外伝:そしてまた、桂花に風は吹く羅城 朱琉 2006/11/6 08:33:22
記事番号17888へのコメント






  時の旅人外伝
   そしてまた、桂花に風は吹く


 あの日、私は誓いました。

 強くなる、と。誰よりも、何よりも強くなる、と。

 長い永い時の果てに、私はまたこの地に立っています。

 私は、強くなりましたか?

 私は、強くなれましたか?

 あの日と同じ甘い桂花の香りの中で、私は、再び誓います。






     *     *     *     *     *





 その日、彼は初めて知った。意識は保っていても、治療呪文で治せない傷がある、ということを。

『シーシェンズ』。
 それが、彼の背負わされた運命の名前だった。
 『レンシェルマ=コーレン=リュイ=シーシェンズ』。
 それが、生まれたときから彼を縛る鎖・・・・彼自身の名だった。

 傷を押さえ、ふらふらと歩く。未だ夜明け前で、人の目がないのがせめてもの救いだろうか?と思いつつ、レンシェルマは苦笑する。傷は塞がらない。出血も、かなりのものだ。きっと、このままでは遠からず死ぬだろう。それでも・・・・
「この町でだけは・・・・・・・・死にたくないですね。」
 掠れた声で呟き、レンシェルマはまた苦笑した。

 物心つく前に、両親は死んだという。それでも、別に寂しくはなかった。歳の離れた兄と姉がいたから。
 兄は厳しい人で。
 姉は強くて優しくて、そして、賢くて。
 だから、気付かなかった。
 兄が、自分の事を・・・・いや、自分も、姉も、姉の夫と子供も、自分の妻と、生まれたばかりの娘まで・・・・・・・・兄自身以外の、全ての『シーシェンズ』を、『殺したいほど憎んで』いた、などとは。
 姉が死んだのは、数年前。それ以来、シーシェンズの家に居辛くなって、しばしばサーヴァリルの隠れ里に行っていた。
 そして、妻に出会い、娘を授かり・・・・・・・・幸せ、だったのだ。
 つい先ほど、兄に二人が殺されるまでは。

 目が、霞んできた。このままでは、町の外まですら持たないだろう。
 薄暗い視界の中で、更に暗い場所が見える。・・・・神聖樹(フラグーン)だ。
 ここで倒れるよりはマシだと考え、レンシェルマは神聖樹(フラグーン)の元へと向かった。



 普段ならば難なく通れる場所を、四苦八苦しながら抜け、神聖樹(フラグーン)の元へたどり着く。ほぅ、と、息をつくと、足から力が抜けた。その場にへたり込み、動けない。手近に有った幹だか根だかよくわからないところに何とか体をもたせ掛けた。
 視界はもうほとんどないが、かろうじて周りが明るくなってきたことが解る。朝日が仄かに暖かくて気持ちがいい。
 こんな穏やかな『死』ならば、悪くないと思った。
 そして、意識が、闇に落ちていき・・・・・・・・

「死ぬのならば、ここ以外の場所で死んでください。この場を血で汚さないで欲しいので。」
 途切れかけた意識をつなぎとめたのは、そんな、情の欠片もないような言葉だった。


     *     *     *     *     *


 少女・・・・アリエスは、大変に不機嫌だった。何よりも気に入らないのが、この血の臭い。
 ユヴェルとフェリセが眠るこの場に、血の臭いなど、持ち込みたくはない。それに何より、この場での血臭は、思い出させるのだ。
 己の無力さを。
己の至らなさを。
 そして、不安になる。二人の亡骸を抱いて、『強くなる』と誓ったあの日から、自分は本当に強くなっているのか・・・・?と。

 だから、アリエスは、言った。

「死ぬのならば、ここ以外の場所で死んでください。この場を血で汚さないで欲しいので。」


     *     *     *     *     *


 虚ろな瞳をかろうじて開き、レンシェルマは見る。そこには、人が立っていた。
「それとも、もはや動く力もありませんか?」
 その人は、呆れたように言った。声は少女のものなのに、その響きがそれを裏切っている。その人は、小さく息をつくと、小声で何か呪文を唱え始めた。それは、聞いたことのない呪文で・・・・しかし、どこか懐かしい響きのものだった。
 と、突然レンシェルマの体が軽くなる。驚いて目を開けると・・・・
「起きましたか。」
 そこに、小柄な少女が立っていた。朝日を浴びて輝く銀の髪と、ほんの少し動くだけで光を映して色を変える、不思議な瞳の少女が。
 少女は、不機嫌な声で言う。
「歩けるのなら、早く立ち去ってください。」
 そのまま踵を返し、神聖樹(フラグーン)の前まで歩くと、そこで少女は膝をつき、祈り始めた。
 それは、神官であるレンシェルマでなくても、神聖さを感じさせずにはいられない光景だっただろう。
「あの・・・・・・・・」
 レンシェルマが声をかけると、少女は先程よりも更に不機嫌そうに言った。
「まだ居たのですか?もう、歩けるのでしょう?」
「礼くらい、言わせてください。」
「結構です。ただ、そこで死なれると邪魔だっただけ。この場に血を吸わせたくなかっただけ。」
 少女の声は、そっけない。そのままスッと立ち上がると、そのまま少女は歩き去ろうとした。
「あの!・・・・私は、レンシェルマと申します。あなたは?」
 少女は、胡乱げにレンシェルマを一瞥する。答えてもらえないだろうと思ったが、意外にも、答えは返ってきた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・アリエス=オルフェーゼ=ラーナ。」
 それだけ言うと、今度こそ少女・・・・アリエスは姿を消す。
 レンシェルマが、その名を聞いて、酷く驚いた顔をしているのにも気付かずに。




 これが、レンシェルマとアリエスの出会い。
 二人が再び出会い、共に旅するようになるまでには、更に2年の歳月が必要となる。





########################################

 『光華』ダイジェスト最終話兼、レン&アリエス出会い編でした!どうだったでしょうか?

 タイトルの『桂花』は、モクセイ科の花の総称です。前2話の金桂、銀桂もその一種です。

 では、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。では、次こそは本編でお会いしましょう!


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17893レンさんは、幸福を運ぶ東南の風だといいですね。十叶 夕海 2006/11/6 21:56:12
記事番号17891へのコメント



ユア:こんにちは。
   というわけで、最終話ですね。
久遠:じゃ、レスに。

>
> あの日、私は誓いました。
>
> 強くなる、と。誰よりも、何よりも強くなる、と。
>
> 長い永い時の果てに、私はまたこの地に立っています。
>
> 私は、強くなりましたか?
>
> 私は、強くなれましたか?
>
> あの日と同じ甘い桂花の香りの中で、私は、再び誓います。
>

ユア:強さって、なんでしょうね、、全く。
久遠:お姉さんは、本当に強い人は居ないと思うの。
   力が大きいことが強さであっても、同時に弱さだと思うのよ。
   だって、力が大きくても、大好きな人の身体は助けれても、心は助けれないでしょう?
ユア:妙に、実感こもってますね。
   ・・・・・・いつもよりも、多弁ですし。
久遠:イヤねぇ、乙女の過去は詮索しないものよ。
ユア;久遠は、男でしょうに。


>
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>
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>     *     *     *     *     *
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>
>
> その日、彼は初めて知った。意識は保っていても、治療呪文で治せない傷がある、ということを。
>
>『シーシェンズ』。
> それが、彼の背負わされた運命の名前だった。
> 『レンシェルマ=コーレン=リュイ=シーシェンズ』。
> それが、生まれたときから彼を縛る鎖・・・・彼自身の名だった。
>
> 傷を押さえ、ふらふらと歩く。未だ夜明け前で、人の目がないのがせめてもの救いだろうか?と思いつつ、レンシェルマは苦笑する。傷は塞がらない。出血も、かなりのものだ。きっと、このままでは遠からず死ぬだろう。それでも・・・・
>「この町でだけは・・・・・・・・死にたくないですね。」
> 掠れた声で呟き、レンシェルマはまた苦笑した。
>
> 物心つく前に、両親は死んだという。それでも、別に寂しくはなかった。歳の離れた兄と姉がいたから。
> 兄は厳しい人で。
> 姉は強くて優しくて、そして、賢くて。
> だから、気付かなかった。
> 兄が、自分の事を・・・・いや、自分も、姉も、姉の夫と子供も、自分の妻と、生まれたばかりの娘まで・・・・・・・・兄自身以外の、全ての『シーシェンズ』を、『殺したいほど憎んで』いた、などとは。
> 姉が死んだのは、数年前。それ以来、シーシェンズの家に居辛くなって、しばしばサーヴァリルの隠れ里に行っていた。
> そして、妻に出会い、娘を授かり・・・・・・・・幸せ、だったのだ。
> つい先ほど、兄に二人が殺されるまでは。


ユア:・・・・・・・・・
久遠:ゆぅあちゃん、泣きたいなら、泣きなさいよ。
ユア:泣くのは、レンさんのお兄さんに負けたみたいで嫌です。
   でも、レンさんのお兄さんが、しちゃ行けないことをしたのは分っているのです。

>
> 普段ならば難なく通れる場所を、四苦八苦しながら抜け、神聖樹(フラグーン)の元へたどり着く。ほぅ、と、息をつくと、足から力が抜けた。その場にへたり込み、動けない。手近に有った幹だか根だかよくわからないところに何とか体をもたせ掛けた。
> 視界はもうほとんどないが、かろうじて周りが明るくなってきたことが解る。朝日が仄かに暖かくて気持ちがいい。
> こんな穏やかな『死』ならば、悪くないと思った。
> そして、意識が、闇に落ちていき・・・・・・・・
>
>「死ぬのならば、ここ以外の場所で死んでください。この場を血で汚さないで欲しいので。」
> 途切れかけた意識をつなぎとめたのは、そんな、情の欠片もないような言葉だった。


ユア:らしいと言えば、らしいのかもしれない。
久遠:らしくないと言えば、らしくないと。
ユア;早口言葉のようですが、ね。

>
>
>     *     *     *     *     *
>
>
> 少女・・・・アリエスは、大変に不機嫌だった。何よりも気に入らないのが、この血の臭い。
> ユヴェルとフェリセが眠るこの場に、血の臭いなど、持ち込みたくはない。それに何より、この場での血臭は、思い出させるのだ。
> 己の無力さを。
>己の至らなさを。
> そして、不安になる。二人の亡骸を抱いて、『強くなる』と誓ったあの日から、自分は本当に強くなっているのか・・・・?と。
>
> だから、アリエスは、言った。
>
>「死ぬのならば、ここ以外の場所で死んでください。この場を血で汚さないで欲しいので。」

久遠:さっきも言ったけれど、アリエスちゃんのいう『強さ』って、『武力』なのかしら?
ユア:言葉遊びですけどね、アリエス嬢は、『身体』は救えなかった・・・殺したのかもしれないですが、『心』は、救われていると思いますよ。
久遠:・・・・・残された方にしてみれば、殺した方か自分を恨まないとやりきれないのかもしれないわね。

>
>
>     *     *     *     *     *
>
>
> 虚ろな瞳をかろうじて開き、レンシェルマは見る。そこには、人が立っていた。
>「それとも、もはや動く力もありませんか?」
> その人は、呆れたように言った。声は少女のものなのに、その響きがそれを裏切っている。その人は、小さく息をつくと、小声で何か呪文を唱え始めた。それは、聞いたことのない呪文で・・・・しかし、どこか懐かしい響きのものだった。
> と、突然レンシェルマの体が軽くなる。驚いて目を開けると・・・・
>「起きましたか。」
> そこに、小柄な少女が立っていた。朝日を浴びて輝く銀の髪と、ほんの少し動くだけで光を映して色を変える、不思議な瞳の少女が。
> 少女は、不機嫌な声で言う。
>「歩けるのなら、早く立ち去ってください。」
> そのまま踵を返し、神聖樹(フラグーン)の前まで歩くと、そこで少女は膝をつき、祈り始めた。
> それは、神官であるレンシェルマでなくても、神聖さを感じさせずにはいられない光景だっただろう。
>「あの・・・・・・・・」
> レンシェルマが声をかけると、少女は先程よりも更に不機嫌そうに言った。
>「まだ居たのですか?もう、歩けるのでしょう?」
>「礼くらい、言わせてください。」
>「結構です。ただ、そこで死なれると邪魔だっただけ。この場に血を吸わせたくなかっただけ。」
> 少女の声は、そっけない。そのままスッと立ち上がると、そのまま少女は歩き去ろうとした。
>「あの!・・・・私は、レンシェルマと申します。あなたは?」
> 少女は、胡乱げにレンシェルマを一瞥する。答えてもらえないだろうと思ったが、意外にも、答えは返ってきた。
>「・・・・・・・・・・・・・・・・アリエス=オルフェーゼ=ラーナ。」
> それだけ言うと、今度こそ少女・・・・アリエスは姿を消す。
> レンシェルマが、その名を聞いて、酷く驚いた顔をしているのにも気付かずに。
>
>
>
>
> これが、レンシェルマとアリエスの出会い。
> 二人が再び出会い、共に旅するようになるまでには、更に2年の歳月が必要となる。


久遠:ユアちゃんが、タイトル二書いた通り、レンちゃんが、幸せを運ぶ盗難の風邪になると良いわね。
ユア;なっていると思いますよ、更に3年後、ルピナス達と出逢わせたのだから。
久遠:あれからどうなるか分らないけどね。

>
>
>
>
>
>########################################
>
> 『光華』ダイジェスト最終話兼、レン&アリエス出会い編でした!どうだったでしょうか?
>
> タイトルの『桂花』は、モクセイ科の花の総称です。前2話の金桂、銀桂もその一種です。
>
> では、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。では、次こそは本編でお会いしましょう!
>
>
ユア;楽しく、涙しながら読ませていただきました。
久遠;文章変よ?
ユア;楽しむと言っても、エンジョイではなく、インタレスティング的な楽しむだし。
   涙したのは、間違いないし。
二人:それでは、次回で。

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17898凍った心を溶かす南風は、もうしばらくすれば吹くでしょう。羅城 朱琉 2006/11/8 08:32:50
記事番号17893へのコメント


>
>
>ユア:こんにちは。
>   というわけで、最終話ですね。
>久遠:じゃ、レスに。
朱琉:はい、では、一日遅れの返レスです。

>
>>
>> あの日、私は誓いました。
>>
>> 強くなる、と。誰よりも、何よりも強くなる、と。
>>
>> 長い永い時の果てに、私はまたこの地に立っています。
>>
>> 私は、強くなりましたか?
>>
>> 私は、強くなれましたか?
>>
>> あの日と同じ甘い桂花の香りの中で、私は、再び誓います。
>>
>
>ユア:強さって、なんでしょうね、、全く。
>久遠:お姉さんは、本当に強い人は居ないと思うの。
>   力が大きいことが強さであっても、同時に弱さだと思うのよ。
>   だって、力が大きくても、大好きな人の身体は助けれても、心は助けれないでしょう?
>ユア:妙に、実感こもってますね。
>   ・・・・・・いつもよりも、多弁ですし。
>久遠:イヤねぇ、乙女の過去は詮索しないものよ。
>ユア;久遠は、男でしょうに。
アミイ:そうよね。何を持って『強さ』と言うのか、私にもわからないわ。
朱琉:でも、この時のアリエスは、ただただ『武力』としての強さを追い求めていました。

>
>
>>
>>
>>
>>
>>     *     *     *     *     *
>>
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>>
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>>
>> その日、彼は初めて知った。意識は保っていても、治療呪文で治せない傷がある、ということを。
>>
>>『シーシェンズ』。
>> それが、彼の背負わされた運命の名前だった。
>> 『レンシェルマ=コーレン=リュイ=シーシェンズ』。
>> それが、生まれたときから彼を縛る鎖・・・・彼自身の名だった。
>>
>> 傷を押さえ、ふらふらと歩く。未だ夜明け前で、人の目がないのがせめてもの救いだろうか?と思いつつ、レンシェルマは苦笑する。傷は塞がらない。出血も、かなりのものだ。きっと、このままでは遠からず死ぬだろう。それでも・・・・
>>「この町でだけは・・・・・・・・死にたくないですね。」
>> 掠れた声で呟き、レンシェルマはまた苦笑した。
>>
>> 物心つく前に、両親は死んだという。それでも、別に寂しくはなかった。歳の離れた兄と姉がいたから。
>> 兄は厳しい人で。
>> 姉は強くて優しくて、そして、賢くて。
>> だから、気付かなかった。
>> 兄が、自分の事を・・・・いや、自分も、姉も、姉の夫と子供も、自分の妻と、生まれたばかりの娘まで・・・・・・・・兄自身以外の、全ての『シーシェンズ』を、『殺したいほど憎んで』いた、などとは。
>> 姉が死んだのは、数年前。それ以来、シーシェンズの家に居辛くなって、しばしばサーヴァリルの隠れ里に行っていた。
>> そして、妻に出会い、娘を授かり・・・・・・・・幸せ、だったのだ。
>> つい先ほど、兄に二人が殺されるまでは。
>
>
>ユア:・・・・・・・・・
>久遠:ゆぅあちゃん、泣きたいなら、泣きなさいよ。
>ユア:泣くのは、レンさんのお兄さんに負けたみたいで嫌です。
>   でも、レンさんのお兄さんが、しちゃ行けないことをしたのは分っているのです。
アミイ:本当に。この外道兄貴、私は、いつか絶対一発ブチ殴るv
朱琉:微笑みとともに言わないでいただきたい。・・・・確かに、ある意味では『中枢予定表』よりも性質の悪い相手ですが。
 ちなみに、過去に一度だけ、本編に登場しています。

>
>>
>> 普段ならば難なく通れる場所を、四苦八苦しながら抜け、神聖樹(フラグーン)の元へたどり着く。ほぅ、と、息をつくと、足から力が抜けた。その場にへたり込み、動けない。手近に有った幹だか根だかよくわからないところに何とか体をもたせ掛けた。
>> 視界はもうほとんどないが、かろうじて周りが明るくなってきたことが解る。朝日が仄かに暖かくて気持ちがいい。
>> こんな穏やかな『死』ならば、悪くないと思った。
>> そして、意識が、闇に落ちていき・・・・・・・・
>>
>>「死ぬのならば、ここ以外の場所で死んでください。この場を血で汚さないで欲しいので。」
>> 途切れかけた意識をつなぎとめたのは、そんな、情の欠片もないような言葉だった。
>
>
>ユア:らしいと言えば、らしいのかもしれない。
>久遠:らしくないと言えば、らしくないと。
>ユア;早口言葉のようですが、ね。
アミイ:昔々のアリエスちゃんからすれば、らしくないけど・・・・
朱琉:この当時のアリエスにしたら、このくらいは当たり前に言います。

>
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>> 少女・・・・アリエスは、大変に不機嫌だった。何よりも気に入らないのが、この血の臭い。
>> ユヴェルとフェリセが眠るこの場に、血の臭いなど、持ち込みたくはない。それに何より、この場での血臭は、思い出させるのだ。
>> 己の無力さを。
>>己の至らなさを。
>> そして、不安になる。二人の亡骸を抱いて、『強くなる』と誓ったあの日から、自分は本当に強くなっているのか・・・・?と。
>>
>> だから、アリエスは、言った。
>>
>>「死ぬのならば、ここ以外の場所で死んでください。この場を血で汚さないで欲しいので。」
>
>久遠:さっきも言ったけれど、アリエスちゃんのいう『強さ』って、『武力』なのかしら?
>ユア:言葉遊びですけどね、アリエス嬢は、『身体』は救えなかった・・・殺したのかもしれないですが、『心』は、救われていると思いますよ。
>久遠:・・・・・残された方にしてみれば、殺した方か自分を恨まないとやりきれないのかもしれないわね。
アミイ:誰かを恨まなければやりきれなくて、かといって、他人のせいにできるような子じゃないから・・・・自分を恨んで、『武力』という、ある種一番わかりやすい力を求めたのよね。
朱琉:『心』は救われた、なんて、この時のアリエスが思いもしなかったのです。

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>> 虚ろな瞳をかろうじて開き、レンシェルマは見る。そこには、人が立っていた。
>>「それとも、もはや動く力もありませんか?」
>> その人は、呆れたように言った。声は少女のものなのに、その響きがそれを裏切っている。その人は、小さく息をつくと、小声で何か呪文を唱え始めた。それは、聞いたことのない呪文で・・・・しかし、どこか懐かしい響きのものだった。
>> と、突然レンシェルマの体が軽くなる。驚いて目を開けると・・・・
>>「起きましたか。」
>> そこに、小柄な少女が立っていた。朝日を浴びて輝く銀の髪と、ほんの少し動くだけで光を映して色を変える、不思議な瞳の少女が。
>> 少女は、不機嫌な声で言う。
>>「歩けるのなら、早く立ち去ってください。」
>> そのまま踵を返し、神聖樹(フラグーン)の前まで歩くと、そこで少女は膝をつき、祈り始めた。
>> それは、神官であるレンシェルマでなくても、神聖さを感じさせずにはいられない光景だっただろう。
>>「あの・・・・・・・・」
>> レンシェルマが声をかけると、少女は先程よりも更に不機嫌そうに言った。
>>「まだ居たのですか?もう、歩けるのでしょう?」
>>「礼くらい、言わせてください。」
>>「結構です。ただ、そこで死なれると邪魔だっただけ。この場に血を吸わせたくなかっただけ。」
>> 少女の声は、そっけない。そのままスッと立ち上がると、そのまま少女は歩き去ろうとした。
>>「あの!・・・・私は、レンシェルマと申します。あなたは?」
>> 少女は、胡乱げにレンシェルマを一瞥する。答えてもらえないだろうと思ったが、意外にも、答えは返ってきた。
>>「・・・・・・・・・・・・・・・・アリエス=オルフェーゼ=ラーナ。」
>> それだけ言うと、今度こそ少女・・・・アリエスは姿を消す。
>> レンシェルマが、その名を聞いて、酷く驚いた顔をしているのにも気付かずに。
>>
>>
>>
>>
>> これが、レンシェルマとアリエスの出会い。
>> 二人が再び出会い、共に旅するようになるまでには、更に2年の歳月が必要となる。
>
>
>久遠:ユアちゃんが、タイトル二書いた通り、レンちゃんが、幸せを運ぶ盗難の風邪になると良いわね。
>ユア;なっていると思いますよ、更に3年後、ルピナス達と出逢わせたのだから。
>久遠:あれからどうなるか分らないけどね。
朱琉:この間のことは、ざっとしたプロットは考えていますが・・・・明文化するかはわかりません。
アミイ:しないと、意味がわからなくならない?
朱琉:だって、長いんですもの。ざっと計算して・・・・・・・・15話くらい?
アミイ:今回みたいに、半小説、半ダイジェストにしたら?
朱琉:・・・・・・・・そういう手もありますねぇ・・・・。

>
>>
>>
>>
>>
>>
>>########################################
>>
>> 『光華』ダイジェスト最終話兼、レン&アリエス出会い編でした!どうだったでしょうか?
>>
>> タイトルの『桂花』は、モクセイ科の花の総称です。前2話の金桂、銀桂もその一種です。
>>
>> では、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。では、次こそは本編でお会いしましょう!
>>
>>
>ユア;楽しく、涙しながら読ませていただきました。
>久遠;文章変よ?
>ユア;楽しむと言っても、エンジョイではなく、インタレスティング的な楽しむだし。
>   涙したのは、間違いないし。
>二人:それでは、次回で。
朱琉:そう言っていただけて、嬉しいです。
アミイ:『銀桂』なんか、書いてる最中に「うわ〜これ絶対私鬼畜とか思われるだろうな〜」って言ってたものね。
朱琉:それはこっちにさておいて!!
   では、また会いましょう!
二人:それでは、また!